Eye-Fi X2 ワイヤレスストレージカードを持っている人に良い知らせがある。同社がサポートを打ち切る 2016 年 9 月 15 日以後も旧型 Eye-Fi カードをセットアップして同期できる新しいユーティリティがリリースされた。今週はアクセシビリティ専門家 Steven Aquino が久しぶりの寄稿記事で、来たるべき macOS、iOS、watchOS、tvOS へのアップデートで Apple のエコシステムに登場する新しいアクセシビリティ機能について概観する。Julio Ojeda-Zapata は、Markdown がメインの Mac および iOS 用執筆アプリ Ulysses をレビューする。今週注目すべきソフトウェアリリースは、Parallels Desktop 11.2.1、1Password 6.3.2、Storyspace 3.2、それに DEVONthink 2.9.2 だ。
記事:
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文: Josh Centers: [email protected], @jcenters
訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>
Glenn Fleishman がおよそ1ヶ月前に報告した様に、Eye-Fi は 15 September 2016 をもって多くの旧型製品に対するサポートを打ち切る ("Eye-Fi、クラウドに依存するハードウェアの危険を実証" 30 June 2016 参照)。Eye-Fi は、新規に撮られた写真を自動的にクラウドに転送出来る SD カードを作っている。これらのカードのためのソフトウェアはクラウドベースなので、サポートの打ち切りは実質的にカードを使えなくすることにつながると思われた。
幸いにして、Eye-Fi は今やユーザーに無料の X2 Utility の形で短期的な解を提供している。これは新しい Mac アプリで Eye-Fi X2 及びそれ以前のカード用である。X2 Utility は、影響を受けるカードから写真をクラウド接続無しに転送出来、更にこれらのカードを有効化したり、設定したりも出来る。
この X2 Utility サイトは、上にリンクを示しているが、設定 (インストールする前に以前の Eye-Fi Center ソフトウェアをアンインストールすることをお忘れなく) 及びその使い方を示している。しかし Eye-Fi は、これ以上このアプリをサポートも、開発もしない。これの Mac バージョンは今すぐ入手可であるが、Windows バージョンは検討中だという - Eye-Fi が使っている具体的な言い回しは "やる機会があれば" である。
自社製品のユーザーに対する暫定解決策を開発した Eye-Fi に対しては賛辞を述べたいとは思うが、同社は旧型カードに対するサポートを打ち切ることを発表する前に、ユーザーが被る不都合を事前に予測し X2 Utility を作成しているべきであった。
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文: Steven Aquino: [email protected], @steven_aquino
訳: 清水 史彦 <qff01604@nifty.com>
WWDC で、Apple は、4 つのソフトウェア・プラットフォーム、すなわち、macOS、iOS、watchOS、そして、tvOS に対する多くの機能強化について紹介した。(「WWDC 2016 キーノートを要約する」、2016 年 6 月 13 日参照)基調講演では何も言及されなかったが、Apple は、広範囲のニーズに対応するため、アクセシビリティにも新機能を追加している。
以下、アクセシビリティの新機能について、Apple のオペレーティング・システムにまたがって概要を述べる。
macOS 10.12 Sierra -- macOS Sierra の呼び物である機能は、Siri 音声アシスタントだ。これは、全てのユーザーにとって便利であるだけでなく、Mac のユーザー・インターフェースの操作に四苦八苦している人たちでも、Mac を操作できるようになるだろう。そして、Dwell Control、これは、MacOS をヘッド・トラッキング・デバイスに接続するものだが、この機能によって、運動機能に制限があるユーザーは、Mac を操作するもっと多くの方法が得られることになる。
Siri: Siri が Mac にやって来ようとしている。そうなれば、タイピング動作に制限があるユーザーは、自分のコンピュータとやり取りするための別のツールを手にすることになる。(全ての Mac ユーザーは、任意のアプリにテキストを入力するため、組み込まれている音声入力機能を既に使うことができる。) ユーザーがメッセージを送ったり、Web 検索を行うのを手伝ったりすることに加えて、Siri は、ファイルを探したり、設定を調整したり、システムに関する情報を調べたりすることができる。
例えば、脳性まひや反復性ストレス障害のような状態であるため、運動機能に障害を持つユーザーは、Siri を恩恵だと思うだろう。例えば、Siri に、設定を調整するように頼むだけで、マウスやキーボードを二つとも使う必要性が軽減され、コンピュータとのやり取りが速くなり、手や指のストレスを減らすことができる。
Dwell Control: 腕や手がほとんど、あるいは全く動かないユーザーは、Dwell Control を使うと、サードパーティー製のヘッド・トラッキング・ハードウェア、例えば、AbleNet 社の myGaze という製品を用いて、頭部や眼の動きでマウスを動かしたり、クリックしたりすることができるようになる。
Dwell Control は、本質的には、10.11 El Capitan にある Switch Control機能を強化したものだ。Switch Control を使うことで、ユーザーは、クリック、タップ、その他の動作を、キーボード、マウス、ゲーム・コントローラー、ないし、専用デバイスといった触覚スイッチで代替することができる
Dwell Control も、多かれ少なかれ同じことができるが、これは、画面やボタンに触れることが事実上全くできないユーザーのための機能だ。代わりに、Dwell Control は、通常、接続されたヘッドバンドを通じて頭部や眼の動きを検出し、画面上のコントロール機能に伝える。
iOS 10 -- iOS 10 について、Apple は、重要な二つのアクセシビリティ機能を追加した。すなわち、Magnifier と Software TTY である。どちらの機能も視覚や聴覚に障害を持つユーザーにとって有用な機能追加となるだろう。iOS 10 は、他にも、新しく強化されたアクセシビリティ機能を多数誇っており、それらの中には、色覚異常の人たちのためのフィルターや、VoiceOver発音エディター、その他諸々が含まれている。
Magnifier: iPhone や iPad のカメラを使うと、薬のラベル、値札、そして、シリアルナンバーといった小さな印刷物を見やすくするために、拡大することができるようになる。(私たちは、今は、このために Lumin というアプリを使っている。)
Magnifier の良い点 (これは、Lumin も提供している) は、シャッターボタンを押せば、画面上のイメージを所定の位置に固定できる点だ。これは、(デバイスの裏側にあるシリアルナンバーを見ようとする時に起こりうることだが)イメージを拡大する際に、手ブレしやすかったり、画面がよく見えなかったりする場合に便利だ。フォーカスを固定するためのロックボタンもある。
視覚障害を持つ人 (あるいは、老眼鏡を忘れた人) であれば、誰しもMagnifier をありがたく思うだろう。例えば、食料品店で成分表を見る場合のように、拡大鏡が役に立つ場面に出会うのはごく普通のことだ。Lumin のようなアプリは、今でも利用可能だが、Magnifier は、ショートカット (Home ボタンを 3 回押すだけで起動できる) のおかげで、さらに使いやすいであろう。このショートカットは、iPhone がロックされている時でも機能する。
Software TTY: 耳が聴こえなかったり、耳が遠かったりするユーザー、または、著しい発話障害を持つユーザーは、会話をテキストに変換する専用のテレタイプライター装置がなくても、電話を発信したり受信したりすることができるようになる。(iOS 10 は、Hardware TTY というオプションも提供している。この機能を使うと、TTY を iPhone に接続して、電話を発信したり、受信したりすることができる。)
Software TTY を使うと、会話の記録が、Phone アプリにアーカイブされる。また、iOS 10 では、TTY 向けにデザインされた特別なソフトウェア・キーボードも提供される。これには、例えば、"Go Ahead" を意味する "GA" (相手に応答してよいとのシグナルを送る) のような、共通のしきたりのための略号キーも付いている。
Software TTY は、二つの理由で重要な機能だ。何よりもまず、これによって、専用の TTY が不要になる。ろう者のコミュニティの人たちは、TTY の代わりに iPhone を買うべきだという説得力のある理由を持つだろうし、さらに、スマートフォンを買うことによって得られる利点を全て享受することになるだろう。第二の理由として、成人ろう者の子供たちにとって、ハードウェアTTY を買うよりも、iPhone を使って愛する家族とコミュニケーションを取る方がずっと簡単だ。
カラーフィルター: 色覚異常は、多くの人が思っている以上に、はるかに一般的だ。そこで、Apple は、カラーフィルターを使って iOS インターフェースの認知度を上げようと試みている。これを受けて、iOS 10 には、異なるタイプの色覚異常用に、複数のフィルターがある。色覚異常には、例えば、赤色覚異常 (赤い光を感知しない) や緑色覚異常 (緑の光を感知しない)があり、これらはどちらも、赤緑色覚異常のタイプだ。Six Colors の JasonSnell は、緑色弱と iOS デバイスに関する自分の体験について、最近記事を書いている。
iOS 10 のカラーフィルターは、他の視覚障害を持つ人たちを支援するために、コントラストを改善することもできる。例えば、Apple は、Grayscale のオプションを Color Filters のメニューに移している。このオプションを選択すると、画面から全ての色彩が失われる。これは、色彩があると、無い場合と同様に画像を追うことができない眼を持つ人たちにとって有用だ。
VoiceOver 向け発音エディター: iOS 10 では、VoiceOver のユーザーは、画面の読み上げソフトに、単語をどのように発音すれば良いか、教えることができるようになる。この機能は、El Capitan では、既に可能になっている。
iOS の VoiceOver ユーザーは、Settings > VoiceOver > Speech > Pronunciations と進むことによって、発音エディターにアクセスすることができる。いったんそこに入ったら、+ ボタンをタップして、発音を追加することができる。語句を入力し、スペリングを言うか、または、正しい発音に置き換える。この機能は、VoiceOver が正確に発音できない名前や単語 (時に混乱を引き起こす可能性がある) に有用だ。
加えて、VoiceOver は、複数のオーディオ・ソースをサポートすることになる。つまり、音楽のような他の音声を外部スピーカーに送りながら、VoiceOver を走らせることが可能となる。
Speak Selection と Speak Screen の機能向上: 2 種類の方法による学習 (すなわち、視聴覚学習) をサポートするための取り組みとして、iOS10 には、Speak Selection か、または、Speak Screen のどちらかが使われていると、文章や単語をハイライトするオプションがある。
どちらも、Settings > General > Accessibility > Speech で有効化できる。Speak Selection を使うには、何らかのテキストを選択して、吹き出しからSpeak を選べばよい。Speak Screen を使うには、画面上端の 上 から、二本指で下にスワイプすればよい。
さらに、Speak Screen と Speak Selection は、今やキーボードにも拡張されていて、個々の文字や予測タイピング候補が読み上げられるようにすることができる。
Switch Control で、他の iOS デバイスのオプションを操作する: 複数の iOS デバイスが、同一の Wi-Fi ネットワーク上で、同一の iCloud アカウントにサインインしている場合、Switch Control メニューには、「他のデバイスを操作する」という新しいオプションが現れる。これを選ぶと、SwitchControl のユーザーは、Apple TV を iPhone 上のスイッチで操作することができる。この機能によって、複数のデバイスで、スイッチをペアリングしたり、ペアリングし直したりする手間が軽減される。
指を置いてロック解除: iOS 10 で、Apple は、ロック画面上の従来の「スライドでロック解除」というメッセージを、「ホームボタンを押してロック解除」に置き換えた。このアイデアは、iPhone 6s で、Touch ID があまりに速すぎて、多くの人がロック画面の通知を見逃しているという点にある。従って、Home ボタンを時間をかけて押せば、どんなメッセージでも目を通す十分な時間があることになる。
だが、微細な運動の発達が遅れている人たち (例えば、指の筋肉の正常な緊張が十分に行われないなど) は、Home ボタンを物理的に押すのは困難かもしれない。そこで、iOS 10 では、ユーザーが、Home ボタンの動作を以前のやり方に戻すこともできるようにしている。そうすれば、デバイスのロックを解除するのに、ホームボタンの上に指を置くだけでよい。Settings > General > Accessibility > Home Button で、「指を置いてロック解除」を単に有効化するだけだ。
watchOS 3 -- watchOS 3 のアクセシビリティ機能で大きなものは、Activity アプリのスタンド・リマインダーが、車椅子のユーザー向けにカスタマイズできるようになったことだ。そうすることで、車椅子ユーザーは、アラートを受け取って、代わりにロールする (体を揺らす) ことになる。Taptic による時間の通知と、特大のウォッチ・フェース用のコンプリケーションは、視覚障害者にとっても好評だろう。
Activity アプリにおける車椅子のサポート: watchOS 3 において、Apple は、Activity アプリをアップデートして、車椅子ユーザーが利用しやすいようにした。(iPhone の Apple Watch アプリで、最初にペアリングする際に車椅子用に使うのを指定できる。) すると、車椅子ユーザーが車椅子で動き回る際に、個々人の運動が記録されるようにアプリが最適化される。とりわけ、Apple Watch がユーザーに運動の時間が来たことを告げる時の「スタンドの時間です!」という通知は、より適切な「ロールの時間です!」に置き換えられている。
Taptic Time: 画面を見るのに障害がある VoiceOver のユーザー向けには、Taptic Time があり、これを使うと、時間を聞くのではなく、 感じる ことができる。これは、例えば会議のように、音を出すのが憚られる場合に、誰にとっても有用かもしれないが、特に、視覚と聴覚の両方に障害がある人たちにとって有益であろう。
Taptic Time では、時間を告げる三つのオプションが提供されている。Digits (数字)、Terse (簡明)、そして、Morse Code (モールス信号) だ。
Extra Large Watch Face コンプリケーション: Apple は、ExtraLarge Watch Face に関わるコンプリケーションを表示するためのサポートを追加した。
SOS: watchOS の新しい SOS 機能は、アクセシビリティの機能であると明確に考えられているわけではないが、緊急に助けが必要な視覚障害、または、運動障害を持つユーザーにとっては、特に歓迎されるだろう。SOS 機能で、Apple Watch のサイドボタンを長押しすると、救急サービスに電話がかかる。また、救急サービスの受付に位置情報も送られる。
tvOS 10 -- tvOS 10 の新しいアクセシビリティ機能を使うと、TV を見るのがより簡単に、そして、より眼にやさしくなるはずだ。
Switch Control: 運動能力に制限がある人たちは、スイッチを使ってApple TV を操作できるようになる。先に述べたように、Apple TV を iPhoneで操作することさえできる。ヘッド・トラッキング装置をペアリングし直したり、多重接続ができるデバイスを買ったりする必要はない。
カラーフィルター: 色覚異常や他の視覚障害を患っている人たちは、Apple がtvOS 10 に追加しようとしているカラーフィルターをありがたいと思うだろう。こうしたフィルターは、画面の見やすさを向上させるはずだし、一般に、テレビを見るという体験をより良いものにするはずだ。
VoiceOver 発音エディター: iOS 上と同じように、Apple TV には、ある単語をどのように正確に発音するかについて、VoiceOver に教えるオプションがある。加えて、tvOS 10 には、高品質の音声がある。また、VoiceOverとテレビの音声を同時に聞くためのオーディオ・ルーティング・オプションもある。
ダーク・モード: SOS と同様に、Apple TV のダーク・モードは、アクセシビリティの改善という意図はないが、明るさに対して敏感な人たちにとっては、歓迎すべき改善となるはずだ。
当然のことながら、Apple の四つのオペレーティング・システムにおけるアクセシビリティの新機能には多くの重複がある。だが、これは良いことだ。と言うのは、このことによって、複数の Apple デバイスにまたがって、従来よりも整合性の取れた体験が可能になるからだ。
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文: Julio Ojeda-Zapata: [email protected]
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>
テクノロジー寄りのライターとして、私は以前から執筆アプリに入れ込んできた。私の言う執筆アプリとは、今書いているこの記事のような文章を、あるいはブログ記事やその他の文章を、執筆する際に自分自身が使いたいと思うようなソフトウェアという意味だ。
Apple ユーザーのための執筆アプリは非常に多く存在し、そのタイプも多種多様で目眩を起こすほどなので、私としては自分なりに選んだものだけを試してみることにした。私が試した中には複雑なもの(例えば Microsoft Word や、Literature & Latte の Scrivener など)から、最小主義を掲げたもの(例えば Byword や iA Writer など)までいろいろある。
それら両極端の間に位置する、中間的な執筆アプリもいくつかある。Apple の Pages や Google Docs などはそれぞれ独自の意味で機能が豊かだが、極端なまでに複雑な Word ほどの不条理には到達していない。
そしてまた、Ulysses というものもある。これは Mac 用および iOS 用の執筆アプリで、シンプルでありながらしっかりしたパワーも備えるというバランスを目指す。ただしそのために従来の馴染みあるやり方からは多少逸脱する結果となっている。
このアプリを出版しているのは Soulmen と呼ばれるドイツのチームだが、彼らは 2016 年 3 月に Mac 版をアップデートして、その後 WWDC 2016 の中で Apple Design Award を見事に受賞した。それから iPad 版のアップデートを出して iPhone 対応を追加した。双方の Ulysses アプリとも、先週それぞれに小さなアップグレードを受けて、ブログ出版その他少数の追加機能を得た。
この記事では Mac 版を中心に扱うが、iOS 版アプリの特徴についても重要なものは紹介するつもりだ。
これは何であるか... そして、何でないか -- 細かな内容に入る前に、まずは一般的な用語で、Ulysses が何であるのか、そして何ではないのかを、はっきりさせておかなければならない。
Ulysses は、Word や Pages とは似ていない。Word や Pages は、ワードプロセッシングとデスクトップ出版とを混ぜ合わせて、あらゆる種類の画像や印字デザインを駆使した入り組んだレイアウトを組み込む複雑な書類を形作るためのものだ。また、Ulysses は Scrivener とも似ていない。Scrivener は、物語の筋書きや、登場人物のリスト、ストーリーのアークなどに取り組む小説家たちに代表されるような、長文を書く人を対象とした、整理目的の機能を満載している。そしてもちろん、Ulysses には Google Docs にあるような共同作業での編集のための機能もない。
その中核において、Ulysses はプレインテキストに焦点を当てる。その点では、さきほど触れた最小主義のアプリにむしろ似ている。この種のアプリは多くの場合 Markdown を扱うことができる。Markdown はプレインテキストのマークアップ言語で、文章を書き上げてからそれを HTML やその他のフォーマットに変換することを意図したものだ。Ulysses も、Markdown を中心としている。デフォルトで、ユーザーはこのシンタックスを適用することになる。けれども Ulysses は整理目的の機能については他の Markdown エディタよりも野心的で、単純な執筆アプリが省略しているような機能(例えば画像の埋め込みなど)も追加している。
Ulysses のユーザーは必ずしも Markdown に熱中している人である必要はない。この言語がいったいなぜこれほどまでに一部の Apple ユーザーの間で人気を得ているのか、私は未だに理解できていないが、それでも私は Ulysses の良さが分かる。(この記事も Ulysses で書いた。)私は最小主義が好きだが、それと同時に私には細かいところまで整理が行き届くようにコントロールしたがる性質もある。Ulysses は、私のこの両面ともを素敵に満足させてくれる。
インターフェイス概観 -- 過度なまでに最小主義の人気の Markdown アプリ Byword をかつて使っていた私にとって、Ulysses の第一印象はこいつは少々手強いぞというものであった。けれどもしばらく使っているうちに、より複雑なそのインターフェイスデザインも、意外と楽に把握できるようになる。
基本的に三つのカラムからなり、右側のカラムで文章を書く。左側のカラムは整理のためのサイドバーすなわち「ライブラリ」として使い、右側のカラムは書類すなわち「シート」のリストだ。シートはグループに分けて整理され、このグループが左側のライブラリに現われる。例えば、今書いているこのストーリーのシートは TidBITS グループに属する。グループの中にサブグループを含める機能もあり、期待通りのネスト挙動をする。
概念的には、グループがフォルダにあたり、シートがファイルにあたるのだが、Ulysses が他のプレインテキストエディタと違うのはそのコンテンツをアプリ外で容易に見つけることができない点だ。このアプリはたった一つだけのライブラリを持ち、そのコンテンツはすべてアプリ内部にある。この点は Apple の Notes アプリや Photos アプリと似ている。
ただしこのルールには一つ例外がある。Ulysses は「外部フォルダ」にも対応するのだ。つまり、このアプリを Mac の一つのフォルダに振り向けて、そのフォルダ内部にあるテキストファイルにこのアプリがアクセスしそれを編集するようにできる。けれども、このオプションには難点がある。Ulysses の機能のいくつか(例えば画像の埋め込み)が、この外部からロードされたファイルには適用できないのだ。
さあ書いてみよう -- Ulysses で文章を書くのは単純明快だ。ここでも、Markdown に精通している必要などない。フォーマッティングは大体において自動化されているからだ。単語を選択して、Command-B を押せば、そのテキストがボールド体になる。ただしボールド体と言っても、Markdown のルールに従い、その部分のテキストの前後に 2 個連続のアスタリスク ("**") が付けられるだけだ。さらにあなたを手引きするために、フォーマッティングのコマンドは Markup ポップアップメニューにも、また参照のためスクリーンの片側に置いておくポップオーバーウィンドウの中にも現われる。
もしあなたも私と同じように、Markdown にはそれほど興味がないという気持ちでいるなら、奇妙な Markdown の見栄えに何らかの折り合いをつける必要があるだろう。(Byword 流のリッチテキストで書くオプションはない。)そこで、Ulysses は複雑な構文を色付き図形すなわち「テキストオブジェクト」で置き換えることにより、マークアップ言語のシンタックスの代わりにそのテキストオブジェクトがウェブアドレス、埋め込み画像、脚注、注釈などを表示するようにできる。
実際には Ulysses は自社独自の Markdown 変種 を使ってそれを Markdown XL と呼んでいる。これは、Daring Fireball で有名な John Gruber が元々生み出した通常の Markdown から逸脱したところを持つ。けれどもその差異を理解するのは難しくないし、その気になればいつでも通常の Markdown に切り替えることもできる。
Ulysses にはいくつかの便利な追加機能がある。例えば、さきほど触れた画像埋め込みだ。画像を書類の中へドラッグすれば、IMG タグで示される。それをダブルクリックすれば画像が現われる。さきほども述べたように、この機能は外部フォルダの中にある書類には使えない。
同期と書き出し -- Ulysses のコンテンツは三つの種類に分けられ、それぞれライブラリの中に示される。その一つは iCloud への保存で、この場合コンテンツはユーザーの Mac や iOS デバイスの間で同期される。たいていのユーザーはこのやり方をデフォルトに選ぶだろうが、これとは別に第二の選択肢として On My Mac オプションもある。こちらのコンテンツはその Mac の上のみにあり、他の場所へ同期されることはない。
第三の選択肢はさきほども「外部フォルダ」として述べたものだが、このやり方は iOS 用 Ulysses の最近のアップデートで以前より重視された扱いを受けるようになった。そのバージョンから Dropbox 同期に対応するようになったので、iOS 用の他の執筆アプリと肩を並べる機能を持った。iOS 用と Mac 用双方のバージョンの Ulysses を使っていれば、Dropbox フォルダを Ulysses の主たるコンテンツ保存場所として指定することでコンテンツがどのデバイスからも利用できるようになる。
また、書類を Dropbox に置いておくようにすることで、シンプルながら共同作業の環境も作れる。つまり、二人以上の Ulysses ユーザーが共有フォルダの中の書類で作業できるようになる。
現在作業中のシートがどこに保存されていようと、それをいくつかの方法で書き出すことができる。選択可能なフォーマットにはプレインテキスト、HTML、EPUB、PDF、また Word の DOCX もある。出力されたものがどのようにフォーマットされるか、どのフォントを使うかといったことにこだわりのある人は、書類を書き出す際にいろいろの書式パラメータを指定することさえできる。
本や、その他の複雑な書類を執筆していて、複数のシートに跨がるコンテンツを集約したい場合には、複数のシートを一度に書き出すこともできる。
Ulysses の書き出し機能には、ブロガー向けの出版オプションもある。コンテンツを Medium に投稿することは以前からできたが、最近のアップグレードになって第二の投稿先として WordPress (PDF リンクあり) が追加された。この機能を Soulmen は巧みに実装したので、WordPress.com への投稿と、セルフホストによる WordPress ブログへの投稿が双方とも可能だ。書き出しの際の選択肢としては HTML と Markdown が選べ、さらにはカテゴリー、抄録、タグ、フォーマット書式、目玉の画像、投稿日時などを設定するオプションもある。
これが WordPress ユーザーにとってどんなに素晴らしいことかは、どれだけ誇張してもまだ言い足りない。私は自分の個人ブログに記事を何の問題もなく投稿でき、埋め込んだ画像も完璧だった、ブログの更新のために私は Byword や、また WordPress の Mac 用アプリも使ったことがあるが、今では Ulysses が私の最もお気に入りの WordPress クライアントとなりつつある。
その他の機能 -- Ulysses は深みのあるアプリケーションで、隅々までくまなく探してみればきっと嬉しい発見があるだろう。Mac 用アプリの中で、私が素晴らしいと思った機能をいくつか紹介しよう:
タイプライターモード: 一つの行、文、あるいは段落のみに注意を集中させて、それ以外のすべてのものをグレイアウトした表示にする。さらに「現在の行をマークする」オプションを使えばその部分だけグレイがかった帯で強調されるし、また「固定スクロール」オプションを使えばカーソルが画面の中央、上端、または下端に固定される。iOS 版の Ulysses にもタイプライターモードがある。
これとは別に「ミニマルモード」というものもあって、執筆中はツールバーを消した表示にしてくれる。また、ライブラリのサイドバーやシートのリストを隠して、文章を書く部分のみに集中することさえ可能だ。
暗転: 「ダークモード」に切り替えれば、シートのまわりのすべてのインターフェイス要素が黒地に白い文字の表示に代わる。「ダークテーマ」は、シートさえも黒っぽくする。これらの機能はつい最近 iOS 版にも追加された。
添付ファイル: これは少し紛らわしい用語だが、アドオンの書類をいろいろ寄せ集めたもので、すべて右側に見えるオプションのサイドバー(メインのツールバーの紙クリップボタンをクリックすれば見える)の上に置かれる。アドオンとなる書類は PDF や画像などで、ここに置いたままにしてあとで参照することができる。(書類の中に画像を埋め込むのとは別だ。)
このサイドバーにはまた、タグ用フィールド、メモ用フィールド、それからタイプする目標とする文字数、単語数、行数、段落数その他を設定して管理するための「ゴール」コンソールもある。
フィルター: ライブラリのサイドバー上に何が表示されるかについて細かく設定したいと思えば、フィルターを使ってさまざまの検索基準に基づく表示条件の切り分けができる。ちょうど、iTunes のスマートプレイリストと同じような感じだ。
編集のマークアップ: Soulmen は Ulysses での文章書きを「拡張されたプレインテキスト」と呼んでいる。拡張とは具体的にはコメント付け、テキストのハイライト表示、取り消し線を引いたテキストなどだ。これらの機能は、PDF やその他のフォーマットに書き出す際に保持することも、そうしないこともできる。
ポップオーバー: 画面の右側に置いて参照して使えるポップオーバーウィンドウは、さきほど触れた Markdown の早見表だけではない。ほとんどあらゆるポップアップメニューが、例えば書き出しオプション、添付ファイル、単語数その他の統計データを表示するダッシュボードなども、切り取ってポップオーバーとすることができる。
バックアップ: Apple の iCloud 同期はその歴史を通してさまざまな問題に見舞われているので、Ulysses がそれに頼れば不安に思うユーザーもいるだろう。でも Soulmen は安心できる方法として、内蔵のバックアップシステムを提供してくれる。Time Machine と見た目も似ていて、だいたい同じように動作する。これと関係するバージョン機能を使って、一つの書類の過去のいろいろのバージョンを流し読みすることもできる。
お気に入りとブックマーク: 頻繁に使うシートは、いちいち検索せずに済むように Favorites コレクションに入れておくことができる。これはライブラリの一番上近くにある。
ブックマークを使うには、Ulysses の段落番号付け機能を有効にする。そうすれば、段落の番号をダブルクリックするだけでその段落をブックマークすることができる。そうしておけば、ブックマークされた段落にポップアップメニューからアクセスでき、このポップアップメニューは切り取ってポップオーバーのフローティングウィンドウにしておくこともできる。
まとめ -- Ulysses は、強烈なパンチ力を持つけれども機能過多に苦しみはしない個人用執筆アプリという、重要な隙間市場を埋める。とりわけ、何台もの Mac や iOS デバイスの間を頻繁に行き来しながら仕事をする状況でも一貫した仕事の環境が得られ、iOS 側で大幅な妥協を強いられることもないようにと願うライターたちには、大きな魅力があるだろう。
一方、Markdown のファンたちにとっての Ulysses は、シンプルなテキストエディタに比べれば大幅な進歩でありつつ、さらにもっと高度なやり方で書式やグラフィックスを処理する完全機能のワードプロセッサほどには行き過ぎて欲しくない、そんな願いを実現するものとなる。Ulysses は、必ずしもすべての人にとっての究極の Markdown エディタとは言えないかもしれないが(誰しも好みはある)一見の価値があることは確かだろう。
私は Ulysses が大好きになったが、これをデフォルトの執筆環境にすることは事情が許さないという事実を嘆いている。私は Windows PC を使うことも多いのだが、(Scrivener と違って) Ulysses には Windows 版がない。その上、私の本業の雇い主のところでの仕事や、私のフリーランスの仕事のいくつかでは、Google Docs が中心的な位置を占めている。共同作業のための機能が重要となるからだ。
けれども、画面上に文章を書き込むのがすべて私だけのためだったとすれば、Ulysses こそが私の第一番の執筆アプリになったに違いないだろうと思う。
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文: TidBITS Staff: [email protected]
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>
Parallels Desktop 11.2.1 -- Parallels が Parallels Desktop のバージョン 11.2.1 (build 32626) をリリースして、この仮想化ソフトウェアにバグ修正を施した。今回のアップデートでは、Windows 10 Insider Preview の Start メニューが Coherence で表示されなかった問題を解消し、OS X 10.9 Mavericks 仮想マシンを 10.11 El Capitan にアップグレードする際に起こったカーネルパニックを修正し、ホスト OS を macOS 10.12 Sierra の公開ベータ版にアップグレードした後に Space キーが働かなくなったバグを解消している。(標準版の新規購入 $79.99、Pro/Business Edition は年額 $99.99 購読、無料アップデート、294 MB、リリースノート、10.9.5+)
Parallels Desktop 11.2.1 へのコメントリンク:
1Password 6.3.2 -- AgileBits が 1Password 6.3.2 をリリースして、書類を 1Password アカウント間でコピーできる機能を追加した。(AgileBits は最近導入した 1Password の個人購読に付随するものとしてアカウントを導入した。2016 年 8 月 4 日の記事“1Password、個人購読を導入”参照。)このパスワード・マネージャはまた、Mac App Store アップデートの最中における 1Password mini の挙動を改善し、特定の状況下での起動を高速化し、Mac App Store 版で作成されたカスタムアイコンが 1Password アカウントにアップロードされなかったバグを修正し、サイドバー表示状態での VoiceOver ナビゲーションを改良し、1Password.com アカウントのための認証リクエストが過剰に出されていたバグを解消している。(AgileBits からもMac App Store からも新規購入 $49.99、TidBITS 会員が AgileBits から購入すれば 25 パーセント割引、無料アップデート、47.6 MB、 リリースノート、10.10+)
Storyspace 3.2 -- Eastgate Systems がグラフィックス機能豊かなハイパーテキスト物語執筆ツール Storyspace のバージョン 3.2 をリリースした。今回のアップデートでは Storyspace Reader を追加した。これは再配布可能な無料のアプリケーションで、Storyspace ファイルを編集者、レビュー執筆者、あるいは読者と共有するために使う。Storyspace はまた、地図機能を改良し、リンクを動かすだけでそのリンクがガードフィールド(書類の中で動かしたリンクを有効化したり無効化したりするもの)を持つか否かがすぐに分かるようにしている。さらに、地図をきちんと配列するために役立つスマートガイドも新設された。(新規購入 $149、無料アップデート、188 MB、10.10+)
DEVONthink 2.9.2 -- DEVONtechnologies が、DEVONthink の三つの版 (Personal、Pro、Pro Office) をバージョン 2.9.2 にアップデートして、バージョン 2.9 (2016 年 7 月 22 日の記事“DEVONthink/DEVONnote 2.9”参照) で追加された新しい同期機能にさらなる調整を加えた。ツールバーに新たに Synchronize All 項目が追加され、待機中の項目をスマートグループや高度な検索で素早く見つけられるようにしている。三つの版のいずれも、索引付けされた項目のうち iOS 用 DEVONthink To Go アプリ (バージョン 2.0.1 にアップデートされている) に追加されたものへ即座に Finder タグを設定するようになり、同期ストアとの間のアップロードやダウンロードの信頼性を高め、新規の WebDAV ロケーションが無効な HTTPS 証明書を受け付けなかったバグを修正し、また同期ストアのマルチ・スレッディングを改良している。(いずれもアップデートは無料。DEVONthink Pro Office は新規購入 $149.95、リリースノート。DEVONthink Professional は新規購入 $79.95、リリースノート。DEVONthink Personal は新規購入 $49.95、リリースノート。TidBITS 会員にはいずれの版の DEVONthink もそれぞれ 25 パーセント割引。10.9+)
文: TidBITS Staff: [email protected]
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>
今週の ExtraBITS では、Tim Cook が Washington Post のインタビューでいつになく個人的なことを語り、CVS が独自のモバイル決済システムを開始し、Microsoft の Project Murphy があなたの説明に応じて合成した人物画を作成する。
Apple のトップにいるのは孤独だ -- Apple CEO の Tim Cook が、Apple のトップに就任しての五周年を記念して Washington Post の Jena McGregor のインタビューを受けた。話題は多岐にわたったが、いつもは個人的なことを語らない Cook が今回は、自分の犯した誤りについて、誰に助言を求めるのか、もし Steve Jobs が生きていたら何をすると思うか、などと打ち明けた。Cook はこの仕事が孤独なこともあると口にしたが、すぐに「何も同情を求めているのではありません。CEO は同情など必要としません」と付け加えた。
CVS、Apple Pay に競合するサービスを開始 -- 薬局チェーンの CVS は、Apple Pay に競合しようとして失敗した CurrentC の背後にあった Merchant Customer Exchange 企業連合の一員だが、今回 CVS 独自のモバイル決済プラットフォーム CVS Pay を打ち出した。これは iOS 用の CVS Pharmacy アプリの一部として働き、あなたのデビットカード、クレジットカード、ExtraCare リワードカード、あるいは Health Savings や Flexible Spending アカウントへのアクセスを組み込むものだ。CurrentC や Walmart Pay と同様、CVS Pay もバーコードを使って情報を伝える。興味深いことに、CVS は Target の薬局を管理しているので、今年の後半になって Target が Apple Pay 対応を実装してもその薬局では Apple Pay を使えるようにならない。
Project Murphy、命令通りに顔を加工 -- Microsoft が新しい実験的チャットボットを作った。その名を Project Murphy という。Facebook Messenger、Skype、あるいは Telegram を使ってこれに語りかけるように作られている。Project Murphy の基盤となる画像モーフィングのテクノロジーは素晴らしいものだが、出来上がる画像は驚くほど馬鹿げたものになり得る。このボットは、二つの画像の顔を合成することにより、あなたの説明に従った仮想的な人物画を作成するからだ。例えば「もしも Oprah が Miss Piggy だったら?」「もしも Tim Cook が Superman だったら?」あるいは「もしも Steve Jobs が非常に高齢になったら?」といった命令を試してみるとよい。その "What if" 疑問文のために利用する写真を 10 分間のみアップロードすることもできる。とりわけ (私たちのように) Photoshop などの画像処理アプリに慣れていない者にとって、Project Murphy はとても楽しい。
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