TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#1162/25-Feb-2013

今週も素晴らしい内容の記事が満載だ。まずは Agen Schmitz が iOS 6.1.2 を概観する。Microsoft Exchange Server との通信に関する深刻なバグを修正したものだ。Josh Centers と Joe Kissell は協力して電子メールに切り込んだ記事をそれぞれ一つずつ書き上げた。Josh は、大きな話題となった iPhone 用 Mailbox アプリをレビューし、Joe は、もしあなたが自分の電子メールにいつまでも続くトラブルを抱えているのならばそれは電子メール全般が問題なのでも使っているアプリが悪いのでもなく、あなた自身が変わらねばならないのだと優しく助言する。一方 Adam は、2013 年の MacTech BootCamp イベントでコンサルタントに対する新たな Microsoft 資格認定が追加されたニュースを伝えるとともに、HyperCard に触発された LiveCode 開発環境のオープンソース版を作ろうという Kickstarter によるキャンペーン(人気を集めつつあるが論議も呼んでいる)について検討する。今週注目すべきソフトウェアリリースは、TextWrangler 4.5、Adobe Acrobat XI および Reader XI 11.0.02、Transmit 4.3.2、KeyCue 6.4、Java for OS X 2013-001 および Java for Mac OS X 10.6 Update 13、iTunes 11.0.2、Firefox 19、BusyCal 2.0.3 だ。

記事:

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iOS 6.1.2、電池消耗の Exchange バグを修正

  文: Agen G. N. Schmitz: [email protected]
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

Apple は iOS 6.1.2 を出して電池消耗バグに対応した。このバグは iOS 6.1 で取り込まれたもので、Microsoft の Exchange Server と過度に通信することが原因であった;サーバーの方も、過剰なログの成長に悩まされ、そしてメモリと CPU の使用も増えて性能が落ちる。容易に想像出来る様に、iOS ユーザーそして Exchange Server 管理者の両者共、このバグに関しては極めて不満であった。

ことを複雑にしているのは、この問題は Apple と Microsoft では極めて異なった言葉使いで表現されている事である。Apple はそのサポート記事で次の様に言っている:

iOS 6.1 が走る機器上で Microsoft Exchange アカウントを使って繰り返しカレンダーイベントに対して 例外(*) に応答する時、その機器は Microsoft Exchange Server との間で過剰な通信をし始めることがある。iOS 機器上では、ネットワーク活動の増加や電池寿命の減少が見られることがある。この余剰なネットワーク活動は Exchange Server のログにも現れ、結果としてサーバーがその iOS 機器をブロックすることにつながることもある。この問題は iOS 6.1 と Microsoft Exchange 2010 SP1 かそれ以降、或いは Microsoft Exchange Online (Office365) との間で起こり得る。

(*) 例外 とは繰り返しカレンダーイベントの一つに対する変更である。

これは実際に起こっている - 我々は最近 Cornell Information Technologies から彼らの iOS ユーザーに対するこの問題についての警告を目にした、そしてApple は iOS 6.1.2 がこのバグにどの様に対処しているかを明確にしている。

しかしながら、両社共 Apple のサポート記事を引用しそして iOS 6.1.2 でこの問題は解決されていると言いながら、Microsoft は Exchange Server 管理者の観点から話をしており、全く違う表現で言っている:

ユーザーが iOS 6.1 或いは 6.1.1 ベースの機器を使ってメールボックスを同期する時、Microsoft Exchange Server 2010 Client Access サーバー (CAS) 及び Mailbox (MBX) サーバーの資源は消費され、ログの成長は過度になり、Recoverable Items の過度な成長が起こることも有り、そしてメモリと CPU の使用も際立って増大することがある。サーバー性能に影響を及ぼしている。

加えて、Office 365 Exchange Online ユーザーは iOS 6.1 或いは 6.1.1 ベースの機器上で見られる次の様なものに似たエラーメッセージを受け取る:"メール入手不可。サーバーへの接続失敗。" ユーザーに提供される唯一のオプションは OK しかない。

Apple は繰り返しのカレンダーイベントの単一インスタンスの変更について話をしているが、一方 Microsoft はメールボックスの同期について話している。しかし、我々が話した Exchange に詳しい人によると、矛盾はしないと言う。というのも、Microsoft の観点からすると、カレンダーイベントに働きかけるにはメールボックスの同期が関係してくる。Paul Robichaux が、彼のブログでより詳しい話をしている。

これはユーザーにとっても管理者にとってもたちの悪いバグに様に見えるかもしれないが、もし職場でメールとカレンダーに Exchange Server を使っているのであれば、アップデートする前にサーバー管理者に確認することをお勧めする。恐らくアップデートするよう言われるであろうが、協調をとるのが大事である。もしカレンダー用に Exchange を使っていないのであれば、このアップデートは遅らせてもよい - 壊れていないものを直すな、という言い伝えもあることだし。

これは iOS 6.1 で持ち込まれた問題の一つを修正するために出された二つ目のパッチとなる ("iOS 6.1、全世界での LTE サポートを拡大" 28 January 2013 参照)。リリースから二週間後に出された iOS 6.1.1 では、iPhone 4S でのセルラー接続問題を修正している ("iPhone 4S 用 iOS 6.1.1 がセルラー問題の修正を狙う" 11 February 2013 参照)。更に、iOS 6.1 では、誰かが ロックされた iPhone 上でパスコードをバイパスして連絡先や写真を見ることが出来ると言うもう一つのバグも持ち込まれている。Apple の iOS 6.1.2 に対するリリースノート (たった一行) は、この侵入に対する修正に言及していない。そして Ars Technica は独自のテストを通じてこのアップデートはこのセキュリティホールを埋めていないことを確認している。

この無料の iOS 6.1.2 アップデートは iTunes 経由でフルダウンロードとして入手可である (iPhone バージョンは 989.5 MB そして iPad バージョンは 1. 08 GB)。ダウンロードサイズを大幅に節減するには、自分の機器上での over-the-air オプションを選択すればよい (Settings > General > Software Update)。この over-the-air 差分 は iPhone に対しては 12.8 MB で iPad アップデートは 12.5 MB でしかない。このアップデートは無料で、iPhone 3GS 及びそれ以降、iPad 2 及びそれ以降、第四世代 iPod touch 及びそれ以降に適用される。

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MacTech BootCamp、コンサルタント向け Microsoft 資格認定を追加

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

MacTech は、2013 年内の同社の MacTech BootCamp II イベントにおいて毎回イベント開催の前に半日間のトレーニングと審査の機会を設け、Microsoft の新しい Microsoft Office for Mac Accredited Support Professional" 認証資格をコンサルタントたちが取得できるようにすると発表した。受講できる講座は Microsoft Office for Mac と Microsoft Office 365 スイートに関するものに絞られ、MacTech BootCamp の登録済み参加者は全員無料で受講できる。

この資格取得プログラムで扱われる話題のいくつかを紹介すると、インストール、Office のウェブアプリ、機器構成・環境設定・セッティング・使用における最良の実践方法、ライセンスの選択肢、クロスプラットフォームの機能、SkyDrive や SharePoint による書類共有、トラブルシューティングとよくある質問、利用可能なサポート源、などがある。講座の終わりにテストに合格すれば、Microsoft から資格認定証明書を受け取り、自分のウェブサイトや、その他の宣伝用資料の中で、また自分の資格証明書の中で、新しい認証資格グラフィックを表示することができるようになる。

今後予定されている MacTech BootCamp II イベントそれぞれのスケジュールは下記の通りだ。特にシアトルでのイベントには、我らが Jeff Carlson が講師となって Apple ID について語ることになっている。それぞれ丸一日開催される MacTech BootCamp イベントの通常料金は $499 だが、TidBITS 読者にはたったの $299 となる上に、$50 相当の MacTech Magazine 購読が付いている。

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iPhone 用 Mailbox、メールの仕分けは簡単だが重要な機能が欠落

  文: Josh Centers: [email protected], @jcenters
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

現時点で私は 5,500 通以上の電子メールメッセージを二つの受信箱 (inbox) に分けて持っている。ずっと以前には、それがゼロであった時点もあった。けれども電子メールはひっきりなしに到着し続け、私も潔癖にすべてのメッセージをいちいち選り分けている時間はない。それに、何かを見つけたいと思えば、そのために検索というものがあるではないか。そうだろう?

私の電子メール衛生状態がこれほどにいい加減なものであるにもかかわらず、Orchestra, Inc. の製品、iPhone 用の新しい Mailbox アプリを使っていると、私も自分の Gmail inbox からメッセージを消さずにいられない気持ちにさせられる。スクロールしながら inbox を眺めるだけで、何も考えずに私の指はただサッと右へスワイプするだけでメッセージをアーカイブしている。でも、この Mailbox が独特なのは、メッセージをあとで読めるように保留しておくことができるところで、これをスヌーズ (Snoozes) 機能という。(公平を期して言えば、この種の機能は別に新しいものではない。Boomerang と呼ばれるサービスが数年前から存在していて、届いたメッセージをあとで Gmail inbox の一番上へ戻す機能を提供してきた。2011 年 4 月 11 日の記事“Mailplane 2.3.1 が Gmail 用 Boomerang に対応”参照。ただし、Boomerang はウェブブラウザのプラグインに依存して働くので iOS デバイスでは使えない。)

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一つのメッセージをサッと左へスワイプすると、グリッドがポップアップしてそのメッセージをいつ読み直したいか指定できる。その日のうちに、翌日に、一ヵ月後に、あるいはいつでもあなたの好きな日時を指定することもできる。あなたが設定した時が来れば、そのメッセージがあなたの inbox の一番上に再登場するとともに、push 通知も送られる。私は日中に重要なメッセージを iPhone で受け取ってもその返事は夕方家に帰ってから書きたいということがよくある。でも、一日が過ぎればそういうメッセージも inbox の中に埋もれてしまうものだ。けれども Mailbox があれば、届いたメッセージを自分が普段帰宅する時間までスヌーズしておくことができる。スケジュールに合うように、個々のスヌーズを環境設定でカスタマイズしておくこともできる。

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より長くスワイプすると、さらに突っ込んだアクションもできるようになる。アーカイブせずに削除したい場合は、メッセージから右側のスクリーンの端までずっとスワイプする。また、後回しにするのでなくカテゴリー分けしたい場合は、左側へ長いスワイプをすれば、リストの選択肢が現われるのでそのメッセージを追加したいものを選べばよい。これは奇妙なデザイン方法だと思うが、そこに並ぶリストは通常の Gmail ラベルそのものではなくて、一部の新しいラベルのみが並ぶ。デフォルトで、Mailbox は To Buy, To Read, To Watch というリストを表示する。(どうやら電子メールですべき最も重要なことは、あとでするものを集めておくことのようだ。)けれども環境設定の中で何でも好きなリストを追加することができる。

これらのリストはいずれも、実際には [Mailbox] ラベルのサブラベルなので、Gmail 自体の中からもこれらのリストにアクセスでき、他の電子メールクライアントからもできる。ただし,困ったことに、Mailbox の中ですべての Gmail ラベルにアクセスすることはできない。このようなやり方ですべてを組み立てることにより、Mailbox はあなたに Gmail を to-do リストとして利用するよう強要する結果となる。これは新しいやり方だとは思うが、あなたの電子メールのワークフローが既にいろいろな目的にラベルを使いこなしている場合は、Mailbox は全くの役立たずの存在と成り果てる。個人的に、私は Gmail のラベルをほとんど使っていないし、たとえ使っていたとしても iOS の Mail アプリと Gmail アプリの両方で電子メールをラベル付けするのは具合が悪いと思う。Mailbox がメッセージをラベル付けするやり方は応用が限られているが、そのことによりむしろタッチスクリーンに適したものとなっている。

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私は通常ジェスチャーベースのインターフェイスはあまり好きでない。あまりにも最小主義に寄り過ぎることが多いし、入門チュートリアルを除けばユーザーに対する手引きが何もないからだ。ジェスチャーで動かすタスクマネージャの Clear を私は何度も試してみたが、しばらく使っていないとすぐに使い方を忘れてしまう。けれども Mailbox は、巧みなやり方でこの問題に対処している。

あなたがスワイプすると、色の付いたアイコンが現われて何が起ころうとしているのかを知らせてくれる。緑のチェックマークはアーカイブすることを示し、赤い X 印は削除を、黄色い時計はスヌーズを、茶色のハンバーガー型ボタンはリストへの追加を示す。スワイプしながら気が変わった場合は、そのまま反対方向へ動かしながら指を離せばよい。それから、どのスワイプが何をするかを忘れた場合は、メッセージをタップすれば、可能なすべてのアクションを示したボタンが使えるようになる。

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Mailbox の中に仕分けしたメッセージは簡単に検索できる。一番上に並んだ三つのボタンで、スヌーズしたメッセージ、inbox の内容、アーカイブしたメッセージ、の間で切り替えられる。両側にあるものを inbox に戻したければ、スワイプ一つでできる。Mailbox のさまざまのリストへのアクセスもそれほど面倒ではない。ただサイドバーを出すだけだ。サイドバーには、さまざまのラベル、少なくとも定義されたラベルの一部、例えば個々の inbox、あとで読むように保存されたメッセージ、アーカイブ、ゴミ箱、送信済み、などが並ぶ。

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けれども、あなたの Gmail ラベルが全部 Mailbox の中に並ぶわけではないので、ラベルの付いたメッセージがすべてそのままここで利用できるわけではない。検索することはでき、検索は確かに高速だが、私がテストした限りでは検索で見つかるのは比較的最近のメッセージに限られるようだ。要するに、保存された電子メールのすべてを見たり検索したりしたければ、やはり Gmail アプリが必要になるということだ。

でも、すべての Gmail ラベルにアクセスできないことよりも、もっとはるかに深刻な懸念が Mailbox にはある。私が Mailbox で最も心配に感じるのは、自分の電子メールがすべて Orchestra のサーバを通過するようになることだ。彼らがどんなに言ってくれたとしても、私のこの懸念は消えないだろう。まず第一に、プライバシーの問題がある。私の電子メールを Google の手に渡すことさえ良くないと思うけれども、Google は巨大かつパワフルな会社であってセキュリティの実績もあり政府の干渉に抵抗できる力も持っている。その上、Google のビジネスモデルが何かを私は知っている。それは、通常の検索結果に基づく広告だ。(Gmail のウェブインターフェイスで広告を隠すのは簡単だし、IMAP クライアント経由で Gmail にアクセスしても広告は避けられる。)けれども Orchestra は未だにどのようにして収益を得るつもりなのかの具体的計画を発表していないし、小規模の会社の宿命としてデータが攻撃を受けた場合や法律的脅威に晒された場合に十分な保護をできる能力もない。

被害妄想が過ぎるとおっしゃるかもしれない。それはそうなのかもしれないが、Orchestra のやり方は、過去に大きな問題に結び付いたことがある。主として順番待ちや、機能停止といったことだ。私はアクセスを認められるまでに何万人もの人たちの後に並んで順番待ちをしたことがある。まるでポストモダンの iOS ディズニーワールドみたいだった。いったんアクセスが認められても、いつでもアプリを使えるとは限らない。この記事を書き始めたほんの数日前も、 丸一日間にわたって Mailbox のサーバが落ちていたことがある。また、メッセージが全くロードされなかったこともある。

Mailbox のジェスチャーベースのインターフェイスは大いに気に入っているけれども、こういったさまざまの問題点のせいで踏み出すのを躊躇せざるを得ないのも確かだ。他にもマイナーな問題がいくつかある。一つには、Mailbox は現在のところ Gmail としか互換でない。ただ、近い将来 IMAP プロバイダにも対応する予定だという。また、Mailbox はプレインテキストでメッセージを送信することができない。これは多くの人たちを苛立たせる問題だろう。

制約はまだ他にもある。Gmail のラベルのいくつか、例えば All Mail ラベルを IMAP から隠すようにしている人たちは多い。そうしないとメッセージを重複して受信してしまうクライアントがあるからだ。けれども Mailbox をその状態で使うことはできない。Mailbox が動作するためには、メインの inbox のいずれも隠されていてはいけないからだ。また、私の知る限りメッセージを未読とマークする方法がない。スヌーズを可能にするために、そのオプションを無視せざるを得ないからだ。

Mailbox には到着した電子メールに対する処理を施すための目新しい機能がいくつもあるけれども、基本的な機能で欠けているものもたくさんある。その上、セキュリティや信頼性に関する懸念もある。現状では、Mailbox をメインの電子メールクライアントとして使うことはおそらく無理だろう。モバイル電子メールの将来がどのようなものになるかを垣間見る体験にはなっているだろうし、ここで提供された革新的なインターフェイスのいくつかは他の電子メールクライアントにぜひとも真似してもらいたいと思うが、完成にはまだまだ程遠いといったところだ。

そうした問題点を、マイナーなものもメジャーなものも、鼻さえつまめば我慢できるというのならば、Mailbox は一見の価値があるかもしれない。電子メールなんて大昔のテクノロジーであってとっくにゴミ箱行きになっているはずのものと、こき下ろす技術系ライターたちは多くいるが、私はそうは思わない。確かに、現代の標準から見れば電子メールは古いけれども、これは今でも驚くべきテクノロジーだ。メッセージやファイルを世界中へ、どんなネットワークを通しても、誰に向けても、どんなオペレーティングシステムやネットワークプロバイダを使っているかにも関係なしに、やり取りできるテクノロジーが他にどれだけあるだろうか? 電子メールは普遍的であり、電子メールは多目的であり、電子メールは長年を経ても未だに驚くべき存在だ。(私がこれを言っているのは何も我らが出版責任者が記事“なぜ電子メールはインターネットコミュニケーションの王であり続けるか”(2009 年 10 月 29 日) を書いたからというわけでもない。)Mailbox アプリがリリース前の段階から大きな人気を集めたのは、多くの人たちにとって電子メールがまだまだ役に立つ寿命を終えていないということを実証しているし、今はまだ Mailbox があなたのメインの電子メールクライアントになれる段階にはないとしても、その革新的な機能は今後成熟するにつれてさらに強固な基盤により強化されて行くに違いない。

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壊れているのはメールではなく、あなたの方だ

  文: Joe Kissell: [email protected], @joekissell
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

こんな事を書けば論争の種になるのは分かっているが、そんなことはどうでもいい。私は、メールは如何に根本的に欠陥のあるものであるかについて、そしてそれを "修正" 或いは "再発明" する賢い新しいやり方について読むのはもう沢山である。メールは壊れてなんかいない! メールは素晴らしい。私はメールが大好きである;それは私の好みの通信手段である。ある種のメールアプリ、サーバー、そしてプロトコルは他のものより優れているが、正直言って、たとえメールが未来永劫現在のまま変わらないとしても、私には問題ではないであろう。もしメールとのあなたの関係が満足いくものではないとしたら、問題なのはメールではない。それはあなたである。

もうここまでで、多くの人が読むのを止めそして私が如何に間違っているかについてコメントし始めているのではないかと思われる。それも良いであろう;この記事の最後までお付き合い頂ける人達は、これらのコメント全てを無視しても大丈夫だし、そして礼儀正しく友好的な (一方的であるかもしれないが) 会話が持てる。

私はここ数週間程、iPhone に対する新しい Mailbox アプリにまつわる空騒ぎに大いに触発されて、いわゆるメール問題全体について考えてきた ("iPhone 用 Mailbox、メールの仕分けは簡単だが重要な機能が欠落" 22 February 2013 参照)。このアプリは、ついに "メールを正当な座に置く" ものであるとされている。この Mailbox 狂騒の最中、高い評価を得ている Brain Pickings ブログの Maria Popova が Twitter 上で、彼女はメール破産を宣言すると述べた - かいつまんで言うと、彼女の受信箱から 7,487 の未読のメールメッセージを消すと。何故ならばそれら全部に目を通すことなど有りえないことを自覚しているからである。そして、私はこのことから私の友人の Tantek Celik が 2008年に載せた影響力のあるブログを思いだした - Email は Efail である。

私はもっともっと沢山の例を挙げることが出来るが、極めて多くの人がメールに完全に圧倒されているのは明らかである。それが問題であり、そして解決されねばならないのは確かである。私を困惑させるのは、人々がその媒体を悪者にする時である。世界の太り過ぎの問題は食べ物のせいではないし、世界の借金の問題はお金のせいではない。あなたのメールの問題は通信システムとしてのメールのせいではないし、そして恐らくあなたが使っているツールのせいでもないであろう。メールのせいにするのは簡単である、何故なら彼らは反撃してこないから。しかし、多くの人がメールは制御不能であると感ずる本当の問題は、何故その問題は自分に存在するのか、そしてそれに対処するには自分のやり方をどう変えればいいのかを見つけ出す努力をしていない事なのである。

この観点からすれば、メールは何も特別ではない;例を挙げれば、同じことが Twitter の過負荷、或いは Facebook の過負荷にも言える。しかし、少なくともソーシャルネットワーキングサービスの場合は、誰からメッセージを受け取るかを自分で決められる、そして Twitter 上で誰かをフォローしなくする、或いは Facebook 上で誰かを友人から外すのに、技術的な障害はない (心理的なものはあるかもしれないが)。メールの場合、解は余り明らかではなく、そして必要な努力もより大きい。

とは言っても、誤解しないでほしい;私は何も、あたかもあなたがだらしなさ過ぎて目の前にある確かな解決策を実行すらしていないかのように、 "どうしてちゃんと大人になって、自分の問題に直面しないのか?" などと言おうとしているのではない。メールの習慣を変えるのは、食習慣を変えるように、大変である。次から次とダイエット法を変えている人はあなたの周りにもゴロゴロいるでしょう - 誠心誠意やる気があり、そして中には良い結果も得ている人もいるかも知れない - でも何カ月か、何年か後には昔のやり方に戻ってしまっていませんか? メールの過負荷は簡単に扱える類のものではない。しかし、多くの人はそれに対して成功裏にそしてきっぱりと対処して来ている、そしてあなただって出来るはずである。しかしながら、それが出来る様になる前に、メールにあなたの言うことを聞かせる責任はあなただけにあることを自覚しなければならない。もしいつの日かその様なアプリやサービスが出現し、あなたに代わって魔法のように解決してくれるのを望んでいるのなら、あなたは長いこと待たされるであろう。

前述した Mailbox アプリに戻りたいと思う。私はこれを試してみた、そして嫌いだと思った。これは、私にとっては全く使えないものであった。その全体的な取り組み姿勢がどれ程ひどいか、或いは特定の動作が如何に非効率的であると私が思うかについて書こうと思えば、段落を幾らでも費やせる。しかし - 再度言うと、そんなことをしているともうすでにコメントしに向かう人を増やすだけであろう - そんなことはここでは問題ではない。もしあなたが Mailbox が好きで、それを使うことであなたのメール体験が良くなるのであれば、大変結構なことである。ある人に合うものが誰にでも合うとは限らない。我々全てが、メールの健全さへの独自の道を見つけ出さねばならないのである。

私が長年使ってきたシステムは完璧に働く - 私にとっては。私の受信箱はそこに何十通ものメッセージが溜まることはめったになく、通常私が寝る時にはそこは空っぽである。私は毎日かなりの数のメッセージを受け取るが、私がメールに気を取られたり或いは圧倒されたと感ずることは無い。数年前、私は腰を据えて、私が受け取るメッセージにはどんな種類のものがあるのか、そしてそれらを素早くかつ効率的に捨てるには自分は何をしなければならないのかについて考えた。これに基づいて、自分でこれならと思える方法を導き出した。(私のシステムの少々一般的なバージョンについては、私の Macworld シリーズ "Empty Your Inbox" で読んで貰える。)

Adam Engst は、メールに対処する彼独自の方法を編み出した。彼は、これについて 4 回シリーズの "Zen and the Art of Gmail" に纏めている。彼のやり方は (詳細については彼のシリーズの二番目の記事参照) 私のとは大違いである - 我々のどちらも相手方のシステムで、丸一日頭がおかしくならずにやっていけるとは到底思えない。私は彼のやり方は "間違い" でそして 私のは "正しい" と言いたくなるところだが、実際にはどちらも正しいのである。何故ならば、それらは我々それぞれの個性に適しているからである。 我々はそれぞれに、ストレスの原因となるものは何か、注意を払う努力をしても良いのは何か、そして無視する傾向にあるのは何かを見つけ出した - そして我々は自分の性癖に合う、反するものではない、システムを採用した。他のやり方も勿論あり、Merlin Mann の有名な Inbox Zero 、そしてそれの数えきれない程多くの変種、Keith Rarick の Gmail バージョン,の様な、が含まれる。後者は今 Maria Popova がやってみようとしている。

(日本語)禅と Gmail 技術、第一部: なぜ私は切り替えたか | 禅と Gmail 技術、第二部: ラベルとフィルタ | 禅と Gmail 技術、第三部: Gmail Labs | 禅と Gmail 技術、第四部: Mailplane

という訳で、私は私自身のシステムが大変気に入っているし、そして私はある種の習慣には強い嫌悪を感じてはいるが (私は受信箱を To-do リストとして使うという考えには耐えられない)、メールに対するある特定のやり方を処方しようとしている訳ではない。私が言わんとしているのは、あなたは恐らく Adam Engst, Merlin Mann, 或いは私ほど多くのメールを受け取らないと思われるので、我々がメールは支配下にあると感じられ点まで来られるのであれば、あなたも同じ様に到達できるということである。もし我々のシステムの一つが "そのまま" 使えると思うのであれば、それは素晴らしい;是非やってみて欲しい! もしあるシステムをあなた自身のニーズに合わせる必要があっても、或いは全く新しく何かを作り出さなければいけなくとも、それはそれで良いではないか。しかし、それにはそれ相当の努力が必要となる。あなたはあなたの貴重な人生の内から数時間を割いて、あなたがメールを使うやり方を分析し、そしてあなたのやり方のどの部分がうまくいっていないのかを見定め、その上であなたの習慣の内の幾つかを修正しなければならない。

我々がメールについて語る時、それがあたかも文字通りのものであるかの様に扱う比喩について考えるのも有益なのではなかろうか。郵便メールの破産を宣言することなど考えられますか - 数か月の間にあなたの物理的な郵便受けに届いた何百通にも及ぶ封筒を一見もしないで捨てますか? あなたの机の上の受け箱に封筒が天井に届くまで山積みになるのを許しますか? 私が思うに、どちらに対する答えもノーであろう;ともかくも、殆どの人がメールが物理的な形で届いた時には対処する何らかの方法を探し出している。沢山ある場合ですら例外ではない、何故ならばその中には大事なものも含まれており、そして期限切れのガス電気水道代の様なものを無視してしまった場合の悲惨な結末もあり得るからである。しかし "対処する" には、メールリストから自分の名前を取り除く、助手を雇う、或いは他のもっと思い切った処置をとることが含まれるかもしれない。あなたが紙のメールを扱ってきたやり方は(電子)メールを扱う参考になりませんか?

メールの対処法を学ぶには、苦痛と感じることも関係するかも:

ひょっとすると、あなたはこれら全部をやらねばならないかもしれないし、或いは何もしなくともよいかもしれない。でもそれを言うのは私ではない。あなたはあなたの実際の目標は何なのか決めなければならないかもしれない。空の受信箱を持つのはあなたにとっては意味のないことかもしれないし、あなたのメールがあなたの支配下にあるかどうかの良い指標ですらないかもしれない。しかし、いずれにしても、もし現在のやり方があなたには合っていないとしたら、あなたがやってはいけないことの一つは、媒体としてのメールに責任をなすりつけたり、或いは不完全なメールアプリのせいだとすることである。

もしメールが問題ならば、あなただけがその解であり得る。

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LiveCode、無料のオープンソースアップデートをクラウドファンド

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

HyperCard を覚えていますか? 私たちはよく覚えている。1980 年代の終わりから 1990 年代初頭の、もはや記憶もおぼろげな時代からずっとだ。そして実際、HyperCard は Mac 初期の時代にユーザー体験の中で重大な役割を果たしていた。TidBITS も創設期には HyperCard スタックという形で出版されたし、Michael Cohen が Voyager 社で HyperCard を使って初期の Expanded Books を制作する仕事をしていたのもその後間もない頃だった。私が Matt Neuburg を説き伏せて彼を Apple IIc から Mac へと切り替えさせたのも、HyperCard が決め手となった。

HyperCard が私たちのハードディスクから姿を消してからもう長い年月が経つ。けれどもその遺産は生き続けた。最初は MetaCard と呼ばれるクロスプラットフォームのツールキットという形であったが、2003 年に Runtime Revolution 社 (略して RunRev) に買収され、後になって LiveCode と改名された。そして今、Kickstarterプロジェクトを通じて、スコットランドに本拠を置くこの RunRev 社は次世代バージョンの LiveCode を二つのバージョンに分けて作ろうとしている。一つはオープンソースとしてライセンスされる無料版で、もう一つはサポートの付いた商品版だ。オープンソース版の方で作成したプロジェクトは料金を必要としないが、すべてのソースコードを公開して配布するプロジェクトとしてリリースしなければならない。商品版ではプロジェクトのコードをリリースすることが要求されない。

(LiveCode 以外にも、HyperCard に触発された製品で現代に生き長らえたものはいくつかある。例えば HyperNext (無料、ただし Android 用にビルドするには $24.99)、HyperStudio ($89.95)、SuperCard($179 または $279) などがある。)

オープンソース版の LiveCode はもし実現すれば重要なツールとなる可能性があり、RunRev はもしもあなたがその趣旨に同意するならばここ数日以内に彼らの Kickstarter プロジェクトをサポートして欲しいと訴えている。当時の記憶が薄れてきた年配の人たちや、当時のことを知らない若い人たちのために解説しておくと、HyperCard は Bill Atkinson が創り出した革新的なプログラミングツールであり、何年かにわたってすべての Mac に無料で付属していた。HyperCard はデータベース機能をグラフィカルなインターフェイスと組み合わせ、HyperTalk と呼ばれる英語によく似たプログラミング言語を備えていて、これはそれまで存在していたどの言語よりも学習が容易で、プログラマーでない人でも使いこなせるのが特長であった。

HyperCard の使い易さと豊かな開発環境とが相まって、幅広いさまざまの状況に応用されるようになった。子供たちにプログラミングを教える道具としても、また従来の環境でのプログラミングのスキルを持たない専門家たちが自分の専門分野の知識をカプセル化するためにも使われた。HyperCard は Myst のような人気のゲームにも使われ、World Wide Web の創造にも影響を与え、wiki という概念に重要な役割を担い (Wikipedia はそこから生まれた)、さらには JavaScript プログラミング言語の開発者たちにも着想を与えた。

要約すれば、たとえあなたが HyperCard の活躍していた時代にそれを使わなかったとしても、とっくにそれがなくなった時代になってから Mac の世界に来たとしても、HyperCard はあなたにとって大きな役割を果たしているのだ。そして、LiveCode は iOS、Android、Mac OS X、Windows、Linux のいずれで走るアプリを開発するためにも使うことができるので、オープンソース版が生まれたならば、「普通の私たちがプログラミングできる」という考え方が現在にも再現するという、大きな意味を持つことになる。

けれども、いったいなぜこの新バージョンの財源として Kickstarter を使おうというのだろうか? RunRev の CEO である Kevin Miller が私に説明してくれたところによれば、同社はオープンソース版の LiveCode をリリースしたいと思っているけれども、現在のバージョンのままでは役に立たないからだという。LiveCode には古い、旧時代のコードが膨大に絡み合っていて、その中には 20 年前から存在するコードも含まれている。またこれは巨大であって、500,000 行以上にもわたる C++ のコードが六つのオペレーティングシステムに広がって存在している。(コードの分量としては Linux の最初の数バージョンをも凌いでいる。)こんな膨大なコードをそのまま公共のバージョンコントロールシステムに放り出して、プログラマーたちに自由に使っていいと提供したとしても、誰の役にも立たないだろう。なぜなら、特定のコード部分だけを他のコード部分と切り離して使うことはできず、外部のプログラマーがシステムの特定の部分だけで仕事をするのが不可能だからだ。(このコードは、そのままではモジュール化もされておらずオブジェクト指向でもない。)

コードを現代化しモジュール化することによって他のプログラマーたちが使いこなせるようにすること以外にも、RunRev はさらにいくつか大きな追加機能を LiveCode に盛り込みたいと考えている。例えば、新しい Open Language によって開発者たちが LiveCode のシンタックスを拡張し、独立の拡張機能に新たなコマンドを追加できるようにしたい。また、新しい視覚的エディタによって今日的な使い勝手の標準に従ったインターフェイスをユーザーが開発できるようにしたい。

料金支払処理会社 Kagi の CEO であり、長年の HyperCard ファンでもある Kee Nethery が、私に次のように語ってくれた:

私は近所の高校の教師に LiveCode を見せてみたが、彼はそのシンプルさに感激し、それを使えば生徒たちがもはやさまざまの障害を乗り越える必要がなくなることを考えただけでワクワクすると言っていた。それに、アプリを Linux、Mac、Windows、Android、iOS のどれでも走らせられるということは、生徒たちが学校のコンピュータで作ったものを持ち帰って家族や友だちにも見せられるということだ。彼にとって、教室で使えるためには無料であることが絶対必須の条件なのだ。

彼の言葉はすべて熱狂的な賛成の言葉であり、TidBITS 読者からも次々とこの LiveCode の Kickstarter プロジェクトについて記事を書いて欲しいという声が最近の他の何よりも増してたくさん届いているが、このプロジェクトはまた私たちスタッフ内部の議論の的ともなり、そこでは必ずしもすべて賛成の言葉ばかりが聞こえたわけではなかった。

その議論は主として、次世代バージョンの LiveCode を開発するために RunRev が設定している金額の規模に関するものとなった。この Kickstarter プロジェクトは、同社が設定した 350,000 ポンドという募金目標が達成された場合にのみ資金を拠出することになっている。これは相当大きな金額で、米ドルにすればおよそ $534,000 にあたる。これがはたして妥当な金額なのか、オープンソース版の LiveCode にそれだけの価値があるのか、RunRev がするべき作業を開始したとしても結局集まった資金の一部は RunRev 社内の人件費に消えるのではないか (結局のところ同社はそれと同一のコードの商用ライセンスを持ち続けるのだから)、という疑問の声を挙げる人たちもいた。

これらの疑問のいくつかは、個々人から資金を集めるために Kickstarter をこのような形で利用するのは適切なものかという疑問にも関係しているが、私たちはその点は問題でないと考えている。Kickstarter は提案されたプロジェクトをすべて詳しく吟味した上で、要件に適ったものだけを受け入れている。その要件の中には、無制限の募金でなくプロジェクトに基づいたものであること、募金の結果として達成すべき具体的な目標が定められていること、などの条件も含まれている。従って、Kickstarter に登場したプロジェクトは必然的に Kickstarter に適切なものと言えるわけだ。それに、一つの Kickstarter プロジェクトがそういったレベルを超えてさらに深く適切かどうかを判断できる手段は、そこにお金が集まるかどうかという純粋な結果によるしかない。実際にお金が集まったならば、それは Kickstarter の有効な利用であったと言える。もしも集まらなければ、おそらくそのプロジェクトには何らかの意味で不備があったのだ。オープンソース版の LiveCode がこの意味で適切かどうかの判断を下すにはまだ時期尚早だが、この記事を書いている時点で募金期間の終了まであとたったの 3 日、現在の募金額は 289,000 ポンドだ。これは大金だが、目標達成まであと 61,000 ポンド足りない。

RunRev が Kickstarter を通じて資金を集めようと決断した動機が何なのかをはっきりと知ることはできないし、350,000 ポンドという目標額が妥当なものかどうかを私たちが判断することもできない。私は Kevin Miller に、もしもこの Kickstarter プロジェクトが目標の額を集められなければどうするつもりなのかと聞いてみたが、そうなればもっと小規模のキャンペーンなり未公開株式なり、何か別の方法で同じ目標を目指したいと彼は答えてくれた。思い返してみると、Kickstarter のすべてかゼロかの手法とは少し違ったやり方をする Kickstarter の競争相手、Indiegogo を使った方が良かったかもしれない。けれどもその一方で、もしも Indiegogo のキャンペーンが十分な金額を集められなければ RunRev は困った立場に立たされたかもしれない。

また別の懸念として、LiveCode が GPL v3 の下にリリースされる予定だという事実がある。このオープンソースライセンスにおいては、対象となるコードをコンパイルしたものが公開して配布された場合、それに対するいかなる変更や追加についても公開しなければならないという要件がある。LiveCode に関しては、このことは二つの構成要素を持つ。一つ目は、プログラマーが自分の手元にインタープリタと LiveCode ライブラリを持っていて、その後で新バージョンをリリースした場合、すべての変更点のソースコードを出版しなければならない。これはよくあることで、開発者ならば十分承知している点だ。(ちなみに、このことにより、RunRev の手の届かないところで LiveCode の分岐バージョンが生まれて行く潜在的可能性が生じる。)

けれども GPL はそれ以外に、LiveCode 言語で書かれたすべてのソフトウェアに対しても適用される。無料のオープンソース版の LiveCode アプリを使って作られ、個人用ないし組織内の目的以外のために使われるすべてのプロジェクトは、必ずそのソースコードを伴っていなければならないことになる。

自分の作ったソフトウェアを手の届く範囲内に閉じた状態にしておきたいと思う人々や会社は多いので、RunRev のプロジェクトと FAQ にははっきりと、ソースを閉じた状態のプログラムを可能にするために同社は商品版の LiveCode を提供し続けると書かれている。LiveCode 商品版のライセンス料金は現在 $499 から $1,499 までとなっている。また、月額払いや年額払いのプランもあるし、さまざまな教育関係者向け割引もある。

オープンソース版と商品版のライセンスを併用することで、RunRev が既に売り物としているシステムの将来の開発作業に充てるために Kickstarter で集めた資金を使う結果となるのではないかという苦情の声も挙がった。それはある意味本当だが、オープンソース開発環境の社会的価値を増す可能性の方がその懸念を上回るのではないかと思う。もちろん、何かをオープンソースにすることは必ずしも直ちにそれが良いもので価値あるものとなることを意味しない。オープンソース版の LiveCode も、その品質と有用性を自ら実証しなければならないだろう。

結びに、オープンソース版の LiveCode をあなたもサポートしたいかどうかは、あなた自らが判断すべきことだと強調しておきたい。もしもあなたがこれをサポートしたいとお思いならば、どうぞ今すぐ Kickstarter に立ち寄って、募金をして頂ければと思う。募金額に応じて、さまざまのレベルの特典が用意されている。クレジットカードに課金が為されるのは、2013 年 2 月 28 日までに RunRev への募金総額が目標の 350,000 ポンドに達した場合のみだ。

LiveCode をサポートしようと決めたのは、あなただけではない。Apple の共同創立者 Steve Wozniak もこのキャンペーンを後押ししているし、Apple の元 CEO であった Mike Markkula はキャンペーン戦術にアイデアを出した。総勢 1,300 人近くになる賛同者たちの中に名前の挙がった有名人としては、Bob "Dr. Mac" LeVitus、SF作家であり全般的なるコンピューティング擁護者の Cory Doctorow、World Wide Web の共同開発者 Robert Cailliau、Kagi CEO の Kee Nethery、サイバーパンク著者の William Gibson、その他 TidBITS や TidBITS Talk 関係でお馴染みのたくさんの人たちがいる。

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TidBITS 監視リスト: 注目のアップデート、2013 年 2 月 25 日

  文: TidBITS Staff: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

TextWrangler 4.5 -- Bare Bones Software がTextWrangler 4.5 をリリースし、この無料の汎用エディタに大幅なアップデートを提供した。追加機能や改善点、修正点のリストはドストエフスキーも顔負けの長大なもので、よりパワフルな(無料でない)兄貴分の BBEdit に現在ある機能の多くに沿ったものがこのアプリにも持ち込まれた。おそらく最初に目につくのは Go メニューが新設されたことだろう。従来あまりにも混雑していた Search メニューにあった項目のいくつかがここに移されている。BBEdit の Go メニューと同様、書類の中で「ジャンプポイント」にナビゲートできる。あなたがカーソルを置いた個所や、あなたが具体的に指定した個所がジャンプポイントとなる。Go メニューの Previous と Next の項目を使ってさまざまのポイントに移動できるし、行番号を指定してジャンプすることもできる。

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Search メニューには Compare Against Previous Version 項目が追加された。これは OS X の Versions 機能を利用してアクティブな書類をその前回保存されたバージョンと比較する。また、書類のバージョン機能はその書類が初めて保存された時点まで(ただし OS X の設定した上限に達しない限り)遡ることができる。書類ウィンドウは BBEdit に似たものに改変されて、テキスト表示で一番上にあるツールバー(書類のパス名を表示する)が一行のみにスリム化されるとともに、Last Saved インジケータが一番下に移った。キーボード環境設定が新設され、Page Up および Page Down キーを押すと挿入ポイントも一緒に移動する設定ができるようになった。(それがデフォルトの設定である「あのプラットフォーム」からの避難民を援助するためだ。)TextWrangler は今回から Retina ディスプレイにも対応した。

TextWrangler 4.5 は Mac OS X 10.6.8 Snow Leopard かそれ以降を要する。しかしながら、新しいバージョン機能を利用したい場合は 10.7 Lion かそれ以降が必要となる。(Bare Bones Software からも Mac App Store からも無料、9.6 MB、 リリースノート)

TextWrangler 4.5 へのコメントリンク:

Adobe Acrobat XI および Reader XI 11.0.02 -- Adobe が Acrobat XIReader XI をバージョン 11.0.02 にアップデートしたが、その唯一の目的はこれら二つのアプリにおけるセキュリティを改善することにある。今回のアップデートはバージョン 11.0.01 およびそれ以前にあった重大な脆弱性に対処している。影響を受けたシステムが攻撃者によって制御される可能性のあった脆弱性だ。(The Next Web に詳細な解説がある。)Acrobat XI のアップデートはたったの 11.9 MB だ。Reader XI については差分アップデータ (25 MB) またはフルインストーラ (76.6 MB) が選べる。さらに、Adobe は旧バージョンの Acrobat および Reader のユーザーもそれぞれのソフトウェアをアップデートするよう推奨している。Acrobat は、バージョン 10.1.6 (13.5 MB) とバージョン 9.5.4 (10.8 MB) になった。Reader XI 11.0.02 にアップデートできない人は、バージョン 10.1.6 (17 MB) とバージョン 9.5.4 (Intel 用が 5.4 MB、PowerPC 用が 5.6 MB) が選べる。(Acrobat XI Pro は新規購入 $449、無料アップデート)

Adobe Acrobat XI および Reader XI 11.0.02 へのコメントリンク:

Transmit 4.3.2 -- Panic が Transmit 4.3.2 をリリースした。このファイル転送ソフトウェアの今回のメンテナンスリリースでは、Private Keys を使うサーバと接続する際の問題と、カスタム Favorite アイコンが表示されない問題、それに Transmit Disk Menu がすべての Favorite 項目を表示しなかった問題を修正している。また、AppleScript 対応と Automator アクションもアップデートされた。(新規購入 $34、無料アップデート、26.5 MB、リリースノート)

Transmit 4.3.2 へのコメントリンク:

KeyCue 6.4 -- KeyCue バージョン 6.4 へのアップデートで、Ergonis はこのキーボードショートカットユーティリティを呼び出すための新たな方法としてメニューバーアイコンのオプションを追加した。メニューコマンドやシステムワイドのホットキー、マクロなどを表示するためにそれぞれ別の小さな表を出すように設定している場合、メニューバーアイコンをクリックすればそれらすべてをまとめて一つの大きな表にして見られるようになる。今回のアップデートではまた、修飾キーを押しながらマウスのスクロールホイールを動かした場合にショートカット表を表示しないようにし、スクロールホイールでスクリーンをズームしている際にショートカットウィンドウがポップアップしないように対策し、Mission Control でミニサイズのデスクトップの中にショートカット表が表示された問題に回避策を提供し、修飾キーを要しないショートカットも正しく強調表示されるようにし、OS X 10.8 Mountain Lion において現在の状況下では利用できないサービスさえも Services メニューの中にすべて表示されていた問題を回避している。(新規購入 19.99 ユーロ、TidBITS 会員には 25 パーセント割引あり、無料アップデート、2.4 MB、リリースノート)

KeyCue 6.4 へのコメントリンク:

Java for OS X 2013-001 および Java for Mac OS X 10.6 アップデート 13 -- Apple が二つの Java アップデートをリリースした。同社が Reuters に対して、Facebook に対する攻撃で用いられたと同じ Java プラグインの脆弱性を経由して同社でも少数の従業員の Mac がハッキングされたと明かしてから間もなくのことだ。Java for OS X 2013-001 は OS X 10.8 Mountain Lion と 10.7 Lion が対象、Java for Mac OS X 10.6 アップデート 13 は 10.6 Snow Leopard 専用だ。いずれも Java SE 6 をバージョン 1.6.0_41 にアップデートする。今回のアップデートは App Store アプリまたはソフトウェア・アップデート経由で、または直接ダウンロードにより入手可能で、Apple はインストールの前にウェブブラウザと Java アプリケーションを終了すべきだと念押ししている。Apple のページには今回の二つのリリースにおけるセキュリティコンテンツとしていくつもの脆弱性の修正がリストされているので、できる限り早くあなたのシステムに応じた Java アップデートを入手しておくことが重要だろう。(無料、66.6 MB と 72.4 MB)

Java for OS X 2013-001 および Java for Mac OS X 10.6 アップデート 13 へのコメントリンク:

iTunes 11.0.2 -- Apple が iTunes 11.0.2 をリリースし、iTunes 11 の最初のリリースでは装備されず特にクラシック音楽の愛好家たちを苛立たせていた Composers 表示を復活させた。ただし、この Composers 表示は Music ライブラリが表示された際に表示オプションのボタンの中に自動的に現われるわけではない。これを追加するには、iTunes 環境設定の General パネルに行き、Show Composers を選択しておかなければならない。そうすれば Artists と Genres の間に Composers 表示ボタンが現われる。

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iTunes 11.0.2 はまた、多数の曲を含むプレイリストと同期するときのレスポンス改善を約束しており、購入した項目が iTunes ライブラリに表示されないバグを修正しているという。Apple の iTunes ウェブページからの直接ダウンロード (188 MB)、OS X 10.8 Mountain Lion よりも前のシステムでのソフトウェア・アップデート経由 (194.7 MB)、あるいは Mountain Lion の Mac App Store 経由 (54.2 MB) で入手可能だ。

iTunes 11.0.2 へのコメントリンク:

Firefox 19 -- 可能な限りバージョン番号を分かりにくいものにするための探求の旅を続けて、Mozilla が Firefox 19 をリリースした。バージョン 18 をリリースしてからたった五週間後のことだ。今回の大きなニュースは HTML5 ベースの PDF ビューアが Firefox に組み込まれたことだ。これで、Firefox プラグインに依存したりファイルをダウンロードしてから別の PDF リーダーで開いたりせずとも直接 PDF を見ることができるようになった。(このバージョン 19 が出るより以前に Firefox で PDF を見るためにくぐらなければならなかった試練については、Steve McCabe のレビュー記事“2012 年のウェブブラウザで PDF を飼い馴らす”(2012 年 6 月 1 日) を参照。)

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Google Chrome に内蔵の PDF ビューアに比べるとオプションの数が少し多い Firefox の PDF ビューアでは、標準のダウンロード、印刷、ズームイン・アウトの機能に加えてフルスクリーンモード、ページ番号、いくつかのプリセットズーム倍率、サムネイルとブックマーク双方の表示、なども提供している。また、現在表示されている PDF を別のタブウィンドウの中へコピーする手段も提供されるので、長い書類を読み通している場合にブックマークの代用として便利に使えるだろう。

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Firefox 19 ではまた開発者関係の便利な機能もたくさん盛り込まれた。デバッガが例外発生時に停止できるようになり、Android 版 Firefox や Firefox OS への接続に Remote Web Console が使えるようになり、Style Editor で Web Console CSS リンクが開けるようになった。(無料、37.2 MB、リリースノート)

Firefox 19 へのコメントリンク:

BusyCal 2.0.3 -- BusyMac が BusyCal 2.0.3 をリリースした。さまざまの修正やユーザーインターフェイス追加を盛り込んだメンテナンスリリースだ。このアップデートでは Google カレンダーの購読を切ってしまった同期のバグを修正し、View メニューに Show Declined & Canceled Events 項目を追加し、Google Calendar 用の Inbox に(旧来の CalDAV サーバのものと同様に)ミーティングのリクエストを表示し、iCloud 経由で同期する際に Sync Alarm のスヌーズと停止の状態を複数のデバイス間で伝えるようにし、ミーティングの招待状にアラームを追加できるようにし、誕生日の重複を統合できるようにした。また、ドイツ語、フランス語、オランダ語、スペイン語、イタリア語、日本語、韓国語、ポルトガル語 (ポルトガル)、ポルトガル語 (ブラジル) の各ローカライズ版も追加している。BusyMac ウェブサイトから BusyCal の試用版をダウンロードできるが、アプリの購入は Mac App Store 経由でしかできない。現在、2013 年 3 月 15 日まで $29.99 でセール中だ。それからまた、無料の "Take Control of Calendar Syncing and Sharing with BusyCal" で BusyCal について詳しいことが読めるのもお忘れなく、(新規購入 $49.99、無料アップデート、9.0 MB、 リリースノート)

BusyCal 2.0.3 へのコメントリンク:


ExtraBITS、2013 年 2 月 25 日

  文: TidBITS Staff: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

今週の ExtraBITS は Google による新しいハードウェアに独占されてしまった。Google Glass を実際に目で見て使ってみた体験レポートと、Google から新しく出たハイエンドの Chromebook Pixel を概観した記事だ。

Joshua Topolsky が Google Glass を試す -- Apple の iWatch は現時点では単なる噂に過ぎないが、Google Glass の方は本物だ。Google の作ったこの「スマート眼鏡」は、写真を撮影し、ビデオを録画し、到着したテキストメッセージをあなたに見せ、道案内を表示し、その他さまざまのことができる。この眼鏡はまだ販売が開始された訳ではないが、The Verge の Joshua Topolsky が現在のベータ版を実際に触って試してみることができた。彼の金言は?「でもこの眼鏡を実際にかけてみた気分は? 外を歩きながら使ってみた感じは? 一言で言えば、やっぱりすごい。」

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CNET、Google の新しいラップトップ Chromebook Pixel を概観 -- CNET の記事で、Stephen Shankland が Google からリリースされたての Chromebook Pixel を概観する。同社がウェブに焦点を絞って作った Chrome OS の走る、ハイエンドのラップトップだ。従来の Chromebook はラップトップの低価格帯の製品として販売されてきたが、今回の Chromebook Pixel の価格は $1,299 (Wi-Fi 版) または $1,499 (Wi-Fi plus LTE 版、より広範囲の接続性が可能) となり、12.85 インチ、2560×1700 ピクセルのスクリーンは Apple の 13 インチ MacBook Pro Retina ディスプレイモデルと見比べても引けを取らない。デュアルコアの 1.8 GHz Intel Core i5 プロセッサで走り、32 GB SSD、4 GB の RAM、USB ポート 2 基、ヘッドフォンジャック、SD カードスロット、それから外部ディスプレイ用の Mini DisplayPort も備えている。

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