TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#568/19-Feb-01

Mac のインターフェースはアクセシビリティがよいと賞賛されてきた。だ が身体障害者にとって Mac はまったく使いにくいものだろう。Joe Clark 氏が Macintosh 向け支援技術のお寒い現状を調べる。また今週は Jeff Carlson が自分の PowerBook に 2 台目のハードディスクを押し込む。さ らに PowerMail 3.0.8、Conflict Catcher 8.0.8、Storyspace 2、Google 社による Deja.com の Usenet アーカイブ買収に触れるとともに、あなた がどんな形で TidBITS を受け取りたいかを尋ねる。

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MailBITS/19-Feb-01

(翻訳:吉田 節 <benjamin.takashi@nifty.ne.jp>)
(  :三好 泰子 <yokomo@mio.to>)
(  :尾高 里華子 <rikako@pobox.com>)
(  :敦賀 康子 <hiroki-tsuruga.soul75@nifty.com>)

アンケートのお知らせ: どんな形でメール版 TidBITS を読みたいか? 私たちは TidBITS の新しい発行方法を考えており、みなさんの助けを必 要としている。最初の 99 号は HyperCard スタックをメールで発行し、 1992 年にテキストだけからなる setext 形式(みなさんが現在メールで 見ている)に切り替えた。途中で Web 版、個別記事データベース、一番 最近ではハンドヘルド版を追加した。またプッシュ技術とチャネルを、 Microsoft 社の今は亡き CDF フォーマットを使って試したこともある (成功しなかったが)。私たちはそんな風に時間と労力の無駄をくり返し たくないので、 みなさん がどんな形でメール版 TidBITS を読みたい か知る必要がある。現在のアプローチに追加できそうな選択肢は次のとお り。まず単純な HTML 形式(画像なし、または少し)の全文で、これは記 事データベースで見られるものに似ている。または、短いテキストのみの アナウンスにデータベース内の記事へのリンクを加えたもの。それから短 い HTML 形式のアナウンスで、記事タイトル部分にリンク用 URL を埋め 込んだものである。読者の正真正銘の意見を聞くことが私たちには大切な ので、ホームページのアンケートフォームを使ってどうぞ投票していただ きたい。[ACE]

<http://www.tidbits.com/>

Conflict Catcher 8.0.8 へアップデート -- Casady & Greene 社は、 Mac OS 9.1 のサポートを追加した Conflict Catcher 8.0.8 をリリース した。この新しいバージョンでは、Mac OS 9.1 All と Base のセットを 追加し、Mac OS 9.1 用の Clean Install System Merge をアップデート している。加えて、Mac OS X の Classic モードで稼働する Mac OS 9 で の使用のためのデフォルトセットを定義することもできる。このアップデー トは、Conflict Catcher 8 の登録ユーザーは無料、ダウンロードサイズ は 1.4 MB である。[JLC]

<http://www.conflictcatcher.com/>

Eastgate Systems 社、Storyspace 2 をリリース -- 長きに渡りハイパー テキスト用ツールとハイパーテキストのライティングソフトを発行してき た Eastgate Systems 社は、Storyspace 2 をリリースした。これは、同 社の革新的なハイパーテキストエディタを全体的に書き換えたものである (号全部が同プログラムについて書かれている TidBITS-095 を参照のこ と)。Storyspace 2 は、今のところ PowerPC にネイティブに対応したも ので、プログラムの全体でドラッグ & ドロップをサポートし、コンテキ ストメニューを使用し、複数回の取り消しの機能を有している。改良され たタイポグラフィー、新しいマップ・ビュー、そしてカーブしたリンクの ラインが、複雑なハイパーテキストの Web を扱う仕事をより簡単なもの にする。さらには、カスタマイズの可能、テンプレートベースの HTML の サポート、そして新しい Storyspace reader がハイパーテキストで書か れたものを読者へ配布するためのよりよい方法を提供している。 Storyspace 2 へのアップデートは、登録ユーザーで 2000 年 7 月 1 日 以降に購入したなら無料、それ以外は 95 ドル、新規購入は 295 ドルで ある。3.6 MB のデモ版も入手可能。[ACE]

<http://www.eastgate.com/Storyspace.html>
<http://www.tidbits.com/tb-issues/TidBITS-095.html>

PowerMail 3.0.8 が HTML と認証サポートを追加 -- CTM Development 社は PowerMail 3.0.8 をリリースした。これは同社の国際対応メールク ライアントの注目に値するアップデートである( TidBITS-530 の記事 「新天地 PowerMail へ」を参照)。PowerMail 3.0.8 は SMTP 認証(正 規ユーザーが外部ネットワークから自分のメールサーバを使ってメールを 送れるようにするための安全な方法のひとつで、スパマーにサーバを不正 利用させることがない)を新たにサポートした。加えて HTML 形式のメッ セージを、Mac OS 9.1 に含まれる Apple 社の HTML レンダリングエンジ ンの最新版にリンクさせることで、見ることができるようになった。 Apple 社の HTML レンダリングエンジンには制約があるが、要点を理解す るには充分であることが多い。またメッセージをテキストで、もしくは好 みの Web ブラウザで表示することもできる。PowerMail 3.0.8 はまた Microsoft Entourage のメールをインポートおよびエクスポートする機能 をサポートし、数多くの小さな機能も追加された。PowerMail 3.0.8 は Mac OS 8.5 以上が動作する PowerPC ベースのシステムを必要とし、Mac OS X も暫定的にサポートしている。PowerMail は 49 ドルで、30 日間使 える試用版は 2.6 MB のダウンロードとして入手可能である。[GD]

<http://www.ctmdev.com/powermail3.shtml>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05930>

Google が Deja.com Usenet アーカイブを獲得 -- 定評ある検索エンジ ン・Web カタログを持つ Google 社(我々の最近のお気に入り検索サイト) が、1995 年来 Usenet にポストされた全メッセージのアーカイブを提供 していた Deja.com の Usenet Discussion Service を獲得した。メッセー ジ総数が 5 億を超えるテラバイト級の発言のアーカイブを取得したのだ。 Deja.com は DejaNews という名前だったころ、Usenet へのポストのアー カイブに Web からアクセスするサービスだけをまず提供していたが、そ の後ポータル熱に冒され、焦点が定まらなくなってしまった(そして、お そらく多額の金を失い、同社の Precision Buying Service を eBay の Half.com に売り渡した)。5 億ものポストすべてを処理でき、かつイン ターフェースも優れているというツールを開発するまでにはしばらく時間 がかかるだろうが、Google は、機能が比較的貧弱とはいえ 2000 年 8 月 以降のポストにはすでにアクセスできるようにしてくれている。このかけ がえのない資産を Google が引き継いでくれたのは嬉しいことだ。なにせ、 有益なサービスを提供してくれるインターネット関連会社で、Google の ユーザビリティと性能と控えめなデザインに対抗できるところなどほとん どないのだから。[ACE]

<http://www.google.com/press/pressrel/pressrelease48.html>
<http://groups.google.com/>

Book Bytes 賞 -- 自画自賛するのは嫌味かもしれないが、TidBITS ス タッフによって書かれた数冊の本が MyMac.com の第 3 回年間 Book Bytes 賞を受賞したことをお知らせする。寄稿家の Matt Neuburg 著の 「REALbasic: The Definitive Guide」は最も良いプログラミング本とし て選ばれ、Adam Engst 著の「Crossing Platforms: A Macintosh-Windows Phrasebook」(David Pogue 氏との共同執筆)が 30 ドル以下の Mac-Win 本の最優秀本に選ばれた。それらにまさるほどではないが、Jeff Carlson 編集長の本は 2 つの賞を受賞した。一つは「Palm Organizers Visual QuickStart Guide」で、もう一つは TidBITS ライター(もと NetBITS 編 集者)の Glenn Fleishman と共同執筆した「Real World Adobe Golive 4」 である。(彼らは最近、Golive 5 のアップデート版を出版した。)これ らの本と TidBITS スタッフが書いた本は我々の BookBITS ページからリ ンクできる。[GD]

<http://www.mymac.com/book_bytes/thirdawards_12.8.00.shtml>
<http://www.tidbits.com/bookbits/staff.html>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05712>


古い PowerBook ディスクに第二の人生

by Jeff Carlson <jeffc@tidbits.com>
(翻訳:尾高 修一 <shu@pobox.com>)
(  :林部 清実 <hayashibe@mvb.biglobe.ne.jp>)

去年の暮れ、PowerBook G3 (Bronze Keyboard) に付いていた 4.5 GB の ハードディスクを安価な 12 GB のものに交換した。おかげでデータを入 れるスペースが増えただけでなく、私の MP3 コレクションを 1 GB ほど 放り込むこともできたのだが、まだまだ使える 4.5 GB のディスクが机の 引き出しで眠ることになってしまった。新しい方のディスクについては何 の不満もないのだが、古い方がほこりをかぶっていることは何となく申し 訳なく感じるのだ。

1 月の Macworld Expo で、古いディスクを再利用する方法を発見した。 Mac Components Engineered (MCE) 社の Xcaret Pro Expansion Bay Hard Drive Kit がそれだ。これは 150 ドルのキットで、高さ 12.7 mm 以下の IDE ハードディスクを PowerBook G3 の拡張ベイに装着できるケースに収 めるものだ。MCE 社は 1999 年と 2000 年型の PowerBook 用のものと、 1998 年型用(ベイの大きさが異なる)のものを販売している。同社はハー ドディスク付きのケースも販売しているが、私が目をつけたのはケースだ けのキットで、これで 4.5 GB のディスクに第二の人生を歩んでもらおう というわけだ。

<http://www.mcetech.com/xpebhd.html>

災難 -- 私はこれまでに何度も PowerBook のハードディスクを交換し たことがあるので、古いディスクをケースに収めるのは朝飯前だろうと考 えた。これは本来ならその通りだったのだが、律義に MCE の説明書通り にことを運ぼうとしたのが失敗だった。驚いたことに、説明書には手順を 示す写真がまったくなかったのだ。どれだけ質が悪いものでも、写真があっ たら作業は数段楽だっただろう。このドキュメンテーションの問題の原因 は、MCE が最近ケースの設計を変更したことにあるようだ。私のマシンに 適合する Xcaret Pro 99/2000 Drive は、もう一冊のユーザーマニュアル ではもっと幅が広く、PowerBook の CD-ROM モジュールに似たものとなっ ているが、私の手元に届いたものは幅が狭く、形もバッテリに似たものだっ た。

私が遭遇した最大の問題はリボンケーブルで、ディスクをキャリアに挿入 するには折り曲げなければならない。最初は固かったため、裏側に折り曲 げてキット側のコネクタ(黒いコネクタと拡張ベイの内部スロットをつな ぐ緑色の薄い基盤)が 180 度回転するようにした。ディスクもケース中 央寄りに少しずらさないと収まらなかったので、リボンケーブルは平たい シートというよりはポールに巻きつけた旗のような状態になってしまった。 ドキュメンテーションにはこうしたねじれが生じるとは書いていなかった が、結局なんとか押し込んで運を天に任せることにした。

配線が繋がったところで、次はディスクをケース内で固定する銀色のプレー トに装着する必要があった。特定の方向にしか収まらないところはいいの だが、ここでネジの問題に行き当たった。説明書によると 4 本の銀色の ナベネジ、2 本の銀色(または茶色)のタッピングネジ、それに 2 本の 黒いサラネジが入っているはずだったが、私の手元にあったのは 4 本の 銀色のサラネジと 9 本の黒いサラネジだった。黒い方のネジがキットの ベースとケース外部を固定するものだったので、銀色のネジがディスクを ベースに固定するものと思われた。ところが、銀色のネジは細すぎてハー ドディスクのネジ穴に合わない。ディスクがケースの中で動き回らないよ うになんとか一本をねじ込んだが、残りは外れてしまいケース内でからか らと音を立てた。

部品点数がそう多くはないのが幸いで、ハードディスクを PowerBook か ら取り出すことができたらケースに収めるのも難しくはない。とはいえ、 私はこんなことはもう何年もやっているが、それでもどんな仕組みになっ ているかを解明するのに一時間近くかかった。

使用感 -- 幸い、ユニットの組み立てが終わった時点で事態は大幅に好 転した。まず PowerBook をシャットダウンし、右側の拡張ベイにディス クを挿し、電源を入れた。ちなみに PowerBook G3(Bronze Keyboard)に は左右に拡張ベイがあるが、後述するように左側はバッテリ専用となって いる。電源を入れると、ディスクのアイコンが内蔵ディスクと同じように デスクトップに現れた。Apple の Drive Setup で初期化し、数分後には 4.5 GB のスペースが新たに私のものとなった。第二の人生への門出を祝 い、早速 1.2 GB の MP3 ファイルをコピーした。

ほとんどあらゆる意味で、このディスクは内蔵ディスクと同じように振る 舞う。使用されていない時は Energy Saver コントロールパネルの設定に 従って回転を停止し、PowerBook がスリープしたら同時に問題なくスリー プする。バッテリや CD-ROM ドライブと差し替えるためにイジェクトする には、ディスクにあるデータを使用しているアプリケーションがないこと を確認したうえで片づけ(Command + Y をタイプするか、アイコンをゴミ 箱にドラッグするか、「ファイル」メニューから「片づける」を選択す る)、PowerBook のイジェクトレバーで Xcaret モジュールを取り出す。 拡張ベイに Xcaret を挿すと、数秒後にディスクがデスクトップに現れる。

2 基のハードディスクを同時に使用しているとバッテリの保ちに影響が出 るが、恐れていたほどではなかった。テストのため、バッテリの警告が出 るまで作業をしながら iTunes で音楽を鳴らしてみた。一晩充電したうえ で、今度は Xcaret なしで同じテストをしてみた。この極めて原始的なテ ストによると、Xcaret を使用していない時の方が 30 分ほどバッテリの 寿命が延びるが、私にとってはまったく問題にならない程度の差だ。連続 してアクセスするのではなく、普通のストレージとして使用すればバッテ リへの負担も軽くなるだろう。

Mac OS X の使用 -- 私は発売開始時に Mac OS X Public Beta を注文 したが、自分の PowerBook へのインストールに一度もとりかからなかっ た。というのも PowerBook は頻繁に使うし、それにほかに作動させるコ ンピュータを持っていない。Mac OS X がどんなものか使ってみたかった が、ベータオペレーティングシステムを日常的に作動させる時間も、欲求 もなかった。

拡張ベイハードディスクが手に入って、ついに Mac OS X を使用できる機 会がきた。しかし、Xcaret ディスク自体に欠点はないが、インストール することは思った以上に手こずった。Mac OS X Beta は CD から起動しな いとインストールできない。私の最初の考えは、AC アダプタを使用して、 右側ベイにCD-ROM、左側ベイに Xcaret を挿して使用することであった。 Xcaret は左側ベイに装着できる _ように思えた_ があまりにもぴったり しすぎていて、無理矢理押し込んで PowerBook を駄目にしてしまう危険 をおかしたくなかった。それは良い判断であった。というのも 1998 年版 PowerBook G3 シリーズは両側のベイでデバイスを使用できるが、1999 年 版 Bronze Keyboard モデルの左側ベイはバッテリ専用である。何かを実 行する前には Apple 社の Tech Info Library(またはマニュアル)をチェッ クする、ということがこの日の教訓であった。

<http://til.info.apple.com/techinfo.nsf/artnum/n58329>

これは私が同時に CD-ROM と拡張ベイディスクを装着できないことを意味 した。同僚の USB CD-RW ディスクを借りたが、私のマシンは外部装置で は起動できなかったので無駄に終わった。わたしは最後の手段に到達して いた。

データのフルバックアップをしてから、(経験上学んだことで、毎晩、デー タをバックアップする理由については TidBITS-495 掲載の 「DriveSavers 救助隊」参照。)12 GB ディスクを PowerBook から取り 外し、Xcaret ケースに入っていた 4.5 GB ディスクと交換した。こうし て Mac OS X をインストールするのに CD-ROM モジュールを使用でき、そ れからディスクをそれぞれの場所に戻すことができた。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05530>

System Disk コントロールパネル(拡張ベイディスクに置いてある)を使 用し、Mac OS X をアクティブシステムとして指定し、再起動させること によって Mac OS X で起動することができる。Mac OS X での作業が終わっ たら、12 GB 内蔵ディスクで動く Mac OS 9 を再起動させることもできる。

荒波のドライブ -- PowerBook に 4.5 GB のストレージスペースを与え ることは困難な道のりのように思えるが、最悪な事態は一時的なものであっ た。何の支障も無く Xcaret モジュールを頻繁に使用しているし、完全に 動作するハードウエア部品を再利用できて満足である。


Mac とアクセシビリティ:エデンの園の課題

by Joe Clark <joeclark@joeclark.org>
(翻訳:尾高 里華子 <rikako@pobox.com>)
(  :亀岡 孝仁 <kameotak@iea.att.ne.jp>)
(  :吉田 節 <benjamin.takashi@nifty.ne.jp>)
(  :斎藤 美礼 <mirei@x.age.ne.jp>)

近ごろは Mac ユーザーも大人になり、Macintosh が あらゆる 面で Windows よりも優れているわけではないと認めるようになった。私はアク セシビリティと身体障害の問題に 20 年前から携わっているが、 Macintosh 強行推進派を自称する私にとって、障害を抱えたほとんどすべ ての人が使うべきコンピュータは Windows であって Mac ではない、とい うのは辛い。

ここで、一考していただきたい。Mac を使うべきでない、すなわち、あえ て Windows を 選ぶべき だと類別される人達のことを思い描けるだろ うか。(高齢者や、イスラム教徒、アイスランド人、歯科矯正医たちがあ てはまったりするだろうか。)Windows ではちゃんと作業ができるのに、 Macintosh からは締め出されてしまっているグループに属してしまう人達 のことを思い描けるだろうか。

これが問題になっていることを以前からご存知だっただろうか。

かつては今のようではなかったし、Mac OS X の登場とともに改善される かもしれない。しかし、障害者の Macintosh 利用に関し、大きな壁が立 ちはだかっているのが現状である。アクセシビリティにかかわるこの問題 はあまり理解されておらず、不安や反感を生んだりする。そして、障害を 持った Mac ユーザーが必要とするだろうハードウェアやソフトウェアは 入手しにくいうえに、他のプラットフォームのものよりも劣っていること が度々である。しかも、長年 Apple は障害を抱えた Mac ユーザーに対す る配慮に欠いていたし、Mac OS X では大失態をやらかそうとしている。

ともかく、本題に入ろう。

アクセシビリティ入門 -- 単なる計算機でしかなかったコンピュータが その枠を超えてコミュニケーションの道具として使われるようになり、コ ンピュータを使いたいという障害者の数が激増している。しかし、障害に よってはコンピュータを使うのがままならない。もっと正確に言うと、一 部の障害者にとって障壁となってしまう要素を今のコンピュータは抱えて いる。

現在、障害者はどのくらいいるだろうか。様々な障害ごとに世界中の障害 者の数を出すなど不可能なのは分かり切っている。障害といってもあまり にも多様であり、障害の定義自体が難問でさえある。(以前籍を置いてい たとある政府プロジェクトチームでは、この定義のためだけに 2 年も費 やしたほどだ。)とはいえ、一例として、アメリカ視覚障害者連盟からで ている数字を紹介しておこう。失明しているもしくは視覚障害を持ったコ ンピュータユーザー数は米国内だけで 90 万人にのぼる。

<http://www.afb.org/info_document_view.asp?documentid=1367#comp>

統計的なものはさておき、具体的に考えてみよう。身体的障害により Macintosh の使用が阻まれるだろうか。答えが確実にノーになる状況もあ るだろう。たとえば、片足を失ってしまった人が Mac を使うのにはなん ら差し障りはない。ところが、壁にぶつかってしまうような障害を持った グループもある。

可能性の幅を広げてあげることで、自分ではどうすることもできない性質 の部分に対処できるようにするのがアクセシビリティの本質である。

適応支援技術 -- 5 年も前ですら、広い範囲にわたったいわゆる adaptive technology(適応支援技術)- Mac を使うのに障害となるもの を取り去るように考えられたハードウェアやソフトウェアを見つけるのは 結構可能であった。アクセシビリティという大きな課題に対する「組織的 な取り組み」も、今我々が持っているものとは別世界のものであった。 1985 年に始まった Apple 社の Worldwide Disability Solutions Group (WDSG)は、Apple II のアクセシビリティから不具の子供達のためのオ ンラインコミュニティまで何にでも取り組んでいた。とりわけ重要だった のは、WDSG は適応支援技術の開発と既存のソフトウェアやハードウェア を使えるようにするため(確かに、結果はまちまちだったが)開発者達と の共同作業であった。しかし、1998 年 1 月に Steve Jobs 氏は、年間数 億円という小さな経費節減のために、この 5 人からなる WDSG の首を切っ てしまった。

<http://www.wirednews.com/news/print/0,1294,12351,00.html>

それ以来、Apple 社の財政的再生はなされたが、アクセシビリティは Apple 社内での公式の推進者を失い、また一つの組織が専門に割り当てら れるという公の重要さも失われてしまった。今我々が目にすることができ ることといえば、Apple 社の Web サイトの教育部門に見られる、わずか の貧相な、いい感じ狙いのページだけである。(教育だけを強調している のは、まるで障害のある Mac ユーザーはいったん学校を卒業すると障害 はなくなってしまうとでもいいたげに思える。)

<http://www.apple.com/education/k12/disability/>

この間、Microsoft 社もそして IBM 社ですら、ソフトウェアやハードウェ ア開発そして開発者の間での重大な意識改革に歩調を合わせて、独自のア クセシビリティ部門を維持拡大して来た。

<http://www.microsoft.com/enable/>
<http://www.ibm.com/able/>

WDSG の廃止と時を合わせてインターネットが興隆して来た。そしてこの こと自体が新たなアクセシビリティ問題を作り出してしまった、とりわけ 盲目のコンピュータユーザーに対して。(インターネットアクセシビリティ については将来の記事で探ってみたい。)

さらに言えば、障害を持つ人々は法的な権利を有している。合衆国、カナ ダ、オーストリア、ほとんどの西欧諸国、そしてその他の国々においては、 適格な障害者を解雇したり雇用を拒否したりすることは(その他にもいろ いろある権利の中で)違法である。雇用主は障害者のために「便宜をはか る」よう義務付けられている。具体的には、仕事そのものを変えるとか、 適応支援技術を提供するとか、異なった勤務時間を提供するとか、または 事業の存続あるいは本質を犯さない範囲でのいろいろな改変などがある。 極論すれば、Mac 専門の店が障害をもつ従業員のために Windows マシン を買わざるを得なくなる事態だってあり得ない訳ではない。合衆国におい ては、障害を持つ人々を保護する基本法は Americans with Disabilities Act(障害者差別禁止法)である。他の国々では、障害者問題を扱うのは 人権に関する法律であることが多い。

<http://www.usdoj.gov/crt/ada/adahom1.htm>

無知と不安 -- 身体障害は人間社会においてありふれたものである。し かし、民族や宗派を超えて友達の輪を広げるのがしばしば難しいのと同様 に、非障害者が障害者を友人に持つのは稀なことだ。人々には実世界での 役割モデル(自分の知り合いで、身体障害について教えてくれるような人 物)が足りない。

そして、いずれにせよ、たとえあなたに耳の聞こえない友人がいたとして も、あなたもその友人も目の見えないことや麻痺状態について必ず何か知っ ているとは限らない。身体障害はあまりにも多種多様である。テレビや映 画における身体障害の描写は、悪名が知れ渡るほどに陳腐で、紋切り型で、 まったく不正確であるため、割り引いて理解すべきだ。そういう訳で、障 害者とつきあうには、自分自身が障害を持ったことを考える必要がある。 それは多くの人にとって骨の折れることだが。

この心配事に即効薬はない。人と人とのつきあいと、時間をかけて身体障 害に実際に慣れることとが必要である。障害者と一緒に働くことがゴール にたどりつく助けになるだろう。

今後のために -- 次回の記事では、各種障害についてざっと見ていき、 Mac への敷き居を低くしてくれる支援技術応用製品の購入ガイドをお伝え しよう。さほど数はない。

端的に言えば、アクセシビリティの点では Windows が 全面的に 優っ ている。Microsoft 社直々にサポートしているし、企業や政府が Windows を標準にしているので販売が保証されているうえ、最も優れていないにし ても世界で最も利用されている OS であるという単純な強みもある。

しかも、ソフトウェアやハードウェアの数もずっと多い。Mac のアクセシ ビリティ製品のメーカーのほぼすべてが、同様の製品の Windows 版、さ らには Windows 版しかない製品も出している。Madentec や Prentke-Romich を始め、事実上 Windows 専門となっているメーカーや卸 しもあり、広範な製品カタログを用意している。

<http://www.madentec.com/>
<http://store.prentrom.com/>

Web で支援用の製品のメーカーを検索すると、かなり長い検索結果が出る が、そこに Mac(実際のところ Windows 以外のもの)はほとんど入って いない。まず Windows 用が最初で Mac 用は後からというパソコンにおけ る連続音声認識の開発経過がしっかりと記憶に残っているだろう。それが 支援技術一般に関してもそのままあてはまる。

<http://directory.google.com/Top/Shopping/Health_and_Beauty/Disabilities/ Assistive_Technology/>

Windows では、子供の読み書きを補助する先読みソフトウェアから、画面 読み取り機能と点字ディスプレイの素晴らしい組み合わせ(これにより、 目の見えない人が、スクリーンに表示されている文章を聞くことと、メ ニューやステータス情報のようなシステムのコマンドを点字で読むことが 同時にできるようになる)まで網羅して支援されている。Windows 2000 に入っている Madentec 社開発のオンスクリーンキーボードは、Mac 専用 プログラムとしてスタートしたのだから皮肉な話である。

<http://www.madentec.com/screendoor/scr_frm.html>

目の見えない人が、Photoshop で JPEG に触れたり、PowerPoint のスラ イドを作ったりできるようにというのは望み過ぎかもしれないが、支援技 術により、各種障害を持った人が一般的な事務作業に必要なことをこなせ るようにはなっている。少なくとも、Windows では。

OS のフック -- システムの「フック」の問題もある。支援技術をエレ ガントに取り扱うオペレーティングシステムを設計することは十分可能だ が、そのためのオペレーティングシステムの設計は積極的に行われなけれ ばならず、スクリーンリーダのようなプログラムが直接使うことができる フックやバックグラウンド機能をシステムが提供しなければならない。

比較として、Macintosh のメニューコマンドを考えてみよう。File メニュー から終了を選択するか、Command + Q を押すことができる(または適切な 支援技術を持っていれば Command を押してから Q)。システムがメニュー コマンドに相当するキーボードのフックを提供している。アクセシビリティ も同じように提供され、仕事を達成するためにひとつ以上のやり方が効果 的に与えられる。

アクセシビリティを提供できるように、オペレーティングシステム内に初 めから組み込む必要がある。改良して組み込むのはいつも複雑になりむら ができる。Microsoft はこの点では決して完璧な履歴を持たないが、少な くとも努力はしており、Active Accessibility などと呼ばれるものや、 他の努力が認められる。

<http://www.microsoft.com/enable/msaa/>

聖杯と呼ぶに値するのは、あらゆるソフトウェア、ハードウェアで動作す るようなシステムフック群である。現実は、支援技術のメーカーが独自の フックや次善策をプログラムしなければならない有り様だ。「車輪を発明 し直す」などということがあり得るだろうか。

Alva Access Group の Lou Grosso 氏が、 Apple の開発者との会話に基 づきこう語ってくれた。Mac OS X の最初の正式リリースとキャンディの ような見た目の Aqua のインターフェースは、アクセシビリティのための フックをまったく持たないが、その後のリリースでは持つかもしれない、 とのことである(Apple はコメントの求めにいくつかは応じなかった)。 Apple にとっては、舐められそうな見た目がアクセシビリティに勝るのだ ろうか。

ここ二重のマイノリティ(Mac ユーザーでなおかつ障害者である)の存在 する地では、事態はおそらく良くなるよりはむしろ悪くなるだろう。矛盾 するようだが、この記事のため連絡を取った開発者の数人は、Mac OS X 用の開発は、自分達の製品ラインを活気づける、とほのめかしたりはっき り述べたりした。それはいくらよく見ても疑わしい。どんながちがちの Mac 支持者でも、完全に新しいオペレーティングシステムへの期待に必ず しもよだれを垂らしてはいない。支援技術の開発者が 16 年間もの間存在 したプラットフォームへの開発を、費用がかかり過ぎる、困難すぎると思っ たのなら、まだベータ版のオペレーティングシステムの開発に突如押し寄 せる、などと、どうやったら期待できようか。

さらに、Mac OS X は今までのどの Mac OS よりももっと視覚的だ。一般 的(たとえば Web 制作者など)に信じられていることとは反対に、シス テムをアクセシブルにするには、視覚的な複雑さを減らすことが必ずしも 必要なわけではない。しかし、アクセシビリティのためのフックが Mac OS X に欠けていることは重大な問題で、21 世紀に生まれる新しいオペレー ティングシステムは、完全なアクセシビリティの提供なしに存在などする べきではない。許されるべきことではないのだ。

Apple の行く先は -- Steve Jobs 氏は Worldwide Disability Solutions Group や同様なものをすぐに復活させる気はまったくないよう だ。(ある Apple の情報筋によると、同社は支援技術のパートナーシッ プマネージャーを雇ったと説明したが、確認は取れなかった。)しかし、 その態度は変える必要があるかもしれない。合衆国政府は 2001 年を期限 に定め、デスクトップコンピュータ、政府の Web サイト、キオスク端末、 電話、その他の形式の情報技術がアクセシブルでなければならない、とし た。

<http://www.access-board.gov/sec508/508standards.htm#Section%201194.26%20Desktop%20and%20Portable%20Computers>

有名なソフトウェアメーカーやハードウェアメーカーで合衆国政府に販売 していないところはなく、Apple も例外ではない。ローレンス・リバモア 国立研究所だけで 12,000 台の Mac を所有すると報告されている(Mac の基本的な装備の基準のページも提供している)。

<http://www.llnl.gov/projects/ia/standards/ia7501-2/mac.html>

既存のコンピュータについても新規の購入についても、アクセシビリティ に関する規則が、合衆国政府全体で適用される。アクセシビリティにもう 一度大きく関わらなければ、Apple は政府からまったく購入されなくなる 可能性がある。

Mac におけるアクセシビリティが無視され損害を与えられてきたのは、 Apple 自身の行動のせいであり、長年の悩みの種である「市場要因」のせ いである。遅れを取り戻すためには大仕事が待ち受けている。Apple がこ の差し迫った必要にどう応じるかは時間が経たなければわからないだろう。 私の次回の記事では、支援技術の買物案内を載せ、今日の Mac のための アクセシビリティのソリューションを発見する役に立てれば、と思ってい る。

[Joe Clark 氏はトロント在住の元ジャーナリストで、障害に関する分野 に 20 年間たずさわり、執筆し、働いてきた。アクセシビリティに関する 多数のオンラインリソースを彼の Web サイトで読んでみよう。]

<http://joeclark.org/access/>


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