TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#1083/04-Jul-2011

Lion が来るぞ! 準備するのが早過ぎることはないので、リリースされたばかりの Joe Kissell の "Take Control of Upgrading to Lion" と、割引価格で予約注文受け付け中の Matt Neuburg の "Take Control of Using Lion" をご紹介しよう。Lion がやって来ても、必ずしもすべての人が Snow Leopard を使わなくなるわけではない。10.6.8 を使っている人は、ぜひ Adam の記事で、印刷とオーディオに関する問題点の解決法と、Parallels Desktop および PGP Desktop との非互換性に関する注意をお読み頂きたい。その他のニュースとしては、Michael Cohen が企業向け CrashPlan PRO サービスのリリースを伝え、Glenn Fleishman は iTunes Match がマッチしたトラックについて DRM-フリーのコピーを作ることを確認する。特集記事では、Jeff Porten が Computers, Freedom, and Privacy 2011 カンファレンスから「アラブの春」について報告し、Michael Cohen が Sleeptracker 時計をレビューし、Rich Mogull は電子機器というものが完全に交換可能となる未来の姿を描き出す。今週注目すべきソフトウェアアップデートは Thunderbolt Firmware Update と Java for Mac OS X 10.6 Update 5 / Java for Mac OS X 10.5 Update 10 だ。

記事:

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新刊 Take Control 電子ブックで Lion に備えよう

  文: Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

2003 年に、私たちは Take Control シリーズの船出にあたって Joe Kissell の "Take Control of Upgrading to Panther" と Matt Neuburg の "Take Control of Customizing Panther" を出版した。それから 8 年近くが経ち改訂も 4 版を経て、私たちは今この二冊の電子ブックの第五版を鋭意制作中だ。タイトルはそれぞれ "Take Control of Upgrading to Lion" と "Take Control of Using Lion" だ。

もちろん、Lion はまだ出ていない。Apple は 7 月中のどこかの時点でこれをリリースする構えだ。けれども Joe と Matt (それにこれらの電子ブックの両方とも編集を担当している Tonya) は、連日連夜働き続けて、皆さんが Apple の最新の大型猫科動物にスムーズに取り掛かれるよう手助けしたいと努めてきた。でも、皆さんがアップグレードの準備を始めるには何も Lion の出荷を待たねばならぬ理由はないので、Joe の専門家としての最新のアドバイスをできるだけ早くお届けするためにも、"Take Control of Upgrading to Lion" の最初のリリースを出版して、皆さんに読んでいただけるようにした。これを購入すれば、Lion が出荷され、Apple が守秘義務契約を解除し次第、無料で 1.1 アップデートが入手できる。同じ理由で私たちは Matt の "Take Control of Using Lion" もその時点になるまでリリースできないが、こちらは現在予約注文を受付中で、リリース後直ちにダウンロードできるようになる。

これら二冊は独立に販売されるが、問題なしにアップグレードして Lion の新機能をスムーズに使い始めるためにも、ぜひこの二冊を合わせて活用していただきたいと思う。そこで、二冊一緒の購入ならば 30 パーセントの値引きとすることにした。(定価の合計 $25 のところ $17.50 となるが、この値引きは Apple が Lion をリリースする時点までの限定だ!)内容は以下の通りだ。

Take Control of Upgrading to Lion -- Lion へのアップグレード作業を、今から始めよう。Joe Kissell と一緒に、アップグレード前のソフトウェアとハードウェアの必要なチェックをするのだ。また、万一アップグレードの際に悲惨事が起こった場合に備えて最良の方法でバックアップをしたり、役にも立たないガラクタをきれいに片付けてたっぷりと余裕のある状態で Lion を使い始められるようにしたり、そういった準備についても Joe からのアドバイスを読んでおこう。特に、次のようなことについて手引きの説明がある:

バージョン 1.0 の "Take Control of Upgrading to Lion" の価格は $10 で、現在 66 ページある。Lion の出荷後、私たちが Apple と結んだ守秘義務契約が解除されればすぐに、私たちは無料のバージョン 1.1 アップデートをリリースする予定だ。バージョン 1.1 にはインストールの詳しい手順と、アップグレード後に必要となる調整作業、またアップグレードがうまく行かなかった場合のトラブルシューティングのヒントも載ることになる。さらに、Lion の走る新しい Mac への移行方法や、Lion Server のインストール方法、新しい Recovery モードなどの解説も載る。

Take Control of Using Lion -- Matt Neuburg はこの "Take Control of Using Lion" で、彼の必読著書 "Take Control of Exploring & Customizing Snow Leopard" を改訂して、Lion の重要な新機能に深く踏み込むとともに、従来からの機能やサードパーティの選択肢で以前よりうまく働くようになるかもしれないものについても解説する。いずれも、読者の皆さんが Lion の利点を理解し、新しい操作習慣を学び、アップグレード後はスムーズに仕事に戻れるように手助けしたいという目標のために書かれたものだ。扱われる主な話題としては次のようなものがある:

"Take Control of Using Lion" はその他にも Lion についてたくさんの重要な疑問に答える。例えば:

$15 で予約注文して頂くこの「電子ブック」は現在たった 1 ページしかない。これは単なるプレースホルダーで、これを使ってフルの "Take Control of Using Lion" を、リリースされ次第すぐに入手できる。私たちとしては Apple が Lion をリリースし、私たちとの守秘義務契約を解除し次第、フル版を出版したいと考えている。理想的には、Lion が出荷されたその日のうちにできればよいと思う。

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企業向けの CrashPlan Pro が、利用可能に

  文: Michael E. Cohen <lymond@mac.com>
  訳: 柳下 知昭 <tyagishi@gmail.com>

Code 42 Software は、CrashPlan PRO をリリースした、それは、新しいバックアップのソフトウェアであり、SMB マーケット(頭文字に慣れていない人のために説明しておくと、中小規模のビジネス"small and midium-sized businesses" の頭文字である)を対象としたサービスでもある。10 台より少ないコンピュータの個人データをバックアップする個人ユーザー向けの CrashPlan+ と数百台もしくは数千台ものコンピュータを持つような巨大企業向けの CrashPlan PROe に追加するかたちで、CrashPlan Pro は、200 台以下のコンピュータを使用している企業や組織向けに設計されている。(CrashPlan+ の詳細は、2010 年 12 月 7 日付けの記事"CrashPlan+ 3.0 に機能追加と価格変更"を参照のこと)

その姉妹製品と同じように、CrashPlan Pro は、クロスプラットフォーム (Mac/Windows/Linux/Solaris) でのローカルとオンライン両方のバックアップを提供する。そして、CrashPlan+ のように、CrashPlan Pro は、クラウドベースでのサーバーへのセキュアで暗号化されたバックアップを提供し、インターネットへアクセスが可能なほとんどの場所から、個々のユーザーが復元できる機能を提供する。しかし、CrashPlan+ とは異なり、CrashPlan Pro は、比較的 IT 知識の無い管理者でも、ユーザーとコンピュータをバックアッププランへ割り当てたり、バックアップの進捗や統計をモニタしたりすることができ組織のバックアップを管理するためにウェブベースのダッシュボード を使用することもできる。

CrashPlan Pro の価格は、バックアップするコンピュータの台数と用意するバックアップストレージの量に応じて変わる。企業は、特定台数のコンピュータを無制限にバックアップするプランと特定のバックアップストレージ容量を無制限の台数のコンピュータで共有するプランの中から選択することができる。ユーザーのニーズに応じた最良の契約を見付けやすいように、CrashPlan は、簡単なオンラインツールを提供 していて、そのツールを使用することで、見込み客は、企業の設備に応じた最適なプランを見付けることができる。

CrashPlan Pro は、米国とカナダでは利用可能であるし、今年の末までには、世界中で利用可能となると思われる。30 日間の無料試用も可能である。

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iTunes Match はロックなしのコピーを作る

  文: Glenn Fleishman <glenn@tidbits.com>
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

Apple は最近曖昧さと不正スタートに苦しんでいる、例えば、MobileMe の終結をそのニュアンスを説明できる資料が整う二週間も前に発表したり ("アップルが、MobileMe から iCloud への移行詳細を説明" 24 June 2011 参照)、或いは Final Cut Pro X をプロの顧客からの分かり切った質問に対する答えを公開する数日前に出荷したりという具合である。

同じことが iTunes Match にも言える、これは来たるべき iTunes in the Cloud ("iCloud の出現で、長期予報は嵐を予想" 6 June 2011 参照) の一部となる新しい購読サービスである。Apple によれば、 iTunes Match に加入すれば、年間 $25 を払うことで iTunes Store から購入しなかった楽曲も全て iCloud 経由であなたの種々のコンピュータや iOS 機器に同期出来るようになるという。しかしながら、あなた独自の曲の 100% をアップロードする代わりに、Apple は種々のメタデータと音声照合アルゴリズムを使って、あなたの持っている曲がその 18 百万項目に上るカタログにある一つと同じかどうかを調べる。

この照合が終わった後どうなるのかが混乱の元であり、Apple もどちらとも取れる説明をして来た。iCloud を宣伝するその Web サイトでは、Apple は引き続き次の様に言っている:

あなたが iCloud にアップロードする必要があるのは、残りの一致しなかった曲だけです。これなら一から始めるよりも、ずっとスピーディーでしょう。iTunes とマッチするすべての曲は、もともと持っていた曲の音質が低くても、すべて 256 Kbps の iTunes Plus クオリティで再生されます。

我々は、Apple がマッチしたファイルには digital rights management (DRM) 暗号化を適用するのだろうかと疑問に思った。さもなくば、誰かが一年間だけ $25 を払って持っている曲全てをマッチさせ、そしてより高品位のファイルを手にして永久にバイバイするのをどうやって防げるのだろうか? 答えはあるべきところに既にあった、そしてそこは私もチェックすべきであった:それは 6 June 2011 に出されたプレスリリースであるが、私が知ったのは Apple がその Web サイトのプレス関係の所にある既存のリリースに対するリンクを変更してからである。

このプレスリリースでは、Apple は何が起ころうとしているのかについてはっきり理解できるようにしていた。これはその日に出された膨大なニュースのお蔭で、多くの人が掴み得なかったものでもある。関係する部分:

また、iTunes から購入したものでない音楽についても、iTunes Match を使って同様の恩恵が受けられます。iTunes Match はユーザの iTunes 以外で入手した音楽が、800万曲を超える iTunes Store で提供中の楽曲と合致する場合には、それを 256kbps AAC DRM フリーバージョンと差し替えるというサービスで、(何週間もかけて手持ちの音楽ライブラリ全体をアップロードする代わりに)合致した音楽は数分で入手でき、合致しない残りのごく一部の音楽のみがクラウド上へアップロードされます。

これがそうである。水準に達していないあなたのリップしたファイル全てを Apple とレーベルが提供する最善のものへとアップグレードすることが - 例えば、あなたの FLAC (Free Lossless Audio Codec) バージョンを入れ替えるのではなく - 実質的には一回限りの $25 の料金で可能になる。これはやり方としても正しい方法だし、我々の様に、私自身も含めて、何年も前により低品質で自分の CD をリップした輩に対しては極めて嬉しい贈り物である。

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Mac OS X 10.6.8 に印刷とオーディオに関する問題

  文: Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

これはまるで、Apple が来たるべき Mac OS X Lion のリリースにあまりにも注意を向け過ぎて、最近数回の Mac OS X 10.6 Snow Leopard のリリースに対するテストが同社のいつもの品質に達していなかったのかと思えるほどだ。前回の 10.6.7 にはフォントの問題があって、デザインのプロたちが憤慨のあまりいきり立った。(2011 年 4 月 26 日の記事“アップル、Snow Leopard Font Update をリリース”参照。)そして今、リリースされたばかりの 10.6.8 もまた、多くの問題を抱え込んでいる。印刷、オーディオ、活動過多の Dock の CPU 使用、PGP Desktop ユーザーが起動できないことなどを巡り、さまざまの問題をユーザーたちが報告している。(2011 年 6 月 24 日の記事“Mac OS X 10.6.8 アップデートが Lion に備える”参照。)

印刷の問題 -- 10.6.8 に関係した問題点のうちで最も目立つのは、印刷を巡る問題だ。プリントキューが頻繁に一時停止したり、system.log をコンソールで読むと以下のような "backend" エラーが出ていたりする。

printer-state-message="/usr/libexec/cups/backend/lpd failed"

Apple Discussions フォーラムのスレッドには解決法の可能性が多数提案されている。アクセス権の修復から、印刷システムのリセット(システム環境設定「プリントとファクス」でプリンタ名を Control-クリックし Reset Printing System を選ぶ)まで、提案はさまざまだが、現時点で最も効果的な解決策は Repair10.6.8 と呼ばれる AppleScript ベースのアプリケーションであった。基本的にこれは、四つの Unix アプリ、dnssd、ipp、lpd、socket の古いバージョンをコピ−して 10.6.8 がインストールした新しいバージョンを置き換える。私自身は問題を経験しなかったのでこれがどの程度うまく働くのか個人的にコメントすることはできないが、フォーラムのスレッドでは数多くの人たちがうまく行ったと報告していた。

image

オーディオの問題 -- Apple Discussions フォーラムにはさまざまの種類のオーディオの問題についても数多く苦情が寄せられている。問題点の詳細はさまざまだが、どうやら解決法はすべてのケースで同一のようだ。それは、10.6.8 がインストールした AppleHDA.kext カーネル拡張(私の Mac にあるものはバージョン 2.0.5)を、10.6.7 がインストールしたもの(バージョン 1.9.9、ただしこれはより新しいバージョンのものと同じ作成日を持つ)で置き換えるというものだ。Time Machine を使えば、AppleHDA.kext ファイルを戻すのも簡単にできる。場所は /System/Library/Extensions だ。

Parallels / Dock 非互換性 -- Parallels Desktop ユーザーの多くから、Mac OS X 10.6.8 にアップデートして以来 Dock プロセスが CPU を 100 パーセント占有するようになってパフォーマンスに重大な支障が生じた、という報告が届いている。 この問題は、Windows アプリケーションが Dock に現われるようにするという Parallels Desktop のオプションに関係している。(具体的には、128 × 128 ピクセルよりも大きなアイコンに関係している。)この問題を解決した Parallels Desktop 6.0.12092 にアップデートすることができるし、あるいは Parallels Desktop で個々の仮想マシンについて Windows アプリケーションを Dock に表示しないよう設定し直してもよい。

PGP Desktop での起動問題 -- PGP Desktop のバージョン 10.1.2 より前のものを使っている人は、10.6.8 をインストールして以後 Mac がブートしないという事態に直面した。原因は、Apple の Software Update ユーティリティが、ディスク全体の暗号化に関し決定的に重要な意味を持つブートファイルをインストールの際に上書きしてしまうからだ。PGP では、Mac OS X 10.6.8 をインストールする前に少なくともバージョン 10.1.2 にアップグレードするよう勧めている。ただ、もしも電車がもう駅を出てしまったのなら、いくつか簡単な手順 を踏んで boot.efi ファイルを必要な pgpboot.efi ファイルで置き換えることができる。それでもうまく行かない場合は、まず PGP Whole Disk Encryption Recovery CD を作ってから、それを使ってアップグレード するか、またはあなたのディスクを復号化することもできる。

その他の問題 -- その他の苦情も、私はいくつか聞いたことがある。例えばブートに時間がかかるようになったとか、奇妙なカラーが出るとかいうものだ。その多くは単に個別事例に過ぎないもの(だからと言って本物の問題でないというわけでなく、ただ数多くの人たちに影響を与えてはいないだけ)のようだ。それでも、Mac OS X のアップグレードをした後で不可解な問題が出現した場合に採るべき解決策として定評あるのは、統合 (combo) アップデータをダウンロードしてインストールするという方法だ。

Mac OS X 統合アップデート 10.6.8には 10.6.0 以来のすべての変更点が含まれており、ダウンロードサイズは 1.09 GB だ。うまく行かなかった 10.6.8 インストールの上に直接統合アップデートをインストールすることもできるし、もしすべての方法が失敗したならば、まず Snow Leopard を適切な Install DVD(もしもあなたの Mac が 10.6.0 より新しければ、その Mac に付属していた DVD)から再インストールし、それから統合 (combo) アップデータを使って 10.6.8 にすることができる。

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CFP 2011: アラブの春か、Twitter 革命か?

  文: Jeff Porten <jporten@gmail.com>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Computers, Freedom, and Privacy 2011 カンファレンスのパネルディスカッションで、「アラブの春 (Arab Spring)」におけるオンラインメディアの役割が議論されたが、皮肉なことにそこには一人の人物が欠けていた。予定されていた講演者の一人で、バーレーンで民主的自由のために働いている人物が、カンファレンス出席のための米国ビザ受領が遅れたため出席できなかったのだ。でも、出席できた残りの四人は素晴らしいディスカッションを展開して、中東においてインターネットがいかに利用され、また悪用されているかを論じた。

Deborah Hurley はチュニジアの状況について、1987 年から今年の 1 月まで大統領であった Zine El Abidine Ben Ali(ただし彼の職名には皮肉を込めて引用符を付けるべきなのだろうが)の最近の没落に至るより以前の同国についての背景を語った。Hurley は国連の World Summit on Information Society による代表団の一員であり、チュニジアにおける人権を巡っての IT の役割を調査して、同国が彼女の言葉によれば「地球上で最も抑圧的な場所の一つ」であると結論づけた。それにもかかわらず、チュニジアは米国でも一般にあまり知られておらず、ヨーロッパでさえも安価に海岸で休暇を過ごせる場所という程度の認識しか得られていなかった。

チュニジアは、アラブ世界でも最も識字率の高い国の一つであり、植民地時代以後初代の政府の政策のお陰で、女性の教育レベルと就職率が中東の他のいかなる国よりもはるかに高い。このことは両刃の刃を生んだ。一方では、情報テクノロジーが一般大衆に広く浸透する結果となり、その一方では政府がコミュニケーションを規制し監視できる際限ない能力を与えられる結果ともなった。誰がどの大学に入学し、どこにどれだけ求人があるかを、政府が完全に掌握していた。それは主として、人々が公私にわたり政府と合意を結ばされていたからだ。けれども、チュニジアは米国の同盟国であったので、米国政府も、他の西欧諸国の政府も、そうした問題点を見過ごしていた。

Hurley の後には Moez Chakchouk が講演した。彼は Tunisian Internet Agency (ITI) の新しい CEO だ。これは、それ自体驚きであった。なぜなら ITI は基本的に、Ben Ali の下で国家的抑圧の主要な力となっていた側の組織だったからだ。Chakchouk は講演の初めに、前政権の下では、彼はチュニジアの市民としても、また政府の代表者としてもこのカンファレンスに出席することはできなかったろうと述べた。カンファレンスを話題にすること自体、また人権問題が危機的状態にあるかもしれないという考え方自体が、議論の対象として禁じられていたからだ。

古い ITI の下では、404 error、これは世界の他の国ではウェブの「ファイルが見つかりません」警告として知られているものだが、これはむしろそのサイトのコンテンツに対するチュニジア政府からの警告メッセージである可能性が高かった。ITI は、チュニジアの内部で唯一の情報テクノロジー源であって、従ってあらゆるインストールとモニタリングとに完全な支配力を持っていた。もしもあなたが古いチュニジアでインターネット上にいれば、あなたはそれを政府との契約の下にしていた。現在の Chakchouk の職務は、常時監視される脅威のない新しいテクノロジーを実施することだ。

Electronic Frontier Foundation の Jillian York が、その議論をエジプトや他の中東諸国へとさらに展開した。「アラブの春」動乱を経験している他の国々には、二つのタイプの失敗のモデルが見られる。チュニジアは強固な弾圧を試み、その後 Ben Ali が地位を放棄せざるを得なくなった日のほんの前日に至って、人々の怒りを静める最後の手段として監視を中止した。エジプトは単純にインターネットを止めていたが、その後この行動が文字通り人々を道路に溢れさせた結果、止めていたスイッチをオンにせざるを得ない状況に追い込まれた。

でも、暴動を経験した他の国々は、そのような戦術でなく、好ましくないことをオンラインで発言した人をとにかく誰でも逮捕する、という手段に打って出たように見える。ビデオ共有サイトは概して停止させられ、そのことが多くの人々の目を Facebook に向けさせる原動力となった。それは必ずしも Facebook 自体が現実に理想のプラットフォームであったためではなく、むしろアクセスできるところが残っていればそれが目的地となるということだろう。

York は、それまで政治に無関心であった人々の中から全国レベルの大激変が生まれてくるためには、きっかけとなる核心問題が存在するのだという。その一つが政府による検閲であり、もう一つが反政府活動のために拘束された人々に対する拷問の使用だ。けれども、最先端技術を使用する国であるエジプトやチュニジアでの実例が、そのまま他の国にも当てはまるわけではない。リビアでは、Qaddafi 政権がインターネットを完全に止めてしまう以前にも、人口のおよそ 5 パーセント程度しかオンラインにいなかった。シリアではその割合が 20 パーセントに上るが、ここは政府が人々を逮捕してパスワードを要求するような国なので、私たちに聞こえてくる統計数字が反体制派の意見を反映したものなのか、それとも単に政府が仕込んだ情報に過ぎないのか、判断が難しいこともある。

パネリストの Nasser Weddady は American Islamic Congress から参加したが、このような悪用が続くのを許してきた西欧諸国の政府、ならびにマスメディアを強く非難した。彼の仕事はこれらのオンラインでの動きを現実世界の成果へと橋渡しするために、草の根の民主化運動を、国際的メディアや市民社会団体と協力して働けるための既知の方法へと結び付けようというものだ。各地の活動家の間では、マスメディアは何の助けにもならないという考えが浸透している。活動家たちが独自の力で非常に多人数のまとまりを構築しない限り、伝統的なメディアは彼らを無視する傾向が強い。それより大きな流れとして、少なくとも今年の時点では、世界のメディアがソーシャルネットワークを貴重な情報源と見なし始めているという事実がある。けれども、たとえそれがまだ実現していなかったとしても、Twitter や Facebook で大きなネットワークを構築した個人ならば、自分のネットワークを活用することによって、逮捕されないための備えとしたり、あるいは政府が他の方法で自分を黙らせたりするのを予防したりする目的で利用することもあり得る。

草の根レベルでの組織化の努力は、従来は国内の他の市民たちに向けた努力であった。けれども今は、世界中の伝統的メディアの制作者たちや、それらの読者たちまでをもそのターゲットに含みつつある。抑圧的な政府に対して、国際的な圧力をかけたいというのがその狙いだ。Weddady はこれを "weaponizing hashtags" (ハッシュタグの兵器化) と呼んだ。York もそれを受けて、いくつものアメリカの会社、例えば Websense、Cisco、Narus といったところが築いたテクノロジーをこれらの政府が人々を抑圧するために利用していると述べ、だからこそ私たちは、あからさまにアメリカの理想を破壊しつつあるこれらの会社がいったいなぜ受け入れられているのかという疑問の声を公の論議の場で挙げていかなければならないのではないか、と訴えた。

Weddady はこんな話題にも触れた。ある時彼は、冗談めかして同僚たちに「今度新聞記者が電話をかけてきて "Twitter 革命" について話が聞きたいと言ってきたら、俺は自殺でもしようか」と言ったそうだ。これこそまさに、マスメディアがアラブの春の本当の姿を捉えようとせず、自分たちの勝手な物語を作り上げてそこに挿入していることの証拠ではないかというわけだ。革命の個々の内容は国によって大きく異なっているのであって、伝統的なメディアの記事も、それらの地域から届くソーシャルネットワーキングの情報も、それぞれの国に応じた、地域の事情に応じた文脈で理解される必要があるのだから。

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Sleeptracker:夜警を付けて眠る

  文: Michael E. Cohen <lymond@mac.com>
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

私が赤ん坊の様に眠れたのはずっと昔のことになる (午前 3 時に目覚めたり、おむつを取り替えてほしいと泣いたりはしないが、平和にしっかりと眠れたこともない)。それで Sleeptracker Elite 睡眠相モニタを試す機会があった時、私は興味をそそられた。この機器は私の睡眠習慣と睡眠の質の両方をモニターしそして改善するのを手助けすることを約束していた。この種の時計は少なくとも 2005年以来各種生産されているというのは心強い話だと思った:試しとは言え、私は私の貴重な睡眠時間を実績もない新しい技術のために費やす気はなかった。事実、 Andrew Laurence が最初に Sleeptracker について TidBITS に "Sleeptracker: Dick Tracy はこう眠る" (11 July 2005) と題して書いたのは約 6 年前になる。

核となる概念 -- Sleeptracker はあなたの睡眠を見守る腕時計である。これには加速度計が組み込まれており、あなたの睡眠中の動きをモニターしそしてあなたが最も眠りの浅い期間を記録する (この時計に付いているマニュアルではこの期間を "睡眠のより浅い段階" と呼んでいる)。

毎朝目覚めた時 (実際のところ、その日の如何なる時間でも) この時計のボタンを押すことで、前夜の浅い睡眠期間の記録をチェックしどの様に眠ったかを見ることが出来る。もっともより有用なのは、あなたの睡眠パターンの長期的なプロファイルを作成出来る能力である:Sleeptracker の睡眠パターンデータを、ダウンロード出来る Mac ソフトウェアと付属の USB コネクタクランプとケーブルを使って Mac に転送でき (ケーブルとソフトウェアについては更に下記で論ずる) そして、眠りの神の腕の中でのあなたの経験の長期に亘る注釈付の記録を保持出来る。

Sleeptracker の目覚まし機能は何時あなたを起こすべきかを決定するためにこの時計の加速度計を利用する:決められた時間ピッタリに起こす代わりに、Sleeptracker はある幅の時間帯 (デフォルトは 20 分だが、変更できる) を持ちそしてその時間帯の中で最も浅い睡眠期が感知された時に警報 (音、振動、或いは両方) を鳴らす。考え方は、ほとんど起きている状態の時に起こされる方が頭がボーっとした感じが少なくそしてその日の課題に立ち向かう気分になれるというものであるらしい。

技術と共に眠る -- 私が受け取った時計は紳士用の Sleeptracker Elite で、大きくかなり嵩張る時計でゴム引きのバックル型のストラップが付いている。運動する時に身に着けるものの感じで、眠る時のものではない。

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マニュアルは、側面に付いている四つのボタンを使ってこの時計をどうやって設定するのかについては比較的明快である。しかしながら、このマニュアルには目覚ましアラームをどうやって止めるかについて書いては ある が、この大事な情報ははっきり分かるようには目次化されていないので、最初の朝、これを止めようと眠気の中で数分もの間やみくもにボタンと格闘し、一方ではかすんだ目で正しいボタンを見つけるためマニュアルを繰らなければならなかった。

この時計のディスプレイ自身は大きく明確な文字を使っており、多少遠視の人でも読めるのではないかと思われる;眠る時には老眼鏡はかけないであろうという前提での話であるが (少なくとも私はかけない)、この大型のディスプレイは夜中に目を覚まして時計を見たいという時には役に立つであろう。

最初の夜 Sleeptracker を身に着けて、私は目を覚ました - それも頻繁に。私は一種の恐怖の眠気と言えるものを経験した:この嵩張る金属とプラスチックの機器を身に着けたまま眠りにつきそして眠りを継続するのは困難であると思った。そして、目が覚めていない時には、これを身に着けている夢を見た。しかしながら、その後の数夜は、もっとましに眠れた。

私の目覚めている期間を記録することに関して言えば、この時計は私が身に着けて寝た四日とも正常に働いたように見える。毎朝睡眠記録を時計の上で直接見るのは、時計のボタンを使ったインターフェース経由でも問題なく感じたし、そして前夜の記録の最後に置かれた平均化された深い睡眠要約は有益である。

しかしながら、四回の朝のうち二回は目覚ましは全く鳴らなかった。一回は、そのために朝の約束に殆ど間に合わないところであった。目覚ましが鳴った二日は、目覚め時のぼんやりさがいつもよりひどいかどうかをはっきり自覚することは無かった。

当初私はこの Sleeptracker を少なくとも一週間は試してみようと思っていたが、この時計の裏が肌に接する部分が少し赤くただれてきたのを見た時、この実験は中止することにした。私は通常寝る時にプラスチックや金属の物を身に着けることは無いので、この特定の時計を構成する材料に異常反応を持っているのか、或いはどんな時計でも同じ効果をもたらすのかは分からない。

ソフトウェアとケーブルを使う -- Sleeptracker はその睡眠データベースソフトウェアとして Windows バージョンをしばらく前から持っていたが、Mac バージョンは出したばかりである。パッケージにはどちらのプラットフォーム用のソフトウェアも含まれていないが、どちらも同社のサポートページから簡単にダウンロード出来る。

Mac バージョンのソフトウェアは最小主義である。これは、あなたの睡眠記録をマニュアルで或いはインポート経由で記録させてくれ、そして各晩の睡眠についてのメモを記録させてくれる。また "睡眠因子" と呼ばれる情報も含ませることが出来る:睡眠因子は質問の形で提供される、例えば "昨夜、寝る前 1 時間内にビデオゲームをしましたか?" という具合である。しかしながら、この睡眠因子に対する毎日の答えは個々の睡眠記録に関連付けることが出来るが、このプログラムにはこれらを使うための解析ツールが提供されていない。あなたの睡眠記録は簡単に CSV (comma-separated-value) テキストファイルとしてエクスポート出来るので、Numbers や Excel にすぐインポート出来る。

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このソフトウェアを使うことに関する最も苛立たしい部分は、最新の睡眠記録情報を時計から Mac に転送しようとする時である。この時計には mini-USB ポートが付いていない;代わりに、背面に一列に並んだ三つの接点がある。あなたは提供された USB ケーブルでこれらを使うのである。

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この USB ケーブルは、一端に通常の USB プラグが付いており、そしてもう一端には三つの歯を持ったワニ口クリップが付いている。これらの歯が、このクリップで時計を挟めば時計の背面に付いた金属接点と合わさるよう設計されている。しかしながら、この合わせの作業は結構微妙で少々の慣れが必要である。

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これ自体はそう大きな問題ではないのだが、このソフトウェアは時計と USB の接続を立ち上げられた時にしか探さない。従って、データを取り出すには、まず時計を挟み込んで、それからソフトウェアを立ち上げなければならない。もしこれらの接点にきちんと合っていないと、まずソフトウェアを終了し、クランプを再調整し、それから再立ち上げを行わなければならない。これは、朝の最初のコーヒーの前にしたい類の経験ではない。

私は小さいながらもう一つこのソフトウェアの問題に遭遇した:それは一貫して毎日の記録に 1 日ずれた日付を付けるのである、例を挙げれば、私の 5月31日から 6月1日の睡眠記録には 6月2日と日付が付いてしまうのである。

結論 -- Sleeptracker は、考えは良いが実行はいまいちと私には思える。体験を改善するには、より小型で、軽く、着け心地の良い時計にするのが手始めであろう。そしてソフトウェアもより良い、寛容なものが望まれる。さらに重要なのは、この時計のデータを取り出すのにもっともっとましな方法が必要である:ワニ口クランプケーブルは真にダサいやっつけ仕事にしか見えず、$179 もする時計からは想像出来るようなものではない。

私としては Sleeptracker を好きになりたいとは思ったが、私の心労というほつれた袖を編むには別の編み針を探さねばならないようだ。

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未来は使い捨て

  文: Rich Mogull <rich@tidbits.com>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

パーソナルコンピュータが大量に私たちの家庭に入り込み始めた時代、私たちはハードディスクが壊れるとか、システム設定が失われるとかいう類いのことを心配したりはしなかった。当時のデジタル生活はフロッピーの箱と共に到来し、それがコンピュータの奥深くただ一つの場所にしまい込まれ、いずれ機能停止の憂き目に遭うなどということを誰も考え付かなかった。バックアップはフロッピーをコピーするだけの単純な作業で、自宅でも仕事場でも、あなたが起動させるコンピュータはすべて、同じ会社の製品である限り全く同じに見え、全く同じに動作した。

ところがハードディスクの出現により、デスクの上にあるその箱があなたのコンテンツを吸い込むブラックホールとなり始めた。少しずつ、まるでことわざに言うフライパンの中の蛙のように、私たちはそれまでポータブルなメディアに保存できると思えなかったほどの量のデータや設定でそれらのドライブを埋めて行った。[訳者注: フライパンの中の蛙とは、手遅れになるまで自分の置かれている危機に気付かない様子を表現した慣用句です。]

初めに、私たちは自分の設定やアプリケーションに縛られるようになった。いつものワードプロセッサや新しいゲームなどをフロッピーディスクから手近にある好きなシステムにロードして使う代わりに、私たちはまずそれを インストール して、システムの魂の中に焼き付けておいてから使うようになった。ごく短い時期の間は、アプリケーションをどこにでもインストールすることが技術的に(そして法律的にも)可能であったが、その後間もなくソフトウェアのライセンスと著作権管理が私たちを強制して、アプリケーションがその生涯をどこで過ごすかを誕生の瞬間から既に選ばなければならないようにした。

それと同時に、私たちは自分のシステムを調整したりパーソナライズしたりし始めた。「ワークフローをより良くするため」と私たちは自分に言い聞かせたが、結局どのコンピュータも互いに少しずつ違った風に見え、違った風に挙動したので、他の人の Mac を使うのは非常に難しいことになった。

一時期、私たちは少なくとも自分の書類をどこへでも好きなところへ持って行けた。フロッピーディスクから、SyQuest カートリッジや Zip ディスク、それから CD-R になり、最後には USB ドライブへと、いつも自分の情報にアクセスできるようにすることを望む私たちの探索の旅は続いた。テクノロジーが進展するにつれて、物理的なサイズはより小さく、仮想的にはより大きな容量を持つようになった。いずれもちょっと不格好だったが、機能はした。ただ、信頼性とセキュリティの面では悪夢であった。ディスクが壊れたり、ディスクを紛失したり盗まれたりといったことが、あまりにも頻繁に起こったからだ。

その後、私たちはどんなまともなストレージ機器にコピーできるより多くの量のデータを生成し蓄積するようになった。それこそまさに、私たちのたくさんの情報を、それらがどこに保存されていても(私たちはまだ複数の場所からそこにアクセスできる必要があった)いつでも最新で、同期され、完備している状態で保持することが、事実上不可能となっていった時期であった。

手前味噌になってしまうが、私たちはかなり早くからそれらの問題点に気付いていた。いろいろの会社が、ユーザーたちに共有ネットワークドライブからの作業をさせようと試みた。Microsoft は、仕事をする人たちがコンピュータからコンピュータへと行き来できるようにローミングプロファイルその他のツールを考え出したけれど、Outlook を別のワークステーションで起動できたと同じ程度に、自分の電子メールをすべて壊してしまう可能性もあった。

こうして私たちは、誰もがシステムとデータを管理するために終わりなき探索の旅を続ける、そんな世界を作り出してきた。それは、新しいコンピュータに移行するために特別のケーブルを買わなければならない世界だ。それは、ラップトップ機を紛失すればたちまち仕事を続ける能力が失われてしまう世界だ。私たちが果てしない時間をかけてバックアップのバックアップをし、電子メール経由でファイルを移し、ほんの少し持ち運びをしやすくするだけのためにラップトップ機をデスクトップ機のつもりで使う、そんな世界だ。

でも、そんな世界も終わりを告げようとしている。これからは、私たちのデジタルな生活は、もはや機器により定義され機器を中心としたものではなくなる。その代わり、私たちの情報ビットそのものが中心となる。私たちのデータもアプリケーションもすべて、持ち運び可能で、アクセス可能、いつも存在し続けるものとなる。私たちの機器はすべて、コンピュータも含め、いつでも代わりのある、言わば、消耗品と化すことになる。その価値はハードウェアのコスト以上の何物でもなく、物理的に紛失しても故障しても何も恐れる必要はない。

未来はここにあるが、均等に配分されていない -- 私はこの記事を、近所のコーヒーショップで、iPad を使って書き始めた。コーヒーを飲み終えると、私は Smart Cover を閉じて、店の外に出、家まで運転して帰り、コンピュータを使って書きかけのところの続きを開いた。私は一度も、Save コマンドを選んだり、ネットワークにダイヤルを合わせたり、Sync ボタンを押したりする必要はなかった。単語をいくつか打つごとに、私のアプリは 3G バンド幅のごく僅かの部分を使ってクラウドサーバ上で私の記事をアップデートした。帰宅後、私はそのアプリケーションの Mac 版を起動して、さっき書き止めたところをそのまま拾い上げた。あと 15 分ほどでまたべつの面会予約があるので出かけなければならないが、待合室で私はまた続きを書くことになるだろう。ただし今度は iPhone を使うので、書くペースは遅くなる。

クラウドとモバイルコンピューティングの同時採用がどれだけ強烈なインパクトを持つものか、ネットワークアクセスの環境がますます改善されつつあることもあって、その影響の大きさは計り知れない。私たちはいきなり知らぬ間に、情報やサービスのほぼすべてに、ほとんどどこにいても、アクセスできる能力を獲得しつつある。ネットワークアクセスに苦情を言うのが好きな私たちだが、私は iPhone を使ってモスクワの町で道案内をさせたこともあるし、iPad を使って中国から自宅へ電話したこともあるし、MacBook Air を使って世界中からわが家の子供たちを相手にビデオチャットしたこともある。必要とするファイルにアクセスできなかった体験をした最後がいつだったか、もう私には思い出せない。手元に iPhone しかもっていない状況でも。

去年の末ごろ、私がキエフのホテルの部屋で座っていたとき、携帯電話にテキストメッセージが現われて、飛行機の便がキャンセルされたと警告してきた。このメッセージは、私の旅程すべてを追跡して何か変更があれば知らせてくれるサービス、 TripIt からのものだった。それから数分以内に、ひどい気象状況が米国の大部分で荒れ狂っていたにもかかわらず、私は帰宅できる別の選択肢を調べ、Skype を使って航空会社に電話し、利用可能な代替旅程を確保できた。帰宅するまで長い旅となったが、その途中空港で身動きがとれなくなっている多くの旅行者たちを私は目にした。彼らは、チェックインカウンターに到着して初めて旅程がトラブルに陥ったことに気付き、そこで飛行機の便を待つしかなかったのだ。

でも、私たちはまだこの移行の最も初期の、わずかな部分を試してみているだけだ。すべての機器が同じ機能を持っているわけではないし、それらを支えるクラウドサービスにもいろいろあって、さまざまの機能セットや異なる信頼性がごた混ぜになっているのが現状だ。テクノロジーのエリートならば自分が必要とするもののほとんどすべてを設定し活用することもできるし、普通のユーザーでもこまごまとした情報にアクセスすることは可能だが、それでも多くの場合、希望通りにものごとを使いこなすには困難な、混乱に満ちた手順が必要となる。ただ標準的なオフィス用書類を自分の iPad で編集してそれを同僚と共有するだけのためにも、多くのアプリケーションやサービスが絡んだ迷宮のようなワークフローが必要となることもある。

また、それが必ずしも安価でないという問題もある。私自身は、自分が必要とする機器やネットワーク接続をすべて会社が払ってくれるという幸運な立場にある。(会社を所有していることの利点の一つだ。)私は AT&T と Verizon の両方でワイヤレスのアクセスができるし、費用のかさむ海外でのアクセスや、さまざまのサービスやアプリケーション、さらには最新の機器までも購入できるだけの資金を持っている。幸いにも、今日困難で高価なものであっても、需要さえあればいずれ普通で安価なものとなるというのは歴史の示すところだ。

Apple、Google、Microsoft などは、私たちの機器に、オペレーティングシステムに、アプリケーションに、クラウドを焼き付ける。今後その種のシナリオが、私たちがテクノロジーを利用するための主要な方法となるだろう。それはもはや、私たちが各自で設定し管理しなければならないような例外事項ではなくなるだろう。

ツールは消耗品 -- このような移行の持つ最も魅力的な側面の一つが、ものごとが機器によらないという、昔の日々に立ち戻れることだ。私たちのデータのみならず、アプリケーションや各種設定などもクラウドを通じて行き来し同期されるので、私たちはもはや、デスクの上に据えられたものやバッグの中で持ち運ぶものに繋ぎ止められていない。まだ最終的段階に達してはいないけれど、機器から機器へと移りつつ、それでいて必要な機能性と精通度は保つことができる、そのような状態に私たちは近づきつつある。

以前の私は、デスクトップ機ではなく大型の MacBook Pro に依存するタイプの一人であった。複数のシステムの間でファイルを同期された状態に保つのは非常に手間がかかるので、すべてのものを調整し続けるために苦闘するよりも、機能性を制限して一台のマシンに依存する方がよいと考えたからだ。その後、今から二年ほど前に、Dropbox のお陰で、少なくとも仕事上の重要なファイルについては複数のシステムで同期させておくことができるようになった。私は日々の大仕事のために思い切って大きな Mac Pro を購入し、また旅行用に小型の MacBook も購入した。

IMAP のお陰で電子メールは私のすべての機器で利用できたし、MobileMe は私のカレンダーや連絡先情報を、 1Password は私のログイン作業を、Dropbox は私のさまざまのファイルを、それぞれどの機器でも利用できるようにしてくれた。必ずしも必要なアプリすべてがいつでも利用できるわけではなかったし、音楽や写真についても同様のことが言えたが、仕事上のことに関しては、旅先でもきちんとすべてをこなすことができた。

数ヵ月前、私はもう一度ダウンサイジングを決意し、私の iPad を補完するために MacBook Air を購入した。それこそが、真の意味の使い捨てコンピューティングに私たちがどれだけ近いところにいるかを実感できた瞬間だった。

この新しいシステムをセットアップするには、以前に私が移行に要した時間に比べてほんのわずかな時間しかかからなかった。Apple の移行アシスタントは効率的に古い MacBook の内容をミラーして、私のアプリケーション、ファイル、設定などをすべて取り込んだ。また、より高い処理能力を要する旅行のために時々使っていたもっと古い MacBook Pro の内容も同期した。こうして、午後のうちに少しだけ作業して、結局私の手許には三台のラップトップ機が、互いにほとんど同一の構成を含んだ状態で、勢揃いすることとなった。

これら三台のラップトップ機はいずれも暗号化され、データは常時同期される。旅行に出かける前はいつでも、持って行くマシンを起動して、ネットワーク経由ですべてを同期させるだけでよい。ラップトップ機を持って行かない旅行には iPhone と iPad があって、いずれも私のファイルやサービスのすべてにアクセスを共有している。

昔はフロッピーの詰まった箱を持ち歩いたものだが、今はただ仕事に必要なツールを選ぶだけで、私がどこにいても必要なものすべてにアクセスできる。どの機器も暗号化されているので、もしもどれかをなくしたり盗まれたりしても、そのハードウェアの価格分の損をするだけだ。(もちろんその価格は無視できるものではないが、さきほど述べた通り私はこのライフスタイルがまだ安価なものになっていないという事実を受け入れている。)私のどのシステムにあるどんな内容も、すべてクラウドにバックアップされている。たとえ私がすべての機器を同時に文字通り失ったとしても、重要なデータを失うことはない。

要するに、私の機器はすべて消耗品となった。iPhone から Mac Pro まで、どれでも、いつでも、最小限の不都合さえ我慢すれば入れ替えが可能だ。そう、何ギガバイトにものぼる写真やビデオをリストアする作業は瞬時にできるとは到底言えないし、ことにローカルなバックアップを失った場合には時間がかかる。でも、ほんの数年前、自分のデータ すべて を失うことは現実の可能性としてあった。それを消耗品と考えられるようになったのは、単に情報が残っているからだけではない。それは、データがアプリケーションや各種設定などと連動して、整合した状態で保たれるからだ。だからこそ、私はいつでも好きな機器を一つ選んでそのまま出かけても、必要とするものすべてにアクセスできるようになっているわけだ。

[編集者注: この洞察は、Google がその Chromebook と Chrome OS の背後にある導きの力として謳ったものとほとんど寸分違わず一致している。Google の場合、ローカルデータというものは何もなく、すべてがクラウドに保存される。Chrome OS の表の顔は、文字通りウェブブラウザだからだ。けれどもその結果として、Chromebook にサインインしても、あるいは好きなコンピュータの上で何かウェブブラウザを使っても、いつでも全く同じデータやアプリケーション、各種設定にアクセスできる。もちろん、すべてをウェブブラウザの中でこなすことで生じる代償はある。それでも、どんな機器からでも完璧な自由が得られることは間違いない。-Adam]

明日はほぼもうそこにある -- 私の機器が使い捨てとなっても、このセットアップを保持し続けるためにはやはり手仕事の労力がたくさん必要だ。私のソフトウェアはすべて複数システム用にライセンスされているわけではない。すべてを手でアップデートしなければならないし、私がシステムに手を入れたりなどすれば、機器の構成も時と共に流されて行くだろう。

私はデータを失うことはない。けれども何をどこに保存するかにはやはり注意を払わなければならないし、アプリケーションはやはり最新に保っておきたい。私のような技術オタクには簡単なことだけれど、その昔、どの手近なハードウェアにでも正しいフロッピーを差し込みさえすればいつでも仕事が始められたのと比べれば大違いだ。ただ、良いニュースがある。それは、私たちが年々、私が理想とするシナリオへと近づいているということだ。

それこそが、iCloud と Mac App Store がこれほどに興味をそそる真の理由だ。Apple は、私たちが現状の制約を乗り越えるために必要とするもののうちの、初期の構成要素を作り出しつつある。Mac App Store で私たちに必要なのはただユーザ名とパスワードのみ、それだけで私たちはアプリの最新バージョンを必要などのシステムにでも取り寄せることができる。私が現在しているごとく手でアップデートを管理する代わりに、ただ App Store を起動して、アップデートを探し、必要なものをすべて一挙にインストールできる。長い年月を経て、Apple は基本的に、ソフトウェア・アップデートを他の開発者たちにも開放したのだ。

Apple は iOS においてこれをさらにもう一歩手軽にしている。設定をすべて iCloud にバックアップすることによって。移行アシスタントに頼らずとも、私たちはただアカウントの認証情報を入力して待つだけで、その機器がすべての設定をクラウド中のマスターコピーからダウンロードしてくれる。

私はこの記事の執筆作業に Simplenote を使った。これはクラウドサービスで、iOS アプリで文章を書くことができるとともに、Mac 上ではウェブインターフェイスを専用アプリの形で走らせることができる。(サイト限定ブラウザ Fluid のお陰だ。)私は保存コマンドを使う必要が一切ない。なぜなら、私がタイプした文章は即座にクラウドへ同期され、それから私の他の機器にも同期されるからだ。iCloud、Lion、それに iOS 5 によって、これらの機能性が私たちの すべての アプリケーションにもたらされる。私は現在 Dropbox を使ってファイルをいろいろなディレクトリに保存しているけれど、これからはそれぞれのアプリケーションが自動的に、黙って、バックグラウンドで、データを保存したりロードしたりするようになる。一つの機器で仕事を始めて、編集をしても、何も考えずに他の機器でその仕事をそのまま続けることができる。間違いをしたら? ただ一歩戻って、あなたのために保存されている旧バージョンを引っ張り出せばよい。

数多くのベンダーたちが、クラウドの中にファイルやバックアップをホストするツールを提供している。けれども Apple は、彼らとは全く違った方向から iCloud を捉えている。Apple のエコシステムの中では、クラウドこそがすべての中心となる。あなたのアプリ、あなたのデータ、あなたの設定もすべてそこにある。それは、現行のコンピューティングのモデルを拡張した形でファイルの同期をすることによって達成されるのではなく、クラウドアクセスという概念を根本的なレベルで私たちのすることすべての中へ焼き付けることによって達成される。私たちの機器はついにツールとなり、それはもはや情報ビットが入って行くが二度と出て行かぬゴキブリ捕獲器ではなくなる。

もしも Apple が首尾よくこれをやってのければ、コンシューマ向けテクノロジーの歴史の中で、最も野心的な跳躍の一つとして位置付けられることとなるであろう。Mac がデスクトップコンピューティングを変えたように、iPod が私たちの生活の中で音楽を聴く方法を変えたように、そして iPhone が携帯電話をSF小説に登場するかのようなものに変えたように、iCloud、Lion、iOS という組み合わせは、私たちがパーソナルコンピューティングについて知っていることすべてを変えてしまうかもしれない。

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TidBITS 監視リスト: 注目のアップデート、2011 年 7 月 4 日

  文: TidBITS Staff <editors@tidbits.com>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Thunderbolt Firmware Update -- まだメインストリームの Thunderbolt 周辺機器は登場していないが、Thunderbolt を搭載した Mac のオーナーはその準備のためにもThunderbolt ファームウェア・アップデート をインストールしておくべきだろう。Apple が述べているのは「Thunderbolt のパフォーマンスと安定性に関する問題が修正」されたということのみだが、Thunderbolt がどれほど新しいものかを考えれば、Apple はまだバグ潰しの作業の最中と言っても差し支えないだろう。これはファームウェア・アップデートなので、Mac を再起動させた後に始まるアップデート中は、その処理を妨げることをしてはならない。(無料、486 KB)

Thunderbolt Firmware Update へのコメントリンク:

Java for Mac OS X 10.6 Update 5 / Java for Mac OS X 10.5 Update 10 -- Apple が Java (Mac OS X v10.6) - アップデート 5Java (Mac OS X v10.5) - アップデート 10をリリースした。同社によれば、Java SE 6 を 1.6.0-26 にアップデートすることで「互換性、セキュリティ、信頼性が向上」するという。(また、64-bit 対応でない Mac OS X 10.5 の走る Mac では、Java が 1.5.0-30 にアップデートされる。)私たちの知る限り、今回の変更点の大多数はセキュリティ脆弱性への修正だ。Apple は、このアップデートをインストールする前にすべてのウェブブラウザとすべての Java アプリケーションを終了するよう勧めている。もっとも、基本的に不可視な Java ベースの CrashPlan バックアップソフトウェア(私たちが使っている主たる Java アプリ)を走らせたりしている場合には、インストール後直ちに再起動する方がよいだろう。これらのアップデートはそれぞれ Mac OS X 10.6.6 かそれ以降と、10.5.8 を要する。(無料、75.45 MB / 120.33 MB)

Java for Mac OS X 10.6 Update 5 / Java for Mac OS X 10.5 Update 10 へのコメントリンク:


ExtraBITS、2011 年 7 月 4 日

  文: TidBITS Staff <editors@tidbits.com>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

夏のライブコンサートで音楽を楽しむには、必ずしも駐車とか人ごみとかを心配しなければならないわけではない。この 7 月中、iTunes Music Festival がライブのストリーミングを続けるからだ。また今週は、Thunderbolt ケーブルについての詳細情報、Apple から Final Cut Pro X に関する質問への回答へのリンクと、シカゴにいる人たちには 2011 年 7 月 6 日に Adam が Lion と iCloud について講演するというお知らせがある。

iTunes Music Festival を今月中ライブでストリーミング -- この 7 月の末までロンドンで開かれている iTunes Music Festival には 61 名のアーティストが出演する。Apple は、今月中ずっと彼らのパフォーマンスをライブでストリーム配信する。あなたのコンピュータ上の iTunes を経由し iTunes Store でパフォーマンスを観ることもできるし、また無料の iTunes Festival London 2011 アプリ経由でも観られる。このアプリは iPhone、iPod touch、iPad 用にデザインされている。iOS 機器の中で観る場合には、AirPlay を利用してそれを Apple TV 2 にストリームし、大スクリーンで観ることもできる。

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Initial ケーブルは当初 Apple から $49 で販売 -- Thunderbolt はこれまでのところ概して理論上のものに過ぎなかったが、初めての周辺機器が近い将来のリリースに向けて揃い始めつつある現在、この Ars Technica 記事は特に興味深い読み物と言える。この記事によれば、少なくとも発売当初は、いろいろな Thunderbolt 周辺機器には必要なケーブルが付属せず、ユーザーは別途に Thunderbolt ケーブルを Apple から購入しなければならない。2 メートルのケーブルの価格は $49 だ。いずれは、他のメーカー各社も Thunderbolt ケーブルの製造を始めることは間違いなく、そうなれば価格も下がるだろう。ただ、そうなるまでにどの程度の期間を要するかは定かでない。

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7 月 6 日、シカゴの Apple User Group で Adam Engst に会おう -- もしもあなたが 2011 年 7 月 6 日にシカゴ近辺にいるなら、Chicago Apple User Group へどうぞ。TidBITS 出版者の Adam Engst が Lion と iCloud について講演し、聴衆からの質問にも喜んで答える。

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Apple、Final Cut Pro X の疑問に答える -- Apple が、Final Cut Pro X に関する懸念に対する答を出した。Final Cut Pro X は Final Cut Pro を書き換えたバージョンで、Final Cut Pro 7 にあったプロ向けの機能のいくつかが欠けているからだ。回答の大多数は要するに「まだその機能はありませんが、いずれ装備されます」というものだ。マルチカム編集、オーディオトラックの割り当て、いくつかのビデオフォーマット (RED など) のサポート、それから XML、OMF、AAF、EDL への書き出しなどがこれに該当する。Apple はまたプラグインの開発者たちに対し、Final Cut で使えるようにするためにプラグインを 64-bit 互換なものにアップデートする必要があること、それからボリュームライセンスによる購入も間もなくできるようになることを伝えている。

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TidBITS ISSN 1090-7017©Copyright 2011 TidBITS: 再使用はCreative Commons ライセンスによります。

Valid XHTML 1.0! , Let iCab smile , Another HTML-lint gateway 日本語版最終更新:2011年 7月 9日 土曜日, S. HOSOKAWA