TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#1070/01-Apr-2011

ライター向けのツール、システムユーティリティ、来たるべき Mac OS X バージョン、非常に捕まえにくいセキュリティ脆弱性、それから The Daily の出版テクノロジーの舞台裏、何て盛り沢山な号なんだ! セキュリティ編集者の Rich Mogull は、iOS および Mac OS X 上の新たなセキュリティ脆弱性で、ほとんどすべての Apple製品に影響を及ぼすものについて警告を述べる。また Tonya Engst は来たるべき iPad 用 Microsoft Word リリースを説明しつつ、彼女の原点に立ち返る。Adam は Apple がいかにしてあの iTunes 購読サービスの噂をきっぱりと終息させようとしているのかを分析する。そして Jeff Carlson が Lioness を紹介する。Many Tricks 製のこのユーティリティは、Mac OS X Lion に新設されるオートセーブのテクノロジーに統合しつつこれを拡張するように作られている。最後にもう一つ、Michael Cohen がレビューするのは Literature & Latte 製のユーティリティで、同社の人気のワードプロセッサ Scrivener を,切実に休息を必要としているライターのために拡張するものだ。

記事:

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雌ライオンが正気をオートセーブ

  文: Jeff Carlson <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

来たるべき Mac OS X Lion に施される数多くの変更のうち、最も歓迎すべきものの一つがオートセーブ機能、つまりあなたが作業中の書類をアプリケーションが自動的に保存してくれる機能だ。これは、必ずしも新しい機能ではない。例えば iMovie のようなプログラムはずっと以前からこれをしてきている。けれども、システムレベルで書類の自動的な保存を提供するのは今回が初めてだ。私たちとしては、編集作業の結果がアプリケーションのクラッシュによって失われなくなることにより、何千時間分もの生産性が救われることと期待したい。

しかしながら、この機能にはある問題が伴う。私たちのように、書類を保存するために数分に一回 Command-S を押すことが身に付いてしまっている人たちはどうなるのだろうか? きっと私たちは、毎日何十回、いやひょっとしたら何百回とシステムビープ音を聞かされてひどくうんざりしてしまうのではないか? 幸いにも、この不都合に悩まされる人は私だけではない。以前 Macworld で、現在は Many Tricks で働いている Rob Griffiths が、Lioness のリリースを発表してくれた。これは、反射的にしてしまう動作をより生産的かつ楽しめることに振り向けてくれるユーティリティだ。(彼らの謳い文句が傑作だ:「今どき手で保存するなんてガォーもの (roarity) さ。」)

Lioness はキー組み合わせ Command-S を傍受して、それに対して何らかの動作をする。無料のデモ版では、四つのサウンドのうちから選んで聴くことができる。雌ライオンの吠え声、赤ちゃんの笑い声、"Do'h!" と驚く男の声、それと穏やかな森のそよ風だ。また、Lioness がランダムにサウンドを選ぶよう設定することもできる。さらに、あなたが何回 Command-S 押したかを示すカウンターを表示した Growl 通知も現われる。

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現在のところ、Lioness は無料のデモモードのみの形で入手できる。数ヵ月後に Mac OS X Lion がリリースされた後になってから、Many Tricks ではこのユーティリティの Paranoid モード(Griffiths によれば内輪では "Kissell Run" と呼ばれているという)をアプリ内購入の形で提供する予定だ。(価格は未定。)この Paranoid モードが有効になっていると、Command-S を押せばいくつかのことが起こる: まず、現在アクティブな書類のコピーが自動的に Finder であなたの Dropbox フォルダの中に作られる。そして、ファイルが無事コピーされたことと、どの程度の量のデータロスの危険が避けられたかとを表示した Growl 通知が出る。それから、再び最前面のアプリケーションにコントロールが返され、あなたは仕事を続けられるようになる。

あなたが Dropbox アカウントを持っていない場合は、Paranoid モードが他の同様のバックアップツール、CrashPlan、Backblaze、Carbonite、iBackup、JungleDisk、MobileMe、Mozy、MyOtherDrive、または SugarSync を呼び出すよう設定することもできる。

デモ版の Lioness が、現在 Many Tricks から無料のダウンロードで入手できる。有料モードは Mac OS X Lion の出荷後間もなく利用できるようになる予定で、Mac App Store にも登場するはずだ。このソフトウェアを数時間ほど使ってみた今、Lioness こそ私のデータの中に深々とその牙を食い込ませて決して放さないアプリだという気がしている。

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Microsoft Word 5.1 が復活... iPad 上で

  文:Tonya Engst <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

その昔、何人かの Microsoft 開発者たちが協力して作業プロジェクトを作り、Macintosh 版 Microsoft Word 5.1 の「カーボン化」を目指したことがある。Microsoft Word 5.1 が Mac OS X の下でもネイティブに走るように、ということだ。(2003 年 4 月 1 日の記事“Microsoft Word 5.1 が Mac OS X 版で再登場”参照。)長年の Word ユーザーたちの多くは、Word 6 がリリースされて以後 Word がその栄光を取り戻したことは一度もなかったと感じていた。Word 6 は以前にもまして Windows 風に作られてしまったこと、Microsoft の IntelliSense テクノロジーの初期の実装が組み込まれてしまったことなどの問題点を抱えていた。(1999 年 8 月 15 日の記事 "The Word on Word 6" 参照。)Word 5.1 を Mac OS X にもたらそうとしてこのプロジェクトは、より新しい Mac でも Word 5.1 が使えるようにしようという意図の下に生まれたものであった。

残念なことに、そのカーボン化プロジェクトはスパゲッティ様コードの絡まりに行き詰まり、製品リリースにまでは至らなかった。幸いにも、その失敗から多くを学ぶことで、プロジェクトは今また軌道に乗り、今回は Word 5 を iPad アプリとしてリリースすることを目指す運びとなった。

どうやら、Microsoft は iPad 用のワードプロセッサを作る可能性を検討するうちに、iOS 4 のコードベース(と使える機能の範囲)が比較的コンパクトである点を考えれば、きちんと機能する製品を出荷するためには Word 5 を移植するのがベストの選択であると悟ったのであろう。そして、同社がいくつかのフォーカスグループに対して製品の説明をした際、iPad 用 Word 5.1 は実際に満場の喝采を受けた。(現時点では、Microsoft はより小さなスクリーンの iOS 機器に向けたバージョンを考慮していないが、顧客の要求さえあればきっと考慮されるであろうという明確な返事を私は受けた。)

私は自分の iPad でこのアプリのベータ版を走らせてみたが、100 ページを超える書類であっても安定して動き、便利に使えるという感じを受けた。その動作は Word 5.1 の熱狂的なファンが期待する通りのもので、ルーラをタップすることもでき、キーボードショートカットをカスタマイズして Apple キーボードドックの一番上の行に並んだキーを使えるようにすることもできる。

大きな機能で欠けているものが一つと、胸がワクワクするような変更点が一つある。欠けている機能としては、iOS ではアプリ同士のコミュニケーションができないことにより、Publish and Subscribe 機能がなくなっている。けれども、Microsoft の古色蒼然たる OLE (object linking and embedding) が、現代版として蘇った。その iPad の上で、_また_ ローカルな Wi-Fi ネットワーク経由で、異なる Word 5 書類同士の間で OLE が働くようになる。これにより、他の Office 書類から取ってきたコンテンツをあなたの Word 書類の中へワイヤレスで挿入できるようになる。もしもあなたの iPad をローカルネットワークから切り離したければ、オープンソースの Gears (旧名 Google Gears) プロジェクトから拝借してきた一連のコードを使ってそれも実現できる。

バージョン 1.0 リリースの iPad 用 Word 5.1 が、App Store での販売に向け Apple の認可を受けるべく最近提出された。販売開始となれば、小売価格は $41.99 となる。

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The Daily の舞台裏

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Rupert Murdoch による iPad 専用出版 The Daily ほど注目を集めたものは他にまずなかった。The Daily に対してはインターネットのいたる所から膨大な量の紹介記事や批判記事が出現し、TidBITS も例外ではなかった。(2011 年 2 月 3 日の記事“なぜ The Daily はこんなに古臭いのか”参照。)

それでも、The Daily がスタートしてからほぼ二ヵ月経った今、あの 3 千万ドルの開発資金と毎週 50 万ドルとも言われる予算とがいったいどのように使われているのか、垣間見ることができるようになったのは素晴らしいことだ。これは、出版における透明性に対する The Daily のコミットメントのあらわれと言えるだろう。このページは、最先端技術を駆使した The Daily ニュース編集室で毎日使用されているテクノロジーが見て取れるばかりでなく、毎日の新しいニュースコンテンツを作り出すために The Daily のスタッフたちがどのような手順を用いているかまで示されている。(ここのウェブページのレイアウトがシンプルであることに惑わされてはいけない。彼らは、iPad 上のプレゼンテーションのためには、遥かに高度なものを再現しているのだから。そちらには写真のスライドショーやビデオインタビューなどもある。)

一言で言えば、私は The Daily が達成したものに畏敬の念に似た気持ちを抱いている。現代的な出版がどんな風に為されているかに興味ある方には、ぜひ The Daily の物語を一読してみられるようお勧めする。

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iPhone と iPad にテキスト脆弱性が発見される

  文: Rich Mogull <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

あるセキュリティ研究者が本日、新たな脆弱性に関する詳細情報を発表した。この脆弱性はほとんどすべての Apple 製品のユーザーに深刻な影響を及ぼすものであるが、特に iPhone と iPad では深刻度が大きい。この欠陥はすべてのバージョンの iOS および Mac OS X でユーザーに影響を与えるものであり、最新の MacBook Air 各機種も例外ではない。この欠陥は Amazon Kindle をはじめ、他の多くの電子ブックリーダーにも同様に影響を与えるとみられる。ただし Apple TV は影響を受けない。

この研究者、Applied Conceptual Defense の Carl Noevil によれば、文字で書かれた文章を表示することのできるあらゆる機器においてソーシャルエンジニアリング攻撃を受ける可能性が存在し、その製品のユーザーに深刻な影響を与える可能性があるとのことだ。いったんその機器が攻撃を受ければ、影響を受けた文章題材のコピーを通じて攻撃は自己増殖する。Applied Conceptual Defense では、今回新たに発見されたこの脆弱性に対する保護のためのさまざまのフィルタリングテクノロジーを販売している。彼らのセキュリティ勧告書には次のように書かれている:

「これは、私たちがこれまでに発見した中で最も深刻な脆弱性の一つです。この欠陥はほとんどあらゆる Apple 製品に影響を与えることから、私たちは既に Apple に対し警告を送っていますが、Apple は未だに何のパッチも提供しておらず、顧客に対する通知も行なっていません。そこで私たちはこの発見を広く公開して、修正が出されるまでの間ユーザーが自らを保護することができるようにしたのです。私たちの現行製品のユーザーはフルに保護されています。」

私たちが Noevil に対してさらなる情報を求めてみたところ、彼は次のような返事を送ってきた:

「私たちは自分たちが発見したことの持つ可能性の多様さに、我が目を疑う思いでした。テストを試みたほとんどすべての機器とシステムを、完璧に攻撃することができました。私たちは主として Apple に集中して研究をしていますが、テキストを表示できるものならばどのような機器でもこの脆弱性の影響を受けることを証明することができました。さらに、クロスプラットフォームの攻撃を組み立てることも非常に簡単です。この脆弱性の深刻度を考えれば、Apple がその顧客をもっとよく保護していないことは衝撃的です。完全に無責任だと言えるでしょう。」

悪意ある順序に文字を組み合わせることによって、攻撃者は不和を生じさせる考えやデマ、偽情報を広め、それを読む者の中に神経学的なバッファオーバーフローを生じさせたり、あるいはユーザーに対して現実の感情的な反応を引き起こしたりできる可能性がある。極端なケースでは、攻撃が認知的不協和による無力状態を作り出すこともあり得る。自動車を運転中にテキストを表示可能な機器が働いていた場合、この種の攻撃によって実際に肉体的な障害に結び付いたという実例もある。

多くのセキュリティ脆弱性とは異なり、この種の攻撃は現実世界における大規模なダメージに結び付くことさえある。また、攻撃は現代のデジタルコミュニケーションメディアによっても、また物理的なメディアによっても伝達される。研究者たちはブログ記事で次のように述べている:

「私たちはまだ歴史的な研究情報を収集中の段階だが、現時点で言えることは、この脆弱性が非常に古い昔から存在し続けてきたという点だ。この脆弱性の結果として非常に悪い意思決定がなされたり、感情的な苦悩が原因となって政治的な混乱が生まれたりした例は、歴史的にも枚挙にいとまがない。例えばアメリカ独立戦争もこの脆弱性の変種による結果であったし、私たちの調査によればロシア革命でさえその準備段階でこの脆弱性が一定の役割を果たしたかもしれない。また、Wikileaks も、それ自体この脆弱性を突くためにデザインされたボットであると思われる兆候があるが、この点については私たちもまだすべてのコードを逆コンパイルし終えたわけではない。」

研究者たちによれば、彼らが Apple に対象を絞っているのは同社の人気の高さと同社の製品の急激な広がりによるのだという。将来は Amazon の Kindle、Barnes & Noble の Nook その他、たやすく報道記者たちの注目を集める各種のトレンディーな製品についても、さらなる研究を進めたいと計画している。電子的機器以外にも、この脆弱性は印刷された書籍や、雑誌、新聞、さらには広告看板などにさえ影響を与えることができる。

Applied Conceptual Defense によれば、同社の販売する ViewBlock テキストフィルタリングテクノロジーを用いているユーザーはこの脆弱性から影響を受けることがないという。また、私たちがオンラインでのコメントで目にしたところによれば、Joo Janta 200 Super-Chromatic Peril Sensitive Sunglasses (超色彩的危機対策サングラス) をかけている人も保護されるのだという。

Apple にコメントを求めたが、反応は得られなかった。

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Apple、購読サービスと購読ベースの Mac を提供

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

去年、長年にわたり Apple を巡って流れていた噂のうち二つが、現実となった。Beatles の iTunes Store 登場と、Verizon 版の iPhone だ。これらの噂がこんなにも長い間生き残っていたという事実こそ、それらがどれほど道理にかなったことであったかの証明と言える。当然 Verizon 版の iPhone はあるべきだし、当然 The Beatles は iTunes にあるべきだ、というわけだ。けれども、それらが実現されるまでには、Apple があらゆるライセンス上の問題と技術的な困難を乗り越える必要があった。

来年の今頃までには、さらにもう一つの長らく続いた噂が現実のものとなるはずだ。それが、iTunes 購読だ。iTunes Store がスタートして以来、Apple がアラカルト方式の販売の他に購読のオプションも提供するのではないかという臆測がずっと流れていた。その方向への小さな一歩は iTunes Store での映画とテレビ番組のレンタルという形で実現していたものの、それは本当のゴールへ向けての単なるウォーミングアップに過ぎなかった。すべてを網羅したフルの購読サービスは、Apple Plan という暫定的な名前で呼ばれる。

簡単に言えば、この Apple Plan (仮称) はあなたの Mac または iOS 機器であなたがするすべてのことを、月額料金でカバーする。そして、ここで「すべて」と言ったのは、本当にすべてのことだ。Apple Plan には従量制の 4G モバイルブロードバンドプランも含まれ、それを使って音楽や、映画、テレビ番組、オーディオブック、さらには印刷された書籍さえも、ストリームできる。基本的に、iTunes Store や iBookstore で入手可能なものはすべてこれに含まれる。でもそれだけではない。App Store や Mac App Store から好きなアプリをダウンロードして使うこともできる。(ただしこれは、そのアプリの開発者がそのアプリについて単純な購入の代わりにレンタルもできることを承認した場合に限られる。)

この Apple Plan の料金は決して安いものではない。なぜなら、その中にあなたが現在持っている可能性のあるインターネットサービス (例えば月額 $50)、携帯電話データプランも一つ二つ (別途月額 $15 から $60)、Netflix (月額 $10)、Pandora あるいは Rdio (月額 $3 から $10)、Audible (月額 $15 から $23)、Booksfree (月額 $14 から $50) なども含まれ得るからだ。ある情報筋によれば、Apple Plan の料金はまだ決定されていないけれども、おそらく月額 $200 から $250 程度になるのではないかという。また、Apple は Apple Plan の個々のユーザーが何を購読するか選べるようにするかもしれない。この点もまだ決まっていないが、もしそうなれば顧客が従量制 4G データプランを既存のブロードバンドケーブルまたは DSL アクセスに切り替えて使うこともできるようになるだろう。

Apple Plan はそれ自体が非常に斬新なものだが、Apple はその点をさらにもっと突き詰めようとしている。iPhone と iPad の成功から学んだこととも言えるだろう。ユーザーの観点からは、ひっきりなしにアップグレードのための料金を支払わなければならないのは非常に煩わしい。また、バックアップをしたり、新しいコンピュータに移ったりするのはさらにもっと厄介なことだ。そして、ビジネスの観点からは、Apple は多少のハードウェアの売り上げ利益を捨てても、継続的な購読料収益があれば御の字だろう。

そこで、来年になれば新しい MacBook Air 風のマシンがデビューする(ひょっとしたら年末のホリデー商戦に間に合うように出るかもしれない)が、そのマシンはハードウェアスペックとしては取り立てて珍しいものではない(ただし 4G ワイヤレスチップセットが搭載されることは特記すべきかもしれない)が、これが他と違うのは $99 という価格だ。(未だに Windows XP の走る古い PC に依存している人たちもきっと目を丸くするだろう。)安価な携帯電話と同じことだ。ハードウェアの価格は安いかもしれないが、Apple Plan の二年間契約を購入することが必要となる。Apple は、そこで販売価格の違いを取り戻すわけだ。この点は間違いなくオンラインで膨大な議論を巻き起こすに違いないが、この Mac には Mac App Store 経由でなければソフトウェアをインストールすることができない。Apple としても、安い販売価格を正当化するためにはあらゆるソフトウェア収益から一定の取り分を得なければならないのだ。

それから、これもまた議論を巻き起こすに違いないのが、Apple Plan における Apple の収益取り分だ。Apple はプラットフォーム全体と、Apple Plan のために介在すべき iTunes アカウントとの両方をコントロールしているので、バンド幅の使用料金や、ハードウェアのコストをカバーするためのいくらかの基本額を差し引いた毎月の収入は、完全に使用時間によって計算することができ、そこに Apple の従来通り 70 対 30 の分割が適用される。購読中の項目のうちどれがアクティブに使われているかは、バックグラウンドで走るプロセスによって追跡がなされる。

例えば、仮に Apple Plan の月額料金がバンド幅料金を差し引いて $250 であったとして、Apple がそのうち $100 をハードウェアの分として差し引いたとしよう。(当然ながら、もしもあなたが既存のマシンで使うために Apple Plan を購入すれば、ハードウェアの分を支払う必要はない。)残りの $150 のうち、Apple が 30 パーセントを取り、残りの 70 パーセントはその月間にあなたがそれぞれのアプリを使い、本を読み、音楽を聴き、映画を観た、それぞれの時間数に応じて分配される。さらにこの計算に入ってくるのが個々の項目ごとの「定価」だ。つまり、あなたが $9.99 の本を読みながら一時間過ごせば、その本の出版者があなたの月額料金のうちから得る額は、あなたが $1.99 のテレビ番組を観た場合の額よりも大きいものとなる。要するにあなたは、あなたが注意を向けていたものに対して、個々にそれに応じた料金を支払うのだ。ただし、バックグラウンドで再生されるメディアはその唯一の例外となる。

最終的な価格決定がどれほど難しいか、もうお分かりだろう。Apple としては Apple Plan の価格をできる限り手頃なものに抑えたいのだが、映画会社、楽曲アーティスト、書籍の出版者、アプリの開発者などがすべてこの仕組みを受け入れてくれるだけの十分な金額を彼らにも保証しなければならない。とはいえ、Apple は iTunes Store と iBookstore のすべてのコンテンツがスタート時点ですべて提供できるようにしたいと思っているし、App Store と Mac App Store についても大部分のコンテンツが対応するようにと願っている。けれども顧客側の立場からは、もしもこの Apple Plan が十分たくさんの他のサービスをその内に取り込むことができるのならば、それはすなわちあらゆるものが一つのサービスで済むというシンプルさが実現することを意味していて、音楽も、ビデオも、本も、アプリもすべて、項目ごと個別の価格なんか全く気にせずに,全部一つの請求書にまとめるられるという、非常に魅力的な状況となることだろう。

最後に一つ付け加えると、はたして一つの会社が私たちの文化的生活全体をこれほどに支配してよいのだろうかという問題は、間違いなく嵐のような論争を呼び起こすことだろう。つい最近 Google Books の和解案が却下されたことも(2011 年 3 月 24 日の記事“Google Books 和解案を判事が承認拒否”参照)文化批評家やコメンテーターたちの怒りを静める役には一切立たないだろう。けれども、もしも Apple の過去十年間の実績が何かを示唆するとすれば、きっとこの Apple Plan も大ヒットとなり、この会社の優位性を引き続き保証するものとなって行くのではないだろうか。

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そうしたくないと思った時には Bartleby

  文: Michael E. Cohen <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

作家が壁に行き当たる (writer's block) という言葉は、誰でも一度は聞いたことがあるだろう。どんなライターでも一度は経験する、どうしても言葉が出てこないという、心が弱ったような状態のことだ。Gene Fowler が、この状態のことを巧みに形容している。いわく、「書くことは簡単だ。ただ、まっさらな紙をじっと眺めて、あなたの額に血の汗がしたたるまで待てばよいだけなのだから。」しかし、これとは正反対の、けれども本物の、大きな問題があることを自覚している人は少ない。こちらもまた心が弱った状態の一つで、作家の活動過熱 (writer's overdrive) だ。

でも、Take Control の編集長 Tonya Engst は、この問題にをあまりにもよく知り過ぎている。少なくとも彼女が担当した著者たちの一人は過活動状態を経験したことがあって、そのため彼女は彼の本の一つを制作している真っ最中に彼から別の本の原稿と、さらにその後に続く本の詳細な概要までも届く、という事態に直面させられた。彼女はこう叫んだものだ。「私には経営すべきビジネスもあるし、育てるべき子供もいるし、ランニングシューズを履かせ続けるべき夫もいます。この人一人の個人的召使いでいる時間はないのです。彼の書く本がどんなに優れたものであったとしても!」これこそが、活発過ぎるその物書きに、彼女がLiterature & Latte の最新の執筆補助ツール Bartleby を喜んで買い与えた理由だった。

同社の旗艦ソフトウェア Scrivener は評判の良い多目的のコンテンツ生成ツールだが、この上に作られた Bartleby は、言ってみればコンテンツ生成調速機だ。Scrivener のアドオンとして働く Bartleby は、一瞬一瞬ライターの生産性を監視して、生産性が語漏症の段階に至り始めたとみられる場合は、助けになる警告メッセージと気分転換とを提供してくれる。

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Bartleby は、注意深く調整された "Interocitor Engine" と呼ばれるアルゴリズムを複雑に組み合わせたものによって働く。この Interocitor は、書き込まれる速度と内容の品質の双方を評価する。品質の評価は、現在のセッションでの仕事の内容と、その著者の過去の作品ならびに他のライターによる同種の内容を扱った定評ある作品を含めたデータベースとの比較によっている。評価の結果のマトリクスがこのプログラムの呼ぶところの「危険ゾーン」に入り込めば、Bartleby は即座に先制的行動に移る。それは、そのライターの過去の挙動パターンを学習した結果に依存するのだが、そのライターに速度を緩めるよう具体的な警告の文章を出すこともあるし、あるいはもっと巧妙かつクリエイティブな気分転換措置となることもある。

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私はこの記事を書きながら Bartleby を使ってみたが、このソフトウェアは宣伝文句通り、私が記事の冒頭の部分の書き出しに苦闘していた間は出しゃばらずにおとなしく控えていたけれども、私の頭の中でクリエイティブな爆発が起こって言葉が私のタイプできる速度よりも速く湧き出してきたとたんに、突如素早く働き出した。最初のうち Bartleby はいくつか丁重な注意の言葉を並べて私に速度を緩めるよう言ってきたが、私がそれを無視し続けていたところ、Bartleby はいきなり邪魔を...!! そうそう、ちょっと待って、Bartleby がたった今、イルカに乗ったネコが歌を歌う、素敵なウェブページを見つけてくれたところだ! すぐ戻るから (BRB)!

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[訳注: お楽しみいただけましたか? 念のため申し添えますが、この号、TidBITS#1070/01-Apr-2011 の すべての記事は、あくまでもエイプリルフールの日のみ、4 月 1 日の、一日限りの内容となっておりますので、あしからず!]