TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#512/10-Jan-00

今週の TidBITS は、先週行われたサンフランシスコでの Macworld Expo の話題で埋め尽くされている。まずは、Steve Jobs 氏の基調講演の基本部 分をカバー、そして、今年のショーは、拡大する Macintosh コミュニ ティーにとって実際どうであったのかを掘り下げてみる。さらには、Apple の新しいインターネット・サービスについて深く検分してみた。MailBITS では、AOL の Time Warner 社の買収と、Apple が OT Tuner 1.0 を取り下 げて Open Transport 2.6 をリリース、そして、我々のサーバのホームが digital.forest へ移動したことのお知らせをニュースとして取り上げてい る。

目次:

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今回の TidBITS のスポンサーは:


MailBITS/10-Jan-00

(翻訳:三好 泰子 <yokomo@mio.to>)
(  :西村 尚 <hisashin@hotsync.co.jp>)
(  :芦原 嘉宏 <broom@mba.nifty.ne.jp>)

TidBITS、digital.forest へ移動 -- 我々のプライマリ・インターネッ ト・サーバ群のホームは、ここ何年かはシアトルの POPCO を利用していた わけだが、TidBITS の第 512(2^9)号を記念して、新規移転。この移転 は、POPCO のサーバの引っ越しがきっかけであった。長い間、我々のサー バの面倒を見てくれた POPCO の Glenn Fleishman 氏と Scotty Carreiro 氏にお礼を述べたい。我々のサーバは、現在、digital.forest で稼働して いる。Macintosh を使った FileMaker と Web のホスティングのサービス は、Chris Kilbourn 氏によって行われている。彼は、長きに渡るインター ネットと Macintosh 友達である。正直言って、digital.forest のデータ センターを見て、驚きのあまり呆然としてしまった。すべての形、サイズ、 色が取り揃えられた、今までこんなにたくさんのMac を見たことがなかっ た。これらは、耐震性のラックに乗せられており、それぞれにカートに載っ たモニタ、マウス、キーボードが付属している。Chris は、我々の 2 台の サーバまで這わせるために自前の Ethernet ケーブルをカットし、マシン をインテリジェント・パワー・ストリップに差し込んだ。このストリップ は、Maxum 社の PageSentry モニタリングソフトウェアによってコントロー ルされたスクリプトの方式により、自動的に電源が on/off するようになっ ている。みごとなセットアップだった。我々は、この上なく幸せな気分で ある。もしも、Mac を使った Web あるいは、FileMaker のホスティングの サービスをお探しなら、また、Macintosh のサーバを高速 Ethernet 接続 して性能を強化するハウジングサービスをお探しならば、digital.forest をチェックしてみることを強くお薦めする。 [ACE]

<http://www.forest.net/>

AOL が Time Warner を買収 -- 00 年 1 月 10 日の共同発表で、America Online 社と Time Warner 社は、世界最大のインターネットプロバイダー である AOL が世界最大のメディア会社である Time Warner 株を 1 億 6,000 万ドルで買収すると発表した。この取り引きは現在までのところ最 大の企業合併といってよく、Time 社が Warner Brothers 社と合併して世 界最大の巨大メディア複合企業を形成することになった会社を創造してか らちょうど 10 年になると発表された。新会社は AOL Time Warner と呼ば れ、AOL 株主は この会社の 55 % をコントロールする。AOL の Steve Case 氏は取締役会長を務め、方や Time Warner の Gerald Levin 氏は CEO を 務める。この合併の長期的な効果を予測するには時期尚早だが、広範にわ たる印刷、報道、映画、テレビ資産をインターネットおよびインタラクティ ブ技術に結びつける一枚岩の複合メディア帝国を創造する。またこの取り 引きにより AOL は、米国内の家庭の約 20 % に達する Time Warner のケー ブルテレビ網を介してオンラインサービスを提供できるようになる。 [GD]

<http://www.corp.aol.com/cgi/announce-pr.html>

Open Transport 2.6 が、OT Tuner 1.0 の代わりに -- Apple Computer 社は、Open Transport 2.6をリリースした。これは、DHCP 問題を経験した Mac OS 9 ユーザーに向けたリリースであり、インターネットサーバのサー ビスを停止してしまうようなある種の攻撃によって、Macintosh コンピュー タが潜在的にトラフィク増幅器として用いられることを防ぐものだ。Open Transport 2.6 は、Apple 社が先週穴埋め策としてリリースした OT Tuner 1.0(潜在的な弱点についての詳細は TidBITS-511 の“Mac の悪用と戦う OT Tuner 1.0”を参照)の代わりとなるものだ。Open Transport 2.6は1.1 MBのダウンロードだが、Mac OS 9 が動いている Macintosh、Power Mac G4、iBook、あるいは Mac OS 8.6 で動作している現行の(iMac DV のよう な)スロット・ローディング iMac だけを対象とする。また、Open Transport 2.6 は Mac OS 9 の「ソフトウェア・アップデート」コントロー ルパネルからも入手できるので、もしあなたの Macintosh が、ソフトウェ ア・アップデートを Apple から自動的にインストールするように設定され ていれば、Open Transport 2.6 を自動的に手に入れられるだろう。

<http://asu.info.apple.com/swupdates.nsf/artnum/n11560>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05752>

アンケート結果:A-OK for Y2K? Y2K バグはその牙を失くしていたの か、世界のカレンダーは大きな災害もなく新年へと変わった。だが、個々 の読者の体験はどうだったろうか?2000 年 1 月 1 日から同 9 日まで 「個人的に Y2K 関連のコンピュータ問題を体験しましたか?」というアン ケートを行った。寄せられた 656 の回答のうち、17 % は「間違いなくト ラブルを体験」を選択、6 % は問題があったことに感づいて「たぶん」を 選択したが、残りの 77 % は断固として「まったく何も」と答えた。当然 のことだが、この結果をみると、そうしたY2K問題に直面した人達はこのア ンケートに答えることができたか、さもなければ危地を脱出してきたとい うことなのだろう。


Jobs 氏の Macworld SF 2000 基調講演

by TidBITS Staff <editors@tidbits.com>
(翻訳:石川 篤利 <ishia@hk.ntt.net>)

Macworld Expo San Francisco での基調講演において、Apple 社の CEO で ある Steve Jobs 氏は Apple 社をインターネットコンテンツ提供者へと転 換させると共にユーザーのデスクトップ上の Mac OS の技術を Apple 社が 提供するインターネットサーバ上の技術で補強する、Macintosh を中心に 据えた多数の無料インターネットサービスを発表した。Jobs 氏はさらに、 Macintosh の売り上げが記録的 - 先の 4 半期において 135 万台 - であっ たことと、調査によると iMac と iBook の購入者の内かなりの割合が Apple 社の新しい顧客であったことを強調した。

<http://www.apple.com/>

Apple 社はまた、Macintosh ユーザーにインターネット接続サービスを提 供するべく EarthLink Networks 社との複数年に渡る提携(と同社に対す る 2 億ドルの出資)を発表した。EarthLink 社は今後すべての新型 Macintosh においてデフォルトの ISP となり、Apple 社は EarthLink 社 と契約する Macintosh の各ユーザーから収益を得ることになる。

<http://www.earthlink.net/>

おそらく今回の基調講演での最大の驚きは Mac OS X の開発スケジュール とプレビューであった。Apple 社のプランによると、Mac OS X は 2001 年 1 月に出荷されるが、最終ベータ版が 2000 年の春ごろにディベロッパに 配付され、そして 2000 年の夏からはプレオーダーでの製品販売が開始さ れるとなっている。本当の御馳走は Mac OS X の新しいインターフェース である Aqua のデモンストレーションで、ほとんど Jobs 氏はキーボード によだれを流すかの様にデモを行った。冒険的で半透明なボタンと全体的 に薄い外観という、このインターフェースはすでにそれが持つ利点につい て TidBITS Talk での議論を呼んでいる。(Aqua については今後の TidBITS の記事でより詳しく取り上げるつもりだ)

<http://www.apple.com/macosx/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=901>

さらに Steve Jobs 氏は自身の肩書きから“暫定”の文字を落として、つ いに Apple 社と Pixar Animation Studios 社の両社において CEO として の長期的な実質的地位を固めることとなった。Jobs 氏は今も Apple 社に おいては iCEO という肩書きを持ち続けているが - “i”は“インターネッ ト”を象徴しているとのこと - 恐らくは iMac と iBook という会社を活 気づかせた製品に一目置いてのことだろう。

<http://www.pixar.com/>

ショーに欠けていたものは盛んに噂されていた発売後 8 ヶ月になる bronze keyboard PowerBook G3 の後継機の発表だった。ここで思い出す価値があ るだろう、Apple 社はデマを流す人々との敵対関係について長い歴史を持 つが、同時に同社は間違った情報を広めることでさえ知られているのであ る。来るべき新型ハードウエアについての噂は現行製品の売り上げが減る という、どの会社も望まない影響をおよぼす傾向があるので、Apple 社が 単なる誤報から来る憶測の犠牲者だったのではなく新型 PowerBook の噂の 種を意図的に流したというのは疑問である。TidBITS Talk には、今回新し いハードウエアの発表がなされなかった理由の一つは、新型モデルを製造 する際には旧型モデルの製造を止めなくてはならない上に在庫も一掃して いなければならないので、小売店を助けるためだったのではないだろうか という意見も寄せられていた。1 月の Macworld Expo で新型モデルを発表 するということは、小売店は最悪クリスマス休暇という絶好の時期に在庫 が空の状態のまま放って置かれうる、ということを意味するのである。

<http://db.tidbits.com/qetbits.acqi?tlkthrd=899>


蘇る Macintosh の森

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:尾高 修一 <shu@pobox.com>)

毎年 Macworld Expo で私はその時のショーの時代精神の核心に迫ろうとす る。サンフランシスコの Moscone Center にある二つのホールの中で、時 代の流れを見極めようとするのだ。そのための方法は、知り合いとおしゃ べりをしたり、出会った人の意見を聞いたり、フロアやパーティでの人の 流れを眺めることを数日間続けるというものだ。時間が経つとともに「何 が良かった?」という質問とそれに対する答えが合い言葉になる。こうした 受け答えが見えざるショーの底流を見つめるのに役立ってくれる。

今年は難しかった。最初の方でいくつか感心した製品を見たので「何が良 かった?」という質問への答えはできたし、逆に私の質問に対する答えも今 まで見たことのない製品であることが多かった。Steve Jobs 氏が基調講演 で披露したインターネット戦略も話題には上ったが、Mac OS X はほとんど 話題になっていなかった。また、デジタルビデオも話題にはなっていなかっ た。ある古参 Mac ライターが今年はデジタルビデオ元年であると述べてい たにもかかわらず、である。

毎晩夜更かしをしたために頭がもうろうとしていたせいもあり、私が見た ものに言葉を与えることはなかなかできなかった。ところが土曜日に Mac 業界にはあまり関心のない妹と話しながらそれまでの 4 日間を一言でまと めようとして、はたと思いついた。1997 年の Apple 絶体絶命の時期に姿 を消した目立たない連中がまたどこからともなく現れてきていた、と言っ た時、これだ、と思った。Macintosh 業界に再び生命体が現れたのだ。

山火事の後 -- Apple 絶体絶命の時期はあたかも Macintosh 業界という 森を襲った山火事のようなものだった。弱い植物は燃えつくされ、動物た ちは住める土地を求めて去って行かざるをえなかった。Microsoft や Adobe といった大木は傷を負いながらも生き延びた。だが、今森は回復に向かっ ている。機会を与えられたらすぐに成長する種類の植物(USB や FireWire への移行に一役買った会社)は新たな環境を真っ先に上手に利用したし、 今では他の生命体も森に帰ってきたし、新たに移住してきたものもいる。 見覚えのない名前を掲げたブースも多数あったし、驚くような製品もあっ ただけでなく、実際に自分で欲しいと思うほど気のきいたものもあった。 クラゲ以外の何物にもみえない Harman Kardon 社の透明プラスチック製の USB サブウーファー、iSub は欲しいと思わずにはいられなかった。KB Gear Interactive 社は 50 ドルの子供用筆圧感知タブレットを出展していた。 これには付属のペイントソフト、Disney Magic Artist Studio 用テンプ レートが付いている。それに KB Gear 社をはじめとする多くのベンダーが LCD を搭載しておらず、解像度も 640 x 480 しかないものの、価格は 100 ドル未満というデジタルカメラを販売していた。

<http://www.harman-multimedia.com/>
<http://www.kbgear.com/>

この回復ぶりはショーのフロアでも目にすることができた。Moscone Center の南側ホールには Apple、Microsoft、Adobe、Connectix、Aladdin などと いったおなじみの名前が揃っていた。一方北側ホールは概して無名企業の 小さいブースがあるだけでなく、一人またはせいぜい二人のスタッフがデ モ用に一台だけのコンピュータとともにいる極小のブースが集まった 9 つ の専門エリアもがあった。このエリアとは Consumer Showcase、Music & Audio、DTP 関係者向けの Extensions Workshop、Education District、 Small Business Solutions、理数系の Sci Tech、メディアプロフェッショ ナル向けの Digital Media Studio、それに MacTech 社が主宰する伝統あ る Net Innovators と Developer Central だ。キャンセルのために空いた ブースがあるのは明らかで、ブース間に空のポケット(空間があった、と いう意味だ)が見受けられたが、出展していた小企業によって出展者の全 体数は大幅に増えていたし、製品の幅も広がっていた。

<http://www.macworldexpo.com/mwsf2000/media/frame_pr_showcase.html>

ほんの少ししか Macintosh に関係のない会社の数も生態系の回復を物語っ ている。Palm Computing 社と新進の Handspring 社のブースは Palm OS ハンドヘルド機(「Palm OS handheld」という言葉があまりにも長ったら しいので、POSH と短縮しようかと考えている)に興味がある Macintosh ユーザーが押し寄せていた。Industrial Light & Magic 社は人材発掘だけ のためにブース代を払い社員を張りつけていた。Matsucom 社は onHand PC という Palm OS ハンドヘルド機の機能の多くを大型の腕時計に詰め込み、 Macintosh ともシンクロできるというものを出展していた。Guru.com は企 業とフリーのコンサルタントや各種の人材派遣会社や特化した人材発掘サー ビスを結びつける Web ベースのサービスを宣伝していた。

<http://www.palm.com/>
<http://www.handspring.com/>
<http://www.ilm.com/>
<http://www.onhandpc.com/>
<http://www.guru.com/>

こうした企業の再来は、iMac を先鋒に、プロフェッショナル向けの G3 や G4、それにコンシューマー向けの iBook が育てた Apple の回復が Mac 市 場の規模拡大に貢献し、その結果小企業がニッチを狙ったビジネスモデル でやっていけるようになったことを示している。Macintosh に特化した製 品を出していない会社も今では Macintosh 市場に目を向け始めている。こ れは復活を示すものでしかありえない。


Apple 社の“i”戦略は“i”ンプレッシブと“i”エる

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:亀岡 孝仁 <tkameoka@fujikura.co.jp>)
(  :吉田 節 <benjamin.takashi@nifty.ne.jp>)
(  :尾高 里華子 <rikako@pobox.com>)

基調講演での一番の驚きはといえば、Mac OS X のユーザーインターフェー スが披露されたことでもなければ、新しいハードウェアが何も発表されな かったことでもなかった。それは、大ニュースへの前触れと多くの人が思っ たことが実は大ニュースそのもの である ことがわかったことである: Apple 社のインターネット戦略である。

ポータルの中に -- Jobs 氏が基調講演で触れていたように、Apple 社に は数多くのインターネット資産がある、たとえば、毎週 9.5 百万にも及ぶ Apple 社のホームページへのアクセス、Mac OS 9 に組込まれた強力なイン ターネットサポート機能、それに Mac 上の Mac OS X Server 上で WebObjects の形で走る強力なインターネットサーバソフトウェア等があ る。そこで、Apple 社は Macintosh を Windows ベースの PC から差別化 するための一つの方法として、Mac ユーザーに対してどのようなインター ネットサービスができるかに目を向けはじめた。簡単に言うと、Apple 社 の目標は、www.apple.com を iReview、iTools、そして iCard を通した Macintosh ユーザーのための ”ポータル” とすることである。

個々のサービスについて解説する前に、ポータル [訳注:portal 入り口] の概念について説明しておきたい、というのも、TidBITS の中ではだいた いにおいて触れるのを避けてきたからである。ポータルサイトの裏にある 狙いは、広い範囲のサービスを提供してユーザーにそのサイトをデフォル トのホームページに指定してもらうか少なくとも頻繁に訪れてもらえるよ うすることである。これは悪い考えではないし、ほとんどの大手のサーチ エンジンは、たとえば Yahoo、Excite、Lycos、そして InfoSeek のよう な、単にサーチエンジンとしてでは思うような拡大はできないと気づいて ポータル戦略を取り入れてきた。しかしながら、ポータルに関する問題点は どうしたらそれ程多くのサイトが共存できるのか見当もつかないことであ る。例を話せば、私どもは個人的なことに My Yahoo をかなり使っている、 というのも、TV 番組、ヘッドラインニュース、株価情報、電話番号調べ、 地図と道順案内、映画案内等の Yahoo のサービスが気に入っているからで ある。ここで現実の話は、これらのサービスに関しては My Yahoo のサー ビスで十分満足しているので、とても他の競合するサイトを試して見たこ となどないという事実である。

これがポータルの考え方に対する私の目にうつる大きな矛盾である - これ は限られた数のサイトに対してはうまく行くだろうが、そして大手のポー タルが大方のニーズを満足させてしまうため、似たようなサービスを提供 する小さなポータルサイトに残されたお客の数は少なすぎることになるで あろう。その理由は、すべてのポータルサイトは広告によってやっている ため、このお客の数は大変重要なのである。

そうではあっても、Apple 社はポータルモデルに 3 つの観点から工夫を加 えた。第一に、Apple 社のポータルは他社のポータルで提供されている標 準のサービス以上を行っているし Macintosh ユーザーに対して付加価値を 生まないものは切り捨てている。確かに、無料のメール、無料の Web ペー ジ、Web サイトレビュー、グリーティングカードは比較的どこにでもある ものであるが、違いはこれらがアクセス管理システム KidSafe とインター ネット保存ソリューション iDisk と一緒になっており、このどちらもが Mac OS 9 自身と密接に結合している。つまりほとんどのポータルは、我々 が使っている My Yahoo にあるような情報提供型であるが、Apple 社のも のは概して機能型であると言える。ツールの一つ一つが、Web サイトレ ビューですらも、Macintosh ユーザーが何かを する のを手助けするの を目標としている。そのスローガン ”iTools. あなたの意のままに” と あるように。

第二に、Apple 社のインターネットサービスにはバナー広告がまったく見 られない、というのも Apple 社はこれで儲けようとは思っていず、自らの インターネットサービスで Macintosh のトータルとしての価値を増やした いと願っているのである。Mac OS 9 のついた Mac を一台買えば、Apple 社のサービスにすべてただでアクセスできる。その他の OS のユーザーで も使用登録する必要はない。なぜならば、そもそもインターネットはコン ピュータの利用を増加させている一番の牽引車となっており - 市場調査で は iMac 所有者の 93 パーセントがインターネットに接続している - Apple 社がこれらのサービスを使ってインターネット上で Macintosh を強調する のは理にかなっているからである。

第三そして最後に、これまでのところ私の見る限りでは、Apple 社これら のインターネットサービスについて、考え方、実行、そして統合という観 点からは非常によくやったと思う。それでは、個々のサービスの詳細を見 てみたいと思う。それぞれが Apple 社の Web ページの最上部に設けられ た新しいタブからアクセスすることができる。

<http://www.apple.com/>

iReview -- Apple 社の Web サイト・レビューサービスである iReview に関して興味深いのは、Web の高成長が過去数年間に同種のサービスの衰 退を招いたことだ。レビューすべき Web サイトが多すぎた上に、レビュー を行う企業はわかりやすいレビューよりもサイト数を増やすことが重要だ と感じていた。そこで Apple は iReview を少し昔風にしたが、初めての ユーザーはこのサービスの良さがわかるだろうと私は思う。広く意見を集 めるために、Apple は Amazon.com のやり方をまねて、レビューされてい るサイトを他の iReview 読者にも評価させている。

Computer セクションは 2、3 の Macintosh ニュースサイトを挙げている が、今のところ TidBITS は含まれていない。人々が評価対象として TidBITS を登録(iReview の Computer のページには登録するためのボタ ンがある)してくれると嬉しい。

<http://ireview.mac.com/>

iCards -- 私は、電子グリーティングカードは最もポピュラーなインター ネットサービスのひとつだと思う。そして、むだの多い紙製のカードと封 筒をオンライン化することによる環境保護には大賛成だ。しかし、これま でに見たほとんどのオンライン・グリーティングカードはひどいものばか りだ。絵柄は見苦しいものか安っぽいものだし、必ず入る広告が祝辞の邪 魔になる。そして、自分のカードを見るには Web サイトを訪れなければな らず、時には特別なコードを入力しなければならない。基調講演の中で Steve Jobs 氏は彼の嫌悪感をもっと強烈に、このようなサービスは彼に “人間であることが恥ずかしい”と感じさせる、と表現した。手厳しいも のだ。

しかし彼の言うことには一理ある。Apple は iCards で次のような優れた 仕事をした。大量の絵柄やグラフィックス(有名な Think Different キャ ンペーンの画像もいくつか含まれている)をライセンスしている。自分の iDisk へアップロードした GIF または JPEG 画像ファイルを使ってカード を作ることができる。カード作成手続き自体もでき上がったカードも共に デザインがよい。そして、相手に Web サイトを訪れることを強要するので はなく、カードを画像として電子メールで送ることができる(もちろん、 この効果が最高に発揮されるのは、グラフィックスを表示できる現代的な 電子メールプログラムを使っている場合だ)。電子メールになったカード は JPEG 画像になる。animated GIF はアニメーションを失うが、その代わ りにグリーティングカードの“中に”入れることができる。

<http://icards.mac.com/>

Email -- iTools のひとつめは Email だ。これはあなたに、無料で Mac.com アドレスをひとつくれる(Mac.com ドメインに Apple がいくら 払ったのか心配してしまう)。無料電子メールは目新しいものではないが、 POP による電子メールアクセスが可能なサービスは少ない。その理由は、 メールを POP で取り出す利用者に広告を表示する簡単な方法がないから だ。(ざっと見たところでは、本当に POP アクセスサービスが可能なのは Yahoo! Mail だけだった。そこでは、週に一通の広告メッセージを POP ア クセスで受け取ることに同意しなければならなかった。)しかし Apple は 広告の必要がないので、標準的な電子メールプログラムならどれを使って も自分の Mac.com メールを取り出すことができる。他にも電子メールアド レスを持っていれば自分の Mac.com 電子メールを転送することができる し、休暇中やしばらく電子メールを受け取りたくない時には自動応答を設 定することもできる(メーリングリストを溢れさせないように、送信者ひ とりに一通だけメッセージを返すようだ)。自分のアカウントに残せる電 子メールは 5 MB に制限されているが、メールをダウンロードするとサー バから削除されて新着メッセージのために空きができる。

Apple は Outlook Express 5.0 が iTools Email を扱えるように自動設定 することができる。加えて Outlook Express 5.0(古いバージョンでもよ い)と Netscape Communicator 用の手順を提供する(この 2 つが Mac OS にバンドルされているため)。他の電子メールクライアントを設定するた めの最低限の手順も利用可能で、それは以下の 4 つの情報だけを入力する 必要があるというものだ。

<http://itools.mac.com/>

KidSafe -- iTools の 2 つめは KidSafe だ。これは、Steve Jobs 氏が “公認の教師と司書”と呼ぶ人たちのグループによって認可された Web サ イトを集めたものだ。他の同様なリストとは異なり、KidSafe は Mac OS 9 の Multiple Users 機能と Sherlock 2 とに緊密に統合されていて、不 適当なサイトを子供たちが偶然にも見ないことを保証する。アイデアはこ うだ。子供が Mac に自分のユーザー名とパスワードでログインする。する と KidSafe は、KidSafe の評価担当者と Macintosh の持ち主のどちらも 認めていない Web サイト、FTP サイト、オンラインチャット、またはオン ラインゲームにその子供がアクセスできないようにする(言い換えると、 KidSafe のリストに載っていないサイトやサービスをあなたが手作業で追 加すれば、それらを自分の子供に見せることができる)。Sherlock 2 との 統合によって、次のようなことが保証される。たとえば子供が Sherlock を使って、普段は不適切とされる“sex”という単語を検索して遺伝学に関 するページを見つけようとした時に、オンラインポルノで溢れた検索結果 を見なくても済む。

KidSafe はすでに議論の的になっている。その理由は多くの人々が、子供 の個人的なインターネット利用を監督する責任を親や教育者が引き受ける べきだと感じているからだ(そしてこれはきっと、努力していくべき理想 だろう)。しかし実際には、子供がインターネットを使っている時に大人 が一緒にいられない状況が数多くある。とりわけ学校や図書館では、ひと りの大人が同時に多数の子供たちの面倒をみなければならないことがある。 また、注目すべきは KidSafe が、何かを理解するには若すぎる子供たち が、それを偶然にも見ないようにするのに本質的に役立つということだ。 この時、大人が不適切だと判断したサイトを、年長で技術的に機敏な子供 たちが故意に訪れることは阻止できない。自由に探索したい年長の子供た ちは、持ち主のパスワードを推測するか、単に KidSafe が入っていない他 のコンピュータを使うといった、KidSafe を迂回する方法を見つけるだろ う。

iDisk -- iTools の中で一番惹かれるものは、インターネット上の 20 MB のバーチャルディスク iDisk(iDrive と口をついて出てしまう人が多 いようだが間違いないように)だ。iDisk が初代 iMac 同時に登場しなかっ たことは実に残念だ。フロッピーディスクがないことへの完璧な対応になっ たのに。iTools にログインすれば、iDisk ページに行くことができるよう になるし、ほかのディスクとまったく同じように自分の iDisk をデスク トップにマウントできるようになる。

iDisk は IP 経由の AppleShare を利用するようになっているのだ。これ は Mac OS 8 以降の Mac OS に搭載されているし、System 7.5 でも AppleShare Client Chooser 機能拡張のバージョンを 3.7 以降にアップ デートすれば利用できるものである。iDisk が IP に対応した AppleShare を使うということは、自分の iDiskの、さらにはその中のどのフォルダや どのアイテムでもエイリアスを作っておくと、(ネットワークディスクに あるアイテムにアクセスするのと同じように)iDisk Web ページに行かな くてもアクセスできるようになる、ということだ。ほかの人の Public フォ ルダをエイリアスで呼ぶ際のパスワードの仕組みについてはまだ判らない。 ログインダイアログにはユーザー名としてほかの人のユーザー名が表示さ れてしまうし、パスワードがなにかを知る手がかりはない。これが解決で きないかぎりは、まず iDisk Web ページに行かなければ、ほかの人の Public フォルダをマウントすることができない。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=04961>

iDisk の中には Documents、Movies、Pictures、Sites、Public という 5 つのフォルダと、iDisk のことを説明した SimpleText 書類が入っている。 これらのフォルダは、ほとんどが iTools の共通ベースになるもので、消 去したり名称を変更したりできない。具体的な話をすると、GIF または JPEG の画像は Pictures フォルダにコピーするようになっている。コピー された画像は、カスタム iCards や自分の iTools Web ページのフォトア ルバムに利用できる。Movies フォルダも似たようなもので、QuickTime ムービーをこのフォルダにコピーすると、自分の Web ページにある iMovie Theater に組み込むことができる。実際に Web サイトを構成する HTML 書 類は Sites フォルダに入ることになる。HTML の書類やフォルダここにド ロップするだけで、Web 経由で誰でも(Mac を使っていない人も)アクセ スできるようになる。Public フォルダにコピーされたファイルは、Mac OS 9 と iTools を使用している人と共有できるようになっており、ディスク と同じようにほかの人の Public フォルダをマウントし、そこからファイ ルをコピーしたりできる。もっとも、ほかの人があなたの Public フォル ダにファイルをドロップすることはできないが。Documents フォルダはファ イルをプライベートにストアしておく場である。特に大切なファイルのバッ クアップを置くところとしては抜群の場所だろう。

セキュリティが気になる方は、Mac OS 9 がファイルを暗号化できることを 思い出していただきたい。ファイルを選択して、ファイルメニューから “暗号化”を選択するだけでよいのだ。パスフレーズを入れて、ファイル が暗号化されるまで待ち、Documents フォルダにアップロードする。Public フォルダを利用して重要な書類を共有する際にももっていこだろう。誰で も目にしたりダウンロードしたりできるが、パスフレーズなしではそれを 読むには至らないからだ。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05625>

Apple は負荷を少なくするためにデスクトップに iDisk をマウントしてお くことのできる時間に制限を設けている。試したところ、何もしない状態 でだいたい 15 分ぐらいで、2 分(3、4 分ということもあった)の警告が でる。iDisk にあるフォルダを開くだけで、さらに 15 〜 20 分は保証さ れる。ただし、60 分経過すると iDisk を使用中であろうと強制的に切ら れてしまう。iDisk をもっと使いたい場合は、もう一度つなき直せばよい。 この警告ダイアログはモーダルではあるが、ほかの AppleShare サーバメッ セージと同様、マシンに誰もいないと自動的に Mac OS 9 のもとに消え、 AppleShare Server Messages と呼ばれる警告ダイアログのテキストの入っ たテキストファイルをデスクトップに残す。Mac OS では iDisk (または ほかのディスクでも)にある文書を開いているとごみ箱にそのディスクを ドラッグしてアンマウントすることはできないようになっているが、何も しないまま制限時間を迎えた時はこれは通用しない。したがって、iDisk にある文書を開いて、それを開けたまま放っておくことのないようにご注 意を。

HomePage -- iTools の最後の部分を説明しよう。HomePage と呼ばれる のだが、Claris Home Page とごっちゃにしないように。Claris が解体さ れた際、おおかたの Claris 製品は Apple のもとのなったが、Web オーサ リングツール Claris Home Page は FileMaker 社に引き継がれた。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=04684>

要するに HomePage は iDisk 置かれたファイルを利用する無料の Web サ イトである。自分の HomePage Web サイトにページを作る最も簡単な方法 は、カテゴリー(Photo Album、iMovie Theater、Invites、Baby Announcements、Resume)に分けられている Apple のテンプレートを使用 することだ。それぞれのカテゴリーにはページの最終的な見栄えをコント ロールするテーマが入っている。まずはカテゴリーとテーマを選ぶ。変更 できるページには Edit ボタンがあるのでそれをクリックし必要な変更を 行い、Apply ボタンを押すとその変更が保存されるようになっている。こ こまでできたら、そのページのプレビューがでるので、それでよければ Publish ボタンをクリックすると完成だ。この時点で、そのページは homepage.mac.com 経由でどこからでもアクセスできるようになる。私も TidBITS ページを作ってみた。

<http://homepage.mac.com/tidbits/>

HTML ページやグラフィックは、自分の使いたいツールを使って作成し、 iDisk の Sites フォルダにアップロードしてパブリッシュすることもでき るが、ひとくせある。Apple が用意したテンプレートを使って作ったペー ジがあると、その中の一つがあなたのデフォルトページとしてセットされ てしまい、ユーザーをとにもかくにもテンプレートベースのページに向け させる index.html というロックされた文書が Sites フォルダに現れる。 この index.html を直接消去したり、編集したりできないので、別のデフォ ルトページを作りたい場合は、テンプレートベースのページをすべて消去 し、リストに何もない状態で Make Start Page ボタンをクリックし、自動 的にできた index.html ファイルを消去するよりほか手はない。そうして から、新しい index.html をアップロードするとそのページがデフォルト ページとして使えるようになる。ただし、テンプレートを利用してページ を作成すると自動的にそのテンプレートベースのページがデフォルトペー ジとして設定されるので、警告もなしに index.html が上書きされてしま うので要注意である。

複雑なことのようだが、実際、Apple の思惑の範囲内で利用しているかぎ りは大失敗には至らないようになっている。iTools はすべて、初心者向け によくできている。ビギナーから足を洗ったユーザーはテンプレート漬け のやり方を面倒に感じるだろうし、HomePage がデフォルトページとして アップロードした HTML ファイルを採用できるようにさせてくれたらよい のだが、将来的にどちらも比較的簡単に改善できるのではと考えている。

いかがでしょう ? さて、ここまで詳細を読んだところで、今週のアン ケートの質問を出そう:「Apple の新しいインターネットサービスを利用 しようと思いますか?」 Mac OS 9 がないと iTools は使えないが、iReview と iCards は Mac OS のバージョンを問わず利用できるし、Apple に登録 する必要もない。率直に言って、私はなかなかだと思っているし、一部の サービスを利用するつもりである。みなさんのご意見を我々のホームペー ジに記していただきたい。

<http://www.tidbits.com/>

前途 -- Apple が(WebObjects を用いている)サーバとクライアント側 の Mac OS の両方をコントロールしているからこそ、これらのツールが実 現に至ったのだ。iTools は全体的によくできているし、まだ第一段階で、 今後今ある部分を改良し、また新しいものを加えるのことは Apple にとっ て簡単だと思われる。今回出た iTools 自体はとりたてて奇抜なものでは ないが、オペレーティングシステムとの統合というレベルでは前例のない ものであり、全体のデザインは逸品である。今は iTools の土台ができた ところだが、ほかのマシンでなく Mac を買ってもらうべく斬新なインター ネットサービスを届けるために Apple が今後いかに WebObjects と Mac OS を扱っていくのかはまだわからない。


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