TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#281/12-Jun-95

今週号では PSI 社が Mac ディベロッパの InterCon 社と Software Ventures 社を買収したというニュース、PowerTalk Key Chain に関する記事の続 報、 AOL 社の最近の買収話をお届けする。また、Netscape が Macromedia Director のプレイバック技術を統合するというニュース、加えて StyleWriter ドライバとカートリッジに関するニュース、最後は、 Internet が知識に対する考え方に潜在的に衝撃力を持つという、Luchiano Floridi 教授の三部構成の論文を掲載する。

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目次:


MailBITS/12-Jun-95

IBM 社 Notes を買収 -- Lotus Development Corporation 社は、日曜 日、株あたり 64 ドルで同社を IBM 社に売り渡すことを発表した。総取引 額は約 35 億ドルになる.( TidBITS-280 参照)。Lotus 社の買収で IBM 社はデスクトップ・アプリケーションとグループウェア製品市場での Microsoft 社との競争で優位に立つと予想されている。まだ Lotus 社の Macintosh 製品の今後に関する記述はないが、それにしても昔からの Macintosh 支持者にとっては、IBM 社が近い将来 Mac ソフトウェアを販売 している可能性があるとは皮肉なことだ。 [GD]

Brent Bossom 氏 <jp000035@interramp.com> の寄稿:
Apple Japan 社は 68K PowerBook 500 シリーズの最新機種(そして恐らく 最終機)を発表した。ただし、この機種は日本のみの販売となる。外観は 新しい黒いグラファイト・ケースを除いて、新 PowerBook 550c は 540c そっくりだ。しかし、内部では著しい違いがある。10.4 インチ TFR カラー ディスプレイ(640 x 480 の 256 色または 640 x 400 の 16 ビットカ ラー)、FPU 33 MHz 68040 CPU、750 MB SCSI ハードドライブが標準 仕様だ。(モデム内蔵のモデルはない。)より大きなスクリーンサイズを 収容するために、550c のステレオスピーカーは 540c のものより多少小さ くなり、コントラスト/明るさ調整ボタンは横ではなく縦に並べられた。 550c は 7 月末に発売され“オープン価格”(リスト価格ではない)で販 売される見込みだ。Type II バッテリ 2 個と内蔵 Ethernet が付属する。 すべてを装備しても、550c の重さは 3.1 kg の 540c よりも 200 グラム 軽い。

Netscape 社 Director を発見 -- Netscape Communications 社は、先 週、同社が Shockwave を将来のバージョンの Netscape Navigator Web ク ライアントに統合する計画であると発表した。Shockwave は Macromedia 社の人気のあるマルチメディア作成パッケージ、Director 用のプレイバッ ク技術である。このアイデアは家庭や職場の通信環境が改善されるにした がって、ホストコンピュータのプラットフォームに関わらず、Internet 上 でライブで Director で開発されたマルチメディア作品を自由にプレイバッ クできるようになる。しかし、待てよ。こりゃあきっとハードディスクの Director よりは速いんだろうね、違うかい? [GD]

http://www.macromedia.com/Industry/Macro/Hot.news/netscape.macro.html

Eric Garneau 氏 <garneau@iro.umontreal.ca> が最近 Everything Macintosh という素晴らしい Web ページを教えてくれた。それは Macintosh 関連のリソースへの大量のリンクを集めたものだ。 Well-Connected Mac サイト(ここには他サイトへのリンクはもちろん多数 の独自コンテンツがある)に加えて、Everything Macintosh は、定期的に 整備されていれば Mac Internet ユーザのための優れたリソースになるも のと思われる。 [ACE]

http://www.cs.brandeis.edu/~xray/mac.html http://rever.nmsu.edu/~elharo/faq/Macintosh.html

カートリッジが混乱? 4 月、Apple 社は前代の StyleWriter と StyleWriter II インク・カートリッジ(M8041G/B)を新しい StyleWriter Ink Cartridge(M8041G/C)に変更した。カートリッジ自体は実際には変更 ないが、初代の StyleWriter と StyleWriter II だけでなく、同社の新し い入門レベル StyleWriter 1200 プリンタもサポートする。 [MHA]

新 StyleWriter 1200 ドライバ -- StyleWriter 1200 のオーナーはもち ろん初代の StyleWriter と StyleWriter II も StyleWriter 1200 プリン タドライバのバージョン 2.0 には興味をもつだろう。新ドライバは一枚の 紙に複数のサムネイル・ページ印刷、中間色の方式またはグレイスケール 印刷の選択、AppleTalk ネットワークでプリンタの共有、透かし印刷の機 能を追加する。このアップデートには System 7.1 以上と 68020 プロセッ サ以上の Macintosh が必要である。 [GD]

ftp://ftp.info.apple.com/Apple.Support.Area/Apple.Software.Updates/US/Macintosh/Printing.Software/Other.Printing.Software/StyleWriter_1200v2.0.sea.hqx


一気飲みは続く

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>

先週の AOL 社による GNN と WebCrawler 買収の動きの後、Internet アク セスプロバイダーの PSI 社が立場を明らかにし、Mac ディベロッパの Software Ventures 社と InterCon 社を買収することを決定した。InterCon 社は、同社の TCP/Connect II 統合 Internet パッケージで Macintosh 用 Internet ソフトウェアの恐らく最大の商業ディベロッパであり、Software Ventures 社は MicroPhone ターミナル・エミュレータで最も有名で、ごく 最近は Snatcher FTP クライアントで知られている。

http://www.psi.com/press/interconsvc.html

AOL 社の買収と同様に、PSI 社は InterCon 社と Software Ventures 社両 社に対し、InterCon 社の 142 万株、Sofware Ventures 社の 83 万株の株 式を交換するつもりだ。PSI 社の株あたり時価約 13.75 ドルの計算で、 InterCon 社が約 2,000 万ドル、Software Ventures 社が 1,100 万ドルと いうことになる。

プレスリリースが全部ある PSI の Web サイトでこの買収を調査したとこ ろ、PSI 社はある一定期間これを考慮していたことが明らかになった。遡 ること 1994 年 12 月、PSI 社は InterCon 社と Software Ventures 社と 共に TCP/Connect II for Instant InterRamp と MicroPhone LT for Instant InterRamp を発表している。PSI 社の InterRamp は基本的に個人 向け Internet アクセスサービス(モデムまたは ISDN 接続)だ。したがっ てこれらのバージョンの TCP/Connect II と MicroPhone LT は InterRamp へのオンライン登録と自動設定を提供するためにカスタマイズされていた。 次に、1995 年 5 月下旬、PSI 社と Software Ventures 社は Internet Valet を発表した。これは MacTCP、MacPPP、Enhanced Mosaic、Eudora、 MicroPhone Telnet(これは恐らく MP Telnet Tool が含まれる MicroPhone のバージョンだろう)などのプログラムをバンドルすることで PSI 社の InterRamp サービスへの TCP アクセスを提供するものだ。

http://www.psi.com/press/

さて、ここに来てこれが意味をなしてくると思うのだが、Internet Valet と TCP/Connect II はまったく同じもので、さらに混乱に輪をかけて、PSI 社は最近 The Pipeline Network 社を約 1,100 万ドルで買収したのだ。こ の会社はニューヨークを拠点とする Internet プロバイダで専用のグラフィ カルなパッケージを持っている(いいかえれば、MacTCP を必要とせず、 MacTCP アプリケーションを使うことができない)。したがって、PSI 社は 多かれ少なかれすべて同じものを提供する 3 つの会社を所有することにな るかのように思える。恐らく PSI 社はそれらの製品に十分に違った面を見 ているのだろうが、基本的には、買収された 3 社はどれも簡単でグラフィ カルな Internet アクセスのためのソフトウェアを提供している。この競 合製品をすべて買収したのは、誰かがこれらを手に入れることを阻止する という、確かな意味があるのではないかと思う。それは、他の小さな Internet 関連会社がいまや気がつくと自分より大きな魚を釣り上げている ということも本当にありそうだからだ。

一つの結論として、InterCon 社は身売りするのに、昨年 AOL 社が BookLink 社(InternetWorks という統合 Internet プログラムを作ってい て、買収時には出荷されてもいなかったが、これに対して InterCon 社に は実績のある Mac 用と Windows 用の TCP/Connect II がある)に支払っ た 3,000 万ドルのことを、また、遡ること 4 月、CompuServe が、もとも とは Mosaic の一バージョンをベースとするとはいえ、販売中の製品ライ ンで自社より大きな会社である Spry 社に支払った 1 億ドルのことをあま りに考慮しなかったように思える。例え価格を下げる他の財政的な理由が あったことはありうるが、InterCon 社にそれほど違いがあるようにも思え ない。


AOL 社の買収と Web 続報

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>

私より金融界の情報に詳しい人数人が真相を語ってくれたところによると、 ある会社が株式支払いによって他社を買収するとき、購入しようとしてい る会社にはなんの負担もないという。購入される会社がなにも負債を抱え ていない場合は特にそうだ(AOL 社の買収に関する記事は TidBITS-280 を参照)。

Charlie Mingo 氏 <mingo@panix.com> の説明:
あの記事でお気づきだろうが、AOL 社はこの買収をすべて AOL 株で支払っ た(GNN に対する 1,100 万ドルのうち 200 万ドルを除く)。新規の株式 資産に対して支払いをするとき、それを“利益の合同(pooling of interests)”と呼び、通常そこには負の金融結果はなにもない。

取得した株式一株に対して多すぎる株式を支払うと、“実質価値の低下 (dilution)”に悩まされることになる。それは株あたりの配当が減少す ることを意味する。しかし、これは元の株主にとってのみ意味をなすもの で、その会社自体は影響を受けない。

これに対して、IBM 社が Lotus 社を現金で購入しようという申請は IBM 社の財政に明確に不利な影響を持つ。彼らは購入資金を準備金(いわゆる ポケットマネー)で調達すると語ることによってこれを最小にしようと努 めるが、彼らは IBM 株を売りに出している間、敵愾心のある乗っ取りはで きないから、現金を差し出さざるを得ないと思う。

Wesley Felter 氏 <wesf@nternode.com> の補足:
「AOL 社の買いあさり」物語に一つ大きなものが抜けていると思う。それ は MegaWeb だ。MegaWeb はもともと BookLink 社が運営していたのか ANS 社だったのか知らないが、現在は AOL 社の一部で、私の 2 台の Windows マシンに無料の Internet アクセスを提供している。

http://www.megaweb.com/

依然弱含み? それにもかかわらず、Marketing Computers 社の 95 年 1 月号の報告によると、America Online 社は 95 年 3 月 31 日終了の 3 カ月間で(1 億 640 万ドルの収益に対して)280 万ドルの損失を出したと いう。そして、今財政年度の最初の 9 カ月間で、AOL 社は 4,050 万ドル 収益が低下した。 AOL 社は、この損失が昨年の ANS 社、BookLink 社、 NaviSoft 社の取得によるものだと主張しているが、地球上の広大な地域の 人口に対してフロッピーディスクを郵送する費用はどれくらいになるのだ ろうといぶかしむ人もいる

Mike Hutchinson 氏 <mwhutch@aol.com> は AOL Services の Webmaster だが、AOL 社がある Web サイトを起こして運営しようと確かに取り組んで いるとメールで知らせてくれた。さらに、その間は、下記でチェックでき るとつけ加えている:

http://webcrawler.com/AOL/

WebCrawler の作者、Brian Pinkerton 氏は AOL オンラインに関する相当 量の情報を持ち、その中には AOL 社の最近のプレスリリースがすべて含ま れる。


Web のための鍵束、続報

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>

多数の人が TidBITS-279 の中の私の論説に関してメールをくれた。それ は Web ブラウザは PowerTalk の「鍵束」(あるいは少なくともそれに類 似したもの)をサポートし、多くの認証が必要な Web サイトにすぐ接続で きるようになるだろうというものだった。

Andrew Anker 氏 <aa@hotwired.com> は HotWired Ventures 社長だが、 HotWired が認証を使っていることを釈明するメールをくれた: 私たちが認証を使っているからこそ多数の洗練された機能を実際に提供で きるのです。最も独自なのは、それぞれの HotWired 講読者ごとにカスタ ムの“What's New”ページを作成し、まだ見ていないものだけをお知らせ できることです。データベース(認証しているからあなたの利用状況を追 跡できます)にあなたが最後に各セクションを見たのはいつか、そしてそ れらが更新したのはいつかを参照し、あなたが見たいものだけをお知らせ します。

別のもっと高度なレベルもあり、そこではあなたの見たいものと見たくな いもののプロファイルをセットアップできます。これはあなたのユーザ・ プロファイル(これも、あなたが認証しているからこそ利用できます)に 格納され、あなた個人用に高度にカスタマイズされた“your view”ページ を表示します。

なるほど、認証は一種の苦痛で、それ自体ばかばかしい付け足し機能です。 しかし、私たちは講読者に HotWired にいる時間をより楽しんでもらえる 機能をみんな追加しようとしています。そしてこれが私たちが認証の必要 な理由なのです。

あなたの提案したソリューションについては、私はこの認証プロセスを簡 単にするものならなんでも本当に求めています。少し前に Netscape 社の スタッフに同様のシステムを提案しましたが、それに関して彼らがどうす るつもりなのかはわかりません。

プライバシー -- 私はまた電子メールでこうコメントした。「認証はプ ライバシーの侵害のように見えるときもあるのではないでしょうか。例え ば、いかがわしい Web サイトあたりに首を突っ込んでいるということで将 来の政治的な経歴を危険に曝したくはありません。」Andrew の返事によれ ば、「覚えておいてください。たとえ認証してもあなたはよくわからない 匿名なのです。もし HotWired のあなたの ID を探してほしいと頼まれて も、あなたが Adam Engst として登録されているかどうか、かつ/または <ace@tidbits.com> という電子メールアドレスを使っているかどうかだけ しか調べることはできません。もしあなたの世に知られていない電子メー ルアドレス(私たちはみんなそういうものをたくさん持っていますが)の うちの一つを使っていた場合は、あなたが誰であるか、またあなたが HotWired で何をしたか、探し出す方法はまったくなにもないでしょう。だ から、もし私があるいかがわしいサイトに John Q Public という名前を 使って登録し、特別な AOL の電子メール・アカウント(例えば John5342) を匿名で使っていたら、彼らはきっと Mr. Public が実際は私であること がわからないはずです。」

Reginald Braithwaite-Lee 氏 <grinch@hookup.net> は、この種の認証 を追加することが AOCE を使って可能になるというコメントをくれた。そ の時私が驚きを表明したのは、Apple 社はまだそれに関連した情報を公表 していなかったからだ(どっちにしても近い将来明らかになるだろうが)。 Reginald はこう語った:

「鍵束」と AppleTalk Addresses のテンプレートが公表されていないのは 確かですが、 New_Inside_Macintosh の Chapter 9(AOCE Application Interface)には Authentication Manager の詳細があり、あなたが述べた 機能をサポートしています。それは主に PowerShare サーバーを使った認 証通信についてですが、PowerTalk のローカル ID を使って様々なサービ スの“鍵をはずす”ためのサポートはたくさんあります。

この種の作業を促進するために、読者に AOCE メーリングリストを教えて もいいかもしれません。私はそこにポストした質問にていねいな回答を多 数受け取りました。アドレスは <aoce-list-request@umich.edu> です。 Gavin Eadie 氏が <gavin@umich.edu> 運営していていますが、彼は AOCE のサンプルをいくつか書いていて、CodeWarrior に継続的にコンバートさ れています。また Joshua Baer 氏 <shaddar+@cmu.edu> は有益な AOCE ホームページを整備しています:

http://www.contrib.andrew.cmu.edu/usr/jbbt/aoce/aoce.html

他の方法としては、確かにこれもクラッジですが、Web サーバーに登録す るにつれてたまるさまざまな ID のために、きっとテンプレート付きの CSAM(Catalog Service Access Module)が作成されるでしょう。この方法 がいいのは、デスクトップの「カタログ」アイコンを通じてアクセス機能 でしょう。テンプレートの中のボタンで Web ブラウザを起動し、当該ペー ジに行くことができます。これは CSAM なので、あなたの「鍵束」を開か なければ自動的にアクセス不能になります。この方法は Authentication Manager を使うのと同じセキュリティになるかもしれないし、ならないか もしれません。 Martin Simoneau 氏の同様のテンプレート(認証機能はな い)もいつからか入手可能になっています。

http://www.er.uqam.ca/nobel/simoneau/aoce/

Brian Kover 氏 <briank@cs.stanford.edu> のコメントによると、作業 は Secure Hypertext Transfer Protocol の一部として自動的に認証を行 う問題にかかっているという。これは私には根本的にはっきりしないが、 それは恐らく単に私が仕様書をそれほどよく読んでいないからだろう。

http://www.eit.com/projects/s-http/
http://www.commerce.net/information/examples/examples.html


Internet と組織化された知識の将来:第一部(全三部)

by Luciano Floridi <floridi@vax.ox.ac.uk>

[註:この資料を転載することを快く承諾してくれた Floridi 教授に感謝 します。この記事は 1995 年 3 月 14-17 日、パリで開催されたユネスコ 会議に提出した論文の縮小版です。]

第一部:Internet の理解

Internet、その利用者は数百万人で、地球規模のネットワークを使って相 互に影響しあっている。そこはこれまでになく教養にあふれる知的なコミュ ニティで、地球規模の大学と通常考えられている。

しかし、Internet はまったく新しい、未曾有の現象でもある。Internet とは一体何か?何の目的に使うことができるか?そして私たちが情報の世 界を扱っていく上でこれほど急激な変革がどう影響するのだろうか?ここ にある3つの基本的な疑問は組織化された知識の行く末を決定するものだ ろう。

Internet とは何か -- “Internet”という言葉を聞くと、私たちはデジ タル・コミュニケーションの国際的なシステムをそう呼び、それはいくつ もの世界的な共通プロトコルで相互に影響しあう何千ものネットワーク群 からなる。物理的に知覚できるものではなく、それを構成する相互に影響 しあうネットワーク群を覆って、空間と時間に意味を持って配置されるも のでもない。それはサービスとリソースに対する自発的な共同作業であり、 それぞれのネットワークは自らが適切に機能することだけに責任を負って いる。

したがって、ひとつの事業のように誰かが最終的な責任を持っているわけ でもなく、全体としてサービスから金銭を稼いでいるわけでもない。誰も システムを運営してはいないし、将来誰かがこれをコントロールできるこ ともないだろう。

Internet は何の目的に使うことができるか -- これを決めるのは簡単で はない。それは私たちがこのシステムの使い方を知らないということでは なく、人が Internet を使ってできることは文字通り日を追うごとに増え ているからだ。しかし、私たちはコミュニケーションを大まかに4つのカ テゴリに分けることができる。つまり電子メール、討論グループ、遠隔操 作、そしてファイル転送である。

こうして、私たちは友人と個人的なメッセージをやり取りしたり、電子出 版をしたり、ボルテールの Candide に関する「ゆっくり読めるグループ」 を作ったり、ソフトウェア、図書目録、電子テキスト、絵画、統計グラフ、 音楽サウンド、広範な多様性を持つテーマに関する総合的なデータバンク といった、およそ考えうるあらゆる形のデータにアクセス可能だ。記号、 画像、サウンドはすでに Internet で使えるようになっているか、あるい はまもなくそうなるだろう。将来は、テレビ放送さえコンピュータ時代の 単にもう一つ別のエピソードとしてしか記憶されないかもしれない。

Internet は組織化された知識にどう影響するか -- この疑問に正確に応 えることはほぼ不可能だ。私たちの知らないことは私たちの想像の範囲を 超えているだろうから、この無知に対して最初のとっかかりを与えること さえ難しい。結局、Internet は私たちの最も基本的な概念や習慣をすでに いくつか変えていっているのだ。

Internet は知識の成長を促進しているが、同時に未曾有の形の無知も生み 出している。技術の歴史の常で、急激な変化が起こるときには、新しい技 術がそれを修得した人々に研究すべき他の領域をはっと気づかせる一方で、 いつでもそれに取り残される人々がいる。

ハイパーテキストに代表される新しい“筋道のない原文”モデル、仮想的 に偏在するドキュメント、オンラインサービスとカタログの必要な電子的 ソースの出現は、図書館員の職能を急激に変えてしまった。図書館そのも のさえ消えるかもしれない。つまり建物も、紙の上に物理的に記録された 知識の倉庫もなくなって、新しく“コンサルティングする”図書館がデジ タル百科事典の仮想空間の中心として、ネットワーク上の電子情報へのア クセスを提供するようになるだろう。ひとりひとりのユーザのために物理 的な本を一冊ずつ製造するといった物質指向の文化に替わって、利用期間 ごとに変更されるサービスを提供するといった時間と情報の文化になるだ ろう。

市民権とプライバシーの概念も変化している。グローバルビレッジの新し い電子市場では、広告は国際的なスケールと考えられるようになり、他方、 プライバシーは私たちが交わす電子メールを使った会話の中の電子的なプ ライバシーを意味している。私たちのマナーの良し悪しは社会的な “Netiguette”を基礎として評価される。市民の権利は、どのように私た ち自身の情報がデータベース内に作られ、あるいは蓄積されるか、その後 ネットワークを通してどのようにアクセスされ、使用されるのかに関わっ ている。犯罪の範囲は、電子的なポルノからウィルスまで、ソフトウェア の不法コピーから電子システムへの不法侵入まで、著作権侵害から電子的 な盗用までに渡っている。

私たちの思考法さえ影響を受けるかもしれない。リレーショナルで連想に 飛んだ論理的思考は、近年リニアで推論に基づく分析と同様に重要になっ てきているが、少なくとも視覚的な思考は記号的なアプローチと同じよう に極めて重要である。そして膨大な量の事実を記憶するスキルが情報を検 索しデータの塊から論理的なパターンを認識する能力にしだいに置き替わっ ていくにつれ、ルネッサンス的な博学という考え方は情報管理という近代 的な方法論に統合されていく。

コミュニケーション、執筆、出版、編集、広告、販売、ショッピング、銀 行利用、教育、学問などの諸活動は全体としてすべて深く影響しあってい る。そういった変化は、次の 10 年の私たちのライフスタイルを決定する わけだから、最も重要なものだ。

さて、私たちの文化のそういう画期的な変革がある特定の分野で重要となっ てくることを見ていこう。つまり“人類百科事典(Human Encyclopedia)” の将来である。

人類百科事典とは何か -- 人類百科事典とは人類の知識の蓄積だ。時代 や文化によって割合には違いがあるもののその量はたえず増加している。 増加率が依存するものは2つある。その時代までに蓄積されてきた情報の 量とそのシステムの“記憶”にアクセスできる現在の度合いである。

印刷の発明は通常この増加のターニングポイントだと考えられてきたが、 その重要性は疑う余地のないものである。印刷された本は、原文をより素 早く廉価で正確に再生産でき、その結果としてより安全に格納され、より 広く普及させられる強力な新メディアを象徴していた。それはますます人 口増加する人類が知識を再発見し、保存し、普及させるのを著しく加速し た。しかし、これは個人が Encyclopedia 全体を最大に利用できる程度を 向上させることにはあまり役に立たなかった。つまり本の印刷も情報検索 の方法にはほとんど影響がなかったわけだから。

グーテンベルク後まもなく、知識の再生産に印刷機が貢献した例を情報処 理にも適用しようという試みが何度かなされた(「ガリバーの旅行」を参 照)。しかし、それらはすべて失敗した。そういった試みには、単純な機 械化による解決法よりももっと根本的な何かが必要だったからだ。唯一印 刷された紙からデジタルデータへの移行だけが、まったく新しい情報の管 理法を可能にし、知識システムをもっと効果的にコントロールができた。 印刷の発明以来長く待たれていた答えとして、なぜ情報テクノロジーがそ れまでのどんなテクノロジーよりもずっと普及してきたのかをこのことが 説明している。印刷機が(機械的に)私たちの知識空間を広げたのなら、 コンピュータのみが(電子的に)それを管理できるようにしたわけだ。

Internet への3つの段階 -- このようにして全領域の組織化された知識 を新しいデジタル宇宙に変換するプロセスは 1950 年代に始まった。この 変換は私たちの情報へのアクセス方法に3つの基本的な変化をもたらした。 つまり拡張、視覚化、それに統合である。

・拡張。デジタル化可能な種類の情報は絶えず増大してきた。数字やテキス トだけでなくサウンドや画像、アニメーションなどだ。この“2進法領域” の範囲が拡大するにつれて、まもなく単純なデジタルよりも、もっとずっ と感覚的なアクセス形式が必要になった。結果として...。

・視覚化。視覚的なディスプレイユニットの発明と改良は、グラフィックイ ンターフェースと WIMP(ウインドウ[Window]、アイコン[Icon]、マウ ス[Mouse]、ポップアップメニュー[Pop-up menu])の開発と一緒になっ て、2進法宇宙と知覚との間にあるそもそものとっかかりとして類推とい う劇的な答を可能にした。最後に...。

・統合。別種の情報をバイトという単一の言語に翻訳することで、様々な領 域の知識はずっと広範でさらに複雑な百科辞典の中に次第に取り込まれて いった。この統合は、マルチメディアとバーチャルリアリティが結びつく ことで、質的に成長する結果となった。また、ローカルな領域がネットワー クの広範な環境に取り入れられるにつれて、量的にも成長した。ネットワー クが、グローバルでマルチメディア的でユニークなデジタル化された知識 体系を指向するものだからだ。明らかに、これで私たちが取り戻したもの は...

再び Internet -- もうおわかりだろうが、Internet は、知識システム の組織化が採用した最も新しい形式にすぎない。つまり人類百科事典が自 身の成長に応えようと絶えず努力し続けてきた終りなき自動制御プロセス の単なる一段階なのである。拡張、統合、視覚化という3つのプロセスが 組み合わされて、Internet はかつてなかったほど迅速に、広範な視野で、 簡単に使える知識管理を可能にしたのだ。

百科辞典のライフサイクルの一段階として、ネットワークはすでに未曾有 の革新をもたらし、新たな基本的な問題が発生している。そのいくつかは 特に学識と組織化された知識に関係したものである。これはこの論文の次 のパートで詳しく探求していく。


Reviews/12-Jun-95


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