TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#638/15-Jul-02

電子メールが派手な色やグラフィックと一緒に届いたらちょっと引いてしまう?正規表現で電子メールを検索したいと思ったことは? William Porter が、Bare Bones Software 社のパワフルな電子メールクライアントである Mailsmithをレビューする。同じく電子メールの最前線から、Adam が先週に引続き、サーバ側で過度に行なわれるコンテンツフィルタリングに焦点を当てる。さらに Mac OS X のセキュリティアップデートと FileMaker Pro 6 についてお伝えし、スパムをどれ位受け取っているかの調査に是非ご協力頂きたい。

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MailBITS/15-Jul-02

Security Update 7-12-02 で Software Update を修正 -- Apple は、最近報告された Mac OS X の Software Update ユーティリティの問題を修正するSecurity Update 7-12-02 をリリースした。Software Update 1.4.6 は、別なマシンを Software Update サーバである swscan.apple.com に見せかけて、悪意あるプログラムをあたかも正当なアップデートとしてインストールしてしまう心配を取り除いている。Software Update 1.4.6 は依然として同じサーバを信頼しているが、Apple は現在全てのダウンロードに暗合化された認証を施しており、Software Update は Apple が署名したもの_だけ_をインストールする。これは、Mac OS 9 バージョンの Software Update から備わっていた機能だ。有効な署名を持っていないダウンロードは破棄される。2.3 MB の Security Update 7-12-02 は、Software Update 自身で入手できるが、別途 844K のダウンロードでも可能だ。[ACE] (佐藤)

<http://docs.info.apple.com/article.html?artnum=75304>
<http://www.cunap.com/%7Ehardingr/projects/osx/exploit.html>
<http://www.apple.com/support/security/security_updates.html>

FileMaker Pro 6 リリースされる -- FileMaker 社は、同社のデータベースソフトウエアの最新版である FileMaker Pro 6 の出荷を始めた。この先進のリリースには、多量のイメージを一括して取り込む機能が、Mac OS X ならデジカメから直接イメージを取り込む機能が新しく加わった。さらに XML(eXtensible Markup Language) のサポートも追加され、他のアプリケーションとデータのやりとりを行なう機能が提供される。最初にリリースされた後、すぐに 6.0v2 アップデートがダウンロードできるようになっているが、これは、XML の取り込みや書き出しに関するバグを修正するものだ。FileMaker 6 は 300 ドルで、アップグレード価格は 150 ドル。ウェブ上でユーザ数の制限無しにデータベースを公開できる FileMaker Pro Unlimited は 1,000 ドルで、FileMaker Pro 5 あるいは 5.5 からのアップグレードなら 500 ドルだ。[JLC] (佐藤)

<http://www.filemaker.com/products/fm_home.html>
<http://www.filemaker.com/support/updaters.html#fm60v2>


メールフィルターの実状を暴く

文:Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
訳:倉石毅雄 <takeo.kuraishi@attglobal.net>

TidBITS-637 の Geoff の記事“メールのフィルタリング: 皆のアプリがダメになる”への反応は大きかった。予想通り、TidBITS Talk へのメッセージの数が跳ね上がり、適切な話題へメッセージを分類するのに一苦労した。(Investigative Journalists and Editors メールリストへの投稿も含めて)数多くの再版リクエストが舞い込み、この件に関して(New York Times を含め、)多くの出版者から問い合わせが来た。David Strom は彼の Web Informant でこれを取り上げ、私自身、David Lawrence の Online Tonight ラジオショーのゲストに招かれてこれについて話した(会話の録音を聞きたければストリーム版がある)。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06866>(日本語)メールのフィルタリング: 皆のアプリがダメになる
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=1679+1680+1681+1682+1683>
<http://www.nytimes.com/2002/07/15/technology/15SPAM.html>
<http://strom.com/awards/293.html>
<http://www.online-tonight.com/archives/000655.html>

ここまで皆の認識を高めることが出来たことに満足しているのは事実だが、肝心な点は電子メールの重大な転換の時に近づきつつあるということだ。爆発的に増大する迷惑メールの量のために、多くの人々にとって電子メールの価値と便利さはかなり下がっている。サーバ側での内容のフィルタの行き過ぎによるメールの信頼性の低減は、解決しようとしている問題を逆に悪化させるだけに過ぎない。迷惑メールは受信箱を一杯にすることを目的としている。だが、迷惑メールがメールサーバを通過出来なくすることを目的とした内容フィルタが精度に欠ける場合、受信したいメッセージの多くをブロックすることにもなる。どちらもメールの便利さを減らす。さらに多くの人達がこのような内容フィルタが実行されていることに気がついておらず、正規のメールが紛失したことに気がつかないことが問題を悪化させている(例えば Mac.com のユーザらだ。MacInTouch で Dan Frakes が発起となったトピックを参照して欲しい)。

<http://www.macintouch.com/applemailfiltering.html>

迷惑メールの二次災害 2002 -- どれくらいのメールサーバが内容フィルタを活用しているのか知りうる方法はない。二年前に行った、週あたりに受け取る迷惑メールの量についてのアンケートを、この機会に振り返ってみたい。アンケートの結果では、なんと最高は“一週間に 71 通以上”だった。今では一日にそれだけ入ってくるというのに!私のメールの 25 パーセントだ。そこでお願いがある。ホームページを訪ねて、最近は毎週どれくらい迷惑メールを受信しているか教えて欲しい。過去二年間でどれだけ問題が悪化したか、皆がわかるだろう。

<http://www.tidbits.com/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05929>(日本語)アンケート結果: 付随的なスパム
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbpoll=39>

説明と影響 -- サーバ側の内容フィルタのやり過ぎがどのような影響があるか、多くの人は瞬間的に理解するだろうが、全員に明らかと言う訳ではない。まず、私達が内容フィルタを心配しているからといって、私達が迷惑メールの味方ではないことをはっきりさせておきたい。私達からすれば、迷惑メールはインターネットの害虫であり、その駆除に他の小企業に較べて遥かに多くの時間、労力、そして金をかけてきた。また同時に、誤った内容フィルタに反対だからと言って、サーバかユーザの電子メールプログラム中での一般的な迷惑メールのフィルタに反対という訳ではない。いい加減な内容フィルタに頼らないでも迷惑メールや氾濫しているワームなどを防ぐ方法は多くある。私達もサーバ側のフィルタを使用しているが、正規の送信者に問題が起きる可能性を最小限に抑えるよう、細心の注意を払っている。もし問題が起きた場合には、その解決に努めている。

第二に、Geoff が TidBITS 号の配布に対するサーバ側の内容フィルタの影響を取り上げていたので、多くの読者はこのような内容フィルタが TidBITS のようなメールリストや電子メール出版からのメールだけでなく、 全ての メールに対して適用されている事に気がついていないかもしれない。私達のメールリストの大きさのおかげで、そのような問題に気がつくのは早いし、同時に個人に較べて被害が大きい。だが、個人から個人へと送られたメールも下手に書かれたサーバ側の内容フィルタの影響を免れることは出来ない。紛失したメールは大きな問題ではないかもしれないが、逆に非常に重要な個人的なニュースや仕事の連絡であるかもしれない。送信者も受信者もそれに気がつきようがない。John Donne の言葉を言い換えさせてさせてもらおう。誰のために内容フィルタの鐘が鳴っているか知るために送信してはならない。あなたの為に鳴っているのだから。

最後に、この件について受け取ったメッセージでは、内容フィルタで迷惑メールが減るのであれば正規のメッセージを少し紛失しても我慢できるという趣旨の内容で共通していた。もちろん、個々の状況に対して反論するつもりはない。それほど重要なメールはないからどれかが全く届かなくても気にならないのかもしれない。しかし一般的には、このような対応には危険がある。迷惑メール送信者は宿主を殺してしまう寄生虫だ。しかしこのような害虫を内容フィルタで処理しようとするのは同じ効果がある。ばい菌に感染したからといって即座に手足の切断などしないのと同様、迷惑メールを即座にサーバ側内容フィルタで対処するべきではない。

全体的な現実性 -- 先週、私達はメールサーバが TidBITS の号を拒否した場合でもそれを手にいれる方法をいくつか挙げた。今週は悪質な内容フィルタの問題に対処するために協力する方法をいくつか提案したい。

プロバイダやネットワーク管理者に連絡を取って、まず一般的な迷惑メールのフィルタとは違うことをはっきりさせた上で、メールに内容フィルタをかけているのか尋ねよう。そうであれば、そのような行動の影響がどれだけあるのか理解しているかどうか確認してみよう。多くの場合、理解はしているだろうが、正規のメールの紛失は許容範囲内だと思っているかもしれない。もし頑なにそう信じているのであれば、全てではなくても、少なくとも自分のアカウントではやめるよう、頼んでみる。一人が文句を言っただけでは受け入れないかもしれない。だが、同じように内容フィルタの影響を受けている他のユーザに(多くの場合、ビジネス上の)問題をはっきりさせて呼びかけられれば、内容フィルタをやめさせるだけの勢いが出るかもしれない。別の方法としては、内容フィルタで引っかかったメールは削除されるのでなく隔離されるように提案してみても良いかもしれない。そうすれば、少なくともユーザに内容フィルタに引っかかった重要なメールを回収する機会が与えられる。(この隔離方法の問題点は、ユーザのメールチェックがややこしくなるため逆に迷惑メールの コストが _上がって_ しまう可能性がある点だ。)

どの手も効かなければ、内容フィルタを行わない(もしくは引っかかったメッセージの処理を任せてくれる)別のプロバイダやメールホストを見つけることを勧める。プロバイダを替える理由を前のプロバイダのカスタマサポートに伝えることを忘れないように。そうすれば妥当なフィルタ方針がないことが彼らの商売の損失につながったことを理解するだろう。当たり前だが、自分の会社の管理者を相手にしている場合は切り替えようがないが、管理職に対して正規のメールが削除されることの商売上の影響をはっきりさせるのは難しくはないだろう。

自分の手許に届くべきメッセージが全て届いていることを確認したら、次の手順は自分のマシン上でそれをうまく管理することだ。TidBITS Talk 参加者らがどのように迷惑メールに対応しているか、いくつもの提案を寄せてくれた。また、Macworld の購読者なら、八月号の迷惑メールを防ぐための私の記事を参照して欲しい(Web にはまだ出ていない)。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=1684>

根幹の問題は、もちろん、迷惑メールそのものだ。根本的なレベルで迷惑メールに対処するためには Internet 使用者全体が一致団結しなくてはいけない。法律制定からメールを配達する Simple Mail Transfer Protocol (SMTP) の変更まで、数多くの提案が出されている。前者はある程度は必要だろうが、地理的な制約や実効性の問題を抱えている。他には迷惑メール送信者が悪用する抜け道を塞ぐ努力もある。迷惑メールで利益が得られなくなれば、当然迷惑メールの量は減るだろう。おそらくは、いくつかのアプローチの組み合わせになるだろう。そしてそれを早急に見つける必要性は日々増している。


Mailsmith 1.5: すごい、鋭い、電子メールマシン

文: William Porter <wporter@polytrope.com>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>
訳: 細川秀治 <hosoka@ca2.so-net.ne.jp>

インターネットに接続できる人々のほとんどが電子メールを使っている、というのは当然予想されることと言ってもよいだろうが、電子メールクライアントのソフトウェアに人々が期待する機能というのは、誰でも同じと言うわけにはいかない。Bare Bones Software の製品である Mailsmith は、他のプログラムにありがちなメッセージを美しく見せようという傾向をあえて振り捨てて(実際、HTML メールはサポートされていない)その代わりにあなたが自分のメッセージを書いて、保存して、見つけ出す、その作業をパワフルに、かつ易しいものにしようということに焦点を絞ったものになっている。

最初のバージョン、Mailsmith 1.0 は 1998 年にリリースされたが、この時には既存の大物ライバルたち、つまり Microsoft の Outlook Express やQualcomm の Eudora などに太刀打ちできるようにと、たくさんの機能を盛り込んでいた。Mailsmith 独自の機能でライバルたちには見られないようなものも、特に検索・フィルターなどの関係で盛り込まれた。とてもバージョン 1.0 とは思えないような仕上がりぶりだった。けれども残念なことに、幾人かのせっかちなユーザーたち(かく言う私もその中に含まれるのだが)にとっては、耐えられないほどその動作が遅い、というのが欠点だった。

新バージョンである Mailsmith 1.5 においては、私のこの不満、すなわちMailsmith のパフォーマンスの問題、が完全に解決されている。バージョン1.5をもって、 Mailsmith は今や一人前の Mac OS X アプリケーションとなった。(Mac OS 9 でも動作する。)けれども、Mailsmith 1.5 はただ Mailsmith 1.0に最適化を加えてカーボン化したというだけのものではないのだ。

<http://www.barebones.com/products/mailsmith.html>

Mailsmith とテキスト -- Mailsmith の兄貴分であり、Bare Bones 社の看板製品でもある BBEdit は、私に言わせれば世界最高のプレーンテキスト・エディタだ。BBEdit は、プログラマー、ウェブ開発者、神秘なる grep 技術の熟達者から、とにかく本気でテキスト処理を行なう必要のある人々に、永年支持されてきた。この血統を受け継いで、Mailsmith も、電子メールクライアントでありながら、深い深いところであらゆる意味でのテキスト処理のサポートをしようという、いわばそういう心意気のソフトウェアだ。

Mailsmith に装備されているライターのためのツールを挙げてみれば、(それも私自身が毎日のように使っているツールだけに話を絞ってみても)ユーザーコントロール可能な行整形と再整形、行引用と引用解除、改行の挿入と削除、複数クリップボード、回数無制限の取り消し、メッセージ下書きのサポート、ソート機能、正規表現(上記の grep)をフルにサポートした検索・置換ツールなどがある。今挙げたようなコマンドすべて、私の手を全くキーボードから離さずに実行できる、ということも重要な利点だ。

Mailsmith 1.5 で新装備されたものとしては、グロッサリ機能がある。これはBBEdit のグロッサリ機能とよく似ている。Mailsmith のグロッサリはどんな大量のテキストでも(どんな少量でも)好きなように登録でき、フローティングパレットまたはユーザー定義のキー組み合わせによって文中にそのテキストを挿入することができる。ただ単によく使う語句をタイプするショートカットとして使うだけなら、この機能は宝の持ち腐れというものだろう。その機能だけならば例えば TypeIt4Me の方が強力なツールで Mac OS X の下でもMailsmith の中でうまく動作する。この Mailsmith のグロッサリ機能がその真価を発揮するのは、ただのカスタマイズされたテキストだけでなく、現在の日付や時刻を挿入するプレースホルダーを使ったり、グロッサリ項目を挿入した後でどこに挿入ポイントを移動するか、またはどれだけのテキストを選択するかをコントロールしたり、ということにも使える点だ。

<http://www.typeit4me.com/>

メールが到着しました - それも沢山 -- Mailsmith の最大の長所は、提供されている数々のツールを使ってあなたが自分でメールの管理が理性的にできることで、これは今日のようにスパムが増大し続ける状況の下においては恵みと言わざるを得ない。

まず第一に、あなたはメッセージを論理的に仕分けされた場所にファイルしておきたいだろう。Mailsmith ではメッセージを一つのメールボックスから別のメールボックスへ手動でドラッグできたり、コンテクストメニューの“Move to Mailbox”コマンドが使えるのはもちろんだが、それよりもずっと良い方法が提供されている。それが、フィルターだ。適切にフィルターを設定することによって、手でメッセージを移動するために気を使ったりする必要がほとんどなくなる。お母さんからのメールは自動的に“家族”メールボックスに送られるし、一番の顧客からのメッセージはその人の名前の付いたメールボックスに自動的に現われて“重要”のマークが付けられる。こうした従来型のフィルターの一例(テキストの形に書き出したもの)は、例えば次のようなものになる:

IF "From" CONTAINS "editors@tidbits.com" THEN TRANSFER TO MAILBOX "TidBITS"

電子メールでのフィルターというものは、ワードプロセッサーでのテキストスタイルのようなものだ。つまり、そのプログラムがあなたのために追加してくれる機能のうちで最も便利なもの、と言えるだろう。そして、電子メールのフィルター機能について、多種類のより良い方法でフィルターを作って使いこなすことのできる点にかけては、Mailsmith に優るプログラムは無いと言ってよいだろう。 Mailsmith は実際3種類の異なった方法でフィルターの問題に取り組んでくれる。すなわち、“basic”フィルター、“traditional”フィルター、“distributed”フィルターの3種類だ。

Mailsmith の“basic”フィルターはごく標準的な働きをする。つまり、受信したメッセージをそれぞれふさわしいメールボックスに振り分けるのだ。これまでずっと「コーディングは自分で」というタイプのユーザーを念頭に置いた開発をしてきた Bare Bones 社の伝統と照らし合わせれば驚きの気持ちを隠し切れないのだが、今回の Mailsmith 1.5 では、テクノロジー恐怖症の人々も、あるいは手軽さの実現のためには何を犠牲にしてもいいというタイプの人々も、ともに等しく考慮された斬新な方策がとられている。Mailsmith 1.5 では、新規のメールボックスを作る度に、即座にメッセージをそのメールボックスに差し向けるための basic フィルターを作るかどうか、そしてその場合にはどんな基準でそのようなメッセージを判定するのか、を尋ねるダイアログが現われる。例えばあなたの大事な顧客のメールボックスを今作ったとすると、メールヘッダの From 行に“myclient@example.com”というメールアドレスが含まれているメールはすべてこのメールボックスに入れる、と Mailsmith に指示すればよいわけだ。(新着メールがあったことはすぐにわかる。未読のメッセージのあるメールボックスはハイライト表示され、未読メッセージ数もあわせて表示される。)また、新着メッセージがあった場合にダイアログ(「あなたの大事な顧客からのメールが届きました!」)で表示したり、サウンドを鳴らしたり、その他のシンプルなアクションを自動的に動作させるように設定することもできる。このような形でのフィルターの設定は、すぐにできてとても簡単だ。その簡単さの理由は、1つにはメールを対象メールボックスに転送するアクションそのものをユーザーが明示的に指定する必要がない、ということもあるが、もう1つにはこの種のフィルターで使用できるアクションの種類が意図的に抑えられて、ごくありふれたフィルターアクションだけしかできないように機能限定されているからだ。

その一方、複雑なことでも何でもござれ、というあなたのためには、Mailsmith は“traditional”フィルターのオプションも用意している。このフィルターを使えばライバルのソフトウェアの機能など遥かに見劣りしてしまう。Mailsmithでは、Eudora とは違って、1つのフィルターに無制限の個数のテスト基準とアクションとが組み込める。フィルターにカスタマイズされた名前を付けて、理性的にそれらを管理することもできる。Entourage とは違い、Mailsmith のフィルターではテストにシンプルな論理的分岐が使える。“if (a or b) and (x or y)”という感じの構成が可能だ、ということだ。例えば「どれかのアドレス」が特定の文字列にマッチするかどうかをテストすることで、1つのフィルターで送信メール・受信メールの双方で特定の顧客の名前を判別することができる。最後に、文字列の判別に正規表現 (grep) が使えることも忘れてはならない。ヘッダ、サブジェクト、メッセージ本文、その他どこの内容であっても正規表現による検索ができる。いわば、空のかなたまで限界なし、というわけだ。

これだけでも十分ライバルたちを圧倒できるだろうが、Bare Bones 社はそこで満足するような人たちではなかった。さらに第3のアプローチ法もある。それが“distributed”フィルターだ。これはフィルターを作るためのより良い方法というよりも、むしろ根本的に発想を転換してフィルターというものを新たなレベルにまで持ち上げたもの、と言えるだろう。“distributed”フィルターは各メールボックスに設定されて、メッセージがそのメールボックス階層を通り抜けて行くにつれて自動的に動作が行なわれる。1つの distributed フィルターをいくつものメールボックスに付帯させることもでき、それぞれのメールボックスの場所に応じて微妙に異なった動作をさせることもできる。私は現在distributed フィルターをフルに使ってメール処理の全過程をコントロールさせている。メールが到着した時からそれが削除される時まで、distributed フィルターにできないことといえばメールの文章を声を出して読むことくらいしかないだろう。

この distributed フィルターは traditional フィルターよりもずっとパワフルかつフレキシブルで、同時にまた設定も簡単、問題が起こればその判定・解決も簡単だ。たった1つの問題といえば、distributed フィルターの概念があまりにも斬新なので初めて使うユーザーにとっては最初は何のことかわかりづらい、ということかも知れない。詳しい説明は、今後の連続記事で紹介してみたいと思っている。

私にとって Mailsmith のフィルターに対する唯一の不満は、フィルターのテストがアドレス帳と関連付けできない点だ。他のプログラムでは、受信したメールがアドレス帳に名前の載っている人からのメールかどうか、あるいは特定のメールグループに属する人かどうか、自動的に判定できるようなものもある。Mailsmith のフィルターではこのようなテストの方法が提供されていない。

メッセージをきちんとメールボックスに仕分けすることがメール管理の仕事の大きな柱の1つなら、もう1つの大きな柱は後日そのメッセージをメールボックスの中から見つけ出すことだろう。他のライバルのプログラムたちと同様、Mailsmith も“simple”“advanced”双方の検索オプションを提供している。Advanced Query の定義ダイアログは、フィルターを定義するダイアログと全く同じもので、同じく素晴しい広範囲のオプションへのアクセスが可能となっている。ほんの1・2秒のうちに、特定の人から、またはその人あての、特定の日付の範囲内に交されたメッセージのすべてを検索することができる。そして先程と同様、これらの“advanced”検索にはいつも正規表現が使えるのだ。

私は Mailsmith の“advanced”検索を始終使っており、もはやこれ無しの生活は考えられない、と言ってもよいほどだ。ただし2つほど不満がある。1つはMailsmith では同じ階層にあるいくつかのメールボックスで同時に検索を走らせることができないことだ。Eudora ではこれができる。(1つのメールボックスとそのすべての階層下、という範囲では検索できるのだが、1つのメールボックスとその同階層の兄弟たちいくつか、という指定ができない。)もう1つの不満は検索基準を保存しておけない点で、やはり Eudora ではこれができる。

けれども検索機能の素晴しさはそれだけではない。新バージョンの Mailsmith 1.5.3 では、Sherlock タイプのランク付け検索が装備されており、検索用語にどれだけ関連度が高いかによってランク付けされて検索結果がリストされる。また、特定の人から特定の日付範囲に届いたメッセージを、という時にはMailsmith の標準検索ツールを使うのが良いが、もっとぼんやりした検索の場合には、“Find Messages About”ダイアログが威力を発揮してくれる。あなたのすべてのメールボックスを検索して、あなたの指定した言葉に関連する用語を探してくれるので、見つけたいメッセージに含まれている正確なキーワードが思い出せないような場合には、これほどありがたいものはない。

チラノザウルス・レジェックス -- 何年もの間、綴りのパターンに基づいてテキストを検索するアイデアを、私は “Tyrannosaurus Regex”と呼んでからかってきた。この手法は一般に正規表現と呼ばれ、regex あるいは grep としても知られている。BBEdit と Nisus Writer のユーザーが私に、正規表現が如何に役立つか、を説得しようとしたが、私は笑っていた(それはむなしい苦笑いだったが)。実のところ、私はすでに grep を覗き見して、とても怖い物だと思っていた。ところが今や私は今や私は正規表現にどっぷりと漬かっていて、多くのことをし、Mailsmithの強さを最大限に引き出そうとしている。

たとえば、あなたは所定のメールボックスにあるメッセージの本文から私の会社名を検索しようとしていて、しかしその名前が Polytrope 、Pollytrope 、Polutrope 、あるいは Poletrope なのか綴りをはっきり思い出せないとしよう。あなたは検索文字列を少しずつ変えながら4回検索することもできるが、こんなとき regex についてほんの少しだけを知っていれば、次のregex 文字列を使って1回で検索することもできるのだ:

pol+.trope

この正規表現文字列は私の挙げた4つの可能な綴りの何れにも一致する。注目すべきことは、この検索パターンを思い付くのにコンピュータサイエンスの学位を必要としないことだ。プラス符号(+)とピリオド(.)は、regex でとりわけ最も一般的に使われる交換記号だ。プラス符号は「先行する文字の1回以上の繰り返し」を、ピリオドは「任意の1文字」を意味する。

正規表現(regex)はまたフィルター構築にも役立つ。スパムの判定で最もシンプルで最も効果的なテストのひとつは次の regex だ:

IF "Subject" MATCHES REGEX PATTERN "  +"

この正規表現は、2つのスペースとプラス符号だ。これは単に、着信メッセージのタイトルから2つまたはそれ以上のスペースが含まれている文字列を捜しているだけだ。私はこの特別なテストを私のメインのメールボックスでちょっと走らせてみたが、90通のメッセージを検出した。宣伝メールや明らかなスパムでないのはその内4通だけだった。[もっと多くのスペースで検索すると、まともなメッセージを誤ってスパムとして検出する確率はもっと低くなるだろう - Adam]

ほんの少しだけでも正規表現について知っていればすぐに役立つことがある。それより多くを知れば、あなたは正規表現をどんなところでも使うようになるだろう。どうやって学ぶのかって? Mailsmith マニュアルを読むと、正規表現の基礎と若干の応用(電子メールプログラムに応用できる事例が不足しているのは残念だが)をおさらいできる。また Mailsmith Talk メーリングリストと BBEdit Talk メーリングリストはどちらも週末の買い物リストを regex を使って編集するような人々で賑わっており、初心者ユーザーにも役立つだろう。ウェブサイトの“Steve Ramsay's Guide to Regular Expressions”も良いだろう。本格的に取り組むなら、O'Reilly and Associates から出ているJeffrey Friedl の書籍 “Mastering Regular Expressions, Second Edition”を入手するとよい。

<http://etext.lib.virginia.edu/helpsheets/regex.html>
<http://www.amazon.com/exec/obidos/ASIN/0596002890/tidbitselectro00/>

あなたの流儀を身に付けよう -- Macintosh の最高に優れた伝統として(そして Apple の Mac OS X Mailと顕著に対比されるものとして)、Mailsmith は並外れてどのようにでもカスタマイズ可能だ。あなたはMailsmith メニューのほとんどすべてのコマンドにキーストロークを割り当てることができる(これはパワーユーザーの好む流儀だ)。

それから AppleScript がある。AppleScript は Mailsmith のほとんどすべての動きをコントロールし、そしてまた他のアプリケーションと連携できる。そして Mailsmith はスクリプトによる実行が可能なだけでなく、スクリプトの記録が可能だ。つまりこれは、Mailsmith でレコーディングをオンにしておくと、それから実行する一連のアクションが記録され、あなたは自動的にスクリプトを(あるいは少なくともスクリプトのドラフトバージョンを)書くことができることだ。その後で若干の編集が必要になるかもしれないが、レコーディングはしばしば単純なスクリプトを書き始める偉大な道だ、そして私自身のような AppleScript の素人への賜物だ。また Mailsmith は、Mac OS X で数少ない AppleScript アタッチャブルのアプリケーションだ。AppleScript アタッチャブルとは、あなたがスクリプトを Mailsmith メニュー項目にリンクすることができ、そこであなたはそのコマンドを選ぶだけで、リンクしたスクリプトが実行されるようになることだ。

その他のトピックス -- 説明しておく価値はあるが、これまでのような見出しを付けるほどではない若干のトピックス。

Mailsmith でアドレス帳ほど社名の“bare bones”(そっけない)にふさわしいものはない。Mailsmith の熟練ユーザーでさえ、名字でソート出来たらいいのに、あるいはアドレス帳のエントリを整理するカテゴリーフィールドがあったらいいのに、と希望する声が多いようだ。私は Bare Bones 社が将来のリリースでアドレス帳をいじくることはあまり気にしないが、しかし彼等がアドレス帳をあまりに多く“改善”するのには反対だ。私はもっと多くのアドレス情報を別のアプリケーション中に保管しており、そのアプリケーションは Mac OS X 下で Mailsmithや OmniWeb とうまく連携して動く。

Mailsmith はメッセージを、個々のメールボックス毎に保存する(Microsoft 電子メールクライアントや PowerMail のように、ひとつの巨大なデータベースファイルにメッセージを保管するやり方と異なる)。Mailsmith は起動したときすべてのメールボックスをスキャンして調べており、そしてこのスキャンにより各メールボックスファイルの更新日付が変更されるようだ。そこで残念ながら、Retrospect のような更新日付を調べるバックアッププログラムは、それらのメールボックスが実際に新しいメッセージを受け取ったかどうかにかかわらず、毎回全てのメールボックスを無駄にバックアップを取ることになるだろう。仮にそうであっても、あなたのメッセージを複数のデータベースファイルに保存することは、あなたの全ての卵をひとつのバスケットに入れる愚を避けることになるだろう。

Mailsmith 1.5 にはスパム報告サービス SpamCop のサポートが組み込まれている。この機能は、あなたが受け取ったか受け取ることになっているスパムを何とかする、のには役立たないが(そのためにはフィルターを使う)、しかしスパマー達の暮らしをより困難にすることで、ネットの生態系を浄化する。SpamCop 報告アカウントは無料だ、Mailsmith のマニュアルには MailsmithでSpamCop を利用する場合の設定方法が説明されている。

<http://www.spamcop.net/>

さてお気に召さぬものは? Mailsmith は、普通のユーザーにとってもパワーユーザーにとってもこれまで述べてきたとおり良いものだ。しかしそれはどんな人にとっても良いと言っているわけではない。Mailsmith は IMAP をサポートしていない。IMAP は電子メールアカウントの一種で、それでしか電子メールを受信できない人々もいるし、標準 POP の代わりに使用するのを好む人々もいる。

それから Mailsmith では HTML を扱うことができないというショッキングな事実がある。Mailsmith は、電子メールはプレーンテキストであるべきだという信念を持つ人々によって開発され、その信念を信じるユーザーのために作られたものだ。Mailsmith が好きになりそうな人は彼の電子メールがプレーンであるのが好きだろう。氷やソーダで割っていない可愛い洋傘のグラスマーカーも付いていない生のやつだ。そして後生だから、HTML だけはやめて!

Mailsmith 1.5 は、私が(個人的に好き)なように HTML を処理してくれる。着信した HTML メッセージが適切にフォーマットされているなら、 Mailsmith は生の本文を抽出して、それなりにうまく表示してくれる。もし、メッセージはテーブルの上で HTML の全ての装飾と入れ墨できらびやかに輝いて踊っているべきだ、とあなたが強く主張するなら、HTML エンクロージャをダブルクリックしてあなたのブラウザでそれを眺めるとよいだろう。

Mailsmith 1.5 は、QuickTime トランスレーションを利用できることも、ここで言及しておくべきだろう。別のアプリケーションを開かないでも、画像やムービーを(それらを含んだ着信メッセージとは別のウィンドウ内で)再生できる。これはオペレーティングシステム自体によって供給されるサービスなので、それを利用するのはもっともなことだ。

また、Mailsmith のサーバーマネジメントオプションはユーザーの利便よりも安全を優先して設計されたようだ。Mailsmith では、サーバー上で、あるアカウントのメッセージをサーバーに残し、別のアカウントのメッセージはダウンロードした時点でサーバーから削除する、よう設定できる。しかし、Mailsmith ではサーバー上から経過日数を指定してメールを削除するよう設定できない。しかしながら、使いやすい POP Monitor があるので、サーバー上にあるメッセージを一覧表示して、それらを個別に削除したりダウンロードできる。

まとめ -- あなたの新しい電子メールクライアントとして Mailsmith を採用すべきか?

以下の人々には、答えは単純に「いいえ」だろう。Mac OS 9 や Mac OS X 10.1 以降をまだ使用していない人、IMAP を使用しなければならない人、中国語、日本語、アラブ語などの2バイト言語( Mailsmith はサポートしていない)で電子メール書こうとする人だ。人によっては Mailsmith のユーザーインタフェースがあまりにも素気ないのが気に入らないかもしれない。

そうでなかったら、あなたは Mailsmith を自分自身で試して、より詳しく調べてみるとよいだろう。強力な編集機能、革新的なフィルタリングツール、AppleScript の全面的なサポート、直観的なインタフェース、カスタマイズの並外れた自由度、これらの組合せの魅力に抵抗することは困難だ。全ての人に当てはまるわけではないが、私の判断では、たいていのユーザーにとって、Mailsmith は最も優れた Mac 用の電子メールクライアントだろう。

Mailsmith 1.5 の通常価格は 100ドル、アカデミックユーザーや他の電子メールプログラムからの乗り換えは 80ドルだ。前バージョンからのアップグレードは 40ドルだ。2002年 7月15日〜7月19日の5日間、Bare Bones Software の“Macworld Not-at-the-Show”特典があり、特別価格の 80ドルに BBEdit Tシャツのおまけが付く。購入の前に試してみたい方は、24 回まで起動できる全機能のデモ版(8.4 MB)をダウンロードして試用できる。

<https://store.barebones.com/MWNY2002.html>
<http://www.barebones.com/products/mailsmith/mailsmith-demo.html>


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