TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#1319/02-May-2016

今週の TidBITS はまず、Apple に頭の痛いニュースから始まる。同社がここ 13 年間で初の年間売上額減少を記録したのだ。(ただし、それでも百億ドル以上の純利益を得ている。)Michael Cohen は Smile の PDFpen 8 の新機能として添付ファイル、デジタル署名その他への対応を詳しく解説する。Julio Ojeda-Zapata は、大量の電力を食う 12.9 インチ iPad Pro には MacBook 用の 29 ワットアダプタが理想的なアクセサリーとなることを発見する。付属の充電器の二倍近く高速で充電できるからだ。Glenn Fleishman は、Comcast が新たに打ち出した 1 TB というデータ上限が Comcast 購読者にとって、また業界全体にとって何を意味するか議論する。Joe Kissell が面白そうな新刊書を出した。彼がテクノロジーについて書いた記事をいくつか集めた "Are Your Bits Flipped?" という題の本だ。今週号の投稿記事で、Joe はコンピュータがどのように働くかについて種々の側面を理解していることの重要性を語る。それから、Glenn Fleishman が連載中の本 "Take Control of Slack Basics" の最新の章が TidBITS 会員用に出て、Slack の検索機能を最大限に活用する方法を説明する。今週注目すべきソフトウェアリリースは、Lightroom CC 2015.5.1 と Lightroom 6.5.1、OmniOutliner 4.5.2、HoudahGeo 5.0、それに iMovie 10.1.2 だ。

記事:

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Apple、Q2 2016 で 13 年ぶりの売上げ減少を記録

  文: Josh Centers: [email protected], @jcenters, Michael E. Cohen: [email protected], @lymond
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

Q2 2016 業績の報告で、Apple は純利益 $10.5 billion (稀薄化後一株当たり $1.90)、売上げ $50.6 billion を発表し、総売上げ $52 billion を予想していた市場関係者を失望させた。同社の売上げは前年同期に比べ 12.8% 下落した ("Apple、Q2 2015 で儲けを拡大" 27 April 2015)。Apple は売上げの下落を予測していたが、この四半期はここ 13 年で初めてのものとなった。

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しかしながら、注意すべきは、この四半期は 26 March 2016 に終わっているので、 Apple の業績には 31 March 2016 に発表された iPhone SE と 9.7-inch iPad Pro の販売は反映されていないことである。CEO Tim Cook は iPhone SE には "顧客の反応は素晴らしい" と語っていた。

Apple の三つの主たる製品ライン全てが、前年比での下落を経験した。iPhone の販売台数は 16% 落ち、そして iPhone の売上げは 18% 下落した。Apple は前年同期よりも 10 百万少ない台数しか販売していないが、いずれにしろ、同社はこの四半期に 51.2 百万台の iPhone を売ったことに変わりはない。Tim Cook は iPhone の未来に楽観的であると言い、その根拠として Android からの乗り換えが大きな数に上ったこと、そして "この製品のパイプライン" にあるものを挙げた。

iPad は、売り上げも販売台数も前年比で 19% 落ちた。Apple は 10.3 百万台の iPad を売ったが、前年同期は 12.6 百万台であった。どうも 12.9-inch iPad Pro も iPad に狙いをつけた iOS 9 機能も、iPad の下落を反転させる力ににはならなかったようである。Apple は、今年の June 四半期の iPad 売り上げは、過去2年間よりも良くなると予測している。

Mac の販売もまた、台数では 12% 落ち、そして、売上げは 9% 下落した。これは PC 市場全般の下落の中で、最近 Apple が示してきた抵抗からすると少し驚きと言える。Apple は 4 百万台を超える Mac を Q2 2016 に売ったが、Q2 2015 では 4.6 百万台であった。しかしながら Apple CFO Luca Maestri は Mac の販売は、数多くの海外市場で大きな伸びを示している、そして販売台数は減ったが Mac の市場シェアはこの四半期でも増大したと信じていると言った。

Services と Other Products 部門は、引き続き Apple のラインナップの中では明るい ものとなっている。Service の売上げは前年比で 20% 増え、そして Other Products の売上げは 30% 増えた;Maestri は Apple Watch が Other Products 部門の増加に貢献したと語った。両方合わせて、これらの二つの収益部門は売上げでおよそ $8 billion をもたらした。事実、Services 部門は今や売上げでは Mac ($5.1 billion) や iPad ($4.4 billion) よりも大きくなり、この四半期では約 $6 billion の売上げを計上している。Maestri は音楽ビジネスも売上げ減少が何四半期も続いた後ようやく "変換点" に達したと語った。これは Apple Music のお陰で、これへの購読者は今や 13 百万人に達する。

Apple は海外でも苦戦しており、売上げは前年比で Greater China で 26%、日本で 24%、残りの Asia Pacific で 25%、そして Europe で 5% 下落した。Luca Maestri は 強い米ドルが海外売上げの減少の一要因だと指摘した。これで下落の全てを説明することは出来ないが、大きな役割を演じたことには間違いないであろう。一つ楽観的な展望をあげると:iPhone の販売台数は India で 60% 伸び、そして、Cook はアナリストとの電話会見の席上で、India は "世界で三番目に大きいスマートフォン市場" であることを指摘した。

確かに Apple は Cook が彼の開会の辞で "困難な四半期" と評した時期を迎えているが、Apple はその資本還元プログラムを $50 billion の規模で拡大している。 Apple は March 2018 の末迄に資本還元に $200 billion から更に増やして $250 billion を使う計画である。Apple の取締役会は、自社株買い戻しを $140 billion から $175 billion へ増額、四半期配当を 10% 増やし、一株当たり $0.57 を 12 May 2016 に 9 May 2016 終業時点での株主に支払うことを認可している。Apple にとっては困難な時期だが、同社は株主を繋ぎ止めるために寛大な優遇策を提供している。

では Apple の現在の立ち位置は? 確かにニュースは余り良くないが、売上が減っただけの話で、何か損を出したというという類の話ではない。同社は "閉店セール" の旗を掲げはしないであろう: Apple は $232.9 billion の現金と証券を保持している上に、今でもどんどん金儲けをしている;ただ以前の勢いで成長していないだけである。それにアナリストを失望させているのは何も Apple だけではない - AlphabetMicrosoft、そしてTwitter の全てが最近彼らの予想を下回った。

Apple は間違いなく課題に直面している。例を挙げれば、サービスの向上、Apple Watch や Apple TV をより魅力的な製品に仕上げる、そして顧客に手持ちの iPhone, iPad, そして Mac をアップグレードするよう確信させる等であるが、それよりももっと大きな問題が関わっているのは確かである。減速経済の始まりの兆し、ハイテック部門に限定した、或いは全世界経済の、を見ている可能性は否定出来ない。この減速が単に短期的な経済の悪天候なのか、或いは重大な経済環境の変化を示すのかは、もっと時間が経ってみないと判らないのではなかろうか。

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"Take Control of Slack Basics" の Chapter 9、入手可に

  文: Adam C. Engst: [email protected], @adamengst, Josh Centers: [email protected], @jcenters
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

良いチーム用メッセージングシステムの必須機能の一つは、過去のメッセージを見つけ出せることだ。「昨日上司から何をせよと言われたっけ?」「同僚がポストしたあのリンクは、どこへ行った?」「宿題に必要なあのファイルをポストしてくれたのは誰だ?」といった質問は、Slack の検索機能を理解しさえすればすべて簡単にできるようになる。

Slack は一連のパワフルな検索機能を提供するが、連載中の本 "Take Control of Slack Basics" で Glenn Fleishman はそのすべてを Chapter 9 の "Search Effectively" の中で一つ一つ説明し、Slack がどこを検索できるか、効果的な検索クエリーをどうやって作るか、文脈の中にどのように検索結果を表示させるかを説明する。また、検索を絞り込んでより正確なものにしたり、検索を日付で絞り込んだり、特定の人たちからのメッセージを見つけたり、さらにはリンクを含むメッセージや、星印や絵文字でタグ付けされたメッセージを検索する方法さえ学べる。

現在の連載形式での "Take Control of Slack Basics" は、最初の二つの章は誰でも読めるけれども、Chapter 3 とそれ以降は TidBITS 会員限定なので、まだ会員になっていない方はどうぞこれを機会に参加して頂きたい! TidBITS 会員になった方には他にも多くの特典がある(例えば私たちの RSS フィードがフルテキストで読めるようになる!)けれども、何より大切なのは TidBITS 会員の力があったからこそ TidBITS を毎週皆さんの受信箱にお届けできているということだ。既に TidBITS 会員になっておられる方は、会員登録の際の電子メールアドレスを使って TidBITS サイトにログインして、これらの章をお読み頂きたい。

完成版の電子ブック "Take Control of Slack Basics" は、完成し次第 PDF、EPUB、Mobipocket (Kindle) の各フォーマットでどなたでも購入して頂ける。管理者向けの "Take Control of Slack Admin" も合わせて出版する予定だ。また、Slack チーム全体を対象に、完成版の電子ブックの値引きまとめ買いができるようにする予定なので、ご希望の方はご連絡頂きたい。

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PDFpen 8、添付ファイル、デジタル署名その他を追加

  文: Michael E. Cohen: [email protected], @lymond
  訳: 清水 史彦 <qff01604@nifty.com>

Smile 社は、TextExpander の見直し ("TextExpander 6 Adds Teams and Subscription Billing (2016 年 4 月 6 日)、「Smile、独立版の TextExpander を回復、購読料金を値下げ」(2016 年 4 月 13 日)) に引き続いて、PDFpen および PDFpenPro (Mac 用 PDF 編集アプリ) のバージョン8 へのアップデートを発表した。どちらも、OS X 10.10 Yosemite 以降に対応している。

PDFpen、PDFpenPro の新機能は、PDF から添付ファイルと注釈をプレビューしたり、取り出したりできるようになったことだ。さらに、PDFpenPro 8 では、PDF にファイルを添付することもできる。加えて、どちらのアプリも、PDF に音声による注釈を追加したり、再生したりすることができるようになった。

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これらの新バージョンでは、ページ上のものであれば、事実上何でも、サイズを測ることができる新しい測定ツールが提供されている。例えば、小説の原稿で、ある一章の冒頭がページの一番上からどのくらいの距離にあるかを知りたいなら、カーソルをドラッグするだけだ。

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PDFpenPro 8 だけの新機能は、ポートフォリオ (複数の文書を含む PDF ファイル) の作成機能、および、書式構成要素 (form elements) のラジオボタンとチェックボックスの外観をカスタマイズする機能だ。また、PDFpenPro のサイドバーから、書式構成要素のタブの配列を変更する機能も加わった。

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多くの現行機能も強化されている。Microsoft Word に書き出す機能は、PDFpen、PDFpenPro のどちらでも可能だが、バージョン 7 ではオンライン接続が必要であったのに対し、新バージョンではもはやその必要はない。また、Excel への書き出しは、PDFpenPro のみの機能であるが、これも同様にオフラインで動作する。

アプリの文書署名機能も強化されている。以前のバージョンでサポートされていたインタラクティブな署名フィールドに加えて、新バージョンでは、デジタル署名を生成したり、認証したりすることができるようになった。このデジタル署名では、自己署名証明書 (self-signed certificate)、もしくは、AATL (Adobe Approved Trust List) 証明書を使用することができる。

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どちらのアプリも Smile 社から入手可能で、PDFpen は $74.95、PDFpenProは $124.95 だ。PDFpen、PDFpenPro のシングルユーザーバージョンのアップグレードは、いずれも $30 だ。(PDFpen 7 または PDFpenPro 7 を 2016 年1 月 1 日以降に購入したユーザーは、無料でアップグレードできる。) さらに、PDFpen のユーザーが PDFpenPro にアップグレードしたい場合は、$50で可能だ。ファミリーパック、および、オフィスパックも利用可能だ。

PDFpen および PDFpenPro は、Mac App Storeでも間もなく入手できるようになるが、残念ながら、アップグレード料金は提供されない。ただし、PDFpen、PDFpenPro の以前のバージョンを Mac App Store で購入したユーザーは、最新バージョンを Smile 社からダウンロードすることができる。起動すると、ユーザー登録画面が現れ、Mac App Store バージョンであることが認識され、適切なアップグレード料金が適用される。

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情報ビットはなぜあべこべになりがちか (なっていたならどうするか)

  文: Joe Kissell: [email protected], @joekissell
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

最新の本 "Are Your Bits Flipped?" の執筆作業をしながら、私はテクノロジーの誤解が広く浸透していることについてじっくり時間をかけて考えた。ここ数年でハードウェアとソフトウェアは信じられないほど進歩を遂げたし、ほんの十年くらい前には魔法のごとく見えていた製品にも私たちは皆かなり慣れ親しんでいる。けれどもそれと同時に、テクノロジーについて基本的な誤解が蔓延していることも事実で、滑稽なものから悲劇的なものまでさまざまの結果を生みつつある。それはいったいなぜなのか、それに対して何をすべきか、ここにいくつか考えを述べさせて頂きたい。

ちょっとした知り合いたちとのディナーパーティーの席で、ある男が私にどんな仕事をしているのかと尋ねた。そこで私は、テクノロジーについての本を書いているのだと答えた。いくつかの話題を挙げて、読んでみればきっとあなたにも役立つかもしれないと言い添えた。

ちょっと顔をしかめながら、彼は「いろんなことの仕組みを説明しようとする本じゃないだろうね、俺はそんな本を読む暇なんかないし、興味もない。何をクリックすればいいかだけ知ってりゃ十分じゃないか」と言った。

私は大きく息を吸い込んで、どう答えれば角の立たない言い方になるだろうかと考えてから、私の本にはたいてい具体的な、ステップ・バイ・ステップの説明もたくさんあるし、舞台裏で何が起こっているかを知りたい人のために背景の情報も書いてありますと言った。けれども彼には十分でなかったと見えて、舞台裏の情報をちょっとだけ知っても決して損にはならないという私の言葉に対して身構える様子を見せた。

そこで私はすぐに話題を変えた。けれども心の中は悲しい気持ちになった。この人の態度のせいで、この人は間違いをし易い状態のままになっているし、今後問題に出会っても、この人は友人や、技術者や、あるいは私のような著者の助けを借りなければいつまでも問題を解決できないだろうからだ。

誰も、あなたの Mac や iPhone の、アプリやクラウドサービスの、あるいはその他あなたが出会うテクノロジーの、内部動作を理解せよと強制することはない。けれども、いくらあなたがブラックボックスの摩訶不思議な中身から自分を遠ざけようとしてみても、あなたの脳は無意識のうちに自動的にメンタルモデルを作り上げ、それに依存して自らが将来の行動を予測したり決断したりできるようにするだろう。そのモデルが現実から遠いものであればあるほど、混乱とフラストレーションに陥る可能性が増す。

例を挙げよう。あなたが Gmail を使っているとして、家族と電子メールでよく議論した製品の、まさにその製品の広告があなたがよく訪れるウェブサイトに頻繁に登場するようになったことに気付いたとしよう。あなたはこれを摩訶不思議と感じるかもしれないし、何か疑わしいとさえ感じるかもしれない。そして、無意識のうちにあなたは Google にいる誰かが私の電子メールを読んでいるに違いないとか、私が興味を持っている製品についてメーカーにこっそり情報を流しているに違いないとか考えるようになるかもしれない。つまり、言わせてもらえば、実際に何が起こっているかについての極めて不正確な説明を信じ込んでしまうということだ。もしも、テクノロジーの背後にある詳細情報を知ろうとしたこともないならば、極端な被害妄想(あるいは逆の極端として極度の楽観主義)に陥りかねない。そしてそれは、あなたが電子メールを使ったり、ウェブをブラウズしたり、広告に対処したり、どの製品を購入するかを選んだりするやり方に、きっと影響を及ぼすことになるだろう。

しばしば起こることだが、最初のきっかけとなる誤った考えはごく小さなことだ。比喩的に言えば、最初は単なる「情報ビットのあべこべ」だ。単に一つのことがイエスかノーかだけの違いだ。けれども、脳の中でそれは庭園の小径を奥へと進み、入り組んだ複雑な誤解へと変貌する可能性がある。テクノロジーの世界で仕事をしてきた期間(もう 20 年以上になる)を通じての私の使命は、人々がその種の誤りに気付いて取り除くことができるようにと、その結果人々がもっと賢くツールを使いこなせるようにと、手助けをすることであった。

そしてここで一言、脳が誤りに迷い込んでしまったすべての人に、言っておかなければならない。これは、あなたのせいではない (It's not your fault)。(警告: ここに引用したビデオクリップには汚い言葉が含まれている。)

古い話だが、コンピュータに壊れた「カップホルダー」が付いていると文句を言った男の話をご存じだろうか。あれは、CD-ROM のトレイがコーヒーカップを置くものだと誤解した人がいたという実話だ。また、"Press any key" (お好きなキーを押してください) というメッセージを見て Any と書いたキーがどこにも見当たらないと技術サポートに抗議の電話を入れた人たちが非常に多かったのも事実だ。この種の話は数限りなくある。そんな話を聞けば、目を丸くして笑って、人ってそんなにバカになれるのかと言いたくなるかもしれない。

でも、バカというのは正しい診断ではない。むしろ、製品を作る側の人たちは一連の想定をしているのに、その製品を購入し使用する側の人たちは必ずしもそれと同じ想定をしている訳ではないからと言うべきだ。つまり、両者は互いに異なるメンタルモデルを持っているのだ。もしもバカさが理由だとすれば、自らを顧客と同じ視点に立たせて顧客が物事をどう見るかを想像しなかった、デザイナーやエンジニアたちこそバカであったとも言える。

他の人より経験豊富な人たちもいるだろう。また、製品のデザイナーにより近いメンタルモデルを持っている人もいることだろう。でも、テクノロジーについての誤解は誰でも陥る可能性がある。あなたが情報ビットを一つだけあべこべにしたとしても、それはあなたのせいではない。けれども、あべこべになったその情報ビットを正しくする機会があるなら、その機会を利用すべきだ!

私の意見を言わせてもらえば、テクノロジーを開発する人たちと、テクノロジーを使う人たちは、お互いの中間地点で会おうという気持ちになるべきだと思う。コンピュータやスマートフォンを使うためにテクノロジーの専門家になる必要はないけれども、その一方で意図的に無知を決め込んでも何の役にも立たない。もちろん、愚かなデザイン判断に対しては大いに苦情を述べるべきだが、その一方でマニュアルは読んで欲しい。開発者に対して製品を「そのままで動く」ようにせよと要求するのは良いが、それと同時にその製品がどのように使われることを意図して作られているかを理解しておくのは使う側の責任だ。

何かを知らないのは何も恥ずかしいことではない。正直にしていて間違うのも、恥ずかしいことではない。けれども、もっと知りたいと思うこと、誤った想定を取り除いて自分のメンタルモデルを改善しようとすることこそが、美徳だ。

私が TidBITS 記事を、または Take Control ブックを執筆する際、私は自分がその題材についてかなりよく知っているという想定から始めて、自分がその題材を明確に説明できたという想定で仕事を終える。でも、この二つの想定は誤っていることが多い! どんな人とも同じように、私も自分の情報ビットをあべこべにすることがある。テクノロジーの批評家や評論家は私が見落とした事実誤認を指摘してくれるし、その一方で編集者や読者は私の説明が(最善の努力にもかかわらず)困惑を招くものであった場合にそう言ってくれる。そんなとき、私はブツブツ不平を言ったりイラッとしたりするかもしれないが、それでも最善を尽くして心の平静を保ちつつ修正を受け入れようとする。これらすべて、貴重な学習体験だ。それは、私がたった今ほんの少しだけ以前より賢くなったことを意味する。だから、次に私がその記事や本を改訂する際には、私はそれだけ良くなっているということだ。

テクノロジストとしてもコンシューマとしても、私たちは皆、時々は自分の想定を再検証することで恩恵を受けられる。あべこべになった自分の情報ビットを認め、自分の理解をより良くしようとする気持ちが大きければ大きいほど、私たちとテクノロジーとの関係が(そして、他の人たちとの関係が)より良いものとなる。

その精神に従って、私の新刊書 "Are Your Bits Flipped?" を読んでみられることをお勧めしたい。率直に言わせて頂けば、もしもあなたが骨の髄まで「何をクリックすればいいかだけ知ってりゃ十分」タイプの人なら、この本はあなたに向いていない。これは決して、他の多くの Take Control タイトルに見られるようなハウツー本ではない。そうではなくて、これはよくあるテクノロジーの誤解を扱った一連のエッセーを集めていて、TidBITS 記事として書いた私の連載 FlippedBITS 記事に着想を得て生まれたものだ。通説や誤解を一つずつ取り上げて、それぞれに実際には何が起こっているかを、親しみやすい分別ある書き方で説明しようとしている。これは、あなたの脳を正しい道に引き戻すための役に立つばかりでなく、そもそもどうして情報ビットのいくつかがあべこべになるに至ったのかを理解する助けともなり、将来誤解に陥らないために何ができるかを学ぶきっかけともなる。この本が、皆さんにとって面白く読めると同時にためになるものであることを願っている。そして、皆さんから修正の指摘が届くのを私は心待ちにしている。

(FlippedBITS 記事)FlippedBITS コラムが新登場 | FlippedBITS: 複製ボリュームから Mac をブート | FlippedBITS: パスワードにまつわる四つの迷信 | FlippedBITS: IMAP をめぐる誤解 | FlippedBITS: Java、JavaScript とあなた | FlippedBITS: 電子メールアドレス変更にまつわる誤解 | FlippedBITS: プライバシー方針って何か意味があるのか? | FlippedBITS: 1Password 対 iCloud Keychain

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iPad Pro を MacBook アダプタと新型ケーブルで高速充電

  文: Julio Ojeda-Zapata: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

12.9 インチ iPad Pro をしっかり使い込んでいる者として、またそれに付属の 12 ワット電源アダプタを使った充電の遅さを普段から嘆いている者として、私は Apple が発表した USB-C to Lightning ケーブルに、即座に注目した。

大型の iPad Pro を使っている他の人たちと同様、私も 12 インチ MacBook に付属の 29 ワット USB-C Power Adapter のことをすぐに考えた。MacBook の充電器とこの新しいケーブルを使って大きな iPad Pro を充電すれば、充電時間が短くなるはずじゃないのか?

実際、その通りだった。私のテストの結果では、iPad Pro を飛行機モードでスリープさせた状態で充電時間は、4.5 時間ほどから 2.5 時間ほどへとほぼ半分に短縮された。

それが可能となったのは、対応する機器で自動的に働き始める高速充電機能のお陰だ。Apple は 1 メートル2 メートルの USB-C to Lightning ケーブルの製品紹介ページに次のように記している:

この USB-C ケーブルがあれば、Lightning コネクタを持つ iPhone、iPad、iPod をコンピュータの USB-C ポートにつないでシンクや充電を行えます。Apple 29W USB-C 電源アダプタと一緒に使って、12.9 インチ iPad Pro の高速充電機能を活かすこともできます。

iPad Pro のスクリーンの輝度を最高に上げて飛行機モードにした状態で私がテストした結果も、なかなか示唆に富んでいた。MacBook 用アダプタと 1 メートルの USB-C to Lightning ケーブルで、95 パーセントの充電に達するまでにおよそ 4 時間かかった(ただしそれ以上の充電はほとんど停止状態と言えるほどになって進まなかった)のに対して、iPad Pro 標準の 12 ワットアダプタでは 24 時間充電し続けてもバッテリ残量は 25 パーセント程度を上回ることがなかった。

いったいなぜそんなことを気にするのかとおっしゃる方もおられるだろう。どっちみち iPad はスリープさせて夜通し充電させるのだから、どちらの方法でも大差ないじゃないか、2.5 時間かかろうと 4.5 時間かかろうと、朝になればフル充電になっているのだから、という訳だ。

その上、高速充電に必要な機器は決して安くない。29 ワット USB-C Power Adapter の価格は $49 で、1 メートルの USB-C to Lightning Cable は $25、2 メートルならば $35 だ。つまり、二つを合わせて $74 か $84 払わなければならないことになる。

けれども、一部の本格的な iPad Pro ユーザーにとっては、それをするだけの価値があるかもしれない。iPad を自分の主たる生産性デバイスとして使っている人もいて、いついかなる時にもできる限りの電源を必要としている。そういう人は、たいてい仕事中にもデスクの上のタブレット機を使いながら電源に接続したいと思っているものだ。そういう場合でさえ、この iPad Pro に付属の充電器では問題がある。

iPad Pro でどんなことをしているかにもよるが、電源に接続しながら使っている間にさえ実際バッテリ残量が 減って行く こともある。私はそれをこの目で見たことがあって、こんなことでは電源から外してバッテリのみで仕事をしたらいったいどうなるのかと心配になったのを覚えている。

この時点で、私は iPad Pro に 12 ワットの充電器を付属させた Apple の判断の誤りの重大さに気付いた。29 ワットの充電器ならば、作業をしながらでもバッテリの充電レベルは着実に増加する。もちろんデバイスを使っていない場合に比べればずっとゆっくりだが、ほとんど使い物にならない「ぽたりぽたり」充電よりはマシだ。

だからこそ、12.9 インチ iPad のユーザーにとっては、29 ワットの充電器と USB-C to Lightning ケーブルを購入すればお金を出しただけのことが得られると言いたいのだ。

単なる好奇心から、私は新型の 9.7 インチ iPad Pro で同じように充電テストをしてみたところ、結果はそれほど劇的なものではなかった。この小さなタブレット機は 29 ワットの充電器を使った方がほんの少し早く充電されたが、12 ワットの充電器も 29 ワットの充電器も 3 時間を少し超える程度で充電するという点で変わりはなかった。

それには理由がある。9.7 インチ iPad Pro には、12.9 インチ iPad Pro のような高速充電機能が備わっていないからだ。

もちろん、私のテストはとうてい科学的なものとは言えない。なので、他の人がもっと厳密な方法でテストした結果が同じようなものであるのを見ると嬉しくなる。

例えば、MacStories の Federico Viticci は 29 ワットの充電器で 12.9 インチ iPad Pro がずっと高速に充電されるのに気付いて「29W と 12W のアダプタをベンチマークテストして、一連の 10 分間サンプルで異なる充電条件の平均データを得る」方法はないかと考えた。

彼は次のように続ける:

私は Marco Arment に尋ねて、彼が Overcast アプリのバージョン 2.5 のパフォーマンスを調べるために作ったバッテリレベル監視ツールを使わせてくれないかと頼んだ。Marco は親切にもアプリをビルドして送ってくれた。このアプリは (App Store での販売が認められないプライベートな API を通じて) IOKit を利用し、時間経過に応じてエネルギーの獲得・喪失の両面からバッテリレベルの変化を報告できる。

最終的に Viticci は「新しい 29W アダプタを使った高速充電は、あらゆるテストで 12W アダプタでの通常充電に勝る」ことを見出した。

彼はこう述べる:

29W と 12W の電源アダプタのパフォーマンスの差は、無視するにはあまりにも大き過ぎる。どんな iPad Pro ユーザーも、自分のデバイスをできるだけ短い時間で充電して、できるだけ多くのバッテリ容量を、できるだけ早く手にしたいと思っている。基本的に 12W の電源アダプタは iPhone の充電をそのまま iPad Pro に持ち込んだだけのものだ。現時点では並以下のものに過ぎず、許容範囲に入るかどうかさえ微妙なところだ。もしもあなたが 12.9 インチ iPad Pro をメインのコンピュータとして毎日使っているなら、29W USB-C 電源アダプタと USB-C to Lightning ケーブルを入手することを強くお勧めする。お金を出す価値は十分ある。

こういったことすべてが、まぎれもなく一つの疑問を呈示する。いったいなぜ Apple は、最初からこの大型の iPad Pro に良い方の充電器を付けなかったのかという疑問だ。同等の充電能力さえあれば USB-C でなくて Lightning アダプタでも構わない。12W アダプタでは非力過ぎて、$800 もするタブレット機には受け入れ難い。

どうやら Apple も既に自らのやり方の誤りに気付いたとみえて、12.9 インチ iPad Pro の次回のアップデートでは何らかの修正を施す可能性が高いようだ。それまでの間、私は 29W MacBook 用アダプタと USB-C to Lightning Cable に完全に切り替え済みだ。私のようなタイプのパワーユーザーには、それ以外に道はない。

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Comcast、月々のデータ上限をより無難な 1 TB に引き上げる

  文: Glenn Fleishman: [email protected], @glennf
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>、清水 史彦 <qff01604@nifty.com>

インターネットサービスプロバイダーの使用量上限設定は低すぎるし、超過料金設定は高すぎると長年にわたってしつこく批判してきた者として、私は Comcast の発表を読んで "まあ、これはしょうがないな" と納得している自分を発見して驚いた。その発表とは、このケーブル業者が使用量に上限を設けている地区ので毎月のデータ使用量の限度を新たに 1 TB にするというものであった。

この新しい上限は寛大とは言えないが、現時点では多くの人々にとっては十分なものであり、今後も少なくともあと数年間は大丈夫であろう。もっと重要なのは、サービスを提供している地域の大部分で実効的に独占状態を維持している会社ですら、顧客、規制、そして政治的圧力には対応しなければならないということを示していることである。

この発表は何の前触れもなく現れた - この前触れとなる発言やニュースの漏えいを取り上げた報道機関はない - そして、これは Federal Communications Commission と Department of Justice がもう一つの大手のケーブルプロバイダーである Charter Communications が Time Warner Cable を買収するのを許す条件としたものにも反応したものなのかもしれない。この合併契約は、最初の7年間は上限の設定と使用量を基にした料金体制を禁じている。それはまた、競合するビデオプロバイダーが提供する高品質のストリーミングサービスに帯域制限をかけることで提供出来なくする中間接続の不正行為も排除している。

Comcast は、そのサービス地域全域に対してデータ使用量上限と超過料金を適用していくという意図を露わにしており、腹立たしい。しかしこれは、私には使用量がこれ以上多くなればネットワークの渋滞は避けられないとする Comcast の長年にわたる主張に陰りが生じたという好ましい兆しに見えるし、それに 1 TB というのは同社がこれまでに課してきたデータ上限に較べればはるかに理にかなったものである。

上限規制の現状 -- Comcast は数年にわたってデータ上限を課す試験をしてきた。ある時点では、それは "柔らかい上限" で、その上限を1、2回以上にわたって超過すると、通常1年間のサービス停止に至るものであった。異議申し立ての制度はなく、規制者側も権限を有していなかった。ケーブルテレビに対しては地域規制委員会の緊密な規制下に置かれる市場においてすら、ISP は FCC によってのみ規制されることが出来、そして FCC はこの種の顧客問題に対する監督権を欠いていたし、今でも欠いている ("ネット中立性が米国ブロードバンドの苦悩に影を落とす" 19 February 2015)。

2008 年に Comcast は、硬い上限を毎月 250 GB に設定した。しかもこれは最高速の 105 Mbps サービスに申し込んでいても適用された。私は 2009 年に、オンラインバックアップサービスの試験をしている時にこの上限を超えてしまった。馬鹿馬鹿しい話だが Comcast は使用状況を示すツールを 2010 年になるまで提供しなかったので、その精度や恣意性に対する疑問を呼び起こすこととなった。政治的圧力と 2012 年のネット中立性に関する熱い論議に直面して、Comcast は一時的に上限を外したが、その後一部地区では超過料金制度を試し始めた。

Comcast はこれらの試験の多くを同社がその地区での唯一の選択肢であるか、或いは唯一の相応に速く相応の値段の選択肢である地域で展開した。28 April 2016 以前は、その限度は上り下りの使用量合わせて毎月 300 GB であり、それ以上に対しては 50 GB 毎に $10 を課していた。地域によっては、毎月 $30 か $35 を払うことで (ケーブルの基本料金とほぼ同額) 使い放題の選択肢もあった。

AT&T も似たようなプランを持っているが、上限はサービスレベルによって変化し毎月 150 GB から 1 TB となっている。超過料金は同じ 50 GB 当たり $10 であるが、最近、月額 $30 の使い放題のアドオンを導入した。

TidBITS Managing Editor Josh Centers は Comcast の超過料金体系地域に住んでいる - 多くは South 地域である ("Comcast がデータ上限設定を拡張:どう対処出来るか" 10 November 2015 参照)。彼は Comcast のビジネスサービスに移行したが、これはより高額で、より低速ではあるが、上限や超過料金はない - 私も数年間同じ理由からComcas Business を利用したことがある。これには最低1年間加入する必要があり、そして以前調べた時には 755 のキャンセル料金が付加されていた - 極めて不愉快な話だが、繰り返しになるが、これは違法ではない。

私は最近 CenturyLink 経由のギガビットブロードバンドに切り替えた。これは地域電話会社で、固定電話と DSL での生き残りに苦闘してきており、現在生き残りをかけて全力でファイバを展開している。殆どのファイバを使ったサービスプラン - 私のものも含んで - には帯域制限はないが、サーバーを走らせないこと、或いは消費者向けには、これらの線から商売をしないようにといった条件が付けられている。これらの条件は、莫大な量の帯域を使わない限り、通常強制されない。

私はサービスと "電話ライン" (私の家に引き込まれた同じファイバを使って) の工事のために $300 を支払った。これには $100 のリベートが付いていたが、これを出す気になるまでには多少ネジを巻いてやる必要があった。長期の縛り無しでのサービス料金は月額 $155 であるが、これには電話とかけ放題のプランが含まれる。この電話ライン無しだと、CenturyLink は月額 $185 を課してくることになるが、その理由の一部は出来るだけ音声回線もファイバに移して、彼らの年老いた、旧式の、高額な銅線ネットワークの保守費用を減らすことにある。

ほぼ1年前 Comcast は、ファイバベースのブロードバンドサービス、とりわけ Google Fiber、の止まることのない増加に対応して、その広範囲なファイバネットワークから 1/3 マイル以内の顧客には 2 Gbps サービスを1年以内に、そして 1 Gbps のサービスを 2017 年末迄に、その根底にあるデータエンコード標準をアップグレードすることで、提供すると約束した。(同社は DOCSIS 3.1 に移行しつつある。)

Comcast の約束は野心的過ぎるように見えたが、その展開は進展しているし、競争が目に見えるようになってきたことも良い印と言える。この 2 Gbps サービスは 18 百万の顧客 (サービスを提供出来る 55 百万の家庭やビジネスの凡そ 1/3) に到達している。これには工事として $1000 を要し、料金は月額 $300 で、最低2年の契約が必要である。(Comcast の工事費は数千ドルかかると思われるので、2年縛りというのもあながち無茶とは言えない。)

Comcast の 1 Gbps サービスは3月に Atlanta で始まったばかりで、$500 の工事費と販売促進用の月額 $70 の料金が初期契約で必要とされる3年間にわたって適用される。Comcast によると、その後は月額 $130 になると言う。

しかしおかしな部分もある:契約の細かい文字を読むと、超過料金が課せられる都市部ではその使用プランが適用されるとある。Comcast は 1 や 2 Gbps のサービスを提供する時には、いかなる限度も提供されるサービスに応じたものでなければならないということを未だ理解していないのかもしれない。

競合を追い詰められた状態にしておくこと -- Comcast は、データ上限によって、ネットワーク品質が改善されると述べているが、実はこれには、顧客がケーブルテレビを解約してストリーミングサービスに流れるのを思いとどまらせる意図がある。そして、それは、うまく機能したようだ。と言うのは、The Wall Street Journal (有料サイト) が、コードカッター (ケーブルテレビを解約した人) が、使用量上限に到達してケーブルテレビに戻ったり、あるいは、超過料金を払わなければならなくなって視聴習慣を変えたりしている状況について、ほんの数日前に報じているからだ。

Comcast の公式ブログは、いくつかの興味深い事実に言及している。すなわち、同社の顧客の 99% は、月間使用量が 1 テラバイト未満であり、平均的ユーザーの使用量は、およそ 60 GB にすぎないとのことである。しかしながら、The Wall Street Journal の記事は、Comcast から追加情報を得て、200万人の契約者が月に 300 GB を超えていること、そして、Time Warner Cableの平均使用量は月に 141 GB で、1 年間に 40% の伸びを示していると述べている。

こうした使用量は、どこから生じるのであろうか? Netflix では、500 kbpsないし 5 Mbps の帯域幅をビデオストリーミングに使用することができる。Amazon は、900 kbps ないし 3.5 Mbps が必要だと言っている。Hulu は、標準画質ビデオ (SD) で 1.5 Mbps、高解像度 (HD) で 3 Mbps が必要と言っている

仮に、Netflix のストリーミングを、5 Mbps で、一つのデバイス上で 24 時間、30 日間流しっぱなしにしたら、おおまかに言って、1.6 TB を消費することになる。例えば家庭で、3 人が 1 週間に番組を 40 時間、高解像度で見たとして、おそらくちょっと多すぎる視聴量ではあるが、それでも 1.2 TBにしかならない。

他のユーザーは、もっと容易に上限に到達するのかもしれない。私の同僚のJason Snell (熱心なポッドキャスト製作者で、ポッドキャストネットワークのオペレーターでもある) は、毎週、巨大なオーディオファイルの作成や編集を行い、次いで、クラウドバックアップサービスに同期させるが、そのため、毎月 1 TB を超える。私がギガビットサービスを手に入れて、Backblazebackup でシードバックアップ (初期バックアップ) を行った時は、数日間で1.3 TB をアップロードした。私の場合、写真の同期、クラウドサービス、そしてクラウドバックアップで、毎月数百ギガバイトを常に使っているのではないかと思う。

だが、1 テラバイトは、ビデオをよく見る家庭にとってすら、おそらく全く合理的であろう。Comcast は、超過料金を全米に展開するに際し、一般大衆からの反発を避けることに明らかに賭けている。Comcast 独自の数字に基づいて、Comcast は、同社の 2,000 万人の顧客のうち、およそ 20 万人に対して超過料金を課すであろう。つまり、目下、300 GB を超過している同社の顧客10% (200 万人) の代わりに、ヘビーユーザーの顧客 (1 TB を超過する) に対して、超過料金を課すということだ。$10 の支払いから、毎月 $50 の超過料金を課せられるようになるというのはかなりのもので、上限 1 TB で、この超過料金が些細なものだという印象は受けない。

真の試金石は、Comcast が時間をかけて、いかにこの議論を深め続け、1 TBの上限を引き上げるかどうかということであろう。とりわけ、ギガビットサービスが拡大し、超高精細 (UHD) 放送を映すテレビが、ゆっくりとではあるが確実に家庭に浸透し、人々が壊れた装置を新しいものに置き換えたり、高性能機種を選んだりしているからだ。

Netflix は、UHD を最大 25 Mbps でストリーミングしており、1 TB を超えることなく、UHD ストリーミング番組を (他の視聴は除いて) 1 週間に 20 時間視聴可能だ。ただし、テレビが複数台あったり、視聴者が複数いたり、さらに、多くのディスプレーや番組が、より高解像度で利用可能な家庭では、1 TBの上限も、引き続き容易に超えることになるだろう。

データ使用量の上限は今後も有効だろうか? -- 帯域幅の上限、閾値、そして超過料金は、一社による独占、あるいは、二社による寡占の環境においてすら、必ずしも暴利とは言えない。あらゆるネットワークには容量の上限があり、かなりの比率のユーザーが、ある地域で、帯域幅を大量かつ長期間にわたって使用していたとしたら、それは、ネットワーク上の他のすべてのユーザーに対して弊害をもたらすことになるだろう。

しかし、それは、インターネットサービスプロバイダー (ISP) が、使用量の上限に対して取り組んでいる理由ではないように思われる。仮に、回線容量の問題であるなら、Comcast は、前年同期比で容量を徐々に上げてきていただろう。既知のコストと Comcast が報告している顧客行動に基づいて、何が合理的かについて私がラフに計算したところによると、顧客は月に 250 GB が使用可能であるべきだ。そして、追加の 10 Mbps のサービスごとに、月に 150 GBが使用可能であるべきだ。かくして、Comcast の 25 Mbps の顧客は、上限が700 GB となり、一方、150 Mbps の顧客は、上限が 2.5 TB となる。この上限は、まだ低過ぎるかもしれないが、回線容量に対して支払われる価格に対して、最低限、つり合っていると言える。

とは言え、トレンドとしては、なんらかの閾値を設けることから離れる方向に動きつつあるように思われる。Cablevision は、Verizon の FiOS 光ファイバーケーブルサービスといくつかの市場で競合しており、長い間、上限値に対して反対してきた。Verizon も FiOS では上限値を設けていない。(この動きは、競合する事業領域を超えて拡がっているが、両社にはかなりの重複がある。) さらに、上述したように、Charter は、Time Warner Cable 獲得のために、7 年間にわたって、上限を設けず、超過料金を設けない方針を受け入れることになるだろう。

AT&T と Comcast は、今や、むしろこうした最近の変化に一線を画しているように思われる。だからこそ、Comcast が、メディア会社の所有に手を伸ばすことを止めないのは、かえって興味深い。同社は、NBCUniversal を長年保有してきた。そして、NBCUniversal は、多くのプロダクション会社と、多くのケーブルチャンネルを所有している。また、NBCUniversalは、アニメーションスタジオの DreamWorks を買収したばかりだ。

私たちはみんな、有料テレビ放送が、内部からつぶれると同時に、外に向かってあふれ出すのをずっと待ってきた。つまり、主にケーブルテレビや衛星放送で提供されるチャンネルの巨大なパッケージが、インターネット上で、単品またはセットで販売されるようになるということだ。こうしたことは数年前に起こり始め、2015 年にはこの動きが加速した。そして、このトレンドはかつてないほど過熱しているように見える。AT&T は、3 月に、Dish Network'sSling TV と、本年後半には競争を始めると述べた。

おそらく、データ上限は姿を消しつつあり、閾値はより緩やかになりつつある。なぜなら、ケーブルテレビおよび電話会社が、いかにして自分たちの事業をこの新しいモデルに移行させるかについて解決策を見出してきたからだ。こうした会社は、競合に対して、従来よりも友好的に見えるかもしれないが、実際には自社の縄張りに杭を立てて仕切りを構築しているのだ。その理由が何であれ、差し当たり、私たちにとっては有益であろう。

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TidBITS 監視リスト: 注目のアップデート、2016 年 5 月 2 日

  文: TidBITS Staff: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Lightroom CC 2015.5.1 と Lightroom 6.5.1 -- Adobe が独立動作の Lightroom 6.5.1 と Lightroom CC 2015.5 (Adobe の Creative Cloud Photography プランの一部として入手可能) をリリースして、いくつかのバグ修正を施した。これら二つのプロフェッショナル向け写真カタログ・編集アプリケーションは、ドロップレットが書き出しアクションとして動作しなかった問題に対処し、フォルダのアクセス権が正しくなかった問題を解消し、すべてのカメラモデルで EXIF レンズ名が表示されるようにし、折り畳まれたスタックから HDR や Panorama を統合することに関係するバグ一件を修正している。また、Pentax K-1 および Sony DSC-RX10M3 カメラへの対応を追加している。(月額 $9.99 の購読、または $149 の独立動作アプリ、無料アップデート、リリースノート、Lightroom CC 2015.5 は 10.8+、独立動作の Lightroom 6.5 は 10.9+)

Lightroom CC 2015.5.1 と Lightroom 6.5.1 へのコメントリンク:

OmniOutliner 4.5.2 -- The Omni Group が OmniOutliner 4.5.2 をリリースした。今回は小さなメンテナンスリリースで、XSLT 解析ツールのファイルサイズ制限を緩和して大きな書類でも HTML、CSV、DOCX、PPTX の各フォーマットに書き出せるようにしている。このアウトライン作成および情報整理アプリでは、既存の OPML 書類を編集する際に親の状況が正しく保存されるようにし、キーボードマネージャを使った入力の最中に自動リンク探知がクラッシュを起こしていたのを修正し、印刷パネルのオプションにローカライズを追加している。(標準版の新規購入 (Mac App Store) $49.99、Pro 版の新規購入 (Mac App Store) $99.99、無料アップデート、24.8 MB、リリースノート、10.10+)

OmniOutliner 4.5.2 へのコメントリンク:

HoudahGeo 5.0 -- Houdah Software が写真ジオタグ付けアプリ HoudahGeo 5.0 をリリースした。これは Apple の Photos、iPhoto、Aperture でも、また Adobe の Lightroom でも働く。HoudahGeo は JPEG および raw ファイルの EXIF、XMP および IPTC タグに GPS 位置情報の座標と名前を書き込み、写真カタログツールを有効化して写真を整理したりあとで位置情報による検索ができるようにしたりする。今回のメジャーな新リリースでは、お気に入りの場所に写真を割り当てて位置座標や場所の名前を適用できる機能を追加し、ジオコーディングのドラッグ&ドロップと逆ジオコーディング(場所の名前の検索によるもの)を有効化し、複数のキーワードをまとめて割り当てるためのキーワードエディタを新設し、Google Earth KML 書き出しへの対応を改善し、また Lightroom のカタログとのメタデータ統合を改善している。HoudahGeo 4 のライセンスを持っていれば、$19 でバージョン 5 にアップグレードできる。(2015 年 12 月 1 日かそれ以後にライセンスを購入した場合は無料でアップグレードできる。(新規購入 $39、無料アップデート、21.7 MB、リリースノート、10.10+)

HoudahGeo 5.0 へのコメントリンク:

iMovie 10.1.2 -- Apple が iMovie 10.1.2 をリリースした。Project ブラウザに New Project ボタンを追加したので、クリック一つでプロジェクトを作成して編集を開始できるようになった。今回のアップデートではまた、iOS 用 iMovie の見栄えに合わせるためプロジェクトのサムネイルを大きく表示するようにし、ビデオクリップをクリックすると範囲を選択するのでなくクリップ全体が選択されるように挙動を変更し、ブラウザやタイムラインの中でクリップ内部の一部の領域を選択するキーボードショートカット (ドラッグしながら R キーを押し続ける) を追加し、App Preview の解像度に iPad Pro 用 (1600 x 1200) と Apple TV 用 (1920 x 1080) への対応を追加している。iMovie は今回から OS X 10.11.2 El Capitan かそれ以降を要するようになった。(Mac App Store から新規購入 $14.99、無料アップデート、2.05 GB、10.11.2+)

iMovie 10.1.2 へのコメントリンク:


ExtraBITS、2016 年 5 月 2 日

  文: TidBITS Staff: [email protected]
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

今週の ExtraBITS では、Apple がサポートサイトのデザインを一新し、絵文字を巡る争いが起こりつつあり、iPhone Upgrade Program がオンラインからも利用できる。

Apple、サポートサイトのデザインを一新 -- サポート用サイトを毎日訪れる人はいないだろうが、この次に Apple からの助けを求めてサポート用サイトを開いた際には、Apple Support サイトのデザインが変わっていることに気付くだろう。新しいサイトでは、まず最初に検索フィールドが大きく表示され、ページの下の部分が製品別、人気のトピック、Apple Support Communities、保証と修理の情報、Apple サポートへの連絡、Twitter を使ったヘルプ、ストア内ワークショップへの申し込み、それから交換プログラム・修理拡張プログラムの案内、といういくつかのブロックに分けて示される。狭いスクリーンのデバイスではうまくそれに合わせているけれども、このメインページはあまりにも多くのスクロールを必要とするので、欲しいものを見つける前に迷ったり混乱したりしてしまう人たちが多いのではないかと心配になる。

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Unicode Consortium 内部で "Emojigeddon" 勃発 -- Apple デバイス上で使える絵文字のコレクションがますます増え続けていることにお気付きかもしれない。私たちが感謝すべきは、あの立派な Unicode Consortium で働く人々だ。非営利団体 Unicode Consortium は、1991 年以来世界中のあらゆる言語と筆記システムの文字セットを標準化するために働き続けている。しかしながら、最近の絵文字に対する努力には副作用も伴う。Unicode Consortium のメンバーの多くが、絵文字はもっと重要な仕事への努力の妨げとなると考えている。この "Emojigeddon" の物語は PUNCTUS FLEXUS MARK とか CAT FACE WITH TEARS OF JOY とかの絵文字を知らない人にも魅力的な読み物となるだろう。

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iPhone Upgrade Program がオンラインからも -- Apple の iPhone Upgrade Program は、月額料金を払って AppleCare+ 付きの iPhone を持てるというものだが、これまで Apple Store 店頭でのみ受け付けていた。けれども今回、Apple はオンラインで購入する際にもこれをオプションとして提供するようになった。条件を満たす ATamp;T、Sprint、または Verizon の顧客ならば店舗を訪れる必要もない。正直言って、これは最初から提供されるべきだったと思う。[訳者注: iPhone Upgrade Program は現在米国内のみでの提供です。]

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日本語版最終更新: 2016年 5月 06日 金曜日 , S. HOSOKAWA