Macworld Expo の大騒ぎの興奮も収まるにつれ、私たちも落ち着いて物事を考える気分になっている。そこで、Glenn Fleishman は Apple と Macintosh の初期のころの逸話を集めた Andy Hertzfeld の本、Revolution in the Valley をレビューする。また、Matt Neuburg は Rogue Amoeba の Audio Hijack Pro がどうして見た目よりもずっと便利なのかを解説する。今週はあまりめぼしいニュースが無いが、Pepsi が再び iTunes Music Store 協賛プレゼントのセールを予定しており、Entourage 2004 のジャンクメールフィルタがアップデートされた。
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Pepsi が iTunes Music Store に再挑戦 -- 1億本の炭酸飲料のボトルキャップの裏に iTunes Music Store で使える無料のダウンロードコードを入れるという去年のキャンペーンは失敗だった。わずか500万が消費者によって使われただけだったのだ。にもかかわらず、Apple と Pepsi は再び同じことをやろうとしている。2005年1月31日から5月23日まで、Pepsi は2 億曲分の無料音楽ダウンロードコードを色付砂糖水の特別なマークをしたビンに入れることを計画している。実際の勝率は、対象となるビンがどれだけ売り出されるかによるとPepsi は注意深く注釈をしているが、獲得確率は3分の1と予想されている 。面白いのは、Apple がこのキャンペーンのスポンサーではないと公式ルールで明言されていることだ。
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=07398>
<http://news.com.com/2100-1025-5201676.html>
<http://www.apple.com/itunes/pepsi/>
iTunes Music Store のこぼれ話にちなんで、Apple は iTunes Music Store が2億5,000万曲を売り上げ、今でも毎日100万曲の売上があるとアナウンスしている。 [ACE](笠原)
<http://www.apple.com/pr/library/2005/jan/24itms.html>
Microsoft が Entourage のスパムフィルターをアップデート -- Microsoft は Junk E-mail Filter Update 1 for Microsoft Entourage 2004 を、Microsoft AutoUpdate utility 経由でリリースした。(もしあなたが自動にしていない場合は、どのOffice 2004 アプリケーションからでも構わないので、Help > Check for Updates で AutoUpdate を起動できる。)2.9 MB(日本語版は 3.7 MB)のアップデートは、どのようなメッセージがジャンクであるのかを見分けるための最新の定義を含んでいる。Microsoft によって開発され継続的に調整されるスパム定義に依存しているので、アップデートによってスパムフィルターを効果的保つことは重要だ。Entourage 2004 のジャンクメールフィルターについての詳細は Tom Negrino の "Take Control of What\'s New in Entourage 2004" 電子ブックを参照いただきたい。その本には、Michael Tsai の素晴らしい SpamSieve ユーティリティの $5 値引クーポンがついている。実際にあなたが受け取ったメールを学習することでスパムを篩い分けるというベイズ理論に基づくアプローチのほうを好むのならこちらのほうが適しているだろう。 [ACE](笠原)
<http://www.microsoft.com/mac/products/entourage2004/entourage2004.aspx>
<http://www.microsoft.com/mac/autoupdate/description/0409OPIM110002.htm>
<http://www.tidbits.com/takecontrol/entourage-2004.html>
文: Glenn Fleishman <[email protected]>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>
Andy Hertzfeld が語ってくれる物語がある。それも何十ものさまざまな物語だ。もしもあなたがこれまでに 128K Macintosh を持っていたことがあるなら、あるいは持ってみたいと憧れたことがあるなら、それともあの素晴しい箱の中へと注がれた仕事に敬愛の気持ちを感じたことがあるなら、そういうあなたにぴったりの本が、Hertzfeld の新刊書“Revolution in the Valley”だ。この本を読めば、Mac の誕生に携わった彼の個人的体験を巡って、魅惑的かつスリル満点の旅を楽しむことができる。
<http://www.amazon.com/exec/obidos/ASIN/0596007191/tidbitselectro00/ref=nosim/>
この本の内容は、Hertzfeld のウェブサイト Folklore.org に書かれたことが元になっている。彼がこのサイトを始めたのは 2003 年 7 月のことで、これまで一度も語られなかった、あるいは少なくとも詳しくは公開されたことのなかった過去の逸話を伝えようというのが主な動機だった。このサイト自体は彼が開発中のソフトウェアのデモンストレーションという性格もあった。何人かの人たちが語る文章を、書き加えや注釈なども取り入れながら集めてまとめるためのソフトウェアだ。この Folklore.org サイトはそのまま運営を続けているので、この本の中に誤りを見つけたり、あるいは Hertzfeld の言うことに論争を仕掛けたいという方は、サイトを訪れて、該当する逸話に対しコメントを投稿することができる。
Hertzfeld が Apple 社を去ったのは 1984 年、最初の Mac が出荷された後のことだった。その後の彼はなかなか興味深いキャリアを積んできた。彼はまた人に恨みを買うようなこともほとんどなかった。たいていの場合、彼の口をつくのは誉め言葉であって人を葬るような文句は聞かれない。この本は、コンピュータを作り出すことに関する最も核心となる点、ハードウェアやソフトウェアがそもそも動き出せるためにひねり出さねばならなかった何十もの独創的なトリック、などを巡って話を進める。それより以前、またその当時でさえも、Apple はあまりにも多くの革新的技術を一つの箱に詰め込もうとし過ぎて失敗する、という独特の習性に苦しめられていた。Apple III 然り、Lisa 然り、そしてそのために、妥当な価格とパフォーマンスをもった製品を作り上げることが出来ないでいた。
(Lisa ファンの皆さんはどうかお怒りを鎮めて頂きたい。Steve Jobs は Lisa チームのメンバーたちとその革新技術とを取り込んでそれを Mac に詰め込み、結局そのためにこの前代マシンは不遇の運命を辿ることになった。Hertzfeld も回顧しているように、Lisa 設計者の Rich Page は始まった当初の Mac/Lisa 合同チームのブリーフィングで、こう叫び声をあげたものだ。「君たちは自分が何をやっているのか分かってない! ... この Macintosh ってやつはきっと Lisa を潰しちまう! この、Macintosh ってやつは、きっと Apple をダメにするぞ!」と。それから、Apple III ファンの皆さんには... おっと、私は何を言っているんだ? Apple III ファンなんていうものは存在しない。私自身は 1980 年ごろ Apple III にデータを入力していた時期があったが、そのことであのマシンに深い洞察が開けたなんてことは何もなかったのだから。)
Hertzfeld はこの本で直接的に物語を進めることはしなかった。この本がウェブサイト上の逸話や短い物語に基づいていることは、二つのことから見て取れる。まず、読み進むうちに話がいろいろな面白い物語の間を紆余曲折してゆったりと進み、一度通ったところにもう一度触れ直してまた別の金塊を掘り起こしたりもする。第二に、Hertzfeld は彼の Folklore.org サイトへの訪問者たちが残したコメントを利用してこの本の物語に注釈を加えており、その中には彼の記憶にある話と矛盾するようなものもある。実際、こうした行きつ戻りつの語り口をもっと入れれば良かったのにと思う。なぜなら、あのウェブサイトにあるコメントの中にはかなり鋭いもの、辛辣なもの、あるいは特定の話をただ盲目的に信じ込んでいるようなものも、いろいろと数多くあるのだから。
ハッカーのヒーローは -- この本にはヒーローもいるし、悪者もいる。ヒーローを助ける「良い側」の人間たちや、悪者に付く「悪い側」の人間たちも、それぞれ何人かずついる。ヒーローは誰かといえば、それは Burrell Smith だ。彼は可笑しいほど奇人のハードウェアの天才で、Macintosh のマザーボードからどうすればもっとパフォーマンスを引き出すことができるか、という問題に対して最も奇妙な、それでいて最も成功したアイデアの数々をひねり出した人物だ。彼はまた、初代の Mac に拡張ポートとアップグレード可能な RAM を加えようと努力した人でもあり、これは実現はしなかったものの、この努力そのもののためだけでも彼は Mac オーナーたちから不朽の尊敬と愛情を寄せられる資格がある。
Jobs や、概念的には Mac の父親と言える Jef Raskin は、Mac が拡張スロットを持つべきでないという点で意見が一致していた。費用がかかり複雑度も増す、というのがその理由だった。Smith は Jobs から、「Mac にスロットなど、1個付けるのも無理だ」と言われた。けれども Hertzfeld はこう続ける。「Burrell は簡単には挫けなかった。このことについて Brian [Howard] と相談した結果、スロットと呼ぶ代わりにこれを“診断ポート”と名付け、製造工程でテスト用機器を直接プロセッサバスにアクセスさせて製造エラーを診断することができれば費用の節約になる、と説明することにした。」でも、こんな誤魔化しも、技術マネージャの Rod Holt に見破られてしまった。「これは本当はスロットだろう? 君たちは、スロットをこっそりともぐり込ませようとした訳だ。だが残念ながら、そんなことはさせない!」
何とも残念なことだ。ちゃんとしたスロットが装備されるまでには、私たちは Macintosh II の登場まで待たねばならなかった。そして、驚くなかれ、他ならぬ Burrell Smith 自身が創設した会社 - Radius という名の小さな会社 - が、そのスロットの素晴しい利点を利用した先進的なグラフィックカードを提供し始め、このことがデスクトップ出版やイラストレーションの世界で Mac が先んじて卓越した地位を確立することのできた大きな力となったのだった。(私が 1990 年代の初め頃に Kodak Center for Creative Imaging で働いていた時、私の職場では少なくとも数十万ドルを Radius のカードやモニタに支出していた。)Hertzfeld は彼のサイトで、あるコメントに対する答として、現在では Smith はすっかり引退しており、何年も前に Radius 社を退職してからは業界の仕事から手を引いている、と述べている。
当時のチームのメンバーで、今はテクノロジーの領域からすっかり離れてしまっている人たちも多い。例えば Bill Atkinson は、長年密度の濃い仕事をしてきたのを離れて、フルタイムの写真家になった。私は 1991 年に Bill と the Center for Creative Imaging で会ったが、彼は当時そこで John Sculley やその他大勢のデザイナー、写真家、イラストレーターたちと共に、特別招へいデザイン研究員として滞在していた。(その時のことだった。ある Kodak 社員がひどくまずい出来のソフトウェアを John Sculley にデモしながら、どうしてキーボードコマンドがマウスコマンドより優れているかを説明しているところを私が漏れ聞いたのは。その時 Sculley はたった一言“いや、そうではない”と静かに答えたものだ。)Hertzfeld の描く Atkinson は、どちらかと言うと刺のある、物事を気にしやすい人間という印象だ。ただ、これは Lisa における Atkinson の役割がほとんど無視されていることが大きいだろう。彼はもう一度のけ者にされるのは好まなかった、ということだろう。
もう一人「良い側」の人間を挙げるとすれば、Bud Tribble がいる。当時彼はメモリ管理のソフトウェアを書きながら医学を学びつつあった。(Tribble はその後 Apple を去り、後年 Eazel 社で Hertzfeld と一緒になり、その二年後には Apple 社に復帰した。)
経営側の悪者は -- ここで私が Steve Jobs と答えると、期待しておられるだろうか? いや、答は違う。
この物語での悪者役は Bob Belleville、彼は Hertzfeld が Apple にいた最後の二年間、Mac の技術マネージャをしていた人物だ。Hertzfeld は Belleville に関してはあまり公平とはいえない扱いをし、結構一方に偏した、嫌らしい人物像として描いている。彼が経営者としてふさわしい人物だったか、力量が足りなかったかどうか、実際のところは私はよく知らないが、とにかくこの本の中では、彼はあまり血の通った人間としては描かれていない。他の登場人物は皆、たとえ Hertzfeld を怒鳴りつけている場面ではあっても、ちょっと奇癖を持った人間、興味をそそられる人間として描かれているのだが。ただ一人 Belleville だけが彼にとっては鬼門、手に負えない謎だったようだ。
Jef Raskin がこの本でかなり肯定的に登場するのも面白い。Raskin は、Mac が出荷された日よりかなり以前に Apple を去ってからもずっと Apple やその他の人たちに働きかけて、Macintosh の核心となる概念を生み出したのは彼であって、彼こそが Macintosh の概念的な父親であるということが、歴史の本から消えないようにと努め続けてきた。1960 年代以来彼が著述し講演してきたさまざまなアイデアを、資金の支えの伴う一つのプロジェクトにまとめ上げた点について言えば、Raskin はまさに中心的人物として前面に押し出される資格がある。たとえ Jobs が彼の職を解いてその役割から外してしまっても、また最終的に Macintosh が彼の全般的ビジョンや特定のハードウェアの選択から外れるものになったとしても、彼の果たした役割の重要性は決して減るものではない。
Hertzfeld の描く Raskin は楽しくて創造力も豊かな経営者で、横柄かつプロフェッショナルな態度をもって、一つのチームを共通のユニークなビジョンの下に結び付けることのできた人物だ。Raskin がいなければ、Apple の旗艦製品は Lisa のままであり続け、そのまま順次改良が続けられていくのみで、革命的な改良は決して生まれなかっただろうと Hertzfeld は振り返る。先頭に立って Mac を成功に導いたのは Jobs であったが、それは良きにつけ悪しきにつけ彼が Raskin のプロジェクトを引き継いで細かい管理を加えていったからだ。スタッフやその他のリソースを集め、彼のレーザービームのような注目を受け止め続けたのは、まさにこの Raskin のプロジェクトだったわけだ。
Steve Jobs は最終的に Hertzfeld の注目からは外れ、ペラペラの紙のように戯画化されて登場するようになる。でも、Steve Jobs と共に働く者が知っておかねばならないのは、結局そういう Jobs だけで良いのだ。Jobs はスタッフたちをとんでもない時間に働かせるし、最後のぎりぎりになってから変更を加えたりするし、正気とは思えないような技術的決定を追い求めたりする。最新のマザーボードのレイアウトを青写真の拡大印刷にして Smith が示して見せた時、Jobs はこう言ったものだ。「この辺はとても綺麗だ... でも、ちょっとここのメモリチップの所を見ろ。こいつは醜いぞ。線と線がくっつき過ぎている。」一人の技術者が誰もボードを見て鑑賞する人はいないと言うと、Jobs は即座に「私が見るのだ! 私は、可能な限り美しいものにしたいのだ。それが箱の内側の部品であっても! 偉大な大工は、誰も見ないからといって戸棚の裏側で木材の質を落としたりしないものだ。」と答えたという。(明らかに Jobs は一度も大工になったことがないようだ。)彼は、見た目に美しいボードを作るようにとチームに命令し、それがうまく行かない時には、チーム全員が元の機能デザインに立ち戻って考え直さなければならないのだ。
もっと有名な話がある。Jobs は袋小路を追い求める性質があるのだ。例えばあの Alps 製の 3.5 インチフロッピーディスクドライブが良い例だ。幸いなことに、Apple 内にも頭の切れる人がいて、こっそりと裏側で Sony との連絡を絶やさずにいた。(最終的に 3.5 インチドライブを提供したのは Sony だった。)そのため、突然 Jobs が現われた時など、日本人の技術者をあわててクロゼットの中に隠したりしなければならないこともあった。
その一方で、Mac を Mac をたらしめた開発の諸段階、ケースのデザインからその動作の細かい部分に至るまで、あらゆる場面で Jobs は数々の重要な決断を下してきた。この男は、やたら首を突っ込むことは止めないだろうが、彼のエンジニアたちから最大限のものを引き出してきたのは確かだし、そういう性格は今日に至っても保たれ続けているように見える。
Sculley が経営陣を入れ替えて、Jobs を名目だけは経営責任者として残したものの、事実上 Jobs の会社への影響力を一掃してしまった後、 Hertzfeld を含め数人の Apple 幹部が Jobs と夕食を共にした時のことを Hertzfeld は回顧する。この本の中で最も人間味をもって Jobs が描かれているのがこの箇所だ。そこでの話からすると、Jobs はもはや二度と誰の手によっても解雇されるような立場にはなり得ないということが明白になったようだ。
Bill Gates も、悪者役の一人として現われる。しばしば彼はコヨーテの扮装をして、言葉をねじ曲げ、商標やアイデアを奪い取るためのトリックを蓄えた魔法の袋を使いながら登場する。
Hertzfeld の旅路 -- ImageWriter のプリントヘッドに取り替えて使う Thunderscan スキャナヘッドがどうすれば高速かつスムーズに動作するか、その製造会社のために助言しつつソフトウェアを書いたり、Mac で複数個のプログラムを同時に走らせる初めてのコンテクスト変更ツールである Switcher を開発したり、Hertzfeld がそういう活動をしていた時代のことが彼自身の目で見た物語として語られる部分は、読んでいてわくわくさせられる。
私自身、初めての Macintosh Plus を買った時の興奮は今でも鮮明に覚えている。そして、RAM 増設のためのツールキット(静電気防止板、長尺 Allen ドライバー、それにケースを開ける道具のセット)を買って、何と贅沢にも4メガバイトの RAM を装着してから、ケース内側に栄光に輝く製作者のサインを見つけた時の感激を忘れることはできない。
Hertzfeld にも我欲が無いとは言わない。でも、彼が語る物語のほとんどは誰か他の人たちについてのことだ。彼が自分自身を中心的人物として前面に押し出す記述は稀で、そういう場面といえば皆非常に苦渋に満ちた事件についてのものばかりだ。たいていの場合、そういう事件には Steve Jobs が絡んでいて、何かを彼に強要したり、あるいは彼の名目上の最高上司である Jobs の言うことを聞かないようにと他の人々が口を揃えて言うような立場に、彼を追い込んだりする状況になっていた。
Hertzfeld は、その後彼が Radius 社に加わり、General Magic 社の設立に力を貸し、それから多数の初期の Apple 開発者たちと共に Eazel 社に加わる、というところにまでは至らない前の段階で、物語を終えている。この 20 年の期間、彼に何が起こったのか、私たちには詳しくはわからない。そもそも、Apple 社の全体的な興味の方向はこれら別会社のものと平行しているとは限らないからだ。それに、おそらく出訴期限法によれば、現なまの真実を(彼の目から見た真実を)そのままに語ることを許されるのは、過去 20 年前まで、と限られているのだろうから。
文: Matt Neuburg <[email protected]>
訳: 羽鳥公士郎 <hatori@ousaan.com>
Rogue Amoeba の Audio Hijack Pro は素晴らしいプログラムだが、開発者自身のウェブページでは、その素晴らしさが十分に説明されていないように、私には思える。考え方を難しくしているのは、Audio Hijack Pro が2つのニッチを同時に占めているからだ。つまり、この製品は2つのきわめて異なったことをするのだ。だから、この製品について読んでいるときに、1番目の機能を特別ほしいとは思わなかった場合、2番目の方はあなたの意識にも上らないかもしれない。しかし、この2番目の機能は本当にすごくて、私の知るかぎり、ほかに例を見ない。
<http://www.rogueamoeba.com/audiohijackpro/>
1番目から順番に -- Audio Hijack Pro の第1の機能は、簡単に書き表せる。コンピュータが生み出すあらゆる音をサウンドファイルに録音するのだ。これがどう役に立つのかというと、コンピュータが時折発する音の中で、あなたがファイルに録音したいと思うものがあるのではないか。たとえば、RealPlayer で、ラジオ局の生ウェブ放送か、あるいは以前の番組の再放送かもしれないが、インターネットのストリーム放送を聞いているとしよう。RealPlayer では、サウンドファイルは存在しない。再生を始めるには、小さなファイルをダウンロードするが、これは実質的にはただの URL にすぎない。実際の音は、ストリームとして流れていってしまう。しかし、その音はコンピュータから出てくるのだから、Audio Hijack Pro を使えば、録音できる。同じように、DVD プレーヤで DVD を見ているときに、そのサウンドトラックを録音することもできる。ほかの場合でも、あなたのコンピュータで何らかのアプリケーションが音を発していれば、それを録音できるのだ。
Audio Hijack Pro は、圧縮されるものもされないものも含め、いくつかの標準的なフォーマットのサウンドファイルに録音することができる。すなわち、16-bit AIFF、24-bit AIFF、MP3、AAC、そして Apple の新しいロスレス(ALAC)フォーマットだ。それに加えて、音を生み出しているのが、アプリケーションでなくサウンドポートでもよい。だから、内蔵マイクロフォンやオーディオ入力ポート、また Griffin iMic や RadioSHARK のような「ブレイクアウトボックス」やその他多くの洗練された機器につながった USB ポートが音を受け取っていれば、それも録音できる。たとえば、自分のために短い音声メモを取りたいとしよう。そういうときは、Audio Hijack Pro を、内蔵マイクロフォンから高圧縮の 32 kbps MP3 ファイルに録音するよう設定して、コンピュータに直接話すだけでいい。音質とファイルサイズが極端に異なる例としては、私のステレオにつながった Tascam USB box から 24-bit AIFFフォーマットへ、カセットテープや LP レコードのクラシック音楽をデジタル化することもできる。
<http://www.griffintechnology.com/products/imic/>
<http://www.griffintechnology.com/products/radioshark/>
<http://www.tascam.com/Products/US-122.html>
これがあなたの興味を引いたとしても、Audio Hijack Pro に 32 ドルも払うのは割に合わないとお思いかもしれない。32 ドルというのは大金ではないにせよ、より安価な代替品があるのだ。Audio Hijack の Pro でない弟、Audio Hijack は、たったの 16 ドルで、同じことができる。主な違いはといえば、Audio Hijack は 16-bit AIFF ファイルにしか録音できない。サンプルレートは設定できるが、それ以外の変更はできない。それでも、AIFF は、編集するには最善のフォーマットだ。後から、iTunes や他の QuickTime を利用可能なプログラムで、AIFF から他のフォーマットにいつでも変換できる。だから、その場で圧縮しながら録音できる機能というのは、それほどすばらしい機能ではないと考えたとしても、おかしくはない。加えて、Audio Hijack にも競争相手がある。Ambrosia Software の新しい WireTap Pro(これは以前のフリーウェア WireTap を置き換えるものだ)は、たった 19 ドルで、さまざまなフォーマットに録音できる。さらにフリーウェアの Jack OS X もある。ただし、これには、サウンドファイルを生成するための他のアプリケーションが必要で、設定も面倒だ。それに、コンピュータにやってくる音を録音したいだけなら、30 ドルの Amadeus II のようなプログラムの方がよいかもしれない。この製品は、音を録音して、編集し(雑音を除去したり、たくさんのエフェクトやフィルターを適用するなど)、Audio Hijack Pro よりもたくさんのフォーマットに、しかも少ないコストで、保存できる。
<http://www.rogueamoeba.com/audiohijack/>
<http://www.ambrosiasw.com/utilities/wiretap/>
<http://www.jackosx.com/>
<http://www.hairersoft.com/Amadeus.html>
プラグインを入れて -- ここで Audio Hijack Pro の2番目の機能に注目しよう。この製品は、録音しながら、音をデジタル的に処理することができるのだ。それにはプラグインを使う。いくつかのプラグインは Audio Hijack Pro に含まれており、またいくつかはすでにあなたのコンピュータに存在している(もちろん、ほかのものをインストールしてもよい)。実際、Mac OS Xでもっとも知られていない秘密の1つに、たくさんの驚くほど強力なデジタル信号処理プラグインが含まれているということがある。その中には、31 バンドのグラフィックイコライザ、コンプレッサ、リミッタ、ハイパス・ローパスフィルタなどがある。あなたが GarageBand を使ったことがあるなら、これらのエフェクトを見たことがあるかもしれない。しかし、これらのエフェクトは、AudioUnits が利用可能な他のアプリケーションからも使うことができ、それには Audio Hijack Pro も含まれるのだ。また、Audio Hijack Pro があつかえるプラグインの種類は、AudioUnits だけではない。この製品独自のフォーマットは 4FX と呼ばれ、20 ほどの機能がそろっている。そのほとんどは、ゲインとバランスを調整するのに適している。加えて、LADSPA プラグインも使える。これは Linux に由来するフォーマットで、フリーの LADSPA プラグインが多数あり、いくつかはプログラムに付属している。最後に、Audio Hijack Pro は VST プラグインを使うことができる。これも、商用のものやフリーのものがたくさんある。
<http://www.apple.com/ilife/garageband/mix.html>
<http://www.ladspa.org/>
<http://www.kvraudio.com/get.php?mode=results&st=q&s=8>
すばらしいことには、複数のエフェクトを同時に適用することができる。この製品は、簡単なパッチボードとして働く。つまり、エフェクトを連続して適用したり、平行させて適用したり、またはその両方を行うことができる。インターフェースは非常に効果的だ。縦横の格子があって、縦1列が1段の処理に対応している。最初の列にあるすべてのエフェクトが平行に適用され、次に2番目の列のエフェクトが適用される、というようになっている。あなたのコンピュータから出る音は、あなたの耳に届く前、そしてファイルに書き込まれる前に、エフェクトを通過する。それなので、録音している音にどういう効果を加えているかをモニターできる。音を聞いているときには、ボタンをクリックするだけで、それぞれのエフェクトの効果を入れたり切ったりして、あなたが加えている効果を識別することができる。また、エフェクトによっては、ゲインやパラメータを調節して、いろいろ実験することもできる。
さらに、オリジナルを録音するときにはエフェクトをかける義務がないということを頭に置いておこう。最初にエフェクトなしで単純に録音し、あとでそれを再生しながら、エフェクトを適用した新しい録音を作ることができるのだ。実際のところ、最初に録音したのがあなたではないとしても、やはりエフェクトを適用できる。ということは、Audio Hijack Pro は驚くほど安価なリマスター・ラボになるのだ。たとえば、私が昔のラジオ番組 Goon Shows の MP3を手に入れたとしよう。それはそれでよいのだが、音を少し甘くして、圧縮にともなう雑音を取り除きたいと思うかもしれない。そこで、MP3 を iTunes で演奏しながら、その音を Audio Hijack Pro で「ハイジャック」して、Excitifier と LowPass のエフェクトを適用する。音を聞きながら、エフェクトのパラメータをいじって、好みの音質にする、そうしたら、MP3 の最初に戻って、Audio Hijack Pro でオリジナルと同じ音質の MP3 に録音するように設定し、通して演奏する。演奏が終わったら、新しい MP3 の音質は少しよくなっているはずだ。(MP3 は不可逆圧縮だから、MP3 を別の MP3 に変換すると、通常は音質が落ちる。でも、この場合は、そもそも原音に忠実である必要はないので、全体としての音質は向上する。)再び最高級の音質について考えるならば、LP レコードから録音した 24-bit AIFF を iTunes で演奏し、イコライザとコンプレッサを少し、最後にディザエフェクトを適用し、16-bit AIFF に録音すれば、あっという間に Audio Hijack Pro でオーディオ CD のマスターができる。(それに加えて、Audio Hijack Pro から直接オーディオCD を焼くことすらできる。)
もちろん、エフェクトを適用し、マスターを作成する方法は、ほかにもある。Amadeus II のようなプログラムでは、オーディオの範囲を選択して、それにエフェクトを直接適用する。つまり、計算が行われて、オーディオが書き換えられる。Audio Hijack Pro のやり方の短所は、エフェクトがライブで適用されるということだ。音にエフェクトをかけるには、それを最初から最後まで再生しなければならない。だから、エフェクトを適用するのに必要な時間は、その音の持続時間になる。しかし、Audio Hijack Pro のやり方の長所もまったく同じところにある。エフェクトがライブで適用されるということだ。これが意味するところは、エフェクトが適用されているときに、それをモニターできるということであり、その場で調節することすら可能だ(たとえば、ある部分では、他の部分よりも少しだけ強くコンプレッサをかけたいと思うかもしれない)。なにより、これほど簡単に複数のエフェクトを平行かつ連続して適用できるアプリケーションで、Audio Hijack Pro ほど安価なものは、ほかには知らない。
音が聞こえるだけでなく -- Audio Hijack Pro には、ほかにも機能や能力が満載されていて、今までの説明ではそれらをほのめかしたことにもならない。2つ以上のアプリケーションが同時に音を出力しているとき、それを(それぞれ別のファイルに向けて)録音でき、あるいは1つをスピーカで聴きながら、もう1つのアプリケーションを録音できる。ある時間が経ったら、録音を自動的に止めることもできる。これは、あなたが電話に出ているあいだにサウンドファイルが巨大になってしまうことを防ぐのに役立つ。Audio Hijack Proが特定のアプリケーションを特定の日時に録音するよう設定することもできる。これは、あなたがジョギングに出かけているあいだに Car Talk の放送をインターネットラジオで録音するのに役立つ。録音しているときに作られるファイルを、一定の時間ごとに、または長い沈黙のところで(たとえばトラックごとに分けるように)、複数のファイルに自動的に分割することもできる。Audio Hijack Pro が録音を始めるとき、サウンドアプリケーションに対して、特定のファイルを開くように(または AppleScript プログラムを走らせるように)指示するよう、設定することもできる。だから、たとえば、RealPlayer が自動的にお好みのインターネットラジオ局に切り替わるように設定することができる。録音が終わったときに AppleScript スクリプトを走らせ、録音されたファイルに後処理を施す(たとえば、iTunes の特定のプレイリストに加える)こともできる。
Audio Hijack Pro ができることすべてを見通してみると、32 ドルというのはお買い得だと思う。このプログラムは、頻繁に改良されている。マニュアルには改善の余地があるが、サポートはすばらしく、役に立つよう開発者によって丹念に管理されているユーザーフォーラムもある。気の利いたデモシステムがあるので、購入する前に試用することができる。登録するまでは、プログラムは普通に動くが、10 分以上録音すると雑音が加わるのだ。ダウンロードは 3 MB に満たない。Audio Hijack Pro には、Mac OS X 10.2.7 かそれ以降が必要だ。
<http://www.rogueamoeba.com/forum/cgi-bin/forumdisplay.cgi?action=topics&forum=Audio+Hijack+Pro+Talk&number=2&DaysPrune=45>
<http://rogueamoeba.com/audiohijackpro/download.php>
文: TidBITS Staff <[email protected]>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>
各話題の下の2つ目のリンクは私たちの Web Crossing サーバでの討論に繋がる。こちらの方がずっと高速のはずた。
WireTap 対 Audio Hijack Pro 新スレッド -- インターネットラジオのストリーム音源や、その他のオーディオを Mac で録音するために使われる人気のプログラム2つを、読者たちが比較する。(メッセージ数 6)
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=2436>
<http://emperor.tidbits.com/TidBITS/Talk/293>
ドメインネームの長期メンテナンス -- 現在のところ、ドメイン名の保守管理は技術に精通した人でなければできないが、インターネットの配管工事に熟練した人でなくても何とか使える部分的解決策はある。(メッセージ数 11)
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=2435>
<http://emperor.tidbits.com/TidBITS/Talk/292>
Mac とテレビの出会い -- コンピュータでテレビ番組を観るというのは、何を意味するのだろうか? そうすることで、何か利点があるのだろうか? (メッセージ数 7)
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=2441>
<http://emperor.tidbits.com/TidBITS/Talk/298>
Mac mini -- Apple の新製品 Mac mini に関する議論は続く。(メッセージ数 93)
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=2428>
<http://emperor.tidbits.com/TidBITS/Talk/288>
有り余った Apple の手持ち現金 -- 前四半期に Apple が記録的な好業績を残したことで、Apple が Mac mini をさらに値下げするのではないか、赤字を覚悟で市場シェアの獲得に向かうのではないか、という憶測が飛び交う。(メッセージ数 18)
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=2434>
<http://emperor.tidbits.com/TidBITS/Talk/291>
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, , 日本語版最終更新:2005年 12月 26日 月曜日, S. HOSOKAWA