TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#843/21-Aug-06

Mac OS X 10.5 Leopard のプレビューについての話題はひとまず落ち着いたようなので、今週は他のいろいろな話題を取り上げよう。Glenn Fleishman は、ピア・ツー・ピアのテクノロジーを巧妙に盛り込んだセキュアなファイル転送サービスを二つ検証する。Matt Neuburg は今年の Worldwide Developer Conference の本質を見据えて痛烈な批判を浴びせ、Apple がどうすればより良い体験を生み出せるかについて提案を述べる。その他の記事では IMAP 電子メールクライアントの Mulberry が無料となったこと、Dell が 410 万台のラップトップのバッテリをリコールしたこと (それが Mac ユーザーにどんな影響を持ち得るか)、それから“Take Control of Syncing in Tiger”のオン・デマンド印刷版が出たことについてお知らせする。Apple のアップデート関係のニュースとしては、MacBook と MacBook Pro 用の重要な修正を施す二つのアップデートと、Logic Pro 7.2.2、Logic Express 7.2.2、それに Boot Camp 1.1 ベータ版のアップデートについてお伝えする。

記事:


本号の TidBITS のスポンサーは:

MacBook と MacBook Pro でアップデートが利用可能に

文: Jeff Carlson <jeffc@tidbits.com>
訳: 田中大一郎 <dtanaka@cba.att.ne.jp>

あなたの新しいラップトップ型 Mac は下品な音を立てていたり、不眠症にかか っていたりしませんか? Apple社は MacBook と MacBook Pro で発生している 二つの明確でイライラする問題に的を絞った二つのアップデートをリリースした。

アップル - サポート - ダウンロード - MacBook SMC Firmware Update ではエントリーレベルのノートブックのファ ン動作を調整し、その内側に潜む牛を静かにさせる。このアップデートは、プ ロセッサの温度を調節するために MacBook のファンが回転を上げたり落とした りを繰り返すことによって発生しているモーという音を明らかに排除する。こ れはファームウェアのアップデートであるため、インストールが途中で中断さ れるような事が無いよう、確認されたい。インストーラは420kのダウンロード であり、 Mac OS X 10.4.7が必要である。またこれは MacBook専用である。

MacBook Pro のオーナーは ExpressCard スロットに何かカードが残されていた 場合にラップトップがスリープ状態に入れない問題を解消する、492kのダウン ロードのアップル - サポート - ダウンロード - ExpressCard Update 1.0をインストールできる。


Logic Pro 7.2.2 と Logic Express 7.2.2 のアップデートリリースされる

文: Jeff Carlson <jeffc@tidbits.com>
訳: 亀岡孝仁 <takkameoka@bellsouth.net>

Apple の新しい Mac Pro に興味のあるミュージシャンは、自分の持っている Logic Pro か Logic Express をバージョン 7.2.2 にアップデートすべきである。これによって Intel Xeon 搭載のデスクトップコンピュータへの対応が可能となる。またこのアップデートで、Mac Pro のアーキテクチャを利用した性能向上が見られ、そして内蔵のオーディオポートに対するサポートも向上する。Logic Pro Update 7.2.2 は 24 MB のダウンロードである;Logic Express Update 7.2.2 は 14 MB のダウンロードとなる。これらのアップデータはそれぞれのプログラムの 7.2.1 バージョンと Mac OS X 10.4.3 かそれ以降を必要とする。


Apple、Boot Camp ベータをアップデート

文: Geoff Duncan <geoff@tidbits.com>
訳: 亀岡孝仁 <takkameoka@bellsouth.net>

Apple の新しい血統となった Intel ベースの Mac 上で非-Macintosh のオペレーティングシステムを走らせる話題は主として Parallels Desktop (Parallels Desktop でスイッチ完了 参照) や VMware のまだリリースされていない製品 (Mac で Windows を走らせる情報三態(もっと、ちょっと・・・なし) 参照) に焦点が当てられているが、この話を公式にした大元である製品発表についても忘れてはいけない:Apple Computer の Boot Camp (Apple、Windows ユーザのために Boot Camp を開く 参照) である。これによって Intel ベースの Mac を再起動することで Windows XP を走らせる事が出来るようになり、Mac OS X 10.5 Leopard には何らかの形で組み込まれる予定になっている。

Apple は先週そのアップル - Boot Campの公開ベータのバージョン 1.1 をリリースした。これによって Apple の最新の Xeon ベースの Mac Pro と Xserve システムへのサポートが追加され、多くのユーザーにとって Windows XP のインストールがより簡便になるパーティションの既設定値が追加され、Windows XP を内蔵のどのディスクにもインストール出来る機能が提供され、そして Apple の iSight カメラと内蔵のマイクへのサポートが組み込まれた。新しいベータでは Apple キーボードへのサポートが改善され (Windows 下で Delete, Print Screen, NumLock, そしてScrollLock キーが使える) そして一つボタンのポインティングデバイスを使っている人のためには Apple キーボード上の一番右にある Command キーを押しながらの右クリックが可能となっている。Boot Camp ベータ 1.1 では、更に多くの小さな問題修正がなされており、それらにはヘッドフォンジャックが使用されている時には内蔵のスピーカがオフとなること、管理者としてログインした時には Windows 下で日時の同期に対するサポート等々がある。

この新しいベータは 202 MB もある;アップデートに関するインストラクション一式も Apple の Web サイトから入手できる。どのベータソフトウェアの場合でもそうだが、あなたのデータのバックアップを早めにそして間隔を短く取ること、そして本当に大事なデータやプロセスを Boot Camp に信用して任せる前に良く考える事をお奨めする。


Dell 4百万台強のバッテリをリコール

文: Geoff Duncan <geoff@tidbits.com>
訳: 亀岡孝仁 <takkameoka@bellsouth.net>

史上最大の消費者用電子機器リコールの一つとなりそうな雲行きの中で、コンピュータメーカの Dell は任意で 4.1百万台にも及ぶバッテリをリコールしている。これらは 01-Apr-04 から 18-Jul-06 迄の 2年ちょっとの間に販売された同社の広範囲なノートブックシステムに搭載されているものである。Dell では Dell Battery Return Program Web サイトを通じて対象となる消費者に対して当該バッテリの無償交換を提供している。

Dell によれば、このリコールの対象となったバッテリは、まれな状況下で過熱する可能性があり、その結果、火災、物的損害、けがの危険性があると言う:同社ではバッテリ過熱による家具や身の回りのものに対する損害を受けたと言う報告を 6件受けている。同社はリコール対象のバッテリによるけがの報告は受けていない。Dell は消費者に対して、代替するバッテリが届くまではリコール対象のバッテリは _使わない_ で、AC アダプタからノートブックに給電するよう言っている。

ではなぜ我々が Dell のバッテリリコールを取り上げるのか?第一に、多くの Mac ユーザーも "この様な他の" コンピュータも使っていて、場合によっては Dell のリコールに直接関係しているかもしれないからである。第二に、リコール対象のバッテリは Dell のために Sony によって製造されたものであり、Sony はこの他に Hewlett-Packard と Apple に対してもバッテリを製造している。HP は、Dell がバッテリをリコールせざるを得なくなった事態による同社の製品への影響はないとしている;現時点では Apple は自社製品に影響を受けるものがあるかどうかの調査中の段階である。Apple は MacBook Pro のバッテリのリコールを 2006年7月末に実行しているが、これは性能に関わるもので、過熱問題によるものではない (Apple、パフォーマンスを理由に MacBook Pro バッテリをリコール 参照)。

[訳注:8月24日に Apple も自発的なリコールを開始するとの届出をしている。対象となるバッテリはやはり Sony 製で、iBook G4 と PowerBook G4 が該当しその数は米国内だけで 1.1百万台とされている。詳細はバッテリー交換プログラム - iBook G4 および PowerBook G4を参照のこと。]


Mulberry Bush の歌で最後のタンゴを

文: Matt Neuburg <matt@tidbits.com>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

IMAP は電子メールを遠隔操作で、あるいは共有して保存できる非常に精巧なプロトコルだ。そして、Mulberry は IMAP クライアントとして、このプロトコルのクライアント側の要件をフルに、しかも非常に注意深く基準に合致するように配慮して作られたものとして定評のあるソフトウェアだ。その IMAP 機能や、その他の追加機能、例えばメールボックスの購読や、並べ替え、スレッド分け、アクセスコントロール、割当て量、ネームスペースなどにとどまらず、Mulberry はまたオンラインモードと非接続モード、POP3、アドレスブックや環境設定の遠隔ストレージ、LDAP、それに遠隔のカレンダー管理やスケジュール管理などもサポートしている。Mulberry はこれまで販売品のアプリケーションとして配付されていた。最初は Cyrusoft International 社が、その後は ISAMET 社が扱っていたが、両社はいずれも去年の末近くに破産went bankrupt してしまった。(どちらのウェブサイトも閉鎖されている。)しかしながら、事の成り行きは驚くべき方向に向かった。Mulberry は、その元々の開発者である Cyrus Daboo の手によって、何とフリーウェアとしてfreeware 再リリースされたのだ。

TidBITS は過去にも Mulberry について書いたことがあるが、ただ詳細なレビュー記事として扱ったことは一度もなかった。私も、今それをするつもりはない。(重要な打ち明け話: 私は 1996 年末から 1997 年にかけて Cyrusoft 社の発足に短期間ながらかなり中心的な位置でかかわりを持っていた。けれども私は間もなくそのプロジェクトから完全に手を引くことになった。)個人的な意見を言わせてもらえば、私は Mulberry のインターフェイスを全体としてとにかくイライラさせられるものだと思う。けれども私は IMAP ユーザーではないので、私としては Mulberry が提供するようなさまざまの機能や複雑度は必要でない。だから、本当のところ私はこのプログラムの善し悪しを判断できる状況にはいないのだ。どなたか、良い IMAP クライアントを本当に必要としている方ならば、Mulberry をじっくり調べてみる価値があると思われるかもしれない。

Mulberry には Mac OS X 10.3 かそれ以降、Windows、それに Linux 用のものがある。ダウンロード[13] のサイズは 12.1 MB だ。このプログラムの開発は公式に終了したことになっているので、今後 Mulberry が Universal Binary となるのは期待できないとは思うが、でも未来のことはわからない...


DealBITS 抽選: lynda.com の Online Training Library の当選者

文: Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

先週の DealBITS 抽選: lynda.com の Online Training Library で見事に当選し、lynda.com の lynda.com's Online Training Library の年間 premium 購読($375 相当)を受け取ることになったのは wcnet.org の Douglas Hoffman だ。おめでとう! 残念ながら当選しなかった皆さんも、どうぞ気を落とさずに。lynda.com ではすべての TidBITS 読者を対象に Online Training Library の一年間 premium 購読を特別に $125 値引きしている。$375 の定価が $250 になるわけだ。この値引きは 2006 年 8 月 30 日までの限定で、サインアップsigning up の際にクーポンコード TDBTS06 を使えば受けられる。今回の DealBITS 抽選に応募して下さった皆さんに感謝するとともに、これからも多くの方々に参加して頂ければと願っている。今回応募された 1,000 人の皆さん、どうもありがとう。また今後の DealBITS 抽選もお楽しみに!


WWDC の凋落

文: Matt Neuburg <matt@tidbits.com>
訳: 羽鳥公士郎 <hatori@ousaan.com>

Apple にとって最も重要な顧客は誰だろうか。「私!」と言うなら、以下のことを考えてほしい。ソフトウェア(アプリケーション、環境設定パネル、ユーティリティなどすべて)がなければ、あなたの Mac も、やたらに高価なドアストッパーにしかならないだろう。そして、ソフトウェアというものは、木になるものではない。人が書くものだ。そのような人のことをソフトウェア開発者という。そういうわけで、もちろんエンドユーザは重要なのだが、ソフトウェア開発者がいなければ、ユーザが使うべき何物も存在しないことになる。

そして、ここを間違えてほしくないのだが、Apple のソフトウェア開発者は、Apple の顧客でもある。彼らは皆、少なくとも1台の Mac を必要としているし、オペレーティングシステムの変更に遅れず対応する必要がある。アプリケーションを書くためのツールは、今では無料となった(Steve Jobs がApple に復帰し、Mac OS X が出現して以来始まった、目覚ましい改革の1つだ)が、多くの開発者が、Apple Developer Connection で何らかのレベルの有料プログラムに加入しているMembership。それに、Apple 開発者は常に Apple に目を向けている。開発者向けウェブサイトApple Developer Connectionを日に数十回も訪れ、サンプルをダウンロードしたり、質問をしたり、メーリングリストに集ったり、バグレポートを送信したりしている。そして、数千もの、本当に筋金入りで、金銭的に余裕があり、人間的な交流を求めている開発者たちが、Apple が年1回開いている WWDC 2006(WWDC)に姿を見せる。

WWDC は Apple にとって、支持母体たる開発者と直接コミュニケーションをとるための、最も重要な手段だ。オペレーティングシステムや、ソフトウェア開発者がアプリケーションを書くのに使っているプログラミングインタフェースを実際に保守している Apple の従業員が、毎年数日間を、大勢の開発者の前に立って過ごす。Apple の将来の計画や方向性を(機密保持契約の下で)説明したり、Mac を効率的にプログラミングする方法を広範かつ詳細に講釈したり、手厳しい提案や批判におとなしく耳を傾けたりする。加えて、コンピュータで満杯の部屋に開発者がコードを持参すれば、直面している特定の問題や作業について、その場で1行ごとに助言を受けることができる。これは実に濃い体験だ。建物の外に出る間もなく、レクチャーやラボで休みなしの 10 時間を過ごし、それを3日間連続で続けるという開発者も多い。(WWDC は、現在は最初に基調講演が1日あり、3日半の日程になっている。)

そういうわけなので、WWDC が参加者にとって毎年毎年不快になってゆくのを見るのは痛ましいことだ。私たちは毎年、こう言いあっている。「ああ、本当にひどくなった。でも、これ以上悪くなることはないだろうさ。」そして現実は、毎年悪くなっている。私はここで、内容の価値や妥当性について言っているのではない。そのようなことについて言えば、大抵の場合最高だ。ただし、もちろん、Apple の精神状態や方向性の確かさといった内部要因によって、あるいはまた、たまたまそのときのタイミングによって、年によってばらつきがあるが。(例えば 1996 年の WWDC は、Gil Amelio 率いる Apple に何の現状認識も将来の見通しもなかったため、その年に語られたことは根も葉もないでたらめで、全く時間と費用の無駄であった。今年の WWDC は、それよりははるかにましであったが、オペレーティングシステムの次のリリースがだいぶ先なので、Apple は開発中の機能について未確定なことや当て推量を多く述べるほかなく、昨年と比べると有益さがわずかに劣った。)私がここで言いたいことは、そういうことではなくて、もっと現世的な心遣い、つまり、記念品や食事、運営実務のことだ。

近年の WWDC で白眉といえば、2003 年のものだ。Apple は会場を、人里離れたつまらないSan Jose McEnery Convention Center から、San Francisco の素晴らしいダウンタウンにある Moscone Center の西ウイングに移した。参加者には素敵なポートフォリオバッグ(私は今も使っている)と、当時販売されていたオペレーティングシステムが1本、そして豪華なハードウェアが1点(iSight だ!)が配られた。食事も申し分なく(温かい朝食と昼食がおいしかった)、講演の合間には無料のジュースと果物、そしてもちろん最高のコーヒーがたくさんふるまわれた。

それに対し、今年はと言えば、記念品は私が知る限り最も安っぽいポートフォリオバッグ(ペラペラでクッションもなく、仕切りもほとんどなく、ジッパーは安物で、紐がへんてこな位置についている)と、薄汚いトラベルマグ、そして間違ったラテン語の書かれたTシャツだ。(実は、私は長年ラテン語の教師を勤めた。私に聞いてくれればよかったのに。)ハードウェアもなければ、現在販売中のソフトウェアもない。昼食はプラスチックの容器に入ったプラスチックのサラダとプラスチックのサンドイッチで、朝食は姿が見当たらなかった。講演の合間のスナックは干からびたペストリーだ。ある晩にふるまわれたものは、ピザのつもりだったらしいが、あまりにひどい代物だったので、参加者は、文字通り目をみはり息をのんだ。無料の Odwalla ジュースはあったが、おいしい Odwalla ジュースはなかった。どれも砂糖を添加した混合飲料で、誰も買いたいと思わないようなものだった。すべての参加者は、制服を着た集団(私たちは "seat Nazis"(座席ナチ)と呼ぶようになった)によって講義室に押し込められ、好きな席に座ろうとしても、あっちに行け、こっちに来いと叫ばれる始末だった。

結局問題は何かと言えば、WWDC がこんな有様では、まるでぼったくりのように思えてしまうということだ。参加するのは高くつく(もちろん飛行機代や宿泊費も必要だ)というのに、実際の体験は安っぽくて耐え難く感じられる。そんな風になる必然性はないのだ。今年の WWDC には 4200 人を越える参加者があり、これは過去最高だ。だから、Apple がこの会議自体の資金繰りに困るなどということはない。参加費は条件によって異なるが、正式な金額は1人あたり 1,600 ドルだ(早期申し込みの割引がある)。Moscone Center の使用料や、講演や録音の機材や運営の費用があまりに高すぎて、Apple が記念品や食事という形で還元するだけの資金が残らないなどということが、本当にありうるのだろうか。(これだけの人数がいれば、例えば本当によいポートフォリオバッグでも、1個あたり 20 ドルもかからない。)

このようなことに不平を述べるのは、些細なことに愚痴をこぼしているように聞こえるかもしれない。確かにその通りだ。しかし、この細かいことこそ、積み重なって、WWDC が快適な体験となるのか不快な体験となるのかの分かれ目になるのだ。そして、不快な体験が3日半続くとなれば、あっという間に不快の度も増すというものだ。また、このように WWDC の表面的な品質が低下しているということであれば、それが Apple の開発者に対する態度を何かしら暗示しているのではないかという疑念も生じる。かつての Apple は、開発者たちは Macintosh ユーザビリティの最前線に立つ創造者だとして、敬意を表していた。それが今では、開発者はねずみのえさのような食事を供され、牛を駆り立てるかのようにあしらわれている。Apple は本当にこのようなメッセージを送ろうとしているのだろうか。


Civil Netizen と Pando でセキュアなファイル転送

文: Glenn Fleishman <glenn@tidbits.com>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

二人の人の間でファイルを転送するのは、とてつもなく困難な作業になることがある。電子メールで送るのは完璧に合理的な方法に思えるが、送信・受信の双方でメッセージへのファイル添付に制限が付くことがある。また例えば FTP のようなファイル共有テクノロジーを使うには、ドロップボックスか、または何らかのアカウントを設定することが必要になる。あなた自身のコンピュータを(例えば AppleShare を走らせて)サーバとして使おうと思えば到達可能な IP アドレスが必要で、これは必ずしも気軽に手に入るものとは限らない。

そこで二つの新しいサービス、Civil Netizen と Pando が、ピア・ツー・ピア (P2P) のテクニックを使ってデータをセキュアにインターネット上へと送り出し、ファイルの転送が手軽にできるようにしようと目論んでいる。どちらも現在はベータテストの段階だ。Civil Netizen の方は、個別の接続ごとに、コンピュータを一時的にピア・ツー・ピアのサーファーに変える。Pando の方は、時間制限付きながら分散 P2P 特性を持った中央保管所として動作し(テストの間は)最大 1 GB までのサイズのファイルを扱うことができる。

どちらのサービスも現在は無料で使える。どちらの開発者も、将来料金を課す予定を今のところは考えていないという。ただし、Pando はスポンサーによる広告をもとにバンド幅の支払いに充てる可能性があるし、このテクノロジーを他社にライセンス供与することも考えている。Civil Netizen の方は、料金を伴わないオープンソースのプロジェクトだ。

Civil Netizen -- 「ピア・ツー・ピアのファイル共有」という言葉は、無情な扱いを受けてきた。一般的な使い方として、この言葉には著作権の付いたものを非合法に転送するとか、あるいはその行為に密接な関係のある何かを意味するのが常だった。けれども、普通のコンピュータを使ってファイルを転送する人同士は実際ピアと呼ばれるべきであるのだし、Civil Engines Research 社もこのプロジェクトに Civil Netizen という名前を選んだ際にそのことを意識していた。

Civil Netizen をインストールする時、あなたはサーバを設定するのではない。そうではなくて、あなたは特定の P2P エンジンを作り出して、それが特定の時だけ、正しい呼び出しに反応してのみ、動作するようにするのだ。

Civil Netizen では、あなたは一個あるいは複数個のファイルやフォルダを選んでから“parcel”(小包)というものを作る。この小包には配達伝票に相当するデータが附随している。これは見かけ上はそれと分からないように加工された一連のデータだ。この小包を直接宛先に転送する代わりに、このプログラムはあなたのデフォルトの電子メールアプリケーションに指示して、その配達伝票のデータのみを電子メールで送信させる。(この配達伝票のデータをクリップボードにコピーして、iChat のようなプログラムにペーストしたり、あなたのデスクトップのファイルに保存したりといったこともできる。)

この小包が Civil Netizen 内で利用可能である(Civil Netizen が走り続けている必要がある)限りにおいて、その配達伝票のデータを受け取った人は誰でもそのファイルを取り寄せることができる。後の参照のためにそのファイル転送のログが残される。Civil Netizen は一般のファイルを転送することは許さない。他の Civil Netizen ユーザーたちが入手できるのは小包のみで、しかもそれは該当する配達伝票のデータを持っている人だけに許されるのだ。

受取人の側が小包を取り寄せようとして、あなたが送っておいた配達伝票のデータをその人の側の Civil Netizen にロードさせると、彼らのソフトウェアの方からあなたのコンピュータに接続が開始され、小包の転送が行なわれ、それが彼らのコンピュータに保存されることになる。Civil Engines Research 社ではこれらの配達伝票のために中央ストレージシステムを使っているが、接続のうちこの部分のみが P2P 方式以外のやり方で保管されているところだ。あなたは複数の人たちにあてて配達伝票を送ることもできるし、あなたが自分のところで Civil Netizen 内にその小包を利用可能な状態に保っている限り、その人たちはダウンロードできる。しかしながら、配達伝票を持っているその人が正当な受取人かどうかを確かめる術はない。

Civil Netizen は転送の際にデータの暗号化のためにかなり頑丈な方式を使っている。128-bit AES (Advanced Encryption System) のセッション鍵を採用しており、これはかなり強いものとされている。鍵の受け渡しには傍受に備えての Diffie-Hellman 鍵交換 が使われる。しかしながら、通信の双方側ともに割り込んでくる中間者攻撃 がされていないかどうかをチェックするための認証ステップまでは、この開発者たちは使っていない。

たいていのユーザーにとってこのような盗聴を受ける可能性がいくら低いとしても、認証ステップが欠けているのならば Diffie-Hellman は信頼できるものとは言えない。私が開発者の一人に尋ねてみたところ、彼は会社としてはユーザ登録を用意することで、通信外の方法を通じて必要な認証が提供できるようにしたいと考えていると述べた。私に言わせれば、これは「邪悪な独裁者」の問題だ。つまり、認証が無いのならば、あなたはきちんと保護されているが、ただしそれは政府レベルで国民の通信を傍受しようという意図がある場合には何の保護にもならない。認証というものは、誰と誰がデータを転送しているのかという情報が知られるのを防ぐことはできないが、それでも小包の内容に関しては(今日の標準に照らして)非常に高いレベルのセキュリティを提供できるだろう。

Civil Netizen は現在 Mac 用と Windows 用に beta 4 版が出ており、同社は Linux クライアントを出すことも予定している。これはオープンソースのプロジェクトなので、さらに他のプラットフォーム用、あるいは Mac や Windows 用の別のバージョンのクライアントも出てくる可能性がある。

Pando -- Pando Networks 社のPando は、ファイルがどこに保管されるかという点に関して全く違ったアプローチを採用している。一見しただけではこれはハブ&スポークのシステムにファイルの中央保管所を組み合わせたもののように思えるが、実はここに P2P による一捻りが加えられているのだ。

Mac 用のソフトウェアをダウンロードしたら、あなたは一個あるいは複数個のファイルやフォルダからなる新しい小包が作れて、それから受取人たちの電子メールアドレスを入力する。Pando クライアントはあなたのファイルを小包に仕立てた後、それを Pando Networks のサーバにアップロードし、それから受取人たちに電子メールで通知を送る。すると、受取人たちはそのメールに添付された .pando ファイルを自分の側にある Pando アプリケーションで開くことで、その小包ファイルがダウンロードできる。

ここからが Pando のアプローチ方法の面白くなるところだ。単純にファイルサーバとなる代わりに、Pando は BitTorrent とよく似た P2P テクノロジーを使ってダウンロードを高速化する。つまり、受取人の Pando クライアントがデータを取り寄せる際に、Pando サーバ(supernode と呼ばれる)からも、あなたのコンピュータ(そのファイル用の一つの P2P ノードとして動作する)からも、また既にそのファイル(またはその一部分)をダウンロードした他の受取人で、Pando を走らせていてまだそのファイルを動かしていない人からも、取り寄せられるようにするのだ。

このソフトウェアは直観的で使いやすい。Pando 社はそれぞれのファイルを、それがポストされて受取人たちに通知された日から 14 日間だけ、自社の supernode に保存しておく。このベータテストの期間中、個々の小包のサイズは 1 GB までとなっている。(漏れ聞いたところではベータテスト期間が終わればこの制限がもっと大きなサイズにまで引き上げられるという話だが、会社からはまだそれを約束する発表は出ていない。)その 14 日間が経過した後は、その小包は走り続けている Pando クライアントでまだそのファイルを持っているところならばどこからでも取り寄せることができる。

これはなかなか面白い一捻りだ。あなたは巨大なファイル、例えばあなたが作ったビデオ映画のようなものを、何百人もの受取人に送ることができ、それでいてその人たち全員が、当初における Pando のサーバでの高速ファイル供給に加えて、そこから派生した多数の Pando クライアントを持つダウンローダーたちによる大移動の効果も、享受することができるからだ。けれども最初の 14 日間が過ぎた後は、Pando 社がそのファイルを取り下げることであとで大量のバンド幅のコストが生ずるのを予防する一方、他の受取人たちの大部分もまた、次のことに興味を移してしまっており、もはやその大移動に参加することを止めてしまっているだろう。

Pando の使う暗号化モデルは Civil Netizen のものよりも少しだけ頑健度が高い。開発者たちは 256-bit 版の AES を選択した、とこの会社は電子メールで述べていたが、ただ会社の出した FAQ によれば Pando は 128-bit の暗号化を使っていることになっている。それ以外のすべての Pando クライアントと会社のサーバ間の通信は認証機関の証明を受けた SSL/TLS を使って行なわれるので、不正手段は予防されている。

しかしながら、.pando ファイル自体は暗号化されずに送られ、取り寄せたファイルを暗号解読するために必要なセキュリティ鍵も、そこに含まれている。だから、この .pando ファイルを持った人ならば誰でも、それ以上何の認証も確認も受けることなく同じデータを取り寄せることができてしまう。

メールの添付ファイルという世界を変える -- Civil Netizen と Pando が双方とも輝いて見える点は、現在電子メールの添付ファイルを使って行なわれている一回きりのファイル転送という醜い世界を回避しているところだ。確かに MIME (Multipurpose Internet Mail Extensions) というもののお陰で、さまざまの電子メールサービスやクライアントを通じてかなり信頼できる方法で手軽に添付ファイルが送れるようになって久しいが、その一方で電子メールサービスを提供している会社の多くが添付ファイルのサイズに制限を設けているのも事実だ。

無料の電子メールサービスの多くは、一通のメッセージごとに添付ファイルの合計サイズを 2 MB から 10 MB 程度まで送受信することを許している。サービスによっては一月の、あるいは一日の、ものによっては一時間での添付ファイルの総量に制限を設けているところもある。よりハイエンドのサービスでは添付ファイルの制限を次第に大きなものまで許す傾向にあり、数十メガバイトまで許されるところまで出てきているが、それでも制限があることは事実なので、あなたは常にそのことを忘れずにチェックしていなければならない。

その上、電子メールサーバというものはあまり巨大なファイルを扱うことを考慮してデザインされている訳ではない。添付ファイルのサイズが制限内であっても止まってしまうものさえある。メールサーバから巨大なファイルを取り込むのは、同程度のファイルサーバから取り込む場合に比べて(そのメールサーバとファイルサーバのソフトウェアが同じハードウェアの上で走っている場合でさえも)かなり長い時間がかかることも多い。

Pando はその方向に向けた第一歩として、サイズの大きな電子メール添付ファイルに代わるべく Pando が使えるようにするための Microsoft Outlook 2003 プラグイン を計画している。これら両製品の性格を考えれば、私としては他の人気ある Macintosh 電子メールクライアントや、その他の Windows 電子メールクライアントなどについてもプラグインが作られるようになれば、と願わざるを得ない。

私はまた、受取人指定機能も望みたい。例えば私があるファイルを Adam Engst に宛てて送りたいとして、単にファイルをいくつか選んでそれを Adam のアイコンの上に、デスクトップ上で、あるいはプログラム内であっても、ドラッグするだけで送れるようになればと思う。もしも Adam があらかじめ私に認可を与えていたら、どちらのパッケージにしろ、彼のところにあるそのプログラムが余分な面倒もなしに、私の送ろうとしたファイルを自動的にダウンロードした上で彼にその旨通知してくれることだろう。この種の信頼関係は、これらのプログラムとそれをサポートするシステムによって十分実現可能なものだと思われるし、一般的なユーザーが今日ファイルの転送に際して直面するたくさんの面倒事を排除してくれることになるだろう。

そうは言うものの、私が"Take Control of Sharing Files in Panther" を書いていた時や、その後Take Control : Tiger でのファイル共有を書いた時、私はファイル共有を実際に動かそうとすれば細々とした所にこそ悪魔が潜んでいるものだということを実感した。数人の人々が共通の一連のファイルを必要としているような場合は、やはり AppleShare、Samba、 WebDAV、あるいは FTP のようなファイルサービスが今でも一番頼りになる方法だろう。そういう場合には、一つの場所にあって常時入手可能で、いつもアップデートされているようなファイル供給源が望ましいからだ。

それから、ソフトウェア会社やその他の組織が大量のファイルを、あるいはいくつかの巨大なファイルを配付したいような場合は、やはり FTP と HTTP のダウンロードこそが今でも最適の方法だろう。なぜなら、Pando がてこ入れの効果を発揮できる、分散 P2P の大移動のごとき挙動の利点が現われるためには、配付の初期に理想的な形でユーザーたちがダウンロードしファイルを保管していなければならない訳で、現実問題としてはソフトウェアの新リリースのようなごくまれな状況を除いてその可能性は低いからだ。

しかしながら、現状のファイル保管のさまざまな方法や P2P をすべて乗り越え、さらにその過程でファイル取込みの効率を増やすとともにその作業に伴うフラストレーションを減らすこともできる、この新しい方法に素晴らしい活躍の余地があるということだけは確かなことだ。


Take Control ニュース/21-Aug-06

文: Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
訳: 羽鳥公士郎 <hatori@ousaan.com>

"Take Control of Syncing in Tiger" 印刷版の提供開始 -- Michael E. Cohen の "Take Control of Syncing in Tiger"印刷版をお待ちいただいていた皆さま、お待たせしました。QOOP からの最終テスト版が無事に届き、それは見事なできばえだった。そこで、ついに注文をしていただけるようになった。価格はページ単価になるので、この本は 135 ページだから、白黒で12 ドル、カラーだと 33 ドルになる。オンデマンド印刷の注文リンクにアクセスするには、これまでと同様、電子ブックにある Check for Updates ボタンをクリックすればよい。オンデマンド印刷版がどのようなものか知りたい人には、 より詳しい情報や写真を用意した。ご感想をぜひお寄せください。


TidBITS Talk/21-Aug-06 のホットな話題

文: TidBITS Staff <editors@tidbits.com>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Visual Basic プロセッサ戦争のまきぞえに -- Microsoft の Visual Basic on the Mac が消え行くことについて書いた Matt Neuburg の記事に対して、Visual Basic や Virtual PC の有益さについての議論が盛り上がった。 32 メッセージ

Leopard 欲しい物リスト -- Apple による Mac OS X 10.5 Leopard のプレビューは、次期オペレーティングシステムに対するあなたの願いを満たしてくれただろうか? TidBITS 読者たちがそれぞれのアイデアを持ち寄って議論する。 43 メッセージ

iTunes サーバ -- iTunes を使って一つのコンピュータから音楽ファイルの同じセットを皆で共有するというものだが、そこにアクセスする人の一人一人がそれぞれ独自のプレイリストや曲のレーティングを持ちたい場合にはどうすればよいか? 4 メッセージ

Retrospect で DVD に - 速度はどうなる? -- あなたがバックアップ用に使う DVD のタイプによって、Retrospect の書き込み速度に違いが出てくる。 8 メッセージ

古くなってきた CD-R からオーディオを回収 -- 数年前にあなたが夢中になって焼いたオーディオ CD を覚えてる? これだけ時間が経てば、ちゃんと内容が保持されているかどうか疑問だろう。これらの CD からオーディオをうまく引き出すには、どうすればよいのか?5 メッセージ

AOL が値下げ、5 GB の無料ストレージを提供 -- AOL の新しい価格体系について書いた Glenn Fleishman の記事をきっかけに、オンラインビデオやビデオ iPod の販売について少し考えてみた。 2 メッセージ



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