文: Adam C. Engst <[email protected]>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>
良い名刺を作るというのはなかなか興味深い作業だ。一定の情報を必ず盛り込まなければならない上に、そのために利用できるスペースが極めて限られた狭い範囲しかない。それでいてあなたの名刺が他のものとは一味違う仕上がりになるようにしたいからだ。長年にわたり、私たちはさまざまのプログラムで名刺を作ってきたが、最近になってこれはというものに出会うことができた。それが、BeLight Software の Business Card Composer だ。旧バージョンながら Joe Kissell が既に彼の TidBITS 用および Take Control 名刺名刺デザインソフトウェアを比較する を作るのに使っている。これはなかなか良く出来たアプリケーションで、バージョン 4.0 になって BeLight Software は 100 個以上の新しいデザインを追加し、Merge Image 機能を装備して Address Book や iPhoto、さらには Finder からも画像が取り込めるようにし、シャドウの調整のサポートを追加するとともにテキスト編集機能も改善した。
そこで、今週の DealBITS 抽選では Business Card Composer 4.0 Business Card Composer 4.0 を3本、賞品にする。それぞれ定価 $34.95 相当の製品だ。幸運が足りずに当選から漏れた応募者にも Business Card Composer の割引価格の資格が贈られるので、ぜひ奮って下記リンクの DealBITS ページで応募して頂きたい。寄せられた情報のすべては TidBITS の包括的プライバシー規約の下で扱われる。どうかご自分のスパムフィルターに注意されたい。当選したかどうかをお知らせする私のアドレスからのメールを、あなたに受け取って頂くのだから。また、もしもあなたがこの抽選を紹介して下さった方が当選すれば、紹介に対するお礼としてあなたの手にも同じ賞品が届くことになるのもお忘れなく。
[訳注: 応募期間は 11:59 PM PDT, 03-Sep-2006 まで、つまり日本時間で 9 月 4 日(月曜日)の午後 4 時頃までとなっています。]
文: Jeff Carlson <[email protected]>
訳: 田中大一郎 <dtanaka@cba.att.ne.jp>
Apple社は先週、過熱の恐れがあるとして180万個に及ぶ iBook G4 と PowerBook G4 のバッテリを自主回収するとアナウンスしたバッテリー交換プログラム - iBook G4 および PowerBook G4。当該のリチウムイオンバッテリは Sony により製造されたものであり、先日 Dell 社によって回収されたバッテリと同列のものである(Dell 4百万台強のバッテリをリコール 21-Aug-06 参照)。このバッテリは2003年10月から 2006年の8月にかけて販売されたものである。
当該バッテリは次のものである。
12 インチ iBook G4 でバッテリの型番が A1061、かつシリアル番号が ZZ338 から ZZ427、および 3K429 から 3K611、6C519 から 6C552 のもの(末尾が S9WA、または S9WC、S9WD のもの)。
12 インチ PowerBook G4 でバッテリの型番が A1079、かつシリアル番号が ZZ411 から ZZ427、および 3K428 から 3K611 のもの。
15 インチ PowerBook G4 でバッテリの型番が A1078および A1148、かつシリアル番号が 3K425 から 3K601、および 6N530 から 6N551 のもの(末尾が THTA、または THTB、THTC のもの)、6N01 のもの(末尾が THTC のもの)。
もしあなたが当該バッテリを持っているのであれば、Apple 社では直ちに使用をやめ(ラップトップ自体はバッテリなしでも電源コードにて使うことができる)、バッテリー交換プログラム - iBook G4 および PowerBook G4Web ペー ジ より交換の申し込みを行うよう推奨している。このプログラムはこの web サイトを通してのみ管理されているので、バッテリをアップルストアや正規販売店には持って行かないようご注意いただきたい。Apple 社では、新しい バッテリは 4 から 6 週間で手元に届く、としている。
このアナウンスの後、主に、シリアル番号が公表されている範囲にあるのに承認されないという事象で、一部の人達は Apple 社の web の様式でトラブルに遭っている。色々レポートをみてみると、アナウンス直後から数日間はうまく行かなかったが、その後は Apple 社が様式をチェックするコードのバグを修正したため、うまく動いているようだ。もしあなたが未だこの幸運に恵まれていないなら、 Apple 社へ電話しアップル - サポート - AppleCare サービス&サポートライン、マニュアルでシリアル番号を受け付けてくれる人を探すことも可能だ。公表された範囲の全てのバッテリが Sony 製ではなく、全てが当該品ではないことに留意されたい(このために現在は「末尾が 〜」というより限定的な言葉が付けられているのかもしれない)。
米国 Consumer Product Safety Commission が公表している情報によれ ば、「 Apple 社では、2件の過熱したコンピュータでの軽微な火傷、その他の 軽微な機器損傷を含む9件のバッテリ過熱関連報告を受けている。重大な怪我 などは報告されていない。」とのことである。
Sony ではこの Dell 社と Apple 社のバッテリ回収に1億7200万ドルから 2億 5800ドル程度に費用を見込んでおり、そしてたとえこの回収が Apple 社の収益 額を損なう事がないとしても不信感は残り、この欠陥が Sony によるものであることに気づかない人達に噂は広まるだろう。
文: Geoff Duncan <[email protected]>
訳: 亀岡孝仁 <takkameoka@bellsouth.net>
Apple Computer は Creative Technologies に対して $100 million を支払うことで両社間の全ての法的な争いに関して和解をしたと発表した。これで今や同社のアイコン的存在となった iPod 音楽プレーヤの将来に影を落とす暗雲の一つが払いのけられたこととなる。この支払いにより Apple は Creative の "Zen" と呼ばれるパテントを同社の全ての製品に使える一括払いのライセンスを取得する;この和解の合意内容によれば、Creative がこの Zen パテントを他の会社にライセンスできた時には Apple はその一部のお金を取り戻すことが出来る。
Creative が Apple に対して訴訟を起こしたのは 2006年5月 になってからであり、これはポータブル機器上での音楽トラックを整理しナビゲートすることに関する特許が受諾されてから 10ヶ月もたってからのことであった。Creative が最初にこの特許を申請したのは 2001年1月であり、同社はこの時最初の Nomad と Zen 音楽プレーヤをデビューさせている。Apple が最初の iPod を出したのは 2001年10月である。しかしながら Creative の特許申請が U.S. Patent and Trademark Office の審査を通過したのは 2005年8月になってからである。
この合意で iPod の将来に関わる疑念 (訴訟の一環として Creative は iPod の米国への輸入を差し止めを要請していた [訳注:全ての iPod は中国で組立てられ世界中に出荷されている]) が取り除かれただけではなく、Creative にとっても長期化するそして膨大な金額のかかる特許論争を避けられるメリットがある。同社は Apple に対する訴訟内容を証明しなければならない責務を負っている時に、Apple は Creative が Apple の特許を侵害しているとして 2件の訴訟を同時に起こしていた。この和解で両社間の全ての訴訟は破棄されることとなるであろうが、そして - 更に重要なことに - Apple はパートナーを得ることになるのである。Creative は Apple の "Made for iPod" プログラムに参加する計画で年内には自社製の iPod アクセサリの生産を開始する。
文: Glenn Fleishman <[email protected]>
訳: 羽鳥公士郎 <hatori@ousaan.com>
2週間前の Black Hat 2006 会議で公開されたビデオの中で David Maynor とJon Ellch が実証してみせた Wi-Fi 脆弱性について、Apple の広報責任者Lynn Fox は、Apple 製ソフトウェアおよび Apple 製機器のファームウェアに欠陥があることを示すものではないと述べた(07-Aug-06 の 無線ドライバハックは Mac と Windows を標的にするか 参照)。Apple は、Macworld をはじめとする各メディアに対し、実証された攻撃はサードパーティ製 Wi-Fi USB アダプタ用の無線ドライバを利用したものだと語った。このドライバもチップも、Mac OS X や MacBook で Apple が使用しているものとは異なっている。
さらに、Apple は現在販売中のハードウェアおよびソフトウェアに欠陥があることを示すコードや実例を知らされていないと Fox は述べた。両研究者は、彼らがサービスを提供しているコンサルティングサイト SecureWorks のページにあるメッセージを変更し、彼らの実証に Apple のコードは使用されていなかったと明言している。チップメーカーの Atheros も、Security Fix の Brian Krebs に対し、同社がその時点までに入手した情報から判断する限り、同社の製品にも危険性がないと考えられるという声明を発した。
このハックを発表した2人の研究者は、複数のメーカーの無線ドライバがデータをオペレーティングシステムに渡す方法に欠陥があり、そのためマシンを乗っ取り任意のコードを実行するという攻撃が可能だと言っている。任意のコードが実行できれば、攻撃を受けたシステムは、ルートまたはシステム所有者としてのコンピュータへのアクセスを許可してしまう。7 月には、Intelが、多くのメーカーのラップトップに搭載されている同社の Centrino Wi-Fiアダプタについて、この種の問題を修正するパッチをリリースした。ただし、Maynor と Ellch は、この修正は彼らの研究の結果ではないと述べている。
クラッカーがこのレベルのアクセス権を手に入れれば、「ボット」ソフトウェアをインストールすることができる。これに感染したコンピュータは、スパム戦争やサービス妨害戦争における、遠隔操作可能な兵士と化す。ボットは今や、インターネットにおける最大の問題だと目されている。数百万のコンピュータが、まるで潜伏細胞のように、攻撃をしようと思ったときにはいつでも動員可能となっているからだ。
Apple の否定に対し、賛否両論の小さな嵐が巻き起こっている。それには2つの理由がある。記者やブロガーの中には、Maynor や Ellch から、まだ公式な場には出ていない情報を知らされた人たちがいる。一方、Apple は、脆弱性を極めて注意深く否定している。
私の現時点での見解を述べれば、Maynor と Ellch が MacBook と MacBook Pro に内蔵されている Wi-Fi ドライバにセキュリティ上の欠陥を見つけたという可能性は高い。Apple が、脆弱性の「証拠」が何1つ見あたらないという声明を発表しているということは、両者はその欠陥をまだ Apple に知らせていないということだろう。そうだとすると、Maynor と Ellch は、自分たちの気づかぬうちに、はからずも Brian Krebs に詳細な情報を提供してしまい、Apple が応答するまではだんまりを決め込んでいる。とにかく、経過を見守ろう。
この件に関しては、多くの見解を読むことができる。 ZDNet の George Ou(彼は非公開の情報を持っている)、 Daring Fireball の John Gruber(彼は非公開の情報を持っていない)、セキュリティ専門家 Rich Mogull の個人ブログ(彼は自分のすべてを明かしている)、Wi-Fi 専門家 Jim Thompson(彼はこの脆弱性を手足から爪の先までばらばらに分解した)、そして Crazy Apple Rumors Site の John Moltz(彼は話をでっち上げる)だ。
文: Adam C. Engst <[email protected]>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>
二ヵ月ほど前、私は Oxford English Dictionary や Merriam-Webster Collegiate Dictionary といった辞書の編集者たちが“Google”という単語を動詞として辞書に加えるようになったことについて書いた。(10-Jul-06 号の記事“Google、動詞となる”を参照。)その記事で、私は商標関係の法律家たち(少なくとも Google 社内の者たち)はきっとこれを歓迎しないだろうと述べた。たとえ基本的に Google のための無料の広告となるとしても、このことは Google の商標名の持つ価値を薄めてしまうからだ。当然ながら彼らが恐れるのは、もしもこの商標名が日常的に使われるようになれば、商標権の所有者はこれを保護する能力を手放さざるを得ないということだ。
そして、私の予想は正しかった。 The Independent のごく短い記事 によれば、Google はいくつかのメディア企業に対して、その名前を動詞として使用しないようにと警告する、こわもての書面を送りつけたという。(ただし、わが TidBITS にはまだ何も届いていないが。)このニュースは他のサイトでも紹介されているが、いつも通り Google は口が固く、はっきりした情報はほとんど明らかにされていない。Google はそのような書面を送ったことだけは認めており、ある場所で次のように述べている。「われわれは、インターネットを Google を使って検索することを言い表わすのに Google という単語を使用することと、インターネットを検索することを言い表わすのに Google という単語を使用することとの間に、はっきりとした区別をつけるのが非常に重要だと考えている。これは重大な商標の問題を含んでいる。」
私は“Google verb legal letters”で google してみた。その検索結果の中で一番面白かった記事はたぶんこれだろう。これは American Dialect Society Mailing List に Frank Abate がポストした記事で、その中で彼は、人々が小文字の“google”を動詞として使ったとしても Google にはどうすることもできないと論じている。その理由は、アメリカ合衆国の商標法によれば動詞についての占有権が明示的に除外されているからだ。(名詞も同様で、占有権が認められるのは固有名についての形容詞用法だ。)商標名の「正しい」使用法が固有名の形容詞用法(例えば「Xerox 複写機」)を含んでいるという事実に多くの支持が集まっていることは現実的に確かだが、そうかと言ってその会社が商標名の名詞あるいは動詞としての使用を阻止しようと試みたとしても、必ずしもそれに法律的根拠が薄弱だと言えるとまでは確認できなかった。ところで、さきほどの話に戻ると、Frank Abate のメーリングリストへのポストがなぜ面白かったのか、お分かりだろうか? 実は、そのポストは 2003 年 2 月のものなのだ。どうやら、Google はもう何年もの間、動詞として使われることに対して神経を尖らせてきているようだ。けれども私の知る限り、彼らはまだ誰に対してもその件で訴訟を起こしてはいない。
文: Geoff Duncan <[email protected]>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>
今は昔の 1994 年のこと、Adam と Tonya は寛大にもこの私を TidBITS コミュニティーに迎え入れて、TidBITS の主任編集者 としてスタッフの一員に加えてくれた 。それからこのかた、5,000 以上の記事と、600 近くの号数、そしてほぼ 12 年の月日が流れ、ついに名残惜しくもお別れの挨拶をせねばならぬ時が来てしまった。この記事が、私が TidBITS の常任スタッフとして書く最後のものとなる。
その年月の間に私が TidBITS でどんな役割を果たしてきたのかについて、多くの読者の皆さんはきっとほんのわずかなことしかご存じでないだろう。ひょっとしたら、そんなことはこれっぽっちも分からないとおっしゃる方もおられるだろう。もちろんそれはもっともなことだ。私は TidBITS に 750 以上の記事その他を書いてはきたが、私の仕事の大部分は、裏方の仕事だったのだから。最初のうち、私は外部の著者たちと協力して題材を整えたり、文章の編集を補助したり、その他 TidBITS の作業を推し進める仕事をしていた。そうこうするうちに、私は TidBITS 各号の配付を担当するようになった。その実際の仕事は、モデムと呼ばれる気まぐれな機器と2時間くらい格闘して、商用オンラインサービスや掲示板などにアップロードしたり、その後に新流行となったあのウェブと呼ばれるやつに出版したりする、という内容だ。この仕事はほんの2週間前までずっと続いた。私は 1995 年の中ごろから後の、基本的にすべての TidBITS 各号について、編集を手伝い、制作し、配付するという仕事を続けた。そのため、私の日々の生活を知る人たちは、私が毎週月曜日になると、これらの仕事のために神聖なる別世界に飛び去ってしまうことを知っていた。_いつまでも_、だ。それから、長年私は編集関係の電子メールの処理も担当していて、その関係で大勢の TidBITS 読者や購読者の人たちを知るようになった。寄せられたコメントや質問に答えたり、必要に応じて他のスタッフメンバーに転送したり、購読システムに問題が起きればそれに対処し、読者からの依頼があればそれも処理する、という具合だ。既にご存じでない方もおられるかもしれないので言っておくと、TidBITS の読者層というのはこの点なかなか良く出来た人たちだ。
いつの頃からだったか、私の役割は TidBITS のサービスやプロジェクトをサポートしたり開発したりするという方面に傾いて行った。たぶん、その出発点となったのは第一世代の DealBITSがスタートした時だったかもしれないDealBITSにようこそ 。でも、本当に腰を据えてそれにかかるようになったのは、TidBITS が 1996 年にそのメーリングリストの管理を Rice University から引き継いだ時だっただろう。この時、私たちは自前の購読管理システムを作り出さなければならなかった正統のメーリングリストにあらず 。(当時出回っていた Mac ベースのメーリングリストソフトウェアの中で TidBITS を扱えるものはなかった。)サーバ側の事柄のほとんどは Adam が処理したが、データベースとプログラミングの方は私が担当した。その後いくつかの拡張を取り入れて新しいリストを組み入れたり、バウンスメールの処理に取り組んだりもしたが、基本的にこのシステムは 2004 年になって TidBITS がメーリングサービスを Web Crossingに統合した時すべての購読者の方々へ重要なお知らせ: メーリングリストの移行までずっと続いた。そしてこれは(私の知る限り)他のどんな商用メーリングリスト管理ソフトウェアにもまだ見られないような機能をも提供できるものであった。
その当時私はそうとは気付かなかったが、私が普通の「TidBITS の顔」という立場から「裏方の職人」となるために一線を踏み越えたのは、おそらく Adam と Tonya が 1998 年に一ヵ月の休暇をとってオーストラリア旅行 に出かけた時だったろうオーストラリア紀行。Adam はその以前にコンテスト を開催して勝敗の行方は TidBITS のフル検索ができる検索エンジンを募っていたが、その優勝ソフトウェアが私たちの検索の問題を解決してくれた一方で、そのソフトウェアをその後ずっと走らせ続けなければならない、それも、私の自宅から 15 マイル近くも急な坂を昇ったところにある Adam と Tonya の家の地下にあるサーバ機で走らせなければならないというのは、けっこう大変な努力を要することだった。同じ週のうち三度目に彼らの家に行った時のことだったと思うが、何時間も白黒のモニタの上に身を屈めてソフトウェアが一生懸命に8年分の TidBITS 各号を再索引付けするのを見つめたり、たまらない寒さを堪えるために階段を走って昇り降りしたり、Adam と Tonya の飼い猫 Cubbins の世話をしながら凍えた手に息を吹き掛けたりしつつ、私はふとこう思った。「このサーバ機が私の家にあったら、ずっと楽なのに」と。それに私の自宅の接続環境は Adam と Tonya の家のものより良かったし、第一、私は既に自宅で、自分が開発したウェブ・ロボットの大軍を(これらは私の古い Quadra たちの上で 365 日 24 時間、休みなしに働き続けていた)乗りこなしていたじゃないか。とにかく、同時に二ケ所でサーバのお守りをするなんて、荷が重すぎた。
こうして私は狂気への下り坂を転げ落ち始めた。予備の Mac で私が途中まで作りかけていた、概念検証実験だけのためだったはずの TidBITS 記事データベースが、個別の記事を参照するための方法として急遽サービスに供されることになった。加えてその後、私たちはこのデータベースを使って TidBITS ウェブサイトのコンテンツを生成する こととなり400 号と可変 Web サイト、それから間もなくテキストのフル検索をしていた検索エンジンが故障したのでそれに代わって私のデータベースが稼動することになった。その後いつだったか、サーバ機は私の机の上から立ち退いて書斎のクロゼットの中に収まり、しばらくしてもう一台のサーバが、それからまたもう一台が、このクロゼットの中で仲間に加わった。その次に私たちが鞭を当ててシステムの中に追い込んだのが、秘かに開発されウェブで使えるようになっていた TidBITS Talk アーカイブだ。そこで私のサーバ・クロゼットはまたもや膨れ上がることになった。1999 年までの間に、このシステムでサポートされる機能のあれこれには、投票機能、クイズ機能、平常号以外でのニュースアップデート、スポンサーのバナー、読者からの寄付受け付け、それに加えて号の出版から電子メールの自動生成まで、ありとあらゆる物がずらりと揃った。私たちが機能を追加500 号と新しいホームページ して行くに伴い、必然的に出来合いのソフトウェアではどうにもならない状況となってゆき、結局私は必要とされる機能をサポートするために POP、SMTP、HTTP、それに XML-RPC のクライアントソフトウェア、さらには専用のセキュリティソフトウェアまで、すべて一から自分で書き上げる羽目になった。
月日が経つに従い、私たちは問題点を修正する一方、さらに機能も追加して行った。(例えばハンドヘルド機器用バージョンTidBITS Handheld Edition を AvantGo で AutoSync の TidBITS や、RSS フィードなどがある。)さらに私は相当な努力を費やしてシステムのパフォーマンス向上やアタッカーからの攻撃の阻止に努め、ますます攻撃的になってきたウェブロボットやトローラーなどをコントロールすることも学んだ。私たちの機器一式はマグニチュード 6.8 の地震も何とか切り抜けたのだが、その数週間後に私のプロバイダがアウト になってしまい、私は TidBITS の最も重要な機器一揃いを荷造りして、ちょっと皮肉なことに Adam と Tonya の家の、あの冷え冷えとした地下室に一時避難させた。でも、その数週間後に彼らはニューヨーク州の Ithaca へ引っ越し てしまった。それからというもの、いくらか追加や変更は経つつも、このデータベースとウェブ出版のシステム一式はずっと TidBITS を動かし続け、また私の書斎のクロゼットの大部分を占領し続けたのだが... それも今月で終わりとなった。
それとちょうど同じ時期に、二つの重要な事件が起こった。一つは、私が肺炎にかかったことだ。それもありふれた、ああ具合が悪い、というタイプの肺炎ではなくて、抗生物質に耐性のある、非定型タイプのもので、私は 20 日間で 35 ポンド (16 kg) も体重が減り、片方の肺の中に野球のボール大の腫瘍ができて、何ヵ月もその状態が続いた。減量の方法としてはこれに勝るものはないが、この病気のお陰で私はいくつかのことをじっくりと考え直す機会ができ、書斎のクロゼットの中からぽかぽかと温もりが漂ってくるのは結構なことだけれど、私はいつまでも「サーバのお守り」をし続けたいわけではない、ということに気付いたのだ。私は、クールなものをデザインしたり組み上げたりするのが好きだろうか? もちろんそうだ! では、私はハードウェアの面倒を見たり、黄バチがジャムに群がるみたいにウェブ・クローラーたちが殺到する度に救出に駆け付けたりするのが好きだろうか? いや、それほど好きでもない。
もう一つの事件は、Apple が Mac OS X を打ち上げたことだ。長年さまざまの Unix の派生形でソフトウェア開発をしたりテストしたりしてきた経験があるにもかかわらず、私は理由も何も関係なく Unix が大嫌いだ。(正確に言えば、ちゃんと理由を説明することはできる。でもどうか私をその気にさせないで欲しい。)馬鹿げた感傷に聞こえるかもしれないが、私にとって Unix はいつの時代も不可解で、節操がなく、気難しい、そもそもソフトウェア開発者だけに適したものとしか感じられない。私は“classic”な Mac OS のことを使い勝手の模範だとか透明性の理想だとか考えたことは一度もない(ここも、どうか私に説明を始めさせないで欲しい)が、そんな私でさえも Mac OS X を目前にしては、Apple もついに目標を捨て去ってしまったのだと感じざるを得なかった。その(抽象的なものにせよ)核心となる目標、つまりコンピューティングの利点を日々の人々の生活にもたらして、それを使い、管理し、保ち続けて行くために何も高度な科学を知っている必要はない、という目標はどこへ行ったのだろうか。もちろん、その点では他のコンピュータメーカーもオペレーティングシステムの開発者たちも大した進歩を果たしていないのは事実だが、少なくともかつての Apple は「私たちみんなのためのコンピュータ (computers for the rest of us)」を作ろうと努力していたはずだ。けれども Mac OS X では、基本的に Apple は古色蒼然とした訳の分からない部品に古さびで磨きをかけて、それを「革新」と呼んでいるだけだ。私に言わせれば、それはどう見ても「私たちみんなのためのコンピュータ」と呼べるものではなく「みんなのものとおんなじコンピュータ (computers just like all the rest)」でしかない。それでも、私は希望を失わずに待ち続けた。
私も、Mac OS X を生み出し、今もその開発の推進力となり続けている、技術的および市場的な力については理解しているつもりだし、Mac OS X が好きな人、Mac OS X を愛してやまない人、あるいはその Unix 基盤を信奉する人たちを妬んだりする気も全くない。正直な話、私は Mac OS X にも現代的なオペレーティングシステムらしく褒めるべき点はたくさんあると思う。けれども、ただ現代的なオペレーティングシステムというだけでは何も得意になって自慢すべきことでもないし、私自身数年間にわたって使ってはみたものの、やはりこの Apple の Aqua 風味付き着色飲料水を楽しむ気にはなれないでいる。
私が初めて使ったコンピュータは 11 歳の時の 4K の Commodore PET で、その後 Apple IIc や、初期の VAX で Version 7 Unix を走らせたりもしたが、その当時からずっと私はこのテクノロジーがまだまだ本格的な段階に達するにはほど遠いと嘆き続けてきた。私が技術ライターの職業を選んだのも、その後ソフトウェアのテストをしたり、それからソフトウェア開発やコンサルティング、編集、TidBITS、そしていろいろのインターネットベースのプロジェクトに関わったのも、それらすべての動機は、自分がして欲しいと思うことをコンピュータにさせるのがそう単純には行かないという根本的な不満に根ざしてのことだった。代わりに私がして来たのは、もてあそんで、修正を加えて、説明して、プログラミングして、何かを可能にして、他の人々を助ける、そういうことばかりだった。私は情報テクノロジーの可能性を信じていたし、他の人たちがその門を叩くお手伝いができれば私も何か積極的な寄与をしていることになるのでは、と感じたからだ。ちょっとした不調や、問題点、障害物などは、ほんの些細な道路のデコボコに過ぎない。これは、ただほんの少し痛みが積み重なっただけさ、そうだろう? でも、オリジナルが見つからなくなったからと言って私の母が書類を一からタイプし直すのを見る時、TidBITS Talk のスレッドがコマンドラインによるスイッチの論議になり下がる時、プリンタ共有のチェックボックスをクリックしただけで買ったばかりの私の Mac mini が完璧に壊れてしまう時、ライブ音楽のレコーディング中に不可視のバックグランド・プロセスのせいで録音が駄目になってしまう時、障害のある友人が古いプリンタが突然動かなくなったので新しいプリンタを買わなければならないのかしらと相談してくる時... そんな時、私はいつも大声を出して叫びたくなる。今は二十一世紀じゃないのか、いったい何で俺たちはいまだにこんな苦労をしなけりゃならないんだ、と。
ずっと以前から私は、私たちのような人が必要なくなった時こそ、コンピュータが私たちの生活にちゃんと収まる時となるのだと言い続けてきた。なのに、今日の普通の人たちのこんなにも多くが、ただ自分のコンピュータを使ってそれを働かせるということだけのために、解説者、コンサルタント、専門家、教室、トレーニング、あるいはテクノロジーおたくといったものたちの助けを求めて周りを見回さなければならない、という事実は、私から見ればこの業界が根本的に失敗をおかしていることの証拠以外の何物でもない。どうやら、私たちのような人はきっと今後も長い、長い間必要とされるのだろう。何年も前にこんなことがあった。Microsoft の開催したプレスイベントで同社のテクニカルサポートの提供を大幅に拡大するという発表があって、そこで質問に立ったテクノロジー・ライターの(今は亡き)Cary Lu が会場の大喝采を浴びた(そして深い深い真実を突いた)のだ。彼は、Microsoft はいつの日か、ユーザーたちがテクニカルサポートを必要とする度合が _減る_ ような、そんなレベルの製品を作るようになることを意図しているのだろうかと、丁寧な言葉で尋ねたのだった。同じような思い出がもう一つある。私は、Apple がそのリテール店に Genius Bar を設けたことに、いまだに口あんぐり、驚きを隠し切れないでいる。私に言わせれば、Genius Bar のイメージとは「Apple はあなたの友だちだ、あなたの助けになろうとここにいる!」などというものではなくて、その代わりに「誰でも知ってることだが、Apple は最も使いやすいコンピュータを作っているけど、天才 (genius) でないと使い方は分からないのさ!」と宣伝しているようなものだからだ。
というわけで、TidBITS は私のクロゼットからそのサービスをすべて運び出して、うまく新しい場所で動かせているようだし、そろそろ私はもっと私自身が充足感を味わえるようなプロジェクトに集中するようにして行きたい。Apple のお茶っ葉から何かを読み取ろうとしたり、コンピューティング業界がある日突然正しい方向に向き直ることを願ったり、あるいはインターネットの世界に「次の大物」が姿を見せようとする度に飛び上がって一喜一憂したりするのはもう沢山だ。でも私も地球上から消えてなくなるつもりではない。当面の間は、私も TidBITS のバーチャルな奥付けに「フリー編集者 (Editor at Large)」として名前を列ねることになるし、時間と機会の許す限り TidBITS に記事の投稿も続けて行きたいと思う。けれども、私にとって、Macintosh はもはや以前のように人々の生活の中でテクノロジーが果たすべき役割についての理想と価値を代表するべきものではなくなってしまった。今では、Macintosh はただのコンピュータでしかなく、私としてもそれをそれとして扱うようにしなければならない。
最後に、私の心からの感謝を、すべての TidBITS スタッフの面々に捧げたい。Joe Kissell, Glenn Fleishman, Matt Neuburg, Jeff Carlson, Mark Anbinder, それに (もちろん!) Adam と Tonya、彼らがこの年月を通じて示してくれた友愛の気持ちと、援助、友情、それから(何よりも)ユーモアに、感謝したい。君たちは最高のグループだ。何をおいても信頼に値する。でも、一番重要なことを忘れてはいけない。私は、TidBITS 読者の皆さん、そのコミュニティーに、いつも変わりなく私たちの書いたものを皆さんのメールボックスの中やブラウザ画面の中で歓迎して下さってありがとうと、お礼を申し上げたい。Macintosh をめぐるすべての中で、本当の意味で最高のもの、それを体現しているのは皆さん自身なのだ。ぜひ、そのことを忘れずにいて頂きたい!
文: Adam C. Engst <[email protected]>
訳: 亀岡孝仁 <takkameoka@bellsouth.net>
新しい電子本は格安航空券を買うお手伝いをする -- 我々の最新の電子本 - Sam Sellers の “Take Control of Booking a Cheap Airline Ticket”- はちょっと変わっていると思うが、航空券を買わなければいけないのだが余計なお金は払いたくないし、それに無益な Web サーチで時間の無駄遣いもしたくないという人には打ってつけの本だと確信している。と言うのも、一連の航空券サイトを一つの大きな紛らわしいアプリケーションのモジュールとして見るのは容易だし、それにこの電子本は時間とお金をセーブしてかつイライラも減らしながらこのアプリケーションの一番いい使い方を教えてくれる。
Tonya と私は最近この手の問題に出くわした。それは、Ithaca から San Francisco に行って、帰りは Seattle から家に帰るといういわゆるオープンジョーの旅を予約する時であった。我々は条件のいい物を探して何時間も費やしていたら、最初に見つけたものでもどうも分単位で値段が上がっていくように思えたし、格安の値段に行き当たるまでに参照しなければならないサイトの数はとても多すぎると感じた。一言で言えば、手に負えないという感じである。でも次回からは我々は何をしなければならないか良く知っているであろう。なぜならば、米国始発の航空券を予約する時はどのサイトから始めてどの順序で探していけばいいかを Sam の電子本が具体的に教えてくれるからである。飛行機での旅を一度でもする予定であれば、最も安い値段を探し出す Sam のテクニックを試して見られる事を是非お奨めする;一回のフライトで節約できる金額はこの電子本を買うのに $10 払ってもまだ十分おつりがくる程のものであるのは疑いなしである。
教室向け割引料金を設定 -- 作家として、自分の作品が教室での読書教材に選ばれた時、来るべき所に来たという感じを持つものであるし、我々としても出来るだけ沢山の Take Control 電子本がそうなる事を期待している。過去数年にわたって、教師の方から自分の生徒に配布出来る本を買いたいという問い合わせを沢山頂いてきた。しかしながら、通常の値段では教室で使うには高価すぎるという場合が多かった。そこで遅ればせながら - 我々の電子本を授業教材として使えるコストにするために - 教室用に限って超特価の割引を提供するようにした。ここで言う教室とは、大学で、Apple Store 内で、Macintosh コンサルタントによって、或いは K-12 の義務教育の学校で、成人教室でと言ったものである。先生であれば我々の電子本を 10人までの生徒に配る用途として通常の 2冊分の値段で (何と 80% もの値引きとなる) 購入できる;もっと多くの生徒に対してはこの 10人単位で買い増ししてもらえばよい。一旦入金が確認できた時点で、先生が生徒に配布出来るその電子本の特製スタンプ版を作成する。このスタンプ以外は、これら電子本は通常版と何ら変わるところはないし、無料のマイナーアップグレードも勿論含まれている。更なる詳細を知りたい人そして自分の教室のためにこの特別料金を希望する人は Take Control Class Copies page ページを訪れて欲しい。
文: TidBITS Staff <[email protected]>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>
Mulberry Bush の歌で最後のタンゴを -- 電子メールプログラム Mulberry について書いた Matt Neuburg の記事にこのプログラムを応援する人たちの声が寄せられ、もはや開発の努力がされていないプログラムなのになぜバグ報告メカニズムが必要なのか、という疑問の声も挙がる。 6 メッセージ
WWDC の凋落 -- 先週の Matt Neuburg の記事を受け、Apple の Worldwide Development Conference に出席した人たちが今年のショウで足りなかった点について議論する。 16 メッセージ
Civil Netizen と Pando でセキュアなファイル転送 -- この二つのファイル共有アプリケーションについて書いた Glenn Fleishman の記事から、同種の他のサービス、例えば Amazon の S3 や、Tango DropBox Pro なども話題にのぼる。 2 メッセージ
新しいスキャナを買うべきか? -- Intel ネイティブなドライバを備えたスキャナを探す方がいいのか、それとも今あるスキャナを使い続ける方が賢明なのか? 5 メッセージ
スパムを減らすための通知スキーム -- Civil Netizen や Pando に見られるピア・ツー・ピアの様相に触発されて、そういうテクノロジーを応用すればスパムを減らすために使えるのではないかというアイデアが提案される。 7 メッセージ
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