TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#1327/04-Jul-2016

米国にいる皆さんには、Happy Independence Day (独立記念日おめでとう) とご挨拶しよう。そのお祝いに相応しく、NASA から第四世代 Apple TV 用の新しいアプリが出たので、Julio Ojeda-Zapata が今週号でこれをレビューする。Apple がラッパー Jay Z の音楽サービス Tidal を買収するのではないかという噂が渦巻いているが、先を見越すのが得意な Josh Centers が、Apple の未来にとって Tidal が有益な存在になり得る理由を説明する。Mac 版 BusyCal をバージョン 3 にアップデートするとともに、開発者 BusyMac は Apple の Calendar の代替となるこの人気のアプリに iOS 版をデビューさせた。Adam Engst が、この Mac 版と iOS 版の双方を評価する。今週の特集記事は二つ、まず Julio が Wi-Fi メッシュ・ネットワーキング・システム Eero を検討し、次に Glenn Fleishman が寄稿記事で Eye-Fi が旧型の Wi-Fi カメラカードへの対応を終了することについて、それがクラウドに依存する他のハードウェア製品にどのような意味を持つかについて考察する。今週注目すべきソフトウェアリリースは "F" と "K" の文字で始まり、Fantastical 2.2.4、f.lux 37.3、KeyCue 8.1、それに Keyboard Maestro 7.2 だ。

記事:

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NASA、新しい Apple TV アプリで宇宙ファンを喜ばす

  文: Julio Ojeda-Zapata: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Apple TV を持っている NASA オタクよ、喜べ! National Aeronautics and Space Administration (NASA, 米国航空宇宙局) が無料のアプリを出したが、これさえあれば宇宙マニアなら間違いなく何週間も楽しめる。

新しい NASA アプリの第四世代 Apple TV 用のバージョンには、いくらかまとまりのない感じのたくさんのコンテンツが、数個のセクションに分けて詰め込まれている:

この NASA アプリには iOS 用や Android デバイス用のバージョンもあるが、やはり大きなスクリーン上で使えば素晴らしい体験ができる。

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Apple が Tidal を買収するかもしれない理由

  文: Josh Centers: [email protected], @jcenters
  訳: 清水 史彦 <qff01604@nifty.com>

音楽ストリーミングサービスの Tidal は、ノルウェー企業の Aspiro が2014 年に立ち上げたものだが、多くの人たちは、2015 年にラッパーのジェイ・Z によって買収されるまで、耳にしたことはなかった。よく目にする閃光や炎と共に、ジェイ・Z は、派手なステージによるプレゼンで 、Tidal を再出発させた。このプレゼンでは、ビヨンセ、カニエ・ウェスト、マドンナ、そしてプリンスを含む音楽界の超大物数人が、共同所有者として発表された。ジェイ・Z の目標は、アーティストに支払われる印税を増やすこと、そして、音質を向上させることを約束しながら、音楽に価値を取り戻すサービスに、Tidal を変えることだった。

たぶん、Tidal はあまりにも太陽に近付き過ぎたのであろう。と言うのは、その幸運はすぐに溶けてなくなったからだ。Tidal は、優れた音質を約束したにもかかわらず、第三者による試験では、Apple Music や Spotify よりもしばしば劣っていることが示されている。("Apple Music、Spotify、Tidal のオーディオ品質を比較", 2015 年 6 月 13 日参照)下記に示すように、このビジネスの結末は、良くなる兆しもない。

Tidal は少々悲惨な状態にあるが、今、Wall Street Journal は、Appleがこのサービスを買収するための交渉に入っていると報道しており、評論家たちは首をかしげている。だが、この動きは、私にとっては明らかだと思われる。そして、全くの偶然ながら、これが報道される前日に、私はこのことを予見していた

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簡単に言えば、Tidal が独占契約しているアーティストが理由で、Appleは Tidal に興味を持っているのだ。ここは、亡くなったプリンスの曲をストリーミングできる唯一の場所だ。数週間もの間、ここは、カニエ・ウェストの最新アルバム “The Life of Pablo” を流す唯一のサービスだった。そして、いまだに、ここは、ビヨンセの最新アルバム “Lemonade” を流す唯一の場所だ。Tidal の他の問題にもかかわらず、ジェイ・Z は、独占的契約のアーティストを惹きつけ、保持するという賞賛に値する仕事を行ってきた。そして、おそらく、このことによって、Tidal は広まってきた。(彼がビヨンセと結婚しているということは、明らかに、障害とはなっていない。)

だが、本件について、もっと深く突っ込んだ答を言うなら、それは戦略だ。Spotify は途方もない成功を収めているが、アーティストたちからは非難されている。アーティストたちは、Spotify が支払う印税はごくわずかだと不満を述べており、その印税は、1 回のストリーミングで、平均して0.006 ドルから 0.0084 ドルだ。Spotify に対するアーティストの腹立ちはとても大きいので、大人気のテイラー・スウィフトを含むアーティストの中には、作品を Spotify から全て引き上げたり、あるいは、少なくとも、Spotify へのリリースを遅らせたりしている人たちがいる。

Spotify はユーザーに焦点をあてており、インターネットに接続されたほぼ全てのデバイス向けに、優れたクライアント・アプリを提供している。そして、これには、ユーザーにとっては素晴らしいが、アーティストの銀行口座にとってはとんでもないことになる、広告でサポートされた無料段階が付いてくる。

一方、Apple は、Tidal のように、初めからアーティストに焦点をあててきた。Apple Music の先駆けである Beats Music も、より多くの印税とより良い音質を約束したあるラッパー (ドクター・ドレー) によって創始されたストリーミング・サービスだった。("FunBITS: Beats Music は何が違うのか", 2014 年 5 月 16 日参照) Apple が Beats を獲得すると、Apple は、ドクター・ドレーのような音楽業界のベテラン、インダストリアル系のロック歌手であるトレント・レズナー (現在では、Apple の幹部の一人でもある)、そして、音楽ビジネスにおける伝説的人物であるジミー・アイオヴィン(Apple での彼の幹部としての肩書は、単に "Jimmy" となっている。) も得た。

読者は、Apple Music の 3 ヶ月無料トライアル期間中の印税支払いに関して、テイラー・スウィフトと Apple の間で行われた周知のやりとりを思い出すかもしれない。今にして思えば、これは、あらかじめ計画された宣伝目的の派手な企画だったのだろう。そのうえ、この企画は成功だった。と言うのは、この宣伝のおかげで、それまで二の足を踏んでいたアーティストたちが、Apple Music への参加を表明するようになったからだ。大した話ではないが、私の陰謀説は、テイラー・スウィフトが、今や、Apple のコマーシャルで主役を演じているという事実によって支持されている。(さらに言えば、これは、とてもおかしなコマーシャルだ。)

Apple がアーティストに愛想よくするのは、単にお金の問題を超えて、彼らの自尊心に焦点をあてるためだ。Beats 買収の一環として Apple に加わったアーティストたちは、しゃれた肩書と名誉な地位を得た。そして、BeatsOne ラジオ局は、"The Pharmacy with Dr. Dre" や、"Elton John's RocketHour" のように、アーティストが対談を行ったり、自慢を披露したりするラジオ番組として、アーティストに自尊心をたっぷり与えるよう設計されている。Apple は、アーティストたちを喜ばせることに専念しているので、Apple Music Connect で、さらにもう一つ音楽ソーシャルメディアに乗り出した。Apple が過去に行った努力である Ping ほどには当惑させられるようなものではないが、Connect は、いまだに熱狂的な成功には至っていない。

読者は、私が批判的な態度でいると思うかもしれないが、私はむしろ、Apple の戦略は、長い目で見れば勝利を収めると考えている。Spotify は、アーティストを汎用品のように扱っており、一方、Apple や Tidal は、アーティストを、自分たちがロック・スターであるように感じさせている。このことから、Tidal は、Apple にとって理想的な買収相手となっている。なぜなら、Apple は、Tidal のビジョンを成功に導くための資金と技術インフラを持っているからだ。ジェイ・Z 本人も、非常に魅力的な補強になるだろう。と言うのは、彼のお好みの台詞は、「俺はビジネスマンじゃない。いいか、俺がビジネスだ。」だからだ。そして、彼は、小規模ではあるが、強力な Tidal 独占契約リストで、そのことを証明してきた。

Tidal が抱えている問題のために、その買収価格は、Apple が BeatsElectronics に支払ったと見られる 30 億ドルを、おそらくはるかに下回るであろう。("Apple、Beats を $3 Billion で買収", 2014 年 5 月 28日参照)ジェイ・Z は、Tidal の購入に 5,600 万ドルを支払い、おそらくこれは払い過ぎだった。にもかかわらず、Tidal は、かつて 2 億 5,000 万ドルと評価されたことがあり、それからひどい 1 年が経ったにもかかわらず、いまだに 1 億ドルの価値があると見積もられている。仮に Apple が 2 億5,000 万ドルを支払うとしても、これは長期的には良い投資になるだろう。

では、Apple にとって、ミュージシャンとの友好関係がなぜそんなに重要なのだろう? 第一には、Apple の幸運は、明らかに音楽と結びついているからだ。例えば、iPod は、Apple を成層圏に打ち出した。だが、Apple がアーティストを求めるのは、そうした理由を超えている。Apple は、誰かある一人のアーティストを得ようとしているのではなく、求めているのはすべてのアーティストだ。Apple は、今も、そして将来においても永遠に、文化そのものと不可分でありたいと思っている。ビヨンセ、ドクター・ドレー、ジェイ・Z、そしてテイラー・スウィフトは、将来世代の音楽ファンに対しては、今と同じ地位は保てないかもしれない。その一方で、明日の若いスターたちは、自分たちの足の向くままに歩いて行きたいと思うだろう。そして、その進む道が Apple に通じているのなら、そこが明日のスターたちも、いたいと思う場所なのだ。

Apple が Beats を買収し、Tidal に興味を持つのは、単に Spotify を打ち負かすためではない。それは、Apple を永遠に「イカしてる」の拠点にするためなのだ。

だが、あまりにも多くの土俵で強大になりすぎることには危険をともなう。すでに、Apple は独占的にふるまっているというささやきがある。Elizabeth Warren 上院議員は、Apple や他のテクノロジーの巨人たちを 、自分たちのプラットフォームを「より小規模な会社や新規参入者を締め出す」ために使っていると言って糾弾している。Spotify もこれに加わり、Apple が Spotify の最新の iOS 向けアップデートを競合という理由で拒否し、Apple から否定的な対応を受けたということで Apple を糾弾している。仮に Apple が Tidalを実際に買収したなら、政府の独占禁止監視者は、詳細な注意を払い始めるだろう。そして、こうした独禁法絡みの注意は、電子ブックの世界では、Apple にとってあまり良い結果を産み出さなかった。("Apple、電子本価格操作訴訟で最終判決を受ける", 2013 年 9 月 9 日参照)

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BusyCal、Mac 用カレンダーアプリを更新、iOS にも進出

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

私は自分が Apple の Calendar アプリを使うのが嫌いだという事実を隠そうとしたことなどないし、ずっと以前から BusyMac の製品 BusyCal を気に入って使ってきた。(BusyMac を運営している John Chaffee と Dave Riggle は、その昔の懐かしき Now Up-to-Date カレンダーを作り出したその本人たちだ。)BusyCal の方が Calendar よりも高速で、クリーンで、分かり易い上に、機能的にも Calendar の機能をすべて備えて、さらにその上を行く。

例えば、BusyCal は Apple が Reminders アプリに分離している to-do 項目にも対応し、手早くスケジュールのチェックができるメニューバー上のアプリも提供し、天気情報の表示も統合して提供し、また List 表示は多数のイベントにざっと目を通すためにとても便利だ。

BusyCal 2 は 2012 年 10 月に出荷され、BusyMac はそれ以来数え切れないほどの無料アップデートを出し続けてきたが、最近の同社はつい先日出されたばかりの Mac 用 BusyCal 3 と、iOS 用に初めて登場した BusyCal (ただしこれもバージョン 3.0 となっている) に力を注いできた。

BusyCal 3 で大きく変わったのはユーザーインターフェイスだ。BusyMac はインターフェイスをより現代的なものに磨き上げ、文字の使い方やレイアウトも改良した。インターフェイスの好みは個人によって異なるので、BusyCal 3 では細かい所までユーザーが調整できるようになり、バナーをいくつかのスタイルのものから選べたり、Month 表示のリストの中でイベントの名前のどちら側に時刻を表示するか指定できたり、Calendar リストサイドバーの中の文字サイズを調整できたりする。新しい見栄えのどこかが気に入らないと思ったなら、BusyCal > Preferences > Appearance にあるいろいろなオプションを切り替えたり、また View に数え切れないほどあるコマンドをチェックしたりすればよいと覚えておこう。

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残念ながら、イベントの時刻を入力するのが以前より少し面倒になってしまった。BusyCal 2 では、"830" とタイプすれば 8:30 AM と入力された。でもこのやり方は使えなくなった。なぜなら、BusyCal 3 では Info パネルの中で時と分が別々のフィールドに分かれてしまったので、コロン、ピリオド、tab のいずれかを押して時から分に移らなければならない。また、以前は "1430" とタイプすれば 2:30 PM と入力されたが、新しい時間のフィールドは 12 より大きい数字を受け付けなくなった。(ただし、"10p" とタイプすれば従来通り 10 PM と入力される。)BusyMac が私の質問に答えてくれたところによれば、いずれ将来のアップデートで BusyCal 2 の挙動を復活させたいと考えているとのことだった。

BusyCal のメニューバーアプリにも、デザイン改訂が施された。ミニサイズの月間表示が追加されたので、イベントの密度を見て自分がどの程度忙しくなるかの見当がつく。また、日単位のナビゲーションができ、天気予報も表示される。欠点を言えば、従来のメニューバーアプリのウィンドウは黒い背景の上に白い文字で表示されて(薄色の他のウィンドウの上で引き立って)よく目立っていたのに、これが白い背景の上に黒い文字の表示に変わってしまい、普通の白い書類ウィンドウと区別しにくくなってしまった。

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もう一つ、インターフェイスの大きな変更点がある。従来の BusyCal では、一番上の Day/Week/Month/Year/List ボタングループの両側に二つずつ矢印があって、内側の矢印ボタンをクリックすれば少しずつ移動(例えば Month 表示では週単位で移動)し、外側の矢印ボタンをクリックすればその表示に応じて一画面分が丸ごと移動をした。ところが BusyCal 3 では右側隅に Today ボタンがあって、その両側に一つずつ矢印ボタンが付く。この矢印ボタンは従来の BusyCal 2 の外側の矢印ボタンと同じ挙動をし、Option-クリックすれば内側の矢印ボタンと同じく少しずつ移動する。あるいは単純に、Command-左矢印 (View > Previous) と Command-右矢印 (View > Next) のキーボードショートカットを使ってもよい。ここでも、キーボードショートカットに Option キーを追加すれば少しずつの移動になる。(バージョン 3.0.2 アップデートで、これらのコマンドが View メニューからも使えるようになった。)トラックパッドを使っている人は、BusyCal 3 では滑らかに日付のスクロールができるようになり、また Magic Mouse あるいはスクロールホイール付きマウスを使っている人も、それを使ってスクロールできるようになった。

機能性の面では、BusyCal 3 は Calendar の機能の一つに対応した。具体的には、イベントを検索したり、イベントの場所を入力したりする際に、旅行にかかる時間を計算するオプションが付いた。BusyCal は Mac 用 Calendar にできること以上に、交通渋滞の情報に基づいて旅行時間の計算を更新することもでき、また Time To Leave アラームもこの情報によって自動的にアラームを出す時刻を調整できる。

さらにもっと多くの人たちに歓迎されると思える新機能として、時間指定付き to-do への対応がある。従来、BusyCal はわざわざ Apple の Reminders アプリを引っ張り出さずとも BusyCal アプリの中だけで to-do を管理することはできたが、項目に時刻を結び付けて時間の順に表示することはできなかった。今回から、それができる。さらには Day、Week、Month、List の各表示上で項目の名前の横にあるチェックボックスをクリックすることで、その時間指定付き to-do 項目を完了とマーク付けすることもできるようになった。Apple が to-do とカレンダーイベントを分離してしまったのを具合が悪いと感じている人たちは多いので、BusyCal 3 がこれらの機能の統合を強化してくれた点は大いに歓迎すべきだろう。

さて、このように Mac 版にさまざまの機能強化をもたらした一方で、BusyMac の最大のニュースは iOS 用の BusyCal アプリだ。これは $4.99 で別売される。基本的機能や見栄えは Mac 用の BusyCal アプリと似ていて List、Day、Week、Month の各表示がある。iPad 上では、うまく行っている。画面が十分広いので、Day や Week の表示でも一日全体が見られるからだ。それに iPad の Retina スクリーンのお陰で Month 表示の小さな文字もちゃんと読める。

けれども iPhone 上では、List 表示がぐっと重要性を増す。Day や Week の表示は、平日の一日の予定を何とか丸ごと示すことはできても、ひどく窮屈に感じられるからだ。Month 表示も、イベントのテキストのための余地があまりにも狭く、見えているものも非常に小さいのでやはり具合が悪い。ここで一つ技があって、Month 表示の中の一つの日をタップすれば、その日のイベントが拡大表示されて読めるようになる。ひょっとすると BusyCal の選んだやり方も馴染めば良いかもしれないが、今のところ私は iPhone 上では Fantastical のやり方が好きだ。密度の低い月間表示の下に、イベントを示したスクロールリストがあるというものだ。一方、Apple の iOS 用 Calendar アプリは見掛け上 Fantastical にちょっと似ているが、機能性では劣っていて、一つの日をタップするとその日のイベントのみが下のスクロールリストに表示される。

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iOS 用 BusyCal が Mac 用に及ばない点は、Time To Leave アラームだ。Mac 用 BusyCal はバックグラウンドタスクを利用して渋滞情報を随時追跡するが、iOS ではそのようなタスクが認められていないので、BusyCal は iPhone 上では Time To Leave アラーム機能を持たない。皮肉なことに、Apple の iOS 用 Calendar アプリは Time To Leave アラームに対応しているので、外出先でアラームが欲しい場合にはそちらを使うしかないのかもしれない。

結びに一言付け加えれば、BusyCal 3 は従来より洗練されて機能も増え、それでいて長年ユーザーに提供してきた利点を維持している。ユーザーの目から見ればものすごく大幅なアップデートという訳ではないが、それはつまり新しい動作方法を学ぶために時間を費やす必要がないということでもある。

毎回のアップデートを Apple の App Stores から無料で入手するのに慣れ切った人たちは、$29.99 というアップグレード価格に尻込みしてしまうかもしれないが、四年間も無料アップデートを受け続けたことを考えれば公正なことと思えるのではないだろうか。それに、BusyMac は既にバグ修正のために無料の 3.0.1 と 3.0.2 のアップデートを出している。新規購入の価格は以前と変わらず $49.99 で、さきほども書いたように iOS 版は別売で $4.99 だ。Mac 用の BusyCal 3 は、OS X 10.11 El Capitan かそれ以降を必要とする。iOS 用の BusyCal 3 は iOS 9.3 かそれ以降を必要とし、iPad と iPhone の双方で動作する。

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Eero、良好な Wi-Fi 到達範囲を端正な筐体で提供

  文: Julio Ojeda-Zapata: [email protected]
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

家庭内の Wi-Fi ネットワークを構築しそして管理していくのは、結構大変である。とりわけ、あまり技術に明るくない人達にとっては。

Wi-Fi アクセスポイントのメーカーは、そのハードウェア設定を簡素化する努力をしてきたが、その機器類が理解しにくいことには変わりはない。これは既存のワイヤレスネットワークの設定を変更する必要が出た場合には尚更である - 私ですら自分のアクセスポイントの管理コンソールを呼び出す手順を忘れてしまうこともしばしばある。

Apple は自社の AirPort 機器をユーザーに使いやすいものにする実績を残してきているが、Linksys や Netgear の様なところからのハードウェアはこの観点からすると大きく遅れている。

Wi-Fi ネットワークで一つの家を完全に包み込むというのはまた別の話である。とりわけ、複数の階をもち、壁の厚いより大きな住宅の場合は不感場所が出来てしまうことがある。この様な到達範囲の問題は、アクセスポイントと家のあちこちに配置したエクステンダー機器を結ぶことで解決出来るが、繰り返しになるが、設定は簡単ではないことが多い。

Wi-Fi ルーターは多くの場合見た目の魅力に欠けている。形は不格好だし、奇抜な色と目障りなアンテナが突き出ていて、そのような機器をとても高い障害物のない場所に置く気はなれない。私の Linksys WRT ルーターは、私のこれまで見た最も醜いもの程ひどくはないが、私の Xfinity ケーブルモデムの横に床に並べて置く他の選択肢を取る気にはなれない。

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Eero という名前の会社は私がつい最近まで聞いたこともないものだが、同社は $200 の Wi-Fi 機器 (ルーターとワイヤレスアクセスポイントの機能を合わせたもの) を同じ名前で出し、これらすべての問題を解消しようとしている。また、同社は家中に分散配置し到達範囲を改善しようとする人向けに Eero の3台セットを $500 で出している。設定は簡単で、後からこの見かけの良い機器を追加するのも容易である。

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石鹸さん、ようこそ! -- 私の評価用に送られてきた3台の Eero 機器の箱を開けそして取り扱う時の感じには、まさに Apple を思い起こさせるものがある (後日、4台目を受け取った)。これらは、漠然とだが、特大の化粧石鹸を思い起こさせる。

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私は1台の Eero を、二階にある私の仕事場の Mac の隣に置いた。こんなことは、私の Linksys では絶対にやらない (以前、まあまあ見かけの良い AirPort ベースステーションではやったことがあるが)。

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設定は、殆ど痛みを伴わなかった。まず、その Eero をケーブルモデムに Ethernet ケーブル経由でつなぎ、次に電源コンセントにつないだ。それから iPhone 上の Eero アプリを使いこの未知のものを見つけ出し、そしてネットワーク名とパスワードを作成した。このアプリはまたその機器名をリストの中から選ぶか、新たに命名するよう求めてきた;私はそのルーターに、全く想像力に欠ける "office" という名前をつけた。

瞬時に、私の Wi-Fi ネットワークは立ち上がり、走り始めた。

次に我が家の一階用に、追加の2台の Eero の設置場所探しと設定の作業に取り掛かった - 1台は台所カウンターの一番向こう端にある果物籠の側に、そしてもう1台は居間のテレビ台の上の見えない所に。

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私がこれらの部屋を選んだのには訳がある:私の息子は台所のワークステーション上の iMac を使い、妻は通常居間の安楽椅子で、或いは外の玄関ポーチで彼女の MacBook Air を使う。

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これらの Eero が必要としたのは電源だけである。Eero アプリは、次に、個々の機器を設定するための簡単な設定画面へと誘導した。必要な手順を踏むのに頭が痛くなるような問題には直面しなかったが、何も無かったわけではない。

まず、ハードウェアの設置場所決めは油断がならない。Eero によれば、理想的には、機器の間は 40 フィート以内で、お互いに見通せることが必要である。しかしながら、我が家は大きくそしてごちゃごちゃしており、とてもガイドライン通りには行かない。一階の機器が二階にある親戚の到達範囲ではないと文句を言う場面が何度かあったので、お気に入りの場所を見つけられるまで何度か試行錯誤を繰り返さなければならなかった。

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また、居間の Eero に関しては、一度だけだったが奇妙な状況を経験した。その一つしかない表示灯が赤くなった時である。通常は、設定時に起こる明滅する青か、正常であることを示す白色である。紙クリップを使ったリセットで事態は正常に戻った。

4台目の Eero は部屋として使える様にした屋根裏部屋に設置した。ここは、息子と友人達がビデオゲーム用の隠れ家として使っている。ここでは Eero は鍵となる役割を果たしている:私は、彼の Xbox 360 をこのワイヤレス機器の Ethernet ポートの一つに接続した。これで使い勝手の悪かった Linksys Wi-Fi エクステンダーは 不要となった。

結果は "ワイヤレスメッシュ" で、4台の Eero が連携して働き、我が家の三つの階全てを網羅するワイヤレスネットワークを提供してくれる。

Eero は、この機器は二つの無線を持っていることにわざわざ言及している - 一つは送信用、もう一つは受信用 - 多くのエクステンダーは単一の無線しか持っておらず、結果的に性能は堅牢さに劣ることとなる。この機器の dual-band Wi-Fi 無線は、2.4 GHz と 5 GHz を同時に扱え、そして最新の 802.11ac 標準もサポートする。

Eero よ、集まれ! -- 我が家が麗しい帯域に包まれた所で、私はインターネットの速度テストを始めた。Eero のアプリもこれをやってくれるが、私は公平な目が欲しかったので、Ookla Speedtest アプリを選択した。

Eero によれば、3台の機器が一緒になって正常に働き出し、家中どこでも安定した性能が出せるようになる迄には多少の時間がかかるという。そうではあるが、私が手にしたのは印象的な結果である。転送速度は、私が目に出来ると公式に言われているものに近かったり、並んだり、時としては超えることもしばしばであった (下り 75 Mbps そして上り 5 Mbps で、これは私の Comcast サービスレベルと同等である)。しかも、この性能は広帯域モデムに直結してある私の仕事場だけに限らず、家中のどこでも見られた。

(正直に言うと、私の最初の結果はそれ程良いものではなかったが、原因は私の側にあった。Eero ネットワークを設定する時、干渉を最小限にするために他の Wi-Fi 機器は切っておくことが重要である。私は Linksys ルーターは切ったが、私の広帯域モデムとワイヤレスアクセスポイントのコンボである Xfinity の Wi-Fi 機能を無効にするのを忘れていた。Laughing Squid の Scott Beale からの Twitter で、この間違いに気づき、それ以降は性能はずっと安定したものとなった。)

この Eero ネットワークは我が家の長年のワイヤレス問題も解決してくれた。居間は長いこと一種の不感場所となっていて、Apple TV 映画のダウンロードは永久と思えるほど時間がかかり、ストリーミングビデオはバッファのため途切れたり、ブロックノイズが発生したりしていた。これらの問題も解消し、台所での問題箇所も解消したが、この Eero メッシュネットワークでもカバー出来ていないように見受けられる場所が一箇所だけ残ってはいる。今や私の妻も子供も満足している。

私が必要以上に Linksys WRT ルータに批判的であるようには受け止めて欲しくはない。これは住宅全てをカバーするのにもう一歩の所まで来ていた。しかし、協調して働く Eero 機器には勝てない。

クラウドの産物 -- Wi-Fi オタクは Eero 機器はワイヤレスのカスタマイズオプションで弱いというかもしれない。そしてそれは正しく、逆に言うと、それがまさに核心でもある。この製品は、インターネットへのアクセスだけを必要とする、しかも今すぐ、平均的な Wi-Fi ユーザー用に一旦設定したら忘れてしまって構わない選択肢として意図されている。

Eero 曰く、"今日市場に出回っているものは、意図的に懲罰的で、そして機器管理は複雑すぎる"。私も完全に同感である。

勿論、Eero の機器にも有用なものは付いている。私の Eero ネットワークには二次的なゲストネットワークを設定するオプションが付いている。これは、ゲスト (或いは、偶発的な通りすがりの人) があなたの一次的なネットワークには絶対にアクセス出来ないようにするもので、しかも Eero アプリを使って簡単に出来る。ゲストネットワークには固有の名前とパスワードを付与することが出来る。

Eero は間違いなくクラウドの産物とも言え、同社はソフトウェアアップデートを機器に対してプッシュ配信出来る (Nest 温度調節器や Tesla セダンの様に)。その様なアップデートは、機器が使われておらず Eero のサーバーと少しの間通信出来る時に、背後で自動的に行われる。

先月、Eero はユーザーに家庭内のメンバー個別にプロファイルを設定させてくれる家庭向けの機能を追加した。特定の機器をそれぞれのプロファイルに対して割り当てられ、そしてそのプロファイルに対してインターネットアクセスを手動で入り切り、或いは自動化されたスケジュールに基づいて制御することが出来る。それぞれのプロファイルで、異なった機器は異なったスケジュールを持つことも出来る。

Eero は、今年初めにこの製品を送り出して以来、十指に余るソフトウェアアップートをプッシュして来たと言い、そして "ファミリープロファイルは、我々がリリースする計画である一連のより広範囲な家族に焦点を当てた機能の最初のものである" と付け加えた。

Eero によれば、ファームウェアアップデートもまた朝飯前である。これは、他の Wi-Fi ハードウェアをアップデートするために不可解な手続きを踏まされてきた人達にとっては嬉しい話であろう。セキュリティアップデートもまたクラウド経由で行われる。

Eero のクラウドに根ざした生い立ちはトラブルシュートにも役立つ。私が機器で小さな問題を経験していた時にも、テックサポートは遠くから監視することが出来た - 私の許可の下 - より良い手助けを提供するために。

単純な機器 -- Eero ハードウェアもまた同じように必要最小限であり、ギガビット Ethernet ポートが二つだけと、USB ポートが一つ、それに電源ポート、そしてあのリセットボタン (ところで Eero は、そうするよう明確に言われない限りこれを押さないよう言っている) だけである。

どちらの Ethernet ポートでも広帯域モデム接続用に使える。残りのポートは更にハードウェアをネットワークに接続するために使える (Sonos 音楽プレーヤーとかネットワーク接続型記憶装置の様な)。これらのポートはまた複数の Eero 同士をリンクするため、或いは、そのハードウェアを既存の Ethernet ネットワークにピギーバックするためにも使える。これらの場合、ワイヤレス方式よりも高速になることが多い。

ユーザーが現時点で USB ポートを使って出来ることは何もない。Eero によれば、"現時点では診断目的の使用に限定される" とのことで、スピーカーや外付けハードドライブの様なものを接続するために使ってはいけない。.これは残念な話である。他のルーターの USB ポートは種々の周辺機器、ハードドライブやプリンターの様な、を接続するのに使える。実際、この記事を書いている合間に、私の隣人が Seagate USB ドライブを彼の家用の共有ストレージにするための AirPort Extreme 設定を手伝ったばかりである。

ワイヤレスの逸品 -- 私は Eero のシステムが好きである、但し書きは二つ程付くが。

1台で $200、或いは3台セットで $500 と言う値段で、Eero は $100 かそれ以下で買える優秀なアクセスポイントと比べて高価である ("Apple の Wi-Fi ベースステーションに代わる選択肢" 22 December 2015 参照)。参考のために言っておくと、 Apple の AirPort Extreme もまた $200 である;AirPort Express は $100 だが、より低速な 802.11n しかサポートせず、今日の高速の 802.11ac はサポートしない。

更に Eero は新しい会社で、反射的には一瞬ためらいを感じる。実際には、この機器に関して私は苦情を言うべき主たる理由は持ち合わせていないし、他でも、この会社は良いレビューを貰っている

しかし、値段も新しさも気にはならなく、そして、広範囲な Wi-Fi ネットワークを設定出来る極めて簡単な方法を求めているのであれば、Eero は間違いなく検討に値する。

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Eye-Fi、クラウドに依存するハードウェアの危険を実証

  文: Glenn Fleishman: [email protected], @glennf
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Internet of Things (IoT) という大まかな概念の括りに属するデバイスであって、機能し続けるためにクラウドへの接続を要するもの、そのようなデバイスの長期的な生存可能性に、あなたは懸念を感じたことはないだろうか? もしもそうなら、撮影した写真を自動的にクラウドサービスに転送する SD カードのメーカー、Eye-Fi が今回投じた一手に、あなたはきっと立ち止まって考え込んでしまうことだろう。私は確かにそうなった。

2016 年 9 月になれば、Eye-Fi 社はその発足当時の 2007 年に出荷したモデルから、2011 年に導入し 2015 年 3 月まで通常の流通ルートと通して販売され続けていた X2 モデルに至るまで、同社のすべてのモデルのカードの機能とウェブページ対応を終了する。ただし一つだけ例外があって、2013 年に導入された Mobi シリーズのモデルだけは積極的サポートを受け続ける。顧客にあてた電子メールの中で、Eye-Fi 社は今回の決断の誘因として「私たちが製品に組み込んだ 2007 年当時には最新技術であったインターネットのセキュリティと認証メカニズムも、その後になって脆弱性が実証されもはや時代遅れとなっている」ことを挙げた。これはハードウェアの問題であるので、単にファームウェアのアップグレードをリリースして解決することではない。

私はずっと以前から、インターネットで接続されたサービスが連続的に機能していなければ動作しない類いのデバイスに疑いの目を向けてきた。もちろん、比較的安価なハードウェアならば永久的に動作し使いこなせるなどと期待できないことは当然だろう。けれども Eye-Fi が今回廃止しようとしている製品の中で最も新しいものは 2012 年に導入されたモデルで、2015 年 3 月まで普通に販売されていたものだ。過去 5 年以内に販売された製品については、会社としてもっと責任意識を持つべきだと私は思う。

私は 3 枚の Eye-Fi カードを持っていた。一枚目は最初のモデルで、私はこれを五年間にわたって大いに使いこなした。けれども、その後メモリカードの容量あたりの価格が下がるに従って、私はカードが一杯になる心配をするのを止めた。Eye-Fi の機能のいくつかはプロでない私の使用目的とは少しずれがあったので、私は画像をまずカードから iPad か Mac へ転送してから、その後で必要なもののみを同期またはアップロードするようになった。結果として私はあまり新しいモデルの Eye-Fi を購入したことがなかったので、今回の終了方針がフェアでないと我が身で実感した訳ではない。(私の Eye-Fi カードの一枚はなくなってしまい、もう一枚は TidBITS 編集主幹の Josh Centers に送ったが、彼のところでは結局うまく動かなかった! これについて私が言えることはない。)

バイバイ、Eye-Fi の大多数よ -- Eye-Fi のカードは非常に小さな、ネットワーク接続されたコンピュータであって、SD カードの中に収められている。物理的インターフェイスが何もないので、ネットワークに接続して設定をしなければならない。初期のモデルとファームウェアはコンピュータからも、またカードリーダーに差し込んだ状態でも設定ができた。けれども後期のモデルはすべての設定を常時接続のクラウド対応に依存するようになってしまった。つまり、カードは設定済みのネットワークに自動的に接続し、そこにはパスワードを要するものも含まれている。それから「無制限ストレージ」と呼ばれる機能をオンにすれば、Eye-Fi のサーバがファイルを受け取ったことが確認され次第カード上の写真が自動的に削除されるようになる。

2010 年にデビューした Eye-Fi の X2 シリーズは、2011 年になって Direct Mode を追加した。これによりカードが超小型のホットスポットとなり、iOS や Android のデバイスがアプリを使って接続できて、写真を見て確認したりその中から選んでアップロードしたりが手軽にできるようになった。Eye-Fi はその後いくつかの X2 モデルにジオタギング機能を追加して、Wi-Fi による位置取りを利用して写真が同期された際の位置情報を推定するようになった。(ちなみに、Eye-Fi にとっての市場地位が存在するのは、ただひたすらにカメラに内蔵された Wi-Fi 対応があまりにも酷いものだからだ。この問題について私は何年何年何年 も 前から記事を書いて指摘してきた。)

2016 年 9 月 16 日には、Eye-Fi がスイッチを切ることが予定されており、そうなれば影響を受けるカードはカードとして引き続き機能はするものの、極めて限定された範囲でしか働かない。あらゆることが、全く働かなくなるか、または中途半端な状態に陥るかのいずれかだ。

* 写真の管理と共有のための同社のウェブアプリ、Eye-Fi Center にカードが接続できなくなる。しかしながら、Eye-Fi は既存の有料会員ユーザーに対してはファイルを無料で新しい Eye-Fi Cloud システムに移す。

Eye-Fi によれば、スイッチが切られる日よりも前にユーザーが自分のカードを設定し直して、選択的転送(カメラのインターフェイスを使ってどの写真をアップロードするか指定できる)とミニ・ホットスポットの Direct Mode をオンにしておくことは可能だが、その後これらのオプションを変更することは二度とできない。また、Direct Mode が動作し続けるという保証もない。

これらの機能を取り去ることの埋め合わせとして、Eye-Fi では 2016 年 9 月 15 日まで同社のウェブサイトからカードを直接購入する場合最大 3 枚までたった 20 パーセントの割引をしている。同社は「大幅値引き」と宣伝しているが、どう見てもこれはケチケチしている。第一に、ハードウェアメーカーでは多くの場合ハードウェアのコストが小売価格の半分程度なので、お互い余分なしの 50 パーセント割引が、X2 製品を買ってくれた人たちに向けての第一歩となるべきだろう。第二に、過去 5 年以内にまだ機能していた X2 を購入した人には、メール・インによる 100 パーセント割引で最低価格の Mobi モデルへの交換が提供されるべきだろう。Eye-Fi は、比較的少数と思われるカードにかかる交換費用と比較しても、はるかに大きく自らの評判を傷付けたと言わざるを得ない。

個人の運営する会社に置いてこうしたやり方にどの程度のコストがかかるものか、判断するのは難しい。同社が過去の売上げ実績を公表したことは一度もない。けれども一般的に言って、下取りを利用する顧客はほんの一部に過ぎず、気前の良い申し出をしても実際には見た目ほど費用はかからず、しかも会社に対する好印象を生み出すものだ。それが将来、新たなハードウェアの購入と継続的な購読料金の支払いを後押しするものとなるだろうに。

クラウドに住むことの危険 -- Eye-Fi は決して、このような訓戒的な話の最初の例ではないし、また最後の例となることもないだろう。ほんの数ヵ月前、Alphabet の所有する子会社 Nest が、スマートホームデバイス用の $300 の Revolv ハブのためのサービスを終了すると発表した。Nest は 2014 年 10 月に Revolv を買収したが、新しいモデルは販売せず、製品のサポートを続けてきた。けれども 2016 年 4 月になって、Nest は 2016 年 5 月 16 日をもって Revolv をレンガの塊に化すと (もちろんもっと丁寧な言葉遣いをしたが)発表して、リリース後まだ 2 年ほどしか経っていないこのデバイスを無価値なものにしてしまった。

デバイスのオーナーたちからも、無関係の第三者たちからも、否定的な反応が殺到した。Nest 社内では意見の衝突と低迷とが起こり、会社を率いていた元 Apple 重役の Tony Fadell はその職務を「去る」こととなった。当初の 4 月の発表のほんの数週後、Nest は停止の期日を 2016 年 6 月 19 日に延期し会社に連絡してきたすべてのオーナーに全額返金を提供した。

Nest は ( 2015 年 11 月 2016 年 1 月に) 機能停止にも苦しみ、自動配布されたソフトウェアアップグレードが一部のオーナーに温度調節ができなくなる事態を引き起こしたこともあった。

あまり知られていない、もっと安価な IoT デバイスでの同種の事態も数多くある。例えば家庭用ルータやビデオストリーミング機器などがファームウェアアップグレードを受け付けなくなり、セキュアでない状態のまま放置されたり、一貫した動作をしなくなったりということもよくある。この種の習慣的挙動には、ほとんど注目が集まらないというのが実情だ。

Federal Trade Commission (FTC, 連邦取引委員会) は IoT デバイスのセキュリティに関する継続的な懸念を表明してきたし、Asus がマーケティングの不実表示を突かれて 2014 年のハッキング攻撃を受けた問題について Asus に起こした訴訟を 2016 年に和解にに持ち込んでいる。けれども FTC が介入できるのは通常その会社が不正な、または不公正な活動に従事した場合のみに限られる。会社が具体的な時間枠を指定してサポートを約束したのでない限り、FTC がそこに発動できる権限はほとんどない。

Eye-Fi には、比較的新しいカードさえサポートを中止することを正当化できる買収とか倒産とかいった口実は存在しない。同社は、そのビジネスの新しい写真共有部門である Eye-Fi Cloud を Ricoh に売却した。Ricoh は今後もこのサービスを拡張し、Eye-Fi Mobi の顧客が使い続けられるようにする。

でも、それだけではとうてい釈明にはならない。もしも X2 シリーズをあと何年かサポートし続けるのがそれほど負担になるというのならば、新モデルへの交換を提供する方がずっと良識ある行動と言えるのではなかろうか。

クラウドよ、ソフトウェアの雨を降らせよ -- Eye-Fi はほぼ 10 年間にわたって営業してきた。Nest は、今では Google が持ち株会社 Alphabet の中に再編成しつつある一部門となっているが、15 年間以上営業している。もしもこれらの会社がトラブルを抱えた IoT デバイスをソフト・ランディングさせられないのだとしたら、他の新興企業で、ほんの数ヵ月か数年しか実績がなく、大きな収益をあげたこともなく、独自仕様のハードウェアやソフトウェアを持っている、そんな会社にいったい何ができるだろうか?

Boing Boing の記事でで、Cory Doctorow は今回の終了に関して次のように評している:

Internet of Things (「モノのインターネット」) バブルは、半年か一年ほどしか経験がなく、2% 未満のマージンで (あるいは損失を出しながら) ハードウェアを作っている新興企業たちに依存しており、これらの会社のサーバが停止してしまえば使い道がゼロと化してしまう。

そのような会社が倒産したり、あるいは (Revolv のように) 買収されやがて停止したりする可能性は非常に大きい。その昔ならば、新しいハードウェアを導入した新し物好きの人たちも、たとえそれが使えなくなったとしても新しいドライバを入手したり新リリースのオペレーティングシステムにアップデートされたアプリを手に入れたりすれば、解決できたものだ。あるいは、せいぜい部品や補給品、修理などが手に入らなくなって困るくらいであった。けれども今や、新し物好きたちは高価なレンガの塊に投資するリスクを冒さなければならない。クラウドファンディングの運動に参加するにせよ、既存の会社の製品を購入するにせよ、リスクの程度はほぼ同じだ。

対処すべき道はあって、実際に対処をしている会社もある。Eye-Fi は、設定を可能にするために必要なコードを、オープンソースのライセンスを付けてすべてリリースすることで、ユーザーの苦痛を緩和できたはずだ。設定は、ユーザーが運営するクラウドサービスを通じてでも、あるいはローカルに走るアプリを通じてでもかまわない。Eye-Fi は、自らが前進するに際してそれらのコードを本質的な意味で必要とすることはないはずだし、そうでないならこれらの旧製品をサポートし続けられたはずだ。

Glowforge というシアトルの会社が、クラウドでコントロールする同社の 2D レーザーカッターを出荷する際にはその製品のファームウェアを GPL ライセンスの下にリリースすると約束した。これにより、たとえこの会社または製品が継続できない事態に陥ったとしても、同社の言う「非常脱出口」が確保される。(開示説明: 私には Glowforge を共同創設し今も働く友人たちがいる。)これと同じことが、Chumby シリーズのハードウェアにも起こった。Chumby シリーズはオープン開発の、枕元に置く時計風のデバイスで、メーカーが営業を終了した時点でさえはるかに時代を先取りしたものであった。

コードをオープンソースとしてリリースしても、誰か第三者がその仕事を引き受けてくれなければ何にもならない。それでも、何もないよりはずっとマシだ。立ち往生した IoT デバイスが累々と積み重なるにつれて、それぞれの会社はもっと多くの約束をする必要に迫られるかもしれない。たとえ自分たちが倒産しても基本的なサービスは継続できるように、第三者に預託した基金を作っておけば、新し物好きの人たちも安心するだろう。新製品が成功するために必要な資金と市場の盛り上がりを、新し物好きたちが提供するのだ。

けれども今の時点では、私たちは危険を覚悟で Eye-Fi、Revolv、その他が残した教訓を無視しようとしている。もしも Internet of Things を単なる線香花火的な一時の流行に終わらせたくないのならば、これらの会社はそれぞれの製品のライフサイクルの全体を認識する必要がある。たとえ、その会社がその製品への興味を失っても、あるいはその会社が消滅したとしても。

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TidBITS 監視リスト: 注目のアップデート、2016 年 7 月 4 日

  文: TidBITS Staff: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Fantastical 2.2.4 -- Flexibits が Fantastical 2.2.4 をリリースして、共有 iCloud カレンダー上でカレンダー通知を無視するオプションと、カレンダーを丸ごと .ics ファイルとして書き出す機能を追加した。さらに、出るはずだったアラートが Fantastical が走っていなかったため出ていなかったところを、アプリが起動された際に出すようにしている。また、ある種の繰り返しイベントの .ics ファイルからの読み込みと、Airmail 3 との互換性を改善している。(Flexibits からも Mac App Store からも新規購入 $49.99、無料アップデート、13.4 MB、リリースノート、10.10+)

Fantastical 2.2.4 へのコメントリンク:

f.lux 37.3 -- f.lux チームが、スクリーンの色を自動的に管理するユーティリティ f.lux のバージョン 37.2 をリリースして、バッテリー浪費の問題と、一部のマシン上で「ムービーモード」でスクリーンがちらつく問題を修正した。今回のアップデートでは太陽が沈まない日や昇らない日がある「高緯度」への対応を追加し、また Check for Updates ボタンも追加している。その後、アップグレード後に(輝度の自動調整がオンになっている場合)カラーが残る現象を経験した OS X 10.11 El Capitan のユーザーのために、f.lux チームはバージョン 37.3 をリリースした。(無料、1.8 MB、リリースノート、10.7+)

f.lux 37.3 へのコメントリンク:

KeyCue 8.1 -- Ergonis が KeyCue 8.11 をリリースした。同社のキーボードショートカットユーティリティへのマイナーなアップデートで、Typinator との統合を追加するとともに、8.0 での問題点のいくつかに対処している。

KeyCue 8.1 を Ergonis の Typinator 6.9 またはそれ以降と共に使用すると、これら二つのアプリは協力して働く。KeyCue は Typinator セットの項目を表示でき、クリック一つでそれらを呼び出すこともできる。KeyCue 8.1 はまた、メニューをスキャンしている最中の「歩行線」フィードバックを復活させ、名前がマイナス記号で終わる Keyboard Maestro および iKey のマクログループを無視し、Custom リストの "kind" ポップアップの読み易さを改善し、URL コレクションの設定ファイルを見つける際にエイリアス対応を加えている。また、新バージョンの KeyCue が入手可能となれば、Preferences 内のメッセージが現行バージョンについての情報を提供する。

バグ修正により、旧バージョンがゴミ箱の中にある場合のインストールの問題、カスタムショートカットのポップアップメニューに正しくない修飾キーが表示されていた問題、"text only" キー説明でカスタム項目のハイライト表示がおかしくなった問題に対処した。KeyCue 8.1 ではまた、オーディオ録音および編集用アプリ Reaper との非互換性の問題を回避している。(新規購入 19.99 ユーロ、TidBITS 会員には 25 パーセント割引、無料アップデート、5.4 MB、リリースノート、10.6+)

KeyCue 8.1 へのコメントリンク:

Keyboard Maestro 7.2 -- Stairways Software の Peter Lewis が Keyboard Maestro 7.2 をリリースして、このパワフルな自動化およびクリップボードユーティリティにさまざまの追加機能とバグ修正を加えた。今回から Keyboard Maestro はトークンテキストを処理して数式を計算したり、文字・単語・行の数をカウントしたりできるようになった。今回のアップデートではまた、一部の条件やアクションが "is before" と "is after" をチェックできるようになった。さらに、Application Switcher に Reopen Windows オプションが付いた。(新規購入 $36、TidBITS 会員には 20 パーセント割引、無料アップデート、19.5 MB、リリースノート、10.10+)

Keyboard Maestro 7.2 へのコメントリンク:


ExtraBITS、2016 年 7 月 4 日

  文: TidBITS Staff: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

今週の ExtraBITS では、Jason Snell が iPhone のヘッドフォンジャックを擁護する意見を述べ、Evernote の施した変更が大いに物議を醸し、Amazon が Kindle エコシステムの大部分に新しい Page Flip 機能を導入する。

iPhone のヘッドフォンジャックを残すべき理由 -- Apple コミュニティーを現在騒がせている議論の一つは、Apple が次期 iPhone でヘッドフォンジャックを廃止するのではないかという噂だ。これは、最小主義を誇りとする Apple にとっては自然な成り行きだという意見も多いが、Jason Snell は Six Colors の記事で、ヘッドフォンジャックに否定的な議論の一つ一つに反対意見を述べる。要約すれば、ヘッドフォンジャックをなくしても iPhone は薄くならないし、オーディオ品質も向上せず、ただユーザーにとっての不便が増すだけだ。

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Evernote が値上げ、無料プランを格下げ -- ノート取りサービス Evernote がいくつかの変更を発表したが、間違いなくユーザーには不人気だろう。まず第一に、無料の Basic レベルは残るけれども、これまで個数無制限のデバイスで使えたのにたった 2 台のデバイスのみに制限される。第二に、有料レベルは二つとも値上げされる。Plus レベルでは、現行の月額 $2.99 または年額 $24.99 から、月額 $3.99 または年額 $34.99 に値上げされる。Premium レベルでは、現行の月額 $5.99 または年額 $49.99 から、月額 $7.99 または年額 $69.99 に値上げされる。Evernote は、さまざまの重役たちが会社を離れ、いくつかの不採算プロジェクトを中止する中で、収益を増やそうと苦闘Evernote が値上げ、無料プランを格下げだ。

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Amazon、Kindle に Page Flip を導入 -- Amazon が、Kindle e-リーダーにも、iOS および Android 用の Kindle アプリにも、新しい Page Flip 機能を導入した。ただし Mac 版には登場していない。Page Flip 機能は、場所を節約しつつ、本の中で手早く他の場所へページをめくってから、素早く元の場所へ戻れるようにデザインされている。ちょうど、紙の本を読んでいる際に指で今の場所を押さえつつページをめくるような感じだ。Page Flip 機能はまた、Amazon が "bird's eye view" と呼んでいるコンタクトシートモードも含んでいる。Page Flip 機能はその機能が有効と設定された本のみで使えるものだが、Amazon によれば「何百万冊もの本」で使えるという。この機能に対応した本は一覧の中で "Page Flip: Enabled" タグが付いている。

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TidBITS ISSN 1090-7017©Copyright 2016 TidBITS: 再使用はCreative Commons ライセンスによります。

日本語版最終更新: 2016年 7月 02日 金曜日 , S. HOSOKAWA