TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#1276/15-Jun-2015

今週号の TidBITS は幅広い話題を扱う。Apple は OS X、iOS、Safari と別々にあった開発者プログラムを一つの使いやすいパッケージにまとめた。Josh Centers は Apple Watch Sport を手首につける変わった方法を三つ紹介するとともに、iPhone 用の株式取引アプリ Robinhood を検討する。Dan Moren が寄稿記事で Doodle を使ってミーティングの予定をテキパキ処理するやり方を説明し、Steve McCabe が世界一周の旅をしつつ Apple Pay を使ってみた体験を物語る。今週号ではまた、SummerFest 2015 ソフトウェアセールのお知らせと、新しいスポンサー Bushel の紹介もある。Bushel は小規模の団体に向けた、Apple デバイスの管理を手軽にできるようにするためのクラウドベースのサービスだ。最後にもう一つ、Alexandre Leroux が初めての TidBITS 寄稿で、iTunes ビジュアライザの可能性を存分に引き出す方法を FunBITS 記事にしてくれた。先週は多くの開発者たちが WWDC のためサンフランシスコにいたので、注目すべきソフトウェアリリースは GraphicConverter 9.7 だけだ。

記事:

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Bushel が TidBITS スポンサーに

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

私たちの最新の TidBITS 長期スポンサーとして Bushel を心から歓迎したい。Bushel は、職場の Apple デバイスに対するモバイルデバイス管理 (MDM) のためのクラウドベースのソリューションだ。MDM とは何か? 簡単に言えば、iPhone や iPad や Mac の標準的なセットアップとメンテナンスの作業を自動化して、電子メールの設定や、アプリの配布や、必要なセキュリティ設定の有効化などを、新しいデバイスが届いた際に毎回手動でせずとも済むようにしてくれるということだ。JAMF Software が作った Bushel は、小規模から中規模までの組織向けに、手動の設定は卒業済みだけれども JAMF の大企業レベルの Casper Suite を使うほど大規模の MDM は不要だという状況に相応しいものとなるよう設計されている。要するに違いは機能と価格だ。Bushel が提供するのは Casper が持つ核心的機能の一部のみだが、デバイス 1 台あたり月額 $2 という非常に手頃な価格となっている。その上、3 台までのデバイスについては無料で Bushel を試用できる。

少し前に、Julio Ojeda-Zapata が記事“ITbits: Bushel が小さな会社の Apple デバイス管理を援助”(2015 年 3 月 31 日) で Bushel をレビューして、結論としてこう述べている。「これはシンプルで、理解しやすく、安価だ。それこそ、パートタイムの IT 管理者が自分の他の仕事に戻れることを意味する、絶妙の組み合わせではないか。」

だからこそ、Bushel を TidBITS スポンサーとして迎えることができて私はとても嬉しい。Apple が主流のコンシューマ市場に集中して、ゲームやチャットやソーシャルネットワーキングに力を注ぐのはビジネスとして結構なことだが、私は TidBITS が実際に生産的な仕事をするために Apple デバイスを使っている人たちを援助する力になれたらという思いを強く持っている。もしもそのパートタイムの IT 管理者がこの記事を読んで、Bushel を使って年額たった $25 でデバイス管理がすっかり合理化できたと上司に報告することができたとしたら、私としてはそれに勝る喜びはない。

TidBITS と、Apple コミュニティーへの貢献に対し、Bushel に感謝の気持ちを捧げたい!

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物書き職人のための SummerFest 2015 ソフトウェアセール

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

「愛は目ではなく心で見るもの」-William Shakespeare

私たちのお気に入りの開発者たち何人かが SummerFest 2015 セールに参加しないかと誘ってくれたその時、シェークスピアの「真夏の夜の夢」で語られたこの知恵の言葉が、私の脳裏に浮かんだ。私たちは調査し、執筆し、編集する仕事をして日々を過ごしているので、私たちがテキストに情熱を注ぐのと同様にアプリを作ることに情熱を燃やしている人たちの小さなチームが物書き職人のためのツールをセール販売していると聞けば、私たちもぴったりマッチするという気持ちになれたからだ。これは、あなたが使いもしないようなアプリをたくさん束ねた策略バンドル販売の類いではない。偉大な6つのプログラムと、私たちの Take Control ブックとが、2015 年 6 月 30 日まで単純にそれぞれ 25 パーセント割引になるというものだ。

人の手で集められたこのコレクションには、私たちが日々使っているアプリや、私たちが長年にわたり記事で扱ってきたアプリが揃っている。 DEVONthink Pro は、メモや調査資料を保存しておくのに使えば最高だ。Eastgate Systems の Tinderbox は、考えたことを整理し計画し位置付ける役に立つ。どんな物語も、 Aeon Timeline があれば時間系列に構想立てられる。Literature & Latte の高い評価を受けた執筆スタジオScrivener は、調査結果やアイデアを原稿にする助けとなる。もしも書いているものに参照文献が重要な意味を持つなら、 Bookends を使えば出版済みの情報を収集し注釈付け引用することができる。最終的な原稿に編集者と協力して磨きをかけるには(加えて必要となればどんなテキスト操作をするにも)Nisus Writer Pro の働きこそ他に並ぶものがない。そしてもちろん、私たちの Take Control 本のライブラリ には、これらのアプリを使いこなすために役立つ本も(DEVONthink Pro と Scrivener にはそれぞれ専用の解説書も)また Mac 全般を使う際に役立つ本もある。

上に記したそれぞれのアプリのリンクで、詳しい情報が読める。25 パーセント割引で購入するには、メインの SummerFest ページを使うか、または注文時にクーポンコード SUMMERFEST2015 を使うかすればよい。

あなたが真剣に物書きをするのなら、ここはひとつあなた自身のために、あなたのアイデアを世界に伝える最良のやり方に集中できるためのツールやトレーニングに投資してみてはいかがだろうか。

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Apple、開発者プログラムを統合

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

これは全くもって分別ある動きだ。Apple は、従来あった開発者プログラムの Mac Developer Program (年額 $99)、iOS Developer Program (年額 $99)、および Safari Developer Program (無料) をまとめて、単純に一つだけ、年額 $99 の Apple Developer Program とした。2015 年 6 月 8 日以降は、Apple Developer Program の会員でさえあれば OS X、iOS、それに watchOS のアプリ、それから Safari 用の拡張も、ビルドし配布できるようになる。基本的にこれは、Mac と iOS の双方で開発する人にとってはコストが半分になることを意味する。ただし、これまで無料の Safari Developer Program のみを使っていた人は、今後は $99 の料金に直面することになる。

移行はどうなるのか? これまで Mac Developer Program か iOS Developer Program のどちらか片方だけに登録していた人は、個人として登録していても、またはチームとしての登録であっても、会員登録の有効期限はこれまで通りで変わらず、Technical Support Incidents の回数も変更を受けない。これまで Mac と iOS 双方の Developer Programs に登録していた人は、双方のプログラムの残存有効期間の合計日数だけ有効期間が残るように新たな有効期限が設定され、それぞれのアカウントに付随する Technical Support Incidents の残り回数も合計される。チームでの登録の場合は、役割が集約され各メンバーは最も許可の多い役割を引き継ぐ。

これまで無料の Safari Developer Program のみを使っていた人は、Apple Developer Program に加入しなければ El Capitan 用の Safari Extensions Gallery に自分の拡張を提出することができなくなる。既に提出済みの拡張は、今年の秋に OS X 10.11 El Capitan がリリースされるまでの間のみ、既存の Safari Extensions Gallery 上にダウンロード可能な状態で残される。

iOS Developer Enterprise Program に登録しているチームについては、既に自動的にアカウントが Apple Developer Enterprise Program にアップデートされており、ここには Mac のアプリを開発するためのリソースもある。それ以外の点では、有効期限も、Technical Support Incidents の回数も、メンバーの役割も、すべて従来通りだ。

どのような種類のアカウントを持っていようと、まず Member Centerにログインして新しい Apple Developer Program ライセンスを受けておかなければならない。それをしないと開発リソースへのアクセスはできない。

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Doodle でミーティングのスケジュール管理

  文: Dan Moren: [email protected], @dmoren
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

私は非常に多くのイベントをスケジュール管理している。一つのポッドキャスト用に六人のパネリストを手配しようとすれば、素早く電子メールを出すだけでも手に負えない作業となる。そんな時私は Doodle を使う。このウェブサービスを使えば、人々の都合を問い合わせて、できるだけ多くの人にとって都合の良い日時がいつかを見つけることができる。

イベントの主催者が Doodle で人々の都合調べをするには、まずそのウェブインターフェイスを開いて Schedule an Event をクリックする。Doodle アカウントは無料で作成できるが、イベントのスケジュールを立てたり誰か他のイベント主催者のために自分の都合を登録したりするだけならば、アカウントの作成さえ不要だ。アカウントは単に、頻繁に Doodle を使う人の便宜のためだけのもので、主催者も参加者も、さまざまの都合調べをここで追跡できる。

イベントを作成する際に、必要なのはそのイベントの名前を入力することだけだ。オプションとしてイベントの説明や開催場所なども入力できる。月のカレンダーから日を選んだり、あるいは詳細な週ごとのカレンダー表示からもっと具体的な日時を選んだりすることもできる。また、イベントの開催日を特定の日付に固定したくない場合のためにフリーテキストのオプションもある。例えば "every other Monday" のような入力もできる。

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今日のように遠方まで広がった仮想の社会においては、Doodle がタイムゾーンに対応していることがとりわけありがたい。あなたが申し出た時刻がどのタイムゾーンのものかを指定できるからだ。これで、国中の、あるいは世界中の参加者の世話をするのがずっと楽になる。もう一つありがたいのが、このサービスでは常識の範囲内なら好きなだけ多くの時間帯を追加でき、ある日に設定した時間帯のリストをコピーして他の日に貼り付けることもできるので面倒な入力作業を繰り返す必要がない点だ。

デフォルトでは、招待された人々がその特定の時刻に自分の都合が良いか否かをマークできるようになっているが、高度なオプションとして "If Need Be" (必要ならば) という選択もできるようにすることができる。また、人々がそれぞれたった一つの期間しか選べないように制限することも、都合が良いと答えた人たちがあらかじめ定めた人数に達すれば都合調べを閉じる設定にすることもできる。この後者の設定については、どこか一つの共通の時刻を選んだ人たちが定足数に達した場合に調べを閉じるようにできればもっと便利なこともあるだろうにと思うのだが。それからもう一つ、結果が参加者たちには開示されず管理者のみが結果を見られる「隠し」調べをすることもできる。

Doodle はその仕事の大半を電子メールでする。あなたが招待した人々に都合調べのメッセージを送信してくれる。(あるいは、参加して欲しい人にあててあなたが手でリンクを送ることもできる。)電子メールは今でも電子的コミュニケーションの最小公分母なので、これは良いことだ。参加者たちが登録のために Doodle にサインアップする必要がないという事実も、やはりとても良い。人々に都合調べに答えてもらうための障壁が取り除かれるからだ。

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Doodle のウェブインターフェイスは、最高に魅力的とは言えないまでも、なかなか良い。イベント主催者として、私は反応の少なかった時間帯を折畳んで多くの人たちが都合が良いと答えた時間帯を目立つようにする効率的なやり方を特に気に入っている。時間帯を緑・黄・赤に色分けしてあるお陰で、人々がどの時間帯に都合が良いかが一目で分かる。参加者の立場からも、リンクをクリックして都合の良い時間帯を答えるのがとても楽だ。私は以前、参加者の追跡に Google Sheet を使っていたことがある。ちゃんと働いてはいたけれども、Doodle に比べれば同等の機能と洗練を得るためにはるかに多くの設定の手間が必要だった。

Doodle には 無料の iOS アプリもある。これは最近再デザインされたばかりだが、まだまだ問題点がいくつか残っていると私は思う。まず第一に、これには iPad ネイティブなバージョンがなく、iPhone 専用だ。

第二に、アプリのインターフェイスがところどころ使いにくい。例えば、私が作成した都合調べをロードさせると、時刻を示した長いスクロールリストを表示したけれども、まるで私がそこにまだ書き込んでいないかのように挙動した。実際私は書き込んでいなかった。私がこの調べの作者なので、私は自分に都合の良い時刻だけを書き入れたからだ。個々の時刻に対して都合が良いと答えた人たちの人数は表示されたけれども、その数字をタップすればその時刻に誰が都合が良いかが分かるという事実はすぐに分かるようなことではなかった。まるでそれは誰もがその時刻に都合が良いのかとも思えたが、実際にはそれは単に 私自身 の都合を示したものに過ぎなかった。それら二つのタップ領域の間に、区分を示す印が何もない。また、いろいろな時間帯にそれぞれ 誰が 都合が良いかを一目で見分けて互いに比較するのが難しい。ただ、良い面を言っておくと、どの時間帯で最も多くの人たちの都合が良いかはちゃんと示される。

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けれども私の最大の不満は、Doodle の最も賢明な戦略の一つでもある。Doodle では、あまりにも多くの部分が無料なので、この会社はサービスを続けるために十分な資金をどこから稼いでいるのだろうかと不思議に思うのも無理からぬことだろう。このサービスは広告も使っているが、Doodle はプレミア機能も提供する。プレミア機能のいくつかはとても良く出来ている。セキュリティが気になる人のための SSL 暗号化や、追加情報(例えば住所など)をリクエストするオプション、それから自動リマインダーもある。

けれども最も魅力的なプレミア機能は、少なくとも私にとっては、Google、Outlook、iCloud その他の既存のカレンダーとの統合だ。モバイルアプリにおいてこれは非常に大きなことで、私はモバイルアプリで都合調べを開くといつも Doodle アプリと自分のカレンダーの間を何度も行き来して自分がその時刻に都合が良いかどうかをチェックしている。統合のプレミア機能を得るためには、年額 $39 を払わなければならない。さらに多くのカスタマイズができるビジネス向けの契約は月額 $69 からで、プレミアユーザーの人数が増えれば料金は高くなる。

全体的に見て、iPhone 用アプリにはいくつか不満があるものの、私は Doodle を非常に有益なスケジュール管理ツールだと思う。以前なら電子メールリストと、返信の連鎖と、日程組みに頭を掻きむしる苦痛の作業であったものを、ほとんどシームレスなものへと変えてくれる。学習曲線が極端に低いので、セットアップする時間をかけても十分それだけの価値があると思える。そして、もしもあなたにプレミア機能に料金を払う余裕があれば、カレンダーとの統合により Doodle はさらに一段と良いものになるだろう。

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Apple Watch Sport を身につける三つの代替的方法

  文: Josh Centers: [email protected], @jcenters
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

Apple Watch は Apple のこれ迄で最も個人的な製品かもしれない。我々は、これをレビューするのは殆ど不可能だと感じた。何故ならば、誰もが違った感想を持ち、そして誰もが違った使用法を見いだしている様に見えるからである。

その様に個性的な製品でありながら、殆ど全員が Apple Watch を同じ様に身につけている。しかし、大部分の腕の形と大きさはある範囲におさまるであろうが、標準的なやり方が、あなたの腕にとっては最も心地良いとは限らない。我々 TidBITS でも、ひょっとすると Apple Watch Sport の身につけ方としてもっと良いと感じて貰えるかもしれないやり方を幾つか考えた。(我々は Apple Watch Sport とそのプラスチックバンドの組合せしか試していない;Apple Watch や違うバンドでは、あなたの感じも違うかもしれない。)

バンドを反対にする -- 箱から出した状態では、Apple Watch Sport は、金属ペグのある短い方のバンドは上方に付いており、サイズ調整用の穴が開いた長い方のバンドは下方に付いている。

これらは、もし希望なら、入れ替えられる。そうするには、Apple Watch 本体の背面にある小さなボタンを押し下げ、バンドを溝から滑らせて出す。それから、それぞれの部品を反対側に再挿入する。最初は奇妙に見えるが、きちんと役目は果たす。

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何故そんなことをする? この様にした方が Apple Watch を着けやすいと感じるかもしれない、と言うのも、上部側のバンドを指でつまんで、それから親指をペグに絡ませ望みの位置の穴へと導けるからである。

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このやり方だと、バンドの端をスロットへと差し込む時に、腕毛を巻き込んだり、或いは皮膚を挟んだりするのが変化するかもしれない。我々の中にも、こちらの方がもっとひどいと感じるものもいたし、そうでないのもいた。

上下反対 -- これは、開発者の Craig Hockenberry の好意によるものである。あなたは Digital Crown をスクロールする方を好むが (画面をスワイプすることに対して)、人差し指でスクロールするのは不自然だと感ずる?

次の方法を試されたい:Apple Watch を外し、上下を逆向きに身につける。そうすれば、Digital Crown は手の方ではなく肘の方を向く。次に、iPhone 上の Apple Watch アプリを開き、そして My Watch ビューの中で、General > Watch Orientation をタップ、そして Digital Crown のサイドを変える (つまり、もし Apple Watch を左腕に着けるのであれば、Digital Crown on Left Side を選択する)。

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この向きだと、Digital Crown を親指でスクロールしたり押したりし易くなる。欠点は、このクラウンが腕に食い込むかもしれない。

内側に -- 前に "Apple Watch の第一印象" (27 April 2015) で、Adam Engst は次の様に嘆いた、"手首の内側にウォッチを着けることはできないようだ。それをすると、腕を上げてウォッチを見る姿勢にしても、加速度計が必ずしもそれと探知してくれない。

しかし、結果的には、注釈付きではあるが、それは可能である事が分かった。残念ながら、Adam が記したように、Apple Watch は時としてご機嫌ものであることがある。画面を出すために腕を上げるやり方は、時計がこの向きでも大抵はうまく行くが、腕の外側に着けている時ほど早くは反応しないし、座っている時はとりわけそうである (座っていると全く働かない場合もある)。そして心拍数センサーは私の腕の内側でも通常は働くが、時折失敗することもある。働いていれば、その値は時計が私の腕の上にある時のものと大差ない。

何故そんなことをする? ひょっとすると、それがただ単に慣れた方法なのかもしれないし、画面を引っ掻き傷やその他の損傷から守りたいのかもしれないし、腕を返さないですむことが職業上有益なのかもしれないし、或いは心拍数センサーが作動しない原因となる刺青が腕の外側にあるからなのかもしれない ("Apple、刺青が Apple Watch のセンサーを妨げることを認める" 4 May 2015 参照)。

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突き詰めると、Apple Watch には身につけるのにしてはいけない向きがあるわけではない。これは、バンドと時計本体に対する Apple 設計の先見の明のお陰である。これらのやり方で実験してみるのに気兼ねは無用なので、標準のやり方よりもより心地良いと思えるものがあるかどうか試してみて欲しい、そしてもっと他の方法で身につける方法を発見したのであれば、コメントを通じて知らせて欲しい。

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Robinhood で誰でも株取引が

  文: Josh Centers: [email protected], @jcenters
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

私は、大人になってからずっと投資家としてやってきているが、何時もミューチュアルファンド (オープン型投資信託) に、最近では低コストのインデックスファンド (市場指標連動型投資信託) に傾いてきた。個別の株式の取引は私にとっては賭けのように思えた。もっとも、何年も前に AAPL (Apple の株式) が $17 の時に何故買わなかったのかと残念に思うことはしばしばではあるが。(編集者注:勿論、Apple をカバーする報道者として、我々がその会社の株を保有するのは適切ではないであろう -Adam) しかし、最低限度額と手数料が高いことから、個別の株の取引はお金の浪費に見えた。

しかし、新しい iPhone アプリが私の見方を少々変化させた。Robinhood は無料の取引と最低限度額無しを提供しており、全ては親しみの持てる魅力的なインターフェースに納められている。これは App Store では無料だが、現時点では 18 才以上で有効な Social Security 番号を持っている米国住民に限られている。Australia の住人は、提供開始早々のアクセスを得るための Robinhood の 待ちリスト に申し込むことが出来る。

Robinhood は料金を課さないので、同社はどうやって 儲けるのだろうかとお思いかもしれない。金持ちから盗む? いいえ、それよりは賢い;Robinhood は皆さんのアカウントにある未投資の現金から利子を集める。同社はまた、将来信用取引も提供する計画で、これが始まると皆さんは投資用の資金を借りることが出来、Robinhood はその貸し金から利息を徴収出来る。

Robinhood は "申し込みには 4 分以下しかかからない" と約束しているが、皆さんのアカウントを設定するには、実際は 1 週間程度かかると思うべきである。Patriot Act のお陰で、あなたは自分の Social Security 番号、生年月日、郵便の宛先、そして雇用主情報を提供しなければならずそして承認されるのを待つのだが、これには約 1 日かかる。それから、Robinhood は確認のための小さな送金を 2 回あなたのリンクされた銀行口座にし、これに数日要する。あなたのアカウントを確認した後、Robinhood の口座に入金する額を選択するのだが、ここでもこの転送に数日要する。

幸いにも、この試練さえ通り越せば、Robinhood は株取引アプリとしての簡便さをほぼ備えている。主画面は、あなたのポートフォリオの現在高を示し、経時的な変化を示すグラフが付属する。スクロールして下がると、あなたの株式が表示され、またあなたのウォッチリストも表示される - これはあなたが過去に検索した株式で構成される。

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株式を検索するには、主画面の右上隅にある拡大鏡をタップする。会社の名前か、或いは株式記号を入力すると、検索ボックスの下に候補がポップアップする。一つの会社をタップすると、それに関する情報が示され、そしてあなたのウォッチリストに加えられる。ウォッチリストから株式を削除するには、それを再度検索し、そして削除するためチェックマークをタップする。

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その会社情報画面上で、その株を買うには Buy ボタンをタップする。買いたい株数を入力、Review をタップ、そしてその購入を確定する。

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また、右上に位置するテキストラベルをタップすることで、色々な注文方式を選択出来る:

Robinhood はまだ、 Fill Or Kill (即時実行、さもなくば取り消し) とか All Or None (全量、さもなくばゼロ) と言った特殊な注文は提供していない。また株式の空売りも Robinhood ではまだ出来ない。

Robinhood が提供する株式に関しては、 株式と上場投資信託と言った通常の品揃えは期待出来る。しかしながら、Robinhood は、公社債、ミューチュアルファンド、オプション、OTC (店頭) 株式、或いは新株予約権はまだ提供していない。

もし配当がある株式を所有しているならば、これらは 自動的に処理され、そしてあなたのアカウントに現金として入金されるが、自動的に再投資されることは無い。

株式を売るのは買うのと同じぐらい易しい。主画面或いは検索経由で、持っている株式を選択、Sell をタップ、売りたい株数を入力、注文の型を選択 (Market がデフォルト)、Review をタップ、そしてあなたの取引を確定する。注意すべきは売り注文毎に $0.02 の規制当局からの費用がかかるが、これは Robinhood の手の及ぶ所ではない。

残念なことに、株式を売った後あなたの資金が "決済" されるまでに 3 日かかる ので、ある株を売り、その資金を使って次の株を直ちに買うと言うことは出来ない。Robinhood は、これの日数短縮に努めていると話している。これら未決済の資金、設定、その他の情報は、主画面の左上隅にある人のアイコンをタップすることで見られる。

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Robinhood はまた Apple Watch での作業も進めており、現在高と株式の売り買いが出来る全機能アプリを示すグランスが提供される。

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Robinhood に関する一つの不満は、株価の変化の通知をまだしてくれない事で、そのため、株式の売り買いのタイミングを決めるには自分で値動きに注目していなければならない。プラス側では、このアプリは Touch ID を使う安全化が図れるので、あなたの情報を見るには指紋が必要となる。

本格派のトレーダーは Robinhood の限界や、その簡易なデータ提示には我慢がならないであろう。しかしながら、株式市場にちょっと手を出してみるという人にとっては、Robinhood は、簡単で、間違いの少ないやり方でスタートを切らせてくれる。もし株で自分の腕を試してみたいと思ったことがあるのであれば、Robinhood を試されてはどうだろうか? 私個人は、インデックスファンドと金を埋蔵することにこだわりたいと思う。

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Apple Pay と共に世界一周

  文: Steve McCabe: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Apple Pay は現在、アメリカの一部のデビットカードとクレジットカードを持つ人のみに提供されているけれども、このシステムはアメリカ合衆国の外でも使えることがある。最近私は世界一周の旅をしたので、その機会を利用して世界中で Apple Pay がどう使えるかを TidBITS のために調査してみた。

Apple Pay は、クレジットカードまたはデビットカードの情報が記録された最近のモデルの iPhone (iPhone 6 または 6 Plus、または Apple Watch とペアリングされた iPhone 5 かそれ以降) を必要とする。現在のところ、アメリカの一部の金融機関が発効したカードのみが使えるが、Apple は他の国の銀行とも契約して対象範囲を拡げることを計画中だ。ただし国によっては難問が控えているところもある。

私はまずわが国、ニュージーランドで調査を始めた。ニュージーランドでは、EFTPOS (electronic funds transfer at point of sale、電子決済 POS) があまりにも広く定着していて、ここは大体においてキャッシュレス(現金不要)の国だ。最大規模の小売店から、道路脇に駐車した移動コーヒー売りまで、何かを販売する者のほとんど誰もが電子的な支払を扱っている。ベンダーたちが順次 EFTPOS 端末を更新するにつれて、MasterCard の PayPass Visa の payWave が着実に地歩を固めつつある。支払端末に電波のロゴが表示されていれば、私は自分の iPhone 6 Plus を取り出し、Apple Pay とアメリカにある私の銀行アカウントを使って、苦もなく支払を済ませる。(アメリカ合衆国からニュージーランドへ引っ越したお陰だ。)小売店で特に余分の手順が必要ということはない。店頭のカードリーダーは、私の iPhone をまるでクレジットカードであるかのように扱ってくれる。

さて、Tasman 海を渡ってオーストラリアに入ると、非接触型の支払はここでも同様に普及していて、Sydney の町を通り過ぎつつ私は列車の切符、コーヒー代、ホテルの部屋代を払ったり、空港の自動販売機で瓶入りの水を買ったりして、一度もポケットから財布を取り出すことはなかった。ただし、たった一つだけ驚くべき例外があった。何と、Apple Store だ。オーストラリアにおけるこの Apple のリテール店は現在のところ大きな iPod touch ケースに組み込まれたカードリーダーを使っていて、そのリーダーは磁気テープを読むためのものだ。つまり、おそらくオーストラリアの中で Apple Pay に対応していない最大の小売業者は、Apple だ。

Apple Pay を発見する私の旅は英国にも立ち寄ったが、こちらも同じように非接触型の支払を取り入れていて、多くの銀行がそれに対応したカードを発行し、処理できる小売店の数も増えつつある。実際、Salford の Tesco Express 店頭で私は iPhone を使って 1 パイント (568 cc) のミルクを買おうとしたが、レジ係はすみませんがこの店のレジは非接触型の支払には対応していませんと謝った。明らかにこのテクノロジーは十分に定着していて、その存在ではなくその非存在が目立つという段階に来ているようだ。実際、私が旅行を終えた後になって、Apple は Apple Pay が英国でも 7 月には公式に利用できるようになると発表した。

だから、これらの国においては、Apple が Apple Pay の使用を推進しようとしても、大きな問題は起こらないだろう。商人たちは、必要とされるキットを次第に設置しつつある。銀行も、自らのカードに payWave や PayPass を実装しているので、顧客の体験をさらに拡張することに抵抗はないだろうし、また Apple のウェブサイト上に Apple Pay パートナーとして自らの名前が競合各社と並んで載ることを、おそらく歓迎するだろう。

問題が多いのは、日本だ。私は 1990 年代を日本で過ごしたが、当時の日本はまだ基本的に現金中心の小売経済であり、そこから脱却する動きは異様に遅いままであった。今日でさえ、大規模な店やデパートなどはクレジットカードを受けるけれども、小規模な小売店の多くは、たとえ東京であっても、まだまだ現金が最も望ましい支払手段だ。変化はゆっくりと起こりつつあるけれども、それは決して Apple にとって望ましい方向へのものではない。

Suica は、もともと Japan Railways East (JR東日本) ネットワークのためのプリペイドの乗車カードシステムとして考え出された電子的支払システムだ。今ではこれがますます多くのチェーン店での支払に使うことができるようになり、FamilyMart や 7-11 のようなコンビニエンスストアのチェーンから、もっと大規模な小売店グループ、例えば Yodobashi Camera などでも使える。これは主として東京中心のシステムではあるが、東京近郊圏の 3 千 2 百万の人口は日本全体の人口の四分の一を占めているし、しかも Suica は、もう一つの東京中心の支払システムである Pasmo や、その他日本各地のローカルな支払システムとも次第に互換になりつつある。

この Suica や Pasmo と並んで運用されているのが、Osaifu-Keitai だ。これは「財布」と「モバイルフォン」を意味する日本語の二つの単語を組み合わせた名前だ。このシステムは基本的に、Apple の Passbook と Apple Pay 両システムの日本版といったところだ。Osaifu-Keitai は、電子支払用 NFC (近距離無線通信) チップ FeliCa に基づいている。どんなモバイルフォンメーカーでも、FeliCa チップを組み込むだけで Osaifu-Keitai 機能を実装することができる。けれどもこのチップは iPhone に搭載されていない。Sony によって開発され管理される、Apple にとってはライバルのシステムなので、Apple が喜んで FeliCa を iPhone に組み込もうとするとは考えにくい。

つまり、もしも Apple が Apple Pay で日本の小売経済に参入したいと望むのならば、Osaifu-Keitai と Suica に代わるものとして Apple Pay を売り込む必要があるということで、それは非常に困難だろう。日本の文化は変化を受け入れることで知られてはおらず、日本で発展したこれら二つの支払システムだけで既に日本が受け入れ可能な最大限度に達しているのかもしれない。日本の現在の典型的な顧客は財布の中に Suica カードを持っていて、FeliCa 対応のスマートフォンを持っている人も増えており、人々は今やこれら二つの方法のどちらかで毎日の買い物をするのに慣れつつある。

クレジットカードの使用は、少なくとも旅行で訪れた西洋人の印象では、依然として私が 1990 年代に東京で毎日の買い物をしていた頃とそれほど変わらずあまり一般的ではないようだ。今回私が大宮の Lumine デパートで、また新宿の Tokyu HandsKinokuniya で、いくつか土産物を買おうとした際には、私が持っているアメリカの MasterCard デビットカードは受けてもらえたけれども、私の iPhone は駄目だった。実際、これら三つの店のいずれも、私が店員にカードを手渡すと店員は私の手の届かないところにあるカードリーダーにカードを通し、それから小さな青いプラスチック製のトレイにカードを乗せて差し出して返してくれた。このやり方を、カウンターの上にカードリーダーを置いて顧客が非接触型支払をするやり方にすっかり入れ替えようとするのは、たとえ Apple でも至難の業かもしれない。駅の構内の売店では非接触型ターミナルは一般的で、朝の通勤時間帯にも素早く漫画が買えるようになっている。ただ、それらのターミナルは Suica または Pasmo ネットワークに通じているのであって、銀行には通じていない。

しかしながら、Osaifu-Keitai はゆっくりとだが着実に、クレジットカード支払の手段として広がりつつある。この国産のシステムが既にあって、日本の顧客層が携帯電話を通じてクレジットカード支払をする方法として受け入れ始めているのを見れば、Osaifu-Keitai こそが日本における 事実上の 電子マネーの標準となると考えるのが自然だろう。

日本における Osaifu-Keitai 使用の推進力となった NTT DoCoMo という会社は、現在このシステムを日本全国に、さらには海外へと広げることを目指して MasterCard と交渉中だ。その意味するところは、MasterCard のカードが(おそらくそれを発行した銀行には関係なく)顧客にとって Osaifu-Keitai を使うための必要条件となって行くのだろう。これとは対照的に、Apple は提携相手の銀行や信用組合をリストすることで、支払が処理されるネットワークではなく個々の金融機関を取り込むことが最も重要だと示唆している。従って、もしも Apple が日本の非接触型支払の市場に参入したいと思うならば、これまでより一段と多くの数の金融機関と交渉する必要が生じ、それは現実には非常に困難な問題となるかもしれない。

東京から英国 Manchester への直行便はなく、ドバイで飛行機を乗り換えることになった。ドバイでの滞在時間は比較的短かったが、世界最大のショッピングモールという評判の Dubai Mall を訪れることはできた。アラブ首長国連邦では実際ショッピングが非常に盛んであり、Apple もここでの支払活動に参加したいと望んでいると言ってもよいだろう。Apple にとって幸いなことに、私がこの町をほんの短時間歩いただけでも、クレジットカードでの支払が一般的に普及していて、ハードウェアが利用できるようになりさえすれば Apple Pay も十分に地位を確立できるだろうという感触を得ることができた。

オーストラリア、日本、UAE、そして英国と、世界をまわって Apple Pay を試してきた私は、次に米国に到着した。具体的にはフロリダ州 Clearwater で、ここは私が 2009 年まで住んでいた町だ。私はフロリダ州でなら iPhone で何から何まで支払ができるだろうと考えていたのだが、自分がどれだけ誤っていたかを思い知らされる羽目になった。

ニュージーランドとオーストラリア、それに英国での体験と同様、Apple Pay はその店頭に非接触型支払を処理できる端末がある場合にのみ使える。もしもそのハードウェアがあれば、Apple Pay は問題なく使える。でもハードウェアなしには Apple Pay はまるきり役立たずだ。その後者の場合を、私は驚くほど数多く体験した。Starbucks は過去には全面的に Apple のテクノロジーを取り入れたことのある 会社だが、直販店ではある種 Apple に関係した支払を可能にしているものの、Starbucks 店内でミルク入りコーヒーを買うためには専用の iOS アプリが必要で、ニュージーランドならばどんな小さな、どんな田舎のコーヒーショップでも使える標準の Apple Pay 方式が使えない。他の店ではきちんと Apple Pay を使えるところもあって、例えば Home Depot のセルフサービスのレジでは私の iPhone で支払ができた。けれども最も興味深い非適合店は、さらに内陸に入ったところにあった。

フロリダ州にいる間にと、私は家族を Walt Disney World に連れて行った。せっかくフロリダ州にいるのだから、行かない理由はない。Steve Jobs が役員会のメンバーであったこともあり、Disney はアメリカの他のどの会社と比べても Apple と密接な提携関係を持っている。けれども、Disney は支払に対する独自の考え方も持っている。お気に入りの Disney ホテル Port Orleans にチェックインした私たちには、 Magic Bands が手渡された。これは非接触型支払システムであって、実質的に Disney Pay とでも呼ぶべきものだ。(どういたしまして、 George Kalogridis 社長。)世界中の Starwood ホテルで客室のドアを iPhone で開けられるのと同じように、ここでは Magic Bands でドアを開けるだけでなく食事代や入場料その他も払うことになる。Disney の土地の中で食事や商品に代金を払うのは簡単だ。バンドをリーダーの上にかざすだけでよい。

そういうわけで、Apple にとってのアメリカにおける Apple Pay の難問が明らかになりつつある。ニュージーランドのような小さな国では、あるいは例えば英国のように米国のテクノロジーのトレンドを追いかける傾向のある国では、Apple Pay はかなり容易に足を踏み入れることができるはずだ。けれども米国自体においては、全国チェーンの小売店がもともと相当に大規模で、それぞれ独自のシステムを開発し始める可能性があり、単なる競争相手と思えていた者たちとの間に設備を一新しなければ互換性を得られないようなシステムのライバル関係が生じる可能性がある。そうは言っても、その主たる相手は Walmart、Best Buy、CVS、Lowe's、Rite-Aid その他の支持を受けた MCX の CurrentC だが、これは以前から批判に見舞われており、軌道に乗れるだけの勢いを得ることはないのかもしれない。

でも、たとえ Apple Pay に代わるシステムを独自に開発する余力のない大企業であっても、自らの規模の大きさにつまずくこともあるかもしれない。たった一つの店舗なら、一夜にしてクレジットカード端末をすべて切り換えることも可能だろう。けれども Starbucks くらいの規模の会社ではそれほど機敏には動けないだろう。この問題がどう展開するかの古典的な例として Starbucks を引き続き考えることにして、Apple Pay の導入を目的の一部として会社全体が非接触型端末に切り換える決断をしたとしよう。Starbucks は直営店とフランチャイズ店を含めて現在合衆国全体で 12,000 近い店舗がある。この規模で設備を一新するための費用は決して馬鹿にならない。しかも、12,000 の店舗すべてで新しい設備を使えるよう従業員を訓練しなければならないのだ。

Apple としては、Starbucks のような会社に十分に魅力的な投資対効果検討書を提供する必要がある。Apple Pay の採用を説得するために、健全な利益が出せると証明しなければならない。Apple はまた、積極的に Apple Pay を阻止している抵抗者、例えば CVS や Rite Aid など(2014 年 10 月 26 日の記事“Apple Pay を拒否する店がある本当の理由... 今のところは”参照)や、他の種類の非接触コミュニケーション支払システムを持っていて独自の方法を使いたがっている者たちとも直接交渉しなければならないだろう。他のチェーン店、例えば Home Depot など、Apple Pay に対する方針が首尾一貫しない者もいる。ただ、世界を旅した私の経験から言えば、これらの会社は (Rite-Aid のように) Apple Pay の使用を防ぐために意図的かつ具体的な決断をするか、(Disney のように) 類似の支払システムを独自に作り出すか、あるいは(英国、ニュージーランド、オーストラリア、それに多くの小規模のアメリカの店のように)非接触型支払の勢いに単純に巻き込まれるかのいずれかの道を選ぶのだろうと思う。

ちなみに、アメリカのレストランもまた悪戦苦闘するだろう。現在、レストランの給仕スタッフたちは顧客からカードを預かって離れた所にある端末に持って行き、それからカードとレシートを顧客に手渡している。iPhone を使った場合に支払がどんなことになるのか、私はすぐには思い付けない。たとえ何らかの方法で Touch ID が迂回できるようになろうとも、支払のために顧客が自分の iPhone を給仕スタッフに手渡すなどあり得ないだろう。米国や英国のレストランではこれが現在の支払のやり方だ。日本やオーストラリアやニュージーランドのレストランでは、顧客が店を出る際にレジで食事代を払っている。これらの国ではチップの習慣がない。カナダでは、少なくとも一部のレストランでは(アメリカ以外のいたる所で一般的な)chip-and-PIN のシステムを使っていて、給仕係が携帯用の支払端末を持って食事のテーブルに行き、そこで支払を済ませている。けれども食事代の支払がテーブルでされる限り、レストランの側で支払端末に相当のアップグレードを施さなければ Apple Pay を受け入れることはできないだろう。

要約すれば、Apple Pay は世界中の多くの地域で地歩を得る準備が出来ているが、それは決してすべての地域でそうなのではない。驚くべきは、Apple の本拠地であるアメリカ合衆国が、最も扱いにくい難問を抱えた地域の一つとなるかもしれないということだ。

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FunBITS: iTunes Visualizer で VJ になろう

  文: Alexandre Leroux: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

世界中に何億台もあるコンピュータの上にインストールされた創造的なソフトウェアの逸品と言えるにもかかわらず、あまり使われていないのが iTunes だ。そう、その通り、iTunes だ。単なるメディアプレイヤーに過ぎないと思っている人もいるかもしれないし、iOS デバイスを管理するユーティリティに過ぎないと思っている人もいるだろう。でも、このソフトウェアにはあまり使われていないビジュアライザが内蔵されていて、これを使えば誰でも目を見張るようなアニメーションを作成できる。

iTunes 内蔵のビジュアライザを使いこなして VJ になるための方法を説明 しよう。VJ (ビデオジョッキー) は「リアルタイムのビジュアルパフォーマンスを作る人」という意味だ。ほんの少しだけの重要な事実とコツを知っていれば、とても楽しい体験を通じて、美しくカラフルな 3D アニメーションを制御することができ、その際に必要なのは iTunes と、あなたの好みの音楽だけだ。

2001 年に、Apple は SoundSpectrum の G-Force の特殊なバージョンを、ライセンスを得て iTunes の中に組み込んだ。2008 年 9 月に、Apple は現行のデフォルトの内蔵ビジュアライザを iTunes 8 に組み込んだ。(2008 年 9 月 9 日の記事“iTunes 8 は Genius を加え;iTunes Store は HD TV と NBC を加える”参照。)ご存じないかもしれないが、今日あるデフォルトのビジュアライザは元々 The Barbarian Group により開発された Magnetosphere という名前のサードパーティのプラグインであった。その時以来、iTunes 版のこのビジュアライザは大して進化していない。

この iTunes ビジュアライザが素晴らしいのは、その多くのコンポーネント、例えばビジュアリゼーションのタイプや色、輝度、回転、その他の因子をあなたがリアルタイムで制御でき、結果として驚くほど素敵なアニメーションが作れることだ。その体験に飛び込むには、まず iTunes で何か楽曲の再生を始めてから、Command-T を押せばよい。すると、デフォルトのビジュアライザが動き出す。 ? を押せばいくつかキーボードコマンドの説明が表示されるが、コマンドはそれで全部ではない。ここに、iTunes ビジュアライザのすべてのキーボードコマンドを網羅したリストを示しておこう。

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さて、どのキーを押せばよいかが分かったので、これらのコントロールを活用してより豊かな体験ができるようにする方法を学ぼう。音楽のリズムに合わせて M, L, F, N, and Pのキーを叩いて何か美しいものを生み出すという創造性の芸術的過程について論ずることは私にはできないので、ここではこのビジュアライザの仕組みについて私が知り得る限りのことをお伝えしようと思う。主要なビジュアルコンポーネントが三つある。core (核) は動き回る球体で、ray (光線) は core から流れ出し、nebula cloud (星雲) はスクリーン全体を埋め尽くして雰囲気を作り出す。

使い方のヒントをいくつか挙げておこう:

* はっきりしたリズムと幅広い音域を持つ曲を再生すれば、単調な曲を再生した場合よりも生き生きとしたビジュアライザのアニメーションが見られる。曲の選び方が、全体的な体験に非常に大きな影響を及ぼす。

どんなことができるかの実演として、私はいくつかのサンプルビデオを作ってみた。音楽は、受賞に輝く iPad 用 Animoog アプリ ($29.99) を使って即興で作ったものだ。モバイルデバイス上の音楽は、iOS 用のアプリの姿を借りた膨大な数の革新的な楽器のお陰で、急激に人気を増しつつある。このビデオで流れる Animoog のソロ曲は Top 40 を飾ったわけではないが、このアルバムは Moog Music で取り上げられ 、なかなか 良い評判も得ている。それはそれとして、皆さんはどんなジャンルのものでもご自分のお好きな楽曲を選んでそれでビジュアライザを試してみて頂きたい。

私の最初のビデオでは上記のレシピ通りにはしなかったので、アニメーションが遠くにあるように見えることも多く、スクリーンを埋め尽くすこともないので、包み込まれる体験という言葉は当てはまらないかもしれない。 私の第二のビデオでは、見る人の近くでアクションが起こり、スクリーン全体が埋め尽くされるようにしてある。私がこの記事のために作った第三のビデオでは、その点が極端になるようにと、核を近くに見えるようにロックして、基本的にモード (M) とフリーズ (F) のコントロールだけをプレイし、回転は最後までロックしたままにした。 出来上がったアニメーションは、多様性には乏しいものの終始スクリーンを埋め尽くすものになった。

あなたが自分で作った iTunes ビジュアライザのパフォーマンスをこれと似たようなビデオに録画したければ、そのために必要なツールはすべて揃っている。私が使ったのは、まず QuickTime Player でスクリーンを録画し (File > New Screen Recording、アニメーションがつっかえるのを防ぐために私はシステム環境設定でディスプレイの解像度を下げなければならなかった)、その後でビデオとオーディオトラックの編集を iMovie で、デフォルトのテーマの一つを使って施した。

サードパーティの音楽ビジュアリゼーションツールは OS X 用にも iOS 用にもたくさんある(私のお気に入りは Uzu だ)が、iTunes はほとんどすべての人が持っていて、ビジュアリゼーションでどんなことができるかを試すツールとしてまさに完璧だ。Magnetosphere は iTunes バージョンとは別に時間をかけて改良を続けたが、以前開発チームにいた Robert Hodgin が作った 二つの 2010 Magnetosphere ビデオを見ればすぐに違いが分かる。Apple はこの 7 年間 iTunes のビジュアライザをアップデートしていないが、私としてはいずれ Apple がアップデート版をリリースする価値を見出してくれればと願っている。それはさておき、現行版の iTunes ビジュアライザはちゃんとここにあって、あなたの中に潜む VJ の能力を解き放つ日を待っているのだ。

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TidBITS 監視リスト: 注目のアップデート、2015 年 6 月 15 日

  文: TidBITS Staff: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

GraphicConverter 9.7 -- Lemkesoft が GraphicConverter 9.7 をリリースして、この古参のグラフィック変換および編集用ユーティリティにいくつかの新機能を加えた。今回のリリースでは Mac 用 Photos のデータベースをブラウズする機能に対応し、Crop to Ratio および Anaglyph のバッチアクションを追加し、Pages 書類から PDF プレビューを表示したり抽出したりできるようにし、完全機能の EXIF エディタを追加し、DICOM 読み込みを改善し、小さなスクリーン上で Save As オプションのサイズを小さくし、日本語、ポルトガル語、チェコ語、フランス語、イタリア語、デンマーク語のローカライズ版を更新した。この記事の執筆時点で Mac App Store 版の GraphicConverter がバージョン 9.6.1 のままであることに注意したい。(Lemkesoft からも Mac App Store からも新規購入 $39.95、無料アップデート、236 MB、 リリースノート、10.7+)

GraphicConverter 9.7 へのコメントリンク:


ExtraBITS、2015 年 6 月 15 日

  文: TidBITS Staff: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

今週の ExtraBITS では Daring Fireball の John Gruber が Apple の Phil Schiller と対談し、Mashable の Christina Warren が Apple CEO の Tim Cook と対談する。それから、After Dark の空飛ぶトースターが思い出され、恐るべき iOS のセキュリティ脆弱性についての警告があり、今年の Apple Design Award 受賞者が決まる。

Apple の Phil Schiller が John Gruber と対談 -- 特別ライブ版 The Talk Show ポッドキャストで、Apple の Worldwide Marketing 担当上席副社長 Phil Schiller が Daring Fireball の John Gruber のインタビューを受ける。Gruber が Schiller に質問したのは、Apple のソフトウェア品質について、watchOS での大文字の使い方、iOS 9 と、OS X 10.11 El Capitan について、スポーツについて、といった話題だ。

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Flying Toasters を CSS で再訪しよう -- After Dark スクリーンセーバと、その有名な空飛ぶトースターを覚えているだろうか? 覚えているあなたは、ご自分の年齢を白状したようなものだが(もちろん、スクリーン年代記の意味でということだ)とにかく Bryan Braun が CSS で再現してみせたこの主要な After Dark スクリーンセーバモジュールを見れば、あなたもほんのしばらくその神経細胞を再び活性化させることができるだろう。魚に一言挨拶するのもお忘れなく。

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iOS のバグが iCloud パスワード盗難に結び付く -- iOS 8.3 におけるバグの結果として、Mail が電子メールメッセージの中からリスクの高いコードを削除することができなくなっている。概念実証攻撃を通じて、セキュリティ研究者たちは電子メールの中にコードを挿入して偽の iCloud ログインプロンプトを表示させることができた。この攻撃が世に出回っているという話はまだ聞こえてこないが、いずれにしても Apple のログインダイアログが本物か否かを識別する簡単な方法がある。それは、Home ボタンを押すことだ。本物のログインダイアログはモーダルなので、ダイアログの処理が済むまでは Home ボタンを押しても何も起こらない。

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Apple、2015 年の Design Award 受賞者を発表 -- Apple は十個のアプリと二つの学生による作品に今年の Apple Design Award を授与した。受賞した中には TidBITS でレビューしたアプリが三つある。Fantastical、Robinhood、Workflow だ。その他の受賞作品を挙げれば Crossy Road、Does Not Commute、Metamorphabet、Shadowmatic、Vainglory といったゲーム、Mac 用のイラストレーションアプリ Affinity Designer、音楽ミキシングアプリ Pacemaker で、学生作品は Elementary Minute と jump-O だ。受賞者の皆さん、おめでとう!

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Tim Cook、Apple における多様性の欠如につき責任を認める -- Apple CEO の Tim Cook が Mashable の Christina Warren と対談して Apple の多様性、いやむしろ多様性の欠如について議論した。昨年出された Apple の初めての多様性報告書によれば、Apple の全従業員の 70 パーセントが男性だ。「これは私たち、つまりテクノロジーコミュニティー全体の責任だと思う。一般的に言って、私たちは若い女性たちに向かってこれがどんなにクールでどんなに楽しい仕事になり得るかを十分に訴えてこなかったと思う」と Cook は語った。Cook は今後は女子学生たちや、黒人のための大学にももっと働きかけることで Apple の多様性を増して行きたいと述べた。Apple はまた、WWDC の奨学金を STEM (science, technology, engineering, and mathematics) 教育機関にも広げてより多彩な参加者を迎えようとしている。

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TidBITS ISSN 1090-7017©Copyright 2014 TidBITS: 再使用はCreative Commons ライセンスによります。

Valid XHTML 1.0! , Let iCab smile , Another HTML-lint gateway 日本語版最終更新:2015年 6月 19日 金曜日, S. HOSOKAWA