TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#392/11-Aug-97

今週号は先週の Macworld Expo のニュースが目白押しだ。基調講演で誰も が驚愕した Apple と Microsoft 提携のニュース、TidBITS 代表として Expo に行った Jeff Carlson の印象、多数の Power Mac を含む Apple の 新ハードウェアについての Tonya のレポート、それに Adam が Macworld/MacUser の合併についての詳細と見解をお届けする。

目次:

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MailBITS/11-Aug-97

(翻訳:尾高 修一 <odaka@iprolink.ch>)

Aladdin のニュース -- Aladdin Systems 社は FlashBack 1.0 と Private File 1.0 をリリースした。69.95 ドルの FlashBack(旧称 Rev、 TidBITS-362 参照)1.0 は、追跡を指定した文書を以前に保存した状態に 戻すことができるものだ。99.95 ドルの Private File 1.0 はインターネッ ト経由で送信するファイルに 128 ビットの暗号化を施す。インターフェー スはドラッグ & ドロップか、Private File が一部のメールプログラムに 追加することのできる Encrypt コマンドを使う。Private File は 2 ユー ザーのライセンスが付属し、Macintosh、Windows 95、および Windows NT システムで使用可能だ。Aladdin 社が Private File の基本機能を StuffIt Expander に追加してくれることも期待できるだろう。

Aladdin Systems 408/761-6200 -- 408/761-6206 -- <sales@aladdinsys.com> [TJE]

<http://www.aladdinsys.com/flashback/>
<http://www.aladdinsys.com/privatefile/>

HTML ツール続報 -- 7 回に及ぶ私の HTML 連載は先週号で完結したもの の、HTML ファンは GoLive Systems 社が CyberStudio 2.0 をリリースし たことは見逃せないだろう。これは無償でダウンロードできるアップグレー ドで(メディア付きだと 19 ドル)、多くの小さな改良のほか、スペル チェッカや強化されたフレームサポートなどの目立った改良が加えられて いる。また、Bare Bones Software 社は、改善された HTML テーブルサポー ト、Mac OS 8 のコンテクストメニューのサポート、それに強化されたバッ クアップ機能を加えた BBEdit 4.5 をリリースした。BBEdit を 97 年 6 月 1 日以降に購入したユーザーにはアップグレードは無料だが、BBEdit 2.5 以降からのアップグレードは 39 ドルだ。 [TJE]

<http://www.golive.com/one/press/releases/cs2.080397.html>
<http://www.barebones.com/45pr.html>


Apple、新ハードウェアを投入

by Tonya Engst <tonya@tidbits.com>
(翻訳:尾高 修一 <odaka@iprolink.ch>)

先週の Macworld Expo には Apple Computer 社からの新製品発表がたっぷ りとあしらわれていた。筆頭は新 Power Mac トリオ、8600/300、 9600/300、それに 9600/350 で、この 3 機種はそれぞれ 3,600 ドル、 4,500 ドル、5,300 ドルで 8 月末には出荷される(もう一機種、8600/250 が米国外の一部地域では販売されるらしい)。この 3 機種は従来機種から 大幅なスピードアップが図られ、PowerPC 604e、1 MB のレベル 2 キャッ シュ、それに 8 MB の VRAM を搭載した高性能の IXMICRO Twin Turbo 128M8 グラフィックカードを搭載している。Apple の新機種の方がクロッ クスピードは速いが、性能的には Umax 社の SuperMac S190 や Power Computing 社の PowerTower Pro と競り合うことになるだろう(この 2 機 種はいずれも 250 MHz の PowerPC 604e を搭載している)。

<http://product.info.apple.com/pr/press.releases/1997/q4/ 970805.pr.rel.pm9600.html>
<http://www.supermac.com/marketing/s910.html>
<http://www.powercc.com/>

また、Apple は新たに Workgroup Server 9650/350 を発表した。PowerPC 604e、1 MB のレベル 2 キャッシュ、それに 2 基の 4 GB ハードディスク が搭載され、信頼性またはパフォーマンスの向上のためのミラーリング/ ストライピングが可能だ。

<http://product.info.apple.com/productinfo/datasheets/ss/ wgserver9650-350.html>

ハイエンドのプリンタを探している人は、2,500 ドルの LaserWriter 8500 を検討すると良いだろう。PostScript レベル 3、A3 サイズいっぱいの印 刷に対応し、9 月初めには出荷する。その他のスぺックとしては、20 ペー ジ/分のスピード、600 dpi の解像度、650 枚の用紙トレイがある。イン ターフェースも LocalTalk、パラレル、ツイストペア、AAUI ポートを備え ており、両面印刷などのペーパーハンドリングを可能にする拡張オプショ ンも用意されている。

<http://product.info.apple.com/productinfo/datasheets/im/ laserwriter8500.html>

最後に、Apple は画面上の色の調整に関心があるデザイナーを特に意識し た 17 インチモニタを 2 機種発表した。

<http://product.info.apple.com/pr/press.releases/1997/q4/970805.pr.rel.displays.html>


Microsoft が Jobs のナンバー 1

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:尾高 修一 <odaka@iprolink.ch>)

コンピュータ業界には退屈など存在しないが、よそ見をしていた人たちも 先週の Apple 社と Microsoft 社には思わず振り向いたはずだ。先週 Boston で開催された Macworld Expo で、Steve Jobs 氏と Microsoft の CEO、Bill Gates 氏は広範な技術提携を発表した。その主な内容は以下の 通りだ。

<http://product.info.apple.com/pr/press.releases/1997/q4/970806.pr.rel.microsoft.html>

現実主義 -- まず最初に、この発表はすべて純粋な PR 戦略で、それ以 上のものではない。お金は悪くないが、Microsoft にとって 1 億 5 千万 ドルは小銭にしか過ぎないし、一方の Apple の財政は Microsoft とは比 較にならないものの、それでも約 10 億ドルの現金を持っているわけだか ら、1 億 5 千万ドルは長い目で見ればはたいした金額ではない。

だからといって PR 作戦が無意味だというわけではない。というのは、こ れこそがここ数ヶ月 Apple に最も必要なカンフル剤だったからだ。多くの 人は前 CEO の Gil Amelio 氏は Apple をしっかりした経営基盤に戻す立 派な仕事をしたと思っているし、Mac OS 8 の好調な売り上げ(Apple は 97 年 8 月 8 日までに 120 万部、予想の 4 倍が売れたとしている)は、 今でも Apple のための出費を惜しまないユーザーベースがあることを示し ている。

Amelio 氏の努力にもかかわらず、メディアが報道する Apple 像は極めて ネガティブなままだった。確かに Macintosh の売り上げは落ち込んだが、 メディアが伝える Macintosh 売り上げダウンのニュースが Mac は買うべ きではないという世評を醸成するという悪循環を生んでいたのは間違いな い。つまり、メディアの報道はニュースを伝えるというより、ニュースを 作っていたのだ。

Microsoft からの後押しの発表は悪循環を断ち切り、ポジティブな報道を 生み出すことになり、それが Apple の経営状態に関する世評を好転させる ことになるだろう。この発表は Apple の株価を 6 ポイント押し上げると いう効果があったし、多数の証券アナリストが Apple 株の評価を上げたこ とは、これまた循環作用に支配されやすい株式市場で、短期的には Apple の株価に良い影響が出ることになるかもしれない。

Apple 側の都合 -- なぜ Apple がこの発表を行いたかったかは明らか だ。 PR 効果とともに、Office と Internet Explorer に関するコミット メントが大きな理由だったのは間違いない。Apple はMicrosoft Office な しで繁栄することができると考えるほど馬鹿ではない。好きか嫌いかにか かわらず、今日まで Macintosh が生き延びている大きな理由に Office の 大黒柱である Word と Excel の存在がある。Wordと Excel なくしては、 互換性が至上命題のビジネス市場で Mac が生き延びることはできなかった だろう。Microsoft が Office for Macintosh で毎年何億ドルもの売り上 げを上げていることが何よりもこのことを物語っている。

Microsoft の都合 -- 一方、Microsoft の動機はそれほど明快ではない。 しかし、他のどんな企業もそうであるように、Microsoft も収支に付き動 かされていることを忘れてはならないだろう。Microsoft が無駄遣いをし ているとは思っていないことは推測できる。この会社は MSN のために年間 何億ドルもの赤字を出しながらも、いずれはインターネットサービスから 大きな報酬が返ってくると考えているのだ。とはいえ、以下が私の考える Microsoft が Apple を応援することにした理由だ。

Mac 信者 -- 間違いなく多くの Macintosh ユーザーが、Apple が悪魔に 魂を売ってしまったと感じているが、私はこれは過剰反応だと思う。1 億 5 千万ドルの投資を別とすれば(しかも議決権はなし)、今回の発表には たいして新しい要素はない。Microsoft は既に Mac 版の Office 98 と Internet Explorer 4.0 の開発を進めていたのだし、Apple も既に Mac OS 8 に Internet Explorer をバンドルしていたのだ。これは単にメディアと ウォール街の信頼を取り戻すための戦略で、これが成功すれば Mac にとっ て良いことだ。私たちが願っているのは Mac にとって良いことがあること だけなのだ。

このほかにも Mac サポーターを安心させる要素がある。まず、Bill Gates 氏と Microsoft は必ずしも同じ意見を持っているわけではないということ だ。Bill はだいぶ前から個人的には Mac を支持しており、恐らくこのこ とが Microsoft 社内の他の勢力が Mac 向けの開発を抹殺していない最大 の理由だろう。妙に聞こえるかもしれないが、Bill と Microsoft 社内の 比較的少数の Mac サポーターが、今まで Mac を支えてきた最も重要な要 因だったとも言える。Microsoft 社内で Mac サポートが上昇気流に乗って いるということが悪いはずはない。

次に、Steve Jobs 氏は Apple の理事会を一新した。ほとんどの人には理 事の名前など何の意味もないだろうから、ここで細かく紹介しても面白く ないだろう。ただ、新理事には Pixar 社の CEO Jobs 氏(数か月前に 2,200 万ドル相当の Apple 株を売ったといわれる)、Intuit 社の社長 Bill Campbell 氏(長年 Apple および Claris 社の幹部だった)、元 IBM 社および Chrysler 社の CFO Jerry York 氏(両社の再建に指導的役割を 果たしたといわれる)、それに Oracle 社の社長 Larry Ellison 氏がい る。Ellison 氏は Apple が何をすべきかという意見を公にしており、その 意見が既存の Mac コミュニティどころかパーソナルコンピュータ業界全体 に対する無知を露呈しているため、やや無気味な存在だ。一方、Ellison 氏は最も顕著な反 Microsoft 主義者の一人なので、理事会での彼の動向は 常に一種のワイルドカードとなるだろう。

<http://product.info.apple.com/pr/press.releases/1997/q4/ 970806.pr.rel.board.html>


MacUser と Macworld が統合

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:尾高 修一 <odaka@iprolink.ch>)

ちょっと Web で検索してみればわかることだが、「敵の敵は味方だ」と 言った人は多い。私は今まではこのテーゼが真理だとは言い切れなかった が、Macintosh コミュニティはつい最近その実例を目撃したようだ。

統合の時 -- 先週、ライバル出版王国である International Data Group (IDG)社と Ziff-Davis 社は、Mac Publications という名の新会社を設 立したと発表した。Mac Publications 社は Macintosh の世界の三大誌で ある Macworld、MacUser、それに MacWEEK を傘下に収めることになる。こ れは実に驚くべきニュースだ。というのは、両社は強烈な敵対意識を燃や していたからだ。

<http://www.macworld.com/>
<http://www.macuser.com/>
<http://www.macweek.com/>

さらに驚くべきニュースは、Macworld と MacUser が Macworld という名 の一つの月刊誌に合体するというものだ。新 Macworld は 625,000 の発行 部数を誇ることになる。MacWEEK は従来通り発行部数 100,000 部の週刊 ニュース誌として存続する。新設された Mac Publications 社から最初に 発行される MacWEEK は 9 月に登場し、Macworld は 11 月号が合体第一号 となる。ということは、MacUser の名前で発行されるのは 1997 年 10 月 号が最後となる。

新会社は現在 Macworld の社長兼 CEO である Colin Crawford 氏が率い、 IDG と Ziff 双方から同数の理事で構成される理事会に対して責任を持つ。 MacWEEK のスタッフはほぼそのまま Mac Publications に移るようだが、 Macworld と MacUser のスタッフは新 Macworld の仕事をもらえるか、IDG と Ziff が発行している別の雑誌に移ることになるだろう。

<http://www.macworld.com/daily/daily.1494.html>
<http://www5.zdnet.com/zdnn/content/zdnn/0801/zdnn0008.html>

この合併に関する記事では触れられていなかったが、MacUser の定期購読 は新 Macworld に引き継がれることになるだろう(そうなることを期待す る)。

この意味するところ -- この合併が昨今の Apple と Macintosh バッシ ングの結果であることは疑う余地がない。この 3 誌はいずれもここ数年の 間広告収入の落ち込みに悩まされており、Adscope 社によれば MacUser の 広告ページは 1996 年に 24 % 増大し、MacWEEK は 4 % 増大、一方の Macworld は 11 % 減少した。さらに、定期購読者数の伸び率も鈍ってい た。こういった事実に Macworld と MacUser の激烈な競争を加味すると、 どうしようもない経営状態に陥りかねない。そこで IDG と Ziff は呉越同 舟でそれぞれの Mac 雑誌をほぼ確実な死から救うことにしたのだ。

Macworld と MacUser の苦戦がインターネットと関係があるかどうか気に なるところだ。TidBITS のようなインターネット雑誌が Macworld や MacUser から読者を奪ったとは考えにくい(TidBITS は 1990 年から存在 しているので決して新しい現象ではない)が、海外の読者から寄せられる 意見から、インターネットから同じ情報が得られるのに、米国の雑誌は遅 すぎて高価すぎることがうかがえる。海外の購読者が両誌の発行部数に占 める割合はわずかかもしれないが、数年前までは Macworld や MacUser し か満たすことのできなかったニュースや情報の需要をインターネットが満 たしているということは確実だ。

この合併が Apple にとって悪いニュースと見られるのは間違いない。それ 自体はマスメディアのお追従式報道からすれば別に新しいことではない。 「苦悩のコンピュータメーカー Apple Computer に追い打ち。Cupertino では朝のうちの小雨が午後には本格的な雨に。」という具合だ。この合併 そのものが Macintosh にとって良いニュースだとは思わないが、Mac 雑誌 が廃刊してしまうよりは良いだろう。

気になる点の一つに、フリーのライターたちに与える影響がある。MacUser の評論ページが無くなると、Macintosh について書くフリーのライターた ちが活躍できる舞台が大幅に少なくなるだろう(TidBITS への寄稿はいつ でも歓迎だが、世界的知名度以外にお返しできるものはない)。多くの場 合、プロとして Macintosh に関する文章を書いている人たちこそが最も詳 しく、熱心で説得力のある Macintosh サポーターなのだ。メジャーな Mac 雑誌を奪い去ることにより、こういった人達が別の仕事を探さざるを得な くなる。幸い、MacAddict や(最近発行部数を伸ばしている) MacTech、 それにNeTProfessional は存続するが、MacUser とともに失われるであろ うページを出版することはできないだろうし、仮にできたとしても、比較 的小規模な出版物なため大手の雑誌ほどは原稿料が払えないだろう。

<http://www.macaddict.com/>
<http://www.mactech.com/>
<http://www.netprolive.com/>

Macworld と MacUser がどのようにして最初の 11 月号とその後に続く号 を取りまとめていくか興味深いところだ。両誌は色々な面でよく似ていた ので、新しい雑誌を作る上でどのカラムを残してどのカラムを捨てるかと いう判断は難しいものになるだろう。新しい雑誌がとってかわられる 2 誌 以上に元気で有用なものになることを願ってやまない。


Boston Macworld: 控え目、そこそこ、課題多し

by Jeff Carlson <jeffc@tidbits.com>
(翻訳:尾高 里華子 <odaka@iprolink.ch>)
(翻訳:尾高 修一 <odaka@iprolink.ch>)

Macworld Expo 初日の夜、私が滞在先の Boston のホテルでくつろいでい た時、地元のテレビ局が、“ パソコンおたくの栄光”という少々ばかげた パソコン界の歴史のドキュメンタリー番組を放送していた。

Steve Jobs 氏が Apple 社の宿命のライバルに関する質問に答えて、 「Microsoft 社には品というものがない。しかもちょっとではなく、もの すごく品がないのだ」と言っていた。ソフトウェアの巨人との大幅提携と いう驚きの基調講演報告を行うにあたって、Jobs 氏の気持ちは「Microsoft 社には品というものがないかもしれないが、金と力はある。」という風に 変わらざるをえなかったようだ。(Apple 社と Microsoft 社の取引に関し ての詳しくは Adam の記事をご覧頂きたい。)

衝撃の基調講演 -- 今年 1 月に行われた Macworld では Gil Amelio 氏 の有名人続出で、うけを狙ったショー的な基調講演を辛抱して聞いたが、 今回 Jobs 氏が目立ったことを行わないのに驚いた。黒のズボンに白のシャ ツそして黒のカジュアルな上着に身を包んだ Jobs 氏は 簡単な Apple 社 の“現状報告”を行った。Jobs 氏がコンピュータ界のスターであることを 明かしていたのは聴衆の歓声と叫び声だけだった。

講演は「Apple 社は間違ったことを実に見事に実行している。」という言 葉から始まった。Apple 社が今までの理事会のメンバーをお払い箱にした ニュースは約 1,500 人の聴衆を驚かせた。おまけに、Oracle 社の CEO で ある Larry Ellison 氏が理事会に加わったことを Jobs 氏が告げた時に は、野次が飛んだ。Jobs 氏によると、Apple が 新 CEO を選びだし次第、 理事長が発表になるらしい。

長期にわたる指導者不在の後、Apple 社は中心となるマーケットにより重 点をおいていくであろう。つまり、教育と Jobs 氏が「独創的なもの」と よんでいるものにである。たとえば、教育関係で Apple は年間約 250 億 ドルの収益を上げているし、広告業界、グラフィックデザイン関係、出版 やマルチメディア方面で使用されているコンピュータの内 80 % を Mac が 占めているのだ。さらに Jobs 氏は、Apple が自社の強みである Apple ブ ランド、Mac OS、Apple のユーザを大いに利用していく、と述べた後、 「私は今まで Apple がユーザーを大切にしていなかったと思う」と付け加 えた。この業界での大切なパートナーの必要性を示唆して、Microsoft 社 との提携を報告したあと、ゲストである Microsoft 社の CEO Bill Gates の姿が衛星中継で映し出された。(当初 Gates 氏は基調講演に姿を現わす ことになっていたのだが、交渉が当日の朝 3 時まで長引いたために、飛行 機で駆けつける余裕がなかったのだ。)基調講演は Apple のロゴの真下に “見方を変えよう”という新しいスローガンが掲げられて、予定より 5 分 早く終了した。

基調講演に対する反応 -- 基調講演の中で Microsoft 社との提携の発表 があった時の会場の不快な反応には本当に驚いた。Microsoft 社が Apple 社の株に 1.5 億ドルの投資をしたニュースだけではなく(もっとも Jobs 氏がその株が議決権のないものだと告げた時は歓声が上がった)、Internet Explorer がデフォルトのブラウザとして Mac OS に付属する話があった時 も同様の反応が起った。

すべてが“正か悪か”という考え方は Apple を救うよりも逆に Apple を ダメにしてしまうと思っているので、私はここ一年ぐらいは「悪の帝国」 説を信奉していないのだ。さらに告白すると、私は Internet Explorer の ユーザーである。小さく、速く、必要メモリの少ない製品であれば、どこ が作製したものであろうと構わないのだ。大切なのは利用者である私のニー ズを一番満たしてくれる製品だということだ。

野次は飛んだものの、私が会場で話をした人達の大半が Microsoft 社の投 資を喜んでいた。Apple 社の資本に活力を与えるだけでなく、提携により 業界における Apple の位置も高まると思われるからだ。Microsoft 社が Apple のことを気に入ったのなら、多分他の人も右に倣えで Appleのこと を気に入るべきなのだ。

恐ろしき Mac OS ライセンス契約 -- Microsoft 社のニュース以外では、 Mac OS のライセンスにかかわる Power Computing 社と Apple の手厳しい 態度に話題が集中していた。Mac OS 8 およびそれ以降のものに対するライ センス契約をかわす手続きが長引き辛い事態になっており、現在までに核 心部分をカバーした契約はまだ成立していない。Apple が全ての OS ライ センスを断念するつもりがあるらしいという噂もあるが、Apple がクロー ンメーカを自分の言いなりになるように強気な態度を見せているに過ぎな いのだというのが私の考えである。

Power Computing 社は前回までの Expo で話題になる術を心得て、ありと あらゆる機会を利用してライセンスにかかわる彼らの気持ちを伝えようと していた。一番声を大にして訴えていたのは、Power Computing 社の社長 兼最高業務執行責任者である Joel Kocher 氏だ。基調講演に続いて行われ たベンダーが自社製品を紹介するセッションで、Kocher 氏が PowerPC 750 を採用した新製品 Power Tower Pro G3/275 の宣伝に割いた時間はほんの 数分だけで、それ以外はずっと Apple をこきおろしていた。PPC 750 を搭 載した Mac OS のラップトップ型クローンの試作品を掲げて、「これはあ なたがたの手には入らない。」と言った。

彼の指摘はウソではないのだが、私には泣き言ではないにしてもほとんど 同類のものに思えた。私が話をした人達の印象は、Power 社は攻撃的な態 度に出てかえって自分の首を絞めているというものや、Power 社が幼い子 供のようなイメージができたというものさえあった。しかしながら、Power 社のやり方が話題の種やブランド意識を確保するという指摘もあった。 Motorola 社や UMAX 社のような他のクローンメーカーは会期中異常に思え るほどにだんまりを決めこんでいた。

政治よりもショー -- 今回が私にとって最初の Boston での Expo だっ たので、過去の例と比較することはできない。多くの人が去年よりショー の規模が小さくなったと語り、Macromedia 社や Iomega 社といった大物の 不在を指摘していた。だが同時に、この Macworld は一部の人が予想した ようなゴーストタウンではなかった。フロアは混雑していたし、参加者の 意気はおおむね上がっていた。

今年のショーの面白いミニ・トレンドとして、業界の有名人がフロアに現 れていたことが挙げられる。Be 社の CEO、Jean-Louis Gassee 氏は Be の ブースでぶらぶらして客とお喋りをしたり質問に答えていた。Power Computing 社の CEO、Steve Khang 氏は方々で目撃された。私が聞いた話 には、Mac OS 8 の製品開発責任者や Claris 社の社長が客と話をしていた というものもあった。いずれの場合も客は相手が誰であるかに気が付く前 に製品に対する意見をぶちまけたようだ。こういった触れ合いは大いに称 讃に値する。

ハードウエア -- ハードウェア部門では、Power、Motorola、それに UMAX からのスピーディな新機種がほとんどのブースで見受けられた。Motorola のマシンは実は CHRP(Common Hardware Reference Platform)マシンで、 私の個人的な知り合いである一人のベンダーによると、このマシンはぶっ とびの速さらしい。

<http://www.powercc.com/>
<http://www.mot.com/GSS/MCG/starmax/products.html>
<http://www.umax.com/>

人を振り向かせて驚嘆させるほどクールな製品のナンバー 1 は、 Mitsubishi 社の Leonardo モニタだろう。この巨大な 40 インチのガスプ ラズマディスプレイは良好なクォリティと 160 度の入視角を誇りながら、 たった 4.4 インチしか奥行きがない。あまりにも多くの人のよだれでカー ペットが少し湿っていたほどだ。

<http://www.mitsubishi-display.com/>

私個人のお気に入りで、話を聞くとだれもが「おお」と感嘆したのは Canon 社の STARS システムだった。この Specialized Transfer Art Replication System はコンピュータと特殊なプレスを組み合わせたもので、画像を作成 してガラスや陶器、木、プラスチックなどの表面に転写するものだ。Canon は陶器のタイルに転写した例を見せ、このシステムを使えばだれでもキッ チンや風呂場をカスタムデザインで改装できることを見せていた。

<http://www.usa.canon.com/>

Hitachi 社の MPEG Cam(仕様については TidBITS-391 を参照)も面白 かった。これは Hitachi のブースだけでなく、Apple のエリアでも多数の マシンに接続されていた。Hitachi は TidBITS の新スポンサーなので、私 はこの実物を見るのを楽しみにしていたのだ。そして、このユニットが フィールドでの使用を考慮して作られていることに気がついた。強固な作 りで、黒いゴムの緩衝材があしらってある。

<http://www.mpegcam.net/>

ソフトウェア -- Sienna Software 社の Starry Night Deluxe も関心の 的だった。これは天文ソフトウェアで、1,900 万の天体データベース、3D レンダリングされた惑星、新しい彗星や小惑星を追加するための Orbit Editor が自慢だ。

<http://www.siennasoft.com/>

Developer Greenhouse の中をうろつきながら、J*Streams 社の WiredWrite のデモを見た。このアプリケーションは Java を利用して電子文書を出版 するものだ。オリジナルを再現しようとする Adobe 社の Acrobat PDF 技 術とは異なり、WiredWrite は電子文書が本来作られるべき方法で作るの だ。スタイル情報を保持し、フォント、サイズ、行間のスペースなどは変 更できるのだが、このフォーマッティングは読者側のソフトウェアを束縛 しない。もっとも優秀なのは WiredWrite の圧縮率と Java 出力だ。テキ スト、グラフィック、図表が入った 190 ページの FrameMaker ファイルが わずか 400 K 以下になった。出力されるファイルは Java アプレットなの で、Java ビュワーや Java 対応の Web ブラウザでプラットフォームを問 わず読むことができる。

<http://www.jstream.com/>

最後に -- 全体として、今回の Macworld Expo には確実な手応えが感じ られた。多くの製品は何かの目的を達成することや生産性の向上、または コンピュータの利用をより簡単にする機能を提供していた。ショーには一 種の成熟さえ感じられた。Macintosh はクールな道具なのだが、極めてパ ワフルで機能的でもあることに人々が気づきだしている。もちろん、私た ちはそんなことは最初からわかっていたのだが。


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