TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#882/04-Jun-07

見たいテレビ番組や映画だけを、もっと安い値段で見ることはできないだろうか? この疑問をきっかけに、Adam はテレビ番組を見るいろいろな方法、それぞれどのくらい払うことになるのか、何か気をつけるべきことはないかといった点について広範なレビューをまとめあげた。また今週号では、最近タッチスクリーンとかモバイルのウェブブラウジングなどが気になるという人のために、iPhone のリリース日が決まったという嬉しいニュースをお届けする。2007 年 6 月 29 日だ。今月の後半にはまた、Apple が Apple TV への YouTube ダウンロードの提供を開始する。でも、160 GB ハードディスクを備えた Apple TV の機種や、(DRM フリーの iTunes Plus トラックをサポートした) iTunes 7.2、それにまたもやいくつかのセキュリティアップデートなどについては、指折り数えて待つ必要はない。これらはすべて現在入手可能だ。

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Apple、iPhone を 6 月 29 日にリリース

  文: Glenn Fleishman <[email protected]>
  訳: 羽鳥公士郎 <hatori@ousaan.com>

3本立てのコマーシャルで Apple が明らかにしたことには、6 月 29 日金曜日が iPhone の発売日となる。この広告では、iPhone の比類なき能力の一部、たとえばビデオ再生、「ガラス」(キーのない)キーボード、見栄えのよい電子メール、Google Maps および Google local の検索結果との統合など(2007-01-15 の "iPhone は携帯電話の定義を変えるか" 参照)が実演されている。これら個々の機能は、既存のスマートフォンやそのほかの機器にも見られるが、これらすべてを組み合わせ、さらに Apple の iTunes Store という音楽やビデオの大規模なライブラリーにどこからでもアクセスできる電話というのは、ほかに例がない。

6 月 29 日が発売日だと言うことで Apple が何を意味しているのか、はっきりしない。あらかじめ注文しておけばその日に iPhone が玄関に届くという意味か、あるいはその日に Apple Store や AT&T(旧 Cingular)の系列店に行けば購入できるという意味だろうか。AT&T は iPhone の注文をまだ受け付けていないが、私が想像するにまもなく始まるだろう。AT&T は多くの系列店で看板やそのほか細部を変更し、Cingular のロゴと名前を脱ぎ捨てて iPhoneの発売に備えている、と同社は数週間前に述べていた。

この広告でも確認されたのだが、iPhone では AT&T と2年間の契約を結ぶことが必要となる。最近噂されているところでは、プリペイド方式も提供されるかもしれないということだが、この電話のプレミアム的性格とその結果としての排他性を考えれば、それはありそうもない。

iPhone には2つのモデルが予定されている。4 GB の機種が 500 ドルで、8 GB モデルが 600 ドルだ。iPhone は Wi-Fi と EDGE に対応する。後者はセルラーデータの標準で、速度はダイアルアップモデムの2倍から3倍、広い地域で利用できる。Wi-Fi と EDGE の料金プランはまだ発表されていない。

このようなパッケージに最も近い競合製品は、T-Mobile が提供している。月30 ドルで、どこででも EDGE データが無制限に使用でき、米国内の 7,000 を越える T-Mobile Wi-Fi ホットスポットで Wi-Fi 接続が使用できる。


Apple TV に 160 GB ドライブと YouTube ダウンロードが加わる

  文: Jeff Carlson <[email protected]>
  訳: 羽鳥公士郎 <hatori@ousaan.com>

嵐を呼ぶ男、と私を呼んでほしい。私が新刊("The Apple TV Pocket Guide")を印刷に回したちょうどその数日後、Apple が Apple TV のアップグレードを発表した。

先週の D: All Things Digital 会議において、Apple の CEO である Steve Jobs と Wall Street Journal のコラムニスト Walt Mossberg が壇上に上がり、Apple の最近の「趣味」たる Apple TV について語り合った。「これが趣味だと言うのはね、」と Jobs が説明する。「多くの人がこれをビジネスにしようとして、そして失敗しているからだ。1年で数十万台ということになればビジネスと言ってもいいが、年間数百万台には到達しなければね。でも、改善を続けていれば壁を破ることができると思う。」

ビジネスの壁を破る方法の1つが、BTO オプションの形で実現した。Apple TVの基本モデルの、比較的小さい 40 GB という容量に替えて、160 GB のハードドライブを搭載することが可能になったのだ。Apple の主張によれば、この大容量ドライブには 200 時間のビデオまたは 36,000 曲の音楽を格納できる。それに対し、40 GB モデルでは 50 時間のビデオか 9,000 曲の音楽だ。160 GB バージョンの価格は 400 ドルで、40 GB バージョンは今までと変わらず300 ドルだ。

さらに興味をそそられるのは、YouTube のコンテンツがダウンロードできるようになるということだ。これはいつか実現するだろうと私たちは考えていた。というのも、この機器はすでに映画の予告編などのビデオコンテンツをダウンロードする能力を備えていたからだ(2007-03-26 の "Apple TV: 本当のビデオ iPod" 参照)。新しい YouTube メニュー項目から Featured や Most Viewed といったカテゴリが選択でき、ビデオが直接 Apple TV にストリームされるようになる。(非公式のハック を使って、YouTube のビデオやほかのオンラインコンテンツを Apple TV で見ることが、この機器が出荷され始めてから数日後にはできるようになっていたが、それを実現する操作は簡単ではない。)この機能は 6 月中に、無料のアップデートとして利用可能になる予定だ。


小さなセキュリティアップデート2つ

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Apple は先週、2つのセキュリティアップデートをリリースした。Security Update 2007-005 のバージョン 1.1(2007-05-28 の記事“Security Update 2007-005 リリース”参照)と、セキュリティアップデート (QuickTime 7.1.6) だ。この記事を書いている時点で Apple はまだ Security Update 2007-005 のバージョン 1.1 で何が修正されたのかについて触れていない。一方 QuickTime のセキュリティアップデートの方は、任意のコードが実行されたり重要な情報が暴露されてしまう危険性のあった、QuickTime for Java における2つの問題点を修正している。この説明は今月初めに出された QuickTime 7.1.6 自体について述べられたセキュリティ修正事項の説明と同じように聞こえるが、どうやら今回は別の件についての修正のようだ。(2007-05-07 の記事“QuickTime、AirMac、セキュリティアップデートをリリース”を参照。)いずれにしても、どちらのアップデートもインストールしておく価値のあるもののようだ。Security Update 2007-005 1.1 のダウンロードはPowerPC 用 (15.7 MB) Universal (29.2 MB) の2つのものがあり、Security Update (QuickTime 7.1.6) は 1.4 MB のダウンロードだ。単にソフトウェア・アップデートを使えばあなたの Mac に適合したバージョンが自動的に入手できる。


DealBITS 抽選: BeLight Software の Live Interior 3D

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

私たちは皆それぞれに、本当にやってみたいとは思いつつもなぜかその機会が見つからなかったという物事が何かしらあるものだ。私の場合、わが家の部屋の 3D モデルを作って、家具の配置を試したり、改築のプランを立てたりして遊んだり、あるいは単に実際の家屋のデジタルモデルを作って楽しむだけでもやってみたい、というのがそういう願いの一つだった。それに、もしも私が家を新築することにでもなったら、これはもうそういうツールなしには何も始まらない。残念ながら、今に至るまで私の人生にはそんな実験に手を出すまでの時間のゆとりがなかった。でも、とにかく部屋の 3D モデリングをやってみたいと思う人なら誰にでも、BeLight Software の新製品 Live Interior 3D は天の恵みとも言えるものだろう。1,000 個以上のオブジェクトがあって、あなた自身のプランに沿って配置できるし、50 個ほどある編集可能なテンプレートを修正して使ってもよい。また Google 3D Warehouse もサポートしており、他の 3D プログラムからオブジェクトを読み込むこともできる。2D モードで作業することもでき、ここには自動次元拡張、自動の床・天井作成、スマートガイドなども付いている。3D モードには、複数個の調整可能カメラを使った walk-through モードもあり、時刻や、地理的な方向、光線の向きなども指定できる。これは一見の価値ありだ。

今週の DealBITS 抽選では、Live Interior 3D を3本、賞品にする。それぞれ定価 $79.95 相当の製品だ。幸運が足らずに当選から漏れた応募者には、もれなく Live Interior 3D 割引価格の資格が贈られるので、ぜひ奮ってこの DealBITS ページで応募して頂きたい。寄せられた情報のすべては TidBITS の包括的プライバシー規約の下で扱われる。どうかご自分のスパムフィルターや challenge-response システムに注意されたい。当選したかどうかをお知らせする私のアドレスからのメールを、あなたに受け取って頂くのだから。また、もしもあなたがこの抽選を紹介して下さった方が当選すれば、紹介に対するお礼としてあなたの手にも同じ賞品が届くことになるのもお忘れなく。

[訳注: 応募期間は 11:59 PM PDT, 10-Jun-2007 まで、つまり日本時間で 6 月 11 日(月曜日)の午後 4 時頃までとなっています。]


iTunes 7.2 が DRM フリーの音楽に対応

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: 羽鳥公士郎 <hatori@ousaan.com>

Apple が iTunes 7.2 をリリースした。これの注目すべき点は1つだけだ。すなわち、"iTunes Plus" の音楽をプレビューしたり購入したりできるようになったという事実だ。この音楽では、音質が向上したのに加え、Apple のFairPlay デジタル著作権管理(DRM)が取り除かれている。私が "Apple と EMI、iTunes で DRM フリー楽曲を提供"(2007-04-02)で書いたように、Apple と EMI Music は 2007 年 4 月に、EMI のカタログにあるデジタル音楽のすべてを、全世界の iTunes Store で DRM なしで購入できるようにすると発表していた。そのとき約束された開始日は 2007 年 5 月だったから、かろうじてすべり込んだというところだが、約束が守られたと言ってもよいだろう。iTunes 7.2 は Software Update から、または 29.6 MB のスタンドアロンダウンロードとして入手できる。

iTunes Plus の楽曲と音楽ビデオは、FairPlay がないというだけでなく、256 Kbps の AAC ファイルとしてエンコードされている。それ以前は 128 Kbps AAC だった。楽曲の価格も上がり、0.99 ドルから 1.29 ドルになった。音楽ビデオの価格は変わらず 1.99 ドルで、オーディオ品質は向上したが、ビデオ品質は変わっていない。

iTunes Plus フォーマットの楽曲やビデオを購入するには、アカウント設定でiTunes Plus を有効にする必要がある。ただし、iTunes Plus で入手可能な楽曲を購入しようとすれば、iTunes 7.2 が設定を有効にしてもよいかどうか尋ねてくる。有効にすれば、iTunes Plus の楽曲の 1.29 ドルという価格の隣に小さな + マークが現れる。

すでに DRM で保護された楽曲を購入してしまっていたら、iTunes Store のUpgrade My Library ページ から差額の 0.30 ドルを支払えば、iTunes Plus版にアップグレードできる。あいだをおいて繰り返しそのページをチェックして、iTunes Plus フォーマットでリリースされた楽曲が追加されていないかどうか確かめる必要があるだろう。音楽ビデオのアップグレードは 0.60 ドルで、アルバム全体なら現在のアルバムの価格の 30 パーセントでアップグレードできる。楽曲をアップグレードすると、iTunes は新しいものをダウンロードし、オプションでオリジナル版を "Original iTunes Purchases" フォルダに置いておくことができるから、それを iTunes Plus 版と比較して、音質の違いを聞き分けることができるかどうか確かめることもできる。

(Apple が iTnues Plus 設定と Upgrade My Library 機能を iTunes 自体ではなく iTunes Store に置いたというのは興味深い。このやり方は理にかなっている。というのも、iTunes はますます、本当のインターネットアプリケーションになっているからであり、そうすれば、数え切れないほどの Mac と PCにコードを送りつけることなく、簡単に拡張できる。)

iTunes Plus は、FairPlay の比較的理性的な制限にさえイライラさせられている消費者や、音質の違いが分かる人たち、そして DRM の制限があるためにiTunes Store で購入することを拒否していた少数の人たちにとって、まちがいなく良いものだ。EMI はほかのオンライン音楽ストアに対しても DRM フリーの音楽を提供しているし、eMusic は長いあいだ DRM フリーの音楽を販売しているが、今回の動きは Apple にとってもイメージアップとなった。わずらわしい DRM から音楽を解放するのに一役買ったと見られるようになったのだ。EMI も勝者だ。iTunes Plus 楽曲の販売によって収入が増えるし、iTunes Store の中の新しい iTunes Plus ページで EMI の音楽が大々的に取り上げられるということも、疑いなく売り上げを増加させるだろう。

しかし、 Ars Technica が伝えるところでは、Apple は iTunes Stere から購入した楽曲に購入者の氏名と電子メールアドレスを埋め込んでいるということだ。これは当初から行われていたようなのだが、楽曲を再生するのに承認が必要である限りは意味を持たなかった。だが、iTunes Plus の楽曲では、これが共有された場合に、この隠された焼き印を使って元の購入者までたどることが、理論的には可能だ。ただし、何らかのデジタル署名がなければ、この情報を詐称して無実のユーザを陥れるということも起こりうる。この情報を使ってApple が何をしようとしているのかはまだ明らかでないが、それが何であれ、個人を特定できる情報を使用するのであれば、同社のプライバシーポリシーに明記するべきだ。これは EU で特に問題となるだろう。EU では、米国に比べ、プライバシーがずっと重要視されている。

オーディオ関連の開発をしている Rogue Ameoba は iTunes Plus を歓迎するだろう。DRM がなくなったので、同社の Fission オーディオ編集プログラムで iTunes Plus の楽曲を操作して、着メロを作成したり、サウンドバイトを作成したり、あるいはライブ録音から拍手を削除したりすることが可能になる。(しかし、Daring Fireball の John Gruber が指摘しているのだが、iTunes 7.2 でアップデートされた使用許諾条件は、購入した音楽を着メロとして使うことを禁じている。そのような制限が効力を持つかどうかは別の話だが。)だが、私が本当に望んでいるのは、オーディオブックが iTunes Plusフォーマットになることだ。1冊のオーディオブックが、iTunes Store では複数のファイルとして販売されているので、再生するのがわずらわしく、私を悩ませているからだ。回避方法はあるが(2005-11-14 の "オーディオファイルの結合: DRM でイライラ" 参照)、どれも面倒で、保護されていない AACファイルを結合できるようになるというだけでもありがたい。

2つ疑問が残っている。ほかの音楽レーベルが iTunes Plus の時流に乗るのはいつだろうか。そして、Apple はビデオからも DRM を取り除くだろうか。これからも注目だ。


ビデオ取得方法を比較: *TV が欲しい!

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>
訳: 亀岡孝仁 <takkameoka@bellsouth.net>

我々はまさに今、ビデオを取得して観る方法に関して大変革のただなかにある。テレビの連続ドラマ、必見のスポーツイベント、大ヒット映画や、風変わりなドキュメンタリー、さらには手作りのビデオクリップにしてもそうだ。こうしたものの入手方法は、今ではとてつもなく混乱させられるものとなっている。昔ながらのウサギの耳みたいな室内アンテナで観るテレビから、iTunes Store で入手するものまで、その選択肢は多岐にわたる。私は、しばらく前からこの話題について考え続けていて、すべての可能性を並べ挙げてその価格、番組の選択の幅、その他の点を比較検討してみたいと思っていた。これはあくまでも個人的なプロジェクトとしてスタートしたのだが、いったん調査研究に乗り出してみると、私たちの家族にとって当たり前のことが必ずしもすべての人にとって理想的とは言えないという事実に気付かされた。そこで、私は調査の範囲を拡げて、すべての人のためにあらゆる可能性を尽くし、私たちとは異なった鑑賞の嗜好を持った人たちにも推薦できるものを用意することを目指そうとした。さあ、どうぞゆったりと腰掛けて、リラックスしながら、ビデオに満ちた私たちの世界をめぐる長い旅におつき合い願いたい。

ビデオの歴史 -- 長い年月にわたって、特に田舎に住んでいた私の子供時代はずっと、電波による放送のテレビが唯一の選択肢であり続けた。けれどもその後、まずはケーブルテレビ、次いで衛星放送が少しずつ受信可能なチャンネルの数を増やして行った。それから 1980 年代のどこかの時点で VCR(ビデオカセットレコーダー)が登場し、テレビ番組のタイムシフトや映画のアフターマーケットが庶民のものとなった。そこで飛び出したのが MPAA 代表の Jack Valenti による有名な発言だ。「言っておくが、アメリカの映画プロデューサーとアメリカの大衆にとっての VCR は、独りで家にいる女性にとってのボストン絞殺魔のようなものだ。」言うまでもなくこの Jack Valenti の発言はとんでもない的外れの非難であった。その後まずは VCR が、それから DVD プレイヤーが、映画業界やテレビ業界にとってはポストリリースによる売り上げを通じた新たな収益源として膨大な利益を生み出したのだから。1998 年には、DVD ディスクの小型サイズと耐久性を生かしてオンラインの DVD レンタル会社 Netflix や、より小規模で焦点を絞った数々の競合各社も登場してきた。

オリジナルの Napster が音楽スタジオ各社にパニックを引き起こしたので、映画業界は状況を注意深く眺めることにし、当初はさまざまの技術的な制限があってピア・ツー・ピアのコピーから隔離できていた。1990 年代半ばのコンピュータはまだビデオをエンコードやデコードするのに必要なプロセッサパワーを備えていなかったし、ハードディスクも十分な量のビデオを貯えられるほど大きくなかった。それに映画の全編のファイルをダウンロードできるに十分なほど太いブロードバンドのパイプを持っている人の数はあまりにも少なかった。けれども言うまでもなく、このような制限は時を置く間もなく崩れ去って行った。DVD のコピー防止アプローチ方法 Content Scramble System が 1999 年 10 月に Jon Lech Johansen とその他二人の人々によるプログラム DeCSS で破られたこともあって、DVD のフルスケールコピーは単に可能となっただけでなく、実際ありふれた事柄となってしまった。

一方合法的なビデオのダウンロードも後れを取っておらず、数限りないオンデマンドビデオのサービスが出現して Windows PC を持つ人々にビデオを提供した。けれどもすべての要素を一つにまとめたサービス(広範な選択肢と、良いビジネスモデル、それにシンプルなユーザーインターフェイスを兼ね備えたもの)は、Apple が iTunes Store にビデオを導入した時までどこにも見られなかった。実際この時に初めて、映画の全編も、封切りのテレビ番組も、ショートフィルムも、ミュージックビデオも、すべて個人が購入して Mac か PC かビデオ iPod で iTunes を使ってプレイできるようになった。Apple の提供する選択肢は確かに当初は少なかったが、それ以来特にビデオは遥かに数多くのものが iTunes Store に登場するようになり、インターネットがビデオの取得方法としてメジャーなものの一つとなったことは、その売上高を見ても明らかとなった。(2006-09-25 の記事“Disney、iTunes Store での最初の週に 125,000 本の映画を売る”を参照。)

けれどもおそらく映画業界やテレビ業界にとって最も予期せぬ競争相手となったのは、非合法なダウンロードによるものではなく、 YouTubeGoogle Videoのようなビデオ共有サイトだった。これらは毎日何万件もの手作りビデオのアップロードを受け入れており、何百万何千万という視聴者を惹き付けている。ここではお金のやり取りは行なわれないものの、視聴者たちが YouTube(現在は Google が所有、2006-10-16 の記事“Google、YouTube を $1.65 Billion で買収”参照)のようなサイトでショートクリップを観て過ごす時間は、すなわち伝統的なテレビや映画を観ないで過ごす時間ということなのだ。

舞台を設定しよう -- さて、このように見てくると大きな疑問が湧く。今この時代に、ビデオのエンターテインメントを入手しようと思えばどれがベストな方法なのだろうか、という疑問だ。それを考えてみると、本当の疑問は「ベスト」とは何なのかということだと分かる。思うに、人々がビデオの入手方法を決定する際にはいくつもの要因がある:

あともう一つ、多くの人たちが考えもしなかったかもしれない要素で、タイムシフトや場所のシフトを議論する際に避けて通れないものがある。合法性だ。その定義から必然的に、タイムシフトや場所のシフトをしようとすれば番組のコピーを作る必要がある。これは VHS テープでも iPod でも同じことだ。いくつかの場合ではこの作業は完全に合法的だが、他のいくつかの場合では法的な責任を負わなければならないこともある。(少なくとも、あの物議を醸した FCC の“broadcast flag”は、タイムシフトや場所のシフトを防止するためにハードウェア上のコピー防止を組み込んでいないハードウェアの製造を禁止しようと試みたが、発効に至る前の 2005 年に無効と裁定された経緯がある。)

では、これからビデオを観るための個々の方法について、今挙げたそれぞれの基準で評価してみよう。

地上波による放送 -- 高速のインターネット接続がある今、私たちの多くにとって地上波によるテレビ放送は 1950 年代の古びた名残りのように見えるかもしれない。お父さんが屋根の上に登ってアンテナの向きを調整しながらちょっとでも受信状態を良くしようとするのが家族の一大イベントだった時代だ。けれども現実は、2006 年の 12 月現在、アメリカ合衆国のテレビを持つ家庭のおよそ 13% にあたるほぼ 1,500 万世帯が今でも地上波によるテレビ放送に依存しており、外国ではそのパーセンテージがもっと高くなるという。それももっともなことではないだろうか? 確かに入手可能性は物理的障壁に制限されており、少ないチャンネル数のせいで番組の選択肢も限定されたものかもしれない。けれどもそれと同時に、広告料で運営されているテレビ放送は受信するのが無料で、最新のネット局のニュースや、メジャーなスポーツイベント、さらには最も人気のある番組も提供しているし、視聴者の側でのタイムシフトに何の制限も加えない。場所のシフトに関しては番組をいったんデジタルフォーマットに録画する必要があるのでちょっとやっかいだが、私の見るところテレビ放送で満足している人たちの多くはそもそも iPod その他の場所のシフトのためのハードウェアのターゲット顧客層とは違っているのではないかと思う。

ここで念頭に置くべきなのは、TiVo のようなデジタルビデオレコーダー (DVR) があれば視聴者のタイムシフトの能力が飛躍的に向上するばかりでなく、テレビ番組の選択肢も向上するということだ。これは、以前は無かった番組を持ち込んで来られるからではなくて、妙な時間帯に放送されている番組も能率良く掘り出して来るのが可能になるからだ。

アメリカ合衆国に住んでいる人たちにとっては、各放送局が古いアナログのチャンネルから新しい高精細のデジタルチャンネルに切り替えてゆくに従い、より多数のチャンネルを提供することが可能になっていることも忘れてはならないだろう。この切り替えは 2009 年 2 月 18 日までに完了しなければならないことになっている。だから、その時点までにあなたは既存のアナログテレビで使うコンバータを用意するか、あるいは新しいデジタルテレビを購入するかしなければならない。(この作業プロセスをお手伝いするため、Clark Humphrey の電子ブック“Take Control of Digital TV”の第2版がちょうど出たばかりなのでご覧頂きたい。)Consumer Electronics Association(全米家電協会)は、1つ以上のデジタルチャンネルを受信できるのはアメリカ合衆国のテレビ保有世帯の 99%、5つかそれ以上を受信できるのは 89% と見積もっている。この Consumer Electronics Association の AntennaWeb サイトには興味深い FAQ とオンラインの“interactive antenna mapping program”があって、あなたがどのテレビ局(デジタルおよびアナログ)を受信できると思われるかについて助言し、あわせてあなたのアンテナをどちらに向けるべきかを具体的に示した地図も載せている。また、Antenna Direct の HDTV 局リストは地上波による HD 放送をしている放送局の膨大なリストだ。カナダにおいても、地上波による放送での HD の状況はこれと同様で、こちらは HDTV Digital Home を見るとよい。

ケーブルと衛星 -- テレビ放送はまだ死んだ訳ではない。衛星放送テレビも以前にまして多くの購読者を惹き付けているが、ケーブルテレビもまた、少なくともアメリカ合衆国では隆盛を誇っている。わが国では全世帯のおよそ 60%(6,560 万世帯)がケーブルを使っており、それ以外に 27%(3,010 万世帯)が衛星放送テレビと契約している。全世界では、およそ 12 億世帯がテレビを保有しているうち、ケーブルテレビに依存しているのはたった 30% 程度しかない。基本的な拡張ケーブルのわが国での平均価格は月額 $41 ほどだが、ある調査によればケーブルテレビの購読者も衛星放送の購読者も、いずれも追加のサービスを盛り込むことで平均して月額 $58 を払っていて、ともすれば月額 $80 に達することも珍しくないとのことだ。このようにかなり高い毎月の料金によって 2006 年に国内のケーブル業界は 682 億ドルにのぼる売り上げを達成しているにもかかわらず、その一方で広告も依然として盛んで、こちらもさらに 238 億ドルの追加収益を生んでいる。料金が平均して月額 $58 だとして、平均的なアメリカ人が(何と!)毎日 4.5 時間テレビを観ているとすると、ケーブルあるいは衛星のテレビ料金は1時間あたりたったの $0.43 ということになる。(ついでながら最近の研究 によれば毎日 3 時間以上テレビを観るティーンエイジャーには学習障害のリスクが増すという結果が出たとのことだ。)

ケーブルテレビと衛星放送は新鮮味に関しては非常に強い。リアルタイムのニュースも、スポーツも、最新の番組も充実しているからだ。また、番組の選択肢もたっぷりある。けれども、膨大な量の番組がまるでショットガンの連射のごとくに浴びせられるので、ともするとあなたは何百もあるチャンネルを次々と切り替えても結局観たい番組が見つからないということになりがちだ。番組の数自体が圧倒的に多いので、例えば TiVo のような DVR(あるいはケーブルや衛星の会社から貸し出される機能の劣った機種でさえも)が必須となるだろう。これは、ただ単に(合法的な)タイムシフトのために必要というだけでなく、籾がらの中から麦粒を選り分けるために必要なのだ。地上波の放送と同じく場所のシフトをするためには余分のハードウェアと努力が必要なので、実際にわざわざ TiVo からビデオを抽出して iPod で観るために努力を傾ける人は少ないだろう。

DVD に録画されたビデオを購入 -- 録画されたビデオの市場は VCR でスタートしたが、今ではほぼ完全に DVD に取って代わられている。VCR も DVD プレイヤーも基本的には同じくらいポピュラーで、アメリカ合衆国の家庭のうち 75% から 85% くらいはどちらかを保有している。ただ、VCR の方ははっきりと衰退の傾向を示しており、DVD プレイヤーの販売台数は今では 40 対 1 の割合で全般的に VCR を大きく引き離している。もっと顕著な数字を挙げれば、昨年アメリカ合衆国内で録画コンテンツのために支出された 242 億ドルのうち、VHS によるものはたったの 1 億ドルだった。(2004 年の 30 億ドルから大きく落ち込んでいる。)実際、2006 年の録画コンテンツの総額は 2005 年よりも 2004 年さえよりも少なく、増加したのはただ一点、DVD の売り上げ額が 3 億ドル増えたことだけだった。その増加にしてもテレビ番組のコレクションの売り上げが伸びたことによるところが大きく、それだけで 2006 年の市場の 18% を占めていた。これは 2002 年に比べて 8% の増加となっている。また、テレビ番組の DVD はフルシーズン分ならば平均して $41 という価格で、DVD 映画の平均価格が $17 であるのと対照的だ。

DVD で購入するコンテンツの1分あたりのコストを計算すると、4 セント弱から 17 セント近くまで、その答はさまざまだ。コストが安いものはテレビ番組を何シーズン分も一緒にまとめたり、映画の連続ものの何編かをまとめたりしたような大きなバンドルに入っている場合だ。1時間あたりに換算すれば、$2.40 と $10.20 の間ということになる。また、仮にあなたが録画コンテンツのビデオしか観ないとすれば、たとえ毎日2時間ずつしか観なかったとしても、そのコストは月額にして $140 と $600 の間になる。もちろん、平均視聴時間を毎日1時間ずつに落とせば数字は半分ずつになるが、それでもケーブルテレビや衛星放送に比べてはるかに高額だ。

ただし、録画コンテンツを購入して一回だけ観るのならば確かに割に合わないかもしれないが、子供たちが同じ DVD を何度も繰り返し観るのはよくあることで、そういう場合は毎回のコストが下がる。これは裏付ける統計を見つけることはできなかったが、私の推測では 20 代の人たちもやはり、ビデオテープや DVD を何度も観る世代の中で育ってきたのだから、テレビ番組や映画をやはり大人になっても何度も観るということはありそうに思える。このことは、VCR 世代よりは前の世代である私たちとは対照的だ。“The Wizard of Oz”が毎年テレビに出るようになった時の大騒ぎを思い出して頂きたい。(Tonya と私が持っている映画の中で私たちが何度も観るのはほんの数えるほどしかない。それも何年も間隔をあけて観るだけだ。)ただし、購入した DVD を何度も観るつもりのない人たちにも、その DVD は少なくともコレクター用のアイテムとしての価値はあるだろう。

番組の選択肢は良好だが、理想的というわけには行かない。なぜなら、バックカタログは今でもビデオへの変換作業中ということがあり、例えば 1990 年代のテレビシリーズ“Northern Exposure”は今もまだすべてのシーズンが利用可能になってはいない。聞いたところによると、Internet Movie Database に載っている 500,000 本ほどの映画のうち、デジタル化されて DVD で購入できるのはたった 50,000 本程度ということだ。その上、テレビで新しい番組が放映されたり映画が映画館で封切りになってからそれらが DVD でリリースされるまでにはタイムラグがあり、そのために番組の選択肢と新鮮味の両方が失われる。一方、タイムシフトはこの媒体に本来備わっていることで、いつでも好きな時に観られるのが最大の特徴だ。けれども場所のシフトの方が合法的にできるのは、ポータブル DVD プレイヤーまたは DVD 対応のラップトップ機を持っている場合に限られる。物理的な DVD をリッピングして飛行機の機内に持ち込まずに済ませようとしたりビデオ対応 iPod で観ようとしたりするのは、例えばオープンソースの HandBrake などを持っていれば完璧に実行は可能だが、このリッピングという行為自体が Digital Millennium Copyright Act (DMCA) に違反してしまう。他の状況ではいずれも場所のシフトが合法的だという事実にもかかわらずだ。

Netflix その他のオンラインビデオレンタルサービス -- 録画コンテンツを購入するのは一度だけ観るためには割に合わないかもしれないが、DVD のレンタルならばコストの面で全く違う話になる。 Netflix 購読の料金は何枚の DVD を一度に借りられるかに応じて月額 $5 から $48 までの間だ。他のオンラインビデオレンタルサービスも同様のプランを提供しているが、Netflix は顧客数が 680 万人近くあって断然トップの最大手、ぐっと離されての2位が Blockbuster だ。Blockbuster Total Accessサービスには一つ利点があって、郵便で配達されるのが待切れない場合に近所の Blockbuster 店頭で DVD を受け取ることができる。

Netflix のコストを1時間あたりで計算するのは難しいが、仮に“unlimited”プランならば限定要因はあなたがどれだけ素早く DVD を観終わって Netflix に返却できるかということだけだ。平均して 7 日間で返却するとすると、1-out の unlimited 購読は毎月 4 枚の DVD になる。テレビ番組の DVD 4 枚ならば 16 時間かそれ以上だろうが、短い 80 分の映画の DVD ならばおよそ 5.2 時間だ。そういうわけで、その1ヵ月での1時間あたりコストを計算すれば 1-out プランで $0.63 と $1.92 の間ということになる。2-out プランならばもう少し安くなり、3-out プラン以降ならばコストは1時間あたり $0.38 から $1.15 の間に落ち着く。

番組の選択肢や新鮮味について言えば、Netflix も録画コンテンツを購入する場合と同程度と言えるだろう。違いがあるのはアダルト向けのコンテンツで、Netflix はそういうものを扱っていない。ただし他のサービスでそれに特化したものもあるので、オンラインビデオレンタルサービスのカテゴリー全体としては同程度となる。Netflix での番組の選択肢にはもう一つちょっとした欠点があって、それは人気のある新リリースには空き待ちの行列ができる可能性があるので、ホットな新作映画を手にするまでに少し余分に長く待たされるかもしれないことだ。

Netflix ではタイムシフトと場所のシフトに関して新たな問題が発生する。もちろんあなたは Netflix で借りた DVD をいつでも好きな時に観ることができるが、それを後日も観られるようにハードディスクにリッピングする行為は、ただ単に DMCA に違反するのみならず、Netflix 自体の使用規定にも違反する。これは場所のシフトについても同様だ。Netflix がこのリッピング禁止規定を追加したのはハリウッドから訴訟を起こされるのを未然に防ぐためか、それともリッピングが Netflix にビジネス上の問題を与えるためなのか見定めるのは難しいが、仮に誰かがタイムシフトあるいは場所のシフトを可能にしようとリッピングを続けるようになれば、年がら年中テレビを観続けている人でなければあり得ないほどの頻度で DVD が行き来するようになるだろうし、そうなれば郵送料や作業量の面でも Netflix に負担が増すことになるだろう。

P2P ファイル共有サービス -- もちろん、DVD をリッピングするのが DMCA に違反するからといってそれが実際に起こるのを防げるわけでは全くなかった。また、今日では誰もが映画の全編ファイルをダウンロードできるだけの十分なバンド幅を持っているので、この法律的な責任規定がピア・ツー・ピアのファイル共有サービス経由でビデオが大量にオンライン共有されるのを防げることもなかった。何が人々を惹き付けるのか? それは、ダウンロードが無料だからだ。少なくとも、ブロードバンド接続にかかる費用以外に何も追加のコストがかからないからだ。

しかしながら、P2P のダウンロードをすることはユーザーたちに別の種類の負担をかけさせている。特定の映画あるいはテレビ番組を見つけ出してダウンロードするには時間がかかり、しばしば不満や失敗に見舞われるものだ。欲しい番組や映画がどうしても見つからなかったり、見つかってもダウンロードに何日も何週間もかかったり、ダウンロードしてみたら外国語に吹き替えされていたとか、オーディオやビデオの品質が最悪だったとか、その他いろいろな問題が起こる。番組の選択肢を予想することは不可能だ。特定の番組の入手可能性は、その時誰がオンラインでいるかによって常時変化するからだ。コンテンツの新鮮味は良い場合もある。ユーザーたちは古い映画よりも最新のリリースを共有することに興味を持つだろうからだ。けれどもどんな番組であっても、あなたがその最新の回をダウンロードできるかどうか、保証は何もない。

驚くにはあたらないことだが、この P2P ファイル共有サービスのユーザーの大部分はお金よりも時間に余裕のある若い人たちだ。そういう人たちにとって、ダウンロードしたビデオには危険の香りと反抗の旗印が伴っているのだろう。

iTunes Store -- ビデオをダウンロードすることが必ずしもすべて DMCA に違反するわけではない。今は Apple のお陰で、さまざまなテレビ番組や映画を iTunes Store で購入できるようになった。あるいは正確に言えば、もしもあなたの国にビデオを扱う iTunes Store が存在していて、あなたが iTunes の走る最新のコンピュータを持っており、かつあなたがブロードバンド接続を持っていれば可能だということだ。これに該当する人々は多数いるが、それでも例えばケーブルテレビや衛星放送を受信できる人の数よりはずっと少ない。

番組の選択肢は、つまるところ、少ない。Apple は常時新たな番組や映画を追加しつつあるが、他の方法で利用できる圧倒的な量のビデオコンテンツと比べれば iTunes Store の現状ははるか足元にも及ばない。ただ、現在取り揃えている内容がかなり新鮮なのは確かだ。新しいテレビ番組も時を置かず登場して来るし、封切り映画や、いくつかのスポーツショウなどもある。

iTunes Store で購入したビデオにかかるコストを計算するのは、簡単であると同時に難しい。テレビ番組は、30 分のものも 60 分のものも一律に $2 だ。そして映画は最近のリリースが $15 で古い映画なら $10、上映時間は 80 分から 140 分までさまざまだ。例えば“The Daily Show with Jon Stewart”のような連続ものの番組の 16 回分マルチパスを購入すれば 40% ほど価格が安くなるし、テレビ番組のシーズンパスを購入すれば 5% から 40% 程度(通常は 17% ほど)安くなる。だから、録画コンテンツのビデオでの1時間あたりコストの計算と同様に計算してみれば、結局コストの範囲は 60 分もののテレビ番組をマルチパスで購入した場合の1時間あたり $1.25 から、比較的短い封切り映画の場合の1時間あたり $11.25 までの間ということになる。これを毎日2時間ずつ(全国平均の半分以下だが)観たとすると、毎月の料金は $75 から $675 の間となる。

録画コンテンツの場合と同様、もしもあなたが毎日2時間ずつ観る人たちの仲間に属するならば、すべてのビデオを iTunes Store から購入するというのはコストの面からお話にならない。けれども他の面では利点もある。例えばあなたが欲しいものだけを手軽に入手できるし、ビデオを iPod に移すのも、ダウンロードしたビデオをテレビや Apple TV で観るのも簡単にできる。

ビデオを取得するためのあらゆる方法の中で、iTunes Store からのダウンロードがおそらくタイムシフトの面では最も嬉しいものだろう。あなたはいつでも好きな時に何を買うか決められるし、決めたものを買って観るのもほとんど瞬時にできる。(公平を期すために言えば、Netflix も現在同様の Watch Now サービスを提供している。ただしこれは Microsoft DRM を処理するために Windows XP 専用のソフトウェアを必要とする。)場所のシフトについても、やはり簡単かつ合法的だ。ただし、それはラップトップ機またはビデオ対応の iPod で観る場合に限られる。

iTunes Store の競合相手として Amazon Unboxがある。こちらは Netflix の即時ダウンロード版とも言えるもので、Windows と、ブロードバンド接続の Series2 または Series3 TiVo ユニットでのみ働く。テレビ番組や映画の購入価格は基本的に iTunes Store と同じだが、Amazon Unbox では $2 から $4 の間で映画のレンタルも提供している。

テレビ局からのオンライン・ストリーミング -- ここ最近のことだが、メジャーなネットワークテレビ局各社は単なるコンテンツのプロバイダという立場から、コンテンツの配付も担う者へと役割を変更し始めつつある。これもインターネットのお陰だ。現在たくさんのテレビ番組の毎回のエピソードが無料でネットワーク各社のウェブサイトから提供されているが、ここにはスキップできない広告が付いている。画質はプレイヤーによって少しずつ異なり、フルスクリーンではちょっと苦しいが、ブロードバンド接続があれば全般的に言って悪くはない。もちろん Mac でもちゃんと動く。タイムシフトと場所のシフトはこの方法でも一応サポートされているが、どちらもある程度の制限が付く。ネットワーク各社は番組の全バックカタログまでは提供していないので、かなり頻繁に観るようにしておくか、さもなければ見逃した回を iTunes Store で購入する羽目になる。また、場所のシフトはこのシステム上本来備わった特徴だ。ただしこれはラップトップ機を使って観ることと、ブロードバンド接続があることを前提としている。私の知る限り、これらのビデオストリームを後日に観るためにビデオ対応 iPod に保存する手軽な方法はない。

ある意味、オンラインのストリームによるテレビ番組は、ケーブルテレビや衛星放送の大勢の購読者たちがこれまでずっと望んできたことを提供しているのだ。つまり、残り 200 のチャンネルに溢れかえっている膨大な量のがらくたにもお金を払わされているという気分を味わわずに自由に番組を選んで楽しむことができたら、という願いだ。

ここで触れておきたいのが Joost だ。これは、Skype を始めた人たちが作った会社だ。Joost は現在まだ紹介者を要するベータ版だが、ストリームビデオを提供するようになると公言している。ネットワークテレビ局とは異なり、こちらはピア・ツー・ピアのシステムを使ってバンド幅の負担を平均化するが、サービス品質の問題に苦しめられる可能性もある。バンド幅の確保が保証される訳ではないからだ。これには特別のソフトウェアが必要で、Mac OS X 用、それに Windows XP および Vista 用のものが用意される。Joost は広告によってサポートされ、短いコマーシャルがけっこう頻繁に番組の中に挿入される。私自身はまだ Joost をこの目で見た訳ではないのでこれ以上詳しいことをお伝えすることができないが、そう遠くないうちに使えるようになるのだと思う。

YouTube -- メインストリームのビデオを脅かそうとしている大変革の波の先頭を率いるのが、Google の YouTube だ。もちろんその競争相手のサービスもたくさんあり、その中には Google 自身の Google Video も含まれるのだが。YouTube では何が違うのかといえば、それは何百万何千万というビデオがこのサービスのユーザーたちから無料で投稿されることだ。それだけでなく、CBS、BBC、NBA、それに Sundance Channel などのグループともこれまでに a spate of partnershipsが結ばれてきた。YouTube のコンテンツを他で入手できるコンテンツと比較するのは事実上不可能だ。なぜなら、YouTube にあるもののほとんどはごく短くて、アマチュアが作ったことが明らかなものも多く、ウェブページ上のちっぽけなボックスの中に貧弱な画質で表示されるだけだからだ。(Apple はつい最近、今月の後半には無料のソフトウェアアップデートで YouTube コンテンツを Apple TV で利用できるようにすると発表しているが、それでもビデオ画質が向上するとは思えない。実際、大幅に圧縮されたウェブビデオを拡大してワイドスクリーンのテレビ画面に映すのだから、画質は理想とはほど遠いものになるだろう。)けれども一方ではそれこそが魅力だとも言える。ウェブリンクから気楽にクリックして YouTube に入れば、たちまちのうちに全く予想もしていなかったちょっとしたビデオに行き当たる、そういうものに見入ってしまうあなた自身を想像するのも容易ではないだろうか。

YouTube とメインストリームのビデオを比較するのは無理かもしれないが、ネットワークテレビ局各社とプロバイダたちが YouTube の興隆に極端に神経質になっているのも疑いのないところだ。私たちは皆それぞれに限られた時間しかビデオの視聴に費やすことができない。(私たちのような人々が平均的なアメリカ人に比べて時間がより限られているというのは本当のようだが。)そして、YouTube を観て過ごす時間が普通のテレビを観る時間に食い込むのも確かだろう。どうしてこれを恐れずにいられるだろうか? YouTube でビデオを観てもユーザーにはお金はかからない。一方 Google の方では YouTube にそのバンド幅コストを稼ぎ出させるための方策を思い付くことができるのかどうか、いまだにはっきりしていない。YouTube は、テレビ局のお偉方が夜更けに楽しく夢見る未来とは言えないのだろう。

個人的経験 -- この記事の起源は、我々家族のビデオとの関係を展望した時に一貫性を持ちたいという所から発している。Tonya と私が大学に向かった 1985年時点から 2001年に Ithaca に引越して戻ってくるまでの間は、我々は地上波テレビしか見なかった。というのも、それしかなかったか或いはお金を出してまでケーブルとかサテライトテレビを見たいと思わなかったからである。この時代、我々は時間をずらす技術を大いに活用した、最初は VCR で (これに加えて結局は短命に終わってしまったが VideoGuide と呼ばれる電子プログラム予約機も併用した; これについては 1995-08-21 の "Macworldの最高の物" にある)、そして後には TiVo となった。 TiVo については TidBITS でも何回となく取り上げてきた。

(日本語)TiVo: 時間をずらせばそこに自由が(第1部)TiVo:時間をずらせばそこに自由が(第2部)TiVo をアップグレードTiVo Series2 初代に改良を加える

2001年に Ithaca に戻った時、ケーブル会社の Time Warner はケーブルモデムの契約にデジタルテレビの契約を追加するのを簡単にしてくれた事もあって、最初のうちは受信できる数百チャネルのなかに TiVo を解き放してやるのは大変面白かった。しかしながら、TiVo にビデオをあれもこれも取り込んでおくというのはストレスの多いことでもある事に気付くようになった、というのは、まだ見ていない古い番組が消されてしまうのを防ぐには頑張って見なければいけないという必要性を感じる様になったからである。結果的にはテレビをもっと見るようになっていた - 週に 7 から 10 時間 - それも TiVo に録画されたものに追いついていく行くためだけに、そして更に悪いことには、寝る前としては十分に楽しめないか或いは気疲れする類の番組を見る羽目にしばしば遭遇したりすることとなった。興味深いことには、かなりの時間とお金を必要としそしてともすれば時間を何と無駄に費やしてしまったのかとうんざりする様な、或いは興奮しすぎて眠れなくなる様な活動に、我々は炎に惹かれる蛾の様に惹かれたのである。それで 2004年の12月に、ケーブルテレビの契約を打ち切り、それで浮いたお金で欲しいメディアだけを買おうと自分達に誓ったのである。その使い道には、印刷本、購入した DVD、Netflix の会費、昔やったような眠気を催すためのオーディオブック (2005-02-28 の"iPod で不眠に打ち勝つ" 参照)、This American LifeOn the Media の様なポッドキャストラジオ番組への応援、或いは地元の図書館への寄付などである。

これは全くもって非アメリカ的に見えるかもしれないが、我々のビデオ時間は週に 3 から 5 時間に減った。Netflix に加入しているお陰で、ビデオを見ようという時は (我々は単体の DVD プレーヤは持っていないので、私の MacBook か Tonya の MacBook Pro で見る事になる)、昔地上放送しか見られなかった何年間もの時代にミスってしまったテレビシリーズを楽しんだり、時たまは映画も見たりする (我々は元々しょっちゅう映画を見に行く方ではなかった)。Tristan の好みは、TiVo にとってある海軍史のドキュメンタリだったり、クリスマスに貰った Looney Tunes DVD だったりする。時折は友達から聞いた YouTube クリップも見るし、その上インターネット上には素晴らしい講演がごまんとある、例えば、作家 Michael Pollan ("The Omnivore's Dilemma" で有名な) と Whole Foods CEO の John Mackey との対談とかである。しかし大事なことは我々がやる事を選んでいるということである、それがビデオを見ることでも、本を読むことでも、ポッドキャストを聞くことでも、その日の出来事を話し合うことでも、その他のインドアスポーツに参加することでも何でも良いのである。

あなたの場合はどうですか? -- 統計的に見た時、我々のビデオを見る量は圏外に位置するという事実は認識している。しかしながら、もしあなたがこの沢山あるオプションの中で自分に最も合っているのはどれだろうと思い悩んでいるのであれば、私がこれまでに観察してきた視聴パターン毎に、私の考えを少し披露したいと思う:

再度、私は多分変っているのかも知れないが、オプションについてその経済面と制限事項をおさらいしてみることでかなり気持ちがすっきりしてきた。以前は、テレビを見る事から得られる喜びというものにお金を払いすぎているのではなかろうかというじくじとした感覚があったが、今では、我々は我々にはぴったりのプランの上にいるのだという安心感を、少なくとも現時点では持つ事が出来る。


Take Control ニュース/04-Jun-07

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

2冊の新刊電子ブックでテレビ体験を向上 -- あなたのテレビ画面に映るビデオがぼやけ過ぎていても、ぎざぎざし過ぎていても、小さ過ぎても、古過ぎても、新し過ぎても、退屈過ぎても、変過ぎても、あるいはただもうたくさんと思えても、この2冊の新刊電子ブックにある助言を読めば、きっとあなたは状況を好転させることができるだろう。

あなたのテレビの見方はアナログ過ぎて面の皮の厚い恐竜みたいだと冷やかされるのに飽き飽きしていませんか? そう言われても Netflix 購読で借りた DVD は買ったばかりの高精細テレビ画面であまりきれいに見えないと不満に思っていませんか? あるいは、仕方なく新しいテレビを買おうとは思うのだけれども使いもしない余計な機能のために余分のお金を払わずに済ませるにはどうすればいいかと思案していませんか? プロの目で買い物をして正しい周辺機器を揃え、HD コンテンツを正しく見つけ、あなたの新しいシステムを設定する方法は、“Take Control of Digital TV”の第2版を読めば完璧だ。そして、あなたがもし私たちと同じ考えなら、あなたもきっとインターネットからビデオをダウンロードしたり、あなたのコンピュータをテレビとして使ったりしたいと思っていることだろう。この電子ブックはそういうあなたのためにコンピュータをあなたのシステムに組み込む方法も検討して、さらにはビデオをダウンロードできるサイトの紹介や、Apple TV とか Elgato の EyeTV シリーズの製品などについての説明も加えている。この電子ブックには Small Dog Electronics での $5 引きクーポンと、Elgato の EyeTV Hybrid の購入に使える $20 割引券も付いている。

もちろん、機能拡張されたばかりの Apple TV こそ、今最もホットな「コンピュータをテレビに組み込む」製品だ。Apple TV の設定の方法、使い方、問題が起きた際のトラブルシュートの手順など、もっと詳しいことを知りたいという方は、“Macworld Apple TV Superguide”で熟練の著者からのフレンドリーなアドバイスが読める。2冊の電子ブックを両方買えば、$5 引きになる。


TidBITS Talk/04-Jun-07 のホットな話題

  文: TidBITS Staff <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

無線で HDTV -- 高精細テレビ用のプログラミングをアンテナを使って受信する方法のいくつかを、ある読者が推薦する。 (1 メッセージ)

スクロールホイール小技集 -- スクロールホイールの使い方について書いた Adam の記事を受けて、方向についての質問が寄せられた。下向きにスクロールすると、ビデオのコンテンツは(テキストのコンテンツをスクロールするのと同様に)先に進むべきか、それともコンテンツを巻き戻しするべきなのか?(6 メッセージ)

写真に地理タグを付ける方法 -- Geophoto をレビューした Jeff の記事を受け、写真に地理的データを指定できる同様のユーティリティ、HoudahGeo にも推薦の声が挙がった。 (1_メッセージ)

美しきものの姿と、空虚なるものの幻と -- Twitter は日常生活の浅薄さと無意味さを強調するだけのものか、それともこれは若い世代の中でコミュニケーションのモードが日々変わりつつあることを示しているのか、あるいはその両方か? (3 メッセージ)

FreeHand だけかと思ったら、今度は Canvas -- Adobe による Macromedia の買収によって FreeHand の運命は尽きた。ところが今度はイラストレーションの市場からまた一つ競争相手が消え行こうとしている。Canvas for the Mac だ。(1-メッセージ)

海外価格の問題 -- ソフトウェアの作者がいくつもの国で(いくつもの通貨で)製品を販売しようとする時、どういう価格設定にするのがベストなのだろうか?(14 メッセージ)

iTunes Plus へのアップグレード -- 新しい iTunes Plus の楽曲を使ってみた体験を読者たちが寄せ合う。例えば、iTunes Plus のトラックは、従来のプレイリストで元々 iTunes Store で購入したトラックがあった場所に自動的に現われるだろうか?(6_メッセージ)

最新のコンピュータを比較する -- Mac Plus と、Windows XP の走るデュアルコアの AMD PC、ほとんどのテストで勝ったのはどっちだと思う?(1__メッセージ)


tb_badge_trans-jp2 _ Take Control Take Control 電子ブック日本語版好評発売中

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