TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#1176/03-Jun-2013

Memorial Day の休暇明けにあたり、TidBITS の特大サイズ号をお届けしよう。二週間前の電子メール号以後、Apple はその税務慣行に関して米国上院議会から召喚される事態となったが、はたしてこの会社は何か悪いことを、はたまた普通でないことをしていたのだろうか? Josh Centers がこの問題に切り込み、これはニュース見出しから想像されるものよりも遥かに微妙な問題だと論じる。マクロユーティリティの Keyboard Maestro 6 がメジャーな新改訂版としてデビューしたので、Adam Engst がその新機能を案内して回る。Adobe は購読ベースの Creative Cloud への移行に関する苦情に対して反応を見せる。それから Smile が iOS 用の TextExpander touch にパワフルな新機能を盛り込んだアップデートを出し、このテキスト展開ユーティリティを Mac 版により近いものとした。Michael Cohen が詳しく紹介する。セキュリティ関係のニュースとしては、Glenn Fleishman が Twitter に二要素認証が追加されたことについて、また Apple の二要素認証が十分包括的な働きをしないと非難を受けている問題について、それぞれ解説する。Glenn はまた、Apple の iMessage を見習ったかのように Google が Google Talk および新しい Hangouts からオープンなチャット規格 XMPP を取り除こうとしている問題について概観する。最後にもう一つ、Josh が新たな FunBITS 記事として、漫画購読サービスの Marvel Unlimited をレビューする。今週注目すべきソフトウェアリリースは Napkin 1.1、Evernote 5.1、それに KeyCue 6.5 だ。

記事:

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Adobe、Creative Cloud 苦情に耳を傾ける

  文: Josh Centers: [email protected], @jcenters
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

Adobe が Creative Suite を購読のみに移行すると発表した後 ("Adobe が Creative Suite から Creative Cloud へ飛び立つ" 8 May 2013 参照)、多くのユーザーが非難の声を上げた。我々もその苦情を分析し、Adobe がこれらにどう答えられるかを "Creative Cloud への不満が Adobe の将来展望に暗い影を落とす" (17 May 2013) で進言として提供した。今や、Adobe も耳を傾けている様に見える。

Adobe は Creative Cloud フィードバックへのアップデートを 28 May 2013 にそのブログに掲載し、購読ベースの Creative Cloud への移行に関する心配について触れた。中には Adobe が自説を曲げようとしていないことにがっかりする人もいるであろう。そこにはこうある、"我々は Creative Cloud に焦点を当てることを変える計画は持っていない。"

しかしながら、Adobe は我々が最も頻繁に聞いた苦情の一つに対しては言及した:即ち、メンバーにならなくとも Adobe 固有のフォーマットで自分のファイルにアクセス出来ること。Adobe は顧客がメンバーシップが終了した後でもファイルにアクセス出来るべきであることには同意しているが、同社は詳細については曖昧なままである。"我々の仕事は我々の顧客をイノベーションで喜ばせることであるが、我々に開かれたオプションは多々あるので、もう少し時間を頂いてこの問題については検討したい。" と Adobe は言っている。

Adobe はまた写真家に対しても、この聴衆向けの特別パッケージを準備していると言っている。最後に、Adobe は箱入りのソフトウェアを買いたいと言うユーザーの心配も和らげるべく、CS6 はここ当分は入手可であることを繰り返し言っている。しかしながら、Creative Cloud の主力打者へのアップデートが続けば CS6 は徐々に魅力を失い、Creative Cloud への移行は避けがたいものとなるであろう。

という訳で、Adobe は当分購読から引き下がることは無いであろうが、少なくとも同社はあなたのフィードバックには耳を傾けている様には見えるので、具体的に何をするのか間もなく分かることを望みたい。

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TextExpander touch 2.0 は Mac 版から機能を得る

  文: Michael E. Cohen: [email protected], @lymond
  訳: M.Sugimoto <dfbia300@kcc.zaq.ne.jp>

今週、Smile Software から TextExpander touch 2.0 が iOS App Store に届いたが、それは兄弟版の Mac 版からたくさんのすばらしいものを iOS ユーザにもたらす機能強化版になっている。iPhone、iPad、そして iPod touch と互換性のあるこの $4.99 の製品はまた、デスクトップ製品との間で改良された同期機能も提供する。旧版からのアップグレードは無料だ。

もし、あなたが TextExpander に慣れていないのなら、そのコンセプトは単純だ。すなわち、"snippets" と呼ぶテキストの塊を構成し、それに"abbreviations" と呼ぶより短いテキストの一部分を割り当てる。それからTextExpander はあなたがタイプするキーボードをモニタし、abbreviation をタイプするときはいつでもそれに割り当てられたテキストのより大きな塊に拡張する。例えば、私がこの記事を書くときに、"ttx" とタイプするときはいつでも、TextExpander はそれを製品名 "TextExpander." に拡張する。TextExpanderにできる事の詳細は私の本、"Take Control of TextExpander" を見て欲しい。

かなり以前から、TextExpander touch は兄弟分の Mac 版と同様、(iOS の制約によるものはあるが、それはあとで述べるとして)基本的ながらも驚くほど便利な拡張トリックを実現してきたけれども、Mac 版で可能だったずっと複雑なsnippet の拡張機能のいくつかは実現できていなかった。しかし今、ようやく2.0 版をもって、これらたくさんの機能拡張がモバイル版にもやってきた。下記のものがそれにあたる。

大多数の TextExpander touch ユーザはまた、snippets を作ったり、修正したりすることがより速い、より容易な Mac で TextExpander を使用することも多いだろう。よって、TextExpander touch が snippets のいろいろな集合体を、グループにまとめ、Dropbox を使用して同期できることを知っていれば便利だろう。そうすることで、Macで作った同じ snippets の集合体をモバイル機器でももつことができる。また、Dropbox をスキップして、直接 Mac とモバイル機器の間で Wi-Fi ネットワーク経由で snippets を同期することもできる。

けれど、iOS デバイスで TextExpander touch を使用するとなると、残念なことに、全てが良いことばかりではない。iOS のアプリに適用される Apple の厳格なる規則のために、TextExpander のサポートを明示的に組み込んだアプリのみが TextExpander の拡張機能を利用することができる。(Mac ではTextExpander はほとんどのアプリにおいても動作する)さらに、すでにTextExpander touch をサポートした iOS アプリはそれ自身がアップデートされるまで 2.0 版の新機能に対応しないだろう。これまでごく少数のアプリのみが、例えば、Drafts (私たちの主幹編集者である Josh Centers のお気に入り)が TextExpander touch 2.0 を利用できるようにアップデートされている。他のアプリはそれがアップデートされるまで、依然として旧版の TextExpander 機能セットで動作する。

TextExpander touch をサポートするアプリの数は増加しつつある。現在 157 のアプリが TextExpander touch の snippet 拡張機能をサポートする。もし、サポートしないアプリを使用する場合は、従来通り TextExpander touch の Notes editor の中でテキストを構成して、snippets を思う存分拡張して note をコピーして選択したアプリに貼付ける。また、snippet 拡張機能のメリットをフルに生かすため、テキストを構成して TextExpander touch の中から直接電子メールを送ることもできる。

TextExpander touch を使用することがどんな感じなのかを知るためには、David Sparks による MacSparky blog のこの 6 分間のスクリーンキャストをチェックしてみて欲しい。

もし、あなたが外付けキーボードを使用しないならば、iOS デバイスではのろのろと下手くそにしかタイプできない。しかし、とりわけ新たに拡張された機能をもつ TextExpander touch を使えばこのプロセスを改善し合理化できる。TextExpander は Mac であろうと iOS であろうと、私にとってはそれなしではやっていけないアプリなのだ。

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Twitter 二要素認証を追加

  文: Glenn Fleishman: [email protected], @glennf
  訳: M.Sugimoto <dfbia300@kcc.zaq.ne.jp>

Twitter はアカウントにアクセスするハイレベルのセキュリティーを設定する主要なウェブサービスクラブに参加した。Paypal、Apple、Dropbox、Google、Facebook、そして他のいくつかのウェブサービスは、今やクラッカーや破壊者や捨てられたパートナーがアカウントに侵入してあなたの個人的なことを調べたり、あなたの名前で投稿したりすることが本質的にずっと困難になるこうした機能を提供している。それでもアカウントの乗っ取りはあり得るが、この機能を使用するためにはコンピュータや携帯電話、あるいはディジタルキーフォブへの物理的アクセスが必要になる。(2013 年 3月 21 日の記事 "Apple が Apple ID の二要素認証を実装" 参考)

最近、多数の著名な Twitter アカウントがハイジャックされており、結果として当惑を生じたり、さらに悪い例では、ホワイトハウスに爆弾が落とされ、オバマ大統領が負傷したと伝える偽の AP電の tweet のようなケースもある。しかし、Twitter アカウントのハイジャックは平均的なユーザにとってさえ極めてありふれたことで、とくに興味のあるハンドルネームをもつ人々にとってはそうである。Twitter アカウントのハイジャックが Wired ライターの Mat Honan がひどいハッキングを受けた真の原因だった。(私たちは、それを防ぐためにあなたができることを、2012 年 8 月 22 日の記事 "TidBITS Presents "Protecting Your Digital Life" を見よう" の中で議論した)典型的なアタックはバックアップの際に使用される電子メールアカウントの弱みに依存している。私の友人の一人は Gmail アカウントを復旧する際の欠陥により、4 文字ハンドルネームを盗まれた。(Twitter の Safety & Security 部門は彼のためにそれを回復した。)

Twitter の二要素ログイン確認証明は電話番号と彼らのシステムを通じて確認される電子メールアドレスの両方を必要とする。その後で、Twitter は SMS を使用して、有効なログインを確認するためにあなたが入力する 6 桁のディジットコードを送ってくる。また、他のデバイスで Twitter にログインするために一時的なパスワードを発生することも必要になるだろう。

最初に私の電話番号を Twitter にリンクしなければならなかったことが分かった。Twitter Mobile setting page にいき、もし電話番号が見えなかったら、電話番号を入力しなければならない。そして、Twitter にテキストメッセージを送る。(Twitter は自動的にはあなたにコードを送ってこない。)あなたの電話番号を確認するために text GO to 40404 を送る[訳注:この番号は米国およびいくつかの国で利用できますが、日本からは利用できません]。次の重要なステップはあなたの確認された電話番号のすぐ下にある Twitter SMS 通知オプションの全てをアンチェックとすること!私としては、そのどれもやりたくない。やリ終えたら、Save Changes をクリックする。

image

次に左のセッティングリストにある Account をクリックできるので、スクロールダウンして Require a Verification Code When I Sign In を選択する。ポップアップアラートが現れて、テストメッセージがあなたの電話に送られてくることを通知する。Okay, Send Me a Message をクリックする。SMS が届いたら、Yes をクリック。最後にすぐに再度パスワードを入力する。Cancel をクリックしてこの段階に戻ることもできる。そうでなかったら、Save Changes をクリック。

Twitter において SMS が二要素認証のために使用する唯一の手段になっていることは都合のいいことではない。多くの会社が今や Google AuthenticatorDuo Mobile のようなサードパーティートークンを発生させるアプリに依存している。両方とも無料だ。(私は今、Google Authenticator を通じて 6 つの二要素ログインを管理させており、私の iPhone ではスクリーンロックの時間間隔を短時間にセットさせている。)Apple は Find My iPhone サービスを通じて iOSデバイスへの特別なルートを利用している。しかし、Twitter はさらなるセキュリティーの強化を続けると言っている。私は現行の認証の選択肢(とくに会社において)とこの新しい二要素認証を結びつけることがそのセキュリティーの強化の一部になることを期待している。

[訳者注: Twitter の二要素認証はまだ日本では利用できません。 日本以外では2段階認証が始まりました をご覧下さい。]

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Elcomsoft Apple の二要素認証アプローチの欠陥を詳解する

  文: Glenn Fleishman: [email protected], @glennf
  訳: M.Sugimoto <dfbia300@kcc.zaq.ne.jp>

Apple が最近 Apple ID にオプションの二要素認証方式を追加したとき、多くの人はその動きを歓迎した。(2013 年 3月 21 日の記事 "Apple が Apple ID の二要素認証を実装" 参考)新デバイスからのログインに静的なパスワードと一時的コードの両方を必要とすることは好ましからざる第三者、例えば、オンラインの犯罪者、ふられた恋人、あるいは弾圧的な政府があなたのアカウントにアクセスする危険を減じるものだ。二要素認証はアカウントに妥協を求める可能性を排除するものではなく、そのバーを本質的により高くするものだ。

ああ、Apple の二要素認証はそれが役立つかもしれないほどは役立たない。主として調査会社とセキュリティーテスタを対象としてパスワードクラッキングソフトを開発するロシアの会社 Elcomsoft は Apple のシステムにおける多くの欠陥を説明するブログを投稿 した。Apple はアカウントのハイジャックの文書化された事例への対応として二要素認証システムを設計したように思われる。そして、それはアタック攻撃を許す弱さを解決する一方で、まだ包括的なものになっていない。

まずはじめに、Elcomsoft の Vladimir Katalov によれば、たとえ、あなたが二要素認証をオンしていたとしても、もしアタッカーがあなたの Apple ID アカウント名とパスワードを得ていたならば、あなたのかなりの量のデータを集めるためにはそれで十分だという。例えば、

Katalov はまた Find My iPhone 経由で送られる二要素アクセスの認証コードがロックしたスクリーンにすら見えることを指摘している。あなたのパスワードを獲得し、周囲にあなたがいなくてもあなたのデバイスを手に入れたり、見たりするようにできる誰かが、こうして第二要素も得ることができる。これは明らかに欠陥であるように思えるが、もし、あなたがそのセッティングを禁止していなければ、Apple や他のモバイル OS 開発者はスクリーンをロックした状態においても正常な SMS のテキストメッセージを見せている。Twitter や他も確認証明コードを送るために SMS を使用しており、Apple 一人だけの話ではない。

(SMS あるいは Find My iPhone に代わる Google AuthenticatorDuo Security の Duo Mobile などの認証アプリはコードにアクセスするためには、デバイスがロックされていないことが必要。Apple はこの方式、コード生成に公開アルゴリズムに依存する方式を、代替方式として追加することを採用することを考えるべきだ。それはサードパーティ製のアプリにセキュリティー面を譲歩しているけれども。)

さらに、また別の欠陥が指摘されている。Apple は彼らが販売し、私たちが購入するディジタル、そして物理的な中身の全ての方法を含めて、果実を低く掲げることをもってスタートした。私たちの Apple ID アカウントのセッティングへのアクセスも同様だ。iCloud.com も確認証明コードを要求するように更新されるべきだし、なぜ Apple が Apple ID サイトのアップデートと平行してこのような変更を実施しなかったのか、ちょっと当惑している。(理由はおそらく Appleのバックエンドシステムにおいて大変な量のめんどうなことをしなければならなかったためだろう。Apple ID システムは、その動作のしかたを見れば、少なくとも 10 年古いコードを走らせているに違いない。システムの URI(Uniform Resource Identifiers) に含まれる文字列 "WebObjects" は、過去の人の手がそれを取り扱ったこと、そこには数々の制約があること、を示している。)

次のステップはより困難で、顧客のソフトを交換したり、アプリ特有のパスワードを使用したりすることに関わらないといけないためだ。Google はこうしたパスワードをその二要素システムで提供している。電子メール、カレンダー同期、そして他の顧客ベースのアクセスに対して、あなたはシングルサービス、あるいはアプリの固有のパスワードを発生させるために、Security setting にいく。固有のパスワードは使用するや否や隠されてしまい、二度と見ることができない。ただし必要ならば、パスワードを取り消すことはできる。(Google のアカウントページでログインし、左手ナビゲーションバーの Security をクリックする。あなたが有効にしていれば二段階確認の隣に見える Settings をクリックする。最後に Manage Application-Specific Passwords をクリックする。)

この手の設定の複雑さは、普通のユーザに 2、3 個のステップで全てが簡単に説明されることを欲する Apple にとってはのろいになる。だから、Apple はこの作業をもっと効果的にするよりよいアプローチを開発すべきだ。たぶん、この会社は Mac OS X と iOS 用の Apple Two-Step アプリのような何かをリリースする必要がある。それが第二の要素コードやアプリ特有のパスワードを発生する、(かつ、システムクリップボードへコピーする)Apple ID 特有の方法になることだろう。

Google はサードパーティのクライアントに OAuth ログインへ移行することを要求している。その中で、ログインは基本的にポップアップウィンドゥを経由してGoogle サーバの上で起きる。別のサイトの Twitter や Facebook "logins" で皆さんは既にお馴染みだろう。Google のカレンダー機能に精通したアプリBusyCal はすでに OAuth を使用するようにアップデートされており 、その最新のリリースで二要素ログインを許している。

Apple はこの重大事に乗り遅れるべきでないのに、この最近の数年間、多くのセキュリティーの失敗を経験してきた。この会社は顧客の身元確認やオンラインの強靭さ、そして安心を犠牲にすることにおいては、何度も波に乗り遅れてきた。Apple はその技術力を使って、この問題を速やかに解決する必要がある。Googleはユーザのためにすでにやっている。

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Google、規格ベースのチャットへの対応を終了

  文: Glenn Fleishman: [email protected], @glennf
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Google が最近、Google Talk でインスタントメッセージングに使ってきたプロトコル XMPP (Extensible Messaging and Presence Protocol) をサポートするのを止めると発表した。Google Talk はいずれ時間をかけて、統合された Google Hangouts サービスに拡張した形で移行することとなり、Google 自身が設計に携わり広める努力にも加わってきた XMPP プロトコルには依存しないものとなる。この発表をした直後、Google は従来 Google ユーザーが Google 以外の XMPP サーバとコミュニケーションできるようにしてきた Google Talk の「連合アクセス」を無効にしてしまった。この変更の結果として、Mac OS X ユーザーにとっては Messages の使い道が減った。多くの欠陥を抱えているとはいえ、Messages はすべてのテキストベースのチャットと、一部のオーディオおよびビデオセッションを一つにまとめておける場所として機能できる意味合いがあるからだ。

XMPP にはいくつもの目的があった。まず、これは独立動作のメッセージングプロトコルであって、インスタントメッセージングにも、また個人同士、ソフトウェア、およびデバイス間で他のいろいろな種類の信号伝達をするためにも、利用することができた。XMPP サーバは、個人や会社によってそれぞれ独自のソーシャルおよびビジネス上の目的で運営されることもあるが、ソーシャルネットワーク (例えば Google Talk や Facebook など) によって会員同士のインスタントメッセージングを提供する目的で運営されることもある。Mac OS X Server には XMPP サービスが含まれている。XMPP は Google Talk においても今のところまだ有効で、例えば Messages のような他社のソフトウェアによる利用を許すようになっているが、Google Hangouts においては現在も移行後も XMPP が有効とはならない。

このプロトコルはまた、いろいろなチャットサービスのユニバーサルコネクタとして働く目的も持っていた。サービスによっては自社独自仕様のプロトコルとクライアントソフトウェアを持ち、XMPP からの接続と情報取得を許すようにしているものもあった。そうすれば、XMPP クライアントを用いてその独自仕様のサービスとの間でそのネットワーク内部のユーザーたちのためのゲートウェイを通じたやり取りが可能となるし、ローカルなサーバ上あるいは他の公開 XMPP サーバ上にある XMPP アカウントから単独のログインによるセッションを通じたコミュニケーションも可能となる。XMPP 同士のこの種の「連合」は権力の分散化を促し、自らがどのようにネットワークとやり取りするかについてより大きな制御の権限を個々のユーザーに委ねる結果となる。

Google はそのような連合を他の XMPP サーバたちとの間で許してきたし、だからこそ Google Talk のユーザーは Google のウェブアプリへも、Apple の Messages へも、あるいは他の XMPP クライアントへもログインでき、Google Talk ネットワークのユーザーたちのみならず他の XMPP ネットワークのユーザーたちをも見ることができた。けれどもこの機能は 2013 年 5 月 15 日に、Google Hangouts への移行の発表とともに 無効とされてしまった

残念なことに、このような「壁に囲まれた庭園」のやり方を部分的にも全面的にも用いれば(それは過去にはほとんどいたる所であったことだし、今回再び頭をもたげようとしていることだが)結果としてたった一つの会社に競争上の優位性を与えることになると考えられる。もちろん、自社独自仕様の規格に移行して他のソフトウェアを締め出そうとしていることで Google を批判する際には、Apple の iMessage システムがサードパーティのアクセスやソフトウェアを iOS でも Mac でも一切拒否しているという事実にも忘れず触れておくべきだろう。一方 Microsoft と Yahoo は、それぞれのネットワークに何千万人ものアクティブユーザー数を誇っているにもかかわらず、情報のやり取りについてはずっとオープンな立場を貫いてきた。

The Electronic Frontier Foundation (EFF) は技術的および競争的側面を超えて、さらにもっと踏み込んだ姿勢を示している。Google が XMPP から移行しようとしていることはユーザーのプライバシーにとって悪い知らせである、なぜならオープンで競争的なシステムこそが、ユーザーたちのプライバシーを尊重する方法についてたった一人の者が一方的な決断をしてしまう事態を予防できるからだ、と EFF は述べた。その上、Google Talk ではユーザーが一つの設定を変更するだけですべての会話を「非公開」(つまり Google のサーバ上に記録として保存されない)とできたけれども、Google Hangouts においてはチャットをする度に、たとえそれが前回と同じ人あるいは同じ人たちを相手にしたものであっても、毎回その会話について設定を切り替えることが要求される。(Google Hangouts ではまた「プレゼンス」機能、つまりソフトウェアがあなたの現在の状態を「オンライン」「離席中」などと表示するように設定できた機能も、削除されている。)

Apple の Messages アプリは iMessage のみに限られているわけではなく、それ以外に作成済みのアカウントスタイルがいくつか含まれていて、AIM、(XMPP スタイルの) Google Talk、Yahoo アカウントを、あるいは一般的な XMPP アカウント(Apple は未だにこれを元々の XMPP チャットサービスの名前である Jabber と呼んでいる)を追加できるようになっている。XMPP のオプションがあることで、ローカルなサーバ用に、あるいは Facebook など他の公開サーバ用に、自分のデータを組み込むことが可能となる。

Mac 上で Messages を拡張することも可能だ。実際これはまさに Steve Streza が Project Amy, で実行したことであって、彼は App.net のプライベートなメッセージを、それがまるで一つのチャットサービスであるかのように Messages の中へ直接結び付けられるようにした。(2013 年 5 月 9 日の記事“App.net が Passport iOS アプリを発行する”参照。)

Apple と全く同様に、Google はチャットの使用体験全般の制御を望んでおり、それを通じてユーザーたちを自社のネットワークと自社の製品に(とりわけ広告に)さらに縛り付けようとしている。使用体験を制御することでそれがより良いものとなり、XMPP の要求する最小公倍数的な低いレベルに流されることが防げるという議論もあり得るだろう。けれどもインターネットとはそもそも壁に囲まれた庭園を忌み嫌うものであり、Google の今回の移行にせよ Apple の iMessage の強迫観念にせよ、堀で囲んで跳ね橋を上げておくような時代はとうに過去のものとなったはずだ。

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Apple、税慣行について召喚される

  文: Josh Centers: [email protected], @jcenters
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

21 May 2013 に、Apple の CEO Tim Cook は Michigan の上院議員 Carl Levin が率いる Senate 委員会の前に座った。この委員会は Apple が合法ではあるが非倫理的な方法で合衆国での課税を免れたと非難していた。

Senator Levin は Apple が "税金回避の聖杯" を追い求めていたとして非難し、次の様に言った、"彼らは租税目的からすると何処にも存在しない会社を作った"。

この Senate 委員会は、Apple が 2009 年から 2012 年の間に $38 billion の計上利益に対して、税金としてはたったの $4 billion しか払っていないと主張している。これは実効税率 10.53% にしかならず、合衆国での法人税率 35% よりはるかに少ない。またもう一つの争点は、同社が海外に保有している $100 billion を超える現金資産で、Apple は移転に対する 35% の税率ゆえこれを本国送還する気はないと言っている。

では Apple はどの様にしてそれ程の税金を回避しているのか、そして何故それは非合法ではないのか? 実際にこれに関しては新しいことも特別なことも何もない。Apple は Double Irish と呼ばれる一般的な税金逃れ策を採用したのである。これは、New York Times の Charles Duhigg と David Kocieniewski によれば、1980 年代に先駆者を手助けしたやり方である。

Dublin 籍にする -- Double Irish はアイルランドと米国の法制の抜け穴を利用してどちらか一方の国での課税を逃れようとするものである。Apple や他の多国籍企業はその資産の多くをアイルランドの子会社に置くことで、現金の多くを課税の "無法地帯" に置いておける。ほんの一部分がアイルランドの穏やかな 12.5% という法人税の対象となるだけである。

アイルランドの法人税の低さに関して、米国は 自分自身を責めるしかない。第二次世界大戦の後、アイルランドは米国が提供した復興資金を利用して米国から経済コンサルタントを雇った。コンサルタント達はアイルランド政府に長文の報告書を提出したが、その中で Puerto Rico は低税率で外国企業を誘致するのに成功していることに簡潔に触れた。アイルランドの政治家達はこの考えに跳び付いた。

しかし企業は、単に歳入庁に対してより少なく支払うこと以上の動きをして来た。彼らはシャムロック(アイルランド人)から搾り取る色々なやり方を発明して来た。それらには:

Apple が使っているもう一つのやり方は、その巨額な株式配当や買戻しプログラムの様なもののために、現金を沢山持っているにも拘らず借金をすること である。全体的に見れば、借金に対する利率の方がお金を本国送還するために払う税率よりも低いのである。("Apple の財務判断に分け入る" 6 May 2013 参照。)

悪人は誰か -- 合法ではあるが匂い試験には落ちるこの様な戦術を採った Apple に対して責任を問える場所はあるであろうか? 詰まる所、相応の金儲けをしている企業ならどこでもアメリカの 35% という超高率の法人税の支払いを避けるため、これらのやり方の一つや二つ、或いは他の方法を使っている。こんな高い率の税金を払うのは変人だけの様に見える - 資源を持たないより規模の小さい企業、或いはこの様な合法的な行動は現実には全く非倫理的であると見なす経営者によって運営されている会社である。

Apple はこれらのやり方を開拓する手助けをしたかもしれないが、多くの Apple イノベーションの様に、他の会社も彼らをコピーしてきた。Microsoft, Google, Adobe, Facebook, General Electric, Johnson & Johnson, Oracle, そして Eli Lily は、アイルランドの温暖な気候、穏やかに波打つ丘陵、そして疑わしい法制を巧みに利用している一握りの企業に過ぎない。

Apple は最悪の違反者ですらない。2011 税年度に対する NerdWallet の調査によると、実効税率では Apple は低い方から三番目で、Exxon Mobil と Chevron に続いている。Exxon Mobil と Chevron は、それぞれ $73.3 billion の所得に対して $1.5 billion、そして $47.6 billion に対して $1.9 billion しか合衆国に支払っていないが、Apple は $3.9 billion も払っている。しかし、General Electric に較べれば、その仲間達はまるで素人の様に見える。2010 年に、GE は全世界での売上げ $14.2 billion に対して 支払った税金はゼロであった。それどころか、彼らは合衆国政府から $3.2 billion の還付金まで受けている!

えこひいきはもっと分かり易い怒りの的である。というのも、連邦議会は高額の業界寄付によるロビー活動を通してあらゆる種類の特別な税の優遇や抜け穴を作ってきたからである。だから、この人達は安心して家に帰って眠ることが出来る。この間、アイルランドはこれらの不正行為から利益を受けているので、税率を下げそして怪しげな会計からも目を背けてきた。同国は非を認めていない。アイルランドの副首相である Eamon Gilmore はかって言った,ことがある、"アイルランドは如何なる企業とも特別な税率適用について交渉はしない。" これは技術的には正確かもしれないが、アイルランドは企業が可能な限り税を避けるために必要とするあらゆる種類のツールを提供してきたのは間違いない。他の European Union リーダーたち、例えば英国首相の David Cameron は、アイルランドをその慣行に対して名指しで非難している。

では何故 Apple だけがここで取り上げられているのであろうか? 一方で合衆国ではずっと悪質な税金逃れが行われているのにである。恐らく、それは Apple がそれ程目立つ存在であるからかもしれないし、或いは John McCain が彼の iPhone 上のアプリを年がら年中アップデートしなければならないことで Tim Cook を厳しく非難する 言い訳が必要だったからなのかもしれない。中には Apple が議会活動に金を使ってこなかったことで揺さぶられたのだと言う人もいる。これには多少の真理があるのかもしれない、何故ならば Apple は 遅々としてではあるが確実にロビー活動費用を増やしているからである。これまでは最低限しか使っていなかった。

公平のために言うと、Senator Levin の委員会は、過去にその税金逃れ戦略について Microsoft と Hewlett-Packard を糾弾している。しかし、Google はこれまでのところ奇妙な例外のままである。彼らは同じやり方で合衆国に少なくとも$60 billion の税収入の損害を与ええていて、そしてこの検索業界の巨人はヨーロッパではその慣行に対して召喚されている。

これらの手法は悪臭を放っているかもしれないが、危険な税シェルターとは違うものである。税シェルターはいかがわしい取引に依存する一部の個人金持ちや企業によって採用されていて、しばしば非合法と判断されている。この様な脱税者は後に税金と課徴金を支払う羽目となり、そして時としては懲役刑に処されることもある。

Apple やその他の企業は、恐らくアナリストによって通常の税オプションを使わず、そして株主からの苦情を受けているとして非難されるであろう - そこにはアメリカの全世帯の半分以上が、直接投資、ミューチュアルファンド、インデックスファンド、そしてペンションプランの形で関与している。上場企業の取締役は、 都会風の経済神話に反して、株主価値の最大化は法的には要求されていない。彼らを強制するその様な法制は存在しない。

しかし株主達は企業国家アメリカにおいて徐々に発言力を増している、無視しようとする試みにも拘わらずである。そして無関心で有名な Apple でさえ最近一撃を食った。活動家である投資家の David Einhorn は Apple に対して 手持ち現金を投資家に十分還元していないとする訴訟を起こして脅すことに成功し、Apple は株買い取りプログラムを増額しそして配当金を上げることで応えた。

このヒアリングで Kentucky Senator Rand Paul が言った様に、"もしここで誰かが裁かれなければならないとしたら、それは連邦議会であるべきである。正直言って、この委員会は Apple に謝るべきである。ここでは連邦議会が複雑怪奇な化け物と奇妙な税法を作ったかどで裁かれるべきである。" 一方で Tim Cook と Apple もこの非難の一端を担うべきであるが、彼らは実質的に乱用を促す複雑なシステムの中で生きている。Senate に対する Apple の文書 による声明では、税制改革が進言されている。内容は法人税率の引き下げ、企業租税特別措置の廃止、そして会社が本国にお金を持ち帰られるようにする海外収益に対する "妥当な" 税の導入である。

更に声明の中で、Apple は海外収益に対して税金を払っていないとされていることに反論して次の様に言っている、"Apple が海外にそれ相応の現金をもっているのは、製品の大多数を米国外で売っているからである。昨年には Apple の売上げの 61% は海外での事業からのもので、前四半期では売上げの三分の二がそうであった。これらの海外収益に対しては、それが発生した管轄区域で課税されている ('海外、課税後収入')。"

そうではあっても、Apple はその売上げを可能な限り海外でのものとしていることは明らかである。連邦議会が答えなければならない質問は、Apple の合法的な海外収益のどれだけが合衆国に属するのか、そして何が Apple にそれをあきらめさせそうかである。

納税者価値を最大にする -- Apple を、或いは如何なる会社でも、身代わりの犠牲者とする代わりに、連邦議会は自ら作り出した抜け穴と、どうやってそれを塞ぐかを見つけ出すことに従事すべきである。更に、会社に何故法を曲げようとしているのかを聞く代わりに、連邦議会はどうしたら企業と政府は皆のためにより良い状況を作り出せるかを尋ねるべきである。現実は、企業は国境を越えて存在し、そして我々の世界経済が意味するのは合衆国政府ですら競争しなければならないことである。

現在のシステムは壊れて混乱していて、誰のためにもならない。我々人民は計り知れない額の税収を失い、一方で Apple の様な会社は自らの流動性を安泰なものにするこれらの常軌を逸した、馬鹿げた企みの陰で大量の資源を投じている。私は多国籍企業が誠実だなどと思うことからは程遠い人間だが、これらのやり方は Apple にとっては頭痛の種以外の何物でもないことは常識である。誰もが勝者となるもっと良い経営環境を作るべきである。

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Keyboard Maestro 6、ウェブページを自動化しマクロ同期を追加

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

自らを Macintosh のパワーユーザーと考えているのに Keyboard Maestro のようなマクロユーティリティを使っていない人を見る度に、いつも私は驚きを禁じ得ない。何しろ、コンピュータというものは、退屈な、繰り返しの多い、面倒な作業を毎回完璧にこなすのを得意としている。しかも、私たちが手でするより遥かに高速にそれができる。でも、そのようなオートメーションを実現するためにはプログラミングをしないといけないのではないかと尻込みする必要はない。少なくとも最も明白なレベルの命令、つまりまず Action A を実行し、次に Action B を実行し、といったことをコンピュータに告げるだけでも、オートメーションは十分実現できる。

実際、私が使っているマクロの大多数は極めてシンプルで明白なものばかりだ。例えば、送信する電子メールの末尾に必ず "cheers... -Adam" とタイプする代わりに、私は Control-ピリオドを押す。それで節約できる時間がほんの数秒だとしても、何万通も送信するメッセージで積み上げれば価値がないとは言えない。同じように、私は確かに LaunchBar が大好きだけれども、BBEdit を開くために F1 キーで Keyboard Maestro のマクロを呼び出す方が LaunchBar の Command-スペース、B、Return に比べて三分の一の労力で済む。一回一回で稼げる時間は微小だけれど、それは使っていない電子機器の待機電力によるエネルギーの無駄のようなものだ。個々のインスタンスとしては無意味だが、全体的には膨大な影響を生む。

他のマクロの中には、相当量の作業を私に代わってしてくれるものもあり、複数のプログラムを結び付けてくれるものもある。その多くは AppleScript や Automator では実現できないものだ。例えば一つのマクロは、Firefox の中で巧みに Tab と Command-C を交互にシミュレーションして、一つのウェブページの中の複数個のフィールドからデータをコピーし、Take Control サイトでページを構築するための役に立っている。またもう一つ別のマクロは、そのコピーしたテキストを切り分けて、完成した本を iBookstore に提出するために使う iTunes Producer アプリの中で対応するそれぞれのフィールドにペーストする。単に二つのアプリの中でコピーしたりペーストしたりしているだけだが、Keyboard Maestro のお陰で、間違いの起こりやすいこの面倒な作業が完璧に正確な手順に代わり、たった数秒で済むようになる。

だから、最初の要点はこれだ: Keyboard Maestro はすごい。まだこれを使っていないあなたが時間を浪費していることは確実だ。(Keyboard Maestro は、あなたのために現在どれだけ時間の節約になっているかの概算さえしてくれる。私の場合、2008 年に計算が開始されて以来の積算で 880 時間の節約になったという。)第二の要点はこれだ: 今回、Keyboard Maestro 6.0 が OS X 10.8 Mountain Lion 用にリリースされ、Stairways Software の Peter Lewis はこの新バージョンに歓迎すべき新機能をたっぷりと追加した。新機能の中には、Keyboard Maestro を一段と使いやすくするものもあり、その機能を拡充するものもある。

よりパワフルに -- マクロの肝心かなめの部分は、Keyboard Maestro のトリガーとアクションだ。簡単に言えば、アクション とは Keyboard Maestro が実行できる何らかのこと、例えばテキストをタイプしたり、アプリケーションを切り替えたり、音量を変更したり、といったことで、いくつかのアクションを組み合わせたものがマクロだ。そして、トリガー を使ってマクロを呼び出す。最も一般的なトリガーは、通常のキーに修飾キー Command、Control、Option、Shift の一個または複数個を合わせた単純なホットキーだ。Keyboard Maestro には 200 個ほどの アクション と 16 個の トリガーが用意されているが、バージョン 6 ではいずれにも新たに重要な項目が追加された。

新たなトリガーは四つあり、長年 Keyboard Maestro を使ってきたユーザーならば即座に新たな可能性が思い浮かぶだろう。まず、USB デバイスを繋いだり取り外したりした際にマクロが呼び出されるようにすることができる。例えばスキャナーの電源を入れたり、あるいは Garmin GPS デバイスを繋いだりすれば自動的に特定のソフトウェアが起動するよう設定できる。次に、ワイヤレスネットワークに接続したり接続が切れたりをトリガーにすることもできる。このトリガーは位置情報の変化を探知することもできるので、例えばあなたが仕事場のネットワークに接続すれば、Keyboard Maestro が自動的にあなたのネットワーク位置情報を設定(これも新たなアクションだ!)した上で、共有サーバをマウントするようにもできる。他の新たなトリガーを使えば、ボリュームがマウントされたりアンマウントされたりした際にマクロを呼び出したり、Keyboard Maestro のバックグラウンドエンジンプロセスが起動した際にマクロを呼び出したりできる。

アクションに話を移すと、新たに追加されたアクションでは、メニューを表示させたり、正規表現を用いて変数あるいは名前付きクリップボードの内容を検索したり、通知センターに通知を出させたり、キーチェーンのパスワードにアクセスしたり、スクリーンをスリープさせたり復帰させたりなどのことができる。あなたが使いたいアクションが組み込まれていなければ、Plug In Action として自分で(あるいはスクリプト使いの誰かに頼んで)作ることもできる。これは基本的に AppleScript またはシェルスクリプトに他ならない。従来から Keyboard Maestro のマクロの中に AppleScript やシェルスクリプトを埋め込むことは可能であったけれども、Plug In Actions があればより手軽かつパワフルに使いこなせるようになり、また自分の作ったアクションをコミュニティーに投稿することもできる。

けれどもアクションに関する最も大きなニュースは、Keyboard Maestro が今回から Safari および Google Chrome に対するアクションを多数装備して、Keyboard Maestro がウェブページで読み取ったり書き込んだりできるようになったことだ。ウィンドウやタブの操作以外にも、Keyboard Maestro 6 ではリンクをクリックしたり、ページがロードし終えるまで待ったり、フィールドの内容を読んだり設定したり、フォームを投稿したりリセットしたり、フィールドのフォーカスを選択したり、JavaScript を実行したり、その他さまざまのことができる。私は既にこれらを利用して、TidBITS Publishing System のためのウェブベースの管理ページの中で(どんなアプリの中でも)現在選択されているテキストを調べるマクロを作って使っている。従来これはかなり面倒な仕事であった。テキストをコピーして、ウェブブラウザの中でページがロードするまで待ち、それから検索フィールドにペーストして、といったことが必要だった。また、もう一つのマクロは Chrome の中から現在の URL を吸い出して、私が現在どこにいようとそこにペーストしてくれる。私の場合、URL を他の人に送信することがとても多いのでこれは便利だ。また、それに少しだけ手を加えた別のマクロを使って、TidBITS の記事を執筆中には Markdown リンクとしてフォーマットした形で URL をペーストしている。

ついさっき名前付きクリップボードに触れたが、Keyboard Maestro がパワフルな複数クリップボードユーティリティとしても機能できることをご存じない方にはその良さが伝わらなかったかもしれない。メインのシステムクリップボードでは新しいものをコピーすれば以前のクリップボード内容が即座に失われてしまうが、Keyboard Maestro で名前付きクリップボードを作成してそれを使えば内容は失われない。私は Keyboard Maestro のクリップボード履歴機能が大好きだ。これを使えば時間を遡って以前にコピーしたデータにもアクセスできるし、最後から二番目のクリップボード内容をペーストするという単純なマクロも作って、ひっきりなしに使っている。最後にコピーしたものだけでなく、その前にコピーしたものも必要になることが多いからだ。Keyboard Maestro 6 は、スタイル付きテキストに対応するという面でもクリップボードの機能を大きく拡張している。今回から、クリップボード内容を編集してもテキストのスタイルが保たれるようになった。

より使いやすく -- 複雑なマクロを構築しようとする際に一番難しいのは、ステップごとに一つずつ実行させて、意図した通りのことをしてくれるかどうか確認する作業だ。(あなたが実行するアクションを Keyboard Maestro に記憶させることもできるが、それをするとマウスクリックやキーストロークなど脆弱になりがちなものに依存し過ぎる傾向がある。)Keyboard Maestro 6 の新機能、マクロデバッガがそこで役に立つ。Keyboard Maestro のメニューバーアイコンで Start Debugging を選ぶと、一つのマクロを丸ごと、一度に一つずつのアクションに区切って、ステップごとの実行をしてくれる。これはものすごくありがたい機能で、私は Automator のワークフローについては以前から頻繁に使ってきたけれども、今まで Keyboard Maestro にこの機能がなくて不便を感じていた。また、デバッガのアクションもあるので、そういうやり方を好む人はマクロに組み込んで試してみることもできる。

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Keyboard Maestro のマクロを使い慣れてそれに依存するようになってくると、これに対応していないシステムを使った際にものすごく苛々してしまうものだ。(例えば、私は Chromebook Pixel を使って電子メールを書こうとする度に、Control-ピリオドを押してもメールに署名が入らないのでムッとしてしまう。残念ながら、Chrome OS には Keyboard Maestro と同等の力を持つものは存在しないからだ。)さらに、私の MacBook Air を使っている時でさえ、自分のマクロが同期されていなければフラストレーションを感じてしまう。だから、Keyboard Maestro 6 で Dropbox 経由の マクロ同期機能が備わったのが、私はとても嬉しい。(Dropbox 以外でも、一つのファイルを複数の Mac で共有できるファイル共有サービスなら何にでも対応している。)私の場合、BBEdit が Dropbox で Application Support フォルダを使う方法と合わせるために、ファイルを ~/Dropbox/Application Support/Keyboard Maestro に置いている。マクロ同期をオンにするのは簡単だ。Keyboard Maestro の環境設定ウィンドウの General パネルで Sync Macros を選び、それから新規の同期ファイルを作成(メインの Mac ではそうする)または既存のファイルを開いて古いマクロをすべて上書きする(副次的なで Mac はそうする)のいずれかを選べばよいだけだ。そうしておけば、同期は勝手に実行され、どちらで変更を加えても自動的に双方で変更が反映されるようになる。

もう一つ、Keyboard Maestro のヘビーユーザーにとっての悩みは、トリガーとして覚えやすいホットキーを思い付くのが難しいことだ。Control-C、それから Command-Control-C、Command-Control-Option-C といったものは、すぐにどこかで使われてしまう。この問題に対処するため、Keyboard Maestro 6 では Trigger by Name パレットを新たに装備するとともに、Conflict パレットを改善した。Trigger by Name パレットでは、ただホットキーを押すだけで(この Trigger by Name 自体が一つのマクロだからだ)テキスト入力フィールドを含んだパレットを Keyboard Maestro が開く。そこで文字をいくつかタイプすれば、Keyboard Maestro は名前がマッチするマクロのリストを表示する。そこからマクロを一つ選択して Return キーを押せば、そのマクロが呼び出される。このやり方は LaunchBar にちょっと似ているが、略語を覚える必要はない。(そう、今後のバージョンの LaunchBar で取り入れて欲しいアイデアだ... LaunchBar から、Keyboard Maestro のマクロが呼び出せたら素敵だろう!)一方 Conflict パレットの方も動作はよく似ている。つまり、同じホットキートリガーが複数のマクロに割り当てられていた場合、そのホットキーを押せば Conflict パレットが開いて、ハイライトされたキーを押してマクロのリストをフィルター分けしながら表示された最後のものを選ぶか、またはクリックしたものを選んで実行できるようにする。

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最後に、Keyboard Maestro 6 では、見栄え上の改善もいくつか提供されている。最も注目すべきは、新設された Icon Chooser だ。(Keyboard Maestro Editor が開いている状態で Window > Icon Chooser を選ぶ。)これを使って、マクロやマクログループごとにアイコンを選んだり新規にアイコンを作成したりできる。ユーザーとビジュアルにやり取りすることがほとんどないユーティリティにしては、やり過ぎとも思える機能だが、そうやって選んだアイコンは Keyboard Maestro Editor にも、すべてのパレットにも登場する。(すぐ上で紹介した内蔵のパレット以外に、カスタマイズされたフローティングパレットの中からクリック一つで呼び出されるマクロを作成することもできる。)とりわけ巧妙だと思うのは、図形を選んでその中にテキストや絵文字を埋め込むことで独自のアイコンを作成できるようになっているところだ。最後にもう一言、Retina ディスプレイ装備の Mac を使っている場合、Keyboard Maestro は今回から Retina 対応のグラフィックスを使用するようになった。Peter Lewis 自身、Keyboard Maestro に Retina 対応を盛り込むなんて、まるで豚に口紅を塗るようなものだと例えているのだが。

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試してみよう -- 冗談はさておき、私が Keyboard Maestro と同じくらい強く薦めたいと思えるプログラムは他に数えるほどしかない。私が目にしたことのあるほとんどすべての人の Mac でこれが役に立つだろうにと思えるからだ。もちろん、すべての人が私と同じくらい速度と効率にこだわりがあるのでないことは分かっている。そう言うのに私自身少し抵抗があるのは認めるが。けれども、自分の Mac で作業する際に時間を浪費していないという意識が満足をもたらしてくれることの他にも、自分があたかもアプリたちのオーケストラの前で指揮をしているかのような気分になって、ある種の喜びを感じていることも私は否定できない。個々の平凡なアクションをただ足し合わせたものを超えた、もう一段高いものをマクロの全体的なパフォーマンスが生み出しているような気がする。

だから、もしもどこかの作業が退屈で不必要なものに思えたなら、どうぞあなたも Keyboard Maestro を試してみて頂きたい。私たちのスタッフの一人も、名前は伏せておくが、スタッフ同士の議論の中で Tonya がマクロをいくつか作ったという話をしたとたんに、直ちに Keyboard Maestro 6 をインストールしたくらいだ。その話に出たのは、Pages で選択範囲の中で変更を受け入れるマクロ、新規のコメントを作成してからタイムスタンプが削除されないように下へ矢印で移動するマクロ、それから、新規のコメントを挿入する際にあとでその場所へ戻ってくる助けとなる決まり文句のテキストを添えるマクロだった。あなたが私たちと全く同じマクロを必要とするとは思えないけれども、この記事で紹介した実例のどれかがあなたの心のどこかに共鳴できたならば、おそらく Keyboard Maestro はあなたのハードディスクにも居場所を見つけることができるのではないだろうか。

無料で試用できるデモ版の Keyboard Maestro もある。購入すると決めた場合は、新規購入の価格はたった $36 (TidBITS 会員には 20 パーセント割引) で、あなた自身の所有する Mac 最大 5 台までで使える。2012 年 10 月 1 日以降に購入した Keyboard Maestro 5 からのアップグレードは無料だ。2012 年 10 月よりも前に購入した場合のアップグレード価格は 2013 年 7 月 31 日までに限り $18、それ以後は $25 となる。もっと古いバージョンの Keyboard Maestro からのアップグレード料金はすべて $25 だ。Apple のサンドボックス化の要請を満たそうとすれば Keyboard Maestro のパワーは失われてしまうので、Mac App Store から購入することはできない。ただ、Apple がそういったことをまだそれほど意識していなかった時代には Mac App Store で販売されていたこともあるので、もしもあなたが Keyboard Maestro 5 を Mac App Store 経由で購入していた場合は、Keyboard Maestro の About ダイアログに表示される Mac App Store Version というテキストをクリックすれば直接ライセンスに変換してからアップグレードできるようになっている。Keyboard Maestro 6 は OS X 10.8 Mountain Lion を必要とする。 旧バージョンも引き続き入手可能で、バージョン 6 のライセンスはバージョン 5 でも使える。

[免責声明: 私は Stairways Software の Peter Lewis との共同作業で Mac 用 EPUB リーダー Bookle をデザインした。そのプログラムからの収益は私たち二人で分け合っているが、私は Stairways 製のそれ以外のアプリケーションに関して一切金銭的利害関係を持っておらず、その点は Keyboard Maestro についても同じだ。Peter が Keyboard Maestro に集中しなければならないため Bookle の開発作業は停滞中だ。彼の代わりに Bookle の開発を引き継いでもよいという開発者をご存じの方は、どうぞ私にご連絡願いたい。-Adam]

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FunBITS: Marvel Unlimited アプリは体重 44 キロのやせっぽち

  文: Josh Centers: [email protected], @jcenters
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Marvel Comics は、昔から私の心の中に特別な位置を占めていた。私の最も古い記憶の一つは、私を寝かしつけるために母がベッドで Spider-Man の漫画本を読んでくれている情景だ。実際、その本の巻番号まで私は覚えている。悪漢 Boomerang の登場する Spectacular Spider-Man 第 145 巻で、出版されたのは 1988 年 12 月だ。

1990 年代に入って、私はますます漫画に熱中するようになった。Jim Lee の X-Men、夏中続いた Spider-Man Maximum Carnage イベント、Todd McFarlane の Spawn、そしてもちろん Batman も。それは漫画マニアにとって最高の時代だった。トレーディングカード、カードゲーム、アクションフィギュア、それから (今は亡き) Wizard Magazine、新しいタイトルや新しい筋立ても次々に生まれていた。

けれどもその後、1990 年代のどこかの時点で、私は興味を失った。いや、それは決して私が突然成熟したからでなくて(成熟なんてとんでもない)むしろ物語の筋立てが次第に馬鹿げた、がっかりするようなものになり、読み続けるのが辛くなってきたからだった。(1970 年代の Spider-Man のクローンも復活したが、結局本物の Spider-Man ではなかった!)Age of Apocalypse のように、シリーズのストーリーを辿るために八冊かそれ以上の漫画本を買わなければならないようなものも登場した。シリーズ物にしたせいでストーリーがあまりにも混乱したため、新しい読者をお手上げにさせまいと Marvel はストーリーをすべて白紙の状態に戻して作り直したスピンオフ作Ultimate Universee まで出すに至った。

興味を失ったのは私だけではなかった。1996 年に Marvel は破産を申し立て、その後 2000 年代に入って漫画本そのものが廃れ始めた。その昔はアメリカのどんな店にも、スーパーマーケットにさえ必ず置かれていた漫画本が、あっという間に陳列棚から消え去り、書店や漫画専門店のみに置かれるものへと格下げになってしまった。その昔はたいていの子供たちが必ず読んでいた漫画本が、愛好家たち(つまり熱狂的なファン)のみが追い求めるものとなった。

Marvel の映画の中には Iron Man のように成功したものもあったが、スーパーヒーローが映画でいくら人気を得ても、それを生み出す元となった漫画本を読んでいる子供たちを私はあまり目にしていない。つまり、漫画本はもはや死んだ芸術形式と言えるのではないか...

...でもそれは、iPad が登場するまでの話だった。iPad がやって来るやいなや、賢明なことに大手の漫画本出版社のすべてが協力して ComiXology サービスを作り上げた。そのお陰で、デジタル漫画本を購入して読むのが、ウェブ上でも iPad 上でも、楽しくできるようになった。無料の ComiXology アプリは素晴らしい。ページは素早くロードするし、Guided View 機能を使えば拡大表示のパネルから次のパネルへと迅速に進むことができ、iPad のスクリーンを、さらには iPhone のスクリーンさえ、最大限に利用できる。

けれども、費用の問題はやはり大きい。ComiXology ではほとんどの漫画本が一巻あたり $2 で、バックナンバーは一巻あたり $1 でセール販売されることが多い。表面的にはとても安いように聞こえるが、15 分で一巻を読み終えてもまたすぐ次が読みたくなることを思えば、熱中して読み続けた結果の総費用はコカインにも、あるいはロシア皇帝の Faberge イースターエッグにも匹敵するほど積み上がるだろう! 私は思わずつぶやいた。「なぜだ、いったいなぜ、Netflix や Rdio が人気のこの時代に、安い月額料金で漫画本読み放題のサービスにしてくれないのだろうか?」

事実を言えば、まさにその通りのことがしばらく以前から既に実現されている。それが、Marvel Unlimited サービスだ。Marvel がウェブサービスとしてこれを始めたのは、2007 年のことであった。しかしながら Marvel は、このサービスを Adobe Flash の基盤の上に築くという不幸な決断をした。結果として、デスクトップでの使用感が並み以下であると同時に、iOS デバイスとは完全に非互換となるという、二重苦に見舞われてしまった。そもそも、いったい誰が、デスクトップやラップトップのコンピュータで漫画本を読みたいと思うだろうか?(まあ、MacBook を小脇に抱えて読むということも考えられないことはないが、その場合は高価なハードウェアを危険にさらすことになる。)

どうやら Marvel は、2013 年 3 月に至ってやっとその肝心な点に気付いたらしく、iOS 用の Marvel Unlimited アプリをリリースしてくれた。だから今では、ソファに居ながらにして Marvel Universe の膨大なバックナンバーライブラリにアクセスできるようになった。その料金は月額たったの $9.99、年額なら $69.00 となる。まさに「向上!」だ。

でもちょっと待って、信じ易い人よ! その購読ボタンをクリックする前に、知っておいて欲しいことがある。残念なことに、Marvel はここでもまた不幸な決断をした。その結果、Marvel Unlimited には... 問題のある (limited) 点がいくつも生じてしまった。

一例を挙げれば、Marvel はアプリの基盤として HTML5 を選んだ。HTML5 が悪いのか、それとも単に実装方法が悪いだけなのか、私には分からないが、とにかく結果は、のろのろと遅い、ぎこちない使用感となる。ページをめくろうとしても反応が遅く、時にはページがロードするまでとてつもなく長い時間がかかったりするし、全般的にこのアプリはただただ不出来な印象だ。さらに悪いことに、ウェブアプリの方も HTML5 リーダーを提供するようになったけれども、それが利用できるのは料金を払った購読者のみだ。つまり、サンプルを見たり無料の本を読んだりするためには Flash が必要となる。(この点を教えてくれた Macworld の Editorial Director、Jason Snell に感謝したい。)Marvel としては、新たな顧客を呼び込もうと思うならばもっと良い面を前面に押し出すべきではないだろうか。なのに現状では、購読しようかと迷っている人たちが、両方の世界の最も悪い面、つまりモバイル上で HTML5、ウェブ上では Flash を呈示されることになってしまっている。

さて、いったん漫画がロードされれば、その後のインターフェイスは最小限のものしかない。コントロールはすべて、あなたがスクリーンをタップするまで隠されている。いやもっと正確に言えば、反応してくれるまでスクリーンを何度も何度もタップし続けなければコントロールが出てこない。やっと反応しても、コントロールはゆっくりと現われる。その巻の中を「素早く」ナビゲーションできる追跡バーと、その巻の著作権表示を出す情報ボタン、それからページレイアウトを変更できるボタンがある。レイアウトは、1ページ表示と2ページ表示、それから Smart Panels と呼ばれる Marvel 独自の Guided View 実装のうちから選ぶ、けれども、この Smart Panels は賢さの面で ComiXology の Guided View とは比べものにもならない。ページが奇妙な具合にバラバラになり、まともに読めないことも多い。

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インターフェイスの反応が遅いだけでもうんざりするけれども、もっと悪いことがある。ComiXology と比べて、Marvel はページのトリミングの出来がひどく悪いのだ。結果として、コンテンツの周囲に必要以上に広く白い余白が出来てしまい、漫画の中の文字が小さく、読みにくくなる。少しの違いだが、読みやすさにおいて驚くほど大きな影響を及ばす。(下のスクリーンショットをご覧頂きたい。左が Marvel Unlimited、右が ComiXology だ。違いは一目瞭然だろう。)私が Retina でないスクリーンの iPad 2 でこれを読んでいることは事実だが、同じ iPad 2 でも ComiXology には何の違和感も感じなかった。もちろん、ピンチしてズームインすればはっきり見えるようになるけれども、ページをめくるためのアルゴリズムがコンテンツの横幅に対応していないので、めくる度にページがゆっくりゆっくり跳ねつ戻りつして、この上なくイライラさせられる。

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Marvel Unlimited では持続的なインターネット接続が必要だが、このアプリの中に最大 6 巻まで保存しておいてオフラインで読むことも可能だ。その点は素敵なことだし、Netflix も同じようにしてくれたらいいのにとは思うが、やはり 6 巻ではあまりにも少ない。飛行機で長時間旅行すれば最初の一時間で 6 巻くらいは読み切ってしまうだろう。Marvel Unlimited アプリでダウンロードした漫画が他の漫画リーダーアプリで読めないのは言うまでもない。

私としては、Marvel Unlimited をお薦めできればどんなに嬉しいだろうかと思う。Marvel のバックナンバーカタログのすべてにアクセスできると思えば、年額 $69 はとびきり格安だ。たとえ、最近六ヵ月分の新しい巻が除外されていたとしても。(私は以前読み損ねた分を取り戻して読む方に興味があるのであって、最新の筋がどう展開しているかにはあまり興味がない。)けれども、このアプリの現状はと言えば、不満と失望の連続以外の何物でもない。こんな風に感じているのは、決して私だけではない。この記事の執筆時点で、Marvel Unlimited アプリの App Store における評価はたった星2つだ。

注ぎ込まれた努力のすべてが中途半端なもののように見える。そして私は、そこにはちゃんと理由があると思う。同じものを販売しても、購読サービスのもたらす収益が直接販売の収益より少ないというのは周知の事実だからだ。けれども Marvel が自覚しなければならないのは、競争すべき相手は DC Comics や Image Comics だけでなく、数知れずある他の形の娯楽と、BitTorrent だという点だ。今や BitTorrent の水をテーマとしたサイトからあらゆる漫画本コレクションが簡単にダウンロードでき、iPad 用の素晴らしい漫画リーダーアプリのどれでも好きなものの中にロードできて、ほんの数分で読み始めることができる。Marvel が直面しているのはまさにその状況だ。他の数々の漫画アプリに 砂をかけられ惨めな思いをするのが嫌なら、Marvel Unlimitd はきちんと自らを改善する必要がある。[訳者注: リンク先には昔の漫画本の広告ページの写真があり、海水浴場で砂をかけられ馬鹿にされていた体重 44 キロのやせっぽちが筋トレの成果で相手を殴り返せる男に変身した、という筋トレマシンの広告が載っています。]

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TidBITS 監視リスト: 注目のアップデート、2013 年 6 月 3 日

  文: TidBITS Staff: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Napkin 1.1 -- Aged and Distilled が Napkin 1.1 をリリースし、この視覚通信およびスクリーンショットのツールに新たに自動ガイド機能を追加した。(以前 Josh Centers が Napkin をレビューしている。2013 年 2 月 16 日の記事“Napkin、視覚通信に新しい見方を提供”参照。)Napkin 項目を移動またはリサイズすると一時的なビジュアルガイドが表示されるようになり、項目の辺や中心点が他のナプキン上にスナップするようになった。移動またはリサイズの際に Command キーを押さえていればこの自動スナップ機能がオフになる。今回のアップデートではまた、Call-Out を含むナプキンから画像を削除すると起こったクラッシュを修正するとともに、小さなメモリリークをいくつかパッチしている。(Mac App Store から新規購入 $39.99、無料アップデート、8.6 MB、 リリースノート)

Napkin 1.1 へのコメントリンク:

Evernote 5.1 -- この情報管理アプリのバージョン 5.1 のリリースにおいて、Evernote はアプリ内アラームも電子メールによるアラームも設定可能なネイティブなリマインダー機能を追加した。Federico Viticci が素晴らしい概説を MacStories に載せている通り、Evernote の新しいリマインダーは筋金入りの GTD (Getting Things Done) 実践者たちを満足させられるものではないが、少なくともこのアプリを使ってタスク関係のメモを完成まで追跡できるようになった。

メモの一番上(共有ボタンのすぐ左)に新設された時計アイコンをクリックすると、二つのことが起こる。まずメモのタイトルがノートブックパネルの一番上に新設された Reminders セクションの中に置かれ、それから締切期日を設定できるオプションが提供される。期日を設定しなくてもメモのタイトルはそのまま Reminders セクションに残るが、その場合はこの新機能のリマインダー部分を利用できるチャンスを逃すことになる。(あとになってからメモに締切期日を追加することもできる。)

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(複数個のノートブックを使っている場合には)リマインダーはノートブックごとに分離され、All Notes を選択すればすべてのリマインダーが現われる。最後にもう一つ、Evernote にその日のリマインダーのリストを電子メールで送らせるオプションもある。締切期日の朝早くにこの電子メールが届く。この電子メールオプションは Evernote 5.1 を初めて開いた際に呈示されるが、あとになってから Preferences の中でこの設定を変えることもできる。

今回の Mac 用リリースでは、拡張された XAuth セキュリティも加わり、上下方向のリスト表示のデザインを改めてスクリーン上により多くのメモが表示できるようになり、新たに Superscript および Subscript のテキスト書体が追加され、コピーおよびペーストに関する詳細不明の改善もある。Mac 用リリースとともに、 iOS 用の Evernote (バージョン 5.3) にも新しいリマインダー機能が盛り込まれた。(Evernote からも Mac App Store からも無料、40.8 MB)

Evernote 5.1 へのコメントリンク:

KeyCue 6.5 -- Ergonis が KeyCue 6.5 をリリースし、キーボードショートカットをより素早く調べられるよう改善を施した。今回のアップデートで新しい内部的表示順序が採用され、ショートカット表の見栄えを改善するとともに、メニューをスキャンするための新しいテクニックの採用で Safari のブックマークメニューのような深くネストされたものもスキャンし易くなった。その他の改善点としては、OS X 10.8 Mountain Lion および FileMaker 12 との互換性向上、Mountain Lion で口述筆記を開始する "fn fn" ショートカットの認識、不正なメニュー構造を持つアプリケーションを探知した際の診断メッセージの改良などがある。KeyCue はまた、Escape キーでショートカット表を閉じようとした際にビープ音を鳴らさないようにし、KeyCue のメニューバーアイコンからアップデートのチェックができるようにしている。最後に、Sibelius ユーザーのためには拡張ショートカット記述セットがダウンロードできるようになり、KeyCue の中に読み込めばこの記譜用ソフトウェア ( Ergonis の download extras ウェブページから入手可) における 272 個の隠れたキーボードショートカットが明かされるようになっている。(新規購入 19.99 ユーロ、TidBITS 会員は 25 パーセント割引、無料アップデート、2.6 MB、リリースノート)

KeyCue 6.5 へのコメントリンク:


ExtraBITS、2013 年 6 月 3 日

  文: TidBITS Staff: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

今週は ExtraBITS で紹介したいことがたっぷりある。Camino ブラウザが終焉を迎え、EFF がポッドキャスティングのために戦い、Apple が低価格の iPod touch を出し、Tim Cook が D11 で質問を浴びせられ、Glenn Fleishman が The Magazine を買い取り、宇宙における著作権が問題となる。また、インターネットアクセスが人権であるか否かを問い、電磁場が人体に与える影響を問う。それから、今週号に載せ切れなかった私たちの記事もいくつか紹介しておきたい。次世代の Opera ウェブブラウザのプレビュー、iPhone 用の新しい Analog Camera アプリ、Dropbox フォルダを別ディスクに移す方法、GIF の正しい発音、Macworld による Apple のためのアイデア、が話題となる。

Camino の終焉 -- 11 年以上を経て、オープンソースの Camino ウェブブラウザの開発が終焉を迎えた。遡ること Mac OS X の暗黒時代、まだ Safari も Chrome も生まれていない頃、Mozilla の Gecko レンダリングエンジンに Mac ネイティブなインターフェイスを移植することを目的として Camino Project が創設された。Camino の開発者たちの多くはその後 Apple や Google に雇われ、それぞれのブラウザの開発にあたるようになった。Camino がなければ、今日の Mac OS X におけるウェブブラウジングは全く違うものとなっていただろう。そのことに感謝しつつ、私たちはその開発者たちのことを思い、敬意を表し、彼らが次に何に取り掛かるにせよ幸運を祈りたい。

コメントリンク:13808

EFF によるポッドキャスティング救済の戦いを助けよう -- The Electronic Frontier Foundation (EFF) が、ポッドキャスティングを潰そうとする特許荒らしを相手にした戦いに、皆さんの援助を求めている。Personal Audio 社が、ポッドキャスティングの鍵となるテクノロジーにおける特許を所有すると主張して、多くのポッドキャスターたちを法律的に脅かしてきた。標的となった者たちの中には Adam Carolla や HowStuffWorks もいる。この記事を書いている時点で EFF は既に $60,000 以上の募金を集め、当初の $30,000 という目標をたった 10 時間で超えたけれども、裁判費用は高くつくこともあるので、援助金は多ければ多いほど良い。だから、あなたがポッドキャスティングを大好きなら、あるいは特許荒らしというものが許せないと思うなら、彼らの運動を支援しよう!

コメントリンク:13809

Apple、安価な iPod touch をリリース -- Apple が第五世代 iPod touch に新しい 16 GB 機種をリリースした。この機種には Retina ディスプレイが付いたが、後方にカメラがなく、取り付け具の loop もない。この「新」機種はこれまで販売されていた第四世代の 16 GB モデルを置き換えるものとなる。第五世代の iPod touch は 2012 年 9 月に登場し、これまでの最廉価機種は $299 の 32 GB モデルであった。

コメントリンク:13806

ライブブログで Tim Cook が D11 に登場 -- Apple CEO の Tim Cook が、第 11 回の D: All Things Digital カンファレンスの冒頭に Walt Mossberg と Kara Swisher と共に壇上に座った。Cook はいつも通りに注意深く余計なことを喋らないよう努めていたが、テレビが「極めて興味深い分野」であると述べた。Cook はまたウェアラブルコンピューティングについても興味を示しつつ手首に着けるやり方の方が好ましいとして Google Glass をはねつけるとともに、Apple が将来 iOS をサードパーティの開発者たちによりオープンなものにして行くことも示唆した。

コメントリンク:13800

Glenn Fleishman が The Magazine を Marco Arment から買い取る -- 私たちスタッフの一員である Glenn Fleishman が、The Magazine をその創設者 Marco Arment から買い取った。第二号以来ずっと、Glenn はここで編集主幹として働いてきた。Arment が The Magazine を始めたのは 2012 年 10 月のことで、初めからこれは iOS 専用の、ギークのための総合雑誌として作られていた。Arment は最近、彼のもう一つの創作物 Instapaper も売却しており、彼が今後何をするつもりなのかという臆測がさまざまに飛び交っている。けれども Glenn が The Magazine をどうするつもりかについてはほとんど疑問の余地がない。まずはウェブサイトのデザインを刷新し、アプリを改訂し、いずれはポッドキャストも加えようというのが彼の現在のプランだ。

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宇宙空間では誰も著作権侵害を聴かず、トム少佐の著作権も制御できず -- カナダ人の宇宙飛行士 Chris Hadfield は、国際宇宙ステーションの中からの無重力パフォーマンスとして David Bowie の "Space Oddity" を印象深く歌い上げ、世界中をあっと言わせた。[訳者注: David Bowie はその曲の中で宇宙飛行士トム少佐が次元を超えて宇宙を漂流する様を歌いました。]けれどもその後地球に降り立った際に、彼はどうやって著作権警察の追求を逃れたのだろうか? The Economist に謎めいた "G.F." という署名で載った記事が、宇宙空間における著作権の複雑化要因と落とし穴について分析する。今回の場合 Hadfield 中佐は発射のずっと前に Bowie から権利を手に入れていたけれども、もしも火星人が BitTorrent を使って最新のテレビドラマ "Game of Thrones" をダウンロードしたとしたら、惑星間戦争に発展するのだろうか?

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インターネットアクセスが人権であるか否かを問う -- Communications of the ACM に載った記事で、Cornell 大学の Stephen Wicker 教授が、Google の Chief Internet Evangelist であり ACM の理事長でもある Vint Cerf が 2012 年の New York Times 論説記事で述べたインターネットアクセスは人権ではないとした意見に対して反論する。今回の記事の中で、Wicker は反論の根拠として人権とは「権利の抽象的表現とその権利を可能にするための何らかの手段」の双方から成ると述べ、さらにインターネットが人権を巡る状況に良い結果を及ぼしている実例として、誰でも差別なく幅広い種類の ISP にアクセスできること、また ISP がブロックされたりコンテンツに基づく差別が為されたりするのを防ぐための一般的なキャリアのルールが受け入れられていることなどを挙げている。

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Mark Morford、電磁場のノセボ効果を論じる -- 電磁場に対する過敏認識についての Journal of Psychosomatic Research による調査結果を受け、Wi-Fi ゲートウェイや携帯電話の電磁波に晒されることによると思われる本物の症状が出てしまう人がいるのはなぜかについて、SFGate.com コラムニストの Mark Morford が力強い解説記事を書き上げた。彼はそれらの症状の深刻さを否定することはせず、また現代社会の生活の中には人の健康に有害であると証明済みの要因が数限りなくあるという事実も否定せず、ただそれと同時に暗示や信念といったものの持つ力もまた過小評価できないのだと強調する。

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Opera、次期ブラウザの Chrome 化プレビュー版をリリース -- ほんの少しだけの新機能を盛り込んで、Opera Software が Opera 15 ウェブブラウザのプレビュー版をリリースした。けれども今回の大ニュースは、Opera が自社製作の Presto エンジンを捨て、新しい Chromium ベースのレンダリングエンジン Blink を使うようになった、その初めてのバージョンの Opera だという点だ。もしもあなたが長年の Opera ユーザーなら、この Opera Next ではいくつかの機能やプラグイン互換性がなくなったことに気付くかもしれない。さまざまの変更点について、この記事でお読み頂きたい。

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Analog Camera を iPhone で使う -- またもう一つ新たな写真フィルターアプリが iPhone に必要なのか? Realmac Software の Analog Camera は、似たような他のアプリとは一味違うところを説得力をもって示してくれる。この Analog Camera アプリにはユニークな、ジェスチャーに基づくインターフェイスがあって、写真を撮ったり編集したりするのが素早く、楽しくできる。

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Dropbox サブフォルダを別ディスクに移す方法 -- Jeff Carlson は、iOS デバイスやカメラやメモリカードから写真を自動的にコピーしてまとめておくために Dropbox の Camera Upload 機能を使いたいと思ったが、それをすると彼の 256 GB SSD (ソリッドステートドライブ) が画像ファイルで一杯になってしまう。そこで彼は、Mac OS X の中でシンボリックリンク (symlink) を作成して、別のボリューム上に Camera Uploads フォルダを移した。

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GIF の創設者が再び "Jif" を強調 -- Graphics Interchange Format (GIF) を発明した Steve Wilhite が、Webby Award の生涯業績賞を受けた。インタビューの中で、彼は GIF は「ジフ」と発音すべきであって「ギフ」と発音すべきでないと再び強調した。(「ジフ」といってもピーナツバターと間違えてはいけない。)

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Macworld から Apple 製品の改善のためのアイデア -- 私たちが毎日信頼して使っているさまざまの製品を Apple がどうすればもっと改善できるかについて、Macworld が次々と建設的な提案を打ち出している。彼らの最高のアイデアのいくつかを Josh Centers が紹介する。

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TidBITS ISSN 1090-7017©Copyright 2013 TidBITS: 再使用はCreative Commons ライセンスによります。

Valid XHTML 1.0! , Let iCab smile , Another HTML-lint gateway 日本語版最終更新:2013年 6月 8日 土曜日, S. HOSOKAWA