TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#1082/27-Jun-2011

今週は新しいリリースと近日登場予定のリリースに焦点を当てよう。リリースされたばかりの Mac OS X 10.6.8、Final Cut Pro X、Firefox 5.0 について詳しくお伝えするとともに、MobileMe から iCloud への移行についてさらなる疑問への答をお届けする。先日 Bloomsday の記念日があったのに敬意を表し、Michael Cohen が電子ブックの草分け時代の思い出を語る。Jeff Porten は CFP 2011 カンファレンス会場からティーンエイジャーたちのプライバシーとデータ保持の問題について報告する。そして Marshall Clow が SuperDrive のない MacBook Pro で壊れたディスクを復旧させることに成功した体験談を語る。今週注目すべきソフトウェアリリースは、Security Update 2011-004 (Leopard/Leopard Server)、ClamXav 2.2、1Password 3.6、Flash Player 10.3.181.26、PDFpen および PDFpenPro 5.4、Microsoft Office 2011 14.1.2, 2008 12.3.0, 2004 11.6.4、Acrobat Pro 10.1, 9.4.5, 8.3、Evernote 2.2.1、それに Audio Hijack Pro 2.9.12 だ。

記事:

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Mac OS X 10.6.8 アップデートが Lion に備える

  文: Michael E. Cohen <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Mac OS X 10.7 Lion の咆哮が遠くから響く中で、Apple は Mac OS X 10.6.8 Update をリリースした。このリリースはいくつかのバグに対処するとともに、ネットワーキング関係の機能を改善し、セキュリティの改善を追加し、間近に迫った Lion のリリースに向けて道を整えている。

今回のアップデートで解消されたバグとして Apple が挙げている中に、リンクされたサポート記事によれば、以下のものがある:

また、このアップデートでは raw 画像のサポートをいくつかのデジタルカメラに追加している。

ネットワーキング関係の機能としては、このアップデートで VPN の信頼性が向上するとともに、IPv4 アドレスのプールが干上がる事態が切迫しているのを受けて非常に重要となる新しいインターネットプロトコル IPv6 のサポートを改善している。また、これは Apple のリリースノートには載っていないが、寄稿編集者 Mark Anbinder によれば 10.6.8 は Microsoft Exchange Server 2010 との互換性に関する重大な問題を解決しているとのことで、この問題のために Exchange Server 2007 から移行できていなかった企業にとって朗報だろう。

この種のアップデートではいつもそうだが、セキュリティ関係で対処の施された個所も数え切れないほどある。App Store (一部の環境でパスワードがローカルファイルに記録される可能性があった)、ATS、証明書信頼ポリシー、CoreFoundation、CoreGraphics、FTP サーバ、ImageIO、International Components for Unicode、カーネル、MobileMe、MySQL、OpenSSL、パッチ、Quick Look、QuickTime、servermgrd、Subversion における脆弱性が修正されている。また、Mac OS X 10.6.8 には現在までにリリースされたすべてのセキュリティ改善が盛り込まれており、MacDefender マルウェアの既知の変種すべてを識別して除去できる。

10.6.7 におけるフォント関係の問題点に悩まされていた人も(そのためやむを得ず 10.6.6 のままにしていた人も;2011 年 4 月 26 日の記事“アップル、Snow Leopard Font Update をリリース”参照)今回の 10.6.8 アップデートには Mac OS X v10.6.7 Snow Leopard Font Update で提供された修正すべてが含まれている。

けれども 10.6.8 で最も興味をそそる機能は、Apple がサポート書類で一番に挙げたもの、つまり「Mac App Store で Mac OS X Lion にアップグレードするための Mac App Store の機能強化」だ。具体的に何が強化されたのかはよく分からないが、Lion がリリースされた際に既存の Mac OS X ユーザーがそれを入手できる道が Mac App Store のみであることを考えれば、数ギガバイトにもなるその購入とダウンロードの作業をできる限りスムーズなものにするために Apple が努力しているのは嬉しいことだ。

いつもと同じく、Apple はあなたがアップデートを適用する前にあらかじめシステムを Time Machine でバックアップしておくことを勧めている。また、ソフトウェア・アップデート経由で提供されるアップデートのサイズが、あなたの使っている Mac に応じていろいろ違ってくることにも触れている。

アップデートを手動でインストールしたい人のために、以下のそれぞれのバージョンもある:

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アップルが、MobileMe から iCloud への移行詳細を説明

  文: TidBITS Staff <[email protected]>
  訳: 柳下 知昭 <tyagishi@gmail.com>

アップルが新しい iCloud サービスを発表したとき、MobileMe の機能のいくつかの未来があいまいになった。現在では、アップルは、MobileMe の移行の詳細を説明したページを掲載している。数日前に記事"MobileMe から iCloud への移行通知が混乱を招く"(2011 年 6 月 13 日付)で私たちは非常にたくさんの質問をし、読者たちもさらに多くの質問を投げかけた。では、アップルがそれらの質問に対して、これまでのところどんな回答をしているのか見てみよう。

移行を説明する文章で、アップルは、2 種類の変更を区別している、既存の MobileMe アカウントを使用して iCould にサインアップするときに有効になるものと、MobileMe が停止される 2012 年 6 月 30 日まで影響のないものの 2 種類である。

我々は、これらの質問に対する回答の情報収集を続ける。

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Firefox 5 が内部的な改良をもたらす

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

通常、メジャーリリース、つまりバージョン番号の最初の数字が変わるリリースでは、ユーザーがどうしてもアップグレードしたいと思うような、大きな機能が付いてくるものだ。けれども Firefox 5.0 のリリースは、Firefox 4.0 がインターネットに登場した時(2011 年 4 月 2 日の記事“Firefox 4 は良くなったが、驚くほどではない”参照)以来三ヵ月も経っていないうちに登場したものだが、ここにはその種の目玉機能が見当たらない。だから、Firefox 5.0 がメジャーな新機能を提供しないのだとすれば、いったいなぜ Mozilla はこんなに大きくバージョン番号を昇格させたのだろうか?

もちろん、本当の理由は決して明かされないだろう。けれども、そこにはおそらくいくつもの、相互に影響し合う理由があったと思われる。まず第一に、Microsoft の Internet Explorer がバージョン 9 に上がったのを受けて、Mozilla としても Firefox のバージョン番号をできるだけ早く上げて、こちらも成熟度を上げたという印象を与えたかったのかもしれない。第二に、現在 Mozilla はより急速なリリース開発サイクルに移行しつつある。ただ、私としてはそれがバージョン番号の急騰に結び付かねばならない固有の理由はないと思うのだが。そして最後に、今回のメジャーな変更点の一つとして Firefox のインターフェイスの中に Do Not Track 機能のサポートがより明確に現われるようになった点がある。Mozilla としては、5.0 というバージョン番号を打ち出すことで、行動追跡を利用する広告ネットワークやその他のサイトに対し、Do Not Track ヘッダに対応するようにという圧力を増そうという意思を表明したのだとも考えられる。(Do Not Track 機能について詳しくは、2011 年 6 月 14 日の記事“CFP 2011: "Do Not Track" 論争”参照。)

Do Not Track ヘッダ送信の設定を見つけやすいところへ移動した(Privacy パネルに移った)こと以外は、Firefox 5 リリースノートに書かれていることで大多数のユーザーが気付くようなものは少ない。いくらかのパフォーマンス向上があり、CSS アニメーションに対応し、標準への対応を強化している。一部の言語でスペルチェックが改善され、WebGL コンテンツがクロスドメインテクスチャを読み込めなくなり、いくつかのセキュリティの問題も修正している。それから... いや、だいたいそれで全部だ。(もちろん、変更点の完全なリストには 1000 個近くにのぼる項目がリストされているけれど、その大多数はユーザーにとって理解することすらできないもので、変わったことに気付くことなどありそうもないものばかりだ。)

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だからもう一度言うと、これがバージョン 5.0 なのか? もちろんこのリリースに悪いところなどないし、私のマシンで問題なく動作しているように見える。でも、やはり私には、本当は 4.1 とするべきだったんじゃないかという気がしてならない。

Firefox 5.0 は、Mozilla のサイトからダウンロードすれば 27.8 MB だ。ただし、Firefox 4.0.1 の Check for Updates メカニズム (Firefox > About Firefox > Check for Updates を選ぶ) を通じて入手すればたったの 9.2 MB だ。Firefox 4.0 と同様、5.0 も Mac OS X 10.5 Leopard かそれ以降を要するが、走るのは Intel ベースの Mac のみだ。もしもあなたが PowerPC ベースの Mac を使っているなら、 TenFourFox 5 を入手すればよい。こちらは Firefox 5.0 とほとんど同一のコードを使っている。

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CFP 2011: ティーンとデータ保持

  文: Jeff Porten <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Computers, Freedom, and Privacy 2011 カンファレンス初日に Do Not Track ヘッダに関する議論を聴いてから(2011 年 6 月 14 日の記事“CFP 2011: "CFP 2011: "Do Not Track" 論争”参照)私はその後他の講演二つも何とか座って聴くことができた。その一つはティーンエイジャーたちのプライバシーに対する態度に関するもので、ティーンたちがまるきり無知なわけではないということが実感できて楽しめた。彼らは、自分たちの生活の中で公的な部分と私的な部分とを分けるため(私たちの持つものとは違っていたとしても)しっかりとした信念を持っている。もう一つはデータ保持に関するもので、これは CFP カンファレンスの話題の中でも、最も分別ある私たちでさえアルミホイル帽子を作りたい気持ちにさせてしまう類いのものの一つだ。

ティーンとプライバシー -- 一つ目の講演では、Microsoft Research の Danah Boyd が、ティーンエイジャーによる Facebook の使用に関する民族学的調査の結果を発表した。大人(とりわけ両親)は「今どきの子供たち」が個人のプライバシーなど考えもせず Facebook にすべてをオンラインに出させっぱなしにしているのではないかと心配する。けれども彼女の調査結果によれば、ティーンエイジャーたちは公共的、半公共的、個人的それぞれの空間の区別を敏感に認識している。Facebook はティーンたちが半公共的空間に入ることを許される数少ない場の一つであるけれども、ティーンたちはそのような場所に当てはまる文化基準に関し非常に大きな思慮と努力を注ぎ込んでいる。

例えば、Facebook への投稿やコメントは、お互いに実生活である程度知り合っている者たち同士による半公共的な領域を作り出すために使われる。オンラインの空間における基準や社会的ルールは、主としてオフラインでの豊富な議論を通じて内輪で交渉される。ルールに違反するのはたいてい仲間うちの者ではなく、親たちや教師たちで Facebook を遠隔監視の目的で使っている者たちだ。Boyd がインタビューした一人の女子生徒は、私の Facebook 投稿にコメントするのは止めて欲しいと母親に必死で頼んだと言っていた。大人が登場することで、友だちからのコメントが追い払われてしまったからだ。でも、彼女の場合は母親と気心が知れていたので、彼女の活動に母親がコメントしたければプライベートメッセージを送ってもらうようにした。

Boyd の調査結果は、他にもよくある通説をいくつか払拭している。例えば、ティーンによるセクスティング[訳者注: 自分のプライベートな画像を他人に送信する行為]の「流行」だ。インタビューを受けたティーンたちの多くが、初めてセクスティングにさらされる経験をしたのは親の携帯電話を借りた時だったと言っている。大人たちが送り合う文章や画像を目にして、こんなもの見たくなかったと思ったというのだ。

ティーンエイジャーがオンラインのプライバシーをどう考えているかの調査についてもっと詳しいことを知りたければ、Boyd の論文草稿 "Social Privacy in Networked Publics: Teens’ Attitudes, Practices, and Strategies" (PDF) をお読み頂きたい。

データ保持のポリシー -- iPhone があなたの最近の位置情報を保存しているらしいという騒動(2011 年 4 月 27 日の記事“Apple、位置情報に関する論争の問題に応える”参照)に、あなたは不安を感じただろうか? もしそうなら、ドイツ Green Party (緑の党) の役員 Malte Spitz に関するデータを Deutsche Telekom 社が収集したことで当人が同社に対する訴訟を起こし、さらに情報を出版用に Zeit Online へ送ったという騒ぎについては、もう聞きたくもないと思うだろう。

実は、すべての携帯電話会社は、情報をあなたに転送するための必要上あなたの携帯電話に関する位置情報を保有する必要がある。多くの携帯電話会社が、その情報記録をかなり長い期間保存し続ける。欧州連合 (EU) においては、これが法律により義務付けられている。2006 年の EU 指示は、電気通信会社および電子メールプロバイダが(データの性質に応じて)6 から 24 ヵ月の期間さまざまの記録を保存するよう義務付けている。米国においては、データ保持を義務付ける連邦法はなく、主として個々の会社のポリシーに任せられている。ただし、現在下院において審議中の法案があって、児童ポルノ防止の手段として(少なくとも法案の起草者はそう主張しているが)インターネットのデータを 18 ヵ月間保存しなければならないとしている。

注意すべきは、米国における上記のような規制が公に知られた法律のみに言及していることだ。PATRIOT Act (愛国者法)[訳者注: 同時多発テロ後に成立した反テロ法]の下にどこまでの範囲の情報が記録されているのかは未だに明らかとはなっていないし、そのような活動が何らかの監視を受けているのかどうかさえも定かでない。だから選択肢は、巨大な電気通信複合企業体があなたに関する大量のデータを持つか、それとも巨大な政府がそれを持つかのどちらかだ。いや、その両方になる可能性も高い。

そして、いったいなぜそんなことが問題になるのかとお考えの方のために言い添えると、MIT Media Lab の調査結果によれば、あなたの最近のデータへのアクセスから、あなたの今後 12 時間にわたる 将来の 活動、例えばあなたが誰と会うか、どこへ行くか、何をするか、といったことが、80 から 95 パーセントの確率で予想できてしまうという。つまり、AT&T とか NSA (米国国家安全保障局) とかいったところが、あなたの行動をあらかじめ知っているかもしれない。これはちょっと気味の悪いことではないだろうか。

EU の法律は、2012 年に見直しされることになっている。既に欧州議会のいくつかの機関が、データ保持のポリシーはどう転んでも結局保護機能を持つことを立証できないと述べたと報じられている。米国においては状況はさらに不明瞭で、どの会社やどの政府機関がそのデータを持っているのか、それがどれくらいの機関保持され続けるのか、といった情報を知っている人は誰もいない。ことに、国家の安全保障にかかわる情報収集については全く分からない。ただこの議論が公の場でなされる限りにおいて、Electronic Frontier Foundation の Lee Tien は議論が完全に「データなし」であること、つまり、国家の安全保障なり犯罪防止なりの目的のためこれらの手段がどれだけ有効性を持つのかを調べた調査や主張が何もないことを指摘している。

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Nora Barnacle と電子ブックの誕生

  文: Michael E. Cohen <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

1904 年 6 月 16 日、 James Joyce という青年が、のちに彼の妻となる Nora Barnacle と、初めてのデートをした。それから長い年月を経て Joyce はそのデートを彼の小説 "Ulysses" (ユリシーズ) の舞台に選び、のちにその日は Joyce 研究家たちやファンたちによって (その本の主人公 Leopold Bloom にちなんで) "Bloomsday" と呼ばれるようになった。

その後 86 年が経ち、1990 年の Bloomsday 当日に、Pacific Coast Highway 沿い、Santa Monica Pier すぐ北の(米国カリフォルニア州サンタモニカ市)おんぼろビルの中にオフィスを構える小さなビデオ・デジタルメディア会社 Voyager Company では、さまざまの分野の学者や研究者たちを招いて、秘密の会合が持たれていた。Voyager 社はその当時、CD-ROM による出版物としては最初のものの一つを開発したことで大いに注目を集めていた。それは、 ベートーベンの交響曲第 9 版をオーディオ録音した CD と、その演奏に同期するように UCLA 教授 Robert Winter の仕事を詳細かつ生き生きとした議論にまとめた付属の HyperCard スタックをフロッピーディスクに収めたものとを組み合わせていた。そこで、Voyager Company の社長 Bob Stein は考えた。クラシック音楽に Winter 教授の "CD Companion" フロッピーを組み合わせることができるなら、クラシック文学にも同じことができるのではないか、と。

その会合に招かれていた面々の中に、UCLA 英語学部の Richard Lanham 教授がいた。Lanham 教授は修辞学のスペシャリストで、コンピュータの助けを得た文章執筆教育にも、またデジタルテクノロジーが作り出せると約束する新しい種類の表現性にも、興味を持つようになっていた。私は元は彼の学生であって、ごく初歩的なものだったがインタラクティブな執筆教育用ソフトウェアを彼が作る作業の手伝いもしたことがあった。会合の直前になって、彼は私に、一緒に会合について来ないかと声をかけてくれた。

その会合のことはほんのおぼろげにしか覚えていないけれど、印刷した紙のページでなくコンピュータのスクリーンで読書を したい などと思う人が本当にいるのかどうかということを巡り、幅の広い、時には激しい議論が交わされたことだけは覚えている。最終的に一致をみた意見は、コンピュータに基づいた読書がほんの少しでも魅力あるものであり得るとすれば、当時現行のコンピュータやディスプレイテクノロジーによる不便さや制約を補うため、ソフトウェアが十分に「おまけ」を追加できること、つまり深い内容の注釈を多数付けて、検索機能もしっかりしていて、補助的題材へのリンクや、アニメーション化されたイラストなども盛り沢山にすることなどが必須だろう、という結論だった。

(ちなみに、Voyager 社が Bloomsday のデジタルブック会合を持っていたちょうどその頃、地球の反対側でも、Tim Berners-Lee がソフトウェアの作成に忙しく立ち働いていた。そのソフトウェアは一年後に HTML 1.0 としてデビューし、それがいわゆる "World Wide Web" の誕生に結び付いた。だから、皆さんがもしこの文章をスクリーン上で読んでおられるなら、そこには Berners-Lee の発明の子孫たるソフトウェアが働いている可能性が高い。)

会合の終わりに、社長の Bob Stein は私を側に引き寄せて、ジョークを言うような感じで(少なくとも私はそう思った)君も Voyager 社で働かないかと尋ねた。それは冗談ではなかった。その数ヵ月後、私は UCLA でのパートタイムの仕事と、Voyager でのパートタイムの仕事とを掛け持ちするようになり、そのまた数ヵ月後には Voyager でフルタイムで働いていた。表向き、私の Voyager での職務は、Shakespeare の "Macbeth" の CD-ROM ベース・インタラクティブ版の制作に結び付くようなアイデアや構想を思い付く、という仕事だった。「表向き」と言った理由は、実際のところ、それはほとんどすぐに棚上げとなって、代わりに別のデジタルブックのプロジェクトに参加しなければならなくなったからだ。(でも、"Macbeth" もいつまでも棚上げになったわけではなく、数年後にその CD-ROM は出版された 。)

その変更は何が原因だったか? あの Bloomsday 1990 会合と、私が Voyager で働き始めた時のちょうど中間くらいに、Apple が初代の PowerBook の開発を始めていた。今日とは違い、当時の Apple は有望な開発者に新しいハードウェアのプロトタイプ機をシードすることが多かった。Voyager 社にも、開発段階の PowerBook 100 が貸し出された。これが、さまざまの Voyager 従業員の頭の中に、言わば明かりを灯すこととなった。目の前にあるのは、デジタルブックのリーダーとして使える可能性のあるマシンだった。クリアな、読みやすいスクリーン(640×400 ピクセルのスクリーンは、当時最も一般的だったコンパクトな Macintosh スクリーンの 512×342 と比べてぐっと余裕があった)を持ち、ユーザーを壁のコンセントの近くに縛り付けることもなく、本を持ち運ぶのと同じように持ち運べる程度に、重量が軽かった。たとえ、それがかなり大判の、壊れやすい、高価な「本」であったとしても。

Bob Stein は、この新しいブックプロジェクトに Voyager のできる限り多くのリソースを注ぎ込んだ。私も、そこに含まれていた。Voyager のメインのプログラミング・プラットフォームであった HyperCard を用いて、私たちは次々と試作の開発を重ね、次第に形あるものが出来てきた。私たちは(散々口角泡を飛ばして議論したあげく)それを Expanded Book (拡張ブック) と呼ぶようになった。議論すべきことは山のようにあった。Expanded Book はページを持つべきか? もしもページを持つなら、どうやってページをめくるのか? ページ番号も要るか? メモを書き込む方法はあり得るか? メモの共有は? 読書のためのツールはどんなものを提供すべきか? そこにいた人たちすべてが議論への参加を求められた。プログラマーも、プロデューサーも、グラフィックアーティストも、経理担当や受付係さえ参加させられた。そうこうするうちに、私たちは Expanded Book が持つべき基本的な機能の一覧をまとめることができた。(ただ、それさえも最初に製品をリリースするたった数時間前に変更を受けることとなった。)

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試作品がより洗練され首尾一貫したものとなるに従い、私たちはそれを使って何を出版すべきかということも議論した。結局、三つのタイトルが選ばれた。一つはシンプルな、純粋にテキストだけから成る小説で、Douglas Adams の "Complete Hitchhiker's Guide to the Galaxy" だった。

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もう一つは何か人気ある小説で、そこに何か特別な機能を追加したいと私たちは考えていた。そこで選ばれたのが Michael Crichton の新刊書 "Jurassic Park" で、特殊機能としてそこに恐竜たちのイラストと、Crichton が文中に表現したものに基づいた恐竜の叫び声のサウンド効果、それにハードカバー版の表紙に印刷されていたフラクタルのグラフィックスを借用したフラクタルのアニメーションによる章オープナーだった。

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三つ目の本は、本物の古典文学作品に、たくさんの注釈その他、あらゆる種類の特殊機能を盛り込める要素を備えたものだった。それは、Lewis Carroll の二冊の "Alice" 本の Martin Gardner による版、"Annotated Alice" と "More Annotated Alice" を一つのデジタル本として一巻にまとめたものだった。

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これらの Expanded Book にさらに洗練された機能セットを盛り込む作業をしつつ、私の仕事はこれらの本それぞれのテキストそのものを慎重にコピーして HyperCard スタックの中へ入れるという、手間のかかる作業だった。私たちはこの作業を「テキストの流し込み」と呼んだ。その際には、単語と単語の間の空白を手で調整したり、クリック可能なメモを追加したり (Martin Gardner の本の場合注釈の数が膨大で、とんでもない努力が必要となった)、さらには特殊効果のいくつかを作成したりする必要もあった。忘れもしないが、John Tenniel が "Through the Looking Glass" に描いた Cheshire Cat のイラストがデジタルなページの中で現われたり消えたりする効果を実現するための HyperCard スクリプトを書くのに丸一日か二日を費やしたこともあるし、また別の日にはオーディオエンジニアと一緒に恐竜のサウンドを録音するために丸一日費やした。("Jurassic Park" のティラノサウルスの叫びは、ライオンの吠え声と、業務用の電気掃除機の音をミックスしたものだった。)

1992 年の 1 月に、最初の三冊の Expanded Book が完成し、サンフランシスコの Macworld Expo でお披露目された。それぞれの本は薄くて収縮包装されたカスタムデザインの厚紙製フォルダに収められ、ポケットの中に機能ガイドと、インストールの説明書、それから HyperCard そのものとデジタルブックに必要なフォントとを収録したフロッピーディスクが入っていた。(興味深いことに、私たちが Expanded Book の標準フォントとして選んだのは Palatino の一バージョンだったが、今日 Apple の iBooks アプリでデフォルトのフォントとなっているのも Palatino だ。)これらの Expanded Book は大成功を収め、Expo の会場で誰もが憧れる MacUser の Editors' Choice 賞 (Best Information Product 部門) まで獲得した。

Voyager 社はその後数年の間に数多くの著者たちと出版契約を結び、何十もの Expanded Book を出版した。その中にはあの定評ある Random House Modern Library から選り抜きの数冊もある。また、誰でも自分独自の Expanded Book を作ることができるようにと Expanded Book Toolkit も開発した。私はこうして Expanded Book で仕事をした経験から、棚上げとなっていた "Macbeth" プロジェクトについても一から考え直し、最終的にこのプロジェクトは当時の私たちが Expanded Book の次のステージの一例と考えていたものとなった。

残念なことに、パートナーシップの不一致と、World Wide Web の興隆、それによる "New Media" CD-ROM 市場の荒廃とが相まって、結局 Voyager Company は解体され Expanded Books プロジェクトは終焉の日を迎えた。けれども、このプロジェクトの始まりから二十年の後、James Joyce と Nora Barnacle の記念すべきデートの日から一世紀以上の年を経て、現在の電子ブックは一夜でスターの階段を登り詰めた。あの Expanded Book はもはや電子ブックの歴史の片隅の挿話にしか過ぎないけれど、私たちが開発したインターフェイスのアイデアの多くは今もまだ使われている。Bob Stein は、Expanded Book インターフェイスのどの部分も一切、特許を取ろうとはしなかった。彼は、本の出版がしたかったのであって、プラットフォームを出版するつもりなどなかったし、デジタルな本が成功を収めるためには、基本的な機能のセットが存在していて、どんな出版者も皆、自由にそれを採用し利用するできることが必須だと、彼は感覚的に知っていたのだから。

だから、今度あなたがデジタルなページに印を付けようと隅に折り目を入れたり、電子ブックページの一番下でページインジケータをドラッグしたりする時、その時はどうか、James と Nora と、そして Santa Monica ビーチのおんぼろビルの中のクレイジーな人たちのことを、思い出して頂きたい。彼らすべてが、それぞれのやり方で、現代ある電子ブックという奇跡を生み出す力となったのだから。

Happy Bloomsday!(ブルームズデイおめでとう!)

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Apple、新しい Final Cut Pro X で新たに再出発

  文: Jeff Carlson <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Apple は今年の 4 月に、非常に Apple らしくないことをした。次期バージョンの Final Cut Pro を、全米放送事業者協会の展示会におけるあるユーザーグループの集まりの場で展示したのだ。(2011 年 4 月 13 日の記事“アップルが Final Cur Pro X をプレビュー:新しく、早く、安く”参照。)

通常、Apple は新製品を公式にリリースする(または近日中にリリースする)時までの間、その製品について沈黙を守っている。いったんリリースとなれば、同社のマーケティング・マシンが最高速でダッシュを切るものだ。今回のように公開の、ビデオのプロフェッショナルたちばかりが集まる場で、思わせぶりにプレビューするのは、どう見てもこの会社のスタイルではない。ことにこのソフトウェアは過去二年間一度もメジャーなアップデートをしておらず、廃止になるという噂も一時期流れたくらいだったのだから。

先週 Apple が Final Cut Pro X をリリースしたのを見て、私は同社がこのハイエンド向けビデオ編集アプリケーションを「ソフト発表」する道を選んだのは、多くのパワーユーザーたちの間にその登場が大きなショックとして受け取られることを避けるためだったのではないかと思う。今回の新バージョンは、全く一から書き直されており、その際に速度と、柔軟性、それから将来のバージョンを築くための新しい土台となることに重点が置かれている。また、既存の Final Cut Pro 7 オーナーたちがこれまで依存して使ってきた重要な機能や能力の一部が、この新バージョンには欠けている。

(iMovie ユーザーたちには、どこかで聞いたことのある話だという気がするだろう。iMovie HD 6 が消滅して iMovie '08 が登場した時と同じパターンだ。願わくは、Final Cut Pro X が今回の最初の書き換えで脱落した機能のいくつかを取り戻すまでに三年もかけないことを祈りたい。)

私はまだ Final Cut Pro X を使ったことがないが、その機能の一覧を眺めつつ、また他の人たちが書いた実地体験レポートを読んだ限りでは、この Final Cut Pro X は今の段階ではすべての人のためのものとは言えないようだ。けれども、制作過程の最もハイエンドのところで仕事をしているのでない人たちにとっては今回のバージョンはかなり歓迎すべきものであり、期待すべきところもたくさんあるように思える。

もしもあなたが iMovie に慣れていて、もっと編集パワーが欲しいと思っているなら、これからは Final Cut Pro X があなたの次のステップアップとなる。Final Cut Express (従来の価格は $199.99) は廃止となった。幸いなことに、iMovie から Final Cut Pro へ進むステップは、以前よりずっと安価にできるようになった。Final Cut Pro X の価格は $299.99 であり、旧 Final Cut Studio の価格は $999.99 であった。

Apple はまた二つの補助的アプリケーション、Motion 5 と Compressor 4 も出した。いずれも価格は $49.99 だ。

新しい見もの -- Apple のウェブサイトの Final Cut Pro X セクションは、このソフトウェアのメジャーな諸機能への楽しい入門編となっている。(ビデオを見れば、例えば「インライン詳細編集」や「オーディション」など、編集コンセプトのいくつかがはっきりと見て取れる。)また、Apple は機能の詳細なリストも公表している。目立ったところをいくつか紹介してみよう:

どんな新機能があるかについて、また何が変わったかについて、開発段階からずっと Final Cut Pro X を使い続けてきたプロの編集者による詳細な解説がある。Philip Hodgetts の "What are the Answers to the Unanswered Questions about Final Cut Pro X?" と、Steve Martin の "Final Cut Pro X ― A First Look" をお薦めしたい。

Pro はどの程度「プロ」なのか? -- ビデオ編集の分野では、制作用エディタへの必要性は非常に具体的なものになり得るし、ただ一つのアプリケーションだけで済む作業でもない。Mac App Store においては、Final Cut Pro X に対する批判的なレビューが増えつつある。今回のバージョンは、従来の Final Cut Studio にあった重要な機能がなくなっている、というのが批判の理由だ。

例えば、Final Cut Pro X はマルチカメラ編集に対応していない。これは Final Cut Pro 7 の目玉機能で、同じシーンを複数のカメラで撮影したものを組み合わせ、それらのタイミングを同期させたり、カットを切り替えたりが簡単にできるというものであった。Apple は、この機能がいずれ Final Cut Pro X にも戻ってくると述べた。また、テープベースの読み込みは、ストリーミングと "capture now" モードに限られ、インポイントとアウトポイントを指定しておいて選択域をバッチ読み込みするというきめ細かい方法が使えなくなった。

Final Cut Pro X はまた、現時点では Final Cut Pro 7 で作成したプロジェクトを読み込むことができない。ただし、iMovie プロジェクトを開くことはできる。(しかしながら、熟練を積んだ編集者ならば、プロジェクトを始めたソフトウェアで最後までやり遂げるに越したことはないと言うだろう。)

ハイエンドの映画製作企業にとっては、EDL (Edit Decision Lists) と OMF (Open Media Framework) ファイルのサポートがなく、XML の読み込みと書き出しができないことが、既存のワークフローを脅かすだろう。例えば、編集者たちは OMF ファイルをサウンドのプロに手渡して、彼らに他のプロ用ツールを使ってオーディオの肉付けをしてもらうことがよくある。現在、Final Cut Pro X はどちらかと言えば自己完結しているけれど、報道によれば Apple はそれらの機能がこのアプリケーションに組み込めるようになるまでの間それに代わるべき変換ユーティリティを開発中だという。(当面は、Automatic Duck の Pro Export FCP がこの機能を提供できる。)

Apple は、Final Cut Pro X を Final Cut Studio と同一のシステム上で走らせないようにと強く勧めている。ただ、Larry Jordan など何人かのプロたちが、同じシステム上で両方を使ってみたけれども何の問題もなかったと言っている。

Mac App Store から入手可能 -- 旧バージョンが大きな箱に入って売られていたのとは違い、Final Cut Pro X は Mac App Store からのみ入手可能だ。Final Cut Pro X の価格は $299.99、ダウンロードサイズは 1.33 GB だ。Motion 5 は $49.99、1.09 GB のダウンロードだ。Compressor 4 も同じく $49.99 だが、サイズは比較的小さい 261 MB のダウンロードだ。ソフトウェアのインストールを済ませると、追加のダウンロードができる: Final Cut Pro X 補足コンテンツ (637.5 MB)、Motion 5 補足コンテンツ(1.15 GB)、それに ProApps QuickTime コーデック (1.2 MB) だ。

あなたが既存の Final Cut ワークフローを失いたくないと思うなら、 Final Cut Studio のフル版 (Final Cut Pro 7、Motion 4、Soundtrack Pro 3、Color 1.5、Compressor 3.5、DVD Studio Pro 4 を含む) が引き続き Amazon.com やその他のところから購入できる。古いバージョンの Final Cut からのアップグレードもある。ただし、Apple はもはやそれらのパッケージの直接販売を取り扱っていない。

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壊れたディスクを SuperDrive なしで復旧

  文: Marshall Clow <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

先週水曜日の午後、私の MacBook Pro でゴミ箱を空にしようとすると、エラーメッセージが出た。メッセージにはエラーが起こったと書いてある以外、ただエラーコードが -36 とあるだけだった。これはひどく厄介なことになった。私は昔からの Mac 開発者なので、-36 が深刻なエラーであることを知っていた。昔の Mac のヘッダファイル (Carbon および Carbon 以前) で、このエラーは "I/O error (bummers)" を表わし、その意味するところはたいてい文字通りに、入出力関係で何か深刻な一般的エラーが起こった(これは参った!)ということなのだ。

私の MacBook Pro はあまり市販品の通りとは言えない。私は内蔵 SuperDrive を 120 GB ソリッドステートドライブ (SSD) で置き換え、500 GB 内蔵ハードドライブはそのままにしていた。このようなハードウェア構成が、今回の故障を修理しようとする際に影響することとなった。私がどうしようもなく奇妙なセットアップにしているとお考えにならないで頂きたい。現在 Apple が光学ドライブを持たない Mac の機種を二つ販売しているという事実もある。一つは MacBook Air、もう一つはサーバ構成の Mac mini だ。

私のディスクの健全性が心配になったので、Disk Utility を動かして、私の起動ディスクをチェックさせてみた。すると、マイナーな問題点がいくつか見つかった。そのうち一つが "invalid sibling link" となっていた。この時点で、私は復旧モードに移った。まず MacBook Pro をシステム終了させ、それから FireWire Target Disk Mode で再起動し、これを仕事場にある Mac Pro に繋いだ。

MacBook Pro がディスクとして Mac Pro に接続された後、真っ先に私はもう一度 Disk Utility を走らせて確認してみた。その結果、SSD が本当に壊れていること、ハードディスクには異常がないことが分かった。そこで直ちに私は SSD のディスクイメージ作成を開始した。そして、それが動作している間に、自分の置かれている状況についてじっくり考えた。

私は Time Machine を使ってラップトップ機を外付けハードディスクにバックアップしている。けれども考えてみると、私が最後に MacBook Pro を繋いだのは日曜日の夜で、それはつまりバックアップが 60 時間分程度古いものだということだ。月曜日と火曜日に私はたくさんコードを書いていたが、それらはすべてサーバ上のソースコントロールシステムの管理下にあり、従って安全だ。私の電子メールの大部分はサーバベースだ(仕事場では Exchange を、個人用のことには Gmail を使っている)けれど、それでもまだ私は POP アカウントを二つ持っていて、それらを Eudora を使って読んでおり、そのメールはすべてローカルに保存されているのみだ。つまり、復旧しなければならないメールは間違いなくあった。さらに、最後のバックアップより後に私が MacBook Pro でしたマイナーなことがらも他にいくつか(Address Book に新しく追加した項目、その他)あって、そういうものを失うのは破滅的とは言わずとも困ったことであった。

ディスクイメージが出来上がると、私はその結果のファイルをまずロックし、それからマウントして、Disk Utility にそのイメージを検証させた。結果はやはり、元のディスクと同じ "invalid sibling link" エラーだった。驚くにはあたらない。そこで、Users フォルダのみでもう一つ別のイメージを作成し、それもロックして、そちらも Disk Utility でチェックした。こちらは、問題なかった。

この時点で、私には選択肢が三つあった:

この時点で、時刻は夜の 10 時だった。そこで私は自分が作った二つのディスクイメージを MacBook Pro の内蔵ハードディスクにコピーして、帰宅した。家に着くと、MacBook Pro を FireWire Target Disk Mode でもう一度起動し、それを iMac に繋いだ。Disk Utility を走らせてチェックしてみたが、結果は同じだった。私は Disk Utility にディスクを修復するよう命じた。数分間くるくると働き続けたが、ディスクの修復に失敗しました、というメッセージが出た。私は一言二言汚い言葉をつぶやいてから、ベッドに入った。

明けて木曜日、私は一日中授業で教えなければならなかった。そこで出かける前に、私は DiskWarrior を走らせて、ディスクで仕事に取り掛かるよう命じた。私が出かけなければならなくなるまで 30 分ほどそのまま走っていたが、それから 9 時間後に私が帰宅してみると、やはりまだ走り続けていた。これは、DiskWarrior を 4.2 から 4.3 にアップデートすべしという兆候なのだろう、と私は受け取った。新バージョンを走らせてみるとたった 2 時間ほどで走り終えたけれど、やはりダメージを修復するには至らなかった。Google で "invalid sibling link" を検索してみると、fsck_hfs というコマンドラインツールで修復できるだろうという助言がいくつか見つかった。そこでそれを試してみたが、やはり駄目だった。ということは、私の最初の選択肢つまりディスクを修復する方法は実行不可能だ。次の方法、Time Machine からのリストアに進むしかない。

Time Machine バックアップからリストアするために推奨される方法は、Mac OS X Install DVD からブートしてから、問題のディスクを Utilities > Disk Utility で消去し、それから Utilities > Restore from Time Machine を選ぶというものだ。けれども私は SuperDrive を SSD で置き換えていて、それが問題を起こしていたので、この方法は私には不可能だった。そこで、Intel ベースの Mac は USB からもブートできるということを思い出した私は、Snow Leopard Install DVD の内容を 16 GB USB flash ドライブにコピーした。

残念ながら、私の MacBook Pro はこの USB ドライブからブートしてくれなかった。Option キーを押しながらブートすると、このドライブを選択することはできたが、その後グレイのスクリーンを脱することはなかった。他の方法として v キー (verbose boot) や s キー (single user mode) を押しながらブートしてみたが、いずれもうまく行かなかった。戸惑いつつ、私は MacBook Pro の内蔵ハードディスクに Snow Leopard をインストールするのもやってみたが、これまたグレイのスクリーンを脱することができなかった。この時点で、何か他の種類の問題がこの MacBook Pro に起こっているのではないかと思い始めた私は、一歩離れて、それから二時間ほど、頭に浮かぶ限りの他のいろいろなことを試してみた。その気になれば、SSD を取り外して、SuperDrive を再装着し、内蔵ハードディスクを SSD に入れ替えてから、DVD でブートし SSD をリストアすることもできたろうが、それは最後の手段として保留しておくことにした。

昼食をとり、ちょっと庭仕事をしている間に、私は「あっ!」と思い付いた。私が USB ドライブに(内蔵ハードドライブにも)入れていたのは 10.6.0 のシステムだったけれど、私の 2010 年型 MacBook Pro は Snow Leopard が登場したよりも 後に 出荷された機種だった。そう、Mac がその登場時点よりも以前のバージョンの Mac OS X ではブートできないというのはよくある話だ。そこで私は MacBook Pro に付属していた元々のディスクを探し出して、そのシステムが 10.6.3 であったことを知り、それ を USB ドライブに入れて、USB ポートに差し込み、Mac の電源を入れた。おお! ブートしたぞ!(他に新たな問題が起こったりもしなかったので私は心底安心のため息をついた。)

さて、これで先に進める。私は SSD を消去して、それを検証した。まだ壊れていた。いったいどうしてそんなことがあるだろうか... 空なのに! さらにいろいろ Google で調べたり、OWC の技術サポートから助言を一つもらったりして、このドライブには再パーティション分けしてドライブ上にフレッシュなボリュームを書き込ませる必要があると知った。それをしてから Time Machine からのリストアを実行することができたが、これに 2 時間かかった。リストアが済み、Disk Utility でもう一度チェックしてみると、今回はディスクに問題がないことが分かった。そこで再起動をし、ログインし、もう一度 Disk Utility を走らせて問題がないことを確認した。こだわり過ぎと言われるかもしれない。でも、もうこれで終わりに近かった。

最後の作業は、ディスクイメージ上のファイルで私の Time Machine バックアップより新しいものを見つけ出すことだった。それにはコマンドラインツールの find を使った。まず、水曜日の夜に作っておいたロックされたディスクイメージをマウントして、Terminal を開き、次のようにタイプした:

find /Volumes/SSD/Users -mtime -5

すると、最近 5 日間以内の変更日を持つすべてのファイルのパスが出力された。(この時点で既に金曜日の夜になっていた。)それは非常に長いリストだったが、たいていの項目は無視できるものであった。例えば Safari のキャッシュにあるファイルといったものだ。けれども、この find は私の Eudora Folder (丸ごとコピーしてあった) の中にある変更されたファイルもすべて挙げていたし、iChat の通信記録、Downloads フォルダの中のいくつかのファイル、さらには iPhoto Library の中にある写真数枚も挙げていた。私はそれらすべてを手で調べて、それぞれ私のラップトップ機の上の正しい場所にコピーした。これで、やっとすべてが正常に戻った。

この時点で、私はもう 48 時間もラップトップ機なしで過ごしてきていたし、私に読まれるのを待っている電子メールメッセージも 600 通ほど溜まっていた。でも、私の今回の体験が他の人たちのお役に立てるかもしれないと思うので、ここにもう一度、私が学んだことをまとめておきたい。

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TidBITS 監視リスト: 注目のアップデート、2011 年 6 月 27 日

  文: TidBITS Staff <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Security Update 2011-004 (Leopard/Leopard Server) -- Mac OS X 10.6.8 は Snow Leopard ユーザーのために数多くのセキュリティ脆弱性を解消しているが、まだ Mac OS X 10.5 Leopard を使っている人は セキュリティアップデート 2011-004 をダウンロードしてインストールするとよい。最も重要な修正は AirPort に施されたもので、同じ Wi-Fi ネットワーク上にいる攻撃者があなたの Mac を再起動する可能性を防止した。他にも ColorSync、CoreGraphics、ImageIO、MySQL、patch、Samba、servermgrd、Subversion など Mac OS X の各部分に修正が施されている。独立のアップデートもLeopard デスクトップシステム用Leopard サーバシステム用それぞれに出されているが、やはりソフトウェア・アップデートに任せるのが一番手軽だ。(無料、256.4 MB、499.8 MB)

Security Update 2011-004 (Leopard/Leopard Server) へのコメントリンク:

ClamXav 2.2 -- Mark Allan が、オープンソースの ClamAV アンチウイルスエンジンに基づいたマルウェア防御用アプリ ClamXav のバージョン 2.2 をリリースした。リリースノートによれば、ClamXav 2.2 では OS X Lion に対応するとともに、詳細は発表されていないが多数の修正も施されたという。基盤となる ClamAV ウイルス探知エンジンもバージョン 0.97.1 にアップグレードされ、著者はこのソフトウェアのオンライン説明書への直接リンクを追加するとともに、複数の警告をより手軽に閉じられる方法として Ignore Warning を Command-クリックする機能を追加した。ClamXav は無料だが、ドネーションのお願いが付いている。(無料、13 MB)

ClamXav 2.2 へのコメントリンク:

1Password 3.6 -- AgileBits が 1Password 3.6 を出した。パスワードおよび身元管理用ソフトウェアの、大幅なアップデートだ。同社のブログ記事によれば、今回のアップデートでいくつか重要な機能が追加されている。中でも注目すべきはリリースされたばかりの Firefox 5 と、来たるべき OS X Lion と Safari 5.1 に対応したことだ。1Password はまたサイト限定フラウザ Fluid にも対応した。これは特定のウェブベースのアプリ、例えば Gmail のようなものを使うため専用のブラウザ・インスタンスをユーザーが作れるプログラムだ。残念ながら、いくつかの機能は消滅の運命にある。AgileBits は、今回のリリースで Mac OS X 10.5 Leopard と PowerPC ベースの Mac への対応を止めた。 フルのリリースノートもある。(新規購入 $39.99、無料アップデート、17.2 MB)

1Password 3.6 へのコメントリンク:

Flash Player 10.3.181.26 -- Adobe は最近、自動アップデート通知機能を Flash Player に(システム環境設定パネルを通じて)追加した。そしてそれはちょうどタイミングが良かった。重要な脆弱性が Flash Player 10.3.181.26 で修正されたのだが、非営利グループ Shadowserver によればその脆弱性への攻撃 がかなり大規模に出回っているところだという。つまり、あなたもぜひ今すぐに、最新の Flash Player にアップデートすべきだ。自動アップデート通知を使えば、いつも最新のものを使っていられる。もしもあなたが PowerPC ベースの Mac を使っていて最新の Intel 専用バージョンの Flash Player を使うことができないなら、おそらく最良の対策は ClickToFlash を使って Flash 要素のロードをあなたが絶対的に信用すると指定した特定のサイトのみに制限することだろう。

自動通知機能が初めて追加された 10.3.181.14 より前のバージョンの Flash を使っている人は、AdobeFlash Playerページを訪れれば自分がどのバージョンの Flash Player を使っているかが分かる。最新版のダウンロードは Adobe Flash Player Download ページからできる。(無料、6.08 MB)

Flash Player 10.3.181.26 へのコメントリンク:

PDFpen と PDFpenPro 5.4 -- 前回のアップデートからまだ一月しか経っていないが、Smile が新バージョンの PDFpenPDFpenPro をリリースした。同社の PDF 処理用ソフトウェアだ。バージョン 5.4 では PDF ポートフォリオ(いくつかの PDF ファイルを一緒にバンドルした集まり)からファイルを抽出したり編集したりする機能が加わり、特定の状況下で OCR 後の選択挙動を修正し、その他マイナーな修正や変更も施している。もう一つ、これは PDFpenPro のみの機能ではあるが、目次(Acrobat がブックマークと呼んでいるもので、Preview のサイドバーにナビゲーション補助のために登場する)を作成するためのインターフェイスが大きく改善され、「子」および「叔母」項目を作成するコマンドを新設するとともに、キーボードショートカットの追加で項目の作成がずっと素早くできるようになった。(新規購入 $59.95/$99.95、無料アップデート、41.2 MB)

PDFpen と PDFpenPro 5.4 へのコメントリンク:

Microsoft Office 2011 14.1.2, 2008 12.3.0, 2004 11.6.4 -- Microsoft から新たに出たのは、同社の旗艦製品 Office for Mac スイートの最新の三つのバージョンに対するアップデートだ。同社からの発表によれば、14.1.2 for Office 2011, 12.3.0 for Office 2008, 11.6.4 for Office 2004 と名付けられたこれら三つのリリースはいずれもセキュリティに狙いを定めている。特別に細工された Excel ファイルをユーザーが開いた場合、コンピュータのメモリが悪意あるコードで上書きされる可能性があるという、8 件の重要な脆弱性に対処した。また、Office for Mac 2011 14.1.2 では Outlook と Word にいくつかのバグ修正もある。(無料アップデート、109 MB, 333 MB, 13 MB)

Microsoft Office 2011 14.1.2, 2008 12.3.0, 2004 11.6.4 へのコメントリンク:

Acrobat Pro 10.1, 9.4.5, 8.3 -- Adobe が、同社の PDF 作成・処理ソフトウェア Adobe Acrobat X Pro に三つのアップデートをリリースした。これら三つのアップデートはそれぞれこのアプリのバージョン 8, 9, 10 のためのものだが、セキュリティ改善、バグ修正、それといくつかの機能改良も盛り込んでいる。詳しくはAdobeFlash Playerを参照のこと。Acrobat X Pro 10.1 にはセキュリティ、ブラウザ対応、デジタル署名、Flash に関係した機能改善がある。Acrobat Pro 9 のオーナーに対しては、9.4.5 で限定的ながらセキュリティと安定性の改善がなされ、前身のソフトウェアのオーナーにもバージョン 8.3 が改善を施している。(新規購入 $449、無料アップデート、134 MB, 91.7 MB, 29.81 MB)

Acrobat Pro 10.1, 9.4.5, 8.3 へのコメントリンク:

Evernote 2.2.1 -- Evernote が同社の名前を冠したノート取りソフトウェアに バージョン 2.2.1 を出した。バージョン番号からはマイナーな改訂に見えるが、今回のアップデートにはいくつかの大幅な変更が施されている。例えば、自由にノートを選んでそれに対するリンクを作成することができ、そのリンクを他の人たちと共有したり、他のノートにリンクを埋め込んだりできるようになった。また、新設の "snippet view" と、改善された履歴ナビゲーション機能とを組み合わせれば、ユーザーが自分のノートを一目で一覧する機能がぐっと充実する。それから、この Evernote 最新リリースでは VoiceOver との統合が改善され、バグ修正もいくつか施された。(Evernote のサイトからも Mac App Store からも無料、19.2 MB)

Evernote 2.2.1 へのコメントリンク:

Audio Hijack Pro 2.9.12 -- Rogue Amoeba が Audio Hijack Pro 2.9.12 をリリースした。このオーディオ録音用プログラムへの、かなり大幅なアップデートだ。リリースノートによれば、この新バージョンからは Instant On がインストールされている限り Safari を 32-bit を再起動せずともオーディオのキャプチャができるようになり、Google Chrome や Firefox からも追加の設定なしにオーディオのキャプチャができるようになり、また WAV オーディオフォーマットで録音できるようになった。数多くのマイナーなバグも修正されており、予備的なものだが Mac OS X 10.7 Lion への対応も盛り込まれた。現在、このアプリは Mac OS X 10.6.0 かそれ以降を要する。(新規購入 $32、無料アップデート、6.2 MB)

Audio Hijack Pro 2.9.12 へのコメントリンク:


ExtraBITS、2011 年 6 月 27 日

  文: TidBITS Staff <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

他にも読み物はたくさんあったが、先週私たちが最も注目したのは New York Public Library (ニューヨーク公立図書館) のデジタル構想、革命的となるかもしれない新型カメラ、iPhone のバッテリ寿命を延ばすいろいろの方法、Verizon Wireless の段階的データプランへの移行、大容量の Time Capsule のニュースだ。

The Atlantic、大メディアが NYPL から学ぶべきことを語る -- Alexis Madrigal が The Atlantic に書いた記事は非常に興味深い。彼の論点は、New York Public Library (ニューヨーク公立図書館) が、このデジタル時代の中でももがき苦しんだりしていないのみならず、むしろ活発な活動を強めており、その点は窮地に立っている新聞や雑誌、テレビ業界なども見習うべきだ、というところにある。

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Lytro、写真の革命を約束 -- 来たるべき Lytro カメラは、そのセンサーに入る光線の向きを記録して処理することにより、従来不可能であった機能が提供できる。例えば写真の中で好きな部分にいつでも焦点を合わせることができるし、写真全体で同時にすべてに焦点を合わせることさえできる。このカメラは 2011 年の後半にならないとリリースされない予定だが、Lytro のサイトでは現在既に、写真の再フォーカスを実際に試してみたり、その背後にあるテクノロジーについて読んだりできる。(このピクチャーギャラリーは Mac 上では Flash を必要とするが、iOS では HTML5 経由で働く。)

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Pogue、iPhone のバッテリ寿命を延ばすヒントを語る -- New York Times の David Pogue によるこのブログ記事は、iPhone のバッテリ寿命を延ばすためのいくつかの有益なヒントを提供する。驚くような新情報は特にないが、例えば push、位置情報、通知などの設定をチェックして、いろいろなアプリがバックグラウンドで不必要に働いてバッテリ寿命を浪費したりしないようにするなど、とても役立つ注意がいくつもある。

コメントリンク:12254

Verizon Wireless が 7 月に段階的プランへ移行 -- Verizon Wireless が AllThingsD の取材に答えて、現在 iPhone 契約者たちが使っている無制限モバイルブロードバンドプランを段階的プランに入れ替える予定だと述べた。これは、新規の契約者に対して、およびプランを変更する場合に、適用される。報道によれば新しいプランは iPad 2 のデータプランと同様 2 GB のデータが月額 $30、10 GB ならば月額 $80 といったものになるだろうと伝えられているが、この点について Verizon は何も語らなかった。

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Time Capsule の容量が 3 TB に -- Apple が、その Time Capsule ベースステーションおよびバックアップシステムにマイナーな変更をした。Apple は従来 1 TB と 2 TB の機種を出していたが、新機種では Time Capsule のストレージ容量が 2 TB ($299) と 3 TB ($499) に増えている。

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TidBITS ISSN 1090-7017©Copyright 2011 TidBITS: 再使用はCreative Commons ライセンスによります。

Valid XHTML 1.0! , Let iCab smile , Another HTML-lint gateway 日本語版最終更新:2011年 7月 2日 土曜日, S. HOSOKAWA