TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#622/25-Mar-02

Mac OS X になって Mac OS 9 の機能が懐かしい?あの Mac OS 9 のルック&フィールに置換える Mac OS X ユーティリティについて Adam が集成している。Mark Anbinder は Apple の Macworld Tokyo での発表から、23インチ LCD ディスプレイ、10GB iPod、Bluetooth サポート、そして iMac の値上げについてカバーしている。次に Gideon Greenspan が生物学でコンピュータはどの様に使われているかについての概要を寄稿している。最後に、二つの重要な Mac OS X リリースが今週号の内容である:Retrospect 5.0 と Mailsmith 1.5 。

記事:

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MailBITS/25-Mar-02

Retrospect 5.0、 Mac OS X をバックアップする -- Dantz Development は Retrospect 5.0 を出荷中である。Mac OS 9 或は Mac OS X のどちらでも動作し両方のオペレーティングシステムをバックアップしかつ復元できる。Mac OS X ベースの Mac のフルバックアップと復元をサポートするという超人的な仕事を課せられたために Dantz は Retrospect 5.0 で目新しい新機能を盛りこむことは出来なかったが、それでもその他の部分で嬉しい変更を加えている。ファイルバックアップセットはこれまでのようにリソースフォークのサイズで制限を受けることはなくなったので、ハードドライブをバックアップメディアとして使うことも現実的になった;2GB を超えるファイルでもバックアップでき;そしてバックアップデバイスの種類も増えた(現在 Apple から出荷されているすべてのオプティカルデバイスを含んで)。Retrospect には四つの違ったバージョンがあり、それぞれに機能が違い値段も違う。すべてのバージョンとも Dantz から直接入手できる;小売店に出回るのも間近であろう。フランス語、ドイツ語、日本語のローカライズしたバージョンも今年の第二四半期にはリリースが予定されている。これら国際版のユーザーは今英語版を購入して、ローカライズ版が出たときには無償でこれらのバージョンにアップグレードできる。[ACE](カメ)

<http://www.dantz.com/>

Mailsmith ネイティヴのメールクライアントの仲間入り -- Mac OS X ユーザーで Apple のバンドルしている Mail プログラムをもっと強力なメールアプリケ−ションに置換えたいと思っている人に選択肢が一つ増えた。Bare Bones Software の Mailsmith 1.5 である。Mailsmith 1.5 の新機能には次のようなものが含まれている:ワンステップでのフィルタ作成、ドラフト(仮原稿)のサポート、HTML メッセージからのほぼ完全なテキスト抽出、ランダム署名に対応、添付された画像や動画を Mailsmith 内に表示する機能、頻繁に使う定型語句を挿入できる Glossary 機能、改良されたスクリプトと一括検索機能、スクリプトとステーショナリに対するキーボードショートカット、等々。従前の Mailsmith からのアップグレードは $40 である(2002年に購入されたソフトがあれば無償);小売価格は $100 だが、2002年5月31日までは期間限定の $70 の特価が適用される。それ以降は BBEdit, Emailer, 或は Eudora の所有者には $80 の価格となる。デモ版が 8.2MB のダウンロードとして出されている。[ACE](カメ)

<http://www.barebones.com/products/mailsmith.html>

Palm Desktop 4.0 リリースされる -- Palm, Inc. は本日 Palm Desktop 4.0 for Macintosh を無償ダウンロードとしてリリースした。この新版では Mac OS X 対応、private とマークされたレコードへの対応、そして vCard と vCal ファイルのインポート及びエクスポート機能を実現している。(vCard 利用の身近な例として、先週の iPod 1.1 ソフトウェアアップデートで追加された基本機能だけのアドレスブックにレコードを追加することを取上げると、コンタクトのタイトルバーアイコンを直接マウントされている iPod の Contacts フォルダにドラッグすればよい。)Palm Desktop 4.0 は 10MB のダウンロードとなっている。[JLC](カメ)

<http://www.palm.com/software/desktop/mac.html>

TidBITS、Best of Mac Web 投票で順位を上げる -- Low End Mac Web サイトで行われた第三回 Best of the Mac Web 投票で、TidBITS はユーザーの評価で 5位から 3位に順位を上げた。前回同様、我々は VersionTracker と As the Apple Turns の後塵を拝したが、今回の投票では、MacSurfer の Headline News と MacFixIt を抜くことが出来た。MacFixIt は 10位に落ちてしまった(Low End Mac はこの下降は MacFixIt の新しい購読モデルのためではないかと勘ぐっている)。他の目につく動きとしては、Mac Minute ニュースサイトが 11位から 6位に順位を上げ、そして Shawn King を失った Mac Show が 15位から 50位に大きく下げ、本人が新たに始めたYour Mac Life ラジオショーが 18位に入った。この Best of the Mac Web 投票は単なる人気投票に過ぎないが、回を重ねる毎に、回から回への変化が大変興味深いことを示してくれる。今回の投票に参加してくれた人に感謝の意を表したい。[ACE](カメ)

<http://lowendmac.com/botmw/020321.html>


新 Cinema Display、iPod、Bluetooth の発表と iMac の値上げ

文: Mark H. Anbinder <mha@tidbits.com>
訳: 細川秀治 <hosoka@ca2.so-net.ne.jp>

先週東京で開催された Macworld Expo におけるキーノートスピーチで Apple CEO の Steve Jobs は、2つの新製品を発表した。新しい 23インチ Apple Cinema HD Display(解像度 1920 × 1200)が Apple の LCD フラットパネル・ディスプレイ群に追加され、4月より販売される。予定価格は 3,500ドルだ(既存の 22インチ Apple Cinema Display もこれまでどおり 2,500ドルで販売されるが 解像度は 1600 × 1024 のまま)。 Apple 社によると、新しいディスプレイは HDTV(ハイビジョン)をそのままの解像度で“余裕をもって”編集できる。また同時に Apple は、より大容量の iPod を発表した。この 500ドルバージョンのポータブル MP3 プレーヤーは、10GB のハードディスクを内蔵し、3月23日より発売される。(既存の 5GB モデルも 400ドルで販売を継続する)。Apple Store では、もう 50ドル の追加により、どちらのモデルも 27字までのテキストを2行までレーザー刻印する特別注文を受付けている。

<http://www.apple.com/displays/acd23/>
日本語<アップル - ディスプレイ - 23インチApple Cinema HD Display
<http://www.apple.com/displays/acd22/>
日本語<アップル - Apple Cinema Display 22インチフラットパネルモデル
<http://www.apple.com/ipod/>
日本語<アップル - iPod
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06608>
日本語<iPodで音楽をもっと魅力的に

Jobs はまた Bluetooth に関する今後のサポートについてもプレビューしている。この比較的狭い範囲でのワイヤレス接続技術は、コンピュータ、携帯電話、PDA などのパーソナル電子器機で、半径約 10m 以内に近接する場合の相互リンクを意図したものだ。「アップルは実用性にすぐれ、使いやすいBluetooth ソリューションを提供します」と Jobs は約束した。Mac OS X ユーザは D-Link USB Bluetooth アダプタで使用する Bluetooth プレビューソフトウェアを Apple のウェブサイトからダウンロードできる。Bluetooth USB アダプタは、5月上旬より Apple Store から、$50(6,000円)で販売予定だ。Bluetoothソフトウェアが接続可能な範囲にある Bluetooth 対応機器を自動的に見つけるので、それらの近傍器機と簡単に接続できる。

<http://www.apple.com/bluetooth/>
日本語<アップル - Bluetooth
<http://www.bluetooth.com/>

このイベントで、Jobs はびっくりすることを発表した。3月21日より現行のフラットパネル型 iMac をそれぞれ $100(2万円)値上げだ。(その日まで注文済みの場合は旧価格を適用)。Jobs はメモリーや液晶パネルなど部品価格の高騰について言及し、価格を据え置いてその代わりに性能を落とすよりも、価格の引き上げは善い選択だと弁明している。新しい iMac の需要が高いので、この値上げは売上げ低下に影響を及ぼさないだろう。Apple は新しい iMacが 1月に発表されて以来 25,000台を越え、現在、一日に 5,000台以上を出荷していると発表した。

<http://www.apple.com/pr/library/2002/mar/20imac.html>
日本語<アップル、新しいiMacの量産体制整う


厳選 Mac OS X ユーティリティ: Mac OS 9 の機能を取り戻す

文: Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

誰でも知っていることだが、Apple にとって最も重要なのは小さなユーティリティを開発してくれるプログラマーたちだ。何年か前のこと、考え得るユーティリティがもうすべて開発され尽くして Mac の市場が停滞してしまったのを Apple は看破した。この停滞を打ち破るには根本的な構造改革が必要だ、というわけで Apple は素早く対策に乗り出した。すなわち Apple は Mac OS を捨て去って新たに NeXTstep ベースの Mac OS X に乗り換え、そのことによってすべての Mac 開発者たちがそれぞれの Mac OS 9 機能を Mac OS X に移植することで失業を免れるように、さらには Mac OS X の不十分なインターフェイスを補完することもできるように、加えて Unix ハッカーたちも Mac の仲間に取り込み、これまで7つもあった NeXT ユーティリティすべての開発者たちにも食いぶちを提供できるように、と企んだのだった。

まあ、皮肉ばかり言うのは止めにするとしても、実際のところ最近 Mac OS X 用ユーティリティの数は雨後のたけのこのように急増している。この記事の準備のために TidBITS Talk で推薦を募ったところ、実にたくさんの意見が寄せられた。その数があまりに多かったので、紹介記事は何回かに分けることにした。第1回の今回は、Mac OS 9 の機能を Mac OS X において再現するためのユーティリティに焦点を絞ることにしよう。TidBITS Talk の議論を読んでもらえれば、未整理ながら他のジャンルのものも全部わかるだろう。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=1497+1600>

前置きはこれくらいにして、Mac OS 9 の機能を Mac OS X に再現するための厳選ユーティリティをいくつか挙げることにしよう。前もってお断りしておくが、これは決してきちんとしたレビュー記事ではない。我々はまだそういうものが書けるほどにはそれぞれを使いこなす経験を積んでいないのだから。もしもあなたのお気に入りのユーティリティで我々のリストに漏れているものがあれば、どうぞ TidBITS Talk に投稿してもらいたい。

WindowShade X -- Mac OS のウィンドウシェード機能は System 7.5 以来のものだが、実は System 6 の時代にも Robert Johnson 作の独立のコントロールパネルとして存在していた。ウィンドウのタイトルバーをダブルクリック、またはシェードボックスをクリックすれば、ウィンドウが「巻き込まれて」タイトルバーだけになる、という機能だ。このタイトルバーの状態のままでも画面上の好きな位置へ移動することができる。画面上でたくさんのウィンドウが開いていて場所ふさぎな時など、便利な機能だ。Mac OS X ではこの機能が無くなって、代わりにウィンドウをドック上のアイコンにミニマイズするようになってしまった。残念なことに、この Mac OS X の方法ではすぐにドックが一杯になり、またミニマイズされた状態ではウィンドウ同志を区別するのが困難、という難点がある。けれども Unsanity の WindowShade X があれば、Mac OS 9 で使えた機能のすべて、加えてさらに多くの機能も使えるようになる。 WindowShade X を動作させるには4つの方法がある。ミニマイズボタン、タイトルバーのダブルクリック、タイトルバーの Control-ダブルクリック、それに Command-M、の4つだ。それぞれの方法はどれもドック内へのミニマイズ、タイトルバーへの「巻き込み」、ウィンドウ全体の透明化、アプリケーションを隠す、のいずれかの効果を選択できる。私個人の好みでは、Mac OS X の透明化のオプションはどれもこれも、いくら透明度が調整できるといっても、全くイライラさせられるばかりで好きになれない。WindowShade X は $7 のシェアウェアで、374K のダウンロードだ。

<http://www.unsanity.com/haxies.php>

ASM と X-Assist -- Apple は Mac OS X でドックに重点を置き過ぎているように見える。ドックはアプリケーションのランチャーであり、現在動作しているアプリケーションの一覧もし、その他いくつもの役割を担わされている。Mac OS 9 ではこれらの機能はいくつかの場所に分散されていた。特に、現在動作しているアプリケーションのリストはメニューバー右端のアプリケーションメニューにいつもきちんと仕舞われていた。Mac OS X では、メニューバーのその位置は時計とか、その他雑多なメニューバーアイコンに占領されてしまっている。けれども、ASM か X-Assist のどちらかをインストールすれば、メニューバーの右端にアプリケーションメニューが復活する。ASM の設定パネルでは、メニューバー上でアイコンを表示するかメニュータイトルとして名前を表示するか、またはその両方か、が選べる。メニュー上でどれだけの幅を占めるかも設定できる。また、ASM メニューの内容や、特別コマンド(例えばアプリケーションを隠したり表示させたりなど)についても各種の設定ができる。さらに重要な機能としては、Mac OS 9 におけるウィンドウのレイヤー構造を復活させることもできる。つまり、1つのアプリケーションのウィンドウは全部1つにまとめ、そのウィンドウの1つをクリックすれば同じアプリケーションに属するウィンドウがすべて前面に来るようにする、ということだ。(Mac OS X では、ドック上でアプリケーションのアイコンをクリックした場合、または Command-Tab でアプリケーションを切り替えた場合だけ、このようなことが起こる。)ASM のその他の機能としては、現在のアプリケーション以外のアプリケーションをすべて自動的に隠すシングルアプリケーションモードがある。X-Assist も ASM とほぼ同様の機能を持っているが、ASM には無い2つの追加機能もある。ユーザー指定のファイル・フォルダ・ディスクの階層メニュー(Mac OS 9 のアップルメニューと同様のもの)を表示できることと、特別プラグイン(付属しているサンプルのプラグインは Mac の音量を調節したり MP3 ファイルを再生したりできる)のサポートだ。両者とも一応うまく動作するようだが、ASM の方が安定しているという声も多く聞かれた。ASM の著者の Frank Vercruesse は、もしも ASM が気に入ったらドネーションをして欲しい、としている。バージョン 2.0.2 は 354K のダウンロードだ。X-Assist は無料で、291K のダウンロードだ。

<http://asm.vercruesse.de/>
<http://members.ozemail.com.au/~pli/x-assist/>

FruitMenu と Classic Menu -- アップルメニューは長年にわたって Mac OS に定着してきた。Mac OS X において、Apple は賢明にもアップルメニューを保持するにはしたのだが、これは以前のようにカスタマイズ可能なものとは似ても似つかない、ただの形式的な影のようなものに成り下がってしまった。これを以前のようなものに復活させるユーティリティは2つある。Sig Software の Classic Menu と Unsanity の FruitMenu だ。Classic Menu の方がシンプルに出来ている。これは単純に Classic Menu Items フォルダの内容を表示するだけだ。この Classic Menu Items フォルダはあなたの Library フォルダ内の Preferences フォルダの中にある。ここにファイル・フォルダ・ディスクのエイリアスを入れておけば、アップルメニューアイコンをクリックするだけで以前のアップルメニューと同じように使える。また、選択されたアイテムのエイリアスを Classic Menu Items フォルダ内に作ったり、そのフォルダを Finder で開いたり、別のフォルダを選んでそれを代わりに使えるようにしたり、といった便利なメニュー項目もある。アップルメニューアイコンのすぐ横のところをクリックすれば、Mac OS X デフォルトのアップルメニューが使える。(ここにはログアウトや再起動など、重要なコマンドがある。)FruitMenu の方も Classic Menu と同様の機能を装備しているが、こちらはむしろ Power On Software の Action Menus に近いもので、設定パネルでアップルメニュー内容の並べ替えをしたり、特別な機能を持つカスタム項目(例えば現在の IP アドレスを表示するなど)を追加したりできる。全般の印象としては FruitMenu の方がパワフルな感じがするけれども、こちらはたったの $7 のシェアウェアだ。一方 Classic Menu は $10 となっている。どちらもちゃんと動作するようだ。FruitMenu 1.5.2 は 481K のダウンロード、Classic Menu の方はたったの 43K のダウンロードだ。

<http://www.unsanity.com/haxies.php>
<http://www.sigsoftware.com/classicmenu/>

SharePoints -- Mac OS 9 では、好きなフォルダを選んで共有することができ、いろいろなフォルダにアクセス権を指定できるユーザーやグループを作ることもできた。Mac OS X においても、実は同じ機能が内部では実装されているのだが、その機能へのアクセスは簡単ではなかった。SharePoints は、これを簡単にするためのユーティリティだ。SharePoints は独立のアプリケーション、または設定パネルのいずれとしても動作でき、どんなフォルダでも共有できるように指定できる。また、設定した共有フォルダにはアクセス権を持つけれども Telnet や SSH ではログインできず、home ディレクトリも持たないようなユーザーを作ることもできる。ちょっとしたボーナスとして、SharePoints は接続時にユーザーに表示すべきカスタマイズされたメッセージを設定することもできる。著者は、もしも SharePoints が気に入ったらドネーションをして欲しい、としている。SharePoints 2.0.4 は 824K のダウンロードだ。

<http://homepage.mac.com/mhorn/>

Xounds -- Apple が提供したのはインターフェイス用のサウンドのみだったけれど、アピアランスコントロールパネルで個々のインターフェイス動作ごとに指定できたサウンド効果は Mac OS の使用に新しい次元を付与したものだった。しかし、これは Mac OS X では無くなってしまった。そこで Unsanity の Xounds が登場し、以前の機能のうちの多くを復活させてくれた。Xounds は従来のサウンドセットを読み込むことができる。(ただし私の経験では、サードパーティのサウンドセットを読み込んでからそのセットと Mac OS 9 からのサウンドとの間でスイッチすると、Xounds が動作しなくなるばかりでなく Xounds を再インストールしなければ回復しなかった。)各種のコントロールも、Mac OS 9 の時とほぼ同等のことができる。メニュー、ウィンドウ、コントロール、Finder など、各種の動作ごとにプレイすべきサウンドが選べる。ただしサウンドのドラッグはまだサポートされていない。Xounds 1.1.2 は 384K のダウンロードだ。これは $7 のシェアウェアで、未登録の状態では各ログインごとに1時間ずつしか動作しない。

<http://www.unsanity.com/haxies.php>

次回の予告 -- 最初に述べたように、今回挙げたユーティリティはすべて Mac OS 9 に標準で装備されていた機能を Mac OS X に復活させるもの、という基準を満たすものだけを選んだ。次回以降のシリーズ記事では、Mac OS X の新機能を便利に、またはユニークな方向に拡張してくれるもの、あるいは Mac OS 9 時代に独立の開発者が追加してきた機能を Mac OS X に付与してくれるユーティリティ、さらには Mac OS X における Unix の支柱を Aqua の光の下に引き出してくれるもの、などを取り上げてゆきたいと思う。


バイオインフォマティクスと Mac

文: Gideon Greenspan <gdg@sigsoftware.com>
訳: 細川秀治 <hosoka@ca2.so-net.ne.jp>

科学に対してちょっと気になる程度の関心を持つ我々にとって、コンピュータが物理や化学の理解に大きな役割を演じ、天気予報や分子構造の視覚化などの分野で応用されるとりわけ高度なコンピュータ技術のアイデアについては馴染み深いものだ。しかしながら、この近年、その計算のための新しい目標が出現し、メディアから注目を集めるようになった。それはコンピュータバイオロジー(今風にはバイオインフォマティクス)と呼ばれ、生物学データのデジタル保管、分類分け、解析に関与している。

高校を卒業後は生物学というものにとんとご無沙汰というあなたなら、このような生物学と計算機との交錯に驚くことだろう。私はいつも生物が大好きだったが、それでも生物というのが決して教科書に書いてあることと厳密に同じというわけには行かなかったのを覚えている。ある細胞で正しいことが、他の細胞では違っている、そして特に過度に熱狂的な学童によって解剖されると、異なった生体ではあらゆる種類の奇妙なことが起きるが、ニュートンの方程式や元素の周期表のような若干の一般原理があるのだろうと思われた。

デジタル化した生命 -- 分子生物学の驚異のおかげで、多くのこのような原理が今存在を認められるようになった。若干の基本原理の概要は何が関与しているかの予感を与える。全てが複雑系をなす自然界を扱っていることを心に留めてほしい。以下に書くことはすべて大幅に単純化された原理に過ぎない。

よく知られているとおり生命体は DNA と呼ばれる長い分子のセットにエンコードされており、それらの同一コピーは人間のような生体組織の全ての細胞に見出される。生命組織で起きる全てのことは、その DNA に由来している。ちょうどコンピュータのハードディスクと同じように。人間の場合、それぞれの細胞には、染色体と呼ばれる異なった 46種の DNA 分子があり、これはハードディスクのパーティションに例えられるだろう。あなたの染色体には両親から複製された情報の混ざり合ったものが含まれており、これはあなたが両親からより多くの特性を受け継いでいるひとつの理由なのだ。

どの DNA 分子も連続して結合した数百万個の核酸の鎖として構成されている。ただ 4種類のみの核酸が可能で、どんな DNA 分子も4つの文字だけを使った配列で表現できる。このことがデジタル化の端緒だ。ヒト染色体のすべてのセットは数ギガバイトの(圧縮すればもっと少ない)スペースに格納できるだろう、そしてあなたは最近の DNA 配列ドラフトをあなた自身のコンピュータにダウンロードすることさえできる。

<ftp://ncbi.nlm.nih.gov/genomes/H_sapiens/>

今日の理解されていることによれば、あなたの DNA で意味があり目的を持っているのはほんの僅かで、他の98パーセントの DNA は愛情を込めて“ジャンク DNA”と命名される。遺伝子として知られている意味のあるビットは染色体全体の中で不均一に分散された短いストレッチだ(お好みなら、フラグメント化したプログラムファイルと考えてもよいだろう)。それらの遺伝子を見付けるのは大変困難で、現時点でおよそ 15,000 のヒト遺伝子の存在が確認されている。しかし遺伝子の数が合計幾つなのか科学者達の中でまだ論争が続いており、およその推定では 30,000 付近であろう。ここはあなた自身の推測を賭けてこのゲームに参加してもよいだろう。

<http://www.ensembl.org/Genesweep/>

遺伝子とは面白いもので、細胞の中の機関は遺伝子を翻訳し、蛋白質と呼ばれる別の種類の分子を作る。これらの蛋白質は生体中で実際の代謝作業を遂行する。これは現在走っているプログラムと考えてもよいだろう。蛋白質分子は一連のアミノ酸を連結した鎖を形成しており、これは核酸が連結されて DNA を形成しているのに類似している。しかしながら、DNA と違って、蛋白質は 20種の異なったアミノ酸から作られており、それらのアミノ酸鎖長が数千を超えることはまれだ。蛋白質の配列はバイオインフォマティクスが通常扱うもうひとつのタイプのデジタルデータだ。

これらの蛋白質はすべての作業(細胞を作る、物質を移送する、信号を送る、各細胞のエネルギー工場を慎重に管理する)をどのようにして可能にしているのだろうか? 蛋白質が水を含んだ細胞の内部に放出されると、自らを変形して嵩張る様々な形状となり、特異的なやり方で他の蛋白質や分子と結合し、様々な化学反応を触媒する。特定の蛋白質配列がどの形状をとるかについて解明するのは非常に難しい問題だ。CASP(Critical Assessment of Techniques for Protein Structure Prediction:蛋白質の立体構造予測コンテスト)と呼ばれる年2回のコンテストが世界中の様々な研究グループを集めて開催されている。そして IBM はその最も速いスーパーコンピュータを構築してその作業にあたり、ひとつの蛋白質を一年以内で解明することが期待されている。

<http://predictioncenter.llnl.gov/>
<http://www.research.ibm.com/bluegene/>

繰り返すが、これはほんの基礎的な概説だ。あなたが分子遺伝学についてもっと詳しい情報を望んでいるなら、U.S.ヒトゲノム・プロジェクトは、すばらしいオンライン入門書を公開している。

<http://www.ornl.gov/hgmis/publicat/primer/toc.html>

人間のオープンソーシング -- 基礎生物学のレッスンから外れて、バイオインフォマティクスが現実世界でどのように応用されるかを話そう。バイオインフォマティクス応用のひとつは、あなたも聞いたことがあるだろう、ヒトゲノム・プロジェクトだ。その表面上の単純なゴールはヒト染色体のセットを構成するおよそ 30億の核酸を解読することだ。健常人の DNA 配列は個々人によって数百万点の相違があるが、我々一人ひとりは 99.9% 他人と同一であるという事実によって、この解読は可能になっている。もしあなたがそれを恐しいこと(あるいは感激すること)と感じるなら、あなたの DNA はまたご近所の動物園に居るチンパンジーとおよそ 99% 同一であることを思い出してほしい。

ヒトゲノム・プロジェクトについての協議は 1984年に始まった、しかしこの作業が米国、英国、フランス、日本、ドイツ、中国での公的資金による研究所の国際共同研究として正式に活動を開始したのは 1995年になってからだった。この公共プロジェクトは 1999年に私的ベンチャーのセレラ・ジェノミクスが殴り込みをかけるまで、ゆっくりと研究を進めた。より改善された実験手法と膨大な計算機パワーで武装し、セレラは1年以内にゲノムの最初のドラフトを完了することを約束した。たくさんの政治的な泥仕合の後で、取引が行われ、そして2つのグループの結果は 2001年 2月、同時に発表された。

<http://www.ornl.gov/hgmis/>
<http://www.celera.com/>

それとバイオインフォマティクスは、いったいどんな関係があるのだ? まず最初に、研究結果の遺伝子配列を保存してインデックスを付け、それらをインターネットで世界中の研究者が利用できるようにするためのコンピュータが必要だ。けれども真のアルゴリズムの問題は、どの DNA 分子を読むべきかの方法論から生じる。生物学の世界で、あなたに細胞を凍結させ、その内部を詮索し、観察し思うがままに操作させてくれるデバッガのようなものは無い。その代わりに、一連のステップが巧みに組合わされ、科学者は希望する情報の項目にアクセス出来なくてはならない。

どのような DNA 分子でも、現時点の実験技術を使って確認できるのは最初から 1,000 までの核酸までだ。それより長い配列は、その分子の幾つかのコピーを作成し、それらを短い断片にランダムに切断して、個々の断片を別々に読み取ってスキャンする。これらの断片の元の順番は分からなくなってしまう、そのため、それらを読み取った後で、DNA の元の配列を再構築する作業が宿題として残る。これはシュレッダーで細切れにした僅かな複写コピーを使って百科事典を作り上げるのと似ている。試みられる可能性は膨大な数だ。それを手作業で試みようとするのは無しにして、セレラのドラフト構築には 100GB以上のメモリを搭載した 56個のプロセッサアレイでおよそ1週間の実行時間を要した。

ヒトゲノム・プロジェクトはバイオインフォマティクス課題の古典的な例であり、科学者達はその結果が多くの実用的な成果を生み出すであろうことを期待している。当面の応用は、医薬候補化合物が標的とする遺伝子を、科学者が速やかに見極めることを可能にし、新薬の開発をスピードアップすることだ。それはまた、個々人間に存在する遺伝子の違いと、特定の疾患や治療法への感受性の関係を解明することにより、パーソナライズド・ヘルスケアへの道を拓くことも期待されている。

遠い未来に、それは我々の DNA を直接操作したり、そして我々自身を改造することによる疾患治療の可能性を拓くだろう。当然ながら、倫理上の問題が喚起されて我々を怯ませ、人間を人間たらしめている基本的な見解について大論争が引き起きるだろう。しかしながら、これもまたバイオインフォマティクスが光彩を放つ分野だ。データを保存、分類、解析することは、これら倫理上の問題を議論する人々にも役に立つ情報を約束する。

林檎は成長する -- 上記で述べたことは面白かったかもしれないが、あなたはバイオインフォマティクスが Macintosh とどんな関係があるのか、いぶかっているかもしれない。Mac はすでにバイオインフォマティクスの分野で大きは役割を演じており、おそらく今後もそれを続けるだろう。まず、独立して思考する個人がいっぱいの他のいかなる分野とも同様、科学の共同体では Mac ユーザーの比率が高い。これは生物学の場合とりわけそうだ。そこでは最近まで、万能のグラフィックス能力は、計算機の基本能力よりもずっと重要だった。

それにもかかわらず、最近まで Macintosh はこの分野での長期的な適合性に関してひとつの重要な制限を持っていた。バイオインフォマティクスの UNIX プラットホームに対する当然な好みだ。これは、perl や grep のような無料で信頼性の高い UNIX ツールが入手できることの第一の結果だ。これらが、大量のテキスト主体データを処理するのに UNIX をより適したものにしている。さらに、1995年頃から始まったコンピュータ生物学の爆発的な発展、正確にはインターネットが科学共同研究の主流プラットホームとして確立したときだが、巨大な大多数のバイオインフォマティクス・アプリケーションがインターネット上で走るようになった。UNIX の安定して効率的な TCP/IP の実装は、無料の Apache ウェブサーバと相まって、これらのウェブ主体のサービスを供給するのに理想的なものにしている。どんなサービスが利用できるかを理解するため、NCBI(米国バイオ技術情報センター)のサイトをひと目見ておくとよいだろう。

<http://www.bioperl.org/>
<http://www.apache.org/>
<http://www.ncbi.nlm.nih.gov/>

これで我々が何処に行くのか分かっただろう。Mac OS X は、まもなく Macintosh オペレーティングシステムの主流になるだろう。UNIX を基本としているだけでなく、そのすべてのツールで、perl, grep, Apache を含めて、フルサポートが提供される。それ自体は、必ずしも他の UNIX プラットホームよりも進んでいるわけではないが、最新のユーザインタフェースを持っており、Microsoft Office や最新ウェブブラウザなどのデスクトップアプリケーションを走らせることができるという事実を加えれば、Mac OS X が バイオインフォマティクスサーバーとデスクトップに当然の選択である理由を定かにするのは容易なことだ。これは幾つかの記事、O'Reilly Network 記事や Apple viewpoint 記事などで言及されている。これはまた希望的観測以上のものであることが証明されている。Genentech は千台の新しい iMacs を注文したが(そこの会長と CEO は Apple 評議会のメンバーだ)、この会社はバイオテクノロジー産業を創立した会社のひとつとして知られている。

<http://www.oreillynet.com/pub/a/mac/2001/12/14/macbio.html>
<http://www.apple.com/scitech/stories/osxporting/>
<http://www.genentech.com/>

Mac でさらなる特典は PowerPC G4 プロセッサと、その Velocity Engine プロセシングユニットが、多くの種類の生物学計算に理想的であるということだ。BLAST (Basic Local Alignment Search Tool) は現在入手できる、おそらく最もポピュラーなバイオインフォマティクスツールだろう。DNA あるいは蛋白質分子の配列を入力して、進化の起源あるいは生物学的機能で関連付けの可能性が高い他の既知分子を捜す。Apple の先進コンピューテーショングループは、他との共同開発により、高効率バージョンの BLAST を開発した。歌い文句によれば、デュアル 1GHz Power Mac G4 は、2GHz Pentium 4 プロセッサ PC よりも最高で5倍速い。高速の BLAST 検索は今日の生物学者にとって決定的だ。

<http://www.apple.com/pr/library/2002/feb/07blast.html>
日本語<アップル、タンパク質およびDNAの配列検索を大幅に高速化するApple/Genentech BLASTをバイオメディカル業界に向けて発表
<ゲノミクスとプロテオミクス

Homeでこれを試してみよう -- すべての Mac ユーザーがコンピュータ生物学に参加することができる少なくともひとつの方法がある。Folding@Home という名前のプロジェクトが U.C. Berkeley の宇宙人探索 SETI@home(分散処理による地球外生命体探索)と同じスタイルで開発されており、蛋白質配列の物理構造を計算するため、あなたは分散処理で貢献できる。Folding@Home にある Mac OS X クライアント、スクリーンセーバーとアプリケーションは現在入手可能で、試験されている構造をリアルタイムでグラフィカル表示する。

<http://folding.stanford.edu/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05401>

ともあれ、あなたがたまたま学術的あるいは商業的なコンピュータ生物学の世界に関係しているかどうかに拘わらず、 バイオインフォマティクス革命は、しばらくは、あなたの地平のひさかたに映るだろう。しかしいつまでもそこに留まっているわけではない。部分的にであれ機が熟せば、その効果があなたの日々の生活の中に浸透してくるのを見始めるだろう。

<http://www.ornl.gov/hgmis/education/education.html>
<http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Education/>
<http://dmoz.org/Science/Biology/Bioinformatics/Education/>

[ひとつの生命体の中で、Gideon Greenspan は Sig Software(Drop Drawers, Classic Menu, Email Effects, NameCleaner などの製品を開発しているMac シェアウェア会社)という顔を持ち、もうひとつの顔は、Technion 大学(イスラエル)のコンピュータサイエンス学部で バイオインフォマティクス博士課程の学生をしている。やがていつの日かに彼はこの分裂を統合したいと望んでいる!]

<http://www.sigsoftware.com/>


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