TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#878/07-May-07

Steve Jobs の個人的ブログ... いや、そうではなくて Apple のウェブサイトに先週載った二番目の記事は、環境に対する同社の姿勢についての公開書簡だった。どうやらこれは Greenpeace のキャンペーンに呼応してのもののようだ。Adam が、Jobs が何を書いたか、この PR の変化球が環境保護にどんな役割を果たすのかについて検討する。Adam はまた iPod shuffle を防水する SwimMan でオーディオを聴きながらの水泳のトレーニングを試み、正気とも思えない特許権の行使による厚かましい訴訟を紹介しつつその解決には Mac の深い歴史をひも解くことが必要ではないかと考える。今週号のその他の記事では、Glenn Fleishman が公共ワイヤレスホットスポット接続の未来を明るくしてくれる Devicescape を紹介し、また QuickTime 7.1.6、AirPort Extreme Update 2007-003、それに Security Update 2007-004 v1.1 のリリースをお伝えする。

記事:


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QuickTime、AirMac、セキュリティアップデートをリリース

  文: Jeff Carlson <[email protected]>
  訳: 松田 栄 <sacaboom@gmail.com>

2 週間前に発見されたセキュリティの不具合を受けて(2007-04-23 の "Mac ハック: 地獄の沙汰も金次第" を参照)、Apple は Mac 用(43.6 MB)および Windows 用(19.1 MB)の QuickTime 7.1.6 をリリースした。スタンドアロンのダウンロードまたは Software Update 経由で入手可能だ。このアップデートでは、悪意を持って作成された Web ページがコンピューターにアクセスできてしまう可能性のある QuickTime for Java の不具合が修正されている。さらに QuickTime 7.1.6 では、QuickTime Player にタイムコードとクローズドキャプションを表示する機能を追加し、出荷が予定されている Final Cut Studio 2 の Mac でのサポートを追加、いくつかの不具合も修正している。

AirMac Extreme Update 2007-003 は、Intel ベース Mac での"WPA または WPA2 セキュリティを使用するために設定された第三者のアクセスポイントに対する互換性のアップデートを含む"リリースとなっている。このダウンロードは 3 MB で、Software Update 経由でも入手可能だ。

Apple はまた、Security Update 2007-004 v1.1 をリリースし、Intel ベース Mac 用(15.7 MB)PowerPC ベース Mac 用 (9.1 MB) さらに Mac OS X 10.3.9 を動作している Mac 用(36.7 MB)をそれぞれ用意している。Apple によると、このアップデートは、 2 週間前にリリースされた Security Update 2007-004 の内容を含むものとしているが(2007-04-23 の "Security Update 2007-004 リリース " を参照)、さらに 2 つの具体的な修正が加えられている。一つ目は、AirMac のアップデートで、前回のセキュリティアップデートで見られた Mac OS X 10.3.9 下での不具合の修正。二つ目は、FTPServer のアップデートで、Mac OS X Server 10.4.9 下での FTP の問題の改善だ。


SwimMan の防水 iPod shuffle

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: 笠原正純<panhead@draconia.jp>

私は、しょっちゅう走ったり池の周りで水しぶきをあげることを楽しんだりしているが、スイマーとしてはと とん凡庸だ。私が Cornell 大学の一年生を終えた 18 歳の夏、私は母の仕事仲間である友人と週に何度か一緒に泳いだものだった。当時 36 歳の Anne は、アラスカ州の背泳チャンピオンだったことがあり、ちょうど私の倍の年齢だったのだが、私の倍の速さで泳ぐことができた。彼女は、昼休みに 30 分間で 1 マイルも泳ぐことができた。その間、私はその半分泳ぐのにもへとへとだったのにだ。

私はそれ以来ラップスイミング(プールでの遠泳)をすることは全くなかった。なぜなら、これをやっている間は友達と話しをすることはできないし、塩素くさい水を吸い込まないようにしながら 30 分ものあいだ青いプールの底を見ていることは木々を縫っている道を走ることほど楽しくなかったからだ。しかし、私は 40 歳になる来年、トライアスロンに参加しようと考えている。そこで、徐々に池での水泳の練習を行わなければならないが、今回は iPod が何回も折り返し泳ぐ時間を退屈から救ってくれるに違いない。池がまだ凍結療法にしか使えない状態なので、まだ試せてはいない のではあるが。

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「ちょっと、ちょっと。iPod と一緒に泳げるわけないだろ!」と怒鳴るかもしれない。いや、SwimMan という名前の会社のおかげでこれが実現されたんだよ。この会社は 防水加工された第二世代の iPod shuffle($ 150)と防水ヘッドフォン($100)を単独とバンドル($250)で販売しているんだ。もし、第二世代の iPod shuffle をすでに持っているなら、それを SwimMan に送って $75 で防水加工してもらうこともできる。SwimMan は、防水 iPod shuflle は機能も外観も通常のものと全く同じだが、防水加工はケースの内側から行うために、電源スイッチとシャッフルスイッチは使えなくなり、そのほかのボタンもちょっと固くなるかもしれないと述べている。同社が言うには、電源スイッチの代わりには、電源を入れるときには再生/一時停止ボタンを押し、切る場合にはヘッドフォンを抜けばよい。シャッフルスイッチの機能については、iPod をコンピュータに接続したときに iTunes で設定することで代用できるということだ。


Steve Jobs、緑を語る

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: 羽鳥公士郎 <hatori@ousaan.com>

Steve Jobs がまたやってくれた。Apple のウェブサイトに公開書簡を掲載したのだ。前回の書簡 "Thoughts on Music" は、Apple についての議論と注目を大いに集めた。(2007-02-12 の "Steve Jobs、DRM を謗る" 参照)。そして、その予兆のすぐ後に続いて、Apple と EMI が DRM を取り下げることで合意した(これについては、2007-04-02 の "Apple と EMI、iTunes で DRM フリー楽曲を提供" で取り上げた)。

Jobs は、今回の "A Greener Apple" で、Apple が環境保護団体、とりわけGreenpeace から受けている、Apple の製造およびリサイクルの実践についての批判に注意を向けた。この中で、Apple が製造工程から有害化学物質を削減ないし除去するためにおこなっていることを概観し、さらに Apple のリサイクルプログラムについて説明している。そして、これは異例のことだが、製造時の有害化学物質のさらなる削減とリサイクルに対するさらなる取り組みについての、Apple の将来的な目標も議論している。

Greenpeace の Green Electronics Guide とそれに付随する Green My Apple キャンペーンはメディアの注目を大いに集め、Macintosh の各種会議における同団体のときに対決的な戦術は、それにもましてメディアに、何と言うか、多く露出していた。Greenpeace には違ったデータがあるかもしれないが、私が何人かの Mac ユーザと話した印象では、Greenpeace の戦術は全体的に、説得よりは対決を生んでおり、頑固な環境保護活動家が Apple の罪悪についてますます声高になる一方で、長年の Mac ユーザは同社を擁護するべく立ちあがっている(長いあいだ PC ユーザからの批判に応答してきたので、こういうことには慣れているのだ)。

状況をさらに混乱させていることに、Greenpeace と Apple のどちらも、それぞれの言い分にかかわらず、必ずしも気高い信念に突き動かされているわけではない。さらに奇妙なことに、Greenpeace の訴えと Apple の返答とのほとんどは、今ここで何がおこなわれているかということについてのものというよりは、これから何をしようとしているのか、何をすべきなのかということについてのものだ。別の言い方をすれば、これは主として言葉の争いであり、計画や方針の争いだ。

くいちがう動機 -- 完全に理性的な外部の観察者であれば、Greenpeace は伝統的な環境保護の原理にしたがって、有害化学物質の使用を削減しリサイクルの拡大を促進しようと活動していると言うことだろう。Greenpeace がこのようなことを全体的な目標としているということについては、誰も異議を唱えないだろうと思う。しかし同時に、Greenpeace が Apple を標的にしている理由は、Apple がほかの、ずっと大きな企業と比べてより悪いからというわけでは必ずしもなく、何であれ Apple にまつわることはメディアの注目と論争を呼び、そのように注目を集めることが Greenpeace の最終的な目標にとってよいことだからというようにも感じられる。そこにこそ、私が思うに、多くのMac ユーザが Greenpeace の攻撃に対してこれほど弁護的に反応している理由がある。Greenpeace が、建前とは異なる理由で、特に Apple を標的としているように感じられるのだ。

Apple もまた咎めを完全に免れることはできない。Apple ファンはときにこの事実を忘れてしまうことがあるのだが、Apple は株式公開企業であり、その中でも大きい方に属する。Apple の誠実さは、まずもって、利益を増大することで株主のために尽くすことに向けられている。この企業を構成している個人の多くが環境保護運動の目標を強く支持していることは疑いがないが、企業としての Apple は、環境の健全さよりも企業の健全さを常に優先する。

だからといって、企業としての Apple が、自らの行為が環境に与える影響について無頓着だということではないし、Apple が影響のよしあしにかかわらず常に最小コストの手段を選択するということでもない。それは Apple が、HPや Dell といった企業よりもはるかに大きく、対外的な企業イメージに依存しているからだ。iPod を買うことや、最近は Mac を買うことですら、カッコいいことだと思われていて、Apple のぴかぴかに磨き上げられたブランドを汚すものは何であれ、この企業の運勢を大いに損ないかねない。したがって Appleは、製品をできる限り安いコストで生産して利益を底上げすることと、環境保護によりコストをかけて企業イメージを保護することとのあいだで、バランスをとらなければならない。

ああ言えばこう言う -- Jobs の書簡に先行する、Greenpeace による Appleの格付けの最新版を読んだとき、もっとも驚かされるのは、点数の多くが、数値として計量化できるものや、まして第三者の監査で検証できるようなものに基づいているのではなく、企業がこれからやると言ったことに基づいているということだ。Greenpeace が問題にしているのは、Apple が以前は臭素化難燃剤とポリ塩化ビニルの除去について期限を明示していなかったということであり、Apple が公表した Precautionary Principle(予防原則)の定義がGreenpeace の基準に合致していないということであり、Apple が"Individual Producer Responsibility"(個別生産者責任)に関する方策を十分明示的に記述していないということなどだ。

物書きの1人として言わせてもらえば、このようなやり方について私が問題だと思うのは、言うは易く行うは難いということだ。企業は言いたいことを何でも言える。現実的に言って、何年か経った後で、そのような約束が実際には守られなかったとして、どれだけの人がそれを気に留めるだろうか。実際、私たちは(少なくとも、私たちのうち冷笑的あるいは現実的な人たちは)、政治家が選挙期間中にした約束の多くは決して守られることがないと考えているではないか。エレクトロニクス産業からの汚染を削減するためのこの攻撃がまだ数年間続くとすれば、Greenpeace 自身も気付いているかもしれない。さらに冷笑的に言うなら、口先巧みな企業であれば、公式声明を実質的にもてあそぶことによって、状況を自らの都合のよいようにまわしてゆくことができる。あるいは、もっとひどい場合には、企業は単純に嘘をつくこともできる。ある基準にしたがうつもりだと言って、実際にはしたがわないといったことだ。今日のインターネット社会では、そのような嘘をつきとおすというのは、以前に比べて難しくなったかもしれない。しかし、都合の悪い事実にふたをしている企業の実例は、多数挙げることができる。

私は Apple が過去にこのようなことをしたと告発しているわけではないし、Apple が将来このようなことをするだろうと疑っているのでもない。Appleは、今では秘密主義で有名となってはいるが、全体的に言えば、かなりよい企業市民であると私は考えている。しかし、このように足を踏み外すということは、過去に別の企業で起こったことだし、これからも繰り返されるだろう。善意に基づく Greenpeace の得点表でさえ、そのように堕落してしまうこともありうるのではないかと私は心配している。ひょっとしたら、状況があまりに複雑なのでそんなことにはならないかもしれないが、私としては、客観的で第三者が検証できるような数値に基づく格付けを提供するというやり方の方が望ましいと思う。

だが、その一方で、Apple が伝統から逸脱し、製造とリサイクルの実践についての同社の現状と将来の計画をより率直に表現し始めたことを、私は喜ばしく思う。そうなると、Greenpeace の次回の得点表がとりわけ興味深くなる。Apple は現在断然の最下位、10 点満点の 2.7 点しかとれていないが、Green My Apple キャンペーンのメインページに現在掲載されているインタラクティブな Flash アニメーションで、適切な位置にマウスを置くと、「暫定成績」が 5 点と出る。(ウェブサイトの公開書簡によって企業の環境成績が大幅に変わったという事実は、これがレトリックに過ぎないという私の批判を支持するものだ。)Jobs の書簡の後に Greenpeace がおこなっている批判の主なものは、Apple のリサイクルプログラムが米国だけで運用されるということだ。しかし、Jobs は、Mac と iPod の販売に換算して 82 パーセント以上に相当する国と地域でこのプログラムを運用するとしている。

最後に、Jobs の書簡について、細かい点で興味深いと感じたことを2つお伝えしたい。第1に、Jobs が言っていることを Apple 製品ウォッチャーの視点から見ると、Apple は LED バックライトディスプレイを搭載した初めてのMac を 2007 年に登場させる計画だということで、そのようなディスプレイが最初に搭載されるのはどの製品かと推測する声がすでにやかましくなっている。ユーザビリティという観点から言えば、もちろんこれは些細な問題だ。液晶画面のバックライトがどのようにして光っているかということを、私はあまり気にしない。光っていればいいのだ。ただし、LED を使ったバックライトに変更することで、電力消費量が減って、ラップトップの電池の寿命がのびるなら、私は大いに賛成だ。第2に、この書簡全体は、広報により特定のメッセージを伝える練習にとっては教科書と言えるが、その最後に、Apple にしては珍しい変わった一文がある。「これほど長いあいだお知らせしなかったことに対して、お詫びします。」


Devicescape が Wi-Fi ホットスポット接続の苦痛を和らげる

  文: Glenn Fleishman <[email protected]>
  訳: 羽鳥公士郎 <hatori@ousaan.com>

Wi-Fi ホットスポットでゲートウェイページを開くと、すでに設定してあるアカウント情報を入力するよう求められる。これにはうんざりだ。もっとシンプルな方法があるはずではないか。これではまるで、言ってみれば、1995 年のインターフェースのようだ。接続をもっと簡単にしてくれるソフトウェアがあってもいいではないか。そんな私の願いを Devicescape がかなえてくれる。社名の由来となっている Devicescape ソフトウェアとそのエコシステムによって、Wi-Fi ネットワークのアカウントに Mac を接続するのがより簡単になる。そして、それにとどまらない。

Wi-Fi ネットワーク接続のソフトウェアクライアントといえば、Boingo Wirelessが以前から提供していた。もっとも、Mac OS X にやってきたのはWindows に導入されてから数年後のことだったが。Boingo は、世界中のさまざまなホットスポット・ネットワークを1つにまとめ、あわせて 60,000 地点を再パッケージして、セッションごとの統一料金(通常は 8 ドル)か、北米内では無制限アクセスを月 22 ドルの定額制で、そのほかのほとんどの地域では従量制アクセスを決められた価格で提供している。クライアントソフトウェアが Boingo のパートナーを識別すると、メニューから1つの項目を選ぶだけで、または自動的に、接続することができる。(Boingo は Intel Core 2 Duoプロセッサを搭載した Mac をまだサポートしていない。)

Devicescape はそれより大きい網を投げ、Wi-Fi ネットワークに接続できそうな電子機器であればどんなものでも捕まえようとしている。(しかし、Boingoも見捨てたものではない。後で詳しく述べる。)

ブラウザのない機器、イライラのない接続 -- Devicescape は、モバイル機器を Wi-Fi ネットワークにつなぐのを簡単にしようとしている。ユーザ名とパスワードを入力するわずらわしさを取り除き、さらに、ほとんどのハンドヘルド機器にインターフェースやウェブブラウザがないというわずらわしさも取り除く。Devicescape にとっての世界は、Wi-Fi 対応の電話、カメラ、ゲーム機、PDA、そしてまだ見ぬさまざまな機器に満ちている。これはまた、接続のイライラに満ちた世界だ。

このイライラは私のものでもある。私は初期の Wi-Fi 対応の電話や音楽機器をいくつか試したことがあるが、WPA ネットワークキーを入力したり、ホットスポット・ネットワークにログオンしたり、とりわけサービス規約に同意するためにウェブページでクリックする必要のあるオープンネットワークに接続したりするのは、苦痛だった。私が思うに、平均的なユーザは第一段階を越えることもできないだろう。

公衆 Wi-Fi ホットスポットに接続する場合、必ずと言っていいほど、インターネットに到達する前にウェブブラウザでゲートウェイページに立ち寄らなければならない。ウェブブラウザでゲートウェイページを通過しなければ、どのアプリケーションもインターネットにアクセスできない。このようなゲートウェイページは、ブラウザをログイン画面へとリダイレクトし、その画面で、アカウントを持っていればその情報を入力し、有料なら支払い情報を入力し、あるいは単にサービス規約に同意する。使っているデバイスにウェブブラウザが組み込まれていなければ、ログインページにたどり着くことができないし、ブラウザがあっても、モバイル機器であれば、ページを開いて必要な情報を入力するのは骨が折れるかもしれない。

Devicescape のソフトウェアとシステムは、単にこれを解決するだけでなく、さらに先まで行く。1人に1つのアカウントという考えは、彼らにとっては時代遅れのように写ったようだ。なにしろ、あなたはさまざまな種類のデバイスをいくつも持つことになる(あるいはすでに持ち歩いている)のだし、それぞれに個別のネットワークアクセスが必要になるかもしれない。そこでデバイス中心のアプローチでは、あるネットワークに1つの統括的なアカウントがあって、そのアカウントの中に、付随するデバイスすべてをリストしたプロファイルがあるということになる。有料ネットワークの無制限 Wi-Fi 接続に、デバイスごとに月 20 ドルから 40 ドルを払おうなどという人はいないだろう。それではあっというまに高額になってしまう。Devicescape のモデルでは、デバイスごとまたは使用量ごとに毎月小額の料金を支払うので、ネットワークを安価に使え、それでいてホットスポットやネットワークの運営者にも利益が出る。(このサービス業界の極秘ではない秘密として、アカウント管理や、ユーザへの請求書の提示、支払い回収のコストは、月 10 ドルから 20 ドルほどだ。既存のアカウントに追加されたサービスは、サービス自体の経費を超えたあぶく銭だ。)

Devicescape の流儀では、すべての認証情報、たとえばユーザ名やパスワード、あるいはネットワークが使用しているあらゆる合言葉を、彼らのウェブサイト上であなたが管理するアカウントに保存する。その上で、Devicescape ソフトウェアが組み込まれたデバイスを使う。デバイスとアカウントとを簡単な方法で対応付けておけば、あなたが歩き回るたびに、デバイスが Devicescapeのサーバとセキュアな方法で通信してアカウント情報を取得し、ホットスポット・ネットワークにログオンする。

ソフトウェアの組み込み -- Devicescape の道中にはつまずきの石が多くあり、彼らがこれをうまく動かすためにどれだけのベータテストを積み重ねたのかと感慨を覚えざるをえない。

最初のつまずきの石は、いわゆる組み込みオペレーティングシステム(OS)プラットフォームにソフトウェアを組み入れることだ。組み込み OS とは、汎用コンピュータとして設計されたのではない電子機器を動かしているものだ。典型的には、より大きな OS、たとえば Windows Mobile/Pocket PCLinux などの機能縮小版ないし最適化版、あるいはその派生品、または VxWorks からでているもののような一から設計された OS だ。

組み込みプラットフォームを使っているデバイスというのは、そのプラットフォームがサードパーティーのソフトウェア開発をサポートしていたとしても、ソフトウェアの追加に対して門戸を閉ざしていることが多い。そのような閉鎖的なデバイスでは、ソフトウェアを製品に組み入れてほしいと思ったら、デバイスのメーカーと緊密に連携する必要がある。Apple の Apple と EMI、iTunes で DRM フリー楽曲を提供 が頭に浮かぶ。iPhone は、デバイス界全体で見れば珍しいということはないが、スマートフォン分野に限って言えば変わり者だ。この分野で主要なプラットフォームはSymbian、Windows Mobile、Palm OS などだが、これらではエンドユーザがサードパーティー製ソフトウェアを何でもインストールできる。

このようなガジェットは硬い胡桃のように、本当に割るのが難しい。Devicescape にはLinksys WIP300 Wireless-G IP Phone用の実証用パッケージがあるが、これは高価な無線 IP 電話で、大都市規模の Wi-Fi ネットワーク・サービス・プロバイダが再販するためのものだ。これが、閉鎖的な携帯デバイスの中で唯一、Devicescape が現在組み込みソフトウェアを提供しているものだ。この市場に本当に食い込むためには、Devicescape は Nintendo やKodak、Nokia といった企業とパートナーになり、Devicescape ソフトウェアをプリインストールしてもらう必要がある。

Devicescape のソフトウェアは、まだ初期段階ではあるが、Windows Mobile 5スマートフォンやいくつかの Nokia タブレットを含め多くのハンドヘルド機器で動く。また、コンピュータのオペレーティングシステム用のソフトウェアもリリースされており、Winodws XP リリースが以前からあったのに加え、Mac OS X と Windows Vista にも対応した。

スマートフォンのユーザは重要な潜在顧客だ。というのも、彼らはDevicescape のソフトウェアを直接インストールできるようになるはずだからだが、一方で、携帯電話会社が運営している既存の Wi-Fi ネットワーク、たとえば T-Mobile HotSpotAT&T Wi-Fiがバンドル販売されているので、スマートフォンユーザはそちらに向かうかもしれない。

ネットワークにこっそり入る -- 次に割る必要のある胡桃は、ホットスポットネットワークだ。Devicescape は、あなたがすでにアカウントを持っているかもしれない主要なネットワークの多く、すぐ上で述べた2つや、草の根ネットワーク Fon、米国の主要な業者 Wayport、英国の巨大企業 The Cloud やそのほかを、現在サポートしているか、サポートのテストをしている。

Devicescape はこれらのネットワークと公式なパートナーになっていないが、その事実を興味深い方法で回避している。2006 年 12 月に私が同社から初めて話を聞いたとき、私は次のように尋ねてみた。「貴社がネットワークと関係を持たないとすれば、どのようにして、デバイス上のソフトウェアがインターネット経由で貴社のサーバと通信し、認証情報を取得して、ユーザのデバイスがログインできるのでしょうか。」

彼らは明確な言葉を避けたが、私は彼らのトリックを解明し、彼らもそれを認めた。そのトリックは、違法ではないが、きわめて巧妙だ。彼らが使っているのは、DNS、つまり、インターネットにつながったあらゆるコンピュータが人間にとって読みやすいドメイン名を IP アドレスに変換する方法だ。ホットスポット・ネットワークはほとんどすべてのインターネットトラフィックを遮断するが、DNS クエリは分散化された DNS サーバに向けて転送する。するとDevicescape は、DNS サーバからの応答として、暗号化された短いデータを返すことができる。(このように、 DNS クエリを利用してトラフィックをトンネルする という方法でアクセスコントロールを迂回するソフトウェアパッケージは、少なくとも2つある。)

ネットワークはたくさん、アカウントはいくつ? -- 最後の問題は、ホットスポット・ネットワークが異種混交であることで、これは Devicescape の管轄外だ。今では世界中に数十万の Wi-Fi ホットスポットがあり、その大多数は有料だ。どれでも任意のホットスポットを使おうと思ったら、通常は一度限りの料金を支払うか、あるいは登録をして、しばしばあらかじめ決められた期間のあいだ毎月料金を支払わなければならない。無料のホットスポットの場合、使うためのハードルは低いか、あるいはまったくない。アクセスするためのもっとも高いハードルと言えば、広告を見る必要があるとか、サービス規約に同意するためにクリックするくらいのものだが、これが携帯機器ではしばしば難しいか、不可能だ。

このようにネットワークがごた混ぜになっていると、ユーザとしては、どこに行けばアクセスできるのか、そしてそれにいくらかかるのか、常に予測できるわけではないということになる。そこで Devicescape が考えていることは、アカウント情報を彼らのサーバで集中管理することで、さまざまなネットワークへのアクセスを1つにまとめ、ネットワークごとにクレジットカード情報を再入力することなく、割引価格でネットワークへのアクセスを販売するというものだ。彼らのサーバ(ここにユーザの支払い情報が保存されている)とホットスポット・ネットワークとのあいだで取り引きが行われるので、初めて訪れた場所でも簡単にネットワークにアクセスすることができる。

1つのシナリオは、たとえばこういうものだ。休暇で旅行に出かけ、Wi-Fi 対応のカメラで撮った写真をアップロードしたいと思ったとしよう。Devicescape ソフトウェアがインストールされているカメラの電源を入れ、矢印ボタンと選択ボタンを使って「ネットワークを検索」を選択し、次に「3 ドルで 24 時間アクセス」を選択すれば、ネットワークが使用できる。おそらく、朝飯前だ。

別のシナリオとしては、「鼻持ちならない通話料」の問題がある。あなたの乗った飛行機がロンドンに着陸したとしよう。ここで乗り継ぎに5時間かかる。携帯電話で電話をかけると、1分あたり 2.35 ドルなどといった、法外な料金がかかる。だが、Skype と Wi-Fi 対応ハンドヘルドがあれば、料金は1分あたりたったの 0.02 ドルだ。ハンドヘルドで Devicescape ソフトウェアを立ち上げ、8 ユーロの支払いに同意する。従量制の電話料金に比べれば安いものだ。これで万事問題なし。回線の反対側がどこであっても、声をはっきりと届けることができる。

Devicescape をとりまく競争の風景 -- もちろん、Devicescape も競争に直面するだろう。Boingo はすでにこの争いに参入している。同社の Boingo Mobile オプションは、同社にとっては新機軸で、彼らがまとめ上げた世界中のネットワークで Wi-Fi IP 電話を使い、VoIP(voice over IP)サービスを月 8 ドルで提供するというものだ。Boingo のラップトップアクセスは、北米では月 22 ドルの無制限サービスだが、世界中のほかの地域のほとんどでは、コンピュータからのアクセスは従量制だ。それに対し、Boingo Mobile プランは、月 8 ドルの料金だけで、サポートされている地点ならどこででも、音声の利用ができる。(まだ Boingo ラップトップのすべての地点がモバイルプランに含まれているわけではないが、それに向けて作業が進んでいる。)

Skype は、多くのハンドセットメーカーと協調して、彼らのソフトウェアをWi-Fi 電話やコードレス IP 電話に組み込んでおり、Boingo とも協調している。私がテストしたことのある初期段階の電話は、Belkin 製で、Skype 通話と Boingo サービスを組み合わせたものだ。この電話に 200 ドルを払い、無制限 Boingo 通話に月 8 ドルを払う。(Skype は、ネットワーク内の通話には料金を課していない。米国とカナダの電話番号への 無制限発信は年間 30 ドル、「本当の」電話番号での無制限着信は年間 38 ドルで、これには留守番電話サービスも含まれる。)

Devicescape のやり方と、それによって協力パートナーと競合企業とが同時に出現したことの最終的な結末は、極上の高速無線アダプタを搭載した新型デバイスが、何と言うか、実際に何か意味のあることをするのが、今までになく簡単になるだろうということだ。

Microsoft の Zune が、Wi-Fi 機能を搭載しているにもかかわらず、Wi-Fiネットワークに接続できず、音楽を Wi-Fi でダウンロードすることもできなければ、Wi-Fi で同期することもできないということを読んだときに、私が落胆したことといったら、言葉で語ることはできない(2006-11-13 の "沈む Zune" 参照)。Apple も iPhone で、音楽(ウェブブラウズと電子メールは除く)と同期について同じ制限を強制する構えだ。(2007-01-22 の "iPhone に iQuestion" 参照)。Devicescape には、このような技術に対する罪悪を模範とすることのないように願いたい。


Disc Link の CD-ROM 特許を暴く

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

今はもう活動を止めてしまった Info-Mac Network の最後の代表者である私は、ここ数年の間、弁護士や、弁護士事務所のスタッフといった人たちから、ある一連の CD-ROM について何度も問い合わせを受けるようになった。Pacific HiTech という会社によって元々制作されたこの CD-ROM は、長い歴史を持つ Info-Mac Network のさまざまの時点において、Info-Mac Archive 内容のスナップショット・コピーを収録して出されたものだ。(CD-ROM は全部で8つあって、最初のものは 1992 年の 8 月に、最後のものは 1996 年の 5 月に出されている。TidBITS でも、1992-10-19 の記事“Internet CD-ROMs”で最初のものを紹介し、また 1993-07-05 の記事“IInfo-Mac CD-ROM II: The Monster Archive”では2枚目の CD-ROM についてかなり詳細に、歴史的に見てもなかなか興味深いレビューを書いている。)私はもうこれらの CD-ROM を一つも持っていないが、TidBITS 寄稿編集者の Matt Neuburg は根っからのコレクターで完璧なひとそろいを持っており、彼が何度かにわたってその弁護士たちに彼らが特に興味を示していた CD をコピーして提供してくれた。その問題の CD こそ、1994 年 1 月に出された Info-Mac CD-ROM III だ。

もちろん、私たちはいったいなぜ弁護士たちがこの CD を欲しがっているのだろうかと訝しく思っていた。それは、この CD 上の書類の中にハイパーリンクが含まれていることに、何か関係しているらしかった。それらのハイパーリンクがこの CD に存在しているのは、一つにはここに Chuck Shotton のウェブサーバ MacHTTP の ReadMe ファイルが収録されていたからで、この ReadMe ファイルはそれ自身 HTML 書類であった。またもう一つにはウェブベースの雑誌 Trincoll Journal のいくつかの号が収録されていたこともあったし、他にもいろいろの形でハイパーリンクが含まれていた。これらの書類はまさにウェブの黎明期のものであり(HTML 自体が発明されたのは 1990 年ごろで、初期のウェブブラウザ、例えば NCSA Mosaic などがリリースされたのは 1993 年のことだった)つまりこの CD こそ、ハイパーリンクの付いた書類が含まれているものとしては現在知られている限り最も初期のものと言える。けれども弁護士たちは本当のところについて詳しく語ることは慎重に避けるのが常で、ただこれはある不当な特許の主張に対して抗弁するためにこの CD が欲しいのだと言うだけで、クライアントの名前を明かすこともせず、実際に訴訟が起こされたのかどうかさえ言ってくれなかった。弁護士とクライアントの特権とか、何かそんなことだ。

けれども 最近出た Information Week の記事のお陰で、私たちはようやく何が起こっているのかを知ることができた。この 4 月に Disc Link という名前の会社から、特許権侵害の訴訟が Avid Technology、Borland、Corel、Eastman Kodak、 EMC、Novell、Oracle、それに SAP など多数の会社を相手に起こされたのだ。

訴状によれば、これら多数の会社は U.S. patent 6,314,574 を侵害しているという。これは「情報配付システム」についての特許だ。特許の記述は読んでもほとんど意味の理解できない法律用語の羅列だが、要約はこんな具合だ:

「情報配付システムは、複数のポータブル読み取り専用ストレージ機器上のデジタルデータの一次的セットをエンコードする。更なる情報は双方向チャネルを使用してアクセスできるデータベースに保存される。このデジタルデータの一次的セットは、複数の特殊な表示可能用語、最初の非表示シンボル、複数の連関参照、および第二の非表示シンボルを含む。ユーザーはその特殊な表示可能用語の少なくとも一つを選択することができる。選択された特殊な表示可能用語に対応する連関参照は、その双方向チャネルを経由してデータベースに送られる。データベースは、その連関参照を使用して情報を検索し、その結果の情報をユーザーに返す。」

もしもあなたがマゾヒストでたっぷり時間があるのなら、その後に続く文章を FreePatentsOnline で読んでみるのもよいだろう。普通の言葉に翻訳すれば、大まかに言ってこの特許は CD-ROM で配付されたファイルあるいはプログラムからハイパーリンクを使ってネットワークベースのリソースにリンクすることについてのようだ。奇妙なことに、図式の部分に行ってその個所の特許の記述でかろうじて英語の文章のように見えるところを読んでみると、そこに書かれた例では新聞コンテンツ用の衛星ベースのシステムの話をしている。

こちらとこちらを結び付けて -- Disc Link は、実は Acacia Research の子会社だった。この Acacia Research という会社は、既存の特許を買い漁ってはそのテクノロジーをライセンスすることで収益を得ている。批判する人たちに言わせれば、Acacia Research 社は「特許荒らし」の定評を得ているという。つまり、ライセンスに対する彼らの姿勢は、相手の会社に対して訴訟を起こすことによって、それらの会社が長い時間と膨大な費用のかかる裁判所での争いを避けてライセンス契約に同意するように仕向けるというやり方が中心となっているということだ。

今回の特許の発明者として登録されているのは Dr. Hark Chan というエンジニアであり弁護士でもある人物で、この人物には情報テクノロジー関係の特許が数多く認められている。そしてそのうち少なくとも一部は Acacia Research に買収されている。そのような特許のうち一つは(今回の問題の特許と同じものだった可能性もあるが)CD-ROM ベースのデータベースをウェブ上でアップデートすることに関する 2003 年の訴訟で使われた。けれども Dr. Chan は、ただ単に特許を Acacia Research に売り渡したエンジニアというだけではない。 TechSearch という名の会社のウェブサイトによれば、彼はその相談役会の一員となっている。そして、TechSearch 社は自社のことを「主として特許の購入・所有、およびライセンス・執行関係のビジネスに従事する私企業」と称しているにもかかわらず、TechSearch ウェブサイトの Homepage リンクをクリックすれば、何と Acacia Research のウェブサイトにジャンプする。つまり Disc Link も TechSearch も、どちらも基本的には Acacia の隠れ蓑ということのようだ。

Disc Link がこの特許に関して起こした訴訟は、今回が初めてですらない。遡って 2006 年の 12 月のこと、Disc Link は Adobe、H&R Block、McAfee、Sage Software やその他の会社を相手に、 今回と同じ特許についての侵害で訴訟を起こしている。Sage Software と McAfee はどちらも法廷で特許を争うことを避けて Disc Link と和解したが、他の被告たちは現在特許の係争中だ。Ars Technica の記事によれば、H&R Block は Disc Link が「この '574 特許を本来のもの以上の許容し難い方法で解釈することによって反競争的な効果を発生させようとした」と述べ、また Disc Link が「この訴訟を提訴した時点で問題の特許の無効性ならびに執行不可能性を認識していた」とも述べたという。

ピースをぴったり組み合わせる -- するとすべては明らかとなる。この特許が申請されたのは 1998 年 11 月のことだが、これは以前の申請で 1993 年 4 月に遡るものの「継続」となっている。この前回の申請が「先行技術」の問題にどのように係わるかは法廷の判断によって決まる。Info-Mac CD-ROM は、広く配付された CD-ROM としては最も初期のものにあたり、そこにはオンラインの Info-Mac Archive にあるソフトウェアが含まれていて、そのいくつかはプログラム上、あるいはマニュアル中にインターネットへのリンクを持っていたかもしれない。明らかに、Info-Mac CD-ROM が「先行技術」を構成していることを証明したい、というのが望みなのだ。

ここで一つ問題となる可能性があるのは、Info-Mac に作品を投稿したソフトウェア開発者たちが意図したのはそれが Info-Mac の FTP サイトで入手可能になるようにすることであって、Pacific HiTech の制作した Info-Mac CD-ROM にはただ偶発的に収録されただけかもしれないということだ。しかしながら、Info-Mac CD-ROM が制作されているという事実に開発者たちが気付いていたのは確かだった。なぜなら当時 Pacific HiTech はわざわざ Info-Mac 題材のすべての著者たちにコンタクトを取って、個々の CD について明示的に再配布の許可を要請していたからだ。だから、そのようなウェブリンクの付いた書類を CD-ROM に載せる意図があったことを証明できる可能性はある。

私たちはようやくこの裁判に関係している弁護士の一人と連絡を取ることができ、彼と話してみたが、どうやらこの不当な特許の主張に対抗して先行技術を根拠に戦うには三つの方法があるらしい。それらは、この特許の三つの基本的な様相に関係している。CD-ROM、ハイパーリンク、それにネットワークだ。

* 問題となっている時期にネットワークされたリソースへのハイパーリンクを提供していた CD-ROM を見つけ出すのはかなり困難なことだと分かった。その理由は一つにはそれが 15 年近くも昔のことだからであり、またその当時には CD-ROM 自体がまだそれほど一般的ではなかったからだ。けれども本当にこれは CD-ROM である必要があるのだろうか? 概念的に言って、読み取り専用のフロッピーディスクと CD-ROM との間に何か違いがあるだろうか? 1990 年代の初期には読み取り専用フロッピーディスクは一般的なものだったし、そこにハイパーリンクを含んだものを見つける方がずっと簡単かもしれない。

* ハイパーリンクとは何かという問題も検討する必要があるだろう。当時はたくさんのネットワークベースのゲームがあり、ネットワーク対応のデータベースも山ほど存在していた。ネットワークを通じてサーバとやり取りできる FileMaker データベースならば、先行技術と見なすことができるだろうか? Jim Matthews の Fetch のような初期の FTP プログラムや、さらに時代を遡って Cornell の Doug Hornig が書いた Hypercard ベースの HyperFTP などに付属して出荷された FTP ブックマークなどはどうだろうか?

* また同様に、何をもってネットワークされたリソースと呼ぶべきなのだろうか? 初期のオンラインサービス、例えば CompuServe や AppleLink などは、パーソナルコンピュータの上で走るグラフィカルなフロントエンドを持っていて、オンラインのみで利用できるリソースへのリンクをそこに提供していた。Apple でさえ、ある種のバグ報告システムを持っていてそれを AppleLink と統合させており、また Apple Developer Relations は当時すべての Apple 開発者たちに定期的に CD を出荷していた。

もしもあなたがこの特許を先行技術を理由に無効化するために協力して下さるのならば、そこで探し求めるべき聖杯とは、1993 年 4 月よりも前に配付された CD-ROM であって、インターネットあるいはその他のネットワークへのリンクを持ったアプリケーションを含んでいるものだ。そのリンクは目に見える部分(例えば HTML におけるリンクのテキストとか、メニュー項目とか)と、目に見えない部分(HTML における隠された HREF タグとか、プログラムの「ウェブサイトへ行く」メニューの基盤となるコードとか)の両方を備えていなければならない。聞いたところでは、そのアプリケーションがハードディスクにコピーして使用されることを意図したものである方が、CD からアプリケーションを走らせるようになっているものよりも幾分か良いと見なされるようだ。もしもあなたがそれに該当するものをお持ちならば、ぜひ私にご連絡頂きたい。そうして下されば、私から適切な方法で紹介させて頂きたく思っている。

もう一つ別の抗弁の方法の可能性もある。 別の事件に関する最高裁のごく最近の判決によれば、裁判所は「真の革新によらず通常の道筋で起こり得る進歩に対して特許による保護を与えることは進歩を阻害するものであり、既知の要素を組み合わせた特許については、過去の発明に対してその価値あるいは有用性を減じてしまう可能性がある」と述べている。これは重要な点だ。今日のソフトウェアやビジネスモデルの特許の多くは、既に広く普及していたアイデアを集めてカプセルに詰め込んだだけのものに思え、どこかが間違っているという感じを否めないからだ。Disc Link が CD-ROM 上のハイパーリンクという概念を「発明」したという主張が、ユニークな発明として保護を受けるには値しないということは確かだろう。これは、単に当時ありふれていたアイデアやテクノロジーをひとまとめにしただけのものだからだ。いまいましいじゃないか、この私だって、当時“Internet Starter Kit for Macintosh”の著者として、Macmillan 出版関係のあらゆる出版者たちを一同に集めたプレゼンテーションの場で、CD-ROM ベースのビジュアルなインターフェイスによって最も興味深いインターネットリソースに繋げるようにしたらどうだろうかと提起したことがあるのだから!

いずれにしても、今回の裁判を引き続き見守っていくのは素晴らしく興味深いことだろう。どちらの側も、このほとんど理解不能な特許と、Disc Link の訴えの主張の中から、それぞれに何とかして意味を引き出そうと試みていくことになるのだから。


Take Control ニュース/07-May-07

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: 松田 栄 <sacaboom@gmail.com>

格安航空券を購入するための賢い方法 -- もしあなたが私たちのように、飛行機の旅をする毎にほぼ毎回、安い買い物をしようと Web 検索に何時間も費やしたとしても、結局は希望したよりも多く支払うか、節約した金額は費やした時間と苦労には見合わないと感じるのが落ちだ。次回はこんなことにならないように、Sam Sellers の "Take Control of Booking a Cheap Airline Ticket" の最新バージョンをチェックしよう。この 148 ページの電子ブックがあれば、多くの時間を無駄にすることなく、迷路のように入り組んだ旅行関連サイトの中から、効率的に格安航空券を見つけることができる。

私たちはこの電子ブックのバージョン 1.1 をリリースしたばかりだ。これには米国の国内線の予約で、Farecas をいつどのように使うかという詳細情報が掲載されている。Farecast は、まだテスト段階だけれど、Popular Science から 2006 年に登場した優れたサイトとして評価された。さらにこのサイトは、Frommers.com、PC World、Time Magazine、Business Week からも同様の称賛がおくられた。この電子ブックでは、アメリカ合衆国を基点とする国際線と国内線がカバーされている。

アップデートは、既存ユーザーなら無料で行える。電子ブックの最初のページにある Check for Updates ボタンをクリックすれば、無料アップデートにアクセス可能だ。


TidBITS Talk/07-May-07 のホットな話題

  文: TidBITS Staff <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

サービスの改善 -- 「サービス」メニューのごちゃごちゃを整理したくないか? Service Scrubber がそれをやってくれる。他にもサービスを改善するためのアイデアをお持ちの方があれば、どうぞこちらにポストして欲しい。 (1 メッセージ)

ゴミ箱が空にできない -- 中古の Mac を買ったある読者が、ゴミ箱を空にできないでいる。そこで、この問題の解決法、またその他の状況でおとなしくゴミ箱に入ってくれないファイルの問題を解決するためのいろいろな提案が寄せられる。 (9 メッセージ)

ガタガタ WEP の上に乗れば、ネットワークはボロボロ -- 古い AirPort ベースステーションで WPA を動かそうとして起こるトラブルの話から派生して、ワイヤレスのセキュリティについて、あるいはオープンなネットワークを走らせることに伴うリスクなどについて質問が集まる。(19 メッセージ)

Apple のストックオプション -- Apple のストックオプションのバックデーティングで SEC が実施している調査は、Steve Jobs を潔白にするためのものとも解釈できるが、それは必ずしも最終決定事項とも言えない。 (2 メッセージ)

Address Book/.Mac から Outlook へ? -- コンタクト情報を Mac の Address Book から Outlook へと転送する手軽な解決策はあるのか? 実は、Entourage がうまく使える。 (6 メッセージ)

iMac 24" をディスプレイに? -- ある読者の 24 インチ iMac が引退の時期を迎えたら、その美しいディスプレイだけでも外部モニタとして使えるようにならないか? (3 メッセージ)

Flash プレイヤーのインストールの問題 -- インストールで問題が起こるのは root としてログインすれば解消されるのか、それともその方法は別の問題をたくさん引き起こしてしまうだけか?(6_メッセージ)

Apple Mail フォルダの移動 -- ある読者の Mac は、Mail フォルダを移動した後もそれが前の場所にあると思い込んでいる。これを正しい方向に向け直してやるにはどうすればよいのか? (3_メッセージ)

APPLE-SA-2007-05-01 QuickTime 7.1.6 -- 最新の QuickTime アップデートに際して、Windows におけるインストールのバグが明らかになった。このバグは Windows 95 にまで遡る。(4 メッセージ)

Jobs、Apple の "green" 資格認定状をポスト -- 先週の Steve Jobs の公開書簡に、読者たちが反応する。コンピュータ設備のリサイクルや、LED ベースの照明設備などが議論される。 (15 メッセージ)

Quicken 2004 の「日暮れ」 -- 2007 年 4 月 30 日現在、Quicken 2004 はどうやらオンライン送金ができず、これはソフトウェアに組み込まれた制限事項のようだ。これは、より新しいソフトウェアのみにサポートを集中させる方策として理解できるものか、アップグレードを強制するためのいやらしいやり方か、それともその両方か? (5 メッセージ)

Mac OS X の Address Book グループによる Eudora フィルター -- 最新バージョンの Eudora は、Address Book からアドレスを読み込める。けれどもある読者は、グループ機能を使っていてトラブルに逢った。 (3-メッセージ)

公共の接続で財務ウェブサイトにアクセス -- いくつかのウェブサイトは決して公共ネットワークを使ってアクセスしないようにと勧める Walt Mossberg は、気にし過ぎだろうか? ここでもやはり教訓は、どれだけ気にすべきかは相対的なものだ、ということだ。 (4_メッセージ)


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