TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#1071/04-Apr-2011

Jeff Carlson が Stump iPad スタンドをレビューする他に、今週号では三つのメジャーな製品を概観するが、その三つとも完璧に上出来とは言い切れない仕上がりだ。まず Glenn Fleishman が、Amazon のどちらかと言えば機能に限界のある Cloud Drive オンラインストレージサービスと Cloud Player オンライン音楽プレイヤーについて報告する。次にゲスト寄稿者の Lukas Mathis が、Skype 5 のどこに問題があったのかについて掘り下げて検討する。これは従来の Mac 用 Skype 2.8 からのメジャーなアップグレードだが、ユーザーたちの間で大きな戸惑いを引き起こしてきた。そして、Adam が Firefox 4 をレビューする。こちらは人気のウェブブラウザに対するなかなか良いアップグレードだが、それでも他のブラウザのユーザーたちを惹き付けるだけの魅力があると言える程ではない。今週注目すべきソフトウェアアップデートは、Dropbox 1.0.28、13 インチ MacBook Air(Late 2010)用 Mac OS X v10.6.7 追加アップデート、それに GarageBand 6.0.2 だ。

記事:

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iPad を切り株に

  文: Jeff Carlson <[email protected]>
  訳: 柳下 知昭 <tyagishi@gmail.com>

Macworld Expo の講演者であることの特典の 1 つ - あのすばらしい人たちと並んで数えられることの栄誉に比べれば数段落ちるけれど - は、"講演者バッグ"である。講演者は、イベントの際に、料金をもらって話さない、そこで、 IDG World Expo からの補償の 1 つとして、製品やデモ、ソフトウェアライセンス、展示会のベンダーからの特別割引を詰め合わせた大きなダッフルバッグを、講演者全員が受け取る。講演者の重労働に対しての報酬であるというだけでなく、講演者バッグは、主催者による影響力のあるライター、編集者、業界内部者のグループの目に製品をふれさせる抜け目のない手段である。

今年は、二つの iPad ケースにすっぽり挟まれて、天面が少し傾き中央に垂直に切れ込みの入ったちょっと重量感のある、ゴム引きしたプラスチックの丸い塊があった。私は最初、それがあまり出来のよくないカードホルダーか何かかと考え、片付けてしまったが、それは、講演者バッグのアイテムの中で私が最も使用するアイテムだとわかった。

ミュータントのホッケーパックのように見えるその固まりは、Stump Stand と呼ばれ、3 つのうちの 1 つのポジションで、iPad を保持するように設計されている。45 度の角度でオンスクリーンキーボードをタイプするためには、iPad を傾けられた天面に横たえる。もしくは、iPad の 1 つの縁を垂直の切れ込みにセットし、(動画を見る時などのために)垂直に支える。切り抜かれた部分には、2 つの段があり、iPad が垂直位置にあるときに、iPad をすこし動かすことで、角度をすこし傾けることが出来る。Stump Stand の正面の切れ込みによって、iPad を垂直位置に縦方向に置いたときに、iPad の ホームボタンにアクセスすることが出来る。

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去年、私がオリジナルの iPad を使い始めたとき、使用中に置いておくのに良い休憩場所を見つけるのが難しかった。iPad Dock は、iPad を縦置きしたときのみのサポートであるし、Dock コネクタから外すときには、両方の手で持って 2 つに分離させる必要がある。結局私は中学生時代に姉が作ってくれた木製の見台で iPad を支えていた。

私が iPad にアップルの黒い iPad ケースを装着した後には、iPad Dock は、永久に役に立たなくなった、なぜなら、カバーがつけられたiPad を支えるための隙間が Dock にないのである。Stump Stand は、それとは対照的に、(フラップが開いている)アップルのケースに入れられたオリジナルの iPad にも対応している。さらに、縦方向と横方向のどちらでも支えることができ、持ち上げることが必要な場合には、Stump から簡単に持ち上げることが出来る。重りのついたベース(8.5 オンス, 241g)は、デスクの周りで動いてしまうのを防いでくれる。

Stump Stand は、Smart Cover が、iPad の背面側に平らにされている場合でも、iPad 2 で使用できる、もっとも、レザーの Smart Covert では、完全に直立させた状態だとぴったりとはあわない;ポリウレタンのバージョンは、少しの力でぴったりとフィットする。しかし、少し角度のつけられた "lean" ポジションは、どちらのカバーでも非常に良好である。(もちろん、Smart Cover の磁石の掛けがねは簡単に外すことが出来るので、カバーを外すことも大したことではない。)実際には、Stump は、iPad に限定されるものではない。iPhone, iPod Touch から Kindle までのくさび状の形状にフィットする様々な種類のデバイスを支えることができ、

私は、最近 6 週間をいくつかの iPad プロジェクトに費やした:新刊の "Take Control of Media on the iPad, Second Edition" と、iPad 2 関係の電子書籍では初めて iBookstore に登場した "Meet the iPad 2" (いずれも現在発売中)、そして、私の次回の紙の書籍と電子書籍のタイトルは、"The iPad 2 Pocket Guide" であり、あと数週間で入手できるようになる。その間、私は、どんなときでも、私の 3 つの iPad を持ち上げ、休ませ、同期させ、タイプする必要があった。Stump Stand はたった一つしかなかったけれど、Mac で書き物をしている間、すばやくスタンドに置いたり、何かテストする必要があるときに持ち上げたりといったテストをするのにちょうど良かった。

私の Stump Stand は、黒である(背面に小さな Macworld 2011 のロゴがあり、カスタムブランドにできる社の能力を誇示している)が、赤、ピンク、緑、青、ライトグレーも選ぶことができる。(最後の2つは、私がこれを書いている時点で品切れのようである。)Stump は、$22 である;現在のところ特別キャンペーンが行われていて、黒が2つで、$40 となっている。

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Amazon、あなたの音楽をクラウドに置く

  文: Glenn Fleishman <[email protected]>
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

待望のクラウドベースの音楽保管サービスが立ち上がった - とは言え、それは Apple からでも Google からでもなかった。Amazon.com が Cloud Drive と Cloud Player で両社のお株を奪ったのである。Cloud Drive はどこからでもアクセス出来るオンラインの保管庫を提供するもので、 DropboxSugarSync の簡単なバージョンのようなものである。Cloud Player は、あなたが Cloud Drive に保管した音楽を Web アプリ或いは Android アプリを通して演奏させてくれるが、そのオーディオは無保護の AAC としてエンコードされているか或いは MP3 ファイルでなければならない。

Cloud Drive と Cloud Player は直ちに大きな衝撃はもたらさないであろう。iOS アプリもないし、ファイルを移動したり音楽を出し入れするのも極めてもどかしい。Amazon はこれら全てをまず間違いなく改善するであろうが、現時点では Apple 及び Google に対して先発者利益を獲得した:Amazon は人々に大量の音楽とファイルをアップロードさせてがんじがらめにし、追いかけてくる競争相手がユーザーにファイルをもう一度別のサービスに移しそして管理する面倒をしてみても良いと確信させなければならない責務を克服しなければならない様にしたいのである。

クラウドベースで音楽をストリームすることに関する根本的な欠陥は、従量性のモバイルブロードバンドである。もしあなたの電話やタブレットに音楽を保持することが出来ず、ストリームしなければならないとしたら - 自分の所有するコレクションからですら - 欲しい音楽を自分のモバイル機器に入れておけば今日ではただで出来ることに毎月数十ドルを払う結果となってしまう。

Cloud Drive を比べる -- Amazon アカウントの所持者に対しては、Cloud Drive に無料の 5 GB の保存容量が含まれる;もしあなたがインターネットは使っているが Amazon アカウントは持っていないという統計的に言えばありそうもない立場にいるのであれば、アカウントを設定するのは無料である。もし少なくとも一つの MP3 アルバムを Amazon から購入すれば、同社はあなたの保存容量を 20 GB へ一年間無料で上げてくれる。更により大きな保存容量をギガバイト当たり年間 $1 で 20 から 1,000 GB の間で購入することも可能である。これは Amazon の Simple Storage Service (S3) に対する定価よりも安価である。S3 は 1 TB までに対して保存したギガバイト当たり月 $0.14 (年 $1.68) を課し、そして自分では使い易いフロントエンドを持ち合わせていない。(あなたは Transmit, Cyberduck, Interarchy, そしてその他のファイル転送ツールを使うことで S3 保管庫をそれがあたかも FTP サーバーであるかのように扱うことが出来る。) S3 はまたデータを動かしても料金が発生する:アップロードはギガバイト当たり $0.10 でそしてダウンロードはギガバイト当たり $0.15 である (毎月無料の 1 GB を超えた後)。

これに対して、Google はどのアプリサービスに対しても追加された保管庫に ギガバイト年当たり $0.25 を課するが、転送料金は無い。サードパーティソフトウェアの助けを借りると、Google Apps 保管庫をその他の保管サービスの様に使うことが出来る。 Dropbox の標準プランは 50 GB で月 $10 或いは 100 GB で月 $20 であり、換算するとギガバイト年当たり $2.40 となる。Dropbox はまたデスクトップ同期を含んでいるが、当然ながら、これは Amazon Cloud Drive には無い。(Dropbox は Amazon S3 に依存しているが、これは他のオンライン保管サービスでも同様である。)

現状では、Cloud Drive にファイルをアップロードするには Web ブラウザの保存ダイアログ経由でやるのだが、これはどうしようもないインターフェースである。ダウンロードも Web ブラウザ経由でなされるが、こちらの方がほんの少々ではあるがましである。私が思うに、Kindle エコシステムと同様、Amazon はファイル転送と同期をよりやり易くするため Windows, Mac OS X, iOS, Android, そしてその他のプラットフォームのためのネイティブアップスを作成してくるであろう。そしてそのサービスを既存のファイル転送ツールにも開放するであろう。Amazon は Dropbox 等々と直接競争することになってしまわないとも限らないが、これらのサービスに機能で挑戦するような形にはしないと思われる。Amazon の消費者に対する関心はメディア周りにあり、コンピュータサービスにではない。

同僚の中には Amazon は保管庫の信頼性について二つの全く相反する説明をしていると Twitter で顔をしかめている者もいる。 Cloud Drive について: Learn More ページで同社は謳っている:

ファイルをあなたの Cloud Drive に保管すれば、あなたのコンピュータがクラッシュしても、或いは失くしたり盗まれたとしても、それらを失う心配は全くいらなくなる。

しかし、もし Terms of Use の条項を読めば、Amazon の弁護士たちは言う:

5.3 安全。あなたのファイルが不正利用、損失、或いは損傷の対象とならないことを保障するものではなく、例えそのような事態になったとしても我々は一切の責任を負わない。あなたのファイルに対する適切なセキュリティ、防御策、そしてバックアップを講じる責任はあなたにある。

小さな字の細則は、極端な場合にも過度の罰則から Amazon を守るために存在している。Amazon の S3 保管システムは保存された全てのデータに対して高度の組み込まれた冗長度を持っていて、これは単一のデータセンタの内部でも、そして多くのデータセンタ間でも当てはまる。Cloud Drive は、多分 9 が並はずれに並ぶ程度にまで信頼性があるのだと思われる - Amazon は 99.999999999 パーセントを S3 "耐久性" として挙げている - しかし、もしあなたが 100 パーセントを約束していて、データ喪失の結果として訴えられた場合、この最後の 0. 000000001 があなたの会社の財務破綻の原因となってしまう。ハードウェアの障害よりもありそうなのは攻撃者からの損害或いは盗難なのかもしれない;我々は Amazon が日に日に大きな攻撃目標になりつつあると思わざるを得ない。

Cloud Player -- Cloud Drive にインターフェースの問題があるのと同様、Cloud Player における制限事項も現時点では深刻である。音楽のアップロードを処理するためには Amazon MP3 Uploader をダウンロードして入手しなければならず、これが Adobe AIR アプリケーションなのである。つまり、他の大多数の AIR アプリと同じく、使用感が最悪である。ネイティブでないインターフェース、直観的でない挙動、のろのろした動作、不可解なエラー(例えば私のライブラリをスキャンしていて 90 パーセントほど済んだと思いきやタイムアウトしてしまう)など、フラストレーションの溜まることばかりである。

iTunes の確固たる優勢にもかかわらず、また Amazon MP3 Uploader が自動的に iTunes ミュージックフォルダを見つけているにもかかわらず、このアプリはそのフォルダをスキャンしてメタデータを使いアルバムやアーティスト情報を収集したりはしてくれない。その代わりに、フォルダ構造にそのまま依存してアップロードの選択をさせる。私は何千もの音楽ファイルを持っているし、iTunes の内部的フォルダ構造は手でかき分けて調べるのに適したものではない。別個のダウンロード用アプリを使えば、ライブラリから直接 iTunes または Windows Media Player の中へダウンロードすることができる。また Web ブラウザ経由でファイルをダウンロードすることも可能である。

Amazon は、ネイティブなアプリを作る代わりに AIR という安直な道を選んだ。それはおそらく締め切りに間に合わせるためであったろう。別途にネイティブなアプリを作るよりも、AIR を使ってクロスプラットフォームのサービスを試作し配備する方が、ずっと早くできるからである。

Cloud Player がサポートするファイルフォーマットは、AAC と MP3 のみである。ファイルは保護のかかっていないものでなければならない。つまり、デジタル著作権管理 (DRM) の暗号化が施されたものは使えない。Amazon の MP3 ストアは発足当初から DRM なしであり、Apple は 2009 年 4 月に DRM の使用を止めた。米国や、他の大多数の国で、現在ダウンロード購入用に販売されているファイルのほとんどすべてが DRM フリーとなっているであろう。(古い DRM 保護付きの iTunes 楽曲は、一曲あたり 30 セントで DRM 除去のアップグレードができる。)

Amazon は過去に Amazon MP3 から購入したものを Cloud Drive に入れてはくれないが、インストール後に Amazon MP3 から購入したものは自動的に入る。

音楽の再生はずっと良い感じがする。ただしそれは、デスクトップのブラウザか、または Android アプリを使っていればの話である。ここではメタデータが使われ、アーティストやアルバムが適切に整理される。私は iOS で Web アプリを使おうとしてみたが、まずブラウザが対応していないというメッセージが出た後で、Web アプリそのものは現われたものの、この Web アプリは私の携帯電話で音楽を再生することができなかった。発足時点で iOS 機器に対応していないというのは、ちょっと愚かな手落ちのように私には思える。

曇り、時々 Apple -- もちろん、すべての楽曲を遠隔に保存して、何百万曲ものライブラリからオンデマンドであなたが聴きたい曲を選んで再生させることのできる音楽ストリーミングサービスは、もうずっと以前から存在している。そのようなサービスの最初の形では、オンデマンドで楽曲をダウンロードして、それを暗号化されたフォーマットで保存し、そのファイルを再生する時点でインターネット接続を要しなかった。購読期間が終わったり、保存容量を空ける必要が生じたりした場合に、楽曲が消去された。ネットワーク接続のない音楽プレイヤーでは、それが必要な前提であった。(そうしたサービスのいくつかでは、月額 $10 から $15 の無制限再生契約に付属したものとして毎月最大 10 トラックまでダウンロードして永久に手元に置ける権利が付いているものもあった。)

その後、スマートフォンと 3G ネットワークの成長と、Wi-Fi ホットスポットの増加に伴い、オンデマンドのストリーミングへと世の中は移行して行った。行く先々どこででもインターネットへのアクセスが得られるのならば、いったいなぜ出発前にあらかじめ楽曲を同期させたり、あるいは保管庫の残り容量を気にしたりしなければならないというのか? そんなものの代わりに、どこでも好きな場所で、いつでも好きな時に楽曲のストリーミングを開始して、曲の最初の部分を始められるだけの分量がバッファされる間を待つだけでよいのである。その種のサービスとしては、 Last.fmRdioSpotify (これは米国外)、Pandora などがある。すべて、無料版とプレミアム版の両方を持つ。

けれども、その結果あなたはインターネットサービスに依存することとなる。もしもあなたがセルラーネットワークの到達範囲外にいれば、あるいはもしもデータプランのその月の上限データ量に近づいてしまえば、また手近に Wi-Fi が見当たらなければ、あなたにはどうしようもない。米国では段階的データプランとして月あたりの使用量上限が 200 から 250 MB と少ないものもあるので、セルラーネットワークで頻繁に音楽の再生をすればすぐに上限を超え、超過料金の憂き目に遭うことになりかねない。

Apple は現在のところ、このトレンドに乗ることはせず個別のダウンロードに依存している。個々の楽曲を個別に、あるいはアルバムとして「バンドル」の形で購入するやり方だ。Apple は事あるごとに、人々は楽曲を「所有する」ことを望むものだと発言してきた。ただしそれは真の所有権に伴う権利が発生するという意味ではなくて、あなたが直接コントロールできる機器の上でその楽曲をいつまでも再生できるという、制限付きのライセンスが与えられることを意味している。あなたの楽曲を聴くためには、コンピュータの前にいるか、またはその楽曲をあらかじめモバイル機器に忘れずに同期させておかなければならない。けれども、もう何年も前から Apple ウォッチャーたちは転換を予想してきた。

2009 年の末ごろに、Apple は音楽ストリーミングサービスの Lala を買収し、数ヵ月後にそのサービスを終了した。臆測されているのは、Apple が既に構築してきた何かの中に Lala が統合されるのではないかという予想である。いつの日か突然、あなたがこれまで購入してきた iTunes 楽曲すべてが魔法のようにインターネット経由の聴取もできるようになるのではないか? それとも、Apple が何かユニークな方法で購読とストリーミング、クラウド保管サービスを組み合わせたものを出してくるのではないか?

Apple はまた、巨大なデータセンターをノースカロライナ州に持っており、ここには何百何千というサーバが収容可能で、いずれはここがストリーミングまたはクラウドホストの音楽サービスの拠点となるのではないかと噂されている。現時点では、ここは比較的控え目なデータ量の MobileMe ロードを処理しているだけと思われる。MobileMe では 20 GB の保管庫が非常に高い年額料金で付く(保管庫以外にメールや同期のサービスも付く)が、直接音楽を聴く手段は何も提供されない。(Apple は最近の株主総会で、この施設が「今春」オンラインに繋がり、MobileMe と iTunes の運用を担うことになると述べた。)

今のところ、私たちはただ待つしかない。Apple が何かをリリースしてくるのかどうか、リリースするのならばそれは何か、そして、もしそれが実現すれば、現在の競合各社と比較してどうなのか、と。

試してみても害はない -- この Amazon の新しい Cloud Drive と Cloud Player サービスについて、三つの結論で締めくくりたい。一つ、無料なのだから、試してみるだけならば何も害はない。二つ、これは競合各社に対する強烈な威嚇射撃となり、おそらく音楽の分野ですべての人がアクセス可能なモバイル音楽のためにより良い製品を生み出すきっかけとなるであろう。三つ、従来の Amazon の製品がすべてそうであったように、これは今後時とともに次第に良くなって行くであろう。

Amazon が、バーを引き上げた。だから今後は、はたして Apple が、驚異的な冷静さをもって軽々とそのバーの上を飛び越えるのか、それともこの書籍販売業者の最初の一手に匹敵することができないままバーの下でリンボーダンスをするのか、そのどちらになるかが問題となる。

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Mac 版 Skype 5: 大きく一歩後退

  文: Lukas Mathis <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

かなり以前、まだ Skype のグループビデオチャット機能が無料だったころ、ある友人が私に Skype メッセージで、複数の人たちを相手のビデオチャットが Skype でできるかと尋ねてきた。「もちろんできるけれど、そのためには新しい Skype 5 のベータ版をインストールする必要がある」と私は答えて、彼女にそのリンクを送った。その数分後、彼女はオフラインになり、少し経ってからもう一度オンラインに戻って来た。どうやら Skype 5 にアップデートしたらしい。その彼女からの最初のメッセージがこうだった:

いったい Skype に何が起こったの? これって何かの冗談?

いや、どうやら、冗談ではないようだ。

仕事場で、私たちは Skype を連絡手段として使っている。うちでは Windows コンピュータを使っている人が多い。一度ならず、Windows ユーザーが私の Mac のところにやって来て、私が使っているバージョンの Skype を見ながら「ワーォ、こいつは俺たちが Windows で使ってるひどいガラクタに比べたら、ものすごくいいじゃないか」という感じの言葉をかけてきたものだ。どうやら、Skype は二つのバージョンに品質の相違があることに気付き、二つのバージョンをもっと似たものにしようと決めたようだ。ところが残念なことに、彼らは Windows 版の Skype をより良くするのではなく、Mac 版の Skype を Windows 版により近いものにすることで相違を埋めようとしたらしい。

ここで、Skype が私の知らない制約に縛られていたに違いないことは指摘しておかなければなるまい。ひょっとしたら Skype には他に方法がなかったのかもしれない。ひょっとしたら従来のバージョンの Skype に何か深刻な問題があったのかもしれない。Twitter が当初 iOS 用クライアントに quick bar を追加したのは、決してユーザーたちに喧嘩を売ろうとした訳ではなかった。彼らは、何とかして現金収入を得る道を探す必要があったためにそうしたのだ。それと同じように、Skype にもたぶんれっきとした理由があって Skype 5 をこんな風にしなければならなかったのだろう。

そうはいうものの、私はやはりどうしても Skype 5 が好きになれない。[編集者注: 私たち TidBITS スタッフも皆、同じ気持ちだ。だからこそ、私たちは今回 Lukas の記事を再出版することにしたのだ。私たちも同じような趣旨の記事を計画中だったのだが、Lukas があまりにも見事な記事を書いていたので、私たちが同じことを重ねてしても無意味だろうと考えたからだ。-Adam]

前回のバージョンの Skype は、ユーザーインターフェイスの面からは非常に良いお手本のようなものだと言えた。最初の状態では、極めてベーシックな表示のみだった。その Skype は、こんな風に見えたものだ:

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ごくシンプルなウィンドウに、検索フィールド、未読通知のためのカウンター、それから友人たちのリストが並ぶ。最も最近にオンラインであった友人が一番上に来る。一目で理解でき、あまり場所も取らないのでいつも見えるようにしておくことができ、必要とする情報すべてを表示してくれた。誰がオンラインにいるか、何か忘れていたことはないか、この友人にコンタクトを取ってもよいかそれとも彼は今邪魔されたくないか、そういったことがすぐに分かった。

チャットがアクティブになると、Skype はこんな風に見えたものだ:

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こちらも、シンプルで分かりやすいけれど、それでいて私が必要とすることすべてを示していた。会話に別の人たちを加えたり、以前のメッセージに戻ったり、誰かを呼び出したり、そういったことができた。

でも、この前回バージョンの Skype は、ただシンプルなだけではなかった。上級ユーザーにとっても十分に柔軟性があった。仕事場で私が Skype に求めるものは、多くの人たちの求めるものとはかなり違っている。私は、いつも八人の人たちと会話をする。過去の会話に振り返って戻ることもよくある。同時に複数の人たちを相手に会話することも多い。これらのことをできる限り効率的に進められるようにするために、私は一つの仮想デスクトップ全面を Skype 専用に使っている。見た目は、こんな感じだ:

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この仮想デスクトップにただ Spaces で切り替えるだけで、私は即座に最も重要な人たちと連絡することができ、誰が私にメッセージを送ってきたか、なぜ送ってきたかも一目で分かる。(この点は重要なことだ。ひっきりなしに邪魔されるのは嫌なので、私は仕事中は通知をすべてオフにしていることが多い。)

きっとこれは Skype を使う人たちの大多数とは大きく違っているのだろうが、私がここで言いたいのは Skype が従来どちらのタイプのユーザーにも対応できていたということだ。あなたが気軽な使い方をするユーザーなら、Skype はシンプルで、分かりやすいものだった。そして、あなたがもっと要求の多い使い方をする人でも、Skype はあなたの必要に応じて成長することができた。

では、時計を進めて、Skype 5 に移ろう。見かけはこんな風だ:

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左側のサイドバーにはまず Contacts 項目があり、それからあなたのチャットのリストが並ぶ。Contacts をクリックすれば、あなたのコンタクト相手全員がメインパネルに表示される。過去のチャット項目を一つクリックすれば、そのチャットについての情報(開始時刻と終了時刻、やり取りされたテキストメッセージ)が表示される。ライブなチャットを一つクリックすれば、参加者たちと、そのチャットに付随したテキストやビデオが表示される。

そこで、たちまち問題が起こる。それは、上級ユーザーにとっての問題だけでなく、気軽なユーザーにとっても問題があるのだ。

気軽なユーザーには複雑すぎる -- このウィンドウは、もはやシンプルには見えない。それどころか、圧倒されそうだ。良い面もある。新規のコンタクト相手を追加するのが以前より簡単になった(ただしそれほど頻繁にすることではない)ことと、誰かを通話で呼び出すかチャットを始めるかをその人の上にマウスをかざして選択できるようになったことだ。

良くない面は... それ以外すべてだ。Skype のすべての機能が一つのウィンドウの中に押し込められているので、このウィンドウには詰め込み過ぎの印象が伴う。シンプルなコンタクトリストはもうない。その代わりに、複雑なマルチパネルのウィンドウがあって、そのメインパネルに表示される内容が、このアプリケーションのモードが変われば全く違った内容に切り替わるようになってしまった。

誰がオンラインにいるかを簡単に見分けることもできなくなった。その代わりに、私が最近語り合った相手の人たちから順番に、その人が現在オンラインであるかどうかとは無関係に並ぶようになった。一度ならず、以前の友人リストと同じつもりで、一人の友人が左のサイドバーに登場するのを待ったことがある。でもその彼は登場しない。Contacts スクリーンに切り替えて、そこで二つのリスト(サイドバーには過去のチャット相手のリスト、メインパネルにはアドレスブックのリスト)を Skype が並べるのを確認しない限り、実際誰がオンラインでいるかを知る方法はない。その上、その二つのリストは互いに全く違った挙動をするのだ。

メインウィンドウにはあまりにも余計なものが多すぎる。例えば、重要な Add Contact ボタンのすぐ横に、アドレスブックに登録された人々の写真を Cover Flow 表示で見るためのボタンがある。いったいこれは何のために使うのか? そんなものを、いったい誰が使いたいと思うのか? この表示をさらに使いにくくしているのが、多くの人たちが使っている意味不明のアバター写真と、写真を使っていない人たちのために Skype が挿入する無印アイコンだ。

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気軽な Skype ユーザーでさえも使うことが多いと私が気付いたのが、ビデオチャット中に URL をテキストチャットで送る操作だ。Skype 5 ではどうやってそれをするのか? ビデオ通話がアクティブな間はそれがメインパネル全体を占めるが、テキストチャットもそこになければならないので、両方を同時にはできないように見える。実際にはそれができる方法があるのだが、すぐに分かるようなものではない。通話が進行中に、マウスを(サイドバー上でなく)メインパネル上に動かせば、一連の非常に小さなアイコンが一番下に並ぶ。

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その二つ目のアイコンをクリックすれば、ウィンドウが上下に二つに分割されて、通話表示の下にチャット表示が追加される。でも現代のスクリーンの横に長い縦横比では、この分割のしかたは普通いかにも不格好だ。そういうわけで、この機能はまず隠されている上に、実装のしかたもまずいけれど、それでももしあなたがその方法を見つけ出しさえすれば、Skype は通話中にチャットのメッセージを文字でタイプする道を少なくとも用意はしている。

また、Skype がグループ通話を変えてしまったのも厄介な点だ。従来は、人々のリストが一人一行ずつで並び、その人が話している間はその人の名前の横に緑色の光がイコライザー風に輝いたものだ。ビデオ会議で相手の声を知らないような場合、この機能は素晴らしく役に立ったし、気が散ることも、目障りなこともなかった。それとは対照的に、Skype 5 では二人の人たちのアバターがメインパネルの上の方に拡大して示され、残りの人たちのアバターが下の方に水平の一列に並ぶ。誰かが話している間、Skype はその人のアバターを一番上の二つのスポットのどちらかに移動し、オーディオと同期させてそのアバターのまわりにグレーの縁取りを点滅させる。アバターたちがひっきりなしに入れ替わり立ち替わりするのは控え目に言っても気が散る以外の何物でもないし、はっきり言ってうっとうしい。

上級ユーザーには柔軟性が足りない -- Skype 5 は気軽なユーザーにとって使いにくくなっただけではない。同時に上級ユーザーにとっては柔軟性の少ないものとなった。従来バージョンの Skype は理解しやすく使いやすかったが、加えてユーザーが成長する余地を提供していた。ユーザーがより深く学ぶにつれて、Skype のより高度な機能を使いこなせるようになったからだ。これに対して Skype 5 は底の浅いアプリであって、ユーザーに成長の余地を与えることをしない。

Skype 5 では、二つのチャットを同時に見ることができない。最初のうち、私は自分が何かを見落としているだけだろうと思っていた。もちろん、二人の人を相手に同時にチャットするというのは普通に使っていることだからだ。そういうことをしているのが私だけなんて、まさかそんなはずはないだろう? でも、どうやら Skype はそれが私だけだと思っているらしい。二つ以上のチャットを並べて見る方法が、どこにもない。

デフォルトのウィンドウはあまりにも大きすぎて、機能性を犠牲にせず小さくすることができない。私としては、Skype を常時走らせていたい。旧バージョンのウィンドウは十分に小さくて、スクリーンの隅に置いておけた。誰かがオンラインにいるかどうか知りたくなれば、いつも一目でそれが分かった。ところが、Skype 5 のウィンドウはずっと大きい。意図的に隠そうとしなかったとしても、いずれ他のウィンドウたちに覆われてしまうだろう。

チャットが進行中でも、誰がオンラインにいるかを知るにはユーザーをリストした第二のウィンドウを開く必要がある。すると、二つのウィンドウ上に重複した機能性が分散することになってしまう。結局、二つの別々のウィンドウ上に、合計で三つの異なったユーザーリストがあって、それぞれが少しずつ違ったやり方で挙動するという状態になる。もちろんいろいろなオプションがあるのは良いことなのだろうが、それでも、これまで完璧に動作していたものを置き換えるためにそれほどうまく動作しないものを導入した上、その新しいバージョンがあまりうまく働かないという事実を覆い隠すためにさらに旧バージョンの機能を再導入するというのは、いったい何をやっているのか?

世間の反応 -- Skype が新しいユーザーインターフェイスを導入したのに対し、ユーザーたちからの反応は圧倒的に否定的なものだった。でも、新しいソフトウェアバージョンはいつでも否定的な反応を受けるものだ。たとえそれが良いものになったとしても、人は変化を好まないからだ。けれども、新しいソフトウェアリリースに対してこれほどまでに数多くの、しかも一貫性を持った否定的反応が集まった事例は、私の記憶する限りこれまでなかった。

おそらく Skype は、多くの人たちが両方を使っている以上、Mac 版をできるだけ Windows 版と同じように見えるものにしようと思ったのではないだろうか。両者が同じように見えれば、ユーザーとしても Skype の使い方を一度学べば済むし、その上でその知識をそれぞれのプラットフォーム版に適用すればよいから、というわけだ。しかし、私はその説明に納得できない。これら二つは確かに見た目は似ているけれど、挙動はやはり違っているからだ。その結果として、見かけが似ていることが、かえって混乱の元となっている。同じ挙動をすると思っていたら実際にはそうでなかったという状況を作り出してしまうからだ。

Skype は、気軽なユーザーたちも、またプロフェッショナルの現場で毎日使うような、経験を積んだユーザーたちも、ともに使うツールだ。その種のものに適切なユーザーインターフェイスを与えるのは信じられないほど困難なことだ。旧バージョンはそれら両方の人々の役に立つことのできる、エレガントな、称賛に値する仕事を成し遂げていた。でも残念ながら、今回の新バージョンは、その点で大きく一歩後退している。

最初の方で述べたことをここでもう一度繰り返しておこう。Skype は、きっと私の知らない制約に縛られていたに違いない。Skype 5 がこのやり方で動作するようになったのには、きっと何らかの事情があったのだろう。ひょっとしたら、Skype は私が指摘したような問題を修正する計画を持っていたけれど、単にまだそれを実行するまで手が回らなかっただけなのかもしれない。(実際、Skype 5.1 では少々修正が加えられていて、5.0 リリースで完全に消え失せてしまっていた、アクティブな話し手をフォーカスする機能が復活している。)残念ながら、そうした弁解をいくら聞いても私にとっての Skype 5 の使い勝手が良くなるわけではない。ただ良いニュースもある。Skype 2.8 が(少なくとも今のところ)まだ動作するし、もしも Skype 5 からダウングレードする必要があるのならば Skype 2.8 をダウンロードすることも可能だ。

私はもちろん Skype のインターフェイスを変更できる立場にはいないが、建設的提案はぜひ提供したかったので、私のブログに "Skype 5 Ideas" という記事を書いておいた。また、 Matthias Kampitsch によるデザイン提案 も一見の価値があると思う。それから、これは Skype 5 の全体的インターフェイスに対処を施せるものではないけれど、Skype ではアプリケーションの中でどのようにテキストチャットを表示するかをテーマとしたコンテストを開催しており、さらに大きな変更についても約束している。

[Lukas Mathis は ETH Zürich でコンピュータ・サイエンス、ソフトウェア・エンジニアリングと人間工学・ユーザビリティを学び、卒業後はソフトウェアエンジニアおよびユーザーインターフェイスデザイナーとして、ワークフロー管理用ソフトウェアを作っているスイスのソフトウェア会社で働いている。彼が初めて持ったコンピュータは Performa 450、彼が初めて使ったプログラミング言語は HyperTalk、彼の初めてのエレキギターは安価な Peavey、彼の初めてのビデオゲームは VCS 2600、現在持っているスノーボードは Lib Tech 製だ。彼はスイスアルプスの人里離れた小さな小屋に住んでいる。Twitter で彼をフォローできる。]

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Firefox 4 は良くなったが、驚くほどではない

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

ブラウザたちの壮大な戦いの中で、最も新しい側面作戦に出たのが Mozilla Foundation だ。Mac OS X、Windows、Linux 用に Firefox 4 を出してきた。Safari、Google Chrome その他の最近のリリースと同様、 注目すべき変更点の大多数は基礎的部分に関するもので、ウェブサイトとアプリケーションのプラットフォームとしての Firefox の役割をサポートするものとなっている。変更された点はほぼすべてが歓迎すべきものばかりであり、既存の Firefox ユーザーたちにとっては使用感を改善してくれるものとなるだろうが、私の見た限りでは他のブラウザのユーザーたちに切り替えたい気持ちを起こさせるだけの魅力を持つほど重大な変更という感じはしない。

まず初めにシステム要件について簡単に触れておこう。Firefox 4 は Intel ベースの Mac 上で走る Mac OS X 10.5 Leopard または 10.6 Snow Leopard を必要とするようになった。これは、PowerPC と Intel 双方の Mac で 10.4 Tiger またはそれ以降で動作していた Firefox 3.6 からの大きな変更点だ。だから、もしもあなたが PowerPC ベースの Mac を使っているなら、Firefox 3.6.16 を使い続けなければならず、そのバージョンも引き続き入手可能だ。あるいは、Firefox 4 はオープンソースなので、Tiger 互換な分岐バージョンで TenFourFoxと呼ばれるものを試してみることもできる。私はこれを使ったことはない。

磨きのかかった Firefox インターフェイス -- 皆さんは Safari 4 のベータ版がブラウザのタブの表示をアドレスバーの上側に移動させた時のことを覚えておられるだろうか? あれは非常な不評に迎えられ、結局 Apple はタブを元通りアドレスバーの下側に戻してリリース版を出した。けれども Chrome は、そして今や Firefox 4 も、構わずタブを一番上に移動させた。(Firefox 4 と Chrome では表示位置が少し違っている。)確かにこの新しい表示位置は Firefox 3 とも Safari 5 とも違っているが、タブが一番上に来ても私の経験上それほど使い勝手が違う気はしない。それに、もしも気に入らないのならば、View > Toolbars > Tabs on Top を使って切り替えることもできる。

Firefox 4 には他にもいくつか、タブに関係したインターフェイスの新工夫が盛り込まれている。

これらの変更点の中で、アプリケーションタブは歓迎すべき機能だ。(ただし、複数個のタブを作るウェブアプリではあまり具合が良くない。)また、ロケーションバーにタイプしてタブが切り替えられるのも素敵だ。でも Panorama 表示についてはあまりうまい利用法をすぐには思い付けない。私がタブを開いたままにするのはあとでそれを読むことを、あるいは何かをすることを、忘れないようにするためのリマインダとしてであって、こんな風に表示をしても別に役に立たないと思う。タブのビジュアルな一覧表示そのものは別に悪くないが、それを整理するというアイデアは、まるで Post-It ノートを貼り直して整理し直すようでちょっと場違いな感じだ。

その他のインターフェイスの変更としては、読み込み中止と再読み込みのボタンがアドレスバー右端の一つのボタンに統合されたこと(両者を同時に使うことはあり得ないのでこれは理に適っている)や、アドオンマネージャのデザインが一新されたことなどがある。

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Firefox 4 で Firefox 3.6 から大きく後退してしまったことが一つある。旧バージョンでは、ロケーションバーに "gmail" とタイプしただけで、Firefox が即座に Gmail ウェブサイトを読み込んでくれた。これは、そこを一度も訪れたことがなかったり、ブックマークを作っていなかったりしても働いた。同じことが "apple" (www.apple.com が読み込まれる) あるいは "white house" (www.whitehouse.gov が読み込まれる) などでも働いた。私のようにキーボードに依存する傾向の強い人にとっては、この推測機能 (Google の "Browse By Name" 機能に依っている) はこの上なくありがたいものであった。Firefox の推測が間違っていることもよくあったが、その場合には代わりに検索バーを使えばよかった。ところが Firefox 4 では、ロケーションバーはデフォルトで Google 検索のみしか実行できず、別のページを一つ開いてからリンクをクリックして初めて欲しかったサイトが開くことになる。それでも Safari よりはまだましだし(Safari ではロケーションバーにドメイン名でないものをタイプするとエラーになってしまう)やはり Google を検索する Chrome とは同等だ。

幸いにも、Firefox 4 にこの挙動を取り戻させることは可能だ。一つの方法は Browse By Name アドオンを使うことだが、もう一つの方法として以下のシンプルな手順がある:

  1. ロケーションバーで about:config とタイプしてから、"I'll be careful, I promise!" をクリックする。

  2. Filter フィールドでキーワードを検索する。

  3. keyword.URL 行をダブルクリックする。

  4. そこで開くダイアログに、次のテキストを (全体で一行として) ペーストし、OK をクリックする。

http://www.google.com/search?ie=UTF-8&oe=UTF-8&sourceid=navclient&gfns=1&q=

高速化されたパフォーマンス -- どんなウェブブラウザのアップデートでもそうだが、Firefox 4 もまた大幅な速度向上を約束している。さまざまなウェブアプリで JavaScript の重要性がますます高まっているのを受け、Mozilla は Firefox 4 に新設された JavaScript エンジン JägerMonkey (イェガーモンキー) が Firefox 3.6 の TraceMonkey エンジンに比べて最大 6 倍高速で走ることを大々的に宣伝している。

(余談だが、さまざまな JavaScript エンジンに付けられた名前をよく味わってみよう。Firefox では SpiderMonkey、TraceMonkey、JägerMonkey が使われ、Safari では SquirrelFish、SquirrelFish Extreme、Nitro、Chrome では V8、Opera では Futhark と Carakan、Internet Explorer 9 では Chakra だ。)

その他の変更点で Mac 上の Firefox 4 パフォーマンスを改善するものとしては以下のようなものがある:

残念なことに、すべてのプラットフォーム上で Firefox 4.0 には既知の問題点があって、Gmail のメイン画面でスクロールが通常より遅くなることがある。この問題は 4.0.1 で修正されることを期待したい。

さて、どうか誤解しないで頂きたい。もちろん私もより高速なウェブブラウザは大歓迎だし、パフォーマンスを良くするためにブラウザ開発チームが注ぎ込んでいる膨大な努力に対しては本当にありがたいことだと思う。けれども現実的に言って、ウェブページやウェブアプリというものはもともとデスクトップのアプリケーションに比べれば動作が遅い。なぜなら、インターネット接続という逃れ得ないボトルネックを通した何らかのコミュニケーションがほとんど常時必要となるからだ。

その結果として、私の経験上では新しい、高速化されたウェブブラウザを使ってその数々の改善点を私自身がウェブサイトでするいろいろの作業がどの程度素早くできるかに関する見込みに繰り込むことはできるとしても、実際にそれが以前より速くなったと実感することはない。だから、確かに Firefox 4 はベンチマーク結果では Firefox 3.6 より速くなったかもしれないし、Chrome や Safari のベンチマークより速いか遅いかは知らないが、毎日の実際の使用で速度の改善を実感した記憶はない。例えば Mac でハードディスクから SSD へと切り替えれば従来のろのろしていた活動が電光石火の速さへと変わるが、それに似た感動を受けることなどあり得ないのだ。

より良い標準規格サポート -- ブラウザの開発者たちが多大の努力を注ぎ込んでもエンドユーザーたちには一般にあまり高く評価されない分野がもう一つある。新しいインターネット標準のサポートだ。ユーザーたちにとってはウェブページを見ることができるかどうかが第一の関心事であり、ウェブ開発者たちの仕事は自分のページを誰もが見られて正しくやり取りできるようにすることだ。たとえ、どんな古いブラウザが未だに使われていたとしても。(おお、Internet Explorer 6 よ、そなたは黄泉の国にいてさえも、複雑なるページを正しくレンダリングすることが永遠にできないのか!)そうして、新しい標準に準拠することと古いブラウザをサポートすることとの間に常に緊張関係が続くこととなる。それでも、新しい標準がブラウザにサポートされることこそが広範な採用への第一歩ではあるので、それが実現しつつあるのは嬉しいことだ。

Firefox 4 が今回選んだ新しいインターネット標準としては次のような HTML5 関係の変更点がある:

テストのみで現実世界での機能を正しく反映できているかどうかは明確でないが、 HTML5 テストサイトでの結果で Firefox 4 ははっきりと好結果を出している。比較のために、メジャーな Mac 互換ブラウザの成績をここに紹介しておこう。最高点は 400 だ:

こちらも現実世界での使用を反映できているかいないか不明の話ではあるが、Firefox 4 の新しい Gecko 2 エンジンは Acid3 テストでも好結果を出していて、点数は 100 点中の 97 点、これまでの Firefox 3.6 は 94 点だった。それでも 100 点中の 100 点満点を叩き出す WebKit ベースのブラウザ、例えば Safari、Chrome、Opera、OmniWeb などには及ばない。

標準関係で他に改善された点としては:

その他の改善点 -- 他にも Firefox 4 には特記すべき改善点が三件と、近日中に解決の期待される問題点が一件ある。

まず、Firefox Sync が標準装備となり(Firefox 3.6 ではアドオンであった)Firefox の履歴、ブックマーク、タブ、パスワードをあなたが使うすべての Firefox の間で同期させられるようになった。特に、Android 用の モバイル版 Firefox (それから Nokia N900 で走る Maemo) と同期できるのがありがたい。また、iOS 用の Firefox Home もある。これは無料のアプリで、あなたの Firefox 履歴、ブックマーク、開いたタブの情報への Firefox Sync を通じたアクセスを提供する。いずれの場合も、最初に Sync アカウントを設定しておかなければ何も起こらない。(例えば、あなたの自宅でのブラウズ履歴が仕事場のコンピュータに同期されてそれが IT 部局に見られてしまうことになれば都合が悪いこともあるだろう。)

私はまだ Firefox Sync をテストしていない。なぜなら、 LastPassXmarks の組み合わせで十分便利に使えているからだ。これならば、私の使うすべてのブラウザの間で同期ができる。(2010 年 12 月 13 日の記事“LastPass が Xmarks を買収”参照。)

第二に、Flash、QuickTime、または Silverlight プラグインでクラッシュが起こった場合、Firefox 4 がそれをブラウザ本体と分離させて、あなたがそのページを再読み込みするだけでクラッシュしたプラグインから回復できるようにした。

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第三に、Firefox は CSS :visited セレクタの動作方法を変更して、 悪意あるウェブサイトがあなたのブラウズ履歴を読み取ることができないようにした。このセキュリティホールはすべてではないにしても大多数のブラウザにずっと以前から存在していた。一言で言えば、攻撃者があなたの履歴を調べてあなたが以前どこにいたかを知ることができるようになっていた。

最後に、Firefox アドオンの多くは大体において Firefox 4 でも動作するか、あるいは既に Firefox 4 でも動作するようにアップデートされているが、重要な例外が一つある。 Mac OS X 用の PDF Plugin for Firefox だ。その結果として、Firefox 4 はインラインで PDF を表示することができない。その点、Firefox 3.6 はプラグインがあればできた。(この記事に対するコメントで、Firefox 4 を 32-bit モードにすれば動作する プレリリース版の PDF Plugin へのリンクが紹介されている。)また、Schubert|it の PDF Browser Plugin もあるが、これは私のところではあまりうまく動作していない。私は必ずしもいつでも PDF をブラウザの中で見たいわけではないが、そのオプションがあれば歓迎だ。

結局のところ、Firefox は長年私のデフォルトのブラウザだ。もちろん私は Safari も Chrome もいつも走らせていて、特定のウェブサイトに対してはそれらを使っている。その方がより良い動作をするから(例えば Google Docs は Chrome で)とか、あるいは同じウェブサイトへの別々のログインを使い分けたいからなどの理由でだ。当初私は Firefox 4 にひどく戸惑ってしまった。Google の Browse By Name 検索がなくなったことが主な理由だが、さきほど述べたようにその機能を取り戻す方法を見つけてからは、Firefox 4 は問題なく Firefox 3.6 のあとを引き継いでうまく動いてくれている。

けれども問題がある。私は Browse By Name 機能を Firefox 4 に取り戻す方法を探している最中に、その機能を Google Chrome に追加する方法も見つけてしまった。そしてこの機能こそ、私がもともと Chrome よりも Firefox を選んだ動機であったのだ。(私が Safari を好きでない最大の理由は、アドレスバーに Browse By Name 機能がないことだ。)Xmarks のおかげで私のブラウザすべてに全く同じブックマークが備わっているので、私はこれからしばらくの間 Firefox 4 と Chrome を行ったり来たりして、自分にはどちらの方が好みなのかを見極めたいと思っている。どちらも、今は非常に似たような方法で動作するようになったからだ。自分の意見が固まってきたら、また皆さんにご報告したいと思っている。

さて、あなたは Firefox 4 に切り替えるべきだろうか? もしあなたが Intel ベースの Mac 上で Firefox 3.6 を使っているならば、ぜひ、そうすべきだろう。そうすればパフォーマンスや標準関係の改善点を享受できるようになる。(ただし、Browse By Name 機能はすぐにでも有効化して、Firefox 4 があなたの期待通りに動くようにしておくことをお勧めする。)けれども、もしあなたが Safari や Chrome を不満なくお使いなら、私としては Firefox 4 での変更点はあなたが矢も盾もたまらず切り替えたいという気持ちになるほど大きなものではないと思う。そうは言っても、何はともあれダウンロードして使ってみるのは何も悪いことではないだろう。少なくとも、複数のブラウザを手元に置いておいて、どこかのサイトでトラブルが起こった場合に備えるのは良いことかもしれない。それに第一、実際に使ってみれば Firefox 4 こそまさに自分の必要にぴったりマッチしたブラウザであった、ということが起こらないとも限らないのだから。

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TidBITS 監視リスト: 注目のアップデート、2011 年 4 月 4 日

  文: TidBITS Staff <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Dropbox 1.0.28 -- 長年来 TidBITS のお気に入りである Dropbox が、バージョン 1.0.28 にアップデートされた。このマイナーリリースでは、稀に起こったクラッシュ一件を修正したほか、具体的には不明だがいくつかの細かな調整が施されている。Dropbox の自動アップデート機能は私たちのところではうまく働かないことが多く、今回も Dropbox が自動アップデートしなかったので、私は手動でダウンロードしてインストールした。お持ちの Dropbox のバージョン番号を調べるには、メニューバー上の Dropbox アイコンの上にマウスポインタをかざすか、またはそのアイコンをクリックして Preferences を選んでから Account タブを見るかすればよい。(無料、21.6 MB)

Dropbox 1.0.28 へのコメントリンク:

13 インチ MacBook Air(Late 2010)用 Mac OS X v10.6.7 追加アップデート -- Apple が、Mac OS X 10.6.7 に対して珍しく追加アップデートをリリースした。これは、最も最近に出されたモデルの 13 インチ MacBook Air のみに適用される。このアップデートは iTunes を使用している際にシステムが応答しなくなる問題に対処を施しており、Apple はこれを該当する MacBook Air のユーザーすべてに推奨している。この追加アップデートはソフトウェア・アップデートから、または Apple のウェブサイトから直接にも入手できる。(無料アップデート、461 KB)

Mac OS X v10.6.7 Supplemental Update for 13-inch MacBook Air (Late 2010) へのコメントリンク:

GarageBand 6.0.2 -- Apple が Mac 版の GarageBand にマイナーなアップデートをリリースした。バージョン 6.0.2 では全体的な安定性が向上したとのことだが、最も注目すべき点は iPad 版の GarageBand で作成したプロジェクトを開く機能のサポートが追加されたことだ。(2011 年 3 月 11 日の記事“)GarageBand はまだ iPad と Mac では共演できない”参照。)このアップデートをインストールした後で初めて iPad のプロジェクトを開いた際に、あなたの Mac 上にある GarageBand は 200 MB を少し切る程度のサイズの追加アップデートをさらにダウンロードする必要がある。また、iPad の GarageBand プロジェクトを開いた際には即座にそれを新たな名前で保存し直すよう求められることにも注意しておきたい。それは、デスクトップ版の中でいったんプロジェクトに変更を加えてしまえば、iPad 版の GarageBand ではもはや開くことができなくなるからだ。(Mac App Store での新規購入 $14.99、無料アップデート、47.44 MB)

GarageBand 6.0.2 へのコメントリンク:


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Valid XHTML 1.0! , Let iCab smile , Another HTML-lint gateway 日本語版最終更新:2011年 4月 9日 土曜日, S. HOSOKAWA