TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#620/11-Mar-02

Mac OS X のフォントに混乱しているって?我々もそうである。しかしありがたいことに Matt Neuburg が DiamondSoft の Font Reserve 3.0 for Mac OS X をレビューしてくれたので、フォントのダブりとか混乱とかを避けるにはどこを見ればよいかわかるようになる。Ambrosia Software の Matt Slot は、ソフトウェアの気軽な不正使用の問題に関して Ambrosia が最近どんな対策をとったかについて驚くべき内情を見せてくれる。今週の重要な新リリースでは、Virtual PC 5.0.2、EIMS Server 3.1.1、そして Lasso Professional 5 について紹介している。

記事:

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MailBITS/11-Mar-02

Virtual PC 5.0.2 性能向上 -- Connectix 社は PC エミュレーションソフトウェアの無料アップデート版である Virtual PC 5.0.2 を Mac OS 9 と Mac OS X の両方に向けてリリースした(TidBITS-610 の“Virtual PC 5.0 の新機能と Mac OS X との互換性”を参照)。改善の主体は、Mac OS X 下でのお寒い性能に関する苦情を頭においた広範囲にわたる性能向上である。他に注意が払われた所として、Shared Networking を利用する時の PPTP 仮想プライベートネットワーク、より進化した自己診断、Canon プリンタへの印刷、改良されたシリアルポート・エミュレーション、強化されたスクリプトサポート、そして USB デバイスを抜き挿しする時のクラッシュが含まれている。リリースノートをどうか注意深く読んで欲しい。またもっと詳細を知りたければ Vital Information for Updates 5.0.2 ドキュメントを見て欲しい。このアップデートは 10.5 MB のダウンロードとなっている。[ACE](カメ)

<http://www.connectix.com/products/vpc5m.html>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06668>
日本語<Virtual PC 5.0 の新機能と Mac OS X との互換性>
<http://www.connectix.com/downloadcenter/updates/updaters_domestic/vpcm502_readme.txt>
<http://www.connectix.com/downloadcenter/updates/updaters_domestic/vpcm502_vital_information.txt>
<http://www.connectix.com/support/vpcm_online.html>

EIMS Server 3.1.1 出される -- Glenn Anderson は、彼の Mac OS メールサーバに対する無償アップデートである EIMS 3.1.1 をリリースした。(TidBITS-613 の“Mac メールサーバふたつが里帰り”を参照。)バージョン 3.1.1 では、いくつかのバグ修正がなされ、他の SMTP サーバ(最も目につくのは Yahoo のもの)とのコマンドパイプラインする時の問題に対する解決策も含まれている。Version 3.1.1 では更に LDAP 認証問題と、Microsoft の Outlook メールプログラムと NTLM を一緒に使うときの認証問題が解決され、Incoming Mail フォルダの処理速度が向上している。このアップデーターは EIMS 3.1 アプリケーションに対する 76K のパッチとして出されている。[GD](カメ)

<http://www.eudora.co.nz/updates.html>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06693>
日本語<Mac メールサーバふたつが里帰り>

Blue World、Lasso Professional 5 をリリース -- Blue World Communications は Lasso Professional 5 をリリースした。これは同社のインターネット出版・開発のためのデータベースミドルウェアの最新版となる(Lasso の様なプログラムが何をするのかの概要については TidBITS-584 の“WebObjects 物語、パート 1”を参照)。基本的に Lasso はデータベースと Web サーバの間に位置し、データベースに蓄えられた情報を Web 経由でアクセスできるようにするものである。わが TidBITS でも FileMaker ベースの記事データベースと TidBITS Talk アーカイブを Web 経由で公開するために Lasso を長いこと使ってきた。

<http://www.blueworld.com/Lasso5/LassoPro/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06465>
日本語<WebObjects 物語、パート 1>
<http://www.tidbits.com/search/talk.html>

Lasso Professional 5 では高度な機能が数多く加えられている。オープンソース MySQL データベースの統合版(自分のデータベースを定義し管理するためのデータベースビルダが含まれている)、Lasso のスクリプト言語の大幅な強化、完全に書き直されたドキュメント、それに拡張されたセキュリティと管理ツール(リアルタイムの監視付き)が含まれている。Lasso Professional 5 はリモートの MySQL 及び FileMaker Pro データベースに接続できる、さらに開発者はその他のデータベースシステムのためのコネクタを作ることも出来る - すでに存在するコネクタには、4D、FrontBase、PrimeBase、それに ODBC データベース用がある。これらの疑いもなく高度な機能にはやはり高額な値札がついている:Lasso Professional 5 Standard Edition は $1,200 であり無制限のクライアントを扱うことができる(Lasso 3.5 のフルバージョンからのアップグレードは $600);別に単一ユーザ用 Developer Edition もあり $350 である(30日評価用も無料で入手できる)。もっと高額な“Deluxe”契約もあり、これだと一年間の無償アップグレードと優先カスタマーサービスが追加される。Lasso の全バージョンに電子ドキュメントがついているが、ハードコピーは更に $100 出せば今月の終りには入手できるようになる。Lasso Professional 5 は Apache 及び WebSTAR Server Suite V を Mac OS X 下で, そして IIS を Windows 2000 下でサポートする - Mac OS 9 及びそれ以前ののユーザは残念ながら Lasso 3.5 から抜けられない。[GD](カメ)

<http://www.mysql.org/>
<http://www.filemaker.com/>
<http://www.4d.com/>
<http://www.frontbase.com/>
<http://www.primebase.com/en/>
<http://www.blueworld.com/Lasso5/LassoPro/evalRequest.lasso>

しまった! easyDNS のリンクを入れるのを忘れました すみません! 何を我々は寝ぼけていたのだろうか。先週の easyDNS の記事(TidBITS-619 の“easyDNS で DNS を簡単に”)で、記事を書き上げた後、編集して、スタッフが検討し、3回の編集チェックの段階を経たにもかかわらず、それでも easyDNS のウェブサイトへのリンクの記入が漏れていることに、なぜか誰も気付かなかった。幸い、入れておくべきだった URL は簡単に想像できるものだった。 <http://www.easydns.com/> だ。でもそれは何の言い訳にもならない。我々は全員覚悟を決め、大鍋に湯を沸かし始めたところだ。これから皆で麺を茹でて、スタッフ全員、そろって釜揚げ麺鞭打ちの刑に服するつもりだ。皆さん、申し訳ありませんでした。[ACE](永田)

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06741>
日本語<easyDNS で DNS を簡単に>
<http://www.easydns.com/>


Font Reserve が Mac OS X に

文 : Matt Neuburg <matt@tidbits.com>
訳 : 佐藤浩一 <koichis@anet.ne.jp>

Font Reserve(DiamondSoft 社製)は、私がここ何年も気に入って使っているフォント管理ユーティリティだ。簡単に言えば、フォント(あるいはフォントへのエイリアス)を格納及び探索するもので、さらに各フォントを使用するかどうか個別に設定できる。フォントが数え切れないほどあっても、Font Reserve があれば戸惑うこともないし Font メニューも必要以上に長くなることもない。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=04180>
日本語<フォント管理最前線>

Font Reserve 3.0 は Mac OS X をサポートするが、先達と同様、機能が以前のバージョンと同じとはいかなかった。しかし、それでも充分動作するので、気に入って使っている。

<http://www.fontreserve.com/products/frmac.html>

長所と欠点 -- 以前同様、Font Reserve は大きく分けて4つのコンポーネントから成り立っている。Font Reserve がフォントやエイリアスを保管する Vault(保管場所)、フォントの追加・削除、閲覧や使用フォントの制御を行なう Font Reserve Browser、不可視のバックグラウンドアプリケーションで実際の作業を受け持つ Font Reserve Database、そして Font Reserve Database の初期設定を扱う Font Reserve Settings アプリケーション(以前はコントロールパネルを装っていた)である。Font Reserve Extension は存在しない。この機能拡張によりバージョン 2 で追加された、文書で使われているフォントを自動的に使用可能にするこの機能は Mac OS X では動作しないのだ。

便利と取るか、不便と取るかは見方次第だが、Mac OS X の特長はフォントが4ヶ所(System の Fonts フォルダ、トップレベル Library の Fonts フォルダ、ユーザー Library の Fonts フォルダ、そして Classic システムフォルダの Fonts フォルダ)に置いておけることである。Font Reserve は、この状況を整理するのに役立つ。 Font Reserve Browser を最初に起動した時、System Font Handler をファイルメニューから選ぶことにより上記4ヶ所にある全てのフォントを表示するダイアログが現われる。その後、システムで必要としないフォントを削除することができ、Font Reserve に全てを任せることができる。念の為申し沿えておくが、これは Mac OS X のマルチユーザー指向とは矛盾しない。標準で、フォントの保管場所は全てのユーザーがアクセス可能な Shared フォルダに設定されるからだ。もちろん、ユーザー毎に別々の保管場所を与えても構わない。

非常に失望したのは、Font Reserve が .dfont と .otf フォントを操作できないことだ。これにより Mac OS X に付属の 40 あまりのフォントはまったく手に負えないことになる。Font Reserve のこの制限にもかかわらず、System Font Handler は沢山のこれらのフォントを消去する選択肢を提供する。私に言わせれば、これには意味が無い。何故なら、これらのフォントをFont Reserve が扱えないので、消去するということはまったく使えなくなるということを意味するからだ。さらに悪いことには、System Font Handler のダイアログは混乱しやすい。注意しなければ、これらのフォントを無意識に取り除いてしまうことだろう。さらに、Font Reserve がこれらのフォントを使用する・しないを設定できないとしても、何故それらをリスト表示できないのか(例えば、変更不可能な“System Fonts”セット内で)理解に苦しむ。つまり、そのようなフォントがどこにあるか、あるいは Helvetica の .dfont フォントと Helvetica TrueType フォントの重複を探すのに Font Reserve を使うことができないという訳だ。Font Reserve はまた、Windows の .ttf TrueType フォントを扱うことが出来ない。Mac OS X でそれらを使えるのは大きな利益だし、私自身も多数使っている。

一方、Font Reserve 3.0 での素晴しい新機能といえば Classic Activator だ。これを把握するには、現在の状況を理解する必要がある。Mac OS X は Classic環境のフォントが使えるが、逆に Classic では Mac OS X のフォントは見えない。Font Reserve が Classic が起動される度に自動的に起動される不可視の Classic アプリケーションである Classic Activator は、この状況を変えてしまう。つまり、Font Reserve で使えるようになった Mac OS X のフォントは Classic でも使えるようになるのだ。このように、Classic Activator を使えばフォントの重複や Classic アプリケーションが必要なフォントにアクセスできるかどうか頭を悩ます必要が無くなる。あなたは、快く System Font Handler に Classic の Fonts フォルダから殆んどのフォントを削除させ、Font Reserve に後の処理を任せられる。

これから導き出されることは、Mac OS X から起動するなら Classic 版 Font Reserve が必要無いということだ(Mac OS 9 でたびたび起動するユーザーには依然必要だが)。残念ながら、Classic 版 Font Reserve はどのオペレーティングシステムで起動したか自動的に検知することができないので、Mac OS 9 から起動して使うには手動で使うように設定しないといけないし、再度 Mac OS Xを起動する前には使わないように設定する必要がある(あるいは、Mac OS 9 と対照的に Classic で起動するとき機能拡張を不使用にできる Casady & Greeneの Conflict Catcher 9 を使用する)。

<http://conflictcatcher.com/>

マニュアルの手仕事 -- Font Reserve 3.0 のマニュアルは改良が必要だ。メインのマニュアルはまったく Mac OS X 用に書き直されていない。クイックスタート・ガイドは書き直されているが、いくつか間違いが見受けられる。例えば、System Font Handler メニューを“Check System Font Folders”と言及し、Font Reserve Browser をインストールの直後に起動するよう間違って書かれている(本当は、Font Reserve Settings を最初に起動する)。アプリケーション自体も同様の間違いを犯している。インストーラは、Mac OS X にはそのようなものが無いにもかかわらずコントロールパネルと機能拡張をインストールするように表示し、Font Reserve Browser のダイアログは、Font Reserve Settings をコントロールパネルと呼んでいる。

インターフェースで洗練されていない部分もまだある。Font Reserve を最初に使ったとき、意味の無いエラーダイアログ“ResError() == noErr”が表示された。ログファイルも“font references at the top level”などの不可解なエラーメッセージで一杯だ。表示の問題が出るのも少なくはない。概して、このリリースはもう少し磨きをかけてから出しても良かっただろうと思えるものだ。修正版が程なく現われると思われる。

上向きの結論 -- このような多くの外観の問題にもかかわらず、Font Reserve 3.0 の登場は私にとって待ちに待ったものだった。すべての Mac OS X のフォントが管理できないとしても、TrueType と PostScript フォントを以前のように整理できると考えれば、Classic Activator も合わせて、購入しても損は無いと思う。もし Mac OS X でフォントの混乱に陥っているのなら、Font Reserve には一見の価値がある。バージョン 2 のユーザで Mac OS X にアップグレードしたなら、もちろん Font Reserve 3.0 にアップグレードすべきだ。

Mac OS X 用 Font Reserve 3.0 は 256MB の RAM を持つ Power Mac G3 以上が必要である。価格は $90 で、アップグレードは バージョン 2.6 購入者は無料、それ以外は $30。無料の試用版 - Font Reserve 3.0 Lite - は 100 フォントまでのサポート、データベースは 1 つだけ、そして見本の印刷が出来ないが、試用期間の制限は無いので、多くの人にとってはこれで充分であろう。新たなユーザーを囲い込む気前の良いポリシーだ。

<http://www.fontreserve.com/products/trial_mac.html>


ソフトウェアの気軽な不正使用−その実態と真実

文: Matt Slot <fprefect@ambrosiasw.com>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>
訳: 蒲生 竜哉 <gamo@earthlink.net>

ソフトウェアの不正使用が実際にどの程度行なわれているか、その具体的な統計データを一介のシェアウェアプログラマーが目にするというのはめったにないことだろうが、つい最近私はそのチャンスに恵まれた。

私の働いている会社、Ambrosia Software 社では、シェアウェアを書いて発売している。シェアウェアは、ユーザーが自由にいくらでもコピーして、友人の間で自由に分け合って(「シェア」して)もらおう、というものだ。そのしくみはこうなっている。我々は、ゲームとかその他のユーティリティとかを書いて、それをダウンロードとか、あるいは安価な CD などによって配布する。ユーザーは、自由にそれをインストールしてしばらく使ってみることができる。いわば、中古自動車を買う前にまずはタイヤを蹴飛ばしてみてからそこらをぐるぐると試乗してみるようなものだ。気に入ったら、その製品を購入する。気に入らなかったら、ただ捨ててしまうか、その CD を誰か他の人にまわせばよいわけだ。

<http://www.ambrosiasw.com/>

我々の会社が収入を得て、会社として成り立って行けるのは、我々の売るソフトウェアが一般の商品ソフトウェアに勝るとも劣らない品質とおもしろさとを備えていながら、平均的な大学生がピザとビールを買うのと同じ気軽さで買える程度の価格に抑えているからだ。ここには何のからくりも無い。誰でもその製品を堂々と使ってみるチャンスが与えられ、自分の $25 をこれに払うか、それとも他の事に使うかの決断はあくまでも各自の自由だからだ。我々の意見では、我々のソフトウェア製品の価格は競争力のある設定になっていると思う。$25 あればハンバーガーで腹ごしらえしてから映画を一本見て、およそ3時間ほど楽しい時を過ごせるだろうが、良く出来たゲームならば何日も何週間も楽しめるだろう。それに、我々の方法ならば無理にジャー・ジャー・ビンクスに付き合わされるようなことも無い。

数年前より以前には、Ambrosia のソフトウェア製品は“honor system”のもとで配布されていた。つまり、誰でもそのソフトウェアをダウンロードしていつまでも使い続けることができた。支払いを強制するようなものは何も無くて、ただ「あなたはこのソフトウェアを 1500 日間使っているがまだレベル 6 をクリアしていない」というような、穏やかな催促メッセージが出る程度だった。もちろんこれは我々の側でユーザーに対する信用に重きを置くという大きな賭けでもあったのだが、結果として Mac ユーザーの間にほとんどカルト集団とも言えるほどの熱狂的な支持を得るに至った。本来のセールス収入を漏らした分については、我々は善意の気持ちで目をつぶることにした。ビジネスモデルとしては、この“honor system”は理想的なものとは言えなかったが、少なくとも理想主義的な方法ではあったし、現実にこの方法による収入で Ambrosia 社の創設者の Andrew Welch は大学を卒業でき、数人の Ambrosia 社員もピザとビールにありつくことができた。(「ピザとビールの保存則」が成り立った、というわけだ。)

しばらくの間は、これですべてがうまく行っていた。けれども何年か経って、Andrew は大学を卒業し、他のメンバーも皆、ピザやビールに飽きてしまった。もはや Ambrosia 社は楽しい副業の場ではなく、フルタイムの正社員の生活の場であり、ちゃんとした会社という実体ときちんとしたオフィスを持ち、それなりの物理法則に従うものとなった。必然的に、現金を得るということが重大さを増していった。なぜなら、どんな MBA 生に聞いてみてもわかるように、ビジネスを流れる血は緑色をしているからだ。(訳注: アメリカの紙幣はすべて緑色のインクで印刷されている。)

会社のこの成長期、非常に出費の多い時期だったにもかかわらず、その財源は人々の正直さと気前の良さとのみに頼った、ごく限られた収入に頼らざるを得なかった。要するに、資金が足りなかったのだ。そこで、ユーザーに支払いを催促する新しい方法として、Escape Velocity というゲームでキャプテン・ヘクターという人物キャラクタを登場させてみた。ゲームの中で、一定の長時間以上未登録でプレイしている場合にキャプテン・ヘクターが催促を言い始める(そしてだんだん喧嘩腰になってゆく)ようにしたのだ。その後 Escape Velocity の売り上げをそれまでの製品の売り上げと比較してみた結果、つい最近ピザやビールが突然うんと値上がりしたのか、さもなければ、ちょっと余計に促しただけで、たとえばキャプテン・ヘクターのようなものを登場させただけで、人々は良心を取り戻して払うようになるものなのだ、ということが明らかになった。

表玄関に鍵をかける -- 私が Ambrosia チームに加わってからしばらく経った頃、Andrew が私に、ソフトウェアに制限をかけることの利点を説明した記事を送ってくれた。要約すれば、その記事の著者はシェアウェアプログラムの作家で、初めから完全機能のソフトウェアに対して登録料金を送ってくれるユーザーの数と、彼のそのソフトウェアに使用制限をかけて登録を促すようにした後の登録ユーザーの数とを比べたところ、登録数がほぼ5倍に増えていたというのだ。今後の会社の方針をどうすべきか、決められずに迷い続けていた我々にとって、この記事が最後のダメ押しをしてくれた。我々も、シェアウェアを作り続けてはいくが、ただ街角に立って人々の善意を待つようなやり方はもう止めにしよう、ちゃんと料金を取るようにしよう、と決めたのだ。

<http://hackvan.com/pub/stig/articles/why-do-people-register-shareware.html>

それはそれはひどかった。実に痛烈な反応があった。以前は我々の理想主義を誉めたたえてくれた人々の多くが、今度は一斉に我々を裏切り者と非難し始めた。でも実際には、料金を払ってくれる顧客にとっては以前とほとんど何も変わっていなかったのだ。料金を払えばすぐに登録コードが入手できるし、その後は何の制限もなくゲームにアクセスできるのだから。この基本原理は一貫していたのだ。確かに、登録コードを忘れてしまったり、買ったばかりの Power Mac 7500 に新たにインストールしたり、という場合にはちょっとばかり余分の手間がかかるようになったのだが、そういう場合も我々は電話やメールでの問い合わせに素早く答えて対処できるようにしていた。

正直言って、我々もクールでフェアな存在で居続けたい。しかし、たとえカルトの教祖でも信者たちが嫌になる時もある。(カルト信者って、風呂にも入らないし、それでいて泥の中を行進したりもするし、第一、誰が経費を払ってやっているというのだ?)それに、あの言葉、「登録数が5倍に増える、5倍に、5倍に」という言葉が、マントラのように我々の頭の中を駆け巡り続けていたのだ。我々の場合は結局5倍に増えるまでには至らなかったと思うが、実際に売り上げは確実に増え、そのおかげで Ambrosia は危機を乗り越えることができた。(いや、ピザも買えないほどおちぶれることは無かったのだが、こぼれたビールを拭くのに借りてきたトイレットペーパーを使わねばならないような時期はあった。)難しい決断ではあったが、これはビジネス上の決断であったし、後から考えれば結局正しい決断だった。

時は過ぎ、社員の数も増えて会社は発展し、私と妻の間には息子 Luke が生まれた。家族を持つということ、このことほど自分の職業的、経済的立場の不安定さを切実に実感させられるものは無い。私と妻の二人だけだった時代は、自分たちが学生寮のルームメイトで奨学金でやりくりしているんだ、と思い込むこともできただろうが、子供が生まれればそうは行かない。ピザとビールはいつの間にか消え、代わりにおむつと生命保険が第一の問題になっていた。

おむつと生命保険 -- というわけで、私はこのシェアウェア会社で働いており、私にとっては、これが安定した仕事になることが重大事なのだ。ちょっと考えてみて頂きたいが、Ambrosia 製品の登録数が 10% 減少するということは、すなわち誰かが今日にも求人広告欄をチェックし始めなければならないことを意味するのだ。それと同時に、登録しないでいる人々は必ずしも我々のソフトウェアを使っていないとは限らない、ということも段々明らかになってきた。登録コードをインターネットを使って他人と「シェア」しているような人も実際にいたのだ。独創性に溢れた人たちのうちには、我々のソフトウェアにリバース・エンジニアを加えて、自分でライセンスコードを生成するような人まで現われた。

もう我々は見て見ぬふりを続けることはできない。何が行なわれているか、我々は知っている。インターネットは、宿題を出すためとか、世界平和のためとかにも簡単に使える素晴しい道具だが、同時にそれは、ソフトウェアの登録コードを勝手にゲットするためにも簡単に使えるようになってしまった。我々は何とかしなければならないと痛感していたが、一方我々には前回ポリシーを変更した時、ただ言葉でお願いするだけでなく人々にソフトウェアへの登録を強制するようにしたあの時の苦痛も、トラウマとして残っていた。

だから私たちは、昼食休憩の時間に何度も何度も話し合いを続けた。(昼食にピザとビールが出ることはほとんど無かった。Arby's の旨いサンドイッチのことが多かった。)忠実な大勢の顧客たちに厄介をかけることなしに登録システムを我々の立場で改善する方法について、あれやこれやと議論した。シンプルなシステムであること、というのがキーワードだった。この技術的パズルの最後のピースがはまったのはある週末のこと、私がカナダをドライブしていた最中だった。私の頭にちょっとした代数学が思い浮かんだ。これさえあれば、どんな条約も政治資金規制法も破ることなくライセンスコードのアルゴリズムを非常にセキュアなものに変えることができる、と考え付いた。

それから私がやっと Andrew と会うことができた時、私が言ったのはただ一言、「多項式」だった。

最初彼はただポカンとした顔をするだけで、その顔は私が説明を始めてもしばらくの間は変わらなかった。私は説明を続けた。どうすればシリアル番号を分解して、我々の製品をセキュアに保ち、配布したコードが長時間日光を浴びると期限切れになって使えなくなるようにできるか、と。彼がしぶしぶ同意してくれた後、我々は一緒にスケッチボードに向かい、「新 Ambrosia 登録システム」の最初のバージョンを完成させた。

基本的な変更は、現在の日付をライセンスコードそのものの中に埋め込むことだった。埋め込まれたこのタイムスタンプは、ただ1つの目的のためだけに使われる。つまり、ユーザーは、30日以内に製品を登録しなければならないのだ。30日を経過すると、登録コードは期限切れとなって使えなくなる。ところで、これは重要なことだが、いったん有効な登録コードが入力されれば、このタイムスタンプはソフトウェアの動作に対して一切影響を及ぼさないのだ。いったんそのユーザーのコンピュータに登録情報が書き込まれれば、その情報は永久に有効となる。(ただし、そのシステム全体をきれいに消去したりしなければ、の話だが。)

Snapz Pro X -- この新しい登録システムを使った最初の製品は 2001年の 6月に出荷を開始した私たちのフラッグシップ・ユーティリティである Snapz Pro X の最新版だった。それから夏にかけてこのシステムは我々が意図した通り静かに、そして堅実に働き続けた。ほとんどの人はライセンスコードが従来の 8桁から 12桁に増えたことを気にも留めなかったし、登録数も順調に伸びていった。我々が不満の声を聞きはじめた 9月になるまでは。

<http://www.snapzpro.com/>

御存じのようにその年の 9月 Apple は Mac OS X を 10.1 にアップグレードした。多くの人たちは大変に用心深くなっていたからディスクを再フォーマットしてからシステムをクリーンインストールした。これはソフトウェアの登録情報を記録したファイルの喪失を意味していた。結果、多くの人々は再びライセンスコードを入力しなければならなくなった。また、これは 8月より以前に発行されたライセンスコードを持っている人は誰でも電話かメールで最新のライセンスコードを得なければならないということも意味していた。もちろん、これらの人たちはすでに代金を支払っているので我々は迅速にかつ無料で新しいライセンスコードを発行した。

我々の今までの経験によれば、人々はあまりにも忙しかったり、あるいは忘れっぽかったりしてライセンスコードを安全な場所に保管しないことが多い。システムの毎回のメジャーアップグレードのたびに喪失ライセンスコード再発行のリクエストが大群を成して押し寄せるのも無理からぬことだ。こうした大量のライセンスコードをなくした人々(そしてライセンスコードはちゃんと保管してあったけれどもそのコードが失効していた人たちも)の面倒を見るため、我々はライセンスコード再発行専用のメールアドレス、<lostcodes@ambrosiasw.com> を作った。例えばユーザーの Joe 君が失効したライセンスコードを入力すると、そこには我々にメールを送ることを促す(メールを送る手順はほんの1クリックだ)プロンプトが現れるようになっている。そして誰かがそのリクエストにできるかぎり早く返答するという仕組みだ。無論時間と場所、そしてニューヨーク州の労働基準局に縛られているため、我々は通常業務時間内にしか返答することはできなかったのだが。

何件かの苦情を受けた後、我々は失効コードの更新プロセスを自動化してこの問題を解決することにした。Snapz Pro X に失効コードが入力されると、それを入力したユーザーは我々の自動化されたサーバーに新しいライセンスコードをリクエストするようその場で促される。ライセンスコードの更新にはほんの2クリック、恐らく 30秒程度の余計な手間が必要だが、たったそれだけの手順でユーザーは再びそのソフトウェアを使えるようになる。ユーザーはシステムをいつアップグレードして、ソフトウェアをインストールし、そしてライセンスコードを更新するかをすべてユーザーの気分次第で決めることができるようになったのだ。今や4連休の前日の深夜でも何の問題もない。

読者のみなさんはおそらく有効期限付きライセンスコードの優位性について疑問に思うことだろう。なんでこんなに大変なことをしているのかって ? それではユーザーを3つのカテゴリーに分けて見てみることにしよう。まず代金支払い済みで、インターネット接続の環境が整っているユーザーだが、彼らが費やさなければならない余計な手間は非常に小さい。Ambrosia に送られたメールは 1 営業日以内に返答が送られる。またオリジナルのライセンスコードを大切に保管しているような整理整頓の上手なユーザーは待つ必要すらない。彼らは新しいコードをその場で取得することができる。不便な思いをしなければならないのは海賊版のライセンスコードを入力しようとする人たちだけなのだ。

ここでみなさんは再び疑問に思うかも知れない。「じゃあどれくらいの人たちが海賊版のコードを使っているの?」と。事実とはこうだ。多くの人々は不誠実にする機会がないかぎりは誠実である。ソフトウェアの有効なライセンスコードを偶然入手したり、あるいはインターネットでちょっとサーチした結果それを見つけたりすると、人々は簡単にそのコードを入力して、自己嫌悪の気持ちはエイリアンをぶっ飛ばしたり魚をぶっ潰したりする興奮で覆い隠してしまう。ソフトウェアを解析してコピープロテクションをクラックしようとするのは非常にハードコアなコンピューターユーザーだけだ。そして率直に言うと、こうした人たちを止める手立てはほとんどないと行って良い。クラッカーたちはこうした挑戦そのものを楽しんでいるのだ。これは難しければ難しいほど良い。もし彼らがどうしてもそれを欲しければ、なんとかして彼らはそれを手に入れてしまう。

歴史的に、ソフトウェアの海賊行為がどれだけ多いかを計ることは難しい。だが我々の経験から言うと大多数の人々はソフトウェアを解析してライセンスコードをバイパスするような時間も技術も持ち合わせていないようだ。多くのユーザーは海賊版のコードがこんなにも簡単に入手できないのであれば、きっと実際にソフトウェアを買ってくれるのだ。従って有効期限付きライセンスコードはこうした気軽な不正利用を撃退する(あるいは少なくとも出端を挫く)ためには有効なのだ。データベースに記録されてインターネットに公開されたシリアルナンバーは更新されなければならなくなるまでの僅かな期間しか使えない。

皮肉なことにこうした気軽な不正利用を行う人たちが海賊行為の我々の売り上げに与える打撃を調べる手助けをしてくれた。

お判りのように盗まれたコードを更新するためにユーザーの Joe 君は我々のオフィスにあるコンピューターにアクセスしなければならない。それには何も特別なことはない。彼がユーザーネームと失効したコードを送ると換わりに新しいライセンスコードか、あるいは相応のエラーメッセージを受け取るという仕組みだ。我々はデータを暗号化していないし、個人的な情報を収集するような事もしないし、文書化された許可がない限りは相手にコンタクトすらしようとしない。しかし、ユーザーの Joe 君が明るく輝く更新ボタンを押したとき、我々のサーバーはその製品の名前とユーザーネーム、それに彼の接続元インターネットアドレスを記録する。

我々が Snapz Pro X の最新版のアップデートを公開してから最初の二日間というもの、我々のサーバーは忙しく働いた。ライセンスコードを更新しようとした 194 の異なったホストのうち、実に 107 のホストは海賊版のコードを送ってきた(下の URL をクリックするとサーバーのアクセスログの実物のスクリーンショットを見ることができる。赤でハイライトされたものが海賊版のコードを使おうとした記録だ)。驚くべきことにアップデート版をインストールしようとしていた人たちのうち実に 50 パーセント以上もの人々がここ数カ月の間に我々が見つけた海賊版コードの片方かあるいは両方を入力したのだ。サーバーがアクセスを拒否するたびにユーザーネームの綴りを少しずつ変えながら何回も試す人たちすらいた(「ん、たぶん綴り間違えたんだな」)し、一人などはよほど頭にきたと見えて、我々のサーバが彼を過剰アクセスのブラックリストに載せるまでのあいだ更新ボタンを 4 秒ごとに叩いていた。(「なんで -クリック-、こいつは クリック、うまく クリック、動かない クリック 、んだ ???」)

<http://www.tidbits.com/resources/620/pirate_log_red.gif>

このサンプルが統計的に有効という訳ではないことは我々にも判っている。しかし、多少慎重さには欠けるかも知れないが、我々はこれが十分信じるに足る現実の一側面だと考えている。ともあれ、この一件は気軽な不正行為は決して小さな事ではなく、そして非常に広く普及しているという我々の認識を強化することになった。

明日への希望 -- 恐らく私はこうした人たちを実際に目で見たことはない。しかし彼らは私が見ている事を知っている。彼らはそのソフトウェアがタダで使えると判ると我々のソフトウェアに対して本物の興味を示す。そのことは私に希望を持たせてくれる。一部の人たちはきっとソフトウェアを購入する方が簡単だし、我々の大変な作業をただ盗むより気持ち良いと思ってくれるだろう。さもなければ、彼らはソフトウェアが使えなくなるか、あるいは道のどこかで再び私に会うはめになる。次回はキャプテン・ヘクターを連れていくつもりだ。

また私はこの記事によって気軽な不正行為が私たちのような小さなソフトウェア会社に与える打撃を私たちのユーザーが(そして他のコンピューターユーザーも)理解してくれることを期待している。私は彼らが私たちの登録システムに関する決定を受け入れ、そして 30秒と2クリックの余計な手間が大した不便ではないということに同意してくれることを期待している。もし全ての人が彼らが気に入って使いたい製品にお金を払ってくれるなら、Ambrosia のような会社も営業を続けてみんなが楽しめるようなクールな製品を作り続けることができるのだ。

最後に、私が愛してやまない事を今まで会ったなかで最もクールな人たちと続けられるよう、こうした変化がもう少し職業の安定を与えてくれることを期待している。私は働き続けられる限りはここで働こうと考えているし、すばらしいソフトウェアを作って私の子供たちがビールとピザの分け前を楽しめる大学に行けるようにお金を貯めたいと思っているから。

[この記事は許諾を受けて Ambrosia Times から転載されたものだ。Matt Slot は Ambrosia に5年近く勤めている。しかし彼は Bitwise Operator としての楽しみやゲームだけに明け暮れているわけではない。多項式を計算して海賊行為と戦っていない時、彼は良い本(Terry Pratchett)を読む事を楽しんだり、テレビを少し見たり(24チャンネル)、彼の二人の子供(Luke と Kaleigh)と遊んだりしている]


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