TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#1156/14-Jan-2013

今週号には悲しいニュースが二つある。インターネット活動家であり先導者でもあった Aaron Swartz の自殺と、先駆的なポッドキャストネットワークの ITConversations の閉鎖だ。楽しい話題としては、Jeff Porten が CES 2013 の会場から一つ、いや二つ、いやいや三つのレポート記事を届けてくれた。紹介された製品の中には、いずれ実際に出荷されるものさえいくつかある。実用的な話題に戻れば、Adam Engst が Finder の Open With コンテクストメニューに重複した項目が現われた場合に重複を取り除く方法を説明し、また Amazon の新しい AutoRip サービスを概観する。Josh Centers は iFlicks を使って iTunes ビデオライブラリを改良するヒントを紹介し、Rich Mogull は今日の世界において Mac ユーザーはアンチウイルスソフトウェアを必要とするか否かという質問に答える。今週注目すべきソフトウェアリリースは、MacBook Air EFI ファームウェア・アップデート 2.6、Firefox 18 と Fission 2.1.1 だ。

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情報の自由を目指した活動家 Aaron Swartz が死去

  文: Glenn Fleishman: [email protected], @glennf
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

コード書きであり活動家、オープンアクセスの提唱者でもある Aaron Swartz が、2013 年 1 月 11 日に自ら命を絶った。13 歳で既に「有用かつ教育的で協同作業の」非商用ウェブサイトを作成した若者に与えられる賞を受賞 した Swartz は、情報が自由に行き交うようにするためのコードやサイトを書くことに人生を捧げ、アクセスを制限しようとする力に対抗する道を唱えてきた。

Swartz は Creative Commons 設立のための技術的基盤となるコードを提供し、Reddit の開設に協力してその初期の日々には運営のためのソフトウェアを作成(その後彼はこのソフトウェアをパグリックドメインにリリースした)し、Open LibraryInternet Archive を構築し、著作権管理法 SOPA と PIPA に対する反対運動を組織するためのグループの一つ Demand Progress を設立した。Swartz はまた RSS 1.0 の作成にも加わった。(RSS 1.0 は、もともと Netscape 社が開発しその後 Dave Winer が改作して世に広めて RSS 2.0 と転化したものとは別の系統にある。)彼はその経験をもとに World Wide Web Consortium (W3C) において Resource Description Framework (RDF) 規格を作成する作業にも加わった。

より最近になって、Swartz は有料コンテンツの壁の向こうにある情報を解放するための声高な唱道者となり、著作権の保護外にある情報、あるいは彼がそうした保護の外にあるべきだと考える情報を自由にしようと活動した。具体的には裁判記録の情報や、より問題とされた学術論文などだ。その後彼の活動は連邦法下のコンピュータ犯罪の容疑の対象となり、この件は彼の死の時点でまだ決着していない。裁判が 2013 年 4 月に予定され、彼は何年もの懲役刑を言い渡される可能性があった。

Swartz は、ただ単にこれらのことや、あるいは彼が関わった他の多数のプロジェクトについてのみ人々の記憶に残るのではない。それらのプロジェクトの大多数はインターネットの発展において大きな意味を持っているのではあるけれども。彼が公共の利益のために捧げた多くの寄与の上には、彼の若い頃からの天才ぶりや、彼の鋭い洞察、彼の暖かさ、彼の高潔さがあり、それが私たちの心に残るのだ。BoingBoing が現在、Swartz に贈る言葉や Swartz についての記事を集めて公表している。そこには BoingBoing の編集者の一人であり Swartz の友人の一人でもあった Cory Doctorow による追悼の言葉もある。

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CES 2013: ケース、充電器、ドック、それに鉢植え植物モニター?

  文: Jeff Porten: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Las Vegas の Bali Hai Country Club からこんにちは。2013 年の Consumer Electronics Show (CES) の開幕イベントが終わり、私はここでちょっと一息ついているところだ。1970 年代風のティキの装飾に囲まれ、外の気温は華氏 37 度 (摂氏 3 度)、ありがたいことに音楽は Don Ho でなく、ガラスの壁に囲まれたこの部屋を我慢できるものにしているのは、私の背中から 6 インチ (15 cm) のところで燃えているガスの火のみだ。

私はついさっき Mandalay Bay での CES Unveiled イベントから戻ったところだが、この先行イベントでは数え切れないほどの CES 出展者たちが数千ドルずつ(またはもっと)余分に出して、記者たちの注目をあらかじめ集めておこうと競い合っている。記者たちの注目を得られればこそ、結果として皆さんの注目を得られるからだ。このイベントで私の目を引いて、皆さんに紹介したいと思ったものがいくつかあった。

Other World Computing は、いつも興味深い機器を展示してくれる。ただ、今回のショウで初出展のものがあったかどうか私は知らない。でも、たまたま私はその前日にまだ新しい iPhone 5 をヘッドフォンコードでぶら下げてコンクリートに打ち付けるところだったので、彼らの保護ケース Nuguard KX を試してみるつもりだ。これなら、あまり図体が大きくなることもないようだから。

Lilliputian Systems は Nectar を出している。魅力的な曲線を持つ $299 のこの黒い箱には、$9.99 の "Nectar Pod" を差し込むことができる。その円筒一つ一つが、一台のモバイル機器に最大二週間ずつ電源を供給できる。もっと詳しい情報や仕様をお知らせしたいとは思うが、私の知ることのできたのはそこまでだ。こんなことを言っても意味があるのかどうかわからないが、Nectar は Brookstone カタログに取り上げられることになっており、このカタログの私にとってのイメージはとてもクールだがやたらに高い値札の付いたコンポーネントを使う道具が載っている感じだ。

同じ分野でこちらも面白そうだったのが、 myCharge Hub Series だ。3000、6000、9000 ミリアンペア/時のバッテリに Lightning、micro-USB、USB のケーブルが付き、どんなものでも再充電できる。通常、Lightning に対応しているかどうかがこの手のものでは重要な点だ。残念ながら、これは 2013 年 4 月にならないと出荷されない。(9000 については 2013 年 7 月だ。)

それから、今や家族の中で犬まで iPhone を持っている時代だから、Griffin は $99 の PowerDock 5 を出している。最大 5 台までの携帯電話やタブレット機をなかなか素敵で場所を取らないやり方で積み重ね、全部を充電することができる。また、新シリーズの WoodTones ヘッドフォン(ケーブル付き)もあって、これは名前の通り木製だ。

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Belkin は $199.99 の Thunderstorm Handheld Home Theater を実演していた。この iPad ケースは、iPad 2 または第三世代か第四世代の iPad とドックさせるとステレオサラウンドのオーディオを提供する。古いドックコネクタ用のモデルと新しい Lightning ポート用のモデルが別々に出ている。私は実演を聴いてみなかったが、その前に私はこの製品の名前が気に入らない。だって、Lightning (稲妻) と Thunderbolt (雷電) だけでもう十分じゃないか? その上に Thunderstorm (雷雨) だって? 技術サポートにこんな電話がかかるのを想像してみるとよい。「この雷雨ってやつに Thunderbolt (雷電) を接続してみたのですが... それとも Lightning (稲妻) の方にするべきですか?」

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Parrot 社の人たちは、以前四つの羽根を持ち iPhone で操縦できるヘリコプター AR.Drone を展示してくれたが(2010 年 1 月 7 日の記事“CES 2010: 未来をブレンドする”参照)今回は Bluetooth ベースの Flower Power をプレスリリース発表して私の度肝を抜いた。決して冗談を言っているのではない。Flower Power は鉢植え植物を監視する。おそらく水を管理するのだろう。ただしこれは双方向に働くようで、あなたが観葉植物に歌を歌いかけることもできる。明日以降私は Parrot のブースに行って、これが悪ふざけに過ぎないのか、あるいは社員の誰かがプレスリリースを書く前にボルドーのワインを飲み過ぎだのか、確かめてみるつもりだ。

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CES 2013: Pepcom デジタル消耗... じゃなかった体験

  文: Jeff Porten: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

CES 2013 から再びこんにちは。いや正確に言えば、Planet Hollywood の Starbucks 店内からだが、ここは Wi-Fi の電波が驚くほど良好で、コーヒーの venti サイズの値段が見たこともないほど高く、カジノのハウスバンドが Guns N' Roses をカバーしている。この Starbucks 店は MGM Grand ホテルのダンスフロアから私のホテルへ向けて砂漠を 40 年ほどかけて旅する中間地点をちょっと過ぎたあたりにあって都合が良い。その旅する年月のほぼ半分は、 米国最大のホテルである MGM Grand の中を彷徨うのに費やされる。これは誇張でも何でもないが、ダンスフロアはどこかと表示を辿って行きつつ次の角を曲がるとまた延々と伸びた廊下が続いているのを見て引きつった笑いを漏らす人を私は少なくとも三人目撃した。

今夜の「(文字通り) 獣に餌をやる」プレス・スクラム(集団的過熱取材)は、Pepcom's Digital Experience (Pepcom 社デジタル体験) だ。このイベントと、明日の Showstoppers (注目の品々) イベントが、CES 併催の報道関係者向けイベントとしては最大の二つだ。明日から始まる本物の CES 見本市(こちらは一般向けのショウだ)にも参加する出展者たちはいるけれども、これら二つのイベントはそれぞれ別々の会社が開催するものだ。ここでは出展者たちが直接メディア関係者たちとやり取りすることができ、通常 CES にブースを出すよりも安いコストで出展することができる。報道関係者たちの方も、ここにはバーも開いていて無料の食べ物もあるから来ているのであって、明日の CES 会場となる Las Vegas Convention Center では Coke 一杯とホットドッグだけに $20 も払わなければならないことになる。

まず目にとまったのは、携帯電話会社が市場を「デス・グリップ」している状況を打破しようと試みているセルラーネットワークサービス二社だ。Truphone は $30 で GSM SIM カードを提供し、これをロックの外れたモバイルフォンに差し込めば Truphone サービスを使って国際ローミングができる。同社は世界各地のプロバイダから卸し購入でサービスを買っているのだ。Truphone は、月ごとのプリペイドサービスも、継続的プランも提供する。理論的には既存の携帯電話プランよりも安価にローミングが利用できるはずだが、今度カナダへ旅行するのに備えて 料金を調べてみたところ、メガバイトあたり $4.29 という目玉が飛び出るような数字が出た。確かにこれは AT&T のメガバイトあたり $15.36 というローミング料金よりは安いが、AT&T の国際データパッケージの料金、$30 で 120 MB (つまりメガバイトあたり $0.25) に比べればはるかに高い。プレス用に無料で配られた Truphone の SIM カードを、私は将来の旅行でこれが有利な選択肢となった場合に備えて持っておこうと思う。それに、新たな国に着く度にその土地のプロバイダを探すより手軽なのは確かだ。今回の CES で Truphone から新たに出たのは、iPhone 5 で使える nano SIM と、はっきりと英国中心に見える彼らのウェブサイトを越えて市場を拡大しようという米国本部だ。

他方、無料の 4G データに興味があるならば、FreedomPop の方に注目すべきかもしれない。$99 の機器がたくさんあって、MiFi 風のホットスポットも、また FreedomPop の 4G サービス(Sprint からの下請け契約による)に接続できる iPhone 4、4S、および iPod touch 用のケースもある。サービス自体は、毎月 500 MB 以下の利用である限り無料だ。それを超えるデータは競争力ある料金で購入することも、あるいは FreedomPop と提携したパートナーから商品を購入したり広告を観たりすることで「獲得する」こともできる。時たま使うためにはとても良いサービスだと思うが、それにしても 500 MB というのは低過ぎる上限だ。

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Grokr は、「iOS 用の予想検索」という宣伝文句で私の注意を惹いた。予想検索というのは、別の言葉で言い替えれば「私たちはあなたがこのアプリ上ですることすべてを(オプションで Facebook、Twitter、LinkedIn も)追跡して、それを利用してあなたがこのアプリを起動した際に何を探しているのかを予想します」ということだ。理論的には、何かを探す時間を短縮してくれるほとんど霊能者的なアシスタントが得られ、間もなく起こるイベントについても知らせてくれるはずだ。けれども実際は、すべては彼らのアルゴリズムがどの程度うまく動くかに大きく依存する。私に言わせれば、SF小説 "Stranger in a Strange Land" (邦題「異星の客」) に 登場する "grok" という名前にまさに相応しいというところだ。Grokr は App Store で 無料ダウンロードできるd

Rambus は 60 ワット電球の代わりとなる LED 電球を持ち合わせていた。光の品質や色を他と比較する目的には、その展示はおそらく世界最悪とも言えたろう。まあ確かに、私の iPhone のカメラであまり良い写真が撮れない程度には明るかった。Rambus の写真の言っている言葉を信用できる人たちのために、今後三から六ヵ月程度で発売になる。

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Lytro は光照射野カメラを展示していた。写真の焦点や角度を撮影後に変更できるというカメラだ。頭のいい友人たちによれば、そこで使われている光学テクノロジーは別に魔法でも何でもないとのことだ。(2011 年 10 月 19 日の記事“珍しい Lytro 光照射野カメラ、受注開始”参照。)ハードウェア自体は去年のモデルと変わっていないようだが、2012 年 10 月に始まったいくつかのファームウェアアップデートが、既存のカメラに新機能を追加してきた。Lytro は間もなく出されるソフトウェアを実演していたが、このソフトウェアを使えば写真家が撮影した光照射野写真を Facebook、Twitter、あるいはウェブサイトで共有でき、それを見る人たちがカメラにあるものと同様の角度と焦点のコントロールができるようになる。欠点となるかもしれない問題として、Lytro がこれらの写真を自社のサーバ上にホストするという点がある。コントロール機能を削除した JPEG に書き出さない限り、写真自体を他で共有することはできない。Lytro のカメラの価格は以前と変わらず $399 (メモリ 8 GB) と $499 (16 GB) で、さまざまな色のモデルがある。

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Brookstone はまたもや「クールさと馬鹿げたものの中間」という分野に製品を出してきた。2013 年 4 月発売予定の、$129.99 の SoftSound Pillow だ。これは形状記憶フォームの枕だが、ワイヤレスのスピーカーを内蔵していて、「あなたのパートナーを邪魔せずにテレビを楽しめる」と宣伝されているが、私にとってより重要なのは顔にヘッドフォンの跡のへこみを作ることなく翌朝目覚められる点だ。

Lenovo の IdeaCentre Horizon 27 インチタブレットについてはインターネット上で素晴らしいという評判常軌を逸しているという評判もどちらも幾度か目にしたことがある。基本的にこれは 18 ポンド (8.1 kg) の PC であって、そこに二重人格を組み込んだものだ。角度を付けて置けば、これは Windows 8 コンピュータとなる。平らに置けば、Lenovo の Aura タッチインターフェイスに切り替わり、私の印象では初代のMicrosoft Surface にかなり似ている。Microsoft が(非常に少数の)バーやレストランに設置した、あの代物だ。個人的に私は、これが CueCat と同じ運命を辿り、何年かすれば人に笑われるようになる類いのものだという気がする。もしも 27 インチの巨大なタッチパネルがそこまで本質的に興味深いものであるとしたら、彼らはゲームに自動的に統合される Bluetooth のサイコロなんか実演して時間を潰すべきではないのではないか。いずれにしても、これらはすべて、将来実際に発売される。

昨日は Parrot の鉢植え植物モニター Flower Power について書いたが、考え直してみればあれは最初に思ったほど馬鹿げたものではないような気もする。(2013 年 1 月 7 日の記事“CES 2013: ケース、充電器、ドック、それに鉢植え植物モニター?”参照。)あのモニターには iPad アプリが付属していて、6,000 種類の鉢植え植物についての百科事典的解説が読める。たとえあなたが私のように草花なんか全然見分けがつかないという人でも、説明タグで植物を調べることができる。あなたがどの植物をモニターしたいかを iPad に教えておきさえすれば、日光、湿度、温度、および肥料濃度に対するセンサーを使うことにより、いつ何をしてやれば植物を良い状態に保てるかを私のような者にも分かるように告げてくれる。これはまだ開発中で価格も決まっていないが、「年内には」発売予定だという。

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それが存在するという事実だけでワクワクするようなブースは稀だが、それこそまさに私が Stern Pinball ブースで受けた印象だった。ビデオゲームというものをまだ知らない時代の私がコインを注ぎ込み続けた悪習が、ピンボールだった。けれどもアーケードゲームの衰退に伴い、Stern 以外のメーカーはすべて廃業の道に追い込まれた。Stern はこの問題に対して興味深い角度から新たなマーケティングを押し進めた。つまり、彼らの新しいピンボールマシンはさまざまのサイズで出され、小型のユニットは家庭用に、大型のユニットはゲームセンターや公共施設で使うために作られた。プレイのフィールドはどのゲームもほぼ同じだが、ゲームセンター用の機種にはより豊富なアニマトロニクスと大型のバックガラス(垂直ディスプレイ)が装備される。最も重要な点は、家庭用ユニットにもゲームセンターと同程度の品質のプレイフィールドとフリッパー、同じメカニズムが使われていることだ。家庭用の Stern ピンボールゲームは $2,500 で販売されるが、片手に持てる限りの 25 セント硬貨をあっという間に飲み込んでしまう機種は $6,000 から $8,000 となる。

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「見つけて驚いたと同時に嬉しかった」という部類に属するのが、FileMaker ブースParallels ブースだった。ただしいずれも技術的ニュースの面ではあまり目新しいものはなかった。(iOS 用の FileMaker Go は先月までの累計で 500,000 回ダウンロードされた。これは本物と言わざるを得ないだろう。)ここで私の印象に残ったのは、一つには Mac 向けでないプレスルームに足を踏み入れたのに何十ものリンゴが私に向けて光っている光景と、もう一つは記者連中の部隊のレーダーに捉えられるのを目的に数千ドルを投資するのも有益だとこの二社が判断したのだということだった。そう、こんなことを言っても仕方がないかもしれないが、Apple が CES に最後に出展したのがいつだったかという Twitter 戦争が進行中のようだけれど、もしも FileMaker を勘定に入れてよいとすれば、Apple は今もちゃんとここにいるのだ。

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CES 2013: 注目の品々、便利なものから常軌を逸したものまで

  文: Jeff Porten: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

CES 2013 から三度目のこんにちは。私は Showstoppers (注目の品々) イベントの会場から出て来たところだ。会場となった Wynn ではケータリングの食べ物が素晴らしく、店の商品は とっても お高く、ホテルの Wi-Fi は 40 分間で $20 という記録破りの非常識な料金だった。それだけのお金を払えば、キロビットごとに銀の盆に乗せて "Downton Abbey" のキャストがうやうやしく運んでくれてもよいのにと思う。昨日と同様に(2013 年 1 月 8 日の記事“CES 2013: Pepcom デジタル消耗... じゃなかった体験”参照)私はホテルへの帰り道の途中、カフェインを求めて一休みしつつこれを書いているところだ。昼間ほど贅沢な場所ではないかもしれないが、店内で 自前の火山が噴火している Starbucks 店に来たのは初めてだ。

この Showstoppers イベントの報告記事を始める前に、まずは免責声明を書いておかねばなるまい。トレードショウというものが賄賂... いやいや「レビュー用試供品」を提供することで悪名高いのは、別に秘密でも何でもない。ちゃんとした報道機関を代表する、名誉を与えられ尊敬を集める記者たちに、製品が試供品として手渡されるのだ。ライターたちがピカピカのオモチャをいくつか持って帰るのは普通のことで、たいていの場合ほとんどのものが棚の上に放り出されてそのままになる運命にある。けれども今回は、率直に言ってしまえば、私はまるで山賊の戦利品のようにたくさんのものを抱えて帰って来た。なので、以下の記事の中で私に製品をくれた会社に触れる際には、その製品の名前の後に「包装ギフト」の Unicode 絵文字 🎁 を付けて示すことにした。お断りしておきたいが、たとえ明白な賄賂を受け取ったとしても、必ずしもその会社の名前を記事に明記するとは限らないし、記事で触れた場合にも必ずしも好意的に扱う保証はない。[訳者注: 包装ギフトの絵文字 Unicode (U+1F381) 🎁 は、閲覧環境によりうまく表示されないことがあります。ご了承ください。また、電子メール版では Unicode 文字を扱えませんので、「包装ギフトの絵文字」を「 (*) 」に置き換えておきました。]

では、基本原則をお分かり頂けたと思うので、報告記事を始めよう。

まず DisplayLink が(ほぼ文字通り)私の目を捉えた。一台の MacBook Air が、それぞれ 1920 × 1200 の外付けモニタを二台並べて動かすところを実演していたのだ。しかも二つのスクリーンそれぞれに 1080p のビデオが走っていて、まだまだそれぞれのスクリーンに余地が残っていた。この MacBook Air は USB 3.0 経由で二台のモニタを動かす Lenovo ドックに接続されていたが、チップは DisplayLink 製だ。Belkin など他のメーカーの作るドックにもこのチップが組み込まれて販売される。DisplayLink は USB 2.0 でも動作するが、2.0 が処理できる範囲を超えたバンド幅が必要な場合には外部画像をダウンサンプルすることで働く。

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Olloclip のスナップ式レンズが、iPhone 4、4S や 5 にも合うようにアップデートされ、さらに iPod touch で使うためのアダプタも付いた。このレンズを使うことで、広角、魚眼、およびマクロレンズ機能を内蔵のレンズに追加できる。私はどうひいき目に見てもアマチュア写真家に過ぎないので、$69 というこのレンズの価格は私には高過ぎるが、それでもたいていのレンズに比べればずっと安い。それにこの機器の「あとで使うときのために鞄に放り込んでおける」フォームファクターはとても良いと思う。

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Flicpost は、プリントされた実際の写真を送付する無料の iPhone アプリを実演していた。物理的な郵便で、インターネット接続を 持っていないかもしれない 人に宛てて、送るのだ。一枚目の写真の価格は米国や英国など数ヵ国に宛てる場合は $0.69、その他の宛先へは $0.99、二枚目以降は一枚 $0.20 となる。この種のサービスは全く新しいわけではないが、私の注意を惹いたのはそのプレス用キットだった。それは、Neil deGrasse Tyson に宛てられた封筒の模型となっていた。(2012 年 10 月 9 日の記事“"何が技術をかっこ良くする"、Neil deGrasse Tyson が語る”参照。)

こちらも昔を思い出すものの部類に入るが、 SoloMatrix の製品で私の心を打ったのは... そう、iPhone 用の物理的キーボードだった。昔からの BlackBerry ユーザーでようやく切り替えようとしている人たちがどれくらいいるのかは知らないが、この Spike TypeSmart は縦長に持った iPhone の仮想キーボードの上にポンと置けるなかなか良いキーボードだ。これを取り上げる価値があると思ったのは Bluetooth でなく Lightning または 30-pin のコネクタを備えたケースを使っているからだ。使わないときはキーボードをケースの中に平らに畳み込むことができる。実演していた男性は、私がうっかり彼の iPhone を落としてしまい「中国から届いたばかりの最初の 10 個のキーボードの一つ」をパチンと開かせてしまっても(おっとっと)変わらずニコニコしていた。予約注文の価格は、キーボードに付くケースのタイプに応じて $35、$60、または $150 となっている。

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私はオーディオファンではなく私の聴覚は全然あてにならないので(2011 年 2 月 8 日の記事“iOS 補聴器... 或いは、スーパーマンの耳の買い方”参照)ヘッドフォンの音質についてレビューする資格はない。それでも私は、$69 の BlueAnt Ribbon 🎁 の背後にある考え方が気に入った。Bluetooth ステレオヘッドフォンの Bluetooth 部分だけを分離させて、普通の 3.5mm ヘッドフォンジャックを付け、既存のヘッドセットでもその他のスピーカー機材でも、何でも差し込んで使えるようにしたのだ。この Ribbon は衣服に取り付けることができ、十分軽量なので外部スピーカーの Bluetooth ドライバとして使うためにぶら下げたままにしておいても差し支えない。私はこのやり方の大ファンだ。ラップトップバッグに引っ張られて私の耳から有線のヘッドセットが抜け落ちたことが数限りなくあるからだ。

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私はまた子供用のアプリをレビューする資格もない。子供は好きだが... 緑のものをたっぷり散らしたベアネーズソースの中に浸けさえすれば。それはさておき、TCKL の Drip Drops Color the World 3D は 2 歳から 6 歳向けのアプリで、なかなか良く出来ているように見えた。子供が(あるいは子育てで頭がどうにかなった大人が)物語に導かれて、3D のオブジェクトに色を塗ると、そのオブジェクトがその後の物語に登場する。最初のシーンは球状のキャンバスだが、次のシーンはもうスクリーン上のキャラクターたちが遊ぶ楽しい場所となる。発売は 2013 年 1 月末の予定だ。(既に App Store に出ている無料の 2D 版とは別物だ。)価格は未発表だ。ここで警告を: びっくりするほど元気な音楽が流れ出す心構えをせずこのリンクをクリックしては いけない。特に、午前 3 時半のラスベガスのホテルの部屋の中では厳禁!

たぶんこれも「Jeff は子供嫌い」の部類に入るだろうが、 Tethercell は電池ケースで、AAA (単4) 電池一個を入れれば Bluetooth 装備の AA (単3) 電池となる。Bluetooth でスマートフォンのアプリに接続すれば、何時から何時まで電池を使えるかを設定できる。つまり、Tethercell を使ったオモチャを、ありがたいことに一斉にすべてオフにできる、マスタースイッチとなるのだ。今のところこの Tethercell はまだ Indiegogo の予約注文の段階だが、ブースではどうやら完全機能のように見える iOS ソフトウェアを使って試作品を動かす実演をしていた。子供嫌い連盟の代表者たる私としては、これが製品化されることを切に望みたい。

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Spigen SGP は、明白な賄賂でこの記事への登場を確保した唯一のベンダーだ。私がブースの前を立ち止まらず通り過ぎようとすると、私の iPhone 5 がむき出しの状態なのに気付いた誰かが「スクリーンプロテクターを無料で配ってるのをご存じ?」と話しかけてくれた。そのスクリーンプロテクターの品質が素晴らしかったので、ここに書くことにした。どうせまたちゃちなプラスチックのフィルムなんだろうと思っていたら、違った。$27.99 の GLAS.t 🎁 と $34.99 の GLAS.tr 🎁 の二種類あるプロテクターはいずれも油分をはじくコーティングを施した強化ガラス製で、何もしない iPhone 5 スクリーンを触るのと全く同じ感触だ。GLAS.tr の方は角が丸められていてケースを付けない iPhone に使っても欠けたりしないようになっており、GLAS.t の方はケース付きの iPhone で使うことを推奨されている。スクリーンが砕けるような衝撃に iPhone が晒されても、これらのプロテクターが衝撃を受け止め、万一の場合にもプロテクター自身が割れて iPhone のディスプレイを無傷に保つようにする。Spigen は同社から $17.99 で出ている Slim Armor 🎁 iPhone ケースも私に手渡してくれた。こちらは見た目は感じ良いけれどもそれ以外にどうということはなく、落とした場合にどれくらい保護をしてくれるかのテストなど人の寿命程度の期間はしないまま放置されるような気がする。これらすべて、iPhone 5 用のバージョンが CES で初登場またはつい最近発売されている。

「唖然とする」部類に入るものを一つ紹介しよう。Bluetooth 対応のフォークがずっと欲しかったという人に、HAPIlabs が夢を叶えてくれた。HAPIfork は、あなたの食べる速度が速過ぎると感知すれば、振動することによってもっとゆっくり食べなさいと教えてくれる。傑作なことに、口の中の電気伝導度を利用して回路を閉じるのだという。HAPIfork は、コンピュータとは USB を通じて、スマートフォンとは Bluetooth を通じて、それから Ben & Jerry's アイスクリームの 1 パイント (約 500 cc) カップを目の前にした自らの実存に関する深い悩みを通じて動作する。

こちらも「唖然とする」部類に入るのが、NeuroSky から $129.95 で出ている MindWave Mobile だ。彼らは、これを Neurowear から $99.95 で出ている Brainwave Cat Ears (nekomimi) と使うことを推奨している。MindWave Mobile はセンサー付きのヘッドセットで、これをあなたの頭に取り付ければ、あなたの脳の伝導度を利用してスマートフォンのアプリとやり取りしたり、あるいは Cat Ears とやり取りしたりするのだという。Cat Ears は、あなたがその瞬間どれほど集中しているかに応じて耳をピンと立てたり垂らしたりする。顔の表情だけでも あまりに 2012 年風だ。下の写真は、どうしても 黒い 猫になりたい人のために $20 で別売されている Obsidian 色の交換用耳を取り付けたところだ。

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最後に、そして一番どうでもいいものだが、 LiteBrix を紹介しよう。あえてこれを含めたのは、私がうっかりと 1970 年代の Lite Brite コマーシャルに感染して、その音楽が耳にこびりついて消えなくなってしまい、この窮状を皆さんと共有するのが唯一の治療方法ではないかと思ったからだ。

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Open With サブメニューで重複項目を削除

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

時として、問題に対する解決が空から降って来ることもある。それが今回は、 TidBITS Talkから解決が降って来た。最近の TidBITS Talk への投稿の中で Shirley Jordan は、Finder で書類をデフォルト以外のアプリケーションで開こうとしてその書類を右クリックしてコンテクストメニューの Open With (このアプリケーションで開く) サブメニューを出す度に、サブメニュー上のアプリケーションがすべて二回ずつ重複して表示される、どうしたらよいのだろうか、と質問した。それに対して Miraz Jordan、Alan Forkosh、それに Curtis Wilcox の三人からそれぞれ素早く返事が届き、問題の原因は Launch Services データベースが壊れたことにあって、これは Terminal で一行のコマンドを走らせれば解決するし、あるいは Cocktail その他のユーティリティを使う方法もある、とのことだった。

実は、私も同じ状況を目にしていた。私の Open With サブメニューには個々のアプリケーションが二回、ものによっては三回も見えていたのだが、それほど気になる問題ではなかったので、解決策を探る気にもならず放置していたのだった。そういうわけで私も喜んでその解決策を私のラップトップ機に電子メールの形で降って来させ、Terminal を開いて下記のコマンド(すべてが一行であって途中に改行は含まれない)をペーストして走らせ、それから Finder の Dock アイコンを Control-Option-クリックして Relaunch を選んで Finder を再起動させてみると、見事に私の Open With サブメニューには個々のアプリケーションが一回ずつしか表示されないようになった。[訳者注: コマンドに含まれる lsregister のパスは、OS X のバージョンにより異なることがあります。]

sudo /System/Library/Frameworks/CoreServices.framework/Versions/Current/Frameworks/LaunchServices.framework/Support/lsregister -kill -r -domain local -domain system -domain user

その後 Conrad Hirano からの投稿で、彼の Mac では Finder を再起動するだけでは Open With サブメニューをリセットするには十分でなく、ログアウトしてからログインし直す必要があったとの報告があった。個人的な意見としては、何か変なことが起こる度に、私は Mac 全体を再起動する方がよいと思う。そうしても大して時間はかからないのだから。

私の知る限り、このようなやり方で Launch Services データベースの再構築をしても不都合なことはないはずだ。ただし、例えば Open With サブメニューの項目が重複するなど、何かちゃんとした理由がない限りむやみにすべきことではない。

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Amazon AutoRip: iTunes Match ではないが、時間節約にはなる

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

今日 CD を買うとしたら、次は何をしますか? 勿論、MP3 か AAC へとリップする。そうすれば、コンピュータ、電話、或いはタブレットから演奏できる。今でも CD プレーヤーを持っている人は沢山いると思うが、私は大きなデジタルライブラリから音楽を選ぶ容易さに慣れてしまった今では、ディスクを入れ替え続けるのは面倒だと感じてしまっている。それが音楽を iTunes Store や Amazon MP3 Store から買う魅力となっている。と言うのも、まず第一に CD をリップする手間もいらないし、それに棚や箱の中にそれをしまう場所を探す必要もないからである。

しかし、CD などもう要らないなどと思うなかれ。ギフトラップして、クリスマスツリーの下に置いておく方が iTunes ギフトカードよりずっと満足度が高いし、内蔵バックアップでもあり (今では Apple も Amazon も購入した音楽は再ダウンロードさせてくれるので、その重要度は下がっているが)、そしてそのアルバムアートや付属の解説書のお蔭で、興味深い収集物ともなり得る。そして世の中には、一過性のデジタルダウンロードよりも実体のあるプラスチックの方を好む人も沢山いるであろうことは間違いない。

Amazon は AutoRip と呼ばれる新しいサービスを発表したばかりである。これは、CD を買いたいと言う人に両方の世界の一番良い所を手にして貰おうとの狙いである。もし Amazon から CD を買って、それがこのサービスの対象となる 50,000 アルバムに該当すれば、その CD を買った時、自動的にその曲の MP3 バージョンも受け取ることになり、直ちにダウンロード出来る。リップする必要は全くない。(対象となるアルバムには、Add to Cart ボタンの下に AutoRip ロゴが現れる。)

その AutoRip MP3 は Amazon Cloud Player の中に現れる。これは Web アプリで、Amazon MP3 Store から購入した音楽、及びあなたがアップロードした音楽を保存し演奏する ("Amazon、あなたの音楽をクラウドに置く" 2 April 2011 参照)。保存された音楽を演奏するのは、iOS, Android, Sonos, そして Roku に対するアプリからも出来る。

AutoRip を利用するには、単にこのプログラムに含まれている CD を買えば良いだけだが、Amazon はこの特典を更に拡げ、購入された CD を 1998年にまで遡って含めることとした。従って、もし Cloud Player にログインすると、以前購入した CD から音楽をあなたに与えているかどうか教えてくれる。それには特別の青-緑のアイコンで印が付けられている。私は 1996年以来 Amazon から何枚の CD を購入したのか見当もつかないが、私の Cloud Player には四つしか現れなかった。

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尋ねられる前に言っておくと、残念ながら、ギフトとして購入された CD は AutoRip の対象にならない。さもないと、二人の人がその音楽を手にすることになってしまう。勿論、あなたが CD を誰かの欲しい物リストから選択するか、或いはチェックアウト時にギフトだと指示するかしていない限り、Amazon があなたは CD をギフトとして買っているのかどうかを知る由は無い。更に、返品に関する条項にも注意を払うべきである;もし CD をその MP3 をダウンロードした後で返品すると、そのダウンロードには課金されるが、ダウンロードしていなければ、それは単にあなたの Cloud Player ライブラリから消え去るだけで課金はされない。

では AutoRip は Apple の年額 $24.99 の iTunes Match サービスと較べるとどうなのであろうか? 同じなのは些細な部分でしかない。どちらのサービスも高品質で DRM フリーの音楽のデジタルコピーをくれるが、iTunes Match はあなたの既存のリップした音楽全てで働くが、AutoRip は Amazon から購入した CD からの音楽としか働かないし、全ての音楽が含まれているわけでもない。しかし、AutoRip は無料なので、物理的な CD も手にしたいと言うのであれば、他の販売店からではなく Amazon から買う理由の一つとなるであろう。これが狙いなのだろうことは私にも分かる。

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ITConversations、自らに終止符を打つ

  文: Glenn Fleishman: [email protected], @glennf
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

全部がポッドキャストという最初のネットワークである ITConversations は、2003年に Doug Kaye によって創設されたが、新しいエピソードを作成するのを止めた。先月それが閉じられた時、このネットワークはおよそ 10 年に及ぶ歴史と情報技術者が興味のある多くのショーや話題にまたがる 3,300 のエピソードを有していた。しかし、Kaye の影響は、個々のポッドキャストの中身よりも更に広いものであった。

Kaye はこのネットワークを "ポッドキャスト" という呼び方が定着するよりも前に始めた。彼の意図はダウンロード出来る音声プログラムを作ることで、カンファレンス行事から始めた。当時、帯域も、興味も、そして聴衆もこれを始めるには十分な大きさになったとの判断だったが、これで金儲けをしようとの意図はなかった。その中で、彼は彼が学んだほぼ全てのことを聴衆や世界全体と共有した。作業の多くはボランティアによってなされた。

ポッドキャストは ITConversations を Web ページ上のリンクから音声出版ストリームへと変身させた。これは音声コンテンツを直接 RSS ニュースフィードへと統合することによって可能になり、そして自動的に iTunes にインポートされることが可能であった。(RSS と自動インポートは Dave Winer と Adam Curry の偉大な発案であった。) ポッドキャストのエピソードを自動的に入手しそして iTunes の様なプログラムに保存することが出来ることで、相当数の聴衆を引き寄せることが容易になったが、Kaye は必要な技術要素を彼のフィードに統合した最初の人達の一人でもある。IT 専門家たちはスクリプトや初期段階のソフトウェアをインストールする可能性が高く、彼の話題はまさにぴったりでもあった。

Kaye はまた The Levelator の作成にも関与していた。我々 TidBITS でも、我々のポッドキャストの音声品質を向上させるためにこれを使っている ("PodBOT でオーディオ版 TidBITS が改善" 7 May 2012)。The Levelator は、多種の入力レベルをもつポッドキャストを - ローカルマイク、遠隔地の Skype 参加者、パッチインされた電話、等々 - 一定の音の大きさの音声ファイルにしてくれる。つまり、全ての参加者はほぼ同じ音量で聞こえるので、低音も高音も含めて、聞く側は聞きやすくするために始終ボリュームをいじる必要がなくなる。Kaye の音声技術者である同僚、とりわけ Bruce と Malcolm Sharpe が、音声正規化ユーティリティを開発し、それがやがて The Levelator となり、無料でリリースされた。これは、与えることを継続するインターネットに対する大きな贈り物であった。

Kaye は日常の ITConversations 運営を 2006年に Phil Windley に任せたが、自らも深く関与し続けた。私は前に Kaye と素晴らしい会話をしたことがある。当時、私は私の Wi-Fi Networking News ブログのために短い シリーズのポッドキャストを計画し立ち上げたところであった (私は 26 のエピソードを 2006年に録音した)。彼は時間と知恵を惜しまず、かつ私のポッドキャストを ITConversations でホストすることを申し出てくれた。Windley もまたインターネットの好人物の一人で、彼の苦労して得た知識を溜め込んでおくよりも、彼の専門知識を広く共有する方が好きである。KayeWindley は 2012年の 8月と 9月にこの終了についての知らせを書いていた;私が知ったのは最近で、彼らが最後のエピソードを発表した時であった。彼ら二人は 3 December 2012 に最後の会話を持った - 当然のことながら、ポッドキャストの形で!

何故閉じてしまったのか? Kaye の言葉を引用する:

我々はイベント制作者やポッドキャスターがプログラムを彼ら自身で作成し出版するのを手助けして来たが、次第に自分達でやる人が多くなってきた。The Conversations Network の様なサービスに対するニーズはもうあまり顕在化していない。という訳で、我々は自分達のミッションを、残存するパートナーがそのポッドキャストを自らの Web サイトで続けるのを手助けすることで完了する決心をした。

最後に Doug Kaye と Phil Windley へ! インターネットは長いこと寛大な精神に支えられてきた。そして彼らはその最善の二人であり、何千というポッドキャスターや何百万という聴取者を助けてきた。そこには 200 人を超える有給そして無給のスタッフが長年に亘ってポッドキャストに係わってきた。ITConversations が Internet Archive の乾ドックに入ったからと言って悲しむのはやめよう;もしろ、それが千もの新しい声を立ち上げたことを祝福しよう。

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iFlicks、iTunes インポートを改善

  文: Josh Centers: [email protected], @jcenters
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

もしあなたが Apple のエコシステムに投資して来ているならば、ビデオを見るのは結構手がかかる場合がある。勿論、あなたの全ての TV 番組や映画を iTunes を通して買うか、或いは Netflix でストリームするのであれば話は簡単だが、でもあなたのその他の映画や TV 番組はどうであろうか? つまり、あなたがリップしたもの、Elgato EyeTV 機器経由で録画したもの、或いは所謂その他の手段で入手したものはどうであろうか?

Handbrakeの様な DVD リッパーはあなたの DVD を iTunes と親和性の高い MP4 ファイルに変換してくれるが、常に大本命と言う話にはならない。私が Handbrake でリップした映画は私の全ての機器上で常に完璧に働くわけではない。私の Apple TV 上では問題なくとも私の Mac 上ではギクシャクしたりすることもあるし、その反対の場合もある。更に動作は問題なくいくとしても、そのカバーアートやメタデータの方はどうであろうか? カバーアートに多数抜けのある iTunes ウィンドウに見入るより具合の悪いことなどまずないだろう。Subler は人気のメタデータエディターだが、使い辛さは天下一品で、 OS X 10.8 Mountain Lion とは問題があることが分かっている。映画を見るだけなのにこれ程の手間がかかってもよいという人は何処にいるであろうか?

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そこで登場するのは iFlicks ($19.99) である。単純にあなたの映画や TV 番組を iFlicks にドラッグ&ドロップするだけで、残りは全部やってくれる - それらを Apple に優しいフォーマットに包み込み、アートやメタデータを取り出し、そしてビデオを iTunes にインポートする。一度に幾つも加えられるので、あなたの全ライブラリをデジタイズしようとしている場合など便利である。

私は iFlicks をもう何か月か使っているが、殆ど完璧である。H.264 でエンコードされたビデオに対しては、これは Apple 推奨のビデオコーデックでもあるが、変換は速くそしてシンプルであり、高解像度ビデオですらたったの数分で済んでしまう。殆どの MKV と FLV ビデオファイルは、そして殆どの Handbrake でリップしたディスクも、この方式でエンコードされている。これらに対して、私はデフォルトの "iTunes compatible" 設定を使う。これはビデオの品質には手を触れず、そのコンテンツを Apple に優しいフォーマットに包み込む。

AVI ファイルの様な H.264 でエンコードされていないビデオに対しては、処理時間は長くなる。これらに対して、私は多くの場合 Universal 設定を用いなければならない。これは Perian QuickTime プラグインを使用してそのビデオを標準解像度の 720 x 576 に再エンコードする (Perian はもはやアップデートされていないが、その必要性を無くす iFlicks アップデートが間もなく出される - "QuickTime フォーマット拡張ツール Perian が開発を中止" 16 May 2012 参照。) 幸いにして、H.264 でエンコードされていない高解像度ビデオは極めてまれである。

ビデオ変換でのややこしい側面は字幕コンテンツであるが、iFlicks は何ら問題なく字幕を扱う。もしあなたが字幕ファイルをビデオと同じディレクトリ内にお持ちなら (通常 .srt ファイル拡張子を持っている)、iFlicks はそれを自動的に追加する。その後は、ビデオの字幕を通常の様に有効にできる:iTunes 内では、ビデオを見ながらワードバブルをクリックする、そして Apple TV 上では、ビデオを見ている時リモートの中心ボタンをホールドする。

では iFlicks はどうやってあなたのビデオを認識するのであろうか? そのビデオのファイル名を使って自動的に行い、そしてその正しいメタデータを探し出すのにも素晴らしい仕事をする。iFlicks は、その情報を探すのに themovidedb.org 及び TheTVDB.com を使う。私はある TV 番組の最新のエピソードを iFlicks に入れてみたら、iFlicks は自動的にそのエピソードを認識しそのカバーアートも今シーズン用のものを取り込んだ。もし iFlicks がピタッとしたものに辿りつけなくとも、手動でそのメタデータを編集させてくれる。それをするには、主ウィンドウでそのビデオをダブルクリックする。

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しかし、もしあなたのビデオがもうすでに iTunes にある場合はどうであろうか?これも問題ない。iFlicks には iTunes 内からアクセス出来る Services メニューがある。既存のメタデータをアップデートしたり、或いは問題の多いビデオを再エンコードしたりするのを iTunes から離れることなしに出来る。

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iFlicks は iTunes に優しいビデオファイルを作成するためには、私の知る限りでは最も簡単な方法である。それはあなたのビデオ収集をデジタイズするのに頭痛の種を取り除いてくれ、そしてあなたの収集を見ても美しいものにさえしてくれる。iFlicks はその $19.99 という値段には十分値する。もっとも、この値段も前にはセールで $2 まで下がったことはあるのだが。もし iTunes のあなたの映画収集を整理したいのなら、iFlicks は必須の一品である。

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2013 年にアンチウイルスソフトウェアは必要か?

  文: Rich Mogull: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

以前私が記事“Mac ユーザーはアンチウイルスソフトウェアを使うべきか?”(2008 年 3 月 18 日) を書いてから、四年以上が経った。その当時から今日まで多くのことが変わったが、私がお勧めする内容は大体において変わっていない。Mac も確かに悪意あるソフトウェア(マルウェア)の影響を受けない訳ではないし、2012 年には私たちも一つのマルウェアがある程度広くまん延するのを経験したが、それでも依然として Mac 上のマルウェアというのはそれほど一般的でなく、すべての人に対してアンチウイルスソフトウェアの使用をお勧めするほどではない。その上、アンチウイルスツールというものは特定の既知の攻撃に対しては有効であるけれども、多くの場合人々が期待するレベルの保護までは提供できない。

マルウェアは多くなったけれども、依然として稀 -- 2012 年の 4 月に、私たちは Flashback を経験した。これは Mac に対する攻撃としては初めて広くまん延したものであった。(2012 年 4 月 5 日の記事“最新の Flashback マルウェアに対する検出と保護の方法”参照。)ある報告によれば 500,000 台の Mac が感染していた時点があったというが、感染した Mac や Mac ユーザーの中にこの攻撃により実質的な害を受けた事例があったという証言は出ていない。これで Apple の「無垢の時代」は終わりを告げた、Mac ユーザーたちも今後は Windows ユーザーたちと同じようにマルウェアの激しい攻撃に晒されるようになるだろう、と予想する声も、一部ではすぐに聞こえてきた。

その運命的な一週間以後、私たちはそれに続く二番手のアタックがまん延するのを目にすることはなく、Flashback 以前の時代と似たような小規模の散発的な感染が数回見られるに止まった。(特定のターゲットに絞られた攻撃がいくつかあるにはあったけれども、その種の攻撃に対してはアンチウイルスにあまり効果がないことに注意しよう。)上記の予想の声にもかかわらず、Mac ユーザーたちがマルウェアの急増を目にすることはなく、今に至っても稀なままだ。

こうした結果となった原因の一つは、Flashback 以前も、Flashback に応じても、Apple が手段を講じてきたからだ。この点については記事“2012 年の Apple のセキュリティ取り組みを総括”(2012 年 12 月 20 日) で概観した。Gatekeeper は、ユーザーが騙されて自分のコンピュータにマルウェアをインストールしてしまう可能性を減らすためにデザインされた。それが、今もまだ最も一般的な Mac に対する攻撃の手法だからだ。(2012 年 2 月 16 日の記事“Gatekeeper が Mac のマルウェア流行にピシャリとドアを閉める”参照。)Apple は継続的にオペレーティングシステム自体の堅牢化も続けており、遠隔からオペレーティングシステムを攻撃することを困難にしつつある。(ただしそれを不可能にする状態には程遠いが。)今や Mac App Store にあるすべてのアプリはサンドボックスを実装していて、そのアプリが侵入を受けてもそれが害を及ぼせる範囲が限定されるようになっている。ただ、あきれたことに、Apple は自社製のアプリをまだサンドボックス化できていない。また Apple は Java と Adobe Flash (Flashback が攻撃したソフトウェア) をサポートするやり方を大幅に変更し、これらがウェブブラウザ経由の感染の入り口として利用されるのをさらに強く制限できるようにした。

それに加えて、もしも報道された内容が正しければ、Flashback は結局アタッカーたちに大きな収入をもたらすことがなかった。大体において悪い連中がそういうことをしているのは金が目的であるので、他のどんなビジネスでも同じことだが採算性の悪い製品は放棄される。実際、Apple によるセキュリティの変更は、同社が自ら明かしているところによれば、個々のアタックをすべて止めることよりも、むしろマルウェアの経済的意味を妨げることを狙っている。

だからと言って、将来にわたって Mac に向けた攻撃が成功することがあり得ないということにはならない。けれども、あらゆる兆候が、そのような攻撃は限定されたものになるであろうことを示唆している。つまり、Windows に対して見られるような、終わりなくひっきりなしに続くアタックの大襲来のような状態でなく、散発的な偶発的発生のみという状態が続くと考えるのが妥当だ。このエコシステムは、その規模と、Apple による保護とのお陰で、Mac 用のマルウェアが継続的に続く状態を下支えすることが不可能なのだ。最新のいくつかのバージョンの Windows でさえ、以前と同じ程度のマルウェアの問題に直面しないようになってきている。

広くまん延するものが現われることもきっとあるだろう。それでも、そうした問題は素早く発見され素早く抑制される可能性が非常に高い。アンチウイルスについて言えば、その種の攻撃を予防するためにアンチウイルスソフトウェアが重大な役割を果たす可能性は、そこに内在する限界の結果として、低いだろうと言わざるを得ない。

アンチウイルスの限界 -- 悪意あるソフトウェアを探知する方法は主に二つある。普通でない活動を探知する(挙動分析)か、またはソフトウェアの内部に悪意あると知られたものが存在しているのを見つけ出すかだ。現在市場にあるほとんどすべてのアンチウイルスツールは、マルウェアを探知するため主として「署名」に(またはそれのみに)依存している。

署名とは、一般的に単なる文字列であって、既知のマルウェアの一部分に対する hash 値であることが多い。アンチウイルス会社は、マルウェアのサンプルを探してインターネットを常に見張っている。悪意あるプログラムがいったん見つかれば、会社がそのアプリケーションのコードに基づいて署名を作成し、あなたがウイルス定義をアップデートする際にあなたのコンピュータ上のアンチウイルスソフトウェアの中にその署名が送り込まれる。あなたのアンチウイルスソフトウェアはコンピュータ上に新たなファイルが到着する度にそれをスキャンし、また定期的にあなたのシステム上にあるすべてのファイルもスキャンし、それらの署名が含まれていないかを探す。

一般にセキュリティツールが挙動分析に依存することを避けるのは、汎用目的のコンピュータ上で特定のアクションが「悪いもの」であるかどうかを見分けるのが非常に困難であるからだ。どんな悪意あるアクションを思い描いても、別のコンテクストにおいてはその活動にれっきとした意味があるという可能性も十分ある。また、そのような活動をきちんと把握できるようにオペレーティングシステムの中の理想的なレベルにフックを入れて入り込むのも難しいことだ。その上、感染の動作そのもの(それはソフトウェアをインストールする完全に正常な動作と全く同じに見えるかもしれない)を探知してうまくそれを予防できない限り、そのツールが悪い挙動を探知する機会を得るより前にそのマルウェアがあなたのシステム上で走ってしまうことになる。こうして、挙動分析の方法にはさまざまな限界がある。これは個人用のコンピュータにおいてよりも、むしろ企業の持つサーバのような、コントロールの手の行き届いた環境において効果的に働く。

署名によるスキャンの方法の利点は、もしも署名がマッチして、かつその署名がうまく作られているならば、既知の悪意あるソフトウェアを高い信頼性をもって判別できるところだ。また、ソフトウェアがあなたのシステムに到着するより以前に、あるいはそれが初めて走るより前に、ソフトウェアをスキャンすることも可能となる。けれども、こちらの方法には極めて不都合な面が二つある。

最も明らかな欠点は、署名を作成するためにはアンチウイルスのベンダーがそのマルウェアのサンプルを手に入れなければならないことだ。彼らは、手に入れられるものについてしか署名を作ることができない。つまり、新たなマルウェアが登場してから、そのサンプルが初めて彼らの手に入り、署名が作成され、署名がクライアントのコンピュータに届けられるまで、必ずある程度の時間が経過してしまう。すべての悪意あるプログラムが一から作られている訳ではないので、理論的にはアンチウイルスツールが新たな変種をキャッチできる可能性はあると言えるだろう。けれども悪い連中はこのことをよく知っていて、主要なアンチウイルスプログラムを購入し、変種をリリースする前にあらかじめテストを走らせている。あるいは、予算が限られている場合は、VirusTotalのようなサイトでサンプルを走らせてテストしている。このサイトでは、何十というアンチウイルスツールに対してサンプルをテストすることができる。

もう一つの大きな問題は、マルウェアというのは人気ある市場であって、毎日新たな変種が大量に登場していることだ。あるアンチウイルスベンダーは、新たなマルウェアが 毎日 65,000 個 という頻度で登場すると報告している。それはつまり、彼らは毎日 65,000 個ずつの署名を作成し、テストし、顧客にリリースしなければならないということだ。(ウイルス定義を毎日アップデートすることが重要なのがこれでお分かりだろう。)これら二つの要因が合わされば、アンチウイルスベンダーが完全に最新の状態を続けることは実質的に不可能となる。彼らのツールは確かに多数のマルウェアをフィルター分けできるけれども、悪いものすべてを捉えるには到底力が及ばないし、探知される前に新たなマルウェアが広がる可能性は常に存在しているのだ。

Mac 用のマルウェアの数ははるかに少ないけれども、それでも各種ツールの有用性に限界がある事例はいくつも見られる。例えば、最近の Thomas Reed によるテストによれば、Mac 用の最高のマルウェアツールでさえテストに用いられた既知のマルウェアのサンプルのうち 90 パーセントしか探知できなかったという。これでは良い成績とは言えない。Mac 用のマルウェアの変種は一年あたり数十個程度に過ぎず、Windows 用の毎日 65,000 個に比べればずっと少ないのだから。

人々にアンチウイルスツールを採用するように勧めるための宣伝文句として Flashback が使われているけれども、そうしたツールの大多数は Flashback が登場した後の数週間、大々的に報道されるようになる頃まで、Flashback を探知することができないでいたのだ。

さらに、別の技術的問題もある。分析や探知を精密にしようとすればするほど、アンチウイルスツールはより深くあなたのシステムの中へフックして入り込む必要があるが、それをすればするほど失敗する可能性が増す。Apple はあまり頼りにならない。なぜなら Apple は、アンチウイルスのベンダーに手を貸すよりもマルウェアがオペレーティングシステムを乗っ取ることを防ぐことの方に関心があるからだ。結局のところ、アンチウイルスのベンダーは、ファイルへのアクセスをすべて監視して、アプリケーションを起動したりファイルを開いたりすることにコントロールの手を及ぼす必要があるのだが、それはまさにマルウェアの作者がしたいことでもあるのだから。その上、コンピュータのパフォーマンスに大きな影響を与えてしまうという点もあるし、ほとんどすべてのアンチウイルスベンダーが過去に不正な署名を発行して顧客に重大な困難を生じさせた経歴を持つこともある。多くの場合、重要なシステムファイルやアプリケーションファイルを誤ってウイルスだと判定すれば、アンチウイルスソフトウェアがその(重要かつ正当な)ファイルのシステムへの「攻撃」を阻止しようと試みることで当然ながら深刻な問題が起こってしまう。

Mac における今日のセキュリティの現状とマルウェアの環境を考えれば、大多数のコンシューマに対して Mac 用アンチウイルスツールを勧めることは私にはできない。OS X 内蔵のセキュリティと基本的マルウェア防止策で、 現時点では 既存の Mac 用マルウェアの大多数(あるいはおそらく全部)が止められており、新規のマルウェア変種もそれほど頻繁に登場しないので、個人用の Mac を保護するためにアンチウイルスツールが十分大きな恩恵を提供できているとは思えないからだ。Mac への感染は非常に稀であり、アンチウイルスツールの働きは非常に限定されているので、大多数の Mac ユーザーにとってそれを使うだけの価値は提供されない。たとえ無料のものであっても。

どんな場合にアンチウイルスを使うべきか -- 以上述べてきた限界はさておき、それでもアンチウイルスソフトウェアに利用価値があるような状況もある。

まず第一に、しかもこれが最重要だが、 デスクトップ以外でアンチウイルスソフトウェアを使う 場合がある。電子メールを署名に基づくフィルター分けすることにより、メールがあなたのデスクトップに到着する前に既存のウイルスを止めることができる。Gmail、iCloud、Yahoo、Hotmail など、あなたのコンピュータにダウンロードされるよりも前にすべての電子メールに対してウイルスのフィルター分けを施している電子メールサービスを使うことを私は強くお勧めしたい。企業に対してはウェブのフィルタリングもお勧めするが、これは普通のコンシューマには簡単に手の届かないものだ。

アンチウイルスに利用価値があり得るもう一つのグループは、古いバージョンの OS X を走らせている家族の人たちだ。OS X における最高のアンチマルウェアのセキュリティ機能は、そのほとんどすべてが 10.8 Mountain Lion のみで利用できる。10.7 Lion ならば次点というところだ。TidBITS 読者の皆さんは大多数が最新の Mac および iOS オペレーティングシステムアップデートを施しておられるだろうが、皆さんの家族でそうでない方々がおられるなら、そういう人たちはアンチウイルスを使うべきかもしれない。

企業ユーザーもまた、企業のセキュリティ方針に従うため、あるいはその他の要件により、アンチウイルスソフトウェアを使う必要があるかもしれない。

もしもあなたが日常的にリスクの多い挙動をしているなら、アンチウイルスソフトウェアに利用価値があるかもしれない。例えば、Gatekeeper をオフにして非合法のソフトウェアや怪しげなソフトウェアをいつもダウンロードしているのなら、アンチウイルスソフトウェアを使うことで感染が予防できるかもしれない。まあおそらくは、という程度だが。もちろん、メインストリームのサイトにマルウェアが現われることも実際あるけれど、あなたが Gatekeeper をきちんと使い、既存の開発者による製品のみを入手しているなら、感染する可能性はゼロに近いだろう。

最後にもう一つ、心の平和のためだけにアンチウイルスを使いたいという人もいるだろう。ただしそれは、アンチウイルスツールも絶対信頼できるものではないことを理解し、とりわけ必要なパッチやウイルス定義アップデートを無視したりすればやはり感染する可能性が十分あることを心得た上で、という条件付きの話だ。

もしも Mac 用アンチウイルスツールが 100 パーセントの有効性を提供してくれていたら、あるいはそれが 99 パーセントであったとしても、私の意見は違っていただろう。もしも Windows の世界で起こっているような大量のマルウェアが出回っていたならば、私は別のことを推薦していたかもしれない。けれども現状においては、Mac 用マルウェアの感染事例は非常に少なく、アンチウイルスツールの働きは非常に限定されたものに過ぎないので、現行バージョンの OS X を使っているユーザーの大多数には、アンチウイルスを使ってもあまり意味はない。

Flashback 感染が広がっていた当時、Mac ユーザーたちはあまりにもうぬぼれていて、誤った情報に頼っている結果として、アンチウイルスソフトウェアをインストールしないでいるのだという非難があった。けれども現実は、アンチウイルスツールの提供する保護にも限界がある。だから、アンチウイルスを使えばセキュリティは大丈夫だと信じ込むのは、Mac ならウイルスの心配がないと信じ込むのと同じくらいに甘い考えだと言える。

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TidBITS 監視リスト: 注目のアップデート、2013 年 1 月 14 日

  文: TidBITS Staff: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

MacBook Air EFI ファームウェア・アップデート 2.6 -- 2012 年 6 月にリリースされた MacBook Air 機種に対する EFI ファームウェア・アップデート 2.6 が Apple から出た。今回のアップデートでは MacBook Air に接続された HDMI ディスプレイの色の問題を修正し、スタンバイモードで Thunderbolt 装置の電源を抜くことによりシステムがフリーズするバグを解消し、Boot Camp を使って Windows を正しく起動できない問題を解決している。OS X 10.8.2 Mountain Lion を要する。ファームウェアアップデートではいつものことだが、その機種に適した正しいファームウェアアップデートを得るため App Store に入手を任せること、アップデート作業を途中で中断しないように注意することをお勧めしたい。(無料、4.76 MB)

MacBook Air EFI Firmware Update 2.6 へのコメントリンク:

Firefox 18 -- 記録的な速さで選挙権年齢に達したようで、Mozilla がFirefox 18 をリリースした。新設された IonMonkey JavaScript コンパイラは、Mozilla によればウェブアプリやゲームを最大 25 パーセント高速化するという。今回の新リリースではまた、Mac OS X 10.7 Lion 以降で Retina ディスプレイに対応した。(これで既に Retina 対応の Safari や Chrome ウェブブラウザに追い付いた。)また、Web Real Time Communication (WebRTC) オープンフレームワーク(ブラウザ内のビデオチャット機能を有効にする)に対する「初期的」サポートも追加している。その他の変更点としては、タブ切り替え時のパフォーマンス改善、新しい HTML 拡大アルゴリズムによる画像の表示品質向上、HTTPS ページでセキュアでないコンテンツの読み込みを無効化する修正、プロキシの応答性の向上などがある。注意すべきことが一点ある。もしもあなたがしばらくの間 Firefox を開いたことがなく、しかも自動アップデートを有効にしている場合は、複数回のアップデートを経なければ Firefox 18 に到達することができない。(私たちのバージョンはまず 16.0.1 から 17.0.1 へ、次に 18 へとアップデートされた。)(無料、36.6 MB、リリースノート)

Firefox 18 へのコメントリンク:

Fission 2.1.1 -- Rogue Amoeba のオーディオ編集ソフトウェア Fission にマイナーアップデートのバージョン 2.1.1 が出た。新機能は一つだけで、Batch Converter が個別のファイルだけでなくオーディオファイルを含むフォルダも受け付けるようになった。今回のリリースではまた、Save パネルが前回保存した場所を覚えているようになり、チャプター分けされた AAC や非常に大きな画像ファイルでの問題を修正し、 Mac App Store 版でファイルを保存しようとするとエラーになってしまう問題を修正している。さらに、今回から Fission には Debugging ウィンドウからアクセスする隠れた環境設定が含まれ、Normalization クリッピングにおいて稀に起こる事例をアプリがチェックし予防できるようになった。(新規購入 $32、 TidBITS 会員には 20 パーセント割引、無料アップデート、10.7 MB、リリースノート)

Fission 2.1.1 へのコメントリンク:


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Valid XHTML 1.0! , Let iCab smile , Another HTML-lint gateway 日本語版最終更新:2013年 1月 26日 土曜日, S. HOSOKAWA