TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#283/26-Jun-95

Mac 対 PC 論争に火器は必要か?Macworld 氏のコラムニスト、Cary Lu 氏が コンピュータ界の 10 年戦争に関する充実した記事をもって仲裁に入って いる。また、今週号では、ソフトウェアの巨人 Adobe 社が Frame 社を標 的にしたこと、新バージョンの eWorld と ClarisWorks に関する情報、 そして Apple Design Keybord と 6100 DOS Compatible に関する詳細を。 最後に、 Luciano Floridi 教授の記事が結論を迎え、Internet の爆発的 な成長の結果が招くと予想される問題点に焦点を当てている。

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目次:


MailBITS/26-Jun-95

Adobe 社、Frame 社の UNIX 市場に期待 -- 業界の主力部分を買い占め ようといういう最近のコンピュータ業界の動きの中で、もう一つの買収話。 Adobe Systems 社が先週木曜日、Freme Technology 社に 5 億ドルの値を つけようとしていると発表した。Frame Technology 社は非常に長い技術文 書に主として使われるハイエンドな出版用パッケージ、FrameMaker のメー カーである。Adobe 社は最近 Aldus 社と PageMaker を獲得しながら、な ぜ別の出版用パッケージに興味を持つのだろうか?その答えは UNIX だ。 Adobe 製品は Mac と Windows 市場では販売業績がいいが、UNIX 界には存 在していないに等しい。逆に Frame 社のビジネスの 70% が UNIX 市場の ものだと見積もられている。しかし、ウォール街は Adobe と同じようには 考えていないようで、この申し出が発表された日の後、同社の株は大きく 落ち込んだ。 [GD]

Apple Design Keyboard のコンフリクト -- Jim Mueller 氏 <jim@pharmacop.com> が Apple Design Keyboard と Power Mac 6100 用 DOS Compatible カードのコンフリクトの詳細をメールしてくれたことに感 謝したい(Steven Lee 氏が TidBITS-282 の自分の記事の中で簡単にこの ことに触れている)。明らかに、あなたの Apple Design Keyboard が PK という文字で始まるシリアル番号を持っているなら、この問題が発生する 可能性がある。 それは DOS または Windows を使用中に右手の Shift キー を押しながらタイプすると起こり、最初の文字が画面に現れないのだ。 800/SOS-APPL に電話するか、自分のディーラーに連絡をとって、替わりの キーボードを入手しましょう。 [ACE]

ClarisWorks が第四世代に -- ClarisWorks 4.0 for the Macintosh が 出荷され、アップグレードは 49 ドルで入手できる(リスト価格は 129 ド ル)。Windows 版の clarisWorks 4.0 は 1995 年末までにリリースされる 予定で、Macintosh 版と同様のインターフェースを持つだろう。 ClarisWorks 4.0 は System 7 を必要とし、68020 ベースより新しい Macintosh 全機種で動作する。新機能には ExpressStyle と呼ばれるスタ イル付けの新手法、HTML 変換ツール、データベース・モジュール全般の改 良とより簡単なレポート生成、WorlScript への対応などが含まれる。全般 的に、そして特にその価格を考えれば、この仕様は印象的だと思う。唯一 あらを探すとすれば、Claris 社がまだ同社の Web サイトを更新して、新 バージョンの情報とデモ版を提供していないことくらいだ。 Claris -- 408/987-7000 -- 800/544-8554 [TJE]

http://www.claris.com/

eWorld が一歳に -- Apple 社は、同社の eWorld オンラインサービスの 一周年を記念してバージョン 1.1 の eWorld クライアントソフトウェアを 発表した。これは eWorld からオンラインで入手可能のはずで、また eWorld を仕様可能なすべての国では Macintosh にプリインストールされ る。この新バージョンを使えば、ユーザは 2、3 週間以内に Usenet と Internet FTP にアクセスでき、Web アクセスは 7 月に使用できるように なる予定だ。また、この新しいクライアントソフトウェアは新しいマルチ メディア機能と、フィルタ処理や自動返信機能を持つ洗練された電子メー ルエージェントを取り込んでいると推測されている。Apple 社は、社員を AppleLink から eWorld に移動することも発表し、AppleLink の全会員も 今年末までにはすべて移行する予定だという。 [GD]

Microsoft 社が半トラスト裁判に勝訴 -- 95 年 7 月 16 日、連邦控訴 裁判所はソフトウェア・ライセンスの実行に関する Microsot 社と司法省 の間の合意が妥当であると判決を下した。( TidBITS-264 参照)異例な ことに、2月にこの契約を無効とした Stanley Sporkin 米国地方判事がこ の裁判から除外され、訴訟はこの取り決めを承認するように命ぜられた別 の地方判事が任命された。Microsoft 社は、Sporkin 判事が同社に偏見を 持っていたと主張し、控訴裁判所は判事が権限を逸脱したとしてこれに同 意した。これは事実上 Microsoft 社のソフトウェア・ライセンス政策に反 対する反トラスト訴訟に終止符を打つことになり、Microsoft 社側はこの 判決を歓迎した。しかし、司法省は、Microsoft 社と競合他社の双方から 来たるべき Microsoft Network に関する情報を提出するように要求してい るし、また、EC(European Commission)は先週、Microsoft Network が欧 州共同体内の競争を損なうことになるかどうか調査していると発表した。 [GD]


コンピュータを巡る聖戦

by Cary Lu <carylu@eworld.com>

[1995 年 6 月 18 日、Seattle Times 発行。6 月 26 日、Microsoft 社の サポート電話番号を含めて再発行。Copyright 1995 by Cary Lu. この記事 は、この著作権表示文を含めることで、対価なく紙と電子形式で自由に複 製と配布ができる。]

Macintosh と IBM PC コンピュータの支持者同士の戦いは長年の間に宗教 戦争の様相を呈している。そしてあらゆる宗教戦争と同様に、レトリッ クは知識よりも無知によって加速されてきた。Mac と PC の両方に本当に 熟達しているものは非常に少ない。PC の販売は Mac を大きく引き離して いる - 7 対 1 以上 - ので、コンピュータの経験者のほとんどは IBM PC か互換機上の DOS と Microsoft Windows を実際に知っている。

したがって、どのコンピュータを買ったらいいのかとたずねれば、コン ピュータ販売員やデータ処理管理者、新聞コラムニストから返ってくるもっ とも普通の答えが PC だということは驚くことではない。しかし、そのア ドバイスを受け入れる前に、その助言者が実際に Mac と PC を使っている かどうかたずねよう。もしその人が一つのシステムしか知らないとしたら、 そのアドバイスを疑ってみるべきだ。専門用語を使う PC マニアや Mac マ ニアは避けた方がいい。例えば「PC しか真のプリエンプティブなマルチタ スク処理のマルチプロセッサをサポートしていない。」「Mac だけが高速 ディスクアレイ用の2チャンネル SCSI を持っている。」というものだ。 こういった技術的問題はほとんどのユーザには関係ない。どんなイベント でも双方のシステムとも今後数カ月の間にこういった機能はすべて用意さ れるだろうからだ。

私が勧めるのはどちらのコンピュータか?私はあなたの友人で最も技術情 報通が使っているのと同じ種類のコンピュータを買うことをお勧めする。 つまりあなたが本当に困ったときなら日曜の深夜にでも電話できる友人だ。 Mac を買えば、あなたに専門家は必要ない。それほど頻繁には困ることは ないだろうから。そしてあなたに技術に詳しい友人がいないなら、Mac に は近づかない方がいい。いくつか例外はあるが、それは後で述べよう。

トラブルの処理とマルチメディア -- Mac は本当にそれほど簡単に使え るのか?これを考えてみよう。Patrick Marshall 氏が Seattle Times 紙 の自分の Q&A コラムで解答した 25 の質問はすべて PC のトラブルを扱っ たもので、Macintosh には起こらないもののなのだ。Macintosh ユーザは メモリ管理やインターラプト、DMA チャンネル、SYSTEM.INI ファイルを扱 う必要がない。Mac の中には、主基板にも大部分のアクセサリにも、セッ トするべきジャンパーピンなどないのだ。

PC ユーザはこれらの詳細を学ぶ必要があり、そうしなければ彼らはソフト ウェアを走らせることができない。コンピュータ業界は PC ユーザは 12 から 35 パーセントのマルチメディア CD-ROM を走らせるのにトラブルを 抱えていると見積もっている。私はトラブルに慣れている。今朝、私は5 年前に買った Pentium コンピュータに CD-ROM をインストールすると、 「DMABuffer サイズを増やしなさい」というメッセージが現れた。PC ユー ザはほとんどどう反応していいか知らないだろうなと思った。さらに、 DMABuffer サイズに勝るその後の2つのトラブルにはなにも説明するメッ セージが現れないのだ。私は長年の経験で PC で CD-ROM を走らせるのに 技術的に必要な何百ものコツをほどんど学んでいた。それでもディスクに よってはいまだに悩まされるものも2、3あるのだ。調査によれば、PC ユーザは CD-ROM を買うことがまれだということだ。PC 上の CD-ROM は ページがにかわでくっついたままになっていたり、イラストだけ破りとら れた本にあまりによく似ている。

CD-ROM インストールのトラブルを Mac で聞くことはほとんどないし、横 には最新のシステムソフトうウェア(Apple 社のマルチメディアチュー ナー)の簡単な無料アップデートが置かれている。それ以外の問題3つは 簡単に理解できる。つまり、カラーの必要な CD-ROM は白黒 Mac では動作 しない。2、3の CD-ROM には最もシンプルな Mac よりも多くのメモリが 必要だ。そして、いくつかの Mac の画面は小さすぎて標準的な CD-ROM 画 像を表示できない。私は Mac CD-ROM インストール時の質問にすべて即答 した。過去5年間に、CD-ROM で Mac に非互換であったり、あるいはイン ストールの難しいものさえ一つもお目にかかったことはない。誰もなにも コツを学ぶ必要がないので、Mac ユーザは気軽に CD-ROM を買う。この結 果、CD-ROM 出版社は Mac ユーザが Mac の市場占有率に見合わず CD-ROM を買っていること気づくわけだ。

サポートとソフトウェアへの質問 -- David Billstorm 社は Media Mosaic 社の社主でありマウンテンバイクなどのアウトドア・レクリェー ション CD-ROM の発行者であるが、彼がいうには、売上の 40% がマック用 だという。しかし、技術的なサポートへの電話は Mac よりも PC の顧客の 方がはるかに多い。Mac 版と PC 版は同じ価格だが、Media Mosaic 社の収 益は Mac 版からの方が多い。それは一つ一つの電話に答えるコストが売上 の利益をぬぐい去ってしまうこともあるからだ。Microsoft 社の CD-ROM タイトルに対して、PC ユーザが電話で助けを求めてくる頻度は少なくとも Mac ユーザの3倍は多い。タイトルによっては、PC ユーザが助けを必要と する頻度は 10 倍近くになる(1994 年の数字で、PC と Mac ユーザの比率 を考慮して修正してある)。クリスマスの日に、私の Mac 仲間の誰もトラ ブルで電話してきたものはないが、PC 仲間で電話してきたものは数人いる (そしてそれぞれはじめに謝りながらもこういう。「サポート電話が今日 は休みなんだよ...」)。

Mac は完全にはソフトウェアのコンフリクトから解放されているわけでは ない。複雑さを好む傾向のある偏愛家にとっては特にだ。しかし、そうい うコンフリクトは、ラベルつきのアイコンをあるフォルダから別のフォル ダにきれいに移動してしまうだけでたいてい解決する。もし、間違ったら そのアイコンを戻せばいい。PC 上では、はるかにずっと難しいテクニック を使わなければならない。例えば、謎めいたファイル(WIN.INI、 AUTOEXE.BAT など)を編集し、環境変数をセットし、メモリ割当量を調整 し、ドライバー類のコマンドライン・スイッチを切り替える。もしも間違 おうものなら、コンピュータは起動することを拒絶する。

昨年、Windows ソフトウェアの新しいカテゴリで最もホットだったのは “インストール除去”ユーティリティ類で、Windows ソフトウェアを取り 去ることのできるプログラムだ。Windows と Windows ソフトウェアはハー ドディスクにファイルを数ダース、または数百も置くこともある。他のコ ンピュータプログラムの助けを借りなければそのファイルを追跡できる人 はいない。Mac には同等のユーティリティはないし、その必要もない。プ ログラムの除去はたいてい簡単でさらに、各ファイルはそのタイプとそれ を作ったプログラムによって識別される。

ユーティリティ類はまったく別にしても、入手可能なソフトウェアは Mac より PC 用の方が多い。あなたは PC だけにしかない、特にビジネスアプ リケーションの必要を特に持っているかもしれない。2、3の領域、特に グラフィックの領域では、Mac がリードしている。大部分のユーザには、 そしてファミリーコンピュータを買うような人は間違いなく、ワードプロ セッサなどのアプリケーションにはそれほど重要な違いはないのである。

Microsoft 社のアプリケーションをはじめとして主要なプログラムの多く は PC 版も Mac 版も両方ある。PC 版が最初に出現するかもしれないが、 それはおそらく版元が大きい方の顧客グループに最初に手渡したいからだ。 本当の理由ははっきりしない。Aldus(現 Adobe) PageMaker は、最初に Mac 用に開発されたプログラムだが、バージョン 5.0 は Windows 用が先 に出た。このプロジェクト責任者が私に説明したことには、「あのプログ ラマたちは Windows がひどく嫌いなんだよ。Aldus 幹部が先に Windows 版をといいはったのだけどね、それはプログラマたちに先に Mac 版を完成 することを許したら、Windows 版は完成することはなかったろうからさ。」

初心者用?専門家用? Mac はコンピュータ初心者を惹きつけることは明 かだが、コンピュータを本当にわかっている人も Mac の方を好む傾向があ る。最近行われた Electronic Entertainment Expo in Los Angeles では、 新しい、まだ未完成のマルチメディアコンピュータソフトウェア、PC 用に なる予定のソフトウェアさえ、ほとんどは PC ではなく Mac 上でデモされ た。スーパーコンピュータのデザイナーで名高い Symour Cray は Mac を 使っている。主要な PC 互換機メーカーの部長二人が昨年私に個別に電話 してきた。「会社を辞めるつもりなんだけどね、再出発のためにどの Mac を買えばいいのか知りたいんだ。」昨年ポートランド地区の3つの会社が 以前 Intel 社の管理職だった人たちの手で起業したことを知っている。3 社のうち2社は主コンピュータとして Mac を選んでいる。(Intel 社は Windows コンピュータを駆動する Pentium など、CPU チップのほとんどを 生産している)

企業のデータ処理(DP)管理者は一般的に PC の方を好む。そのほとんど は Mac の経験があまりない。PC は DP スタッフに職を保証している。 Intel 社では、多くの社員が真のコンピュータ専門家だが、この DP 部が 一人のサポート人員につきそれぞれ 30 台の Windows コンピュータと計算 した。同じ DP 部は、ある Intel 社の部門に 120 台の Mac があり、たっ た一人のサポート人員で完全にうまくいっていることを知って驚いた。Mac ユーザが問題を抱えることはまれで、そいういうときでも、その解凍は DP 部ではなく他のユーザからもらえるのが通常なのだ。

裏に隠れたサポート費用、それにおそらくフラストレーションの費用は少 なくとも 高価な Mac の価格を上回るだろう。価格格差は縮まるだろうが、 完全にはなくなることはないだろう。Mac にはより多くの標準機能がつい てくる。全ての Mac は、ラップトップも含めてサウンドとネットワークが 内蔵されている。Apple 社はたいてい、常にではないが、平均的 PC 互換 機より高品質のコンポーネントを使ってきた。PC アクセサリは一般的に安 いが、しかし、私は PC 互換機に多くの粗悪なキーボードやぼけたモニター を見てきた。良質のモニタの費用はどちらのシステムにも同じだ。結局、 Apple 社は多額の資金をつぎ込んで、主に研究開発に投資している。典型 的な PC 互換機メーカーにとって、RD コストとは台湾製のスペックシー トを読むことにしかないのだ。

Mac はより長い有意義な生涯をおくる。私は5年前に買った Mac を使っ て、問題なく今日のマルチメディア CD-ROM をプレイしている。私の PC は過去5年間で、普通のディスクを再生するためだけに CPU を2度、ビデ オカードを2度、マザーボードを2度、1度のサウンドボード交換をする 必要があった。(また、私は両システムで倍速 CD-ROM ドライブに切り替 えた。)

Apple 社は多くの戦略的過ちをおかしてきた。最初の Macintosh 互換機が やっと今現れようとしている。10 年前、MACWORLD Expo の基調講演で私は Apple 社に大声で呼びかけて Mac オペーレーティングシステムをライセン スしてくれるようにいった。あの観客の多くは私のやじをいさめた。早期 から Mac システムのライセンスを拒否してもなお、Apple 社は Microsoft Windows がなし得た巨大な成功をなすことができた。

コンピュータ業界内で、「Macintosh のようだ」という表現は常に大きな 誉め言葉である。「Windows のようだ」という表現が誉め言葉として使わ れることはまれだ。おそらく「DOS のようだ」に対するときを例外として だが。

Microsoft は「次期 Windows 95 はもっと Macintosh のようになる」と誰 にも告げている。Windows 95 の主な仕様、例えば長いファイル名、プラグ アンドプレイ・ハードウェア・インストレーション、直接ファイル表示な どは、Mac には 11 年前からある。Microsoft 社のはるかに優れた工学技 術をもってしても、Windows 95 は、ハードウェアにしても、荒々しい3つ の異なるオペレーティングシステムとアプリケーションソフトウェア(DOS 用、Windows 3.1 用、Windows 95 用)を走らせることが今必要とされてい るということにしても、PC 界に住む混沌を打倒できないだろう。

Microsoft 社の才能は、PC の混沌にもかかわらず、なんとかものごとを動 かしてしまうことにある。Apple 社の才能は、混沌を避けながら基礎的な Macintosh の設計段階で多くのことを適正化することにある。

Cary Lu 氏は Macworld 氏の寄稿編集者であり、他の数誌に PC 関連の 記事を書いている。Windows 95 ベータテスタ。 The_Apple_Macintosh_Book (Microsoft Press 刊)の著者。


Internet と組織化された知識の将来:第三部(全三部)

by Luciano Floridi <floridi@vax.ox.ac.uk>

[註:この資料を転載することを快く承諾してくれた Floridi 教授に感謝 します。この記事は 1995 年 3 月 14-17 日、パリで開催されたユネスコ 会議に提出した論文の縮小版です。]

第三部:問題点 

前回までのこの記事の2つの部では、人類百科事典が成長していく中の新 たな舞台として Internet を理解できるように弁じてきた。そしてデータ というものに関して第3段階(イデオメトリック)の諸問題を問いかける ことで、いかに Internet が様々な種類の新たな研究を可能にするかを示 した。ここで、新しい問題に移ろう。これは情報とコミュニケーションの ネットワークが成長することで、すでに引き起こされているか、もしくは まもなく持ち上がってくるものだ。

少なくとも 10 の注目すべき主論点がある。これを重要度のおおよその順 序で並べ、それにしたがって取り扱っていきたい。

(1) 本の価値の下落 -- 我々はすでにデジタル情報が非デジタル情報よ り好まれる段階に突入している。その質のためでなく単にオンラインで入 手可能だというのが理由である。しかし、デジタルに変換されるリソース が増えていけば、これはそれほど深刻な問題ではなくなっていくだろう。

(2) 情報処理の価値の下落 -- Internet は情報への永遠に成長し続ける 欲求を満足する手助けをする。この過程で、情報の 利用 価値はシステ ムが複雑になるのと平行して着実に増大してきたが、その 交換 価値は 根本的な変更を余儀なくされた。データが膨大に素早く入手可能になった せいで、 Internet は一部の知的事業の価値を下落させてきた。例えば、 全集、画像全集、図書目録体系などがそれにあたり、その価値の本来の高 さは、本の時代に入手が困難であったその程度に応じて決まっていた。

過去には時間と労力を大量に消費して収集されなければならなかった生デー タが、今では Internet から無料で入手可能だ。この結果、紙を膨大に収 集する時代は実質的に終わりを告げた。

(3) 新しい学問的試みの認知の失敗 -- これまでのところ、大学は新し い形式の学問的活動が現れたことに気づくことに遅れをとってきてきた。 例えば、ディスカッションリストを運営したり、オンライン図書目録をた えず更新し続けたり、紙を電子新聞で発行したりといったことだ。こういっ た活動は適切に認められ、評価されるのが早いほど、より早く個人がより 多くの時間と労力をデジタル百科事典にそそげるようになり、百科事典も より向上することになるだろう。

(4) アクセスできないほど多量の知識 -- 根本的な不均衡が、システム の異常な広さと個人が一度にアクセス可能な知識量の制限の間に生じてい る。それは Internet で潜在的に入手可能な情報量は制御の範囲を超えて 増大してきたが、しかし、ネットワークが我々が実際にデータを検索でき るようにする技術ははるかに進歩がゆるやかだったことによる。この結果、 我々は再び、わがデジタル百科事典のすみからすみまで完全に利用するこ となどちっともできないところにいる。

今後2、3年の課題は、情報量が増大していっても、情報量とアクセス速 度の間のギャップを埋めることにあるだろう。アメリカの情報スーパーハ イウェイ構想やイギリスの SuperJANET のようなプロジェクトはこの点で 最も重要だ。しかし、このギャップを完全に埋めることは、百科事典のも つ本来の性質ゆえに不可能だということも忘れてはならない。

(5) 管理できないほど多量のアクセス可能な知識 -- これは BYTE 誌が 名づけたように“情報過多(infoglut)”の問題だ。過去の歴史のどの時 点でもデータ不足は常にあり、これが情報に対する旺盛な欲求を導いてい た。現在、我々は無制限の、そして時には不必要な大量のデータに圧倒さ れるというまったく逆の危険に直面している。もはや「多ければ多いほど いい」わけではない。当時の知性にとって知識が食物であるなら、人類百 科事典がこれまでになかったほど大きく露出している知的環境を生き抜く 今の知識人にとっては、思想史ではじめての、死に物狂いになってダイエッ ト法を学ぶ必要があるときなのだ。

新しい選択の文化もなく、そして自分が探し求めるものをろ過し、選択し、 精錬する手助けになりうるツール類もなければ、Internet は、研究者が入 るのを差し控えるか、そうでなければ道に迷ってしまう迷宮になるだろう。 組織化された知識をデジタル宇宙に変換する間に今日行われている注意が、 必要な情報を選択し検索するための効果的で経済的な方法の開発に注がれ れる同等の注意に、追いつかれる日もまもなくだろう。データ検索にブルー トフォース法はもう役に立たない。我々には知恵が必要だ。Internet は熟 達したシステムの導入によって改良される必要がある。

(6) 紙への畏れ -- 図書館の中には OPACs (online public access catalogs)に入れ換えた後カード目録を焼却していっているところもある。 これは世界がルネッサンス期に 初版 の印刷後、中性の写本の焼却を行っ たことと同様に受け入れがたいことだ。我々はデジタル化後も情報のソー スを保護して記憶に留めておく必要がある。デジタル百科事典の開発は殺 害を意味するものではないのだ。

(7) 知識によってはデジタルのみでしか存在しない -- 新しい百科事典 の大部分の領域には paper epiphany はなくなるだろうから、ネットワー クへのアクセスは新技術エリートの登場を避けるために万人に与えられな ければならない。

(8) 新たな文盲 -- 情報技術は組織化された知識の新しいことばだ。し たがって、情報への自由なアクセスがまさしく万人に残されているのだと したら、このことばの要素はあらゆる人に最低限必要な読み書き能力にな る必要がある。

(9) ゴミの山としての Internet -- Internet は誰もが何でもポストで きる自由な空間なので、組織化された知識はゴミデータの海に埋もれて腐 敗もしやすい。本の時代には、書き手と読み手の関係は文化的、経済的な フィルターに媒介され、浄化されていたし、今でもそうだ。例えば、もし あなたのいうことがどう見ても“真実”ではないとしたら、それを出版し てもらえることはないだろう。こういう過ちすべてのために、そういった フィルターはまさに確かな選別を提供しているわけだ。Internet では、情 報の生産者と消費者の関係が直接的になるので、後者は腐敗した情報から 誰も保護ししてくれない。

今日、ネットワークの自由な情報交換を歓迎して多くのことが語られてい るし、私はデータの製作者は誰でも自由にオンラインでそれを配布できる べきだと信じている。しかし、また、すべてのユーザは、 もしも 望む なら、媒介のサービス機関によって腐敗した知識から保護されるべきだと も考えている。教育、文化機関がなんらかの形の品質統制を行わなければ、 知的な知識空間と腐敗したゴミ環境の間をもはや区別することはできない かもしれない。

(10) 分散化は分権化を意味する -- 百科事典を電子空間に変換すること によって、我々は新しい知識の本体を効果的で柔軟なシステムではなく、 むしろ支離滅裂の怪物に変容する危険をおかしている。Internet は(たと え弾力的であっても)ひどく混乱した状態で発展してきたわけで、今日、 地球的規模の組織化、同一姓、そして戦略的な計画性の望まざる欠如に悩 まされている。我々は人類百科事典の大きな部分をこの地球的規模のネッ トワークに託してはいるが、また Internet 自体は完全に無政府状態のま ま残してもいる。協調の努力は賞賛すべき個人による時たまの主導力か、 または重要な自発的組織に残されているが、これは 2、30 年経って組織化 された知識が無数の仮想倉庫の迷宮に眠ってしまわないことを保証するに は十分ではないし、一方では労力と資金が重複するプロジェクトにずっと 浪費されてきている。

Internet は、その時々で移動し続ける棚上のカタログや本もなく、毎時間 トラックいっぱいの本の積み荷が次々に玄関に積み上げられることもない 図書館だと述べられてきた。もしもこれが適切な構造を持たず、耐えず監 視されないとすれば、知識の急激な分散化の肯定的な一面は知識本体を中 世の分権制に退化させ、次には情報の実質的な 損失 を意味するように なる。すでに我々が知識の空間全体を見て回り、合理的に短時間で情報を 収集するためのネットワークツールのスピードは、もはや頼れるにたるも のではなくなっている。もしも地球的規模の計画が無視され、延期されて、 財政的な委託が遅れるならば、情報をネットワーク上に探すのは、いわゆ る干し草の中に針を探すのと同様に簡単ではなくなる危険性がある。

人々の中にはコンピュータの発明を印刷技術の発明と比較する人もいる。 この比較はある程度まで人の判断を誤らせる。印刷された本の出現は我々 が知的空間を強化、拡大する過程に属するものであるが、他方、情報処理 技術の革新的な特徴はそういった空間を航行する新しい方法を可能にする ことにかかっている。しかし、ある重要な意味でこの二つは似ている。印 刷技術の発明が各国で国立版権図書館の設立を導き、知識の生産を調整し 組織化したのと同じように、Internet でも調和のとれた情報組織構造が必 要とされているのだ。

情報組織構造 -- 情報組織構造は、次の5つの課題を遂行するために調 和のとれた努力を集約する複数の中核部分からなる。

私は Internet を管理するなんらかの国際機関、つまりある種のデジタル ・ビッグブラザー(Big Brother)の設立を主張するつもりはないし、新し い電子フロンティアを統制する国家機関の出現を期待しているわけでもな い。そういうプロジェクトは、現実化が不可能だというばかりでなく、コ ミュニケーションの自由、思想の自由、情報の自由という根本的な権利に 反するものであろう。それとはまったく逆に、私は完全な自由と無政府状 態のネットワークの活性化を信じているのである。

私が提案しているのは、Internet が新しい国であり、高度に教育された何 百万人の市民で人口が増大し続け、そんな国ではハイウェイ・パトロール の必要がないというものだ。しかし、そういった国はそれ自体一種の仮想 の国立図書館システム(情報の世界というくらいダイナミックになりうる) と一緒に用意されなければならない。もしも、リアルタイムで自身の文化 的な達成を見失わないようにし、その結果としてそれ自身の可能性を完全 に制御して 21 世紀に踏み込めるようにしたいならばである。非国家的機 構(例えば UNESCOのような)がまもなくそういった地球的規模のサービス を促進し、調和を取っていこうとする状況が望まれなければならない。そ れは地球的規模で人類の知識を効果的に管理するのを可能にするために欠 かせないものだからである。


Reviews/26-Jun-95


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