論説がお望みなら、論説をお届けしよう! Apple と Macintosh はクローン のライセンスをめぐる噂と憶測の渦の中だ。Apple と クローンメーカーの Power Computing の舌戦をものともせず、Adam がこの問題の核心に迫る。 また、ドイツ語版 TidBITS メーリングリストのニュース、Macintosh メ ディア市場に対する読者の意見をお届けするとともに、ソフトウェアはシ ンプルであるべきだということを再確認する。
目次:
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APS Technologies -- 800/443-4199 -- <sales@apstech.com>
M*Power Mac OS 互換機と極上ストレージのメーカー。
APS の製品情報と価格表は: <http://www.apstech.com/>
Northwest Nexus -- 800/539-3505 -- <http://www.nwnexus.com/>
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(翻訳:尾高 修一 <odaka@iprolink.ch>)
肝に命じよ! Conflict Catcher に悪いところはあるだろうかという私の 疑問( TidBITS-393 )に対し、L. Carl Pedersen 氏 <l.carl.pedersen@dartmouth.edu> は、Conflict Catcher のようなツール が便利かつ必要であることは非常に悪いことだという意見を寄せてくれた。 技術は私たちの生活を楽にしてくれるべきなのであり、技術のおかげで以 前よりも色々なことができるようになっているのは確かだが(たとえば TidBITS のようなものは安価で強力なコンピュータ、ソフトウェア、通信 技術なくしては考えられない)、メンテナンス、トラブルシューティング、 それにアップグレードにあまりにも時間を取られ過ぎる。ハードウェア、 ソフトウェア、通信システムを設計する者は常にシンプルでエレガントな ものを心がけるべきだ。 [ACE]
by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:尾高 修一 <odaka@iprolink.ch>)
Sprechen Sie Deutsch? もしそうなら、新たにできたドイツ語版の TidBITS メーリングリストを購読すると良いだろう。Walter J. Ferstl 氏が主宰す るドイツ語版は、1995 年 12 月に発足し、TidBITS の翻訳版としては最古 参の部類に入る。今回私たちはこのメーリングリストを自分達で管理する ことにした。
<http://www.carrier.co.at/res/mac/tidbits/>
ドイツ語版 TidBITS メーリングリストを購読するには、 <tidbits-de-on@tidbits.com> にメールを送っていただきたい。もうおわ かりだろうが、購読を中止するには(アドレスの変更には旧アドレスでの 購読を中止して新アドレスで購読を申し込む) <tidbits-de-off@tidbits.com> へメールを送っていただくことになる。
旧機種万歳 -- メインの TidBITS メーリングリスト(約 5 万人の購読 者がいる)は StarNine 社の ListSTAR に頼っているが、もっと小さな (現在約 1,000 人)のドイツ語版 TidBITS や他の言語版には Fog City 社の LetterRip 2.0 を使うことにした。マシンは私たちが持っている中で 最も古い SE/30 で 20 MB の RAM と 105 MB のハードディスクを搭載して いる。LetterRip とともに、この SE/30 はNow Software 社の Now Up-to-Date と Now Contact サーバ、Men & Mice 社の QuickDNS Pro、 Maxum 社の PageSentry Pro、それに Apple の LaserWriter Bridge が走っ ている。これほどのご老体としては立派なものだ。
<http://www.starnine.com/liststar/liststar.html>
<http://www.fogcity.com/>
<http://www.nowsoft.com/>
<http://www.menandmice.com/>
<http://www.maxum.com/PageSentry/>
<ftp://ftp.info.apple.com/Apple.Support.Area/Apple.Software.Updates/US/
Macintosh/Networking-Communications/Other_N-C/LT_and_LW_Bridge_2.1.sea.hqx>
LetterRip を使うことにしたのは、メインの TidBITS リストに使っている ListSTAR/FileMaker Pro の組み合わせがローカルなリスト管理と配布に適 しているからだ。翻訳チームが毎週同じ日に翻訳を完了するとは限らない ので、私たちやデータベースとの連携を気にせずに配布が行えるようにし た方が良いと考えたのだ。また、LetterRip でリストのセットアップする のは実に簡単で、ものの 2 分程度しかかからないということも理由の一つ だった。ListSTAR が難しいわけではないが、ListSTAR の強力な柔軟性が 逆に新しいリストのセットアップ、テスト、微調整をやや大がかりにして しまうのだ。
海外ミラーサイト -- ドイツ語版 TidBITS の Web サイトはオーストリ アにあり、ヨーロッパの読者がアクセスしやすくなっている。アメリカ大 陸以外の読者の方は、英語を含めた各国語版の TidBITS はシアトルにある メインの Web サーバ( Performa 6400 を利用)以外に、世界各地のミラー サイトにあることを憶えておいていただきたい。ヨーロッパ、アジアまた はオーストラリアの方で私たちの Web サーバのパフォーマンスが良くない 場合には、ミラーサイトを使う方が良いかもしれない(翻訳版のミラーサ イトのリストは、各国語版のホームページをご覧頂きたい)。オーストリ アの非営利団体、Webmedia が英国で最近の号をミラーリングしてくれてい るし、SVMMac はフランスのパリで完全なミラーサイトを運営してくれてい る。さらに、University of Hong Kong の Social Sciences Research Centre はアジアの読者のためにミラーサイトをホストしてくれているし、 Sensei Consulting 社はオーストラリアでバックナンバーをアーカイブし ている。
<http://www.tidbits.com/about/translations.html>
<http://www.tidbits.com/about/sites.html>
by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:尾高 修一 <odaka@iprolink.ch>)
話のつきない話題とはこのことだ。多くの人が Macintosh メディアと、そ れが私たちの世界に与える影響について強い関心を寄せているのは間違い ない。今回を最後にしばらくこのトピックはお休みとしたいが、その前に 以下のコメントをご紹介しよう。
私たちは Macworld と MacUser の統合は米国のみの話だということを報告 したが、Graeme Challis 氏 <g.challis@bendigo.latrobe.edu.au> はオー ストラリアの Macworld と MacUser も独自に統合を決めたことを教えてく れた。海外の Macworld と MacUser は米国よりも発行部数が少ないことが 多く、広告収入に関して同じような問題を抱えているだろうから、これは 驚くには値しないだろう。現時点では確かな情報は入っていないが、他の 雑誌も統合へと動くことも予想できる。
Adrian <kat12@dial.pipex.com> は以下の意見を寄せてくれた。
「私は英国に住んでいて、米国の MacUser を買っています(というか、 買っていたというべきでしょうか)。このほかに英国の雑誌も買いますが、 情報の豊富さでは米国の雑誌にはかないません。それでも英国の雑誌を買 うのは、すばらしい CD-ROM が付いてくるからです。インターネットに新 しいソフトウェアが現れると、私が主に買っている英国の Mac 雑誌 (MacFormat 誌)が付録の CD-ROM に収録してくれるのです。私は過去 2 年分の雑誌に付いてきた CD-ROM をストックしています。欲しいと思うソ フトウェアがあると、インターネットから 15 分かけてダウンロードする よりも CD で検索してみます。[北米以外の国では、ダウンロードは意外と 大変なことがあるのだ -Adam] MacFormat のおかげで、0.5 テラバイトほ どのデータが私を待っているのです。新 Macworld もこのあたりをお手本 にすると良いかもしれません。」
<http://www.futurenet.com/macweb/>
もう少しプロ向けの雑誌ほど有名ではないかもしれないが、何人かの読者 が MacHome Journal は初心者の Macintosh ユーザー向けのニュースや情 報を提供していると指摘してくれた。
MacTech Magazine の Neil Ticktin 氏 <publisher@mactech.com> は、 ほとんどの雑誌が広告料から収益を上げているという私の意見は多くの場 合では当っているかもしれないが、顕著な例外もあることを指摘してくれ た。
「確かに世の中の多くの出版物には当てはまりますが、(記事の中で名前 を出した例外を除いては)ほとんどすべての雑誌がこうであると読めるよ うな書き方になってしまっていました。このため、私は既に読者から『広 告で儲けているのに、なぜ購読料が高いんだ』という質問を受けています。 たとえば MacTech の場合は、購読料、広告料、それに CD-ROM という 3 つの主要な収入源があります。店頭販売はほとんどやる意味がないし、広 告収入も主要な財源というにはほど遠いものです。」
広告と通販 -- 広告を買っていないメーカーの製品は通販業者が取り扱っ てくれないという Roy Leban 氏のコメントには、カタログに載っていない 製品を購入した人たちから反対意見が寄せられた。また、Developer Depot などの一部の通販業者は広告の有無にかかわらずすべての該当する製品 (Developer Depot の場合は開発ツール)を取り扱っている。さらに、 Steve Chambers 氏 <schamber@prius.jnj.com> はこのように述べた。
「他の通販業者は知りませんが、私自身の経験から MacWarehouse はカタ ログに載らない膨大な数の製品を取り扱っていることを知っています(私 は同社のテクニカルサポート部門に 4 年半勤務しました)。しかし、Roy が語っていることはマーケティング部門が考えるところの需要がないため、 ある製品を取り扱わないことです。言い換えると、マーケティング担当者 がある製品が売れないと判断したら、広告なしでは取り扱いません。私が 言うのだから間違いありませんが、この広告料は実に高いのです!」
他の業界でも、新しい市場に参入しようとすると同じ問題に直面する。棚 のスペースをめぐる競争だ。小さな商店街の店頭だろうが、巨大倉庫の中 だろうが関係ない。棚面積の所有者はメーカーの生死を握っているという 事実があるだけだ。もし PC 市場のように小売店がより大きなシェアを握っ ていたとしても、Roy は同じ問題に遭遇する。棚面積がないので、小企業 がこの世界で前進するのは難しいのだ。
Roy Leban 氏 <royleban@akimbo.com> は反論する:
「通販業者が他の会社をどう扱っているかは知りませんが、広告を買わな くても喜んで私たちの製品を取り扱おうと言ってくれたところは一つもあ りませんでした。広告を買ってさえも、どの会社も在庫などしてくれませ ん。広告を買ったら前金を要求してきます。製品を買っても、支払は 60 日か 90 日後で、いつでも返品して全額払い戻しを受けるということになっ ていました。」
「この問題では他の会社の人たちとも話をしたことがあります。ある会社 の社長は、毎月違う製品の広告を載せ、常に何らかの広告が載っているよ うにしたという人がいました。こうするとこの会社の製品を在庫しておい てくれるのです。一か月でも広告を止めると、全部の製品が返品されてき ます。」
いずれにせよ、このようなことは通販業界が広告収入を吸い上げてしまっ たことが出版業界に大打撃を与えたことから派生していることだ。おかげ で損をしているのは消費者なのだ。私たちが受け取るのは、より良い雑誌 ではなく毎月 2 〜 3 種類のカタログなのだ。私に言わせれば、これは良 い取り引きとは言い難い。
by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:尾高 里華子 <odaka@iprolink.ch>)
(翻訳:松岡 文昭 <mtokfmak@mxa.meshnet.or.jp>)
(翻訳:亀岡 孝仁 <tkameoka@fujikura.co.jp>)
Macintosh 本作家の元祖であり、Macworld 誌に記事を書いたりしている私 の友人 Cary Lu 氏は、1986 年の Macworld Expo San Francisco で Apple 社が Macintosh オペレーティング・システムのライセンスを与えるように すべきだと彼が提案したところ、キツい野次が返ってきたという話をよく する。今日に及んで彼の提案に対する反応がどれほど変ったことか ! ク ローンメーカーに対する Mac OS ライセンス供与に係わるうわさ(とほん の少しの真実)がインターネットの中を飛び交っている様には全く驚いた。 そこで、現在分かっていることと、それが意味することを説明してみるこ とにする。
経緯 -- 1994 年 9 月、Apple は他社メーカーと Macintosh オペレー ティングシステムのライセンス契約を結ぶことになる旨の発表を行った。 一番最初にライセンスを受けたのは、1994 年の 12 月に契約した Power Computing 社だった。Apple の Mac OS ライセンス白書には、“Mac OS プ ラットフォームの拡大に貢献し、全 Mac OS コミュニティが恩恵に浴すこ とができ、徐々に増えていくユーザーのニーズに応えるための一役を担う” ことが Apple が Mac OS のライセンス供与を行う目的であると書いてある。
この白書には“さらに明確に言えば、[Mac OS のライセンス供与により] 価格、性能、有用性の点でハードウェアの選択の幅が広がるだろう。また、 この 個性的な Mac OS が新たなユーザー層に広がっていき、次第に増えて いくニーズに応えるべく革新的で最新のものを絶えず開発できるようにな るだろう”とも書かれている。
[Mac OS のライセンス供与に関するページは長い間改訂されておらず、こ れが現在のごたごたの原因にもなっている。この文章が近く抹消されるこ とになっても驚かないだろう。似たような記述が 1996 年の Apple の財務 報告書にもあり、こちらは公式に残されるのだ。]
<http://www.apple.com/licensing/strategy.html>
<http://www.apple.com/investor/96report/96financialresults.pdf>
要するに、Apple は自分ができなかった Mac OS 市場の拡大をクローンメー カーに任せ、自社の市場戦略でカバーできていない部分を補ってもらいた かったのだ。たとえば、Apple は教育分野への Mac 販売は良好だったが、 法律や不動産方面のような隙間市場向けの販売はあまり芳しくなかった。 同様に、大企業や政府への販売も成功とは言えない。Apple の狙いは、ク ローンメーカーが未開市場の狭間を埋め、Apple の業務枠外の(機器構成 を各自であつらえるような)部分を引き受けてくれることにあった。
Power Computing 社が Mac クローンの第一号を送り出して以来、Apple の 狙い通りにいったものもあったのだが、クローンのライセンスはその他の 多くの問題を引き起こした。たとえば、Power Computing 社や TidBITS の スポンサーである APS をはじめとしたクローンメーカーの中には、消費者 が PC のクローン界ではあたりまえになっている自分で機器構成を組むと いうことを実現させてくれているところもある。この点はよいのだが、 Apple はクローンメーカーが Apple の売上を横取りしようとは思ってもい なかったので、Power Computing 社製品が Apple の主要な市場と消費者層 の一部をターゲットにしていることが報じられると、Apple はものすごい 勢いで怒ったのだ。
何がライセンスされたのか -- 状況を分析する前に、一体何が本当に問 題になっているのかを先ず見ていかなければなるまい。Apple は現在クロー ンメーカーと Mac OS 7.6 のライセンス契約を結んでいる。Apple の前 CEO である Gil Amelio 氏の発言によると、クローンメーカーは Mac クローン 製造のために Apple からハードウェアのライセンスも受けなければならな いので、OS のライセンス料は非常に安くしているということだ。これは、 Apple のハードウェアが独自のチップを使用するように設計されており、 クローンメーカーは業界標準の部品でマシンが製造できなくなっているか らである。このため Mac クローンメーカー各社は、Mac OS とハードウェ アの一部の両方に出費があったのだ。Apple は Mac のクローン市場を活性 化させたかったので、これらライセンス料をあまり高くしなかったことは 十分に有り得る。
しかしながら、当時とは変わってしまったことがいくつかあるのだ。まず 第一に、ライセンス契約は Mac OS 7.x に対して結ばれており、Mac OS 8 に対しては有効でない。つまり、1997 年頃に OS 8 がリリースされた時 点で、Mac OS のライセンスは再契約しなおさなければならないようになっ ていたのだ。しかしここで、1994 年当時 Mac OS 8 と言えば悲運の Copland オペレーティングシステムを指し、これが 1996 年末に NeXT 社 から買い取った OpenStep オペレーティングシステムをもとにした Rhapsody のために葬り去られたものだということを思い出していただきた い。このライセンス契約が、現在の Mac OS 8 にもあてはまるとみなすべ きか否かといったことが議論の的になっているのだ。つまり、OS 8 はメ ジャーアップデートが施された Mac OS 7.x の後継版なのか、それとも Copland で約束されていたような全く新しく作られたものなのかというこ とが問題なのだ。
次に、Macintosh ハードウェアの特殊性を取り除くことを目的として、 Apple、IBM、Motorola の 3 社は CHRP(Common Hardware Reference Platform)として知られている PowerPC Platform を作り出した。CHRP は、OS を作製する人が新しいプラットフォームごとにOS の調整を行わな くても済むように、ハードウェアメーカーが複数のオペレーティングシス テムを稼動できるシステムを作ることができるようになっている。しかし、 IBM 社と Microsoft 社は CHRP 用の OS/2 や Windows NT から徐々に手を 引いており、事実上現時点では CHRP マシンはメーカーが Apple からハー ドウェアのライセンスを受けずに Mac OS を稼動させることぐらいしかで きなくなっているのだ。その結果、元々ライセンスされていたもの(Mac OS および Apple のハードウェア)を思い出していただければ、クローン メーカーが CHRP マシンを作れば、Mac OS のライセンスだけを受ければよ くなることがお分かりになるだろう。
[繰り返しになるが、CHRP に関するページは非常に古く、Apple が新たに 登場するクローンライセンスの決定事項に対する中傷に利用される可能性 のある情報を削除することにしたら、その存在さえも長くはあるまい。]
意見の相違 -- では、どんな争点があるのかを見ていくことにしよう。
第一に、Apple はクローンメーカーが Apple の売上に割り込んできている のではないかと案じているのだ。確かにある程度は起りうることではある が、だからといって Apple はその割り込みを防ごうとしてもたいしたこと はできないだろう。せいぜい Apple が自分の売上分をこれ以上横取りされ ないように、新規ライセンス契約にある程度の制約を盛り込むことぐらい だろう。
第 2 に、Mac OS 8 が現行のライセンス契約に含まれるか否かといった議 論が起るのは、Mac OS 8 が 1994 年および 1995 年当時にもともと予定さ れていたものではないからだ。契約を文面通りに読むか、それともその意 味するところを読み取るかといったことがこの問題の争点になっているよ うだ。Apple 側は、“Mac OS 8”を契約書の文面通りに解釈しようとして いる(1997 年 3 月に Apple が Mac OS 7.6.1 を当初予定されていた 7.7 ではなく 8.0 に急きょ変更した経緯からすると、これは少々うさんくさ い)。クローンメーカー側は、契約文が指す内容を重視して、当初“ Mac OS 8”は Copland のことを指しており、Copland が実質的に Rhapsody に 置き換えられた現在では、契約書に書かれている“Mac OS 8”は Rhapsody のことを指すべきだと主張している。
第 3 に、CHRP の登場により(数週間前に Boston で開催された Macworld Expo において、Motorola 社と UMAX 社は CHRP を採用した Mac を展示し ていた)、クローンメーカーは、Mac OS のライセンス契約を交わすだけで 済ますことができるようになったのだ。Apple はこの点に関しては異論は ないのだが、元来実質よりも相当低く押えてあった Mac OS のライセンス 料を値上げしたいと考えているのだ。
結局は、すべてがお金に係わっているのだ。Apple は、クローンメーカー に対して Mac OS のライセンス料を低くしてあげる理由など持ち合わせて いないし、ましてや、クローンが Apple の売上に食い込んでくるならなお さらなのだ。Apple がクローンのために売上を落とし、かつ見返りに得る ことのできるライセンス料が微々たるものであれば、財政面への打撃も深 刻となる。Apple の最近の赤字を考えると、これ以上の金銭的損失は避け なければならないのだ。
一方、この論争相手であるクローンメーカーは、Mac OS のライセンス料と して支払うお金を少しでも小額にしたいのだ。クローン業界は限界収益 点ぎりぎりの価格付けをしているのだ。クローンメーカーにとって Apple の言い値通りのライセンス料を支払うことはたやすいことであるが、その 分すべてが消費者に跳ね返ってきてしまうのだ。ライセンス料のためにク ローンマシンの価格が引き上げられて対抗できないほどになってしまうな らば、クローンメーカーは消滅してしまうだろう。
解決策 -- クローンライセンスの最前線では最近殆ど重要な進展が起き ておらず、Macintosh コミュニティは狂乱状態となっている。Apple が CEO を失い、最近では大半の取締役を交代させたことを考慮すると、交渉がス ローになっていることは驚きではない。何人かの新しい取締役が就任し、 Steve Jobs 氏が会社の名目上のリーダーの役を務めているようだが、新し い CEO を未だこれから雇わなければならないのだ。かようなデリケートな 交渉が、経営者騒動の状況の中、フルスピードで進展するのを期待するの は無理なことなのだ。故、幾つかの可能な解決策が提案される。
大抵の人々が期待する解決策は、Apple がライセンスプログラムを正当化 するために充分な、そしてクローンメーカーがコストダウンを維持するた めに必要最小限なライセンスフィーで、Apple とクローンメーカーが妥結 することである。明らかに、もしそれがこのように単純であったならば、 契約書は数カ月前に調印されていたであろう。私が思うには、双方が歩み 寄り、話を切り上げるには、価格の幅( Apple が要求する額対クローン メーカーが支払額として望む額)が余りにもかけ離れているのだ。
Apple SEC (証券取引委員会) ファイルの言葉遣いに基づく幾つかの報告書は、 Apple がクローンライセンスプログラムから完全に撤退することを検討し ているのではと指摘している(Apple は既存の契約は継続して遵守する)。 この解決策は、閉鎖的な財務的指向では意味をなすかもしれないが、それ が原因となる広報面での悪夢はいっそう大きな損失となるであろう。Apple は Microsoft 社とのアナウンスメント( TidBITS-392 を参照)で積極的 な PR 活動に多大な努力を注いだばかりだ。クローンメーカーを排除する ような動きでそれを破壊することは愚かである。 [以下の URL のテキスト に於いて、"Mac OS licensing" で検索すると、その142K テキストファイ ル中で該当の段落を見つけることができる。]
<http://www.sec.gov/Archives/edgar/data/320193/0000320193-97-000014.txt>
個人的には、何らかの創造的な交渉を期待したい。例えば、Apple の Mac と競合しない新分野での販売や、革新的なハードウェアを伴った Mac ク ローンの販売には、Apple は少ない額で満足するかもしれない。又、クロー ンメーカーは Apple の既存の市場への販売には Apple の価格を下回らず、 顧客が購入の決定を行うには、例えばバンドルソフト、カスタム仕様、又 はテクニカルサポート等の別要因で行えることを、約束するかもしれない。
Apple が Mac OS ライセンスを Power Computing社、Motorola 社及び他ラ イセンシーから買い戻すことを計画している、との噂が浮上している。可 能性の一つとは思うが、私には殆ど解せない。Power Computing 社は Macintosh クローンをこれ以上作ることができないからといって店じまい などしない。故、何故 Apple は、Power Computing 社を PC クローンメー カーに変身させるために、一億ドルかそこらを支払うであろうか?それは 歪んだ発想だ。
噂、反応、そして出来事 -- 我々が TidBITS でこの状況について殆ど何 も書かなかった主たる理由は、それについて真実のニュースが何もなかっ たからだ。噂と憶測、勿論おおげさなレトリックも、はびこった。ここに は、幾つかのもっと一般的な噂、確信、実際の出来事に対する幾つかの回 答を記す。
以前は PC クローンメーカーの Dell Computer 社の社長で Power Computing 社の社長をつとめていた Joel Kocher 氏が、先週辞任した。伝 えられるところによれば、彼が、Power Computing 社は Apple を契約違反 で訴えるべきとしきりに促したことによる。Power Computing 社の取締役 会は同意しなかった模様で、会長兼 CEO の Stephen Kahng 氏が Apple と 再度交渉している。Power Computing 社は露骨なマーケティングキャンペー ンで知られているが、この状況の中、Apple と Macintosh コミュニティで 競争するその試みは(Kocher氏の奨励か?)、混乱した結果で迎えられる こととなった。他のクローンメーカーはもっとおとなしかったのだ。
Apple は、ライセンス契約の見直し中は、CHRP マシン(又は新 PowerPC 750 チップ採用マシン)を Mac 互換機と認可しないことをクローンメー カーに通知している。認可無しには、クローンメーカー(特に、認可の有 無に関わらず CHRP マシンを 9 月に出荷予定の Motorola社)は、彼等の マシンを Macintosh 互換と呼ぶことができないのだ。PowerPC チップや CHRP そのものの開発と製造での Motorola 社と IBM 社の役割を考えると、 CHRP の認可やそのサポートを止めることは、Apple にとって単純な決定で あるようには思えない。私には、Motorola 社と IBM 社が Apple の最も重 要なパートナーの 2 社であることから、Apple がそのようなやり方であえ て両社を怒らせるとは想像できない。
一つすっきりしないのが革新性に関する所である。一般的に言ってクロー ンメーカーは Mac プラットフォームを魅力ある方向に展開してきていない (Apple 社より先に高速チップを採用する事は別にして)。この革新性の 欠如が Apple 社との摩擦を生じさせる原因となっているが、逆に Apple 社はクローンメーカーが革新性を発揮するのをいろいろな意味で制限して きた、例えばノートブック市場に対してのように。CHRP 機を認定しようと しない事もクローンメーカー、特に Motorola 社と UMAX 社が革新的な新 しい Mac をつくる妨げとなるであろう。
インターネット上では、行動と請願を要請する様々な呼びかけがとびかっ ている。ほとんどすべての人がクローンの継続を支持しているように思え るし、それ自体はとても良いことだが、多くの人がここには簡単な解など ないという事実に目をつぶっている。クローンは Apple 社にとっては問題 を解決している一方問題をつくり出してもいる。私も含めた大多数の Machintosh ユーザーがクローンメーカーの生き残りを願っているのだけれ ども、もしこのライセンシングが Apple 社をあまりにひどく痛めつけるこ とになったらクローンメーカー自身がどうなるのであろうかと言うところ まで考えを馳せる人はほとんどいないようである。結局のところ、Apple 社がクローンライセンスを打ち切ってしまえばクローン市場は枯れていく し、クローンが Apple 社をつぶしてしまってもやはり枯れていく。
<http://www.clone.alwaysapple.com/>
<http://www.maccentral.com/news/aug15.shtml#mandate>
Microsoft Windows 95 の PC クローンへのライセンシングと比較する事は あまり意味のある事とは言えない、なぜならば Microsoft は自分で PC ク ローンを作っていないしソフトを中心とした企業形態につくりあげて来た からである。それとは対照的に、Apple 社はシステム会社であり、ソフト の商売から多少の利益は上げているが(Mac OS 8 が発売数週間で百二十万 部を売れた様に)、大部分の収入はハードの売り上げからきている。
もし Apple 社がクローンライセンシングを止めてしまうなら、個人ユー ザーはいかに Windows 95 に乗り替えてしまうかについて非常に多くのコ メントを見てきた。しかし私に言わせれば、それは意味をなさない決定と いうものである。もし Windows 機を買う本当の理由があるならそれはそれ でかまわないが、ただ単にある会社の決定に抗議するため、しかもその決 定が自分自身にはほとんど影響がないであろう時、長年にわたる経験と数 千ドルに及ぶであろうソフトとハードを捨て去ってしまおうというのはど う見ても正気の沙汰とは思えない。結局のところ、コンピュータを買うと きはそれが自分のニーズにぴったりだから買うのであって、店の人が可愛 いいからとか会社のロゴがかっこいいからとかで買うのではない。それは いつコンピュータを買うべきかを決める一般的なルールのようなものであ る。あなたは自分のニーズに一番合うものを必要とする時に買うべきであ る、と言うのも価格は常に下がるであろうし、機能性能は常に向上してい るからである。もし Machintosh がやはり自分に一番合っていてかつ今コ ンピュータが必要なら、それを買うべきだし、もし Machintosh が自分の ニーズにぴったりでなければそれを買うべきではない。あなたはコンピュー タを求めているのであって、その会社に投資をしているのではないのだ。 それだけののことである。
Machintosh のソフトデベロッパーはクローンライセンシングについて強い 関心を表明してきたが、彼らにとってそれは当然である。クローンライセ ンシングの一番の目的は「Machintosh プラットフォームの拡大に貢献す る」事であったし、それはとりもなおさずソフトの市場もより大きくなる 事を意味していた。もし Apple 社がクローンライセンシングから撤退する 様ならば、Machintosh デベロッパーたちも Machintosh ソフトの将来市場 の可能性を再評価せざるを得なくなるであろう。と言うのも、Apple 社は 近年自分自身で Machintosh の市場を拡大する力を実証できていないので、 デベロッパーたちはクローンメーカーなしで Machintosh 開発を続ける事 を正当化するのは困難であろう。
結論 -- 正直に言って、クローンライセンシングに関して、難しい状況 下にあるが、誰もそれほど不条理に振る舞ってはいないと言うことのほか、 これといって結論づけられるものはないと思う。Apple 社もクローンメー カーも商売を続けたいし引き続き金儲けをしたいと思っている、我々とし ては両者がやっていける妥協にたどり着ける事を願うしかない。他の選択 肢である Mac OS ライセンスの終焉、その反対の Apple 社がクローンメー カーの要求に屈する事、どちらも Machintosh プラットフォームの長期的 な健全な発展には望ましくない。そしてMachintosh プラットフォームの健 全な発展こそが、結局のところ、みんなが思うところであるべきである。
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