TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#1233/28-Jul-Jul-2014

Apple がまたもや記録的な利益を得たことを報告したが、それより興味深いのは、同社が来たるべき OS X 10.10 Yosemite の公開ベータ版をリリースしたことだ。Yosemite の見学ツアーをしてみたい人のために、Joe Kissell がそれをインストールするための究極のガイド "Take Control of Beta Testing Yosemite" を書いた。これを、皆さんがお払いになりたい価格で提供している。TidBITS 会員のためには Charles Edge の "Take Control of OS X Server" の第 8 章 "Mail Services" もある。ポテトサラダが Kickstarter で驚くべき注目を浴びたので、Glenn Fleishman がこれを契機にさらなる冗談キャンペーンが登場するようになるのかどうか考察する。Apple と IBM は iOS デバイスを企業にもたらすための協定を結んだが、システム管理者の Andrew Laurence が寄稿記事でその意味するところを検討する。Amazon は Fire Phone でモバイル世界に明かりを灯そうと期待しているが、これは何か新しいものを提供するのか? Julio Ojeda-Zapata が、この電話機を試して、調べてみる。今週の FunBITS 記事では、Adam Engst が彼の立場から Strava を語る。これはフィットネスマニアのためのソーシャルネットワークだ。今週注目すべきソフトウェアリリースは、TinkerTool 5.3、Default Folder X 4.6.8、Audio Hijack Pro 2.11.0、Nicecast 1.11.0、Airfoil 4.8.7、Piezo 1.2.5、Marked 2.3 だ。

記事:

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"Take Control of Beta Testing Yosemite" がすべてを語る

  文: Joe Kissell: [email protected], @joekissell
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

先月 Worldwide Developers Conference で、Apple は OS X 10.10 Yosemite を発表した。(2014 年 6 月 2 日の記事“Apple、WWDC にて iOS 8 と OS X Yosemite をお披露目”参照。)Apple の Mac Developer Program の会員はこの新しいオペレーティングシステムのプレビュー版に早くからアクセスでき、その後 Apple は一般大衆からのサインアップ受け付けも開始した。その公開ベータ版(先週初めにリリースされた Developer Preview 4 よりも少しだけ後のバージョン)が現在入手可能となっている。そこで、Yosemite をベータテストすることに関する新刊 Take Control 電子ブックも入手可能となった!

Yosemite 公開ベータ -- Yosemite の公開ベータ版は、OS X Beta Program ページ(Apple が 6 月に開いたページ)でサインアップした最初の百万人の人々が入手できる。この記事を書いている時点ではまだ新たなサインアップを受け付けているが、近日中に締め切りに達しても不思議ではないと思う。(このプログラムは Apple が以前に開いた同種の Mavericks 用シードプログラムと似ているが、別物だ。前回のプログラムにサインアップした人も、今回のプログラムには別途サインアップしなければならない。)

あなたが既に登録済みだと仮定して、そのページからあなたのアカウントに特別の App Store 引き換えコードでサインインすれば、Yosemite のベータ版がダウンロードできるようになる。(Apple は公開ベータをリリースした日に参加者あての電子メールで説明を書いたメッセージを送ったが、これからサインアップする人がどのくらい待てばメッセージが届くのかは定かでない。)

ベータテスターたちは Yosemite の新機能や一新されたインターフェイスを見ながら最先端を使う興奮を味わうことができ、自分のお気に入りのアプリや機能が Yosemite ではどのように働くのか(それとも働かないか)を確かめ、今年の後半の Yosemite 登場の準備をすることができる。けれども Apple が警告している通り、まだ完成していない機能も数多くあるし、新機能の一部には iOS 8 を必要とするものもあるし、Yosemite のベータ版には「エラーや不正確なところ」つまりバグも含まれているかもしれない。そもそもベータテストの目的はバグを発見してそれを修正することなので、この Yosemite ベータ版には Feedback Assistant と呼ばれるアプリが含まれていて、あなたが遭遇した問題点を手軽に報告できるようになっている。誤動作の原因を突き止める助けとするため、このアプリはあなたの Mac についての診断情報も Apple にあてて送信する。

Take Control of Beta Testing Yosemite -- Apple は 2001 年以後、新しいオペレーティングシステムの公開ベータ版をリリースしてこなかった。なので、今回のことは重大事件だ。開発者向けの Yosemite プレビュー版はかなり安定していたけれども、私が思うにその百万人の Yosemite ベータテスターのうち相当の人数の人たちは自分が何に足を踏み入れようとしているのかよく分からないまま、適切な準備をすることもせずにただ飛び込んで、あとになってそれを後悔することになるのではなかろうか。私は 10.3 Panther 以来ずっと Mac OS X のアップグレードについての本を書いてきたので、今回のベータ版についても多少の助言を書いてみようと思い立った。

私の一連の "Take Control of Upgrading to..." 電子ブックは、リスクを嫌がるユーザーで詳しい説明を欲しがる人たちに向けて書かれている。けれども Yosemite ベータ版をインストールしそうなのは、それと真逆のタイプの人たちだろう。つまり、どちらかと言えばテクノロジーに熟達していて、ものをいじくり回すことを好み、リリース前のソフトウェアを使うことに伴うリスクをものともしない(あるいはそれに対する十分な予防措置を講じる)人たちだ。だから、そういう新し物好きのあなたたちだけのために、私は "Take Control of Beta Testing Yosemite" の中に、Yosemite のベータ版のために準備をし、インストールし、テストするためのあらゆる細かなことを書き込んだ。もしもあなたが OS X のベータ版をインストールするのならば、正しいやり方でしなくてはならない。この本は、あなたがトラブルに巻き込まれないための助けになるはずだ。

この本にはその他にも、バグを報告するための基本的な手順、Yosemite ベータの中でどこに気を付けるべきか、ベータを使い終えた際にどうすればダウングレード(またはアップグレード)できるか、といったことも説明してある。さらには、仮想マシンにこのベータをインストールするにはどうするか(その際どの仮想化プログラムを使うべきか)とか、SuperDuper の Sandbox 機能を使って Yosemite ベータとあなたの通常の Mavericks インストールとの間で書類を同期させておく方法とかいった高度なテクニックも扱っている。

この Yosemite 公開ベータ版の有効期間はたかだか数ヵ月以内だ。つまり、私のこの本が書棚に並ぶ期間はそう長くない。けれども今後新たなベータ版が出されれば私の本にもそこでの変更点に応じたアップデートが必要となるだろう。なので、私たちはこの本を Leanpub 経由で出版することにした。Leanpub は、できるだけ素早くリリースできるためにデザインされているからだ。従来通りの出版方法を使ったとすれば、公開ベータ版がリリースされたその日に本を出版することは不可能だったろう。(その当日の朝にも出版直前編集を加えたのだから!)新たなバージョンが出た場合にも素早く反応することはできなかったろう。この本を購入してくだされば、あなたは PDF、EPUB、Mobipocket のいずれのバージョンのものもダウンロードできる。それらは従来のどの Take Control タイトルとも見栄えも動作も同様だ。ただ、アップデートを入手するには Leanpub システムからアクセスしなければならないというところだけが違っている。

私たちはまた、価格についても、従来と違ったことを試そうとしている。この 51 ページの本には、$5 という _希望_ 価格を付けてあるけれども、あなたはこの本にその価値があると思われるだけの価格を支払ってくださればよい。私たちの付けた希望価格より多くても少なくてもかまわないし、たとえあなたが一銭も払わなくてもかまわない。(あなたが無料でこれを入手しても、もしも将来払いたいと思われれば、あなたはいつでも新たにもう一冊購入することができる。)気前良くお金を払ってくだされば、子供たちにもっと iPad ゲームを買ってやれることは別にしても、将来この種の型破りな本を作ってみようと思えるための何より素晴らしい励みになることだろう。ただしお願いですから $500 を超える支払いはご遠慮願いたい。私にあなたの自宅を訪れてベータ版のインストールをパフォーマンスとしてやってもらいたいと言われるのならば話は別だが。

ベータ版のソフトウェアで運を天に任すなんてやりたくないと思われる方も、心配は要らない。私は既に "Take Control of Upgrading to Yosemite" の執筆に取り掛かっている。こちらの本については、今後一・二ヵ月の間に新たなお知らせができると思う。

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Apple Q3 2014 業績、7 四半期で最高の一株利益を計上

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst, Michael E. Cohen: [email protected], @lymond
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

Apple は、2014 年第三会計四半期に対して、その製品の殆ど全てで利益を計上した。6 月四半期としては最高記録となる売上げ $37.4 billion と、純利益 $7.7 billion (希薄化後一株当たり $1.28) を計上し、同社の利益は前年同期に比べて 20% 上昇し、粗利益率も 36.9% から 39.4% へと増加した。業界アナリストの中には失望した人もいて、この人達は Apple は $38 billion を手にするであろうと予測していたのだが、粗利益率はこの人達の予測を少し上回った。海外販売がこの四半期売上げの 59% を占め、そして手持ち現金は今や $164.5 billion に達した。Apple は一株当たり $0.47 の配当を宣言した。

業績発表のプレスリリースの中で、Apple CEO Tim Cook は次のように言っている、"iPhone および Mac の好調な販売と Apple エコシステムからの継続的な売上高増により 4 - 6 月期の売上高は過去最高となり、EPS(1株当たり利益)も過去 7 四半期で最高の伸びとなりました。近く予定されている iOS 8 および OS X Yosemite のリリースや、発表するのも待ち切れないその他の新製品やサービスに私たちはとても興奮しています。" しかし、当然のことながら Apple は待つであろう。

Cook は、販売数字の詳細に入る前に、電話会議の冒頭の時間を使って Yosemite, iOS 8, CarPlay, Swift, HealthKit, そして HomeKit に対する Apple の取り組みの概要を説明した - これは同社の Worldwide Developer Conference での発表を 5 分間に纏めたものであった。

iPhone の販売は前年同期より 13% 近く増加し、35.2 百万台が消費者の手元に届いた。前年同期には 31.2 百万台であった。販売数は Apple が提供する全ての iPhone モデルで伸びた。

Apple はまた 13.3 百万台の iPad を販売したが、これは前年の 14.6 百万台から 9% の減少となり、アナリストを失望させた。"iPad 販売は我々の期待には沿ったものだったが、皆さんの期待からは外れているかもしれない" と Cook は電話会議の参加者達に語った。iPad はタブレット購入の 80% 近くを占めていると、彼は言った。iPad 販売は中国では 51% そしてインドでは 46% 上昇し、低下した国内の iPad 販売を補った。iPad はまた米国教育市場の 85% を支配している。

iPad の数字は低かったが、質疑の時間に、Cook はタブレット分野そのものに対しては強気を保ち、タブレット全体でノートブックに対しては 60% の浸透度があるのに、ビジネスの世界では 20% の浸透度しか得ていないことを指摘した。彼は、タブレットはいずれビジネスの世界でも PC に置き換わる事を信じており、それが Apple が最近 IBM と提携した理由の一部でもある ("ITbits: Putting IBM MobileFirst in (Apple's Enterprise) Context," 22 July 2014 参照)。

Mac 販売は iPad 販売に匹敵する売上げをもたらした。販売台数は 4.4 百万台で $5.5 billion の売上げをもたらしたのに対し、iPad の方は $5.9 billion であった。より重要なのは、Mac 販売は前年同期比で 18% も上昇し、これは Apple の数字によれば、全体で 2% 販売が縮小したパーソナルコンピュータの業界ではとりわけ印象的な数字である。Mac 販売の成長はポータブル、とりわけ MacBook Air によって支えられ、そして Mac は世界市場シェアを最近の 33 四半期のうち 32 四半期で伸ばしてきている。

Cook はまた業績報告の中で iTunes/Software/Services ラインを取り上げ、App Store の強さが、この分野の売上げを昨年同期の $4.5 billion から 12% 伸ばすことに貢献したと語った。全般的にみれば、アプリ開発者達は App Store から $20 billion を稼ぎ出しており、その半分近くは過去 12 ヶ月の間に発生していると Apple は語っている。

Apple の先行業績の多くは特定の業績見込みに焦点を当てていたが、Cook は、あえて Beats 買収 ("Apple、Beats を $3 Billion で買収" 28 May 2014 参照) と IBM との提携にも触れた。アナリストに質問に答えて、Cook は、買収も提携もそれ自体が目的ではないが、Apple の強力な経営陣のお陰でますます可能になっていると語った。

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"Take Control of OS X Server" の Chapter 8、入手可に

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

Charles Edge の "Take Control of OS X Server" の続きの章の出版が遅れたことをお詫びする - Tonya と私は休暇を取って家を離れていた。しかし、我々は Mac の前に戻り、そして Chapter 8, "Mail Services" の準備も整った。

これは難しい章であった。理由は、OS X Server の中でメールサービスを有効にするのが難しいからではなく、我々は皆さんにこれを使わないよう強くお勧めするからである。ここで "我々" と言っているのは、彼がコンサルしている顧客に OS X Server のメールサービスを使わないよう導いている Charles と私の両方を含む。私は長年に亘って色々な tidbits.com プラットフォーム上でメールサーバーを走らせてきたが、私がやったもっとも賢い事は、ローカルユーザーに対するメール配信を止めたことである (全ての tidbits.com アドレスは今や他のメールプロバイダーに転送される)。

何故か? 簡単に言うと、電子メールエコシステムは戦場であり、無数の飢え狂うスパマーが休む間もなくありとあらゆるものをあなたのサーバーめがけて投げつけてくるからである。メールサーバーを 24/7 走らせ続けるのは、全てのユーザーが欲することではあるが、報われない仕事であり、専用の資源を持った会社にアウトソースする方がはるかに良い。休暇の旅行に立つ前の 4 AM にメールサーバーのトラブルシュートをしたくはないであろうし、外から遠隔でそれを修正しようとするのはもっと大変である。最も感じの良いユーザーですらメールが止まってしまうと気むずかしくなってしまう。

いずれにしても、Charles と私は、もし皆さんが自前のメールサーバーを走らせたいのであれば何が必要になるのか、そして OS X Server でメールサービスを有効にするやり方の説明に大いに力を注いだ。とりわけ、Server が提供するメール関連の設定が実際に何をするのかの説明には注意を払った。たとえ結果的に OS X Server のメールサービスを使わない事になったとしても、関係しているものは何で、それが見かけより遙かに複雑なのかを皆さんが理解するのに Charles の章がお役に立つことを望んでいる。

Chapter 1, "Introducing OS X Server" と Chapter 2, "Choosing Server Hardware" は、この本の行く先を見て貰うために誰にでも見て欲しいと思うが、それ以降の章は現時点では TidBITS 会員限定である。もし既に TidBITS 会員であるならば、参加した時のメールアドレスを使って TidBITS ログインして欲しい。"Take Control of OS X Server" 電子本の完成版は、完了時点に PDF, EPUB, そして Mobipocket (Kindle) フォーマットで一般向けに売り出される。出版済みの章は以下の通り:

執筆進行に合わせて、この本の全容を TidBITS 会員に対して出版していくのは、我々が TidBITS 会員に対し彼らの支援に感謝の意を表す一つの方法に過ぎない。我々はまた TidBITS を長年無料で読んでこられた方々に対しても、これがきっかけで、毎週読み慣れた専門的に書かれそして編集された記事を引き続きお届け出来る手助けをする気になって頂けたらと願っている。会員プログラムが我々にとっては何を意味するかの更なる詳細については、"2014 年の TidBITS を TidBITS 会員プログラムを通して支援して" (9 December 2013)) を読んで欲しい。

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ポテトサラダが Kickstarter でバイラル効果を生む

  文: Glenn Fleishman: [email protected], @glennf
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Zack Brown が ポテトサラダを作る資金を集める Kickstarter プロジェクトを開始したところ、とてつもない量の仮想のインクがそのまわりにこぼれ、のみならず tweet や、Facebook 投稿、Tumblr 項目、その他が果てしなく世に行き交った。一方では、世界には飢えに苦しむ人々がこれほど多いのに悪趣味な冗談が過ぎると怒り出す人たちもいた。

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でも、食べるもののない人々を Brown が馬鹿にしようとした形跡はない。彼はただインターネットによくある類いの冗談を飛ばしただけで、たまたまそれが非常に多くの冗談好きの人たちを面白がらせ、クスクス笑いがとんでもない大爆笑に転化しただけだった。6,500 人以上の人たちが、このプロジェクトをもっと大きくすればもっと面白くなるだろうと思い、自分のクレジットカードを使って参加した。サラダボウル一杯のポテトサラダならば面白くも何ともないが、アイスホッケーリンクがポテトサラダで一杯になるところを想像するとなれば話は違う。

Brown の成功は多数の模倣者を生み出した。ポテトサラダ、マカロニサラダ、ブリート (「だってもう誰もポテトサラダなんて欲しがらないから」) その他何百というキャンペーンが殺到した。しかしながら、Brown のプロジェクトとは違って、それらの便乗プロジェクトの圧倒的大多数にはほとんど、あるいは全く資金が集まらなかった。

Brown のいたずらにこれほど多くの人たちから募金が集まったのを見て私が思い出したのは、The Million Dollar Homepage だ。この巧妙なサイトは、当時 21 歳でイングランドの Wiltshire に住んでいた Alex Tew が 2005 年に作った。彼はピクセルを一つ $1 で、10 × 10 ピクセル平方 ($100) を最小単位として販売し、グラフィックな広告として少なくとも 2010 年 8 月 26 日まではアクティブに保つと保証した。このページは今日になっても生きていて、その中で広告されているサイトの多くよりも長く生き延びている。

当初はそれほど目立たなかったが、次第にいろいろなオンラインニュースサイトやメインストリームのマスコミまでがこの話を取り上げて大袈裟に語るようになり、数ヵ月も経たないうちに Tew は予定していたピクセルをすべて売り尽くした。(彼は最後に残った 1,000 個をオークションにかけて $38,100 の落札価格を得ることにより百万ドルを少し超える合計額を得た。)Tew のプロジェクトが世の注目を浴びるやいなや、類似のサイトが次々と登場し、既に広告を取り入れていた一部のサイトでは同種のキャンペーンのために長期ないし恒久的な場所を確保したりもした。

冗談やアイデアがウイルスの増殖のごとくに増えて行く現象(バイラル効果)は、中には収入が伴うものもあるが、古くは初めての学術的ネットワークで情報の手軽な転送が可能となった時代から既に存在していた。その後規模はますます大きくなったが、先発者優位の原則は今も変わっていない。百万ピクセルを売るにせよ似たようなプロジェクトにせよ、その後に続いた者が Tew の収入のごく一部でさえ得ることはなかったし、後に続くどんなポテトサラダ募金も似たようなプロジェクトで分厚い分け前を得ることなどあり得ないだろう。

Brown のキャンペーンも、また類似のものたちやパロディーキャンペーンなども、いずれも人気のクラウドファンドサイト Kickstarter が従来の厳しい審査手続きを緩めたより以後に到来したものであって、結果として何が受け入れ可能かの基準を緩める方向に働くこととなり、ほとんどのキャンペーンが誰もその詳細をチェックしたりしないまま動き出すようになっている。

それは初めのうち望ましくないことのように見えるかもしれない。それでも、市場の見えざる手が(この場合はスプーンを持ちつつ)まさに望ましい結果を生み出した。そのことは、Clay Shirky が 2003 年のエッセイで支持した冪乗則の分散原理からも予見できたし、また Kickstarter もこれでどんなトラブルも解決されると主張した「みんなの意見は案外正しい」という考え方からも予見できた。

最初に手を付けることにより、Brown のポテトサラダは冗談 Kickstarter プロジェクトへの注目の大部分を集めた。Shirky の定式化に従えば、「多くの人々が多くの選択肢の中から自由に選べるようなシステムにおいては、全体の中で小さな部分のみが不釣り合いなほど多くのトラフィック(または注目、または収入)を得ることになる。たとえ、そのシステムに属する誰一人としてそのような結果を目指して積極的に行動しなかったとしても」ということだ。

今回の場合は、いったいどのようなことによって Brown の悪ふざけに注目が集まるようになったのかは分からないけれども、その後の報道やソーシャルメディアでの関心が Brown の珍しい Kickstarter URL を宣伝することとなり、他の競争相手たちはすべて、もっと面白い冗談を持っていた者たちでさえも、かき消されてしまったのだった。

みんなの意見 (the wisdom of the crowd) も、やはり勝利を得た。つまり、何百もの類似品のキャンペーンには、いずれも簡単に作られ開始できたものであったにもかかわらず、全然募金が集まっていない。Kickstarter で募金ページを作るのが簡単なことも、決してビジネスプランの均等化には寄与しない。それが偶然のものであっても、そうでなくても。Brown のキャンペーンが終了した後もポテトサラダ風のプロジェクトはやはり消え去る可能性が高い。また、もし他の種類のものが始まっても、完全に無視されてしまうことだろう。

おそらくこれは、将来の先駆者たちと、その後について行く者たちへの教訓となるだろう。ただ単に既存のキャンペーンを Kickstarter 上で複製して、顧客の混乱に乗じるだけではうまく行かないということだ。ちょうど、Apple の App Store に既にある製品名に似たものを作ったり(Flappy Bird の変種はたくさんある)他の環境で似たようなことをしたりしてサイトの検索エンジンがソーシャルおよび報道の引用で溢れかえるようにしても、結局は成功しないのと同じことだ。

Brown は成功の代償に直面することになる。彼のポテトサラダプロジェクトがここからどれだけ大きくなったとしても。彼は募金への返礼の説明として、近所の人々のみを相手に、ユーモアに溢れた、ごく少数の支持者たちのみを念頭に置いたものを設定していたのだったが、現時点での彼はサラダを作りながら大声で 6,500 名の人々の名前を読み上げ、遠く離れたところに住む 3,000 人以上の人々にも何とかして一口ずつサラダを届けなければならないという困難な仕事に直面している。ポストを通してマヨネーズを届けるのは、あまりうまく行かないのではなかろうか。

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ITbits: IBM MobileFirst を (Apple のエンタープライズ) の文脈で捉える

  文: Andrew Laurence: [email protected], @atlauren
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

長年言われてきたことだ。"Apple はエンタープライズが嫌いだ。" "Apple は単純にエンタープライズを理解していない。" "Apple にはエンタープライズ戦略なんてない。" "Apple がエンタープライズを指向するまで、Apple からは買わない。"

これが変わろうとしているのかもしれない。15 July 2014 に Apple と IBM は、新しい共同事業を発表した。IBM の MobileFirst プログラムの下で、IBM は Apple の iPhone と iPad のための新しいアプリを開発し、そしてこれらの機器を IBM の機器と共に IBM の顧客に再販する。Apple はこれらのアプリ上で IBM と連携し、そして IBM の顧客が iOS 機器を使うのを AppleCare 経由でサポートする。

エンタープライズに乗り込む -- しかし "エンタープライズ" とは何であろうか? それは不定形の言葉だが、ここで扱うのはビジネスを意味している - とりわけ大企業を指している。エンタープライズ購買者は職業的にけちで、そして意図的に自らのビジネス要件にだけ焦点を当てる。彼らはコンピューティングを継続した事業経費と見なし、大量に買い、そして納入業者には、大きな金額の請求書と長期契約を予期して自分の前にひれ伏す事を期待している。エンタープライズ購買者は、代替納入業者からも代替品を購入出来ることを望み、そして少なくとも見せかけであっても予見可能であることを要求する。ソリューションは目立たず、収まることが期待されている。

またエンタープライズは如何なる従業員 (何万人にもなるかもしれない) よりも大きいことを理解することが重要であり、時として組織とその構成員の区別を際立たせる。この点はより小さな組織とは好対照になるところで、こちらでは決定は一人のオーナー或いは情報担当役員によってなされることも珍しくない。

エンタープライズ購買者は業者に、可能な限り安く請求し (少なくともハードウェアに対しては;高度にカスタマイズされたソフトウェアソリューションに対してはもっと多く支払う用意はある)、差別化は可能な限り少なくし、たやすく置き換えられる事を求める。納入業者の顧客はその企業であり、エンドユーザーではない;個々のユーザーの懸念は企業内では検討されるが、業者を決める時にではない。これは企業には良いが、Dell とか HP の様な業者にはよくなく、単なるコモディティとなることを意味している - 意図的に簡単に代替可能なもの。

他のコンピュータメーカーとは違い、近年の Apple はビジネス顧客に売るシステムを設計してこなかった。代わりに、Apple は、とりわけ Steve Jobs の復帰後は、個人のユーザーを狙って製品を設計している。これを頭に入れておくと、上記の誤解の背後にある現実が見えてくる:Apple はエンタープライズを 優先 させていないのである。同社はエンタープライズから喜んでお金を取るであろうが、だからといって個人ユーザーの経験を犠牲にしたくはない。

エンタープライズ購買者の本性を確立したところで、今度はエンタープライズにまつわる Apple の歴史を紐解く番である:長い、陰影のある、困難な、時として敵対する、そしてしばしばつかの間の、である。大部分は、つかの間であった。昔のことを覚えている人なら次の様な約束を思い出すであろう:Lisa Office System, Lotus Jazz, AppleTalk, あの哀悼される Apple Network Server ライン、そして Wintel 経済に対抗して Apple が作りだしたベージュの川。その後、同社が復興をとげて、Mac OS X Server, Xserve, Xsan, そして Xserve RAID が出された。それぞれの製品はビジネス顧客に向かって歩を進めたが (とりわけ、教育とプロのコンテンツ市場)、これらは究極的には、Unix 似のオペレーティングシステムや x86 サーバーで構成された他のソリューションに対する競争力は持ち合わせていなかった。Steve Jobs が "Apple はエンタープライズには関係ない!" と言ったという話も CIO 達を魅了しなかった。と言うわけで、エンタープライズは Apple とその製品を警戒するようになった。

新しい道を拓く -- iPhone 以来 Apple はかすかなエンタープライズ戦略を立ててきたが、あまりにもかすかで多くの評論家達はそれに気づかなかった。ビジネス販売を直接狙うのではなく、Apple はその製品の使用を妨げる可能性のある障壁を取り除くことに静かに取り組んだ、そこにはエンタープライズも含まれる。この方法により、Apple は、自らの機器をビジネスにもより役立つように、そしてエンタープライズの懸念にもより適切に対応しながら、デザインとユーザー経験を追求することが可能であった。

年と共に、Apple は個人ユーザーには殆ど必要とされないが (或いは、気づかれることすらない) エンタープライズ IT には必須の機能を数多く導入してきた:

これら機能のそれぞれが Apple 製品をより大きなビジネス運営、規則、そしてサービスに適合する事を可能にしている。

しかしながら、このかすかさが高くつく結果となっている。何時もそうなのだが、従来型の IT は、Apple 製品が既存の運用の中に収まるかどうかを正確に判断するための十分な情報を探せないでいる。同様に、典型的な "Mac テック" は Mac の事は知っているが、必要な接続をするための IT 配管知識を十分には持ち合わせていない - Mac テックは、全ての IT 問題に対して Mac ソリューションを求めがちで、しばしばより優れた Mac ではないオプションを見逃す傾向にある。

小さな MacIT 人口の一人として、私は長年、Apple がエンタープライズに親和性のある技術の話をする時、そして多くの優れた支援オプションについて語る時、もっと良い、そしてより大胆な仕事をして欲しいと願ってきた。好対照に、IBM はこの辺を得意としている。

ビッグブルーが舵を取る -- 一般的には "コンピュータ会社" として知られているが、IBM は、実際はソフトウェアとサービスの会社であり、顧客に対してアプリケーションを開発しそして支援することに焦点を当てている。しかも、アプリケーションだけではなく、ソリューション全体である。こちらは、開発、ハードウェア、ソフトウェア、管理、等々を結合することが要求される。企業は IBM を雇う時、ソフトウェアライセンスの購入にも署名する;IBM がハードウェアをそのライフサイクルを通して提供、管理、そして支援することにも署名する;そしてハードウェアのための支援を契約の期間を通して購入することにも署名する。サービス契約には、必要とされる場合のアプリケーション開発だけでなく、日常の支援と管理サービスも含まれる;設定と展開、そして首尾一貫したソリューションを提供するためアプリケーションやハードウェアをまとまりのある全体へと統合することも含まれる。IBM はビジネスの全部の技術ニーズを供給そして支援する能力を持っていて、そこには PC 及びサーバー、モバイル機器、管理、その会社専用に作られた垂直統合アプリケーション、そして必要となる如何なる専用ハードウェアも含まれる。この "専用ハードウェア" こそが Apple が登場する場でもある。

例として UPS 配達運転手を考えてみよう。荷物、配達ルート、トラックそのもの、そしてスキャンと署名用の運転手のハンドヘルド機器は、全て何十年にも亘って荷物を可能な限り効率的に配達するために開発されたシステムの中の資源である。システムは、どの荷物がどのトラックに乗っており、どの順番で配達されるか、順路上の混み具合、そして運転手が個々の荷物を配達するのに応じた在庫状況を知っている。ハンドヘルド機器を使って、運転手は個々の荷物をスキャンし、その配達状況を示し、そして (必要があれば) 署名を記録する。この機器は、この業務専用に開発そして製造されたもので、頑健な本物のボタン、署名のための入力スクリーン、更新と報告のためのワイヤレスネットワーク接続、等々を備えている。このハードウェアは、配達効率を上げるため、大枚をはたいて、時と共に開発と微調整が加えられてきた。

では、この単一目的の機器を iPhone 或いは iPad に較べてみよう。こちらは市販品で、タッチスクリーン、加速度計、地理位置情報とワイヤレスネットワークのためのハードウェア、そしてアプリケーション開発のための豊富な API セットが付いている - 運転手に有用かもしれない多数の他のアプリへのアクセスは言うまでもない。もし皆さんのビジネス運営に深く組み込まれたカスタムアプリが、皆さんの従業員も使いたい、そして顧客も見慣れていてかつ魅力的だと思っている市販のハードウェアの上に置かれていたとしたら素晴らしいと思いませんか?

IBM の顧客にとって、MobileFirst の試みはまさにその様な機会を象徴する。彼らのアプリケーションは Apple の人気の iOS プラットフォーム上で開発されそして展開される事が可能で、しかも IBM の比類なきエンタープライズ開発経験を活用し、そして IBM を Apple の栄光の恩恵に浴させることにもなる。想像するに、IBM は MobileFirst を通して売る Apple 製品に対して特別な価格を得るであろう;更に、これらの機器は Apple の Streamlined Enrollment 経由で設定され、そして IBM の Endpoint ManagerMaaS360 製品を通して (モバイル機器管理規則に基づき) 緊密に管理されであろうし、ソフトウェア購入は Apple の Volume Purchase Program を通して管理されるであろうと思われる。

そうはいっても、最善の可能性がいい加減な実行でダメになってしまうのはよくある話である。多くの会社にとって、"IBM" は 4 文字語(禁句)である:IBM のソリューションは安くないし、同社のアプリケーションは必ずしも人気があるとか、或いは使いやすさで知られているという訳ではない。 (私は自分自身で Lotus Notes を使ったことはないが、これを使うのを楽しんでいる人に会ったためしがない。) もっと具体的な話をすれば、IBM の MaaS360 モバイル機器管理ソリューションは最近の買収であり、それは MDM の世界でのリーダーという訳でもない。

コンピューティングの長い歴史の中で、今は高価な専用機器がどんどん安価になる汎用機器にソフトウェアを組み込んだものに置き換えられていく移行期にあると思える。MobileFirst は、明らかにその様な傾向の中の一つのレ点として意図されている。プレスリリースが現実のものとなるかどうかはまだ分からない。ただ、この合意は両社にとっても勝利であるように見える。Apple 機器はエンタープライズからもっと信頼と支持を得られ、そして IBM は Apple の人気の iOS ハードウェアとソフトウェアをてこにしたソリューションを提供することで繁栄する。

[Andrew Laurence は University of California, Irvine のシステム管理者である。彼は仕事で IBM Endpoint Manager のインスタレーションを管理している。彼は、この選考チームの一員ではなかったが、この製品を好みそして尊敬している。]

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Amazon Fire Phone、制約多く、玩具っぽい

  文: Julio Ojeda-Zapata: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

私は Amazon の Kindle Fire タブレットが好きだ。真っ先に選ぶものとは言えないだろうが、これは魅力的で、素敵な高解像度のスクリーンを持ち、洗練されたオペレーティングシステムは(易しくレベルを下げられているとしても)Google の Android に基づくもので、私の Amazon デジタル資産(私はそういうものをたくさん持っている)に手軽なアクセスを提供し、しかも同社の広大な店頭への摩擦のない道筋を用意しているので、さらにもっと多くのアプリや電子ブック、音楽、映画その他を、買って、買って、買いまくることができる。

Amazon は今回、このやり方をスマートフォンの分野にも適用すべく、Amazon Fire Phone をリリースした。これは Apple の iPhone にも、Android ベースの多数のハンドセットにも、真正面から対決しようと意図されたものだ。

けれども、Amazon 製のこのスマートフォンにそれほど大きな意味があるものかどうか、私には確信が持てない。大多数の人たちにとってスマートフォンはタブレットよりもずっと重要なものであり、従って最大限の多才さと柔軟性を提供する必要がある。Fire Phone は、この点で要件を満たしていない。

物質的にはタブレットの兄弟と同程度にエレガントに見えるけれども、ライバルとなる Apple や Android のスマートフォンをこれほどまでに有用なものとしてきた諸機能やアプリの面で、欠けたところがある。Fire Phone が持ち出してきた新機能はソフトウェアの仕掛けという要素が強く、実際的な価値に乏しい。少なくとも私にとっては、壁に囲まれた Amazon の庭の中で生きるのはタブレットの上ならそれほど苛立たしくはないけれども、スマートフォンの上では頭がおかしくなりそうなほどひどい体験となった。

目玉機能 -- Fire Phone の主要なセールスポイントは一連のソフトウェア機能だが、あまり面白みのないハードウェアの上にインストールされている。

その一つが Dynamic Perspective と呼ばれる機能だ。これは、デバイス前面にある五つのカメラによって可能となる、一種の 3D 拡張だ。カメラは四隅に一つずつあり、それに加えて上の方に標準のカメラもある。四隅のカメラがあなたの頭を追跡して、ハンドセットに相対的な位置と角度を捉えることにより、数々の視覚上の効果を生んで、とてもクールな見た目の魅力となる。

例えば、Fire Phone のさまざまの風変わりなロック画面は、デバイスを傾ければそれに応じて視点が変わり、月の縁や、空に浮かぶ気球や、イースター島の彫像や、その他の物の裏側を覗き込むように見える。とても素敵だけれど、大して役には立たない。一部のゲームや、Amazon の Maps アプリでも同種の効果を見ることができ、例えば Minneapolis 中心部にある有名な超高層ビル IDS Center などが立体的に見える。それでも、だからどうした、と言わざるを得ない。(Apple の視差効果もやはり似たようなものだ。)

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Fire Phone に搭載されたもう一つの呼び物のソフトウェアが、Firefly だ。デバイスのカメラとマイクロフォンを使ってさまざまの物や音を認識することにより、スマートフォンがまるで知覚を持っているかのようになるというものだ。商店の店頭でパッケージに入った品物を認識し、バーコードや本のカバーも識別し、楽曲を認識し、オーディオ再生だけでテレビ番組のエピソードを認識し、有名な絵画を識別する、といった具合だ。また、電話番号や URL、電子メールアドレスも読み取れる。

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Firefly はとても気が利いているが、それと同時にちょっとずるい感じもする。なぜなら、多くの場合、識別が Amazon での購入の勧めに結び付いているからだ。しかも、首尾一貫しないところもある。わが家の壁に掛けてある Gustav Klimt の絵画の複製を Firefly はきちんと認識したが(そして確かに、Klimt に関係する書籍の購入提案まで出してきたが)Paul Gauguin の絵画は認識できなかった。それに、Firefly の機能の大部分は特定のアプリを使えば iOS やその他のデバイスでも再現できるので、とても世界を揺るがすような機能とは言えない。

その他のソフトウェア機能も便利だが、不可欠とも言えず、画期的とも言えないものばかりだ。あるやり方で Fire Phone をフリックすればコントロールパネルが出るし、あるやり方で傾ける動きをすれば現在表示されているアプリに関係したスライドイン式のメニューが左側や右側から出る。また別のやり方で傾ける動きをすれば電子ブックのテキストやウェブページが上下にスクロールする。いずれもこれまであったものばかりだし、操作の仕方も指先でするのに比べて特に便利というほどでもない。

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Mayday は Kindle Fire で導入された機能で、ビデオ画面から技術サポートの係員に連絡することができて、デバイスの設定を遠隔操作でしてもらうこともできるというものだが、これが Fire Phone でも利用でき、とりわけテクノロジーに詳しくない人にとってはありがたい救いの手となるかもしれない。けれども、テクノロジーデバイスで援助の手を必要とすることなど普段あまりない人たちにとっては、いつでも AppleCare に電話できることと大して違ったものに見えない。もちろん、実際にそんなことをすることもないだろうが。

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ハードウェア -- 物質的に Fire Phone は魅力的に見えるが、特に際立ったところはない。筐体は黒で、高解像度の 4.7 インチスクリーン (1280 × 720 でインチあたり 315 ピクセル) を持ち、側面はゴム引きでグリップ感が良く、前面と後面は Gorilla Glass だ。iPhone 4 で後面ガラスが割れるのが問題になったことを考えれば、このデザイン要素は残念な結果に終わるかもしれない。

見事だと思えるところもいくつかある。例えば、13 メガピクセルのカメラは光学的画像安定化機能と物理的シャッターボタンを持っていて、このボタンは(長押しすれば)Firefly を呼び出す働きもする。カメラにはレンチキュラー機能がある。これを使えば少しずつ視角の異なる三枚の写真を撮影することにより疑似 3D のスライドショーが作成され、ハンドセットを傾けてそれをコントロールできる。

写真の熱狂的ファンには大きなボーナスがある。無料で、容量無制限のクラウドバックアップがすべての写真に使える(ただしビデオは対象外)上に、フルの解像度で永遠に保存しておける。少なくとも、その Fire Phone を持っている限りは。

Fire Phone が AT&T 独占契約であることに注意したい。初代の iPhone を思い起こさせる。たまたま AT&T は私が使っているキャリアで、満足して使っているので、私としてはそのことに何の不満もないが、人によっては不満なこともあるだろう。米国の中のどこに在住しているかにもよるだろう。米国以外では、現時点では利用できない。

入手可能な機種は二つある。32 GB バージョンが $199 (二年間の契約付き) で、64 GB モデルが $299、こちらも契約付きだ。契約を付けなければ価格はそれぞれ $649 と $749 となる。

Android とアプリ -- ハードウェアにもソフトウェアにも大変革をもたらすものが見当たらなければ、iPhone と比べても普通の Android スマートフォンと比べても Fire Phone の制約がくっきりと浮き彫りになる。

例えば Fire OS を考えてみよう。これは Amazon の Android ベースのオペレーティングシステムで、パワフルかつ柔軟性も持つ Google の普通のバージョンのモバイル OS に、少しだけ似たところがある。私は Fire OS が好きとは言えないが、特に、最近使ったアプリがくるくる回るフォーマットで示される carousel (回転木馬) 機能が好きになれない。(勝手な順番に一列に並ぶのが困る。)それ以外に標準的なグリッド表示もあるが、Fire Phone では普通の Android よりカスタマイズのオプションが少ない。これでは私には制約が多過ぎると思うのだが、平均的なユーザーならば気にしないのかもしれない。

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私にとってもっと大きな問題は、Amazon が普通の Android からあまりにも多くのものを取り去ってしまった上に、必ずしも適切な代替物を提供していないことだ。

このデバイスでは、Google のほとんどすべてが削り落とされてしまった。標準的な Gmail、Google Maps、YouTube などのアプリを Amazon の Appstore からダウンロードすることはできない。これは Google Play とは別運営だからだ。Amazon 自身の Nokia ベースの Maps アプリはいちおううまく動作し、サードパーティの YouTube アプリを入手することはできる。

けれども私は Gmail に代わる良い製品を見つけることができなかった。それに、Amazon 自身の mail アプリは私の Google Apps ベースの会社用メールアカウントではなく私の個人的な Gmail アカウントからしか設定を取り込もうとしない。

この Fire Phone には音声で動かすパーソナルアシスタントが付いているけれども、その機能は Siri にも Google Now にも、また Microsoft の Cortana にも遠く及ばない。ううむ、例えば Mayday の係員を呼び出して、近所の映画館でいつ Godzilla が上映されるか尋ねてもいいんだろうか?

サードパーティのアプリがどれだけあるかという点も、また大きな問題だ。Amazon が入手できるようにしているアプリが 200,000 近くあって、その中から自分の欲しいアプリが見つかる可能性は低くはないだろうが、厄介な欠落もいろいろある。iPhone と Android 双方のユーザーに非常に人気があるポッドキャストクライアント Pocket Casts を、私は見つけることができなかった。その他で欠落している大きなものとしては Camera Awesome、Hulu Plus、Path、Snapchat、SwiftKey、Yahoo News Digest などがある。また、アプリが存在していても Google Play におけるものほど頻繁にアップデートを受けていないことがある。けれども幸いなことに、Amazon の Appstore には新しいアプリが次々と追加されつつあって、Microsoft の OneNote も最近追加されたものの一つだ。

結局のところは -- 私は Kindle Fire タブレットならば喜んで生活の中に取り込むことができるけれども、Fire Phone についてはそれとは違った、はっきり否定的な見方をしている。

長期間にわたってこれを使えば、私なら頭がおかしくなってしまうだろう。無意味な制約が多いのも理由の一つだし、Dynamic Perspective や Firefly といった、突出しているのにほとんど役に立たない機能が目立つのも理由だ。私から見れば、そんなものは気を散らす邪魔物以外の何物でもない。

そうは言っても、必ずしもこの Fire Phone に成功の見込みがないという訳ではない。結局のところ、Amazon の最初の Kindle 電子ブックリーダーはさまざまの大きな問題を抱えていたけれども、その後は世代に世代を重ねてより良いものとなった。今日の Kindle Paperwhite リーダーは、素晴らしい。同じことが Amazon のカラータッチスクリーンタブレットにも言える。当初はかさばって魅力のないものだったが、今では工業エンジニアリングの素晴らしい実例となっている。

Fire Phone の玩具っぽいソフトウェアでさえ将来性は秘めている。Amazon が、独立の開発者たちにこれらを開放しようとしているからだ。私としては、賢いコード書きたちが現われて、Dynamic Perspective や Firefly に思いがけない利用法を見出してくれるのではないかと期待している。

Fire Phone を購入すれば、他にもボーナスがある。一年間の Amazon Prime 会員権だ。通常価格 $99 のものだが、送料がすべて無料となり、メディアストリーミングや電子ブック借り出しも無料で受けられる。

それでも、今のところは、Fire Phone は敬遠しておくべきものだと思う。情熱的かつ献身的な Amazon ファンで、いくら大きな犠牲を払っても Amazon のエコシステムの中だけで生きていたいと思う人たちにならば相応しいものかもしれないが、その説明にほんの少しでも該当するような人に私はかつて一度も会った記憶がない。

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FunBITS: Strava でエクササイズがソーシャルに、しかも仮想競争に

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

私は新しいソーシャルネットワークに加わった。でも、あなたはきっと 私をフォローしたいとは思わないだろう。

私にとって、ソーシャルネットワークはある大きな理由のために退屈で面白くないものになってしまうことが多い。その理由とは、コンテクストの欠如だ。私がある人についてほとんどすべてのことを知りたいと思うのは、ほんの少数の非常に近しい友人たちだけだ。私のオンライン上の友人や知人の大多数は、皆それぞれに何か特定のコンテクストに関する知り合いだ。具体的には、テクノロジー、ランニング、近所の人たち、高校の同窓生、といったところだろうか。私はそういう人たちとそれぞれのコンテクストの範囲で話をするのは好きだけれども、それ以外の話題については必ずしもそうではない。例えば、ある人の Mac に対する考えを聞きたいと思うからといって、その人がお気に入りの他の話題について私が興味を持てるとは限らない。

Facebook はこの問題に対処しようと試みつつリストを作ったので、特定のリストにあなたが繰り入れた人たちが言っていることのみを見るようにできる。また、Google+ はさらにもう一歩踏み込んでサークルを作り、そこであなたの投稿は理論的にそれに興味を持つと思われる特定の人々のグループにのみ振り向けられる。けれども、そのいずれも結局は成功していない。その理由は単純で、あなたが誰かをリストに入れたからといってその人が無関係の話題を投稿するのを妨げることはできないからであり、また投稿を特定のグループに振り分けることが可能だからといって必ずしも人々がそうするとは限らないからだ。

そこで登場するのが Strava だ。これは本質的には、スポーツ愛好家のためのソーシャルネットワークだ。上記のコンテクスト問題を解決するため、ワークアウトを投稿の主要なタイプとしている。友人たちと一緒にトレーニングしているランナーやサイクリストやトライアスリートでない人たちはきっと「何て途方もなく退屈な!」と思っておられることだろう。けれども私たちのようにその種のコミュニティーに属していれば、スクロールする活動フィードの中で他の人たちのワークアウトの様子やレース結果が読めるというのはとても興味深い。(Strava のメンバーにならない限り、アスリートのデータは公開と設定されていたとしてもあまり見ることができないことに注意して頂きたい。)私は、ランナーの友人たちが毎日何をしているかに関心があるし、トライアスロンやウルトラマラソンをしている友人たちが正気とは思えないようなワークアウトをしているのを見るのも好きだ。Cornell 大学の High Noon Athletic Club で友人たちと一緒に走るときは、その数日前からどんなワークアウトをしていたかとか、その数週前の週末のレースがどんなだったかとかいうのが私たちの話題となる。そして、Strava ではそういったことすべてをオンラインに持ち込むこともできる。そうすれば、遠くに引っ越した友人たちとも連絡が保てるというものだ。

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Strava でワークアウトを入力するにはさまざまの方法があるが、最も人気があるのは無料の GPS 対応 Strava アプリ (iOS 用と Android 用がある) を使うか、 Garmin 620 (私はこれを使っている) など GPS 腕時計を使うか、あるいは手動で距離と時間をタイプするかして入力する方法だ。個々のワークアウトごとにタイトルと説明を入力でき、それらのメタデータが人々とのやり取りを生む主要なものとなる。私は数週間前に野道を走っていてひどい転び方をし、しばらくランニングを休まなければならなかったが、多くの友人たちがお見舞いや支援の言葉を届けてくれて、その後私はランニングの距離もペースも落としていたが、今では普通のトレーニング状態に戻りつつある。個々のワークアウトに "kudos" (称賛!) を与えることができ、これは Facebook で "like" ボタンをクリックするのと少し似ている。また、そのワークアウトに付随するコメントのやり取りの会話に参加することもできる。

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もしもそれだけなら、Strava が 2009 年に創設されて以後も人気を得ることなどなかったろう。Strava で鍵となるのは、区間タイムを記録し比較することにより私たちの内部的および外部的双方の競争本能をかき立ててくれることだ。Strava アプリまたは GPS 腕時計を身に着けてランニングしたり自転車で走ったりする度に、Strava はコースを監視し、ユーザーが定義した区間のタイムを計測し、それをあなた自身が投稿した結果や他の人たちの結果と比較する。ワークアウトで特に良い結果が出れば、Strava があなたの背中をポンポンと叩いて、さまざまの仮想のメダルを褒美にしたり、さらにはランナーなら CR (course record)、自転車なら KOM/QOM (king/queen of the mountain) とさえ表示してくれるかもしれない。そうなればもちろん Strava はあなたがその区間のリーダーボードの一位にいることを他の全員に知らせてくれ、他の人たちにその記録を破るよう勧める。たとえあなたがリーダーボードの一位になる望みなどなくても、あなたがフォローしている人たちのみと比較した順位表を見ることもできるし、あなたと同じ年齢層の人たちの順位表、あるいは同じ体重のクラスの人たちの順位表を見ることもできる。(ただしこの最後の二つの順位表は月額 $6 または年額 $59 を払った Strava Premium ユーザーのみが使える。)

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Strava は "challenge" (挑戦) というものも頻繁に行なっていて、そこに加わってその月のうちに特定のキロメートル数を走破したり、標準距離で仮想のレースをしたり、あるいは最も急な斜面を走り登ったり、といったことをする人たちの意欲を高めてくれる。実際これはかなり人気があって、2 万人から時には 15 万人もの人たちが challenge に参加し、参加者には仮想のバッジのロックが外れたり、時には用具の値引き購入ができたりする。

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けれども、これは必ずしも他の人たちと競争するためだけのものではない。自分自身が過去に走ったコースや区間で自分の記録と比べてどうかを見られるのは、自分がこれからもっと良い記録を出そうという動機となる。それに、そもそも外へ出てエクササイズすることそのものにやる気が出ないという人には、ただ単に結果を公の場で公開するだけでも将来のやる気を引き出す力になることが証明されているし、challenge で競争することの満足感もまたやる気のもととなる。私が Strava を実際に使い始めたのは 2014 年 1 月のことだったが、それ以前の私は別のサイトを使っていて、そこでは GPS で追跡された私のランニングの結果は記録されていたけれども Strava のようなソーシャルな要素(と競争の要素)はなかった。その当時、私はデータをアップロードする気になるまでに何日も、あるいは何週間も間が空くことが多かった。けれども Strava を使い始めてからの私は、自宅に帰るやいなやすぐにデータをアップロードして、そのことを褒められたり、投稿する行動に伴うちょっとしたスリルを味わったりするのを楽しみにしている。

Twitter、Google+、LinkedIn といったものと同様、Strava でも人々をフォローできる。相手の人はあなたをフォローし返すこともできるけれども、Facebook のように強制はされない。Strava はサービスを使っている一流のアスリートたちを数名推薦してくれるが、私は(どこに住んでいても)自分がよく知っている人たちや、それほどよくは知らなくても近所に住んでいてレースなどで会うことがあるアスリートたちにしか興味がない。また、クラブを作成したりそれに参加したりもできるので、実生活上でクラブに所属してランニングしたり自転車に乗ったりしている場合には、Strava の中で仮想の参加をすることもできる。クラブについては、この一週間で誰がどんな成績を残したのかが一目で分かり、標準的な討論機能もあるのでそれを使って将来のイベントの相談をしたり、その他一般的なチャットもできる。私はあまりクラブを使った経験はないが、Strava 上のクラブ討論はちゃんとその話題に集中したもののようで、これは良いことだ。

私が以前使っていたサイトは基本的にランニングの記録日誌で、自分の成績を追跡してさまざまの重要な統計、例えば一週間あたり何マイル走ったか、特定のシューズを履いて何マイル走ったか、特定のレースや特定の距離ごとの自分の PR (personal record) がどうか、といったどんなランナーにも必須のデータを示してくれた。Strava もやはりその必要に応えてくれるけれども、その上に魅力的なトレーニング記録日誌とカレンダー画面(ランニング、自転車、複数スポーツそれぞれの表示がある)のお陰で自分の成績がうまく集約される。

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これらすべてが無料で利用できるので、Strava は公式な数字を発表していないけれども、これらの機能は 百万人をゆうに超える人々を魅了しているし、同社の CEO は Strava が 2014 年の終わりまでに 1 千万人のユーザーを獲得するだろうと予測した。Strava が他のソーシャルネットワーキングサイトと違うのはサイトのユーザーの 70 パーセントがスポーツの活動をしていて、毎週 2 回以上のワークアウトをアップロードしており、ユーザー全体の 20 パーセントが Strava Premium の料金を払っていることだ。言い替えれば、大多数のソーシャルネットワークと違って、Strava は広告からでなく忠実なユーザーたちから実際に直接収入を得ている。(同社は他にもいくつかの衣類や、さまざまのアクセサリを販売しているし、一部の challenge にはスポンサーが付いている。けれどもそれらはあまり大きな収入源ではないと私は思う。)

私はまだ Strava Premium を購読していない。その理由はあとで説明するが、購読すれば潜在的に興味深い多数の機能が追加され、私よりもっと競争好きな、あるいはトレーニングにもっと深入りしている人たちにはそういう機能が役に立つだろう。ランナー向けには、Strava Premium では脈拍数のデータを使ってワークアウトがどの程度ハードなものかを数値で示す "suffer score"、タイムや距離の目標値、フィルター付きのリーダーボード、より良いペースやレースの分析機能、リアルタイムの区間計測、ワークアウト中の友人たちの位置情報、仮想賞品のトロフィーケース、走った地点のヒートマップが追加される。自転車乗りにもそれと同様の多くの機能が追加されるほか、パワーメーターを使っている人のためのパワー分析、他の人たちの走りをサイクルコンピュータ Garmin Edge に転送するための GPX ダウンロード、インドアトレーニングのビデオも付く。Strava Premium の機能はすべてインターフェイスを見れば分かるので、購読すれば何が使えるようになるかがいつでも分かる。ただ、無料のサービスのみにしておくのも別に難しくはない。

そう、私は無料のサービスのみにしているのだが、それは別に私が競争好きでないからでもないし(私は確かに競争好きだ)トレーニングに深入りしていないからでもない。(私は自分のペースの統計を見るのが大好きだ。)実は、私にとっての問題が二つある。まず第一に、Strava の競争相手がたくさんあって、いつも一緒にトレーニングしている人たちには他の記録日誌ソフトウェアまたはサイトを使っている人が少なくない。好みでそうしている人もいるし、単に惰性で使い続けている人もいる。(何しろ Ithaca はそれほどネットワークの行き渡った町ではない。)Strava はネットワーク効果のお陰で多数のユーザーを得ている。つまり、友だちの多くが使うようになれば、あなたも使いたくなるという訳だ。けれどもそのネットワーク効果は諸刃の剣だ。Strava を使う友だちの数が結局増えなければ、時を経てソーシャルな側面の意味が消えてしまうだろう。

第二に、そしてこちらの方が大きな懸念を感じるのだが、Strava がデータを扱う哲学には基本的に私に首を傾げさせるものがある。Strava が個々のワークアウトごとに膨大な量のデータを記録し高速処理しているのは明らかだが、同社のプログラマーたちは私に言わせれば疑わしい決断をした。GPS の追跡のみに焦点を置いて、ワークアウトのその他のメタデータ、例えばユーザーが腕時計のボタンをいつ押したかといったことを無視するようにしてしまったのだ。このことは、移動時間と経過時間の違いを扱った長いサポートスレッド の中で議論されている。基本的に、Strava は移動時間を好む(従って停止している時間は無視する)上に、経過時間を報告するのはその走りをレースだとマーク付けした場合のみだ。自転車の場合はそれでも受け入れられる(自転車の方が速く動くし、GPS の受信状態が悪くなる森の中やその他の場所にいる可能性が低い)けれども、ランナーにとっては、どんな記録用デバイスを使ったとしても一時的に GPS 信号が消えるのはよくあることだ。その結果として、ワークアウトの走行距離が正しくなく、タイムやペースとして異常なデータが記録されてしまうことがある。

たとえその走りをレースだとマーク付けしたとしても、データがおかしくなることはある。私は先月 1600 メートルのトラック競技を 5:09 で走ったが、私の Garmin 620 は正確に時間をキャプチャした。けれどもそのワークアウトを Strava にアップロードしてレースだったとマーク付けると、Strava は私のタイムが 5:07 だと言った。どうやら、Garmin 620 がレースの最初の 2 秒間に GPS トラックポイントを記録しなかったためのようだ。つまり、Strava はこれをレースとマーク付けしたことにより移動時間から経過時間へと正しく切り替えたけれども、時計の実際の経過時間を無視して GPS トラックのみから計算したため、やはり結果の時間が間違っていた。(ペースの方がもっと事情が悪かった。1 マイルは 1609 メートルなので、私のペースはむしろ 5:11 ほどであり、Strava の 4:59 は誤っていた。)もちろん私も自分が 2 秒速くレースを走れたり、そんなに高速のペースが出せたりしたならば嬉しいだろうが、それが誤りだと説明しなければならないのは恥ずかしいことだ。

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数字が誤っていれば単にワークアウトを編集して正しくないデータを修正すればよいだけではないのか? 実はそれも厄介だ。Strava ではアップロード済みのワークアウトを編集することが許されていない。ただし、ワークアウトのタイプの設定、使った装備(シューズや自転車)の選択、それにタイトルと説明文は編集ができる。(そして、それらを編集した場合にも、時々進行中の回転カーソルがいつまでも回転し続ける状態に陥ることがある。)もちろん正しくないワークアウトを削除して正しいデータを手で入力し直すことは可能だが、そうすると自分のいた位置の地図情報と、元の自動的に生成されたワークアウトに付随していたペースや脈拍数のデータが失われてしまう。

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そのデータが編集できるようになれば、データの正確性への Strava の尊大な態度に対する私の不快感は消えることだろう。圧倒的大多数のワークアウトでは、私はデータが多少ずれていても気にしない。けれども私がトラック競技に出場したり、正確に計測されたロードレースを走ったりする際には、地上の計測距離は私の Garmin 620 が記録する距離よりも正確で、Strava が出した悪いデータを既知の良いデータで置き換えられるようにできるべきだと思う。こうして薄弱な GPS データに依存してしまっていることにより、Strava は自動的に真の PR を計算することはしない。(「最大限の努力による推測値」は計算するけれども、それは上記の理由から完全にデタラメの数字に過ぎない。)その代わりに、PR は自分で手入力する必要がある。

とても残念なことだ。これらの欠陥を知るより前に、私はもう少しで Strava Premium を購読するところだった。上記のサポートスレッドへの同社の反応も、大して理解も同情も示していない。私は自分がおそらく Strava ユーザーたちの中のごく少数派なのだろうということは分かっているつもりだが、つまり、データに精通しつつ競争好きなランナーであり、レースによっては 1 秒の単位まで正確な数字が欲しいと思うような人は少ないのだろうとは思うが、自分が懸命に叩き出したトレーニングのデータを、重要な場面で正確性を大して気にも留めないような会社に信頼して預ける気持ちにはどうしてもなれない。

今のところ、私は Strava を、そのソーシャルな側面で、それからトレーニング情報の概観が見られることのために、使い続けたいと思う。これら二つの面では、Strava の方が Garmin Connect, よりも私は好きだ。Garmin Connect も私の GPS 腕時計 Garmin 620 からデータを自動的に記録できるが、私がそちらのサイトを推薦するのは正確な結果を気にする私のような人特有の偏見によるものなのかもしれない。

でも、このレビュー記事を否定的な口調で終わるのは私の本意ではない。私は競争好きでギーク風な考えに取り付かれたランナーかもしれないが、自分の体のフィットネスを改善したいと思う人は誰でも、どのレベルであっても、私は心から応援したい。私はランニングも自転車も大好きだし、どんな人にも外へ出て体を動かすことを強くお勧めしたいと思っている。もしも Strava があなたがエクササイズするための助けとなるのならば、それが家の近所のジョギングでも、生まれて初めての 5000m レースであっても、あるいはチャリティーの自転車レースに参戦するためのトレーニングであっても、それはとても素敵なことだ。

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TidBITS 監視リスト: 注目のアップデート、2014 年 7 月 28 日

  文: TidBITS Staff: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

TinkerTool 5.3 -- Marcel Bresink が TinkerTool 5.3 をリリースした。内部的動作をカスタマイズするためのこのシステムユーティリティへの今回のメンテナンス・アップデートは、OS X のデザイン上の問題点により環境設定が大幅な遅延の後でしかアップデートされなかったのを回避している。今回のリリースではまた、Safari で戻る方向のナビゲートに Backspace キーを使う、電源ボタンを押してスリープモードに入るよう変更された (10.9.2 またはそれ以降のみ) ものを無効にする、Mission Control のアニメーション速度を制御する、クラッシュに関する情報を Notification Center を使って表示する、といった設定が新設された。Bresink によれば、TinkerTool の内部のアーキテクチャも今回アップデートして最新の OS X にも対応できるようにしたけれども、特に OS X 10.10 Yosemite に対応するよう対処した訳ではないとのことだ。(無料、3.8 MB、 リリースノート、10.9+)

TinkerTool 5.3 へのコメントリンク:

Default Folder X 4.6.8 -- St. Clair Software が Default Folder X 4.6.8 をリリースし、公開ベータ版リリースの OS X 10.10 Yosemite に対する互換性を追加した。今回のアップデートではまた、Rename コマンドの速度を改善するとともに、10.9 Mavericks で走る際のバグを修正して Default Folder X が提供するものでなく標準のコンテクストメニューをも利用できるようにしている。(新規購入 $34.95、 TidBITS 会員には $10 値引、無料アップデート、10.6 MB、リリースノート、10.6+)

Default Folder X 4.6.8 へのコメントリンク:

Audio Hijack Pro 2.11.0, Nicecast 1.11.0, Airfoil 4.8.7, Piezo 1.2.5 -- Rogue Amoeba が同社のたくさんのオーディオアプリケーションの大多数をアップデートして、来たるべき OS X 10.10 Yosemite のための当初の互換性を提供した。アップデートされたのは Audio Hijack Pro 2.11.0Nicecast 1.11.0Airfoil 4.8.7、それに Piezo 1.2.5 だ。また、Audio Hijack Pro、Nicecast、および Airfoil では Instant On コンポーネントもバージョン 8 にアップデートして、Yosemite への対応を提供するとともに詳細は不明だがいくつかの改善や修正を盛り込んでいる。個々について主な点を挙げよう:

さらに、Rogue Amoeba の Intermission は一時停止や巻き戻しをするオーディオユーティリティだが、バージョン 1.1.1 にアップデートされた。ただし Yosemite への対応が追加された以外に変更はない。TidBITS 会員はこれらの Rogue Amoeba 製品も、またオーディオエディタの Fission もすべて 20 パーセント割引で購入できる。

Audio Hijack Pro 2.11.0, Nicecast 1.11.0, Airfoil 4.8.7, Piezo 1.2.5 へのコメントリンク:

Marked 2.3 -- Brett Terpstra が Marked 2.3 をリリースして、この Markdown プレビューツールをサンドボックス化することで Mac App Store に受け入れられるようにした。 Mac App Store では旧バージョンの Marked アプリがこの Marked 2 で置き換えられたが、Marked 2 は無料アップデートではない。ただし期間限定で (Mac App Store 版も Marked ウェブサイトのものも) $9.99 のセール販売中だ。今回のアップデートから、このアプリの Discount プロセッサオプションが GitHub Flavored Markdown に対応し、リフレッシュやスタイル変更をしてもブックマークが保たれるようになり、ハイライト個所のナビゲーションとハイライトされた単語のカウント機能を追加し、フォルダの中の最新のファイルを読む際の問題を修正し、読めないファイルや改名されたファイルの処理を改善し、外部エディタで開く際のファイル監視の問題点を修正している。Marked 2 がサンドボックス化されたため、従来開いていたファイルも新たなアクセス権が必要となるかもしれない。現時点での Marked 2 は OS X Yosemite に対応していないが、Terpstra は近日中に対応すると約束している。(新規購入は期間限定のセールで $9.99、無料アップデート、16.7 MB、 リリースノート、10.7+)

Marked 2.3 へのコメントリンク:


ExtraBITS、2014 年 7 月 28 日

  文: TidBITS Staff: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Apple が書籍推薦サービスの BookLamp を買収し、Adam Engst が The Tech Night Owl に出演して Apple の Q3 業績について、IBM との提携について語り、LiveCode クロスプラットフォーム開発環境が HTML5 ウェブアプリを制作する資金を模索中で、漫画購読サービス Marvel Unlimited が 2014 年 7 月 29 日まで 99 セントに値引きしている。

Apple、BookLamp 推薦サービスを買収 -- TechCrunch のスクープ記事によれば、Apple が今年になって書籍推薦会社 BookLamp を 1 千万ドルから 1 千 5 百万ドルほどで買収したという。Apple からは「Apple は時々小規模な会社を買収するが、その目的あるいは計画について語ることは通常していない」というコメントしか出されていないが、どうやら Apple は BookLamp の従業員と、Book Genome Project テクノロジーとを手に入れることによって、iBooks Store や App Store 内部での推薦機能を向上させたいようだ。

コメントリンク: 14946

Adam Engst、Tech Night Owl で Apple 会計報告と IBM 提携を語る -- The Tech Night Owl Live ポッドキャストに出演した Adam Engst は Apple の Q3 2014 財務業績について、また Apple と IBM との提携について、ホストの Gene Steinberg と議論した。

コメントリンク: 14945

LiveCode、HTML5 ウェブアプリ開発をクラウドファンド -- クロスプラットフォーム開発環境 LiveCode は、おそらく最も成功した HyperCard 後継者と言えるだろうが、アプリを Mac OS X、iOS、Windows、Android、およびいくつかの変種の Unix に展開している。LiveCode の開発者 RunRev は、オープンソース版の LiveCode を作るため 2013 年 2 月に Kickstarter で $840,000 近くにのぼる資金を集めた。(2013 年 2 月 22 日の記事“LiveCode、無料のオープンソースアップデートをクラウドファンド”参照。)そして同社は今回、再びクラウドファンドのやり方を試みている。今回の目的は LiveCode 開発者がアプリをブラウザの中で走る HTML5 ウェブアプリとして書けるようにすることだ。なかなか魅力的な目的だが、締切まであと三日を残した現在まだ目標金額の半分を少し超えた程度だ。だから、もしも援助してみたいと思われるなら、7 月の末までに資金集めページ(このページは Kickstarter が運営するものではない)を訪れてみて頂きたい。

コメントリンク: 14913

Marvel Unlimited、7 月 29 日まで 99 セントに値引き中 -- San Diego Comic-Con を祝って、Marvel は Marvel Unlimited 購読サービスを最初の月のみ $0.99 に値引き中だ。次の月からは、あなたがキャンセルしない限り自動的に通常価格の月額 $9.99 で更新される。2014 年 7 月 29 日までに値引コード SDCC14 を使ってサインアップすればよい。私たちスタッフの中の漫画専門家 Josh Centers は Marvel Unlimited の iOS アプリや漫画本の選択についていろいろ問題点を挙げている(2013 年 5 月 24 日の記事“FunBITS: Marvel Unlimited アプリは体重 44 キロのやせっぽち”参照)けれども、彼はそれでも漫画本を読むには購読サービスが最も理に叶っていると考えている(2014 年 5 月 3 日の記事“ComiXology のアプリ内購入騒動を解説”参照)ので、今回の値引きは試してみる絶好の機会と言える。

コメントリンク: 14912


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