TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#669/03-Mar-03

プロジェクタが使えないことがわかり、最近 Adam はもう少しで Keynote プレゼンテーション無しのユーザーグループ講演をする羽目に陥るところだった。でも心配ご無用! 年期の入ったオタク度満点の彼は一筋縄ではいかない。カメラに霊感を受けた見事な Adam の解決策をご一読あれ。今週のもう一つの記事では、Kirk McElhearn が Inspiration 7 を駆使して整理と創造のための筋肉力を発揮する。ニュースの部では、Bare Bones Software の TextWrangler 1.0 のリリースと、REALbasic 5.0 のリリース、それに AirPort (AirMac)Extreme 5.0.3 という重要なファームウェアアップデートについてお知らせする。

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MailBITS/03-Mar-03

Bare Bones が TextWrangler 1.0 を出馬 -- Bare Bones Software が TextWrangler 1.0 をリリースした。これは $50 の汎用テキストエディタで、定評ある兄貴分の BBEdit に含まれているような広範な機能の多様さ(特に HTML 関係の機能)を省くとともにその $180 という価格も下げた廉価版となる。 TextWrangler はほとんどすべての種類のテキストファイルを開いて編集することができ、特にユニコード (UTF-8 および UTF-16) の文字セットをサポート、また高速の検索・置換 (PCRE - つまり Perl-Compatible Regular Expression(Perl-互換正則表現)による検索を含む) やシンタックス・カラー付け、FTP によるファイルアクセス、その他の機能を装備している。今回の TextWrangler のリリースをもって、Bare Bones 社はフリーウェアであった BBEdit Lite のサポートを終了した。BBEdit Lite のオーナーは 2003 年 3 月 31 日までならば BBEdit のフルバージョンに $120 でアップグレードできる。エディタとしての機能の違いをユーザーが見分ける助けとなるようにと、Bare Bones 社は TextWrangler 対 BBEdit 7.0 の機能比較対照表と、TextWrangler 対 BBEdit Lite 6.1 の機能比較対照表とを公開している。 TextWrangler 1.0 は 30 日間完全機能のデモ版として入手でき、ダウンロードサイズは 9.8 MB だ。[JLC] (永田)

<http://www.barebones.com/products/textwrangler/>
<http://www.barebones.com/products/bbedit/>
<http://www.barebones.com/products/bblite/>
<http://www.barebones.com/products/textwrangler/versus.shtml>
<http://www.barebones.com/products/textwrangler/vs_Lite.shtml>

AirPort Extreme 5.0.3 ファームウェアアップデート -- Apple は新しい AirPort Extreme Base Station のための 1 MB のファームウェアのアップデートをリリースし、多くの問題を直した。アップデートされた AirPort Extreme Base Stations では、突然の再起動がなくなり、ベースステーションを通して起動する FTP コネクションの数の制限もなくなり、そして最も大事なのは、2.4 GHz 周波数の (2.4 GHz のコードレス電話、電子レンジ、Bluethooth 機器などから発信される) 過剰な電波にさらされた後の AirPort Extreme Base Station の回復がスムーズになった点だ。以前は、過剰な妨害にさらされた後は AirPort Extreme ネットワークは使用不可能になり、回復しないことがあった。The Wireless Networking Starter Kit の共著者 Glenn Fleishman はこのファームウェアのアップデートで Apple からの評価用機器をテスト中に発見した問題が軽減されることも発見している。

<http://docs.info.apple.com/article.html?artnum=120191>

このアップデートは Apple のワイアレスのチップのパートナーである Broadcom からのファームウェアのアップデートと同時に出ている。Linksys などの製造者も Broadcom のチップを使用しているので、他の 802.11g 機器でもファームウェアのアップデートが出ることは間違い無いだろう。Broadcom のアップデートの重要な点は 802.11b Wi-Fi の認証があることだ。つまり、Broadcom を基にしている全ての機器は他の Wi-Fi 認証済み機器と正しく作動するはずということだ。AirPort と AirPort Extreme の問題についての詳しい情報が欲しければ、私達の本と平行して Glenn が管理しているウェブログを見て欲しい。また、私達が TidBITS-663の “AirPort Extreme: G の基調”を発行して以来の他の変更点をも含んでいる PDF 形式の AirPort Extreme と 802.11g についてのアップデートをダウンロードすることも出来る。[ACE] (倉石)

<http://wireless-starter-kit.com/airportblog/>
<http://wireless-starter-kit.com/pdfs/80211g_emergence.pdf>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=07047>(日本語)AirPort (AirMac) Extreme: “G”の基調

REALbasic が 5.0 になる -- REAL Software は会社の旗艦ソフトである REALbasic のバージョン 5.0 をリリースした。これは Classic、Mac OS X、そして Windows アプリケーションを作る為のプログラミング環境だ。これはバージョン 2 以来の一番大事と言っても良い更新だ (TidBITS-493の "REALbasic 2.0 が本物に" を参照)。コンパイラは一から書き直され、必要性が高かった言語自体の合理化を可能とし、同時にもっと便利で自然なシンタックスへの改善や優雅な新しいオブジェクト指向構文 (例えばオペレータのオーバーロードやカスタムな coercion 関数) などを含んでいる。Sockets も完全に書き直され、要望の高かった ServerSocket クラスも含まれ、プール &ディスパッチ環境を通してリスナーを実現している。他の改善点としてはツヤ消しメタルのウィンドウや引き出し、ツールバー、そしてダイナミックなメニューなどがある。REALbasic は Mac OS 8.1 以降か Mac OS X でネイティブに作動する。Windows でネイティブに作動するバージョンは現在開発中だ。REALbasic は $100 する。ServerSockets、データベースへのアクセス、そして Windows でのコンパイルを含む Pro 版は $300 だ。4.5 以前からのアップグレードは半額になる。[MAN] (倉石)

<http://www.realsoftware.com/realbasic/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05508>(日本語)REALbasic 2.0 が本物に


PowerShot でプレゼンテーション

文:Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

先日、私は Metropolitan New York Macintosh Alliance (MetroMac) と Long Island Macintosh Users Group (LIMac) の2つのユーザーグループでプレゼンテーションをする機会があった。どちらもうまくいったし、聴衆の人たちからは活発に質問を浴びせてもらえたし、なかなか良いひとときを過ごせたと思う。特におもしろかったのは MetroMac の新会員を募る方法だった。誰でも抽選会に参加できて、ソフトウェアとか衣類、また私の著書などの賞品を争うことができるのだが、ただ一つあらかじめ合意しておかなければならない条件があって、それが、もしもまだ会員でない人が賞品に当たったら、必ずその場で会員として加入しなければならない、という条件なのだ。

<http://www.metromac.org/>
<http://www.limac.org/>

けれども、今日私が話したいのはそのことではない。今日の話題は、ぎっしりと人の詰めかけた部屋でプレゼンテーションをしようという間際になって、突然の事情でプロジェクタが使えないことがわかった場合、どうすればうまく切り抜けられるか、というアイデアをお話ししたい、ということなのだ。事の発端は、私が MetroMac のミーティング会場に到着した途端、会長の Chris Bastian が来て、今夜はプロジェクタが使えないことになってしまった、ほんの間際になって、彼の職場の同僚が Albany でプレゼンテーションをするのにどうしても必要だからと言って持って行ってしまったのだ、と言い出したことに始まる。(Chris はこのニュースを伝えながら、New York 生まれの人間らしく、Albany っていうのはものすごく遠く離れていて、馬の力で電気を起こしているかも知れないような田舎なのだから、というちょっとした同情の気持ちを匂わせてみせた。)部屋にはテレビはあったが、私の iBook とテレビを結べるようなケーブルは持ってきていなかった。幸い、部屋はそれほど大きくはなかったし、私が用意してきたスライドはプレゼンテーションを聴衆に伝えるために絶対必要というわけでもなかったので、私は、せっかく Keynote でこんなこともできると工夫しながらクールなやつを用意してきたのに、と思いながらも、スライドの上映はあきらめるしかないな、と心を決めた。

ところが数分後、NBC で働いているという一人の人が入ってきてプロジェクタがないということを聞き、もし必要ならテレビに繋げるちゃんとしたケーブルを持ってきてやるよ、と言い出したのだ。彼の口調に暗に含まれていた、ちゃんとした専門家ならそんなケーブルくらい持ってるさ、というほのめかしにちょっとムッとした私は、何とかしてこのテレビを使って私のプレゼンテーションができないか、と考え始めた。数秒後、1つのアイデアが浮かんだ。ただ、これはただの山勘でうまく行くかどうかはわからなかったので、私は何も言わずにミーティングの Q&A セクションが進行中の間もこっそりと一人で作業を続けた。私がトライしたのは、こんな方法だった。

プレゼンテーションをハッキング -- 私の手元にあったツールといえば私の iBook と、私のプレゼンテーションを Keynote フォーマットと QuickTime フォーマット二通りに保存したもの、Ambrosia のスクリーンキャプチャソフトウェア Snapz Pro X、私の Canon PowerShot S100 デジタルカメラ、Addonics の Pocket DigiDrive USB カードリーダ、それに、デジタルカメラとテレビの RCA ビデオ入力ジャックとを結べるケーブルだけだった。この最後の2つは普段私はプレゼンテーションに持って行かないものだが、今回だけは親戚の家も訪問して写真を撮るつもりでいたので、出かける時に思いついて一緒に鞄に放り込んでおいたのだった。

<http://www.apple.com/keynote/>
(日本語)<http://www.apple.co.jp/keynote/>
<http://www.ambrosiasw.com/utilities/snapzprox/>
<http://www.powershot.com/powershot2/s100/>
<http://www.addonics.com/products/flash_memory_reader/pocket_digidrive.asp>

もちろん、カメラとテレビとを繋ぐことはできた。それに、USB カードリーダを使って iBook からカメラの CompactFlash カードへとファイルをコピーすることができるのもわかっていた。(これはカメラと Mac を普通の USB ケーブルで結んだのではできない。)また、Snapz Pro X を使って私のスライドの一枚一枚から JPEG のスクリーンショットを撮れるだろうこともわかっていた。一番の問題は、カメラにそれを表示させられるかどうか、ということだった。

最初私は Keynote のプレゼンテーションをスタートさせて、画面全体のスクリーンショットを Snapz Pro X で撮ろうとしてみた。これはダメだった。Snapz Pro X を動作させた途端、Mac OS X はキーボードからもトラックパッドからも応答しなくなってしまった。これではマシンのハード再起動しかない。それでは、ということで次に私は前もってバックアップとして Keynote から書き出してあった QuickTime フォーマットのムービーの方を試してみた。こちらでは、Snapz Pro は何の問題もなく QuickTime Player のウィンドウからスクリーンショットを撮ってくれた。

さて、こうやって撮った画像を、ただ Compact Flash カードにコピーしただけでは何の役にも立たない。カメラは、正しい場所に正確な名前で存在しているファイルでなければ無視してしまうことを、私は知っていた。そこで私は、スクリーンショットの画像をカメラが写真を保存するのと同じフォーマットで順に番号を付けた名前にして、それから CompactFlash カードの中の一番最近の写真が入っているフォルダの中にコピーした。このカードをカメラに戻して、カメラの電源を入れると... やった! ちゃんと私のスクリーンショットが見えた。普通の写真でできるような、ズームアウトして一度に 9 枚のサムネイル画像を表示する機能はうまく働いてくれなかったが、それはどうでも良かった。それから数秒間かかってケーブルを繋ぎ、私のプレゼンテーションがテレビ画面に表示された。それもなかなか良い画質で。正直、私はうまく行ったこと自体にびっくり仰天した。

ただ1つ、ちょっとした問題があった。カメラが、バッテリ節約のために勝手に電源を切ってしまうのだ。(万一のために、予備のバッテリと充電器は持って来てあった。)その設定をオフにしさえすれば良かったのだが、その時はそこまで考えが回らず、結局カメラを眠らせないようしょっちゅうボタンを押す、という急遽の対策でしのいだ。

もしも皆さんが、自分もどこかでこの方法を使ってみようとお思いなら、あらかじめご自分のカメラでテストしておかれることをお勧めしたい。カメラの製造元によっては、そう簡単にごまかされないような造りになっているかも知れないからだ。それから、普段旅行する際に持って行く旅行キットの中に、必要なソフトウェアとハードウェアをきちんと揃えて置くようにするとよいだろう。プロジェクタを使って Keynote で上映するプレゼンテーションほどの圧倒的な出来映えにはならないかも知れないが、有り合わせの道具で見事に苦境を切り抜けてみせるあなたのオタク度の高さに、きっと聴衆一同、出来映えは度外視してあなたに拍手喝采を送ってくれるに違いないだろう。

[訳注: 日本のキャノン販売に問い合わせてみたところ、PowerShot S100 は日本国内では“IXY DIGITAL”という名前で販売されているデジタルカメラで、その機種以降に発売された PowerShot および IXY DIGITAL の各機種では付属の“ZoomBrowser EX”ソフトウェアを使用すれば Adam の説明したような方法が可能だろう、ということでした。]

(日本語)<http://cweb.canon.jp/newsrelease/2003-02/pr_powershot.html>
<http://web.canon.jp/imaging/ixy400/ixy400_2001-j.html>

Keynote についてひとこと -- 詳細なレビューを書く用意はできていない(たぶん私にはその能力もないだろう)が、とにかく私は今回のプレゼンテーションのために初めて Keynote を使ってみた。全般的に言って、私は感銘を受けた。私はそれほど何度もプレゼンテーションを作ったことはないのだが、それでもこれまで PowerPoint を使う度にいつのまにか自分が壁に頭突きを食らわしているのに気が付いたものだ。使ってみると、Keynote はずっと感触が良くて使いやすく、殊にオートマティックガイド機能は素晴しい。何かオブジェクトを位置決めしようとする時、Keynote が自動的に直近のオブジェクトの中心(または端)にガイドをセットしてくれるのだ。ただ、時としてどのオブジェクトにセットしたいのかをあらかじめ選択して指定し直し、それからまた位置決めしたいテキストまたはグラフィックに戻らなければならないことがあった。Keynote のスライドからスライドへ移る時のトランジション効果は、まったくお見事の一語に尽きる。それから、これは薄いマニュアルを開いて使い方を調べなければならなかったのだが、指定したスライドの上で登場したり消えたりできるオブジェクトの“ビルド”という、なかなか洒落た機能もある。

けれども、私は Keynote で3つの問題点に気が付いた。第1に、私のプレゼンテーションは Macworld Expo でデビューした製品を扱っていたので、私は新製品の写真として Apple の PR 用写真を使用した。その方が、製品紹介ウェブページから持ってきた写真よりもずっと良い画質だったからだ。ところが残念ながら、この PR 用写真は巨大だった - 時によっては1枚の写真で 7 から 8 MB ということもあった。私の Keynote プレゼンテーションの中にそれをコピーした時、Keynote はプレゼンテーションのために作ったバンドルの中にいそいそとそのフルサイズ画像ファイルを保存し始めた。(バンドルの内容を見るには Control-クリックして“Show Package Contents”メニューを選べばよい。)これで、最終的に私のプレゼンテーションは 76 MB の大きさになった。もちろん、手動で画像のサイズを縮小することもできたのだが、Keynote 内でそれができるようにするオプションがあっても良いと思う。

第2の問題点として、Keynote には私が PowerPoint で特に気に入っているテキスト機能が存在していない。PowerPoint では、1つのテキストブロックにほんの少しのものを追加したい時、テキストをブロック内に収めるために他に方法がない場合は自動的にテキストブロック全体のフォントサイズを調整してくれる。Keynote にはこの機能がなく、ほんのちょっとだけ余地が欲しいという場合にもユーザーが自分でフォントサイズを手で変更しなければならない。ぜひとも Apple には、非常に頻繁に実際問題として起こりうるこの状況にユーザーが対処するため、ベストな手助けの方法を Keynote に装備することを考えてもらいたい。

第3に、私のデュアル 1 GHz Power Mac G4 では完璧にスムーズに動作してくれるのだが、500 MHz PowerPC G3 プロセッサの私の iBook では、Keynote は時折動きがぎこちなく、スライドの描画が遅くなることがあった。もちろんこれは予期できることかも知れない。殊に私の画像サイズの大きさを考えれば当然なのかも知れないが、いずれにしても皆さんがプレゼンテーションにご自分の Mac を使おうと思っていらっしゃるのならば、あらかじめ充分テストをして、本番で思わぬ不快な結果を招くことのないようにしてもらいたいと思う。

そうは言っても、全体として私の2つのプレゼンテーションは非常にうまく行った。これは、Keynote のお陰であり、プレゼンテーションをカメラに移すという私が思い付いたテクニックのお陰でもあり、何よりもこの2つのユーザーグループの人たちのお陰であったのだ。

PayBITS: Adam の記事であなたにも新しいプレゼンテーションの方法が浮かびましたか? PayBITS で感謝を形にしてみませんか?
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PayBITS の説明 <http://www.tidbits.com/tb-issues/lang/jp/paybits-jp.html>


Inspiration 7 に霊感を受ける

文:Kirk McElhearn <kirk@mcelhearn.com>
訳: 亀岡孝仁 <takkameoka@earthlink.net>
訳: 細川秀治 <hosoka@ca2.so-net.ne.jp>

TidBITS のアーカイブを見返してみて、Inspiration が何度登場したのかを見てみるのは興味深い。最初のレビューは、1992年の Adam Engst によるもので、ほとんどをアウトライン機能を見るのに費やしている。Adam はこのプログラムを条件付だが推薦していた。

<http://www.inspiration.com/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=03113>

次は Matt Neuburg の番で、1993年にバージョン 4 について書いている。彼もまた主としてアウトライン機能に注目している。私としては、この二人が(Matt と Adam)このプログラムに対して、どれだけ私とは異なるアプローチと使い方をしていたのかを知って大変興味をひかれた。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=02542>

1997年には Matt が再び登場し、Inspiration を "驚異の生存者" と呼んだ。この中での彼の結論は前回よりももっと肯定的であった。(この二回目のレビューには、Inspiration の背後にある基本理念についての素晴らしくかつ正確な説明が含まれている - ここで私から再度説明する事はしないが、Inspiration におけるアウトラインやダイヤグラムの巧妙さについて概観した彼のレビューを読んでみられることをお奨めする。)

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=04586>(日本語)Inspiration 5.0: 驚異の生存者

Matt は、2000年にもこのプログラムの短いレビューを書いている。その時は、Inspiration の子供向け市場用のプログラム開発の新しい(当時は)アプローチに焦点を当てている。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06025>(日本語)Inspiration 6 の(子供向け)インスピレーション

それではなぜ今になって、私が取って代わって Inspiration 7 について見てみようとするのか?同じプログラムに対する我々の異なった見方について Matt と話をした時、彼はこのプログラムを新しい目で見ることに大変興味を示した。一つか二つの基本的働きを提供する通常の多くのプログラムとは違って、Inspiration はユーザーがやりたいと思うようにやらせてくれる自由度を持っている。

考えを整理していくのに必須のツール -- アウトライン、マインドマップ、フローチャート、或いは思考し書き留める。何のために使うにしても、Inspiration は、思考と情報とを整理するのにきわめて普通でないアプローチを提供する。我々の思考形態は非線形であるので、アイディアを線形の枠にはめ込もうすれば、それが足かせとなり、本来思いもかけないような方向に発展する可能性を持つ関係を模索することを妨げてしまうかもしれない。文章を書くことを例にとれば、最も一般的なアプローチは、序文から取りかかり、本文を書き、そしてまとめへと進むやり方である。これでやれる人もいるが、これは言ってみれば一方通行の高速道路みたいなものである:逆戻りする所がないし、それに反対方向に枝分かれする通りを調べるすべもない。

Inspiration のようなツールを使うと、違ったやり方が出来る。文章の最初から最後へと進むまっすぐな線に沿うよう焦点を当てるのではなく、作者は、順番には関係なくアイディアを投げ込み、次にグループ化、再グループ化する。この時の思考過程は、ある関係を持たせた時の相乗効果を調べたり、いろいろなアイディアが他のアイディアへと形を変えていくのかを見たりすることである。作者はもはや単なる原因効果の関係だけに縛られることはなくなる - アイディアは多次元となり、容易に再配置できる。

一言つけ加えれば、この種の整理法は別に Inspiration 無しでもできる - 一束のファイルカードと鉛筆があれば同じ事が出来る。アイディアをファイルカードに書き込み、そのカードを床にばらばらに並べて、再整理を始めるのである。しかし我々のようにコンピュータで仕事をし慣れている人間にとっては、考えを整理するプログラムを利用する方がずっと現実的である。とりわけ、アイディアにテキストをつけ加えたり、アイディアを動かしたり、それにあわせてテキストを動かしたり出来るのは便利である。

Inspiration はどの様に働くのか -- Inspiration と他のアウトラインソフトウェアの一番の違いは、このプログラムのダイアグラムビューである。これによって一つのアウトラインが一つのマインドマップとして目に見える形で表示される。マインドマップは、創造性について数冊の本を出している Tony Buzan のアイディアから来ている。この中では、考え、アイディア、或いはデータは画像の形態で表現され、個々の考え或いはコンセプトはあるシンボル(数多くある形の一つ)で表され、更にそれらを結ぶ矢印のようなリンクがその相互関係を表す。これらのアイディアを表現するにはいろいろなやり方が使える:原因効果の関係として、フローチャートのように、トリー構造で、或いは "主題" を真中に他のアイディアがその周りに派生しているようにとかである。

<http://www.mind-map.com/>

Inspiration の美しさは、マインドマップが使える、そしてダイアグラムビューから標準の線形のテキストアウトラインに切り替えられる能力にある。ツールバー上での単なるクリック一回(或いはキーボーショートカット)で、この二つのビューの間を行ったり来たり出来る。一旦このビジュアルな関係を作り、そしてアウトラインビューに切り替えると、あなたの不定形のマインドマップが線形のアウトラインへと変換されるのである - 結局の所、どの様にテキストを作っても、線形の形態で読まれるのである(もちろん、ハイパーテキストを書いているのでない限りは)。

この記事をどの様に書いたか -- 多分 Inspiration がどの様に働くのかを説明する一番の方法は、このレビュー記事を私がどの様に書いたのかをお話することであろう。まず、Inspiration をアウトラインビューにして、いくつかの基本アイディアを書き留めた。このプログラムのバージョン 7 を初めて立ち上げた時、インターフェースとメニューに関しての前のバージョンからの最も目に見える変更点をノートした。おおよそ 10 のトピックスについて書いた後、ダイアグラムビューに切り替え、これらの考えがお互いにどう収まるかを検証してみた。

この時点では、私はまだこの記事の全体の構成は固めていなかった - ただ重要と思える点をいくつか寄せ集めただけだった。ダイアグラムビューを使って、この記事の構成の大事な要素を加え始めた:このプログラムがアウトラインとダイアグラムビューでどの様に働くのかについて語りたい、この二つのビューを使ってどの様にアイディアを再編成できるかについて説明したい、インターフェースの所の変更点(良くも悪くも)について触れておきたい、このプログラムが使っているキーボードショートカットについても触れるつもりだ、そして足りない点についても話をしたい。

Inspiration は、もしトピックスとか概念とかの整理をさせてくれるだけだったらあまり役に立つとはいえないであろう。これはワードプロセッサではないが、ノートウィンドウに数ページに渡るテキストを書き込める。(これらのウィンドウはダイアグラムビューで現れる。)ノートはトピックスに関係している - ダイアグラムビューでは、ノートウィンドウを表示させるにはあるシンボルを選択しツールバーにある Note ボタンをクリックする。アウトラインビューでは、あるトピックスの最後で Return を押し、そしてタイピングを始めるだけである。

それで、いろいろなセクションにノートをつけ加えていくことで、記事の中身を埋めていく作業にとりかかった。こうすることで、考えが浮かぶのにあわせてあるセクションから他のセクションへと跳ぶことができ、型にはまらないで仕事ができる。作業が進むにつれて、他にも触れておかなければいけないことに思い当たる、例えば、このプログラムのテンプレートとかシンボルについて。そこで、私のダイアグラムに二つのアイディアに対応する新しいシンボルを加え、そして再び書く方に戻った。

時折私は私のアイディアを並べ替えるためにアウトラインビューに切り替える - ダイアグラムビューで新しいアイディアを考えていると、その時使っているダイアグラムの種類にもよるが、アイディアの流れが自分の思っているのに沿っているかもしれないしそうでないかもしれないからである。私はどちらかと言うと不定形のダイアグラムを作る傾向がある。中心に主題となるアイディアを置き、その他のアイディアを回りに置いてみるのである。この周りに置くときもある程度の論理的な順番となるよう試みる。普通は、12時の位置から始まって時計回りに置いていく。それでもしばしばアウトラインビューで再配置することになる。この作業をしている時、もし第一レベルのトピックスの順番を変えるだけだと、ダイアグラムは何も変わらない。しかし、もしサブトピックスを一つの第一レベルのトピックから他の第一レベルのトピックへと動かすと、ダイアグラムの階層はそれに応じて調整される。これには多少の慣れが必要となるかもしれないし、更に、そのような変更を加えた後はダイアグラムの再配置が必要になるかもしれない。この様に説明するとこれは大変な作業のように聞こえるかもしれないが、この再配置の作業を通して、作成している文書の異なるセクション間の相互関係や、文書全体としてのビューとかを把握するのがより良く出来るようになると感じている。テキストをただの並びとしてみる代わりに、アイディアの集合として、そしてそこからどういう作業をしていくのかを思い描きながら見られるのである。

新しい機能 -- このバージョンの Inspiration には沢山の新機能が追加され、7.0 版メージャーアップグレードにふさわしいものになっている。おそらく最も重要な変更は Mac OS X 互換だろう、Carbon アプリケーションだが、それゆえ以前の System 7.1 までに遡って使用することもできる。

他にも多くの機能が追加され拡張されている。ダイアグラムビューでのノートの書き方と、前バージョンの難しいノート機能がどのように大幅に改善されたかについては、先ほど述べたとおりだ。このバージョンではダイアグラムにビューで本当にノートが書けるようになった (私はまだアウトラインビューで書く方が好きだが)。

ハイパーリンクの追加は役に立つ。URL をダイアグラムあるいはアウトラインの中にペーストするだけで、それらは自動的に下線付き青色文字列で表示される。その URL をクリックすると、デフォルトの Web ブラウザでそのページが開かれる。ダイアグラムビューでは、項目が選択されていないときに URL をペーストすると、そのリンクで新規トピックを作ることができる。

有り難いことに、リンクできるのは Web アドレスだけではない。ハイパーリンクを Control-クリックすると、Edit Hyperlink コマンドを含むコンテクストメニューが表示される。そこでハイパーリンクのアンカーテキストを編集して、Web ページへの URL、電子メールアドレス、ファイルや Inspiration の新規空文書にリンクすることができる。ファイルにリンクする場合は、あなたが複雑なプロジェクトを整理するのに Inspiration を使うときに、Excel スプレッドシートなどの参照する補助文書を、対応するアプリケーションで開くので特に役立つだろう。( URL をクリックしても何も起らないようにしたい場合は、URL 自動検出とリンクへのジャンプを無効にすることもできる。)

“子”アウトラインは、同じトピックまたはアイデアに属する複数のウインドウを含む複雑な機能だが、事実上“ハイパーテキスト”ドキュメントによって置き換えられた。もしあなたがバージョン 5 または 6 の Inspiration 文書を持っているなら、バージョン 7 でそれらを開くと、それぞれの子アウトラインについて、個別の文書を含むハイパーリンクされたファイルフォルダが作られる。

インタフェースの変更 -- Inspiration 7 の新しいインタフェースはかなり改善されているのだが、また若干の期待はずれもある。ウィンドウの下部にあるシンプルなフォーマットのツールバーが追加されたのは歓迎だが、そのツールバーとボタンは Windows XP インタフェースに酷似している。ダイアグラムビューでは、どのアウトライントピックがサブトピックやノートを持っているか分かり易く表示され、サブトピックを容易に隠すことができる。

アウトラインビューでは大幅な変更が加えられている。良くなったものもは、アウトラインウインドウの左側にあるバーで、これは見出し、 サブトピック、ノートを明瞭に区別できる。悪くなった変更もある。例えば、セレクションコントロールカラムでは、どのトピックやサブトピックが選択されているか、文書ウィンドウの大きな空白部分をデフォルトの選択色でハイライトして示す。単独の見出しのような小さい選択スペースでは素敵なのだが、ノートのような長いテキストをタイプする場合、私にはとても目障りだ。

僅かだが気になるアラがある。テキストのドラッグ&ドロップ編集が欠けているのは痛いところだ。そして、インライン・スペルチェックができない(特に Mac OS Xで、スペルチェックはオペレーティングシステム内蔵のものを利用できる)。同じく、キーボードショートカットの幾つかは不可解だ 。私は Mac OS Xでアプリケーションを隠すのに Command-Hを使っているのだが、Inspirationではそのショートカットをサブトピックを隠すのに使っている。何が起きているかを知らなかったので、それと気が付くまでに、私は多くの サブトピックを“失った”。私の意見として、この種類のシステム全体で使うショートカットは、他の目的に決して使われるべきではない。それはウインドウを閉じるのに Command-C を使っているプログラムを想像してみればわかる。

Mac にふさわしくないキーボードショートカットは、この他にも意味不明なやり方でファンクションキーを幾つかのショートカットに使っていることだ。たしかにそれは Windows 世界のやり方かもしれない、しかし我々 Mac ユーザーは滅多にそのような目的にはファンクションキーを使わない。また、Inspiration では、Command と数字キーを組み合わせた不自然なショートカット (選択へのスクロールに Command-9 など) を使っている。この他にも、“ノートを表示/隠す”は Command-Y になっているが、これは Mac プログラムではやり直し(Redo)に使われるものだ。“ツールバーを表示/隠す”は Command-F8 だ (Mac の Finder ではツールバーを隠すのに Command-B を使っている) 。一般の Mac プログラムと類似のショートカットにすればもっと解り易くなるだろう。多くのキーボードショートカットは明らかに Windows を流用し Macintosh の慣例を無視している。

Windows に追従する例のもうひとつは、諸設定や環境設定を扱うやり方だ。Inspiration 7 メニューから環境設定を選択すると、“アプリケーション設定”ダイアログが表示される。ユーティリティメニューから“アプリケーション設定”を選択しても同じダイアログが表示される。これでは混乱してしまう。もっと紛らわしいのは、ユーティリティメニューから“アプリケーション設定”を選択すると、デフォルトテンプレート設定用ウィザードが開くことだ。冗長で複雑なだけでなく (前バージョンはもっと簡単だった) 、設定を終える度に、デフォルト設定が変更されたことを伝えるダイアログが表示され、それから新規ファイルが開かれる。これはいただけない。新しいテンプレートを作るのも同じやり方だ。同じウィザードを経由して、テンプレートを保存し、同様なダイアログが表示される。前のバージョンでそうであったように、これらの2つのプロセスはひとつにまとめることが可能に思われる。

Inspiration でとりわけ役に立つのは各種テンプレートで、あらかじめセットされたダイアグラムとアウトラインを含んで、空欄のシンボルとトピックを配置した各種ファイルが用意されている。これらは教育的なあるいはプロフェッショナルな目的に使うことができる。文芸、社会研究、理科、計画法、発想法の5つのグループに分類されたこれらのテンプレートは Inspiration をどのように使うことができるか素晴らしいアイデアを提供するだろう。全60ページのマニュアルは各テンプレートを視覚的に紹介して、それらの使い方と、個々のテンプレートのご利益を説明している。またダイアグラムで使う豊富なシンボルも付いている。私はプログラムに付属する何百ものシンボルに関心は無いが (私が使うのは長方形と楕円だけだ)、他の人々はこれらのグラフィックスシンボルが彼らのアイデアをより正確に識別し、より効率的にそれらを相手に伝えることに役立つことに気付くかもしれない。

ドキュメントを直せる医者はいないのか? コンピュータ書籍とマニュアルのライターとして私はドキュメンテーションにとりわけ敏感だ。そして Inspiration のような異質で複雑なプログラムには、良いドキュメンテーションが重要だ。多くのユーザーはプログラムを部分的に“摘み食い”しながら使うかもしれないが、Inspiration の背後にある概念はたいていの人々に目新しいものであり、ドキュメンテーションは不可欠なものだ。Inspiration には2冊の小冊子 Getting Started ガイドと Template Guide があり、4つの PDF ファイル (前述 2つのガイドと User's Manual、そしてダイアグラムビューで使用できる多くのシンボルを全て紹介した Symbol Guide) が 付属している。

私はこのドキュメンテーションに関して玉石混淆だと思う。Symbol Guide と Template Guide は実用的だが、User's Manual は詰め込み過ぎで殆ど読む気がしない。初めから終わりまでの全ての章を通して、スクリーンショットもイラストレーションも無く、どちらかというと魅力の乏しいマニュアルになっている。

結論 -- Inspiration のようなプログラムでの最も大きな問題は、それをあなたの仕事のやり方に合わせることが出来るかどうかだ。私にとってアウトラインは、しばしば無秩序になる私の考えを抑えてくれる柵のようなものだ。ダイアグラムビューと標準テキストフォーマットの両方で視覚的に作業できるので、私のアイデアを異なった遠近法で観ることができる。これらのプログラムに固有の可能性はものすごい。アウトラインの中で Web ページと文書の両方をリンクできる能力は、外部の情報を整理する多くの時間を節約できる。

いや本当の質問はユーザーがこの概念に適応できるかどうかだ。多くの人々にとって、Inspiration は彼らがコンピュータ上で文書を作る新しいやり方を提示するだけでなく、思考することについての新しいやり方を提示する。私の場合もう長い間、仕事をこのやり方で処理するのに没頭している。Inspiration は私にとって、私の Macintosh 上の数少ない必須ライティングツールのひとつであり、そしてこの新しい Mac OS X互換バージョンによって、これから何年先もそうであるだろう。

Inspiration 7 の価格は 70ドルだ。15.6 MBをダウンロードして、30日間無料のトライアルバージョンを入手できる。

[Kirk McElhearn はフランス・アルプスの村に在住するフリーランスのライターおよび翻訳者。 Microsoft Office v. X Inside Out ( Microsoft Press 刊) の共著者でもある。]

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Valid XHTML 1.0! , Let iCab smile , Another HTML-lint gateway 日本語版最終更新:2005年 12月 26日 月曜日, S. HOSOKAWA