TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#428/04-May-98

ワーム警報! 今週の Autostart-9805 に関する記事を読み落とさないよう。 Autostart-9805 はデータを破壊するワームで警戒が必要だ。また Adam が ソフトウェアドキュメンテーションの嘆かわしい現状を分析し改善策を提 案する。加えて Eudora Internet Mail Server のアップデート、Apple 社 と Hewlett Packard 社の Mac プリンタに関する新合意、Dantz 社の Retrospect Driver 1.4、MindVision 社のフリーウェアとシェアウェアの 開発者向け無料 Installer VISE license、滑稽に見える ZipPlus の問題 点などについてお届けする。

目次:

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MailBITS/04-May-98

(翻訳:秋山 晃子 <nobineko@club.udn.ne.jp>)
(翻訳:高島 均 <hitak@kk.iij4u.or.jp>)

ZipPlus の大きな欠点 -- Iomega 社は最近 ZipPlus ドライブの互換性 に関するガイドラインを改訂した。Iomega 社が ZipPlus ドライブをテス トする際にへまをやったか、現実を甚だしく軽視していたかのどちらかだ ということが、このガイドラインから読み取れる。ZipPlus は ZipPlus ド ライブが SCSI に接続されているのか、パラレルポートに接続されている のかを専用の青い AutoDetect ケーブルを使って検出する。しかし専用ケー ブルを使用しなかったり、変換アダプタやジェンダーチェンジャーを使っ たり、複数機器を連ねた SCSI チェーンで ZipPlus を使ったりした場合に はシステムの互換性に問題が起きてデータが失われることがある。Iomega 社はまた、ケーブルに関係なく ZipPlus を PowerBook に接続しないよう 警告している。次は何だろう? 涼しくて暗く騒音の届かない所に ZipPlus を保管するようユーザーに求めてくるのだろうか? この問題の技術的な解 決策を Iomega 社が早急に提出してくれることを望む。 [JLC]

<http://www.iomega.com/product/zip/zipplus.html>
<http://www.iomega.com/support/techs/zip/zpluswp.html>

ベイビー、僕のテープもドライブしてくれるんだね -- Dantz Development 社が Retrospect 4.0 Driver Update 1.4 の無料配布を始め た。これは数々の新しい CD-R ドライブ、テープドライブ、そしてオート ローダー(複数テープ間の切り替えを自動的に行う装置)などのサポート を Retrospect に追加するものである。Retrospect 4.0 は主要な Macintosh バックアップアプリケーションで、既にたくさんのバックアッ プ装置をサポートしている。詳細なリストは Dantz 社の Backup Mechanism Compatibility List を見てほしい。Retrospect Driver Update 1.4 は 111K のダウンロードである。 [ACE]

<http://www.dantz.com/upgrades_and_updates/rdu.html>
<http://www.dantz.com/backup_hardware/mech_list.html>

Mailsmith 登場 -- 今日 Bare Bones Software 社は待望のメールクライ アントプログラムの出荷を発表した。Emailer や Eudora、Netscape Communicator、Outlook Express、QuickMail Pro、これ以外のメールソフ トも含めると、多数の製品がメールプログラム市場でひしめき合っている ような状況だ。そのなかで Mailsmith はいくつかの珍しい機能を提供して いる。Mailsmith が提供するのは、1)送信、受信、フィルター処理を作業 と同時進行で行うマルチスレッド機能、2)複数条件と複数動作の設定がで きるフィルター機能、3)“ファジー”な検索機能、4)検索やフィルター での grep パターンマッチ機能、5)データベース化されたメール管理機 能、6)完全な OSA スクリプティングと記録の機能、7)BBEdit で使われ ている基本的なテキスト編集機能、などである。Mailsmith の販売価格は 79 ドルになる予定。BBEdit の現登録ユーザーは 59 ドルで購入できる。 またほかのメールソフトのユーザーには割引価格が用意されている。Bare Bones FTP サイトからデモ版を入手できるが、今はアクセスを受け付けて いない。 [ACE]

<http://web.barebones.com/press/msmithpr.html>
<http://web.barebones.com/products/msmith/msmith.html>

HP 社のインクジェットが Mac 対応に -- Apple 社の StyleWriter が過 去の歴史となった今、Apple 社と Hewlett-Packard(HP)社は、先週、今 後 HP 社から発売されるインクジェットプリンタが Mac OS 対応となり、 また、Apple 社では何種類かの HP インクジェットプリンタを教育市場顧 客に直接販売するとアナウンスした。おそらくこれで、学校では一回の注 文でマシンとプリンタとを購入できるようになるだろう。HP ブランドのプ リンタは、今年の後半には Apple Store などの直販ルートを通じて顧客に も提供されるはずだ。HP プリンタ用 Mac OS ドライバはどうやら Apple 社でも HP 社でも開発されないようだ。このことは、Apple 社の StyleWriter ドライバが総じて優秀であった一方、HP 社の Mac OS プリン タドライバがしばしば複雑なバグを抱えていたことからすれば、同時に良 いニュースでも悪いニュースでもある。両社に代わって、HP プリンタ用 Mac OS ドライバは Infowave 社から提供される。同社は、広範な PC 用プ リンタを Mac で使用可能にする PowerPrint や、インクジェット用 PostScript インタプリタである StyleScript などのメーカーである。そ してこのドライバは Apple 社の ColorSync カラーマッチング技術をサポー トすることになるだろう。[GD]

<http://www.apple.com/pr/library/1998/apr/28hp.html>
<http://www.infowave.net/whats_new/html/04_06_98.html>

フリーウェアやシェアウェアを VISE で固めよう -- MindVision Software 社は、同社の Installer VISE インストールソフトウェアを無料 で利用可能にする、シェアウェアやフリーウェア開発者向けのフリーライ センスをアナウンスした。Installer VISE 5.0.1 は、数多くの先進的機 能、すなわち Web ベースのインストーラ、アイコンの正確な配置、ユー ザー定義によるフォーム、MindVision 社の Updater VISE 技術との統合、 製品のオンライン登録などを提供する。Apple 社がそのデベロッパーサポー トプログラムを 100 社の大規模な Macintosh デベロッパーに絞り込んで いる( TidBITS-425 の“デベロッパー用プログラムと QuickTime ライセ ンスでの激怒”を参照)現在、Macintosh 業界のほかのメンバーが小規模 デベロッパーをサポートするのはすばらしいことだ。[ACE]

<http://www.mindvision.com/Pricing/shareware.html>
<http://www.mindvision.com/News/Mac5.0/ComingSoon.html>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=04821>

Eudora Internet Mail Server 2.1 がリリース -- Qualcomm 社は、 Eudora Internet Mail Server 2.0 もしくは 2.0.1 をバージョン 2.1 に する無料アップデータをリリースしたところである。重要な新しい機能に は、Open Transport 1.3 下での IP マルチホーミングのサポート、送信 メッセージキューのリモート表示や操作、ユーザーのインポートとエキス ポート、メールリレーにおける IP アドレス制限の割当てを含む。また、 ユーザーインターフェースの変更、バグの修正、特に EIMS Admin プログ ラムへの情報ダウンロード時におけるパフォーマンスの向上も行われてい る。Eudora Internet Mail Server 2.1 はオンラインのみで入手可能で、 価格は 199 ドルである。Eudora Pro の 5 パック付きなら 299 ドルだ。 無料アップデータは 1.6 MB のダウンロードである。[ACE]

<http://eudora.qualcomm.com/eims/>
<http://eudora.qualcomm.com/eims/updaters.html>


Mac ウィルスの静寂を破る“自動起動”ワーム

by Mark H. Anbinder <mha@tidbits.com>
(翻訳:西村 尚 <hisashin@axes.co.jp>)

最後の Macintosh 固有のウィルス登場後ほぼ 3 年、新しい Macintosh malware(悪意をもって設計されたコード)が出現した。このワームはデー タファイルを上書きするように設計され、最初の発見地点である香港のデ スクトップ・パブリッシング界で迅速に広がった。(作動するためには他 のソフトウェアに自分自身を結合しなければならないウィルスと違い、ワー ムは自分自身で実行する。)

このワームは、抗ウィルス・アナリストたちが Autostart-9805 と名づけ ており、CD-ROM の挿入後ただちにプログラムを開始させる QuickTime 2.0 以降の機能を利用する。QuickTime 2.5 以降では、QuickTime 設定コント ロールパネルでこの機能を無効にできる。

内部的な働き -- アナリストによると、このワームはほとんどどんな HFS または HFS+ ディスクボリュームを介しても伝播されうるという。フロッ ピーディスク、ほとんどのリムーバブルなカートリッジドライブ、MO ディ スク、記録可能な CD ディスク、ハードディスク、さらにマウント可能な DiskCopy または ShrinkWrap ディスクイメージ・ファイルなどである。こ のワームは Mac OS の走る PowerPC システム上でのみ作動し、最初は CD-ROM を自動的に再生する機能を有効にして QuickTime 2.0 以降を走ら せているコンピュータだけを感染させる。

感染したディスクには、ルートディレクトリに タイプ:APPL、クリエー タ:???? の DB という名前の不可視のアプリケーション・ファイルが置か れ、自動再生属性がそのディスクのブートブロックにセットされる。この 感染ディスクがマウントされると、DB アプリケーションが起動し、自分自 身を使用中のシステムフォルダの機能拡張フォルダにコピーする。このコ ピーもまた不可視ファイルで、Desktop Print Spooler という名前を持ち、 そのタイプは appe である(このファイルを可視で正当なデスクトップ・ プリンタ・スプーラ機能拡張と混同しないように)。その後、このワーム がコンピュータを再起動し、不可視の Desktop Print Spooler を介してメ モリに再読み込みされる。Desktop Print Spooler はフェイスレスなバッ クグラウンドのアプリケーションとして作動し、アプリケーション・メ ニューに現れない。

約 30 分ごとに、このワームがマウントされているボリュームを調べ、感 染されていないものどれにでも、自分自身を自動再生可能状態で DB とし てルートディレクトリにコピーし戻すことで感染させるよう試みる。その 後、マウントされているボリュームを検索し、“data”、“cod”、“csa” で終わる名前を持ち、データフォークが 100 バイトよりも大きいファイル か、または“dat”で終わり、約 2 MB よりも大きいファイルを探す。そう いうファイルを見つけると、このワームがそのデータフォークの最初の約 1 MB をゴミで上書きするのだ。

感染しているか? いまのところ、抗ウィルス専門家は AutoStart-9805 が香港のデスクトップ・パブリッシング界をはるかに越えて広がったとは 考えていない。だから、このワームがさらにもっと遠くまで広がらないよ うにすることはできるはずだ。旧いウィルス定義ファイルは役に立たない ことを思い出して、自分の抗ウィルスユーティリティの版元の最新のアッ プデートを調べよう!自分でチェックできる目に見える症状には次のよう なものがある:

予防策 -- 新規の感染の危険は、QuickTime 2.5 以降では QuickTime 設 定コントロールパネルの CD-ROM を自動的に再生する機能を無効にするこ とで効果的に排除できる。しかし、これはシステムがすでに感染していた 場合は役に立たない。また、感染した Mac がネットワーク共有されている システムのボリューム上に不可視 DB ファイルを作成することも防げない。 2.5 より前バージョンの QuickTime は自動再生機能を無効にするメニュー を欠いているので、Apple 社の QuickTime グループは、旧いバージョンを 持っている場合は、QuickTime 2.5 にアップグレードすることを勧めてい る。“オーディオ CD を自動的に再生する”を無効にする必要はない。通 常のオーディオ CD はこのワームを運べないからだ。

<ftp://ftp.info.apple.com/Apple_Support_Area/Apple_SW_Updates/US/ Macintosh/System/QuickTime/Older_QuickTime/>

ユーティリティ -- Dr. Solomon 社の Anti-visus Toolkit と Virex は、このワームに対処できるようにアップデートされており、Symantec 社 は SAM 用のアップデートをリリースするだろう。John Norstad 氏のフリー ウェア、Disinfectant はこの問題を検知できないので、検知できる最新の 商品ユーティリティを使うように勧めている。彼は Disinfectant が Autostart-9805 を扱えるようにアップデートするかどうかに関してまもな く発表を行う予定だ。

<http://www.drsolomon.com/products/avtk/ps_mac.html>
<http://www.drsolomon.com/products/virex/>
<http://www.symantec.com/sam/>
<ftp://ftp.nwu.edu/pub/disinfectant/>

Apple 社の QuickTime エバンジェリストである Charles Wiltgen 氏は、 「商品ユーティリティのベンダーができる限り迅速にこれに対応してくれ た」と喜びを表した。Wiltgen 氏は、QuickTime ユーザーが特に必要にな るまで CD-ROM を自動的に再生する機能を無効にし、現行の抗ウィルスユー ティリティを入手して使用することを奨励している。


ドキュメンテーションの死

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:尾高 修一 <odaka@iprolink.ch>)
(翻訳:尾高 里華子 <odaka@iprolink.ch>)

ちょっと歌詞が変になっているが、頭の中で鳴り続けている歌がある。Pete Seeger の「マニュアルはどこへ行った、ずっと前から」という歌声だ。ど うやらこの歌が鳴り止むまでもうしばらくかかりそうだ。

今週、Avi Rappoport 氏によって書かれた WebSTAR 3.0 のすばらしいマ ニュアルに嬉しい驚きを覚えたことを別とすれば、最後に製品のドキュメ ンテーションに感心したのはいつだったか思い出せない。なんといっても 最近の製品には紙に印刷されたドキュメンテーションが付いてこないこと だって多いのだ。インターフェースから直接うかがい知ることのできない ことを実際に教えてくれた、往年の素晴らしいマニュアルたちはどこに行っ てしまったのだろう? 確かによくできたマニュアルというものがどちらか というと例外だったことは認めるが、特に素晴らしかったものも覚えてい る。Suitcase の最初のマニュアルは Macintosh のフォントがどういう仕 組みになっているかを見事に解き明かしていた。初期の Norton Utilities のマニュアルも Macintosh のディスクがどんな構造になっているかを詳細 に解説していた。

今日のマニュアルは、仮に印刷物として存在している場合、書籍よりは小 冊子と呼ぶにふさわしいものだ。単に厚みがあればそれだけで内容も素晴 らしいとは限らないが、プログラムを作った会社よりも正確で網羅的なレ ファレンスを作ることができる者はいないのだ。市販の書籍の方がより良 くできていて、プログラムの欠点を正直に語ることはできても、社内のラ イターのようには簡単にデベロッパーやテスターへアクセスすることはで きない。

最近リリースされたばかりの Microsoft Office 98 を例にとろう。Word、 Excel、それに PowerPoint という複雑で強力なプログラムで構成されてい るのに対し、印刷物のドキュメンテーションは薄い(Word 248 ページ、 Excel 244 ページ、PowerPoint 160 ページ)3 冊の“Getting Results” マニュアルだけだ。これはすでに経験のあるユーザーに目的指向のヘルプ をまとめたものとなっている。Word マニュアルの前書きは、「この本を最 も役に立つと感じるのは、Word をすでに使っていて、ほぼやりたいことは 何でもできるというユーザー」だと述べている。初心者ユーザーは基本中 の基本しか書いていない 50 ページの Getting Started の章へと案内され る。一方、パワーユーザーやシステム管理者は Web ベースの Microsoft Office Resource Kit(Microsoft Press 社から 60 ドルで販売されてい る)へ連れていかれる。

<http://www.microsoft.com/office/ork/>
<http://mspress.microsoft.com/prod/books/1329.htm>

一つだけのどう考えても混乱の元になる用語(Mac ではメニューを クリック するのではなく、メニューからアイテムを 選択 するのだ) を別とすれば、Office のドキュメンテーションは悪くはない。目的指向の ヘルプは極めて有益だ。ただ、これまで Microsoft 社が提供してきたリ ファレンスが欠けているため、とにかく不完全なのだ。この点はすでに何 人かの TidBITS 読者も嘆いている。Microsoft Office のドキュメンテー ションは最近数多い薄っぺらなドキュメンテーションの一例に過ぎない。 Qualcomm 社の Eudora Pro 4.0 のマニュアルもそうだ。

マニュアルの変貌 -- それでは、マニュアルはなぜ、どこに消えてしまっ たのだろう? 主な理由はコストだ。優秀なテクニカルライターを雇って役 に立つマニュアルを作るのには費用がかかる。もちろん印刷費だって必要 だ。マニュアルが大型化するにつれてパッケージの重さも増大し、送料も 上昇する。この良い例として、最近 Casady & Greene 社がリリースした Grammarian には電子マニュアルが付属し、印刷されたマニュアルは 15 ド ルで販売されている。

<http://www.casadyg.com/products/grammarian/>

こういう物理的な制約だけが問題なのなら、よくできた電子ドキュメンテー ションが私たちの目に触れているはずだ。しかし、電子ドキュメンテーショ ンは紙のものと同じか、さらに悪い。粗悪なドキュメンテーションの原因 はもっと根深いのだと思う。

わずかながらドキュメンテーションの品質低下の責任の一部は Apple にあ ると言っても良いだろう。Apple は Macintosh プログラムの基本的な操作 のルック フィールが同じになるように強制することによってプログラム が簡単に使えるようにしたのだ。一定の規範に欠けるシステム、特にグラ フィカルなインターフェースからコマンドを探すことができないような場 合(たとえば DOS や Unix のコマンドライン)には、ドキュメンテーショ ンが必要なことが多い。そうでなければユーザーは手も足も出ないだろう。

私たちユーザーにも責任はある。Macintosh ユーザーは常に「マニュアル なんか読んだことがない」がお題目だったからだ。事実 Mac ユーザーはマ ニュアルを読まないというのはおおむね当っている。ユーザーはマニュア ルが単に余分なおまけでしかないほどソフトウェアが簡単に使えるべきだ と思っているのだ。ものによってはそこまでシンプルなものもあるが、ほ とんどのものはそうではない。実際には複雑で強力なプログラムなのに、 それがあたかもシンプルなものであるかのように見える薄いパンフレット を作るほうが安くあがるのだから始末に終えない。

コンピュータ本にも同じ傾向が見られる。『Internet Starter Kit for Macintosh』という大著を書き上げた者として、多くの人がもっと情報量が 少ない方が良いと言ってきたことに愕然とした。価格が高いことを嫌って いたのではない。一冊丸々読みたくはなく、明らかに読む必要のない章を 読まずに飛ばすことが気に入らなかったのだ。「これは面白い」と私は思っ た。「これを極限まで進めれば、情報量がゼロでもみんな 30 ドル払って くれる!」

インターネットにもわずかながら責任はあると思う。パブリッシングを一 般に解放した民主的メディアとしてのインターネットの力は評価するが、 オンラインで目にする文章は、プロの手で書かれ、構成され、編集された 文章が持っている洗練を欠いている。情報の質が高ければ洗練されていな くても構わないが、インターネットにあるもののほとんどのクオリティは あまりにもひどいので、社会の方が低水準に慣れてしまうことになる。そ うして特に電子ドキュメンテーションは採点が甘くなってしまうのだ。

最後に、マニュアルを執筆する人たちは文章を書くことに生きがいを感じ ている人たちではないが、正確で有能ではある。しかし、複雑な内容を色々 な層の人たちに平明に説明することで生計を立てている、教師という職業 の人たちとも違うのだ。情報をどうやって書いて構成したら良いかを考え るのは簡単ではない。かつ常に読者のニーズを念頭においておかなければ ならない。読者が学ぶ手助けをするという姿勢を見失ってしまうと、つま らないマニュアルが生まれるのは必然だ。

自動化傾向 -- ドキュメンテーションの現状を嘆いておきながら改善の ための提案をしないというわけにはいかないだろう。

まず、これは私自身の著作に対してもらったコメントに基づいた意見だが、 すべての文章からは人柄が見えなければならない。態度をはっきりと見せ、 個性が溢れ出るようにすべきだ。この問題をよく示しているのが Microsoft Office 98 のドキュメンテーションだ。印刷されたマニュアルとオンライ ンヘルプはかなり無味乾燥としているが、このプログラムの目玉の一つは 親しみのもてる Mac に似た Office Assistant、Max なのだ。Max のおふ ざけは時にうっとうしいが、Max が好きな人は Max が楽しい存在だから好 きなのだ。マニュアルとオンラインヘルプも彼の人柄にあやかってもらい たいものだ。

次に、良いオンラインドキュメンテーションを作るには丁寧によく考える ことが必要だ。最初にしなければならない決断はフォーマットに関するも ので、これは執筆作業に入る前に考えなければならない。たとえば、多く の会社はただマニュアルを PDF ファイルに出力して、Acrobat Reader を 付けて出荷してしまう。これは最低で、ほとんどの場合使用不能なドキュ メンテーションになってしまう。

PDF を使うなら、画面上でも印刷物でも読めるようなデザインにする必要 がある。オンスクリーン版は一般的なスクリーンフォントを使い、ナビゲー ション用ブックマークやリンクといった PDF の機能を利用すべきだ。PDF ファイルでは Acrobat の検索機能にも触れておくべきだろう。誰もが熟練 した Acrobat ユーザーだと思ってはいけない。検索は大切な機能だ。もし 他のフォーマットを使うなら、必ず検索可能であることを確認するように! PDF ベースの電子ドキュメンテーションの良い例は、Dantz Development 社から新しく出た Retrospect Express のマニュアルだ。英、仏、独の 3 ヶ国語がそれぞれたった 12 ページのドキュメンテーションしか付いてこ ないのは残念だが、オンラインマニュアルは万全で、良く書かれており、 画面上で読むことを前提にデザインされている(しかも印刷する際の tips も盛り込まれている)。ナビゲーション用ブックマークに加え、目次の見 出しをクリックしたら該当するページにジャンプできるようにもなってい る。

<http://www.dantz.com/sp/808.html>

PDF を作るのは、特に印刷マニュアルの電子版を作るためには比較的簡単 だが、最近では HTML の方が一般的なようだ。しかし、HTML 版マニュアル というものも完璧ではない。Web ブラウザは複数の Web ページを一度に検 索することはできない(Web サイトのオンライン検索エンジンにリンクす ることはできるが)。また、ナビゲーション用のコントロールをふんだん に用意しておかないと、マニュアルの中を動き回るのはいらいらの元にな る。

運用の妙 -- 程度の低いマニュアルを出している大企業には弁解の余地 はない。特に、それがその企業の顔ともいえる製品で、小売価格が 100 ド ルを超えるようなものであればなおさらだ。ドキュメンテーションを良い ものにしようとすると開発経費がかさむだろうが、これらの企業はすでに ドキュメンテーションに相当なお金をつぎ込んでいるのだ。

大企業にとってこの問題を解決するのはたやすいだろう。マニュアルを書 く専門のライターを雇うのだ。一つのプログラムのことを取り上げている 本に目を向けていただきたい。1 万〜 1 万 5000 部以上売れている本、つ まりライターが税引き前の金額で 1 〜 2 万ドルを稼いでいるような本な どほとんどない。景気の良い会社にとって、高品質のマニュアルを作成す るために人(またはグループ)を雇う費用として 4 〜 5 万ドルをかける のは大したことではないだろう。確かに、ベストセラーになって印税を稼 ぐというチャンスはライターからはなくなってしまうが、実際ほとんどの 出版会社は“買い取り”として執筆させるケースが多く、印税が現実のも のになることはない。

マニュアルはただ書けばでき上がるというものではない。キャリアのある ライターはただ書くだけでなく本の作成にもっといろいろと貢献してくれ ることが多い。出版会社によっては索引作成をライターに任せたり(索引 作成の専門家は素人よりも必ず良い仕事をしてくれる。 TidBITS-333 の “とっても大事な索引”を参照)、PostScript ファイルで原稿を出すよう に要求するところもある。たとえば、Eudora Visual QuickStart Guide を 執筆した時、私は Peachpit 社の流儀にしたがって書き、QuarkXPress の テンプレートファイルでレイアウトし、Tonya を拝み倒して編集してもら い、さらに索引作成には自費で専門家を雇った。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=00963>

会社独自のライターを見つけようと思わない大企業は、同様のサービスを してくれるような出版会社と契約しても良いだろう。出版社を使うことは 経費の増加に繋がるだろうが、マニュアルの質はさらに向上するのだろう。 出版社にはプロの編集者がいるし制作部門があるのだから。少なくとも、 出版社は既にこのような本を出版しているのだ。最近では手にするほとん どのマニュアルの代わりに Peachpit 社の Visual QuickStart Guides を 満足して使っている。もっとも、それらは目的指向で詳細なリファレンス にはなっていないのだが。

良いマニュアルの作成は技術サポートの費用の削減になるのだが、ほとん どの大企業はサポートのを有料化しているのが現状で、サポートの需要を 減少させることはありがたいことではないのかもしれない。実際、いい加 減なマニュアルを作ることはサポート収益に貢献してくれるとまで言う者 もいる。

元手薄の人のためのドキュメンテーション -- では小さな会社はどうす れば良いのだろうか。可能性は厳しくなるように思えるかもしれないが、 小さな会社の製品はシンプルな場合が多く同様の問題を抱えることにはな らない。ただし、決して小さな会社がドキュメンテーションをないがしろ にしても良いと言っているのではない。良い ReadMe ファイルは、とりわ けインターネット上だけで扱われているソフトでは不可欠なものである。 Tonya はここ数年この話題に関する記事を何度か書いているが、その大半 はいい加減な ReadMe ファイルに腹を立てて筆を執ったのだ。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbser=1039>

ReadMe は必需品だが、大抵のプログラムにはマニュアルも必要である。小 さな会社には専門のライターを雇うだけの余裕はないかもしれない。そこ でマニュアルを作成する際のひな型のようなものを提案しておきたいと思 う。このひな型にあまり捕われすぎないようにしていただきたいが、これ に沿って作成すればそこそこの結果は出すことができるだろう。

使い物になるドキュメンテーションを作成することは決して簡単ではない が、やりがいのある作業だと思うし、ユーザーの満足とテクニカルサポー ト費用の削減にも繋がるのだ。特にこれは小さな会社や独立したデベロッ パーにとって重要なものであろう。


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