TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#1372/12-Jun-2017

今年の WWDC キーノートを扱った記事の締めくくりとして、今週は新しい Mac ハードウェアを概観し、登場予定の iMac Pro についてもお伝えする。Apple の新型 iMac を買おうと考えている方はちょっとお待ちを! Adam Engst が、あなたの予算内で最高のものを注文する方法を説明する。同じような構成に見えて実際は違うこともあるし、注意して選ばないとグラフィックスのパフォーマンスが落ちることもあるからだ。Adam はまた、以前コンサルタントをしていた日々を懐かしく思い出させてくれた、今年の ACEs Conference のまとめを報告する。今週号の特集記事として、Josh Centers が iPhone でカードの支払いをコントロールする方法を説明し、William Porter が FileMaker 16 の新機能を検討する。今週注目すべきソフトウェアリリースは Boom 3D 1.0、GarageBand 10.2、それに Swift Publisher 5.0 だ。

記事:

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Apple、iMac と MacBook ラインを増強、iMac Pro で興奮を誘う

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

先週の WWDC 2017 で、Apple はキーノートの重要な部分を新しい Mac ハードウェアに割り振り、改良された iMac と性能強化された MacBook Pro を披露し、ついでに MacBook Air の速度向上にも触れた。既存のラインナップに対する変更点をおさらいした後、Apple は iMac Pro の試験公開をした。これは 27-inch iMac 5K Retina ディスプレイモデルのワークステーション級のバージョンで、今年末に出荷が予定されている。

Apple は、Mac mini にも Mac Pro にも全く触れなかったが、同社は既に Mac Pro は再設計の最中で、完成は早くとも 2018 になると公表している ("Mac の過失です: Apple、Mac Pro の失敗を認め、さらなる透明性を約束" 4 April 2017 参照)。

iMac -- Apple のデスクトップラインの主力製品は長いこと iMac であり、Apple は現在3つの基本モデルを提供している:21.5-inch non-Retina バージョン、21.5-inch iMac 4K Retina ディスプレイモデル、そして 27-inch iMac 5K Retina ディスプレイモデルである。

CPU に関しては、Apple が Intel の第 7 世代 "Kaby Lake" プロセッサを使用し、そしてクロック速度を上げたことで、速度上昇が図られている。その細部については Apple の Tech Specs ページで見られるが、Apple は 21.5-inch Retina iMac に焦点を当てており、non-Retina モデルは1つの構成しか提供していない。ベンチマークを見れば、新しい CPU とより高速のクロック速度の組み合わせでどれだけ早くなったのかは分かるであろうが、購入判断は価格に基づいてなされるのではなかろうか。

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iMac Retina ディスプレイモデルは今でも豪華だが、Apple は 21.5-inch 及び 27-inch サイズの両方共更に改善して、明るさは 43% 増加し 500 nits になり、10 億色の表示に対応すると言っている。

non-Retina iMac モデルはスクリーンを内蔵の Intel Iris Plus Graphics 640 で駆動するが、Retina モデル全ては今や Radeon Pro GPU を活用しており、555 と 560 が 21.5-inch モデルに、そして 570, 575, そして 580 モデルが 27-inch モデル用となる。ここでの明らかな勝者は 21.5-inch Retina モデルで、こちらはこれまで内臓の Intel Iris Pro Graphics 6200 に限定されていた。

Apple は Fusion Drive をより多くの構成で標準にし、更に同社はこれらの SSD は、 256 GB, 512 GB, そして 1 TB の容量のものが用意されており、最大 50% 高速になっていると言っている。また、最上級の 27-inch iMac 用には 2 TB SSD を驚愕の $1400 で追加出来る。

RAM に関しては、全ての基本モデルは 8 GB で出荷される。non-Retina iMac と低グレードの 21.5-inch Retina モデルは 16 GB に制限されるが、高グレード 21.5-inch Retina モデルは今や 16 GB や 32 GB も選べる。これは歓迎出来る改善と言える。同様に、低グレード 27-inch モデルは最大でも 32 GB だが、2つの高グレードモデルは 16 GB, 32 GB, 或いは 64 GB まで行ける。21.5-inch iMac の RAM はユーザーがアップグレードすることは出来ないが、27-inch モデルの方は自分でメモリをインストール出来る

驚くことではないが、Apple は従前のモデルの Thunderbolt 2 ポートを1対の Thunderbolt 3 ポートで置き換えた。Thunderbolt 3 は外付けスクリーン用の DisplayPort を、Thunderbolt を最大 40 Gbps で、USB 3.1 Gen 2 を最大 10 Gbps で、そして他の色々なプロトコルをアダプター経由でサポートする ("Thunderbolt 3, USB-C, そして両者の間にある全てを説明する" 3 November 2016 参照)。

これらの変更全ては、新しい iMac を求めている人には嬉しい話であろう。しかし、手持ちの Retina iMac と入れ替えたいと思わせるだけのものはないのではなかろうか。勿論 Thunderbolt 3 が必要という場合は別である。最も興味深い変更は、実際に 21.5-inch モデルの方である。こちらは従前の構成の RAM とグラフィックスの制限を超える一方で、より安価な構成も導入している。

21.5-inch non-Retina iMac の価格は $1099 のままで、2つの Retina 構成の方は $1299 と $1499 から始まる。27-inch モデルには3つの構成がある:$1799, $1999, そして $2299 である。全てが現在入手可である。

私は Apple が WWDC キーノートで発表した変更の数に驚かされたかもしれないが、これらの変更をこれまでのモデルと関連させてもっと内容に即してお伝えする術をなかなか思いつかない。と言うのも、どのモデルがどの build-to-order オプションを得られるのかの組み合わせは余りに複雑だからである。もし色々な組み合わせの値段を比べて見たいのであれば、幾つかのブラウザーウィンドウを開いて、構成別に横並びにして比べてみることをお勧めする。実際、Apple 自身ですら、我々が発見した価格体系の奇妙さからすると、こんがらがっているのかもしれない ("2017 iMac 構成捻れる:騙されないように!" 12 June 2017 参照)。

MacBook, MacBook Pro, そして MacBook Air -- iMac と同様、Apple は MacBook と MacBook Pro のプロセッサを新しい Kaby Lake プロセッサにアップデートし、より速いクロック速度で走らせている。これで性能は改善されていると思われるが、その程度はさ程ではないであろう。MacBook Pro モデルはグラフィックス処理も改善されていて、13-inch MacBook Pro モデルは Intel Iris Plus Graphics 640 と 650 を手にし、そして 15-inch モデルは Intel HD Graphics 630 and 640 に代わって Radeon Pro 555 と 560 の独立の GPU を手にした。

今や MacBook を 16 GB の RAM 付きで買える。これまでは 8 GB が上限であった。そして Apple は MacBook のオンボード SSD は最大 50% 速くなっているとしている。これにより MacBook の魅力は少々増すことになるであろう。これ迄は、その冴えない性能が最大の弱点の一つであった。

噂に反して MacBook Air は生き残ったが、変更は一番小さく、標準の 1.6 GHz dual-core Intel Core i5 プロセッサが 1.8 GHz モデルに置き換わった。2.2 GHz で走る Intel Core i7 にアップグレードするオプションは残されている。

これらの変更は全て前進であるが、3つのモデルの間での選択の難しさを緩和するのには全く役に立っていない。それぞれが、価格、性能、サイズの3次元グラフの異なる場所に位置している。選ぶには、何が自分にとって一番重要なのかを見定め - 値段、速度、或いは携帯性 - そして、Apple のノートブックのどれが自分のニーズに合うのかを見つけ出す必要がある。

新しい iMac モデルと同様、これらのアップデートされたノートブックは全て現在入手可である。

iMac Pro -- 非公開のメディアとの会合で、Apple の経営陣は Mac Pro に関連して、うっかり今年出す iMac にプロ関連のものがあると言及した。

Apple は、今回 iMac Pro の前の幕を開けて、それが意味するものをもっと見せてくれた。December 2017 に予定される iMac Pro は、27-inch iMac 5K Retina ディスプレイモデルと同じフォームファクターを有するが、ブラシ仕上げの外見をスペースグレイ仕上げに置き換え、その外観は Magic Keyboard with Numeric Keypad, Magic Mouse 2, そしてオプションである Magic Trackpad 2 でも踏襲される。

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(キーボードの名前が気になる? 我々も。後で分かったのだが、Apple は WWDC の期間中に、新しいワイヤレス Magic Keyboard with Numeric Keypad を $129 で静かにリリースしていた。キーパッドユーザーには嬉しい話だ!)

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iMac Pro の目標はワークステーション級の性能を iMac のデザインの中で提供することである。これの最も困難な部分は熱との戦いである。その理由は、iMac Pro は Intel Xeon プロセッサを 8-core, 10-core, そして 18-core の構成で使うからである。

もう一つ、必要な熱構造の再設計に関係するのが、Apple が新しい Radeon Pro Vega GPU を使うことである。これは、次世代の計算コアと最大 16 GB のオンパッケージ広帯域メモリ (HBM2) を搭載すると報じられている。Apple が言うには、Vega GPU 搭載の iMac Pro は最大 11 teraflops の単精度計算力を実時間 3D レンダリングと高フレームレート VR に供すると言う。マシン学習に最適と言われる半精度計算に対しては、iMac Pro は最大 22 teraflops の性能を発揮する。(我々にもそれが何を意味するのかは分からないが、Apple は、それがとても印象的に聞こえるようにするのには成功している。比較のために挙げると、27-inch iMac の Radeon Pro 580 はピーク性能で 5.5 teraflops である。)

iMac Pro はデフォルトでは 32 GB の RAM 付きで出荷されるが、このクラスのマシンとしては、64 GB 又は 128 GB に構成出来ると言う事実の方がもっと重要である。1 TB SSD が標準だが、2 TB そして 4 TB SSDs がオプションとなる。

驚くほどではないが、iMac Pro には Thunderbolt 3 ポートが4つあり、これで最大2台の 5K ディスプレイと2つの高性能 RAID アレイを同時に駆動出来る。その他の接続オプションは、現在の 27-inch iMac 5K Retina ディスプレイモデルのものを模しているが、例外は Ethernet である。gigabit Ethernet の代わりに、iMac Pro には 10 Gb Ethernet が含まれ、マシン間で大量のデータを転送する時には大きな違いを発揮するであろう。

では、値段は幾らになるのであろうか? すごく高い。基本の iMac Pro 構成で、$4999 からとなる。Apple は、同等のワークステーションで約 $7000、しかも 5K ディスプレイなしで、と言っている。更に、大容量の SSD や RAM の高価格を考慮すれば、満載の iMac Pro であれば簡単に $7000 のマークに到達するか、超すであろうと想像される。

しかし、そんなことで iMac Pro の聴衆は諦めないであろう。もし最大性能の Mac が必要であれば、iMac Pro がその役目を担える。或いは、少なくとも新しい Mac Pro が出る迄のつなぎにはなるであろうが、テラフロップで生計を左右される人たちはそれ迄待ちたいとも思わないであろう。

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2017 iMac 構成捻れる:騙されないように!

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

Apple のアップデートされたばかりの iMac を買おうと思っている? その構成を決める際には十分な注意を払って欲しい。と言うのも、どの様に始めるかによっては同じ値段なのに程度の低い構成に行き着いてしまったり、或は同じ構成なのにより多く払ってしまうと言う様な可能性があるからである。Apple のオンラインストアでのこれらのねじれ現象を見つけ、そして知らせてくれた読者の Sugarwater Brothers の Yasuhiro Sugawara にお礼を申し上げる。

21.5-inch iMac の Radeon Pro 555 対 560 -- まず、21.5-inch iMac で最速のプロセッサと 1 TB Fusion Drive が付いたものを買いたいと思うとしよう。Apple のオンラインストアは3つの構成を提示してくるが、一番安いものは 4K Retina ディスプレイでないし、より高速のプロセッサが選べないので無視することとする。

中間の 21.5-inch iMac 4K Retina ディスプレイモデルから始めるとすると、より高速の 3.6 GHz quad-core Intel Core i7 プロセッサを選び、そして 1 TB のハードドライブの代わりに 1 TB Fusion Drive を選ぶと、値段は $1699 となる。そうではなく、最上位の 21.5-inch iMac から始めると、同じ構成をより高速のプロセッサを選ぶだけで作成出来、値段も同じになる。何故ならば、それには 1 TB Fusion Drive が既に付いているからである。

でも、それだけではない。Yasuhiro Sugawara が気づいた様に、全ては、値段も含めて、同じなのだが、例外は Radeon Pro グラフィックスプロセッサなのだ。中間レベルの iMac には Radeon Pro 555 が 2 GB のビデオメモリと共に付いてくるが、最上位の iMac には Radeon Pro 560 が 4 GB のビデオメモリと共に付いてくる。繰り返しになるが、値段は全く同じの $1699 である。

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番号の大きい Radeon Pro グラフィックスチップが2倍のビデオメモリを持った時、どれ程の違いが現れるのか? 正式なベンチマーク試験をすることなしに言うことは不可能である。AMD によれば、Radeon Pro 555 は 12 の計算ユニットを持ち 1.3 teraflops に達することが出来、一方で 560 は 16 の計算ユニートを持ち最大 1.9 teraflops に達することが出来ると言う。Tech Report Web サイトには、これらのグラフィックスチップに関する論議が載っており、555 の代わりに 560 を選ぶことで性能向上がある程度得られる可能性が論じられている。

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555 と 560 の違いを認識出来るか否かに拘らず、より高速の 560 により多いビデオメモリの付いたものを追加料金なしで得られるのを欲しくないと言う理由は私には見当たらない。少なくとも、理屈の上ではより良いし、それに iMac の売却価格も上昇するかもしれない。いずれにしろ、もし 21.5-inch iMac で最速のプロセッサと少なくとも 1 TB Fusion Drive が付いたものを欲しいのであれば、中間レベルからではなく、最上位モデルから始めるべきである。

RAM やストレージを増加させて行っても価格の同等性は崩れないが、最上位モデルは最大 32 GB の RAM まで行けるが、中間モデルは 16 GB 止まりとなる。これ迄の 21.5-inch iMac モデルと同様、RAM を自分自身でアップグレードすることは出来ないので、一方 27-inch iMac の方は自分で出来る、最初から正当な大きさで注文する様にしなければならない。

Yasuhiro Sugawara の発見は私の好奇心をかき立てた。そこで、私は他の Mac も調べてみた。15-inch MacBook Pro に関しては、同様の状況を作り出せなかった。その理由は、中間構成では Radeon Pro 555 で 2 GB のビデオメモリから最上位モデルの Radeon Pro 560 で 4 GB のビデオメモリに上げる $100 のオプションを提供しているからである。明らかに、Apple はこの跳躍には $100 の価値があると認識していると言うことになる、少なくとも MacBook Pro に関しては。

27-inch iMac's Radeon Pro 575 対 580 -- しかしながら、27-inch iMac 構成をいじっていたら、21.5-inch モデルと同じ問題に遭遇した。これを見るには、中間と最上位の 27-inch iMac に 4.2 GHz quad-core Intel Core i7 を載せ、そして中間のものには最上位モデルと同じにするため 2 TB Fusion Drive を与える。どちらの構成でも $2499 になるが、中間のものには Radeon Pro 575 で 4 GB のビデオメモリしか付かないが、最上位のものは Radeon Pro 580 で 8 GB のビデオメモリが付いてくる。

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Radeon Pro 575 は 32 の計算ユニットを持ち、580 は 36 の計算ユニットを持つ。そして、ピーク性能は 575 が 4.5 teraflops で、580 が 5.5 teraflops となる。繰り返すが、もし 27-inch iMac 5K Retina ディスプレイモデルで最高速のプロセッサが欲しいなら、最上位モデルから始めるべきである。ここで RAM を増加させても、また 2 TB 或は 3 TB Fusion Drive のどちらを選んでも、価格の同等性は維持される。

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(RAM の追加の話をすれば、27-inch iMac の3つのモデル全てで RAM のアップグレードが可能である。Mac Observer によれば、下位モデルですら最大 64 GB の RAM にまで行けると言う。これは Apple の Tech Specs ページで言っていることとは反するが、追加メモリは独立の供給元から購入しなければならない。)

27-inch iMac の SSD 価格 -- 27-inch iMac に関して、この珍しい価格同等性が当て嵌まらない所がある。それは Fusion Drive を SSD に置き換えたい場合である。

中間モデルの 27-inch iMac を 512 GB か 1 TB SSD 付きで構成すると、同等に構成された最上位モデルよりも $100 安くなる。512 GB SSD 付きだと、中間モデルは $2599 となり、最上位モデルは $2699 となる。1 TB SSD に上げると、中間モデルは $2999 にしかならないが、最上位モデルは $3099 となる。

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この違いの説明としては3つ程考えられる。順番に上げると:

私は、この状況について Apple に連絡を取ったが、まだ返事はもらっていない。

その間、この話の教訓は、iMac の構成を検討する時は、自分のお金に対して最大限のオプションが得られるよう、細心の注意を払う必要があると言うことである。

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ACEs Conference 2017: コンサルタントへの危険な誘惑

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

最近 Phoenix で開催された ACEs Conference は、私の中にある Apple コンサルタントになりたいという気持ちを呼び覚ました。(2017 年 4 月 12 日の記事“ACEs カンファレンス、コンサルタントの事業拡大を手助け”参照。)でも、今の仕事をすべて放り出して一から始めたいと思うほどではなかった。そうではなくて、もっとささやかな感覚だ。長年コンサルタントとして働いてきた人たちが苦労話をやり取りするのを聞いていると、カンファレンスの場での気楽な仲間意識が感じられて、少しうらやましく思ってしまうのだ。私自身も Apple 界でかなり評判を得ていて、昼食でクールな面々と一緒になっても十分打ち解けられるが、それでもやはり私は彼らの一員ではない。

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でも、実は私が彼らの仲間になることも十分あり得た。Tonya と私は 1989 年に Cornell 大学を卒業した時点で、その土地の Mac ユーザーグループでの知り合いの一人と一緒にコンサルタントのビジネスを始めるつもりだった。そのグループの名前は一大傑作の頭字語 MUGWUMP、これは Macintosh Users Group for Writers and Users of Macintosh Programs の頭文字を並べている。一度 MUGWUMP と発音してみて頂きたい! とにかく、そのビジネス計画はある理由があって実現に至らなかった。Tonya が仕事を得て、その後彼女は Cornell 大学の Microcomputers and Office Systems グループで New Technologies Consultant の職に就いたのだ。そして私は独立のコンサルタントとなったが、その実態は現代の言葉で言えば「ソリスト」に他ならなかった。

それが、1990 年に TidBITS を始めた時点での私たち二人の状態だった。私はコンサルタントの仕事が大好きだった。なぜなら、私はどうすればもっとうまく Mac を使いこなせるかを他の人たちに説明せずにいられない性分だったし、家族や友人たちに無料でしてきたことをしてお金をもらえるのがコンサルタントの仕事であったのだから。仕様書がきちんと揃っていなかったのでそもそも受けるべきでなかった大規模な Double Helix データベース開発の仕事が一つあったのを除けば、私はなかなかうまく自分の仕事をこなしていたと思う。

けれどもそれから一年ほど経って、Tonya が Microsoft 社での職を与えられ、私たち二人は結婚して Ithaca から Seattle へ引っ越した。誰一人知り合いのいない町でこれまでのようなコンサルタントの仕事を続けられるとは到底思えなかったので、私は自分のエネルギーを TidBITS に注ぎ込んだ。その後のことは、皆さんがご存じの通りだ。

そういうわけで、Boston に本拠を置く Call Andy! の Andy Espo がどのようにしてコンサルタント業務に足を踏み入れたか、どうやって「ソリスト」を脱して従業員を雇うようになったかと語る講演を聴きながら、私は自分自身のもう一つの過去に想像を巡らせていた。そして、カナダの Winnipeg に本拠を置く Precursor Systems の Alex Narvey が時間給でなく一定の月額料金を払うのをクライアントに喜んで同意してもらえる管理されたサービスモデルの開発に成功した様子を語って聴衆一同が大笑いしつつ椅子から立ち上がった際にも、私の想像力は掻き立てられた。彼の論点の核心は、時間給払いの下では時間を販売することになるが、それではクライアントが抱える問題をできる限り素早く効率的に解決することを目指すのでなく、できるかぎり多くの時間を販売しようとして葛藤を生んでしまうというものだった。それからまた、楽しそうに元気よく少々訛りのある言葉で語るオランダ人 Remie Cremers による、彼がオランダの Utrecht に開設したコンサルタント会社 Super Remie が家庭ユーザーに焦点を絞った経緯の話も楽しかった。

その他のセッションの講演を聴いても、あの単純だった 1990 年代とは世界がすっかり変わったことがはっきりと分かった。Indianapolis の My IT Indy の Ryan Grimes が聴衆に「何から何まで自動化せよ」と勧めた際には、私も彼の提案のほとんどを理解できた。けれども Spokane に本拠を置く Strong Solutions の JD Strong が Apple MSP (managed services provider) ならば PSA (professional services automation) または BMP (business management platform) を利用して監視、パッチ管理、ソフトウェア配布、問題点の管理、経費請求などの定型業務を自動化すべきだと語った際には、はっきりと自分が取り残された感じがした。けれどもその部屋にいた他の人たちは全員心を奪われていたようで、消えた請求書、紛失したチケット、当てにならない業者、といった話題が盛んに行き交った。

私が何十年も前にしていたように、ただ自分の経験と勘だけを頼りにコンサルタントの業務を運営することは、おそらく今でも可能だろう。けれども現代的なやり方で進めようとするなら Watchman Monitoring のソフトウェアをインストールすることが必須ではないか。先を見越した警告を出すことができ、例えばクライアントの一人の Mac が数日間バックアップされていないとか、そのハードドライブが SMART エラーを出しているといったことを知らせる。それより単純な問題の多くについては、コンサルタントが遠隔管理ソフトウェア、例えば AddigyJamf Pro などに依存して、ソフトウェアのインストール、メンテナンス作業の実施、その他さまざまなことを遠隔操作で走らせている。

他のコンサルタントたちが語る講演も役に立ったが、ACEs が他のテクノロジーカンファレンスと一味違うのは、カンファレンス主催者 Justin Esgar (彼もまたコンサルタントで、ニューヨーク市の Virtua Computers として仕事をしている) が選抜したビジネスのプロたちによるセッションだった。Justin がキーノート講演者として招いた Mike Michalowicz は、ビジネス本 "Profit First" や "The Pumpkin Plan" の著者で、彼の講演も非常に面白かったが、他の講演の中にもなかなか魅力的なものがいろいろあった。

ビジネス指導者 Jennifer Dawn は、ソフトウェア会社を設立し(そして売却し)その後ある大会社でキャッシュフローの自由の達成について語る環境を整えるために働いた体験を語った。私は常日ごろから自助努力をモットーとしているので、彼女が聴衆に向かって借金のない状態を目指せと呼びかけ、世に言う「賢い借金」などたわ言だと言い切ったのが嬉しかった。親愛なる TidBITS Content Network 購読者の皆さんと廊下で重要な(しかも収穫の多い)会話を交わしていたため、私は弁護士 David Postolski によるサービス契約の管理に関するセッションを聞き逃したが、マーケティング・コンサルタント Erin Bury によるコンサルタントがいかにして自身のブランドを構築するかという助言は自分でビジネスを運営しているすべての人たちに有益だと思った。

でも、全体の中で最も重要なセッションだと思えたのは、財務諸表を見て重要なビジネス上の情報を読み取る方法を述べた Marcy Maslov のチュートリアルだ。私はこれまで、内部意思決定を告げる管理会計と、外部から見た会社の財務を伝える財務会計との違いなど、考えたこともなかった。45 分間の講演ではほんの表面的に齧っただけに過ぎないが、それでも Maslov が語った詐欺や機能不全、さらに犯罪行為の物語は(その多くは食事の席や廊下での立ち話で聞けたものだが)すべての事業主が財務諸表の読み方を知っているべきであり、比率分析を使って動向を読み取る力を持っているべきだと痛感させた。

Justin Esgar は私をカンファレンス最終セッションの4番打者にしてくれたので、私はこの機会を利用してコンサルタント向けに誂えたコンテンツ・マーケティングの戦略を話題に選んだ。私たちが TidBITS Content Network でしてきたことや、購読者たちから聞こえてきた物語などを基盤として語った。詳しい内容をここで述べる余裕はないが、私が TCN と平行して始めた Publish or Perish ブログにその戦略の一部を書き記すつもりだ。(ここで、Apple の WWDC 発表のまとめをクライアントに送信したいと思う Apple プロフェッショナルの方々にお知らせがある: その記事が現在、TCN 購読者への無料ボーナスとして入手できる。ぜひこれを機会に TCN の無料試用購読にサインアップして頂きたい!)

私などとは違って、コンサルタント業務の最前線で毎日骨折って働いている人たちにこそ、ACEs Conference は強くお薦めできる。来年のカンファレンスの日程や開催地はまだ発表されていないが、コンサルタント業界にいる人ならば注目しておくべきだろう。

話は変わるが、Command Control Power ポッドキャストも、ぜひ聴いてみて頂きたい。この週刊ポッドキャストは Connecticut 州で働く三人のコンサルタント、PsiMac の Joe Saponare、HCS Technology Group の Sam Valencia、MacWorks の Jerry Zigmont が放送している。ACEs の初日に彼らがライブ放送した番組は、ビジネスクライアントのみを相手としてきたコンサルタントに対して家庭クライアントの重要性に触れ、それに関係する技術的な話題やヒントを満載したものであった。とても良く出来ているので、皆さんのポッドキャストのローテーションに加えてみてはいかがだろうか。

結びにもう一言。確かに ACEs の会場で非常に楽しく生産的な時を過ごしはしたが、私はやはり TidBITS と TidBITS Content Network の執筆と出版に専念するつもりであり、コンサルタント業にもう一度飛び込んだりはしない。あのクールな面々の一員になることはもうないとしても、これからもまた ACEs Conference の会場に顔を見せて、楽しむことはできる。私にはそれで十分だ。

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iPhone から自分の支払いカードをコントロールする

  文: Josh Centers: [email protected], @jcenters
  訳: 清水 史彦 <qff01604@nifty.com>

先日、私が、自分の Ally Bank の当座預金口座の残高を調べたところ、異常に残高が少ないということで警告を受けた。詳しく調べた結果、HostGator に対する数百ドルの支払いに、私は気付いた。HostGator とは、私はこれまで取引したことがない。何てことだ、誰かが私のデビットカードのナンバーを盗んでいたのだ!

HostGator では、こうした問題がかなり頻繁に起きているようで、同社は、不正な料金請求のためだけに、特別なヘルプ・ページを持っている。私は、自分のお金を素早く取り戻すことができた。

奇妙な点は、この不正が、古いデビットカードで起きたということで、そのカードは、銀行によって無効化されていたはずなのだ。つまり、私は新しいカードを入手する必要はなかったということなのだが、そもそも、そんなことがあったはずがない。

新しい Ally Card Controls アプリのおかげで、現在の私の Ally デビットカードには、こうした問題が起きることはおそらく無いだろう。このシンプルなアプリを使うと、スイッチでカードをオン・オフすること、カードをどのように使うかコントロールすること、最近の購入履歴を見ること、そして、カードが使用される度に、通知を受け取ることができる。

Ally Card Controls は、少々おかしい。最初にアプリを開くと、メインのAlly Mobile アプリから、これを認証しなければならないと告げられる。これをどうやって行えば良いのか、すぐには分からないのだ。しなければならないことは、Ally Mobile アプリの Settings に行って、Card Controlsを選択することなのだ。そうすることによって、Ally Card Controls に戻って、これが認証される。また、Ally Card Controls は、iPhone 7 Plusのような大きな画面には最適化されていないことにも気付くかもしれない。だが、こうした些細な厄介ごとは、このアプリのメリットを考えれば我慢する価値がある。

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メインの画面で自分のカードを目にすることになるが、これには、カードをオン・オフするスイッチが付いている。(もし、複数の Ally のカードを持っているのであれば、それらの間でスワイプが可能だ。) 伝統的なやり方では、もしカードが見当たらなくなったら、盗まれた可能性を考えて、発行者に電話してカードを無効にしてもらい、新しいカードを送付してもらわなければならない。これは多大な苦痛だ。Ally Card Controls アプリがあれば、念のため、自分でカードをオフにするだけでよく、後日、カードが車のシートの間に挟まっているのを見つけたら、再度、オンにすればよい。

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これは、ほんの表面をかじったに過ぎない。Control Preferences のもとでは、どこで、どのようにカードを使用可能とするか、選ぶことができる。

Control Preferences の下には、Alert Preferences がある。コントロールのルールと同様に、アラートのルールを設定することができるが、私は、取引全て (All Transactions) に対して通知を受け取る方が好きだ。私は、通知が不快になるほど、頻繁に自分のカードを使うわけではない。そして、自分のカードをスワイプして再確認すると、数秒後に、自分の iPhone でブザーが鳴るのが分かる。

最後に、Recent Transactions のボタンがある。これは、まさに皆さんがそうであろうと思うものだ。

他の銀行からのオプション -- 私は、Ally Bank の宣伝をしているように見られたくはない。Ally Bank は、単に私が使っている銀行というだけであって、したがって、私が最も豊富な経験を持っている銀行なのだ。他の金融機関も、購入通知の提供に加えて、アプリや Web サイトを通じて、カードを無効にする同様のオプションを提供している。

金融機関の中に、アプリや Web サイトを使って、クレジットカードやデビットカードを一時的に、もしくは、永久に無効化したり、支払いをコントロールしたり、そして、購入について通知したりできるようにしているところがあるというのは心強い。だが、私たちは、こうした機能がもっと広まるのを見たいと思う。

もし、あなたが、何らかの iOS アプリで、興味深い機能を提供している他の金融機関を知っているのであれば、コメントで私たちに知らせてほしい!

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FileMaker 16 の目に見えない素晴らしさ

  文: William Porter: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

最近リリースされた FileMaker 16 は、このデータベースプラットフォームに対する少なくともここ十年間で最も大きなアップデートであるが、それでいて改善点の大多数はこの会社の旗艦製品たる FileMaker Go や FileMaker Pro とほとんど関係しない。これらはそれぞれモバイルとデスクトップのクライアントで、 FileMaker データベースを走らせるために使われる。確かに、これら二つの製品にも歓迎すべき拡張がいくつか加わったが、今回のリリースで最も大きく変わったのはエンドユーザーからは見えないテクノロジー、すなわち FileMaker Server、WebDirect、さらにその先にあるものたちだ。

Pro よさらば、WebDirect よこんにちは -- まず始めに少し情報開示をしておこう。私は認定 FileMaker 開発者で、FileMaker Business Alliance の有料会員だが、FileMaker Inc. の従業員ではない。私は独立の開発者であって、私のクライアントたちのためにのみ働いている。

FileMaker 16 で最も素晴らしいことの一つは、私のユーザーたちに何も知らせずアップグレードできる点だ。少なくとも彼らが FileMaker Pro の新バージョンをインストールしたりする必要はない。WebDirect のお陰で、ただ単に私が URL を一つ彼らに送信するだけで、彼ら皆をウェブに導くことができる。

FileMaker の WebDirect テクノロジーはもう何年も前から存在している。良いものではあったが、初めて登場した時点では素晴らしいとは言えなかった。けれども今や、これなら FileMaker Pro と「使い勝手上も同等」と呼べるレベルに近づきつつある。WebDirect は通常の FileMaker データベースファイルを HTML5 ウェブページへと翻訳し、ユーザーがウェブブラウザの中でそれとやり取りできるようにするテクノロジーだ。

WebDirect を通じて呈示されるアプリは、FileMaker Pro の中で見たものとほぼ同じように見える。私たちのクライアントたちの大多数はその違いに気付きさえしないが、ただ一つの違いは FileMaker アプリを開く手順が今はウェブページをロードするだけになったことだ。WebDirect のお陰で、ウェブブラウザが FileMaker のシン・クライアントとなり得る。それは、私たちの多くが長年望んでいたものだ。

けれども今回の WebDirect の第四世代リリースはただ単に FileMaker アプリを従来のものより信頼性をもって呈示できるようになっただけでなく、ブラウザの中でフォーマット済みのレポートを生成できるソリューションを提供する点が重要だ。従来のバージョンの WebDirect はレコードの表示と編集についてはかなり優れていたがレポートの生成機能が劣っていた。FileMaker 16 になって、WebDirect がブラウザを通じた印刷にも、また PDF の生成にも対応し、その出力は FileMaker Pro を使ってしたものと全く同じになった。さらに、サーバに PDF を作成させてそれを電子メールの添付ファイルとして自分やクライアントに送信することさえできる。下のスクリーンショットで左側に見えるのが私の FileMaker ベースのスケジュール管理アプリに WebDirect を通じてアクセスしたもの、右側に見えるのが同じアプリを FileMaker Pro で開いたものだ。

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このようなやり方の付加利益として、これらがスマートフォン上でもうまく働く。FileMaker Go は FileMaker データベースのためのモバイルクライアントプログラムだが、iOS でしか動作しない。けれども WebDirect は Android でも動作する。実際デバイスのオペレーティングシステムとは無関係に、現代のブラウザならばほぼどんなものでも働く。私はまだ試したことがないが、開発者の友人から聞いた話によれば WebDirect の FileMaker アプリが Linux でも働かない理由はないとのことだ。

けれども、WebDirect はまだネイティブな FileMaker クライアントに完全に追い付いた訳ではない。FileMaker Pro または Go を通じたユーザー体験の方が、今はまだウェブブラウザ内での体験よりも豊かだ。例えば、私のアプリのいくつかはキーボードショートカットを使っているが、これはウェブブラウザでは働かない。また、WebDirect は無料ではない。クライアントが WebDirect を通じてサーバに接続するには、FileMaker Pro からクライアント接続をする場合と同じ料金がかかる。

それでも、私の感覚は WebDirect こそが FileMaker 配備の未来だと告げている。それにまた、FileMaker Inc. は WebDirect に対する大きな計画を持っているように見える。一つだけヒントを書いておこう: FileMaker Server 16 は 5 台のマシンからのアクセスを許すので、最大 500 名のユーザーが同時に一つのファイルに WebDirect を通じてアクセスできる。

アクセスの話のついでに... -- FileMaker 16 はオープンな認証プロトコル OAuth に対応する。OAuth 対応により、ユーザーは Amazon、Google、あるいは Windows Azure にログインするだけで FileMaker ソリューションに入れる。将来はもっと他のサービスも使えるようになると期待したい。いつの日か、Apple もより一般的な意味で OAuth に対応すれば良いのにと思う。OAuth は WebDirect (つまりブラウザ) でも、FileMaker Pro や Go でも動作する。

FileMaker サーバがいったん適切に設定されて、ユーザーアカウントが OAuth を使うようセットアップされれば、アプリにアクセスしたいユーザーには上に記したアカウントのいずれかの認証情報でログインする機会が与えられる。

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当初、私はこの機能に複雑な感じを抱いた。"Take Control of Your Passwords" の中で、Joe Kissell はアカウントをインターネット上にリンクすることは避けるべきだと助言しており、私はたいてい Joe の助言に従っている。けれども Google やその類いは間違いなく私などとは段違いのセキュリティの脅威に晒されているし、これら第三者のサービスはすべて二段階認証を提供している。FileMaker のセキュリティツールだけでは二段階認証が提供されないので、これは非常に良いことだ。

無限へ、その先へ -- Google を通じた認証は素晴らしいし、WebDirect で FileMaker データベースにアクセスできることはもっと素晴らしい。けれども FileMaker 16 には別の技術的改良もあって、これがさらにもっと広範囲にわたる意味を持つ。これらの新しい「機能」はそれ自体本質的に説明が困難である上に(なぜなら、そう、難しいものだからだ)私にとっても説明が困難だ。なぜなら、これらは最新のニュースであり、他のたいていの開発者たちと同様、私もまだそれらをどう利用するのかについて学び始めたばかりだからだ。ここではただ、それらの変化がなぜ非常に有望に見えるかを説明してみたい。

従来 FileMaker は FileMaker 以外のデータベースとデータを共有するために ODBC/JDBC などの古いデータ交換テクノロジーに依存していた。近年になって、非常に高価なプラグインを通じて FileMaker の適用範囲が拡張されてきた。現在の FileMaker は今日のインターネットで広く使われているさまざまのテクノロジーに個別に、ネイティブに対応し、データを交換し操るようになっている。そこに登場するテクノロジーとしては cURL、JSON、RESTful API などがあり、新しい FileMaker Data API もそれらと並ぶ。

何年も前から、FileMaker はインターネット上のリソースに向けてリクエストを送信し、何らかのデータを取り寄せ、その結果を一つのフィールドの中にコピーすることができていた。例えば写真を一枚取り寄せたり、ZIP コードに対応する州や都市の名前を問い合わせたりといった、ごく単純なクエリーならそれでも十分だろう。URL フォーマット機能の cURL への対応が FileMaker 16 に組み込まれることで、開発者たちは以前よりはるかに複雑なクエリー(例えばパラメータを遠隔ページに渡すなど)を生成することができ、さらには cURL パラメータが転送の際に暗号化されるお陰でクエリーがよりセキュアに送られるようになる。

また、FileMaker 16 が JSON (JavaScript Object Notation) に対応することで、上級 FileMaker 開発者たちが働く方法がぐっと改善されるのではないかと私は期待している。現在、ウェブの多くの部分が言語に非依存の JSON データフォーマットを使っているので、FileMaker の中から JSON にアクセスし操作できるようになれば、FileMaker サイトではないとてつもなく多様な種類の外部サイトとの間で、効果的なデータ共有が可能となるだろう。また、たとえ遠隔サイトとの間のやり取りをしていなくても、JSON のデータ処理機能が手に入れば FileMaker の機能がかなり大きく拡張されるだろう。

それと同じくらいに重要ではあるが、現時点では十分な把握がずっと難しいのが、新しい FileMaker Data API (application programming interface) だ。FileMaker 16 においては、FileMaker アプリが他のサービスに接続できるのみならず、他のサービスから FileMaker へと接続することも可能だ。2018 年後半の時点まで、FileMaker Inc. はこの FileMaker Data API を試用段階の機能と考えている。私が思うに、いずれはこれを使ってごく単純なウェブサイトでさえも FileMaker データベースからデータを引き出してそれを動的に表示することができるようになり、その際 PHP スクリプティングも不要となるのではなかろうか。

FileMaker は長い間有能なアプリケーション開発プラットフォームとして存在しており、たとえ cURL、JSON、あるいは新しい FileMaker Data API といったようなものがなくとも多くのビジネス上の問題を解決して行くのは間違いないだろう。けれども、これらの新しいテクノロジーを学ぶために努力を注いだ開発者たちならば、FileMaker を使えば過去に夢見さえしなかったようなことができるようになったと気付くことだろう。

Windows とウィンドウ -- 当然ながら、複雑な製品の新リリースでは必ず言えることだが、新機能もたくさんある。それらのうち、開発者のみに関係あること(例えば、たくさんの新しい関数、Script Editor が動作する方法の変更、その他)については基本的にここでは触れないようにしたい。FileMaker のウェブサイトeに行けば FileMaker 16 での新機能のフルリストが読める。

ここでは二つだけ改良点を紹介しよう。いずれも驚天動地の知らせではないが、それでも歓迎すべきものだ。

一つ目は、Windows 10 上の FileMaker Pro 16 が SDI (ウィンドウイングの single-document interface) に対応したことだ。FileMaker のウィンドウがアプリケーションの枠組みから解放され、基本的に Mac 上のウィンドウと同じように、独自に存在するようになる。実際、ここで私は筋金入りの Mac ユーザーとして語っているのだが、私のアプリの Windows 10 上での見栄えの方がちょっと好みだ。なぜなら、アプリケーションのメニューバーを消せるからだ。見栄えも挙動も、ウィンドウがすっきりして現代的に感じられる。

もう一つすっきりして現代的になったのが、FileMaker の新しい「カード風」のウィンドウだ。カードウィンドウにはウィンドウ枠もメニューバーもなく、背後にある他のウィンドウを暗くする設定もできる。このカードウィンドウの利用法のいくつかは以前からできたことにただ魅力的な見栄えを提供するだけのものかもしれないが、二つのウィンドウを一つに結び付けるなど、カードウィンドウがなかなか素敵な UI オプションを提供することもある。私は、カードウィンドウが FileMaker の開発者からもユーザーからも人気を博するようになるのではないかと思う。

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最終結論 -- 1980 年代から 1990 年代前半にかけて、FileMaker Pro はコンシューマに優しい、使いやすいデータベースという定評を得た。当時のその評価が的を得ていたか否かは議論の分かれるところだが、実際のところこれは長らくエンドユーザーをターゲットとしていなかった。時々、私は FileMaker をギターに例える。もしもあなたがただ "Louie, Louie" を弾きたいだけなら「ギターの弾き方」を習うのは簡単だ。けれども Sergio Assad の Toccata を弾きたいのなら (David Russell の演奏がお薦めだ)、いやはや、ギターは全然易しくない。

FileMaker も、そういうことだ。確かに、FileMaker Pro をひょいと動かして単純な一人用のクリスマスリストを作るのは簡単だ。でも、FileMaker でクリスマスリストを作るというのは、言ってみればアパートの入り口の脇のちっぽけな芝生を刈るのに 7 フィート幅の刈り取り刃を持つロータリー式草刈り機を使うようなものだ。

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あなたの望みがごく単純な一人用のデータベースだけならば、むしろ Knack とか Airtable のようなものを使った方が良いだろう。Airtable を使えば、スマートフォンの上でほんの数分でデータベースを作成し、他の人たちと共有できる。限られた必要しかないユーザーならば Airtable は基本的に無料だ。一方 FileMaker では、すぐ後で見るように、料金は大して高くない。

でも、データを保存して処理したり、自分のユーザーたちのために柔軟性あるクリエイティブなユーザー体験を提供したり、セキュリティや報告の入り組んだ要件があったりする場合には、単にデータベースを築くに留まらずアプリケーションを築く必要が生じる。そして、そう認識できるまでにはいくらかの努力が要るけれども、そこのところこそが FileMaker 16 プラットフォームが真価を発揮する場所なのだ。

最終決算 -- では、それだけの利点を享受するために、どれだけの費用がかかるのか? 単純な質問だが、答は単純でない。

FileMaker 16 に対する価格は、大まかに言ってユーザー一人あたり毎月 $5 から $15 の間だ。FileMaker を購入するプログラムには片手で数え切れないくらいの種類があって、あなたの会社がユーザー一人あたり毎月負担する金額が $5 に近いか $15 に近いかは、必要なライセンスの個数をはじめ数多くの要因に依存する。また、教育機関向けや非営利団体向けにも特別のプログラムがある。

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その上、価格はあなたの配備計画にも依存する。あなたの会社は、アップグレードが出る度に最新のものを得ることを望むか(私はこちらをお薦めする)それとも固定価格の終身ライセンスを購入してそれをいつまでも使い続けたいか。ユーザーたちはデスクトップコンピュータのみで FileMaker Pro を使ってソリューションにアクセスしたいか、それともスマートフォンやウェブブラウザを使っても接続したいか。あなたの会社はデータベースを社内でホストしたいか、それともクラウド上にホストする方を望むか。そういった条件によっても価格は変わる。

注意すべきは最良の購入オプションのうち二つが FileMaker のオンラインストアを通じては購入できないことで、最も良い手段は FileMaker に電話して援助を求めるか、あるいは知り合いの FileMaker 開発者に相談するかだろう。

述べてきたように、FileMaker は今やエンドユーザー向けのデータベースではなくて、真の意味のデータベースアプリケーション開発プラットフォームだ。FileMaker 16 に至って、メインの FileMaker デスクトップとモバイルアプリはそれほど変わっていないが、FileMaker の焦点は WebDirect、OAuth 対応、さらに自らをインターネットの中へ開かせる各種テクノロジーの統合にあるのであり、そのことが多くの状況下でこれを魅力あるアップグレードとしている。

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TidBITS 監視リスト: 注目のアップデート、2017 年 6 月 12 日

  文: TidBITS Staff: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Boom 3D 1.0 -- Global Delight が Boom 3D を発表した。同社の音量ブースターおよびイコライザー用アプリ(従来 Boom 2 と呼ばれていた)の新バージョンで、今回からヘッドフォンでの使用を狙った没入型 3D 仮想サラウンドオーディオ体験を提供するようになった。プレスリリースによれば、Boom 3D は「動作している Mac のタイプに応じた自己調整」をするという。また、このアプリは今回から Mini Audio Player を内蔵して、そこへ曲をドラッグ&ドロップすればサラウンドサウンドの中で再生し、アプリケーションレベルの音量コントロールも提供し、手作りのイコライザープリセットも数多く用意してあなたの手で微調整もできるようにしている。

Boom 3D の価格は $16.99 だが、Global Delight での購入に限り期間限定で 33 パーセント割引となる。既存の Boom 2 ユーザーは Global Delight 店舗で 60 パーセント割引が受けられる。Mac App Store から Boom 2 を購入した人は、購入レシートを添えて Global Delight サポートに連絡すればアップグレード割引が受けられる。15 日間有効の無料試用版もある。(Global Delight からも Mac App Store からも新規購入 $16.99、アップグレード $6.80、22.2 MB、リリースノート、10.10.3+)

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Boom 3D 1.0 へのコメントリンク:

GarageBand 10.2 -- Apple が GarageBand 10.2 をリリースして、ユーザーインターフェイスを改良するとともに 2016 年型 MacBook Pro の Touch Bar への対応を追加した。今回のアップデートではまた、パーカッションを Pop、Songwriter、Latin のスタイルで演奏する三つの新しい Drummer を追加し、楽曲に合わせてカスタマイズできる新しい Drummer ループを導入し、iPhone や iPad 上の iOS 用 GarageBand を使って既存のプロジェクトに新規トラックを追加できるようにしている。(Mac App Store から無料、無料アップデート、997 MB, 10.11+)

GarageBand 10.2 へのコメントリンク:

Swift Publisher 5.0 -- BeLight Software が Swift Publisher 5.0 を出した。このページレイアウトおよびデスクトップ出版ソフトウェアのメジャーなアップグレードで、macOS 10.12 Sierra 用に最適化するとともに、スタイリッシュに改訂されたユーザーインターフェイスを備えた。今回のリリースでは 2016 年型 MacBook Pro の Touch Bar への対応を追加し、画面上に二つのページを開いて編集できる Spread Mode を新設し、Google Maps に対応し、Art Text 3 と統合し (要購入、2017 年 1 月 25 日の記事“Art Text 3.2”参照)、美しい 2D および 3D の見出しプリセットに加え、雑誌、新聞、グリーティングカード、フォームに向けた新しいテンプレートを取り揃えている。

また、Swift Publisher 5.0 は大きな書類で作業する際のパフォーマンスを改善し、長さの単位に pixel と pica を追加し、ガイドの位置取りを具体的な座標値を入力してできるようにし、テキストボックスでの作業を改善し (既存のボックスのリンクを付けたり外したりもできる)、不必要な一時ファイルが次第にたくさん溜まってしまうバグを修正している。

Swift Publisher 5.0 のシングルライセンス価格は $19.99 で、従来のどのバージョンの Swift Publisher からも $14.99 でアップグレードできる。Mac App Store から購入していた場合は、購入証明を付けて BeLight Software の販売部に連絡すれば同社のウェブサイトでアップグレード価格が適用される。また、40,000 枚以上のクリップアートと 100 個以上のフォントを持つ Extras Pack も $9.99 で販売されている。(新規購入 $19.99、TidBITS 会員には 25 パーセント割引、Mac App Store でも入手可能、アップグレード $14.99、368 MB、リリースノート、10.10+)

Swift Publisher 5.0 へのコメントリンク:


ExtraBITS、2017 年 6 月 12 日

  文: TidBITS Staff: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

今週の ExtraBITS では、詐欺アプリが App Store で大金を稼いでいるらしく、iOS のレビュー要請の煩わしさが減りつつあり、Apple が iPad の再起への道を整えつつあり、また Apple は 2017 年の Apple Design Award 受賞者たちを発表した。

詐欺アプリ、App Store で大金を稼ぐ --無名の開発者のアプリがいったいどうやって App Store で毎月 8 万ドルも稼げたのか? Johnny Lin はこれを突き止めようと心を決めた。"Mobile protection :Clean & Security VPN" という名前のアプリは iPhone をスキャンしてウイルスやマルウェアを見つけると称し、7 日間の購読料金として何と $99.99 も課金する。(今は姿を消したように見える。)当然ながら、iOS のサンドボックスやその他のセキュリティ機能のお陰でマルウェアは Apple のモバイルオペレーティングシステムの中で大きな問題とはなっていない。Lin はこの反倫理的な開発者が疑いを知らない iOS ユーザーたちを騙すために App Store のツールや方策をどのように利用したかを詳しく述べ、Apple がこの問題をどのように解決できるかを提言する。そもそも Apple がこんなアプリを承認したということ自体が不可解だ。アプリ審査期間の短縮の副作用だったのかもしれない。Apple がこの種の詐欺アプリを削除し自らの審査方針を改善するまでの間、皆さんの家族や友人たちが餌食にならないよう、口コミを広げて頂きたい!

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iOS アプリのレビュー要請がもっと穏やかに -- 多くのアプリがユーザーに App Store でレビューを書くようにとしつこく要求してイライラを招いているのが現状だ。この問題に対処するという意味もあって、Apple は iOS 10.3 で独自のレビュー促進インターフェイスを作り、開発者たちにその使用を義務付けることで悩みを一掃することにした。この Apple のやり方の下で、アプリは一年間にたった三回のみレビュー促進メッセージを表示することが許され、ユーザーはアプリを離れることなくそのメッセージからランク付けを書き込むことができ、いったんランク付けが書き込まれればそのアプリからは二度とレビュー要請が出なくなる。iOS 11 になれば、このような最小限の要請さえもオフにすることができるようになる。

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iPad の復帰ツアーか? -- 当初は華々しい成功を収めた iPad も、今では売上の低迷に苦しんでいる。Apple 重役 Craig Federighi と Phil Schiller が BuzzFeed の対談で、iPad の成長促進のために同社が何をしているかについて語った。より安価なベースモデル、新型の 10.5 インチ iPad Pro、それから iOS 11 における数多くの iPad 専用機能といったことだ。興味深い豆知識も明かされた。新型 iPad Pro の ProMotion テクノロジーの開発には四年もかかったこと、そして、現在 Apple はタブレット機を自動車でなくクロスオーバー車に例えていることだ。

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Apple、2017 年 Apple Design Award 受賞者を発表 -- 例年通りに Apple は 12 のアプリに誉れ高い Apple Design Award を授与した。今年の受賞者は電子メールクライアント AirMail 3、写真エディタ Enlight、通貨換算ツール Elk、タスクマネージャ Things 3、レシピアプリ Kitchen Stories、執筆ツール Bear、それに六つのゲームだ。受賞者の皆さん、おめでとう!

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日本語版最終更新: 2017年 06月 16日 金曜日 , S. HOSOKAWA