TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#406/24-Nov-97

今週の TidBITS は CD-ROM 色に染まっている。Bonnie Lebesch 氏が自作 の CD-ROM 『Stella and the Star-Tones』を自費出版した時の話を語って くれる。また、CD-ROM 出版社であり Pickle's Book を看板商品にしてい る Soft Material 社を新たにスポンサーとして迎えることになった。Geoff は Mac ユーザー必見のキーボードショートカットを披露してくれる。新し くリリースされた LaserWriter ドライバ情報あり、Tonya からの Mac 関 連贈り物のアイデア募集ありだ。

目次:

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TidBITS 日本語版は TidBITS 日本語版翻訳チーム メン バーのボランティアによって翻訳・発行されています。


今回の TidBITS のスポンサーは:


MailBITS/24-Nov-97

(翻訳:尾高 里華子 <odaka@iprolink.ch>)

素敵なプレゼントのアイデアは? TidBITS では毎年読者から(現実的な) Macintosh 関連プレゼント案を募集し、私たちのアイデアも含めてコン ピュータを使う者の気を引くような贈り物リストを記事にしてお送りする のを恒例にしている。「それでは」と思う方は、<tonya@tidbits.com> 宛 に贈り物のアイデアを送っていただきたい。去年のクリスマスプレゼント 特集号を読むとよいアイデアが湧くかもしれない。 [TJE]

<http://www.tidbits.com/tb-issues/TidBITS-358.html>

ジャック、家から飛び出す -- NetBITS-009 号を紹介しよう。合衆国内 の片田舎の路上から Jim Heid 氏が、インターネットは人里離れたところ にも登場しているだけでなく、おかげで人と人とのつながりを深めること ができるようになったと伝えてくれている。同号では自宅の電話線の帯域 幅に関する話、Web をオフラインで見る話などを取り上げている。NetBITS (英語)は、<netbits-on@netbits.net> 宛にメールを送ると購読できる。 [JLC]

<http://www.netbits.net/nb-issues/NetBITS-009.html>

LaserWriter 8.5.1 -- Apple 社が先日リリースした LaserWriter 8.5.1 は誰もが関心を持つようなものではないものの、出版関係者の目を引くこ とはできるだろう。IP ネットワーク上で LPR プロトコルを使っての印刷 をサポートしてくれるなどの機能を備えているのだが、現在のところ Mac OS 7.5 〜 7.6.1 のバージョンでのみ動作し、Mac OS 8 が対応するのはシ ステムの次期バージョンからであると但し書がついている。このアップデー トに含まれている新たな Collate 機能および Desktop Printer Utility 1.0 にもこの制限に引っ掛かる。LaserWriter 8.5.1 ではカスタムページ サイズや改良された ColorSync の統合化が実現されたほか Save-As-File で Adobe Acrobat PDF が選択できるようになった(この機能をフルに利用 するためには Acrobat 3.0 の完全バージョンが必要になる)。ダウンロー ドファイルは 6 つのディスクイメージからなり、Apple 社の DiskCopy 6.1 または Aladdin 社の ShrinkWrap 3.0 がなければマウントおよびインス トールすることができない。[JLC]

<ftp://ftp.info.apple.com/Apple.Support.Area/Apple_SW_Updates/US/ Macintosh/Printing/LaserWriter/>
<ftp://ftp.info.apple.com/Apple.Support.Area/Apple_SW_Updates/US/ Macintosh/Utilities/Disk_Copy_6.1.3.sea.hqx>
<http://www.aladdinsys.com/dev/shrinkwrap/>

白黒反転 -- TidBITS-403 および TidBITS-405 で、白地に黒の文字が 書かれる Mac の“紙”っぽい表示が目に良くないということを書いたとこ ろ、Apple 製のクロースビューコントロールパネルを使えばスクリーンの 表示を反転させることができる(また、視覚障害がある人のために 16 倍 まで拡大表示ができる)というお便りが読者から寄せられた。クロース ビューは Mac OS を普通にインストールした場合には組み込まれなくなっ てしまったが、Apple 社の Disability Connection からオンラインで入手 することができる(これには PowerBook 用の Easy Access や MouseKeys も付いてくる)Mac OS 8 のカスタムインストールでインストールすること もできる。ただし、クロースビューは主流のアプリケーションや QuickDraw GX と互換性がないなどの問題がいくつか判明しているし、メモリがあまり 載っていなかったり、マルチモニタにしている場合、モニタを256 色以上 に設定している場合に問題が起こることがある。だが、これは多くの人に とってまさに望んでいた(しかも無料の)ものなのだ。[JLC]

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=04228>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=04269>
<http://www.apple.com/disability/macaccess.html>


となりの客はよく本読む客だ

by Tonya Engst <tonya@tidbits.com>
(翻訳:小川 浄 <tao@peanet.ne.jp>)

一番新しく我々のスポンサーに加わった、Soft Material 社をご紹介しよ う。Soft Material 社は創造的・革新的作家達による CD-ROM タイトルを 刊行する目的で創立された。とりわけ日本やヨーロッパの作家達のタイト ルは、広く知られる機会が得られないことがままあった。

Myst や Star Trek: The Next Generation Technical Manual 等、一握り の CD-ROM タイトルが成功を収める一方で小規模な会社によるソフトウェ ア製品や CD-ROM が直面するハードルにはきりがない。(Bungie Software 社の Alexander Seropian 氏がそうした状況を TidBITS-352 で述懐して いる。)Soft Material 社はハードルを迂回する方法として、ソフトウェ アショップやカタログではなく、専門店やギフトショップを通して製品を 供給することに焦点を置いている。CD-ROM をリリースする方法としてソフ トウェアチャンネルからのシフトとも言えるこの手法は、まったく独自な ものというわけではないが、筆者はたくさんの人が Soft Material 社の進 取性に注目する、と期待している。Soft Material 社はこのほかにも興味 深い複数のプロジェクトに手を染めており、折りにふれてスポンサーシッ プの文面でユニークな口上を目にすることになるだろう。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=00833>

Soft Material 社はつい先日最初のタイトルを発刊したところだ。イラス トレータ、アニメータ Thoru Yamamoto 氏の手になる 34.95 ドルの書籍・ CD-ROM コンビネーションで、Pickle's Book という名がついている(ISBN 0-9961632-0-6)。Thoru 氏はずいぶん前から絵画やムービーを制作するの に Macintosh を用いていた。氏の Web サイトは HyperCard スタックや Shockwave ムービーにつながっている。何年も前から氏はたくさんのキャ ラクターを創作していた。モグラや小さな王子や、ヤシの木、アヒル、ペ ンギン等々、Pickle's Book を始め氏の作品のほとんどに彼らが登場する。

<http://www.softmaterial.com/>
<http://www.bekkoame.or.jp/~thoru/>

ハードカバー本のページは板紙製で、CD-ROM 中のたくさんのシーンの内何 点かが描かれてある。ナレーションはシンプルで(生まれて 22 ヶ月にな る筆者の隣人にはややむずかしかったようだが) CD-ROM をプレーしたら 何が起こるか分かるようになっている。CD-ROM はマウスが扱える人なら充 分に理解可能で、かつ筆者の興味を長時間つなぎ止めるのに充分な内容を 備えていた(筆者はゲームのさらに微妙な要素を探して景色を横切ったり 地下の隠れた抜け道をさまよったりしているうちに、とても長い時間を潰 してしまった)。とは言ってもこの製品の対象は子どもたちであり(3 歳 〜 10 歳)、絵画や音楽を創作するセクションやアルファベットを学ぶセ クションがある。筆者の好きなセクションは金の卵を産むガチョウを作る 方法を想像するセクションである。CD-ROM は Mac OS と Windows で作動。 所要最低限の Mac システムは 33 Mhz の 68030 ベース Macintosh、 System 6.0.7、13 インチモニタ、8 MB ディスクスペース、5 MB の RAM スペースである。

    Soft Material -- 800/699-4144 -- 212/343-2089
<pickle@softmaterial.com>

キーボードから Mac を操作

by Geoff Duncan <geoff@tidbits.com>
(翻訳:尾高 里華子 <odaka@iprolink.ch>)

私は今時よくある自宅が仕事場という一人であるが、最近は我が家のいた ずら猫に悪さをされないようにするので大忙しだ。子猫のことはさておき、 私はコンピュータを使っている最中に Mac ユーザーと直接顔をつきあわす ことがほとんどない。ところが、先日トラぶっている知り合いのマシンを みてあげるということがあった。その時その人が「ちょっと待って、どう やったの?」とか「わぁ、すごい」とかことごとく口を挟むのだ。別に魔法 を使っていたのではないが、Mac の初心者はもちろん始終 Mac に触れてい る人にさえも知らないようなテクニックであった。なにしろ彼らは何かを するためにマシンを使っているだけで、コンピュータの専門家になろうと 思っているわけではないのだから。そこで、必ずしも直感的ではない Finder やファイルのダイアログ周りのテクニックを一部紹介しよう思う。 ここで扱っているものは、注釈を付けたものを除くと System 7.x でも Mac OS 8 でも利用できるものなので、そのうちの幾つかでも皆さんのお役に立 てばと思う。

Finder のウインドウ操作 -- たいていのユーザーは、アイテムをダブル クリックして開き、ウインドウのクローズボックスをクリックして閉じる というマウス操作以外のことをしようとしない。すべてのことをマウスを 使って行なうのは面倒だし時間の無駄である。Finder 周りの操作のほとん どはキーボードから行うことができるし、その方が速い。

デスクトップまたはアクティブな Finder で一つのアイテムを選択するに は、選択したいものの名前の最初の数文字をタイプすればすむし、意中の ものが選択されるまで Tab キーを押していってもよい(意中のアイテムを 通り過ぎてしまった場合は Shift + Tab を押せば戻ることができる)。

Finder の表示がアイコンやリスト形式になっている場合は、矢印キーを 使ってウインドウ内で選択されるアイテムを一つずつ移動していくことが できる。リスト形式による膨大なものも A キーや Z キーまたはHome キー や End キーを押せば瞬時に一番上や一番下に移動することができるのだ。 Page Up キーや Page Down キーでも Finder ウインドウを縦方向にスク ロールすることができるのだ(リスト形式の表示では実力発揮だが、アイ コン表示をしてある大きなウインドウではあまり役に立たない)。

意中のアイテムを選択したら、次は Command キーと矢印キーが大活躍して くれる。Command + 下矢印 で現在選択されているもの(フォルダ、文書、 アプリケーション)が開くのだ。その時に Option キーも押していれば、 そのアイテムが開いた後にそれまでいた Finder ウインドウが閉じるので、 ウインドウを整頓しておくのに一役買ってくれる。

フォルダのウインドウにいる時に、Command + 上矢印を押すとそのフォル ダの親フォルダが開くし、Command + Option + 上矢印を押すと(前述同 様)親フォルダが開いた後元いたフォルダが閉じる。Finder のリスト表示 されたウインドウにいる場合は、Command + 左矢印や Command + 右矢印で フォルダの左横にあるあのクリックしにくい“三角印”を実際にクリック した時と同じように開いたり閉じたりができるのだ。これを利用すると新 しいウインドウを開かなくてもその中に入っているものにアクセスできる のだ。さらに、矢印キー、Tab キー、アイテム名のタイプによりそのサブ フォルダに入っているアイテムにアクセスできるのだ。

あまり知られていない Tips を 2 つお話ししよう。Finder ウインドウか らデスクトップに移動するには、Command + Shift + 上矢印を押せばよい。 これで、デスクトップがアクティブになり、起動ディスクのアイコンが選 択された状態になるだろう(残念ながら、この時は Option キーを押して いても、現在いる Finder ウインドウは閉じない)。今開いているFinder ウインドウを まとめて 閉じたい時は、Command + Option + W を押すと 全ウインドウがどんどん閉じていってくれる。

では、キーボードを使ってできないことは何か? 私の知る限りでは、キー ボードだけを使って Finder にある複数のウインドウを選択する(Shift + クリックや Shift + ドラッグに相当する)ことができない。それと、す でに開いている別の Finder ウインドウに一発で移動する(ウインドウの 見えているどこかをクリックするというのに相当する)術が組み込まれて いない。ただし、サードパーティのユーティリティでこの機能を実現して くれるものもある。

人に優しい矢印キー -- 矢印キーはあの不細工な“開く”や“保存”を 選択したときに出るダイアログでも大活躍してくれる。これらのダイアロ グは標準ファイルダイアログまたは SF ダイアログと呼ばれ、たいていの アプリケーションで使われているのだが System 6 以来ほとんど進歩して いない。(Mac OS 8 には改良された“ Copland 風”の“開く”や“保存” のダイアログの下地が組み込まれており、それの恩恵にあずかることので きようなプログラムが出てくる日も近いだろうと思っている。)SF ダイア ログで表示されているアイテムリストの中では、矢印キーを使って上下の 移動をすることはできる(リストがアクティブになっていない時は Tab キーを押せばリストとファイル名を入力するテキストフィールド間を行き 来できる)。SF ダイアログのリスト内では、このほかに文字キー、Home キー、End キー、Page Up キー、Page Down キーを使っても移動できる。

SF ダイアログ内で Command キーを押しながら矢印キーを押すと、Finder にいるのとほぼ同様のことをすることができる。つまり、Command + 上矢 印で親フォルダを開くことができるし、Command + 下矢印でサブフォルダを 開くことができる(ただしファイルを開くことはできない)。さらに、 Command + Shift + 上矢印でデスクトップに行くことができる(Command + D かデスクトップボタンを押しても同様のことができる)。

だが、Command + 左矢印や Command + 右矢印を押すと、フォルダ間ではな く ボリューム 間での移動することになる。ハードディスクのボリュー ムが複数ある場合やリムーバブルメディアやファイルサーバを常時利用し ている場合には便利だろう。

もっとパワーを -- Macintosh のキーボードには付き物の Power キーの ことはご存じだろうか? たいていの場合三角マークがついているキーで、 これが Mac の電源を入れる以外にもとっても役に立つのだ。Mac OS 7.5 以降のシステムを使っているユーザーは、Mac がついている時に Power キーを押すと、再起動、システム終了、(対応している機種でのみ)スリー プのいずれを行なうかを聞いてくれる。そしてこのボタンをクリックしな くとも、R キーを押せば再起動を、S キーでスリープをさせることができ るのだ。(もちろんキャンセルボタンのあるどのダイアログでも有効なキャ ンセルのための Commande + ピリオド または Esc キーを使うことができ る)。

残念ながら、Command + Power は古い Mac にはあった物理的な“プログラ マー用スイッチ”の変りに使われるようになってしまった。デバッガがイ ンストールされているマシンで Command + Power を押すとプログラマー用 モードになり “>”だけが入ったダイアログが現れる。これは PowerBook で Mac OS 8 を動かしているユーザーが、アイテムをゴミ箱に入れようと Command + delete を押そうとした時によく出くわすものである。たいてい の PowerBook では、Power キーのすぐ下に delete キーが置かれているの だ。このような時は、(Go の頭文字)g を入れて return キーを押すのが 一番だろう。100 % とは言わないがたいていの場合、これで Mac はその前 の状態に戻ってくれる。

Windows ユーザーは、Mac はキーボードからできないことがあるとか、ア プリケーションをキーボードでコントロールできないと笑うが、上記のこ とを覚えておけば、今後は Finder をキーボードから操ることができるよ うになる。


私が CD-ROM を作った理由と方法

by Bonnie Lebesch <bonnie@bohem-int.com>
(翻訳:尾高 修一 <odaka@iprolink.ch>)
(翻訳:高島 均 <hitak@kk.iij4u.or.jp>)

[Bonnie Lebesch 氏に去年の夏に何をしたかを気軽に尋ねたところ、Stella and the Star-Tones というプロ顔負けの CD-ROM を自費出版したという答 えが返ってこようとは思いもよらなかった。また、彼女が CD-ROM は“赤 い星はどんな歌を歌うだろうか?”といった考えを追求させてくれると言う 時にどんなことを意味しているのかも見当がつかなかった。今ではこの表 現が適切で、この CD-ROM が解き放たれたイマジネーションにどういうこ とができるかを示す好例だと思うようになった。以下は Bonnie が Stella and the Star-Tones を自費出版するに至った過程だ。-Tonya]

この記事は、私が Stella and the Star-Tones CD-ROM を Bohem Interactive 社の名前で出版するに至るまでの長くてつらい道のりのあら ましだ。

<http://www.bohem-int.com/>

宇宙は私より大きかった -- 1995 年に、私は 3 年間続けた Microsoft 社で働く派遣社員(Microsoft 社員ではない)としての仕事に終止符を打っ た。Microsoft は私に CD-ROM 制作のいろはを教えてくれたし、ユーザー インターフェース(UI)デザインの分野で身を興すこともさせてくれた。 私は数々のリストラやプロジェクト中止をくぐり抜けたが、ついに去るべ き時が来たのだ。ここでは詳しいことには触れないが、私は Microsoft の 経営陣を信じることができなくなり、同時に私の人生は別の方向を向いて 動き出すように星が並んでいたのだ。

休息、読書、思考 -- 新たに手にした自由で、本来の関心に立ち帰り頭 の中でうごめいていた UI に関するアイデアを追求してみようと考えた。 混乱にしかつながらないような何層ものボタンや、恐怖の“ウインドウ” 地獄より良い方法があるに違いないと思ったからだ。私は 2 ヶ月の間、図 書館で月や星、それに星座や創造神話などの研究を行った。星座や神話に 関する本はどんなものでも読んだ。想像力をかき立てるため、平面天球図 や星図の勉強をした。

時間とともに変化するインターフェースというものをデザインするのはど だろう? 年間を通じて新しいエレメントが追加されるのだ。私の Power Mac 7100/66(56 MB の RAM 付き)で Photoshop を使って平面天球図を作成し た。次に、北半球で見える星を 12 ヶ月の間に見えるようなビューを作成 し、ギリシャの星図を使って神話をインタラクティブに表示することにし た。星図を平面天球図上にプロットし、テーブル大の星図として印刷し、 3 〜 6 歳の厳しい審査員たちの前に広げた。学校で天地創造神話を習って はいたものの、彼らはアンドロメダや岩や鎖には全く関心を示さなかった。 彼らが星を見上げるときには、点をつないで宇宙船やエイリアンを作り出 すということがわかったのだ! ではどうしたものか?

でっちあげ -- もちろん、“本物”の星座だってでっちあげなのだから、 古臭い方は捨てることにした。ビジュアルアーティストである私は、昔か ら点をつないで描いていく絵やクレヨンは大好きだった。そこで私は嬉々 として妙でおかしなエイリアンを描いた。私は子供がどのように遊んだり 学習するかを調べ、言語理論やブール理論、続いてカオス理論、量子力学、 共時性、そして普遍的無意識へと進んだ。至福の体験だった。

もう 4 ヶ月目に入り、夢中になっていた私はもう止められないし、止めた くもない状態になっていた。これでプロトタイプを作って資金を手に入れ れば、あとはロイヤルティーが流れ込んでくるはずだ。私は Microsoft で 働いている間にいくつもの CD-ROM を世に送り出したため、自分に CD-ROM タイトルを作る能力があると信じて疑わなかった。私にはソフトウェア会 社とは比較にならない予算しかなかったが( Microsoft は一つの CD-ROM 制作に 5 人から 40 人をあてがい、軽く年間 30 万ドルは使っていたの だ)私には才能とたっぷりの時間があった。

神の啓示 -- 宇宙の法則は気まぐれだ。不思議な出来事が続いて起こっ たのだ。たとえば、図書館で何気なく本を手に取って開いてみたら、“夜 空に踊る星たち”について書いてあった。ある夜、私は星図をどのように 描くかを考えていた。CD-ROM からの再生に向いていて、なおかつ私らしさ を演出できるスタイルが必要だったのだ。ということは 3 D なし、テクス チャーマッピングなし、それに Director でアニメーション化することが できなければならなかった。私は豊かな背景の上にシンプルな図形が載っ ているような絵を好んで描いたスペインの画家、ジョアン・ミロに思いを 馳せた。翌日、私はミロがこのスタイルの絵で、驚いたことに“星座”と いう名の作品群を描いていたことを知った。しかも、なんとこの星座はミ ロの独創だったのだ。彼は実に素敵な陽気なエイリアンや月や星を描いて いたのだ!(以下の URL にあるテキストはフランス語だが、画像を見るだ けで十分だろう。)

<http://services.worldnet.net/lerique/images22.htm>

Fractal Painter と Wacom のタブレットを使い、6 週間かけて 29 の星座 を描いた。バックグラウンドは青、黄色、赤、緑とシンプルな色に抑え、 その上にわずかにぼかしたエレメントを黒で描いていった。画面を賑やか にするためにおちゃめな星や渦巻、点も描いた。

逃げる資金 -- 私は Director 4.0 を使い、音声や子供のコメント、ア ニメーションからなるデモを作り、44 MB の SyQuest カートリッジに収め た。反響は最高だった。誰もが「これは間違いない。条件の良い契約を待っ た方が良いよ。」と言ってくれた。私は契約の交渉やロイヤルティ契約に ついて学び、詳細仕様書、スケジュール、予算を作成した。この未発表作 品の著作権を登録し非開示同意書で武装した。

続く 9 ヶ月というもの、数え切れないほどの出版社やデベロッパーが Stella を絶賛するのを聞いた。「あまりにも美しい!」「実にクリエイティ ブで楽しくてユニークだ!」。私は米国内すべての主なソフトウェア販売会 社に(多くの場合コネをたよりに)話を持ち掛けた。ある会社などはストッ クオプション付きのポストを約束してくれた。ただし、Stella の報酬、著 作権、制作に関する権利をすべて受け渡すという条件で! 非開示同意書へ のサインを拒否するプロデューサーもいたし、それどころか欲しいものは 盗めるような非開示同意書を逆提案してくるところもあった。

これだけ好評だった Stella にもかかわらず、なぜ私は投資してもらえな かったのだろう? 問題は Stella のクリエイティブでユニークな性格にあっ たのだと思う。出版社やソフトウェア販売会社から学んだのは、以前成功 した実績がないものにリスクを負いたがらないということだ。確立された ニッチがなければ、新たなジャンルのためにマーケティング努力を行いた くないのだ。

2 つの現実 -- このプロジェクトに取り組んでから 15 ヶ月が過ぎ、私 は 2 つの重要な事実を厳しく実感するに至った。それは、自分の夢の実現 のために誰であろうと給料を払わせるつもりはなかったし、かといって資 金不足が原因で夢がしぼんでしまうのは本意ではないということだった。 私は自分自身の手でこのプロジェクトを完成させたいと思った。それがた とえ自らが出版元となることを意味するとしても。そのために最初に手掛 けたことは、だんだんと忍び寄る“機能盛沢山”からプロジェクトを立ち 返らせることだった。たくさんの複雑な物語性、インタラクティブ性、ア ニメーションを削ぎ取り、音楽をメインとするインタラクティブ・モデル を探求し始めたのだ。

幼い子供が視覚的な支えを得てどのように音楽を学ぶのかを本で学び、そ してそこから答えを見いだした。もし一つ一つの星やスクリーンに並んだ 点を音楽フレーズに置き換えるとしたら、小さな赤い点に比べて大きな黒 い点はどのようなフレーズを奏でるのだろう? もっと進めて、それらが一 緒に演奏されたとき合奏を生み出すように作曲できるだろうか? とてもシ ンプル、ほとんどシンプル過ぎるように思えたが、私の手の届くところに あった。

零細プロダクション -- それからの数ヶ月、私は製作チームを編成し作 品を仕上げることとした。地域のデジタルメディア教室に参加していた 2 人の優秀な助手を得ることが出来た。彼らは学んだことを試すチャンスを 望んでいて、そして重要なことだが、無報酬で働いてくれたのだ。Clay Sherman 氏 <clay@mediaprose.com> は Director 5.0 のプログラミングを 担当し、Garrett Williams 氏 <gdoubleyou@sprynet.com> はオリジナル ミュージックの作曲に才能を発揮した。我等が 3 人のチームは、この製作 段階に必要な完璧なメンバー構成であったといえる。その活躍ぶりは次の ようなものである。

私が全ての素材を Fractal Painter で描き、それから色の作成とアニメー ションのため素材を Photoshop 3.0 に持ち込む。アニメーションは 3 つ のフレームまでに制限した。実際、ほとんどでマウスオーバー動作に応ず る一つのフレームがあるだけだ。カスタムパレットへ変換するため 2 次元 オブジェクトを DeBabelizer にかける。そうして出来たファイルを Director にインポートする。一つ一つを定められた場所のキャストウィン ドウに配置していく(キャストメンバーの役割については単純にしようと 決めてあった)。そして、それぞれを適切なステージとスコア位置に配置 していく。その後は、Clay が Lingo (Director のプログラミング言語) を使ってアクションが作動するようにし各パートをリンクさせるのだ。Clay は Rollover Toolkit(Tab Julius 氏作で Penworks 社が販売)というプ ラグインを使ってたくさんのマウスオーバーを可能にしていった。

<http://www.penworks.com>

オーサリング環境に Director を選んだ理由は、一つにはそのクロスプラッ トフォーム性だった。両方のプラットフォームで使える CD-ROM としてプ レスしたかったし、Director なら Mac と Windows でファイルを共有でき る。また、Stella and the Star-Tones をハードディスクにファイルをロー ドすることなく CD-ROM から直接プレイできるようにしたかったこともあ る。Director のファイルを Mac から移動して、Clay の特製 Windows マ シン(Cyrix P150 付き Pentium で 80 MB の RAM)でそれらを開き、また Mac に戻しても何の問題がなかった。

次は Garrett が音楽を付け加える番だ。Garrett は Power Mac 7100/80AV で作業を行い、彼のオーディオ用セットには、MIDI 機器、シンセサイザ、 Opcode 社の StudioVision、シェアウェアの D-SoundPro、Band in a Box、 それにサンプリング用ギターがある。マウスオーバーがアクティブになる と、Garrett はその動作にそれぞれサウンドトラックを作っていき、 Director のファイルに直接 AIFF サウンドを配置していくのだ。私たち は、オーディオファイルの起動とスムーズな再生にベストの応答性が得ら れるまで、一つ一つのサウンドトラックを調整していった。

この製作過程に完了まで 4 ヶ月を要した。それでもまだ、私は完成した作 品を取り上げてくれる出版元を見つけたいと思っていたし、また、商標名 の調査、テスト、マスターのプレス、パッケージのデザインなどをする必 要があった。

ビジネスにはオープン -- 1997 年の冬、製作を始めてから 2 年の歳月 がたち、ついに最後のステップを踏み出した。私は Bohem Interactive 社 を創設し、CD-ROM を自らの手で出版した。Bohem の道化のロゴはある日の 朝にデザインしたものだが、パッケージのデザインをやり終えるにはまる まる一ヶ月もかかってしまった。これには Illustrator と QuarkXPress を使用した(この上ない位多くのお金をシステムにつぎ込まなくても済む のだから、もうこれ以上印刷のためにデザインすることはないという幸運 の星々に感謝しながら)。適切な印刷業者とディスク製作会社を探すのに さらに一ヶ月を要した。こうして千枚のハイブリッド(Mac OS と Windows の両用)ディスクをプレスした。これがここまでにおける最初の実際上の 現金支出であった。4 月には、私はパーティーを開いて大騒ぎする子供や 大人たちに Stella and the Star-Tones をプレゼントしたのだ。

さて、ディスクが完成したが、それをどうしよう? 私はずっと以前からソ フトウェア流通業界に入り込むことは不可能だろうと決めていた。ソフト ウェアショップのほとんどが製品を棚に置くために法外な導入費用(2 千 ドルから一万ドル)を要求する。卸売業者やカタログ販売業者は出版元に 高価な広告スペース(そしてそのスペースはしばしば製品を販売リストに 掲げておくために必要なのだ)を売ることで利益を得ている。加えて、大 きな厚紙の箱の中に宝石箱をパッケージすることで製作コストが倍増して いる。そしてもしソフトウェアショップやカタログリストに載せるとすれ ば、それは 300 に及ぶ“驚愕の! 革命的な! 教育に最適な!”他のタイト ルたちの隣に並ぶことになるのだ。

Stella がソフトウェアゲームというよりむしろ音楽作品であったことか ら、私はミュージシャンやアーティストそしてその子供たちが買い物に来 る場所、人々が贈答品を求めに来る場所で最もよく売れるのではないかと 判断した。1997 年 5 月、私は Museum Store Association Trade Show で 一つのブースを構えることにした。美術品販売店からの買い付けや贈答品 市場から来る卸売業者の興味を引くことを期待したのだ。それはもうへと へとになる位疲れる経験だったが、うまくいったのだ! ここで、美術品、 贈答品、子供向け商品、書籍、音楽などを扱う卸売業者に出会った。うれ しいことに今や“私の作品がたくさんの有名な美術館に置かれているのよ” と言えるのだ。

インターネットは市場へ -- 卸売業者を見つけたことは大きな前進だっ た。でも、売れるかどうかはまた別問題だ。CD-ROM を売るのに最大の困難 な障害となるのは、実際に動作するさまを見せられないことだ。それがど んなディスクであるか、どのように動作するか、目にするもの耳にするも のを説明することは出来ても、実際に動かしてみることにはかなわないの だ。これについては、インターネットを使って、短いデモではあっても人々 にプログラムを動かしサウンドを聴く唯一の機会を提供できた。

オンライン販売を気楽に利用する人はほとんどいないだろうと考えている が、インターネットを商品の品定めや購入に利用するユーザー専用の信頼 できるネットワークが存在している。Bohem Interactive 社にとって、イ ンターネット販売はコストのそれ程かからない一つの実験である。そして、 インターネットは世界中すみずみまでに及んでいる。このことは利点であっ て、何故なら Stella は事実上テキストを使わず、したがってあらゆる文 化や教育環境にある人々がすぐに使えるからだ。

終わりに -- 私のいとこが彼の 6 歳の娘のためにディスクを家に持ち 帰った。彼は、実際に動くかどうかを確かめ、娘に説明する前に自分なり に理解しておこうと、まず自分で試すことと思い立った。ところが、彼に はルールが理解できず、いらいらすることとなった。一方彼の娘はといえ ば、やってきて一目見てから遊び始めるや否や“すごいよ、パパ!”と叫ん だのだ。いとこは、Stella を学ぶために最も大事なこと、ルールもなく、 ゴールもなく、失敗もないのだということを実感した。ただ遊ぶだけでよ いのだ。

Stella はおもちゃであって楽しい経験である。それをまとめ上げるのはと ても骨の折れる作業だったが、ずっと喜びの源であり続けている。私は愚 か者(それは Bohem ロゴのインスピレーションの一部をなしている)かも しれないが、もし環境が整えばまたもう一度やるに違いない。もちろん、 多くの人にはこのような気が狂わんばかりの悪魔に取りつかれたかのよう なゴールを勧めたりはしないのだが。それは自らの生活のほとんどを費や し、集めうる最後の一滴までの集中と力と献身を要求するからだ。私は、 あたかも、創造という点で哲学博士を修めたような気分、信念という点で は経済管理学修士として働いているような気分なのだ。Stella は私のこれ までの創造的作品の代表作となり、そしてライフワークが何であるかを理 解するのに私を一歩近づけてくれたのだ。

<http://www.bohem-int.com/>


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