TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#1366/24-Apr-2017

2013 年に Apple は iLife と iWork のスイートを Mac や iOS デバイスを新規に購入した人には無料で付けたが、同社は今回、これらのアプリを誰でも無料で入手できるようにした。それ以外のタイムリーなニュースとしては、移動開催の MacTech Pro イベントの日時と場所が発表され、Apple がいくつかの大胆な目標を掲げて第 10 回の Environmental Responsibility 年次報告書をリリースした。古き昔に目をやれば、Internet Archive の新しい Mac エミュレータで記憶の細道を辿ることができる。何十ものクラシックな Mac アプリをウェブブラウザの中で実際に走らせることができるのだ。さて現在に戻り、Geoff Duncan が寄稿記事で、米国の国境を越えてデジタル機器を持ち込む際にプライバシーを守る方法の選択肢をいくつか検討する。それから、電子メールに添付された winmail.dat を Mac ユーザーが扱う際に役に立つ Creative in Austria の製品 Letter Opener for macOS Mail が 30 パーセント割引になる。今週注目すべきソフトウェアリリースは EagleFiler 1.7.6、Parallels Desktop 12.2.0、それに Lightroom CC 2015.10 と Lightroom 6.10 だ。

記事:

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iLife と iWork アプリ、誰にでも無料に

  文: Josh Centers: [email protected], @jcenters
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

大昔、Apple は自社のソフトウェア全てに対して課金していた、とりわけ iLife や iWork の様な生産性アプリに対しては。しかしながら 2013 年になって、Apple はこれらのアプリを新しい Mac や iOS 機器購入者に対しては無料とした ("無料の新 iLife、iWork アプリはデバイスとプラットフォームを横断" 22 October 2013 参照)。

ところが、一切の鳴り物も発表も無しで、Apple は現行の iLife 及び iWork アプリを全てのユーザーに対して完全に無料とした。具体的に言うと、この変更が適用されるのは以下のアプリである:

これは、2013 年以降に対象となる Apple 機器は購入していないが、必要となるバージョンのオペレーティングシステムは走らせていて、iLife や iWork アプリのコピーは欲しいと言う人には良い知らせではある。そして Apple にとっては価格の説明がし易くなる。

では、何故 Apple は始めからこれらのアプリを全員に無料にしなかったのであろうか? その答えは Apple の経理部門の奥深くにありそうに思える。2013 年当時、Apple は iLife, iWork, そして OS X 10.9 Mavericks を新しく売られる全ての Mac 及び iOS 機器にバンドルし無料とした。こうすることで同社は販売受領額の一部を計上するのを遅らせることが可能となった。その理由は、製品 (Mac 或いは iOS 機器) はソフトウェアのアップデートが完了しないと "納品完了" ではなかったからである - これは "サブスクリプション会計" と呼ばれる方式である。Q4 2013 会計四半期で、Apple は $900 million の売上計上を遅らせたのだが、要は、それだけの額をこの四半期報告から隠したのである ("Apple Q4 2013 業績、再度減益となる" 28 October 2013 参照)。

Apple は何故今となってこれらのアプリを誰にでも無料にしているのかの答えはこの辺にあるのかもしれない。AppleInsider の Daniel Eran Dilger によると、この繰延売上げは Apple の業績報告売上げに iOS では 2 年間に、そして Mac では 4 年間に渡って戻されていると言う。この繰延べが始まったと思われる頃からそろそろ 4 年になるので、Apple も業績報告から繰延して来た売上げをようやく全部きれいに出来たことを意味しているのではないかと思われる。

結論的には、この変更の意味するところは余りない。 iLife と iWork が無料になることからくる効果 - 例えば、競合するアプリに対して、Apple の売り上げに対して、そして、Apple ハードウェアの知覚価値に対して - はもう既に現実のものとなっている。iLife や iWork アプリを欲する人の多くは、既にコピーを購入済みか、或は October 2013 以降に新しいハードウェアを購入済みであろう。我々が思うに、より昔の Mac や iOS 機器の所有者への販売は、Apple にとってはこれらアプリに課金する面倒に値しない所まで落ち込んでいるのではなかろうか。

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DealBITS 値引き: Letter Opener for macOS Mail が 30% 安くなる

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

最新の DealBITS 抽選で当選し、Creative in Austria の winmail.dat デコード用ユーティリティ Letter Opener for macOS Mail を受け取ったのは、edminot.com の Edward Minot、csuohio.edu の Joyce Mastboom、webdeck.com の Michael Riccio、gmail.com の Zachary Braff、gmail.com の Tonya Dale の 5 名だ。おめでとう!

自動的に winmail.dat ファイルをデコードするツールが欲しいのに当選しなかった皆さんのために、Creative in Austria は 2017 年 4 月 30 日までの期間中に限り、Letter Opener for macOS Mail を 30 パーセント割引、つまり定価の $39.99 を $27.99 に値下げして提供している。TidBITS 読者限定のこの割引を受けるには、注文の際にクーポンコード TIDBITS を使えばよい

今回の DealBITS 抽選に応募して下さった 196 名の皆さんに感謝したい。また今後の DealBITS 抽選もお楽しみに!

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MacTech Pro 2017 日程と開催場所

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

私たちの TidBITS Content Network が Apple コンサルタントや再販業者の人たちに受け入れられ始めるにつれて、私はますます Apple メインの IT プロフェッショナルに向けられたさまざまの素晴らしい情報源に気付くようになってきた。MacTech の地域イベントシリーズは MacTech Pro と呼ばれ、今年は全国各地で九つのイベントが計画され、現時点で七つの都市がまだ残っている。

講演者は都市によって異なるが、これらの MacTech Pro イベントはすべて同じ基盤の上で企画され、以下のようなセッションがある:

2017 年内で未開催の MacTech Pro イベントの予定は次の通りだ: (3 月の Seattle イベントと 4 月の Boston イベントは終了している。)

個々の MacTech Pro イベントの料金は通常 $499 だが、TidBITS 読者はたったの $299 で登録でき、MacTech Magazine の無料購読も付く。教育関係および非営利団体関係の値引料金は $199 だ。いずれの料金も昼食付きだ。

MacTech Conference のアドオンと同様、Watchman Monitoring Proactive Support Professional Certification に興味ある人のために言い添えれば、この資格取得コースはそれぞれの MacTech Pro イベントの前夜に開催され、追加料金 $249 がかかる。

私自身の予定はまだ決めていないが、少なくとも 2017 年 7 月 26 日のニューヨーク市イベントには出席して、参加者との情報交換をしたいと思っている。

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Internet Archive、実働のクラシック Mac アプリをホスト

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

かの素晴らしき Internet Archive が、その Software Library に何十ものクラシックな(そう、真の意味でクラシックだ!)1984 年から 1989 年頃までの Mac 用アプリ、ゲーム、オペレーティングシステムを追加したと発表した。この、懐かしさを呼び起こすちょっとした魔法が実現できたのは、Hampa Hug による PCE/macplus Macintosh エミュレータのあるバージョンを JavaScript に移植することでウェブブラウザの中で走らせられるようにしたお陰だ。その通り、これらはすべてフルに機能するアプリであって、Safari、Chrome、または Firefox の中で動作する。(RetroWeb Vintage Computer Museum へ行けばもっと多くの古い Mac ソフトウェアに PCE/macplus を通じてアクセスできる。ここの管理者たちは Internet Archive がエミュレーションシステムを構築するのを手伝った。)

PCE/macplus は、Macintosh 128K から Macintosh Classic までをエミュレートできるので、つまりこれはすべて 9 インチの白黒画面で走らせるソフトウェアの話だ。Internet Archive の Mac Software Library には System 6.0.8 の System Startup ディスクと System Additions ディスクを誇示するパッケージもあるし、もっと興味深いのは System 7.0.1 にさまざまのアプリ、BBEdit、HyperCard、Microsoft Word、Microsoft Excel、その他を入れたものだ。思い出して頂きたいが、フォルダを開いたりアプリを起動したりするには素早くダブルクリックする必要があり、メニューから項目を選択するにはメニュータイトルをクリックしてからそのままマウスボタンを押し続ける必要がある。

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ここにある古いアプリをいじってみるだけでも楽しいが、本当に愉快になれるのは 1980 年代のゲーム、例えば Dark CastleAirborneWizardry といったものが揃っていて遊べることだ。それに私の大のお気に入り、Lode Runner もある。ぜひ試してみよう!

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その昔のことを覚えている人にとっては、懐かしさだけでもここを訪れる十分な理由になる。けれども、将来のデジタル保存に向けてこの種のプロジェクトが何を期待させてくれるかを考えるともっと興味深い。昔のハードウェアを走らせ続けるのはますます困難になりつつあるし、メディアの安定性が落ちることでソフトウェアやデータへの長期的アクセスにはどんなにひいき目に見ても疑問の余地があると言わざるを得ない。

もしも現代のマシンの膨大なコンピューティングパワーが古いハードウェアの完全なエミュレーションを可能にし、フロッピーディスクがまだ読み取り可能なうちにファイルをクラウドへ移すことができたならば、ひょっとすると今まで言われてきたほどには古いデータがビットの腐食へと朽ち果て失われることもそれほど多くないのかもしれない。長年保存されてきたフロッピーディスクからデータやアプリをロードすることを巡るビジネスモデルを構築できる余地は大してないけれども、それでもそういうことが今でも可能であることを実証してくれた Internet Archive や RetroWeb Vintage Computer Museum のようなグループに敬意を表したい。また、古いアプリやデータで遊ぶことに興味ある人は、Macintosh Garden へ行けば自分でエミュレータをセットアップする方法の説明が読める。

さてと、そろそろ私は失礼させてもらって、Lode Runner の次のレベルに挑戦してみたい。

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Apple、10th Annual Environmental Responsibility Report を公表

  文: Michael E. Cohen: [email protected], @lymond
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

10 年以上前 Apple は、"全ての該当する環境、健康そして安全の要件を満たすか或いは超える" のみならず、"法や規制が適切な管理体系を提供していない所では... 人類の健康と環境を守る標準を... 採用する" と言う一連の環境、健康、そして安全方針を確立した。所で、これらの言葉は今週出された Apple の 2017 Environmental Responsibility Report の Appendix D で見られる。この 56 ページの PDF 報告は Apple 製品の一つのようである:清潔感のある、簡素な書類で、白地を多く残し、美しい写真と、そして使われているデータもとてもわずかとは言えない量がある。Apple 製品と違うのは、今年の報告では最近 Apple が何を成し遂げたかを明らかにしている一方で、Apple が将来どこに行こうとしているのかを専門家が敢えて推測する必要がないことであろう。

その理由は Apple がその目標を具体的に説明するのに、この報告の冒頭で自らの環境に対する意図を Apple の Lisa Jackson, Vice President of Environment, Policy and Social Initiatives の "大胆な質問" という形を使っているからである:

勿論、この様な進捗状況報告では、当たり障りのない質問を掲げたいと思うのはどの会社でも同じであろうが、Apple は少なくともこれらに対して、もしこの報告の Appendix C にある3つの第三者による監査報告を信用するならば、正直に答えている。

グローバルなビジネスに必要な電力を太陽、風、水力でまかなうことに関して、Apple は世界中にある自社施設で使っている電力の 96% が再生可能な資源から来ており、そしてその二酸化炭素排出量は 2016 会計年度には 29.5 百万トンであり、前年度の 38.4 百万トンから減少したと報告している。更に、同社は米国内でそのデータセンターで消費する電力の 100% がもう既に再生可能資源から来ていると言っている。

サプライチェーンが完全に再生可能資源に移行することに関して、Apple は Apple が主導するエネルギー監査とトレーニングとで、"サプライヤーが達成した効率改善は 150,000 トンを超える二酸化炭素相当の排出を抑えた" と報告している。同社はこれまでに "485 メガワットの風力及び太陽光プロジェクトを中国の6つの県に設置済み" で、中国だけでも 2020 年までに 2 ギガワットのクリーン電力を、そして世界中では 4 ギガワットのクリーン電力を供給することを計画している。(これらの数字が何を意味するかを知るためには、これらの数値を EPA の Greenhouse Gas Equivalencies Calculator に入れてみるよい。)

では、天然資源の採掘についてはどうであろうか? Apple はこの分野ではまだうまく行っていないが、リサイクル可能な材料、アルミとか錫の様な、の使用は増やしていると報じている (iPhone 6 の主ロジックボード上の半田の 100% がリサイクルされた錫から来ている)。Apple の解体技術の研究開発プロジェクトである Liam からの成果は、自社製品からのリサイクル可能な材料の歩留まりを増加させることに貢献している。

パッケージ材料に関して、Apple は 2016 会計年度に "131,000 トンの紙を使ったが、その内 62% はリサイクルされたもので、38% は責任ある方法で管理された資源からのバージンペーパであり、我々の持続可能な紙仕様を満足しないバージンペーパーは 1% に満たない" と報じている。Apple はまた、Conservation Fund や World Wildlife Fund の様な団体との協業も加速しており、同社が入手する紙を調達する持続可能な森林の面積も増やしている。

最後に、Apple は自社製品に含まれる有害物質の量を減らすために環境試験に積極的に投資して来た。Apple の Cupertino Environmental Testing Lab は、プラズママスク分光法、イオン、液体、そしてガスクロマトグラフィ等々の装置や技法を使って有害物質を同定しており、2006 年の設立以来 20 倍の大きさになった。同社は Apple Watch ケースからのニッケル溶出の量を測れるように人口の汗まで作成しているが、これはニッケルにアレルギーのある顧客への影響を最小限にしようとするものである (Apple は何故独自の人口汗を作るのかを説明するビデオまで作成している)。Apple が自社製品から廃絶した他の有害物質には、ベリリューム、水銀、PVC とフタル酸エステル、砒素、そして鉛が含まれる。

誤解しないで欲しいのだが、この報告は Apple の取り組みを可能な限り都合よく見せようと意図されている。加えて、Apple の規模で事業展開するメーカーならば誰でも環境劣化の原因となるのは避けられない。いずれにしろ、国家や世界の指導者達が地球環境問題を軽視し始めている様に見える時代に、Apple の規模と影響力を持つ企業が環境保護を基本の - そして潤沢な資金を投じた - 企業理念とするのを見るのはとても勇気付けられる。

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米国国境を越えて、デバイスとデータを持ち込むこと

  文: Geoff Duncan: [email protected]
  訳: 清水 史彦 <qff01604@nifty.com>, Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

多くの旅行者が、国境を越える際に、文書を提示したり、質問に答えたりする経験をしてきている。だが、最近は、私たちの多くがスマートホン、タブレット、そしてコンピュータを持ち運んでいて、そうした機器には、私たちの日常生活における途方もない量のものが含まれていたり、あるいは、それらにアクセス可能であったりする。

確かに、昨日の昼食のスナップショットや、先週のスポーツのスコアのように、データの中には無害なものもある。だが、データによっては、極めて慎重に取り扱うべきものもあるだろう。そうしたデータには、銀行取引や金融関係の情報、医療に関する履歴、友人や知り合いに関する書類、個人的な会話、そして、私たちがどこにいたかといった記録さえも含まれる。

国境や入国管理の問題 (壁や移民拒否、そしてテロの脅威について考えてみてほしい) に関わる緊張が高まるにつれて、そして、私たちが自分のデバイスにますます依存するようになるにつれ、デジタル・デバイスの中味を検査するという要求は、米国国境において、そして、世界中の他の国境を通過する際に、ますます普通のこととなりつつある。

もし、国境係官が、あなたにデバイスのロック解除を要求したら、あなたはどうするであろうか? あるいはまた、もし、彼らが、あなたのソーシャル・メディア、メール、あるいは、銀行取引サービスへのパスワードを要求したら?

もし、こうした問いに対して、一瞬たりとも逡巡するようであれば、あなたが実際にアメリカ国境に到着する 前に 米国への入国は、一考するのが最も良い。

入国係官は何ができるのか? -- ある種の世論とは異なり、米国への入国に際しては、アメリカ合衆国憲法が実際に適用され、したがって、米国市民は、表現および結社の自由、いわれのない捜査や差し押さえを受けないこと、そして、強制的な自己負罪から免れていること、といった権利を有している。

だが、米国の国境係官は、また、米国の警察官よりも広範な権力を有している。これには、車両、手荷物、そして、その他所持品を、令状なしで捜査可能であることも含まれる。言い換えれば、アメリカ合衆国においては、警察官はあなたを連行できないし、それから、相当な理由、ならびに、判事によって承認された令状なしに、あなたの車を捜査したり解体したりすることはできない。だが、国境係官はそうしたことが 可能 であるし、いかなる令状も必要としない。

米国国境係官は、こうした拡張された権力を有している。なぜなら、国境の秩序の保持に政府が関心を持つことは、個人のプライバシーよりもずっと重要であるということを司法が支持しているからだ。法律用語では、こうした拡張された捜査は、「日常的」と見なされている。そして、危険人物の入国を妨げ、また、入国者が正式に認可され、適切な入国書類を保持していることが確実であるようにするために、国境係官が、通商ならびに輸入に関する法律を強制することが可能となるように意図されている。

そうしたことは、全くのところ、電話、タブレット、ラップトップ、カメラ、ないし、その他の任意のデジタル機器を問わず、あなたが持ち運びしているデバイスの物理的な側面について検査を行うための、国境係官の権限の範囲内である。この権限には、機器のケースや、それが動作するかどうかを単に検査するだけでなく、バッテリー、メモリ、ストレージ、そして、その他のパーツを取り外すことも含まれている。

さらに、Customs and Border Protection (CBP, 訳者注: 税関国境警備局) の指令により、国境係官には、デバイス上に「現れる」任意の情報を調べる権限が与えられている。これは、あなたのデジタル・カメラで写真をめくって調べたり、(もし、デバイスがロック解除されていたら) あなたの電話や、その中のアプリをスワイプしたり、あなたのコンピュータの中を覗き回ることが可能であることを意味する。

多くの旅行者にとっては、こうしたことは全く問題ではない。例えば、仮に国境係官が、私のひどい写真 (ほら、ピンぼけの親指だ!) や、私の iPhone上で、ブロックされている電話番号の膨大なリストをめくって調べたいと思ったところで、私は特に気にしない。私は、多くの人がデバイスに依存しているのとは全く異なり、しかも、ソーシャル・メディアは全く使っていない。

だが、私のコンピュータには、私の顧客の所有物である、暗号化された秘密のデータが、しばしば入っている。もし、国境係官がそれを調べたいとなったら、私には、それを拒否する法的義務があると思われる。多くの人たち、特に、医者、弁護士、そして、ジャーナリストのような人たちは、国境係官が、患者の記録、手紙のやり取り、写真、財務情報、その他諸々をめくって調べたとしたら、非常に不愉快であろう。

電源を切る、拒否する、あるいは、見て見ぬふりをする? -- なので、もし、あなたが、米国国境係官に、あなたのデバイスを調べてほしくないのであれば、解決策は簡単だと思われるかもしれない。すなわち、デバイスをロックする、あるいは、電源を切ることだ! そうすることで、国境係官は、検査中に、いかなる情報とも「出会う」ことはない。そうですよね?

確かにそうだ。だが、ここで、国境係官が、あなたに、デバイスをアクティベートする、または、ロック解除する、あるいは、そうするために、コードやパスワードを提供するよう求めてきたと想像していただきたい。これは驚くほどありふれたことなのだ。もしかしたら、係官は、あなたが、公的にどんな存在なのかというだけではなく、ソーシャル・メディアでどんな存在なのかについて、全て 調べることができるように、Facebook や Twitterのパスワードを要求するかもしれない。また、彼らは、WhatsApp, iCloud,Dropbox、または、銀行のパスワードを要求するかもしれない。そして、これらは、要求ではなく、命令 かもしれない。

そこで、物事は、ややこしいことになる。

要求、命令、そして、同意 -- あなたは、パスワードの開示やデバイスのロック解除を拒否することができる。国境係官は、「OK」と言って、次の検査の方に行ってしまうかもしれない。あるいは、係官は、デバイスをロック解除する方が得策だということをおそらく示唆しながら、しつこく要求するかもしれない。もし、あなたがデバイスをロック解除したら、その行為は、デバイスが検査されることに対する法的な合意を形成することになるかもしれない。同意があれば、国境係官は、個人や、その資産に関するほとんど全ての側面を調べることが可能だ。

もし、あなたが要求を拒否したら、国境係官は、命令へとエスカレートさせることができる。係官は、時に、要求と命令の区別に対して曖昧なことがある。なぜならば、暗に同意を得ることで、係官は、より有利な法的な足がかりを得ることができるからだ。もし疑念があれば、尋ねることだ。

あなたは、パスワードを開示したり、デバイスをロック解除したり、あるいは、アクティベートしたりせよとの命令を拒否することが 可能 だ。だが、国境係官は、あなたのデバイスを押収することができる。あなたは、携帯電話、コンピュータ、そして、それらに入っている情報なしで、どのくらいの期間、やって行けるだろうか? あなたには、それらを別なものに置き換える金銭的な余裕があるだろうか? また、係官は、あなたに対する関与をエスカレートさせて、さらに別の当局者を含めたり、あるいは、あなたを拘束したりすることさえできる。

国境係官がいったんデバイスを手にしたら、彼らは、解釈や、科学的解析のために、その内容をコピーし、データを他の係官もしくは第三者と共有することができる。デバイスがロック解除されていない場合には、たとえデータが暗号化されていたとしても、彼らは、とにかくデータをコピーして、保存しようと試みるかもしれない。最終的に、政府がパスワードを入手 (あるいは、データを保護するソフトウェアに、抜け穴や不備を、所有/発見/購入)すれば、いずれにせよ、彼らは、データ解読が可能となるかもしれない。ロック解除されたデバイス上の、暗号化されたいかなるデータについても同じことが言える。

政府は、データやデバイスを、どのくらいの期間、保持できるだろうか? 一般的には、CBP は、5 日以内に、データのコピーを破棄し、押収したデバイスを返却するものと思われている。だが、データとデバイスの両者の保持は、ほとんど無限に延長可能だ。TECS (かつては、Treasury EnforcementCommunications System として知られていた) と呼ばれるシステムに入力された旅行者と検査に関わる追加データは、75 年もの間、保持される可能性がある。これには、開示を受けた係官に対して明らかにされたパスワードや、他の認証情報が含まれているかもしれない。

あなたのデータをどうやって守るか -- どのような理由であれ、米国の国境係官に自分のデジタル生活のすべてを開示する立場に追い込まれるのは嫌だと思うのならば、あらかじめ計画を立てておく必要がある。既に国境で列に並んでいる時に突然自分のデータを守りたいと決めても、それはもはや手遅れだ。

第一に、自分のリスクを査定しよう。もしもデバイスが国境係官に押収されたりその中の情報にアクセスされたり(コピーされたり共有されたりする恐れもある)したならばどのような問題が起こり得るのかのリストを作るのも良いだろう。例えば iPhone を使って搭乗券や、ホテルやレンタカーの予約を管理しているなら、あるいは旅行中に Apple Pay を使うつもりなら、iPhone を押収されてしまえば旅行を続けられるか否かの深刻な問題が起こるかもしれない。

もっと悪いことに、患者の病歴記録を持って旅行中の医師や、秘密文書を持って旅行する弁護士や、機密情報を携えたジャーナリストなどにとって、データに政府が目を通すことで極めて大きな職業的および倫理的問題が発生するかもしれない。

正直言って、大多数の人々にとって、リスク分析はそのあたりが限度だろう。自分のスマートフォンやデバイス、そしてソーシャルメディアに非常に大きく依存している人たちでさえ、何か機密を要することをするなど滅多にないだろう。もちろん、友人たちや親戚たちに書いたテキストメッセージを国境係官に読まれるのを好む人はいないだろうが、係官に自撮り写真をペラペラめくって見られたり祖父母のためにサプライズパーティーの準備をするグループチャットを読まれたりしても深刻なプライバシーの悲惨事とまでは言えないだろう。

しかしながら、もしもあなたが非常に大きなリスクがあると感じた場合には、例えばあなたが注目を浴びる訴訟の当事者だったり、離婚を計画中だったり、極秘情報を扱う仕事をしていたり、デバイス上に合法的だが論争の的となっているデータを入れていたり、あるいは現在の政治情勢の中で自分の立場に正真正銘の懸念を持っていたりするなら、あなたのデータを保護するために何らかの措置を講じておくのが良い。いくつかの例を挙げよう:

もしもあなたのデバイスや情報が取り上げられたら... -- もしも国境係官があなたのデバイスを押収したら、丁寧な言葉で資産預かり証を要求しよう。もしも国境係官に不当な扱いを受けたと感じたり、あるいはあなたの権利が侵害されていると感じたりしたなら、丁寧な言葉でその係官の名前とバッジ番号、それにあなたが対面した係官たちの所属部署を尋ねよう。決して粗野な、攻撃的な、あるいはけんか腰の態度を見せてはならない。そのような態度があなたの有利になることは決してないからだ。また、国境係官の動きを身体的に妨害してはならない。そんなことをすれば、彼らは腕力で応じて来るだろう。

もっとよく知りたい場合は -- この記事は、個人的データを携えてアメリカ合衆国の国境を越える際に起こり得るいくつかの問題について概観したのみに過ぎない。それに私は弁護士ではないので、この記事を法律的助言と受け取らないで頂きたい!

幸いにも、これらの話題には本物の弁護士たちによって書かれたもっと詳細なガイド本がある。この話題に特に関心がある方に、次の二冊をお薦めしたい:

加えて、米国の国境において国境係官がデバイスの上で何を検査できて何を検査できないかに関する法律的問題は今もまだ明確に規定されていない。裁判所で審理中の事例もあるし、デジタル機器を検査するにはあらかじめ令状が必要となると定める法案はまだ連邦議会への提出に向けて準備中の段階だ。

状況は複雑で、時とともにますます複雑の度を増しつつある。けれどもあなたが国境を越える際にご自分のデータのプライバシーに少しでも懸念を持っているのならば、パスポートや身分証明書を呈示する前にしっかりと準備を整えておくべきだ。

このようなデバイス検査は、旅行に対するあなたの姿勢に変化をもたらすだろうか? 私たちは現在、非公式の Twitter アンケートで皆さんの意見を集めている。アンケートは 2017 年 4 月 25 日まで続けるが、現在のところ圧倒的大多数の回答が、イエス、以前とは違った行動を取ることになるという声だ。

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TidBITS 監視リスト: 注目のアップデート、2017 年 4 月 24 日

  文: TidBITS Staff: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

EagleFiler 1.7.6 -- C-Command Software が EagleFiler 1.7.6 をリリースして、カスタム URL スキーム x-eaglefiler を使った新しい検索オプションへの対応を追加した。これで Alfred、LaunchBar、その他 URL スキームに対応するアプリケーションから EagleFiler 検索を開始することができるし、ランチャーアプリが現在の EagleFiler ライブラリを検索するように設定することも、また特定のライブラリを開いて検索するショートカットを作ることもできるようになった。この書類整理およびアーカイブ作成用アプリは今回から、記録リストの中やテキスト・電子メール記録の中で検索でマッチした部分をハイライト表示する際に Match Partial Words 設定に従うようになり、File > Open を使った際にライブラリを既存のライブラリウィンドウの後ろ側に開いてしまった macOS 10.12 Sierra のバグを回避し、OmniOutliner 5 (2017 年 4 月 7 日の記事“OmniOutliner Essentials および Pro 5.0.1”参照) の圧縮フラットファイルをテキストファイルとして読み込んでしまっていた問題を解消している。(C-Command Software からも Mac App Store からも新規購入 $40、TidBITS 会員には 20 パーセント割引、無料アップデート、18.0 MB、リリースノート、10.6.8+)

EagleFiler 1.7.6 へのコメントリンク:

Parallels Desktop 12.2.0 -- Parallels が Parallels Desktop のバージョン 12.2.0 (build 41591) をリリースして、全体的な安定性とパフォーマンスの問題に対処するとともに、いくつかのバグも修正した。この仮想化ソフトウェアは Boot Camp 仮想マシンアプリケーションが Dock に現われなかった問題を修正し、Mac から Windows 10 Creators Update へファイルをドラッグ&ドロップできなかったバグを修正し、ウェブページが Mac 上でなく Windows 10 Creators Update の中に開いてしまった問題を解消し、Boot Camp 仮想マシンの構成を変更する度に Parallels Tools が再インストールされたバグを修正している。(Standard Edition の新規購入 $79.99、Pro/Business Edition は年額 $99.99 の購読、無料アップデート、256 MB、リリースノート、10.10.5+)

Parallels Desktop 12.2.0 へのコメントリンク:

Lightroom CC 2015.10 と Lightroom 6.10 -- Adobe が、独立動作の Lightroom 6.10 と Lightroom CC 2015.10 (Adobe の Creative Cloud の一部として入手可能) をリリースして、バグ修正を施し、さらなるカメラやレンズへの対応を追加した。これら二つのプロフェッショナル向け写真カタログ・編集アプリケーションは、Auto Import メニュー項目での問題点を解消し、プリセットが Color Presets の下にリストされる機能を復活させ、Tone Curve に関係したバグ(Wacom スタイラスを使っている際の不正確な動きなど)を修正している。今回のアップデートではまた、Canon EOS M6、Canon EOS Digital Rebel T7i、Canon EOS 77D、Pentax KP 各カメラ、さらに 20 以上のレンズに対するサポートも追加した。(月額 $9.99 の購読、または $149 の独立動作アプリ、無料アップデート、リリースノート、Lightroom CC 2015.10 は 10.8+、独立動作の Lightroom 6.10 は 10.9+)

Lightroom CC 2015.10 と Lightroom 6.10 へのコメントリンク:


ExtraBITS、2017 年 4 月 24 日

  文: TidBITS Staff: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

今週の ExtraBITS では、iCloud ストレージや Apple Music 購読が廃止となったと書かれた電子メールメッセージが誤って送られてしまった問題を Apple が謝罪し、Apple CEO の Tim Cook が自動車共有会社 Uber を iPhone ユーザーたちにスパイ行為を働いたとして非難した。

Apple、異様な "Discontinued" 電子メールメッセージの存在を認める -- iCloud ストレージまたは Apple Music のいずれかを購読している人は、奇妙なメッセージが Apple から届いて購読が先週廃止となったと言ってきたのに気付いたかもしれない。当時、これはサーバの不具合のために誤って送信されてしまったものではないかという臆測が流れたが、どうやらその予想が正しかったようだ。数日後に、Apple は影響を受けたユーザーたちに謝罪し、あのメッセージが誤って送られてものであることを認めるとともに、iCloud ストレージや Apple Music の購読に何の変更もないことを確認した。間違いは起こり得る。大切なのは、Apple がきちんと責任を取ったことだ。

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Tim Cook、iPhone ユーザーをスパイしたとして Uber を叱る -- 自動車共有会社 Uber の 2017 年はここまで苦難続きだった。たちの悪いビジネス慣行が次々と明るみに出たからだ。けれども New York Times に載った Mike Isaac の報告は、多くの Apple ユーザーの堪忍袋の緒を切るものとなるかもしれない。Uber が人気の高い同社のアプリを利用して秘かに iPhone を識別し追跡していたことが明らかになったのだ。たとえそのアプリが削除され、iPhone が消去された後でも追跡は続く。その上 Uber は Apple 本社近辺のジオフェンス内部でそのコードが誰にも見えないように隠すということまでしていた。2015 年初頭、Apple CEO の Tim Cook は Uber CEO の Travis Kalanick を自分の部屋に呼び出し、これを止めるように命じた。Uber はそうしたが、Uber の創設者であり CEO でもある Travis Kalanick の経歴を紹介したこの長々しい記事を読めば、その後も他のさまざまの不正行為があったことが分かる。

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TidBITS ISSN 1090-7017©Copyright 2017 TidBITS: 再使用はCreative Commons ライセンスによります。

日本語版最終更新: 2017年 05月 05日 金曜日 , S. HOSOKAWA