TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#1234/04-Aug-2014

Apple が MacBook Pro シリーズをアップデートした。でも喜ぶのは早い。今回のアップデートは、ただ単にパフォーマンスが少々増したのと、多少の値下げがあっただけだからだ。それよりも興味深いのは Microsoft の Office for iPad がアップデートされたことで、ユーザーからの数多くの不満に対処が施され、さらにサードパーティのフォント、PDF 書き出し、Excel ピボットテーブル、その他に対応している。Take Control 関係のニュースでは、疲れ知らずの Joe Kissell が最新刊 "Take Control of FileVault" を完成させて、さまざまの誤解を解くとともに、万一の盗難に備えて中のデータを保護するために FileVault を有効にしておくようにと読者に勧める。それから TidBITS 会員のためには、Charles Edge の "Take Control of OS X Server" の最新の章が出てモバイルデバイスの管理について解説する。多数の iPad を管理する仕事を任されている人にとってはホットな話題と言えるだろう。スマートウォッチの世界で Pebble と競合するものとしてどんなものが出ているか興味ある人たちのために、Jeff Porten が現在入手できる四つのスマートウォッチを検討するとともに、Apple のスマートウォッチがどのようなものになるかについても目を向ける。最後に今週の FunBITS 記事では、Josh Centers が Amazon の新しい Kindle Unlimited サービスを評価して、毎月払う料金に見合ったものかどうかを考える。今週注目すべきソフトウェアリリースは、Paprika 2.0.4、ChronoSync 4.5.2、Mellel 3.3.6、それに OmniFocus 2.0.2 だ。

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Apple、2014 MacBook Pro の CPU と RAM をアップグレードし、値下げ

  文: Josh Centers: [email protected], @jcenters
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

Apple は MacBook Pro の Retina ディスプレイモデルをアップデートした。これには、より多くの RAM とほんの少しだけ高速のプロセッサが付き、値段も少しだけ下げられた。これらのアップデートは、全般的には最近の MacBook Air アップデート ("2014 MacBook Air、パフォーマンスを向上させて $100 値下げ" 29 April 2014 参照) と同じ程度に平凡で退屈なものだが、興味をひくのは、RAM が最低でも 8 GB となったことであろうか。

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$1,299 の 13-inch MacBook Pro Retina ディスプレイモデルは、実質的には昨年モデルと同一だが、変わったのは、プロセッサが少しだけ高速の 2.6 GHz dual-core Intel i5 プロセッサ (前は 2.4 GHz) になり、RAM 容量が倍になったことである - 8 GB、前は 4 GB。これには 128 GB のフラッシュストレージがそのまま継承されており、$1,499 のモデルの方も引き続き倍の容量の 256 GB を搭載している。上位機種の 13-inch モデルの方も 2.8 GHz dual-core Intel i5 プロセッサに更新されているが (以前は 2.6 GHz)、512 GB のフラッシュストレージ、及び 8 GB の RAM は変わっていない。

13-inch MacBook Pro Retina ディスプレイモデルのカスタマイズオプションとしては、$300 の 3.0 GHz dual-core Intel i7 プロセッサへのアップグレード、16 GB の RAM が $200 で、そして上位機種に対しては 1 TB のフラッシュストレージが $500 で提供されている。

最後に、この 13-inch モデルでは、2012 年以来の非 Retina モデルが引き続き提供されており、$100 の値引きを受け $1,099 となった。これには 2.5 GHz Intel Core i5, 4 GB の RAM, そして 500 GB ハードドライブが付いている。

15-inch MacBook Pro Retina ディスプレイモデルの方は、値段は $1,999 からのままだが、上位機種の方は $2,599 から $2,499 に下がった。ベースの 15-inch モデルは 2.2 GHz quad-core Intel i7 (前は 2.0 GHz) と 16 GB の RAM (前は 8 GB) にアップグレードされ、そして 256 GB のフラッシュストレージはそのままである。上位機種の方も同様に、プロセッサが 2.5 GHz quad-core Intel i7 (前は 2.3 GHz) へと更新された。

下位の 15-inch モデルに対するオプションには、2.5 GHz (追加 $100) 及び 2.8 GHz (追加 $300) quad-core Intel i7 プロセッサ、そして 512 GB (追加 $300) 或いは 1 TB (追加 $800) のどちらかのフラッシュストレージがある。上位モデルに対しては、 2.8 GHz プロセッサが $200 で、1 TB フラッシュストレージが $500 である。

とりわけ Intel の次世代 Broadwell チップセットが遅れているという話を考慮すれば ("Intel の新しい Mac プロセッサが 2015 年まで延期に" 9 July 2014 参照)、Apple が、少々の性能向上と RAM アップグレードをし、そして値段を下げるという標準の方式を踏襲しているのは驚くに値しないであろう。加えて、PC 販売が引き続き落ちていく時に、Mac 販売が前年比で驚愕の 18% という伸びを示したことを考えれば ("Apple Q3 2014 業績、7 四半期で最高の一株利益を計上" 22 July 2014 参照)、Apple は MacBook Pro ラインを毎年考え直す必要はないのであろう。

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"Take Control of FileVault"、FileVault の誤解を解く

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

懺悔の時間である。私は Apple の FileVault 暗号化機能について、大昔に何光年もの遠い所で自分の意見を決めつけてしまっていた。もし当時のことを思い出してみれば (Mac OS X 10.3 Panther!)、頭に浮かぶのは、それはひどいもので、性能問題は引き起こすし、データ信頼性の問題もあり、そしてバックアップの欲求不満と言ったものであろう。これら全ては 10.7 Lion では消え去り、Apple は完全に書き直された FileVault 2 を導入した。FileVault 2 と今では Legacy FileVault と呼ばれるものとの間で唯一共通するものは、その名前、System Preferences でのインターフェース、そして暗号化が関係しているという事実だけである。FileVault 2 は速く、透明性があり、そして Legacy FileVault よりもはるかに安全である。でも、私は FileVault 2 を試してみる気になったためしがない。これに関する問題報告を聞いたことがないにも拘わらずである。強いて理由を挙げれば、私の信頼する場所で FileVault の十分に掘り下げた論議が行われているのを見たことがないからかもしれない。

従って、Joe Kissell が "Take Control of FileVault" を書くという案が出てきた時、私は興奮した。何故ならば、私は、万が一の盗難からデータを保護するために、私の Mac 上では全ディスク暗号化を使っているべきであるという感覚にずっとつきまとわれていたからである。幸いにして、その様なことは未だ起こっていないが、"Take Control of FileVault" を読んでみた今では、私は FileVault を有効化し、それを私のバックアップと統合し (そちらも当然暗号化されているべき!)、そして盗難に遭った場合 Find My Mac とどうやって連携するかを考えておく事に対する抵抗感ははるかに少なくなっている。皆さんも、もし自分のデータを FileVault にそれがどの様に働くのか理解する前に預けてしまうのは心配だというのであれば、Joe の 92 頁の "Take Control of FileVault" が、どの様な誤解も払拭し、疑問にも答え、そして、確信を持って FileVault を走らせられるようにしてくれる。これは直ちに入手可で $10 である。

では、皆さんに質問。もし皆さんの Mac が盗まれたら、その盗人 - 或いはあなたの Mac の故買人 - が、あなたのメール、写真、財務情報、そしてその他の個人情報を見てしまうのを恐れますか? 或いは、顧客の名前や住所、クレジットカード番号、等々の仕事のデータを含む Mac を持っていませんか? いずれの場合でも、FileVault を有効化すべきである。とりわけ、何処へでも携行する MacBook を使っているのであれば、尚更である。ドライブを暗号化しないままでリスクを抱えたまま、コーヒーショップから盗み去られたり、或いはタクシーの中に置き忘れられたりするラップトップは余りに多すぎる。

"Take Control of FileVault" で、Joe は FileVault を手短な FAQ でその神秘性を取り除くことから始める。例えば、色々ある中で、起動ドライブの中の全てのデータは暗号化されているのに、どうして普通に起動ドライブとして使えるのかを説明する。この FAQ はまた次の様な疑問にも答える:FileVault は Mac の性能に影響を及ぼすか (いいえ)、FileVault を使うとどの様な制約が生ずるか (一例をあげれば、自動ログインは出来なくなる)、実際にデータが保護されているのは何時か (静止時、では "静止時" とは何を意味するか)。FAQ に続いて、Joe は FileVault を起動ボリューム及び外付けドライブの双方で有効化し使用する詳細手順を提供する。彼はまた FileVault が皆さんのバックアップとどの様にやり取りするのか、そして FileVault をオンにした後、盗まれた Mac のドライブを Find My Mac を使ってロックしたり或いはワイプしたりする方法も説明する。

"Take Control of FileVault" のその他の題目として、暗号化ディスクイメージを作成し使用する、単一ファイルやフォルダだけを暗号化出来るサードパーティソフトウェア、そして特別な FileVault 機能にコマンドラインからアクセスすることが含まれる。

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"Take Control of OS X Server" の Chapter 9、入手可に

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

私は Charles Edge の "Take Control of OS X Server" を編集していて、これ迄のところは自分なりにもかなり知識があると思っていた。と言うのも、だいぶ昔になるが私も OS X Server を使ったことがあるし、それにインターネットサーバーの運営には何十年も携わってきたからである。しかし、今週分の Chapter 9, "Mobile Device Management" は、私にとっては目を見張るものであった。OS X Server の Profile Manager サービスは、OS X Server のより複雑なものの一つである - そしてより有用でもある! 何故ならば、これを使えばシステム管理者は複数の iOS 機器や Mac を、統一性のある設定や規則に基づいて設定出来るようになるからである。これは私がこれ迄いじってみる機会を全く持てなかったものでもある。

例えば、まとまった数の iPad に対して無線でプッシュ出来る設定のリストは巨大であり、そしてこれはその様な機器を持っている組織ならどこでも使っているべきものである。他にも沢山ある中で、アプリや Web クリップを機器にプッシュ、パスコード規則の設定と施行、メール設定の構成、機器の制限、そして機器を遠隔で解錠、施錠、或いはワイプするのにすら使える。

Charles は、まず Profile Manager を有効にすることを読者に説明するところから始めるが、これは OS X Server の多くの他のサービスよりも少々ではあるが込み入っている。次の段階は、機器を Profile Manager に登録することである。これが終わったところで、Charles はこれらの機器を管理する方法を説明するが、管理は Server アプリの中ではなく、Web ベースのポータルの中で行う。これは難しくはないが、全てのオプションを理解し、そしてどの設定と規則を配布するのがよいかを決めるには相応の時間を費やす必要がある。

Chapter 1, "Introducing OS X Server" と Chapter 2, "Choosing Server Hardware" は、この本の行く先を見て貰うために誰にでも見て欲しいと思うが、それ以降の章は現時点では TidBITS 会員限定である。もし既に TidBITS 会員であるならば、参加した時のメールアドレスを使って TidBITS ログインして欲しい。"Take Control of OS X Server" 電子本の完成版は、完了時点に PDF, EPUB, そして Mobipocket (Kindle) フォーマットで一般向けに売り出される。出版済みの章は以下の通り:

執筆進行に合わせて、この本の全容を TidBITS 会員に対して出版していくのは、我々が TidBITS 会員に対し彼らの支援に感謝の意を表す一つの方法に過ぎない。我々はまた TidBITS を長年無料で読んでこられた方々に対しても、これがきっかけで、毎週読み慣れた専門的に書かれそして編集された記事を引き続きお届け出来る手助けをする気になって頂けたらと願っている。会員プログラムが我々にとっては何を意味するかの更なる詳細については、"2014 年の TidBITS を TidBITS 会員プログラムを通して支援して" (9 December 2013)) を読んで欲しい。

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Microsoft、Office for iPad アップデートで顕著な苦情に対応

  文: Julio Ojeda-Zapata: [email protected]
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

Microsoft Office for the iPad は、4 ヶ月前にリリースされ、概して肯定的な評価を得ていたが (私の "iPad 用 Office: 詳しく見てみよう" 3 April 2014 も含まれる)、当たり前に期待されるそして重要な機能を欠いていた。それがこの程、 しっかりしたアップグレードを受けた。

このスイートのアプリ三つ全部 - Word, Excel, そして PowerPoint - に対する新機能には、PDF へのエクスポート、サードパーティフォントへのサポート、そしてリセット制御付きの画像トリミングツールが含まれる。PDF エクスポート機能は、Office 365 加入者でなくとも使えるが、これへの加入は Office for iPad の殆どの機能に対して必要とされている。

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その他のアップデートは Excel と PowerPoint に焦点を当てている。Excel for iPad には、ピボットテーブル、行や列にまたがるデータを選択するためのフリック動作、外部キーボードへのサポート、そして拡張された印刷オプションが加えられた。

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PowerPoint for iPad には Presenter View が加えられ、プレゼンテーションを続けながら、メモを見たり編集したり、次のスライドを先に見たり、そして他のスライドに跳んだりする事が出来る。このアプリはまたプレゼンテーションの間にビデオやオーディオを再生させてくれ、Camera Roll からビデオを挿入、ハイパーリンクを追加そして編集、そしてプレゼンテーションの間に注記を付けたり取り除いたりするための新しいペンと消しゴムの設定を使わせてくれる。

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Microsoft はこれより前にもう一つの重大な欠点に対応して、印刷サポートを追加していたので、このアップデートで、同社は Office アプリにあった最大の穴を塞いだことになる。

以前私は、他の Office for iPad に存在する重要性はそれ程でない欠点を指摘したが、これらの多くはそのまま残っている。その中には次のものが含まれる:全てのアプリに関係するが、アプリの中からカメラにアクセス出来ない、コンテンツを非 Microsoft アプリに手渡す Open In 機能がない;更に言えば、書類共有はメールに限られる (リンク、または添付書類として) がある。

私には、Microsoft が OneDrive (以前は SkyDrive として知られていた) 以外の如何なる Web ベースのファイル共有やバックアップサービスを提供するとは思えない。Apple や Google も、Dropbox の様な独立のサービスより自前で提供する同様のサービスの方を好むので、これは特にビックリする話ではないかもしれない。

Microsoft はまた iOS 及び OS X バージョンの OneNote に対してもアップデートをリリースした。OneNote は無料のメモ管理アプリで別個に提供されているが、その外観と感触は Office 版のものとほぼ同一であり、どこから見ても一つの Office アプリである。

OneNote アップデートには次のものが含まれる:OneDrive for Business 及び Office 365 ノートブックに対するアクセス;OneNote for Windows で作成されたパスワード保護されたコンテンツの解錠;書類の添付、PDF も含まれる;メモ管理の改善、再配置も含まれる;そしてコピペの改善である。OneNote for Mac では、PDF 添付書類としてだけではなく、メールメッセージの本体としてメモを送信することも出来る。

しかし、OneNote は、私の信頼するメモ取りアプリ Evernote から私を改宗させるには、"Microsoft の OneNote が Evernote に挑む" (6 May 2014) でも結論づけた様に、まだまだ道遠しの状態にある。

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スマートウォッチを四つ比較: Cookoo、Martian、MetaWatch、i'm Watch

  文: Jeff Porten: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

一年と少し前、私はウェアラブルコンピューティングで次に来るものは何かという考察を、TidBITS 記事“身につけるコンピューティングの社会の未来を考察”(2013 年 5 月 29 日) に書いた。その中で私はスマートウォッチの方が Google Glass のような頭に取り付けるシステムよりも早く浸透するだろうと予測した。そして今日、いずれも市場浸透率はごくごく僅かなものに過ぎず、まだ判断するには時期尚早だけれども、どちらの市場がより活発かという点についてだけは私に預言者の才があったと言っても差し支えないだろう。出荷されたテクノロジーとして現在実際に入手できるものをずらりと概観できる時期は既に来ている。製品化されたスマートウォッチの中ではおそらく最もよく知られた Pebble については、Steve McCabe が記事にしている(2014 年 6 月 29 日の記事“Pebble スマートウォッチがあなたの手首に通知を出す”参照)ので、ここではそれ以外の四つの候補について検討してみたい。

私は今年の初めに International CES に参加し、TidBITS のために「ウェアラブルテクノロジーについて」記事を書こうというぼんやりした計画を頭に描きつつ会場に着いた。(2014 年 1 月 6 日の記事“CES 2014: CES Unveiled と Startup Debut から”参照。)けれどもその計画は、たちまち「スマートウォッチについて」という目標に縮小された。なぜなら、たとえ五十人のチームであってさえ、何百もの出展者たちがそれぞれにウェアラブルの大発明と称している状態を記事にまとめることなど不可能だったろうからだ。残念ながら、彼らの多くは(例えば iPhone ケースなど)全く関係ないものをそう称していた。CES では情報よりマーケティングが優位となるのが常だからだ。そうだとしても、フィットネス用のウェアラブル機器を本当に発表していた出展者たちも何十といたので、やはりそれをすべて記事にするのも無理だった。(それに私のジャーナリストとしての得意分野でもない。私のフィットネスの習慣は、素敵な歩数計アプリ一つですべてカバーできる程度のものだからだ。)

今でさえ、このレビュー記事をスマートウォッチに限定し、私の手首から肘までずらりとそれらを並べて装着してみても、きっと鋭い読者には抜けているところを気付かれてしまうことだろう。そこで、このレビュー記事では、有名なモデルと無名のモデルをいくつか選んで、他のものは無視することにした。選択の基準は、はっきり言ってレビュー用のモデルをその会社が私に提供してくれたかどうかで決まったようなものだ。もしも他のものについてお知りになりたければ、The Verge が 2013 年のスマートウォッチとウェアラブル機を総まとめした素晴らしい記事があるのでそれをご覧頂きたい。

この記事の執筆時点で、Apple iWatch が登場することもなく WWDC が既にやって来て通り過ぎているが、 10 月になる前に iWatch が発表されると予言する人たちもいる。個人的に、この種の噂は何十も聞いたことがあるので、この目で見るまでは信じないと私は思っている。けれども、Apple iWatch がどんなものであるべきかについては、この記事の最後で少々考察してみたいと思う。

本当のところ、スマートウォッチとは何か? --これこそ、あなたが身に着ける最初のコンピュータになることを目指してさまざまの腕時計が競争しつつある中でスマートウォッチ市場を悩ませている一番の疑問だ。ただ、スマートウォッチにあって欲しいと思う明白なものとして、はっきり飛び抜けて見える機能はいくつかある。

スマートウォッチは役に立つ情報を表示する。 MetaWatch はマーケティングのキャッチフレーズとして "the art of the glance" (一目で見る技術) を使っているが、私はこれこそ完璧な要約だと思う。腕時計には常時オンの小さなディスプレイがあって、ほんの一秒かそれ以下で見ることができる。手首をサッとフリックしてシャツの袖口をどければ、どんな腕時計も日付と時刻を知らせてくれ、それと同時にまわりにいる人たちに対してあなたのファッションスタイルを伝える仕組みとしても働く。

どんなスマートウォッチも、ただ単なる日付と時刻以上のものを提供することを目指している。けれどもここで鍵となる質問は、どの情報をあなたに知らせるかをどうやって決定すればよいのかということだ。最も賢いモデルでは iOS や Android の通知システムを利用して現在どのデータが意味あるかを選び出している。標準的な時計の画面を通知のディスプレイに変え、到来する通知のタイプに基づいてその画面が変わる。その他のモデルではあなたがタップしたり、スワイプしたり、あるいはボタンを押したりしてディスプレイからディスプレイへと切り替える。これは、おもちゃをいじくる余裕がある状況でならばうまく働くけれども、手首の上でブザーが鳴っているのがなぜか知りたいだけの場合にはあまりうまく働かない。

残念なことに、いずれのスマートウォッチも、そのターゲットとする市場においての水準に達していない。スマートウォッチはどれも、全体的な腕時計市場の標準に比べれば大きくて格好悪い。つまり、かの Andy Ihnatko が Q&A ポッドキャストの中で指摘したように、女性が着けるのに相応しいモデルは皆無だ。あるいは少なくとも、私がレビューの対象にしたモデルはすべて自分の(男性の、平均よりは太い手首の)標準より少々大きいと感じられたけれども、女性がそのどれかを手首に着けようと思えばその人は私よりもさらにもっとファッションに無頓着な人でなければならないだろう。女性向けのサイズのスマートウォッチを誰かが考え出すまでは(それが可能となる方法についてはこの後で考察する)スマートウォッチが普通に感じるとか大きいとか格好悪いとか私が言うのは、男の気持ちで言っていることだと了解して頂きたい。

スマートウォッチは制御画面を提供する。これが、スマートウォッチが最も苦闘する個所だ。つまり、そうしようと試みるスマートウォッチならばすべてここで苦闘する。ほとんどすべてのスマートウォッチは低電力 Bluetooth LE (Bluetooth low energy) を使って iPhone や Android フォンとコミュニケーションし、あなたがボタンを押したり、タップしたり、スワイプしたりすることによりスマートフォンとコミュニケーションして制御できるようにする。

これらすべてが一つのスクリーン、つまり大きめのサイズのスマートウォッチならば対角線で 50 mm (2 インチ) かそれ以下の小さな画面で起こる。iPad から iPhone へ移った時の、閉所恐怖症に似た感覚をご存じだろう。スマートウォッチを使えばそれが間違いなく起こる。240 ピクセル平方でさえ 巨大な スクリーンなのだから。iPhone に当てはめて言えばそれは iPhone 5 の画面の面積の 1/13 だ。Pebble の 144 × 168 ピクセルのスクリーンは白黒で、表示領域のピクセル数は 24,192、これは 1984 年の 128K Mac の解像度、つまり 512 × 342 でピクセル数 175,104 と比べても 1/8 ほどだ。

言い替えれば、タップ可能なタッチスクリーンをスマートウォッチのコントロールインターフェイスとして使うのはあきらめなければならない。そんなものを使えば、細かい点を指し分けられるほど細い指を持っているのでない人たちには事実上使いものにならなくなってしまう。ということは、現行世代のスマートウォッチにおいては、そのソフトウェアがボタンと ひょっとしたら (タップでなく) スワイプとを使って諸機能をナビゲートできるようにうまくデザインされているかどうかが成否の分かれ目となる。それは、単にどの情報を表示するかを決める機能についてさえ、かなり困難なことだ。その上 iPhone をコントロールしようとなれば、さらにもっと厄介で難しい挑戦となる。

スマートウォッチは腕時計だ。スマートウォッチのメーカー各社をがっかりさせようというのではないが、クリスマスを迎えた子供のようにはやる心でいくつかのスマートウォッチを自分のものにした新し物好きの経験として言わせてもらえば、私は 1990 年代中頃に初めて携帯電話を買ったが、それ以後に普通の腕時計を身に着けたことは一度もない。私のコンピュータもその他の機器も皆セルラーネットワークで時刻を同期し、原子時計による 正確な 時刻を知らせてくれる。いったいなぜ、そのたった一つの機能だけを複製した機器をもう一つ持っていなければならないというのか?

スマートウォッチは、私が腕に 何らかの 時計を着ける習慣に戻れる程度に便利なものでなければならない。(しかもその価格を上回れる程度に便利でなければならない。現状は「たぶんそれじゃ買う気がしないだろう」から「冗談じゃない高過ぎるよ」までの間だ。)それに、私の場合はさきほども触れたようにファッションの基準がかなり低いけれども(T シャツとジーンズにも似合うだろうか?)他の潜在的購入者たちの中には手首に着けるもののファッション性にそれほど寛容でない人たちもいるだろう。

では、個々のレビューに移ろう。四つのモデルを、大まかに見て「賢さ」が最小のものから最大のものへという順番に並べてみた。だからと言って絶対にそれは「良さ」の順という訳ではない。このレビュー記事で扱うスマートウォッチのほとんどすべては、少なくともその一部の機能についてあまりにも賢過ぎるという欠点を持っている。機能をもっと減らし、より焦点を絞ったものにすればもっと良くなるだろうにと思う。

The Cookoo -- ConnecteDevice の製品 The Cookoo は、アナログ時計でその文字盤の下に固定された一連の LCD 表示が隠れている。「固定された」というのは、それ自体ディスプレイと言えるものは何もないということだ。その代わりに、六個のアイコンがあって、それを点灯させることで iPhone 上に通知が出ていることをあなたに知らせる。あなたはそれを見て、iPhone を使って実際その通知が何かを見なければならない。ディスプレイがないということで、この Cookoo にははっきりとしたデザイン上の利点がある。これは内蔵の二個の時計用バッテリのみで動作し、充電の必要が一切ない。The Cookoo の価格は同社のオンラインストアで $129 だが、例外として $249 の「限定版」があり、違いは緑色だというだけだ。

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The Cookoo の仕様によれば時計部分の直径が 44 mm (1.73 インチ) で、ちょうど良い大きさだと思うが、厚みは 16 mm (0.63 インチ) とかなり厚過ぎる。おそらくこれは文字盤の特別機能のためなのだろうが、もっと薄い筐体になればよいのにと思う。

この時計は Bluetooth 経由で iPhone 上の Cookoo アプリに接続する。このアプリで、どの通知が時計の上に表示されるかを設定でき、少なくとも理論的には時計のファームウェアをアップデートすることも可能だ。(ここで「理論的には」と言ったのは、私が時計をペアリングした際にアップデートに失敗したからで、どうすれば再度試みられるのか私には分からなかった。)ペアリングの操作はアプリから実行し、これは魅力的な感じすらした。Bluetooth 設定など一切いじることなく当初のセットアップができる。

とは言うものの、この Cookoo 流の通知方法に誰が興味を惹かれるのか、私は理解に苦しむ。時計の上に表示される情報の量は、スマートフォン自体がポケットの中でバイブレーションして知らせてくれるものと大差ない。確かに、テキストメッセージと Facebook 通知の違いは分かるけれども、重要な電子メールと頼んでもいないのに届く他の電子メールとの違いは分からない。到達範囲外の警告は意図的に Bluetooth を切った場合にもスマートフォンを忘れた場合にも出る。なので、私が初めて Cookoo を試した際には古いバージョンの接続ソフトウェアを使っていたので、手首の上でほとんどひっきりなしにブザーが鳴って散々気を散らされた。今ではブザーをオフにすることができるようになったけれども、それはカテゴリーごとにしかオフにできない。例えば電子メールの警告ならばそれがすべてオフになる。ここには飛び切りの機能が一つ欠けている。つまり、すべての通知を通すのではなくて、VIP リストに載っているものによる通知のみ通すようにすれば素晴らしいのではなかろうか。そうなれば Cookoo の文字盤アイコンが大幅に便利なものとなるだろうに。

同じように、この Cookoo は iPhone に何を命じることができるかにおいても足りないところがある。説明書によれば、コマンドボタンをアプリで設定することによりどこへ行ったか分からない iPhone を見つけたり Facebook にチェックインしたりできるとのことだが、私がアップグレードした際の問題からかもしれないが、その機能を使うことはできなかった。腕時計から遠隔で写真を撮影させることはできたけれども、そのためにはあらかじめ Cookoo アプリを設定し iPhone のカメラの位置決めをしておかなければならないので、それならば専用の写真アプリを使った方が良いような気がした。

だから、私は Cookoo がどんな人のために作られているのか、まだよく分からないでいる。テクノロジー好きの人たちにとっては賢さが足りないしカスタマイズの範囲が十分でない。そういう人たちは、Cookoo のディスプレイが役に立つ程度よりも遥かに多くの通知を受けているだろう。あまり多くの通知も受けないし、スマートフォンを持ち歩かないことも多い(ただし Bluetooth 電波の到達範囲内にはいなければならない)というタイプの人にとっては便利かもしれない。きっとそれが理由で、 親切だけれども忘れっぽい祖父が登場する Cookoo の宣伝ビデオが私の印象に一番強く残っているのだろう。これは、通知をめったに受け取らないような人たちに最も適しているように思えるからだ。でも、そもそもそんな人がスマートウォッチなど持ちたいと思うだろうか?

Martian ウォッチ -- Martian の Voice Command 腕時計シリーズ には $249 から $299 まで三つのモデルがあり、いずれもアナログ時計の文字盤と、LED 通知ウィンドウ、それに双方向の手首無線機を備えている。つまり、ここに内蔵されたマイクロフォンとスピーカーを使いながらまず頭に浮かぶのは、Dick Tracy だ。私は $299 の Passport をレビューした。これは三つのモデルの中で最も正装に合うタイプだ。同じく $299 の Victory は Passport の正方形のデザインの代わりに丸い形になっていて、$249 の G2G は正方形ではあるがさまざまのバブルガム風カラーのタイプがある。

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Martian は内蔵の時計用バッテリでアナログ時計を駆動するが、スマート通知や Voice Command 機能を働かせるためには micro USB 経由で充電する必要がある。そのための micro USB スロットにはカバーが付いていて、見た目は壊れやすそうだが私のテストでは外れるようなことはなかった。これよりもっと「賢い」スマートウォッチと比較して、充電を忘れたとしても肝心の時計機能が動き続ける(正確な時刻も表示し続ける)のが素晴らしい。

この Martian を iPhone とペアリングするにはまず Settings > Bluetooth を使い、その次に Martian アプリで設定をする。どの通知を腕時計に送るかをこのアプリで選べるけれども、ごく限られたリストから、つまり Facebook、Twitter、Calendar、Reminders、それに一つの電子メールアカウントからしか選べない。私は Messages でなく Google Voice を使っているので、常時オンの SMS 通知に iMessages が含まれるのかどうかテストできず、また対応外の Google Voice SMS 通知は受信できない。これらの制約は IFTTT の自動化アクションをうまく使えば回避可能かもしれないが(2013 年 12 月 20 日の記事“今は IFTTT がインターネットを自動化、でも次はどうなる?”参照)少なくとも通知に関するコントロールが欠けている点は Cookoo と同様に不満だ。

左下側のボタンを押せば、腕時計内蔵のディスプレイに現在の設定、世界時計(またはアナログ時計部分では省略されている現地の日付)と現在の気温が表示される。二度続けて押せばメニューが表示され、腕時計の設定の一部を変更したり、あるいは腕時計をカメラの遠隔シャッターボタンとして使ったりできる。(これは毎回 iPhone からのアクセス権リクエストを出すので、とてもハンズフリーとは言えない。)

左上側のボタンは Voice Command 機能を呼び出す。これを押せば、腕時計内蔵のマイクロフォンが直接 Siri に接続される。静かな環境の中でならばほぼ普段と同様に Siri を使いこなせるが、ビジュアルなフィードバックはない。また、このボタンは普通の Bluetooth ヘッドセットと同様に腕時計で電話に出るためにも使える。こちらの使い方ではより多くの問題点に遭遇した。私がハンドセットを使って電話に出ようとしても、電話が腕時計に転送されてしまうことが一度ならずあったからだ。

この Voice Command 機能は賢いけれども、私はあまりにも賢過ぎると思った。静かな環境にいたとして、iPhone に内蔵された素晴らしいスピーカーとマイクの代わりに、わざわざ腕時計のスピーカーとマイクを使いたいと思う人なんているだろうか? Martian は例えば「ジョギング中に手早く電話に出たいとき」に便利だと言っている(これぞ心象というものだ!)けれども、私と同じ考えの人たちのために同社は $129 の Notifier 腕時計シリーズ も出していて、こちらでは音声コントロール機能がすべて省かれている。私は Notifier よりも Passport の見栄えが好きだが、全体的に見て、私は音声機能を省いた方がより良いスマートウォッチになると思う。

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MetaWatch -- MetaWatch は、現在 Pebble との争いで競いつつある最中のスマートウォッチだ。これはまた、Pebble 以外で実際に誰かが身に着けているのを私が見たことのある唯一のスマートウォッチでもある。これは驚くなかれ 96 × 96 のディスプレイを持ち、もしも Retina スクリーンの上で見れば虫眼鏡が必要となることだろう。ただ、巧みなフォントの使い方とスクリーン上の位置取りのお陰であまり不格好には見えない。

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この MetaWatch は Bluetooth 経由で iPhone 上のアプリと同期する。同期は素早く、これは良いことだ。MetaWatch がバッテリ切れになって充電が終わる度に、毎回 iPhone との同期をやり直さなければならないからだ。充電は二・三日に一度で十分だが、ドングルを micro USB に繋いでからそのドングルに文字通り腕時計の前面と後面を挟み込んで充電しなければならない。きちんと使えるけれども、なくさないかと心配なドングルがまた一つ増えてしまう。

この MetaWatch の良い点は、アプリを選択して表示させるための巧妙なデザインだ。四つの仮想スクリーンが 2x2 のグリッドに分割されており、設定は iPhone 上でする。この腕時計用のアプリはウィジェットと呼ばれるが、1x1、1x2、2x1、2x2 のいずれかなので、2x2 の正方形の中に収まる限りそれらを自由に組み合わせて使うことができる。私の MetaWatch の設定は、最初のスクリーンがフルスクリーンの時計で、第二のスクリーンが時刻と天気と iPhone のバッテリ残量、第三のスクリーンがフルスクリーンのカレンダー、そして第四のスクリーンがフルスクリーンの天気予報だ。

通知が到着すると、一時的にそれがスクリーンを占領し、小さいものから極小のものまでどれかのフォントを使ってメッセージの重要部分が表示される。ディスプレイにはもともと限界があるけれども、このスクリーンは周辺光でも内蔵の LED でも読みやすい。ただし一つ奇妙なところがあって、ガラスに押し付けられた黒いピクセルが鏡面効果を持つので、角度を付けて MetaWatch を見ると変な具合に見える。MetaWatch アプリにあるコントローラはありがたい機能で、どのアプリが腕時計に通知を送れるかをコントロールできるので、手首の上に何が登場するかについて細かな制御ができる。

もう一つの良い点は、MetaWatch が多彩なウィジェットを付けて出荷されることだ。これまで紹介したものに加えて、スポーツや株式のウィジェットもある。悪い点はアプリストアのようなものがなく、新たなウィジェットを入手する方法もごく限られていることだ。例えば、プレイオフの最中に MetaWatch は NBA の得点経過を表示するウィジェットを出していたけれども、World Cup の結果を表示するウィジェットはどこにもなかった。また、時計の文字盤の選択肢も Pebble ほどいろいろのものからは選べない。

とは言うものの、MetaWatch には使って便利と思えるに十分な機能性が含まれていて、私は他にあったら加えたいと思えるようなウィジェットを考え付こうとしてなかなかうまく行かないでいる。だからこそ、ウィジェットのアプリストアがあればもっとアイデアが浮かぶと思うのだが。

MetaWatch は現在 Best Buy からと MetaWatch オンラインストアから入手可能だ。価格は $179 から $299 までだが、Best Buy では $79 から $99 までと宣伝している。オンラインストアでは在庫切れの表示から Best Buy への直接リンクに切り替わっているが、これはひょっとすると 2014 年 1 月の CES で実演されていた、より高解像度の MetaWatch 2 のリリースが迫っている予兆なのかもしれない。

i'm Watch -- イタリアの会社 i'm S.p.A. の製品 i'm Watch は 2013 年の International CES で大きな注目を集めた。その注目は、同社が $389 もする腕時計を多数用意して記者会見に出席した人たちに無料で配っていたことと関係があるかもしれないし、ないかもしれない。それから一年が経ち、i'm Watch の価格は現在 $349 (チタン製バンドのバージョンは $1,199) となったが、今は大してメディアの注目を集めていない。その理由は、他の批評家たちも私と同じことに気付いたからかもしれない。2013 年のバージョンでは、役に立つようにするのが不可能だったからだ。

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パッと見たところでは、この腕時計はゴージャスだ。Apple 製デバイスと同程度の機械加工がされ、シリコン製のストラップは完璧に機能すると同時に魅力的でもある。52.9 mm × 40.6 mm (2.08 × 1.6 インチ) と、ほとんど滑稽なほど大きく、そこに 240 × 240 ピクセルの Android 画面を 220 ppi で収める。USB 充電ケーブルがそのオーディオジャックを通じて充電できるのが素晴らしい。多数のアプリが付属しているが、オンラインマーケットを通じて他のアプリを入手することもできる。四分間ほど暇な時間があるなら、このマーケティング用ビデオでこの製品がどんな風に見えるかが分かる。最初は、まるで天国から来た恵みのスマートウォッチのように見える。

問題があるかもしれないと最初に気付かされるのは、i'm Watch の「腕時計」機能を使おうと試みるときだ。そのために、両手を使ったジェスチャーが必要なのだ。バッテリを節約するために、画面はほとんどの時間オフになっている。いったん画面が表示されれば、デフォルトの表示は時刻と気温を示し、加えて変更不可能な三つのデフォルトボタンがそれぞれ電話、電子メール、連絡先へのアクセスを提供する。左へスクロールすればあらかじめ選んでおいた四つのアプリが使え、右へスクロールすればすべてのアプリのリストが出る。しかしながら、これらのアプリのいずれもこの腕時計の中では設定できない。その代わりに、i'm Cloud ウェブサイトにログインして設定を作成しなければならない。i'm Watch はあなたの iPhone から連絡先情報を取り込めるが、統合はそこまでで終わりだ。電子メールやカレンダーを見たければ、一つの Gmail アカウントと同期させなければならず、同期は一つのアカウントとしかできない。

iPhone とのペアリングはせず、むしろ Bluetooth 上のインターネットテザリングを通じてそれと同等の機能を得ている。その結果 iPhone のバッテリは Bluetooth ペアリングを使った場合よりも減り方が大きくなるが、i'm Watch 自体も普通の使い方で毎日二度ずつ充電し直す必要があるので、iPhone も同時に充電し直すとなれば、これは相当な時間がかかる。

i'm Watch は Facebook や Twitter と統合しているが、私はすぐにそれらのサービスをオフにしてしまった。iPhone になら何十もの通知が出ても平気だけれども、i'm Watch の上に一度に二つずつ出るのではあまり役に立たない。その上、返信できないし、他に何も できない という問題がある。i'm Mail にも同じ問題がある。ただ、電子メールは(短くてテキストのみのものならば)通知よりずっと読みやすい小さなフォントで読めるのだが。Weather アプリが気温を表示できるのはたった三つの都市のみで、その最初の都市のみがホーム画面に登場している。「現在位置」という選択肢はなく、ホーム画面に登場する都市を変更したければ、もう一つ別の設定で削除しなければ、二度登場することになってしまう。

i'm Watch を擁護する意味では、「今後数年のうちにソフトウェアが改良されれば、これは真の意味で卓越した機器になるかもしれない」と私は思った。けれども残念ながら、彼らが作った 新しいビデオチュートリアルを見ても、何かが改良されたという兆しは見えない。最も重要なことには、このビデオをよく見ると、非常に小さなスクリーンで Android デバイスを設定して使いこなすのがどれほど難しいかが分かる。この i'm Watch は、エンジニアリングの妙技としては印象的だが、残念なことにその結果は標準以下の製品で、新し物好きたちでさえ使ってフラストレーションと制約を感じるものとなっている。

勝ったのは誰か -- さきほども述べたように、男性用には現在でも良い選択肢がいくつかあるが、女性たちはもっと慎重にならざるを得ない。この記事を書いている時点で、Pebble と MetaWatch は多くの人たちがスマートウォッチに期待するものの観点からは互角と言え、デザインへの取り組みが違うことによりそれぞれに異なる長所と短所を備えている。私の予想では MetaWatch が間もなく新しい、より高解像度のモデルをリリースすることでいくつかの面では前進することになるのではないかと思うが、Pebble の方はアプリの選択肢の多様性の点で優勢を守るだろう。直接対決させるとすれば、個人的な好みによってどちらが選ばれてもおかしくないだろう。

ダークホースの競争者で、独自のレースを展開しているのが Martian だ。これは私が見た限り、もちろんレビューした限りでも、唯一「正装用のスマートウォッチ」と主張できるものだ。通知を表示していない間は、その LED 画面は大体においてまわりに溶け込んで消え、その「スマート」モードにおいてさえサッと見ることができて邪魔にならない。Pebble や MetaWatch は、いくら筐体を洒落たものにしても、依然としてそれは手首の上に乗ったコンピュータだ。けれども Martian は、あくまでも素敵な腕時計だ。Withings Activite にも、見栄えが素敵だという点で評価を与えてよいだろうが、この腕時計には生体センサーが含まれているだけで、スマートウォッチの機能は実際何もない。

理想のスマートウォッチとは -- 他の誰もが、例えば The Verge も、同じことをしているようなので、私も危ない橋を渡ることにして自分が理想とするスマートウォッチがどんなものかを提案してみたい。そしてお察しの通り、私はそれを Apple ならどうするだろうかという観点から考えてみることにする。もちろん、それは同社がこの常軌を逸したビジネスに乗り出そうという決断をした ならば の話だ。でも、私はどんなスマートウォッチのメーカーでもそういうものを作ってくれれば嬉しい。

まず第一に、その「理想のスマートウォッチ」は高解像度のカラースクリーンを持っているだろう。現時点でそれを実現できたスマートウォッチが Android のみだというのはちょっと皮肉だが、私が持っているものや、これまで読んだことのあるレビュー記事を見る限り、それらはどれもひどいものばかりだ。その理由は、Android スマートウォッチがいずれも、ディスプレイがどんなに素敵なものであっても、まっとうな 入力 に対する再構成ができないからだ。この点は、最初の世代の Android Wear スマートウォッチが市場に到来すれば改善されるのではないかと私は思う。でも、それらのデモは美しいけれど、実際に世の中で使われるようになってみなければ肝心なことは分からないものだ。開発最先端のリリース、LG GSamsung Gear Liveの当初のレビューを読めば、どうやら i'm Watch と同じくかさ高いハードウェアと短いバッテリ寿命を脱することができないでいるようだ。けれども、手首をタップするだけで Google Now が出るなら、それは将来のハードウェアにおける突出した機能となるかもしれない。

「Retina 風」のディスプレイをこっそりと計算してみれば、紳士用の腕時計に 1024 × 768 のディスプレイを付けてもレンガ大にはならず、女性用の腕時計でさえ 640 × 480 が実現できるかもしれない。

この時点で、既に「理想のスマートウォッチ」は 2014 年内の計画対象範囲を超えている。もちろん、一個 $300 を超えない程度の価格でと仮定すればの話だ。今日、手頃な価格で買えるスマートウォッチに白黒のスクリーンしか付いていないのにはちゃんとした理由がある。おそらく Apple なら極小サイズのカラーディスプレイを誰よりも安く得られるようにできる供給チェーンを持っているのではなかろうか。でもたとえそうだったとしても、いつから Apple は価格で競争するようになったのか?

第二に、革新的な入力の仕組みが必要となる。The Verge の作った模型はベゼル(腕時計の周囲の枠)のダイヤルをスクローラーとして使っている。私には、これでは「どのボタンを押せばどうなるのか?」という疑問を脱することのできないただの厄介ものにしか見えない。 Garmin Forerunner 410 GPS 腕時計はタッチベゼルを使っているが、大体において嫌われている。同社は次の世代の製品ではタッチベゼルを廃止して、その代わりにスクリーンのタップと物理的ボタンに依存することにした。

腕時計で最も簡単な操作は何かといえば、それは文字盤へのタップだ。(実際 Garmin が現行の Garmin Forerunner 620 でしたことの一部はそれだ。)私が欲しいのは、タップ一つでユーザーが選んだお気に入りのアプリが開く、そういうスマートウォッチだ。もっと手の込んだものにしたければ、文字盤を半分、三分の一、あるいは四分の一(それ以上はいけない)に分割していくつかのアプリを開けるようにすればよい。思い出せるように小さなアイコンをスクリーン上に描いて示しておいてもよい。ダブルタップすれば音声インターフェイスに切り替わる。その音声インターフェイスはスマートフォンへのパッチによるので なく、スマートフォン自体に組み込まれたものであるべきだ。それはたぶん 50 語程度を理解し、それぞれが個別の機能を呼び出すようにする。

あなたのスマートウォッチにどんなにたくさんのボタンやダイヤルが付いていても、私にはどうでもよい。カレンダーには "[tap] [tap] tomorrow"、天気予報には "[tap] [tap] weather"、それ以上シンプルなものがあるだろうか。もしもアプリの動作に Siri が必要なら、例えば "[tap] [tap] phone" が必要なら、それは内蔵の音声認識が仕事を済ませた 後に アクティベートされ Bluetooth 接続されるべきだ。(ちなみに、これこそ Android Wear が一歩先んじていると思われるところだ。腕時計に向かって "OK Google" と話しかけるのは、タップするよりもっと簡単だからだ。でも、私としては聞いてもらえるまでに四回も繰り返し話しかけなければならないのでないことを納得するまでは自分の触覚に基づく方式に頼りたいと思う。)

第三に、価格の問題も重要だ。私がこの記事で挙げたものの研究開発と製造は、簡単に $500 の腕時計という結果になってもおかしくないものであった。けれどもそんな価格では、新し物好きたちが一台ずつ買うのみの極めて小さな市場しか生み出さず、忘却の彼方に見放されたかもしれない。けれども、そうでなかったかもしれない。

誰がするにせよ、最初の「理想のスマートウォッチ」を成功させる人は Apple の価格戦略を採用すべきだろう。初代の iPhone の価格は $700 だった。けれども今では、二年間の契約付きならば無料で一台(最高の機種ではなかったとしても)手に入れられる。私が思うに、最初の世代の「理想のスマートウォッチ」の価格は $500 というのが妥当だろう。それは、第一世代の Google Glass の $1,500 という価格が妥当なものでなかったということだ。あれは早期採用価格、ほんの少数の人たちのみが手にする最高級の道具のためのものであって、一年か二年後には同じモデルがずっと安くなるべきものだ。

その一方で、私は Pebble や、MetaWatch や、Martian がそれぞれに異なるデザインや解決法を $100 から $400 の価格帯で出しているのを素敵なことだと思う。将来、「理想のスマートウォッチ」のメーカーが彼らと価格で競争するようになる頃には、これら三つのスマートウォッチもそれぞれのデザインを改良して機能で競争できるようにしたり、あるいは少なくともデザインをもっと洗練させてまさに あなたが 望むスマートウォッチにしたりという風になることを願いたい。

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FunBITS: Kindle Unlimited にはかなり限界あり

  文: Josh Centers: [email protected], @jcenters
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

私は先週休暇を取った。それは読書の遅れを取り戻せる素晴らしい機会であった。わりと新しい私の Kindle Paperwhite (私の当初の印象は 2013 年 9 月 3 日の記事“Amazon、新しい Kindle Paperwhite を発表”参照) のビーチ向け機能(Amazon はこれらの機能をずっと以前から宣伝していた)を試してみる絶好のチャンスだし、最近開始された Kindle Unlimited サービスを試してみるチャンスでもある。

Kindle Unlimited は、 OysterScribd のような購読による書籍サービスに対する、Amazon による答だ。(Michael Cohen による Oyster と Scribd の紹介は 2013 年 10 月 25 日の記事“FunBITS: Scribd と Oyster が電子ブックの Netflix を目指す”参照。)Kindle Unlimited は、月額 $9.99 の料金を払うことで 600,000 冊以上ある Kindle ブックや、こちらもたくさんある Audible オーディオブックにオープンアクセスを約束するというものだ。

もしもあなたが飽くなき読書家なら、これは魅力的なものに聞こえるかもしれない。けれどもそこには難点がある。最大手の五つの出版社が、参加していないのだ。だからと言って Kindle Unlimited に珠玉の作品がないという訳ではなく、Lord of the Rings 三部作や、Hunger Games 三部作、Harry Potter の全シリーズも揃っている。

Kindle Unlimited がその競合相手たちと違っている点の一つは、Amazon の Kindle 電子ブックリーダーとネイティブに互換なことだ。いったん購読をすれば、Kindle Store で "kindleunlimited" というラベルの付いたタイトルを見つける度にそれをダウンロードして無料で読むことができる。

私は Amazon のビジネス決定のいくつかにずっと批判的であった。(例えば ComiXology でアプリ内購入を廃止したこともそうだ。2014 年 5 月 3 日の記事“ComiXology のアプリ内購入騒動を解説”参照。)けれども私は Kindle Paperwhite が大好きで、これは市場にある最高の電子ブックリーダーだと思っている。十分小さいので大きめのポケットに入り、それでいて十分読みやすい程度には大きい。クリアで明るいスクリーンは眩しくなくて目に優しい。私には使い切れないほどのストレージ容量がある。気を散らすものが少ない。その上、比較的安価だ。私は一般的に Amazon の他のハードウェアデバイスには気を引かれないけれども、私に言わせればこの Kindle Paperwhite はホームラン級だ。これは、たった一つの機能しか持たないシンプルなデバイスで、そのたった一つの機能を見事にこなしている。

そのことが、全体的に見て、Amazon が電子ブックの購読サービスの世界において持ち合わせている利点だ。十分に有能な Kindle リーダーと、いたる所で利用できる Amazon.com の小売店とが組み合わさった力だ。あなたがいったん Kindle Unlimited を購読すれば、本の入手は適格タイトルの Read for Free をクリックまたはタップするだけでできる。その本は、あなたが指定したデバイスに送られる。

(Amazon Prime 購読者が特典として受けられる) Kindle Owners' Lending Library とは違って、Kindle Unlimited は iPad など Kindle アプリを持つどんなデバイス上でも使える。Kindle Owners' Lending Library の場合は、実際の Kindle デバイスで読むことが要求される。もしもあなたが Kindle Unlimited からダウンロードした本が "with narration" としてリストされていれば、それに対応するオーディオブックも、リンクされた Audible アカウントに(もしもあなたがそのアカウントを持っていれば)加えられる。あなたの iPhone か iPad で Audible アプリを開くだけで、その本が自動的にライブラリに加えられているのが分かるだろう。そして、Whispersync for Voice の魔法のお陰で、電子ブックとオーディオブックは読んでいる位置を同期してくれる。通勤をしていた頃の私ならば絶対に手放さなかった機能だ。

読書のためにあらゆるものをごた混ぜに提供したのは Amazon が初めてではない。Scribd や Oyster もそうだが、オンラインで多くの皮肉屋たちが指摘した通り、公共図書館はもう何百年も前から存在していたし、しかもその多くが以前から電子ブックの貸し出しもしていた。

それは大切な点だ。多くの公共図書館は Overdrive 駆動のシステムを使っている。つまり、図書館カードの番号を入力すれば、あなたの Kindle に無料で本を送ることができる。でも、私の近所の公共図書館で調べると Overdrive で使える本の選択肢が意外に多かったとはいえ、わざとらしく抜けているところが多いのは否定できない。私は Reza Aslan の "Zealot" を問題なく借り出せたし、それは素晴らしく嬉しいことだったけれども、試してみた他の本はほとんどすべて見つからなかった。"The Hunger Games" はどうだろうか? あるけれども、既に予約が入っている。"Harry Potter and the Sorcerer's Stone" ならどうか? これも、あることはあるが予約済みだ。では、Neil Gaiman の "American Gods" は? お察しの通りだ。自分が読みたい本のリストの隅にあった、どちらかと言えば無名のタイトルと思っていたものさえ試してみた。法王 Benedict XVI の "Jesus of Nazareth" だ。いや、これも予約中だった。

だから、確かに近所の公共図書館では多数の電子ブックを提供してはいるけれども、読めるまでには待つ必要があるかもしれない。このことは純粋に、図書館に対して出版社が課した人工的な制約による。出版社によっては、特定の回数の貸し出した行なわれた後は新規の電子ブックライセンス料金の支払いを要求するところさえある。紙に印刷された本ならば傷んだりするところを、仮想の世界でも真似ようとしている訳だ。

ここでの問題は、Kindle Unlimited が料金に見合ったものかどうかということだ。その答を見つけるために、かく言う TidBITS スタッフは多岐にわたる 30 冊の本のリストを作った。年代もテーマもさまざまだが、Kindle Store ですべて入手可能で、個別に購入すれば合計金額は現在のところ $232.12 となる。(当然ながら価格は変わることがある。)これらの本のうちどれだけが、Kindle Unlimited、Oyster、Scribd それぞれの購読から、または近所の公共図書館の Overdrive から、入手可能になっているかを調べてみた。

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この 30 冊の本のうち、たった 6 冊 (20 パーセント) が Kindle Unlimited にあり、7 冊 (23 パーセント) が Oyster にあり、8 冊 (27 パーセント) が Scribd にあり、そして 13 冊 (43 パーセント) が図書館にあった。けれそもその 13 冊のうち 10 冊は予約中であった。金銭的には、このリストの中で Kindle Unlimited 購読で読めるようになる本の価格の合計は $51.48 に相当し、Oyster では $40.54、Scribd では $56.53、そしてしばらく待ってもかまわないというのならば、図書館は $92.42 に相当する分を節約させてくれる。(さらに、商用サービスの購読料金を払わずに済んだ分もこれに加わる。)熱心な図書館ユーザーならば、いわゆる「ショットガン方式」を使うことが多い。これは、読みたいと思う本を数冊予約にかけておき、順番が回って来たらその都度受け取って読むというやり方だ。でも、今すぐ読む必要がある場合にこの方式は役に立たない。

ここで見ておくべき教訓がいくつかある。第一に、図書館カードを入手して公共図書館のデジタル書棚にどんな本があるかを調べるのは時間をかけるだけの価値があるということだ。おそらくあなたが払っている税金は既に公共図書館のためにも使われているのだろうから、それを使わない手はない。第二に、これらの購読による書籍サービスは、現状で判断する限り、お金の節約になるのは望み薄だ、ということだ。

だからと言って Kindle Unlimited が完全なる無駄だという訳ではない。確かに、そこでは自己出版のガラクタの類いが仮想の山積みとなり一面を埋め尽くしているけれども、よく探せば珠玉の作品もたくさん見つかる。さきほど述べた Hunger Games 三部作、Harry Potter、Tolkien の Lord of the Rings 本の数々に加えて、Philip K. Dick の著作のほとんど、Ian Fleming の James Bond 小説、Anthony Bourdain の "Kitchen Confidential"、Thomas Piketty の最新刊 "Capital in the Twenty-First Century" もある。

すぐに読みたいタイトルが多数見つかるなら、Kindle Unlimited を一ヵ月か二ヵ月購読すればかなりのお金の節約になるだろう。もちろん、それらの本をあなたは実際に所有する訳ではないけれども、デジタル著作権管理 (DRM) で縛られた本をあなたが購入しても、結局のところあなたは決してそれを真の意味で所有していることにはならないのだから。

つまり、それはダウンロードしたファイルから Amazon の DRM をあなたが取り去らなければの話で、どうすれば取り去れるかは読者への宿題として残しておこう。でも、そのことがまさに、私たちスタッフの一員 Michael Cohen が発した素晴らしい質問に結び付く。人々が Kindle Unlimited の無料試用にサインアップして、何十冊もの本をダウンロードし、そこから DRM を全部取り去る、そういう行為をいったいどうすれば阻止することができるのか、という質問だ。いや、一般的な正直さ以外、それを阻止できるものは何もない。

Kindle Unlimited が著者たちに及ぼす影響については、いろいろと議論されてきた。けれども私自身出版物を持つ著者として、私はそれほど心配していない。何よりもまず第一に、電子ブックへの海賊行為というのは新しいものでも何でもない。そして、最も海賊行為の対象になっているのはベストセラーのタイトルであることが多い。(人気のない本は無料で配れば却って売り上げが伸びる)かもしれない。)第二に、Kindle Unlimited に参加するか否かの判断は出版社次第だ。(Take Control ブックは参加していない。)もしも Amazon が十分なお金を出版社に支払わなければ(従って著者たちに支払われなければ)そのタイトルは Kindle Unlimited からは入手できなくなるだろう。確かに、出版社が心から著者たちの利益を考えているとは必ずしも言えないけれども、彼らは自らが投資して保持しようとしている業界を抱えているのであって、その業界は著者たちを必要としている。そして最後に、Amazon は 独立の著者たちには直接支払いをしている 。ただし、Kindle Direct Publishing Select プログラムが独占的にその本の販売を扱うことと、読者がその本の 10 パーセント以上を読むことが条件となる。独立の著者たちも Kindle Unlimited に参加するか否かを選ぶことができる。もちろん、ここで述べたことは極めて複雑な状況を大幅に単純化したものであって、個々の著者によって状況が変わることは言うまでもない。

一般的に言って、読者でもありライターでもある者として、私は人々にもっとたくさん読んでもらえるようになるものならば何でも支持したい。電子ブックの価格を安くすることもこれに含まれる。たとえ、Amazon の著者や出版社に対する強硬なやり方を非難しているとしても。

これに対するもう一つの見方もある。はたして Netflix は映画業界やテレビ業界を殺してしまっただろうか? いや、もちろんそんなことはない。それどころか、Netflix は映画やテレビの業界にとって、全体的には恵みであった。(もちろん、ビデオと本の間に大きな違いがあることは私も承知している。)最近の例を挙げれば、AMC の "Breaking Bad" は Netflix 視聴者たちがこの極悪のドラッグ・ドラマをマラソン視聴し始めるまではほとんど無名であった。音楽業界では、"Weird Al" Yankovic が最近の曲 "Mandatory Fun" で初めて Billboard 200 のナンバーワン・アルバムに輝くことができた のは彼がストリーミングサービスに無料で 8 つのミュージックビデオとこのアルバム丸ごとを提供したからだと言われている。

そうは言うものの、読者たちはどうなるのか? 私は、現在の情勢の下では、Kindle Unlimited がそれほど多くの購読者を獲得できるとは思わない。選択肢の幅が狭過ぎるからだ。月額 $9.99 という料金は不当とは言えないが、それは読みたい本を料金に見合う分だけ入手できればの話だ。これと比較して、コミック本に焦点を絞った Marvel Unlimited は料金は同じ $9.99 だけれども遥かに大きな選択肢を提供しており、Marvel ファンが読みたいと思うもののほとんどを揃えている。

Kindle Unlimited のサービスに満足を感じる人などほとんどいないのではなかろうか。出版社たちを怒らせている。彼らの製品の値打ちを下げているからだ。著者たちの多くも同じ気持ちを感じている。飽くなき読書家たちは不満を感じるだろう。提供されている本のうち良いものはおそらくほどんど読破済みだからだ。そして、もっと気楽に本を読みたい読者たちは、個々に本を購入する方がおそらく良い結果を得られるだろう。Kindle で販売されている本はそれほど高価とも思えない。$10 を超える本は比較的少ない。これは Amazon が安価な電子ブックにこだわっているお陰だ。(そのやり方は、Apple と出版社たちが価格を上げさせようとした試みに対する裁判所の判決によって支持された。2013 年 9 月 9 日の記事“Apple、電子本価格操作訴訟で最終判決を受ける”参照。)Kindle Unlimited から利益を受けると思われる唯一のタイプの人たちは、Kindle Direct Publishing Select に参加している自己出版の著者たちだ。そういう人たちにとっては、本が人目に多く触れれば触れるほど良いのだから。

結局のところ、Kindle Unlimited の存在をむしろ無意味なものとしているのは、年額 $99 の Amazon Prime 購読をし、かつ Kindle を一台 ($69 から) 購入すれば Kindle Unlimited を購読するのとほぼ同じ電子ブック貯蔵庫にアクセスできる(ただしオーディオブックにはアクセスできない)という事実だ。それは、Kindle Owners' Lending Library が使えるお陰だ。その上、Amazon Prime では無料で二日以内到着の出荷が使え、ストリーミングビデオや、ストリーミング楽曲も得られるので、こちらの方が Kindle Unlimited よりお得だと考えない方が難しい。

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TidBITS 監視リスト: 注目のアップデート、2014 年 8 月 4 日

  文: TidBITS Staff: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Paprika 2.0.4 -- Hindsight Labs が Paprika 2.0.4 をリリースし、この人気のレシピ・マネージャーに多数の便利な追加機能や修正を加えた。(私たちのレビュー記事、2014 年 3 月 14 日の“FunBITS: iPhone、iPad、および Mac 用 Paprika Recipe Manager”を参照。)今回のアップデートではレシピを好きな割合で拡大できる機能、大サイズの写真と2カラムのレイアウトでの印刷オプション、レシピの複製への対応、一つのレシピを直接書き出す機能、および Paprika Cloud Sync 認証情報を保存する際に複数のキーチェーンを持っているユーザーへの対応を追加している。ブラウザから画像をコピーする際には、Paprika がそれをクリップボードへもコピーして既存のレシピにペーストできるようにした。このアプリはまた、レシピの写真を不必要に保存し直していたバグを解消し、Control-クリックしてもコンテクストメニューが現われなかったバグを修正し、詳細リストモードでレシピを並べ替える際の問題点を修正した。(Mac App Store から新規購入 $19.99、無料アップデート、3.5 MB、10.8+)

Paprika 2.0.4 へのコメントリンク:

ChronoSync 4.5.2 -- Econ Technologies が ChronoSync 4.5.2 をリリースし、この自動化された同期およびバックアップ用アプリにさまざまな修正を数多く施した。今回のアップデートでは Rename、Delete、Duplicate のタスクが失敗した場合により意味あるエラーメッセージが出るようになり、Document Organizer(バージョン 4.5 で導入、2014 年 6 月 11 日の記事“ChronoSync 4.5”参照)の表示に関係したいくつかのバグを解消し、Analyze と Archive パネルの Last Synchronized カラムの問題点により誤った数値が出ていたのを修正し、コピーエンジンにいくつかあった効率の悪さを除去し、ファイルのメタデータの集積方法を改善し、その他にも見栄え上の問題点をいくつか修正している。(新規購入 $40、TidBITS 会員には 25 パーセント割引、無料アップデート、41.6 MB、リリースノート、10.6+)

ChronoSync 4.5.2 へのコメントリンク:

Mellel 3.3.6 -- RedleX が Mellel 3.3.6 をリリースした。このワードプロセッサアプリへの、小さなメンテナンスアップデートだ。今回のリリースでは、引用またはハイパーリンクを含む段落にスタイルを設定した後で段落スタイルリストに「不可解な」systemParStyle 段落スタイルが出現していた問題に終止符が打たれた。また、Traditional Chinese DOS エンコーディングに対応(することにより Scrivener から中国語のテキストをペーストした際にスタイルがおかしくなっていた問題を修正)するとともに、クラッシュを起こしていた二件のバグを修正した。一つは空の引用やハイパーリンクを含む書類を編集して保存した際のもの、もう一つは変更追跡個所を含むインライン文字の周辺を編集した際のものだ。(RedleX からも Mac App Store からも新規購入 $39、無料アップデート、101 MB、リリースノート、10.6+)

Mellel 3.3.6 へのコメントリンク:

OmniFocus 2.0.2 -- The Omni Group が OmniFocus 2.0.2 をリリースし、Getting Things Done に基づくこのタスク管理ユーティリティ(2014 年 5 月 22 日の記事“Mac 用 OmniFocus 2、GTD にフレッシュな見栄えをもたらす”参照)にいくつかの修正と初期セットアップに対する一件の変更を加えた。今回のアップデートでは OmniFocus が動作していない場合にクリッピングサービスが呼び出されるとエラーを出さず失敗していたバグを修正し、古くなったクライアントが整理されなくなっていた(そのためデータベースのコンパクト化ができなくなっていた)問題点を修正し、システムメモリ不足の状況下で起こったハングを修正している。OmniFocus を初めてセットアップする際に、このアプリは今回からあなたが選んだクラウド位置に既存の OmniFocus データベースがない場合に既存の OmniFocus 1 データベースを読み込むかそれとも新規に空白のデータベースを作成するかと尋ねるようになった。(The Omni Group ウェブサイトからは Standard 版の新規購入 $39.99、Pro 版の新規購入 $79.99、Mac App Store からは Standard 版が $39.99、アプリ内購入で Pro 版にアップグレード可能、バージョン 2.0 のライセンスがあれば無料アップデート、44.2 MB、リリースノート、10.9.2+)

OmniFocus 2.0.2 へのコメントリンク:


ExtraBITS、2014 年 8 月 4 日

  文: TidBITS Staff: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Apple が主要な ISP も参加したコンテンツ配信網をスタートさせ、ユーザーにとってはストリーミングやダウンロードの高速化が実現されるはずだ。また、Apple の "Stickers" 広告が MacBook 用ステッカーや転写シールのメーカーに驚くほどの恩恵をもたらした。

Apple の "Stickers" 広告はステッカーのメーカーへの恩恵 -- Apple の "Stickers" 広告は人々を驚かせた。見栄えの良い MacBook Air のアルミニウム製ボディをオーナーたちがカスタマイズすることを実際に勧めてみせたからだ。MacStories 記事によれば、この広告は意図されなかったかもしれないがとても嬉しい副作用をもたらしたという。MacBook 用のステッカーや転写シールの売り上げが爆発的に伸びているのだ。The Decal Guru の Benjamin Clark によればこの広告以後同社には従来の四倍の注文が押し寄せたといい、Etsy の販売店も同様の伸びを報告しているという。

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Apple の CDN がライブに -- Apple が CDN (content delivery network、コンテンツ配信網) を完成させた。構築は昨年から始まっていた。CDN は複数のサーバやデータセンターを使ってコンテンツを配信することにより負荷を分散させ、より良く需要に応じられるようにする。StreamingMediaBlog.com の Dan Rayburn が ISP 各社に問い合わせたところ、Apple の CDN は同社が現在使っているものに比べて十倍の容量を処理できる能力があるといい、そのことは iOS 8 と OS X 10.10 Yosemite のリリースの際に役立つだろう。また、来たるべき iCloud Drive や iCloud Photo Library などの機能、あるいは同社のストリーミングメディアサービスに施されるはずの拡張などにおいても力を発揮するだろう。スムーズなトラフィックの流れを確保するために、Apple は Comcast などの ISP との間に相互接続の契約を確保したが、これは Apple がこれまでネット中立性に関してこれほど沈黙を保ってきたことの一つの理由なのかもしれない。

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Valid XHTML 1.0! , Let iCab smile , Another HTML-lint gateway 日本語版最終更新:2014年 8月 11日 月曜日, S. HOSOKAWA