TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#381/26-May-97

表計算ソフトをお探しの読者は? Matt のペンになる今週号 Spreadsheet 2000 のわくわくさせるレビューをお見逃しなく。Spreadsheet 2000 は親 しみやすく、表計算ソフトの働きについて新たな収穫といえるできばえで ある。さらに今週号では最近開催された Apple 社の World Wide Developers Conference の詳細を報告、Newtonに対する Apple 社の計画、 最近 Global Village 社の見せた通信テクノロジー分野への電光石火の進 撃を詳しく取りあげる。

目次:

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今回の TidBITS のスポンサーは:


MailBITS/26-May-97

(翻訳:小川 浄 <HGB00351@niftyserve.or.jp>)

Apple、Newton を手放さず -- 先週、Apple 社は Newton グループを核 とする子会社を設立すると発表した。新会社はいまだ社名も CEO も決まっ ていないものの、「モバイルユーザーのコンピュータおよび通信ニーズ」 に焦点を絞ることになるだろう。つまり現時点では子会社には 2 つの製 品、MessagePad 2000 ( TidBITS-379 参照)と eMate 300(同 TidBITS-361 )が存在することになる。もっとも eMate については Apple 社が継続して教育市場向けにサポート、販売、マーケティングを行なう。 恐らく将来の同社の製品は、健康関連、販売自動化、フィールドサービス 産業などのいくつかの統合マーケットに焦点を合わせるようになろう。そ してモバイルユーザーのニーズに合致する新技術開発とそのライセンスに 励むことになるだろう。もし Apple 社が新会社の CEO に元 Apple 社 CEO、John Sculley 氏を検討しているなら皮肉な話である。経験豊かな Sculley 氏こそ Apple 在社中に Newton を擁護した本人なのである。 [ACE]

<http://product.info.apple.com/pr/press.releases/1997/q3/970522. pr.rel.newton.html>

TidBITS、CompuServe ZDNet/Mac から消えず -- ZDNet/Mac の Kevin Norris 氏は継続して TidBITS を ZDNnet/Mac Arts & Fun フォーラム(GO ZMC:ZMCARTS)の Electronic Pubs ライブラリ(#11)にアップロードする と述べている。氏はいまや当該フォーラムおよび ZDNnet のすべてが CompuServe の Computing Professionals パッケージ(GO CPRO)の一部な のだとも述べている。したがって読者がわれわれのメーリングリスト <tidbits-on@tidbits.com> に申し込んで電子メールによって配信を受ける かまたは同 URL の Web ページを訪れるよりも、CompuServe からダウン ロードする方を希望される場合、当該フォーラムをチェックしていただき たい。[ACE]

<http://www.tidbits.com/>


Global Village 社の PowerBook 向け 56K

by Mark H. Anbinder<mha@tidbits.com>
(翻訳:小川 浄 <HGB00351@niftyserve.or.jp>)

今週火曜日、Global Village Communication 社はラップトップユーザーに 向け 56Kbps 通信を可能にする PC カードモデムと、イーサネットとモデ ムを一体化したカードからなる新製品ラインを発表する。新カードは Rockwell 社と Lucent 社によって開発された K56flex テクノロジーをサ ポート、7 月中旬には顧客の手に届くと思われる。

<http://www.globalvillage.com/>

新 PC カードは当初の仕様でシステム 7.5 以降を搭載した PowerBook 190、5300-、1400- シリーズをサポートすることになっている。Global Village 社では 7 月に PowerBook 3400- および 2400- シリーズラップ トップ用のアップデートソフトウェアを無料で配布する計画である。さら に同社は Windows 95 ラップトップ向けのモデムおよびイーサネット/モデ ムのコンボによって、両マーケットを狙ったペア製品ラインをリリースす る形になる。同社が Macintosh および Windows 用に同じ内容の製品を同 時期に提供するのは前例がない。どちらのカードにも知名度の高い GlobalFax ソフトウェアによるファクス機能がある。

U.S. Robotics 社の X2 56 Kbps テクノロジーとしのぎをけずる K56flex テクノロジーを現時点で採用する意味をたずねられた Global Village 社 は、インターネットサービスプロバイダ業界が K56flex のダイアルアップ ユーザーに対してより広くサポートを提供しているとし、また Cisco 社や Shiva 社のような会社が牛耳っているリモートアクセスサーバのマーケッ トも同様、と答えている。新モデムは柔軟なフラッシュ ROM と、ソフト ウェアでアップデート可能な DSP テクノロジーを備えており、同社では将 来どちらの 56 Kbps テクノロジーが標準になったとしても、そちらにアッ プデートできるとしている。(なお Global Village 社の Platinum 28.8 Kbps モデム所有者はアップデーターによる 33.6 Kbps への無料アップデー トが可能である)

<http://www.globalvillage.com/support/software.html>

新 56K カードは既存の Global Village 社製 PC カード製品と同じ外部ア ダプタ(Clyde という名で知られる)を用いる。これによって電話線と 10Base-T イーサネットへの接続が可能になる。Clyde は特定のデジタル電 話システムで高いライン電圧がかかった際にサージからカードを守る役目 もはたす。新カードは既存の Global Village 社製 PC カード製品用とし て発売されたセルラーアダプターケーブルをサポートする。Global Village 社ではモデムのみが 269 ドル、モデム/イーサネットのコンボカードで 379 ドルと市場価格を見積もっている。

    Global Village Communication -- 800/736-4821 -- 408/523-1000
408/523-2407 (fax) -- <sales@globalvillage.com>

Yellow Box、Blue Box、Rhapsody そして WWDC

by Geoff Duncan <geoff@tidbits.com>
(翻訳:西村 尚 <hisashin@st.rim.or.jp>)
(  :米谷 仁志 <comet@kk.iij4u.or.jp>)

毎年、Apple 社は Worldwide Developers Conference (WWDC) を開催する。 真摯な Macintosh プログラマーたちのためのぜいたくな懇親会である。 Macworld Expo のようなトレードショーとは違って、WWDC では何百ものベ ンダー、手提げ袋を抱えてボタン集めする観衆が群がるわけでもないし、 売り子と頭にセットするマイクロフォンとおびただしい整髪用ジェルでいっ ぱいのステージもない。そのかわり、WWDC はプログラマーたちにとって Apple の今後のテクノロジーと方向性を知り、質問を投げかけ、Apple に 自分たちが何を考えているか知らせるチャンスなのだ。デベロッパーは Apple にとってもっとも厳しい観衆である。彼らは口約束で動かされるこ とはほとんどないし、常に主張を納得させる何か確実なものを要求しよう とする。ゆえに WWDC は Apple にして見れば決して安易なものではないの である。

さらに、この一年 Apple にとってあまりよい年ではない。Apple の財政問 題と NeXT の買収により、今年の WWDC に対しては事態を観測しようとす る気持ちが強く、期待感は低かった。誰も Apple が何を出してくるのか知 らなかったし、Apple の最近のレイオフと諸技術の凍結、さらに NeXT 重 役の優位で彼らの手に Macintosh の運命が握られているように思われたこ とで、多くのデベロッパーの忠誠心が揺らいでいた。

Rhapsody と Yellow Box -- WWDC に来た誰もが見聞きしたいと思ったこ との一つは Rhapsody、つまり NeXT から獲得した技術をベースの一つとす る Apple 社の次期 OS に関することであった。Apple は期待に応え、多く の観衆を Yellow Box のデモで驚嘆させた。この OpenStep から生まれた 環境は Rhapsody 上で舞台の中央を占めることになる。Yellow Box は PowerPC と Intel の両ハードウェア上で展示され、その中には Intel 用 のシューティングゲーム、Quake のデモ(バックグラウンドでムービーを 再生しながら Yellow Box の Display PostScript を書いていた)があり、 さらに PowerPC 用の QuickDraw 3D と Stone Design 社がたった数日で OpenStep から移植した市販アプリケーションのデモが加わった。Apple が証明したかったのは一つ。彼らは単なる口約束ではなく、実動するコー ドを持っているということだった。Unix のコマンドラインも見受けられた (観衆の中から不満を表すひそひそ声も聞こえた)が、Rhapsody の Unified リリースでは見えなくすることを強調した。これはユーザが望ん だ場合にのみ入手可能となる。Yellow Box のインターフェースは開発途上 であると説明されたが、すでに Mac にいくらか似ているところもあった。

Yellow Box は OpenStep から生まれ、Display PostScript や Unicode 変 換といった NeXT 技術を含んでいるが、Apple 社は Macintosh 技術をいく つか付け加える計画である。これには QuickTime Media Layer(QTML)、 QuickTime VR、QuickDraw 3D、ColorSync、QuickDraw GX タイポグラ フィー、そして V-Twin テキストインデックス処理エンジン(Apple e.g. のベース)などが含まれる。これが意味するものを語るには時期尚早だが、 Apple はこんなことも言っている。Yellow Box 用に作られたアプリケー ションは何らかのスクリプト機能を持ち、この Yellow Box のスクリプト 機能は AppleScript にできるだけ近づくことになるだろうと。また、 Yellow Box には喧伝されてきた NeXT の WebObjects FrameWorks と Java も含まれる。

Apple は Intel チップベースのコンピュータ版の Phapsody を出荷するこ とを確約したが、しかし、(これは恐らく WWDC のための大発表だろうが) 一方で Apple は Mac OS 版の Yellow Box を出荷することも発表したのだ。

このことを理解するためには、Yellow Box を Rhapsody 大オペレーティン グシステムのコンポーネントとしてではなく、先代の OpenStep と同様の アプリケーション環境として考えなければならない。Yellow Box の Intel 版と Mac 版で、理論的に Yellow Box はクロスプラットフォームの開発の ための第一の選択肢となるはずだ。それはデベロッパーが Rhapsody (PowerPC と Intel 両方)と Mac OS、Windows NT、Windows 95 上で動作 するアプリケーションを提供できるからであり、すべて NeXT の注目度の 高いオブジェクト指向の開発環境から生まれたツールを使うことになる。 Apple 社によれば、Yellow Box 用に書かれたアプリケーションは簡単に他 のプラットフォーム用に再コンパイルできたり、またさらに複数のプラッ トフォームで実行可能なコードを含めた単一の巨大なファイルとして出荷 することすら簡単なのだという。(Aladdin 社の Leonard Rosentho 氏は こういったプログラムのことを“肥満バイナリ”と呼んだ。)このアイデ アを印象づけるために、Apple は Yellow Box を Windows の最上位で動作 させる技術の無償ライセンスも発表した。これで Windows 用の Yellow Box アプリケーションを開発することで、デベロッパーが余分なコストを支払 うことはない。

また、Mac OS 版の Yellow Box はあるデベロッパーにとっては興味をそそ るえさでもある。理論上は、これで現在の Mac OS(または Mac OS 8 や Allegro といった将来のバージョン)を使っているユーザが Rhapsoday に 切り替えることなく Yellow Box アプリケーションを使えるようになるは ずだ。スケジュールはなにも示されず、Yellow Box のどのサブセットが Mac OS でサポートされるのかという重大な疑問がある(スレッド処理は重 要課題として言及されたが、バランスのとれたマルチプロセッシングは無 理だろう)が、Mac OS 上で動作可能なアプリケーションがあるということ は、移行の不安を軽減し、Yellow Box アプリケーションの市場を拡大する ことに寄与するかもしれない。

Rhapsody と Blue Box -- また Apple 社は、Mac OS 8 の現状でのベー タ版が Rhapsody の Blue Box 上で動くさまを示し、デベロッパーが Rhapsody の Blue Box 上で Mac OS 対応のプログラムを実際に動かすこと ができるラボを主催していた。Apple 社によれば、WWDC でテストされた約 500 のプログラムの内、Blue Box に関わるエラーが原因でうまく動かな かったものはわずか 5 つであった。

Blue Box は、基本的に PowerPC のために設計された Rhapsody の下で動 く Yellow Box アプリケーションである。(Intel 対応の Rhapsody は Blue Box を含まない仕様になるだろう。)Blue Box は、Mac OS を変更を 加えずに動かすため、Mac の ROM イメージを用いる。したがってユーザー は Mac OS 対応アプリケーションやシステム拡張を普段通りに使用するこ とができる。それも Copland が提供するはずだった以上の互換性を確保し ている。さらに Blue Box は、Rhapsody システム上で動くことによって、 機能的に強化された仮想記憶や改良されたインターフェースといった利 点を受け継ぐことになる。たとえ Mac 用アプリケーションがメモリー保護 の恩恵には与れないとしても、Blue Box のクラッシュが Rhapsody の使用 を不可能にすることはない。しかしながら、Blue Box は一種のアプリケー ションとして自分のウィンドウの中を動くことになるので、(その中で動 く [訳者補足])Mac 用アプリケーションは、今日それが Mac の上で動い ているのと違って、Yellow Box 用アプリケーションと同じ画面の上を動く のではない。Blue Box アプリケーションは、Yellow Box プログラムとアッ プル・イベントやクリップボードといった以前からある仕組みで連絡し合 うことはできる。しかし Mac OS 用アプリケーションと Yellow Box との 間には厳然とした線が引かれているのである。Blue Box は、フルスクリー ン・モードでも動くだろうが、私の使ってみた印象では、何か虫眼鏡を通 して古い Mac を見ているかのようになる。

Java -- WWDC での基調講演の中で、新しくソフトウエア・エンジニアリ ング担当・副社長に就任した Avie Tevanian 氏は Apple 社にとって Java が最大のチャンスであると述べていた。Apple 社に関わるデベロッパーた ちの内、果たして何人がこの見解に同意するかは定かではないが、何はと もあれ Apple 社も、他のソフトウエア会社と同様に、Java について大々 的に意見を発表できるようになったということは示せたようだ。つまり Apple 社は、Sun、Netscape、そして IBM によって開発中の Java Foundation Classes サポートを表明し、また同時に Java が、Yellow Box の API に全面的にアクセスできるようになること、そしてそれによって Objective C 言語や他のプログラミング言語に頼らなくとも Yellow Box アプリケーションが書けると発表したのである。Apple 社が「100% Pure Java」へのコミットメントを強調しているが、それと同時に、Yellow Box へのアクセスによってデベロッパーが 本来の Java をも凌ぐベストの Java アプリケーションを展開できるという点を強調している。そしてそれはあ たかも Microsoft がデベロッパーに向かって、Foundation Classes for Java 基づくアプリケーションと競争していくのだと述べるのと同じように 聞こえるのである。

Rhapsody に関するスケジュール-- 現在のところ、Rhapsody に関するス ケジュールは次のようになっている。まずデベロッパー・リリースが 1997 年の半ばになる(Blue Box は含まれず、おそらく Power Mac 8500/8600 のみをサポートすることになる)。そして Premiere リリースが 1997 年 末か 1998 年のはじめになり、Blue Box が PowerPC 上である程度使用可 能になる。そして最終的な Unified リリースが 1998 年の半ばに予定さ れ、PowerPC 上の Blue Box が完全に装備される。Apple 社は、Rhapsody のクライエント・サーバー版の出荷も計画しており、すでに Rhapsody の Unified リリースが現行の PowerPC ベースの Mac とその互換機で動くこ とになるだろうと述べている。

混乱-- Rhapsody が他の OS と互角に戦える能力をもっていること自体 は疑いない。私が話したデベロッパーやカンファレンスの参加者たちは一 様に、Apple 社の Rhapsody への取り組みが意外と進展していることに驚 いていた。もっともApple 社がかの野心的なスケジュールを守ってそれを 出荷できるのか、という点では意見が極端に分かれていた。また何人かの デベロッパーにとって、Rhapsody はもう遅すぎるものだ。つまり長い間彼 らが必要としていたのは、成熟したクロス・プラットフォームでのソフト ウェア開発ツールであって、今さら一年後にはそれが利用できるという約 束なんか必要ではなかったのである。他方、デベロッパーの中には Apple 社の計画に刺激を受け、非常に活発になっているものもいる。その中には、 ローレベル・ツールやユーティリティーのメーカーもある。彼らにとって、 Rhapsody はとほうもない技術的な挑戦であろうに。

しかし、NeXT 社と Apple 社の間に横たわる狭間もいまだ明白である。 Steve Jobs は、自分の WWDC でのチャット団欒のスペースにおいて多くの Mac デベロッパーを侮辱し、傷つけることをやらかしていた。また WWDC の会合において、NeXT 社の元社員から随時発せられるコメントは、この 2 つの会社の違いを際だたせることになった。次の言い方は行きすぎた一 般化ではある。しかし、NeXT 社の顧客というのは、ハイエンドで、太い通 信線と豊富な CPU の能力を駆使する傾向があるのに対して、Apple 社の顧 客は、自分のマシンへの執着が強く、一台の CD-ROM ドライブを高校の LocalTalk ネットワークにつないで共有しよう、などということを考えが ちな傾向がある。Apple 社のソフトウエア・エンジニアと Rhapsody のそ れとの間に健康的な関係が築かれるかどうか、という点は見守っていかな くてはなるまい。

詳細と WWDC からの発表については、Apple 社の Developer World のサイ トをチェックしてもらいたい。WWDC の Web ページは 97 年 5 月 31 日ま で参照できる。また John Norstad 氏も、彼が WWDC で学んだことをもと にした Rhapsody について、優れた報告を入れてきてくれた。

<http://devworld.apple.com/>
<http://charlotte.acns.nwu.edu/jln/wwdc97.html>


我が最愛のスプレッドシート

by Matt Neuburg <matt@tidbits.com>
(翻訳:尾高 里華子 <odaka@iprolink.ch>)

Apple と Macintosh への愛想も尽き果てたと感じていたのだが、Casady & Greene 社から発売された Spreadsheet 2000 に出会ったお陰で気分が高 揚した。Spreadsheet 2000 は、情報(この場合は、計算を伴う数字情報) をしまう/引き出すといったことを強力、柔軟かつ楽しく行うことのでき るプログラムである。TidBITS を長年ご愛読下さっている方はご存じかと 思うが、これはまさに私が Macintosh に望んでいることなのだ。まだ Mac に独創性のあるインターフェースが可能だということを、この気楽に使え るインターフェースが証明してくれている。これは習得し易いソフトであ る。マニュアルの中の使い方教室にでている指示に従って学んでいくと、 そこで扱われている物事や仕組に対する理解が深まる。そうなれば後は直 感だけで操作できるようになるのだ。この製品はもともと Emergent Behavior 社の Steve Wilson 氏が作り出したもので、小さなデベロッパー の存在価値を再認識させてくれた。また、Spreadsheet 2000 が私のお気に 入りの Mac 開発環境である Prograph CPX ( TidBITS-312 を参照)で作 られているということが、何よりも嬉しくてたまらない。

<http://www.casadyg.com/C&G/Welcome.html>

S2K の略称で公式に呼ばれる Spreadsheet 2000 は、Let's Keep It Simple Spreadsheet の 2.0 版である。こちらの公式略称は、Let's KISS、LKISS またはただ単に KISS だった。

データの流れに身をまかせ -- おおざっぱに言うと、スプレッドシート とは数字を扱う場である。その中には、他の数字いかんで計算結果の変わ る流動的なものもある。家計簿を例にとると、ある月の食費の欄の数字を 変更するなり新しく入れるなりすると、その月の食費計、その月の支出総 計、その日までの年間総支出金額が自動的に変更されるのだ。

大抵のスプレッドシートプログラムでは、この類の処理は目に触れないよ うになっている式を通して行われる。空欄のセルが碁盤に並んだ大きな表 を使い、そのひとマス毎に数字や(他のセルに入っているものを基に計算 を行うための)式を入れていく。だが、式の入っているセルに表示される ものは、そこに入っている式によって導き出された答えだけなのである。 そして、その答えをさらに別の式などで利用していく、といった具合だ。 このためユーザーは式を書くための言語を覚えなければならず、これが結 構大変なのだ。さらに由々しきことは、スプレッドシートは究明しにくい 上に壊されてしまい易いのだ。つまり、通常式が見えなくなっているため に(式が見えている時でも、その結び付きを突き止めるのは難しい)、誤っ てセルに変更を加えたりして式が正しい答えを出せなくなってしまったり、 式そのものを書き換えてしまったりするのだ。

一方 Spreadsheet 2000 では、こういったことは起らない。まず最初に、 何も入っていないウインドウがあり、そこにパレットから必要なものをド ラッグ & ドロップして置いていく。ドラッグすれば、置かれているものの 位置を動かすことができる。まるでドローソフトのようである。ウインド ウに置かれる主なものは、四角いセルの表と、小さな四角に“+”、“*”、 “avg”などの名前が付いている演算子である。表から演算子へ、または演 算子から別の表(“結果用”の表)へとクリックしてその繋がりを付ける ための線を引く。表の中のセル内に数字を入力していくのだが、結果用の 表には入力できない(結果用の表は、自動的に入力用表とは違う色にな る)。従って、計算結果はひと目でそれと分かるし、自動的に保護される のだ。表から演算子を通って結果用の表に至るまでの物理的なデータの流 れが画面に表示されるので、一つ一つの計算の構造が手に取るように見え るのだ。

表から演算子そして表へという繋がりは、いくらでも続けていくことがで きる。一つの表から複数の演算子に繋がることもあるし、一つの演算子が 複数のデータを必要とする場合もある。これらの繋がりが入り乱れて画面 の上でスパゲッティのようにもつれ合うのを避けるために、繋がりの一部 を選択して“クランチ(凝縮)”すれば、その部分が、一つのカスタム演 算子になる。そのカスタム演算子をダブルクリックすれば、編集用ウイン ドウが開いて、表や演算子がクランチ前と同じ繋がったままの状態で現れ る。この編集ウインドウの中でも、中にあるものの整理、データの更新、 計算の変更、その中の繋がりの一部をまたさらにクランチすることができ る。クランチされたカスタム演算子に分かり易い名前を付けて上手に整理 すれば、すっきりとした理解し易い目に見える計算体系が出来上がるのだ。 しかし、詳細を見たい時には、カスタム演算子の編集用ウインドウを見た いものにたどり着くまでどんどんと開いていけばよいのだ。

Spreadsheet 2000 では、スッキリとした状態に保つための対策をもう一つ 講じている。これは、レポートと呼ばれているが、実はデータのある一部 を表示するもう一つの方法なのでビューと呼ぶ方がふさわしいように思う。 “Master”と呼ばれるメインのウインドウが、指定した要素だけを含んだ ウインドウに変身するのだ。一般的な例は、演算子や繋いでいる線が全く ない 2 〜 3 の必要な表だけを表示するものであろう。一つのドキュメン トに名前付きのレポートを多数設定することができ、それぞれのレポート 名が Report メニューに表示される。ただ、一時には一つのレポートまた は Master しか見ることができないようになっており、これが私が “ビュー”と呼ぶもう一つの由縁でもある。レポートの使い方は人それぞ れお好みのままである。レポートからデータを入力することもできるので、 色々なデータと係わりのある計算の場合でも、入力フォームを複数のレポー トで共有したりなどできる。また、このレポートは計算の総合的な結果を まとめておくのにも適している。

前にパレットからドラッグ & ドロップしてスプレッドシートに要素を加え ていくと説明したが、さらに、いずれ必要になるかもしれない要素が入っ た自分のパレットを作っておくこともできるのだ(これはライブラリとも 呼ばれている)。情報を棒グラフにするクランチしたお手製の計算のよう な複雑なものから、よく使う情報の入った表や月の名前入りのラベルが付 いたセルが 12 個並んでいる表のような簡単なものまで、どんなものでも いいのだ。

スプレッドシートでは、表を自動的に単純だが効果的なグラフにすること もできる。文字列を入力するためのノートもあり、コメントや説明を書い ておくのに便利だ。それに、グラフィックがついており、当然のことなが らお好みのままにアレンジできるようになっている。

驚異の表 -- 先に述べた通り、表を通してデータの入力と表示すべてを 行う。データは表のセルの中に直接入力していくが、もちろん、他の表や 別のアプリケーションの中にあるデータをカット & ペーストしてコピーす ることもできるし、表の中に入っているデータをタブで区切ったテキスト ファイルとしてエクスポートすることもできる。

表はセルの並びによって、一マスだけのもの、セルが横一列に並んだもの、 縦一列に並んだもの、縦横にマスが広がっているものがあるのだが、表の サイズを変えるだけで、タイプ、マス数とも自在に変更できる。すぺての 表の上や右横にラベルを付けることができ、そこに行や列が何を表してい るかを書いておくことができる。結果用の表の方は、自分でラベルを付け て記入していってもいいし、また、入力用の表のラベルを参照して結果用 の表のラベルを作るように演算子で指定することもできる。

数字データの表示形式は、変更したい表の上にフォーマット用アイコンを ドラッグ & ドロップすればよい。様々な基本的なフォーマット用アイコン は画面の一番上のツールバーに置かれているし、フォーマット用のパレッ トを引き出して小数点の位置のような細かい指定をすることもできる。文 字表示も同じような仕組になっているが、Text メニューから指定すること もできる。S2K は、フォーマットが一貫性を保つように考えられており、 数字用のフォーマットは表全体または指定してある列に、文字列用フォー マットは表全体かそれぞれのラベル全体に適用されるようになっており、 個々のセルごとにフォーマットを指定することはできない。

演算子が表を見て判断し反応するということが、Spreadsheet 2000 の優れ た機能の一つであろう。“+”の演算子を例にとると、結果用の表の形次第 で結果の出し方が変わってくるのだ。仮に、横 5 列、縦 4 行の数字の入っ た表が“+”の演算子に繋がっているとしよう。その演算子に繋がっている 結果用の表が一マスしかないものだったら、そのセルには入力用のセル 20 個に入っているデータの総計が表示される。セルが横一列に並んでいる結 果用の表に繋ぐと、自動的に 横 5 列、縦 1 行のサイズの表になり、入力 用の表に入っているものの各列の合計が表示される。また、セルが縦一列 に並んだ結果用の表に繋ぐと、自動的に 横 1 列、縦 4 行のサイズの表に なり、入力用の表の各行の合計が表示される。

複数の表を処理するタイプの演算子の場合は、基になるデータが入ってい る表の形に応じて反応するようになっている。2 つの表の和を出す“A+B” の演算子を例にとってみよう。基になるデータの表が 2 つとも縦一列の表 の場合、縦一列の結果出力用の表にそれぞれ同じ行のセルの数の和を表示 してくれる。一マスだけの表と縦一列の表の和を出すように繋ぐと、一マ スだけの表に入っている数と各行のセルに入っている数の和がそれぞれ表 示される。縦一列の表と横一列の表を繋ぐと、それぞれの縦横の数の和が すべて表示されるといった具合だ。

言葉にするとものすごく難解なことのように聞こえるのだが、実際に触れ てみるとすぐに理解できる直感的な事だということが何よりも素晴らしい。 S2K を使うと、自分がやっていること納得しながら作業を進めることがで きる、(たいてい自分が分かっている以上に)自分の考えを理解すること ができる。

スプレッドシートを彩る -- (算術関数、三角関数、指数関数、四捨五 入のような)基本的な演算子、簡単な代数方程式の合成関数として利用で きる“form”演算子、(平均や標準偏差のような)基本的な統計関数が初 めから付属されている。表に係わる演算子としては、セルの数、列数、行 数を出すものや、複数の表を一つにまとめたり、反対にバラバラにするも の、コピーするもの、列と行をひっくり返すもの、表をソートするもの、 様々な条件を指定して表の一部を抜き出すものがある。論理用の演算子を 使うと、論理演算を行ったり、条件分岐式を作成することもできる。ルー プ演算子は、自動的に決まった条件で反復計算を行ったり、(ある時点で の預金残高のような)累積タイプの計算結果を出すこともできる。

演算子は大抵のニーズに応えることができるようにうまく作られている。 新しい関数を作りたいときの秘訣としては、代数処理言語とは機能の異な るデータフローの見本に慣れることだ。皆さんのために、あらかじめ多数 のカスタム演算子集が付属しているので、それをうまく利用して基本的な 演算子と組み合わせて新たなものを作ることができるし、また非常に参考 にもなる。その中には、単位換算用の演算子や物理定数の演算子のような 単純なものから、複素数の演算、多乗根、素数のチェック、フィボナッチ 数列、擬似乱数を作りだすもの、線形回帰、および数々の財務管理のため の演算子まである。Spreadsheet 2000 のデータフロー言語は、(帰納関数 は付いていないものの)極めてパワフルであるということを十分に実証し ている。

ひな型などの形式で見本となる Solution が数多く付いている。その範囲 は、収支合わせと減価償却から、資金計画と車のリース、フーリエの正弦 波加法、三角形に係わる解、シンプソンの法則によって求めた定積分の近 似値、成績表、野球の統計に至るまで多岐に渡り Spreadsheet 2000 の実 力を見せつけてくれている。Casady & Greene 社の Web サイトを訪れる と、ほかのユーザーが作成したひな型を見つけることができるだろう。

<http://www.casadyg.com/C&G/Products/spreadsheet_2000/Solutions/ solutions.html>

残念ながらマニュアルには、(もともと付属している演算子以外の)この あたりの説明が抜けているが、それ以外は、非常に良く書かれている。マ ニュアルのほとんどがざっくばらんな実地体験式の使い方教室と一般的な 注意で、後ろに参照用の情報が付いている。一度使い方教室の指示に従っ て使ってみれば、簡単に習得できるプログラムなので、これだけ揃ってい れば十分だろう。また、なかなか良いバルーンヘルプと Apple ガイドも付 いている。

曲芸まがいのドラッグ術 -- この Spreadsheet 2000 に対する不満をあ えて挙げるとしたら、それは、あまりにもマウス操作に頼った設計になっ ていることだ。私は誰にもひけをとらないほどドラッグ & ドロップが大好 きだ(それに S2K に付いているちょっとしたサウンド効果のお陰で楽しん ではいるのだ)が、能力以上のマウスさばきが要求される上に、隋所でマ ウスを使用しなければならず我慢の限界を超えるほどである。

S2K の作者である Steve Wilson 氏に、この件を含めていくつかの提案を 出した。たとえば、クランチされた演算子の編集ウインドウが自分のサイ ズや位置を次に開く時まで覚えておくとか、表の大きさを簡単に一定にす るためのダイアログとかだ。彼はユーザーから寄せられる建設的な意見を 敏感かつ寛容に対応してくれているので、S2K の今後のバージョンに期待 が持てる。

わずかばかりのマイナス面を述べ終わったところで、Spreadsheet 2000 は とにかく素晴らしいプログラムであるという話に戻るとしよう。一枚岩の ように堅固な製品で(私もまだ打ち砕くに至っていない)、直感的かつ適 切に動いてくれるのだ。そして、素直で簡潔で Mac らしさを備えた希有の 逸材で、歴史に名を残すことになるかもしれない。パワフルでかつ基本的 な機能を果たし、しかも習得し易すく、使っていて満足感が味わえる上に 楽しい。Mac を持つ者全てが取得すべき、日々欠かすことのできないスプ レッドシートであると思う。

機を逃すな -- Casady & Greene 社の Web サイトには、S2K の動作して いるところを見ることのできる申し分のない出来栄えの QuickTime ムー ビー(200K)が用意されている。68K Mac 用および PowerPC Mac 用両方の デモ版(2 MB 強)も置いてある。

<http://www.casadyg.com/C&G/Products/spreadsheet_2000/S2Kmov.html>

調べてみたところでは Spreadsheet 2000 の実売価格は 60 〜 75 ドルぐ らいだが、その他のスプレッドシートプログラムを所有していれば 30 ド ルの払い戻しが受けられる。LKISS からの アップグレードは 20 ドル(今 年になって購入した人は無償)である。

<http://www.casadyg.com/C&G/Products/spreadsheet_2000/description.html>

DealBITS -- Cyberian Outpost が Spreadsheet 2000 を下記 URL にて TidBITS 読者向けに通常価格より 5 ドル割り引いた特別価格の 54.95 ド ルで販売してくれる。

<http://www.tidbits.com/products/spreadsheet-2000.html>


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