TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#315/19-Feb-96

まず、Apple 社によるMac OS のMotoloraにライセンスを発表したこと、また OpenDoc に基づく Internet のツールである Cyberdog の最初のベータ版 についてお知らせしよう。そして、さらに Macromedia 社の Shockwave Plug-in と Sun の Mac 版 Java Development Kit、 Garry Kasparov 氏に よる Deep Blue に対抗する チェスゲームについてのニュース、そして TidBITS 調査(あるいは Review コラムの扱いについて!)などを今週は 取り上げた。最後になるが、Matt Kall 氏の寄稿による 1996 年のテレコ ミニュケーション法の現実性とその意義についての概論をお届けする。

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山浦 礼子  <raeko@aol.com>

目次:


MailBITS-J/19-Feb-96

(翻訳::西村  尚  <hisashin@st.rim.or.jp>)
(  :山浦 礼子 <raeko@aol.com>)
(  :杉浦 雄一郎 <ysugiura@direct.ca>)

新 URL フォーマット -- 我々はついに圧力に屈し、次週の TidBITS- 316 から URL を不等号で挟んで表記することにした。これまでの URL 表 記法はほとんど完璧で不明瞭なところはなかったし、それにそれぞれの URL に不必要な文字をつけ加えたくもなかったので、我々はこ の変更にはずっ と抵抗してきた。しかし、だんだん URL を不等号で識別し ようとするプ ログラムが増えているのを見るにつけ、この変更で TidBITS がさらに読み やすくなるのではないかと考えたのだ。それでも電子メールアドレスを mailto URL フォーマットで表記するつもりはないことに注意してほしい。 これはちょっと(文中では特に)醜悪すぎるし、スペースもとりすぎる。 電子メールアドレスは、特に不等号で区切られている場合には、URL フォー マットの mailto 部分がなくても不明瞭なことはない。我々の書く URL 表 記法に依存したスクリプトを書いていた人は次週までに自分のスクリプト を更新しておくように注意を喚起しておきたい。 [ACE]

Tonya とチャット -- 私は今、 96年 2 月 20 日(火曜日)の夜に控 えて指をウォームアップしているのです。というのも、その夜に開催され る Web オーサリングについての America Online のコンファレンスに呼ば れたから(私は、TidBITS に関する質問にもいくつか答えられます)。東 部標準時間(EST)10 PM からチャットは始まり、私は 11 時まで参加しま す。終了時に、『Create Your Own Home Page』(Adam と私の共著)を AOL は くじ引きのような形で進呈する予定です。チャットに参加するには、 DWP とキーワードを入力してコンファレンス・ルームのドアをクリックし てくださいね。 [TJE]

ライセンスに対しての賢い変化 -- 96 年 2 月 19日、Apple 社は、 Power Macintosh のデザインと PowerPC Platform 仕様に基づくコンピュー タ・システムとともに Mac OS を販売についてのライセンスを Motorola 社に供与することを発表した。今日の合意により、他のコンピュータ製造 会社に対してMac OS をサブ・ライセンスする Mac OS のライセンスを初め て与えることになる。したがって、Motorola 社は Mac OS に互換性のある マザーボード、あるいは、他のブランド名で再販を目的として他の製造会 社に全システムを販売することができるようになる。Apple 社は、Mac OS と一緒に販売するシステムの保証書を管理する予定だということだ。[MHA]

http://product.info.apple.com/pr/press.releases/1996/q2/960219.pr.rel.motorola.html

Mac 用 Java 開発キットのベータ版リリース -- Java の開発を扱う Sun の子会社、Javasoft 社は同社の Macintosh 用 Java Developer's Kit (JDK)の最初のベータ版をリリースした。この JDK にはプログラマー用 のサンプル Java アプレットと API 文書の他に Java Applet Viewer と Java Compiler が含まれる。これらのマテリアルは予備的なものだが、プ ログラマーが Sun の Virtual Machine(VM)実現の実験を始めるのには十 分すぎる。重要な事実の一つに、これらのマテリアルが Power Mac と 68030 プロセッサ以上の 68K Mac で動作するということがある。これは Sun の VM が Power Mac だけでしか使えないという根強い噂を沈めるもの だ。開発者でない人でも、3 MB の空き RAM と System 7.5 を持っていて、 現在 Java を使う必要に迫られているなら、Java Applet Viewer を 使っ て Internet サイトからダウンロードしたアプレットを動かすことができ る。BinHex されたバージョンの JDK は約 3 MB の大きさがある。 [GD]

http://www.javasoft.com/JDK-1.0/

Cyberdog Power Mac 用ベータ版、入手可能に -- 先週、Apple 社は、 Cyberdog の最初のベータ版をリリースした。これは、長い間待たれていた OpenDoc に基づくインターネット・テクノロジーだ。Cyberdog b1 を動作 させるには、Power Mac、OpenDoc 1.0、System 7.5.1 以降、Internet Config 1.2、それに(もちろん)Internet への TCP/IP の接続が必要とな る。 Cyberdog が OpenDoc を使用しているため、実際のところ最低で 16MB の RAM が必要となる。それにもかかわらず、これまで私の読んだ主なレ ポートは有効的だというものであった。ベータ版は通常はポジティブな印 象を与え、OpenDoc の素晴しいポテンシャルを披露するものとなっている。 ベータ版は、OpenDoc とは別で、ダウンロードには約 5MB を要する。 [GD] http://cyberdog.apple.com/
ftp://ftp.info.apple.com/cyberdog/

Shockwave ベータ 1 Netscape プラグイン -- Macromedia 社は、同社 の Netscape Navigator 2.0 用 Shockwave プラグインの Mac 版ベータ 1 を リリースした。これは Netscape で Macromedia Director で作成され たマルチメディアコンテンツをダウンロードしプレイできるようにするも のだ。このプラグインは 68K と PowerPC ベース、両方の Mac で動作し、 この ベータはこれに先立つベータ以前のバージョン( TidBITS-311 参 照)よりも安定しているようだ。Shockwave 作成者の中には恐らくモデム 接続でも 使えるコンテンツ制作により熟練してきている者もいるが、 Netscape Navigator に 8MB 以上の RAM と 5MB 以上のディスクキャッシュ を与える余裕がないなら、私はこのプラグインをお薦めできない。また Shockwave には仮想メモリと Speed Doubler で問題があることも知られて いる。 [GD]

http://www.macromedia.com/Tools/Shockwave/

Corel社、MACチームを “4 倍” に増強 -- Corel社はWordPerfect for Macintoshの今後の開発を行わないという方針を明らかに隠そうとしている が (TidBITS-313 を参照)、同社は Macintosh の開発チームを “4 倍” に増強し、CorelDraw for Macintosh を 6 月にリリースすると計画がある と発表した。しかしながら、同社は実際にはMac版WordPerfectの開発を継 続するとは _言っておらず_、「Macに真剣に取り組んでいる」あるいは 「もっと素晴しいことが今動いている」としているだけだ。WordPerfect のユーザーは、言い回しが曖昧でも真意だけは はっきりしてほしいと願う ばかりだろう。[GD]

http://www.corel.com/novell/wpformac.htm

Netscape Live3D -- 先週の金曜日、Netscape は同社が有名な Windows 用 WebFX VRML ソフトウェアメーカーの Paper Software 社を買収する予 定だと発表した。Paper Software 社の VRML 技術は Netscape Live3D と して Netscape Navigator の将来のバージョンの中に取り込まれ、発表さ れたばかりの“動く世界” VRML 2.0 規格による定義にしたがって 3 次元 の VRML グラフィックのインライン対応が可能になる。50 社以上が VRML 2.0 への対応を発表しているが、目に付くのは Apple 社が含まれないこと だ。Netscape Live3D のベータ版は Windows 95 と Windows NT 用が入手 可能で、Macintosh 版については「今四半期後半」だと予想されている。 [GD]

http://home.netscape.com/newsref/pr/newsrelease87.html
http://home.netscape.com/comprod/products/navigator/live3d/intro_vrml.html

Royal Software、Heizer を吸収する -- 96年2月17日、Royal Software 社と Heizer Software 社の両社は、Royal Software 社が Heizer General を非公開で吸収することを発表した。Heizer 社は、HyperCardやほかのオー サリング環境と一緒に使用するCompileIt! やWindowScript などのツール の主導的パブリッシャーである。それとは反対に、Royal Software 社とい うのは、Heizer 社の長年の顧客でもあり、ロシア製ジェット戦闘機体験飛 行のための旧ソビエト連邦への旅行のスポンサーとしても知られている Ro Nagey 氏が率いる殆ど存在の知られていない会社だ。Royal Software 社 は、Heizer Software 社の名称を引き続き使用し、オンライン・マーケッ トを獲得し、かつ、初級レベルの HyperTalk ユーザーのための製品を加え ていく予定だ。[GD]

http://www.interedu.com/heizer/
http://www.interedu.com/mig29/


レビュー調査

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:齊藤 聡 <mh9a-situ@asahi-net.or.jp>)

我々は自分達のレビューコラムをやめることを考えている。また、我々は あなたがそのアイディアをどう思うか知りたい。レビューコラムは毎号の Tid BITS の巻末にあり、いくつかのメジャーな Macintosh 雑誌の製品レ ビュー のリストとなっている。このコラムは、あなたがレビュートピック について TidBITS の各号を検索し、それらのレビューに対応する出版物の 日付とページ捜しあてることができるという有用性を持つ。我々が TidBITS を約 6 年 前に始めたときは、大部分の Macintosh 雑誌は紙媒体だった。 またそれ はレビューを見返すことがほとんど不可能だった。雑誌はレ ビューのインデックスを毎年出版するが、あなたが必要とするインデック スが出版されるまで、あなたはその恩恵にあずかれない。TidBITS オンラ インで調べレビューを見つけるというやり方は多くの人々の助けとなるし、 レビューについて毎週多くのことをタイプしなければならないという事実 に勝る有益性を持っている。

レビューコラムが今や本質的にいらないものであるという理由は、 MacWEEK、MacUser、Macworld すべてが検索システムや一部のオンラインの レビューテキストを有している Web サイトを持っているためだ。これらの 検索を容易にする手段は素晴らしい - 我々は時流に遅れたところを調べて いく必要があるとき、これを使う。雑誌の Web サイトが我々の不十分なリ ストよりもよいものを提供しているときに、修行僧めいたコピーの努力を 続けることは無意味に思える。あなたがノーと言う前に、我々はレビュー コラムにオンライン記事への URL を付け加えることは検討しない。という のは、それは我 々の手に負えない負担となるからだ。

http://www.ziff.com/~macweek/reviews.html
http://www.ziff.com/~macuser/reviews.html
http://www.macworld.com/static/search.html

しかしながら、一方的な決定をする(私があなたに保証できる、我々に必 ずできること)より、むしろ我々は簡単な調査テクニックを試みることを 考えた。我々の Web サイトで、我々は調査のページを作成した。ここでは あなたはコラムをやめることについて自分の見解を記録できる。調査につ いて気 まぐれが入る余地はない。そして - 実際には - 調査のすべては WebSTAR の ログファイルの中にのみ存在することになる。もちろん我々は ページの裏で CGI を使い、その方法でカウント数を記録するだろうが、こ の単純なものに労力を費やすことは本当の目的ではない。

http://www.tidbits.com/surveys/reviews-list.html

我々の Web サーバーでの調査は、投票のために Web にアクセスした人の みを対象とするのではなく、電子メールの投票も対象とする。TidBITS で レビューコラムを続けることに投票する場合は <reviews-yes@tidbits.com> に メールを送り、レビューをとりやめることに投票する場合は <reviews-no@t idbits.com> にメールを送ってほしい。これらのメッセー ジは読まれず、単に数えられるだけであることに注意してほしい。いつも の通り、TidBITS へのコメントは <editors@tidbits.com> に送ってほし い。

両方の調査とも 2 月末、我々が投票結果を集計するときまで受け付ける。

我々がレビューリストを続けるかどうかの投票は興をそそるものではない ことは分っている。そこで - 興味を高めるために - Web の調査のページ に Tonya と私の写真、Mark の写真、Geoff のGeoffCam の写真を載せてい る。そ れで、もしあなたが TidBITS の後ろにある顔を調べたければ、立 ち寄ってほしい。そして、あなたがそこにいる間に、あなたの投票を登録 するために Yes か No かのリンクどちらかをクリックしてほしい。


人間の勝ち……、今回は

by Mark H. Anbinder, News Editor <mha@tidbits.com>
(翻訳:村上 浩 <murasan@yk.rim.or.jp>)

もし初戦に負けていなかったら、誤った安心感から苦境に陥っていたかも 知れない、とチェスの世界チャンピオンである Garry Kasparav 氏は語る。 それは、先週行われた歴史的な人間対機械のチェス対戦についてで、対戦 相手は大量に並列処理を行う IBM SP スーパーコンピュータであった。土 曜日、Kasparav 氏が最終戦に勝ち、通算 4 対 2 で Deep Blue に勝利 し た。コンピュータが敗北を認めたのは、開始から 3 時間 45 分後、43 手 目だった。

先週開催された、今後 50 年のコンピューティングに関する討議会にて、 Cornell 大学 Theory Center 所長で物理学者でもある Malvin H. Kalos 氏は、この互角の対戦は、ますます強力になるコンピュータにできること の“変化の先端に私たちはいる”ことを示している、と語った。「過去に おいて、人間で最高のチェス・プレイヤーに勝てるコンピュータなど存在 しなかった。今では、その頂点に立つ人間を相手に、互角に対戦すること ができる。10 年以内には、コンピュータに勝てる人間はひとりもいなくな るだろう」。そして Kalos 氏はこうつけ加えた、「道具を持った人間 は、 持たない人間より、はるかにうまく事が運べるようになるであろう」

Kalos 氏は、Cornell 大学にある、国立のスーパー・コンピューティング 施設を指揮している。そこに収容されているのは、さらに精巧な改造を施 した IBM SP スーパーコンピュータで、512 個のプロセッサを搭載してい る。先週の ENIAC 50 回目の誕生日を機会として、Kalos 氏 を含めたコ ンピュータ科学者達が、過去 50 年のコンピューティング革新を振り返る とともに、今後 50 年の推測を行った。[ ENIAC は世界初の汎用電子コン ピュータ − 以下の URL を参照。 -Geoff] 「 50 年前、コンピュータが 今日のようになっているとは、誰も予言するまでには至らなかった。私の ラップトップ・コンピュータが持つパワーとメモリだけでも、当時では想 像も及ばないことである。トランジスタはまだ発明さえされていなかった し、何百万ものトランジスタを集積したチップを想像することなど不可能 であった」。50 年以内に“パーソナル・ブレイン・クローン”にとって 十分な計算処理能力とメモリが実現するだろうと Kalos 氏は想像してい る。それは、人間の脳をシミュレートし、その脳の持ち主と一緒に学習で きるほどパワフルなコンピュータのことである。

http://www.seas.upenn.edu/~museum/

この数日間のおかげで、IBM 社 Thomas Watson 会長や Digital Equipment 社 の創始者である Ken Olson 氏といった人たちの 残した皮肉な言葉が思 い出される。 Watson 氏は 1943 年に「コンピュー タの世界需要は、たぶ ん5台だと思う」とコメントしたと言われているし 、Olson 氏は 1977 年 に「家庭にコンピュータが必要な理由などない」と 疑念を示した。ちょう ど新会社 Apple Computer が、彼の考えが間違いで あることを証明しはじ めた頃のことである。

Cornell 大学の Theory Center は、その 512-processor スーパーコン ピュータ(実際、世界にもほんの数台しかない内の1台である。ただし、 Watson 氏が言った意味とは違う)を、Grand Challenge と呼ばれる問題 の解明に利用している。これらは世界的な難問のことで、解明するにはハ イパフォーマンスな計算処理能力が必要と連邦政府が認めたものである。 このシステムには、主として Cornell 大学、IBM 社、New York 州、それ に National Science Foundation が資金供給しており、天体物理学、環 境科学、生化学、医療技術分野などの科学者達によって利用されている。 − コンピュータがチェスをしていない時に。

引き分けさえすれば勝利という状況で、Kasparav 氏は最終戦を戦った。 Deep Blue と、その 1 秒間に 2 億命令を越える処理能力を打ち負かそう という、明らかな決意とともに。


テレコミュニケーション法:よい点、悪い点、そして未知の部分

by Matthew Kall <mkall@umich.edu>
(翻訳:米谷 仁志 <comet@po.iijnet.or.jp>)
(翻訳:尾高 修一 <odaka@iprolink.ch>)

大変な騒ぎの真っ最中、つまり96年2月8日に、クリントン大統領は 1996 年テレコミュニケーション法に署名し、交付した。この法律は、「わいせ つな」情報の提供を重罪とする規程があることからオンライン社会からは あまねく批難を浴びていた。しかし、この法律には他にも多くの規程があ り、それらは、電話、長距離通信、ケーブル通信、そのほかの企業の事業 形態を根本的に変えてしまうのである。

この論文では、最初に、アメリカ通信法の近代化の必要性が認識されてい く背景を短く紹介する。ついで、この法律の中でよくは知られていないい くつかの規程に焦点を当てて、それらが消費者に対しどのような影響を持 つのかを推測してみる。そして最 後に、通信品位法とそれに対する反対運 動についてまとめる。この法律の文書全体(400KB近い分量がある)は議 会図書館から入手できる。

ftp://ftp.loc.gov/pub/thomas/c104/s652.enr.txt
http://thomas.loc.gov/cgi-bin/query/z?c104:s.652.enr:

障壁を破る -- 1934 年、議会が通信法を成立させたとき、通信産業の 様相は 今日とはまったく違っていた。AT&T が、長距離通信サービスと通 信機器を提供できる唯一の会社だったし、地域通信サービスの唯一の持主 であった。この法律は AT&T のみを念頭において成立しており、また、地 域電話サービスのような事業には法に基づく独占が必要である、との確信 を含んでいた。放送事業 - 当時は AM ラジオしかなかったのだが - は、非常に限られた周波数帯域しかなかったし、電波の干渉を防止するよ う厳しく定められていた。

それからの何年間の間に大変大きな変化があったにもかかわらず、この法 律に対する 実質的な改正は、2、3回しか行なわれなかった。それには、 1982年に AT&T が、より小さなBell Operating Company と呼ばれる一連 の会社群と地域電話会社に分割された改正も含まれている。この大改正に よって長距離通信市場は競争の時代に入っ たが、それにもかかわらず地域 電話会社は、割当地域について独占状態を続けていた。また連邦通信委員 会 (FCC) による束縛は残ったままだった。FCC は、長距離通信・ケーブル 通信・情報サービス業への地域電話会社の参入を禁じていたのである。

もう1つの大きな改正は、1984 年の「ケーブル法」の登場である。この法 律により、ケーブル通信の業者に対する法的な監督責任がFCCに与えられ、 ケーブル通信業 への地域電話会社の参入を禁じた。2つの産業の競争を許 すことが、独占的な第 2 の AT&T のような企業の出現につながることを議 会は怖れたのである。

そしてここ数年の間、規制を受けてきた企業はあまねく、競争に対する制 限はもはや 不要であると議会に訴えてきた。ケーブル通信・地域内電話と 長距離電話会社の間の違いは、比較的小さなものになり、それぞれの企業 は、相手の市場の中で大した苦労もなく事業をしていた。それを阻んでい た唯一のことは、1つの企業により市場をが独占されていた時代に作られ た規則であった。

単純に言ってテレコミュニケーション法は、ケーブル通信、長距離通信そ して地域電話会社のお互いの市場への相互参入を阻んでいた障壁を除去し、 情報サービス市場を開放するための法律である。近い将来、電話会社・ケー ブル通信会社・長距離電話会 社のいずれからでもインターネットにサイン アップできることになるかもしれない。 AT&T や MCI、そしてあなたの町 のケーブル通信会社が地域電話事業に参入することで、地域電話会社がこ れまで占めてきた独占的地位はくずれることになる。さらに NYNEX や Ameritech あるいは他の地域電話会社によって、長距離電話のサービスが 始められることになるだろう。

今述べたことは、この新しい法律によって利益をうる産業だけのことでは ない。TV 放送局は、(これまでは認可された周波数を通じて、1つの電 波しか送ることができ なかったが)これからは、現在認可されている周波 数に乗せているかぎりにおいて、最新の圧縮技術を用いることで、複数の 信号を送ることができる。さらに家電企業も、PBS での子供ショーでだけ 記憶される存在ではなくなるだろう。というのはこうした地域家電企業も 他の産業に進出することになるかもしれないからだ。

不幸なことには、この法律の内容を現実のものにしていくという目標が達 成されるまでにはいくらか時間が必要になるだろう。60 年に渡って続いた 規制を解除していく責任は、 FCC にある。FCC の目前には、8月までに新 しい法律の目的が達せられる よう、80 以上の法令や規則を発布するとい う大変な労力を要する仕事が立ち塞がっ ている。これらの法令によって、 地方の企業が彼らの端末や交換機を通じて長距離通 信へのアクセスを、競 争を促すような価格で提供することが保証される。さらに FCC は、普遍的 なサービス(例えば、あらゆる個人のためのある種の電話サービス)が、 利用可能になることを保証する。

http://www.fcc.gov/

これらの産業に対し競争を促す規則を FCC が交付するためにかかる時間が あるので、こうした競争が現実に効果を発揮するまでには数ヶ月または数 年の時間がかかるであろう。ひとたびそうなれば、不幸にも、( AT&T 対 MCI そして Sprint が加わった3つ巴の広告戦のような)大規模な売込みの ための広告戦が起こることになるだろう。これらの変化は、大都市圏で見 られるようになり、中小都市や地方では、大きな変化は見られないかもし れない。

価格はどうなるだろうか?これについては2つの考え方がある。議会の大 多数は、競争が増えるにつれて価格が下がり、サービスの質も向上すると 言うだろう。しかし多くの消費者団体は、このような議論には納得しない だろう。彼らは疑っている。というのはこの法律が、電気通信業界とケー ブル通信業界との間の長い交渉の末に通過したものであるからだ。これら の産業の間の障壁を取り除くことで、いくつかの合併や 合弁の末にいくつ かの会社が、またはより大きな企業が市場を支配し、価格をコントロール することになるのではないかと消費者団体は怖れているのだ。

真実は、この 2 つの立場の間のどこかにあるのだろう。合併や集中が進ん でいくこと が、仮にありそうなことだとしても、巨大企業の存在そのもの が、その市場支配につ ながるとは必ずしもいえない。証拠としては、長距 離通信業界をみればよかろう。そ こではAT&T, MCI、そして Sprint といっ た企業が実際たがいに競争していた。そこにはいくつかのより小規 模な企 業も加わっていた。そして[ 巨大企業の存在にもかかわらず -米谷 ] 消費 者は 、より低価格なサービスという恩恵を受けていたのである。というわ けで、あなたの地域の中でさまざまな企業がサービスを提供している限り、 費用を節約できるチャン スがありそうだといえるだろう。しかし、小さな 怖れではあるが、地域によっては競争がうまく機能せず、どのようなプロ バイダーでもその地域内で独占が起こることもあるかもしれない。

通信品位法 -- 1996年テレコミュニケーション法の第 5 章は、通信 品位法として知られている。法律に付随する上院の報告書にあるように、 議会が意図していたのは、「電話のわいせつな、または品位を損なう、あ るいは嫌がらせのための利用に対する保護を近代化」し、これらの保護措 置をデジタルの時代に対応させるためだった。しかし、この目的を実現す るための方法は蠅を殺すためにハンマーを持ち出すに等しい。この法律は 必要以上の規制をもたらし、一部からは憲法違反だという声も上がってい る。

新法のもとでは、コンピュータ・サービスを使用して「文脈上常識的に明 らかに不快と判断されるような方法で、性または排泄行為ないし器官を描 写するいかなる言辞、依頼、助言、提案、画像その他の通信を行うことは、 利用者が通信を開始したか否かにかかわらず、2 年以下の懲役または 25 万ドルの罰金に処すことができる」重罪となる。

http://www.eff.org/pub/Alerts/s652_hr1555_96_draft_bill.excerpt

[この資料は上記 URL にある議会図書館の Web サイトで検索することも可 能だ。-Geoff]

ほとんどの評論家によると、この法律はあまりにも漠然と書かれており、 憲法の第一次改正にある「議会は ... 言論の自由を阻害する法を定めるこ とはできない...」という条項に違反しているとされている。新法のもとで は、不快と判断されれば、性病や、避妊具、または解剖学についての議 論をオンラインで行うことは違法となる可能性がある。また、この法律で は合衆国法第 18 章 第 1462 項を修正し、Internet における妊娠中絶に 関する議論をすべて禁止している(第 507 項)。

一部で言われていることと異なり、通信品位法は現在 TV やラジオに適用 されているわいせつ関連法を単に Internet に適用しただけではない。新 法はそれよりもはるかに先を行っているのだ。個人的な電子メールの中で 性や排泄に関係のある言葉を書いた人は摘発される可能性がある - 同じ 言葉を電話で使うのは違法にはならない。賛否両論を呼んだ『ライ麦畑で つかまえて』や『カラー・パープル』などの本のオンライン版を配布する ことは認められない。美術館は告発を恐れて所蔵作品の一部を Web ページ に載せることができなくなる。新法は幼児ポルノやわいせつ物を配布する 人を対象としているのではない。現行法で違法なポルノグラフィーの配布 や、コンピュータネットワークを介して行われるその他の違法な活動をを 取り締まることはできるし、これは現に行われている。

いくつかのグループはこれらのわいせつ条項に対する反対の意を表明する キャンペーンを開始した。クリントン大統領が法案に署名した後、いくつ かの Web ページは 48 時間の間バックグラウンドを黒くして抗議した。 [TidBITSのホームページも黒だった。 -Tonya] Web 全体で、反対のための 青いリボンが現れている。この新法に対する最も過激な反応は、John Perry Barlow 氏による Cyberspace 独立宣言だろう。

http://www.eff.org/pub/Publications/John_Perry_Barlow/barlow_0296.declaration

クリントン大統領が法案に署名した直後、エレクトロニック・フロンティ ア財団(EFF)、アメリカ自由市民連合(ACLU)をはじめとする団体がフィ ラデルフィアで同法の違憲性を訴える訴訟を起こした。この裁判は 3 人の 判事によって裁かれ、判決は直接最高裁へ上告することができる。この裁 判に要する期間はゆうに一年を超えるだろう(以下参照)。

一方、議会内でも通信品位法を撤回させようという動きがある。Pat Leahy 上院議員(バーモント州選出)と Russ Feingold 上院議員(ウイスコンシ ン州選出)は、この措置を無効にする法案を提出している。だが、この法 案にはあまり期待しないほうが良いだろう ― 何であれ、議会を通過させ るのは極めて困難なのだ。

http://www.eff.org/pub/Alerts/leahy_0296_cda_repeal.announce

テレコミュニケーション法の検閲条項についてもっと詳しい情報が欲しい か、反対運動に加わりたい方には、以下のサイトをお勧めする。

http://www.aclu.org/issues/cyber/hmcl.html
http://www.cdt.org/speech.html
http://www.eff.org/pub/Alerts/index.html#exon

1996 年 2 月 5 日、合衆国地方判事 Ronald L. Buckwalter 氏が 通信品 位法の一部条項に対して仮停止命令を提出した。これは検閲反対派にとっ て小さいものではあるが勝利を意味する。

http://www.eff.org/pub/Alerts/buckwalter_cda_021596.decision

Buckwalter 判事は「品位を損ねる」という用語が曖昧で未定義であるとし て、司法省が物を配布したことを理由に告発することを禁止した。しかし、 「明らかにわせつ」と判断されたものを配布した者を告発することはでき る。「わいせつ」と「品位を損ねる」の違いは明確なわけではなく、弁護 士や判事たちは今世紀のほとんどをこのことを議論して過ごしてきたといっ ていい。技術的には、「わいせつ」なものは現行法の第一次改正の保護規 定の対象になるが、「品位を損ねる」ものは対象にならないという違いが ある。Buckwalter 判事は新法が品位を損ねるものを十分に定義していない と考えたため、この法律は曖昧で執行不可能だと判断したのだ。

この判断は一時的な規制にはつながるものの、最終的な決定ではない。EFF をはじめとする諸団体は新法の検閲条項にに対する戦いを継続することを 約束している。

不確かな未来 -- 法廷や議会を舞台とした戦いは続くが、どの法律が問 題となる情報の発信に対して適用されるかは(仮に適用されるとしても) 不透明だ。一つの解決方法は、ユーザー自身にどのサイトを訪れ、どのサ イトを無視するかを決めさせることだ。ソフトウェアメーカーは、内容、 サイトのアドレス、時刻、使用されているプログラムなど、いくつかの条 件によってオンラインサービスから得た情報をフィルターまたは規制する 製品を発表し始めている。このようなフィルタリング・ソフトウェアは、 誰に対しても検閲を行わないため、市民権を主張する人たちによって法規 制に代わりえる手段といわれることが多い。ユーザーはどのサイトをも訪 れることができるが、親や教師などが不適切と考える情報へのアクセスを ブロックすることができる。今のところ、Mac 用には SurfWatch と Cyber Patrol があるが、他にも続々と製品が登場するだろう。

[これらの製品はただでさえ不安定な通信ソフトの上で動作するもので、 色々な問題が報告されている。これらの製品が枯れてくるにつれ、より安 定したものになるだろう。 -Geoff]

http://www.surfwatch.com/
http://www.microsys.com/cyber/

もし新法の規定にひっかかる恐れがあるなら、身を守るためにできること がいくつかある。問題になりそうな情報を提供している BBS や Web サイ トを運営しているなら、未成年のアクセスを防止するための適度な措置を 講じることで責任を免れることができる。万が一不幸にしてこの新法の違 反者として告発される第一号となってしまったら、EFF と ACLU に連絡を とれば法律面での手助けをしてくれるだろう。

Reviews/19-Feb-96


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