TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#395/01-Sep-97

今週あたりクローンライセンス騒動の成り行きが見えてくるだろうが、先 週に引き続きお送りするクローンライセンスの記事では、さらなる解説と Apple にはクローンが必要なのだという我々 TidBITS の意見の説明を行っ ている。また、Adam が Internet Starter Kit とはだいぶ違ったアプロー チで書いた彼の最新インターネット本のことを自ら取り上げているほか、 今週からシェアウェア作家である Rick Holzgrafe 氏が考えるシェアウェ ア成功の秘訣の連載記事が始まる。

目次:

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MailBITS/01-Sep-97

(翻訳:尾高 里華子 <odaka@iprolink.ch>)

クローン、Apple に認めてもらうのも日付次第 -- 先週 Apple は Mac OS Up-to-Date プログラムに関し、OS 8 の割引アップグレードは Apple 製の Macintosh を購入した人のみを対象とするという制限を設ける旨の発 表を行った。それまでは、最新版でない Mac OS が搭載されたマシンを購 入した者なら誰でも(実際 Mac OS 7.6 をプレインストールしたモデルが 数多く出ている)わずか 9.95 ドルでアップグレードできるということに なっていたのだ。97 年 8 月 2 日以降にクローンマシンを購入した人は、 メーカーに割引アップグレードを行う予定があるかどうかを問い合わせて みる必要がある(Apple は 97 年 8 月 1 日以前に注文を入れたことが証 明できるものに対しては制限から除外するらしい)。 [JLC]

<http://www.macos.apple.com/macos/releases/fulfillment.html>


クローン擁護論

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:松岡 文昭 <mtokfmak@mxa.meshnet.or.jp>)
(翻訳:高橋 邦明<kuniaki@mail.netwave.or.jp>)

うわさを総合すると、クローンライセンスでのけんか騒動は、今週、皆さ んがこの記事を読む頃にはどたん場をむかえると思われる。ニュースマニ アの人達や、クローンライセンスが最重要課題と考える人達のため、来週 は、根拠のある立証可能な情報が入手となり次第に、我々の Web サイトに アップデートを掲載する予定だ。

<http://www.tidbits.com/>

Apple とクローンメーカー間のライセンス問題に関する先週の記事へは、 最近のどの記事よりも沢山のメッセージを頂いた。今週、私は先週の記事 に対する反応の幾つかを皆さんと共有し、そしてなぜ Apple はクローンラ イセンスを継続すべきかについて説得力のある擁護論を述べたいと思う。

一頭より二頭がベター? 以前 TidBITS-372 で、Apple は会社を分割し、 各々がその会社にとって最善と思われることを自由にできるようにすべき と提言した。私は、ハードウェア会社、オペレーティング・システム会社、 そしてアプリケーション及びユーティリティ会社を提案した。私の提案は 実現されなかったが、Apple は Newton 部門を切り放し Newton, Inc. ( TidBITS-381 を参照)にしたのだ。

その当時、クローンライセンスは Apple メロドラマの中心ではなかった。 しかし、何人かの読書が私に思い起こさせたように、Apple がシステム会 社であるという事実は、クローンライセンスのような事柄が常に内部矛盾 の源となることを保証しているのだ。Mel Martinez 氏 <mem@jhu.edu> は 次のようにコメントしている。

あなたのコメント、「クローンは Apple にとっては問題を解決する一方で 問題をつくり出してもいる...」は問題の核心を突いている。Apple の現在 のビジネスモデルは、近年のパーソナルコンピュータ産業が進化してきた 道とは基本的に対立しているのだ。あなたは Apple を「システム会社」と 呼んでいる(Microsoft がソフトウェア会社であるのと対象に)。しかし、 システム会社であると同時に、他のシステムベンダーの販売のために、プ ラットフォームをライセンスするオープン・プラットフォーム会社であろ うとすることは、できないのだ。それをすることは会社の中で内部矛盾を 作ることとなる。クローンは Apple のソフトウェア部門には良いものであ る。クローンは Apple のハードウェア部門には悪いものである。故、Apple の二つの面は矛盾しており、内部で矛盾するということは常に悪いことな のだ。一つの解決策として、各々の利害が独立して実現可能となるよう、 Apple のハードウェア部門をソフトウェア部門から切り離すことを考えて みよう。クローンは、顧客ベースでは、ビジネスのハードウェア面が置き 換え可能であることを示した。現在の収益分布はさておき、Apple のソフ トウェアは会社にとって本当の礎石なのだ。

更に Rob Gvozden 氏 <gvozden@hk.super.net> は次のようにコメントし ている。

私が思うに、あなたは、ビジネス活動面での Apple と Microsoft の対比 において、問題の核心に迫っている。コンピュータ・ソフトウェアを制作 することと、コンピュータ・ハードウェアを大量生産することは、マーケッ ト構造面で非常に異なった活動なのだ。オペレーティング・システムの制 作は、幾つかの特許法のおかげで、競合会社が完璧な製品とはほど遠い代 替品しか供給できない場合は、独占ビジネスといえるものである。その中 に CPU 付きの箱を組み立てるのは「独占市場下での競合」のようなもの だ。ちょうど、Compaq と Dell は違いが認識できる程度に異なったコン ピュータだが、同一のソフトウェアを動かすことができるように。両者に はシステムデザインによる小さなパフォーマンスの差があるだけだ。

価格面で意味されることは明快である。独占市場下での競合者は - 競争に より - 生産の平均コストをやっとカバーする程度まで、価格を下げること を強いられる。しかしながら独占者は旨みの多いマージンを期待すること ができる。なぜなら、独占者は彼の製品の市場の実状を掌握している限り、 競争の欠如故に平均コスト以上で、彼の製品を売ることができるからだ。

Apple が世に出たとき、それはハードウェアとソフトウェア両方を独占し ていた。誰も一方なしに片方を動かすことができなかったのだ。ハードウェ アの側面をクローンにオープンすることはビジネスモデルのシフトを甘受 することを意味している。なぜならハードウェアビジネスは当然ながら競 合によってマージンが縮小するからである。

この意味は、Apple は、生き延びたいなら、別々のハードウェアビジネス とソフトウェアビジネスに分割することを成就しなければいけない。もし Apple が一つの会社として存続するなら、ハードウェアビジネスというば かげた行為は全てのオペレーションを危機にさらすものだ。二つの異なっ た会社であれば、ソフトウェア側は、誰がそれ用のハードウェアを作ろう と、苦しまずに存続し利益をあげることができる。ハードウェア側はもっ とわずかなマージンで競争することを学ぶ必要があるだろう。さもなけれ ばドードー鳥と同じ運命をたどるのだ。

私は Apple がアイデンティティ・クライシスを解決することを希望してい る。なぜなら、Mac OS プラットフォームの市場を拡大するのはどれがベス トかの言い争いではなく、これが、我々が今日知っている統一された Apple を最後に打ち倒すものだからだ。

学ぶことのない者のために -- Intel マシン用 Rhapsody と言えば、 Karen Nakamura <karen@gpsy.com> 氏がこれまであまり注目されていなかっ た、興味深いポイントを挙げている。彼女によれば、NeXT 社が NeXTSTEP を Intel チップに移植したとき、NeXT 社独自の Motorola 680x0 ベース のハードウエアの市場は干上がってしまった。NeXT のハードウエアは一般 に評判が良く革新的なものであったが、それが独自の仕様で、しかもただ の一社からしか供給されないと言う事実のため、多くの人が NeXTSTEP 用 に安価な PC クローン機購入に走ったのだ。Karen は次のように述べてい る。

Apple 社もまたこの道を歩もうとしているようだ。しかもその過程で自分 の足元をじっくりと撃ちながら。もし Apple 社が Rhapsody に本気なら、 今クローンに扉を閉ざし、Not-Invented-Here の姿勢に戻るべき時ではな い。クローン機は迫ってきているが、Apple 社のハードウエア部門がもっ とも心配すべきなのは、Mac クローンではなく、Intel クローンなのであ る。私は Apple 社のハードウエア部門の将来を楽観視しないが、Rhapsody 以後も生き残ってゆく唯一の方法は、開発者がサポートするに足る十分な マーケットシェア(Mac クローンに対するシェアではなく、ワークステー ション全体におけるパーセンテージ)を持っているかどうかなのである。

この類似点は驚くべきものだが、一方、Apple 社は NeXT 社に比べはるか に大きな Mac のインストールベースを持っており、そのユーザーの多くは 業務用の Rhapsody に乗り換えないであろう、という大きな違いもある (実際、Rhapsody は最低でも最近の PowerPC ベースのマシンを必要とす るため、多くの人はスイッチできないであろう)。それでも Karen の指摘 は有効だ。つまり、Macintosh のハードウエアは、安価な PC クローンに 比べ、Rhapsody ユーザーを Mac につなぎ止めておけるほど魅力的である のか。そして、議論をクローンへのライセンス問題に戻すと、クローン機 市場が栄えれば、Rhapsody の世界での Macintosh のポジション維持に役 立つのではないのか。

本物の取引 -- 前回の記事で、私はこの状況全体をめぐるいくつかの事 実を書き落とした。なかでも特筆すべきは、Apple 社とクローンメーカー との間で、継続的なクローンライセンス契約の条件が、Gil Amelio 氏降位 直前に合意されていた、ということである。Amelio 氏はこの件について、 いくつかのインタビューでコメントしている。

<http://www.macaddict.com/exclusive/giltalks.html>
<http://www.mercurycenter.com/opinion/docs/009108.htm>

では事態を止めているのは何なのか。Steve Jobs 氏を指さす向きが多い。 彼はどうやら、クローンが Apple に重大な損害を与えていると信じている らしいのだ。それは事実かもしれないし、再交渉後の取引条件ですら、ポ ストAmelio 氏の Apple 社には不満なものであったということを示してい るのかもしれない。それでも疑問は残る。Jobs 氏は、クローンへのライセ ンス供与をやめてしまいたいのか、それともこれはクローンメーカーから もっと搾り取るための権力ゲームなのか。全体的な理由は、Gil Amelio 氏 も上記インタビューで述べているように、Apple 社が競争を恐れているか らなのか。私は答えを知らないが、Gil の意見を割り引いて考えるのは難 しい。

先週に続き今週も繰り返すが、ライセンス契約というものは、契約当事者 双方が受け入れるようなものでなければならない(明らかに、少し前はそ うだった)。Apple 社には Macintosh クローンが必要だし、クローンへの ライセンスをばっさり打ち切るのも、クローン機の価格競争力をなくすた めべらぼうなライセンス料金を課すのも、どちらも自己破壊的である。

要は、私は未だに、状況は複雑で、明らかにされた情報の量(そして質も) が限られているため、いろいろな意味で理解不能である、と信じている。 しかしながら、私はますます強く、Apple 社はクローンメーカーへのサポー トを続ける道を探るべきだと思っている。クローンライセンスの打ち切り は、会社の自殺に等しい。Apple 社がクローンライセンスをすべて打ち切っ たとして、次のようなマイナスを考えてみてほしい。

プラス面として、クローンライセンシング打ち切りで Apple 社が得るであ ろうもののすべては、クローンによって共食いになっていたセールスであ ろう。これは本当の身入りにはなるが、私はそれが Apple 社の全体的な財 務の問題を解決するほどのものとは思わない。Macintosh ハードウエアの 開発に関し、再び完全に掌握できるようにしたい、という Apple 社の願望 には一理あるようにも思えるが、それは全く子どもっぽい話である。とも あれ、これまでにみてきたような、クローンへのライセンス供与を打ち切 ることのマイナスは、Jobs 氏を始め Apple 社の人たちが、新たな方向性 を決定づけるものと考えているであろうプラス面をはるかに超えている。


The Official AT&T WorldNet Web Discovery Guide

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:尾高 修一 <odaka@iprolink.ch>)

私の最新刊である The Official AT&T WorldNet Web Discovery Guide( Osborne/McGraw-Hill 社刊、ISBN 0-07-882336-6、24.99 ドル)はもう店 頭に並んでいるはずだ。この本はしばらく前に書き上げたのだが、印刷ミ スや UPS 争議などの陰謀に祟られ、何週間も遅れることになってしまっ た。この本のタイトルからは ATT WorldNet 専用のような印象を受けるか もしれない(事実 CD には ATT WorldNet 用のソフトウェア Mac・Windows 版ともに収録されており、一ヶ月分のアクセスおまけで付いてくる)が、 現実には初級から中級のインターネットユーザー向けの一般的な入門書な のだ。インターネットとインターネットソフトウェアを総合的に捕えよう とする今までの Internet Starter Kit シリーズとはだいぶ異なっている。 この本では、ユーザーは Web ブラウザを主に使うものと想定し、検索エン ジン、Web カタログ、企業や個人のディレクトリなど、インターネットで の必携ツールの使い方の説明に重点を置いている。

<http://www.tidbits.com/adam/book-frame.html>

私の意見では、この本の最も面白い部分は最後の 8 章で、どのようにして インターネットを日常生活に取り込むかについて述べたものだ。私の考え では、コンピュータ一般と特にインターネットは実生活から遠く離れ過ぎ ている。電話や自動車といったテクノロジーが様々な形で私たちの生活に 入り込んできているのと同様に、コンピュータやインターネットも私たち の普通の生活と統合されなければならないのだ。それはともかく、この部 分は私の思想の発現である一方、やや自叙伝的な要素があるので、Macworld Expo などで私と会った時、私が本に載っている逸話を語り始めてしまって もしらけないでいただきたい。誰だって逸話のストックには限界があるの だし、私のものは今では多くが公知の事実になってしまったのだ。

この本は近所の本屋でも買えるし、まだ入荷していないようなら注文して いただきたい。Web 上の本屋の多くでも取り扱っているし、私たちは Amazon Associates プログラムに参加したので、みなさんが私たちの Web サイトからリンクをたどってくれると、Amazon から私たちに小額の支払が される。TidBITS を応援する方法の一つだと思っていただければと思う。

<http://www.amazon.com/exec/obidos/ISBN=0078823366/tidbitselectro00A/>

この本を書き上げてから(クローンのライセンスに関する何百ものメッセー ジの返事を書く以外に)私が何をしていたか関心のある方は、TidBITS と もう一冊の本(まるごと私のお気に入りのプログラム Eudora に関するも のだ)についての大ニュースに期待していただこう。


成功するシェアウェア(第一部)

by Rick Holzgrafe <rick@kagi.com>
(翻訳:尾高 修一 <odaka@iprolink.ch>)
(  :尾高 里華子 <odaka@iprolink.ch>)

[編者註: 本稿は Rick が執筆し、インターネット上に公開した記事の第一 部だ。シェアウェア作家への説得力のあるアドバイス以外にも、古くから の Macintosh デベロッパーから見たシェアウェアのしくみという点でも実 に興味深いと私たちは考えたので、TidBITS への転載をお願いした。]

やあ、どうも。私は Semicolon Software 社の Rick Holzgrafe という者 で、シェアウェア作家でもある。私の友達は、私とはシェアウェアのマー ケティングを話題にしないように心がけている。一度喋り始めたら止まら ないからだ。他のシェアウェア作家と会って話してみてもみんな私と同じ だということがわかる。誰もがもっと成功したいと思っているのだ。自分 が世界一のシェアウェアサクセスストーリーだというわけではないが、私 はもうこの道を 10 年以上歩んでいるし、シェアウェアからの収入は本業 からの収入に近づきつつある。

この記事で紹介するアドバイスの多くは他の人から寄せてもらったものだ。 特に、Stairways Shareware 社の Peter N Lewis 氏と Jeremy Nelson 氏、 Kagi 社の Kee Nethery 氏、TidBITS の Tonya Engst 氏、それに Kagi Authors メーリングリストのシェアウェア作家たちに、この場をお借りし て感謝したい。

成功とは? 何年も前、自分は成功者だと思った。最初のシェアウェア製 品(Scarab of Ra というアドベンチャーゲーム)を 500 部売ったからだ。 当時は今と比べてシェアウェア作家が少なく、多少なりとも野心的な作品 を作っていた人はほとんどいなかった。フィーは1 部 10 ドルだったので、 5 年間で数千ドルの儲けにはなった。おかげで良いソフトウェアを少々と、 ちょっとだけだがハードウェアさえ買うことができた。少しだけ有名にも なったし、好意的なレビューもしてもらえた。

<http://www2.semicolon.com/Rick/Scarab.html>

今述べたことの中に、成功を計るものさしがはっきり見えるだろう: 名声、 賛美、それからお金だ。さらにどんな作業を選ぶかによって、ほかではで はできないような経験ができるし、友達もできる(シェアウェアを通じて 出会った友達には最も親しい人たちがいる。しかもいい友達である以上に、 知っていると具合の良い人たちもいるのだ。)

まず、何を目標にするかをはっきりさせておくことをお薦めしたい。人に よっては何よりも名声、経験と友情に関心がある。こういう人たちは優秀 なフリーウェアを配布している人たちだ。一方、ほとんどの人は以上の全 部に関心があって、特にお金が重大関心事だ。(儲けたいと思うには浅薄 で貪欲でなければならないということはない。ハードウェアとソフトウェ ア、それに時間がどれだけ高価なものかはデベロッパーが一番良く知って いる。お金のかかる趣味は収入につながったほうが続けやすいのだ!)した がって、以下この記事ではどのようにすればシェアウェアの売り上げを伸 ばすことができるかを主に論じたい。これさえうまくできれば収入が増え るだけでなく、その他の報いも自然とついてくるものだ。

いくらか考えた後、シェアウェアの成功には 7 つの鍵があることに気がつ いた。私はこれを“7 つの P”と呼んでいる。

1. Product(製品) 2. Patience(忍耐) 3. Polish(洗練) 4. Pay Up(支払) 5. Propagation(配布) 6. Promotion(宣伝) 7. Politics(政治)

良いプログラムを書くだけでは良いシェアウェアにならないことがお判り になるだろう。私たちの多くにとって、コードは簡単な部分なのだ!

最初のP: Product(製品) -- 作成して販売する製品を選ばなければな らない。世の中には既に色々なソフトウェアがあるので、何か新しいもの を考え出そうとするだけで行き詰まる可能性がある。思うに、ほとんどの シェアウェア作家は自分が作りたい製品を作るのであり、売れると思うソ フトウェアを作るのではないのだろう。これ自体は正しいのだが、製品が 売れることを願っているのなら、利用者層、使用頻度、エレベーター・プ レゼンテーション、堅牢さ、市販品並の機能、それに魅力的な価格設定と いった条件が揃っていなければならない。

利用者層 -- 仮にあなたは古植物学が実に興味深いテーマだと考えてい るとしよう。過去 2 年間、あなたはプログラミング技術と古植物学への深 い造詣を元に、必殺の古植物学アプリケーションを開発したとしよう。あ なたのプログラム実に強力で便利なので、世界中のあらゆる白亜紀初頭の 古植物学を専門とする者 で PowerBook を使ってフィールド調査をしてい る人には必携のツールなのだ。さて、これは一体どのくらい売れるだろう か?

そう、決して多くは売れない。成功する製品は幅広い層にとって魅力的で なければならない。あなたの製品を欲しいと思うような人が大勢いなけれ ばならない。さもなければ売り上げは微々たるものだ。これは当然のこと のように見えるのだが、見たところそうでもないらしい。この古植物学ツー ルと同じぐらい限られた利用者層しかいないのに、誰も製品を買ってくれ ないと苦々しくグチるシェアウェア作家志願者に出会ったのは一度や二度 ではない。

ここで幅広い層に訴えて成功している例を挙げてみよう。

<http://www.stairways.com/anarchie/>

<http://www.kaleidoscope.net/>

<http://www2.semicolon.com/Rick/STD.html>

大多数ではなくても、十分に広いユーザー層の関心を惹く製品でも大成功 を収めることができる。画像処理プログラムが良い例だろう。誰もが使う わけではないが、それでも十分に幅広いユーザー層がある。

使用頻度 -- 次に、製品の使用頻度が高くなければならない。できれば 毎日、さらには常時使うようなものならもっと好ましい。あるシェアウェ ア作家が売り上げが悪いといってこぼしていたことを私は憶えている。な ぜだろう? 彼の製品はどんなユーザーでも一回しか使わなかったのだ。ディ スクにあるシステムソフトウェアを少しいじるだけで、その結果がずっと 残るのだった。これによってプログラムは使われて忘れられることになった。

彼の製品をユーザーが使ってお金を払わないと文句を言うのは間違いでは ない。これは違法で、あってはならないことなのだ。しかし、残念ながら これは現実に起きることで、文句を言ったからといって何も変らない。ど うすれば人にフィーを払ってもらえるかは後述 [来週号 -Tonya] する。こ こで憶えておいていただきたいのは、ほとんどのユーザーはある製品がど んなに便利または楽しいかを常に思い出させないと払ってくれないという ことだ。

上記の 3 つの製品は使用頻度の高いプログラムの良い例だろう。Anarchie はインターネットからソフトウェアやアップデートをダウンロードするの が好きな人なら最低でも毎週一回は使うだろうし、多くの人が一日に何度 も使う。Solitaire Till Dawn のようなゲームは中毒性なので頻繁に使わ れる。当然 Kaleidoscope は常時使用される。すべてのウインドウ、ボタ ン、それにメニューにその効果が現れるのだ。

エレベータ・プレゼンテーション -- 経験を積んだ販売員の方ならば、 上手な“エレベータ・プレゼンテーション”大切さはご存じであろう。何 も知らない人に製品についてとその素晴らしさを端的に説明するのである。 エレベーター・プレゼンテーションの説明文の本質は、短く明確なもので なければエレベーターに乗っている間にうまく伝わらないということだ。

世の中にはシェアウェアは山ほどあり、かつ新しいものが毎日どんどん登 場している。並み居る製品の中で自分のものに注意を払ってもらうのはな かなか難しい。ありとあらゆるシェアウェアを試してみることなどできな いので、役に立ちそうだったりおもしろそうに思えるものだけをダウンロー ドするのが普通である。注意を引いて、試してみようかと思わせるための 手段としてシェアウェア作家に与えられるものは( Web、短いレビュー、 Info-Mac Digest などのようなところに)一段落程度の説明文なのだ。

しっかりした製品 -- これは誰もが分かっているだろが、繰り返し話し ても言い過ぎるということはないだろう。製品はしっかりとしたものでな ければならない。クラッシュ知らず、バグなし、品行方正、つまり弁解な しの製品でなければならないのだ。

完璧なものを作るのは難しい。バグのある製品を送り出したことが一度も 無いという人などいないだろう。だが、バグ付き製品を出してしまうこと をとにかく卑しむべきであるし、バグが判明したら即座にフィックスして アップデートをリリースすべきだ。テストは開発段階で非常に重要な位置 をしめる。だいたい出来上がった段階で、信頼のおける人 2 〜 3 人にそ のプログラムを使ってもらい、感想をもらうようにすることだ。その製品 をリリースしても良いと思うことができるようになるまで、開発作業やテ ストを続けるのだ。その段階まで達すると、直にリリースしたいという気 持ちを抑えなければならない。それが、ベータテストを開始する時なのだ。

ベータテストのやり方には 2 通りある:少数の人を自分で選んで行うか、 大勢の人に試してもらうかである。小人数に試してもらうと、テストして くれる人一人一人と密に連絡がとれるし、自分でテストしてくれる人を選 ぶことができるので、全員が大切なテスターになるだろう。一方で、対象 が小さいとカバーできるハードやソフトの構成の幅が狭まるし、使い方の 幅も狭まってしまう。対象が大きくなるとカバーできる幅は広がるが、 (平均して)受け取るバグの報告の質も下がるだろうし、テストしてくれ る人全員とつながりを持ち続けるのも時間的に難しいだろう。

関連のニュースグループにテスト依頼をポストすれば、多くの人達が応募 してくれるだろう。私の場合、大抵は厳選した小人数の人達にテストして もらっている。いい人を見つける方法として、私はテスト依頼をポストす る時に条件を細かく書いている。そしてポストの際に出した私の指示すべ てに従ってくれない人は、慎重さに欠くと思うので遠慮頂いている。私の 条件は、ハードおよびソフトのシステム構成と(テストの経験、私の製品 と類似したものを使用したことがあるか、一般的なコンピュータ歴のよう な)本人に関することを知らせてくれることだ。回答を基によさそうなテ スターを選び出すとともに、幅広いテスター層を確保できるのだ。

ベータテストには最低でも 2 ヶ月かけなければならないし、深刻なバグが 現れた場合にはさらに延長するつもりでいなければならない。ベータテス トは、最新のテスト版を出してから 2 週間以上問題が報告されなくなるま で続ける。粗悪品は誰も買ってくれないのだ。いいものを作ろう !

市販品レベルの性能 -- シェアウェア製品といえども、内容は市販品と 同等でなければならない。どこか劣っているところがあったりすると、ま がいものに見られてしまうのだ。

類似の市販品の中で一番いいものと同程度(またはそれ以上)であれば言 うことはない。もちろん、これはたやすいことではない。たとえば Adobe 社が Photoshop の新リリースのたびに送り出している プログラマー、アー ティスト、ライター軍団に匹敵するぐらい頑張っているシェアウェア作家 などまずいないだろう。製品が劣っていても成功することはできるのだが、 そのためには、よい製品でなければならないし、競合製品よりもずっと安 くなければならない。そこではじめてハイエンドな製品が必要なかったり、 予算が許さないようなユーザーから認めてもらえるのだ。ここで思い当た るのが、10 ドルのシェアウェアプログラムである KeyQuencer 1.0 だ。こ れは QuicKeys には劣るが、安いし、パワフルで素晴らしい製品だ。 [KeyQuencer は現在 2.0 にバージョンが上がり、商用ソフトウェアになっ ているが、シェアウェア版の KeyQuencer Lite 2.0 もある。 TidBITS-351 を参照。-Tonya]

<http://www.binarysoft.com/kqmac/kqmac.html>

魅力のお値段 -- シェアウェアファンが挙げるシェアウェア製品の一番 の魅力の一つは、そのお買得な価格である。自分の製品が競合市販品と同 等であると思うなら、高めの価格設定にすることも許されるかもしれない。 だが、目立って低い価格設定をした方がずっとよいというのが私の考えだ。 市販品には、たいがいフロッピ、CD-ROM、紙のマニュアルのようなものが 付いてきて、シェアウェア製品にはかからない経費がかかっているのだ。 シェアウェアを買ってくれる人にその分を安くしてあげようではないか。

第 2 の P:忍耐 -- 初めてリリースしたものが売れて 100 万ドル稼ぐ といったことは、まずない。そこで、忍耐が必要なのだ。

最初のリリースは多分大成功には至らないだろう。プロだって同じことな のだから、それもよしとしようではないか。秘訣は諦めないことだ。最初 のリリースから、どうして売れないのか、気に入ってもらえない点はない か、付け足すべき機能は何か、ユーザーインターフェースのどこが悪いか、 動きの遅い機能は何かなどを 学ぶ だろう。それらすべてをフィックス して次のリリースを出せば、売上は上がるだろう。製品を使ってくれてい る人、使ってくれない人の話を聞いて、もう一度フィックスしてもう一度 リリースすれば、今度こそ素晴らしいものができるだろう。

Microsoft 社の Windows のことを考えてみよう。バージョン 1.0 は失敗 作だった。ごく少数の人しか使ってくれない笑いものだったのだ。しかし、 Microsoft は諦めずに、Windows 2.0 を出した。成功とは言えないが、1.0 よりも注目された。Windows 3.0 で遂に本物の成功を手に入れ、そして現 在もまだ改良を続けているのだ。

[来週、Rick はシェアウェアを成功させる秘訣をもっと語ってくれる。]

[Rick Holzgrafe 氏は、シェアウェア作製に精を出していない時は、 Silicon Valley にある有名な会社でプログラムを書いたりしている。]


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