TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#927/05-May-08

今週はさまざまな種類のニュースやレビュー記事が集まった。Microsoft が Yahoo を 500 億ドルで買収する計画を断念したニュースから、Joe Kissell による Nabaztag Internet Rabbit(インターネットうさぎ)のレビューまで色とりどりだ。途中の記事では、Joe が MozyHome オンラインバックアップサービスのリリースについてお伝えし、Jeff Carlson が Apple TV での映画の購入について検討し、Glenn Fleishman が聴覚や発音に障害のある人のための AT&T による新しい iPhone プランについてお知らせする。また Glenn は手打ちの HTML をサポートする声が多く寄せられたことに思いを巡らせるとともに、Microsoft が PlaysForSure DRM のサポートを打ち切るという報道にも考察を加える。Matt Neuburg は Vara Software から新登場のスクリーンキャスト・ソフトウェア、ScreenFlow を熱情的にレビューした記事を寄稿する。TidBITS 監視リストでは、TextExpander、DiscLabel、Microsoft Messenger for Mac、Tinderbox、MacPilot、Infovox iVox、Synchronize Pro X、1Password、iMac ATI Radeon HD ファームウェア、それに Java for Mac OS X のアップデートについて簡潔に紹介する。

記事:

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Microsoft が Yahoo に対する合併の申し入れを撤回

  文:Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
  訳: 笠原正純<panhead@draconia.jp>

CNET の Beyond Binary ブログの Ina Fried の話にあったとおり、Microsoft が Yahoo 買収の申し入れを取り下げた。2 月初旬、Microsoft は 1 株あたり 31 ドルを Yahoo に対して提示していた(2008-02-01 の "Microsoft、Yahoo に 446 億ドルを賭ける" 参照)。この申し出は数え切れないようなニュース記事やブログのポストに対する燃料にはなったが、最終的には金の問題に落ち着いた。Microsoft は提示額を 1 株あたり 33 ドルにし、総額に 50 億ドルを追加したが、Microsoft の CEO Steve Ballmer の Yahoo CEO Jerry Yang への手紙 によると、Yahoo の役員会は 1 株 37 ドルを要求して譲らなかったらしい。この額は Microsoft が飲めるレベルではなかった。理論上、Microsoft は Yahoo の株主に直接申し入れをすることは可能だが、Bullmer は Yahoo が Microsoft による乗っ取りのターゲットとして望ましくないような企業になるという手段 (最も顕著な例は、Google との関係を密にするということだ) に出ると感じたようだ。

そこで、スタートに戻り、Microsoft は、Microsoft の 2007 年度の売上は 551 億ドルで利益は 141 億ドルあり、Fortune による最も利益を上げられるテクノロジー企業にランクされているうちに Google による強い攻撃をしのぐ道を探すこととなった。この数字は Google(42 億ドルの利益)Apple(同 35 億ドル)に対して大きく優位に立っている。

Yahoo が面していた問題がどのようなものであったにせよ、同社のMicrosoft の申し入れに対する態度は彼らをさらに悪い状態に導いたようにしか見えない。All Things Digital における Yahoo の重役達のムードに関する Kara Swisher のレポートをご覧いただきたい。


Mac 用オンラインバックアップサービス MozyHome が Version 1.0 に

  文:Joe Kissell <joe@tidbits.com>
  訳: 笠原正純<panhead@draconia.jp>

オンラインバックアッププロバイダの Mozy (現在は Retrospect も持っている EMC の部門だ)が、一年以上に及ぶパブリックベータテストを経て、同社の Mac ソフトウェアがバージョン 1.0 になったことをアナウンスした(2007-04-30 の"オンラインバックアップサービス2社から公開ベータ版"参照)。Mac 用 MozyHome は_無制限の_オンラインバックアップを月 $4.95 の固定料金で提供する( 無料の 2GB アカウントも利用可能だ)。Mac MozyHome というソフトウェアは 4.8MB のダウンロードだ。

Mac MozyHome は、転送時のデータを守るために 128-bit SSL を使用するのに加え、448-bit Blowfish を使ってあなたのファイルを暗号化する。このソフトウェアは、インクリメンタルアップデートによって、ファイルの変更を加えられた部分だけをコピー(ブロックレベルのインクリメンタルバックアップ)し、、バックアップ完了までの時間を短くする。これは特に、Entourage データベースや仮想化ソフトによって使われるディスクイメージといった頻繁に変更される巨大なファイルをバックアップしたいと思うような人に歓迎される機能だ。Mozy はさらに、それぞれのバックアップファイルに対して複数のバージョンを保存するので過去30日までのどの時点のものからでも復元することができる。ファイルの復元を行うには Mac 用のクライアントソフトを使う。ファイルを同社のセキュア・ウェブサイトからダウンロードする方法とデータの入った DVD(追加費用あり)を使う方法とがある。

バージョン 1.0 はベータバージョンに対して多くの変更が加えられている。Mac OS X 10.5 Leopard、Mail のメッセージ、リソースフォーク付きのファイルのサポートなどが含まれている。以前は、どんなファイルに変更があっても自動的にバックアップされたが、今のバージョンでは、決められたスケジュールによるバックアップを選べるようになった。今はプログラムが使用するバンド幅を絞ることもできるようになった(常時または特定の時間帯で)。さらに、バージョン 1.0 は数多くのバグの修正や性能の改善が盛り込まれた。

MozyHome は、その名前が示すとおり、個人ユーザのためのものだ。Mozy はビジネスバージョンの Mozy Pro と MozyEnterprise をそのサービスに付け加えるとアナウンスした。これらはこれらは今年中に利用可能になる予定だ。その価格については発表されていない。

私はコストが低下し機能が改善されるに連れてオンラインバックアップサービスについての熱狂が盛り上がりつつある(2007-04-09 "オンラインバックアップの選択肢が広がる"参照)、とはいうもののスピードは常に懸念の対象になるだろう。なにしろ、我々の大半が大変な量のデータをバックアップしなければならないのにコンシューマーレベルのブロードバンドサービスの大半でアップロードバンド幅は限られているからだ。私は、新バージョンの Mozy が、現状では機能と性能の両面でリードを保っている競争相手の CrashPlan に対してどれくらい近づいたのか興味を持って見守っている。


Apple TV に映画の購入と DVD との同時リリースが加わる

  文:Jeff Carlson <jeffc@tidbits.com>
  訳: 羽鳥公士郎 <http://www.ousaan.com/mail/>

Apple TV は、同社の「趣味」(Steve Jobs による)たるメディア再生機器だが、先週の映画に関連した2つの発表によって、魅力をさらに増した。

第1に、Apple TV から直接映画を購入できるようになった。これまでは、コンピュータを使って iTunes Store から購入することしかできなかった。購入できる映画は標準画質のものだけで、HD のレンタルが可能な映画であっても、HD で購入することはできない。

この機能は、何週間か前に短期間のあいだ現れた。都合の悪いことに、私が最新刊 "TThe Apple TV Pocket Guide, Second Edition" の最終稿を Peachpit Press に納入したその日のことだった。しかしそのときは、私が Apple TV から何かを買おうとしてもうまくゆかず、Apple からの返答がある前にその機能がなくなってしまった。

先週のもう1つのニュースは、Apple TV にとどまらない。多数の映画スタジオが、 DVD が発売されるのと同じ日に Apple TV やほかのオンデマンドサービスで映画を入手可能にすると発表した。これまでは、Apple の見解としては映画のレンタルや購入は DVD の発売日より 30 日後に可能になるということだった(間違いなく、その時点でスタジオによって課せられていた制約だろう)。これに加わっているスタジオは、20th Century Fox、The Walt Disney Studios、Warner Bros.、Paramount Pictures、Universal Studios Home Entertainment、Sony Pictures Entertainment、Lionsgate、Image Entertainment、First Look Studios などだ。

この新しい方針は、何週間かにわたってゆっくりと採用されている。オスカーにノミネートされた映画 "Michael Clayton" は、DVD が発売されると同時にiTunes Store と Apple TV でレンタル可能になったが、このタイミングはまたアカデミー賞に合わせたものでもあった。この映画が iTunes で成功したことによって(これは数週間レンタルのトップにとどまっていた)、ほかのスタジオも 30 日間の制限はばかげていると思うようになるのではないかと私は考えている。

これは映画業界が変わるきっかけになるだろうか。私はあまり期待していないが、彼らがついに、主なコンテンツは同じ映画だとしても、DVD とデジタルダウンロードとは違った商品だということに気がついたということは確かだ。DVD を購入する人たちは、よりよい画質の、インターネットに接続しなくとも棚からとって持って帰れるような、そしていくつかの DVD のように多くの付録があるものを求めている。一方、Apple TV のようなサービスから直接映画をレンタルしたり購入したりする人たちは、すぐに得られる満足(インターネット接続の性能にもよるが)と、何よりも便利さを求めている。


AT&T、聴覚・言語障害者用の iPhone 料金プランを追加

  文:Glenn Fleishman <glenn@tidbits.com>
  訳:上松慮生 <ryo.uematsu@gmail.com>

iPhone は今は聴覚・言語障害を持っている人にとっては利用しやすいものではないかもしれないが、月額料金で考えたときにはより手ごろな価格となった。AT&Tは National Center for Customers with Disabilities を通して利用可能な 月額 $40 の Text Accessibility Plan を導入した。このプランは無制限の SMS メッセージと EDGE データの送受信とともに、1 分間 40 セントの通話と Apple の Visual Voicemail を含んでいる。

該当する消費者は iPhone を通常のプランを利用するときと同じように購入し、アクティベートした後、AT&Tのセンターに連絡してこの新しいプランに変更してもらえばよい。

このプランは iPhone にアップグレードした既存の AT&T の利用者が利用できる最も高価なメッセージングパッケージ(この無制限なメッセージングのプランは同じく月額 $40 である)から音声通話に関しての要件を削除したものと基本的には同じである。他の利用者に対して AT&T は最低でも月額 $40 の音声通話プランの加入を要求する。これはこの新しいプランにおいては月に 100 分の音声通話を行っているのと同等である。

別売りの iPhone TTY(テレタイプ)アダプタ($19)により標準的な TTY 装置を利用してリレー通話を行うことができる。ただ、リレー通話は音声通話プランの割り当て時間を消費する。iPhone は合衆国連邦通信委員会によってまだ義務化されていないが一般的な機能である補聴器との適合性を有していないが、Apple は iPhone のユーザ補助機能を文書化している

携帯電話キャリア各社が、提供されている全ての携帯電話の 50 パーセント以上が 2 つある補聴器との適合性のうち少なくともひとつを備えているという目標を達成できなかったため、連邦通信委員会は 2008 年 4 月 18 日に要件の強制を始めた


手作り HTML、愛を込めて

  文:Glenn Fleishman <glenn@tidbits.com>
  訳: 羽鳥公士郎 <http://www.ousaan.com/mail/>

New York Times のデザイン部門責任者 Khoi Vinh と彼のスタッフたちがいまだに HTML をハンドコードしているという彼のコメントを伝えた私の記事は、TidBITS の読者たちのあいだにかなりの郷愁と現代的夢想とを巻き起こした(2008-04-28 の "HTML は手打ちがいまだに人気" 参照)。Slashdot は Vinhのコメントを切り離して取り上げたため、それを読んだ多くの人が誤解したようだ。彼らは Vinh の言葉を、New York Time のサイトのすべてのページが手作業で作られていると受け取った。 ある人はこのようにコメントしている。「ハンドコードでは、日々変化する今日のニュースにおいて、必要よりもはるかに多くの時間がかかる。その努力にみあった成果は得られない。私は1人の株主として、費用を浪費していると訴えてもよいところだ。」

もちろん、ほかの Slashdot 読者が軽蔑的に返答しているように、New York Times はデータベースで動いており、Vinh と彼のスタッフがハンドコードしているのはテンプレートであって、ページではない。Lifehacker の読者たちは、私の記事にもっと的確なコメントを寄せている。人々が HTML の手打ちに付きまとう汚名を振り払い、それがどんなにすばらしいかと賛美するのを見るのはうれしい。

しかし、このような反応を見てみると、私がつけた見出しが混乱を招いたのかもしれない。「手打ち」というと、すべてのページを手で書くことが含意されるようだ。実際には、私たち TidBITS スタッフや、Times の人たち、そして世界中の何百万ものサイトを作っている人々は、HTML を _手作り_ しているのだ。私たちは HTML をのみのように使い、手仕事の感触を楽しんでいる。ほかの人たちは削岩機を使っているわけだが、それは好みの問題だ。

さあ、今こそ立ち上がり、HTML 手仕事師として名乗りを上げようではないか。「古の我ら」の出番だ。


DealBITS 値引き: HoudahGeo が 20% 安くなる

  文:Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

先週の DealBITS 抽選で当選し、写真用ジオコードソフトウェアの HoudahGeo($40 相当)を受け取ることになったのは、mac.com の Paul Schumann、juno.com の Kelly Greenwood、hotmail.com の Rachael Watson の3名だ。おめでとう! また、Rachael を DealBITS 抽選に紹介してくれた cox.net の Aleta Watson にも同じ賞品が贈られた。残念ながら当選しなかった皆さんもがっかりすることはない。あなたも HoudahGeo が 20% 引きで購入できるからだ。2008 年 5 月 18 日までの期間、Houdah Software からの注文の際にクーポンコード“DEALBITS08”を使えば価格がたったの $32 になる。今回の DealBITS 抽選に応募された 480 名の皆さんに感謝したい。今後の DealBITS 抽選もどうぞお楽しみに!


演奏しないでありがとう:Microsoft が DRM 付きの音楽を失効させる

  文:Glenn Fleishman <glenn@tidbits.com>
  訳: 亀岡孝仁 <takkameoka@bellsouth.net>

Microsoft は、31-Aug-08 以降は許可されているコンピュータ上以外では MSN Music から購入した曲を再生出来なくすることを計画している。2006年の後半に Zune が導入された時、Microsoft は、再生を管理するメディアに組み込まれ長いこと使ってきた PlaysForSure digital rights management (DRM) システムを放棄した。この Microsoft の MSN Music 購入者に送ったレターに対する上出来の意地悪な注釈 を eWeek Microsoft Watch で見ることが出来る。

Zune Marketplace は異なった DRM システムを使用していて、これは Zune にしか対応していない。Microsoft は現時点では非保護の音楽は販売していないが、これに対して Amazon の全デジタルカタログは DRM フリーとなっているし、iTunes Store の一部のものは機器や再生に対するロック無しで売られている。Geoff Duncan が 2006-11-13 に "Zune と DRM と Universal Music" の中で新と旧の DRM システムについて書いている。

ユーザーは MSN Music オーディオを 31-Aug-08 以前に許可されたマシンでならどれででも演奏し続けることが出来、その日が来るまでは、どの曲でも全部で 5つのコンピュータまで転送し許可を与えることが出来る。しかしながら、Microsoft のシステムは曲単位で働くので、もし大きなライブラリを他のコンピュータに転送したとしたならば、一曲ずつ許可を与えていかなければならない - あるソースは個々の曲を演奏することでと言っているが、これは言い過ぎに違いない - しかも期限の 8月31日の前に。その後は、曲はそれ以前に許可されたコンピュータ上でしか演奏できなくなる。Windows を再インストールしたり、アップグレードしたり、新たなマシンを追加したりしなければいけない状況になった人は、残念でしたということになる。

Microsoft は、曲をオーディオ CD に焼いておくことを薦めているが、その作業に欠かせない二番目の部分については触れていない。それは、音楽を非保護の MP3, AAC, 或いは圧縮無しの音楽ファイルとしてでもリップしてやらなければいけないと言うことである。

Electronic Frontier Foundation (EFF) は、彼らの長期に亘っている DRM への戦いの一環として Microsoft の行動に異議を唱えている。EFF は版権、所有権、使用の規制、ロイヤルティ、或いは正当な限界といったものに反対しているわけではない。そうではなくて、DRM はその様な規制をかける方法として効果的でないと彼らは主張していて、その理由として、DRM は、法や司法判断に織り込まれている個人使用権を大幅に制限することでそれを受け入れた人達だけを不当に扱うからだとしている。これらの権利には、信頼性のあるバックアップを取れること、メディアを自分の持っている機器でなら何でも演奏できること、そして再生を何時どの様に一時停止したり再開したりするかを選択できることが含まれる;DRM システムによって制限される個人使用権は変わる。[編者注:コンテンツ業界が融通の利かない DRM 技術の中に如何にして意図的に流動的な法を入れ込んできたかについての影響に関する学術的な見方の詳細については、Tarleton Gillespie の "Wired Shut" を参照のこと。 -Adam]

Microsoft がやっていることは、DRM に反対する多くの人が最悪のシナリオと見ているものである:ある企業が DRM 付きのメディアを大量に売る、その上でユーザーがシステムに課された制限の中でそのメディアを使い続けるのを阻止しておきながら、賠償案もシャットダウン回避のための理に適ったオプションも提示しない。

勿論、ここで奇妙なのは Microsoft はこの商売を止めるわけでもなく (明らかに) MSN を閉めるわけでもないことである。実態は、彼らは彼らの保護付き音楽の全枠組みを新しいものに移行すると言う事業判断をしたのである。その理由は、PlaysForSure が彼らが自社製品を使うに足るだけの信頼性を持っていなかったからである。この事は又これまで順境悪境にかかわらず PlaysForSure を守り通して来た彼らの多くのパートナーを見捨てることともなった。

これは安っぽい判断である。Microsoft は、これら購入された音楽全部を保護無しにする技術を使うことも出来たはずである (そのために版権所有者に対して追加の支払いが生じたとしても)。彼らの DRM 許可サーバーを無期限に走らせるという選択も可能であったはずである。彼らは色々なことをやれたはずである。それにもかかわらず、彼らは最悪の選択をした。

EFF は Microsoft が全ての購入に対して返金するか或いは DRM 無しの交換品を提供するよう提案している。彼らは又、Recording Industry Association of America (RIAA) によって取られている攻撃的な戦術を考えると、死んだ人やコンピュータを持たない祖母達に対して訴訟を起こす様なことを含めて、Microsoft はそのユーザーに対して購入の全記録を提供すべきであり、そうすれば例えユーザーが音楽を CD に焼くことを選択したとしても、後になってその音楽は合法的に購入されたものであることが証明できる様にと暗に指摘している。

私は DRM が好きだと言う人を誰も知らない;この動きは典型例を提供することで、間違いなく DRM 反対者全部の立場を有利にする:音楽が死んだ日。


ScreenFlow: 筋肉増強したスクリーンキャスト

  文:Matt Neuburg <matt@tidbits.com>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

こんなテレビコマーシャルがあった。何のコマーシャルだったかは忘れたが、コンピュータを前にして一人の男がひじ掛け椅子に座っていて、彼の髪の毛も、彼の犬も、その他部屋にあるすべてのものが、コンピュータのスクリーンで何か起こっていることの発する不思議な力に吹き飛ばされて、後ろへ後ろへと流されて行く、といった情景だった。いやはや、その男こそ私、Vara Software の ScreenFlow を使っているこの私の心象風景がまさにその通りのものだった。これはただ良いソフトウェアであるだけでない。人の目を見張らせるものだ。正直言って、私はこんな風に見えてこんな風に挙動するアプリケーションがあるなんて、考えもしなかった。このプログラムは私を(履いている靴下が脱げてしまうほど)驚かせた。(それも、靴を履いたままで。)

ScreenFlow はスクリーンキャストを作る。ここで言うスクリーンキャストとは、単なるスクリーンキャプチャのムービーのことだ。つまり、あなたのコンピュータのスクリーンをムービーとしてキャプチャし、あなたが何をしようと(オプションによってはあなたが何を話そうと)それらをすべて取り込んだものだ。そんなものは別に魅力的と思わないという人もいるかもしれないが、どうかこれだけは、議論の前提としてわかって頂きたい。私のような人たちにとって、スクリーンキャストは非常に、非常に重要なのだ。説明の文書を書くライターとして、私の仕事はユーザーたちにソフトウェアの使い方を説明することだ。ベータテスターとして、私はあるバグをどうすれば引き起こせるかを開発者に対して説明しなければならない。忠実なる息子として、私は母親にどうやって Safari でブックマークバー項目を削除するか示してあげなければならない。そういった場合、また他にもたくさんの場合があるが、動く画像を一つ見せることは一万語の言葉を語るに優ることが多いものだ。

これまで、私はいつもスクリーンキャストを Ambrosia Software の Snapz Pro X で作ってきた。けれども、Snapz Pro に対して一切の偏見なしで言えば(これは素晴らしいユーティリティだし、私は引き続きこれを使っている)ムービーについては、そうあるべきレベルと言える仕事をしてくれたことがなかった。サウンドを圧縮するオプションがないので、ナレーション入りのムービーがいつも巨大なサイズになる。だから私はいつもあとで再圧縮をかけなければならない。(そのために私は素晴らしいツール QTAmateur を使っている。私は金に細かいので QuickTime Pro に料金を払う気にはなれないからだ。)その上、どうすれば最終的なムービーの中でオンスクリーンのテキストが鮮明にピントが合った状態になるのか、私はそのための設定をまだ見つけられないでいる。

けれども ScreenFlow があれば、そうした問題はすべて消え去る。でも、ScreenFlow の素晴らしさはそんなことばかり説明していてもちっとも始まらない。この驚くべきプログラムが、実際にどんな風にスクリーンキャプチャのムービーを作るのか、その手順を具体的に順を追って見て行くことにしよう。

あなたさえ良ければ始めましょう、DeMille 監督 -- ScreenFlow が走っていて、録画用のオプションも設定できていれば、あとはあなたが録画をスタートさせたいと ScreenFlow に指示を出すだけだ。(そうするにはステータスメニューを使っても、Dock メニューを使っても、あるいはグローバルなキーボードショートカットを使ってもよい。)すると、あなたのスクリーンは一時的に暗く透明なカーテンに覆われ、同時にカウントダウンのウィンドウ ("5, 4, 3, 2, 1") が現われて、それが終われば録画が始まる。カーテンが消えると同時に「カメラ」がまわり始める。あなたはムービーに入れたいことを何でもしたり言ったりしてから、ScreenFlow に録画をストップさせるように指示する。(スタートの指示を出したのと同じどの方法も使える。)

さて、たいていのスクリーンキャプチャプログラムなら、事実上そこで終わりだ。(例えば、Snapz Pro では、録画が終わればウィンドウが現われて、そこであなたは QuickTime の書き出し設定を入力できる。この時点であなたはこのムービーを保存するかしないかを選べる。それだけだ。)でも、ScreenFlow では、まだまだここは始まりに過ぎない。あなたはここで突然、iMovie HD によく似たウィンドウの中に放り込まれている自分に気付くのだ。あの懐かしき iMovie、下の方にタイムラインが表示されるやつだ。覚えているだろうか? その、上と真ん中の部分に、あなたがたった今作ったばかりのスクリーンキャプチャが表示される。下にあるのはシンプルなビデオコントロールで、ムービーの再生・巻き戻し・早送りができ、サウンド音量メーターもある。そのさらに下にあるのがタイムラインだ。通常、ビデオ用に1個、そしてナレーション用にもう1個ある。

何が起こっているかというと、あなたは今ムービー編集用のアプリケーションの内部で一つの _書類_ の中にいるのだ。ScreenFlow は、あなたのムービーを書き出す前にそれを編集する機会をあなたに提供しているわけだ。あなたは今すぐそれを編集してもよいし、その書類を保存しておいて(ScreenFlow を終了させてもよい)あとでまた戻ってくることもできる。では、ScreenFlow の内部でどのような編集ができるのだろうか。それは、まず手始めに:

ライト、カメラ、アクション! -- でもちょっと待って、他にもまだある。まだまだたくさんある。あなたのムービーに、“Action”を追加することができる。これを理解するために、あなたが音楽エンジニアだったと想像しよう。ミュージシャンが演奏する間、あなたはダイヤルを回しながら、いろいろなトラックのサウンドレベルを上げたり下げたりする。そこで、ダイヤルを調整するこの作業そのものが、何らかの方法で記録されると想像してみよう。つまりそれが Action だ。あなたの施した調整が指令として記録され、それがあとでムービーを再生する際に適用される。

例えば、さきほど私はオーディオの音量が変えられると書いた。でも、オーディオの音量を _ダッキング_ させたいとしたらどうだろうか。つまり、全体として音量を下げるのでなく、ムービーがある所まで進んだ時点でそこから下げるわけだ。これも簡単にできる。まず再生ヘッドを音量を下げたい箇所に持ってきてから、タイムラインでオーディオクリップを選択し、Add Audio Action をクリックする。それからオーディオ音量をスライダで下げればよい。それだけだ! 音量が下がる比率を変えたければ、Audio Action の幅を広げたり狭めたりすればよい。Audio Action はオーディオタイムライン上にオーバーレイとして表示される。

ビデオでも同じことだ。さきほどの説明で、コンピュータスクリーンの映像の上にあなたを撮影した映像を重ねて表示でき、その場所を動かすこともできると書いたのを思い出して頂きたい。この場所の移動を Video Action の一部として施せば、出来上がったムービーではあなたの姿がある場所から別の場所へと動いて行くのが見られる。

同じように、さきほど私はスクリーン全体がキャプチャされることについて書いた。でも、スクリーンの一部の領域にズームインしたくなったり、あるいはある領域を切り取ったムービーをスクリーン上の別の場所へとパンしたくなったらどうだろうか。これらも、やはり Video Action でできる。例えば切り取られた領域のムービーをパンするには、まず Video Action を追加してから、切り取り領域をスライドさせてスクリーン上の行きたい場所へと動かせばよい。

こうして、あなたのビデオを複数個のクリップに切り分けたり Video Action を使ったり、さらには追加のメディアを加えたりすることによって、いろいろと非常にクールなトランジション効果が得られる。ただし、ScreenFlow には iMovie の意味での QuickTime「トランジション」そのものは装備されていないのだが。

アップを撮ってもいいですよ -- でも待って、_まだ_ 他にもある。実は、あなたのスクリーンをキャプチャしている最中に、ScreenFlow は同時にたくさんの追加の情報も記録していたのだ。あなたはそれらの情報を、ムービーのそこここで、あなたの欲するままに使いこなすことができる。

例えば、ScreenFlow はスクリーンキャプチャの最中にあなたが押したすべてのキーを覚えている。例えばあなたのムービーの全体、あるいは一部分で、観ている人たちにそれらのキーが何かを示したいとしよう。そのためには、また違った種類の Action、つまり Screen Recording Action を加えればよい。そこでのオプションの一つに“Show Keys Pressed”というのがある。こうすると、いったんこの Action が動き出せば、キーを押す動作がムービー画面の中央の長方形の中に文字で表示されるようになる。

同じように、ScreenFlow はスクリーンキャプチャの最中ずっとカーソル位置やマウスクリックを記憶している。だから、もしもムービーの中で拡大カーソルを示したかったり、あるいはマウスクリックを画面上または音声で表わしたかったりしても、その通りのことができる。こうして、例えば Mousepose のようなユーティリティを別途用意してその効果を出せるようあらかじめ設定しておく必要もなく、私は何もせずにただスクリーンキャプチャを済ませてから、あとでいつでもそういう効果を入れることができるのだ。

編集作業中に加えられるこうした効果の中で一番クールなのが“callout”(吹き出し) と呼ばれるものだ。これは、ムービーの中の一領域を分離して、観ている人の注意をそこに向けるためにある。スクリーンのそれ以外の部分を暗くぼやけた状態にすることもでき、分離された領域を拡大することもできる。まるで誰かがその部分の上に拡大鏡を押し付けたかのような具合だ。この方法で、例えばマウスカーソルのまわりの丸い領域を強調したり、ムービーの中に見える最前面のウィンドウに見合う長方形領域を際立たせたりすることもできる。

最後にクレジット画面を -- 出来上がったあなたのムービーを書き出す段階になれば、QuickTime のあらゆる圧縮 codec やビデオ・オーディオ設定一式にフルにアクセスできる。またスケーリングも可能だ。さらに、あなたがタイムライン上に指定しておいたマーカーを使ってムービーをいくつかの章に分けるようにすることもできる。でも、これは単にムービーの書き出しに過ぎず、あなたの ScreenFlow 書類はそのまま保存された書類として残っているので、もしもそのムービーに満足できなければ、例えば書き出したムービーのサイズが大き過ぎたり、スケーリングが小さ過ぎたり、その他編集結果のどれかを変更したくなったりすれば、あなたはいつでもその書類に手を入れて、違った設定で書き出しをやり直せばよい。そうそう、ここで一言付け加えておきたいが、書き出した結果のムービーは素晴らしく完璧にピントが合っている。あなたのスクリーン上にあったどんなものでも、細かい所まではっきりとムービーの中に見てとることができる。

ScreenFlow は見事な、クリーンな、明快な、魅力的にデザインされたアプリケーションだ。私は 10 分間ほどデモ版を試してみただけでその機能のほとんどすべてを理解することができた(デモ版では書き出したムービーすべてにウォーターマークが付くという制限がある)が、このアプリケーションには非常に良く出来たオンラインマニュアルも含まれており、アプリケーションに埋め込まれたチュートリアル書類に対応したチュートリアルもある。また、スクリーンキャストのオンラインチュートリアルも(当然!)いくつか提供されていて、それらは(当然!!)ScreenFlow 自身で作られたものだ。

ScreenFlow の価格は $99.99 だ。Mac OS X 10.5 Leopard と、G4 かそれ以上(または Intel)のプロセッサと Quartz Extreme 機能を必要とする。また、いくつかの機能が動くかどうかはあなたのグラフィックスプロセッサの性能に依存することがある。 デモ版は 4.7MB のダウンロードだ。


Nabaztag Internet Rabbit とお知り合いに

  文:Joe Kissell <joe@tidbits.com>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

私が去年フランスに引っ越してから間もなく、Glenn Fleishman が私にここパリに本社を置く Violetという会社で働くある知り合いの人を紹介してくれた。(ちなみにこの名前は「ヴァイオレット」でなく「ヴィオレィ」と発音する。)Violet 社は、インターネット対応うさぎ Nabaztag の開発元として最もよく知られているが、この製品があまりにも奇抜なものに聞こえたので、私はぜひそのクリエータたちに一度会ってみたいものだと思った。調べてみるとこの会社の住所は私の家からほんの一筋下がったところにあり、歩いて十分ほどの距離だったので、これまで何十回も私は知らずに彼らのオフィスの前を通り過ぎていたのだった。そこで早速私は面会予約を取り、妻の Morgen と私は Rafi Haladjian(彼は Nabaztag を発明したチームの一人だ)と Jean-Francois Kitten(そう、Kitten (子猫ちゃん) というのは彼の本名らしい)に会って、この Wi-Fi うさぎちゃんで個人指導のデモ体験をさせてもらった。

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それが七ヶ月以上前のことだった。それ以来ずっと、私はこの Nabaztag とその裏に潜む哲学とについて、記事を書きたくてたまらなかった。でも、何を書こうかと考えて始める度に、私はその奥底で動きが取れなくなってしまった。今でさえ、どう考えればよいのか自信がない。思うに、この機器は驚くほど役立つものだという考えと、$165 をドブに捨てるようなもので馬鹿馬鹿しいという考えを、私はともに同じ程度の説得力をもって論ずることができるだろう。いずれにしても、この装置には一見して目につく以上のものがあることだけは確かだ。幸いにも(見方によれば不幸なことだとも言えるが)去年の秋以来、このインターネットうさぎちゃんはほとんど変わっていないようなので、私が以下に述べる観察は今でも適切なものだと思う。

Nabaztag の基本 -- 大切なことから順番にいこう。このへんてこな単語はどう発音するのか? そのデザイナー本人が発音するのを聞いて私はノートに書き留めておいた。大体、「ナバスタッグ」という感じで最初の音節にアクセントがあり、第二音節はあいまい母音だ。これはうさぎ (rabbit) という意味のアルメニア語の単語で、英語を話す人に意味が分からないと同様フランス語を話す人にも意味が分からない。

ここ数年来うさぎテクノロジーの最新情報に馴染んできていない方々のために、この Nabaztag を簡潔に説明しておこう。これはおよそ 9 インチ (23 cm) の高さでプラスチック製の丸っこい円錐形の塊(に二本の耳が突き出したもの)で、正面には目と鼻が描いてあり、おへその穴はマイクロフォン、頭のてっぺんにはボタンが一つある。それ以外に目に見えるユーザーインターフェイスはない。AC アダプタを繋げば(残念ながら乾電池では動かない)最も近くのオープンな Wi-Fi ネットワークに接続する。(パスワードで保護されたネットワークを使う方法も用意されているが、それをセットアップするにはかなり面倒な手間がかかる。)このうさぎちゃんに電源が入ると、いくつかのマルチカラーの LED がプラスチックケースの内側から光り、モーター駆動の耳がぐるぐると回り出す。本物のうさぎなら相当に痛いだろうなと思えるような回り方だ。

それから、ウェブページを開いて、あなたが飼うことにしたうさぎを登録する。その通り、彼らの用語ではあなたがこのうさぎを「買った」のでなく「飼った」のだ。登録の際には、たくさんの環境設定と個人情報を明記しなければならない。例えばあなたがどこに住んでいてどんな種類のニュースや音楽に興味があるかといったようなことだ。それが済めば、あなたの Nabaztag はインタラクティブなネットワーク対応の家電製品となり、たくさんのできることの中からあなたが好きなものを選んでさせることができる。例えば、さまざまのライトの組み合わせ(異なった組み合わせとカラーでの点灯や点滅)によって、次のようなことを知らせてくれる:

内蔵のマイクロフォンとスピーカーを使えばこの機能リストが一段と内容を増す。そのほんの数例を挙げれば、Nabaztag はこんなことができる:

そうそう、この耳のことを忘れてはいけなかった! 通常、耳は特に意味もなく時折くるくると回る。でも、あなたが耳を好きなポジションに設定したり、それをあなたの友人の Nabaztag に送信したりもできる。(ポジションのみの送信も、音声メッセージを添えての送信もできる。)すると、その友人の Nabaztag の耳も同じ形になる。(例えば、両方の耳を下げれば「私は悲しい」という意味にでも何にでも使える。)考えてもみよう、デジタル手旗信号さえあれば、ビデオも音声もテキストも何もいらない、懐中電灯の光で気持ちを送るなんてことをする必要もないじゃないか! 理由は分からないが、耳のポジションを送れるこの機能こそ、このうさぎちゃんの他のどの機能にも増して私の気持ちを一番にくすぐってくれた。(そうそう、それから、あなたの Nabaztag を誰か他の人のものと組み合わせて耳のポジションのようなメッセージを両者の間で「組み込む」ことを _つがいにする_ と呼ぶ。その通りだ。ただし、私の知る限り、このうさぎたちが繁殖するのは Violet 社の工場の中でだけだ。)

もう一つ大事なことを言い忘れていた。内蔵の RFID リーダーだ。その狙いは、あなたが“Ztamp”と呼ばれる特別の RFID タグ(無線 IC タグ)を購入して、それを何でも好きなもの、あなたのキーとか、コップとか、その他のものに貼り付けておく。そうしたものがあなたの Nabaztag の鼻の近くに来ると、それが近くにあることに気付いて、指定しておいたアクションを取ってくれる。例えばサウンドを鳴らしたり、メッセージを送信したりといった具合だ。私の知る限り、Ztamp はまだ別売されていないが、Violet ではさまざまの子供用の本に Ztamp を装備して(今のところフランス語のみ)販売している。あなたの子供がその本を Nabaztag の前にかざすと、うさぎが声を出して読んでくれるというわけだ。その通り、ロボットうさぎが、ベッドで子供に絵本を読んでやるという苦行からあなたを解放してくれるのだ。(私はまだ実際に子供が Nabaztag と向き合っているところを見たことはないが、そういうものがこの機能の最良の利用法なのだろうとは思う。)

Nabaztag が初めて届いて巣穴から(いや、梱包の箱から)取り出した状態で、既にいくつかの種類の情報を提供できるようにあらかじめ設定されているが、この会社ではユーザー各自がこれを広範囲にパーソナライズし、さらにはハッキングすることさえ、期待するとともに奨励している。サードパーティの開発者が独自のアプリケーションやサービスを開発できる API も提供している。(ちなみに Nabaztag のサービスのいくつかは無料だが、有料の購読を要するサービスもいくつかある。)さらには、さまざまのカラーやパターンを加えた交換用の耳を扱う健康的なアフターマーケットまで存在している。

ところで、これは言い添えておくべきだろうが、現行世代のインターネットうさぎは“Nabaztag/tag”と呼ばれている。たぶん、これはアルメニアのうさぎ語で“rabbit 2.0”という意味なのだろう。初代の Nabaztag もまだ $95 ほどで販売されているが、これにはマイクロフォンと RFID リーダーが付いていないし、WPA 暗号化や MP3 オーディオのストリームをサポートしていない。私が話をした同社の代理人によれば、将来の世代の名前にはさらに“/tag”が付くという。つまり、次はいろいろな RFID Nabaztag/tag/tag タグが付いてくるというのだろう。

うさぎの巣穴の奥へ -- わかったわかった、つまりこの格好良いちっちゃなバニーちゃん機器を買ってくれば、百万と一種類ものことがさせられるというわけだ。そりゃ結構。でも、いったい誰がそんなものを必要とするんだ? Violet 社の Haladjian によれば、率直に言って、誰も必要となんかしないそうだ。彼は言う。もちろん、彼は真っ先に認める。インターネットうさぎが世界を変えるなんてことはないし、彼の会社の将来のすべてをこのプラスチック製のうさぎに託すつもりもない。この Nabaztag はただ、Violet 社が広めようとしているより大局的なアイデアの、その最初の実例に過ぎないのだ。そのアイデアとは、もはやユビキタスとなったワイヤレスインターネットアクセスのパワーを活用して、ありふれたオブジェクトをスマートなオブジェクトに変えたい、という考え方だ。彼の説明は続く。私たちは、コンピュータのスクリーン(あるいは、少なくとも、何らかのスクリーン)の上に私たちのインターネット体験を介在させることに慣れ切ってしまっている。けれども、コンピュータは確かに万能のツールとして良い働きをしてくれるものの、PC 以外のところにも生活はある。だから、もはや普遍的となったインターネット接続性を利用するために、もっと他の、もっとシンプルで直接的な方法もあるはずだ。つまり Nabaztag は未来に向けたかなり巧妙なる概念実証実験であって、たくさんのフレンドリーな小さなオブジェクトたちが互いに接続し、また無限のデータを持つグローバルな情報源とも接続することによって、私たちのためにたくさんの便利なことをしてくれる、そういう未来を見通すものなのだ。Violet の野心は世界中のすべてのものを接続させることで、彼らはこの小さなかわいいオブジェクトをその手始めとしているわけだ。

ちなみに、ここではその「フレンドリーな」という言葉が鍵となる。例えば、Haladjian はホームオートメーションシステムを例に挙げて説明した。そういうシステムはもう何十年も前から存在している。けれども彼によれば、そのシステムはまだまだ複雑で、そのために多くの人たちは威圧を感じて敬遠してしまう。おかしな耳とボタン1つを持ったちっちゃなうさぎなら、その点何の威圧も感じさせないだろう。それと向き合うには、ただ目の前に持ってきて口で話しかけたりするというような、自然な方法でできる。ワイヤーを配線したりスクリーンを見つめてタイプしたりマウスを扱ったりする必要はない。だから、これはコンピューティングが不可視となって、コンピュータがずっとシンプルなオブジェクトの中に埋め込まれ、私たちが現在依存しているフル装備のデスクトップ機やラップトップコンピュータの働きの多くを置き換えてゆく、今よりももっとユーザーフレンドリーな未来を示唆するものとなる。

もちろん、このようなアイデアは何も Violet 社や Nabaztag だけに特有のものではない。 Ambient という会社もたくさんのインターネット対応機器を提供していて、例えば $150 する Ambient Orb はいくつかの異なったカラーで光ることによってさまざまの情報、例えば交通情報、天気概況、株式市況などを示せる。また $124.99 の Ambient Umbrella は雨が近づけばその柄が光る。インターネットラジオ放送をストリームできる独立機器を購入することもできるし、さらに言えば Apple TV でさえもある種のインターネット機器だ。(また、$179.95 の Chumby というものもあって、これは小さな Wi-Fi 接続の機器で時刻、天気、交通情報、ニュース、音楽、その他を提供する。ただこれはこれまでに触れた他のものたちとは違って、まだ従来型の LCD によってデータを表示するので、電化製品というよりはむしろキーボードのないコンピュータのように見える。2007-12-14 の記事“Chumby: お手玉コンピュータ”を参照されたい。)いずれにしても、そういうものたちの中で擬人化された(いや、擬うさぎ化された)ものは、私の知る限り Nabaztag だけだ。

問題は、どういう人が、既に自分の従来型のコンピュータでほとんど同じことができる(まあ、耳を動かせる Mac を見たことはないが)にもかかわらず Nabaztag を(あるいは他の同種の電化製品を)購入するだけの価値があると思うだろうか、ということだ。Violet 社の代理人によれば、Nabaztag が特に向いているのは、いつも注意しているだけの価値がないような種類の応用だという。情報をバックグラウンドで提供し、その間おそらくあなたはコンピュータで他の作業に集中しているのだろう。私もそれが正しい道だと思う。私が内向的な人間として確かに証言できるのは、スクリーン上にひっきりなしに何かがポップアップするよりも、テーブルの上に置いてある機器で邪魔にならない光が輝く方が、ずっと気を散らされずに済むということだ。それに、自分の状態や気分を tweet にタイプしたり、自分の iChat ステータスを変えたりするよりも、うさぎの耳の手旗信号を使って伝える方がずっと気に入るだろうとも思う。(2008-04-04 の記事“内気者にとってのインスタントメッセージング”参照。)

うさぎ算式に繁殖 -- どうやら、相当に多くの人たちが Nabaztag のデザインの奇妙さを目に留めたらしく、これは製品としてかなり成功しているようだ。実際、Violet 社によれば、初代の Nabaztag が 2005 年にデビューした時、季節は真夏で口伝えにしか広告されなかったにもかかわらず、最初の 5000 ユニットが 10 日間で売り切れたという。

しかしながら、私自身は Nabaztag オーナーではないと告白しなければならない。Violet 社のオフィスを出た時の私が、Nabaztag のクールさと便利さを 100% 納得していたのは事実だが、この製品は私の「これなしには生きて行けない」テストを通過できなかった。それに、私はただ話だけを聞いておもちゃを収集する趣味はない。(その上、お分かりだろうが、$165 あればフランス菓子がたっぷり買える。何事にも優先順位というものがあるのだ。)

私の感じでは、Nabaztag を扱ったさまざまのブログやフォーラムの活動状況を眺めて受けた印象に基づけば、この機器の初期の人気度は衰えつつあると思う。Violet 社は約束していた改善点(例えば Ztamp、これは去年の 10 月に出荷される予定だった)をなかなかリリースしてくれないし、差し迫っていたはずの次世代の Nabaztag/tag/tag も、まだ出るという話を聞かない。でも、それらはすべて意味のない空論かもしれない。なぜなら、Violet の述べている意図は Nabaztag をすべての家庭に行き渡らせることではないからだ。彼らの目標はもっと高遠なものだ。そしておそらく、彼らは今まさにそれを目指すべく進んでいる最中かもしれない。

私はと言えば、確かに私は不可視コンピューティングの概念を支援したいと思うし、自宅にたくさんのスマートなオブジェクトがあれば価値があるだろうと思う。そういうものならば、普通のコンピュータが決してできないやり方で、私の他の人たちとのコミュニケーションを深めてくれさえするかもしれない。この Nabaztag だけを取り上げれば私の痒い所をかくまでに至らなかったが、今後私はこの分野の発展を大いに関心を持って見続けたいと思う。


TidBITS 監視リスト: 注目のソフトウェアアップデート、05-May-08

  文:Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>


TidBITS Talk/05-May-08 のホットな話題

  文:Jeff Carlson <jeffc@tidbits.com>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

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