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#1487: iOS および iPadOS 13.1.3、Catalina 追加アップデート、iOS 13 と Catalina にバグが多い理由、iOS 13 で USB ストレージ、Catalina で Sidecar

アップデートがまだまだ届く。Apple は今回 iOS と iPadOS をバージョン 13.1.3 にアップデートし、macOS 10.15 Catalina に追加アップデートを出して、それぞれのリリースにおけるバグを退治した。既にアップグレードした人のために、Josh Centers が iOS 13 の下で USB ストレージを使うことに関する疑問に答え、Julio Ojeda-Zapata が iPad を Mac の第2モニタとして使う Catalina の Sidecar 機能を説明する。それから、元 Apple でソフトウェアエンジニアとして働いていた David Shayer が寄稿記事で、Apple の新しいオペレーティングシステムにこれほどバグが多い理由を説明する。今週注目すべき Mac アプリのリリースは BBEdit 13.0.1、Microsoft Office for Mac 16.30、Tinderbox 8.1、Audio Hijack 3.6.1、それに DEVONagent 3.11.2 だ。

Josh Centers  訳: Mark Nagata   

13.1.3、iPadOS 13.1.3、および Catalina 追加アップデートがバグ退治

Apple が iOS 13.1.3、iPadOS 13.1.3、それに macOS Catalina 10.15 追加アップデートをリリースして、それぞれの新しいオペレーティングシステムにあった幅広い種類のバグに対処した。今回のものはすべて純粋にバグ修正のためのリリースであって、新機能もないし、CVE の公開エントリさえもない。

iOS 13.1.3

iOS 13.1.3 アップデートは以下のような問題に修正を提供する:

Release notes for iOS 13.1.3

このアップデートは iPhone X 上では 110 MB というサイズだが、Settings > General > Software Update で、あるいは 10.15 Catalina より前の macOS では iTunes を通じて、あるいは Catalina の Finder の中で、入手できる。

iPadOS 13.1.3

iPadOS 13.1.3 アップデートは iOS 13.1.3 で修正されたものの一部分を更新する:

iPadOS 13.1.3 release notes

このアップデートは 10.5 インチ iPad Pro 上では 73.9 MB のダウンロードだが、Settings > General > Software Update で、あるいは 10.15 Catalina より前の macOS では iTunes を通じて、あるいは Catalina の Finder の中で、入手できる。

macOS Catalina 追加アップデート

macOS Catalina 追加アップデートも、いくつかの重要な問題点に対処する。具体的には:

macOS 10.15 Catalina Supplemental Update

この 985.4 MB のアップデートは System Preferences > Software Update からインストールできる。10.14 Mojave あるいはそれ以前のバージョンをまだ走らせている人たちには、もうしばらくの間 Catalina へのアップグレードをせずに待つことを引き続きお勧めしておきたい。

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David Shayer  訳: 亀岡孝仁  

iOS 13 と Catalina がバグだらけな6つの理由

iOS 13 と macOS 10.15 Catalina は、Apple にとって尋常でなくバグの多いリリースとなった。ベータは6月の WWDC でバグっぽく始まったが、これは想定の範囲内であったとはいえ、 Apple は9月の最終リリースから幾つかの機能を省いたにも拘らず、更に多くの問題が同社に時間を置かずのアップデートを強要することとなった。何故か? Apple のソフトウェア技術者としての私の 18 年に亘る経験からすると、思い当たる節が幾つかある。

過剰な機能リストがスケジュールチキンに走らせる

Apple は、次期製品に重要な機能を盛り込むことに非常に積極的である。過密なスケジュールと野心的な機能の組み合わせは、締め切りが近づくと、ソフトウェア技術者と品質保証 (QA) 技術者が定常的に夜間も休日も働くことを意味する。必然的に、幾つかの機能は将来のリリースに延期される、iCloud Drive Folder Sharing で見られた様に。

運営が良いプロジェクトでは、遅れている機能は早い段階でふるい落とされるので、技術者達は実際に出荷される機能に磨きをかけるために時間を使うことが出来る。しかし、管理者たちはしばしば "スケジュールチキン" を演じる [役者注:チキンレース:片方が怖がって負けを認めるまで行う危険な度胸試し]。何故ならば、部局会議では、誰もがプロジェクトの自分たちの部分が遅れをとっていると認めたくないからである。代わりに、彼らはその機能の他の側面について作業している他の誰かがもっと遅れていることを願う。そうすれば、自分達のせいにされることなくその機能は遅らせられる恩恵に預かれる。しかし、もし誰も警鐘を鳴らさなければ、技術者達は、期日通りに仕上げることなど不可能で最終的には将来のリリースに先送りされる機能の作業を続けるしかない。

Apple はこのスケジュール問題を、個々のリリースにそれ程多くの機能を盛り込まないことで避けることは可能なはずだが、それは単に同社の企業文化ではない。定期的なリリース計画には乗らない製品、AirPods や噂に上った Bluetooth 追跡タイルの様な、は本当に仕上がるまで延期することは可能である。しかし、年間のリリース計画に乗った製品、iPhone やオペレーティングシステムの様な、はどの様な状況にあろうが9月には出荷されなければならない。

クラッシュ報告からクラッシュ以外のバグは見つからない

もし報告するが有効になっていれば (私はそうすることをお勧めする)、Apple の内蔵のクラッシュ報告の仕組みは、自動的にアプリケーションクラッシュ、そしてカーネルクラッシュ迄をも同社に送り返す。クラッシュ報告には沢山のデータが含まれている。特に有用なのはスタックトレースで、何処でそのコードは実際にクラッシュしたのか、そして更に重要なのは、その時点にどの様に到達したのかを示している。スタックトレースを見れば、技術者がクラッシュの原因を究明し、修正することが出来る場合がしばしばある。

A Mac crash report

クラッシュ報告はスタックトレースによって一義的に仕分けされる。複数のクラッシュ報告に同じスタックトレースがあれば、これらのユーザー全てが同じクラッシュを見たこと意味する。クラッシュ報告の仕組みのバックエンドでは、クラッシュ報告はスタックトレースを照合してソートされ、最も頻繁に起こるものが最大優先度を得る。Apple はクラッシュ報告を真剣に受け止め、そしてその修正に全力を尽くす。その結果、Apple のソフトウェアは以前よりも遥かにクラッシュしなくなっている。

残念ながら、クラッシュ報告はクラッシュ以外のバグを補足出来ない。それは、iCloud にアップロードされない写真、Mac から iPhone に同期されない連絡先カード、Time Capsule バックアップで破損して数ヶ月に一度再起動されなければならないもの、そして、新しい iPhone 11 上の設定アプリで、繰り返し iCloud アカウントにサインインするよう促すループに入り込んでしまい Apple サポートに電話する迄抜け出せなかった問題を捉えることは出来ない。(これらの全ては、私自身が経験した実際の問題である。)

Apple は、非クラッシュのバグを昔ながらの方法で追跡している:人間という試験機 (QA 技術者)、自動試験機、そしてサードパーティ開発者や Apple サポートからの報告を使って。言うまでもないであろうが、この方法は科学であると同時に芸術でもあり、非クラッシュバグを特定するのも (とりわけ Apple サポートからの報告から)、技術者が追跡して捉えるのもどちらもずっと難しい。

重要度の低いバグは優先順位付けされる

開発期間中、Apple はバグを開発サイクルの段階とそのバグの深刻さに応じて対応の優先順位付けをする。アルファの前であれば、技術者はどんなバグでもやりたいと思う物を修正出来る。しかし、開発が進んで、アルファそしてベータへと移行すると、主要な機能を阻止する重要なバグだけが修正され、そして出荷日が近づくと、データ損失やクラッシュの原因となるバグだけが修正される。

このやり方は理解できる。技術者として、コードを変更することは、その度に新たなバグを導入する可能性があることを意味する。変更はまた、新たな一連の試験の引き金にもなる。出荷日間近になると、その影響が分かっている既知のバグの方が、何か知らない新しいものを壊してしまうかもしれない修正を加えるよりも良いのである。

通常、沢山の Apple Store 訪問やサポートコールの原因となるバグは修正される。結局のところ、多くのユーザーの手助けをするために十分なサポート係員を雇うのには相応の費用がかかる。バグを修正する方がずっと安い。私が Apple 製品の仕事をしていた時、我々には Apple Store 訪問やサポートコールの原因となっているバグの上位リストが与えられ、そしてそれらを解決することが期待されていた。

残念ながら、バグでも滅多にないもの、或いはそれ程深刻ではないものは - データ損失ではなく単なる混乱の原因となる様なもの - 優先順位付けシステムによって後回しにされてしまう。

回帰は修正され、古いバグは無視される。

Apple は古いバグの修正には積極的ではない。

Apple は iPhone 11 の様な新しい製品には特別な注意を払い、重大な顧客問題に目を光らせる。それらには手早く取り組み、大きな問題を根絶するのには通常良い仕事をする。しかし、小さな、或いはこの初期の精査から漏れてしまう程度に散発的なバグは永遠に生き残るかもしれない。

変更が新しいバグを生むことに関して私が言ったことを覚えていますか? もし技術者が正常に機能している機能を間違って壊したとすると、それは回帰 (regression) と呼ばれ、修正されることが求められる。

しかし、もしバグ報告を提出しても、QA 技術者がそのバグはそのソフトウェアの以前のバージョンにもあったと判定すると、それには "回帰ではない" という印が付けられる。定義からして、それは新しいバグではなく、古いバグである。大抵の場合、それを修正するべく人が貼り付けられることはまず無い。

Apple の全てのグループがこの様に働くわけでは無いが、多くはそうである。私はこれで気が変になりそうだった。Apple の私の知っていた一つのグループは "Not a Regression (回帰ではない)" という T シャツまで作った。もしバグが回帰でなければ、直す必要はない。それが何故私が前記した iCloud 写真アップロードバグや連絡先同期バグが決して修正されることはないであろう理由である。

自動化テストが使われるのはわずか

ソフトウェア業界も、ファッション業界と同様、流行りに左右される。自動化テストは現在の流行である。自動化テストには色々なものがある:テスト駆動設計、単体テスト、ユーザー駆動テスト、等々。ここでその詳細に踏み込む必要はないが、一つだけ言っておくと、幾つかの特定の分野を除いて、Apple は余り自動化テストをやっていない。Apple は高度に人手によるテストに依存している、恐らく行き過ぎと言える程に。

自動化テストが進んでいる一番の分野は電池性能であろう。毎日出てくるオペレーティングシステムのコンパイル済みのプログラムは機器に搭載されて (iPhone, iPad, Apple Watch, 等々)、電池寿命が退化しないことを確かめるための一連の自動化テストに供される。(勿論、これらの自動化テストは Apple コードしか見ないので、実際の使用では重大な電池性能問題になり得る - そしてしばしばそうなる - 問題は人手で追跡され、修正されなければならない。)

iOS battery health

電池以外でも、Apple 内で自動化テストの利用で知られている部門が幾つかある。恐らく一番有名なのは Safari であろう。預け入れられるコードは全て性能テストの引き金となる。もしその預け入れが Safari の性能を劣化させるものであれば、拒絶される。自動化テストをもっと活用すれば、Apple のソフトウェア品質に貢献するであろうに。

複雑さは大幅に増大

Apple にとって事態を複雑にしているのは、増大を続けるエコシステムの複雑さである。何年も前には、Apple は Mac しか売っていなかった。プロセッサのコアは1つしかなかった。100,000 行のコードを持つプログラムは大きなものであり、殆どのものが単一スレッドであった。

現代の Apple オペレーティングシステムは、数千万行のコードから出来ている。Mac, iPhone, iPad, Apple Watch, AirPods, そして HomePod 全てがお互いに会話し、そして iCloud とも話をする。全てのアプリはマルチスレッド化し、そしてお互いに (不完全な) Internet 上でやり取りする。

今日の Apple 製品は過去のものより遥かに複雑であり、その結果開発もテストも更に難しくなっている。テストマトリックスはただ行数が多くなっているだけでなく (機能と OS バージョンのせいで)、次元も増えている (それが試験されなければならない互換性ある製品のせいで)。更に悪いことに、複数コア上で走る複数のスレッドの様な非同期の事象、プッシュ通知、そしてネットワークの遅延が意味するのは、総合的な試験プログラムを作成するのは現実的に不可能だと言うことである。

展望

前例のない動きとして、Apple は iOS 13.1 を iOS 13.0 が出荷される前に発表した。これは、このソフトウェアの品質問題がどれ程深刻なものかを認めた稀な出来事であった。Apple は膨大な資源を持っており、同社の技術者達は今年の問題を鎮火させるであろう。

短期的には、昨年よりももっと多くのバグ修正アップデートがより頻繁に現れることになるであろう。より長期的には、Apple の上層陣はこの問題を十分に認識しており、どうすれば一番良く対処出来るか熟考しているのは間違い無いと思う。バグは、サポート費用と技術者の時間の両方で高く付くという事実の他に、広報活動上の懸念にもなり始めている。Apple は、プレミアムな製品にプレミアムな値段を付けており、ソフトウェア品質の欠落は同社の評判を害する元となっている。


David Shayer は Apple のソフトウェア技術者として 18 年間勤めた。彼は他の製品に加えて、iPod, Apple Watch, そして Apple のバグ追跡システム Radar に従事した。

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Josh Centers  訳: Mark Nagata   

iOS 13 での USB ストレージ: よくある質問

私が Take Control of iOS 13 and iPadOS 13 の読者たちから受け取った iOS 13 に関する電子メールのうちで最も多かったのが、外付け USB ドライブを使うことについての質問であった。そこで、寄せられた中から最も一般的な質問と、また多くのユーザーが持つであろうと思われる他のいくつかの質問に対して、ここにお答えしてみたいと思う。

iPhone でも外付け USB ドライブが使えるのか、それともこれは iPad だけの機能なのか?

Apple はこの機能を主として iPad に (特に iPad Pro に) 関係して述べているが、この機能は iPhone 上の iOS 13 でも iPadOS と全く同様に働く。

iOS 13 が読めるのはどのタイプのストレージ機器か?

iOS 13 は標準的な USB ストレージ機器ならばどんなものでも、それが互換なファイルシステムでフォーマットされていて、かつ十分な電源が供給されている限り (この点については次の2項も参照)、読むことができる。要するに、ほとんどのストレージ機器が使えるはずだ。

Niles Mitchell が、怪しげなストレージ機器いくつか (Iomega Zip ディスクも含む!) を iOS 13 の走る iPhone に接続してみせた一連の YouTube ビデオを公開している。

iPhone に iPad どうやって USB ストレージ機器を接続するのか?

それは状況による。たいていの iOS 13 互換デバイスには Lightning ポートがあるが、2018 年モデルの iPad Pro には USB-C ポートしかない。

iOS はどのファイルシステムに対応しているのか?

私が知る限り、Apple は iOS 13 がどのファイルシステムを使えるのかについてどこにも文書化していないし、最新の iPhone や iPad のユーザーガイドにもそのことは触れられていない。そこで私は自分で調べてみることにして、サムドライブを消去してフォーマットし直し私の iPhone に差し込んで使えるかどうか見るという実験を繰り返し実行してみた。長い話を一言で要約すれば、iOS は暗号化されていないファイルシステムで Mac の Disk Utility が対応しているものならばどんなものでも読むことができる。

では、iOS で使うためにストレージ機器をフォーマットするとして、その際にどのフォーマットを選ぶべきだろうか? 私のお勧めは次の通りだ:

Files アプリからどうやって USB ストレージにアクセスするのか?

iPad を横長に置けば、自動的にそのドライブがサイドバーに登場する。

A thumb drive in the iPad Files sidebar.

iPhone で、あるいは縦置きにした iPad では、画面の一番下にある Browse アイコンをダブルタップすれば、Browse 画面にジャンプして、そこにすべての場所がリストされる。

USB ストレージとの間でファイルをコピーして出し入れするのはどうするのか?

最も簡単な方法は、ファイルをタップしてそのまま押さえ続け、コンテクストメニューが出るまで待ち、Copy を選ぶことだ。それからコピー先へナビゲートし、そのディレクトリの中の空白部分をタップしてそのまま押さえ続け、コンテクストメニューから Paste を選ぶ。ファイルを移動したければ、最初のところで Copy の代わりにを Move 選んでから、ブラウザの中で行き先に移ればよい。

iPad 上では、ドラッグ&ドロップを使ってファイルを行き先へコピーできる。最も簡単なやり方は、Files アプリのウィンドウを分割して、その片割れに行き先の場所を開き、元のウィンドウからファイルをドラッグ (2019 年 9 月 25 日の記事“iPadOS と iOS の相違点”参照) すればよい。多数のファイルをコピーする場合にはさきほどの方法よりこちらの方が便利だろう。

The Files app in Split Screen

外付け USB ストレージからメディアを再生できるか?

できる。これは、デバイス上の貴重なスペースを浪費することなく映画を保存しておける効果的な方法と言える。私はオープンソースの VLC を使ってメディアの再生をテストしたが、他のアプリでもきっとうまく行くだろう。メディアファイルをタップしてそのまま押さえ続け、コンテクストメニューが出るまで待ち、Share をタップし、それから VLC を、またはあなたの好みのアプリをタップする。VLC はアクティビティ表示の 2 番目の列にある。左へスワイプしてから More をタップしないと見えないかもしれない。

Playing a video file from a thumb drive in VLC

これを頻繁にするつもりである場合には、VLC を Files のアクティビティ表示にピン留めしておくことができる。上の一番右に示した画面で、右上隅にある Edit をタップして、それから Open in VLC の左に見える + ボタンをタップすればよい。

Pinning VLC to the activity view

Files のアクティビティ表示で VLC アイコンをタップする際には、ビデオやその他のメディアファイルの再生が始まるまでに数秒間かかることがあるので、辛抱強く待とう。私の経験では、一度目には再生が始まらず、もう一度試して初めて VLC でファイルが開いたことも時々あった。

Mac でするのと同じように、ドライブを取り去る前にイジェクト (取り出す) コマンドを使う必要があるのか?

いいえ。それに実際、そのようなコマンドの選択肢はない。ただ、常識を働かせて、データの読み出し中や、データの書き込み中にはドライブを取り外さないようにしよう。

他にも質問して構わないだろうか?

もちろん。コメントに質問を書いて頂ければ、ベストを尽くしてお答えしたい。

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Julio Ojeda-Zapata  訳: Mark Nagata   

Catalina の Sidecar 機能で iPad を Mac の第2モニタにする

macOS 10.15 Catalina の看板機能の一つに Sidecar がある。iPad を Mac の第2モニタとして使えるようにするというものだ。Mac のデスクトップを拡張して追加の作業領域を得たり、あるいは Mac のデスクトップを別のスクリーンにミラーリングして他の人たちがもっと便利に情報を共有できるようにしたりするのに役立つ。

iPad を Mac の第2モニタにするというのは別に新しいアイデアではない。サードパーティのソフトウェア、例えば Duet DisplayAir Display が、もう何年も前から iPad を Mac のモニタとして使えるようにしてきた。その上 AstroHQ に至ってはハードウェアを使ったやり方を思い付いて、Mac 用のドングル Luna Display を $69.99 で出してパフォーマンスと信頼性を増した。(2018 年 12 月 7 日の記事“Luna Display を使えば iPad が反応の良い Mac スクリーンに”参照。)

AstroHQ は最近、自らの製品が Apple と Sidecar によって「Sherlock 化」されたと嘆いたが、それでもまだ戦えると主張した。そして実際彼らの製品 Luna は、Sidecar にはできないことができた。さらに最近になって、AstroHQ は Luna Display の Mac-to-Mac モード、つまり一台の Mac を別の Mac の第2ディスプレイにすることができる機能を発表した。これこそ私たち TidBITS が長年待ち望んでいた機能で (2007 年 2 月 5 日の記事“自分だけの 23 インチ MacBook を作ろう”と 2007 年 8 月 27 日の記事“TidBITS 御用達ツール: Teleport”参照)、私たちとしても Luna Display の Mac-to-Mac モードを近いうちに試してみたいものだと思っている。

けれども Apple の Sidecar 機能は、無料だ。(もちろんそのユーザーが必要なすべてのハードウェアを既に持っていればの話だが。) macOS に内蔵されている機能なので、いずれはサードパーティの競争相手をニッチの状態に追いやる (または Windows や Android など他の市場を追い求めさせる) ことになるかもしれない。

Sidecar によって Apple は、iPad を手軽に Mac のスクリーンに転換でき手も掛からずユニークな機能もいろいろ持つようにするという自らの約束を大体において実現した。ただし警告しておくが、Sidecar にはまだまだ少し粗削りなところがあるので、いくつか問題が起こることは覚悟しておいた方がよい。

Sidecar を取り付ける

Sidecar は万人向けのものとは言えない。厳しいハードウェア要件があるからだ。Skylake プロセッサまたはそれ以後のプロセッサを持つ Mac で、Catalina が走っていなければならない。つまり、Catalina 対応であっても対象外となる旧型の Mac がたくさんあるということだ。それに加えて Apple Pencil 互換な iPad も必要で、そちらは iPadOS 13 が走っていなければならない。

Sidecar はワイヤード接続でもワイヤレス接続でも働く。USB-C ケーブルまたは Lightning ケーブルでタブレットを Mac にテザリングすれば最良のパフォーマンスと信頼性が得られる。でも、ワイヤレス接続でもそう悪くない。もちろん、それが働くならばの話だが。

ワイヤレス接続をするためには、その Mac と iPad が共通の iCloud アカウントを使っていなければならない。双方のデバイスともが Bluetooth、Wi-Fi、それに Handoff を (Settings > General > Handoff で) 有効に設定していなければならない。ワイヤレスモードにおいては、Sidecar は当初の iPad 探知のために Bluetooth を使い、いったん接続がなされれば point-to-point 中継によりデータの転送をする。実質的な到達距離は 10 フィート (3 m) 程度だ。

もしもワイヤレスモードがうまく働かなければ、物理的なケーブルを試してみるとよい。私もどういうわけかワイヤレス接続が働かないという状況に数多く遭遇していて、そんな場合にはこのやり方を使った。USB-C または Lightning のケーブルは直接に繋がっていなければならず、ハブを経由しての間接的接続はうまく行かない。

どの接続方法を使うにせよ、Sidecar を使い始めるには、メニューバーにある AirPlay アイコンをクリックして、メニューから iPad を選ぶ。すると Mac の画面が一瞬ちらついて、それから iPad の画面が期待通りに Mac のデスクトップの拡張で置き換えられる。

Activating Sidecar in the AirPlay menu

もしもうまく行かなければ、System Preferences > Display を開いて、下の方にあるポップアップメニューでその iPad が AirPlay ディスプレイに割り当てられていることを確認しよう。

The Display Prefpane

いったんすべてが正しくセットアップされれば、普通のデュアルディスプレイのセットアップでするのとまったく同じようにその iPad を Mac で使える。例えば、System Preferences > Display を開いて、スクリーンのミラーリングをオン・オフしたり、Mac と iPad を相互にどのように配列するかを調整したりできる。

さて、ここであなたはどのアプリを iPad の画面上に置くかを決めなければならない。もちろんそれは、ウィンドウを一つのディスプレイからもう一つへドラッグして移動させるだけのことだ。でも、もっと良い方法がある。多くのアプリで提供されている Window メニュー上に、クリック一つでウィンドウを移動させるオプション、Move to iPad または Move Window Back to Mac が見えるはずだ。(どちらが見えるかは現在そのウィンドウがどちらのデバイスにあるかによる。) アプリによっては Window メニューがないものもあるが、ウィンドウの緑色のズームボタンの上に Mac のポインタをかざせば、ウィンドウの移動に関する同様のオプションが現われる。

Hovering the Mac pointer over the green button

Sidecar の特別な機能

Sidecar はユニークな機能をいくつか提供していて、少々奇抜ではあるけれども興味深いものとなっている。例えば、iPad Sidecar のタブレットインターフェイスにはオプションで 2 つのコントロールストリップが表示され、その 1 つは iPad ディスプレイ上で水平に伸び、もう 1 つは垂直に伸び、いずれも指先でのコントロールに反応する。

水平のストリップは Touch Bar (タッチバー) と呼ばれ、MacBook Pro の物理的 Touch Bar を使ったことがある人なら直ちに馴染みに感じられるはずだし、見栄えも動作も同じだ。MacBook Pro 上とまったく同じように、現在どのアプリを使っているかに応じてコントロールの異なる選択肢が表示される。物理的 Touch Bar はレビューであまり良い評価を得ていないし、この Sidecar 版がそれを超える人気を得るとも思えないが、人によっては気に入るかもしれない。

The Sidecar TouchBar

垂直のストリップは Sidebar (サイドバー) と呼ばれ、いろいろのことをする:

Sidecar modifier keys

ZBrush でモデルを彫り上げている間に、アーティストは Apple Pencil でモデルを描きながら、サイドバーの修飾キーを使ってあちこちズーム、回転、パンなどができる。修飾キーをダブルタップすればそのキーが押し下げられた状態のままとなり、手でキーを押し続ける必要なしに長く続けた作業ができる。その後でまたタップすればキーが解除される。

これらのコントロールストリップは System Preferences > Sidecar で設定ができる。Sidebar と Touch Bar をそれぞれ独立にオン・オフできる。また、Sidebar をスクリーンの左辺または右辺に動かしたり、Touch Bar を上辺または下辺に動かしたりできる。さらに、ここで Sidecar セッションを開始したり中断したりもできる。メニューバーの AirPlay メニューを使うか、Sidebar 上の Disconnect ボタンを使うかする代わりとして使える。

Sidecar settings

正直言って、私はこの Sidebar や Touch Bar が取り立てて便利だとは思わないので、たいていはこれらを隠しておき、iPad 上のスクリーン面積を最大限に使えるようにしている。

Apple Pencil を使う

Sidebar と Touch Bar を別にすれば、Sidecar セッションの中で指による入力で iPad を使えることは基本的にあまりない。iPad は基本的にタッチで駆動するデバイスなので、これは大いに混乱の元となる。大体において、iPad のスクリーン上でも他のディスプレイと同じようにマウスカーソルを使わざるを得ない。

ただし、Mac アプリと Sidecar 上で指を使ってやり取りする興味深い手段がいくつかある。まず、2本指で上下にスワイプして長いウェブページや書類をスクロールできる。テキスト書類で作業している際には、iPadOS 13 の3本指アクションでのコピー (ピンチ)、カット (2回ピンチ)、ペースト (外へピンチ)、取り消し (左へスワイプまたはダブルタップ)、やり直し (右へスワイプ) が、ネイティブな iPad アプリを使っている場合と基本的に同じようにできる。

悲しいことに、指を iPad 上に置いた際の反応性が一貫しないことにより、これらの Sidecar でのアクションには信頼性が乏しく、Mac のマウスやキーボードによる入力の代わりとして日常的に使おうと思うには至っていない。

もしも Apple Pencil を持っていれば、それを使って iPad のスクリーン上にある Mac のインターフェイス要素をタップしたり、ポインタやカーソルの位置取りをコントロールしたりできる。Apple Pencil でスワイプすればテキストの選択ができる。

指による入力と同様、私は Apple Pencil 対応にも信頼性が足りないと思った。時にはきちんと動作するけれども、そうでないことも多くて、それがどんな理由によるものなのかさっぱり分からない。結局私は諦めて、たいていは Mac の入力デバイスを使うようにしている。

また、Sidecar は Continuity (連係) 機能を通じていくつかの日常的なタスクにも対応していて、これらは Sidecar とは独立に働く。そのうちの一つは Continuity Sketch (連携スケッチ) と呼ばれ、iPad 上で Apple Pencil を使ってスケッチを描き、そのスケッチを Mac の書類の中に挿入できるというものだ。同じように、Continuity Markup (連係マークアップ) は iPad 上で Apple Pencil を使うことにより Mac 上の書類に署名したり、論文を修正したり、画像の中の細かいところを丸で囲んだりできる。

さまざまのサードパーティのアプリで Sidecar を使えば、さらにもっと高度な Apple Pencil アクションを実行できる。具体的には BusyCal、Evernote、PDFpen のような生産性アプリや、Adobe Illustrator、Affinity Photo、Final Cut Pro、Pixelmator Pro のような作画・デザイン・写真編集・ビデオ編集のアプリがある。さきほど触れた ZBrush もその一つだ。

Apple Pencil 2 の側面でダブルタップすれば、一部のアプリの中で特定の機能を呼び出すことができる。あなたが使っているアプリでそういうことがあれば、System Preferences > Sidecar でダブルタップ機能を有効にしておこう。そうでなければ、無効のままにしておこう。

その他の機能

あといくつか、覚えておくべき Sidecar の機能や奇妙な挙動を挙げておこう:

Sidecar の結論

Sidecar はまだ、サードパーティの代替製品に一つ一つの機能レベルで太刀打ちできるレベルには達していない。Luna Display のメーカー AstroHQ が、わざわざそれを指摘している。けれども Sidecar が無料であって最新バージョンの macOS と iPadOS に組み込まれているという事実を考えれば、Sidecar の方が自動的により広範にユーザーを取り込んでいると言える。

Apple は、Sidecar を徹底的に簡単に使えるものにすることを目指した。それもまた一つの魅力を加えている。iPad を Mac のスクリーンと化すという目標に、Apple は大筋で成功している。

けれども、私が気付いたように、このテクノロジーにはまだまだ問題点があり、信頼できないところもある。皆さんもどうぞ試してみられるとよい。ただ、現時点ではあまり期待し過ぎない方がよい。

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TidBITS 監視リスト: Mac アプリのアップデート

訳: Mark Nagata   

BBEdit 13.0.1

BBEdit 13.0.1

Bare Bones Software が BBEdit 13.0.1 を出した。最近のバージョン 13 へのアップグレード (2019 年 10 月 11 日の記事“BBEdit 13、パターンに基づく検索を簡素化”参照) 以後、初めてのメンテナンス・リリースだ。今回はバグの修正に集中しており、この古参のテキストエディタは Save As や Save a Copy を使おうとすると Open/Save パネルサービスがクラッシュした macOS のバグを回避し、メニューコマンド Reveal in Finder が働かなくなったバグを修正し、Control-クリックでスペルチェックをしようとすると起こったハングを解消し、Markup > Includes メニューのコマンドが正しく有効になるようにし、また Mac App Store 以外で入手したデモ版の当初ウィンドウに表示されていた誤解を招く参照を修正している。

BBEdit 13 の新規ライセンスの価格は $49.99 だ。バージョン 12 からのアップグレード価格は $29.99 で、BBEdit 11 またはそれ以前からの場合は $39.99 だ。Mac App Store で購読中の顧客は何もしないでも BBEdit 13 の新機能のすべてに直ちにアクセスできる。(新規購入 $49.99、アップグレード $29.99/$39.99、バージョン 13 からは無料アップデート、13.9 MB、リリースノート、macOS 10.14.2+)

BBEdit 13.0.1 の使用体験を話し合おう

Microsoft Office for Mac 16.30

Microsoft Office for Mac 16.30

Microsoft が月例アップデートで Office for Mac のバージョン 16.30 を出して、PDF を Word のテキストレイヤーで開いてそれを Word 書類に変換してから編集できるようにした。(元の PDF 書類は変更を受けない。) PowerPoint は Ink Replay 機能を装備して、ステップごとの手順を説明するためにインク描画を描かれた通りに再生できるようにした。Excel はデータを可視化する Visio 図表を作成するための Visio Data Visualizer アドインに対応し、また遠隔コード実行の脆弱性をパッチする 2 件のセキュリティアップデートを施した。(一回限りの購入ならば $149.99、年払い講読オプションは $99.99/$69.99、Microsoft AutoUpdate 経由で無料アップデート、リリースノート、macOS 10.10+)

Microsoft Office for Mac 16.30 の使用体験を話し合おう

Tinderbox 8.1

Tinderbox 8.1

Eastgate Systems が Tinderbox 8.1 をリリースして、大パワーのマシン上で書類を開いたり保存したり、また多数のノートを選択したりする速度を大幅に向上させた。このノート取りアシスタントおよび情報マネージャはまた、地図を表現する地理的装飾を追加し、Attribute ブラウザを調整して行間隔に過度の余裕を持たせるのを止めるとともに並べ替えオプションで (サイズの大きなデータセットでパフォーマンスの問題があったため) DisplayName をデフォルトとしないようにし、Dark モードの下での視認性を向上させている。最近の macOS 10.15 Catalina へのアップグレードによりテキストリンクの処理における Tinderbox のやり方が働かなくなったため、Tinderbox 8.1 ではテキストリンクを Catalina とも従来のバージョンの macOS とも互換となるように実装し直している。(新規購入 $249、TidBITS 会員には 25 パーセント割引、36.1 MB、macOS 10.10+)

Tinderbox 8.1 の使用体験を話し合おう

Audio Hijack 3.6.1

Audio Hijack 3.6.1

Rogue Amoeba が Audio Hijack 3.6.1 をリリースした。認証を要求する回数を減らすために Schedule Helper を更新した、メンテナンス・リリースだ。このオーディオ録音ユーティリティはまた、USB オーディオデバイスの追跡をさらに改良し、録音フォルダが存在していない場合に起こったクラッシュを修正し、新しい Denoise ブロックを改良してその Active ライトがもっと役立つようにし、VoiceOver に小さな調整をいくつか加えている。(新規購入 $49、TidBITS 会員には 20 パーセント割引、無料アップデート、14.1 MB、 リリースノート、macOS 10.12+)

Audio Hijack 3.6.1 の使用体験を話し合おう

DEVONagent 3.11.2 (Lite, Express, and Pro)

DEVONagent 3.11.2 (Lite, Express, and Pro)

DEVONtechnologies が同社のリサーチ用ソフトウェア DEVONagent の三つの版すべて (Lite、Express および Pro) をバージョン 3.11.2 にアップデートして、全体的なパフォーマンスと信頼性を向上させるとともに、macOS 10.15 Catalina での問題を修正した。DEVONagent Express と DEVONagent Pro では DEVONthink Server プラグインを更新して DEVONthink 3 と互換になるようにし、ビデオスキャナと HTML パーサーを改良し、現代的な macOS の機能を使う際のアクセシビリティを向上させ、Catalina 上での起動時のストールを解消している。DEVONagent Pro は RSS フィード用のスタイルシートを現代化し (Dark モードにも対応し)、JSON をダウンロードするための AppleScript コマンドを新設し、要約やダイジェストの結果がより詳細なものになるよう改訂を加え、また WebKit に関係するクラッシュ (Touch Bar 対応に関係するものも含む) を修正している。今回から DEVONagent Pro の試用版が最初にアプリケーションを起動してから最大 30 日間、かつ非連続的通算使用時間最大 60 時間まで、使えるようになった。(いずれもアップデートは無料。DEVONagent Lite は無料。DEVONagent Express は新規購入 $4.95。DEVONagent Pro は新規購入 $49.95、TidBITS 会員には 25 パーセント割引、リリースノートは Help メニューにあり。macOS 10.10+)

DEVONagent 3.11.2 (Lite, Express, Pro) の使用体験を話し合おう

ExtraBITS

訳: Mark Nagata   

Yahoo Groups がウェブ機能を廃止し全コンテンツを削除、電子メールは継続

Yahoo が、2019 年 10 月 28 日をもってユーザーによる Yahoo Groups ウェブサイトへのコンテンツのアップロードを停止すると発表した。また 2019 年 12 月 14 日に、同社は過去に投稿されたコンテンツをすべて完全に削除する。この変更により Yahoo Groups の機能の大多数、例えばファイル、投票、リンク、写真などが消え失せる。また、すべてのグループが非公開となり、新規にメンバーに加わるには招待が必要となる。

けれども、核心にある電子メールリストの機能は今後も動作する。Yahoo はユーザーがファイルや写真をグループからダウンロードできる方法をいくつか提供しているが、GitHub ユーザー "csaftoui" がグループからすべてのコンテンツをダウンロードできる Python スクリプトを作って提供している。

Yahoo's announcement about Groups

もしあなたが Yahoo Group を管理しているなら、より良くサポートされている代替サービス、例えば Groups.io のようなものに切り替えることをお勧めしたい。

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