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#1496: 消滅しつつある "Macintosh" という単語、CES 2020 のトレンド、Smart Battery Case 交換、ウィンドウ環境ユーティリティ Front and Center

iPhone XR、XS、または XS Max 用の Smart Battery Case でうまく充電できなくなったという人はおられないだろうか? Apple が新しい交換プログラムで、問題あるケースを無料で交換してくれるかもしれない。時間をちょっと巻き戻してクラシックな Mac OS のことを思い出してみると、当時はアプリのウィンドウを一つクリックすれば、そのアプリの他のウィンドウもすべて前面に出て来た。今日の macOS でもこれと同じウィンドウ管理挙動があればいいのにと思う人のために、新しい Front and Center ユーティリティの簡単なレビューをお届けしよう。でもちょっと待って、その当時のマシンは Mac でしたか、それとも Macintosh でしたか? Adam Engst が、消滅しつつある "Macintosh" という用語について検討し、未だに Apple がその単語を使っている稀な事例について紹介する。それからもう一つ、わが放浪の特派員 Jeff Porten が、ラスベガスで開催された CES 2020 で突出していた最新のテクノロジーのトレンドをお伝えする。今週注目すべき Mac アプリのリリースは BusyCal 3.8、Typinator 8.3、Firefox 72.0.1、それに BusyContacts 1.4.3 だ。

Josh Centers  訳: 亀岡孝仁  

Apple、iPhone XS, XS Max, XR 用の Smart Battery Case を交換

昨年 Apple の Smart Battery Cases をお買いになりましたか? Apple は、iPhone XS, iPhone XS Max, そして iPhone XR 用の一部の Smart Battery Case を交換すると発表した。問題は、ケース自身が充電されない、或いは iPhone がケースから充電されない可能性があることである。Apple は問題となるケースを January 2019 から October 2019 の間に製造した。同社はこれらの充電問題が安全問題に発展することはないと言っている - 影響のあるケースはただ単に正当に働かないだけである。

The iPhone XS, XS Max, and XR Smart Battery Cases

もしこれらの問題を持つケースを持っている場合、Apple はそれを無償で Apple StoreApple Authorized Service Provider (最初に予約を取ること) 経由で交換する。Apple はケースが影響を受けるかどうか知るためのシリアル番号の範囲やその他の方法を提供していない;自分のケースが今は問題ないが将来も対象となるかについては Apple Support に連絡されたし - このプログラムはそのユニットの最初の小売販売日から2年間有効である。

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Josh Centers  訳: 亀岡孝仁  

Front and Center、昔の Mac ウィンドウ管理を再現

古典的なバージョンの Mac OS では、一つのアプリケーションウィンドウをクリックすると、そのクリックでそのアプリケーションのウィンドウ全てが前面に呼び出された。Apple はその挙動を Mac OS X で放棄し、アプリの一つのウィンドウをクリックするとそのウィンドウだけを前面に持ってくるようにした。もしアプリの全てのウィンドウが前面に来るようにしたければ、そのアプリの Dock アイコンをクリックしなければならない。DragThing の様なユーティリティは、この古い振る舞いを復元出来たが、macOS 10.15 Catalina の到来と Apple の 32-bit アプリに対するサポートの終了で、これら全てが殺されてしまった。

これに対応して、Lee FyockJohn Siracusa はこの問題を解決するため Front and Center を作り出した。それは Mac App Store から $2.99 で入手可である。

Front and Center's settings window

Front and Center の Classic モードでは、これがデフォルトである、アプリの一つのウィンドウをクリックすれば、全てのそのアプリのウィンドウが前面に来る。このユーティリティはまた Modern モードも提供し、それはデフォルトの macOS の振る舞いを提供する。しかし、もしウィンドウをクリックする際に Shift キーを押し続ければ Classic 挙動が起動される。Front and Center にはオプションで Dock 上とメニューバー上のアイコンがあるが、これらはデフォルトではオンとなっている。

それだけである! Front and Center は極めて単純であり、それが望みのウィンドウ管理挙動を提供するのであれば、$2.99 の値段には十分に値する。

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Adam Engst  訳: 亀岡孝仁  

"Macintosh" と言う言葉がまだ使われている数少ない例

簡単なクイズを - 考えることなくパッと答えて欲しい:あなたは Macintosh ユーザーですか?

私が知りたいと思っているのは、皆さんがどのコンピュータを使っているかではなく、"Macintosh" という言葉に対する皆さんの反応である。目をパチクリしなかったとすれば、あなたはきっと Mac を 20 年以上も使って来たであろうが、それが変に聞こえたり、或いは全く馴染みがなかったりすれば、あなたの Mac 経験はそれよりも短いであろう。然もなくば、あなたはブランド名の変更によく対応したのであろう。

長い間 Macintosh は Apple の旗艦製品で、1984 年の初代 Macintosh から始まり 1999 年の Power Macintosh G3 (Blue and White) まで続いた。MacTracker を探索して言えることは、この Power Macintosh G3 が Apple の最後の Macintosh だと言うことである - これ以降、iMac, iBook, そして Power Mac G4 と続いた。(Apple が何時 "Macintosh PowerBook G3" を縮めてただの "PowerBook G3" としたのかは定かでない。) 2000 年あたりに Apple はそのコンピュータを総称的に "Macs" と呼び始めた。

数週間前、私は Apple が "Macintosh" と言う言葉をその企業通信からほぼ完全に消し去ってしまったのではないかという考えに取り憑かれた。勿論、それは驚くべき話ではないが、同社がどこかで見過ごしているものもあるのではないかと興味を抱いた。そこで、私は Apple サイトだけに焦点を当てた複雑な Google 検索を組んでみた。これで discussions.apple.com の様なサードパーティコンテンツをホストするものは排除出来る。それはまた、古い製品の技術仕様を指し示すページ、廃版となった製品を並べたページ、そして何らかの理由で apple.com URL が存在する HyperCard 上の Wikipedia ページに対する疑似リンクも排除する。

その検索の結果は、今日の Apple による "Macintosh" と言う言葉の使用が一つ残っていることについての私の最初の思いつきが正しかったことを証明した:新しい Mac 上の内部ドライブのデフォルトの "Macintosh HD" という名前である。

Quick Look window showing drive called Macintosh HD

私は、これだけだと思ったが、この記事を出した後、鷲の様に観察眼の鋭い読者が3つの更なる使用例を教えてくれた:

あなたのドライブは Macintosh HD と名付けられていますか?

多くの Mac ユーザーはその名前を直ちに個人化するが、あまり経験豊かでない Mac ユーザーの中にはそれが変更出来ることを認識していない人もいる。(もしやったことがなければ、その名前を選択するために一度クリックし、次にもう一度クリックすると、それはファイルやフォルダの様に編集可能となる。)

勿論、二股のシステムアプローチをとる macOS 10.15 Catalina では、実際には二つのボリュームが存在する:Macintosh HD と Macintosh HD - Data で、後者が皆さんのファイルを保存する場所である。奇妙なことに、我々の友人 Jeff Carlson は、新しい Mac 上でその内部ドライブの名前を Finder で変更しても、Disk Utility ではそのドライブの APFS データ部分は変わらずに Macintosh HD - Data と呼ばれると報告している。彼は Disk Utility 内で問題なくその名前を同じものに変更出来たし (繰り返すと、名前をクリックし新しい名前をタイプする)、それに関わる問題もその後経験していない。

この古い痕跡を残す名前の付け方について最も興味深いことは、全てが正しくないことである。"Macintosh" と言う懐古調の使い方は別としても、"HD" という省略形は "hard disk" や "hard drive" に対するもので回転するディスクドライブを指しているが、殆どの Mac は SSD (solid-state drive) に依存している。Quick Look プレビューウィンドウのケースなしのハードドライブアイコンですら、SSD を表現するのに回転するドライブの形を誤って使用している。

(確かに 1 TB のハードドライブを持つ 21.5-inch iMac を買うことは出来るが、止めた方が良い - その性能は APFS 以前でも悪かったが Catalina の APFS ではもっと悪くなると予想される。私は Fusion Drive さえもお勧めしない;何もない SSD の方がより良い性能を発揮するし、もっと多くのストレージが必要なら外部ドライブを追加すれば良い。Mac の現在のファイルシステムである APFS は、フラッシュストレージを前提に設計されている - "APFS は何をしてくれるのか、APFS で何ができるのか" 23 July 2018 を参照。)

では Apple はどうすべきか? ドライブの型に対応したアイコンを個別に作るのも一案であろう。Time Machine ドライブは自動的にカスタムアイコンが与えられるし、過去には一般的に使われる色々な型のストレージ機器が固有のアイコンで表現されていた。従って、Apple は SSD や Fusion Drive に対して違ったアイコンをデザイン出来るし、ドライブの型に適したものを表示出来るはずである。

Custom drive icons in macOS
これらのアイコン全ての名前を当てられたら、ボーナス点

名前に関しても、Apple はその名前を個別化出来るはずである。例えば、"Mac SSD" や "Mac Fusion Drive" 等であるが、 Mac は (2019 Mac Pro を除いて) 独立の SSD を内部に持っていない;同社は通常フラッシュメモリチップをマザーボードに半田付けして実装する。もっと適切な名前は "Mac Drive" であろう。或いは、Apple は APFS 内部変更にはそのまま従い、ドライブに載っているものに焦点を当てて "Mac Data" を呼ぶことも出来るであろう。

シェークスピアをもじれば、"ああ Macintosh HD, Macintosh HD! どうしてあなたは Macintosh HD なの?" 或いは、そんな疑問は忘れて自分のドライブを何か自分の好みの意味を持つものに変えてしまっては。

あなたの内部ドライブは何と呼ばれていますか?

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Jeff Porten  訳: Mark Nagata   

CES 2020: 注目すべきテクノロジーの動向

CES 2020 の会場からこんにちは。CES はこれまで Consumer Electronics Show という名前で知られており、変わらず毎年恒例のイベントで、私の近しい友人たちが 30 万人も集まって、皆それぞれに発表予定の機器を実演したり、ピノキオのプロトタイプを展示してそれを本物の男の子にするための資金を募ったり、あるいはベンチャー・キャピタルに渋々お金を出す側の人間になったりしている。(思えば、2020 年といえば完全にSF小説の中に登場する年だった。)

聴衆の中のジャーナリストたちは全員、このポスターの質問に "No!" と叫ぶ。

日曜日にはまず、カンファレンスのメディア専用部分が開催された。公式の開会は火曜日だ。会場はラスベガスのあちこち、文字通り 10 か所以上に散らばっていたが、今日のセッションは Mandalay Bay が会場だ。ここはかつて Onion が現実と出会ったことのある場所で、別の Starbucks のほとんど内部とも言える場所で Starbucks が開店していた。

A Starbucks kiosk just outside a Starbucks

最初のセッションは、CES を運営する Consumer Technology Association による Trends to Watch プレゼンテーションで、これはたいていいつも興味深い。講演者は CTA の VP of Research の Steve Koenig と、Director of Research の Lesley Rohrbaugh だ。(彼らの肩書を見ると、互いに腕相撲でもして何を研究 (research) するかを誰が決めるか競い合っている気がしてならない。)

この Trends 講演が興味深いのはただ単にどんなデータが披露されるかだけでなく、ユニコーンに跨って虹の架け橋を渡る8歳児を上回る楽天主義を講演のどの部分がほとばしらせているかが窺い知れるからだ。CES の主催者たちや出展者たちが全然理解できていないように思えるのは、真の意味で革命的な製品には刺激的な広告など不要だという事実だ。つまり、CES の会場で刺激的な広告を見掛けたなら、それは誰かが何かを覆い隠そうとしている兆候だ。私はこの講演を聴きながら示された情報を楽しく受け取ったのだが、過去 30 年間にわたって何度か CES に来た後で自分が何に対して懐疑的な気持ちを持つに至ったかを、はっきりと見せられたような気もした。

それは常にバンド幅の話だ

今年の講演タイトルは "Into the Data Age" (データの時代へ) であった。まるで、私たちが常に何か新しい時代へと突入し始めているかのようだ。その好例として、Koenig は講演の初めにこの十年間は Internet of Things (略して "IoT"、モノのインターネット) の時代であったが今や "IoT" は Intelligence of Things (モノの知能) つまり単にインターネットに接続されたデバイスでなくて人工知能も埋め込んでいるデバイスの時代だと述べた。でも、考えてみればそのような主張は大幅に時期尚早だ。私たちがこれまで聞かされ続けてきた IoT は、私たちが着るものすべて、冷蔵庫の中の食べ物すべて、いたる所にスマートチップが埋め込まれ、それらが互いに話をする、そんな世界だと言われていたのだから。それはまた、新しい 5G セルラーの大きなセールスポイントともなるはずであった。5G ならば、基地局からの電波が届く範囲内にある何万個何十万個もの小型デバイスを処理できるように作られているのだから。でも、そもそもの出発点の段階で Internet of Things が約束していた事柄でさえ、まだまだこれから何年も経たなければ実現しない。なのに、Koenig がそれを褒めそやすのでなく葬り去るような口ぶりをするのは、あるいは少なくとも、共通の略語を持つ別の用語で置き換えようとするのは、とても奇妙に聞こえた。でも、これまで単なる頭の悪いセンサーとしてしか計画されていなかった IoT デバイスの多くが今ではスマートチップを埋め込むようになってきているのも、また事実だ。

Koenig は 5G ネットワーキングを「構成要素のテクノロジー」と呼んだ。その理由はまさに、現行のセルラーネットワークではそれほど多数のデバイスを処理できないからだ。2019 年の時点で、使われている携帯電話のたった 1% しか 5G 対応でなかった。予想では 2020 年にこれが 12% に上昇し、2022 年に 50% を上回り、2023 年には 75% を超えるという。けれども従来のネットワークの展開で消費者からの需要が市場を駆動していたのとは違い、Koenig によれば 5G は企業による購入によって駆動されるらしい。多くの会社が、5G の能力を利用して膨大な数の単一目的デバイスをネットワークで結び、高い速度と少ない待ち時間を活用してより複雑なアプリケーションを実現しようとするからだ。

A 5G rollout map

Koenig はこのような企業が駆動する採用形態を良いこととして売り込んだ。でも私は、それはほぼ間違いなく良くないことだと思う。とりわけ消費者の立場からはそうだ。私は 5G テクノロジーについて楽観的に考えてきたけれども、ずっと以前から 5G の実装方法については懐疑的な見方をしてきた。(2017 年 1 月 19 日の記事“CES 2017 からのアイデア: あなたの未来にある 5G”参照。) それは、多くの会社が「無制限」と称しつつ制限を付けてデータを販売し、私たちがスマートフォンを使い過ぎる度にさまざまの追加料金がかかる、そんな状況に直面させられるからだ。5G ネットワークを構築している会社が米国には 6 社もあるのは良いことだ。そんなに多くの会社があるのはこの国だけだろうか? それともこれは、ローミングの状態で映画をダウンロードして追加料金を $30 も支払うことになる可能性が高まるということなのか? 世界で最も高速のモバイルデータを提供している韓国では、競合社が 3 社あるので安心だ。第 3 位のカナダは、現時点では規制下での独占状態にある。(これに対して米国は第 30 位だ。) Verizon と AT&T がほぼ同じ規模の会社と競合関係にあることを考えれば、消費者の需要にどの程度よく反応してくれるかは、想像に難くないのではないだろうか。

大規模農業は 5G と IoT のメジャーなユーザーとなることが予想され、それには立派な理由がある。今後 30 年以内に世界の人口は 100 億人近くに達すると見られており、そのすべてに食料を供給できることが望ましい。農地を細かな領域に分けて、そこに多数の小さなセンサーを使い、必要な水資源を最小限に抑えつつ最大限の収穫高を得ることができる。「精密農業」と銘打たれたスライドの中で、赤い部分は作物がもっと多くの水を必要としていることを示し、それ以外の部分は完璧に良い状態であることを示している。この「未来の農場」は、文字通り未来のものだ。Koenig によれば、農業経営者たちはそれが自らの目的に適うという自信を持って未来の市場に売り込むことで、必要な資金を調達できるだろうとのことだから。

An agricultural drone

けれども重要なのは、その他のいろいろなスライドが巨大な自動運転の John Deere トラクターとか大挙して飛ぶドローンとかを示していた一方で、スライドに登場した農業従事者がたった一人だったという点だ。彼は、上空からの画像を分析したり、どうやらオレンジジュースの市場を独占する計画を立てたりしているらしかった。でも、米国には 220 万の農場と、320 万人の農業従事者たちがいる。どうやらこれは、農場で働いているけれども家族の一員ではない 75 万人の人たちは他の仕事を探さなければならないということなのか。

AI がいたる所に

同じような影響が、AI (人工知能) からも生まれる。機械学習と、あなたの必要を予測するインターフェイスとが、スマートテレビ、スマートスピーカー、スマートオーブン、スマートドアベルなどに登場することだろう。その日の後になって、私はスマートバスマットを見掛けた。これらのテクノロジーは特に自宅の外でますます行き渡るようになるだろう。Koenig は熱狂的になって McDonald's が運営する "McD Lab" について語った。これは同社の研究開発部門で、ドライブスルーの注文を取る AI を開発しているのだそうだ。彼に言わせれば、これによって従業員は顧客サービスに集中でき、注文の間違いもなくなり、支払いも効率的になるという。でも、そういったことはすべて 既に 別のところで自動化が実現している。人がそこにいる必要さえないと思えるほどだ。McDonald's は 190 万人の従業員を抱えているが、どうやら彼らも農業従事者たちと共に夜間学校に通う運命にあるらしい。

(全体としては、テクノロジーが総体的に雇用にとって望ましいものであることは注意しておくべきだろう。19 世紀の経理担当者たちがどれほど骨の折れる仕事をしていたか、彼らの仕事がどれほど退屈な重労働であったか、想像してみるとよい。それに比べて今日スプレッドシートで仕事をしている大勢の人たちは、もっと仕事に興味が持てて賃金も高くなっている。新しいテクノロジーのお陰で古い劣悪な仕事がなくなり、新たな良い仕事が生まれる。ただ問題は、一つの仕事から別の仕事へと同じ人たちが移る訳ではないという点だ。技能を持たない労働者たちは、とりわけ大きな打撃を受ける。)

AI はまた、今回の講演者たちが一足飛びに現実の体験を飛び越えてしまった分野でもあった。彼らは過去十年間が接続性を巡る時期で、これからの十年間に AI が中心に躍り出ると語った。でも私は、これからはもっと接続性に焦点が当てられて欲しいものだと思いつつ、自分の部屋の中でインターネット接続の速度テストをしてみようとメモ書きした。ホテルの部屋に戻ると、テストをすることができなかった。なぜなら、世界最高レベルのテクノロジーカンファレンスの会場となっている数十億ドル規模のこのホテルに、オープンな Wi-Fi もなかったし、私が持っていたホットスポットは一切バンド幅を得られず、つまり私はオフラインだったからだ。

目覚めている間は絶え間なくストリーミングビデオ

次に話題となったのはストリーミングビデオのサービスであった。そこで語られたのは、私たちが既に知っている事実、つまり多くのものが世に出ており、今後ますます新たなものが出るだろうということだった。NBC のストリーミングサービスが Peacock と呼ばれるようになることを、皆さんはご存知だろうか? (Disney が ABC を所有し、CBS All Access がどうやら 24 時間年中無休の Star Trek フィードを提供することを計画しているらしいことを考えれば、私としては PBS Sesame Stream が私の幼児期のネットワークを一まとめにするという発表を心待ちにせざるを得ない。) けれども明らかに、市場はまだまだ飽和するには程遠い。この市場は単に成長を続けているだけではなくて、その成長率が 2018 年以来増え続け、今でも好調な 20% の成長率を記録している。結局のところ、5 つのサービスを購読できるこの時代に、いったいなぜたった一つのストリーミングサービスにこだわるのか? 一つだけでも、一生かかっても視聴し切れないくらい多くのビデオが提供されているというのに。

Graphs of streaming growth

それに、いったいなぜ 21 分も続くホームコメディー番組なんか観るのか? もっとずっと短い時間でスリリングなコンテンツを楽しめるというのに? Meg WhitmanJeffrey Katzenberg が共同で新しい会社およびストリーミングサービス Quibi を発表したが、これは YouTube 世代向けの超短編番組で行列に並びながらスマートフォンで視聴できるものを制作するのだという。もちろん YouTube は既に存在していて、行列に並びながら無料で視聴できることを私も知っている。でも私は YouTube の視聴と Netflix の視聴が同じようなものだと考える世代には属していないので、Quibi の行く末が有望か否かを判断する資格は私にはない。

また、そうしたものをどんなデバイスを使って視聴することになるのかも、やはりまだ落ち着くに至っていない問題だ。公式には、8K テレビこそが「次に来るもの」だと言われている。でもそれはとにかく図体が大き過ぎる。誰がそんなものを買うのかという問題は脇に置くとしても。そもそも 4K と 8K の違いを識別できるためには少なくとも 65 インチのサイズのスクリーンが必要で、それではたいていのリビングルームに収まらない。(2019 年 1 月 8 日の記事“CES 2019 のトレンド: ビッグデータ、5G、AI、AR/VR、自律自動車、大型テレビ”参照。) Koenig はそんなものを持ち帰ることは妻が許してくれないとかいうくだらないおやじギャクを口にしてから、それでも 8K はとても大きなことだ、なぜなら屋外広告板や企業向けディスプレイなどの使い道があるからだ、と言い添えた。でも、いったい誰が屋外広告板のテクノロジーなんかに興味があるだろうか? もちろん世の中には 16K や 32K を壁に設置できるような大豪邸を持つ人たちもいるだろうし、そんな家ではスクリーンで見る眺めと窓からの眺めの区別がつかないに違いない。でもそのためにはテクノロジーがどうこう言う以前に、建築そのものの変化が伴わなければならないだろう。

拡張現実と仮想現実、はたまたその他のトレンド

もちろん、そのような仮想の眺めこそ、仮想現実つまり VR の具体的な実例となる。そして今や VR は AR (拡張現実) と一括りにされて、新しい業界用語 XR を生み出すに至った。(私はこの X が何を表わしているのか知らないし、知りたくもないと思う。) 次のスライドは、私が AR の方が VR よりもずっと大きなものだと考えている理由を示している。AR ならば、スキューバダイバーでさえ「かさばり過ぎる」と言うほど大きな機器を身に付けることなく使えるからだ。Google は、AR の進歩に関連して私を二度も驚かせた。一度目は、道案内に巨大な矢印を表示してくれる Maps オーバーレイ (これは大体においてうまく動作したが、とんでもない間違いも何度かやらかした) で、二度目は Google Translate が高速で正確な翻訳を提供してくれたことだ。そのお陰で、旅行の三日前になってもイタリア語入門オーディオコースをレッスン 3 までしか済ませていなかったのに何の心配もせず旅行に出発できた。スマートフォンを翻訳に使うのはテクノロジーの応用法としてあまり使いやすくないが、Google Translate と Google Lens の組み合わせは、基本的にクローズドキャプションの字幕を現実世界に実現するものとなった。

Upcoming improvements to VR and AR hardware

講演の残りの部分は、一般的興味は薄いものの、胸踊る、あるいは荒唐無稽な知らせをごちゃ混ぜに詰め込んだような話となった。e-スポーツとは、他の人たちがビデオゲームをしているところをただ眺めることを意味する新しい用語だが、昨年一年間でなぜか 10 億ドルを超える収益があったという。自動運転の自動車は既に近未来の現実として Uber や Lyft といった会社から期待されている。ただ、私たちはこれと合わせて「多様な」輸送手段の爆発的急増も目にすることになるようだ。例えば Uber では行けないところに私たちを連れて行ける電動スクーターのようなものもある。(たぶんそこにある皮肉には気付きもしなかったのだろうが、その話のすぐ後に続けて、私たちが毎日十分な歩数を歩き続けられるように援助するデジタル健康機器が議論された。) そしてもちろん、空飛ぶ自動車も話題に登場した。これは (法令が認めさえすれば) 2020 年代の中頃までには Uber と同じように呼んで乗れるようになるという。ただし、恐ろしいと思う気持ちより魅力的な考えだと思う気持ちが勝るならばの話だが。

講演の結びは、ロボットについての議論だった。常に、重要なのは産業用の応用ではあるが、展示されていたのは可愛らしいロボットばかりであった。それと、成長を続けている「レジリエント (回復) テクノロジー」だ。これは危機の際にも緩やかに低下することで機能停止を少なくするシステムのことだ。このことが取り上げられた際に誰もが連想したのはテロリズムであっただろう。でも、Rohrbaugh に言わせればこれは「災害からの復旧... あるいは災害のような状況」のためのものだという。これは、CTA が表立って話す類いの話題ではない。皮肉なことだ。これこそが、革新的なテクノロジーが私たちの生活を変えてくれる最大の方法なのだから。たとえそれが、ただ単にカリフォルニアで電気を安定供給するというだけのことを意味するとしても。

The Roybi, Tombot Robot Dog, and Pria by Black & Decker

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TidBITS 監視リスト: Mac アプリのアップデート

訳: Mark Nagata   

BusyCal 3.8

BusyCal 3.8

BusyMac が BusyCal 3.8 をリリースして、Apple の Reminders アプリとの同期への対応を追加した。(Preferences > Accounts へ行き、新規に "Apple Reminders" アカウントを作成する。) このカレンダーユーティリティは検索を改良してテキストの部分的なマッチにも対応するようにし、バックグラウンド同期と WebDAV 購読のパフォーマンスを上げ、特定のアカウントのすべてのカレンダーを手早く含めたり除外したりするためのメニューショートカットを新たに追加し、それぞれ何十個ずつものカレンダーを持つ複数のアカウントがある場合のアプリの全体的な反応性を向上させ、誕生日や記念日が二度重複して表示されたバグを修正し、Exchange 公開カレンダーブラウザが縮小して表示されたバグを解消している。(BusyMac からも Mac App Store からも新規購入 $49.99、月額 $9.99 の Setapp Mac アプリ購読サービスからも利用可、無料アップデート、22.9 MB、 リリースノート、macOS 10.11+)

BusyCal 3.8 の使用体験を話し合おう

Typinator 8.3

Typinator 8.3

Ergonis が Typinator 8.3 をリリースして、このテキスト展開ツールにいくつかの改良とバグ修正を施した。また、セキュリティのための手順を強化して Apple の新しい要件を満たすようにした。今回のアップデートでは略語カラムの幅を記憶して再現できるようにし、検索語にマッチする写真が多数あった場合の Quick Search を高速化し、展開された写真の説明文を写真自体でなく Quick Search の中に表示するようにし、翻訳ツール Wordfast Pro での展開の問題点を修正し、また macOS 10.15 Catalina の自動 Dark モードでの問題点を回避している。(新規購入 24.99 ユーロ、TidBITS 会員には 25 パーセント割引、アップグレード 50 パーセント割引、無料アップデート、7.0 MB、リリースノート、macOS 10.8+)

Typinator 8.3 の使用体験を話し合おう

Firefox 72.0.1

Firefox 72.0.1

Mozilla が Firefox 72 をリリースして、このウェブブラウザの Enhanced Tracking Protection (強化型トラッキング防止) 機能の一環としてすべてのユーザーに対してフィンガープリント法のスクリプトをブロックすることでクロスサイトトラッキングに対抗する活動を継続した。今回のアップデートはフィンガープリント法に参加していることが知られたサードパーティからあなたを保護する。その種のものは、コンピュータ、ソフトウェア、アドオン、設定その他に基づいてユーザー固有のプロファイルを作成することによりあなたをターゲットにした広告を識別し提供しようとする。

それに加えて、Firefox 72 はウェブサイトから出された通知リクエストのポップアップを無効化し、アドレスバーに吹き出しアイコンを追加してブロックした際にそれと知らせる。(アイコンをクリックすれば制御できる。) 今回のアップデートではまた、Picture-in-Picture ビデオを追加して、他のタブや他のアプリで作業をしながらフローティングウィンドウの中でビデオを鑑賞し続けられるようにしている。

残念ながら、バージョン 72.0 には重大なセキュリティ脆弱性が含まれ、それに対する攻撃も実際に出回っていて、US Department of Homeland Security (国土安全保障省) が警告を出したほどだった。Mozilla はそのバグを素早く修正したので、あなたも直ちにバージョン 72.0.1 にアップデートしておくべきだ。Firefox > About Firefox を選べば現在のバージョンが分かり、最新版を入手して Firefox を再起動しなければならないか否かも分かる。Firefox > Preferences > General で自動アップデートチェックをオフにしている人は、必ず手動でバージョンをチェックして最新版にアップデートするようにしよう。(無料、69.4 MB、リリースノート、macOS 10.9+)

Firefox update settings

Firefox 72.0.1 の使用体験を話し合おう

BusyContacts 1.4.3

BusyContacts 1.4.3

BusyMac が BusyContacts 1.4.3 をリリースして、この連絡先マネージャに少数の拡張とバグ修正と安定性の改善を加えた。BusyContacts は複数個のアカウントで使った場合のバックグラウンド同期の速度を上げ、連絡先の写真を編集している最中に付属のカメラを使って写真を撮影できるようにし、内部的な上限を持つ CardDAV サーバでは大きな連絡先写真を自動的に圧縮するようにし、カスタムラベルでスマートフィルターに関するバグを修正し、Google Contacts が実際には変わっていないカードの更新日を頻繁にアップデートしてしまう問題を回避している。(BusyMac からも Mac App Store からも新規購入 $49.99、月額 $9.99 の Setapp Mac アプリ購読サービスからも利用可、無料アップデート、12.6 MB、リリースノート、macOS 10.11+)

BusyContacts 1.4.3 の使用体験を話し合おう

ExtraBITS

訳: Mark Nagata   

Apple の十年間の歴史を1ページに

9to5Mac の Benjamin Mayo が、Apple の十年間 (2010 年の初めから 2019 年末まで) の歴史を文章にしてそれを1つのページにまとめ上げるという英雄的な奮闘を成し遂げた。彼の語りは 2010 年の iPad 導入から始まり、Flash をめぐる Apple の Adobe との闘い、それから Antennagate 問題と続き、最後は Apple のサービス部門への転換、iPhone 11 のリリース、そして 16 インチ MacBook Pro と 2019 年型 Mac Pro の投入で結んでいる。

Steve Jobs introducing the iPad

それは Apple にとって忙しい十年間であった。創設者であり CEO であった Steve Jobs の死を見届け、iPad、MacBook Air、Apple Watch、Apple Pencil、そして HomePod を登場させた。この期間を経て、Apple はただ世界最大の会社であるというだけでなく、初めて 1 兆ドルの時価総額に到達した会社ともなった。

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はたして FBI は暗号化で Apple に新たな闘いの準備を整えているのか?

2015 年の San Bernardino 銃撃事件を受けて、US Federal Bureau of Investigation (FBI、連邦捜査局) は銃撃犯のスマートフォンの暗号を解読するようにと Apple に圧力をかけ、さらには Apple に対してすべての iPhone にバックドアを組み込むよう要求するまでに至った。(2015 年 12 月 10 日の記事“FBI の暗号化への戦いは続く”参照。) Apple はその要求に抵抗し、さらに Tim Cook はそのようなやり方の不都合についての公開書簡さえしたためた。(2016 年 2 月 17 日の記事“バックドアを批判した Tim Cook の公開書簡についての考察”参照。) 結局、FBI はハッカーを雇って iPhone に侵入することで状況を解決した。(2016 年 4 月 13 日の記事“FBI、San Bernardino の iPhone ロック解除のためハッカーを雇う”参照。)

そして今、FBI はまた動き出そうとしているらしい。Washington Post の記事によれば、FBI は 2019 年 12 月にフロリダ州 Pensacola の海軍基地で 3 人を殺害した男が使っていた iPhone の暗号を解くようにと Apple に圧力をかけているという。Apple はクラウドに保存されている関係データを既に提出済みだと述べ、iPhone 上にある暗号化されたデータにアクセスすることは不可能だと述べた。

Daring Fireball の John Gruber が指摘する通り、iPhone や iPad の Secure Enclave と、Mac の T2 セキュリティチップの働きにより、Apple が販売しているデバイスの中に保存されている暗号化データを Apple が解読できる方法は存在していない。それにもちろん、もしも Apple が FBI のために何らかのバックドアを設けたならば、悪者たちがそれにアクセスしてしまうのを予防することは不可能だ。Gruber は、FBI はそのことを十分に承知した上で、むしろ解読不能の暗号化に世論の注目を向けさせ、それを非合法化することが政治的に可能になるようにという意図で Apple に要求を突き付けているのではないかと推測する。

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Geoffrey Fowler、Apple のプライバシーへの姿勢に異議を述べる

今年の CES では消費者のプライバシーが大きな話題となったが、Apple が数年ぶりにこのショウに参加したこともそれに寄与するところがあったのだろう。Apple の Senior Director of Global Privacy である Jane Horvath がプライバシーについてのパネルディスカッションに参加していた。Tim Cook も CEO としての仕事の多くの部分をプライバシーへの強い姿勢に向けている。しかし、Washington Post の Geoffrey Fowler はその場にいて、直接 Apple に向かってもっと良くせよと要求した

去年、Apple は CES 会場の外に巨大な広告板を設置して "What happens on your iPhone stays on your iPhone." (あなたの iPhone で起こることはあなたの iPhone の中のみに留まります) と訴えた。Fowler は Horvath に対して、その主張を実現するために Apple はどんなことをしているのかと問い掛けた。それに対する Horvath の回答は「業務プロセスも含めて、私たちは止むことなく革新を続けています」という、曖昧で、満足できないものであった。

思い出して頂きたいが、Fowler は Washington Post の記事で、自らの iPhone が一週間に 5400 のトラッカーに対して情報を送信していると暴露した調査記事を書いている。(2019 年 6 月 1 日の記事“iOS アプリのトラッカーがあなたを追跡中”参照。) そしてもちろん、New York Times が位置情報のプライバシーに関する懸念を記事にしてきた。(2019 年 12 月 19 日の記事“New York Times、我々の全ての動きがどれ程完全に追跡されるかを暴露”参照。)

Fowler は、Apple が自らのサービスについては情報を暗号化することに注意深くしている一方で、サードパーティのアプリを取り締まることについてはほとんど何もしていないと指摘する。Apple は App Store を通して配布されるアプリについては個々に認可の手続きをしているのだから、そういうものについては間違いなくもっと踏み込んだことができるはずだ。とりわけ、すべてのリソースが Apple の思いのままになるのだから。

もちろん、Fowler は Apple に対して的を射た批判を展開する一方で、他の会社はもっと大きな過ちをしているとも指摘する。彼は次のように述べた:

Facebook のプライバシー責任者 Erin Egan も CES のパネルディスカッションに参加しており、「Facebook 上では、今では人々のプライバシーが保護されています」と澄ました顔で言い放った。

Egan がそう言ったにもかかわらず、Facebook は 2019 年 7 月にプライバシー侵害の罰金として 50 億ドルを Federal Trade Commission (連邦取引委員会) に支払っている

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