TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#960/13-Jan-09

私たちの Macworld Expo 総まとめ特別号へようこそ! 月曜日の平常号の締め切りに間に合わせるため必死に記事を書いたり編集したりしながら、今回はキーノート以外の内容の記事を切り離して別途の号で出すようにすれば、読む側でもより消化しやすい分量に切り分けてたくさんの情報を受け取れることになるし、私たちの側でも真夜中を過ぎて働かずに済むということに気付いた。そういうわけでこの特別号に集められたのは、ショウ全体を概観しつつ Macworld が将来も続けられるために IDG が何をしなければならないかを Adam が思い巡らした記事と、Apple が Apple Store を訪れる人々と Macworld の入場者を同列に並べて比較したことに対して Glenn が強く反論した記事、それから会場で特に際立っていた製品、人々、出来事などを紹介する、TidBITS 伝統のショウで見つけた珠玉たちの記事だ。

記事:

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毎週 100 個の Macworld をしていると Apple が広言

  文: Glenn Fleishman <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

まるでハードドライブの容量を「米国議会図書館」を単位にして説明するかのように、つまり、「こいつの中には米国議会図書館が 1,000 も入りますぜ!」と宣伝するかのように、Apple は Macworld ショウの入場者数を単位に自社のリテール店の訪問者数を語りつつ Macworld Conference & Expo をこき下ろすという手段に出た。Apple 副社長の Phil Schiller が、今年の基調講演の中で、Apple のリテール店には Macworld Expo 入場者数の 100 倍の数の人々が毎週入店していると述べたのだ。

これは何ともはや、壮大なスケールの燻製ニシンだ。[訳者注: 燻製ニシン (red herring) とは人の注意をそらすために使うデマ情報という意味です。]Macworld にはカンファレンス部分もあって、そこで何百人もの人々が教育のために何百ドルあるいは何千ドルというお金をはらっているということは別にするとしても、このトレードショウのフロアには 500 社もの出展者が、少なくとも 5,000 人のスタッフを出していて、訪問者が直接手で触れられる参加型のデモ実演をしたり、直接面と向かっての質問に答えたり、といったことをノンストップで提供しているではないか。

それとは対照的に、Apple Store はどこでもたった一つの会社しか居合わせておらず、たぶん数百種類の選ばれた製品と、質問には誰もが全く同じように答えるよう訓練された 20 人かそこらの従業員と、注意深くコントロールされたユーザー体験が、リテール店内で平方フィートあたり最大限の現金を生み出すべしという Apple 側の必要を満たすことを第一目的としてそこにあるだけだ。それは Apple にとって素晴らしいことだろう。けれども、Mac や iPhone や iPod のユーザーたちにとっては、Apple が店内に置くことを許したほんの限られた範囲のことがらにしか目を開かれないということを意味する。その上、Apple は注意深く、あなたが Apple のハードウェアを使う際に問題が起こることを連想させるような製品、例えばトラブルシューティング用の書籍などを店内に置かないようにしている。

私は Macworld の会場で何千もの機種のカメラやプリンタ、スキャナ、その他の周辺機器を見た。Apple Store に行けば、在庫はほんの数十台だろう。私は Drobo 社 のブースで、担当者と 15 分間も顔を突き合わせて話し、私がそこの製品についてよく分からなかった点を詳しく見極めることができたし、一台の Drobo の中から実働のドライブを私の手で取り出して、それがまた元に戻されるのを目前に見ることもできた。Apple Store でそんなことはできない。

Apple Store のメタファーは、見事に Apple の態度そのものをあらわにしている。Apple の顧客は _Apple_ の顧客であって、IDG の顧客でも、サードパーティの顧客でも、その他の誰の顧客でもないのだ。Apple の店舗、Apple のイベント、Apple の顧客であって、それ以上ではなく、それ以下でもないと思っているのだ。でも、私は私自身をただの顧客ではないと思いたい。


Undercover がラップトップの回収のために Wi-Fi 位置情報を追加

  文: Glenn Fleishman <[email protected]>
  訳: 笠原正純<panhead@draconia.jp>

コンピュータ・リカバリ・パッケージの Undercover のメーカー、Orbicule は Wi-Fi 情報を取得し盗まれたコンピュータを取り戻すための助けになるおおまかな位置情報を提供する。バージョン 3 は 2009年 1 月 20 日にリリースされる予定で、Macworld Expo でデモされていた。現状のユーザには無償アップグレードで、新規購入は $49(単独)、$59(最大で 5 台まで使えるファミリー版)または $39(学割)だ。

Orbicule は Skyhook Wireless と協同している。Skyhook Wireless はWi-Fi の信号情報を取得し、膨大で継続的にアップデートされているデータベースに基づいて三角測量を行う。(Skyhook のデータ収集とその結果の詳細については 2007-06-18 の"Loki はここだよ"を参照。)

Undercover はバックグラウンドで動作しており、ユーザが Orbiculeのウェブサイトで特定のコードを入力することで活動を開始する。ユーザがコードを入力した後で、盗まれた Mac のバックグラウンドで動作していた Undercover アプリケーションが Orbicule のサーバをチェックするとリカバリーモードにスイッチする。そして、iSight カメラ(利用可能な場合)で画像を撮影しネットワークデータのログを取り、この情報を Orbicule に送信する。Orbicule は取り戻すためのデータを提供することであなたの地域の法執行機関に協力する。

Orbicule は Skyhook Wireless と協同する二つ目のコンピュータ・リカバリー・ソフトウェア企業になった。一番目は GadgetTrak のMacTrak(一回払い料金 $59.95)でこの機能を 2 カ月前に付け加えていた。(2008-11-13 の"ラップトップ取り戻しソフトウェアが Wi-Fi と Flickr を使用"参照)。


Macworld 2009 で見つけた楽しいもの

  文: TidBITS Staff <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

私たちが Macworld Expo でどれだけ楽しい思いをしたかを言葉にしてすべて伝えるのは不可能だが、でもそんなことは言わずやってみよう。会場で私たちの印象に残った、巧みなイベント、クールなデモ、素敵な人たちを、少しだけ紹介してみよう。

最も広く行き渡ったみやげ物 -- 今年の Macworld Expo では無料の配布物がごくまれにしか見当たらなかったが、一つだけ、他を圧して断トツの印象を与えた無料試供品があった。文字通り頭の上に飛び出ていた。Peachpit Press が、Visual QuickStart Guide シリーズのバニー(うさぎ)のロゴを宣伝するため、無料でバニーの耳を配ったのだ。これを着けた者には、抽選で iPhone や iTunes ギフト券が当たった。これはなかなか巧みなアイデアだったが、その Peachpit スタッフでさえ、このモコモコしたピンクの耳がこれほどまでに人気を博するとは予想していなかった。配られた耳の数はショウ初日の初めの数時間だけで 700 個以上に達し、二日目には残りの 300 個もすべて配り尽くしてしまった。このうさぎの耳はショウのフロアだけでなく、Moscone 周辺のレストランなどでも見かけられた。興味深いことに、Peachpit はこの耳のどこにも自社の名前を記さなかったので、この耳を欲しいと思った誰もが「それ、どこでもらったの?」と尋ねていた。[JLC]

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最高の聴衆参加 -- DriveSavers は、クラッシュしたドライブを分解して、多くの場合貴重なデータを抽出できるサービスの会社だが、なかなか素敵なデモンストレーションをしていた。通りがかった人を呼び止めて「ディスクドクター」を演じさせていたのだ。私が DriveSavers ブースの近くに来て見たところでは、ここのスタッフは見るからに一般人と思える人にクリーンルームの技術者の服装をさせ、テキパキしたやり取りで彼から反応を引き出しながら、その「ドクター」が封印されたドライブのメカニズムを分解する手引きをしていた。マイクとスピーカーを使って、埃がドライブ上で回り出すと何が起こるか、小さな傷でも読み書きヘッドに衝突すればどうなるか、聴衆にもはっきりと聞き分けられるようにしていた。忘れてはいけない。私たちは DriveSavers の人たちがしてくれることを本当にありがたいとは思うが、彼らのお世話になってまず最初に実感するのはやはりバックアップをすべきだったということだ。彼らのサービスは決して安価ではないのだから。[GF]

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最高の CHOCK LOCK -- 背の丈 100 フィートの Craig Hockenberry が、まるで巨人のように Macworld Expo のフロアをのし歩く。彼はユーモアたっぷりの男で、 Iconfactory 社 の社長の一人でもあり、最近では Twitterrific と Frenzic のデスクトップ版と iPhone/iPod touch 版でも知られている。この写真で Hockenberry は Bare Bones 社創設者の Rich Siegel(彼自身も背の丈 99 フィートだ)をショウの床に押しつぶそうとしているが、Twitter 上で彼は CHOCK LOCK なる傑作情報を広めている。これは事実上どんな行動でもモーフィングして表現できるというものだ。[GF][訳者注: CHOCK とは、彼の Twitter 名“chockenberry”から来た言葉でしょう。]

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最大のデジタルプロジェクト -- アーティストの Bert Monroy が、Peachpit Press のパーティーの席上で私に彼の最新のプロジェクトについて語ってくれた。それは、彼が現在 Photoshop を使って作成中の 25 フィート (約 7.6 m) の長さを持つフォト・リアリスティックな壁画だ。これはあまりにも大きくて複雑なものなので、彼はその完成までにあと二年半は作業を続けなければならないと見込んでいる。既に彼は Adobe の Creative Suite 製品における限界を極限まで押し広げている。Monroy のソースファイルのサイズは平坦化した状態で 11.5 GB を超え、彼の次なる作業は現在のファイルサイズをその4倍に押し上げるだろう。[GF]


Macworld Expo 2009 で最高の Mac ソフトウェア

  文: TidBITS Staff <[email protected]>
  訳: 細川秀治 <hosoka@ca2.so-net.ne.jp>

我々にとって、Macworld Expo フロアの全部を見るのがどれだけ困難かを考えれば、ひとつの製品デモを最期まで座って観ることはまずできない。でもそれは残念なことだ。多くの会社が素晴らしいデモを提供しているし、こういうデモはソフトウェアが如何にクールであるかを学ぶよい機会で、そういう点はあなた一人では気付かないものかもしれないのだから。ともあれ、固い床を一日歩き回った足を休めるのは良いことだ。我々はショーの全体を急いで歩き回らなければならなかったが、以下のアプリケーションは我々の注意を惹きつけた。

最も話題になったソフトウェア -- 「ショーで最もクールだったのは?」のカテゴリーで、私の訊いたより多くの人々が話題にしたのは、他のどの製品よりも Cultured Code の Things だった。Things はこの市場で成功した最初の Getting Things Done(直観的仕事整理術)ではないが、その出来映えは洗練されていて直観的であり、やり過ぎることもなければ、盲目的に Getting Things Done モデルに従うようなこともない。人には自分の生活を整理するそれぞれ異なったやり方があるが、この種のソフトウェアには様々なプログラムとアプローチが提供されている。Things はこの種のソフトのどれよりも、私のリストの筆頭に載るものである。Things 1.0 は 49.95 ドルで 4.2 MB のダウンロード。また 9.99 ドルのコンパニオンを追加して iPhone/iPod touch と同期できる。[JLC]

Apple の足止めを取り戻す最高のソフト -- Apple が 2007年 8月に iMovie '08 を発表したとき、この刷新されたビデオエディタは、サードパーティのプラグインをサポートしなかった。これらのプラグインは、iMovie のその前のバージョンで成長し、市場も拡大していたのだ。GeeThree などのデベロッパーは、自分達の製品が突然古くなったのに気付いた。先日発表された iMovie '09 でもプラグインはサポートされていない。そこで GeeThree は Final Cut Express と Final Cut Pro のビデオエフェクト作成にその専門技能を傾注した。 SlickFX Final Cut は、その多くの Slick iMovie プラグインを、その先進のビデオエディタにもたらした。もっと印象的なのは 75ドルの SlickFX PhotoMotion で、Ken Burns スタイルの動きを静止写真に付けることができ、Final Cut のツールを使ってそれらを手描きで構築するよりもはるかに簡単だ。[JLC]

最も聡明なソフトウェア -- TheBrain Technologies のブースで熱狂的なデモを視ていて、私はこれは素晴らしい製品なのか、それとも私は現実歪曲空間 [訳者注:Steven Jobs のスピーチに付く形容詞] を見ているだけなのか、と感じた。デモは、視覚的に情報を整理する PersonalBrain のもので、ユーザーは "brains" を作成し、これに親/子関係が線形に(または全く非線形に)リンクした "thoughts" が含まれている。これらの thoughts にもまた、URL や リンクされたファイルを含むことができる。そしてそれらは、タグを付けて三次元にもできる。あなたが、アイデア、プロジェクト、to-do リストなどで、あまりに多くの項目を多くの分類に整理するのに困っているなら、PersonalBrain はまさにあなた向けの製品だろう。無料から 249.95 ドルまでの範囲で機能セットの異なる三つのバージョンがある。

私は Macworld Expo のすぐ後で 26 MB の無料デモ版をダウンロードした。これがお気に入りと言うにはまだ早すぎるが、この自在に動く非線形性は、ややダサイ Windows 風のインターフェースを補って余りあると言うことはできる。私はプロジェクトと to-do をマッピングして "Ask Adam"、"Maybe/Later"、"Monday" などの項目をタグ付けしてみた。おそらく、PersonalBrain を Apple Mail にも応用できるだろう(厳密なやり方はまだ見付けていない)。そしてこのソフトの企業向けバージョンはすべてのこれらのタスクを実行でき、会社全体の規模に拡張できる。ブレインびっくり仰天だ。[TJE]

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最もダイナミックな写真編集ソフトウェア -- デジタル写真仕上げで最もホットなトレンドはハイダイナミックレンジ合成写真 (HDR) だ。これは同じシーンを多段の露出で撮った複数の写真を合成してひとつの写真にする。最終結果はあなたが眼で見たとおりの色と光線をより正確に再現できる。そして HDR 写真は驚異的に美しい作品にできる。HDR 写真は由緒正しい Adobe Photoshop を含む多くのツールで作成できるが、最も必要なことはオリジナル写真の撮影に三脚を使用して画像位置を固定し、最良の撮影結果を得ることだ。Creaceed の Hydra 2.0は Aperture プラグインと組み合わせて、そして単独のプログラムとして HDR 写真を結合する。印象的な自動アライメントやラッピング機能を使って、手持ちで撮影した写真をもとに HDR 写真を作成するのに役立つ。私は旅行で本格三脚をめったに携行しないので、Hydra により素晴らしい出来映えの HDR 写真を作成する機会が増える。


Macworld Expo 2009 で最高の Mac ギア

  文: TidBITS Staff <[email protected]>
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

評価用のソフトウェアはインターネットのこの時代には良くその役目を果たすが、ラップトップのケースとかウェブカムと言ったものを無料で試すためにダウンロードする方法に我々は未だ行着いていない。まあそれでいいのだと思う - お試し版のラップトップケースが 30日のお試し期間が終わる (そして分解してしまう) と言うのも困りものかも知れない。従って、我々が Star Trek スタイルの自己再生機を持てる様になるまでは、Macworld Expo があらゆる種類の周辺機器とアクセサリを試すには最適の場所の一つであり続けるであろう、それに、中には未だ販売に供されていないものも展示されるのである。

最もグリーンな黒ケース -- 私はいつも、企業が - MacBook を誇らしげに掲げている San Francisco の広告表示板を出している Apple を含めて - 新しい製品を買う時に環境に対する優しさをしつこく押し売りしてくることに多少苛立ちを感じてきた。勿論、あまり環境に配慮していない競争相手よりはマシかもしれないが、より環境に配慮するなら新しい材料を必要とする物を買うことを避けるべきであろう。削減、再利用、リサイクルである。

これが、私が Tread から出されている頑丈なゴム製のラップトップと iPhone のケースが好きな理由である - 原材料の使用を少なくしているだけでなく、その製造過程で環境から廃棄材料を取り除いている (この場合南アメリカでは未だタイヤに使われている内部チューブである)。確かに、このケースは元のがっしりしたゴムから来る分厚い、殆ど粘っこい感じは残っているが、多少の雨なら問題なくはじいてしまうかのようである。[ACE]

最高のウェブカム再考 -- 殆どの Mac と Apple ディスプレイには、今や iSight ビデオカメラが内蔵されているので、Mac 用の外付けウェブカムを見る度に、一体全体これは何のためなのかと思ってしまう。IPEVO、私はこれまで未だ遭遇したことはなかったのだが、は $39.99 の PoV USB Camera を展示していた。これはペン型のウェブカムで、Mac の前にいるあなただけを超えて写す様意図されたものである。事実、IPEVO の Caroline Andreolle が悪戯っぽく語った所によると、PoV のきっかけとなったのは、同社の CEO が旅先から彼の 90ポンドのブルドッグを見たいのだが、彼の 90ポンドの妻ではこの犬がラップトップ上に涎をたらし続けるのを防げなかったからというのである。

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同社はまた Kaleido R7 を展示していたが、これはワイヤレスのデジタル写真フレームの試作品で、きわめて優れた工業デザインを持ち、Mac, Flickr, そして RSS フィードへの接続が出来る。数ヶ月で市場に出てくるので注目しよう。[ACE]

単独のラップトップ充電が復活 -- 昔は、Apple ラップトップ電池用の独立の充電器を作っている会社があった。充電するため電池をラップトップに入れ替える代わりに、スペアをこれらの充電器に差し込んで個別に再充電することが可能であった。何らかの理由で (多分ラップトップは固有の形を持っているので) これらの充電器は姿を消して行き、複数の電池を頻繁に使う旅行者やその他の人にはその電池を同時に充電する簡単な方法が無くなってしまっていた。Fastmac の $79.95 の U-Charge はこのやり方を非常に頭の良いやり方で復活してくれた。Apple の電池は、年を経るごとに形を変えてきたが、そのコネクタは同じままであったので、U-Charge はこの電池のピンに差し込まれるコネクタの一種なのである。この充電器には一連の LED ライトも付いており電池の残量が表示される。[JLC]

良くなった BookEndz -- BookEndzは結構長いこと市場に出ているもので、ラップトップの脇に並んでいる各種の USB, Ethernet、そしてその他のポートに対応する一列のプラグが出ており、背面には一連のジャックが並んでいるので、そこに USB 機器、Ethernet ケーブル、そしてモニタをつないだままにしておくことが出来る。狙いは、個々のケーブルを毎回抜き差しするよりも、BookEndz ドックに対してラップトップを抜き差しする方が楽だということである。私は Apple の前の白と黒の MacBook ライン用のモデルを試したことがあるが、それは小さな機器で MacBook のポートに対しての軸合わせにも結構細かい神経を使う必要があった。それで、結果的には数本のケーブルを取り付ける以上の手間がかかる結果となった、とりわけ BookEndz は Apple の MagSafe 技術のライセンスに対する頑固な抵抗のせいで電源をドック経由で供給出来ないことも障害である。

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とは言っても、私は現行のアルミの MacBook 用の BookEndz ドックの試作品には感心させられた。これには MacBook が乗っかるプラットフォームがあり、一列のプラグの部分は手で差し込まなければならないが、軸合わせはより簡単で、そして背面には手早く取り外し出来るためのレバーが付いている。(15-inch MacBook Pro 用のモデルにより近い形をしている。) まだ試作品でもあり、背面に並んでいるポートには多少奇妙なものがあり、Mini DisplayPort, DVI, そして VGA が含まれているが、スペースの関係で VGA は製品版では無くなりそうだと聞いている。MacBook の二つの USB ポートは増やされ、違う面に 5つの USB ポートとして提供されている。私は、これが一日も早く出てくることを願っている、と言うのも私はこの MacBook を私の唯一の Mac として使おうとしているので、これを机の上から取り外さなければならない時はいつでも 6本のケーブルと格闘しなければならないのは面倒だからである。[ACE]

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あなたの最高の像を投影する -- あなたの iPod や iPhone のスクリーンでは、映画を本当に楽しむには小さすぎる?或いは、ひょっとすると、あなたの Matchbox コレクションのための機能的なドライブイン劇場を設定したい?最近の一つの技術動向は "ピコプロジェクター" で、これはビデオをいかなる面上にも投影できる携帯機器である。一般的に、プレゼンテーション用のプロジェクターは大きく、重く、高価なものである。Microvision は Show WX プロジェクターの試作機を展示していたが、これは iPhone よりもちょっと大きいだけで iPod nano から印象的なビデオを出力出来る。レーザーを使用しており、100 インチ幅までの画像を自動焦点する。Microvision は未だこの Show WX (これ自身は開発コード名である) を販売していないが、販売された暁には $400 から $500 の値段となると思われる。[JLC]

カスタム製造も成人域に達する -- 大衆文化の多様化の進行は留まる所を知らない様だが、私が気づいた最近の例は耐久消費財のカスタム化である。確かに、iPod ケースの様なものなら、数限りない色やスタイルの中から選べるということには慣れているが、Brenthaven と iFrogz はカスタム化を新しいレベルへと導いた。

Brenthaven の $129.95 の Switch MB メッセンジャーバッグにはめくることの出来る蓋が付いているが、この表と裏のデザインは Brenthaven の Web サイトにある選集から選ぶことが出来る。ショーでは、アーチストがいて独自のデザインをしており、そしてそれを注文することが出来、工業用に見えるミシンを通し、後で受取ることが出来る。

iFrogz は、その場でのカスタマイズは出来なかったが、同社のとんでもない名前の付いた EarPollution ヘッドフォンの 5つの部品に対して、顧客が選べる色、仕上げ、そしてデザインを示していた。名前は大変気になったが (ええ、分かっています、それは風刺でありヒップなのでしょう)、このカスタムヘッドフォンは良く見えた - 残念ながら、ショーの会場では音の良さまでは分からなかった。

カスタム製造は何も好みの問題だけではない、会社にとっても在庫のレベルを決める時お客の欲しがるのはどれかと言う推測の作業をしないで済む。もしこれで見当違いのデザインの在庫を大量に持ってしまうのを防げれば、そして更に不用の廃棄物を世界に投棄するのを避ける利口なやり方となりうるのであれば、事業としても意味があることである。[ACE]


Macworld Expo 2009 で最高の iPhone および iPod ギア

  文: TidBITS Staff <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Macworld には Mac という名前が付いているかもしれないが、軽やかに踊るその両足の靴にはそれぞれ iPhone と iPod が輝いていた。Apple 製のこれらのハンドヘルド機器こそ、ショウのエネルギーのうち相当に大きな部分を担っていたのだから。iPhone 用、iPod 用のいろいろのアプリケーションや用具は、独創的なもの、奇想天外なものからごく平凡なものまでさまざまに揃っていたが、iPhone がすでに最良の状態となってあなたの Mac を拡張するものとして働き、あなたのまわりの環境を目的に沿ったものとしさらに高機能なものへと引き上げているということが明らかに見て取れた。また iPhone は記録を担うものとなって、あなたがどこにいて何をしたかを追跡し、そのデータをあなたがいつでも手元に置けるとともに、他の人と共有したり、あとであなたの Mac に送り返したりすることもできる。もちろん、このショウは iPhone や iPod をほんの少しだけ素敵にしてくれる最新のアクセサリを探すための最高の機会でもあった。

オカリナの音は天空を超えて -- Smule ブースの人たちは、 Ocarina ($0.99) のデモをしながらとても楽しそうだった。これは Macworld Expo の中で断然圧倒的に型破りの iPhone アプリケーションだ。Ocarina を使えば、あのね、あなたの iPhone で オカリナ が吹ける。スクリーン上の適切なボタンに触りながらマイクに息を吹きかければ、優美なフルートの音色が聞こえてくるのだ。

でも待って、それだけじゃない! あなたのオカリナの音はインターネットの雲の上にのぼって行くこともでき、そこから他の人たちが聴く(「心で」楽しむ)こともできる。その上、あなたが他の人に曲を電子メールで送ることもできる。逆に、Ocarina の中に世界地図を表示させて、その地図をタップし、世界のどこで人々が Ocarina を演奏しているかを一覧し、それからタップして聴くこともできる。[TJE]

最高の即席接続 -- 会場のフロアを歩き回りながら、私は Open Door Networks の Alan Oppenheimer にばったり出くわした。彼の最新の iPhone 用アプリケーションを使って、仮想の名刺を交換して回っているところだった。 MyCard は、私が今までに見たことのある名刺交換ツールの中でもなかなか優れものだ。共通のワイヤレスネットワーク上で接続しなければならないということはなく、二人の人が手早く手軽に、AT&T のセルラーデータネットワーク上でさえも名刺の交換ができる。あなたのすべきことはまずそのアプリケーションをダウンロード(現在のところ無料だ)して、あなたのデフォルトの名刺を選び、それをもう一人のユーザーに「送信」するか、あるいは電子メールで送るかするだけだ。あなたが「myCard を送信」ボタンを押すと、コードが表示される。あなたはそのコードを相手のユーザーに教える。その人は自分の側で受信ボタンをタップし、コードを入力する、という手順だ。iPhone 以外のものを使っているユーザーのために、標準の vCard ファイルを電子メールで送るだけ、という方法も用意されている。これならばほとんどすべてのコンタクト情報アプリケーションが読み込める。

セキュリティ関係の製品から始まった会社の作ったツールにふさわしく、このアプリケーションは送信の際に暗号化された接続を使う。また、コンタクト情報のフィールドのうちどれを相手に送るかが選択できる。私がショウのフロアでこのアプリケーションをダウンロードしてインストールするのに一分もかからなかったし、私が Alan に向けて送信する際にもしも数千人の iPhone ユーザーたちがネットワークに繋いでいる状態でなかったとしたら私たちはスムーズに名刺の交換ができていただろう。MyCard はサイズも小さいのでダウンロードは易しく、設定も十分手早くできる。だから実生活上では、双方の人がどちらもまだこれをインストールしていなかったとしても、コンタクト情報を交換し終えるまでにほんの一分程度しかかからないだろう。[RM]

しゅんとなる (sinking) 同期 (syncing) なしに充電しよう -- 今回は私が iPhone を持って出た初めての旅行だったので、長く大変な一日を過ごした後で、とにかく一秒でも早くベッドに倒れ込みたいと思いつつ iPhone を私の MacBook に繋いで電力補給をさせようとした時、iTunes が自動起動して同期を始めるのを見てどれだけイライラした気持ちになるかに我ながらびっくりさせられた。「充電だけすりゃいいんだから、こん畜生!」と私は悪態をついた。ただし小声で。Tonya は既に疲れ切ってベッドに倒れていたので、彼女を起こさないように気を付けたのだ。

だから私は、Matias から出る予定の Tune Blocker をわくわくしながら心待ちにしている。これは iPod や iPhone を充電・同期させるための USB ケーブルだが、小さなスイッチが付いていて、それを切り替えれば接続された機器が充電と同期をするか、それとも充電だけをするかが選べるのだ。パッケージに「充電と同期をするための最も安全な方法」と書かれているのを見てこれはどういう意味かと Matias の Vesna Vojnic に尋ねてみたところ、彼女は申し訳なさそうに微笑んでこれは「ただの宣伝文句」だと答えてくれた。

でも、私は彼女が謙遜し過ぎていると思う。自動同期のせいで真夜中を過ぎてもベッドに入れないとなれば、私がどんな紳士らしからぬ行動に走るかわかったものでないのだから。発売は数カ月以内の予定で、ケーブルの長さの違う $24.95 と $29.95 の二種類がある。[ACE]

万一に備えて (Just in Case) ケースにぴったり -- あなたの iPhone や iPod にぴったりのケースやホルダーが欲しいなら、Macworld Expo にはおよそ七百万種類の選択肢が用意されていたし、実用的なオプションは以前にもましてたくさんあった。その中で私が気に入ったものの一つが、 ProClip の自動車用マウントだ。これらのマウントはハンドヘルドの機種と自動車の車種ごとに専用のもので、iPhone を(あるいは Blackberry や GPS など他の機器を)換気グリルあるいはダッシュボードに固定するようになっている。

私が気に入ったもう一つの取り付け用製品は、 Neat Products の Hangman ($14.95) だ。これがあれば、iPhone を手で持ち運んだり鞄の中で手探りしたりせずに済む。これを iPhone や iPod のドックコネクタポートに取り付けて、ヘッドフォンコードがあればこれに巻き付け、その状態でベルト通しやネックレスなどにクリップ留めする。ProVUE Development の Jim Rea は Hangman を激賞して、二種類のケーブルのために彼はこれを二つ持っていて、いつもこれを iPhone のストラップとして使っていると言っていた。

目で見て魅力的だけれどかさばらず、保護しつつ個性を主張するものとしては、私は GelaSkins が気に入った。iPhone、iPod、またはラップトップ機の背面をアーティストがデザインした図柄でカバーする一方、スクリーンにもそれにマッチしたカスタム壁紙を提供する。(価格は機器により変わる。)また、スクリーンを保護する透明コーティングの GelaScreen も販売している。 [TJE]

受動的で積極的な iPhone 用スピーカー -- iPhone と第二世代 iPod touch は、外付けスピーカーを提供している(あえて「誇っている」とは言わないでおこう)が、いずれも力不足だ。といっても何も不名誉なことはない。Apple はこれらをスピーカーフォン通話のためや、せいぜい YouTube ビデオを聴くため程度以上のものとは謳っていない。けれども、もしもあなたがサウンド出力を 10 デシベルほど増やしたいけれど YAWW (Yet Another Wall Wart、またもう一つ差し込み式の電源アダプタ) はない方がいいと思うのならば、それに適した機器を私は三つ見つけた。

Ten One Design の SoundClip ($7.95) はプラスチック製の小さな機器でドックコネクタにスナップ留めし、iPhone から出るサウンドが下側の縁から拡散せずに iPhone の面と垂直向きに出てくるように向け直すことによってかなりサウンドを高める効果がある。

Griffin Technology の AirCurve ($19.95) はスタイリッシュな透明プラスチック製の部品で、その上に iPhone を設置すればサウンドの波が巧みに作られた螺旋状の通路を通り抜ける間に音量が増幅される仕組みになっている。

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最後に、ちょっと不格好な AmpLi-Phone ($29.95) はその昔の拡声器を思わせる形だが、やはりデシベル数を増してくれる。

私は AirCurve だけ静かな部屋でテストすることができたが、十分うまく働いていた。もちろん、本物の外付けスピーカーと同じサウンドを期待してはいけない。これら三つのどれがいいかと迷っている人は、Rik Myslewski が The Register にこれらをもっと詳しく比較した記事を書いているので一読されるとよい。[ACE]

最もキュートなスピーカー -- Macworld Expo には本物のスピーカーもたくさんあったが、歩いている最中に私の目を捉えたのは Grandmax の Tweakers ($39.95) だった。充電式バッテリを電源にし、スナップ留めをはずせば左右に分かれたスピーカーとなる。バッテリは USB 経由で再充電できる。このサイズにしてはサウンドもなかなか良かったし、ラップトップバッグの中にもすっきり収まりつつ、スピーカー本体とバッテリの他に引き込み式の USB およびヘッドフォンケーブルまで内部に格納できる工業デザインが気に入った。[ACE]

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僕は Mikey が好きだ -- Blue Microphones 社の賢いデザイナーやエンジニアたちは、これまでにも Snowball マイクとその小柄な弟分 Snowflake (iChat や Skype オーディオに、私はこれの方が MacBook の内蔵マイクよりもずっと好きだ) を思い付いたが、今回新たに iPod 用のマイクも出してきた。その名を Mikey と言い、ヒンジの付いたこのマイクはドックコネクタにはめ込んで、インタビューや講義を録音するために机の上で iPod の支えにして使える。三段階の設定で、音源からどれだけ離れているかに応じて感度の調整ができる。

Mikey はまだ発売されていないが、数カ月以内に手に入るということなので私は試してみるのを楽しみにしている。私の iPhone でのテストではうまく働いたが、Blue Microphones 社では iPhone がこれを適切に認識できないという欠陥を究明中だ。それが解決されるまでは、iPhone 互換性を公称する訳には行かない。[ACE]

最も汗っかきの iPhone アプリ -- 私はかなりの時間自転車に乗っているが、カンファレンス会場のフロアのど真ん中でそんなことをしたことは正直言ってこれまでなかった。今回まさにそれを MapMyRide/SMHeart Link ブースで見ることになるとは思いもしなかった。このブースには「スピナー」が設置されていて、最新の iPhone 用フィットネスアプリケーションの展示をしていた。 iSpinning はあなたの iPhone に取り付けた小型のハードウェアアダプタを使い、標準のワイヤレス・フィットネスセンサー、例えば Polar シリーズのものと接続することで、あなたの心拍数、速度、その他の統計データをモニターする。トレーニングセッションの間、あなたの目前にワークアウト用の計器盤が提示される。そこには心拍数、消費カロリー、速度、距離、パワーが表示され、あなたがどれだけシェープアップの必要があるかを _正確に_ 知らせてくれる。

ジムの外に出て自転車に乗るのが好きな人は、 iMapMyRide (あるいはそれと同様のアプリケーション、例えば Trailguru) を使えば、iPhone 内蔵の GPS によるワークアウト追跡の結果、完璧な地図とワークアウトの要約が手に入る。(ただしこちらは心拍数のモニターができない。)注意すべきは、iMapMyRide アプリケーションを使う際には iPhone が常時電源が入って動作していなければならないことで、そのためにはそれだけの時間分のバッテリ持続が必要だ。同社では長時間の走行に対応するため、自転車のハンドルに取り付けるバッテリ統合のマウントを開発中だ。[RM]

iPhone を実世界でもっと社交的に? -- これだけいろいろな iPhone アプリが出てくると、人々がそれぞれのちっぽけなハンドヘルド機の中に消滅してしまい、食事とトイレの時以外は引きこもったまま、という状態になるのではないかと心配になる。例えば、ECOcal という iPhone アプリでは、カレンダーを普通のように同じサイズの正方形の羅列として表示するのでなく、その代わりに自然界の季節を通じてもっと流れるような意味での時間として表示する。その昼間表示は、現実から、他の人との交際から私を乖離させ、ディスプレイの中に私を引きずり込んだ。けれども夜間表示は、外の世界と関連ある便利な情報を提供するために適したもののように思えた。例えば(北半球において)頭上に見える星座についての情報もあった。

私はショウの会場でとてもたくさんの iPhone が使われているのを見かけたが、多くの場合人々は iPhone を使いつつ(あるいは使うのを控えつつ)どうすれば社交的でいられるのかをよく承知しているように見えた。この iPhone の大流行と iPhone 関連の社交性とをさらに後押ししてくれたのが Google だった。Google の設けた iPhone 充電ステーションを、多くの人たちが非常に喜んで利用した。このステーションでは十数台の iPhone が同時に充電できた。そして、パワー(電源)に貪欲なギークたちに、そのまわりにたむろしておしゃべりする口実を提供したのだった。[TJE]


Macworld Expo の過去と未来への考察

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Macworld Expo の会場で知人に出会ってまず交わすのは、いつもならば「何かクールなものを見つけたかい?」という言葉だ。ところが今年は、最終日遅くなってからを除いて、私はその質問を耳にすることがなかった。その代わりに、ひっきりなしに聞こえていたのは「君はどうだい、Macworld Expo は来年もあると思うか? Apple も手を引くことになるし」といった感じのやり取りだった。念のために言っておくと、イエス、私は来年もあると思う。けれどもそうなる保証はない。なぜなら、苦境に立たされたショウの主催者たちの上に、今後 12 カ月の間どのような苦しみがさらにのしかかることになるのかは誰にも予想がつかないからだ。それでも IDG World Expo の Paul Kent は 2010 年の Macworld Expo をサンフランシスコで開催することをちゃんと予定していて、現在既に無料の予約登録受け付けが始まっている。そして、もしも Paul と彼のチームが来年のショウを成功させることができれば、Macworld Expo はきっとその後も続くだろう。

会場を歩く -- ただ、将来の Macworld Expo から手を引くという Apple の決断が会話を支配していたのは間違いないものの、それがショウのフロアやセッションに大きな暗い影を落とすということはなかった。観衆の数は昨年よりもいくぶん減った(最終的な集計は数週間後に発表される)が、これは経済の全体的な状況を考えればほとんど当然のことだろう。それに、もしも Apple の発表が例年ほど心引き付けられるものでなかったのだとすれば、それはつまり周辺住民でちょっと一日だけ立ち寄ってみようと思った人たちが多かったということではないだろうか。それは二年前の iPhone デビューに際して、また昨年の MacBook Air の登場に際して、間違いなく起こったことだった。

Apple の発表といえば、Apple のブースがいつになくきちんと整頓された感じだったのを見て、私は本来 Apple はもっと盛大なハードウェアの発表を予定していたのだが、製品の完成が間に合わなかったために取り止めにせざるを得なかったのだ、という噂が本当だったのだなと確信した。別の言葉で言えば、一ヶ月後にしか出荷できない製品を展示してもかまわないと Apple が思っていても、Steve Jobs は Apple が守れるかどうかを自分が確信できないような出荷日を約束することは好まないのだ。ここ最近のリリースの実態(真っ先に頭に浮かぶのは MobileMe だ)を思い出せば、何回もアップデートを重ねた後になってからしか Apple 本来の品質レベルに達しないということが繰り返されてきたのだから、私としても彼の判断を責めることはできない。

Apple ブースにあった空きスペースはどうやらあと一列テーブルを並べてピカピカの新機種 Mac を展示するためのものだったようだが、Moscone Center の North および South 両ホールとも、フロアスペースの大部分は埋まっていた。大手の展示者たちは South ホールの方により多く集められ、North ホールには小規模のあまり有名でない会社や、いくつかの奇妙な展示(例えば Acura[訳者注: 自動車メーカー HONDA の、米国でのブランド]は本当に巨大な、自動車の形をした iPod ケースを展示していた)などが集まった。通路は人でぎっしりのことが多かったが、どの日も夕方の終わり近くになればかなり空いてきていた。

それに、長年伝統の Netter's Dinner だけを例外として、私たちが出席したパーティーはどれも人でぎっしりで、しかもどの晩も三つか四つのパーティーが競い並ぶという状態だった。Netter's Dinner については、常連の多くが今回はショウそのものに出席できなかったため人数が減っていた。パーティーを主催することでどの程度のマーケティングの勝算があるかを計算するのは恐ろしく困難なことなので、これだけ多くのパーティーが実際に行なわれたということは、私の見るところ、Mac 企業の多くが依然として市場の状況に楽観的であることを反映しているのではないかと思う。

Macworld の未来 -- というわけで、Apple から大きな発表が何もなかったにもかかわらず、今回のショウが全般的に成功だったと言えるのであるとすれば、Macworld Expo の未来についての悲観的な見通しは果たして正しいと言えるのであろうか? 他から強制されて変わることは、いつも怖いものだ。それは間違いない。そして、Macworld は生き残るために変わらなければならない。Macworld は、過去十年間に他の多くのトレードショウを抹殺してきた運命から寛大な許しを受けたのだ。それは、その期間を通じて Apple が復活の道を辿ってきたお陰だとも言えるだろう。(ただし、その Apple もまた、ごく近年になってからも Macworld の観衆の中にいる記者たち、開発者たち、その他影響ある人々の存在を必要としてきた、いや少なくとも彼らから恩恵を受けてきたと言うことはできるだろう。)けれども今や現実を避けることはできない。そして Macworld は、ただ単に最も主要な展示者としての Apple を失うことだけでなく、他のトレードショウを打ち倒してきた変化のすべてにも、自らを順応させて変わって行かなければならない。それらの変化の中で最も特記すべきは、従来はショウの場でしか可能でなかった情報交換の大部分が、今ではインターネットを使うことによって置き換えられるという点だ。ならば、IDG は次にどこへ目を向けるべきだろうか?

IDG には多様な支持基盤がある。観衆、出展者、報道関係、講演者、それから今年までは Apple がいた。これらの支持基盤すべてがショウの健康度に重要な貢献をしているのは確かだが、これまで前もってショウに影響を与える力を持っていたのは Apple のみであった。しかし、Apple にとって良いもの(あるいは少なくとも Apple が望むもの)が、他の支持基盤にとっても良いかどうかは全然明らかなことでない。例えば、ある筋からの情報によれば Apple はいくつかの条項を命令して、例えば IDG がいくつかの出展者をショウのフロアの Gaming や iPhone セクションに集めることを禁じたという。それらの会社にとっては集まることで恩恵が受けられたかもしれないのに。

出展者たちは、ブースのスペースのために(またそれに伴うブースやスタッフ関係の費用として)相当に高額のお金を支払っている。それができる理由は、マーケティングの機会が得られること(報道記事、販売業者ミーティング、販売前の質疑応答、既存の顧客へのサポートなど)が展示によって得られることが大きい。その場で直接観衆に販売する売り上げだけで費用を賄えることはまずない。Macworld がトレードショウとして(セッションベースのカンファレンスは別にして)成功するためには、IDG としては展示によってお金に見合う十分な価値が生み出されることを確かなものにする必要がある。

(このことは、Consumer Electronics Association が最近発表したニュース、CES 2010 には新たに Apple セクションが設けられるという知らせを考慮に入れればますます重要となる。これからの Macworld Expo は、出展者たちが販売業者や報道関係者を多く含むより広範囲のテクノロジー系観衆が集まる点に魅力を感じてあちら側に誘われて行くことに対抗して行かなければならない。あちらは、ユーザーに焦点を置いたショウではないのだ。)

長年にわたって、Macworld で講演をすることの最大の意義は自分の知識をコミュニティーに寄贈し戻す、お返しの意味を持っていた。なぜなら、講演者たちが自分の努力への返礼として受け取れるのは、カンファレンスのプログラムに名前が載ったことで名声が高まること、それだけだった。けれども近年になって、IDG は講演者たちが高く評価されたと感じることができるために良い仕事をしている。快適な講演者控室には常に何か食べ物が用意され、キーノートへのアクセスも提供され、特にここ数年は、IDG がえり抜きの出展者いくつかと提携してソフトウェアやアクセサリがいっぱいに詰まった手提げバッグを用意してくれるので、講演を準備する努力のしがいがあるというものだ。このあたりのことは、もうこれ以上新たに必要なことはないと思う。

報道関係のことに関しては、IDG の役割は歴史的に、メディア用バッジと、キーノートへのアクセス、それにジャーナリストたちが仕事をするためのメディアルームをを提供することだった。でも、記者たちが Macworld で本当に望んでいるのはニュースだ。そして、Apple がキーノートでニュースを提供するのが取り止めになった以上、IDG もその裏切りに踏み込んで行く必要がある。

そして観衆は? 個人が Macworld に参加する理由は人によってさまざまだ。プロとしての自己開発のためという人も、Mac 業界の現状に対する単なる好奇心から来てみたという人もいる。けれども忘れてならない大きなことが一つある。それは、あなたがサンフランシスコ近郊に住んでいるのでない限り、必要となる航空運賃やホテル代が積み重なってあっという間に高額になることだ。だから、ここでも、IDG は十分な価値を提供できる事柄、例えばセッションのようなものにしっかりと焦点を絞り、人々が細かなことにもいちいちお金を払わされている気がするという感じを持たずに済むようにしなければならない。

実は、あまり注目されないがもう一つ、重要な支持基盤がある。それは、業界の幹部たちだ。販売業者が新製品を発表するショウを探しているにせよ。出版者が著者たちと面談しているにせよ、ウェブサイトが広告主を探しているにせよ、あるいは単に重役たちが集まって会社のビジネスをどう進めて行くか話し合うにせよ、Macworld の舞台裏では実際たくさんのことが起こっている。

以上を踏まえて、私の提案をいくつか述べてみよう。もしもあなたがさらなる提案をお持ちなら、IDG が Macworld Expo サイトに 2010 Suggestion Boxを設けているのでどうぞそちらへ:

はっきりさせておきたいが、私たち TidBITS Publishing 社としては Macworld Expo が成功しようが失敗しようが直接の利害関係は何もない。私たちは毎年出席するために数千ドルを支払って、航空運賃、ホテルの部屋代、食費なども自分持ちだ。ショウで講演などの仕事をしても、直接の報酬は一切受け取っていない。

しかしながら、出版のための情報を収集する場所として、遠隔地に住む著者たちや編集者たちと連絡を取れる機会として、スポンサーになってくれる可能性のある会社との面談の場として、仕事上の付き合いのある業界の知人たちとの結びつきを固めるために、それから何よりも自らの心を解放して新しい製品や新しいアイデアの数々に触れられるために、Macworld Expo は何物にも代え難い価値を持っている。ショウの週の火曜日の夜、5 PM から 10 PM までの間に、私はその前の三カ月間全部を合わせたよりも多くのビジネス開発関係の会話の時を持つことができた。そしてその次の日は、あるミーティングの席で、ある価値ある言葉を聞くことができ、私は何も労せずして私たちがショウの出席のためにした出費の二倍を稼ぎ出すことのできる機会をつかんだ。これらすべて(その上同様のことはもっと他にもあった)は他の場所でも起きることがあるだろうが、これほど立て続けに起こることは他ではあり得ない。

こんな風に考えればよいだろう。Macworld は、Macintosh の池に毎年投げられる、ひとつの小石に過ぎない。でも、そこから起こった波紋は広く遠くまで染み渡るのだ。


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