TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#368/03-Mar-97

あなたは Mac を使った Web 用フルテキスト検索エンジンの構築に手慣れ ていますか? そんな方は TidBITS 杯争奪 Macintosh 検索ツール決定戦 に 参加して戴きたい! また今週は、Stuart Cheshire 氏による帯域幅と応答 時間に関する記事の第二部に加え、Internet Explorer と Quicken の新 バージョンについてもお伝えする。さらに、現地特派員からの Macworld Tokyo のハイライトに関する報告と、TidBITS 翻訳者の追加募集について もお届けしよう。

目次:

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TidBITS 日本語版は以下のメンバーのボランティアによって翻訳・発行されています。
Kaz Yoshikawa <kaz@fact.com>
井ノ本琢也  <inomoto@helix.mgh.harvard.edu>
尾高 修一  <odaka@iprolink.ch>
尾高 里華子 <odaka@iprolink.ch>
小山 純一  <vb4j-oym@asahi-net.or.jp>
加藤 たけあき<oiso@wolfenet.com>
米谷 仁志  <comet@kk.iij4u.or.jp>
齊藤 聡   <akkun@ca2.so-net.or.jp>
杉浦 雄一郎 <ysugiura@direct.ca>
高島 均   <hitak@kk.iij4u.or.jp>
西村 尚   <hisashin@st.rim.or.jp>
水木 潔   <HGH03125@niftyserve.or.jp>
村上 浩   <murasan@yk.rim.or.jp>
矢倉 遠十吉 <oto@mb.infoweb.or.jp>

今回の TidBITS のスポンサーは:


MailBITS/03-Mar-97

(翻訳:村上 浩 <murasan@yk.rim.or.jp>)

翻訳者募集 -- 昨年から一年余り、献身的な翻訳ボランティアチームに よって TidBITS の中国語、オランダ語、フランス語、ドイツ語、日本語、 スペイン語への翻訳が行われており、その活動には賞も授与されている。 作業手順は各チームごとに多少異なるが、どのチームも週一程度で記事を 翻訳できるボランティアを募集している。読者の国で、もしくは各言語で Macintosh のサポートを手伝ってみたいという方は、ぜひ以下の各コーディ ネーターに連絡して戴きたい。[ACE]

MailBITS/20-Jan-97

Microsoft Internet Explorer 3.0a -- 筆者の場合、様々なブラウザで Web サイトを見たりテストしたりするが、このところ Microsoft 社の Internet Explorer を使う頻度が多くなってきている。先週リリースされ たバージョン 3.0a(残念ながら、PowerPC 版のみ)では、キャッシュファ イルの削除、Web ページの繰り返し再ロード、Challenge Response Protocol (セキュリティで保護されたページをアクセスする際に使用)、 MacTCP 下での Java のロードに関する問題は解決されている。最小版とフ ルインストール版があり、サイズは 2.1 MB から 約 8 MB である。[JLC]

<http://www.microsoft.com/msdownload/ieplatform/iemac.htm>

Steve Becker 氏 <steve@macease.com> による寄稿: Intuit 社は Quicken 7 と Quicken 7 Deluxe の R6 アップデートをリリー スした。このアップデートでは、いくつかの不具合( TidBITS-353TidBITS-359 を参照)が修正されており、Portfolio ウィンドウ中での非 標準的な ROI(Return On Investment)の計算処理も、Investment Performance リポートの ROI の計算処理に置き換えられている。また、Q7 ユーザーには耳寄りな情報だと思うが、Connectix 社の Speed Doubler を 使うと Register ウィンドウを開く動作が飛躍的に速くなる。インデック スエラーの警告についても、Quicken のメモリ割り当てを増やすことで (筆者の場合、1 MB 増で大丈夫だった)回避できる場合がある。

<http://www.intuit.com/quicken/technical-support/quicken/releases/ qfm7-releases/>

賞金上積み -- スウェーデンで進行中の Macintosh Web サーバへの侵入 を賭けた Crack A Mac チャレンジ( TidBITS-365 を参照)について、そ の気はあるが、どうも賞金の方がいまひとつだとお考えの読者でも、いく つかの Mac 販売店が資金を追加したことで賞金が 10,000 米ドルを越えた という話には興味を示すだろう。もちろん、これまでと同様、賞金を手に するためには、標的となるサーバのホームページに変更を加えなければな らない。このコンテストは 97 年 4 月 10 日まで行われる。[GD]

<http://hacke.infinit.se/indexeng.html>


TidBITS 杯争奪 Macintosh 検索ツール決定戦

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:齊藤 聡 <akkun@ca2.so-net.or.jp>)

しばらくの間、悲しむべきことに TidBITS には良い全文検索エンジンがな かった。数年前に、Ephraim Vishniac 氏が TidBITS のために素晴らしい WAIS 用ソースを提供してくれたが、Thinking Machine が Connection Machine 上の公開 WAIS サーバーで稼働しているときしか利用できないと いう時代だった。そのサービスは結局なくなり、いくつかの試みがそれに とってかわった。現在の検索エンジンはオーストラリアの Sensei Consulting 社によって運営されている。それはありがたいのだけれども、 接続トラブルが起きているとひんぱんに聞く。さらに、検索結果が記事で はなくその記事の含まれている TidBITS の該当号全体を返してくるので、 さらに返されたものを検索しなおさなければならない。

Mac 上で稼働する数々の検索ツールがここ数年にわたり登場してきている が、我々にはそれらを逐一試していくだけの時間、ハードウェア、経験が なかった。そこで、我々はソフトウェアの該当機能を評価するための異な る方法を考えついた - 検索ツール決定戦を行おうというのである

いくつかの目標を心に留めておこう。最初に、多くの参加者の中で最良の Macintosh 用検索ツールを見いだしたいと思っている。第 2 に、プログラ ムの作者に自分の作品を誇示してもらいたいと思っている。第 3 に、 TidBITS が容易に検索できるような方法を提供したいと思っている。

参加資格はどうなっているのか? 誰でも参加できる。もっとも、これは 多くの人々が使用する予定の実地テストの場で注目を浴びるチャンスを与 えるものなので、検索ツールを作製したことのある人が興味を持つだろう と期待しているのだが。もしもコンサルタントだったり、Macintosh 用検 索ツールの開発についての専門家だったりしても、競争に加わってもらう のは大歓迎である。

テスト内容はどのようなものか? コンテスト参加に興味のある人は編集 長の Jeff Carlson <jeffc@tidbits.com> 宛てに連絡を取れば、我々は HTML フォーマットの TidBITS の全バックナンバーにアクセスできるよう にする。ここではめめしいことはなしだ。コンクールは 360 号を越える TidBITS の内容、つまり過去 7 年にわたる 11 MB のテキストを用いるこ ととする。バックナンバーを入手したら、検索エンジン製作に入っていた だく。我々はホストになるような Mac を持っていないので、参加者の皆さ んは自分自身でハードウェアとインターネットへの接続手段を用意する必 要があるだろう。我々が使っているフォーマットやその他の問題に関する 技術的な質問は <ace@tidbits.com> 宛てで私に直接送ってもらってかまわ ない。

仕様書 -- ルールなしには競技は始まらない。
全参加者:

さらに、以下のボーナスアイテムが含まれていると、参加者の勝利のチャ ンスが大きくなるだろう:

タイムスケジュール -- 我々はすべてをなげうって、このためにフルタ イムで働き始めるような参加者は期待していない。要するに、我々は「そ う、ピザの到着を待っている間に、やっつけてしまったよ」というような 優勝者の言葉を聞きたいのである。Macintosh は使いやすいといわれてい るが、我々はこういったシステムのセットアップが難しくないことを望ん でいる。ここに注意すべき日付を挙げておく:

審査はどのように行われるのか? 決定戦に加わっている人には実施の詳 細をお知らせするが、我々は参加者が覚えておくべきガイドラインを策定 している。仕様の全てを満たしていないからといって参加資格をなくすよ うなことはしないが(もちろん Mac 用であり Web 上で動作するという条 件以外についてである。この 2 点に譲歩の余地はない)、全ての仕様が満 たされているべきなのである。

賞品 -- 当然、コンテストには賞品がつきものである。我々は優勝者 (または優勝者たち)に我々が持っている最大のものを贈りたい。それは 概算で 150,000 人の Macintosh ユーザーへの優勝作品の公開である。我々 は決定戦について、おのおのの参加者についてと特に優勝作品について念 入りに、書く計画を持っている。また、全てが成し遂げられたあかつきに は、我々は、作製者の全クレジットをつけてかなりの宣伝になるようにし て、誰もが使えるようにサーバに優勝した検索システムを導入するつもり である。他の参加者は自分たちのソフトウェアに何ができるかの実地デモ として TidBITS のアーカイブを検索するホストを運営し続けることができ るし、我々は新しい TidBITS を含むアーカイブの最新版が出るたびに彼ら とリンクを張るつもりである。


Macworld Tokyo:カメラと Mac

by Chuck and Linda Shotton <cshotton@biap.com>
(翻訳:尾高 里華子 <odaka@iprolink.ch>)

東京で開催される Macworld Expo は、いつも派手で活気に満ちており、 Boston や San Francisco の Expo とはだいぶ勝手が違う。ブースは概し て広く、スタッフも多い。そして、ほとんどすべてのブースの目玉が“ブー ス嬢”なのである。他の Expo よりも抜きんでている点を挙げるとしたら、 展示されている製品の多様さだろう。アメリカの Expo で見掛けるものに 加え、地球の東半分の製品、アイデア、テクノロジーといったものが勢揃 いしているのが Macworld Tokyo の特徴だ。我々の任務は、アメリカ国内 では通常手に入らない製品やアメリカの Mac コミュニティにあまり馴染み のない製品を調査することだった。

デジタルカメラ -- まずデジタルカメラのベンダーの巡回から調査を開 始した。初公開の Apple 社製新型カメラ QuickTake 200 と日本のメーカー から出ている新製品数機種とを比較してみた。その際に、価格が 250 ドル から 1,500 ドルの範囲内の注目に値するカメラという制限を設けた。

富士フィルム社は、新製品カメラ Fujix DS-300 のデモを行っていた。今 回見た中では値の張る(事情通たちの推測でだいたい 1,400 ドルぐらい) 製品ではあるが、機能満載した普通の 35 mm 一眼レフサイズのカメラであ る。RS-232 や NTSC といったインターフェースに加え、PC カードスロッ トと SCSI インターフェースを備えていることがこのカメラの自慢である。 だが、もっと驚くことは、1280 x 1000 というとんでもない高解像度モー ドである。この解像度の場合、JPEG または TIFF 形式で、8 枚の撮影が可 能であり、“Fine”モードで 30 枚、640 x 480 のNormal モードで 62 枚、解像度を落とした“Basic”モードになると 121 枚まで撮影できる。 このカメラには、通常の 35 ミリ相当で、ISO 100 から ISO 400 までの フィルム感度をエミュレートする CCD を採用している。

<http://www.fujifilm.co.jp/noah/>

反対に、値段的に最も廉価なのは、松下電器産業社の Cool Shot (KXL-600A-N)だった。拳銃式の握りになっているこのカメラは、7.6 x 12.7 センチのインデックスカード大、厚さ 21 ミリで、楽々と手におさま る。他社が採用しているバッテリー食いのカラー液晶ビューファインダを 使わず、使い捨てカメラで用いられている単純なファインダを採用してい る。Cool Shot は、標準の Type 2 PC カードを装着することができ、2 MB のカードの場合、640 x 480 で 24 枚、320 x 240 で 96 枚の撮影できる。 このカメラの特色は、個性的な形態ゆえに実現したコンパクトさと片手で の操作である。別途装着可能な液晶モニタ、デスクトップコンピュータに 接続するためのインターフェースキットおよび Mac 用・PC 用のソフトウェ アが付属で用意されている。価格は、400 ドルから 800 ドルぐらいである。

<http://www.panasonic.co.jp/cbdo/p3/>

リコー社やシャープ社の新型カメラも私たちの目に留まった。シャープ社 の新製品は、デジタルカメラ内蔵の PC カードである。カラー PDA ザウル スとの併用を考えて設計されており、ポータブルな電源から、撮影した画 像にすぐさまアクセスすることができるラップトップへと移すことができ る。リコー社製カメラ DC-2 シリーズは、静止画像の撮影だけではなく、 動画、(同時に)音声、コメントまでも記録できるという個性的な機能が 付いている。静止画像専用の基本モデル(DC-2E)で、約 650 ドル、ビデ オやオーディオ機能のついた 2L や 2V モデルは、それぞれ 800 ドル、950 ドルである。

<http://www.ricoh.co.jp/dc/index.html>

Mac のパイオニアとして -- Apple 社が新しいハードウェアを公開し話 題をさらってしまったのだが、パイオニア社が展示していた 2 〜 3 の新 しい Mac は、自分の机に置きたいと思うようなマシンだった。パイオニア 製のクローンマシンは、ミニタワー型の筐体にものすごい力を秘め、アメ リカではまだ手に入れることのできない機能を搭載している。一番の魅力 は、System 7.6 の CHRP 版を稼動する MPC-GX2 の CHRP (PPCP) 準拠であ るということだ。604e/200 MHz の CPU に 32 MB のメモリと 512K の L2 キャッシュを標準搭載したその筐体は、レスポンスが非常に良いようだ。 このマシンは、通常の Macintosh に付いているポートのほかに、PCI ス ロット 4 つ、ISA スロット一つ、IDE が 2 チャンネル、2 GB の SCSI ハードディスクおよび Intel PC に付いている例のマウス、シリアルポー ト、パラレルポートのセットが揃っている。何と言ってもその頂点を極め るものは、DVD-ROM ドライブである。James Bond の最新作の Goldeneye をフルスクリーンで再生しながら、System 7 のアプリケーションをフォア グランドで動かすというデモが行われていたのだが、これが一番印象的だっ た。小売価格は分からないが、3,500 ドルぐらいから入手可能だろう。

<http://www.pioneer.co.jp/comp/>

心を読む -- そのほかで目に留まったハードウェアとしては、ピピン@ アットマークの次世代機や IBVA 社製脳波ハードウェアがある。今回の Expo のなかでも最も気が利いていた IBVA 社の行っていたデモは、脳波か ら MIDI へ直接インプットするというもので、これによりユーザーは新し い音楽を“考える”ことができるようになるのだ。新しいソフトウェアで は、オープンプラグインアーキテクチャを採用しており、追加のスクリプ トまたはその類のものを通せば、脳波用ハードウェアおよびソフトウェア をほとんどすべての Mac ソフトにつなぐことができる。計り知れないほど の素晴らしい可能性を秘めているとはいえ、ワイヤレスのマイク付きヘッ ドホン、メイン装置、関連ソフトウェアあわせると、日本で約 1,000 ドル ぐらいだ。

英語指南 -- ソフトウェア部門では、Transparent Language 社製の英語 学習ソフト English Now! はなかなか実用的な製品だった。このソフトウェ アは、文字、音、映像を組み合わせ、総合的な言語学習環境を実現してい る。単語がハイライトされ、様々な合成音声で読まれていくのに合わせて、 その英文を目で追い、自分の声を録音し、自分の発音と正しい発音とをソ ノグラフで比較することができきる。また、英文和訳、和文英訳、読上げ られる文の書き取りなどを行う非常に多くのレッスンとゲームが用意され ている。この製品の完成度の高さは感動モノだった。English Now! は、Mac 版、Windows 版ともに CD-ROM で約 100 ドルである。

<http://www.three-a.co.jp/>

まとめ -- 私たちに与えられた 2 日間という時間だけでは、とても見尽 くせないほど多くのものがあった。Apple 社の新しいハードウェアはなか なか良かったが、たいして新しくなってはいなかった。何と言ってもパイ オニア社製クローン(とデモのときに一緒に並べてあったパイオニア製の 25 インチ、厚さわずか 5 センチというフラットパネルの液晶ディスプレ イ)が Expo に出展されていたものの中では一押しのハードウェアで、そ のすぐ次に続くのが、IBVA 社製品といったところだ。ソフトウェアの中で は、English Now! がダントツである。コンピュータを使った言語学習の分 野の専門家でない私にさえ、これを使って学習すれば、英語の習得間違い なしと思えた。


帯域幅と応答時間: 問題は応答時間(第 2 部)

by Stuart Cheshire <cheshire@cs.stanford.edu>
(翻訳:尾高 修一 <odaka@iprolink.ch>)

[先週の TidBITS-367 で、Stuart はモデムを使った普通のインターネッ ト接続における応答時間と遅延の問題を検討した。今週、Stuart はどうす れば帯域幅がより有効に使えるかについての一般的な意見と、それが接続 の全体的な応答時間にどう影響するかについて述べる。]

先週号では、33 Kbps のモデムを使った電話回線経由の接続が唯一可能な ネットワーク接続であるという世界を想像していただいた。そして、これ では帯域幅が不十分だとしよう。ここで問題が生じるのだ。

帯域幅を広げるのは簡単 -- 技術的には、解決法は簡単だ。電話回線を 2 本引いて並列に使えば、合計 66 Kbps が得られることになる。それでも 足りなければ電話回線を 10 本引いて、330 Kbps にすることだってでき る。もちろんこれにはお金がかかるし、モデムを 10 台も積み上げておく のは不便だし、10 本の回線に等しくデータが分散されるようにするには自 分でネットワーク用ソフトウエアを作らなければならないかもしれない。 でもそれだけに値するほど大事なことなら、可能ではあるのだ。ISDN を引 いている人には既にこれと同じことができる。この方法は“BONDING ” (Bandwidth ON Demand INteroperability Group の略)と呼ばれ、64 Kbps の ISDN チャネルを 2 本並列に使用して合計 128 Kbps のスループットを 得るものだ。

常に経済的であるとは限らないが、帯域幅を広げるのは可能だ。一方、限 られた帯域幅を有効に使うのは簡単だということもこれと同じぐらい大事だ。

圧縮 -- 圧縮は帯域幅を拡大する手軽な方法だ。汎用の圧縮方式 (StuffIt など)を使うこともできるし、さらにはデータ固有の圧縮方式 (たとえば静止画には JPEG、動画には MPEG)を利用することにより、は るかに高い圧縮率を実現することができる。

こういった圧縮技術は帯域幅を広げるのと引き換えに CPU パワーを使う ことになる。しかし、CPU パワーで悪い応答時間に対処する方法はない。

最近のモデムはほとんどが内部的な圧縮アルゴリズムを利用している。残 念なことに、モデムに圧縮を行ってもらうより、コンピュータに圧縮を担 当してもらった方がはるかに良いのだ。というのは、コンピュータは強力 で、高価で、高速な CPU を持っているのに、モデムは貧弱で、安価で、遅 いプロセッサしか持っていないからだ。さらに、先週述べたように、モデ ムがデータを圧縮するには、データが効率的に圧縮できる量に達するまで 待たなければなければならない。この処理によって応答時間が長くなるの であり、一度加算された応答時間は二度となくならない。また、モデムは どんなデータが送られてきているかわからないので、より優秀なデータ固 有の圧縮アルゴリズムを使うことができない。実際には、Web 上にあるほ とんどの画像や音声データは既に圧縮されているので、モデムがデータを さらに圧縮しようとしても応答時間が長くなるだけで何の得にもならない のだ。

これはモデムによる圧縮が無意味だということではない。ホスト側のソフ トウエアがあまり賢くなくて、データを適切な方法で圧縮しない場合には、 多少はモデム自身の圧縮によってこの欠陥を補うことができる。要するに、 モデムによる圧縮は頭の悪いソフトウエアにしか役に立たず、賢いソフト ウエアには応答時間を長くして足を引っ張るだけなのだ。

データを減らす -- 限られた帯域幅に対処するもう一つの方法は、帯域 幅を無駄にしないようなプログラムを書くことだ。たとえば、Bolo(私が 作ったインタラクティブな戦車ゲーム)では、パケットのサイズを小さく するために、可能な限り 16 ビットや 32 ビットのワードのかわりにバイ トを使用する。

<http://rescomp.stanford.edu/~cheshire/Bolo.html>

ゲームのような多くのインタラクティブなソフトウエアにとって、多くの データを転送することは大事なことではない。大事なのは、小さなデータ が転送される時には、すばやく転送されることなのだ。Bolo は当初 4800 bps で動作するシリアルポート用に開発され、8 人のプレーヤーをサポー トすることができた。28.8 Kbps のモデム経由では、ほとんど 2 人のプ レーヤーにすら満足なレスポンスを与えることができない。なぜだろう? 直結された 4800 bps のシリアルポートの応答時間は 2 ms である。28.8 Kbps のモデムの応答時間は 100 ms で、4600 bps のシリアル接続よりも 50 倍遅いことになる。

限られた帯域幅にソフトウエアで対応するには、送るデータ量を少なくす るという方法がある。カラーの画像を送るだけの帯域幅がなければ、白黒 か大幅に減色した画像を送ることができる(これは現実に NTSC テレビが やっていることだ)。毎秒 30 フレームのムービーを送るだけの帯域幅が なければ、15 fps か 5 fps、またはそれより少なくして送ることができる。

こういった妥協は気持ち良いものではないが、可能ではある。もっと帯域 幅が欲しければお金を出すこともできるし、限られた帯域幅に収まるよう にデータの量を少なくすることもできるのだ。しかし、応答時間が悪い場 合には以上のような可能性は与えられていない。複数の回線を並列に動作 させても応答時間は良くならないし、送るデータの量を少なくしても同じ だ。

キャッシング -- コンピュータやネットワークのパフォーマンスを向上 されるのに最も効果的な技術の一つにキャッシングがある。ある Web サイ トを訪れたら、ブラウザはそのサイトのテキストと画像をコンピュータの ハードディスクに保存しておくことができる。同じサイトを訪れたら、ブ ラウザは単にディスクに保存してあるコピーが最新のものであることを確 認し、ディスクにある方を表示するのだ。

ファイルが更新された日時をチェックするのは、ネットワークに流すデー タとしては極めて小さいので、モデムのスループットの影響はゼロに等し い。問題は応答時間だけなのだ。

最近、Web アクセスを高速化するために、サイト全体を CD-ROM に収めて 配布する会社も登場してきている。こういった Web サイトをブラウズする 際、Web ブラウザがしなければならないことは、アクセスする各ファイル の修正日をチェックして、CD-ROM にあるファイルが最新のものであること を確認するだけだ。ダウンロードするのは CD-ROM が作られてから変更さ れたファイルだけで良い。Web サイトにある大きなファイルはほとんどが 画像ファイルだし、Web サイトにある画像ファイルは HTML テキストより はるかに少ない頻度でしか更新されないので、ほとんどの場合には転送し なければならないデータの量は極めて少ないのだ。

ここでも、Web ブラウザは主に修正日をサーバに尋ねているだけなので、 ユーザーが体感するパフォーマンスは接続の応答時間に支配されているの であり、スループットは事実上無関係なのだ。

応答時間対策 -- ISDN の応答時間は約 10 ms である。ISDN のスルー プットはモデムの 2 倍かもしれないが、応答時間は 10 倍も短いので、こ れが ISDN 接続を使っての Web ブラウジングがモデムを使った場合よりも 高速に感じられる大きな理由になっている。

通常のモデムの応答時間がこれほど悪い理由に、ユーザーがコンピュータ を使って何をしようとしているかを知らないということがある。外付モデ ムは普通シリアルポートに接続されているので、モデムから見るとバイト の流れがだらだらと送られてきているだけに見えるのだ。

皮肉なことに、不遇の Apple GeoPort Telecom Adapter がこの問題を解決 するかもしれない。Apple GeoPort Telecom Adapter はコンピュータを電 話回線に接続するものだが、モデムではない。そのかわり、すべてのモデ ムの機能は Mac で動作しているソフトウエアが担当するのだ。GeoPort Telecom Adapter が酷評されている主な理由は、このソフトウエアがメモ リを食い、Mac のスピードを遅くするということだが、理論的にはどんな 外付モデムにも真似のできない利点を持ち 得る のだ。GeoPort Telecom Adapter を使う時、モデムソフトウエアは TCP/IP ソフトウエアや Web ブ ラウザと同じ CPU で動作しているため、ユーザーが何をしようとしている のかを正確に知り得る。Web ブラウザが TCP パケットを送る時、GeoPort モデムソフトウエアは現行のモデムの動作を真似することはないのだ。 GeoPort Telecom Adapter はそのパケットを受け取り、エンコードし、ほ とんど応答時間ゼロで電話回線に送り出せば良い。

ゲームが送るパケットの標準的なサイズである 36 バイトのデータを 28.8 Kbps で動作している GeoPort Telecom Adapter で送る時間は、10 ms ま で短縮することが可能だ。これは ISDN と同じ速さで、今日買うことので きる最も優秀なモデムの 10 倍速い。普通のモデムより安い価格で、 GeoPort Telecom Adapter は ISDN に近いスピードでの Web ブラウジング を実現してくれる可能性があるのだ。さらに良いことに、既に GeoPort Telecom Adapter を持っている人はソフトウエアをアップグレードするだ けで良い。

それでも帯域幅 -- そうは言っても、私が帯域幅を軽視していると思っ てはいただきたくない。帯域幅は非常に重要なのだが、ほとんどの人が考 えるのとは別の意味でだ。帯域幅はそのものも大事なのだが、全体的な応 答時間に与える影響からも重要なのだ。ここで重要なのは、データパケッ トが発信されてから受信されるまでの遅延の合計時間だ。

この記事の第一部でボーイング 747 と 737 の容量を比較したのを憶えて おいでだろうか? ここで同じ問題のより身近な例を挙げよう。多くの人は、 自分専用の 64 Kbps ISDN 接続は 10 Mbps の Ethernet 接続を 160 人で 共用するのと同じぐらい(またはもっと)良いと思っている。電話会社は、 ISDN はケーブルモデムといった新技術よりも優れていると主張している。 ケーブルモデムの帯域幅は ISDN よりもはるかに広いが、大勢で共用して いるために平均では同じぐらいになるというのだ。以下で見るように、こ の主張は間違っている。

さて、ここでゲーム全体の状態を示すデータの量が 40K のゲームがあると しよう。この単純な例では、ゲームサーバはプレーヤーにゲームの状態を 10 秒ごとに送信するとしよう。ということは 10 秒につき 40K、平均毎秒 4K または 32 Kbps ということになる。これは 64 K の ISDN 接続の容量 の半分でしかないし、Ethernet でこのゲームをプレイしている 160 人の ユーザーも Ethernet の容量の半分しか使わない。いずれも容量の 50 % で動作しているので、パフォーマンスも同じになるはずではないだろうか?

それが違うのだ。Ethernet の場合、サーバがプレーヤーに 40 K のデータ を送った場合、プレーヤーは最も早くて 32 ms 後(40 K / 10 Mbps)に データを受け取ることができる。ゲームサーバだけが Ethernet 上にパケッ トを送っているわけではないとしたら、共有されたメディアをめぐる競争 があることになる。それでも、プレーヤーがデータを受け取るまでの遅延 は平均わずか 64 ms だ。ISDN の場合、サーバがプレーヤーに 40 K のデー タを送った場合、プレーヤーがデータを受け取るのは 5 秒後(40 K / 64 Kbps)になる。いずれの場合も、ユーザーが使うことのできる平均帯域幅 は同じだが、実際のパフォーマンスは異なるのだ。Ethernet の場合、接続 の容量が大きいので、プレーヤーがデータを受け取るのはほとんど一瞬の うちだ。しかし、ISDN の場合は、容量が少ないために、プレーヤーがデー タを受け取ったときには既に情報は 5 秒も前のものになってしまっている のだ。

ここで問題なのは、40 K のデータを 10 秒ごとに送るのと、データを毎秒 4 K 送るのは同じではないということだ。もし同じだとしたら、電話会社 による ISDN、ATM などのアイデアは正しい考えだということになる。電話 会社は、すべての通信は水道管を流れる水のように考えている。ただ必要 なデータ転送レートだけを連絡すれば、電話会社は必要な水道管の太さを 教えてくれる。電話線を行き来する音声は水道管の中の水のように流れる が、コンピュータのデータは違う。コンピュータのデータはかたまりなの だ。よくある間違いは、1 分ごとに 60 K のデータを送るのは毎秒 1 K の データを送るのと同じだと考えてしまうことだ。毎秒 1 K の接続は送ろう としているデータを運ぶことができるだけの 容量 はあるかもしれない が、60 K をまるまる適切なタイミングで運ぶことにはならない。データの かたまりが届き終わった時には、データは 1 分も前のものになっているの だ。

結論は明らかだろう。接続の容量はパフォーマンスに大きな影響を与える。 一人で低い帯域幅の接続を使うか、大勢で高い帯域幅の接続を共用するか を選べるなら、共用する方を選ぶべきだ。これもコンピュータの世界以外 ではあまりにも明らかだ。もし政府が広い共用フリーウエイを一本か作る か、一人一本の小さな小道を 100 万本作るといったら、どちらを取るだろ うか?

何ができるか -- 私は何人もの人から、この応答時間と帯域幅の問題に 対する認識をどうすれば広められるかという質問を受けた。モデムメーカ に直接電話するのは無意味だということは経験から知っているので、この 記事を関心のありそうな友達に見せてあげることをお薦めする。最も大事 なことは、主要な雑誌の編集長に手紙を書き、モデムのレビューを掲載す るときには ping や traceroute を使った応答時間テストも行うように頼 むことだ。すべてのモデムが冒されている恐るべき応答時間に対する認識 を高めることができれば、モデムメーカーもスループットだけでなく応答 時間も改善する努力を始めるかもしれない。

[この記事の一部は Volpe Welty Asset Management, L.L.C. の委託で Stuart Cheshire 氏 が執筆した“Latency and the Quest for Interactivity”という白書から抜粋されている。]

<http://rescomp.stanford.edu/~cheshire/papers/LatencyQuest.html>


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