TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#456/23-Nov-98

ところで Microsoft 反トラスト訴訟は Apple 社とパソコン業界にどんな 影響を与えるだろうか? Matt Deatherage 氏がこの問題に関する分析を今 週号で締めくくる。また AOL 社と Netscape 社の合併交渉について、Sun 社が Microsoft 社を訴えた Java ライセンス訴訟で、仮差し止め命令を勝 ち取ったニュースなどをお届けする。Microsoft 社関連以外のニュースで は、Speed Doubler 8.1.2 と WebSTAR 3.0.2 のリリース、そして Apple 社の iMac ファイナンス協定について詳しくお伝えする。

目次:

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MailBITS/ 23-Nov-98

(翻訳:秋山 晃子 <nobineko@club.udn.ne.jp>)

AOL と Netscape? -- America Online 社と Netscape Communications 社が、両社の間である交渉が進行中であることを正式に認めた。それによ ると America Online が Netscape を AOL 株 40 億ドル相当で買収し、Sun Microsystems 社が Netscape のハイエンドビジネスとエンタープライズ サーバ向け製品を買い取る、あるいは販売ライセンスを取得するというも のだ。契約が成立した場合、AOL が Netscape の Web 閲覧ソフトウェア (ブラウザ市場のほぼ半分を占める)と、利用者が大変多い NetCenter Web サイトを受け継ぐ。Microsoft 社はこの契約の噂を Microsoft 反トラスト 裁判に利用しようとし、Microsoft は政府の介入がなくても厳しい競争に 直面することになるだろう、と発言している。Microsoft に反対の立場の 者なら、Netscape のような大企業でさえ Microsoft に太刀打ちできない ことが、今回の合併交渉によっていっそう明らかになった、と反論するこ とだろう。 [GD].

Speed Doubler 8.1.2 Update、バグを一掃する -- Connectix 社がバグ 修正と互換性を向上させた Speed Doubler 8.1.2 をリリースした。高速 ファイルコピー機能はいろいろ変更されているが、起動ボリュームがロッ クされていても動作するようになり、フォルダナビゲーションでフォル ダが適切に動作するようになり、コピーウインドウがスクリーンの外に置 かれてもクラッシュしなくなっている。また Copy Agent スケジュールの 設定ダイアログで OK あるいは Cancel をクリックしたとき Mac OS 8.5 環境でクラッシュする問題があったが、このアップデートで解決された。 Connectix は Speed Doubler 8 のすべてのユーザーに対し 8.1.2 にアッ プグレードするよう勧めている。516K のダウンロードで無料で入手でき る。 [JLC]

<http://www.connectix.com/html/speed_doubler_updates.html>

Sun 社が予審で勝利、Microsoft Java に差し止め命令 -- Sun Microsystems 社が Microsoft 社を訴えた一年間にわたる Java ライセン ス訴訟で、連邦第一審裁判所の Ronald Whyte 判事が、Sun から出された Windows 用 Microsoft の Java インプリメンテーションの仮差し止め請求 を認め、Microsoft に 90 日間の猶予を与え、その間に Sun の使用許諾に 準拠した Java 関連製品に変更するよう命令している。実質的には Microsoft の Java 関連製品が、Sun の Java Native Interface (JNI) を Java ランタイム環境でサポートすること、Sun の Java 互換テストに パスすること、Java 開発ツールのデフォルト設定で非標準のコンパイラ命 令とキーワードを使用禁止にするなどが求められる。Microsoft はまた、 Sun の使用許諾に違反しているという仮判決が下されたことをユーザーに 通知しなければならず、開発者が Sun の Java 技術に非互換のコードをコ ンパイルしている場合は警告しなくてはならない。Microsoft は決定には 従うと述べる一方で、予審判決の結果から本裁判でも Sun が勝訴するよう に見られているが、最終的に Microsoft が勝訴した場合に備えて Sun に 1500 万ドルの債券を売りに出すよう要求した。裁判所の決定を反映した動 きがすでに現れてきている。Microsoft が Macintosh と Unix 向け Java バーチャルマシーン(VM)の提供を中止すると発表したが、裁判所命令に 応じることがこの決定の一因になったと考えられる。 [GD]

<http://java.sun.com/lawsuit/>
<http://www.microsoft.com/presspass/features/11-17sun.htm>
<http://www.zdnet.com/zdnn/stories/news/0,4586,373263,00.html>

WebSTAR 3.0.2 Update リリース -- StarNine Technologies 社が広範に 使われている Web サーバの新バージョン WebSTAR 3.0.2 をリリースした。 WebSTAR 3.0.2 は目立たない所で多くのバグ修正と改良が加えられている。 その中には、格段に改良された FTP と MacBinary 機能、データキャッシュ の改良、多くのバグ修正、PowerPC システムで発生する Open Transport メモリリークの回避策などが含まれる。WebSTAR 3.0.2 は WebSTAR 3.x の 正規ユーザーなら無料で入手できる。12.6 MB のアップデータは WebSTAR 3.0 か 3.0.1 のどのバージョンでも(バックグラウンドバージョンと SSL バージョンを含む)バージョン 3.0.2 にアップグレードできる。Web サー バソフトウェアをアップデートする過程は複雑なので、アップデートする 前に必ず現在の設定の完全なバックアップを取り、StarNine の詳しい使用 説明書を読んでおくべきだ。 [GD]

<http://www.starnine.com/webstar/webstarupdates.html>


続・iMac ファイナンス

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:尾高 里華子 <rikako@pobox.com>)

一月 30 ドルの月賦払いで iMac を購入することへの私の記事 ( TidBITS-454 の“iMac が月々 3 枚のピザと同じ”)に対するコメン トを受け取った。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05167>

老 Mac も頑張る -- コンピュータ一台を 5 年半もかけて支払っていく と、支払が完了する頃にはマシンは時代遅れのものになっているだろう。 そこでこれは長すぎるのでは述べたところ、数人の人から反論があった。 我々は古い Mac も可能なかぎり元気で使い続けるように説いている。実際 に私たちは 1990 年ごろに SE からアップグレードした SE/30 を今でも酷 使している。その SE/30 で Fog City 社製の優秀な LetterRip Pro を利 用した 20 以上ものメーリングリストに登録されている何千という登録者 の管理を行っているし、Now Contact と Now Up-to-Date のサーバを動か し、Maxum 社製 PageSentry で他のサーバをモニタし、さらには LocalTalk LaserWriter で印刷するための LaserWriter Bridge にも使用している。 Kernel Productions 社製クラッシュ検知ディバイス Lazarus をインストー ルしてあるが、大抵は何週間も問題なく動いてくれる。私が言いたかった のは、同じ金額で買えるさらに新しくさらにパワフルなマシンが毎年出て くるのを横目に月賦を払い続けたいとは思わないということだ。

<http://www.fogcity.com/>
<http://www.maxum.com/PageSentry/>
<http://www.kernel.com/lazarus.html>

違約金をともなわない前納 -- 大切な条項を一つ見逃していた。小さな 文字ではあるが、Apple の iMac のファイナンス協定には前納の際の違約 金がかからないとある。つまり、手元に iMac を購入する資金がない場合 は、Apple の行っている分割払い方式を利用し月々 30 ドルを支払うのだ が、いつでもそれ以上の金額を払うことができる。前払いすると当然支払 総額が減るわけで、投資でもして 15 パーセント以上の儲けが確実に得ら れるのではないかぎり、金銭的にも正しい判断である。

インターネットサービスのセット販売 -- 最後にマシンの価格にインター ネットサービスを組み込むことはすでに行われていることが判明した。 Magnus Dahl 氏 <magnus.dahl@radio.ausys.se> は次のようなメールを寄 せてくれた。「スウェーデンでは iMac に限らずほとんどすべてのコン ピュータに 2 通りの価格が付けられています。“通常”価格と低価格があ るのですが、マシン購入時に ISP 接続一年分の契約を行うとこの低価格が 適用されるようになっています。接続の支払は月間基本料に使用料が加算 されたものになります。」


誰を反トラストするか? 第 2 部

by Matt Deatherage
(翻訳:松岡 文昭 <mtokfmak@mxa.meshnet.or.jp>)
(  :西村 尚 <hisashin@axes.co.jp>)
(  :亀岡 孝仁 <tkameoka@fujikura.co.jp>)
(  :尾高 修一 <shu@pobox.com>)

先週、Microsoft 社がどのようにして独占や、友や敵両方からの独占禁止 法上での申し立てに直面するに至ったかを見てみた。今回は、それら告発 が、妥当なものか、または異なった経済的時代からの残存物か、そしてな ぜ Microsoft のみがこのような厳密な調査に直面しているか調べてみよう。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05175>

Microsoft は Apple から学べるか? なぜ Apple は Microsoft に対す るような申し立てを受けないのだろう?某 Mac OS クローンベンダーは、 Apple は 1997 年にクローンを抹殺するため Mac OS ハードウェアでの独 占的地位を乱用したとして、Apple を告訴しているが、Apple がソフトウェ アでの独占を乱用したとして同様な訴えを起こしたものは誰もいない。そ れは驚くべきである。なぜならソフトウェア会社は訴訟が大好きで、それ がステイタスシンボルでもあるからだ。

Apple は通常そのような問題を、サードパーティの参加を促進し、かつ分 離不能なほど固く統合されたコンポーネントではないシステムを構築する ことで避けているのだ。Internet 用ソフトウェアを考えてみよう。 Netscape Communicator から電子メール機能を取り外してブラウザに Eudora や Mailsmith を組み込むことはできない。しかし備え付けの電子 メール機能の 代わりに Eudora や Mailsmith を 使用 することはで きるのだ。そこが違いなのだ。

AppleScript を見てみよう。それはスクリプト以外にも多用可能な、アプ リケーション間のコミュニケーションメカニズムである Apple Event を基 にしたものだ。Apple Event 自身も下位レベルの Event や AppleTalk 等 の他の Mac OS コンポーネントに基づいている。これら技術のいずれも AppleScript に限定されたものでなく、デベロッパーはそれらのどれでも、 AppleScript をサポートせずに、また AppleScript がインストールされて いない場合でも、自由に使用できるのだ。

さらに Apple は Mac OS を一つのスクリプト手法に限定しなかった。 UserLand 社の Frontier は AppleScript が市場にでる以前から使用可能 であったし、CE Software 社の QuicKeys から MacPerl そして WestCode 社の OneClick に至る全てが何らかのレベルでシステムワイドな自動化を 提供している。サードパーティの関心を予測し、Apple は Open Scripting Architecture または OSA と呼ばれるレイヤーを構築したのだ。(事実、 スクリプト追加の技術用語は “Open Scripting Architecture Extension”、または OSAX である。)実際の AppleScript 言語でなく、ど のスクリプト言語でもシステム内のスクリプトメカニズムを使用可能とし たのだ。このレイヤーを通して、全ての Macintosh スクリプト言語が、も し望むなら、一緒に動くことができるのだ。それ故にスクリプト編集プロ グラムでどの OSA 準拠の言語でも編集とコンパイルが可能となっている (スクリプト編集プログラムのウインドウの左下の隅にある AppleScript という単語をクリックすると、言語を選択するためのポップアップメニュー が表示される)。

AppleScript は Mac OS に無償で付いてくるが、他のスクリプト言語は他 のニーズにより良く対応している。このようなオープンエンドなサポート が Mac OS の特徴である。お気づきでないかもしれないが、今はフォント でさえこの方法で扱われているのだ。QuickDraw GX は Open Font Architecture をもたらし、デベロッパーが彼ら独自のフォーマットでフォ ントを描画できるように独自のコードを挿入することができる。OFA が利 用可能な場合、Adobe Type Manager は、備え付けの TrueType スケーラー のように、OFA フォントスケーラーとして機能するのだ。OFA は、ドキュ メンテーションが未だ入手可能となっていないが、Mac OS 8.5 及びそれ以 降では QuickDraw GX なしでも利用可能だ。

もし Microsoft が何らかの“Open HTML Rendering Architecture”を作り 上げ、Internet Explorer のエンジンを一つの実効策として提供していた なら、たいした問題とはならなかったろう。Netscape 社は Microsoft の コンポーネントを置き換える独自のコンポーネントを書くことができたで あろうし、そして顧客はアプリケーションの水面下で用いられるコードを 選択することができたのだ。例えば、Windows 版の Eudora Pro 4 がオペ レーティングシステムに HTML 機能提供を要求すれば、ユーザーはその機 能を、Microsoft 社、Netscape 社、Spyglass 社、または HTML レンダリ ングのその他のデベロッパーのものから選択できる。

もし Microsoft がこれをしていたなら、司法省はバンドルに対して申し 立てを起こさなかったであろう。もし政府がもっと技術面に精通していた なら、これが、政府が勝訴した場合に、裁判所に課して欲しい類の措置で あったかもしれない。ミドルウェア・レイヤーについては Microsoft と Netscape は正当な競合状態にあり、Microsoft が Netscape のコードを バンドルすることを強いるといった大激変ではなく、このような解決策の 方が Microsoft が競争を閉塞させている問題に対して有効なのだ。

だが、この解決策の欠落こそ、私には、Microsoft が多分目論んでいる 意図を示しているように思えるのだ。過去において Microsoft は Apple のアイデアを着服することに何ら恥じらいを示さなかったし、彼らは Windows で使用するために、そのスクリプティング・アーキテクチャーを 現在盗んでいる最中なのである。Microsoft は、ActiveX 等の分野で示し たように、どのようにしてサードパーティのものを拡張すべきか熟知して いる。サードパーティとの合体を許すという良く知られた成功する方法を 故意に無視し、Internet Explorer そして 唯一 Internet Explorer を Windows 98 とバンドルすることで、Microsoft はうかつにも、彼らが常に 自慢している新機能を提供するだけでなく、いかにミドルウェア・レイヤー をコントロールすることに彼らが懸命かを露呈してしまったのだ。

私は Microsoft が、独占禁止法の少なくとも精神を、そして多分、その字 義を破ったということにほとんど疑いをもっていない。合衆国政府によっ て公開された Microsoft の内部メモは、Microsoft が効果的と思える全て の場所で Windows をこん棒として使用し、Netscape を閉店に追いやろう と試みたことを示している。もし司法省がこれらの申し立てを Jackson 判 事の目に真実と写らせることができるなら、政府は勝訴するであろう。 Windows を利用して他のソフトウェアを他人の手に押し込むことは、まさ に、独占禁止法が止められるように、または少なくとも罰することができ るように、意図された類の行為なのだ。

Micsofott の行為は問題なのか? これらの申し立てられた合衆国法違反 は、Microsoft が変わるべきことを意味しているものなのか、あるいは法 律が変わるべきことを意味しているものなのか?結局、これらの法律は産 業経済の時代に書かれている。1912 年にある会社が“無償の”なにかを他 の製品に同梱したとき、この無償のモノには一定の費用がかかる。これら の法案作成者の誰一人として、ある製品の総費用が研究・開発と結び付け られ、各個別のユニットに対する費用が実質的になくなる日が来るとは決 して想像しなかったと推測しても間違いではない。一度 Microsoft が Internet Explorer を作成してダウンロードできるようにしたなら、各新 規ユーザーの“費用”は、ダウンロードのための帯域幅というはっきりと 見通せる程度の費用だけなのだ。新聞や書籍という伝統的な情報配布方法 にさえ製造費用があった。どのように政府と国民は情報時代の独占的行為 に対処するのか、あるいはすべきなのだろうか?

Microsoft は、同社の行為が競争的であり、競争抑止的ではないと主張す る。1998 年の Wall Street Journal 誌のある特集の中で、Bill Gates 氏 は、Microsoft が政府調査官の標的となっている主な理由はあまりにうま く革新しすぎることだ、と語っている。

「ソフトウェア製品がいかに設計されるべきかという政府の提案は Microsoft に損害を与えるでしょうが、他の人々にはもっと大きな損害を 与えることになるでしょう。この提案は、独立系のソフトウェアデベロッ パーから自社の製品の中で最新のオペレーティングシステム技術を利用す る能力を奪うでしょう。そして、消費者からは、たとえば Microsoft Word や Intuit 社の Quicken を使っている間にインターネットからデータを ダウンロードできるような革新的なソフトウェアを購入する能力を奪うで しょう。我々の競争相手の中には、消費者がそういった革新による恩恵を 享受できるべきであると考えないところもあります。彼らは市場で競争す ることを望みません。彼らは法廷で争うことを望むのです。」

<http://www.microsoft.com/corpinfo/doj/5-20wsjoped.htm>

いつものように、Gates 氏は勝ちたい一心で事実をねじまげようとしてい る。今日誰かが Word や Quicken の使用中にインターネットからデータを ダウンロードすることを止めるものはなにもない。ブラウザの機能は Windows 自慢のプリエンプティブなマルチタスキングが働くようにオペレー ティングシステム内に埋め込む必要はない。しかし、ここでの本当の戦い は、Information Week 誌のある記事が指摘したように、他のものに増して バンドル行為とアーキテクチャに関することなのだ。

<http://www.techweb.com/se/directlink.cgi?IWK19980525S0016>

Microsoft が新製品を発表するときはいつでも、機能リストの一部に顧客 の関心(または Microsoft の戦略的な関心)に対処して追加される新しい コードが含まれ、誰の定義でも“新機能”としての資格を得る。しかし、 機能リストの一部には、Microsoft が無料で渡している、以前には分離し ていた製品がほとんど必ず含まれる。特定の高価なスタンドアロンのサー バの売れ行きが思わしくない場合、Microsoft は他のもっと人気の高い製 品につけて無料にすることを、このもっと人気の高い製品に機能を加える という名目で、決定するかもしれない。

ここでの問題は、いうまでもなく、Microsoft が市場専有率を築くために ある製品を本質的にただで配っていることだ。つまり同様の製品がこの自 由市場で勝つことは できない 。Information Week 誌は、新しい Microsoft Online Analytical Processing(OLAP)サーバが最新版の Microsoft の SQL Server(バージョン 7.0)にバンドルされることについ て語っている。現行の OLAP サーバ諸製品は、IW 誌によると、1 ユーザー につき 3,500 ドルまでの価格で売られているが、Microsoft のものは同社 の人気の高い SQL Server に付属して無償になる。Gates 氏の“顧客のた めの選択”に関するマントラが空虚なマーケティングスローガン以上のも のなら、そういった厄介な競争相手の息の根を止めるために彼の会社がこ のような手段を日常的に取ることはないだろう。

彼は世界で最も自己の考えに囚われた人物に成りうるが、Oracle 社の CEO、Larry Ellison 氏が Microsoft について的確であったのかもしれな い。 Ellison 氏は世界の誰よりも綿密に Microsoft を研究してきたのか もしれない。それは、彼の圧倒的な人生の目的が品のある Bill Gates に なる(Bill Gates Except With Style)ことだからだ。Ellison 氏は、バ ンドル行為を介した“選択”という Gates 氏のマントラが、誰も驚かない だろうが、真っ赤なうそであると考えている。この Oracle 社会長がイン タビューで語ったところによると、Gates 氏の論理は正しいように思える が、それは、彼が“革新”としているものが常に彼の主な競争相手の主要 製品のものであるということを除いてだ。もし、Oracle が Microsoft の 次の戦略的脅威になったとしたらどうだろう?SQL Server は Windows NT、 もしくは Windows 98 の無償の一部になるだろうか?Gates 氏はその時、 アプリケーションソフトウェアのどれか一つを取り上げてオペレーティン グシステム内に埋め込む能力がなくては、“革新する”ことができないと 論じるだろうか?

<http://www.news.com/News/Item/0,4,22475,00.html>

アプリケーションと OS のベンダーが一緒になった Microsoft の強みはい つも、Office 95 と Windows 95 の同時リリースのような、統合化だった。 もし、Microsoft のサーバが Microsoft のオペレーティングシステムの機 能に最大に統合されたら、それは Microsoft のサーバがすでに重大な競争 上の優位を獲得していることの結果として起こるのだ。Internet Explorer でのように、密接な統合化は競争相手が機能を置き換えることを不可能に する。もし、Microsoft がその後その状態を利用して、質の悪いサーバを バンドルし、凡庸だが無料の埋め込み製品を上質だが高価な市場でただで 配ることで競争を破壊したら、結局、彼らは単にインターネット市場でだ けでなく、独占 OS の優位を利用しているのだ。

結果は? ほとんどの道は、Microsoft の行為は産業界のために悪い、従っ て消費者のためにも悪い、という同じ結論に到達する。これは何ももっと 多くの選択の幅を与えよという話ではない;これはひとえに、無償の Microsoft か、あるいはずーっと高額の他の製品かという選択の道を与え るかの話である。いったん Microsoft 製品を使うという選択をすれば後か らの変更は高くつきすぎてできない事態となるであろう、そうすれば、 Microsoft は料金を上げたり、自分のサーバを自分のアプリケーションと だけ相性のいいようにしむけたりして Microsoft を選択せざるを得ないよ うにし始めることができる。今日どれだけのオフィスが Microsoft Windows と Microsoft Office を標準と定めているか考えてみて欲しい。これらの オフィスが、Microsoft Internet ソフトウェア, Microsoft サーバソフト ウェア、その他にもどんなものが隠れているかわからない、に組み込まれ てしまうことで良くなる事態など一体全体あるのであろうか?

ある会社が Microsoft と同様の市場占有率を有したとしても、適用される ルールは単純に 異なる のである。小さな企業は新規市場参入のために 強力な製品を武器として使うことができる、例えば、米国の高級スポーツ ユーティリティ車市場参入を BMW 社が高級乗用車での優位性を生かして果 たした様に。大企業はこの様な戦術は使えない、なぜならば、ある市場に おける競争の欠如は大企業に対して対抗しようのない優位性を与えるから である。例えば、他の OLAP サーバメーカーがその製品を(そして売上げ も)くれてやると決心したとしても、Microsoft の SQL Server の顧客全 部に到達できるわけではない。つまり、反競争的行為は小企業によってな された場合、不愉快だし商道徳上も問題かもしれないが反トラスト法には 違反とならない、ところがこれが独占企業によってなされた場合は違反と なるのである。

もし Microsoft がこれまでに反競争的行為のにおいを漂わせてこなかった ら、批判者達も多少手加減を加えたかも知れない。もし Microsoft のいう “革新”がこれ程頻繁に、ただ単にどこかの製品を買うかコピーするかして 更に安い価格で提供するということでなかったら、その論点も空しくは響 かないかも知れない。もし Microsoft のいう競争相手が、息も絶え絶えで なく元気いっぱいの会社であったなら、手綱を緩めたかも知れない。しか し現実はすべてそうなのであり、これらが積み重なって問題へと発展した。 裁判はごちゃごちゃしているし合衆国裁判所は時折反トラスト訴訟には厳 しいが、司法省は賢明な動きで少なくとも Microsoft を動けなくしている。

最近の傾向を見ると、反トラスト法を無視する事がより多くの選択へとは つながらない - むしろより大きな企業とより少ない選択へとつながってい ることを国民に示している。この事が明らかになって来たのは、銀行、ケー ブル TV 会社、地域電話会社、それにその他姿のはっきりしない諸々等が ある。Adam Smith の見えざる手を統制するのは政府の仕事ではないかも知 れないが、選挙で選ばれたものでないものに権力が集中しすぎるのを防ぐ のは政府の人民に対する仕事である。そして奇妙ではあるが、Adam Smith も賛成していた事である - 彼自身は独占体や会社には強く反対であった。

<http://iisd1.iisd.ca/pcdf/corprule/betrayal.htm>

1930 年代の米国大恐慌は大きなそして規制されない銀行がどれだけ危険な ものになり得るかを示してくれた - それはこの様な銀行がうまく運営でき ないからではなく、失敗の影響が耐え難いほど大きいから危険なのである。 1970 年代、1980 年代には次のようなことを見てきた:大企業がその経営 破綻によって米国経済に深刻な影響を与える恐れがあると見なされたとき (Continental Illinois Bank, Chrysler, そして最近では Long-Term Capital Management)、これらの企業は、見えざる手によって終止符を打た れるのではなく、結局救われてしまった。その結果は、Microsoft の様な 会社が革新とか競争とかについて知っていることをすべて忘れても なおかつ 最強のソフトウェア会社として生き延びる事が容易にできるの である - しかも納税者の費用で。

Microsoft は今は失敗とは無縁のように見えるが、もしその製品があまり にも良くてアップグレードの収入が消えてしまうとしたら、話は違ったも のになってくるであろう。絶対破綻しない会社など無い、そして一つの会 社の手にこれほどのパワーが握られていることで益するものは、Microsoft 以外に誰もいない。もしそれが本当に革新と選択についてであるとしても、 誰も気にしないであろう。

Apple にとっての意味 -- もし Apple が今のような境遇になかったら、 この戦いは Redmond ではなく Cupertino で戦われていたかもしれない。 事情通を自認する人は、もし 1985 年に Apple が Bill Gates 氏の希望通 り Mac OS をライセンスしていたら、Apple が今の Microsoft の立場に なっていたと想像したがる。修正論者たちには残念だが、この仮説を裏付 ける証拠はなく、よく言えば憶測、悪く言えば注目集めの域を出ないもの だ。

だが、Apple にも少しは Microsoft の気持ちがわかるだろう。前述したよ うに、PC 市場全体に対する小さな Mac 市場という違いはあるものの、い らだったクローンメーカーから Apple は Microsoft と同じ立場にあると 訴えられている。(Microsoft は似たような戦法で告発から免れようとし ている。特に Unix を考慮した場合、 コンピュータの オペレーティン グシステムについて独占的地位にあるわけではないとしているのだ。) Microsoft に対する訴えが容れられれば、クローン再開を強要したい輩に よって Apple は同様の窮地に立たされる可能性がある。クローンメーカー にしてみれば、裁判所の御墨付きがある以上 Apple が突如ライセンスを終 了することはないという確証がある。そうして Apple が再び財政難に陥る こともあるだろう。

PC 業界にとって、競争を Microsoft の羽交い締めから解放することは喜 ぶべきことには違いない。しかし Apple にとっては、こうした個々の訴訟 は Netscape の強大化という結果として現れる。Microsoft によると、同 社が迫害されている唯一の理由は Netscape にあるとしているが、 Netscape は Microsoft が占めようとしている市場での最大のライバルで あるにすぎない。独占が破られた時、業界第二位の企業は必ず得をする。 この場合はそれがたまたま Netscape なのだ。Mac OS が Netscape にとっ ての主要プラットフォームでなくなってから久しいが、より強い Netscape は Macintosh のブラウザ市場にも好影響をもたらす。だが Netscape が完 全に白かといえばそういうわけでもない。同社は 1996 年にブラウザを OpenDoc パート化するとの発表をしたが、結局この公約は守らなかった。 主な理由は Spyglass の OpenDoc インターネットパート群への投資を阻害 するためだった。ビジネスの世界での非難合戦には偽善はつきものだと肝 に銘じておこう。

司法省が Microsoft によりオープンなオペレーティングシステムを作らせ ることに成功すれば、Apple も恩恵を受けるかもしれない。デベロッパー やユーザーが Microsoft テクノロジーにがんじがらめになっていなけれ ば、Macintosh がより有力なプラットフォームとなることができるからだ。 Microsoft のお情けで Microsoft テクノロジーが Mac OS にもたらされ、 Mac OS が Microsoft の都合の良いよう体裁を整えるというがなくなるる のだ。そんなことはデベロッパーやユーザーにとっては嬉しくも何ともな いことだ。

これ以外にも明らかな恩恵がある。公判でのこれまでの証言では、 Microsoft が QuickTime for Windows がバグだらであるように見せ、Apple が Microsoft Internet Explorer をデフォルトブラウザとしない限り Microsoft Office for Macintosh の販売を中止すると脅したとしている。 だが、原告側は Microsoft が アプリケーション ソフトウェアで独占的 地位にあったとしているのではない。原告ががこうした Windows の独占に 直接関係のない主張をするのは危険なことだ。もし原告が勝てば判事は大 幅な救済を認めるだろうが、もし負ければ Microsoft がこうした行為を続 ける御墨付きをもらうことになる。これは問題だ。

1988 年の Apple のインターフェース訴訟後に Microsoft がどんなことを したか憶えておいでだろうか? Microsoft がこの権利侵害をめぐる戦いに 勝ったのは、主として Apple があさはかにもそれとは気付かずに Microsoft にインターフェースエレメントの使用をライセンス供与してし まっていたからだ。最高裁が Apple の最後の上告を棄却した後、Microsoft はただちに Macintosh ユーザーインターフェースをさらに Windows 95 に 取り入れ、Windows 98 ではさらにこれを進めた。今度の司法省との戦いに も Microsoft が勝てば、これまで Microsoft がとっていた行動は、今後 のバンドル、統合、それに競合製品の無差別殺戮とくらべたらかわいいも のに見えることだろう。Microsoft が公言してはばからない目的とは、地 球上全ての机の上にコンピュータを置き、しかもその すべて で Microsoft のソフトウェアが動いていることなのだ。この目的は奥ゆかし さや敗訴した裁判への恐れなどがあったら達成できるものではない。

私の意見に反対の人もいるだろうが、それはそれで結構。もっと優れた考 えを持っている人もいるだろうが、その考えも議論を通じてこそ浮かび上 がって実行へと移されるのだ。だが、Microsoft がどんなに人々をなだめ ようとしても、私には問題があるとしか思えない。独占的地位というもの はほとんど常に問題なのだ。力は腐敗につながるからだ。すでに多くの企 業が経験したように、世界一の金持ち男が手にしている無限の経済力は、 この男と競争しようとする者にとって大きな障害となる。個人の責任と企 業の利害が切り離された状態では“見えざる手”が市場を制御することは 難しい。Adam Smith でさえもこのことは知っていた。これまでの世界が見 てきた試みから判断すると、あまり楽観はできそうにない。Microsoft の 野望を考えると、力を抑制しておくのは良い考えだろう。

[Matt Deatherage 氏は、真面目な Macintosh ユーザーのための定期購読 のみの優れたニューズレターである MWJ 誌の発行者だ。3 号分の無料購読 のために今週サインアップした人は、まだ MWJ の Mac OS 8.5 臨時増刊号 を受け取ることができる。あらゆる場所で利用可能な中で最も総合的に Mac OS 8.5 を扱ったものである。]

<http://www.gcsf.com/>


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