TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#1309/22-Feb-2016

今週の大ニュースは、Apple と FBI との間の市民的自由を巡る重要な論争が膠着状態を陥ったことだ。Adam Engst がこの問題について二つの記事を書き、FBI が Apple にテロリストの iPhone のロックを外せと要求した騒動を説明しようと試みる。もっとストレートな話題としては、外部の業者の修理を受けた iPhone が動かなくなってしまった Error 53 を解消するためのアップデートを Apple が出した。Apple Pay が中国でも利用できるようになって人気を得つつあり、米国内では ATM でも使えるようになりそうだ。それから、皆さんがお好きな Mac 用資産管理アプリをアンケート調査して、結果を来週号でお知らせする。今週注目すべきソフトウェアリリースは、Mailplane 3.6.2、Microsoft Office 2016 15.19.1、Evernote 6.5、それに Airfoil 5.0 だ。

記事:

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Apple、新しい iOS 9.2.1 を出して Error 53 を修正

  文: Josh Centers: [email protected], @jcenters
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

私たちは Error 53 の問題を追い続けてきた。iOS デバイスを使用不能のものと化していた、摩訶不思議なエラーメッセージだ。先週、Error 53 の原因が Touch ID センサーと Secure Enclave コプロセッサとの不整合であり、Apple が認可していない技術者が実施した修理の結果起こったものであることが判明した。(2016 年 2 月 15 日の記事“Apple 修理の将来に "Error 53" が意味するものは”参照。)ありがたいことに、この問題の影響を受けたユーザーのために今回 Apple が修正を出した。

TechCrunch への声明の中で、Apple は自ら説明した:

ご迷惑をお掛けしましたことをお詫び申し上げます。このエラーは工場試験のためデザインされたもので、お客様に影響が及ぶことは意図しておりませんでした。お持ちの機器でこの問題に基づく保証対象外交換の費用を支払われたお客様には、AppleCare に連絡して頂ければ返金いたします。

この問題に対処するため、Apple はこの問題の影響を受けた人たちだけのために修正を加えた、新しいバージョンの iOS 9.2.1 を出した。iOS に強制復元を施していない人がこのアップデートを受け取ることはないし、そういう人はこのバージョンを必要としない。

もしあなたが Error 53 を体験しているならば、まず USB-to-Lightning ケーブルでデバイスをあなたのコンピュータに繋いでから、iTunes 経由でデバイスを復元してみよう。iTunes を開き、iPhone (または iPad) ボタンをクリックし、それから Restore iPhone (または iPad) をクリックすればよい。復元する前に、必ず Software Update をチェックして iTunes が最新バージョンであることを確認しておこう。

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デバイスを復元しようとする際にエラーメッセージが出た場合、新しい Apple サポート記事が iOS デバイスの強制再起動をすることを勧めている。強制再起動するには、Sleep/Wake ボタンと Home ボタンを両方押さえ続けて Apple ロゴが出るまで待つ。再起動したら、もう一度 iTunes での復元を試みよう。

今回の修正によって Error 53 の影響を受けたデバイスは再び使えるようになるけれども、Touch ID は機能しない。Touch ID センサーと Secure Enclave のペアリングができていないのだから Touch ID は機能すべきでない。Apple または Apple Authorized Service Provider による修理の後で Error 53 が出た場合には、Apple Support に連絡して無料の修理または交換を依頼しよう。しかしながら、Apple の公式なルートの外で修理されたデバイスについては、Touch ID を復活させたいならば Apple に保証対象外修理の費用を払う必要がある。おそらく $109 と $149 の間のはずだ。

今回の修正が来たるべき iOS 9.3 にも盛り込まれるよう期待したい。つまり、独立の修理技術者にスクリーンや Home ボタンを交換してもらったことのあるユーザーであっても今後も Error 53 の心配をせずアップデートできるようにしてもらいたいものだと思う。

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Apple Pay、中国に拡大、ATM にも

  文: Josh Centers: [email protected], @jcenters
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

Apple Pay が中国に上陸し、現在までの需要は目を見張らせるものがある。 Mashable の報ずる所によると 、最初の 1 時間で 10 百万人が彼らの銀行口座を Apple Pay にリンクさせ、その日の終業時迄には新ユーザーは 38 百万人に達した。

しかしながら、この展開も何事も無しでという訳にはいかなかった。何故ならば、Apple Pay 登録を完了出来なかった中国の顧客は沢山いたからである。問題は最初デマンドの集中にあったと報じられていたが、後に Apple はこのサービスは順々に展開されていると説明しているので、全国一斉に使える様になっていた訳ではなかった。

翻って米国では、Apple Pay は皆さんの近くの ATM にも登場するかもしれない。TechCrunch は先月 Bank of America と Wells Fargo が Apple Pay を彼らの ATM に統合する作業をしていると報じており、TidBITS 読者の Alan Forkosh は NFC リーダーを備えた Bank of America ATM を目にしているが、これは Apple Pay には必要になるものと思われている。しかしながら、Forkosh はこの ATM に彼の Apple Watch を認識させることは出来なかったので、その ATM に付いていた NFC リーダーはまだ有効化されていなかったのであろう。

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一方で、Apple Pay は更に 45 の金融機関を取り込んだので、米国での合計は 1,045 に達した。小売り側では、Au Bon Pain, Chick-fil-A, そして Crate & Barrel の様なチェーンがこのサービスを展開中で、そして今年後半には Cinnabon, Chili's, Domino's, KFC, そして Starbucks にも到達する計画である。

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好みの Mac 個人財務アプリへ投票を

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

何年にも亘って、Intuit ほど Mac ユーザーの忠誠心を弄んだ会社はない。同社は Mac の初期の時代から Quicken 個人財務アプリを出していて、Apple からも色々な場面で優遇され、その成功に寄与した。(Apple の子会社 Claris は 1992 年に Quicken を ClarisWorks にバンドルし、そして Apple 自身も 1990 年代半ばには Quicken を Performa モデルにバンドルした。)

それなのに、Intuit は繰り返し Mac ユーザーを振り回してきた。1998 年に、同社は Quicken を完全に止めると発表したが ("Intuit 社が Quicken Macintosh 版を打ちきる" 20 April 1998)、数週間後には Apple からの圧力でその決定を撤回した ("Quicken が Mac に早くも復帰" 11 May 1998)。Quicken 2002 Deluxe は Mac OS X への移行を成功裏に完了したが、その後のバージョンは Intel-based Mac 上では Rosetta エミュレーターを必要とした。これは Quicken 2005, 2006, そして 2007 迄は良かったが、開発はそこで止まってしまい、Intuit は計画された Quicken Financial Life は 2008 年から 2010 年にずれ込むと発表する結果となった ("Quicken For Mac が 2010 年まで延期に" 10 July 2009)。その後これが出荷されることはなく、2011 年には Quicken 2007 はより非力な Quicken Essentials に置き換えられこととなった。Quicken 2007 の Rosetta への依存は、それが Mac OS X 10.7 Lion には適合しないことを意味し、多くのユーザーにそのアップグレードを延期させることを強要した ("Intuit、Quicken ユーザーに Lion の危険を注意" 6 July 2011)。しかし、2012 年に Inuit は Lion 及びそれ以降の OS X バージョンで走る Quicken 2007 をリリースした ("Intuit、OS X Lion 互換の Quicken Mac 2007 をリリース" 8 March 2012)。その後、Intuit は Quicken Essentials の先を行く Quicken 2015 を出したが、これもまた Quicken 2007 には及ばなかった ("Quicken 2015: あともう少し、でもまだ許容範囲にない" 2 October 2014)。そして最終的に、Intuit は Quicken を買ってくれる人を探していると昨年語ったが、これは現在も進行形である ("Intuit、Quicken 売却を予定" 24 August 2015)。ふぅ!

2011 年に、Quicken Essentials が Quicken 2007 を置き換える仕事をきちんとしていない頃、Michael Cohen は "Quicken の代わりを探す" (5 August 2011) と "Follow-up to Finding a Replacement for Quicken" (20 September 2011) を書いて、読者に自らのニーズを理解し、そして Quicken に対する代替策から何を選ぶかの手助けに大いに役立った。もし現在他の個人財務アプリに乗り換えようと思っているならば、これらの記事を読むのをお忘れ無く。

しかし、もうそろそろ違うことをする時であると思うので、TidBITS の読者が、Mac 用の個人財務ソフトウェアに関する意見を共有する場を提供したい。個人情報管理についてした様に ("好みの個人情報管理アプリへ投票を" 11 January 2016)、皆さんにこれまでお使いになったことのある個人財務アプリを評価するようお願いしたい。この調査は、我々の Web サイト上のこの記事の一番最後に埋め込まれているが、直接それへナビゲートして行くことも出来る。

クリックし始める前に聞いて欲しい大事な注意点が幾つかある:

結果は来週発表し、最多の得票を得たもの、そして最高の格付けを得たものを挙げる。ご協力に感謝します!

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バックドアを批判した Tim Cook の公開書簡についての考察

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

ここ数年にわたり、Apple CEO の Tim Cook は、製品にバックドアを設けよという Apple やその他のテクノロジー企業に対する政府の要求に反対する意見をはばかることなく公言してきた。(2014 年 10 月 10 日の記事“Apple と Google、公民権論争の口火を切る”参照。)どうやら彼の言葉には将来を予知する力があったとみえて、今回 FBI は Apple に対して、政府機関が力ずくでパスコードをハッキングできるような新たなバージョンの iOS を作り、それを San Bernardino テロ攻撃の捜査の際に押収された iPhone にインストールするよう求めてきた。Apple は、その要求が iPhone にバックドアを作れという要求と同等であると主張し、FBI の要求に戦いを挑んでいる。自社の立場を広く伝えるため、Apple は Cook の公開書簡 "A Message to Our Customers" を発表した。

Tim Cook のこの文章を読むことを私はすべての人にお勧めしたい。明確で説得力があり、緊張関係をきちんと説明している。Apple はこの時点に至るまでは法律的な召喚状や令状に応じて FBI に協力してきたし、Cook はしっかりと注意を払って Apple が FBI への尊敬の念と良い意図の下に FBI がこれをしているという確信との双方を持っていると明言している。けれども Cook は、必要なクラッキングツールを作ること(この件については後述する)を Apple に強制する手段とするため 1789 年の All Writs Act (全令状法) を持ち出して自らの権限の拡大を正当化しようとする FBI の要求に対しては、強く反対意見を表明する。

これは、今までの Apple の立場と完全に合致する。そのことは、Apple のプライバシーへの取り組みを述べた Cook の序文の一節が明確に記している。

最後にはっきりとお伝えしたいことがあります。Apple はこれまで、自らのすべての製品とすべてのサービスにおいて、どの国のどの政府組織に対してもバックドア(情報の裏口)を設ける協力をしたことはありません。Apple のサーバへのアクセスを許容したこともなく、今後も決して許容しません。

バックドアは自由になりたがる -- 公開書簡の中で Tim Cook が展開する議論は、セキュリティ専門家たちや情報コミュニティーの多くの人たちにも支持されているものだが、ごく単純だ。要約すれば次のようになる:

製品に本来備わっているセキュリティ機能を合法的に迂回することを政府または法執行機関に許すツールまたはバックドアは、サイバー犯罪者や敵意ある国の政府によっても悪用されることになり得る。

ここではデジタルな世界の話をしているので、その種の「マスターキー」はすべてそれ自体がデジタルなデータであるはずで、それと比較可能な他のどの保護手段とも同等のレベルでしかセキュアでない。けれども物理的なものとは違い、情報は一つの場所のみに制限することができず、武装した衛兵が守る金庫の中にしまい込むこともできない。

そのようなマスターキーを含む情報は、ひどく気まずい空間に置かれることになるだろう。一方では、情報は無料でありたがるし、他方では、その種の情報には計り知れない価値がある。

この「情報は無料でありたがる」("Information wants to be free") という一文を、紐解いてみよう。これはもともと Whole Earth Catalog を創設した Stewart Brand が 1984 年に作り出した言葉で、出版のコストが急激に低下しつつある状況を受けてのものだ。1990 年に、ソフトウェアの自由を求める活動家 Richard Stallman が政治的な立場を組み込んでこの概念を述べ直し、情報が“望む”のは自由 (freedom) である、と言い替えた。つまり、一般的に有用な情報を広く配布することが人類をより豊かにする、という意味だ。デジタルなマスターキーは、前向きの目的にではなかったとしても、確かに一般的に有用なものとなるだろう。だから、Stallman の論点を当てはめれば、そのような情報が自由に野に放たれることを防ぐのは極めて困難、あるいは不可能とさえ言えることになる。

その種の漏洩を防ぐことをさらに困難にしているのが、外国の諜報機関も、また犯罪組織も、間違いなく莫大な額の資金を投じてそのようなマスターキーにアクセスしようとするという事実だ。既に、セキュリティ攻撃のブローカーである Zerodium が $1,000,000 の懸賞金を提示して iOS 9 におけるブラウザベースのセキュリティ攻撃を集め、政府系や防衛系の顧客に再販する計画を立てたことがある。(2015 年 11 月 3 日の記事“百万ドルの iOS ハック (じゃない)”参照。)しかもそれは、Apple がおそらく既に発見し iOS 9 のアップデートを通じて防護策を施していることがらについてのものだ。iOS へのマスターキーにならばどれほどの値段が付くことか、想像できるだろうか? そして、それだけの額の金であれば、その種のキーへの信頼の鎖の中にいる人たちを買収するために使われるのではないだろうか? Tolkien の One Ring (一つの指輪) のごとくに、何百万台もの iPhone のためのマスターキーに秘められた力に抵抗できる者などいない。(残念ながら、Apple の最新の多様性レポートにも、同社で働く勇敢なるホビットたちの人数は明かされていない。)

Tim Cook の言うことは正しい。どのような種類のバックドアもこの上なく良くない考えであって、Apple 製品を使っている何億人もの人たちに計り知れない害を及ぼしかねない。その人たちの圧倒的大多数は、自分たちのプライベートな情報が守られ、誰がデータを欲していようとそれが開示されることはないという、至極正当な期待を持っているのだから。

さらに悪いことに、情報は自由でありたがるので、今や犯罪組織やテロ組織が解読不能の暗号化ソフトウェアを独自に作成することが、その能力の十分及ぶ範囲で可能だ。たとえバックドアが義務となったとしても、それが有用である範囲はおのずと限られている。なぜなら、何かを隠したいと思う人なら誰でも、セキュアさが保証された何かへといつでも切り替えることができるからだ。

なぜ 1789 年の All Writs Act なのか、なぜ今なのか? -- Tim Cook の公開書簡は一つの点で少し躓いている。FBI が 1789 年の All Writs Act (全令状法) を使ったことを「前例がない」と形容した点だ。

議会を通じて法的措置を求めることをせずに、FBI は自らの権限の拡大を正当化するため 1789 年の All Writs Act (全令状法) を使うという前例のないやり方をした。

この All Writs Act (全令状法) は確かに 1789 年に遡るものであり、意図的に曖昧な条文を使っている(米国連邦裁判所が「個々の司法権の助けとなるため必要かつ適切でありかつ法律の利用および原則に合致している限りあらゆる令状を発行」できるとしている)にもかかわらず、この法律は現代の監視活動関係の事件で何度も使われてきたし、それらの事件の中には Apple に関係するものもあった。Stanford 大学教授 Jonathan Mayer が講演(Wikipedia でリンクされているもの)の中で語ったところによれば、All Writs Act は裁判所が令状の効力を補うために何にでも使える包括的権威として使われるが、ただしそれは以下の条件が満たされた場合のみに限られるという:

最初の三つが今回の事件に当てはまることにあまり異論はないだろう。もしも何か他の、より具体的な法律ないし規範が適用可能だったならば、FBI はそちらを使ったことだろう。テロリストが iPhone を使ったことに関わる事件への繋がりにおいて、Apple は第三者だ。そして、国内で起こったテロ事件は確かに特殊な状況と言えるだろう。けれども明確さがぐっと落ちるのは、何が「不合理な負担」を含むかという点だ。

iOS 8 よりも前には、iPhone のロックを外すことなくその内容を抽出することが Apple にとって可能であり、裁判所が All Writs Act を根拠にそれをするよう求めて来た際に Apple はそれに従った。しかしながら、現在未決着のニューヨークの事件において、裁判官が All Writs Act は不合理な負担を課していると示唆したことがあり、私たちが理解するところでは Apple は今回そのことを利用して政府の命令に抵抗しているのだろうと思う。(詳しくは、EFF による状況報道を参照されるとよい。)

あなたや私にとって、FBI が Apple を強制して iOS の機能を下げたバージョンを作らせ、それを San Bernardino 事件で押収された iPhone にインストールすることは、そのために必要な労力を考える限り、不合理な負担に見えるかもしれない。けれども Apple が膨大なリソースを持ち合わせている以上、FBI としては並の会社には不合理だとしても Apple ならば十分に能力の範囲内にあると論じることもできるかもしれない。

Apple にとってもっと良い議論は、iOS 8 より前に同社がその既存の機能を利用して協力したものとは違い、今回は自社のセキュリティソフトウェアを対象とした実際の攻撃の開発を FBI が求めていると論ずることだろう。「不合理な負担」か否かの判断は、もしも Apple が現時点で同社の企業権能の外にあり同社独自のプライバシー方針に直接違反することを求められているとすれば否と判断することが格段に困難になると考えられるだろう。力ずくでパスコードをハッキングするツールは(そのデバイス自体にインストールされる訳ではないので)技術的にはバックドアと言えないけれども、Secure Enclave コプロセッサを備えたどの iOS デバイスのセキュリティも攻撃できるその機能はバックドアと完全に同じ効果を持つし、悪者たちの同じ望みに利用されるものとなる。テロリストや犯罪組織がそのようなツールをどのように望むかはさておき、いったんそのようなものが利用可能になったならば法執行機関が定期的にそのツールの使用を要求することを防ぐ手立てがあるだろうか?

だから、私の考えでは、それこそが Tim Cook がこのタイミングを選んで公開書簡を書いた理由だろうと思う。Apple がこれほど人目を引く事件で法執行機関に圧力をかけられたことは未だかつてなく、しかもデジタルセキュリティの技術的側面をよく知らない裁判官が状況を非常に特殊なものと考え、Apple に従うよう命令しても不合理な負担とは言えないと判断したこともあり得るからだ。過去のいつの時点にも増して今回は、正当な暗号化テクノロジーに政府が介入して来ることの危険をすべての人に明確に知らせることの必要性を Cook と Apple は切実に感じている。今回の事件は、またはこれに類似した事件は、連邦最高裁判所まで持ち込まれる可能性が非常に高いし、裁判官たちが法執行機関の要求に疑問の目を向ける先例が増えれば増えるほど、将来もっと明白な犯罪にもスマートフォンの中身をクラックせよとテクノロジー会社が強制される状況に追い込まれる可能性が減るというものだろう。

Apple コミュニティーの中にいる私たちに何かできることはないだろうか? 公開書簡の中で、Tim Cook が求めていることが明白に分かるものは私たちの理解以外にないが、この機会を利用して私たちは、意図的に改変を受けた暗号化ソフトウェアの危険と無益性について、自分たちの選んだ代議士が可能な限りの知識を持つよう働きかけて行かねばならないと私は思う。Cook が書簡の中で FBI が「議会を通じて法的措置を求めることをせずに」All Writs Act を使おうとしたと述べているのもまさにその点を指摘しているのではないか。意図された以上のことを私が深読みし過ぎているだけかもしれないが、もしも Cook が議会を将来の戦いの場と捉えているのだとすれば、私たち自身が政府のあらゆるレベルにおいて代議士たちとコミュニケーションを深めれば深めるほど、やがて起こる立法の場での戦いがより良い結果に向かうことだろう。

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バックドアに対する Apple の立場についてさらなる考察

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

FBI による iPhone ハッキングツールの要求に対する Apple の抵抗について評価を下すのは簡単ではない。なぜなら、この論争は三つの異なるレベルにおいて同時に進行しているからだ。すなわち、技術的、法律的、そして政策的なレベルだ。いずれも他のレベルに比べて重要度がより高いとは言えず、三つのうち一つか二つだけに集中してしまえば起こっている状況に対して歪んだ見方しかできない。

技術的なレベルでは、今や私たちは Apple が FBI の望むことを実行することが可能であると知っているが、Apple はそのようなテクノロジーが野に放たれることの危険を極めて強く懸念している。デジタルツールを作成すること自体とは全く別に、それが盗まれたり、攻撃されたり、または単純にコピーされたりすることを予防することが大きな問題だ。このツールは、iPhone の Secure Enclave コプロセッサに埋め込まれた(少なくとも現在知られている限り)他のどんな方法でも破れない暗号化を攻撃することが可能なので、それを作成することにより何千何百万人もの iPhone ユーザーのプライバシーが損なわれるかもしれない。

このような要求に Apple が従うことを義務付ける法律も、逆に Apple をこのような要求から保護する法律も、実際にはどちらも存在しないので、FBI は要求の根拠として 1789 年の法律 All Writs Act (全令状法) に依存している。この法律は過去にも似たような監視活動関係の事件で使われたことがあるが、その条文は本質的に曖昧なものであって、具体的な内容について弁護士たちも裁判官たちも長年にわたって論争を続けられる種類のものだ。

政策的な面に目を向ければ、国内で起こったテロというこの人目を引く事件を、FBI が自らの真の目標に近づくことのできる機会として利用しようとしていることは明らかだと思える。すなわち、あらゆるスマートフォンやデジタルデバイスの中の証拠に合法的にアクセスできるようにしたいというのが FBI にとっての目標だ。そして、商売上の理由で抵抗しているのではないかという指摘を Apple は否定しているものの、Apple も営利目的のビジネスである以上、会社としての立場が正しいことをすべきだからという理由と競争力を付けたいというマーケティングの観点とのどちらにどの程度因っているかを明確に知ることは不可能だ。

私個人としては Apple の側に寄りがちだ。なぜなら、デジタルなジーニーをランプの中に閉じ込めておくのは不可能だという Apple の論拠を正しく評価できるほど FBI がテクノロジーを十分に理解しているとは思えないからだ。また、iPhone のセキュリティを弱めることが長期的には理想だという議論にも私は賛成できない。なぜなら、どんな組織でもその気になりさえすればあまりにも簡単に解読不可能な暗号化ソフトウェアを作成し、配布し、利用することが可能だからだ。私は法律的な問題点にコメントできるほど十分な経験を持っていないが、FBI がこの事件を利用して自らの意図を押し進めようとしているやり方を私は嫌いだし、Apple が必ずしも競争相手にフェアでないやり方でプライバシーへの義務を遂行しようとしたことは時々あるにしても、それははるかに小さな罪だと思う。

それはそれとして、前の記事を私が書き上げた後に出現した ExtraBITS 情報を以下にいくつか紹介しておこう。これらを読み合わせることで何が起こっているかについての全体像がよりはっきりと浮かび上がるだろうし、この事件に興味がある人にとっては読む価値のあるものばかりだろうと思う。

Google と Microsoft の CEO が Apple を支持 -- Twitter は微妙な考えやニュアンスを伝えるに適したものではないが、Google CEO の Sundar Pichai は五つに分けた tweet で、San Bernardino テロ事件で iPhone のパスコードを力ずくで取り出すためのハッキングツールを Apple が作成せよという FBI の要求に関する Apple CEO Tim Cook の顧客あて公開書簡の議論に加わった。Pichai は基本的に Apple の立場に同意し、Google はセキュアな製品を作っているし、データを引き渡せという法的命令にも可能な限り従うと述べつつ、それと同時に顧客のデバイスとデータをハッキングせよと会社に要求することは問題のある先例になり得るという懸念も示した。Microsoft CEO の Satya Nadella も、彼ほどには直接的でないにしても、バックドアに反対する同社の立場を Microsoft の President 兼 Chief Legal Officer の Brad Smith が(Microsoft も会員である Reform Government Surveillance グループの声明へのリンクを通じて)要約した記事を retweet することで意志を示した。

コメントリンク: 16272

Tim Cook の公開書簡は FBI の公表に促されたもの -- San Bernardino テロ事件に関係した iPhone をクラックするツールの作成を巡る Apple と FBI との論争が興味深い展開をみた。New York Times の記事によれば、Apple は当初 FBI に密封した文書で要求を伝えるように求めたけれども、政府の側はそうせずに、要求を公開したのだという。このことは、FBI が国内で起こったテロというこの人目を引く事件を利用して Apple に製品のセキュリティを低下させるよう圧力をかけているのだという理論を後押しするものとなる。このような広報宣伝の猛撃に直面した Apple にとって、Tim Cook の公開書簡という形で暗号化への支持を公共の場で訴える以外に選択肢は見つからなかった。悲しいことに、もしもあの襲撃者の雇い主が、標準的なモバイルデバイス管理ツールを使って問題の仕事用 iPhone のパスコードを管理してさえいたならば、今回の FBI と Apple の争いは避けられていたかもしれなかった。

コメントリンク: 16276

FBI の要求に対する科学捜査専門家からの視点 -- この Apple/FBI 騒動について知れば知るほど、これが実際には微妙かつ危険なチェスのゲームであることが明らかになっていく。最新の洞察の声が、iOS 関係の科学捜査の分野では世界的な第一人者の一人と言われる Jonathan Zdziarski から届いた。ブログ記事の中で、Zdziarski は「研究室設備」と、「道具」を開発することとの違いを説明する。Apple は過去に一回限りの研究室設備を提供して、司法機関が法律に基づき要求したデータを復元するのを援助したことがある。けれども道具を開発することは途方もなく複雑な、検証・文書化・検査・認証確認を含む手順だ。そのためには膨大なリソースが必要で、結果として生まれたハッキングツールは公開されたも同然で、どのような警察機関や諜報機関でも使えるものとなることだろう。それに加えて、あらゆる外国政府にも、犯罪組織にも利用可能なものとなるだろう。これこそ、Apple が抵抗している理由だ。

コメントリンク: 16277

Apple 対 FBI 論争の詳細が判明 -- TechCrunch 記事によれば、電話インタビューの中で、Apple 重役たちが同社と FBI の間で現在進行中の論争に関する二つの論点を明確化した。第一に、iPhone のパスコードを力ずくでクラックするソフトウェアについて FBI が要求した条件を満たすツールはどのようなものであれ、必ずそれは新型の iOS 8 や iOS 9 でも、Secure Enclave コプロセッサを備えたものでも、同じように働くことになる。なぜなら Secure Enclave の中にあるデータはパスコードで暗号化されており、パスコードがあれば iPhone 上のすべてのものにアクセスが提供されるからだ。第二に、どうやら FBI は問題の iPhone を押収した直後にその iPhone に付随したアカウントの Apple ID パスワードをリセットしたらしい。結果として iCloud への自動バックアップを扱うことができなくなったのだが、iCloud バックアップの内容であれば Apple は政府からの要求に応じて引き渡すことができた。

コメントリンク: 16281

Apple、FBI の裁判所命令に関しさらなる質問に答える -- San Bernardino テロ事件の襲撃者の一人が使った iPhone にアクセスするための援助をせよという FBI からの要求に Apple が抵抗していることの帰結について、さまざまの臆測が渦巻いているが、同社はまた新たに公式声明を発表して、提起されたいくつかの質問に答えた。具体的には、Apple がなぜ政府の裁判所命令に反対しているか、FBI の要求は技術的に実行可能なものか否か、その種の技術的解決策が制御できないものとなるのはなぜか、その他の点を Apple は説明する。特に注目すべきことが一つある。メディアで書かれていることとは食い違うが、Apple によれば同社が iPhone のロックを外したことはこれまで一度もない。iOS 8 より前に、Apple がロックされた iPhone から暗号化されていないデータを捜査機関の要求に応じて抽出したことはあったが、それはその iPhone のロックを外す必要のない手段によるものであった。iOS 8 と iOS 9 における暗号化は、もはやそのような手段を不可能にしている。

コメントリンク: 16280

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TidBITS 監視リスト: 注目のアップデート、2016 年 2 月 22 日

  文: TidBITS Staff: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Mailplane 3.6.2 -- Uncomplex が Mailplane 3.6.2 をリリースして、この Gmail 専用電子メールクライアントのシステム要件を OS X 10.10 Yosemite またはそれ以降に引き上げた。今回のアップデートではまた Google Inbox との問題を修正し (通知が Gmail でなく既存の Google Inbox タブを開くようになった)、単独のメッセージ作成ウィンドウのツールバーに Reply All ボタンを追加し、WebKit を Safari 9.0.3 で使われているものと同じバージョンにアップデートし、アップデートのフィードを HTTPS に切り替えている。(新規購入 $24.95、無料アップデート、23.1 MB、リリースノート、10.10+)

Mailplane 3.6.2 へのコメントリンク:

Microsoft Office 2016 15.19.1 -- Microsoft が、Office 2016 スイートに改善とセキュリティ脆弱性へのパッチを施したバージョン 15.19.1 をリリースした。Outlook では、今回のリリースで Forward Message へのキーボードショートカット (Command+J) を復活させ、リボン上の Cancel Meeting コマンドと View メニュー上の Message リストフィルターが正しく働くようにし、メッセージを別のフォルダに移した際に Read か Unread かの状態が保たれるようにしている。今回のアップデートではまた、Quick Access ツールバーに新たなコマンド (New、Print、Save など) を追加し、NFS 共有ディレクトリ上では古いフォーマットのファイル (.doc、.xls、.ppt など) を読み出し専用で開くようにし、Word ファイルを PDF にプリントした際に (Untitled.pdf という表示でなく) ファイル名を表示するようにしている。Microsoft は明記していないが、読者の Tom Gewecke が知らせてくれたところによれば今回の Word へのアップデートでヘブライ語とアラビア語への対応が向上しているという。セキュリティ関連では、リモートでコードが実行される可能性があったメモリ破壊の脆弱性が Office 2016 15.19.1 でパッチされた。(一回限りの購入ならば $149.99、Microsoft AutoUpdate 経由で無料アップデート、リリースノート、10.10+)

Microsoft Office 2016 15.19.1 へのコメントリンク:

Evernote 6.5 -- Evernote が社名と同じ名前の情報管理アプリにバージョン 6.5 をリリースして、フォントサイズを上げたり下げたりするショートカットを Command-Shift->: と Command-Shift-< に変更して、現在はベータ版の新しい Zoom 機能に Command-Shift-+ と Command-Shift-- (マイナス) が使えるようにした。Evernote ウェブサイトから直接ダウンロードしたものをインストールしていれば、Preferences > Software Update に行って Enable Zoom を選べば Zoom 機能をオンにできる。また、直接ダウンロードしたものを使っている人は、選択したテキストを等幅フォントに変換してその行のまわりにグレイの背景を描く新設の Code Block 機能(これも Preferences > Software Update でオンにできる)も使える。Mac App Store 版を使っている人は、これらのベータ版の機能が将来のバージョンに搭載されるまで待つ必要がある。

Evernote 6.5 はまた、チェックボックスが印刷されなかったバグを修正し、名前にピリオドやその他の記号が含まれるタグがタグフィルターに現われない問題を解消し、1,000 個以上のタグを持つアカウントで Mac 初期セットアップのパフォーマンスを改善している。この記事の執筆時点で Mac App Store 版の Evernote はまだバージョン 6.4 のままだ。(Evernote からも )Mac App Store からも無料、51.6 MB、リリースノート、10.9+)

Evernote 6.5 へのコメントリンク:

Airfoil 5.0 -- Rogue Amoeba が Airfoil 5.0 をリリースした。このワイヤレスオーディオ送信アプリへの大きなアップデートで、多数の新機能が盛り込まれている。Bluetooth スピーカーやヘッドセットへオーディオを送る機能に対応し、複数個の Bluetooth デバイスを同時に扱うこともできるようになった。洒落たグラフィックスと長くなった音量スライダーで新たにユーザーインターフェイスを改善した Airfoil 5.0 では、クリック一つで複数個のオーディオ出力を選択する Speaker Groups を作成する機能も (Preferences に) 追加されている。

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その他の新機能としては、無音監視 (ストリーミングが無音になれば自動的に Airfoil の接続を切って出力デバイスが他の目的に使えるようにする)、調節可能な出力同期オプション (Speakers > Advanced Speaker Options にある)、イコライザーのカスタム・プリセットなどがある。今回のリリースではまた、Instant On コンポーネントを改良して Rogue Amoeba の無料の各種Airfoil Satellite アプリとフル互換になるようにしている。これらのアプリを使えば iOS および Android デバイスも、Mac や Windows PC もオーディオ受信機として使えるようになる。

Airfoil 5.0 の価格は $29 のままで、2015 年 11 月 1 日またはそれ以降に Airfoil 4 を購入した人には無料だ。それより前に Airfoil 4 のライセンスを購入した人は、$15 で Airfoil 5.0 にアップグレードできる。(新規購入 $29、TidBITS 会員には 20 パーセント割引、アップグレード $15、13.9 MB、リリースノート、10.9+)

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TidBITS ISSN 1090-7017©Copyright 2016 TidBITS: 再使用はCreative Commons ライセンスによります。

Valid XHTML 1.0! , Let iCab smile , Another HTML-lint gateway 日本語版最終更新: 2016年 2月 25日 金曜日 , S. HOSOKAWA