TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#605/12-Nov-01

皆さんは先週の iTunes インストーラ騒動から Apple には何を学んで欲しいと思っていますか?Adam が Apple に宿題として持ち帰ってほしいこと、それにユーザである我々に対するアドバイスについても考察する。デジタル世界におけるコンテンツの将来についての Dan Kohn のエッセイシリーズでは、純粋公共物に対する報酬支払いについて論じている。ニュースの部では、Microsoft Outlook Express 5.0.3, Adobe Illustrator 10, ConceptDraw 1.71, DAVE 3.1, そして IPNetRouter 1.6.2 へのアップデートについて扱っている。

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MailBITS/12-Nov-01

Outlook Express 5.0.3 アクセス問題に対策 -- Microsoft はその無償の電子メールとニュースのクライアントのメンテナンスアップデートを Outlook Express 5.0.3 としてリリースした。このアップデートで MSN Hotmail アカウントに対するアクセスが再度出来るようになった。最近 Microsoft がその Passport サーバを変更した時からこのアクセスが出来なくなっていた。Outlook Express 5.0.3 では、MSN Internet アカウントへのアクセスに対するサポートが追加され、送信メッセージの送信者確認伝送をサポートする強化 SMTP AUTH 対応が提供されている。このアップデートは無償で 9.1 MB のダウンロードとなっている。[JLC](カメ)

<http://www.microsoft.com/mac/products/oe/5/product_info/t_moreinfo.asp>
<http://support.microsoft.com/support/kb/articles/q311/2/17.ASP>

Adobe 社 Illustrator 10 をリリース -- Adobe はそのグラフィックアプリケーションの Mac OS X 対応の第一弾として Illustrator 10 を出荷中である。この新バージョンでは、Web コンテンツを制作するいくつかの機能が追加されている。例えば、ベクトル画像を切り分ける機能、強化 Macromedia Flash 対応、さらに Adobe の Scalable Vector Graphics (SVG) フォーマットを有効に利用した種々の機能などである。他の改良点としては、ワープ画像のための溶解ツール、繰返し使うグラフィックエレメントを管理するシンボルツール、似たようなオブジェクトを選択するための Magic Wand ツール、Illustrator を他の Adobe アプリケーションと一緒に使うための一連の統合オプションがある。Illustrator 10 は、PowerPC G3 か G4 ベースの Macintosh で Mac OS 9.1 かそれ以降(Mac OS X 10.1 を含む)かつ 128 MB の RAM を必要とする。本プログラムの値段は $400 だが、アップグレードもあり、Illustrator の以前のバージョンのオーナーに対しては $150 であるが競合アップグレードは $250 となっている。Adobe の発表の中で、President 兼 CEO の Bruce Chizen は同社の残りの製品についても Mac OS X 対応版を半年以内にリリース出来るであろうとしている。[JLC](カメ)

<http://www.adobe.com/products/illustrator/newfeatures.html>
<http://www.adobe.com/store/products/illustrator.html>
<http://www.adobe.com/aboutadobe/pressroom/pressreleases/200111/20010511ai10ships.html>

ConceptDraw 1.71 リリース -- CS Odessa 社は ConceptDraw の Standard 及び Professional 版をアップデートした。このソフトウェアはダイヤグラムやフローチャートを作成するためのものである(TidBITS-553 の「ConceptDraw コネクション」及び TidBITS-597 の「CD-Odessa 社 ConceptDraw Professional に進化」を参照)。このリリースでの変更点は、PNG グラフィックス対応、EPS エクスポート及び Adobe Illustrator と Photoshop とのデータ交換の改善、バグ修正が少々、そして Mac OS X に対する最適化等である。Standard 版では、ユーザインターフェースの能率化、ショートカットとメニューコマンドの増強をうたっている。ConceptDraw 1.71 アップデートは登録ユーザに対しては無償で、4.5 MB (Standard) または 4 MB (Professional) のダウンロードとなっている。[JLC](カメ)

<http://www.conceptdraw.com/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06179>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06561>
(日本語)ConceptDraw コネクション
(日本語)CS Odessa 社 ConceptDraw Professional に進化
<http://www.conceptdraw.com/en/resources/suppdownl.shtml>

IPNetRouter 1.6.2 及び Continued Care の投入 -- Sustainable Softworks 社は IPNetRouter 1.6.2 をリリースした。これは同社の人気のソフトウェアルータの最新版で、複数のコンピュータで一本のインターネット接続を共有することが出来る。改良点には、内蔵ファイアウォールのフィルタテーブルが更に大きくなったこと、同社の IPNetSentry ファイアウォールソフトウェアを IPNetRouter 内からオン・オフできる機能、見栄えに関する多少のバグ修正、それに DHCP サーバ機能に関するディベロッパ機能拡張などがある。このアップグレードは登録ユーザに対して無償であり 1.5 MB のダウンロードとなっている。

<http://www.sustworks.com/site/prod_ipr_overview.html>

これとは別に、Sustainable Softworks は Continued Care を発表した。これは年 $25 の会費で、過去一年間製品やアップグレードのためにお金を払っていない顧客(払ったことのある人は一年間の無償サポートを受ける権利がある)に対してサポートを提供しようとするものである。Continued Care プログラムの会員は、Sustainable Softworks 社のすべての製品(つい最近リリースされた入門レベルの Mac OS X インターネット共有ソフトウェア、gNAT を含む)に対するサポート問合せの待ち行列の中での優先処理、ディベロッパとの直接コンタクト、それに電子メールと電話両方でのサポートを受けられる。[ACE](カメ)

<http://www.sustworks.com/site/continued_care.html>
<http://www.sustworks.com/site/prod_gnat_overview.html>

DAVE 3.1 Mac OS X 対応を追加 -- Thursby Software Systems は DAVE 3.1 が入手可能となったと発表した。これは同社のユーティリティの最新版で、PC ネットワーク上で Mac を共有するためのものである。Mac と Windows ベースの PC 間での双方向のファイル共有に加えて、DAVE 3.1 では Windows ユーザが Mac OS X 10.1 下では Mac のマシン及びプリンタ(インクジェット、PostScript 両方)にアクセスできる機能が加わっている。但し、Mac OS 8.6 かそれ以降では、PostScript プリンタにしかアクセスできない。他の機能には、Mac OS 9 及び Mac OS X 10.1 下での大ファイル及び長ファイル名のサポート、ワークグループ自動検出機能がある。DAVE 3.1 は、DAVE 2.5 を暦年2001年中に買った人には無償のアップグレードであり;それより前に買った人あるいは古いバージョンからは $90 でアップグレードでき、新バージョンそのものは $150 である。[JLC](カメ)

<http://www.thursby.com/products/dave.html>


iTunes 2 インストーラ騒動

文:Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
訳:倉石毅雄 <takeo.kuraishi@attglobal.net>
訳: 佐藤浩一 <koichis@anet.ne.jp>

2001年11月3日の週末は Apple や iTunes 2 の早期使用者の一部にとって運の悪い週末となってしまった。Apple が金曜日の夜遅くに新しいバージョンをリリースしたのだが、土曜日の朝には Mac OS X インストーラを取り下げる羽目になってしまった。複数ボリュームでの名前のつけ方によってはインストーラが多数のファイルを削除してしまう問題が見つかったのだ。これは言うまでもなく大きな問題であり、噂によれば Apple はファイル回復ソフトの購入や、DriverSavers による影響を受けたハードドライブの回復費用まで払うと密かに申し出ているらしい。週末明け前には修正された iTunes 2.0.1 バージョンのインストーラがリリースされた。

<http://www.apple.com/itunes/alert/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06616>(日本語)iTunes 2 入手可となる
<http://www.drivesavers.com/>

この問題が発生した詳細については TidBITS Talk や似たような場において論議されている。簡単に言えば、Apple が Mac OS X 用に使用したインストーラは iTunes の前バージョンが Applications フォルダにあるとの想定を元にしたシェルスクリプトを使用していたらしい。しかし、ディスクの名前は人によって異なるため、スクリプトはディスクの名前を調べ、iTunes アプリケーションへの path を後ろにつけ、iTunes フォルダ内のファイルを全て削除した。しかし、スクリプトはディスクの名前の中にスペースが、特にディスクの名前の頭に、ありうるということを想定していなかった。Unix のコマンドではスペースが入力引数を区切るのに使われるため、一つのファイルを削除するはずのコマンドが間で区切られてしまい、一つのディスクを削除するコマンドに変化してしまった。Unix でこのような問題を避けるにはコマンドを引用符で囲めば良いのだが、当初はそれがされていなかった。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=1515>

Apple のいい加減な仕事と何も知らなかったユーザのデータの損失を嘆くのは簡単なことだ。しかし、これは Mac OS X への切り替えにおけるいくつかの大きな問題点を露呈したと言え、Unix と Mac の知識の交換、適切なインストール技術の使用、そしてバックアップのサポートの決定的な必要性など、多くのレベルにおいて Apple がもっと努力しなければいけないことをはっきりさせた。

Mac プラス Unix -- Macintosh と Unix との分離については色々と謳われており、Apple は Unix を全く知らなくても Mac OS X の使用出来るとと言っている。また、Unix オタクが Unix ソフトと主流のビジネスアプリケーションを共に使用できる OS を手に入れて狂喜している。しかしこのインストーラ騒動が示すとおり、 Mac OS X 上での開発者はMacintosh と Unix の世界双方に流暢で慣れている必要がある。Mac OS X iTunes インストーラで起こった間違いを見ればそれは明らかだ。

ある視点から見れば、インストーラをまとめた人は明らかに Unix について無知だった。少しでも Unix の経験がある人だったらスペースを含むUnix の path 名は引用符で囲まなければいけないと知っているが、Macintosh ユーザからして見ればそれを問題などとは思いもしない。逆の視点から見れば、インストーラをまとめた人は、通常の Mac ユーザがハードディスク名の中や頭にスペースどころか、頭のハイフンのような問題となりうる他の文字を入れるかもしれないということをまったく認識していなかった。Unix 人間はそんなことをしようなどと考えすらしない。

どちらが正しいのかはここでは重要ではない。私の言いたいのは双方の OS に限らず、それぞれの一般的な使用慣行や能力などの知識が広まらなければ、このような間違いはまた繰り返されるだろうということだ。

インストールの自動化 -- 私はインストーラをまとめた人物の知識の欠如に重点を置きすぎているかもしれない。もしかしたら Macintosh とUnix の知識においては誰も及ぶ者のない人物かもしれず、単純な人間的な間違いをしてしまったのかもしれない。誰にでも起こりうることであり、引用符の付け忘れは十分に考えられる。しかしここに二つの問題が出てくる。

なぜ Apple は手作りのシェルスクリプトを使用する独自のインストーラを使おうと決めたのだろうか?そこにはテスト済みのコードも、単純な人為的な間違いを防ぐようなインターフェースもない。このインストーラは現にこれまで問題を起こしたマイナス点もある(一つは想定外の文字を含むパスワードに関して、もう一つはファイル許可の無視に関して)。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkmsg=10775>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06415>(日本語)Apple 社、QuickTime 5.0.1 をリリース

特に皮肉なのは、Apple が Mac OS 9 の iTunes インストーラではMindVision の Installer VISE を使用し、それを使えば Mac OS X 版のインストーラをまとめる労力とコストを下げられたはずという点だ。Installer VISE を使えば、Mac OS 9 と Mac OS X 版双方を一つのインストーラファイルとして配布し、使用中の OS に応じて正しくインストールするようにだって出来たはずだ。もちろん、Installer VISE で誰からが同じような間違いをすることも考えられる。Installer VISE もインストール path を Unix シェルスクリプトに渡せるが、そのようなシェルスクリプトを書く必要はない。どちらにせよ、Installer VISE は昔から広く使われているインストーラであり、MindVision と数え切れないほどのMacintosh 開発者らの両方によって何千というアプリケーションのインストーラをまとめるためにテストされてきた。他の Mac ソフト同様、Installer VISE は正しく作動するよう、細部までに気を使ってある。昔、私が自分の本のインストーラを作るときに使用した Aladdin の InstallerMaker も同じだ。

<http://www.mindvision.com/>
<http://www.aladdinsys.com/installermaker/>

Apple が自家製のインストーラを選んだ理由は多数ありうる。プライド、恐るべき「Not Invented Here」症候群、Installer VISE が Unix の世界ではなく Mac の世界から来ていること、「自分の始末は自分で」とよく業界で言われている、自分のツールを使おうという誉められるべき目標など。どれが理由だったかは関係ない。肝心なことは Apple が顧客にとって何が大事かという点にまず集中することだ。もし Apple のインストーラでデータの損失が起こりやすいのであればそれは問題である。最近リリースされた「ソフトウェアアップデートのインストールのサポートを改善し、将来の Mac OS X アップデートに必要となる」 Installer Update 1.0 が問題の解決の一端になるかもしれない(先週の木曜日からSoftware Update で手に入る)。残念なことに、改善点について Appleが述べたのは上記の一文だけであり、それが実現するかどうかは分からない。そして、この議論の本質には関係ないが、なぜ、Apple は iTunes 2を Software Update を使ってリリースしなかったのだろう?

バックアップは大丈夫か -- たぶんコンピュータの世界では、「まずバックアップをして、それから...」といつも口が酸っぱくなる程言われていることだろう。私達 TidBITS も例外ではないし、新しいソフトウエアをインストールする時には普通に言われていることだ。当然の事ながら、ソフトウエアをインストールするためだけにバックアップをするのは間違いであり、いつ問題が起きても対処できるようなバックアップ計画を立てておくべきである。

そこで大きな問題となるのは、バックアップしてあるファイルを読み込むだけで完璧に元の状態に戻すための簡単・確実でしかも自動的にバックアップする方法が、Mac OS X が動作している Macintosh ではまだない点だ。もちろん、重要なファイルを別のハードディスクやインターネットを通じて別のマシンに送ることはできる。だがしかし、定期的に自動で動作し、変更されたファイルだけを対象に、全てのパーミッションとファイルの属性を保持したまま、別々のバージョンのファイルを保持できる、本当の意味でのバックアップシステムを組み込むことはできない。Mac OS 9 や Classic 環境下で動作するソフトウエアではバックアップした Mac OS X のファイルを正しく戻すことができないし、さらに Dantz Development 社の Retrospect Client for Mac OS X パブリックベータ版でさえも Mac OS X 10.1 で問題を抱えている。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=1510>
<http://www.dantz.com/index.php3?SCREEN=osx>

単に Apple は、バックアップには魅力が無く売上げには貢献しない、そしてバックアップはデータが無くなることを暗示させる、などの理由でバックアップを動作させるために必要な努力を惜しんできただけだ。現実的には、この時点でデータが無くなるのは 仮定 の話ではなく 時期 だけの問題であったとしても、自分のプライベートの Mac に Mac OS X 10.1 を入れようとしない最大の理由は納得いくようにバックアップができないからだ。出来の悪いiTunes インストーラでファイルを失った人たちは、バックアップさえあれば気分を害したにせよ実質的な損失はそれ程ではなかったろう。これらの被害者達はバックアップ(あるいは少なくても有効なバックアップ)を持っておらず、そして今回はユーザの怠慢のせいや自業自得のわけでもない。今回 Apple は、リリースから何ヶ月も経ったのに充分なバックアップとそれを元に戻すことが出来ないオペレーティングシステムを作ったツケを充分払わされた。この理由だけからも、 Mac OS X が様々な状況での重要な用途に使えるとはみなすことはできない。

教訓 -- 最後に、いつも全てが正しく動くようにするのはほとんど不可能に近いということを覚えておくことだ。そして Apple は少なくともこの問題に対して、Mac OS X iTunes インストーラを引っ込め警告を表示するなど、素早く対処した。一番大事な点は、Apple が今回の間違いから学習し同様な事が二度と起こらないようにすることである。もし全ての Mac OS X 10.1 CD-ROM でこの問題が起きたとしたらどうなっていたか想像してみると良い。

Apple に対しては、以下の事を忠告したい。

一般の人たちは、アップデートをインストールするのは数日待つことをお勧めする。一部の人はいつも勇敢(あるいは向こう見ず)で、私達はその先駆者達の経験から学ぶのだ。


このエッセイは盗用自由−その3: コンテンツ作成の報酬は

文: Dan Kohn
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

連載その1このエッセイは盗用自由−その1: コンテンツは純粋公共物
連載その2このエッセイは盗用自由−その2: 暗号化では止められない

印刷技術の発明から二十年くらい過ぎた頃の時代に、もしもコンサルタントというものがいて印刷業界の評価を依頼されたとしたら、その結果はおそらくこの新技術の価格はべらぼうに高すぎるという評価だっただろう。重要な書物はすでに筆写によって能率的に作り出されていたのだし、新技術の印刷機の作り出す書物といってもほとんどが既存のテキストの再出版、例えば聖書のようなもので、文字の読めるごく一部の特権階級の人間たち以外にはそういう本は無用のもの、しかもこうした人間たちは皆すでにそういうテキストは持っていたのだから。 - Ithiel de Sola Pool

「自由に」手に入るものに誰がお金を払うだろうか? コンテンツの作成には何とかして報酬を支払う方法を見つけなければならない。ジュラシック・パークの次回作をどこかのティーンエイジャーが午後の気紛れに作ってくれるなどということはあり得ないのだから。エコノミストの Arnold Kling 氏の言う通り、「今日におけるパラドックスとは、情報は自由で無料であるべきなのに人々は報酬を必要としていること」なのだ。

純粋公共物に対する報酬支払いは、過去数百年にもわたってさまざまの方法で行なわれてきた。だから、今の時代にならば、純粋公共物の作成者に対してその作成のための労働への対価を支払うことのできる良い方法が、きっと考えられるに違いない。さもなければ、いったい何のために著者たちは、例えば現在この文章を書いている著者たる私も、インクにまみれたみじめったらしい姿でいつまでも働き続けなければならないのだろうか。(ああ、もちろん、このエッセイは直接コンピュータにタイプしているのだからインクなんか使わないのですが、まあ、ものの例えですよ。)

公共物に報酬を支払う方法としては、基本的に4つの種類が考えられる。政府によるもの、マイクロ・パトロン制度によるもの、非営利団体や法人の慈善事業によるもの、それにコンテンツ関連商品の販売によるものがある。これら4つは決して排他的な分類ではない。1つの公共物がこれら4つのうちのいくつか複数のものから報酬を受けることも充分あり得ることだろう。

政府による援助 -- どのアーティストやライターを「援助すべき」かを政府が決める、というアイデアを歓迎する人が少ないのは当然のことだが、それでも公共物に対する財政援助といえば、伝統的にまずは政府の援助であった。しかし、これまでの議会での米国芸術基金にまつわる政治的サル芝居の現状を考えれば、このモデルが現在よりも大幅に広い範囲のコンテンツの財政援助に拡大され得るとは思えない。どのお笑い劇場とどの hip-hop バンドが援助に値するかを合衆国上院が議決する、などという世の中が来ることなど、一般大衆の側も Jesse Helms 上院議員の側も、どちらも夢にも望んだりしないことだろう。

しかしながら、政府が援助対象を選ぶという事態を招くことなしにコンテンツ作成への政府の財政援助を大幅に拡大できる可能性も無いとは言えない。一つの方法は、対象の選択は人気度によって決める、つまり人気のあるコンテンツの制作者が報酬を受けられる、というものだろう。例えば現在、 MediaMetrix というコマーシャル・サービスが、最も人気のあるウェブサイトを算出するサービスを行なっている。これは、ニールセンがテレビ番組の視聴率の調査を行なっているのと同様のサービスだ。例えば、ウェブサイト、MP3、映画、その他で人気の上位 1,000 位以内にリストされたものに対して政府の補助金を提供することによって、新規のコンテンツの創出ばかりでなくコンテンツの広範な拡張に関わるイノベーションを支援することを目的にする、というような政府のプログラムがあっても良いのではないだろうか。

<http://www.mediametrix.com/>

マイクロ・パトロン制度 -- マイクロ・パトロン制度と言っても支払額がマイクロ(微少)なものというわけではない。純粋公共物では、支払額が少なければ何の意味もないのだから。仮に、$1 さえ払えば New York Times の記事を自由に再配布してよいのだとしたら、その人以外、他の誰が $1 を払ってくれるだろうか? さらに、既存のマイクロ支払いシステムのやり方はあまり人々の支持を勝ちえているとは言えない。月末に請求書を数える時の、あの小額支払いの山を前にしてのうんざりとした気持ちを考えただけで、しりごみしてしまうのが人情というものだろう。

マイクロ・パトロン制度とは、15 世紀におけるコンテンツ制作システム、すなわち芸術のパトロン、を現代に回帰させようというものだ。このシステムの欠点は、アーティストたちがパトロンの直接の影響を受けざるを得ない、ということだ。(現代の出版社が著者たちに強制する圧力に比べれば影響の度合は少なかった、と論ずる人もいるが。)コンテンツの制作者は、パトロンの意向に従わなければならないわけだ。一方このシステムの利点は、情報の配布にかかるコストがほとんど無く、パトロンを見つけるのも比較的簡単で、一人のアーティストが多数のパトロンから援助を受けることもできることだろう。こうして、ミケランジェロがメディチ家の援助を受けて傑作を産み出したように、例えば少人数ながら熱狂的なファン層を持つ Aimee Mann のようなアーティストならば、毎年 $100 ずつを寄付してくれる 1,000 人程度のパトロンを見つけることも可能だろう。(現代のマイクロ・パトロンたちとメディチ家との決定的な違いは、今日では芸術のパトロンだからといってそう簡単にローマ法皇にはなれない、ということくらいだろう。)

<http://www.aimeemann.com/>

現在稼働中のマイクロ・パトロン制度が存在するだろうか? 良い実例は公共テレビ放送だろう。PBS や NPR のための寄付金集めは、誰でも見ることのできるテレビ番組という純粋公共物のために寄付を募ることの困難さに常に付きまとわれている。それでも、依然として多数の人々が、快く寄付のお金を寄せてくれているのだ。しかも、お金を払わなくても今後のコンテンツから排除されることは決して無いにもかかわらず。(言い替えれば、一人の寄付があるかないかがこの非排除的な商品を今後も享受し続けられるために何の影響も及ぼさないという経済的確信があるにもかかわらず、PBS を NPR を享受しているからには何かを払いたいという気持ちの方が強い、というわけだ。)

Mickey Kaus 氏が個人でやっているウェブサイトは最近、このサイトで収益を上げることができている、と宣言している。(ただしこれは彼自身の労働に対する賃金を勘定に入れていないのだから異論の余地はあろうが。)この場合は、Amazon を利用したシステムによって読者がマイクロ・パトロンになれる。もちろん、TidBITS がまさにマイクロ・パトロンによって成り立っていることも忘れてはならない。TidBITS に寄付を寄せたマイクロ・パトロンは、現在 700 人以上にのぼっている。

<http://www.kausfiles.com/>
<http://www.tidbits.com/about/support/contributors.html>

一般的に言って、今日ほとんどすべての寄付金システムはこれらと同じモデルによっている。つまり、そのサービス(例えば救世軍とか学校の同窓会とか)をあなたは寄付金を払うか払わないかにかかわらず享受できるのだけれど、それでもあなたは自らの意思で寄付金を払うわけだ。個々人が無料でサービスを享受しても何の違いも無いような状況においてさえ、今だに多くのこのようなサービスが寄付だけに頼って生き延びているという事実は、考えてみれば驚くべきことだと言える。

非営利団体と法人慈善事業 -- 純粋公共物、例えば医学研究などのようなものを財政援助するもう1つの方法は、例えば米国癌学会のような非営利団体を通じてのものである。こういう団体は、1つの大きな目的のためにお金を集め、それをその目的のために有効と判断したものごとのために配布するのだ。

<http://www.cancer.org/>

このようなアプローチをコンテンツに適用することもできるだろう。例えば全米カントリー&ウェスタン財団とか、アメリカホラー映画協会とかいうものがあってもよいのではないだろうか。そうして、誰かマイクロ・パトロンが(できればいくつかの会社が)そのジャンル全体のために寄付を行ない、この非営利団体に雇われた専門家がその基金を支給するに最もふさわしい第一線のアーティストたち、あるいは新進気鋭のアーティストたちを選定する、というシステムはどうだろう。

ウェブ雑誌“Slate”の現在の財政はこれに似たカテゴリーに属しているように見える。ここでは(超)営利団体である Microsoft 社が、何の気紛れか、第一級の雑誌の財政援助をすることで得られる感謝と尊敬の念が毎年2千万ドル以上を Slate の運営につぎ込む支出に値すると、考えているようだ。

<http://slate.msn.com/>

実際のところ、ニュース雑誌・オピニオン雑誌の重要なものの大多数は、第一級のコンテンツの財政援助をすることによって派生する尊敬の念を得ようという意図を持った個人または会社によって支えられているようだ。主な例を挙げれば、The New Yorker (Si Newhouse の Advance Publications が援助)、The Weekly Standard (Rupert Murdoch の News Corp. が援助)、The New Republic (Marty Peretz が援助) などがある。これらはいずれも明確な経済原理に則って運営されているわけではない。なぜならいずれもが赤字経営なのだから。

<http://www.newyorker.com/>
<http://www.weeklystandard.com/>
<http://www.thenewrepublic.com/>

コンテンツが次第に非排除的になっていく(つまり、人々が紙や CD などではなく、よりデジタルなデバイスによって文章を読んだり音楽を聴いたりするようになっていく)につれて、今後ますますそういったタイプの基金の必要性が高まっていくだろう。

コンテンツ関連商品の販売 -- 最後に挙げる方法は、最近になってやっと公共物の財政援助のために有効性を発揮し始めた方法で、そのコンテンツに付随した物品を販売することで利益を得る、というものだ。つまり、デジタルのコンテンツそのものに料金を課すわけにはいかないのだけれど、その内容に関連のあるグッズになら、喜んでお金を出す人が大勢いるだろう、ということだ。一番わかりやすい例は、コンサートで売られているTシャツとか、コンテンツの創作者からの感謝の言葉とサイン入りのマイクロ・パトロン用の額入り色紙などだろう。すべてのコンサートは(野外コンサートを除けば)本来、排除的なものなのだから、ファンたちは必ず、聴きに行くために実際にお金を払ってくれる。コンサートの場合、関連商品はアーティスト自身の分身とも言えるようなものだからこそ、ファンたちは喜んでお金を出して購入し、アーティストを身近に感じようとしているのだ。

これら4つの方法、4つ全部を合わせてみても、はたしてマドンナの新曲 CD とか The West Wing の1回放送分とかの収益に見合うほどの大きな金額が得られるものなのだろうか? その答えは時間が経たないとわからない。しかし、テクノロジーの進歩のおかげで情報発信にかかるコストがほとんど不要になったのと同じく、コンテンツの作成にかかるコストも劇的に縮小されつつある。シリーズ第1作のジュラシック・パークの制作では 50 人の人手と何十ものスーパーコンピュータを要した恐竜も、もうしばらくすれば 16 才の高校生が放課後に自宅の PC で気軽に作れるようになるだろう。モーツァルトならばオーケストラ楽団員全員を集めないと演奏できなかったシンフォニーも、今日では、給料を払ったり練習させたりしなければならぬ楽団員などいなくても、誰でも(音楽の才能さえあれば)午後のひと時を使ってフリーウェアの音楽プログラムで作曲でき、さらには繰り返し、繰り返し演奏もできる。もちろんその高校生も、自分の作ったアートを単なる趣味に終わらせたくないと思えば、何らかの財政援助(の組み合わせ)を見つける必要に迫られるのであろうが。

そして、方法はこれら4つで全部だ。私も(その他大勢の貧しいアーティストたちも)より新しい財政援助の革新的アイデアがないかどうかをこれからも考え続けるつもりではあるが、残念ながら今のところ私にはこれら以外に純粋公共物のコンテンツを財政的にサポートできる他の方法はあまり思い浮かばない。こういった状況は、はたして公平なものと言えるのだろうか? 次回のこのエッセイは盗用自由−その4: 窃盗を正当化してるだけ?では、この疑問について考えてみることにしよう。

[Dan Kohn は Skymoon Ventures 社の General Partner として働いている。彼の著作のアナウンスメントは <dankohn-subscribe@yahoogroups.com> で知ることができ、関連する討論は <dankohn-discuss-subscribe@yahoogroups.com>で参加できる。]

<http://www.dankohn.com/>
<http://www.skymoonventures.com/>


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Valid XHTML 1.0! , Let iCab smile , Another HTML-lint gateway 日本語版最終更新:2005年 12月 26日 月曜日, S. HOSOKAWA