TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#360/06-Jan-97

Macintosh ユーザーは、Apple 社による NeXT 社買収のことを思いつつ新 年を迎えることになった。そして Adam と Geoff もこの買収劇を吟味して みた。そのほかに、FileMaker、LetterRip、ListSTAR、RAM Doubler の新 しいバージョンのニュースと Apple 社の最新の四半期決算があまり芳しく なかったニュースをお伝えする。また、先週の Netter's Dinner のアナウ ンスの訂正と Macworld Expo での Adam の本のサイン会のお知らせを 記しておいた。

目次:

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今回の TidBITS のスポンサーは:


MailBITS/06-Jan-97

(翻訳:尾高 里華子 <odaka@iprolink.ch>)

年頭の挨拶として、American Journalism Review 社のニュースサイト人気 投票 Top 50 に投票して下さったことにお礼を述べたい。皆さんのお陰で TidBITS は、MSNBC や HotWired といったサイトを抑えてニュースサイト 50 中、17 位に入ることができた。この件に関して、AJR の Eric Meyer 氏は次のように語っている。「自分たちのために一票を投じてほしいとい う出版者たちの願いに最もよく応えたのが、TidBITS の読者だった。 TidBITS からリンクをたどって NewsLink へ来て、TidBITS に投票した人 が、およそ 1300 人もいた。」その他の非常に優れた Macintosh 関連の ニュースサイトも次のようによい成績をおさめた。Ric Ford 氏の MacInTouch(25 位)、ZDNet(34 位、MacUser および MacWEEK を含む)、 Macworld(36 位)。支持してくれてありがとう。私たちは、あまり自己宣 伝しないようにしているのだが、こういった形で認められるのは嬉しい。 [ACE]

<http://www.newslink.org/bestresults.html>

前回の光は消え、今度は1 億ドルの赤字 -- 前回の四半期報告で 2500 万ドルの黒字決算をして驚かしてくれた Apple 社だが、96 年 12 月 27 日締めの 第 1 四半期では、1 億 〜 1.5 憶ドルの損失が見込まれるらし い。Apple 社は、クリスマスシーズンの Performa の売上が不振だったこ とと売れる PowerBook モデルが相変わらず無かったことをマイナス要因と して挙げている。Apple の首脳陣のほとんどが、四半期決算が連続して黒 字になるとは予測していなかったとはいえ、この大赤字のために、リスト ラを当初計画以上に行わざるをえなくなり、レイオフの可能性もでてくる。 正式な決算報告は、97 年 1 月 15 日に出ることになっている。 [JLC]

<http://product.info.apple.com/pr/press.releases/1997/q2/ 970103.pr.rel.earnings.html>

郵便よりも強力なものを StarNine 社の ListSTAR 1.1 と Fog City Software 社の LetterRip 1.0 の登場で、Macintosh でメーリングリスト を管理するのが、魅力的になった。ListSTAR 1.1(1.0 からはアップグレー ド無償)は、Open Transport ネイティブで、新しいメーリングリストや電 子メールサービスを簡単に作成できるテンプレートが付いており、目次つ きのダイジェスト版も作ることができるようになっている。ListSTAR に は、499 ドルの SMTP 版と 199 ドルの POP 版がある。SMTP 版のほうが断 然パワフルで、私たちも ListSTAR/SMTP 1.1 を使って、43,000 人の TidBITS メーリングリストを運営しており、優秀な成果を上げている。

LetterRip の方は、295 ドルで(97 年 1 月 31 日までは 195 ドル、30 日間のお試し版あり)アプローチの仕方が異なっている。ListSTAR が、 柔軟性に富んでいる分複雑になってしまっているのに比べ、LetterRip の 方は、使い易さと構成の点で高い評価を得ている。LetterRip も Open Transport ネイティブであり、またリモート操作をすることもできる。 [ACE]

<http://www.starnine.com/liststar/liststar.html>
<http://www.fogcity.com/letterrip.html>

RAM Doubler 2.0.1 -- Connectix 社から、RAM Doubler 2.0 のアップ デートがリリースされた。これは、メモリを実際に搭載している量の 2 倍 (から 3 倍)にしてくれる評判のユーティリティプログラムだ ( TidBITS-351 参照)。この 2.0.1 アップデートでは、PCI Power Mac で Retrospect 3.0 を使用している際にリムーバブル・メディアへデータ をリストアする際の問題をフィックスしている。また、間もなく出る予定 の Speed Doubler 2.0 についている高速ネットワーク・コピー機能を使う のにもこのアップデートが必要になる。 [GD]

<http://www.connectix.com/connect/upda.ram.html>

FileMaker 3.0v4 -- Claris 社は FileMaker Pro 3.0 のアップデータを リリースした。これは、Apple イベントを使用中に起こるメモリのリーク や、レコードの選択、ポータル、印刷などに関連したマイナーな問題を フィックスしてくれる。このアップデータは FileMaker Pro 3.0 のすべて の U.S バージョンに対応するもので、ローカライズ版用のアップデータも 近々出るだろう。

<http://www.claris.com/software/highlights/filemaker/updaters/docs/3.0v4.html>

さらに、FileMaker Pro 3.0 は、ObjectSupportLib 1.1.1 をインストール している場合、Apple イベントに応答する際の問題がある。 (ObjectSupportLib 1.1.1 は、AOL 3.0 のプレビューをはじめとする幾つ かのアプリケーションのインストールの際に、自動的にインストールされ る。)Claris 社は、ObjectSupportLib 1.1.6 を利用できるようにした。 これは、FileMaker では、問題なく動くようだが、Eudora などの他のアプ リケーションで問題が生じるという報告がある。FileMaker で Apple イベ ントを使って問題が生じる方は、(システムに同梱されている)バージョ ン 1.1 に戻すか、FileMaker の入っているフォルダに バージョン 1.1.6 のコピーを入れるかした方がよい。 [GD]

<ftp://ftp.claris.com/pub/USA-Macintosh/Updaters/ObjectSupportLib1.1.6.bin>

Netter's Dinner の訂正 -- TidBITS-359 で、San Francisco Macworld Expo に合わせて開かれる Netter's Dinner の日程を 1 月 7 日水曜日と 間違ってお知らせしてしまった。申し訳ない。正しくは、1 月 8 日の水曜 日だ。幸い Web ページに出ている日付は間違っていなかった。また、Expo 会場で Adam(と私)に会いたいという方は、 Macmillan 社のブースで Adam が本のサイン会をしているので立ち寄っていただきたい。サイン会も ディナーと同じ 1 月 8 日の水曜日に行われる。時間は午前 10 時 〜 午 前 11 時の予定だ。MHA Event Management が Web に出している出展者リ ストによれば、Macmillan 社のブースは No. 1846 である。 [TJE]

<http://www.infoworkshop.com/~jonpugh/nettersdinner.html>
<http://www.mha.com/macworld/mwsf97/exhibitor.html>


Apple にとっての NeXT

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:尾高 修一 <odaka@iprolink.ch>)

12 月 20 日金曜日、Apple 社が NeXT 社を買収するという噂が急速に広が り始めた時、私たちはクリスマス休暇のために荷物をまとめているところ だった。噂が Apple 主催の記者会見となって現実になった夜には、私たち は夕食を済ませて空港へ向かおうとしていた。幸運なことに、Apple は (例によって)TidBITS が記者会見に電話で参加することを求めてこなかっ た。もし呼ばれていたら、飛行機に間に合うように慌てて夕食と荷作りを しなければならないところだった。それでも、この取り引きに関する情報 は続々と流れ出てきたので、クリスマスの間にメールに目を通しているだ けでこの買収劇について虚実のいりまじった色々な考えに接することがで きた。今年の Macworld Expo での最大の質問は、“NeXT 買収についてど う思いますか?”というものだと予想しているので、ここで私の考えを述べ ておこう。

Be か NeXT か -- 過去数ヶ月の間、Apple が Jean-Louis Gassee 氏率 いる Be 社を買収するという噂が飛び交っていた( TidBITS-343 参照)。 Jean-Louis とのメールのやりとりから、彼は明晰で面白い人だということ が私にはわかっているし、 Be が Be OS をすばらしいものにしているのは 疑問の余地がない。特に(私に言わせれば)オブジェクト指向のデータベー スに基づいたファイルシステムを採用していることが特筆できる。とはい え、Be が先進的であることそのものが実は諸刃の刃でもあるのだ。どれだ け Be が完璧な仕事をしても、Be OS は何十万人というユーザーが何年間 も鍛えあげてきた成熟したオペレーティングシステムではないのだ。

以上述べてきたようなことはほぼ周知の事実だ。一方それほどは明かでは ないのは、購入したオペレーティングシステムを Apple がどうするのかと いうことで、この問題にはまだ結論が出ていないのだと思う。多くの人が Be OS にはプロテクトメモリがあるだの、プリエンプティブ・マルチタス クがあるだのと、情報工学科の学生が熱狂するような言葉を乱発していた ものだ。私が受け取るメールには、Apple が Be を買収しなければ明日に も滅亡の日が来るという記事を書け、といったメッセージが山のように寄 せられた。こういったメールのほとんどには、私には専門的なことはよく わからないので、正確な知識に基づいた意見は持っていない、と返答して おいた。

私は自分の無知を認める。私はハイパーテキストによるフィクションと古 典文学を専門に学んだのであって、情報工学出身ではない。私の推測では、 Macintosh コミュニティの 99 % はこういった OS まわりの問題を技術的 な優劣を論じて判断するだけの技術的な知識はないと踏んでいるし、残り の 1 % にしてもほとんどの人は正確な知識に基づいた判断ができるほど Apple や Be の OS 開発の内幕についての知識を持っていないと思う。要 するに、ほとんどの人は何もわかっていなかったのだ。

これまでの経緯を述べてきたのは、正直なところ、Apple が Be のかわり に NeXT を買収しても依然として何もわからないということを言いたいが ためだ。ほかの人も、どんなことを言おうとほとんどは同じ状態にあるは ずだ。実のところ、Apple から流れ出てくる混乱かつ矛盾した発言から判 断すると、この決断をした人たち自身にもよくわかっていないのではない かと疑ってしまう。公式の方針については Macworld Expo での Gil Amelio 氏の基調講演まで待たなければならない。それでも、エンジニアたちが NeXT の技術を吟味し、それがどのように Mac に統合できるかを検討し始 めるまで、本物の情報にお目にかかることはできないだろう。

PR 効果 -- それでも、私は Apple の NeXT 買収に関してはわりと前向 きにとらえている。Apple の経営陣は、メディアが送り出してくる根拠の ない絶望論に対抗するだけのためにも、何か大胆でエキサイティングなこ とをしなければならないと感じていたのだろう。Apple は社内・社外をあっ と言わせる必要があったのだ。OS の開発に新しい開発者を投入するのは Apple 社内の現状を揺さぶることになるのは確実だし、Steve Jobs 氏を Apple に連れ戻すことはユーザーの注目を集めるのは間違いない。

では、メディアの方はどうだろう? Apple は完全に発表の仕方を誤ったと 思う。何をどう考えていたらクリスマス前の金曜日の夜などに発表できる のだろう? なぜ Macworld Expo まで発表を控えて、基調講演で爆弾発表し なかったのだろう? もしそうしていたら、これはもう大変な騒ぎになって いたはずだ。発表当時、TidBITS や MacWEEK などの各誌は休暇中だった (MacWEEK は Web サイトでニュースをカバーしていたが)。

それではこの買収の PR 効果以外の本当の利点は何なのだろう? これは以 下の 3 点に分けて考えることができるだろう。Mac OS へのてこ入れ、ハ イエンドなインターネット戦略、一部のビジネスマーケットへの参入であ る。

NeXTstep と OpenStep -- 私が最後に NeXTstep を使ったのは 1989 年 で、NeXT cube が初めて導入されたラボがあった Cornell 大学でのこと だった。残念ながら、これは NeXTstep のバージョン 0.8 で、将来性は大 いに感じられたものの、時折 Unix のルーツが顔を覗かせてしまっていた。 しかし、NeXT はそれ以降多大な労力を投入しているうえ、NeXTstep と OpenStep(Intel 社製のハードウエア上で動作するオープンスタンダード版) には熱狂的な支持者がいることは疑う余地がない。私は最近 2 人ほどの元 NeXT 社員と会う機会があったが、彼らは今までに就いてきた数々の職で、 一貫して NeXT を使い続けている(一人などは 68040 ベースの NeXT マシ ンに載っている NeXTstep を放さないでいる)。転職する際に Macintosh ユーザーであり続けるのさえ難しいのだから、新しい職場で NeXTstep を 使うという主張を通す苦労は想像を絶する。

OpenStep(NeXT の現行のアプリケーション環境)はカーネルとアプリケー ションの間に位置するという点で、実質的にはミドルウエアだということ ができる。OpenStep に新たなカーネルを与えれば、Windows NT などの別 のプラットフォームで動作させることができる。OpenStep が複数のカーネ ル上で動作するように設計されているという事実は、Mac OS を近代化する と同時に、Apple に既存の Macintosh ハードウエア/ソフトウエアとの互 換性を維持するために必要な技術的な柔軟性を与えることができるだろう。

<http://www.next.com/>

2 つ目の点は、OpenStep 用のソフトウエアを開発するのは他のほとんどの オペレーティングシステムよりもはるかに所要時間が短いということだ。 このことがカスタムアプリケーションに依存する一部の大企業ユーザーの 間で NeXT が広く使われていることの理由だ。このスピーディな開発の裏 には、デベロッパーは C++ ほど普及していない Objective C を使用しな ければならないという難点がある。

3 つ目の点は、NeXT の技術は Be OS が持っている先進性をすべては備え ていないものの、時間と成熟を味方に付けているということだ。Apple が オペレーティングシステムを購入する際の目的の一つに Macintosh の安定 性と信頼性の向上にあったとしたら、気鋭の新人よりも安定した実績を選ぶ 方が理に適っているかもしれない。NeXT のバグや制約は Be OS のそれより もよく知られている可能性が高いからだ。

WebObjects とインターネット -- NeXT が Apple を良く補完する 2 番 目の点はインターネット技術である。Apple のインターネット技術はマル チメディアと MCF( TidBITS-355 を参照)のように最先端ではあっても 実際に標準になるかわからないようなものが中心となっている。これまで の Apple のインターネットにおける優位は、すばらしい独立デベロッパー たちによってもたらされたものであって、Macintosh そのものが持ってい る性質によるものではない。

一方、WebObjects は大企業をターゲットとした高価なハイエンドのソフト ウエアである。WebObjects は本質的にはある企業がデータベースを Web サーバに接続するための CGI だ。これだけなら特に新しいことはないのだ が、WebObjects は超強力なだけでなく、古ぼけたメインフレームに格納さ れているデータを扱うこともできる。決してセクシーではないかもしれな いが、昔からのデータへのアクセスを提供するのはビッグビジネスであり、 このマーケットに Apple がいることは決して悪いことではない。

Apple がどのようにして WebObjects を既存のインターネットツール群や インターネット技術に統合していくのかは明らかではないが、WebObjects には明らかな需要があり、明らかな問題を解決する能力がある。これは Apple のインターネット関連の事業の多くに欠けているものだ。

足がかり -- NeXT の買収が Apple にもたらすことができる最後の利 点は、これまでは Apple には見向きもしなかった大企業ユーザーへの足が かりだ。私は最近ビジネス市場における Apple の問題について色々考えて おり、これは Apple が Macintosh を個人ユーザーに最適なコンピュータ に仕立て上げたことに原因があると考えている。クリエイティブな人たち は昔から Macintosh を愛してきたが、個性や自己表現のパワーといったも のは大企業が目的とすることとは一致しないことが多い。大企業は人が変っ ても生き続ける標準的なソリューションというものの方に関心があるのだ。 ここ数年間で、Mac は企業ユーザーにもアピールする存在にはなってはき たが、Mac の利点を強調しての大口ユーザー向けのセールスは苦戦を強い られてきた。

NeXT は Apple 同様に熱心なユーザー層を育んできたが、大企業は NeXT が一貫してターゲットとしてきたマーケットなので、Apple が企業ユーザー への足がかりをつかむことができるだけの(簡単にカスタマイズすること ができるソリューションを提供してきたという)定評が NeXT には あるか もしれない。

私の中には、いつも「大企業なんて関係ない。そんなものはどうでもいい んだ!」と言うもう一人の自分がいる。この主張は魅力的ではあるものの、 残念ながら間違っていると思う。今日、Apple にはビジネスの世界から認 められることが必要なのだ。それがなければ、経済誌には Apple 滅亡の記 事が現れ、それがさらに Apple の評価を落とすという悪循環をもたらすか らだ。そうして、もし企業ユーザーが徐々に Mac を避けるようになると、 自分で購入を決断する人にとっても Apple を支持し続けることが難しくな るのだ。

将来展望 -- というわけで、主に世間に与えるイメージという点で、Apple が NeXT を買収したのは正解だったと思う。ほかの誰もがそうであるよう に、私は Apple がどのようにオぺレーティングシステムに OpenStep を使 おうとしているかには大いに興味があるし、NeXT の技術と人材がどのよう に Apple にとけ込むかも気になるところだ。最後に、Steve Jobs 氏がビ ジョン、狂気、あるいは天才的ひらめきといったものを再び Apple に注入 してくれることを期待する。これができる人がもしいるとしたら、Jobs 氏 はその一人だし、もしかしたら派手な Jobs 氏と堅実な Gil Amelio 氏の コンビは極めて強力なものになるかもしれない。


NeXT とともにやってくる次のシステムとは?

by Geoff Duncan <geoff@tidbits.com>
(翻訳:齊藤 聡 <akkun@ca2.so-net.or.jp>)
(翻訳:高島 均 <hitak@can.bekkoame.or.jp>)

Apple 社は 自社の 20 周年記念に方針の大転換を記した。NeXT Software 社の買収である。Apple 社は自社の NeXT 社の買収を支持するため 5 つの やや抽象的な点を強調しているが、大部分の Macintosh コミュニティは次 の 2 点を気にかけている。Apple-NeXT OS がどのように機能して、いつそ れが配布されるのか、である。

最初に予告記載をしておく。将来の Apple-NeXT の合併の最終的な評価を TidBITS - またはその他の業界誌 - に期待しないでもらいたい。視力が正 常であっても、この数ヶ月間は Apple 社と Macintosh コミュニティの間 には厚い霧のカーテンがたちこめ、それを通して見ることになるからであ る。NeXT 社の買収により、Apple 社は自分の役割をすでに限定している が、Apple-NeXT の合併の最初の真の試練は 1997 年 5 月の World Wide Developers Conference になるだろう。それまで、すべての賭けからは降 りることにする。

そのとき起こったこと -- 声明、お偉方の見解、先々週と先週にわたる 休暇、それらが多すぎたせいで、Apple/NeXT の合併がどのようになされた かを把握するのは難しい。ここに明らかになっている事柄を時系列で並べ る。

<http://live.apple.com/next/961220.pr.rel.next.html>

その計画 (我々が知る限りの) -- Macworld Expo よりも前に概説され たが、Apple 社の OS 戦略は以下のように要約できる。

未来の Mac がどうなっているか探ろうとして NeXT OS のスクリーンショッ トを入手するために Web サーフィンをしようとしてもそれには意味がな い。たとえほかがどうであれ、Apple 社は Macintosh を造らなければ ならない 。たとえ Apple 社が Windows NT やその他の主流のシステム と競争したいと思ったとしても、Apple 社のいまや伝説的な使いやすさや 洗練された設計はどんな将来の OS にもはっきりと現れていなくてはなら ない。 NeXT 社からの良いアイデアを捨て去るという意味ではないが、い まや Macintosh の洗練さとスタイルを確かめるときなのである。

NeXT 社の障害 -- Mac-NeXT OS の特長がなぜこんなにも曖昧なのだろう? 単純なことだ。Apple 社と NeXT 社はそういったプロジェクトの心臓部の 複雑な技術的問題を評価する時間がなかった。

第一に、カーネルの問題がある。カーネルはメモリ操作、プロセス管理、 データアクセス、ハードウェア同士の作用といったシステム操作のための ほとんどすべてのサービスを統合する比較的小ビットのソフトウェアであ る。逆に OpenStep は複数のカーネルの最上層を走るように設計された総 合的なソフトウェア層である。OpenStep は Mach カーネル(Unix の変種) や Windows NT 上で現在も動作しており、他の Unix にも実装できる。

Mac-NeXT OS 設計時の最初の Apple 社の仕事のひとつは Macintosh ハー ドウェア上に配置するブロックとして使うためのカーネルを決めることだ ろう。 Macintosh の心臓部に Unix を推薦する人が多数おり、Apple 社は Mach カーネルを基盤とする Linux for Power Macintosh の開発を資金援 助していることに注目すべきである。OpenStep は Unix 上でもすでに動作 しているので、多くの人々は Mach が Apple 社に対して明らかに最良の選 択肢であることを信じている。

<http://www.mklinux.apple.com/>

Macintosh のハードウェアに関していえば、個人的には、Copland 用に開 発した Apple 社自身の NuKernel に賭けたい。NuKernel は(明らかに) 陽の目を見ていないものの、これは一定期間 Apple 社が手をかけたもので あるし、また Apple 社の現存するハードウェア(PowerBook や いろいろ な AV 性能)やソフトウェア(QuickTime、OpenDoc)を念頭に置いて設計 されたものだからだ。ところが一方、OpenStep は、Macintosh 以外のハー ドウェア用に設計した将来の Mac OS が開発される可能性を提供し、さら に、Macintosh 用に書かれたアプリケーションがあるいは他のオペレーティ ング・システム上で動作することもあり得るのだ。

Apple 社に関するもう一つの基本的な疑問は、描画技術にある。NeXTstep は画面描画をもっぱら Display PostScript によって行っている。このこ とは、常に人を唸らせるに十分な NeXT の仕様の一つであり、グラフィッ クの専門家たちは、ずっと Macintosh での Display PostScript を切望し てきた。しかしながら、Apple 社の NeXT 社獲得は、Display PostScript が必然的に Mac OS の一部となることを意味するものではない。第一に、 Display PostScript は Adobe 社が所有するものであって、Adobe 社は、 PostScript プリンタの場合と同様、Display PostScript のコピーが売れ るごとに著作権使用料を得ているのだ。Apple 社は、当然のことながら、 Display PostScript へのライセンス同意には慎重になるだろう。何故な ら、それは Mac OS が Adobe 社技術のなすがままになるということのみな らず、今でもすでに高い Mac OS のコストをさらにつり上げることになり かねないからだ。第二に、Apple 社は、すでにグラフィック及び印刷に関 して Display PostScript よりも(たくさんの点で)優れた中枢技術であ る QuickDraw GX を持っている。ただ、デベロッパーによる QuickDraw GX のサポートは(さまざまな理由により)いまひとつであるが。これまでの ところ、Apple 社は、将来のオペレーティング・システムにおいては Display PostScript なのか QuickDraw GX なのかという成り行きについ て、何も言及していないところである。

互換性 -- 一番の関心事は、現存するアプリケーションとの下位互換性 である。Macintosh のユーザーは、既存あるいはこれから出てくるアプリ ケーションのほとんどが、将来の Mac-NeXT オペレーティング・システム で動作することを(正当に)期待するだろう。願わくば、顧客の忠誠心の 大部分が強固な下位互換性に由来していることを Apple 社が忘れなければ よいのだが。Mac Plus であってもなお System 7.5.5 を動かすことができ る。多くのユーザーが(筆者を含み)1988 年以前に書かれたソフトウェア を動かしている。Apple 社は、新しいオペレーティング・システムへの橋 渡しを一般の顧客に対して行うまで、2 年あるいは 3 年以上という期間の 猶予を置こうとするかもしれないが、そうしたところで、その新しいオペ レーティング・システムは少なくとも System 7.x 上のアプリケーション と無理なく互換を保つものでなければならないだろう。

下位互換性への鍵は、Apple 社がすでに MAE において投資してきた取り組 みにあるのだろう。MAE は、Mac OS 上のアプリケーションをさまざまな Unix ワークステーション上で本来的に動作させるための Macintosh アプ リケーション・レイヤーである。MAE は完全なものではないが、しかし Apple 社製ではないハードウェア上で驚くべき数の Macintosh サービスを 提供している。MAE への努力から得た技術ノウハウは、将来の Mac-NeXT オペレーティング・システムにおける System 7.x アプリケーションの強 固な互換性へと導くだろう。それがたとえ Macintosh ではないハードウェ アや Apple 社のものでないカーネル上であっても。

<http://www.mae.apple.com/>

ベンダーと技術サポート -- 多くの主要な Apple 社の技術が、将来の Mac-NeXT システムにおいても生かされることになりそうである。QuickTime などそれらのいくつかは、Apple 社の最も切望されている資産を代表して おり、 Apple 社はこれらの技術を自社のオペレーティング・システムにお いて最大級の実装がなされるよう膨大な調査研究を行っているものだ。同 様に、OpenDoc への傾注も維持していくことになりそうだ。OpenDoc は (理屈上は)Mac-NeXT システムの恩恵を多大に受けるだろう。少々不透明 なのは Speech Recognition、QuickDraw 3D や(とりわけ)QuickDraw GX などの技術の将来である。その他の Apple 社の中核技術 - AppleTalk、 Apple イベント - は、新しいシステムが Macintosh らしく振る舞うため には必須のものとなるだろう。

しかしながら、より不確かなのは、サードパーティー・デベロッパーがど の程度新しいオペレーティング・システムについて行くかである。 (Metrowerks 社、Symantec 社、Altura 社、Tennon Intersystems 社を含 む)いくつかの開発ツール提供会社は、すでに Mac-NeXT システムをサポー トする意思があることを表明している。また、MacWorld Expo に参加する ベンダーたちから、さらにたくさんの参入表明がなされることは間違いな い。ところが、来るべきシステムのサポート計画を発表することと製品群 を送り出すこととは全く別物である。おそらく、Apple 社及び Macintosh コミュニティとて、5 月の World Wide Conferrence が終わるまで、 Mac-NeXT オペレーティング・システムへのサポートがどんなものになるの かについては、明るい見通しを持てないだろう。

Macworld Expo に期待するもの -- とにかく見てみよう。Apple 社と NeXT 社には Mac-NeXT システムにまつわる問題の多くについて具体的な決 定をなすだけの時間はなかったのだ。結局、Apple 社には、曖昧なことば (「1998 年の前半」というような)で表わされるスケジュールや、下位互 換性、中核技術、Apple 社の主要マーケットなどについてのごく一般的な 発表くらいしか期待できないだろう。今週行われる Macworld Expo での Apple 社の目的は単純である。今日的なオペレーティング・システムへ向 いはずみをつけること、参加者たちに NeXT 社獲得を快く思ってもらうこ と、そしてサードパーティー・ベンダーやデベロッパーのサポートを結集 すること、である。

Be については? -- もし Jean-Louis Gassee と Be 社が、Apple 社と NeXT 社との合併の跡を追ってじっと待ち続けるだろうなどと考えているな ら、もう一度考えてみてほしい。Be 社は Be OS とともに積極的に邁進し ていくつもりである。デベロッパーには、Be OS 用 Code Worrior パッケー ジや雑誌 MacTech 1 月号を通じ、またこの四半期からは Power Computing 社システムなどから、今や Power Macintosh 用 Be OS DR 8 が入手可能で ある。さらに、Be 社は、Power Computing 社のマシン用 Be OS を用いて、 Mac OS エミュレータ下でいくつかの Macintosh アプリーケーションを動 かすデモを行うのではないかという期待を広く集めているのだ。

<http://www.be.com/>
<http://www.powercc.com/>
<http://web.xplain.com/mactech.com/>

多くのテクニカルライターたちは、将来の Mac OS の礎として Be OS を買 い取らなかったことに失望の意を表明している。つまるところ、Be 社は羨 望の位置にいて、買収話についてもさらに良い結果を得るのかもしれない。 何故なら、 Be 社は、本物のエキサイティングな製品と確固たる勢いをもっ て、軽快なフットワークで先を見越す企業のままであるからだ。心から願 うことは、Be 社と Apple 社とが、両社の成功に向かって協力を続けていっ てほしいことである。


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