TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#1035/12-Jul-2010

今週は、幸いにも忙しくない夏の一週間だった。そこでこの号ではいろいろの電子機器をめぐる記事をいくつかお届けする。Charles Maurer は、どのようにすればデジタルカメラを買わずに済ますことができるかという啓発的な議論を展開する。Glenn Fleishman は Virgin Mobile が新たに出した契約不要の MiFi を、Verizon Wireless と Sprint Nextel による違ったアプローチや、AT&T による iPhone テザリングや iPad プランなどと、コストの面で比較する。それから Doug McLean が、大学における Kindle の使い勝手をテストした Princeton 大学の調査結果を検討し、Adam は iPad 用の調整可能なスタンド iPad Recliner をレビューする。今週注目すべきソフトウェアアップデートは、BusyCal 1.3.2 と PDFpen/PDFpenPro 4.7 だ。

記事:

----------------- 本号の TidBITS のスポンサーは: ------------------

---- 皆さんのスポンサーへのサポートが TidBITS への力となります ----


Virgin Mobile、契約無しで MiFi モバイルホットスポットを提供

  文: Glenn Fleishman <[email protected]>
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

iPad と iPhone の所有者はモバイルブロードバンドに対して今や新たな選択肢を持つこととなった。Virgin Mobile が MiFi を追加したのである。これはモバイルの Wi-Fi ホットスポットとして働く携帯型のセルラールーターであり、同社の必要に応じて支払うタイプのブロードバンドサービスと一緒になって働く。Virgin はこの機器に対して長期契約無しで $149.99 を課する。モバイルブロードバンドは必要に応じて小さな単位で購入できる。

Virgin Mobile は四つの前払いデータプランを用意している:10日以内の使用で $10 で 100 MB まで、30日プランだと $20 で 300 MB, $40 で 1 GB, そして $60 で 5 GB となる。超過料金は無い;使い切ったら次の期限付きのプランを新たに購入するだけであり、これは AT&T が 3G iPad 用のサービスで提供しているのと同様である。未使用のデータは期限になると無効となる。Virgin Mobile は Sprint Nextel の子会社だが、別会社として運用されており、ネットワークは Sprint のものを使用している。

MiFi は旅に出る事が多く複数の機器からインターネットにユビキタスでアクセスする必要がある人に人気の機器になった。モバイルブロードバンドの USB モデムもラップトップにプラグイン出来るが、ラップトップを立ち上げてそして他の機器からも接続出来るように設定しなければならない。MiFi なら 5 台の Wi-Fi 機器までカバー出来るセルラーデータゲートウェイとして動作しこの一連の作業を簡素化してくれる。

Image

MiFi は強力な WPA2 Personal Wi-Fi 暗号化をサポートしており、Mac ラップトップよりも優れた選択肢となっている。Apple はそのソフトウェアベースステーションオプション (System Preferences > Sharing > Internet Sharing) で旧式で役立たずの WEP 暗号化方法しかサポートしておらず極めて時代遅れとなっている。

これまでは、Verizon Wireless と Sprint Nextel だけがその EVDO ネットワークのための MiFi を提供していた。Verizon は $269.99 を契約無しで課し、そして二年契約だと $49.99 (オンライン購入の場合) となる。Sprint は $299.99 を契約無しで課し、そして二年契約だとただである。(MiFi の裏にいる会社である Novatel Wireless は HSPA バージョンも作っており、それは AT&T のネットワークでも働くと思われるが、T-Mobile の独自の 3G 帯域幅設定をサポートするかどうかははっきりしない。)

Verizon と Sprint の両社とも $59.99 で上り下り合わせて 5 GB の月極めセルラーデータプランを持ち、それを超えると MB 当たり $0.05 (GB 当たり $50) を課金してくるが、これはデータがしきい値を超えたからといって魔法の様に何倍もコストがかかるようになるわけではないことを考えてもとんでもない話である。(超過料金は儲けの元であると同時にネットワークの使用を減らす様に心理的圧力をかける両方の意味を持つ。)

Verizon はまた前払いで契約無しでの使用も提供している:$15 で 100 MB 1日以内の使用, $30 で 300 MB 7日以内の使用, そして $50 で 1 GB 30日以内の使用である。これらのプランは Virgin Mobile のものと較べると割高で馬鹿げて見える、とりわけ MiFi のために最初にほぼ二倍に近いお金を払わされることを考えれば尚更である。

これらの MiFi プランを AT&T の紐付けスマートフォンオプションと較べると:$25 DataPro プランが必須である、これには 30 日以内の 2 GB の使用が含まれる、更に AT&T からの $20 の "ついでに頂戴します" の紐付け料金も必要である。同じ期間内に使われる追加の 1 GB 毎に $10 が課金されるので、スマートフォンでの 5 GB プランは $75 もかかることとなる。更に、この紐付けはラップトップへの使用に制限があるが、3G モデムの場合と同様その接続を共有するのは可能である。(米国では iOS 4 が必要である;iPhone OS 3 がリリースされて以来他の国でのキャリアは全く違う条件で紐付けを提供している。)

3G iPad は紐付け iPhone へのホストとして動作する事は出来ない、そしてそれ自身のデータプランも数ギガバイトを超えると極めて高価となる。AT&T は 30日以内に使われる 2 GB 毎に $25 を課金してくる。30日以内に 4 GB を超えて使用すると、$75 (2 GB 当たり $25 の三倍) をこの特典のために払うことになる。

この辺りまで来ると MiFi に対する Virgin Mobile のプランが魅力的に見えてくる。一つの機器で、それも持ち運び易く電池で動き、Wi-Fi だけの iPad (3G モデルより $130 安い), iPhone (何も無ければ AT&T のモバイルブロードバンドを使っている), そしてラップトップまでカバー出来るのである - もしこれら三つを持って旅をしていればの話ではあるが。

MiFi は更に Apple が 3G ネットワークに対して課している制限からも逃れられる。MiFi を使えば 3G 上で FaceTime を使う事も可能となる、何故ならば iPhone 4 には Wi-Fi ネットワークしか見えないからである。更に 20 MB を超えるアップスやメディアをダウンロードする事も出来る、利用料金とのバランスも考えねばならないのは勿論ではあるが。

もし友人や家族と旅をしている場合は尚更利点が拡がる、と言うのもインターネットサービスのために同じ MiFi を使う事が出来る複数の iPhone や iPad を持っている可能性が高いからである。もし旅をするために DataPro プランに申し込み AT&T と一ヶ月の紐付けを考えているのであれば、Virgin Mobile からの MiFi の方がより経済的で使い道も拡がるオプションと言えるかも知れない。

コメントリンク11396 この記事について | Tweet リンク11396


iPad Recliner を使っていろいろの角度で読書を

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

iPad には、あまりおおっぴらにしたくない秘密が一つある。共有するのが難しくなりがちなのだ。私はつい最近自分用の iPad を手に入れたので、Tonya が無料の電子ブック“Take Control of iPad Basics”を執筆するため、また他の iPad 関係の電子ブックの編集作業をするため、独り占めするようになってしまったもう一台の iPad よりも、自由に使えるようになると期待しているところだ。

たちまち嬉しいことがあった。独りで食事する間、いつもは紙に印刷した雑誌を読むことが多いその時間帯に、ゆっくりと自分の iPad で読書することができるようになったのだ。でも、食卓でものを読む際のエルゴノミクスは、どう見ても具合が悪かった。ちゃんと光が当たるように雑誌の位置を決めて、それを食べ物の皿のどちら側に置くかは難しい問題だ。iPad はそれ自体、どちらかといえば雑誌よりもっと状況が悪い。なぜなら iPad の背面は丸みを帯びているので、テーブルの平らな面にしっかりと据えることができないからだ。

だから、明らかに、何らかのスタンドが絶対に必要だ。そこで、私はその目的で LapWorks の製品 iPad Recliner をここしばらくテストしていた。これは2ピースのプラスチック製スタンドで、角度を 25 度から 65 度まで自由に調節できる。iPad は縦向きにも横向きにも置くことができ、iPad がスタンドに触れるのはソフトなゴム製クッションの部分のみだ。

image

iPad Recliner で分かりやすいと言えない唯一の点は、どのようにしてこれを組み立てるかだ。出荷時には、全体のサイズが箱に収まるように組み合わせた状態になっているので、箱から取り出したらまずネジ式のつまみを取り外し、下側の部品を反対向きに回し、下側の部品に一つだけある穴にネジを通して、つまみを再び取り付ける。ちょっと説明しにくいし、箱には何も説明が書かれていないが、LapWorks 創設者の Jose Calero が YouTube ビデオで、iPad Recliner の正しい組み立て方法を説明するとともに、さらに急勾配になるように組み立て直すにはどうするかという裏技まで披露している。

25 度の設定で、iPad のスクリーンはほぼ真っ直ぐ見下ろす必要がある場合に最適と思える置き方になる。これならば iPad の仮想キーボードでタイプするのにちょうど良いという気になるかもしれない。けれども残念ながら、iPad が乗った受け皿の部分が結構深くなっているので、仮想キーボードの下の端にある Space バーやその他のキーをタップする際に邪魔になる。何か詰め物を挟んで iPad の下の端がずり上がるようにし、受け皿の部分をちょうど詰め物が占めるようにすれば、おそらくずっとタイプしやすくなるだろう。プラスの面を言えば、受け皿の部分が深いということは iPad がかなり分厚いケースに入っていてもこの iPad Recliner は十分それを支えられるということだ。

角度を 65 度まで増やせば、腕を伸ばした距離から iPad でものを読む場合、あるいは Bluetooth キーボードを使ってタイプする場合に向いた置き方になる。思い出して頂きたいが、このスタンドは 25 度から 65 度までの間のどんな角度にも自由に調節できる。光の反射を避けたり、その時に最も適した角度を見つけたりするためには、これはとても重要な機能であって、このことが可能な iPad スタンドはそう多くない。

iPad Recliner には iPad の dock コネクタケーブル用の切れ目やスロットなどは何もないが、その必要もない。なぜなら、iPad は四方向どちら向きに置いても同じようにうまく働くからだ。だから、もしも iPad をピクチャフレームモードにしてケーブルを繋ぎっぱなしにしたまま iPad Recliner に乗せておこうと思えば、dock コネクタケーブルを左右どちらかに挿す(横長置き)か、それとも dock コネクタケーブルを上側に挿す(縦長置き)か、どちらかにすればよい。

この iPad Recliner の奥行きはかなり長い。角度の設定によって 8.75 インチ (22.2 cm) から 12.5 インチ (31.8 cm) までの間だ。だから、あまり奥行きのない棚の上には乗らないかもしれない。けれども、机やテーブル、カウンターの上などでは何も問題ない。底部にはゴム製の脚が二つ付いているので、固い表面の上でもあちこち滑って動くことはない。それは良いことだが、このスタンドを膝の上に置いて使うのはどうやっても無理だ。固いプラスチックなので膝の上ではしっくりこない。

iPad Recliner は特に iPad 専用ということはない。機器自体の上にはただ "Recliner" とだけ書かれているし、Kindle、Nook,その他のタブレットサイズの機器でも問題なく乗せられるだろう。紙を一枚だけ乗せることさえできる。ただし、紙に印刷した雑誌には向かない。スタンドの上であちこち動き回ってしまうからだ。

全体として、私は iPad Recliner が気に入った。言われている通りにきちんと働くし、他の多くの iPad スタンドよりも値段が安い。(他のスタンドについては Dan Frakes が Macworld に書いたレビュー記事を参照。)でも、私はとりたてて熱狂的に夢中になっている訳でもない。iPad Recliner は、完璧に機能はするが、iPad を置かない状態で装飾的家具として置いておける種類のものでは全くない。

image

iPad Recliner の小売価格は $44.95 だが、LapWorks から直接購入すれば $10 値引きの $34.95 となる。

The iPad Recliner retails for $44.95, but is available directly from LapWorks for $10 off, dropping the price to $34.95.

コメントリンク11401 この記事について | Tweet リンク11401


プリンストン大学が、Kindle DX をテスト - iPad の方が良い?

  文: Doug McLean <[email protected]>
  訳: 柳下 知昭 <tyagishi@gmail.com>
  訳: 大石哲伸<tedz2000@gmail.com>

2008 年と 2009 年の間に、プリンストン大学の学生達と教員達によって、5000 万枚の紙が印刷された。あなたがどのように見たいかによるが、その量は、10 万 reams (reams は、紙の単位、米では 500 枚)、500 本の木、500 万ドルに相当する量である。さらに悪いことに、この驚愕の紙の量は、プリンストンで毎年 20% づつ増加している紙使用量のここ 10 年くらいの傾向の最新値でしかないことである。

印刷物の増加の理由? 過去 10 年、プリンストンでは、教材図書をデジタル化してきたし、教科書の 62% は、PDF で用意されている。印刷に費用はかからないため、- 学生のアカウントは、プリント量が制限されているが -全体の印刷量の 20% を越える量が、学生の印刷物であっても驚くにはあたらない。その上、プリンストンの図書館の収容物のうち、いまだ 38% がデジタル化されていないため、大学の印刷問題は、沈静化してきているようには見えない。

現在の不況の最中での他の主要なビジネスや、非営利団体、国家機関と同様に、寄付の減少によって、大学の予算も減る一方だ。ベルトを締め上げるような経済状況と環境保護への文化移行、そして、電子書籍リーダーマーケットの爆発的増加によって、プリンストン大学の研究者達は、大学の中での従来の印刷メディアに代わるものとして、電子書籍リーダーが、使えるものかどうかの テストに着手 することとなった。

プリンストンのインフォメーションテクノロジの事務局は、 High Meadows 基金から、パイロットプロジェクトの費用を補助するために、$30,000 を授与され、54 台の Kindle DX (新品 $489) が、51 人の学生と 3 人学部スタッフ向けに購入された。研究者は、PDF、図表、地図、画像が読み易いであろうことから、より小さい兄弟機やiPad 以前の競合機(パイロットプロジェクトは、2009 年の秋学期に行なわれた。)ではなく、9.7-inch のスクリーンを持つアマゾンの Kindle DX を選択した、

パイロットプロジェクト -- プリンストンの 3 つのクラスが、パイロットプロジェクトに選ばれた: 2 つの大学院のコース( 1 つは古典コース、もう 1 つは、政治学)と、大学の公共政策のコース。どのコースも、非常に読書量が多く、デジタルフォーマットでのリザーブリーディング(プリンストンでは、 e-reserves と呼ぶ)を多用するという特徴が共通である。被験者の学生達(ただ一人の学生が離脱した)は、学期中にパイロットプロジェクトのクラス向けに印刷することを止めるように努力することと、できるだけ多くの教材読書を、Kindle DX を使用して行なうことを約束した。彼等の努力と協力によって、学期が終了した時、彼らはKindle DX を自分のものとした。- これは、ただ宿題をするためのものとしても、悪い扱いではない!

この研究は、3 つのゴールを置いていた。電子書籍リーダーを利用することで、キャンパスでの印刷量を減らすことができるかどうかを判断すること。電子書籍リーダーが、学生に教育コストをかけることなくこれまでの書籍を置き換えることができるかどうかを判断すること。そして、電子書籍リーダーのメーカーに学生達の要望をフィードバックすること。

パイロットプログラムの 1 つめのゴールは、簡単に達成できた。Kindle DX を使用している学生達は、教材読書用の印刷で平均して 50% 以下の紙使用量だった。しかし、我々がその数字を学生が電子書籍リーダーを持っているおかげであると考える前に、学生が印刷量を減らすと言った他の理由を考えてみたい。何人かの学生は、紙の無駄について新しい気付きがあったと述べた。( 77% の学生が、このプログラムに参加することで、紙の消費について、自覚が増加したと言及した。)何人かは、この調査の基準を満たすようプレッシャーを感じたと書き留めているし、他の多くの学生達は、機器を使って読めと言われた書籍の内容理解が最終成績に大きな影響を与えないものだったため、Kindle DX を試す気になっただけだと答えていた。

さらに、学期末の調査では、44% のパイロットプロジェクトの学生達がもし印刷に料金が必要ならば、印刷量を減らすだろうと言っている。(但し、31% の学生達は、授業で好成績をとるためならば、なんでも印刷すると言っている。)言い換えると、印刷量の削減は、様々な要因からきているが、Kindle DX を使うことが、行動を変えることのきっかけのキーであった。

これら全ては、大学の予算にとって、(特に、学生達に電子書籍リーダーを買わせたり、その代金を授業料に含めるつもりならば、)非常に良いニュースであろう。なぜなら、1 年で、( 全体を 500 万としたときに、20% の学生が50% を節約したとして)$500,000 も節約することを意味するからである。7,600 人近くの全学生に、現在の市販価格での Kindle DX を持たせるとすると(おそらくボリュームディスカウントがあるであろうが) 290 万ドルかかる。

判断をより難しくしているのは、全ての学生が印刷物から電子書籍リーダーへ移行したとして、より広範な環境への影響がまさにどのようなものであるかであろう。大学での印刷物が減るのは確かだが、学生全体向けにこのようなデバイスを製造したり、発送したりすること(そのことで、膨大な紙の使用量を削減するかもしれないが)のより広範な環境への影響は、非常に複雑である。それでも、このような広範な環境問題がいくら複雑といっても(それは、プリンストン大学での研究やこの記事の範囲を超えている)、Kindle DX を採用したことが、学生の学習や準備、そして授業参加にどのような影響を与えたかについて問う必要がないということではない。

設定したゴールについては、Kindle DX は、教材図書を受講した学生たちについては、まあまあの成功をおさめた。学期中間と期末の両方の調査で、学生達は、Kindle DX のバッテリーの持ち、テキスト解像度、メモリー量、画面サイズ、重さに非常に満足していると答えた。特に、デバイスの E Ink テクノロジーは、一律にユーザーを感動させ、多くの学生達は、ラップトップコンピュータやデスクトップコンピュータの画面よりも読みやすいと述べた。学生達は、移動中や疲れている時でも"朗読"ができるのでtext-to-speech 機能もよく使用していた。

Kindle DX の恩恵だけではないが、ほとんどの学生は、電子書籍リーダーを所有することは、学生生活をシンプルにすると言っている。- 授業の荷造りが、たんに、カバンに電子書籍リーダーを入れるだけになる。さらに、学生達は、全ての図書を簡単かつ軽量に移動することができることを評価している。

マイナス面としては、学生の被験者達を失望させたたくさんの問題や機能不足が存在している。Kindle DX の最も低い評価順位の機能は、ウェブブラウザ、書籍間のナビゲーション機能、マーカー機能、キーボード、注釈機能だった。

当初、もっとも気に入られるであろうと考えられていた" クラウド " へのマーカー機能は、あっという間に、最もストレスのたまる機能になってしまった。学生たちは、どんな本でもマーカー機能を使用し、外部へ出力できるものは、たった 10% であることに気づいたからだ。この機能を理解するための、わかりやすい警告や指示はなく、最終的に学生達は、新しく文をマークすると、ただ単に、過去にマークした箇所を押し出して置き換えてしまう ! ということに気づいた。こうして、ものすごい量のテキストにつけられたマーカーは、投げ捨てられたノートと同じとなってしまった。付け加えると、Kindle DX でのマーカー機能の本当の使い方は、結局いらいらするほど、難しいものだった。

何人かの学生達が読書量ゲージで、読了率を楽しんでいるとき、大半の学生は、Kindle DX のページ立ての方法があいまいであると嘆いていた。学生達は、従来のページ番号のかわる Kindle 位置番号に慣れるのに時間がかかった。どちらも引用やクイックナビゲーションのために使用される。特に、学生達は、位置番号についてセミナーで議論する章を見付けるのが困難だったことがあるとして、問題視している。総合的に言うと、学生達は、章立てのような書籍内でのナビゲーションの標準化を求めている。そして、69% の参加者は、電子書籍のページ番号とその電子書籍の元となった印刷物としての本のページ番号とを関連づけて欲しいと言っている。

書籍内でのナビゲーションの問題は、出版社の電子書籍を扱う方法がさまざまであることに起因している。いくつかの本は、目次がないまま出版されたし、いくつかの本は、目次はあったが、インタラクティブではなく章の始まるページ番号に対応する位置番号を表示できていなかった。

主要な批判の最後のものは、Kindle DX が、全体的に遅いことであった、特にテキストを移動するときのロード時間が長いことである。学生達は、密度の濃いテキストでのページ間の移動に時間がかかると集中力を維持することが困難であることに気づいた。また、その遅さは、- 学生達の多数が、研究的読書をうまく行うために欠くことのできない動作と主張している - テキストをぱらぱらめくったり、斜め読みしたりすることをほとんど不可能にしている。

学生達が、おおむね Kindle DX に満足している間は、改良してほしいたくさんの箇所を指摘するだろう。彼等もしくは電子書籍リーダーを携帯する未来の学生達にとって幸運なことに、アップルの iPad は、申し分ないものかもしれない。

学術分野での iPad -- Kindle DX では学生から不満が出ていた部分 -ナビゲーション、書籍の構成、動作速度、マーカー機能 - では iPad が成功している。9.7インチのタッチスクリーンは、Kindle DXと同じの表示サイズであるが、明らかにもっと重い(24オンス/680グラムに対して Kindle DXは18.9オンス/536グラム)。値段で云えば、Apple が用意する Wi-Fi のみが付くモデルは Kindle DXよりも高く(499ドルに対して379ドル、Amazon が最近 Kindle に対して行った値下げを反映した値段で)、 3G iPadの基本モデルでは130ドル高い629ドル(データプランはオプション)である。値段が高く設定されているおかげで、iPadユーザーは4倍の記憶容量(4GBに対して16GB)、それから読書に必要な程度をはるかに超えるパワーと機能を持っている。Kindle DX にもWebブラウザが搭載されているが、延々と進まない読み込み時間とぎこちないナビゲーション機能は iPad 版の Safariと比べるべくもない。学術分野でのWebアクセスの必要性に加え、iPad が幅広い種類のアプリを提供できる事も考えると、学生が単機能のKindle を さらにいろいろな事が出来る iPad よりも優先するとは考えにくい。

Kindle の E Ink スクリーンは、これを提供しているグループの最大の売りであるが、多くの学生はタッチスクリーンを欲しがる。ナビゲーション機能とマーク機能が簡単に利用できるからだ。学生が探しものをする際にテキストを簡単に手早くフリップできる。また、iPadを選ぶものは誰でも Apple がこのような触感型のインターフェースを作るのに力を入れている事を知っている。それから、iPadのカラー画面、これはプリンストンの学生から必須の機能としては挙げられていないのだが、多くの分野で重要になるものだ。Kindle DXを試しているプリンストンのコースでは古典、政治科学、公共政策等、どれもグラフィックをそんなには利用しない。しかし、科学のコースあるいはその他の分野ではグラフやチャート、地図を多用するし、色を付けられる事でこういったものの読み取りやすさが劇的に改善される。そして、芸術史、建築、デザインのクラスでは色彩のある教材が必要とされている事は云うまでもない。

加えて、タッチスクリーンの技術によって Apple はマーク機能とセクションへのブックマークを驚くほど簡単にそして直感的にした。iBooksの滑らかなナビゲーション機能、そして、 GoodReader と云う人気のあるアプリのPDFサポートとその管理機能によって多くの学生の要望はかなえられた。(iPadを利用した読書に関しては"iPad で読書: iBooks、Kindle、GoodReader を使ってみる" 2010年4月5日 と "iBooks 1.1 が PDF サポートを追加、すべての iOS 機器で動作" 2010年6月23日を参照) いくつかの大学では既に iPadが学術分野で何が出来るのかを了解している。リード大学は正式な試験を企画して iPad が Kindle DXでの試験と比較してどのように違うのかを見てみようとしている。メリーランド大学の College Park's Digital Cultures and Creativity program では、もう一歩進んで、 入ってくる学生にはすべて iPadを配ろう としている(PDFリンク)。

この事で Apple が教育市場を完全に捕らえていると云おうとしているわけではない。iPadが学生の要望に応えていない分野がまだ残っている(この他の、初期に出ていた問題は iBooks 1.1 で既に解決に向かっている)。

iBooks には Kindle DX と同じページ番号割り振り問題がある。ページ数は iPadを横向きに持つか縦向きに持つかで大幅に変わるし、フォントのサイズや書体によっても変わる。さらに、ここに出てくるページ番号は原書についていたページ番号とまったく関係がなく、課題が出るたびに2つのリファレンスを用意するか、全員が全く同じバージョンの電子版を使用する必要がある。

唯一、うまくいきそうなのは、段落番号をを使用する事で、これは古典の文書ではギリシャ語原書内にある文章の一部分を示す方法として学生によく利用されており、例えば、一つ、あるいはいくつもの翻訳をそういった文章に結びつけている。Appleが iBooks に変更を行って、ユーザーが段落番号をでナビゲーションできるようにするのは難しくないだろう。

テキストをPDFで入手可能にすれば、ページ番号付けの問題を回避できる。しかし、PDF表示機能は iBooksでは基本的なサポートにとどまっており、例えば、注釈機能やマーク機能を欠いている。

もし、Apple が iPadを教育市場で成功させたければ、現在起きているページ参照がずれてしまう問題とPDFサポートが限定的である事に対して解決の目処をつける必要がある。

未来のクラスルーム? 学術文書がユニークなジャンルであるのは、生の素材であるからで、 -この素材は、ひっぺがされ、放り投げられ、噛み砕かれて、頭の中で組み立て直される事になる。これは楽しみのための読み物とは明らかに違い、別の種類の取り組み方が必要であり、実際これはとても物理的なものだ。線形なテキストとして配置された情報を再構築するために、線形でない動きをそこに施して一旦データをぺしゃんこにする必要がある。そして、段落間の関係をよりよく理解し、大きな視点で概要を把握する必要がある。

Kindle DX の大きな弱点は、少なくとも学術分野では、ページ間の移動が遅い事、ナビゲーション機能が貧弱な事、カラーが出ない事だ。iPadはその物理的なページめくりをまねた操作方法、対話的なしおり機能、簡単に使える目次によって明らかにこの分野の勝者である。ただ、そうはいっても現在入手可能な読書アプリは学生や学習者にとって改良の余地がある。電子書籍リーダーが近い将来に伝統的な本や紙類に取って代わる事はなさそうだが、もし私が一番有望な機器を取り上げなければならないとしたら、iPadに手を伸ばすだろう。

コメントリンク11318 この記事について | Tweet リンク11318


デジタルカメラを買わずに済ます方法

  文: Charles Maurer
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

今年の初めごろ、奇妙な出来事が次々に起こって、私はカメラとレンズを買い替えようと思い立った。賢い消費者たることを心がけている私は、まずはカメラをテストするサイトをウェブで調べた。でも残念ながら、そういうサイトはどれも、何を買うかを決める助けにはならなかった。レビューをいろいろ読んでも、十分な情報を引き出すことができなかったからだ。この記事では、なぜ私がそういう情報をあまり重く見ない方がいいと思うに至ったか、そして、私が何を買うかを結局どうやって決めたか、そういうことを順々にお話しして行きたいと思う。

まずは解像すべし -- デジタルカメラとは、レンズとコンピュータの付いた箱の中に、画像センサーを組み込んだものだ。このセンサーこそが限定要因であって、カメラをレビューする人たちは注意の大部分をセンサーに集中させる。

画像センサーをテストする際、ほとんどの場合何よりもまず解像度に注目が行く。けれども過去 50 年間にわたり、レンズのデザイナーたちは写真家たちに向けて、細部の詳細よりも、たやすく見分けられる部分の明瞭度の方が人間の脳にとって大きな意味を持つということを、納得させようと試み続けてきた。例えば、Zeiss 社が 1964 年に初めて出版した記事 (PDF) を見ても分かる。

下の二つの図を見比べて頂きたい。左側の図にはより細かな詳細が含まれている。線の細さはこちらの方がほぼ半分だ。けれども、右側の図の方が明らかに良い写真に見える。ちょっと離れた場所から見れば、その違いは明らかだろう。非常に大きく拡大した状態で比べてみても、同じ事実が分かる。実際、ここに示したのは 100-dpi のディスプレイにして 40 インチ× 60 インチ (1 メートル× 1.5 メートル) となる拡大写真の真ん中の部分なのだ。

image

左側の写真は従来型の Bayer センサーを使ったものだ。Bayer センサーではカラーのノイズを避けるために光学的に画像をソフト化する必要がある。デジタルカメラではコンピュータでの処理が必要なので、光学的な処理の結果生じたぼやけをデジタル処理でシャープに直すことも可能なはずだ。下の比較は、私がそれをできる限り試みた結果だ。右側のセンサーにはぼやけのフィルターが一切使われていないが、どんなレンズでも画像は少しぼやけてしまうので、こちらにもほんの少しだけシャープ化を私は施した。比べてみれば分かる通り、左の写真の方がずっと良くなっているが、40 インチ× 60 インチの大きさで壁に掛けて普通見る距離まで離れて眺めれば、余分の詳細は消え去って、右の写真の方がかえってしゃっきりした感じに見える。

image

どちらの画像の方が好ましいかは個人の好みにもよるが、正直言って、私はこの両者の違いはそれほど気にするようなものでもないと思う。いわば、片方が曲線部分で優り、もう片方は直線部分で優るという感じだ。左の写真はフル・フレームのプロ用 DSLR にプロ用のレンズを付けて撮影した。画像センサーは 2 千 2 百万個のセル数を誇る。一方、右側の写真はより小型の 4 百 7 十万セル Foveon センサーを持つ DSLR で撮影した。この両者で、今日使われている解像度の両極端を代表すると言ってよいだろう。より小型の Bayer センサーを用いた現代のカメラで撮った写真なら、詳細を示す度合はこの両者の中間のどこかであって、両者のいずれよりもソフトな仕上がりになるだろう。

(ここでは、画像のシャープさを保つため、私は Photoshop でなく PhotoZoom Pro を使って拡大した。PhotoZoom Pro の説明は 2010 年 4 月 29 日の記事“Digital Ain't Film: Modern Photo Editing”の、最後近くにある。)

image

古き良き日々 -- デジタル画像処理よりも前の時代、写真の画質は使用するレンズの品質によって決まったものだ。だから、写真家たちは、光学の問題をやたらに気にした。通常、レビューする人がレンズをテストする際には、MTF (modulation transfer function、変調伝達関数) と呼ばれる難解な数学的道具をプロットする。レビューに載った MTF チャートを見れば、レンズがどの程度明瞭にさまざまな大きさのものの詳細を画像に捉えているかが分かるが、ただしこれは平坦なテスト用チャートを撮影しただけのものだ。つまり、このチャートは奥行きを無視している。確かに MTF チャートはレンズのデザイナーにとって基本的なツールだが、レンズのデザイナーたちは単純な二次元の MTF チャートを使っている訳ではない。彼らは MTF を三次元にプロットしているのだ。その上、レンズが光線を曲げる際にはその位相も変えてしまうことがあるので、レンズのデザイナーたちは MTF テストに加えて位相伝達関数 (phase transfer function) に関する同様のチャートも併せて検討する。話がちんぷんかんぷんで分からないとおっしゃる方は、こう考えてみて頂きたい。二次元の MTF のみを使ってレンズを比較するのは、例えて言えば山歩きの道を距離のみで選択するようなものであって、道の険しさや、尾根道か谷道かなどを、すべて無視してしまうようなものだと。

私は最近、単純な MTF テストがいかに誤解を生みやすいかの実例を目にした。そのとき私は、ある広角ズームレンズを、より新型の高価なモデルに取り替えただけだった。その新しいレンズを購入した後、たまたま私は MTF テストの比較表を見つけたが、そこにはこの新しいレンズのシャープさが古い方より劣っているという結果が出ていた。レンズの中央部分はそれほど変わらなかったが、レンズの隅の方では結果が悪かった。古い方より、はるかに悪い結果だった。そもそも、レンズの隅の方が中央部分ほどシャープでないというのは当然のことだ。理論的に完璧なレンズであってもそうだ。なぜなら、中央部分へ行く光に比べて隅を通る光は遠回りするので、光の一点を表わす円板が隅の方ではより大きく、しかも西洋梨の形に変形してしまうからだ。けれども、この新しいレンズでは、中央と隅との違いがあまりにも極端だった。実際、私は平らな壁を撮影してみてその違いを目で確認できた。ところが、部屋全体を撮影してみると、そのアングルからのレンズで撮った場合に期待できる通りのシャープさで、部屋の隅もきちんと撮影できていた。どうやら、このレンズは平坦な視野を投影するのでなく、カーブした視野を投影することによって、画像全体にわたり、さまざまに異なった深度の物体がそれぞれベストなフォーカスを得られるようになっているらしい。私はもう一度、少しだけフォーカスを変えて壁を撮影することで、このことを確かめた。単純なレンズテストだけでは視野の曲がり具合が目立ってしまうが、通常の使用では別に気にならない。

その上、デジタル画像は必ずコンピュータで処理することが必要だ。それにより、光学的な狂いをクリーンアップすることが可能になる。色収差の大部分は簡単に除去ができ、また Photoshop を使えばある種の光学的鮮明化が Smart Sharpen コマンドで可能だ。まず色のフリンジを修正してから Smart Sharpen を使うことで、私の新しいレンズで撮った画像は古いレンズで撮ったものに比べて鮮明化の必要量が 40 パーセントも少ないことが分かった。こうして、私の新しいレンズは単純な MTF テストの結果では悪く見えるが、実際にはよりシャープな写真が撮れているのだ。

レンズのデザインというものは、妥協と妥協が複雑に入り組んだ代物だ。私の新しいレンズの場合、デザイナーが決断したのは視野が平坦であることを犠牲にしても、それより目立つ問題点の数々をできるだけ減らす方を選ぶ、ということだった。視野が平坦であることは、書類をコピーするために使うレンズの場合は必須となるが、それ以外の目的では重要度が落ちる。なぜなら、完全に平坦な平面の上に置かれたものを撮影することは少ないからだ。こうして、このレンズが単純な MTF テストで悪い結果を得たからと言って、このレンズが悪いということにはならないことが分かる。分かるのは、レンズのメーカーが選択した改良点が、安直なレビューでは製品を良く見せる役に立たなかったというだけのことだ。

生きているカラー -- レンズのテストよりもっと問題なのが、カラーのテストだ。なぜなら、この物理的世界においてカラーを測定する尺度など、事実上存在しないからだ。カラーは物理現象ではなく、脳の中で、脳によって形作られる知覚なのだ。ある状況の内部で互いに異なる彩度の波長がさまざまにミックスされ、さらに異なる彩度の波長がまた別の形でミックスされて周囲の状況を成し、その上にあなたが最近見たものやあなたが学んできたものの履歴がさらに重なった状況もある、そういったものすべてに対して、あなたの脳が反応した結果がカラーとなる。

例として、下の図を見て頂きたい。右側の赤と左側の赤は物理的には同一の色なのだが、私たちの知覚は近所にある他の色に影響を受けてしまう。これは単純化した例だが、決して騙している訳ではない。カラーが周囲の状況に影響される例はいたる所にある。私たちが見るカラーはすべて、その物理的な周囲の状況に影響されていると言ってもよい。

image

また、あなたが過去に見たカラーの履歴も同じくらい重要だ。つまり、こういうものが見えるとあなたが期待するように習得してきた状況がある。こうして、あなたの目の前にある木で樹皮が茶色に、葉が緑色に見えるのは、あなたがこれまでの経験から樹皮とは茶色いもの、葉とは緑色のもの、と期待するようになっているからという理由が大きいのだ。けれども、もしもあなたが樹皮と葉を研究室に持ち込んだら、ひょっとしたらそれらはむしろ赤や黄色と書かれた塗料サンプルにマッチするかもしれない。

カラーを比較して正確を期すというのはアイデアとして魅力的かもしれないが、実際は無意味なことだ。とりわけ、肌の色のような微妙なカラーとなればなおさらだ。どんな写真でも、どんな肌色が「ベスト」であるかはその写真に写っている他のカラーに依存する。その上、その写真をあなたが見ている部屋の照明や周囲の色まで関係してくる。あなたの家族や友人たちの容姿さえその要素となる。

正確なカラーを捉えられるカメラなど、市場のどこにも存在していない。なぜなら、正確なカラーという概念そのものがこの世に実在しないからだ。エンジニアたちは、製品を製造するための共通の基準を形成しようと一連の定義とテスト方法を考え出してきたが、それらは概して恣意的なものだ。確かに基準があれば便利だが、それらは脳がカラーを見るやり方とはほとんど関係がない。

その一方で、市場にあるカメラはすべて、可視波長のフルレンジを捉えることが可能だ。だから、市場にあるどんなカメラでも、満足のいくカラーを作り出すために必要なだけの情報を捉えられる。カラーはデジタル処理によってコントロールされ、例えば Asiva プラグインのような製品があればどんなカラーをどんなカラーに変換することも(あなたのコンピュータのディスプレイやプリンタのインクが物理的に許す範囲内で)可能であり、実際に役立っている。(これについても、2010 年 4 月 29 日の記事“Digital Ain't Film: Modern Photo Editing”を参照。)もしもあなたのカメラが JPEG を生成するなら、カメラに内蔵されたコンピュータがその最初の作業をする。その結果は必ずしもいつもあなたの気に入るとは限らないが、そもそもカメラの中のコンピュータがカラーのバランスを勝手に調整して、その結果があなたがデスク上のコンピュータで自分の目を使ってバランスを取ったものと同等の結果になるなど、期待する方がおかしいのではなかろうか。もしもあなたがカラーにこだわる人なら、カメラがそれを記録する機能について心配しても何の役にも立たない。あなた自身が自分の手でバランスを取る、というのが本来すべきことだろう。

ダイナミックな個性 -- 実際問題として、今日において写真の品質を制限する要素となっているのは、画像センサーが記録することのできるダイナミックレンジ、すなわち明るいところから暗いところまで、どれだけ幅広い色調を捉えることができるかという点だ。縁の縫い目のようなつまらない細部に気付く人など誰もいないが、花嫁のウエディングドレスが戸外の日光の下でのっぺらぼうに色褪せた真っ白に写ったり、花婿のスーツが陰になって消えてしまったりすれば、誰もが憤慨するだろう。

とりあえずの第一近似として、センサーのダイナミックレンジは感光セル表面の面積に比例する。今日出回っているセンサーでは、ここに 40 種類も違ったものがある。手軽なコンパクトカメラにはごくちっぽけなセンサーしか付いておらず、従ってダイナミックレンジも最小限だ。

ダイナミックレンジの測定には困難が伴う。なぜなら、機器によってノイズが質的に異なるからだ。最も一般的に行なわれている客観的テストは、一定した色調を撮影する方法だ。これならば均一な画像が生成されるはずなので、そこでピクセルがどの程度変化しているかを測定する訳だ。この変化量がすなわちノイズとなる。ノイズがある程度の量になれば背景の最も弱いところが見て分かるようになり、これがセンサーのダイナミックレンジを決定することになる。これがどの程度問題となるかを見るために、例として二台のカーラジオを考えてみよう。片方は雑音が多いが、もう片方は信号は明瞭なのに低音がやたらに響いてアナウンサーの声が聞き取りにくいとしよう。もしもノイズを測定する際に一定の背景に比べてどれだけ逸脱するかを測るならば、雑音の多いラジオの方がノイズが大きいことになる。けれども、もう片方のラジオでひっきりなしに低音がブンブン響くのもやはりノイズに違いなく、雑音とは違って低音の響きの方がニュースを聞く際に大きな妨げとなる。

私の知る限り、画像センサーのダイナミックレンジを比較するための唯一のまともな方法は、それぞれの画像を比較することだ。細部が表示できないほど明るい部分と、姿が捉えられないほど暗い部分の両方を持つ題材を撮影してから、明るい部分や影の部分の細部を取り出し、センサーがどれだけのものを記録したかを調べるのだ。私は自宅のリビングルームでこれをするのが好きだ。片側にある油絵にはスタジオのフラッシュライトが壁を狙って当たっていて非常に明るく、もう片側にある油絵は光がほとんど当たらず非常に暗くなっている。センサーはこれら両極端の露光を捉えなければならない訳だ。撮影したら、私は Adobe Camera Raw を使って raw 画像を 16-bit TIFF に変換する。その際、二つを除いてすべての設定をゼロにしておく。Recover と Fill Light の二つだけは 100 に設定しておくのだ。これにより、最も明るい部分と最も暗い部分が可能な限り拡大される。最後に、比較しているセンサーのサイズに違いがある場合には、小さい方の画像をサンプルし直して大きい方のサイズに合わせておく。さらに、この記事の後の方で例として挙げるものについては、暗い方の写真に対し Photoshop の Exposure 設定値を上げることで全体的に明るくした。これは、多くの人たちが使う 6-bit LCD ディスプレイ上では暗い方の画像の細部が見えなくなるだろうからだ。

もしも比較しているセンサーのサイズが違っていたら... 実は、その場合は興味深い問題が持ち上がる。一つのセンサーの ISO 100 と別のセンサーの ISO 100 とを比較するのは、一見自然なことに思えるかもしれないが、実はほとんどの写真において、これは適切な比較とは言えない。それがなぜかを見るために、下の図を考えて頂きたい。これは、仮想のカメラが二つのセンサーの両方を使っているところを示していて、レンズ(中央の丸)が画像の焦点をどちらにも合わせるとしている。もちろん、それぞれのセンサー上で画像は完璧にスケールされている。大きい方のセンサーでは、小さい方のセンサーに比べてどの方向にもサイズが2倍になっている。だから、どの線も2倍の広さになっている。レンズによって線の境界がぼやければ、そのぼやけ自体も2倍の広さになる。そして、もしもシャッター速度が同じならば、被写体やカメラの動きによって起こるブレもまた2倍に広くなる。けれども、違っている要因が一つある。それは、センサーの個々の場所に到達する光の量だ。大きい方のセンサーの面積は小さい方の4倍なので、どの点でもそこに届く光の密度はたった4分の1に過ぎないことになる。

image

これらのセンサーを比較しようと思うとき、私たちはある選択肢に直面する。大きい方のセンサーで絞り値を2コマ大きくして4倍の光を取り込むか、それともシャッターを開いている時間を4倍に長くして4倍の光を取り込むか、あるいはセンサーの感度を4倍にする(つまり ISO 速度を2コマ上げる)かだ。絞り値を上げるのはテストチャートの撮影ならば問題ないが、光学的に画像を変えてしまうので、三次元の物体では手前と奥とで焦点が合わせにくくなる。(つまり被写界深度が減る。)シャッター速度を遅くした場合は、シャッターが開いている間に被写体が動いてしまう可能性が高まるし、撮影する側でもカメラが動いてしまうかもしれない。だから、光学的に同等な世界の画像を作り出すためには、センサーの ISO 速度を増やすことが必要となる。

要するに、通常の写真撮影でセンサーのダイナミックレンジを比べようと思えば、センサーのサイズが違っていた場合、同じシャッター速度で同等の被写界深度を与えるような ISO 速度にしておかなければならないということだ。もちろん、最適な条件で撮影できる場合、例えばカメラが三脚の上に乗っていて被写体が動かないような場合は、それぞれのセンサーごとに最良の ISO 速度に設定して比較してもかまわない。

ダイナミックレンジの比較を私の方法でするならば、その結果は単純な数字の比較ではなくなる。けれども、数字だけ出すテストとは異なり、この方法で出した結果には意味がある。例えば、この記事の最初のところで私が比較した二つのセンサーを考えてみよう。それらのサイズの違いは、先ほどの図に示された二つのセンサーの違いとほぼ同じだ。ベストな ISO 速度は小さい方で 100、大きい方で 200 となっているので、その設定で比較してみよう。小さい方のセンサーで撮った写真が上で、大きい方で撮った写真が下だ。下の画像の方が明るいがノイズも多い。暗い部分の細部をよく見ると、上の写真では真っ黒になってしまってよく分からないし、下の写真ではノイズに紛れてよく分からない。黒髪に混じったグレイの部分を見て頂ければお分かりだろう。どちらが良いかと言えば、同じくらいとしか言いようがない。ただ、下の写真の方がほんの少しだけ細部を表示しているかもしれない。

image

その次の写真に移ろう。ここに示された明るい細部もやはり同じくらいだが、明るい部分で上の写真の方がほんの少しだけ細かいところを示している。要するに、全体的には白く洗われてしまっている。それぞれのベストの ISO 速度で、これら二つのセンサーのダイナミックレンジはほぼ同じだ。

image

(ついでに言い添えれば、この大きい方のセンサーが生成する画像は 14-bit 画像、つまりこの小さい方のものを含む大多数の DSLR のセンサーによるものよりも 2 bit だけ多い。それはつまり、このセンサーが作り出した電圧差がより精度の高いデジタル数に変換されるということを意味する。センサーが作り出した電圧差の中にどれだけノイズが含まれていようと、この余分の 2 bit がノイズに及ぼす影響は、そのノイズがより正確にデジタル化されるということ以上の何ものでもない。)

調べてみると、この大きい方のセンサーの ISO 200 設定と ISO 400 設定ではダイナミックレンジに見て分かる違いは出なかった。だから、小さい方のセンサーの ISO 100 もやはり大きい方の ISO 400 と同等ということになる。どちらのセンサーも、それぞれ ISO 200 と 800 にしてみても特に良くはならなかったが、ここでも違いはほとんどなく、ほぼ同等と言える結果だった。さらに進んでそれぞれ ISO 400 と 1600 にしてみると大きい方が良くなり、そこから先は違いがあまりにも大きくてセンサーの格の違いが一目瞭然だった。大きい方のセンサーは、暗いところでもどうやらある程度まともな写真が撮れた。

当たり前のことは無視しよう -- 画像の質に関する従来型のテストで意味のあるものは一つもないが、それでも何らかの情報は提供してくれる。だから、何か情報がある方が、何の情報もないよりはマシだと思われるかもしれない。けれども残念ながら、情報があることは必ずしも情報がないより良いとは限らない。こうした従来型のテストは、私に言わせれば目の見えない人が象の体に触って、それが壁みたいだとか木みたいだとか蛇みたいだとかロープみたいだとか言っているのと同じようなものだ。レビュー記事の筆者が何か単純なこと、例えばシャッターの遅れとかいったことを測定したのならば、私も喜んでその結果を信じよう。けれども画像の質のような非常に複雑な現象に対して単純な評価を下したものになど、私はどんな信憑性も認めることはできない。もちろん私だって、思い違いをすることにやぶさかでない。私のお気に入りの思い違いは、シャワーの中でならば自分もなかなか歌が巧いと思えることだ。でも、たとえレビュー記事に良い評価が出ていたとしても、友人の持っている「なんたらフレックス」カメラより「かんたらフレックス」カメラの方が優れているなどと、思い込む理由は一切どこにも認められない。

それだけではない。カメラの機械的な品質に関する評価も、私は信じない。カメラを調べて、それがどれだけしっかりと作られているか、どのくらい長持ちするかなどということを判定する方法があるものなら、教えて欲しいくらいだ。昔はそうではなかった。昔のカメラなら、バネを使ってシャッターを巻き上げ、リングを回して焦点を合わせ、ボタンを押してシャッターを切り、さまざまのパーツがヒューンと動いてカシャッという音がするのを聴き、最後につまみを捻るかレバーを回すかしてフィルムを進めたものだ。そこでは感触と音によって、あるカメラの方が他のカメラより良いということが感じられた。それに、手のひらからの圧力に耐えるため、各パーツは真鍮やアルミニウムを加工したものとなっていたので、重量も鍵となった。ところが、今や超小型モーターが指の代わりとなり、パーツに求められるのは強度よりも小ささの方が重要な点になった。そのため、高い品質は真鍮から来るのではなく、正しい種類のプラスチックで出来ていることから来るようになった。デジタルカメラには、電子部品から出る熱を散らすために金属のケースが必要かもしれないが、あなたが手で触って感触を得られるのはもはやただのヒートシンク(放熱版)に過ぎず、機械的な品質とは縁もゆかりもない。

ひょっとしたら、レンズをどうこうすることすらも、もはやどうでもよいのかもしれない。昔ならば、レンズは完璧に製造されることを前提としてデザインされていた。けれども今日では、多くのエンジニアたちがレンズの製造工程で難点が紛れ込むのは避けられないという前提に立った方がより効率的だということを認識するようになった。ことに複雑なレンズについてそのことがはっきり言える。だから、光学においてはいくらかのズレが許容されるようにデザインがなされることが多い。(レンズというものがどれほど複雑なものになってしまったか、きちんと理解している人は少ない。プロ用のレンズは昔は 4 個から 8 個の球面要素からなっていて、それらはまず普通の光学ガラスを研磨し、それから 3 つか 4 つのグループに接着され、その組み合わせがレンズとなっていた。ところが今日では、並の価格帯の DSLR キットに入って売られている一枚のレンズであっても、17 個の要素が接着されて、13 のグループを成し、そのうち 3 個の要素は標準でない素材を使って非球面状に仕上げられている、ということも珍しくなくなった。)

私はカメラの型式や機種について特に内情に詳しかったり、あるいは専門家としての知識を持っていたりする訳ではない。だからこの前の冬、どのカメラを買うか決めようとして、私はさんざん頭を掻きむしって悩みに悩んだ。私は、写真を非常に大きく引き延ばす。私のスナップ写真の標準は 11 インチ× 17 インチ (A3 サイズ) だ。だからこそ、可能な限り最高の画質を得られるものが欲しい。それでも、フルフレームのセンサーは、どれだけ良いものであったとしても、私の好みではない。その理由は、カメラが持ち運ぶには重過ぎて、画像を得ることが不可能になることがあり、そのことが画質に対する究極的なる足枷と化すからだ。さらに次の理由として、必要なレンズを持ち運ばない決断をしなければならないことがある。より小型の私の Foveon ベースのカメラでさえ、背中の荷物に入れて持ち運べる限界を既に私は超えている。現在既に、毎回少なくとも一つのレンズは泣く泣く家に置いて出かけなければならないという状態なのだから。

フルフレームから一段階下のサイズは、標準化されていない。けれども十分類似していて同じレンズで使えるようなセンサーは数多くある。私はそういうものが一つ欲しいと思った。光学的ファインダーが付いていなくて軽量のものがいくつかあってかなり気を惹かれたが、レンズが交換可能で軽量の機種はすべて Bayer センサーベースのものばかりだった。このサイズのセンサーの中では、私は「知っている悪魔の方が、まだ知らぬ悪魔よりまし」という気がした。Foveon のダイナミックレンジが素晴らしいのを経験から知っていたし、Foveon でのノイズや不具合の特性の方が、Bayer センサーでのものより私は好きだった。Bayer で非常に暗い色調を撮ると、それは色の付いた粒々で覆われるが、Foveon での暗い色調は彩度を失おうとする。幅広いダイナミックレンジを持った自然の風景を目で見ると、普通私たちに見えるのは深いシャドウを持った、彩度の低い状態だ。だから、私には Foveon でのノイズの方がより自然なものに思える。

また、風景の細部がセンサーの解像度を超えるものだった場合、Foveon では実物よりも少し大きい形でその細部を示唆する手掛かりを記録してくれるが、Bayer は干渉模様を記録してしまう。通常、風景の非常に細かい部分を目が見て見分けられない場合はまさにそれを示唆する手掛かりを私たちは感じるものなので、ここでもやはり Foveon が細部をバラすやり方が本物に近いと言える。それから、私は Bayer 画像に本質的に内在するぼやけが嫌いだ。Bayer 画像をシャープ化することは可能だが、シャープ化には副作用を伴う傾向があるので、画像にシャープ化を施すのはできるだけ最小限にとどめたい。

結局、私はまた Foveon ベースのカメラを買うことに決めたが、ただ、Bayer センサーの基本設計には一つ重要な利点がある。それは、光に対する感度が高いことだ。私がこの記事でテストしたもののように非常に感度の高い Bayer センサーは、室内でスナップ写真を撮ったり、スポーツや野生生物でシャッター速度の速い写真を撮れるようにしたりするには素晴らしく適している。もしも私がニュース写真やスポーツ写真、あるいは野生生物の写真をたくさん撮るとしたら、きっと私は低い ISO 速度での良い画質を多少犠牲にしてでも、高い ISO 速度でのより良い画質を追い求めるだろう。この場合、きっと私はカメラ店へ出向いていくつかのカメラのダイナミックレンジを比較することだろう。それぞれの ISO 速度ごとに、絞りの刻みを一つずつ変えて何十枚も同じシーンを写真に撮り、それから露出アンダーや露出オーバーの写真をコンピュータの上で比較してみるだろう。

価値を評価する -- 今日のカメラでは、ダイナミックレンジこそが、画像の品質に制限を課す要因の中で飛び抜けて最も重要なものとなっている。同時に、ダイナミックレンジのみが、あなたが自分でテストすることが実際的に可能な光学的要因だ。けれども、カメラにおいてはそれ以外にも重要な要因がいくつかある。もしもファインダーあるいは LCD ディスプレイで画像が鮮明に見えなかったならば、あなたの写真の出来は悪くなるだろう。もしもカメラまたはレンズが光学的に画像を安定化しなかったならば、あなたの写真の出来は悪くなるだろう。もしもカメラの動作が遅過ぎれば、最初からあなたは写真を撮るタイミングを逃してしまうだろう。

また、適切な焦点距離を持ったレンズがなくてもやはり写真は撮れない。フィルムに写真を撮っていた時代には、ズームレンズを買うよりも固定焦点距離のレンズを買い、安価なレンズをたくさん買うよりも少数のレンズを使いこなす方が良いというのが賢明なアドバイスであった。なぜなら、光学的な不完全さが常に付きまとったからだ。けれども今日では、それと正反対のアドバイスが賢明なものと言えると私は思う。少しだけ時間をかければ、光学的な不完全さの大部分がクリーンアップできるようになった。そのため、高品質が要求される仕事にも安価なズームレンズが十分に実用的に使えるようになった。

当然のことだが、より良いレンズがより良い画像を生み出すことに変わりはない。その場合は、クリーンアップにかかる時間が短縮できる。だから、より良いレンズを持つにこしたことはない。ところが残念なことに、どのレンズがより良いのかを見定めるのが問題なのだ。メーカーの宣伝文句から「わかる」のは、せいぜいその会社の Super シリーズ製品が誰にとっても最適で、Duper シリーズ製品がその二倍は優れていて、Extreme シリーズ製品はもはや理想そのもの、といった程度のことだ。まともに理解できる手引きとなるのは価格表だけというのが普通だ。けれども、異なるメーカーのレンズを比較できるはっきりした方法を私は何も知らないし、価格と品質の相関関係も決して完璧とは言えない。生産にかかるコストは生産数量が増えるとともに急激に安くなるので、比較的低価格のレンズはほとんど品質に差がなくても劇的に安価になることがあり得る。また、最高価格レンジの商品というものは品質が良いから売れるというよりも、高価だからこそ売れるものだという話はよく聞く。例えば、この記事の執筆時点で Panasonic 製、Panasonic ブランドのコンパクトカメラを $320 で買うことができるが、Panasonic 製で Leica ブランドのコンパクトカメラならば $700 となる。エコノミストたちは、誇示的消費行動についての古典的名著の著者名を冠してその種の製品を Veblen 商品と呼んでいる。

価値の指標として目で見て明らかにすぐ分かるのは、カメラが提供する機能の数だ。けれども、これもきちんとした判断基準になるとは思えない。私の見るところ、市場に出ているカメラはどれもこれも、邪魔になるだけで役にも立たない機能でやたらに飾り立てられている。迷路のようなメニューや、誤解を生みやすい謎のような記号に惑わされて間違ったボタンを押したりして、貴重なシャッターチャンスを逃したことが何度あったことだろうか。私が使うカメラには、画像のサイズ、画像の画質、露光モード、縦横比、回転、シャープ化、カラーバランス、ホワイトバランス、スライドショー再生、サウンド、ビデオ、等々といったようなメニューオプションをすべてなくして欲しいものだ。ことに、しょっちゅう私が間違って押してしまうボタンが一台のカメラに付いているが、これはぜひなくして欲しい。それは、オートフォーカスセンサーの位置を中央から別の場所へ動かすためのボタンだ。何のためにそのボタンがこんなところに付いているのか、私にはさっぱり分からない。私が持っていたことのある手動カメラで、デジタルカメラほど操作が複雑で、コントロールのしにくいものは今まで一つもなかった。妻の持っているコンパクトカメラでさえ同じことが言える。デジタルカメラは、賢明な人ならばデスクトップのコンピュータでするような作業をしようとこぞって試みているのだ。正気の沙汰ではない。私は、シンプルなカメラで、何も処理を施さずにただ画像を raw フォーマットで保存するだけのものが欲しい。写真に処理を施すのはデスクトップのコンピュータでできるし、そちらでする方がコントロールが簡単だ。

写真の市場に対する私の見方が偏見に満ちていると思われるかもしれないが、いや、実際、確かに偏見に満ちている。けれども、がらくたの類をいったん超えれば、今日入手できるカメラについて、偏見を持つことは事実上できない。私の DSLR で撮ったものの拡大写真は、2.25" × 3.25" のフィルムで撮っていた時代よりも良い仕上がりとなっている。

コンパクトカメラに限って調べると、他より大型の LCD ディスプレイを持つものが一つ、ズーム量の大きいものが一つ、他より小型のものが一つあったが、私の見るところその中身は同じようだった。いずれもごくちっぽけなセンサーを備えており、ダイナミックレンジを犠牲にして必要以上のメガピクセル数にしていたし、箱の表面には役にも立たない機能が長々とリストしてあった。私の見るところ、これらの製品の価格は品質によるのではなくて、その製品が現在そのライフサイクルの中でどのあたりの位置にいるかによって決められているようだ。妻のコンパクトカメラをこの前買った際には、私は近所の店を二軒見て回り、画像安定化機能を持っていて、見やすい LCD ディスプレイとズームレンズを備えているものの中で、最もメガピクセル数の少ない機種を選んだ。

コンパクトカメラよりは上級機種だが、DSLR (デジタル一眼レフ) よりは小型のものを買いたいのならば、できるだけダイナミックレンジの大きなセンサーを探す必要がある。「プロシューマ向け」機種、つまり外見は小型の DSLR のようだが交換用レンズは提供していない機種では、その必要が満たされない。その種のものはスナップ写真用のカメラと同じ、ちっぽけなセンサーしか備えておらず、撮った写真の品質は変わらないからだ。4分の3サイズ、あるいは APC サイズのセンサーを備えた機種を探すべきだ。今日では、コンパクトカメラと大して変わらないサイズのボディーの中にこのクラスのセンサーを装備することも可能になっている。(私自身、Sigma 製のこの種のカメラで Foveon センサーを備えたものを一台持っている。DP2 だ。このカメラは私の Foveon ベースの SLR とあらゆる点で同レベルに良い品質の写真が撮れるが、熟練した写真家以外にこれをお薦めすることはできない。なぜなら、ズームレンズが付いておらず、画像安定化機能もなく、LCD ディスプレイは薄暗く、ユーザーインターフェイスも際立って使いにくいからだ。)

DSLR (デジタル一眼レフ) を買いたいのであれば、高価な機種よりも安価な機種を探す方が賢明だと私は思う。DSLR で重要なのはセンサーとファインダー、それと画像安定化機能であって、それ以外のことはあまり重要でない。他のコンピュータ制御の機器と同じように、デジタルカメラも日々品質が改善され、価格は安くなりつつある。もしもあなたが控えめなレベルのカメラを使っていてその能力の限界に行き当たったなら、その時にそれを売り払って代わりにその時点でより優れたものに買い直す方が、今すぐあわててより優れたものを買うよりも悪いことはないのではないだろうか。いずれにしても、能力の限界に行き当たることは、それほど起こらないものだ。

最後にもう一言。どんなデジタルカメラであっても、切っても切り離せない部分の一つがコンピュータであることを忘れてはならない。カメラにはコンピュータが内蔵されていて、それは驚くほどよく働くが、それでも一流の写真を仕上げようと思うならば、内蔵のコンピュータで十分な仕事ができるということはあり得ない。どんなデジタルカメラでも、その価値をフルに引き出そうと思うのならば、デジタル画像を最適化することのできるソフトウェアが必要となる。だから、単なるスナップ写真の世界を一歩踏み出したなら、より良い写真はより良いカメラから来ると思ってはならない。それは、より良いソフトウェアと、それをどう使いこなすかを知っていることから来るのだ。その点については、私の記事“Digital Ain't Film: Modern Photo Editing”(2010 年 4 月 29 日) をご覧頂きたい。

[もしもこの記事がお役に立ったのなら、Charles はあなたが国際援助団体 Doctors Without Borders (国境なき医師団) に少しでも寄付してくださるようお願いしています。]

コメントリンク11362 この記事について | Tweet リンク11362


TidBITS 監視リスト: 注目のアップデート、2010 年 7 月 12 日

  文: TidBITS Staff <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

BusyCal 1.3.2 -- BusyMac が、 BusyCal のマイナーなメンテナンスアップデートをリリースした。共有機能を備えた、同社の iCal 代替用カレンダープログラムだ。バージョン 1.3.1 では Snow Leopard での同期のエラーに対処するための Overwrite Sync Services ボタンを追加し、イベントをドラッグした際に起こった(詳細は明かされていないが)Week View でのバグを修正し、繰り返し起こる To Do の Alarms メニューでの見栄えを元に戻し、LAN 上で誕生日の同期をした際に起こることのあった(詳細は明かされていない)バグを修正している。また、クラッシュする可能性のあったバグも二つ、このアップデートで修正された。その一つは重複したイベントを消去する際のもの、もう一つは壊れた環境設定ファイルが存在する状態でプログラムを起動した際のものだ。それから、この最新バージョンでは Help マニュアルがさらに増え、さまざまの翻訳版に改良が施され、その他マイナーな拡張やバグ修正が盛り込まれている。バージョン 1.3.2 は、1.3.1 で紛れ込んでしまったクラッシュのバグを一つ修正するとともに、1.3 からアップグレードした場合の Calendar Group 変換のバグも修正した。(新規購入 $49、アップデート無料、6.2 MB)

BusyCal 1.3.2 へのコメントリンク:

PDFpen と PDFpenPro 4.7 -- SmileOnMyMac が、PDF 編集ユーティリティ PDFpenPDFpenPro にマイナーな機能アップデートをリリースした。この最新バージョンではノート取りおよびスニペット収集ユーティリティ Evernote の中に直接 PDF を保存できる Save to Evernote 項目が File メニューに新設された。(新規購入 $49.95/$99.95、アップデート無料、45.8 MB/46.0 MB)

PDFpen と PDFpenPro 4.7 へのコメントリンク:


ExtraBITS、2010 年 7 月 12 日

  文: TidBITS Staff <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

この一週間はありがたいことに深刻なニュースがほとんどなかったが、いくつか私たちの目に留まったニュースはあった。Consumer Reports がアンテナのデザインの件をもとに iPhone 4 をこき下ろし、Apple が一部の Time Capsule に発生していた問題の存在をようやく認め、AT&T が一部の都市で iPhone 4 ユーザーがアップロード速度の低下を経験している理由を説明し、Apple が新バージョンの MobileMe Calendar のベータテストを開始し、Sony が電子ブックリーダーを値下げし、New York Times が労働賃金と為替のコストが上がっているため電子機器が値上がりするかもしれないと警告した。

Consumer Reports が iPhone 4 のアンテナ欠陥を確認 -- あなどり難い Consumer Reports 誌の発言が出た。信号強度の弱い地域で iPhone 4 の左下側のアンテナ切れ目部分を手の皮膚で覆うように持つと接続が切れてしまうというテスト結果を発表したのだ。この非営利団体 Consumer Reports は、別々に購入した3台の iPhone 4 を電波隔離室の中でテストした。また、この切れ目部分の上に小さなテープを貼るだけで(あるいは Steve Jobs が勧めるようにそのような持ち方をしなければ)問題が解消したとも述べている。そして、Consumer Reports としては現時点では iPhone 4 の購入を「推奨しない」と結論づけた。これは痛い...

コメントリンク: 11424

Apple、欠陥のある Time Capsule を交換 -- Apple が、2008 年 2 月から 2008 年 6 月までごろに購入した Time Capsule で電源関係の欠陥を示すものを無償で交換または修理すると発表した。欠陥の内容は電源が入らなかったり、起動後に予期せずシャットダウンしたりするというものだ。最近出された Knowledge Base 記事に、あなたの Time Capsule が該当するシリアル番号を持つかどうかを調べる方法、あなたの機器からデータを回収するよう Apple に手配する方法、また過去にこの件で修理または交換をしている場合に返金を受ける方法の説明がある。

コメントリンク: 11423

iPhone サプライチェーンがコストの上昇を示唆 -- New York Times が、iPhone 4 の供給プロセスについての議論を踏み台として、中国における賃金、為替、不動産のコストが上昇していることが家庭用電子製品の値上がりに繋がるかもしれないという議論を展開している。iPhone のような製品の実際の組み立て工程はコスト全体のごく一部分に過ぎないが、回路基板やバッテリといった一次産品の価格がすべて賃金コストの変動を反映する。Apple の場合は利鞘が大きいのでそのような圧力に対する絶縁体ともなってくれるかもしれないが、主に価格で競争している他の電子機器メーカーには影響が大きいかもしれない。

コメントリンク:11419

AT&T、データ制限を否定 -- Ars Technica が、当事者からの直接情報として、最近噂されていたような AT&T が iPhone 4 に対してデータ速度の上限を設けているという事実はないことを確認した。AT&T によれば、一部のユーザーが体験しているアップロード速度が 100 Kbps 程度にまで落ちてしまうという現象は、AT&T がいくつかの基地局で用いている Alcatel-Lucent 製の機材におけるソフトウェアの欠陥であったという。AT&T はこの欠陥の影響を受けるのは全ユーザーのおよそ 2 パーセントに限られるはずだと述べるとともに、Alcatel-Lucent が現在修正に向けて作業中であるとも述べた。

コメントリンク: 11418

Apple、MobileMe Calendar のベータ版を発表 -- Apple が、改訂された MobileMe Calendar のベータプレビュー版の提供を始めた。この最新版では他の MobileMe メンバーとの間でカレンダーを共有したり互いに編集したりできる機能が加わり、誰でも見ることができる読み出し専用のカレンダーを出版することもできるようになった。また、電子メールによるイベントへの招待が、新設のウェブアプリケーションインターフェイスを通じてどのコンタクト相手にでも送れるようになった。この最新版の MobileMe Calendar は Mac OS X 10.6.4、iOS 4 (iPhone と iPod touch 用)、iOS 3.2 (iPad 用) と互換だ。この新サービスを利用するには、www.me.com にログインしてから Request an Invitation リンクをクリックする。そうすればしばらくして電子メールで招待が届く。

コメントリンク:11417

Sony、デジタルリーダーを値下げ -- 口火を切ったのは Barnes & Noble で、Nook を $259 から $199 に値下げした。そこで Amazon も Kindle 2 を $189 に、Kindle DX を $379 に、それぞれ値下げした。今回 Sony もそれに続き、同社の Reader Daily Edition を $299 に、Reader Touch Edition を $169 に、Reader Pocket Edition を $149 に、それぞれ値下げした。ただ、このうちワイヤレス機能を持つのは Reader Daily Edition のみなので、Kindle や Nook と競合できるためには、ましてや iPad とも競合できるためには、Sony としてももっとすべき仕事が(あるいはさらなる値引きが)必要なのではないだろうか。

コメントリンク: 11405


tb_badge_trans-jp2

TidBITS は、タイムリーなニュース、洞察溢れる解説、奥の深いレビューを Macintosh とインターネット共同体にお届けする無料の週刊ニュースレターです。ご友人には自由にご転送ください。できれば購読をお薦めください。
非営利、非商用の出版物、Web サイトは、フルクレジットを明記すれば記事を転載または記事へのリンクができます。それ以外の場合はお問い合わせ下さい。記事が正確であることの保証はありません。告示:書名、製品名および会社名は、それぞれ該当する権利者の登録商標または権利です。TidBITS ISSN 1090-7017

©Copyright 2010 TidBITS: 再使用は Creative Commons ライセンスによります。

Valid XHTML 1.0! , Let iCab smile , Another HTML-lint gateway 日本語版最終更新:2010年 7月 18日 日曜日, S. HOSOKAWA