TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#1381/14-Aug-2017

55 歳以上のあなたと、T-Mobile が取引したがっている。その年代のアメリカ人を対象に、このモバイルキャリアは大幅な月額サービス料金の割引を提供する。Adam と Tonya Engst は今週末に、Cornell 大学新入生の保護者のために TidBITS の集まりを Ithaca で開催する。参加方法をお読み頂きたい! 人気の執筆用アプリ Ulysses が購読モデルに切り替え、ソフトウェアを所有する方が好きな人たちの間に困惑が広がっている。Julio Ojeda-Zapata が 10.5 インチ iPad Pro の詳細なレビュー記事を書き、iPad Pro の以前の 9.7 インチモデルと現行の 12.9 インチモデルとの間のスイートスポットを狙ったものだと評価する。今週注目すべきソフトウェアリリースは Banktivity 6.1.2 だ。

記事:

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T-Mobile、55 歳以上の人向けに割安セルラープランを提供

  文: Josh Centers: [email protected], @jcenters
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

攻めの姿勢を貫く T-Mobile が、55 歳以上の潜在顧客を狙った T-Mobile ONE Unlimited 55+ で再度本領を発揮している。(T-Mobile ONE についての更なる詳細は "T-mobile と Sprint が無制限のデータ通信を発表 (より高い価格で)" 19 August 2016 と "T-Mobile、T-Mobile ONE を手直し" 31 August 2016 を参照のこと。)

T-Mobile 顧客で 55 歳かそれ以上の人は、今や 1 ラインの T-Mobile ONE を月額 $50 で、税及び諸費用込み、そしてもう一つのラインを月額 $10 で手にすることが出来る - $5-per-line Autopay 割引を使っての場合。T-Mobile ONE には、無制限の通話、テキスト、そして 4G LTE データが含まれるが、一月の使用量が 26 GB を超えると帯域制限が課せられることがある。

この特典は 2 ライン限定であるが、1 ラインしかない場合でも適用される (これは T-Mobile により Twitter で確認済み)。また、主たるアカウントの所有者のみが 55 歳かそれ以上であれば良い。

T-Mobile ONE に対する通常の料金は、1 ラインで $70 で、2 ラインでは $100 であるので、これは大変な割引きである:割引率はそれぞれ 28.6%、及び 40% となる。

T-Mobile はプレスリリースで、その背景を次の様に説明している:

本日の発表をもって、T-Mobile はキャリアの最後の砦の一つへの一歩を踏み出す。年齢が 55+ の米国民の中では、Verizon と AT&T が合わせて 81% に近い後払いワイヤレス市場を支配している。これに対して、このグループで T-Mobile と契約しているのは 8% に過ぎず、全米のワイヤレス顧客を見れば 18% が我々の Un-carrier 顧客である。

T-Mobile はまた、団塊の世代とスマートフォンについての興味深いデータも提供している:

現時点で、米国には 55 歳以上の米国人が 93 百万人以上おり、その大多数 (74 パーセント) がスマートフォンを持っている。そしてその数は増え続けている。加えて、団塊の世代の人は、平均して毎日 149 分をスマートフォンで費やしている - これはスマートフォンなしでは生きていけないミレニア世代の毎日 171 分に肩を並べる数字である。事実、これらの 55+ の大多数はスマートフォンが家族や友人とつながる一番の手段だと言っている。

もし皆さんがこれに該当する年に到達しており、T-Mobile の受信状態も十分に良い所に住んでいるのであれば、これに勝るプランは中々見つかるものではない。新規顧客は T-Mobile ストアに行けば申し込める - ID を持参するのを忘れないように。既存の顧客は店に行ってもいいし、1-800-TMOBILE に電話しても、或いは t-mobile.com にログインしても良い。

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Adam & Tonya と過ごす Cornell 大学の保護者 TidBITS オフ会

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: 清水 史彦 <qff01604@nifty.com>

私たちの息子の Tristan は、今年の秋、Cornell 大学に入学することになった。そして、このことを TidBITS で触れたところ、何人かの読者から、お子さんたちが同様に Cornell 大学に入学するというメッセージをいただいた。もし、今週末、あなたが Ithaca に来るつもりであれば、iMessage が使える電話番号か、電子メール・アドレスを添えて、[email protected] 宛に、私までメールを送ってほしい。Cornell 大学のレセプションで会えるかどうか、あるいは、金曜日か土曜日の夜に夕食を共にできるかどうか、私たちは考えてみようと思う。

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Ulysses 執筆用アプリ、サブスクリプションによる価格設定に移行

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: 清水 史彦 <qff01604@nifty.com>

Mac および iOS の人気の執筆ソフトである Ulysses が、Mac 版が 44.99ドルで iOS 版が 24.99 ドルであったスタンドアロンの価格設定モデルから、月 4.99 ドル、あるいは、年 39.99 ドルで、会員になると全てのバージョンが利用可能となるサブスクリプション・モデルに移行した。学生は、6 ヶ月間、11.99 ドルで会員になることができる。

月 9.99 ドルの Setapp サービスの会員になっている人は、Mac で引き続き Ulysses を使うことができる。そして、このサブスクリプションの場合でも、iOS バージョンがアンロックされて使えるようになる。現行ユーザーは、生涯にわたって割引を受ける資格があり、最近購入した人は、先の購入価格を埋め合わせるために、無料使用期間の資格があるが、スタンドアロンの価格設定は、もはや利用できない。

Ulysses の会社の共同創業者である Marcus Fehn と Max Seelemann は、二人とも、Fehn は事実のみを記したブログの投稿で、Seelemann はMedium 上のずっと詳細な記事で、この移行に関する説明を書いている。

Seelemann の記事は、とりわけ洞察に満ちているが、彼らの決定に新味はほとんどない。二人とも、他の会社が同様に移行することに伴って生じる可能性のある逆風 (サブスクリプション価格設定に関する私たちの一連の記事を参照していただきたい) を、明確に意識している。単に、彼らには、複数のプラットフォームで Ulysses の開発の継続を可能にする方法は、他に考えられないのだ。Apple の App Store で販売されているアプリに関しては、開発者が収入を得る唯一の方法は、現行ユーザーにサービスを提供するよりも、むしろ、潜在的な新規ユーザーをターゲットにすることによるものだ。そして、有料のアップデート (Apple のばかげた App Storeポリシーをひねくり回すことによってのみ可能だ) でさえ、大幅な機能のアップデート・サイクルを強制することになるうえ、にもかかわらず、結果として収入の変動は激しくなる。

(日本語)Adobe、Creative Suite 6 と Creative Cloud を発表 | Adobe が Creative Suite から Creative Cloud へ飛び立つ | Creative Cloud への不満が Adobe の将来展望に暗い影を落とす | Adobe、Creative Cloud 苦情に耳を傾ける | Smile、独立版の TextExpander を回復、購読料金を値下げ | TextExpander の購読制開始から一年経って | 1Password、個人購読を導入 | AgileBits は 1Password のデータ保存をクラウドに限定していない | Setapp、一つの月額料金で数多くの Mac アプリを提供 | 5 ヶ月目の Setapp: ユーザー 10,000 人で、アプリを見つけるのが容易に

面白いことに、彼らがじっくり考えたことの多くは、Mac の開発者であり、Ulysses のユーザーである Christian Tietze による昨年からの賢いブログの投稿に、予兆として示されていた。彼は、Setapp のようなサブスクリプション・サービスに関するアイデアも提案していた。

Ulysses が良いアプリであることに疑いはない。Ulysses は、Markdown 形式が可能なエディタに関する私たちの最近の調査で、BBEdit と首位を分けた("あなたの好みの Mac 用 Markdown エディタ" 2017 年 7 月 26 日参照)。そして、Julio Ojeda-Zapata は、昨年、"執筆アプリ Ulysses、パワーとシンプルさを両立" (2016 年 8 月 13日) で、Ulysses に肯定的な論評を与えた。

問題は、開発者のニーズと、結果的にユーザーに課されるコストとを調和させることにある。サブスクリプション・サービスは、開発者が継続的な開発ペースを維持するのに必要かもしれないし、ユーザーは、絶対必要なアプリに対するサブスクリプションが一握りであれば、それを良しとすることについては、何の問題もないかもしれない。だが、もし、あまりにも多くのアプリがサブスクリプション・モデルに移行するなら、そのトータル・コスト、そして、多数の個別のサブスクリプションを管理するためにしなければならないことは、おそらく、多くのユーザーを非常に困らせることになると思われる。そうした転換点を研究するのに、私たちは、この問題に関心を持つ経済学専攻の大学院生が必要だ。

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Apple の 10.5 インチ iPad Pro、スイートスポットを狙う

  文: Julio Ojeda-Zapata: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

新しい 10.5 インチ iPad Pro が出るというニュースをこの 6 月に聞いた時 (2017 年 6 月 5 日の記事“iPad Pro がよりプロフェッショナルに”参照)、私は( 他の多くの人たちも)これに Goldilocks というあだ名を付けた。過去二年間進化を続けてきた Apple の iPad Pro 戦略にちょうど良くフィットしたモデルだと思えたからだ。[訳者注: Goldilocks は童話「3びきのくま」の主人公の女の子で、多過ぎず少な過ぎずちょうど良いものを選ぶことを意味しています。]

2015 年の末に、Apple は初めて 12.9 インチの iPad Pro をリリースして、そのたっぷりしたサイズのディスプレイとゆったりしたアドオンのキーボードで多くのユーザーの心を掴んだが (2015 年 12 月 23 日の記事“iPad Pro、iOS 生産性に将来性を示す”参照)、その一方であまりにも巨大過ぎて手に負えないと感じる人たちもいた。

その後、2016 年前半に Apple は 9.7 インチ版の iPad Pro を出して持ち易さを改善したが、生産性セッションで使うにはそのディスプレイもアドオンのキーボードも窮屈で使いにくいと感じる人たちがいた。(2016 年 3 月 21 日の記事“Apple、サイズを縮めた iPhone と iPad を最新リリース”参照。)

そして今回、Apple は 9.7 インチ iPad Pro を廃止するとともに、10.5 インチの後継モデルを出して妥協策とした。大き過ぎず、小さ過ぎず、異論はあろうがちょうど良い大きさになり、まさにあの童話の主人公の亜麻色の髪の少女が飛び付くであろうモデルだ。

この新しい iPad は前モデルに比べてほんの少し重いだけだ。主としてベゼル部分の幅を狭くすることによって、以前より大きなスクリーンを実現しているからだ。キーボードも従来ほど窮屈な感じがしない。

もちろん、サイズ以外にもたくさんのことが変わっている。新しい iPad には大きな改善が多数施されており、主なものを挙げればスクリーンテクノロジーのアップグレード、より高速のプロセッサ、より良いカメラ、充電とデータ転送の高速化、更新された Touch ID センサーなどがある。

これらの改善はすべてアップデート版の 12.9 インチ iPad Pro にも盛り込まれており、ようやく大小両モデルの iPad Pro が機能的に同等となった。これまでは、9.7 インチと 12.9 インチの両モデルがある面では片方が優れ別の面ではもう片方が優れていて、どちらを購入すべきか考える人の頭痛の種となっていた。(2016 年 7 月 28 日の記事“二つの iPad Pro で、テクノロジーと目に見えない部分を比較”参照。)

この記事では 10.5 インチ iPad Pro に集中して述べることにしよう。こちらの方が、形状と機能の双方の面で新しいからだ。私はこれを数週間使ってみた。その大部分では休暇中の主たるコンピューティングデバイスとして使った。その結果、これが現時点で私が最も好きな Apple タブレット機となった。パワフルで多用途のモバイルコンピュータとして、私にたくさんのことをさせてくれる。執筆、写真編集、同僚との共同作業、さらには軽いビデオ編集まで、すべてを外出先でできる。

当然ながら、誰もがそのようなモバイルワークステーションを望んでいる訳ではなく、ノートブックコンピュータの方を好む人たちも多い。購買を検討している人たちの多くが iPad Pro に躊躇を感じるのは、その価格の高さと、同等の価格のノートブック機でできることの対価格価値とを考慮しなければならないからだ。

その計算にさらなる複雑度を加えるのが、間もなく登場する iOS 11 だ。そこには iPad Pro を今よりもっと生産性の原動力となるべきものへと変えることのできる新機能が提供される。(2017 年 6 月 5 日の記事“iOS 11、多くの細かな点で賢くなる”参照。) 物理的なキーボードがあれば、さらにもっと作業の環境が強化され、9.7 インチ iPad Pro のアクセサリーに比べてずっと楽に仕事ができるが、ただしその分追加の購入価格が増す。

モデルと価格 -- 10.5 インチ iPad Pro の価格は 64 GB のストレージで $649 から、256 GB ならば $749、512 GB ならば $949 GB からだ。セルラー接続性を追加すれば価格はそれぞれ $799、$899、$1229 となる。

カラーについて言えば、10.5 インチ iPad Pro はシルバー、スペースグレイ、ゴールド、ローズゴールドの四色から選べる。奇妙なことに、12.9 インチの iPad Pro ではローズゴールドを選ぶことができない。

サイズの比較 -- 9.7 インチ iPad Pro と 12.9 インチモデルとの間には、劇的な違いがあった。今回の 10.5 インチモデルと従来の 9.7 インチモデルとの違いはそれよりずっと穏やかなものだ。実際、この二つのタブレット機を重ねて比べてみなければ違いが分からないほどだ。

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寸法を言うならば、9.7 インチ iPad Pro は 9.45 x 6.7 x 0.24 インチ (24 x 17 x 0.6 cm) だ。一方、10.5 インチモデルは 9.8 x 6.8 x 0.24 インチ (24.9 x 17.3 x 0.6 cm) だ。かなり近い。重量も同様に近くて 0.96 ポンド対 1.03 ポンド (437 g 対 469 g) だ。ただしこれは Wi-Fi モデルの重量であって、セルラー接続性を加えた場合はそれぞれ 8 グラムずつ増える。

スクリーンの寸法はもっと大きく違う。Apple は巧みにベゼル部分を狭めることで、同じくらいの物理的スペースの中にずっと大きなディスプレイを詰め込むことができた。上辺と下辺のベゼルの幅も狭くなったが、左辺と右辺のベゼル幅の方がもっと目立って狭くなっている。

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10.5 インチ iPad Pro は 2224 × 1668 ピクセルのスクリーンを持つ。これに対して従来の 9.7 インチモデルのスクリーンは 2048 × 1536 だ。いずれもインチあたり 264 ピクセルで、伝統的な 4:3 の縦横比となっている。つまり総ピクセル数が 20 パーセント増しになったということで、マシンの狭苦しい感じを減らしてくれる、歓迎すべきアップグレードだ。実際に使っていて、その違いを目で見て感じることができる。

スクリーンのテクノロジー -- さらに、10.5 インチ iPad Pro のスクリーンにはたくさんの技術的アップグレードも詰め込まれており、そのお陰で従来の iPad Pro が何となく時代遅れに感じられるほどだ。

最も顕著な点は、Apple が ProMotion と呼ぶテクノロジーのお陰で新しいディスプレイの反応性が良くなっていることだ。iPad のディスプレイが以前より迅速にリフレッシュし、以前より滑らかにスクロールし、表示されたものが以前よりスムーズに動く。

ProMotion は最大 120 Hz のリフレッシュレートに対応し、9.7 インチモデルの 60 Hz に比べて大幅な改善となる。また、新しい iPad は現在何が使われているかに応じてリフレッシュレートを上方へも下方へも動的に調節できる。例えば Apple Pencil でいたずら書きをしている際にはリフレッシュレートを上げ、電子ブックを読んだりビデオを観たりしている際にはリフレッシュレートを下げる。バッテリ寿命を節約するため、この iPad は必要な場合に限ってリフレッシュレートを最大の 120 Hz まで上げる。

ProMotion 対応の iPad では、ビデオの画質が少し向上する。これは、映像のフレームレートに合わせて自動的にスクリーンのリフレッシュレートが調整されるからだ。

YouTube には、厳しく管理されたテスト条件の下で古い iPad と新しい iPad を並べて比較したデモ風のビデオがたくさんある。それらを見れば、新しい方の iPad の 120 Hz がバターのように滑らかなスワイプ、スクロールその他のスクリーン上のアクションを実現しており、それに比べて 60 Hz の旧モデルではパフォーマンスがぎくしゃくしているのが一目瞭然だ。普通にただ使っているだけではそう簡単には感じられない程度だが、いずれ違いが感じられることだろう。ほんの些細な違いではあっても、ProMotion にすっかり慣れ切った私にとって今や 9.7 インチ iPad を使うのは少々苦痛に感じられる。

ProMotion は、Apple Pencil を使う際に特にありがたい。絵を描いたり文字を書いたりする際に、待ち時間を感じることが減るからだ。Apple によれば、Pencil の待ち時間(レイテンシー)は「感知できないレベルにまで減った」という。私はそれは言い過ぎだと思う。まだまだ紙に鉛筆で書くレベルにまでは達していない。けれども遅れが目立たなくなったことは確かだ。

10.5 インチ iPad Pro のディスプレイには他にも歓迎すべきところがある:

より良いパフォーマンス -- 報道によれば、Apple は iPad Pro がラップトップ機の正当なる代替製品であり、ラップトップ機に匹敵するパフォーマンスを持つと主張する。Apple によれば、iPad Pro の新しい 64-bit A10X Fusion プロセッサは 6 コアを持っていて大多数のノートブック機より優れた性能を発揮するという。Apple の主張によれば A10X Fusion は A9X より 30 パーセント高速、グラフィックスのパフォーマンスは 40 パーセント高速だという。

いつもながら繰り返されるこの種の豪語には、いつもながらの問題が伴う。現状では、pro 級でフル機能の iPad 用アプリがあまりにも少なく、通常のラップトップ機で使えるアプリとは状況が違うので、例えば iPad と MacBook Pro を比較しようと思っても実際にテストするのが難しい。

それでも、確かに、この新しい iPad は実際速く感じられる。これが余裕綽々で処理することができないもの、例えば比較的大サイズの 4K ビデオ編集プロジェクトのようなものを、私はまだ何一つ試したことがない。

より高速の充電とデータ転送 -- 従来は、大小二つの iPad Pro モデルの間にはっきりとした違いがあった。12.9 インチモデルが Lightning ポートを通じてきびきびとした USB 3.0 データ転送を提供したのに対し、9.7 インチモデルには低速の USB 2.0 しかなくて転送がのろのろしていた。

USB 2.0 に依存せざるを得ないことは、高解像度の写真をカメラやフラッシュストレージカードから小さな iPad Pro へとできるだけ高速で移す必要のある写真家たちをイライラさせた。TidBITS スタッフの一人 Jeff Carlson が去年の前半に、この問題について彼の個人サイトに詳しく書いている

けれども今回 10.5 インチモデルに USB 3.0 が追加されたことで、iPad Pro の両方のモデルが同等のデータ転送速度を備えることとなった。

この変更により、もう一つ新たな機能が実現された。高速充電だ。ただし、その 10.5 インチ iPad Pro が USB-C 電源アダプタ、例えば Apple の 87 ワット USB-C Power Adapter などに接続されている必要がある。1 m または 2 m の USB-C to Lightning Cable があれば、高速で快適に充電できる準備万端だ。

だからこそ、Apple が 依然として 出荷時に USB-C 充電器を付属させていないのがとても残念だ。(2016 年 4 月 27 日の記事“iPad Pro を MacBook アダプタと新型ケーブルで高速充電”参照。)

アップデートされたカメラ -- 旧型の 9.7 インチ iPad Pro が 12.9 インチの兄弟機に比べて優れていた一つの点が、写真用ハードウェアであった。

Apple は今回大小双方ともの iPad Pro でカメラをアップグレードし、完全に対等な機能を持たせた。双方とも、iPhone 7 の背面カメラと同等のカメラを搭載する。(ただし iPhone 7 Plus の持つデュアルレンズ・光学ズームカメラではない。) 12 メガピクセルのセンサーは 4K つまり 2160p のビデオ撮影に毎秒 30 フレームで対応し、毎秒最大 240 フレームのスローモーション撮影が可能で、スムーズなビデオのための光学式手ぶれ補正、最大 63 メガピクセルのパノラマ写真、その他の機能がある。前面カメラは 7 メガピクセルだ。

残念ながら、iPad を使って写真やビデオを撮影している姿は、やはり傍目に間が抜けて見える。私は今後もできるだけ iPhone 7 で撮影しようと思う。

新しい iOS -- 比較的新しいモデルの iPad を使っている人ならば誰でも、iOS 11 のリリースによって大躍進を経験できるはずだ。iOS 11 にはタブレット機をより柔軟かつ有用に使いこなせるための機能が満載される。この点はとりわけ iPad Pro のユーザーにとって大きな意味を持つ。iOS 11 における機能強化は生産性に焦点を当てたものだからだ。具体的な改善点を挙げよう:

これらの機能や、その他の機能を組み合わせは、この記事を書いている時点で、公開ベータ版の iOS 11 によって、私の 10.5 インチ iPad Pro と 9.7 インチ iPad Pro の双方できちんと動作している。

ただ、この記事を書きながら私の脳裏に浮かんだ疑問が一つある。はたして 10.5 インチ iPad Pro は他の iPad モデルに比べて iOS 11 を走らせることに関して何か違いがあるのだろうか?

まあ、少しはある。ここで最も注目すべきは Split View (新しい機能ではないが、iOS 11 で調整を受けている) だ。どの iPad Pro を使うかによって、画面分割の見栄えが大きく違うことがあるのだ。12.9 インチモデルでは、フルサイズの iPad mini 画面二つを横に並べられる余地があるので、生産性のために素晴らしく役に立つ。一方 9.7 インチモデルでは、幅の狭い分割画面に画面の内容がくちゃっとなって見えるので、使うのが少々苦痛だ。

では、10.5 インチモデルはどうか? 残念ながらここでもフルサイズのウィンドウは無理で、くちゃっと縮んだ内容が見える。ただ、iPad スクリーンが少し大きくなったので縮みの度合が減り、その上ピクセル密度が増したので少し鮮明に見える。確かに改善はしているが、ほんの少々程度の違いに過ぎない。下の写真で比べてみて頂きたい。言い替えれば、現在 9.7 インチ iPad Pro を使っている人にとって iOS 11 の変更点だけではアップグレードの動機にはならないだろうということだ。

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アクセサリー -- iPad Pro は、仕事をより素早く楽々とこなせるようにするためのアドオンのアクセサリーがあって初めて、生産性潜在力をフルに発揮できる。そのようなアクセサリーとして挙げられるのが、iPad のタッチスクリーンの能力をフル活用するための Apple Pencil と並んで、オンスクリーンのキーボードより速く快適にタイプができる物理的キーボードだ。

旧型の少し小さいモデルに比べて 10.5 インチ iPad Pro が優れている特に重要な点が、キーボードに関することだ。キーボード上のキー同士がほんの少し離れて配置されているだけで、タッチタイプする(キーを見ないで打つ)際の窮屈な感じが消える。その典型的な実例が Apple の Smart Keyboard だ。従来の 9.7 インチ iPad 用バージョンはいつもくちゃっと押し込められた感じがしたのに、10.5 インチ iPad 用 Smart Keyboard ではその感じがはるかに少ない。それでいて、さきほども触れたように 10.5 インチのタブレット機は持ち運びのし易さの点で旧型とほとんど変わらず、12.9 インチモデルで感じるような重荷の印象が少ない。つまりこれは、私の指にとっても肩にとっても完全なる勝利だ。

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このレビュー記事を書きながら私が Smart Keyboard 以外に使うことのできたサードパーティのキーボードケースは一つだけだったが、これがなかなか良く出来ている。Logitech の Slim Combo Keyboard Case だ。スイスに本拠を置くこのアクセサリーメーカーは伝統的に iPad Pro 用のアクセサリーをいち早く出してくれていて、おそらく Apple から何らかの援助を受けているのだとは思うが、今回のリリースでもその点例外ではなかった。

この Slim Combo は、Smart Keyboard と同様、Smart Connector 経由で iPad Pro に取り付けられる。つまり、キーボードだけを別途充電する必要はなく、また煩わしい Bluetooth ペアリングの手間も要らずいつでもすぐ使える。

Slim Combo は二つのピースで出来ている。タブレットを収納するケースと、Smart Connector で取り付けるキーボードで、Apple の Smart Keyboard と同じようにキーボードの裏面は使わない時に保護カバーとして働く。Slim Combo のキーボードは非常に快適で、バックライト付きだ。タイプ作業中に横長の状態で iPad を支えられるようにこのケースにはフリップアウト式のスタンドが付いているが、このスタンドは Microsoft の Surface Pro モバイルコンピュータを思わせる。(2014 年 3 月 11 日の記事“Microsoft Surface: 二つのコンピュータの物語”参照。

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Slim Combo のスタンドは iPad を縦長の状態で支えることもできるが、その状態でキーボードを取り付けることはできない。ビデオ電話や、その他の目的に使える。

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この Slim Combo ケースの一つの縁のところには Apple Pencil を使わない間差し込んで仕舞っておけるようになっている。私の感覚では差し込んだ Pencil が少々無防備過ぎて、充電先端カバーが取れてどこかへ行ってしまったり、鞄の中で押し合いへし合いするうちに Pencil の先端がダメージを受けたりしてしまいそうな気もするが、今回の比較的短いテスト期間内にはどちらの問題も起こらなかった。

Slim Combo という名前だが、実際にはそれほど「スリム」でもない。Smart Keyboard よりだいぶ分厚いし、プラスチックのような感触が強い。けれども全体として、これは良い製品だ。iPad の両面ともフルに保護するところが、Apple の Smart Keyboard より優れている。

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ここで関連した話を一つ: Apple は、今はもう以前の iPad モデル用に出していた完全保護パッケージの Silicone Case を出していない。12.9 インチ iPad Pro 用の Silicone Case さえも生産中止にしてしまった。このタイプのケースがないことは私を不安にさせる。そのタイプと Smart Keyboard を両方揃えることで、私の 9.7 インチ iPad Pro レビュー用ユニットは初めてしっかりした携帯可能パッケージとなり、自転車のカゴにも気にせず放り込めるようになるからだ。Smart Keyboard のみ取り付けた状態で自転車のカゴに放り込むなど到底考えられない。

けれども Apple は完全保護のためのある意味新しいやり方を提供する。新製品の $129 の Leather Sleeve だ。このスリーブはいろいろな色で出ており、本革製でソフトなマイクロファイバーの裏地が張られ、Smart Keyboard を取り付けた状態の iPad でも余裕を持って入る大きさだ。上部に Apple Pencil 用の収納ポケットがあり、これなら Logitech の Slim Combo よりずっと良く保護される。(ペン先は完全に隠れて収納され、充電先端カバーも凹みに入り込むので外れるのはほぼ不可能だ。)

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iPad を Leather Sleeve に入れた状態は、Logitech の保護ケースに入れた状態よりもスリムだが、保護ケースから取り出してそれから Smart Keyboard をセットしなければならないので余計な手間がかかる。(ぜいたくな悩みであることは分かっているが。) 注意しておくべきは、キーボードカバーを取り付けない裸の状態の iPad をこのスリーブに入れていると簡単に飛び出してしまうことだ。他方、Smart Keyboard を取り付けた状態の iPad はかなりきっちりと収まるのだが、数週間にわたって使った後は何となくスリーブが伸びたように見えて、iPad の出し入れが当初よりも楽になった。

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iPad Pro か MacBook か -- iPad Pro を購入することはかなりの投資だ。最近 Apple が更新した入門レベルの 9.7 インチ iPad の価格がたった $329 からであることを考えればなおさらだ。10.5 インチ iPad Pro の基本価格は $649 からだ。(2017 年 3 月 21 日の記事“Apple、iPad Air 2 を 9.7 インチの新型 iPad で置き換え”参照。)

それに加えて Smart Keyboard、Apple Pencil、さらには Leather Sleeve も買えば価格は $1000 を超える。しかもその金額には AppleCare+ さえ含まれていない。そうなれば、金額の合計で MacBook Air を上回り、入門レベルの MacBook より少しだけ安いということになる。

生産的な仕事のために iPad Pro と、どれかの機種の MacBook との両方を買うという人はあまりいないと言っても差し支えないだろう。両者にはあまりにも多くの機能の重複があり、両方買えば値段が高過ぎるからだ。ならばどちらかを選ぶということになるが、きっと多くの人たちが iPad Pro より MacBook を選ぶのだろうと私は思う。(娯楽用にもっと安い iPad を追加する人もいるだろうが。)

iPad Pro の方を薦める論拠として考えられるのは、私のようにメインのデスクトップ Mac で仕事をしていて、外出先で使うために補助的デバイスを必要としている場合だ。異論はあるだろうがそのような状況では iPad Pro の方が、いくらか不要な機能のある MacBook よりもぴったりするだろう。ただ、それでもまだかなり費用がかかる。

iPad Pro を出すにあたって、Apple はもう少し違う、ある意味現実離れしたシナリオに視線を据えているように見える。それは、iPad がもっとより良く Mac の能力に対抗できるようになり、多くの人たちがほとんど躊躇なく Mac ノートブック機より iPad の方を選ぶようになる、そんな世界だ。今年に入ってからの発展は、明らかにその方向を目指している。来たるべき iOS 11 は、仕事用に使う状況での iPad のパワーと柔軟性を大幅に改善する。Mac と機能の等価性が見える段階にはまだまだ達していないが、それが間近に迫っているという見方もあり得るだろう。

10.5 インチ iPad Pro は、そのパズルのための新たなピースだ。その新しい寸法は初代の iPad 以来長らく標準であった 9.7 インチというサイズを脱却して、持ち運びのし易さとスクリーンの広さとの良いバランスを望む人たちにとっての大幅なアップグレードを実現するとともに、少なくとも一部の人たちにとっては Mac に代わる選択肢として考え得るものとなった。

けれども他の大多数の人たちに対して、Mac ノートブック機より iPad Pro をお薦めすることができるだろうか? 答はノーだ。でも、あと五年経ってからもう一度同じ質問をしてみて頂きたい。その頃には、私の答も違っているかもしれない。

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TidBITS 監視リスト: 注目のアップデート、2017 年 8 月 14 日

  文: TidBITS Staff: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Banktivity 6.1.2 -- IGG Software が Banktivity 6.1.2 をリリースして少数のバグを修正した。この個人財務アプリは、クラス付きの QIF 送金が正しいカテゴリーとタグフィールドに読み込まれるようにし、エンベロープ予算画面の期待量が正しくないことがあった問題を修正し、Unreconciled 表示がその表示を離れてまた戻ると見えなくなったバグを解消し、アプリのランク付けプロンプトが状況ウィンドウから正しくクリアされるようにしている。(IGG Software からも Mac App Store からも新規購入 $64.99、IGG Software からの場合 TidBITS 会員には 20 パーセント割引、バージョン 5 からのアップグレード $29.99、バージョン 6 からは無料アップデート、19.0 MB、リリースノート、10.12+)

Banktivity 6.1.2 へのコメントリンク:


ExtraBITS、2017 年 8 月 14 日

  文: TidBITS Staff: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

今週の ExtraBITS では、Apple 製の AR 眼鏡がまだあと数年間は登場しないだろうと思われる理由を拡張現実の専門家が説明し、Google が iOS 用 Gmail アプリにフィッシング警告を追加し、Disney が独自のストリーミングサービスを始めるにあたって Netflix との契約を終了すると発表した。

Apple 製 AR 眼鏡はまだ数年間は登場しない -- Apple の素晴らしい開発者用フレームワーク ARKit の登場は同社が Google Glass に似たスマート眼鏡を開発中ではないかという臆測を呼んだ。けれども Medium の記事で拡張現実の専門家 Matt Miesnieks が、Apple ブランドのスマート眼鏡はまだあと数年間は登場しないと説明する。克服すべき技術的難問も多いが、最大の障壁は必要なテクノロジーを眼鏡の中に組み込んでも人々が一日中身に着けていていたいと思えるほど小型化できるかという問題だ。Miesnieks の予想では、おそらく 2018 年の末ごろにはヘッドアップディスプレイ (Apple Watch を顔の前に置いたものと思えばよい) を備えた最初の機能限定版スマート眼鏡を Apple が出してくるだろうが、ARKit にフル対応した眼鏡が 2021 年以前に世に出ることはないだろうという。

コメントリンク: 17393

Google、iOS 用 Gmail にフィッシング警告を追加 -- iOS 用 Gmail アプリを使っている人のために、Google がフィッシングの試みを探知すれば警告する機能を追加した。あなたが電子メールメッセージを読んでいる最中にリンクをタップした際、そのリンクがフィッシングサイトに繋がると Google が判断すれば、危険を警告するダイアログがポップアップする。それでも、そうしたければそのリンクを開くこともできる。Google はこの機能を今後 15 日間にわたって順次展開して行くので、入手のためにあなたがアプリをアップデートする必要はない。

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Disney、2019 年のストリーミング開始に伴い Netflix との契約を終了 -- Disney は現在自社のコンテンツをストリーミングする独占契約を Netflix と結んでいて、これは 2012 年に締結されたが昨年になってようやくフルに発効したものであった。そして今回、Disney は撤退しようとしている。2019 年に、同社のコンテンツは Netflix から消え、代わりに Disney 独自のストリーミングサービスが Disney 傘下の ESPN によるもう一つ別のストリーミングサービスと共にデビューする予定だ。今回の発表では二つの疑問が浮かぶ。これらの新しいストリーミングサービスに、どれくらいの料金ならば人々は喜んで支払ってくれるだろうか? また、Netflix の側ではメジャーな映画会社やネットワークと結び付きのある競合企業と競争して行くために、今回失おうとしているものの埋め合わせとして Netflix オリジナルのテレビ番組や映画だけで足りるだろうか?

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TidBITS ISSN 1090-7017©Copyright 2017 TidBITS: 再使用はCreative Commons ライセンスによります。

日本語版最終更新: 2017年 08月 19日 土曜日 , S. HOSOKAWA