TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#575/09-Apr-01

このインターネットの電子メール時代に、医者に単純な医学的な質問する のに待たされるというのは、嫌ではないだろうか?今週は、Ron Risley 医師が、医者と患者の両方の観点から、オンラインによる医療情報の交換 の意味するものを検分する。また、Apple の最近のファームウェアのアッ プグレードについて整理し、Mac OS 9 Bible をレビューして我々の視点 を Mac OS X から距離を置いてみる。ニュースとしては、Netscape Communicator 4.77 のリリースと Toast 5 Titanium を取り上げる。

目次:

Copyright 2001 TidBITS Electronic Publishing. All rights reserved.
問い合わせは <info@tidbits.com> へ、感想は <editors@tidbits.com> へ。

TidBITS 日本語版は TidBITS 日本語版翻訳チーム メン バーのボランティアによって翻訳・発行されています。TidBITS 日本語版 では翻訳に協力してくれる方を募集しています。詳しくは以下の URL を 参照してください。

<http://jp.tidbits.com/join_us.html>


今回の TidBITS のスポンサーは:


MailBITS/09-Apr-01

(翻訳:三好 泰子 <yokomo@mio.to>)
(   西村 尚 <hisashin@hotsync.co.jp>)

Netscape 社、Communicator 4.77 をリリース -- Netscape 社は、 Communicator 4.77 をリリースした。これは、同社の Mac 用の古い Web ブラウザにいくつかのマイナーな修正を加えたものである(Netscape の 開発労力は、Netscape 6 に焦点がしぼられている。( TidBITS-556-J_ 「重い足取りで Netscape 6 登場」を参照のこと)。この新しいバージョ ンでは、Personal Toolbar に追加したブックマークに関する問題が修正 されている。この他、2 つの JavaScript に関連した問題も修正されてい る。たとえば、JavaScript の URL をコマンドキー + クリックしても正 しく操作されないことがあったが、今では、Communicator は常に正しく JavaScript の URL を内部的に操作している。この新バージョンは、ダウ ンロードサイズ が 14.7 MB である。[JLC]

<http://home.netscape.com/download/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06206>

Toast 5 Titanium が Video CD のサポートを追加 -- Apple 社が新型 Mac で CD と DVD を作成する機能を発表したとき、メディア作成では現 在の標準である Roxio 社の Toast にとってどういう意味になるのだろう と心配した。ここで、Roxio 社は Toast 5 Titanium をリリースした。ほ とんどの DVD Video プレイヤーで再生可能な Video CD を焼ける新バー ジョンである。また、この新バージョンでは、MP3 Disc、Data CD、Audio CD、CD Copy フォーマットも改良され、バックグラウンドでの作成と新し いインターフェースが含まれ、Apple の iMovie と iTunes へのサポート が加わっている。Toast 5 Titanium は 90 ドルで発売中だ。[JLC]

<http://www.roxio.com/en/products/toast/>

UpdateAgent の訂正 -- 先週の Mac OS X のインストールについての記 事( TidBITS-574の「箱から出す:Mac OS X をインストール」 を参照) を読んだ後、Insider Software 社の方が、TidBITS 編集チームはしばら く箱の中で反省していてはどうかと指摘してきた。我々は間違って UpdateAgent を「UpgradeAgent」と表記し、さらにその価格を実際は 1 年間のサポートを含めて 50 ドルのところ 70 ドルとしていた。また Insider Software は、UpdateAgent には CD 版もあり、複数台の Mac を 持つ人たちやコンサルタントに手軽だと述べた。しまっておいたお仕置き 用のゆでそばは、おかげさまで数週間クロゼットの中で乾いていたが、う まく鞭打てるようににまたゆでたのでご安心を。[JLC]

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06384>
<http://www.insidersoftware.com/>

アンケート結果:X の出番はいつか? 2 週間前、TidBITS 読者の興味 の水準を測るために Mac OS X をいつインストールする予定かを尋ねた。 900 近くの回答の中で、3 分の 1 の方はこの新オペレーティングシステ ムを直ちにインストールするといった。16 % は、現在から 2001 年 7 月 (このときから Apple が新 Mac にデフォルトで Mac OS X を入れ始める 予定)までの間にインストールするだろうといった。46 % は 7 月以降の どこかまで待つというものだった。集計された 2 つの結果は、回答者の 95 % は最終的には Mac OS X をインストールする予定であり、おおよそ その半数は 7 月までにそれを行う予定だということである。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbpoll=72>


Apple 社のファームウェアアップデート問題が解明、解決へ

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:斎藤 美礼 <mirei@x.age.ne.jp>)

先週、我々は最近の Mac 用のファームウェアアップデートについての記 事を書いた。Apple が Mac OS X をリリースしてすぐに発表したもので、 アップデートされた Mac がサードパーティ製のメモリモジュールを認識 しないという問題を引き起こしていた。( TidBITS-574「現行のファームウェアアップデートは避けよう」 を参照。) MacInTouch に寄せられた 投稿によると、現在 Apple は4.1.7 と 4.1.8 のファームウェアアップデー トは新しいチェックを取り入れており、インストールされた RAM がラン ダムクラッシュや全体的な安定性の問題に関して基準をみたすものか検証 しているとのことだ。ファームウェアアップデートのせいで、Apple の規 格に合わないか、ファームウェアアップデートが合うと認識できない DIMM を Mac が無視するようになってしまう。当然のことだが、これはな ぜ Apple が初めに起こりうる結果に対しなんらかの警告を出さなかった のか(これは現在 Apple Software Downloads のサイトの該当ファイルへ の説明で行われるようになった)、なぜファームウェアアップデート自身 がインストールの前に DIMM を検証しないのかといった疑問を引き起こす。

<http://www.macintouch.com/firmwareramprob2.html>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06380>

Qualcomm 社の Eudora Internet Mail Server の作者である Glenn Anderson 氏がこの問題に対処するために立ち上がり、DIMM First Aid (以前は DIMMCheck と呼ばれていた)という、Mac OS 9 で動作可能なフ リーのユーティリティを作成し、ユーザーの DIMM が Apple の新しく実 施される規格に適合しないようであるかを調べてくれる。検証に通らなかっ た場合、DIMM First Aid は障害となっている DIMM のSerial Presence Detect EEPROM をプログラムし直し、後でファームウェアアップデートに よって使用停止にされないようにする。DIMM First Aid のダウンロード サイズは 6K である。

<http://www.eudora.com/eims/>
<http://mactcp.org.nz/dimmfirstaid.sit>

よって、ファームウェアアップデートの 4.1.7 や 4.1.8 (Apple が言う には、「システムの安定性とパフォーマンスを劇的に改善する」そうだが) を動作させる前に、お使いの Mac のメモリを DIMM First Aid で必ずチェッ クしてほしい。お使いの DIMM が検証に通らないときは、DIMM First Aid を使用して修復しよう。DIMM が検証に合格したときは、ファームウェア をアップデートしても安全なのはほとんど確実だ。ファームウェアアップ デートは Apple の Software Downloads Web サイト(「firmware update」 で検索)からダウンロードできる。または、コントロールパネルのソフト ウェアアップデート経由での入手も可能である。しかし、Mac OS X に同 梱される Mac OS 9.1 の CD-ROM はもっと古いバージョンであることに注 意してほしい。我々は TidBITS-574 の「箱から出す:Mac OS X をイン ストール」で、これらのファームウェアアップデートを動作させるべきで はないと述べた。これは間違いで、Mac OS X をインストールする人すべ てに、少なくともまず Mac OS 9.1 CD-ROM の古いファームウェアアップ デートを走らせるようお勧めする。

<http://asu.info.apple.com/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06384>

ファームウェアアップデートにすでに DIMM を1 枚、いやそれ以上使用停 止にされて心をずたずたにされてしまっている状況なら、まず DIMM First Aid を走らせよう。DIMM が使用停止になった後でさえ、きっと問 題を修復できるはずだ。もし、なんらかの理由でうまくいかなければ、 RAM を購入したベンダーに問い合わせよう。Ramseeker の調査によると、 ほとんどは DIMM の返品を受け付けている。DIMM を交換するか、EEPROM をプログラムしなおしてくれる。

最後になるが、Glenn Anderson 氏は DIMM First Aid を作成するという 業績で最高の賞賛を得るに値する。これとはまったく対照的に、Apple が 警告なしにハードウェアを使用停止にするかもしれないアップデートをリ リースしたことはこの上ない怠慢だ。

<http://xlr8yourmac.com/OSX/FirmwareUpdate_missingRAM.html#apple>
<http://www.ramseeker.com/firmware.shtml>


BookBITS:Mac OS 9 Bible

by Kirk McElhearn <kirk@mcelhearn.com>
(翻訳:尾高 里華子 <rikako@pobox.com>)

コンピュータの本は分厚いものになりがちだ。それは、コンピュータ(お よびそこで使われるアプリケーションや OS)がメーカー側が考えている よりもかなり複雑なものであるからだ。かならずしも厚さが重要な要素で はないが、ずっしりとした厚みのある本に、ほかの本では書かれていない 情報が含まれていることがよくあるのも事実である。

Lon Poole 氏と Todd Stauffer 氏が共同で書いた『Mac OS 9 Bible』 (Hungry Minds 社、40 ドル)もそういったタイプの一冊である。Mac OS 9 の入門書ではないし、チュートリアル的な使い方をするようにもなって いないが、900 ページを超えるその本にはほとんど漏れなく一切合切が書 かれている。Mac OS X が出たのに今更 Mac OS 9 本を買うなんてどんな ものかとお思いになるかもしれない。しかし、Mac OS X が載らない Mac があるという事実を差し引いたとしても、多数の Macintosh ユーザーが Mac OS X に手を出さずに成り行きを伺っているはずだ。それに、あと一 年は Mac OS 9 でいこうと考えている方や、(Mac OS 9.1 を利用する) Classic モードで前からあるアプリケーションを使おうと考えている方は、 Mac OS 9 を上手に使わない手はない。

<http://www.amazon.com/exec/obidos/ASIN/0764534149/tidbitselectro00A/>

この本の最初の方をめくってみるだけでその徹底ぶりが判るだろう。目次 だけで 22 ページもあるのだ。Poole 氏と Stauffer 氏は Mac OS に関す る情報を可能なかぎりたくさん詰め込もうとしたようだが、それらを明快 で判りやすく書いてくれている。

しかしながら、著者達が序文で書いてあるとおり、この『Mac OS 9 Bible』 は Macintosh の初心者向けではない。ポインタの操作やクリック操作、 メニューの選択方法の説明は出ていない。そのかわり、いろいろなものが どのように機能するかについて知りたい人や、疑問が浮かんだときに利用 する参考書が欲しい人に適した本である。

最初の約 100 ページは、Mac OS 9 の新機能やクールな部分の紹介を交え ながらデスクトップと Finder を使うための基本を書いている。(ただし、 先ごろ出た Mac OS 9.1 までは網羅していないことを了解いただきたい。 Finder の新メニュー Window のような新しい機能を加味した新しい判は 出ないのではないかと思われるが、Mac OS 9.1 で目に見えて変わったも のはごくわずかである。)この本は経験の浅いユーザー用に作られている が、情報量の多さゆえにその手のユーザーは尻込みしてしまうのではない かと思われる。別言すれば、初心者や iMac を使いだしたばかりの人に Mac OS 9 Bible をプレゼントしてはいけないということだ(TidBITS で は近く iMac 向けの本の比較レビューを掲載する予定である)。

『Mac OS 9 Bible』は最初から最後まで通して読むようには作られていな いが、実によく練られた章構成であらゆることを書いてあり、Mac OS の 主要な部分に素晴らしい説明がついている。少し紹介すると、フォント関 連では、フォントの種類の概要とその機能を述べ、印刷に関しては二章に わたって広範囲に扱っており、これ以上知りたいと思うことがないぐらい 書いてあるし、「Adjust Controls and Preferences」というタイトルの 章では、システムまわりでいじることのできるすべてのものの扱い方を書 いてある。

この本は Apple のシステムレベルのスクリプティングテクノロジーであ る AppleScript に一章を割いており、そのできも良い。(たいていの Mac OS 本では軽く触れられる程度である)。パワーユーザーは AppleScript が作業の自動化を実現してくれていることを高く評価してお り、ネットワークボリュームのマウント、ファイルの属性の変更、アプリ ケーションの統合、フォルダアクションの実行(フォルダを監視して、ファ イルが作られたり削除されたときに実行されるスクリプト)などに利用し ている。AppleScript は最初は取っつきにくいかもしれないが、この本の ような優れた入門書があれば、初心者でも驚くようなことをやってくれる スクリプトを書けるようになる。

ネットワークの構築に関心のある方のために(自宅や SOHO でネットワー クを張るのはますます普通になってきている)、ネットワークとファイル 共有に関して三章が割かれている。ところが、ここでは大事なことが省か れている。Apple の AirPort ワイヤレスネットワーキングテクノロジー に関する記述が、一ページに満たない簡単なものしかない。AirPort は、 家の中でケーブルをはわさずにネットワークを構築できるすぐれ物なので、 もっと考慮した対応をすべきである。(AirPort のセットアップや利用に ついては TidBITS-567 の「AirPort へ」を参照いただきたい。)

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06300>

シェアウェアの章が設けられているのはうれしいことだ。伝統的な販売経 路では扱っていない Mac 用の優れたアプリケーションが多数あり、『Mac OS 9 Bible』では 20 ページ以上にもわたり何十もの秀逸なシェアウェア プログラムを紹介し、最新版を見つけることができるように URL も併記 してある。このような素晴らしい作品を知らない人も多いし、シェアウェ アの中には Mac OS を強化するための最良のものがあったりする。

それ以外にも、Tips や秘訣などの情報だくさん出ていて基本の枠を越え ている章もあるが、トラブルシューティングの章には少々がっかりした。 Mac OS はパワフルで、だいたいにおいて Windows よりも使いやすいが、 Mac にも問題はあるのだ。問題を事前に回避する方法を書いたページはよ くできているが、よくある問題やその解決策についてもっと詳しく説明が あればと思ったりした。Macintosh のトラブルシューティング情報をお探 しの方は、ロングセラーになっている Ted Landau 氏著の『Sad Macs, Bombs, and Other Disasters』(Peachpit Press 社、35ドル)をご利用 いただきたい。

<http://www.amazon.com/exec/obidos/ASIN/020169963X/tidbitselectro00A/>

私が先立ってレビューした David Pogue 氏著の『Mac OS 9: The Missing Manual』 と比べると、『Mac OS 9 Bible』はページ数は 2 倍あり、書き 方が異なっている。Pogue 氏は Mac OS 9 の使い方を伝授するという方式 で書いたが、Poole 氏と Stauffer 氏は Mac OS 9 の細部を網羅している。 『The Missing Manual』は Mac を操りたいという一般ユーザー向けの本 であるのに対し、『Mac OS 9 Bible』は系統立ったレッスンではどうして も省略されてしまう細部をすべて取り上げている。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06089>

総括すると、一部情報不足のところはあるものの『Mac OS 9 Bible』は優 れた本である。パワーユーザーを自認する私でさえも、いく度となく参考 にしているし、たいての場合私の疑問に答えてくれる(索引と用語解説は 一級品で、本文に出ている答えを見つけやすなっている)。40 ドルとい うのは少々値が張るが、『Mac OS 9 Bible』のおかげで節約できる時間を 考えると、間違いなく元が取れるものだ。よく書かれていて、判りやすく、 レイアウトも優れており、完成度とともに Mac OS 9 本の中では最上の部 類にはいるだろう。

[Kirk McElhearn 氏はフランス・アルプスに住むフリーの翻訳家・テクニ カルライターである。]


e ドクター、お元気ですか? 医者への電子メール、Part 1

by Ron Risley <ron@risley.net>
(翻訳:敦賀 康子 <hiroki-tsuruga.soul75@nifty.com>)
(  :林部 清実 <hayashibe@mvb.biglobe.ne.jp>)
(  :尾高 修一 <shu@pobox.com>)
(  :亀岡 孝仁 <kameotak@iea.att.ne.jp>)

誰もが経験したことがあるフラストレーション、それは医学的な疑問があ る時だ。一連の薬のコマーシャルにある「医師にご相談を」というアドバ イスに従いたいと思っても次回の予約は 3 ヶ月先だし、単純な質問をす るだけのためにわざわざ予約をするのは馬鹿げている(それに高くつく)。 医者に電話をしても待たされるか受付係と話をするはめになる。あるいは 留守番電話にかかることになりかねず、メッセージで症状を説明する難し さもある。

もし医者に電子メールを送ることができたら、それは素晴らしいことでは ないだろうか。慎重にゆっくりと考えをまとめることができるし、保留中 の音楽を聞いたり、秘書や留守番電話に個人的な問題を言うこともなく、 すぐにメールを送ることができる。医者とのコミュニケーションに電子メー ルを使うことは、大衆市場の商業化が奪った個人的な経験のいくらかを取 り戻すために情報技術を使うという、我々の多くが持っているビジョンを 反映している。

医者の側から -- 電子メールを使うことは医者にとっても同様に魅力的 な提案だ。我々医者が強引で制限された管理社会での業務を強いられてい るという現状に、患者は驚くかもしれない。たとえば、医者といえば大き な机に電話、コンピュータ、それにファイリングや通信をこなす事務員な どが揃っている豪華なオフィスを持っていると思うかもしれない。しかし、 現実ははるかに異なる。有名大学の医療センターで開業している私のクリ ニックには、業務のほぼ全体をまかなうためにオフィスの役目を果たす一 つの大きい仕事部屋(婉曲的に「ドクターのラウンジ」と呼ばれている) があるだけだ。約 40 人の医者が 3 つの電話と 4 つの小さい机( 引き 出しやロッカー、個人的なファイルや書類のためのスペースはなし)を共 有している。事務員もいないので、私自身が電話や手紙、処方箋の補充、 ファックス、あるいは患者のための政府の書類すべてを処理する。ラウン ジに数台の Windows 95 コンピュータがあるが、大学の情報サービス課に よって維持されており、驚くことに 80 パーセント近くがダウンしている。 さらに悪いことに、すべての医療記録は理論上、中央の倉庫に保管されて いる。記録を読み返すためには書類をクリニックへ配達してもらわなけれ ばならず、混雑した仕事部屋では受取人に届くずっと前に紛失してしまう ことが度々ある。

時間はもう一つの制約だ。我々の給料は週 40 時間の労働時間に基づいて いるのだが、適切なレベルでの患者の診察の合間に、最低限の成果の必要 性と他の義務的な責任を果たすためには週に 70 時間以上が必要だ。した がって、我々のスケジュールでは「返済する必要がない患者とのやり取 り」、すなわち一般的に意味する電話に出るための時間がまったくない。

クリニックの医者達がそれらの原始的な状況をうまく対処するために、あ らゆる手段を使う。 最も一般的なのは、記録が有効で若干の時間(大抵 は 10 分かそこら)が患者の診察に特別に割り当てられる時、患者の診察 を予約分だけに制限する。このアプローチはいくつかの手段が有効である ことを保証するが、予約をしなかったので数週間待ち、細菌がはびこる待 合室で長時間待ち、そして駐車料金と被保険者負担額を払い、「毎日飲む この薬は、朝と晩どちらに飲んだ方がいいのか」とさえ聞くことができな い患者の負担になるのではと思う。

我々の数人がハンドヘルドコンピュータを使って、これらの欠点に取りか かろうと試みた。私は Newton の技術を早くから取り入れており、Apple が Newton を葬った時に EPOC オペレーティングシステム搭載の Psion マシンに乗り換えた。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=04735>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=04760>
<http://www.risley.net/comp.comm/newton/dayinthelife.html>
<http://www.risley.net/psion/>

ハンドヘルドコンピュータを使って、私はいつでも患者についての基本的 な情報を得ることができた。私と患者の両方の留守番電話のメッセージを 録音することができたので、自分が言ったことの記録が残っている。それ に Psion と GSM 携帯電話を使ってほぼどこでも(運悪く GSM の受信状 態が常に悪いクリニック以外では)電子メールを送受信することができた。

電子メールの利点 -- もし私の全患者と電子メールでコミュニケーショ ンを図ることができれば、自宅の事務所で多くの患者のメールに対処でき るだろう。留守番電話だと、いくつかのメッセージ(どちらかといえば事 務的な内容のもの)を聞くことだけに時間が取られ、返答の電話ができな いまま休憩が終わってしまうが、メールなら素早くメッセージに優先順位 を付けることができ、より緊急を要するものに注意を向けることができる。 私は帰宅が遅いので自宅から返答の電話をすることはできないし、家庭に 医療や精神医療の会話を持ち込むことは家庭不和の原因となる。また、仕 事場でも腰を落ち着けて内密な話をできる場所はないため、返答の電話を するのは難しい。

特に利点なのは、電子メールを使用することで、患者が述べた内容や私が 返答した処置内容の正確な記録が書面で残るということである。もし我々 が患者の症状の発症時期やそれが悪化、または改善しているのかを判断し ようとするなら、後日でもその記録を参照することができる。患者もまた 医者からの書面の指示を参照できるし、もし指示が明確でないなら、いつ でも電子メールを使って説明を求めることができる。

電子メールは素晴らしいように思えるし、良い働きをするだろうが、一般 的な患者には明らかでないかもしれない特性や、ある特別な注意を払うの に値する特性をいくつか持っている。

プライバシー -- 医療記録のプライバシーは、平均的な人が考えるより も圧倒的に重要なことだ。私が医療に従事するようになって間もなく、病 院側と患者側の両方がプライベートな医療記録をあまりにもぞんざいに扱 うことに気がつき、大いに衝撃を受けた。たいていの人は具合が悪い時、 とにかく良くなりたいとしか思わない。医療記録がいつの日かどんな形で、 たとえば就職、保険加入、融資、あるいは車の運転にさえかかわってくる かなどということは、満足に認識してはいないのだ。

医療機関側が渋々ながら 19 世紀的な記録保存方式から脱却するにつれ、 プライバシー論者たちは医療プライバシーの名のもとに、医療の質向上に つながる医師支援システムの導入に待ったをかけた。前世紀に医療費請求 システムが自動化された時には、扱われる情報は同じぐらい機密度の高い ものであるにもかからわず、こうした反論はまったく聞こえなかったのだ が。今度は経理課ではなく患者のためにテクノロジーが活用されようとし ているのだが、慎重論が幅を利かせている。

これは当然のことで、むしろ遅すぎるぐらいだ。電子化された記録が、従 来の紙の記録とは比較にならないほど厳しく管理される矛盾を受け入れな ければならないのは苦々しいが、プライバシーの重視は歓迎すべきだ。医 療記録は今や患者が患者のために、医師が治療を行うための道具として管 理されるものではなく、主として保険会社、経理課、それに弁護士のため のものとなってしまっているのだ。医療記録に真のプライバシーを取り戻 すことができれば、本来のより大切な役割を果たしてくれることになるだ ろう。

それでは何が個人情報に該当するのだろうか? ほとんどの人は電話の機密 性を疑っていない。これはまず妥当だろう。合法かどうかはともかく、盗 聴ということもありえるが、電話での通話は交換機がデジタル化された今 日でさえ、束の間の出来事だ。盗聴するためには人間が一人ほぼリアルタ イムで会話を聴くか録音された会話を聞かなければならない。少なくとも 米国では、やたらと通話を盗聴するという伝統はない。あなたがテロリス トか犯罪組織に関っているか、あるいは麻薬密輸業者でもない限り、電話 の通話が盗聴されている可能性は極めて低い。

次はファックスだ。医療記録は診察室から保険会社へ、そして政府機関か ら病院へと日常的にファックスで送られている。ファックスは医療情報の 伝達手段として圧倒的な地位を確立している。ファックスは通常の電話回 線を利用しているが、通話と比較すると機密度は落ちる。まず、電話回線 にファックス信号が流れるのを待ち(モデムも同様)、結果を記録するこ とは比較的容易だ。それに、誰かが電話番号を一桁だけでも間違えたら、 どこに送られるかわかったものではない。これは私に間違いファックスが 信じがたい頻度で届くことからもわかる。最も重要なこととして、送信先 のファックスは個人情報を単に受信箱に放り込むか床にばらまくだけで、 運が良いとファイルに入れてもらえる程度なのだ。しかもファイルに入れ る事務員がプライバシーに配慮することなどまずない。あなたの医療記録 はビルの清掃員でさえ一度は目にしているに違いないのだ。

数年前の『Psychiatric News』誌で、メールの機密性に関する論戦が行わ れたことがある。(精神科医は特にプライバシーにうるさいことで知られ ており、二種類の医療日誌を用意していることさえ少なくない。一方には 経理課や弁護士用の簡単な診察記録を、もう一方に患者が診察中に現実に 何を言ったかを記録しておくのだ。)一方の意見はメールは電話と同程度 の機密性を持っているというもので、もう一方はメールの機密性は New York Times に書いた記事と同じだとしていた。個人的には第一の立場を 支持したかったのだが、データの機密性を専門とするコンサルタントだっ た私としては、残念ながら第二の立場を支持せざるをえないという結論に 達した。メールは法的にも歴史的にもプライバシーを尊重するインセンティ ブのない組織によって運ばれるものだ。電子化されているがゆえに、メー ルは簡単に盗聴・記録することができ、安価に半永久的に保存することが 可能だ。電話やファックスと異なり、メールは送信中およびアクセスを待っ ている間 ISP(とあるいは第三者)によって 記録されている 。ここで 記録されたデータはバックアップメディアに書き込まれ、半永久的にアー カイブされる可能性があるのだ。言い換えると、今では誰もあなたのメー ルには興味を示さないかもしれないが、10 年後に AOL や EarthLink の テープアーカイブから見られたくない情報を取り出されることがないとは 言い切れない。

メールのプライバシーで考慮しなければならない要素として、メールを使 用することにより機密性を得られるものとして思いこんでしまうというこ とがある。調査によると、患者は手紙や留守番電話よりもメールの方が積 極的に情報を開示するという傾向がある。現行のガイドラインのもとでは、 医師とのメールのやりとりは医療記録の一部とされることがある。仮にメー ルそのものが完全にプライベートなものであったとしても、結果として伝 達される情報は現行の医療記録と同程度の機密性しかない。嬉しい話では ない。

患者側でなすべきこと 警告は横におくとして、ほとんどの患者にとっ て電子メールを使う利点は危険性を補って余りある。もしあなたの医師が メールでのやり取りをしてくれるのなら、双方とも電子メールでの機密性 には限度があることを基本的に理解していることを確認する。電子メール を使う医師は、患者が事前に見ることのできる成文化したポリシーを用意 する。

第一に、次のようなメッセージを医師に送るべきではない:「胸が潰れそ うで、腕とあごに痛みがあり、呼吸が苦しい;ニトログリセリンを 6 錠 飲んだが症状は良くならない、どうもこれが最後の心臓発作のような気が する。119 番に電話すべきでしょうか?」。電子メールの返事がくるまで どれぐらいかかるか自分で理解しているか自問すること。返事が来るまで の時間が心配なほど大事な事態であれば、もっと直接的な連絡の仕方を考 えた方が良い。それに電子メールは途中でなくなったり、間違って送られ てしまうこともあることを、それもどちらの方向でも起りうることを忘れ ない欲しい。

第二に、自分のメッセージ作成に注意を払うこと。ご存知のように、電子 メールはとかくすると簡単すぎたり、紛らわしかったり、あるいは必要と される詳細が抜けていたりする。自分が過去数日間その痛みや病気と相対 してきたからといって、あなたの医師はあなたの言おうとしていることを 自動的に理解してくれるであろうなどと思わないことである。あなたの医 師が役に立つ返事をしてくるためには、通信内容の明確さは何よりも大事 なことである。

第三に、二年前に初診料としてあなたの保険会社が負担してくれた 26 ド ルで、インターネットによる医療アドバイスを終身ただで受けられる受け られるわけではない。簡単な質問で結果もそう大したことにならない程度 のものはよいが、単にあなたのあるいはあなたの友人の好奇心を満足させ るために、あなたの過去のカルテを引っぱりだし、Center for Disease Control とあなたの保険会社にに電話をし、いくつかの学会記事を調べ上 げてくれるであろうなどと思うなかれ。もしあなたの質問に対して詳しく 返事をくれる代りに、診察に来るように医師に言われたら、これはあなた の問題に対して適切な注意が払われるようにしてくれているのだなと思う べきである。

次回には、医師・患者間での電子メールの利用に関するポリシーや法制に ついて探り、さらに電子通信でのプライバシー保護に役立つ、医師も患者 も使える現実的な方法についても触れたいと思う。

[Ron Risley 氏は家庭医、精神科医であり、通信エンジニアの経歴を持ち、 Sacramento, California でその技量を生かした長年にわたるハッカーで もある]


非営利、非商用の出版物およびウェブサイトは、フルクレジットを明記すれば記事を転載またはウェブページにリンクすることが できます。それ以外の場合はお問い合わせ下さい。記事が正確であることの保証はありませ ん。書名、製品名および会社名は、それぞれ該当する権利者の登録商標または権利です。TidBITS ISSN 1090-7017

tb_badge_trans-jp2Valid HTML 4.01!Another HTML-lint gateway