TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#492/09-Aug-99

iMac が汚点と写った?iBook が弁当箱を思い出させる?Power Mac G3 が 青くて下品?Apple の派手な Macintosh デザインはすべての人に受けるも のではないかもしれないが、Mac を(エヘン!)スポットライトの元に戻 したことは確実だ。また、今週号では、Matt Neuburg が CE Software の 由緒あるマクロユーティリティ QuicKeys をレビューし、Mailsmith 1.1.4 の公開をお知らせし、Jesse James と Willie Sutton と Robespierre と Adam Engst の共通点を語る。

目次:

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MailBITS/09-Aug-99

(翻訳:西村 尚 <hisashin@hotsync.co.jp>)

Mailsmith 1.1.4 がインターフェースを強化 -- Bare Bones Software 社は、同社の強力な 80 ドルの電子メールクライアントである Mailsmith 1.1.4 への無料のアップデートを公開した。バージョン 1.1.4 は、 Mailsmith のメール作成ペインを改訂し、Mail Browser から独立してメー ルボックスが並び替え可能に(また、各カラムのサイズが変更可能に)なっ た。また、Mailsmith 1.1.4 は強化されたスクリプト機能と Open Transport 1.1.1 以上と PPP 接続管理のための直接サポートも提供する。 Mailsmith 1.1.4 アップデートは 3.2 MB で、Mailsmith 1.0 以上で動作 する。Mailsmith 所有者すべてに無料である。 [GD]

<http://web.barebones.com/products/msmith/msmith.html>

間違った物語の由来 -- TidBITS-490 で、私は、「そこに金がある」か ら銀行強盗をするという有名な言葉を引用した。残念ながら、午前 2 時の ホテルの部屋でのちょっとずさんな執筆だったようで、私は誤ってこの言 葉が Jesse James に由来するとした。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05488>

たくさんのメッセージから教えられたが、この引用は、1980 年に他界した 別の有名な銀行強盗 Willie Sutton に由来するというのがもっと一般的 だ。通常、TidBITS でこのような見当違いの間違いを犯したときは、笑っ て電子メールの罰を甘受するが、私の罪をあがなうために記事にスペース を割いたりしない。しかし、今回は状況がより複雑になった。というのは、 Ed Oliveri 氏 <eoliveri@att.com> が私に Sutton の第二の著書(現在絶 版)からの引用を元に Willie Sutton の生涯を論じる Web ページを教え てくれたからだ。この書では、この引用に対する責任を放棄し、金のため ではなくスリルのために銀行を襲ったことを書き留めているのだ。

<http://www.banking.com/aba/profile_0397.htm>

その後、この問題をさらに複雑にしたことに、Steve Lamont 氏 <spl@pitstop.ucsd.edu> が Robespierre に由来する引用を送ってくれた。 「銀行家が窓から飛び出るときには、彼を追って飛び出ろ。そこに金があ るからだ。」Robespierre の引用は(正確だと仮定して)、Willie Sutton とせいぜい数年前に有名な引用を創作した見知らぬレポーターよりもかな り時代を遡る。だから、結局、私は喜々として罰を甘受するだろう。少な くとも私の間違いが興味深い物語の方向に向かわせたのだから。 [ACE]


気になる QuicKeys 4

by Matt Neuburg <matt@tidbits.com>
(翻訳:尾高 修一 <shu@pobox.com>)

まだ Microsoft Word でスタイルの検索・置換ができなかった 1988 年の こと、私の古典文学の教え子だった Adam Engst が(その後どうしている だろうか?)CE Software 社の QuicKeys でマクロを使った方法を教示して くれた。QuicKeys はボタンのクリックやメニューアイテムの選択などと いったユーザーアクションをシミュレートすることができ、このアクショ ンの一つ一つをショートカットと名付けていた。一連のショートカットを つなぎ合わせてシーケンスという小さなプログラムとすることもできた。 ショートカットやシーケンスはキーの組み合わせや特別な QuicKeys メ ニューから選択することによってトリガすることができるというものだっ た。QuicKeys を使えば、多用するまたは繰り返しの多いタスクを自動化し たり、キーストロークで呼び出すことができたのだ。

QuicKeys はただちに私のコンピュータになくてならないものになった。だ がバージョン 3.5 のレビューをした 1996 年以後、私は QuicKeys を使わ なくなった( TidBITS-347 に始まる Mac とマクロに関する連載記事を参 照)。その理由は AppleScript や Frontier を通じて Finder をはじめと する私の常用するプログラムがだんだんスクリプタブルになってきたこと と、QuicKeys が新し目のシステムと相性が悪かったこと、それに OneClick がもっと幅広い機能とより柔軟なアクセスを可能にしたことにある。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbser=1044>

QuicKeys がバージョン 4 になってカムバックを果たした。が、目立って 新しいことはない。CE Software 社はショートカットを作成する方法に、 Finder からファイルやフォルダを Control + クリックしたり、QuicKeys ツールバーにドラッグ & ドロップしてアイテムを開くショートカットを作 成するといったものを付け加えた。QuicKeys ツールバーにボタンとして表 示される 2 種類のショートカットは、ファイルやフォルダのドラッグ & ドロップを受け付けることができるようになった。ファイルのロックや Finder ビューの変更といった新たなショートカットの機能も追加された。 だが最も重要な点は、QuicKeys が最近のバージョンの Mac OS で使えるよ うになったということだ。

<http://www.cesoft.com/quickeys/qkhome.html>

Mac をマクロ -- インストールは大幅に簡素化され、数多くのファイル が多数のフォルダに散らばるというものから機能拡張一つだけ(QuicKeys コントロールパネル)になった。ただアップグレードの場合、旧バージョ ンをきれいに取り除くという面倒でややこしい作業はユーザーが手動でや らなければならない。

QuicKeys を再び私のマシンに迎え、以前からのショートカットを旧友とし て迎えるのは嬉しいことだ。私が前面にあるアプリケーションを隠したり、 Finder を前面に持ってくるコマンドをタイプすることにどれだけ慣れてい たか忘れていた。メニューアイテムにキーボードショートカットが無かっ たり、元々のショートカットが嫌いだというものにはショートカットを与 えた。拡張キーボードではない私の PowerBook では、即座に Home、End、 Page Up、Page Down などといったキー操作を復活させた。

テスト中、OneClick を外してみることにした。その結果、QuicKeys の能 力には素晴らしいものがある反面、かなり限界があることを再認識した。 私はウインドウの位置をずらして重ねたり、ウインドウのリストを表示し て前面に持ってくるものを選んだり、最近使用したアプリケーションを記 憶させておいてリストから選択して起動するといった OneClick ボタンを 作って使っている。QuicKeys ではこういうことができないため、最初はか ゆいところに手が届かない思いをした。

それでも QuicKeys は私が通常必要とするものはほぼ満足に提供してくれ る。アプリケーションが開いているウインドウを順番に前面に持ってきた り、前面にあるウインドウを縮小・拡大することができる。多用するフォ ルダのパレットを登録しておき、このパレットを使ってフォルダを開いた り、ファイルを中にコピーすることができる。それに QuicKeys ではでき ないことは他のユーティリティを使って達成することができる。QuicKeys では最近使ったアプリケーションのリストを保持することはできないが、 Apple Menu Options ならこれができる。私のハードディスクの階層構造を ポップアップ表示することはできないが、The Tilery ならこれができる。 開いているウインドウのリストを表示することはできないが、TitlePop な らこれができる。

<http://www2.semicolon.com/Rick/Tilery.html>
<http://www.datavasara.fi/titlepop/>

一方、QuicKeys は変数や計算や文字列の処理などができる本格的スクリプ ティング言語ではないし、こういったものを必要とするアクションを実行 することはまずできない。たとえば、私は OneClick に前面にあるアプリ ケーションの最前面にあるウインドウ以外をすべて縮小させることが多い が、QuicKeys にはこれができない。ウインドウを数えたり一つずつ選択す ることができないからだ。QuicKeys はプリセットされたテンプレートに応 じて(たとえばシリアルナンバーを追加して)ファイル名を変更すること はできるが、条件を指定することはできない。QuicKeys は TCP/IP 設定を 事前に指定したものに切り替えることはできるが、設定の一覧を表示して 選択させてくれるということはできない。ところが起動しているアプリケー ションでは同じことができる。つまるところ、QuicKeys の能力は個別的で 相互に孤立しており、これを抽象化するメカニズムを欠いているのだ。

別な見方をすれば、この制約は利点でもある。QuicKeys がスクリプティン グ言語ではないのは、そうなりたいと思っていないからなのだ。スクリプ ティング言語に恐れをなす人は多い。プログラムが書けない、もしくは書 けないと思っている、あるいは覚えるのが面倒くさいという人もいる。そ こで QuicKeys はリストや事前に用意されたオプションを簡潔に見せてく れるメニューダイアログといった慣れ親しんだインターフェースを通じて ショートカットやシーケンスを作らせてくれる。スクリプティング言語の ようにはカスタマイズはできないが、一方で制約の中に明確さと安心感が あるのだ。

硬直したインターフェース -- 大きな問題のひとつに、QuicKeys のイン ターフェースが明快とはいえないことがある。ダイアログボックスは必要 以上に融通がきかなく苛立たしい。一例を挙げると、ショートカットによっ てはわかりやすい名前を付けることができない。メニューアイテムを選択 するショートカットは自動的にメニューアイテムの文字列を名前にする。 また名前を付けることができるショートカットでも、文字数は 15 に制限 されている。この結果、ショートカットには短すぎるか変更不能の名前が 付くことになり、何をするものなのか分からなくなってしまうのだ。

ショートカットによっては元々の機能が貧弱すぎてほとんど使い物になら ない。たとえば、ScrapEase は複数のクリップボードを利用できるように してくれる。選択したテキストを ScrapEase を呼び出してコピーし、ダイ アログで名前を付ける。後になって別の ScrapEase ショートカットを使っ てリストから選択したスクラップをペーストするという仕組だ。だが問題 は、スクラップを削除する簡単な方法が無いことにある。まず QuicKeys エディタを開き、ScrapEase ショートカットを探し、編集するためにダイ アログを開き、ボタンを押してスクラップのリストを表示したダイアログ を開き、削除したいものを選択して Delete を押し、またもや表示される ダイアログで削除を確認し、開いているいくつものダイアログを一つずつ 閉じていく。あまりにも操作が面倒なため、この機能を使う気がなくなる という結果になるのだ。

ショートカットを作成するには複雑怪奇な階層メニューを掘り下げなけれ ばならない。ウインドウの縮小、背後にあるウインドウを前面に移動、次 のアプリケーションにスイッチ、という 3 つの動作を例にとろう。それぞ れが System Tools -> Mousies、System Tools -> Specials、System Tools -> MacOS [ママ] Specials からアクセスされるということが事前にわかる 人などいないに違いない。しかもそれぞれがダイアログを表示するだけな ので、必要なアイテムはまたもやメニューから探さなければならない。し たがってあるタイプのショートカットが存在することがわかっていても、 どこで見つけたら良いかはわからない。一日中想像力を働かせながらメ ニューやダイアログを探し回るか、マニュアルを見ることになる。

CE 社はあるショートカットが別のショートカットに依存することから生じ る問題をまったく解決しようとしていない。こうした依存関係は作成した ショートカットの理解を困難にし、ショートカットの書き換えを危険な行 為にするのだ。たとえば、シーケンスに QuicKeys 版“if”構文である Decision ショートカットを含めることができる。ある条件に合致すれば QuicKeys は特定のショートカットを実行し、もし合致しなければ別の ショートカットをトリガする。だがこの 2 つ目のショートカットは別個に 存在していなければならない。そこで Decision ショートカットをモーダ ルダイアログで眺めてみても、一体どういうことをするものなのかがわか らない。というのはこのショートカットは別のショートカットを実行する のだが、モーダルダイアログから別のショートカットを見ることはできな いからだ。同様に、作成したショートカットのリストを眺めると、この 2 つ目のショートカットが単独で現れるため、それが何のために存在してい るのかがわからなくなる。このショートカットが別の Decision ショート カットから実行されるということが見ただけではわからないのだ。その結 果誤ってこのショートカットを削除してしまい Decision ショートカット を無力にしてしまうか、こちらのほうがありそうだが、どんな依存関係が 存在しているかわからないために何も削除できなくなってしまう。最終的 には多少なりとも複雑なショートカットやシーケンスを作ると、管理が不 可能になってしまうのだ。

ツールバーにも同じことが言える。ツールバーにショートカットを登録す るためには、ショートカットは個別に存在しなければならない。だがショー トカットのリストを眺めても、あるショートカットがツールバーに登録さ れているかどうかを知る手掛りはないので、削除してしまい、ボタンをツー ルバーから削除してしまう危険がある。同様に、ツールバーを編集してい る際、ツールバーのリストとショートカットのリストが表示されるのだが、 両者にどんな関係があるかはまったく見せてもらえない。それにツールバー を編集しながら、同時にやりたいこととしてはどんなことがあるだろう? 当然、ショートカットを書き換えることだ。だがこれはできない。ショー トカットの編集とツールバーの編集は異なるパネルで行われるのだ。

CE 社がこうした問題にまったく対処しようとしていないのは情けないこと だ。今回のバージョンアップを機にこうした永年の問題を解決しようとは せず、12 年も前に遡る不可解で時代遅れのインターフェースをそのままに し、単に少しの色と Appearance Manager 対応のボタンでお茶を濁したの だ。

されど愛す -- だからといって私は QuicKeys 4 が嫌いだというわけで はない。実は大好きなのだ。安定しているし、速いし、信頼できるし、Mac の操作を鈍くしたり邪魔になることがない。それにインターフェースの問 題は昔からあることなので、私はもう慣れてしまっている。だが CE Software がこの問題をフィックスしようとしなかったのは残念だ。もう何 年も私は TidBITS でこのことを注文を付けているのに。同社は史上最高の プログラムの一つといえる WebArranger を購入しておきながら理解せず、 サポートせず、しまいにはディスコンにしてしまった会社なので、これも 当然といえば当然だろう。CE Software が私のアドバイスに耳を傾けたこ とはないのだ。そうはいっても、3 年間も辛抱強く待ってきたユーザーへ のサービスとして CE Software ができるベストなのだとしたら、これは 由々しきことだ。それにこんなややこしいインターフェースが新規ユーザー を獲得することができるのだろうか?

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=01149>

QuicKeys マニュアルの出来は悪い。自画自賛の傾向が強く、「時間の節 約」や「能率向上」といった言葉が頻出する。あたかも読者にそもそもな ぜこのプログラムを買ったかを常に思い出させなければならないかのよう だ。教えたり説明するということが少なすぎる。誤りも多い。レイアウト も貧弱で、フォントの組み合わせも悪く、短くて横長の 2 段組みのフォー マットのために PDF 版はおよそどんなモニタでも読むことができない。

CE 社がマニュアルを改善した面も一つはある。CE 社の OSA 準拠スクリプ ティング言語で、他のプログラムから QuicKeys を駆動するための QuicKeys Script は、従来隠されていたが今度はマニュアルに登場してい る。数学のような不可解な記号を使って記されていたシンタックスの仕様 は、今回は読みやすい表になっている。

過去に私はなぜ誰にとってもマクロプログラムが必要なのかを解説した。 そしてかつては、QuicKeys が唯一の選択肢だったために、誰もが QuicKeys を必要としたのだ。だが時代は変わり、OneClick、KeyQuencer、PreFab Player が登場し、Mac OS 自体も AppleScript や Frontier を通じて以前 よりもはるかにスクリプタブルになってきている。QuicKeys 4 を見たとこ ろ、CE Software はこうした競合製品があることを認識していないようだ。 この優秀な定番プログラムの手入れを怠っただけでなく、貧弱なインター フェースと分かりにくいマニュアル、それに限られた機能のままにしてし まった。この結果ユーザーがもっと若くてハングリーな競合製品よりも QuicKeys を選ぶ理由はほとんどない。これは悲しいことだ。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=00801>

QuicKeys の定価は 100 ドルで、乗り換えアップグレードは 50 ドルだ。 30 日間有効のデモ版がダウンロード可能で、ファイルサイズは 2.3 MB と なっている。

<http://www.cesoft.com/quickeys/qkmac40demo.sea.hqx>


色の擁護論

by TidBITS Staff <editors@tidbits.com>
(翻訳:松岡 文昭 <mtokfmak@mxa.mesh.ne.jp>)
(  :尾高 里華子 <rikako@pobox.com>)

Apple の最近の iBook の発表は Apple のハードウェアデザインに関する 議論を再び活発なものとした。Apple だけが非中間色のマシンを出荷する コンピュータメーカーではないにもかかわらず、Apple の色の使用が焦点と なっている。SGI 社は打ち傷のような色をしたグラフィックスワークステー ションを出荷しており、IBM 社は Aptiva シリーズでチャコール色を売り 込んでいる。そして Steve Jobs 氏自身の黒一色の NeXT システムは iMac より 10 年も前にスタートしていたのだ。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05487>
<http://www.sgi.com/o2/>
<http://www.pc.ibm.com/us/aptiva/sseries/>
<http://www.tardis.ed.ac.uk/~alexios/MACHINE-ROOM/NeXT_Cube.html>

明確な選択の幅を提供することで、iMac - そして今度は iBook - の様々 なフレーバーは、コンピュータを購入する際の決断として色を最前線に持 ち出した最初のパソコンだ。従来、コンピュータを購入するには、価格、 スピード、能力、容量、そして拡張性の検討を必要とした。今では、色を 検討 せずに 、オプションが用意されているという事実だけで iMac や iBook を買うのが不可能となってしまった。そして Macintosh 業界全体が - 事実、様々な業界が - 積極的に追随を始めている。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=738>

色は重要だろうか?10 年前には想像も難しかった精巧なディバイスにとっ て、それは重要な基準だろうか?それはコンピュータが電話や自動車のよ うに、主として外観と体験によって差別化されうる商品になったことの現 れだろうか?または色は単に注目を集め成功した会社としてそれ自身を再 構築するために Apple がうち得た大芝居なのだろうか?

モノカルチャー症 -- iMac が出るまで、多くのコンピュータユーザーは 価格とスペックを購入決断の根拠としていた。やりたいことができるなら、 マシンがどのようなルックスかなんて誰が気にしよう?そしてまた派手な デザインは開発費を膨らますだけだ。ゆえに、工業デザインに労力を費や す必要はないというのが一般的な認識となった。さえないグレイやベージュ のボックスで十分なのだ。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=04898>

この認識は「退屈な」コンピュータのデザインが意図的なものであるとい うことを分かりにくくしてしまう。どの文化人類学者もビジネスデザイン のセンスはゆっくり変化するものだと教えてくれるだろう。ビジネス文化 は多くのやり方で個人、文化、そして社会の差異を最小のものにするのだ (消してしまうことすらある)。ビジネスは市場での共通性を強調し、重 要なのは関与する人々の個性はでなく。商品やサービスの取引なのだ。伝 統的なビジネスマンがスーツを必要とするとき、カット、色、そしてスタ イルに対する彼らの選択は制約され、個人の表現はネクタイにほぼ限定さ れている。個人の外観や身繕いも同様に制限される。一般的にビジネスマ ンには長髪、イヤリング、目に付く場所への入れ墨は許されず、宝石は腕 時計に限定される。ビジネスの世界では新参者であるビジネスウーマンも、 もっと複雑だが、同様の制約された選択に直面している。

コンピュータデザインもビジネス世界の人工的なモノカルチャーに幾分か フィットするよう同様な保守的パターンを踏んできた。さらにデスクトッ プのベージュは中立を醸し出す。それはコンピュータという一種のオブジェ クトをいかなる物理環境にも納めるのに必要な無感情であるのだ。

違いがどのような違いを生むか -- ベージュボックスの始まり以来、コ ンピュータの経済と市場は変わった。もとは高価で特殊業務用の難解な道 具であったパソコンは、徐々に使いやすく、安く、そしてもっと日常の活 動に取り込まれるようになった。ついにはパソコンは個人が使用する贅沢 品となり、そして、特に 1,000 ドル以下の PC は消費者に手の届く情報・ エンターテインメント器具となったのだ。

Apple はこのプロセスから常に離れたところにいた。Apple が 1970年代後 半に Apple II にてパソコン市場を作ったと言えるのだ。教育と個人ユー ザー市場での成功にも関わらず、Apple のシステムは決してビジネス市場 を支配したことがなかった。そこには、ビジネス文化そのものの巨大な化 身で、その当然の流れとして従業員にはほぼ同じスーツを着ることを要求 した IBM 社がいたのだ。

Apple は Macintosh のデザインでビジネス文化をはねつけたのだ。その独 特な顔のようなファサードで、オリジナルの Macintosh は追従や中立性を まったく示さなかった。とけ込むことを拒否したのだ。長い間に Macintosh のデザインはもっと PC よりになってきたが(特に Apple の市場シェアが 低下し、同社がビジネス市場に言い寄ろうとして)、Apple はスリムな Macintosh LC、オリジナルの PowerBook シリーズ、そして Macintosh TV や 20th Anniversary Macintosh のような一代限りの製品でも、デザイン の独自性の突風を披露し続けてきた。また Apple のシステムはユニークな 機能や新技術を搭載し、それは Macintosh ユーザーの忠誠心およびその強 化に貢献した。デザインは私達が私達の Mac と関係を維持している主な理 由なのだ。私達の常に忠実な SE/30 シリーズのように。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=02343>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=02216>

Mac は常に異なっていた。そして Mac を使用することは、仕事を終わらせ るための道具であるのと同じくらい、常に個人の主張でもあったのだ。し かし過去数年、Mac は簡単に無視できるものとなっていた。

色の殴り込み -- “Think Different”の旗を掲げた当時、Apple は相当 な財政難にあり、同社が窮していることは一徹な Macintosh ファンでさえ 認める事実だった。“同じ”モノでは通用しなかった。Steve Jobs に舵取 りを任せ、おおむね筋の通った OS 戦略を立てるだけでは足らず、自社製 品の“different”を演出するもっと強力なアイデアを必要としていた。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=04217>

そのアイデアとは、好き嫌いはともかく、独特のデザインと色であった。 これにより Mac と他のコンピュータの違いが誰にとっても一目瞭然にな り、広告などで目にするとすぐさまそれと分かるようになった。さらには Macintosh を無視できない存在に押し上げた。

iMac が昔ながらのプラチナのケースに入ったコンパクトなコンシューマー 用マシンだったとしたら、今日のような大成功を収めることができただろ うか。答えは No だ。iMac がライバル達を押しのけることができたのはそ のデザインと色で注目を集めたからである。iMac の販売台数が一年あまり で 200 万台近くに達したのは、その高速な G3 プロセッサや価格のおかげ ではない。ずっと廉価な PC をライバルとしていたのだから。コンピュー タ市場の経済力学に変化が起き、膨大な開発費をハイエンドモデルだけで なく低価格のコンシューマーマシンにも注ぐことができるようになった。 一般の人もどんどんコンピュータを購入するようになったのだ。

宣伝上手なやつは新しいアイデアを取りあげ、うまく利用する。これがま さに Apple と Chiat/Day がやったことである。看板やバスや雑誌を iMac で埋め尽くしたのだ。半透明のボンダイブルーとホワイトガムドロップで 飾ったコンピュータの外観は脚光を浴びるに十分のものだった。白を基調 にした明るい色の iMac で驚くほどシンプルなポスターが作られた。5 色 の iMac を頭上から撮り「Yum」というキャプションを付けた広告は、その カラフルな物体がコンピュータであることさえ触れていないが、好奇心を そそるように仕組まれている。

ほかと一線を画すデザインの利点は広告以外のところでもふんだんにうか がえる。たとえばカタログ販売や店内展示のような分野であるが、以前は この分野では色は単調なベージュの箱にスパイスを利かすために周りに置 くものに使われていた。今や iMac 自体で注目を引きつけることができる。 メディアとはさらに見事に結びついている。テレビカメラがあなたのお気 に入りのドラマのキャラクターの机を撮った時、視聴者はコンピュータが あるなではなく、iMac があると認識するのだ。それはそこらに転がってい る PC ではなく Apple の製品だと分かるのだ。ほかと違っていることで、 このようにあらゆる状況が宣伝の場となる。

また Apple の半透明の色使いは iMac や iBook がおもちゃであるような 印象を持たせる。これは良いことだ。触ってみたくなるし、遊んでみたく もなる。ハンドルに誘われて頑丈かどうかを確かめるために持ち上げてみ ようとも思う。テクノロジーの集合体であるこの物体にしり込みしたりし ない。この魅力はレザープリンタやゲームコントローラー、Ethernet ハブ といった周辺機器やアドオンにまで拡大している。親や祖父母または子供 や友人に勧めたいマシンだ。

黒いうわさ -- 色付きがはやる時代がいつまでも続くとか、それがどん な状況でも歓迎されるとかは言わない。カラフルな半透明のプラスチック は 1990 年代後半の象徴になっているのだ。(今 1970 年代風のものを目 にしたらきっと誰もが「当時はどういうつもりだったのだか」と思うのと 同じようなことだ。)色付き Mac という流行は派手な分いっそう直ぐに消 え去ってしまうだろう。派手さは世間をあっと言わせるし、それが Apple が狙っていたことだが、同時に飽きられやすい。実際、Power Macintosh G3 の色がオフィスにそぐわないなどの不満の声がすでに上がっているし、 iBook にも同様の論争が起こっている。Apple がビジネス市場でも名声を 得たかったら、目立ちもするがうまくおさまるような Macintosh のデザイ ンを考え出さなければならないだろう。誰かが高級なイタリア製スーツを まとってやっているように。

しかし、今のところ Apple はメインの顧客層に合わせている。iMac と iBook は目立つし安いし学校や家庭ではうまくいく。青と白の Power Macintosh G3 はパワーと斬新な見栄えを備えてクリエーティブな職場向け である。PowerBook G3 シリーズはスリムな黒の筐体に機能をどっさり積ん でいるが、次に大幅なデザイン変更を受けることになるのは間違いないだ ろう。

しかし iMac の成功はほかのコンピュータメーカの製品に悪い影響を与え るだろう。すでに iMac を思い起こさせるような怪しいマシンのアナウン スを目にし始めている。eMachines eOne だの E-Power システムだのがあ るが、これを出している Future Power 社や Daewoo Telecom 社に対して Apple は訴訟を起こしている。両製品ともフロッピードライブを搭載して いないというのは笑える。

<http://www.e4me.com/infocentral/product_eone433.html>
<http://www.futurepowerusa.com/products/epower.html>

模倣は最高の賛辞である。たとえそれが違法であったとしても。いずれに しても、消費者やプレスは iMac ぽいモノと本物を必ず比較するだろう。

経済的波紋 -- この 2 年で Apple の情勢が驚くほど上り調子に転じた のは、同社の新たな色戦略のみによるとは言わない。これらのマシンがな んらトラブルがなかったことは大きな要因であるし、Apple が在庫を減ら したり需要をうまく読み取ったことも好転に影響している。しかし色がそ の要因の追加的要素であるとして無視することはできない。色のおかげで Macintosh の成功は常にそのデザインが握っていることを Apple は思い 知った。

しかし、Apple はその栄光に甘んじてはいられない。斬新なデザインで Macintosh は一躍有名になったし、多くの専門家達に見放されていた Macintosh を三途の川の手前で連れ戻してきたのは確かだ。Apple がここ しばらくは色という打出の小槌を振り続けることは間違いあるまい。特に コンシューマー向けのマシンで。しかし、Apple は追従者を寄せ付けない ほどに画期的なデザインを提案し続けて、世間の目が Macintosh からそれ ないようにしなければならない。


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