TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#370/17-Mar-97

先週の“ブラック フライデー”で、Apple 社は従業員のレイオフと組織の 再々編成を発表した。今週号では、その Apple 社が今後何を継続し、何を 保留し、何を保守モードとするかについて Adam が考察をしている。また、 Java と Shockwave におけるセキュリティ上の問題、QuickKeys の PowerPC アップデート、さらには、簡単に使える子供向けマルチメディアオーサリ ングツール兼 Web 出版ツールである Digital Chisel の詳細なレビューも お届けしよう。

目次:

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MailBITS/17-Mar-97

(翻訳:村上 浩 <murasan@yk.rim.or.jp>)
(翻訳:松岡 文昭 <mtokfmak@mxa.meshnet.or.jp>)

Java と Shockwave のセキュリティ -- 最近、主なメディアで持ち切り だった話題といえば、Windows 版 Microsoft Internet Explorer のセキュ リティ問題だが、Sun 社の Java で見つかったセキュリティ問題の方は、 あまり注目されなかった。どういう問題かというと、Java アプレットでセ キュリティ保護を解除したり、アプレット自身にローカルマシンへの無制 限アクセスを許可したりできるのである。注意して欲しいのは、この問題 を悪用するのは非常に難しいということだ。ただし理論上は、Sun 社から Java の技術ライセンスを受けているものすべてに影響が及ぶことになる。 Microsoft 社は Mac 版 Internet Explorer の Java 実装部アップデータ をリリースした。サイズは 500K である。Netscape 3.0 については、Sun 社の Java ではないため影響はない。

<http://www.microsoft.com/ie/security/java.htm>
<http://www.javasoft.com/sfaq/index.html>

一方、Web ブラウザ(特に Netscape Navigator)で使う Macromedia 社製 Shockwave Director プラグインのセキュリティ問題を悪用するのは比較的 容易だ。本質的に、ユーザーのマシン上にある電子メールやファイルとか、 他のインターネットサーバ上の書類を相手に気づかれずに読める Shockwave Director ムービーの作成が可能なのだ。たとえそれが会社のファイア ウォール内であってもである。この不備自体が比較的単純なことを考えれ ば、ほかにも単純な抜け道をもった製品が多数あるかもしれない。 Streaming Shockwave 6 のプレリリース版にはこの問題はないと伝えられ ているが、それ以外の方法で防御を確実にするためには Shockwave をはず すしか手はない。[GD]

<http://www.webcomics.com/shockwave/>
<http://www.macromedia.com/shockwave/download/plugin.cgi>

早くなった QuicKeys - CE Software 社は、同社のキーボード・ショー トカット割付及び自動処理用の強力なツール QuicKeys( TidBITS-347 を 参照)の PowerPC ネイティブ版を、(やっと)リリースした。このアップ デートには、Finder ツールバーに加え、Photoshop、PageMaker 及び Netscape Navigator といったポピューラーなアプリケーション用のツール バーも予め用意されている。QuicKeys 3.5 のオーナーは CE Software 社 より 1.8 MB のアップデート版をダウンロードできる。 [JLC]

<http://www.cesoft.com/quickeys/qkppc.html>

Fetch 3.0.3 - 先週、リジューム・ダウンロード機能及び Open Transport へのサポート強化が追加された Fetch 3.0.2 のリリースを記し た。その直後、View File でファイルを見た場合に最初の文字が欠落する というバグを修正した Fetch 3.0.3 が出現。 [JLC]

<http://www.dartmouth.edu/pages/softdev/fetch.html>


97 年度 Apple 選: 当落一覧

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:尾高 修一 <odaka@iprolink.ch>)
(  :高橋 邦明 <kuniaki@mail.netwave.or.jp>)
(  :高島 均 <hitak@kk.iij4u.or.jp>)

もう皆さんは 1997 年内に黒字経営に戻るための Apple 社のコスト削減 ダイエット計画についてご存じだろう。何が捨てられ、何が生命維持装置 入りになり、何が生き延びたかを簡単に見ていこう。公式発表を見たいと いう方は、先に以下のプレスレリースを見てからこの記事の論評をお読み いただきたい。

<http://product.info.apple.com/pr/press.releases/1997/q2/ 970314.pr.rel.restructure.html> <http://product.info.apple.com/pr/press.releases/1997/q2/ 970314.pr.rel.faq.html>

2,700 人の従業員 -- Apple は総勢 11,000 人の正社員のうち、2,700 人をレイオフすると発表した。同時に、2,400 人の契約社員や派遣社員の うち、1,400 人が解雇される。このうちの多くは切り捨てられるテクノロジー の開発に従事していたのだが、Advanced Technology Group(ATG)も大き な打撃を受けているといわれている。レイオフの 55 % は米国内で、残り は海外のグループとなっている。興味深いのは、金曜日の電話会見で、 Apple 社の経営陣が Apple Japan はレイオフの対象にはならないと述べて いたことだ。

社員をレイオフするのは収支を別にすれば決して好ましいことではないが、 レイオフされた Apple 社員が新しい職を見つけるのはそれほど難しくはな いだろう。評判の良い Microsoft 社の MS Bay Macintosh 開発グループ (Mac 版 Internet Explorer を作っているところ)はこういった人たちを ものすごい勢いで採用しているらしい。

ATG -- ATG はといえば、Apple の基礎研究の大部分は捨てられたので、 数年先に問題が浮上する恐れがある。Apple の経営陣は、将来の研究開発 の 90 % は教育、出版、そしてヒューマンインターフェースデザインに投 入するとしている。彼らは去年は売り上げ額の 6 % だった ATG の予算を 5 % に抑えようとしているのだと述べている。これだとさほど悪いように は見えないが、売り上げが落ち込んでいるため、 ATG の予算の 1/3 がカッ トされたことに相当する。経営陣は、Compaq などの主な PC ベンダーが通 常研究開発に割り当てるのは売り上げ額の 1 〜 2 % だと述べている。

Performa -- 私の意見では、今回の最も優れた決断は Performa ブラン ドを捨てたことだ(流通在庫分の Performa は売り切れるまで残るが、そ の後は Power Mac となる)。私はずっと Performa ブランドは好きではな かった。最初に Performa が現れた時、私は TidBITS-142 で以下のよう に述べた。「Compaq の Prolinea の少し後に現れたこの名前は、私にはた いして良いとは思われないし、新しいシリーズに古くなったテクノロジー がリサイクルして使われるのではないかと心配する ... このことは、 Performa シリーズが主としてマーケティング上の都合から生まれたことを 示している。」当時私はユーザーが名前のために混乱するのではないかと 思った。というのは、Performa が Macintosh であることすら自明ではな かったし、機種名を示す番号がどんどん増えていったため、私たちのよう に Mac の各モデルをずっとフォローしている人たちですら何がどうなって いるかを把握するのは不可能になった。金曜日に、Apple はようやく消費 者を混乱させるのは悪いことだということを認めたのだ。

ビデオ会議 -- Apple はビデオ会議関連の製品や技術を捨てた。全体と しては、この動きは良いといえるだろう。ビデオ会議は帯域幅を必要とす るために爆発的には普及していないし、もっとこの分野での経験が豊富で 関心も高い企業がほかにあるのだ。Apple がなにもかもできるわけはない し、ビデオ会議がビジネスとして成功するには完全にクロスプラットフォー ムでなければならない。ほかの誰かにやらせた方が良いのだ。

AIX と Network Server -- 最近 Apple が投入したハイエンドの Network Server は IBM の Unix である AIX を動作させる。ハイエンドの出版業界 の評判は良いものの、Apple は将来のサーバ製品からは AIX を外し、その かわりに Mac OS か Rhapsody(NeXT のテクノロジーをベースにした最初 のバージョンの Mac OS のコードネーム)を動作させる。Apple は既存の ユーザーはサポートするし、これまでのマシンも全く問題なく動き続ける だろう。これも悪い判断のようには見えない。 Apple はあまりたくさんの OS をサポートするほどの余裕は無いのだ。

年 2 回のシステムアップデート -- 少し前、Apple は 6 ヶ月ごとに Mac OS のメジャーアップデートを行い、3 ヶ月ごとに主なバグフィックスを行 うと約束した。これは勇気ある発言だったといえるし、これを発表した人 はその甘い言葉を味わったことだろう。7 月にデビューする Mac OS 8 と 呼ばれることになった Tempo の後は、年 2 回のシステムアップデートは 過去のものとなる。そんなに速くソフトウエアを送り出すことは、プログ ラマーたちには無理な相談だということを Apple の経営陣は認めたのだ。 今後のスケジュールとしては、Rhapsody の“premier”リリースが 1997 年末に登場し、メジャーアップデートは年に 1 回、マイナーなバグフィッ クスは 6 ヶ月ごとに行うことが目標となる。コンピュータ業界のスケ ジュールは夢物語だということは周知の通りだ。Apple がスケジュールを 発表してそれを守ろうとするのは悪いことではないが、Apple(やほかの誰 もが)がそんなことを継続して行うことができると思っている人は、夢を 見ているのだ。

メンテナンス・モード -- 上の話はもはやすんでしまったことである。 しかしながら、ほかの多くの技術は「メンテナンス・モード」に入れられ た。これがどういう意味なのかはいまだ明確ではないが、思うに、バグ・ フィックスは出るだろうし、新しいハードウエアをサポートするためのアッ プデートは行われるだろうが、それ以上のものは出てこない、ということ だろう。Apple のプレス・リリースには次のようにある。「今日の Mac OS のほとんどの構成要素もこのような意味で『メンテナンス』されており、 それでも顧客や開発者はそれらを毎日使っている。Apple は引き続きシス テム全体の信頼性とパフォーマンスを向上させていく。中には、もう何年 も大きなアップデートを行っていないような技術で改良されるものもある。 それだけでなく、これらの技術は Mac OS レイヤー(Blue Box)の一部と して、 Rhapsody に使用され、この先何年にもわたり、既存のソフトウエ アを、もっと速く、信頼性の高い基盤の上で走らせることになる」。この ことを頭に置いて、次の話を読んでほしい。

Open Transport -- Open Transport をメンテナンスモードに入れ、Unix の派生である Berkeley Standard Distribution(BSD)ネットワーキング スキームに Mach カーネル上に移行する、というのは、一見したところ、 私にはばかげた動きであると思う。Apple は AppleTalk と古ぼけた MacTCP から Open Transport に移行するためにさんざんな苦労を経験してきた。 最初のひどいバージョン(Power Mac 9500 のリリースに無理強いされた) を経て、Open Transport は Macintosh ユーザーの多種多様なニーズに答 える、頑丈で柔軟なパフォーマンスを証明してきたのだ。

この動きをめぐる疑問は Rhapsody に満ちあふれる。たとえば、どうやっ て Apple は BSD ベースのネットワーキング実行環境で Apple Talk をサ ポートするつもりなのか。プラグ・アンド・プレイのネットワーク構築は どうなるのか。セキュリティは? (Unix BSD ベースのシステムで、賞金 10,000 ドルのハッカー・チャレンジをそんなに見かけない)。そして、IPv6 やマルチ・ホーミングといった、キャンセル済みの Open Transport 1.5 ですでに示されていた機能はどうなるのか。この件については近いうちに また書こう。なぜなら、インターフェースが Mac のハートなら、ネット ワーキングは Mac のソウルだからだ。

OpenDoc -- どうやら Apple は、Open Doc と Java はコンポーネント・ ソフトウエアの世界で同じような役目を果たすことができると信じている ようだ。私はこのことを証明できるほど技術に詳しくない(このことにつ いて記事を書いてみたいプログラマーの方はいませんか)。しかし、あま りにも多くの開発者が Java こそ超最高と考え、また OpenStep にすでに パワフルなコンポーネント・ソフトウエア開発のモデルがあるときに、 OpenDoc に労力を費やすのは無駄である、という感覚である。OpenDoc は BlueBox で引き続きサポートされるが、フリーの開発者が OpenDoc 開発を 続けるべき理由はもうなくなったと思う。全体的にいって、 TidBITS-365 でもふれたように、OpenDoc がやっと一山越え始めていること思えば、こ れは残念なことだと思う。Apple は OpenDoc を開発し、開発者に福音をも たらすために大変な努力をしてきた。もし私がそんな開発者の一人だった ら、今頃ひどく幻滅していることだろう。

Cyberdog -- 幻滅といえば、『Cyberdog: Live Objects on the Internet』というクールな本の著者、Joe Kissell 氏と David McKee 氏も 今頃落ち込んでいるにちがいないと想像する。Cyberdog は OpenDoc のキ ラー・アプリケーションであり(この言葉をドキュメント主体の技術に使っ てもよいとして)、OpenDoc 同様メンテナンス・モードに入れられた。現 在ベータ版の Cyberdog 2.0 と OpenDoc は、7 月の Mac OS 8 と一緒に出 荷されるので、まだ使い続けることはできるが、競争相手の前途洋々の技 術を差し置いて、人々に Cyberdog を推薦することは難しい。私の想像で は、約束されていた Cyberdog 版の Netscape Navigator もまたあてには できまい。

Game Sprockets -- Game Sprockets は Macintosh でゲームをプログラ ムすることを容易にするよう設計された一連のライブラリやツールであっ た。 OpenDoc や Cyberdog のように、これも Blue Box において今ある姿 のまま生き存えるのだろう。皮肉なことに、このことは Game Sprockets を用いて書かれたゲームは Blue Box においてのみ作動することを意味し ているのだ。ちょうど今日においても DOS 上だけで作動し Windows 上で は作動しない PC ゲームがあるように。Game Sprockets に関してはとりた てて意見を持ち合わせていないものの、ゲーム市場は個人消費者向けコン ピュータにとっては重要なものと考えるし、Apple とて、ゲームデベロッ パーが Mac 用に開発を続けたがることを保証するため、何がしかを行った ほうが良いのだ。

Mac OS 開発ツール -- Apple は、何年にも渡り Mac OS をプログラムす るためのたくさんのツールを創ってき、そしてそれらのツールは入手可能 であり続けるのだろうが、Apple はそれに代わる Rhapsody 用開発ツール に傾注しているところである。今ある Macintosh アプリケーションのおび ただしい量のコードは MPW や MacApp のような Apple のツールを使って 書かれたものであるのだが、プログラマーたちは Rhapsody 上の開発には 新しいツールを使わなければならないことにすでに気付いていて、そして 多くのプログラマーはすでに Metrowerks 社や Symantec 社のような Apple ではないデベロッパーから提供されるツールをあてにしているのだ。

思ったよりは健在 -- 全てのこの悲運と暗い影が、Apple が店じまいを して、さる冗談めいたプレスリリースが示唆したように非営利法人になる かのような印象を与えてはいけない。Apple には今なお多額の売り上げ (彼等は 1997 年のそれを 80 億ドルと見積もっている)があり、Amelio と会社はいくつかの製品と技術を一時的に中止したのであって、それとて 恐らくそれらから生ずる現金流動のためなのだ。

Newton -- Apple によって Newton 部門が無傷であることを明らかにす る発表がなされたとき、Newton 所有者やデベロッパーからは一斉に安堵の ため息がもれたに違いない。Newton MessagePad 2000 と eMate 300 は今 も出荷されており、これまでも好評であった。したがって、これらは生き 存えるのだ...さしあたりのところは。Apple のプレスリリースはこう述べ ている:“Apple は将来の Newton ビジネスについて幅広い選択を模索し ているところであるが、現時点ではこれらの検討にはこれといった決め手 がない。”私にはこれが 3 つのうちのいずれかを意味していると思われ る。Newton テクノロジーが生き残り前進する限りどれでも構わないことで はあるが。読者自身で選んでほしい:

Claris -- Claris 社がかつて深刻な危機に瀕したことなど信じられず、 この 100 % 出資の子会社は Apple のために金を稼ぎ続けるのだろう。 Claris は 1997 会計年度の第 1 四半期で 6700 万ドルの収入を記録し、 また 1996 年度では 2 億 3620 万ドルの収入であった。Claris 製品に対 する需要は Mac 及び Windows ともにずっと堅調であって、Windows では FileMaker Pro for Windows 3.0 が PC のデータベース市場で売り上げ第 2 位となっている。Mac バージョンは長い間最も良く販売された Macintosh のデータベースであり続けている。

Mac OS ライセンス -- Mac OS のライセンス保有者が Mac クローンを生 産する権利に対し、Apple がさらにライセンス料を引き上げることによっ て増収を図ろうとしているという噂が飛び交っている。金曜日の電話会見 で説明されてから、この事態については変化を見せていない。ライセンス 料は近々いずれかの時点で変更されるだろう。しかし、この変更は、現行 の Mac OS ライセンス保有者が Apple のハードウエア設計、すなわちいわ ゆる“Tanzania”マザーボードに関するライセンスをも併せて保持してい ることによるものである。 CHRP(Common Hardware Reference Platform) マシンが製造されるようになれば、クローン製造企業は Tanzania マザー ボードをライセンスする必要はなく、つまり Apple はその時点で新しい状 況に説明のつくライセンス料に調整する予定なのだ。

忠誠なる顧客? -- アナリストたちを集めた会見において、Apple の重役 が、この会社の最も偉大な資産はその忠誠なる顧客であると触れたことに 言及して、この記事を終えたいと思う。過去においてはこのことは確かに 真実であり、また、この会社が多くの金を失い、たくさんの従業員をレイ オフし、いくつものテクノロジーを中止した今となっては、なおさらその とおりなのかも知れない。しかしながら、たくさんのユーザーやデベロッ パーと話し合ってみて、私には、Macintosh への忠誠心やその忠誠心が具 現化するものは以前のままであっても、会社としての Apple への忠誠心は 史上最低を示しているように思える。ここには大きな相違があるのだが、 このことが Apple の経営陣の理解のうちかどうかはわからない。重役の一 人は、Apple は素晴しい製品を造り続けることによって忠誠なる顧客に報 いるのだと述べている。そうであれば、私は、近い将来において本当にそ うなるのか、また、より重要なのは、それで多くの人々が何度となくあざ けりやじゃまを受けながらも顕示してきた忠誠の年月に報いるのに十分な のか、と問いかけたいのだ。


エレガントで刺激的な Digital Chisel

by Tonya Engst <tonya@tidbits.com>
(翻訳:尾高 里華子 <odaka@iprolink.ch>)

Digital Chisel HTML 2.1.3 は、Pierian Springs Software 社製のソフト で“the Chisel”の愛称で親しまれている。先生や生徒たちは、これを使っ て、ちょっとおしゃれなマルチメディアプレゼンテーションやチュートリ アル、そして時にはテストまでも作ったりする。今回、今までの製品名に "HTML" が付き、Digital Chisel HTML になった。(その HTML につられ て)新しいバージョンのレビューを書いてみることにした。Web サイトを 作成に対する取組み方が、PageMill のようなページ指向のソフトや BBEdit のようなタグ中心のソフトとは全く違っていてたまげるのではと思ってい たのだ。

これは、楽しくかつエレガントな製品である。Digital Chisel で作ったも のは、無償で配布されている Digital Chisel Player で見ることができる し、変換して Web サイトに載せることもできるのだ。Digital Chisel の プロジェクトは、HyperCard のスタックに似ており、ボタンでリンクして いるスクリーンの集まりである。デベロッパーは全くコードを気にしなく てよく、テスト結果の記録のような舞台裏での処理は、Digital Chisel Player が引き受けてくれるのだ。

<http://www.pierian.com/>

先生や子供達が作っている Chisel プロジェクトは次のように非常に多岐 に亘っている。鮭の一生、火星探査の偽コマーシャル、デジタル作品集。 さらに、生徒たちは、仲間同士でやるクイズを作り、先生の方は、真面目 な試験問題を作ったりしている。

望み通りのオブジェクト -- Digital Chisel では、同時に複数のスク リーンでは作業できないが、スクリーンの切替えは簡単に行うことができ る。スクリーンには、テキスト、グラフィック、アニメーション、サウン ドを取り込むことができ、 Digital Chisel ではこれらを“オブジェクト” と呼んでいる。オブジェクトはどこにでもドラッグできるし、オブジェク ト同士が重なり合っても大丈夫だ。どのオブジェクトもパスに沿って動か したり、ぱらぱら漫画のようにすることができる。オブジェクトは Digital Chisel で作ることもできるが、ディスクから取ってきたり、オブジェクト 群を素早くブラウズできるようになっている Chisel ライブラリから呼び 出すこともできる。

Digital Chisel には、Aooga や Dinosaur Growl といったサウンドが 25 個ほど付いてくる。QuickTime ムービーや普通のクリップアート集が少々 と、使える楽しいボタンが 70 個ほど入ったライブラリも付いてくる。

私がまず最初にやったことは、スクリーンにテキストオブジェクトを描い て、その中に文字をタイプすることだった。テキストは、スタイル、フォ ント、サイズ、色いずれも極々普通のセットだった。子供向けのソフトの 中には、大きな泡やスパークといった特別なものが付いているのを見掛け たりするが、Chisel にはその手の妙なものはない。また、テキストは、 ポップアップするメモへのホットリンクにすることもできる。例えば、新 しい単語にホットリンクを張ってその言葉の意味を見ることができるよう にするとかだ。

テキストをチェックした後は、グラフィックをいじってみた。グラフィッ クはベクターベースの画像(この画像を構成しているのはシェイプという、 個々にサイズや色を変えることのできるものである)と、ユーザーが描い た通りそのままのところにあるピクセルの集まりのどちらでも描くことが できる。私の最も気に入ったのは、矢印や星のような前もって用意してあ るオブジェクトを張り込むことができるという点だ。反対にガッカリした のは、16 マス×16 マス分も色のあるカラーパレットだ。前に使った色が どれだったかとても覚えてられないのに、スポイトツール、カスタムパレッ トの類の記憶をたどるためのツールが付いていないのだ。

簡単なテキストやグラフィックだけではあき足らず、サウンドを追加して みた。 Digital Chisel は、サウンドをインポートする機能が付いている が、私はシンプルな録音用インターフェースを使って自分の声を録音して みた。(子供達はこの機能が大好きで、きっと自分たちの声を再生するこ とが気に入っているのだろうという話を先生方から聞いていた。)ユーザー がボタンをクリックしたときに流れる音や、新しいページが開かれたとき に自動的に流れる音を作ってみた。同じように、QuickTime ムービーを作っ たり、はめ込むこともできる。QuickTime ムービーを一フレームずつ作っ ていくのだが、前のフレームに戻って編集することができないので、失敗 は許されない。また、ムービーにサウンドを追加することもできない。

-- オブジェクトを幾つか設定した時点で、終わりにしてもいいし、 面白くなってきたぞと思ってそのまま続けてもいい。オブジェクトをダブ ルクリックすれば、パレットが現れるので、そのオブジェクトのあるとこ ろにマウスが来た時、またはオブジェクトのところでマウスボタンを押し た時、反対にオブジェクトのところでボタンを離した時に、どんな事が起 るかを設定できる。オブジェクトの色を変えたり、パスに沿って動かした り、音を鳴らしたり、喋ったり、CD やビデオディスクをスタートさせるス イッチの役目をしたりと色々なことができる。イベントは一つでもいいし、 複数(24 個まで)起るようにすることもできる。例えば、私のプロジェク ト( Adam とお父さんが庭の枯れ木をどうやって切り倒すかという話 [100 フィートもある枯れてしまったツガの木を切り倒すのに、チェーンソーを 持ち出して、我が家のテラスが崩壊しなかったどころか、被害をテラスの 手すり部分 2 フィートだけに食い止めたという、精巧かつ果敢な顛末を語 るものだ -Adam])では、一人が枯れ木を見に行き、“なんてこった”と言 うようにした。実際、すべてのオブジェクトがボタンになりうるのだ。

ボタンは他のスクリーンへのリンクにもなる。また、独自のナビゲーショ ンバーをデザインしてそれを使うようにするのは簡単であるし、ユーザー がボタンを使ってプロジェクト内の別のところへジャンプできるようにも できる(ナビゲーション用に独自の仕掛けを作りたくないという人は、デ フォルトのナビゲーションバーを使えば良い)。HTML に変換する場合は、 ボタンに URL へのリンクを張ることもできる。

スクリーンめくり -- マウス操作によって起るイベントをオブジェクト 毎にカスタマイズするだけでなく、新しいスクリーンが開いたときに何か が起るようにも設定できる。スクリーンにはページめくりの効果(ズーム して開いたり、ブラインド風に開いたりするなど)をつけることができる。 さらに、スクリーンが開くときにサウンドを鳴らしたりやムービーを動か したりもできる。

クイズ -- どのスクリーンもオンラインクイズのパーツになり得るし、 Digital Chisel には、能率的にクイズを作るためのテンプレートが付属し ている。(択一式や◯×式のような)決まった解答のあるテストの場合、 スクリーンに解答の情報を入れて置くことができ、テスト中生徒が正解を 出したかどうかをもとに、応答することができる。クイズを受ける生徒は 自分の名前を明示することができるし、そのクイズの結果をシンプルなデー タベースとして、Chisel プロジェクトに記録しておくこともできる。

Web へ -- Digital Chisel は、HTML への変換機能が加わり大きくステッ プアップした。プロジェクト全体を一度に変換することもできるし、その 中の一ページだけを変換することもできる。HTML 変換では、一スクリーン が Web の一ページに置き換えられ、ナビゲーションバーは適当なボタンに 変換される。ホットテキストリンクは、ページの下のほうにあるアンカー にリンクする。Digital Chisel は、オブジェクトを正しく配置するために テーブルを使用し、ピクセル単位でセル幅を特定する。また、フォントが Digital Chisel で見えていたのと同じように見えるようにするために、サ イズやカラーの属性を示す <FONT> タグを使用する。試験問題のあるペー ジは HTML には変換できない。

日頃私は、ピクセル単位のレイアウトには反対しているのだが( TidBITS-362 を参照のこと)、Chisel がピクセル依存の手法を用いてい ることが気にならないので自分でも驚いてしまった。Chisel 作家は、根か らスクリーンを意識したデザインをし、配慮の行き届いたスクリーンのサ イズに設定できるのだ。Digital Chisel では、パーツのことを“スクリー ン”とは呼ぶが“ページ”とは呼ばないし、そのスクリーンは横長に表示 される(画面はたいてい縦方向よりも横方向が長い)。ここのところが、 Digital Chisel が、気を引くために点滅させたりフレームを使ったりする 連中とは全く違う思想を持って Web にやって来ている由縁なのである。ま た、あまり世間に知られていない Digital Chisel Player ではなく、Web で Chisel のプレゼンテーションを行うことができるというのは素晴らしい。

HTML 変換には不満がある。オブジェクトがきちんと並ばないことがよく あったし、吐き出された HTML 文書のテーブルタグを使って作業をするの にはいらいらした。それに、ホットテキストリンクは、ページの下の部分 にリンクが張られるのではなく、新しいページなりウインドウなりを作っ てそこにリンクを張るべきだと思った。また、一 HTML 通の大人としては、 <FONT> タグを使うといったようなことの決定は自分で行いたいのだ。しか しながら、今回のバージョンでは、HTML 変換機能は、可能な限り使いやす いアドオンだということが大切なのであって、Digital Chisel の一番大切 な要素ではないのだと思う。この製品は子供達の ために作られた もの である。機能は揃っていないが、子供や初心者の大人にとっては素晴らし いツールだと販売する人達が豪語するような巷にあふれている標準以下の HTML 編集ツールとは違うのだ。子供向けの HTML プロダクトとしてどんな 機能を残しておくべきかという点に関し、Pierian Springs 社は今真剣に 取り組んでいるのだと思う。次回のバージョン 3.0 から、Web 関連の機能 がもっと充実するのだから。

まとめ -- 12 歳の子供にとってこのプログラムに足りないものは何かと いう評価を直接耳にすることはほとんどないが、テキスト用のスタイルシー トやスクリーンエレメントをまっすぐに並べるためのグリッドがあればと いうのが私の意見だ。(バックグラウンドに暫定的なグリッドを設定する ことはできる。PageMaker のマスターページのようにスクリーンはパック グラウンドを一つ持つことができるし、一つのバックグラウンドを複数の スクリーンで共用することもできる。)Claris 社の Home Page や Symantec 社の Visual Page を結構使っているので、Finder からドラッグ ドロップでオブジェクトをインポートすることができないのは寂しい。 それに、プロジェクトの全体像を見るすべも用意されていない。パレット はプロジェクトスクリーンを列挙してくれるし、スクリーンの順番を変え るのにドラッグ ドロップを使うことはできるが、私としては、プロジェ クトのサムネイルビューを見ることができ、そしてそのサムネイルビュー のスクリーンにオブジェクトをドラッグ ドロップする機能を完備しても らいたい。

こういった不満はあるものの、Chisel は超一流のプログラムであるという 印象を受けた。私の印象談などを聞いてくれた先生方は、Chisel が“子供 達にとって使いやすい”ソフトであるし、“思い付く限りのことができる” ものだなどのコメントをしてくれた。覚えやすくて視覚に訴えるインター フェースなので、気の利いたプレゼンテーションを行いたいという心意気 のある 16 歳以下の全ての人に強く推薦したいと思う。Chisel では、メ ニュー、パレット、コマンドの配置が完璧にまとまっていて、他ではあま りないような簡単で磨かれたセンスを備えている。だから、もっと機能を 追加できるようになっているインターフェースのものよりもこのプログラ ムが好きなのだ。

Pierian Spring 社のテクニカルサポートは素晴らしかった。彼らは、問題 解決のための提案を数多くしてくれただけでなく、今後ぶつかりそうな問 題を事前に回避させてもくれた。それに、私が話をした先生方は、こちら からサポートの話を持ち出す前に、サポートの人達を誉めていたのだ。

Pierian Springs 社によると、Chisel 動作のためには、アプリケーション RAM が 5 MB 以上ある 68040 ベースか PowerPC ベースの Macintoshと 256 色表示できるモニターがあることが望ましいとのことだ。また最低でも、 25 MHz で 68030 ベースの Mac、3 MB の RAM、System 7 のいずれかのバー ジョン、最低 12 インチで 256 色のモニタの動作環境を推奨している。さ らに、少なくとも 5 MB のハードディスクの空きスペースが必要となる。 Pierian Springs 社は、Digital Chisel 3.0 に着手しており(間もなく ベータ段階)、Windows 版の作成も行われている。

Digital Chisel の価格は、シングルユーザーの場合 109 ドル、スクール パックが 149 ドル、そのほかにも色々なサイトライセンスが用意されてい る。さらに、97 年 4 月 30 日まで、Strata 社と Pierian Spring 社は ジョイントバンドルを用意しいる。内容は、Vision 3D 4.0、Media Paint 1.2、VideoShop 3.0 を 2 つ、Digital Chisel 2.1.3、Vision 3D のチュー トリアル、T シャツで、通常価格は 379 ドル、学割価格が 239 ドルとなっ ている。

<http://www.netschool.com/oasis/news/hotdeal.html>


日本語版記:
TidBITS-J#368 の「Macworld Tokyo:カメラと Mac」記事内 で、“English Now!”の記述の中に「様々な合成音声で読まれていく」とい う表現がありました。これは原文中の "spoken in a variety of synthesized voices" という表現を日本語訳したものでしたが、開発元の株 式会社スリーエーシステムズより「本製品の音声は“合成音声”ではなく、 ネイティブの生の声を録音したもの」とのご指摘をいただきました。ここに 訂正いたします。

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