Schiller は現在 60 歳で、おそらく引退のことが念頭にあるだろうと推察されるが、彼は単に Apple Fellow として大きなことだけを考えるようになるのではない。Apple によれば彼は今後も引き続き App Store と Apple Events を統括していくという。今日の App Store の重要さと注目度の大きさを考えれば、それは単なる一つのフルタイムの職務を超えた意味を持っているようだ。Schiller はまた、Apple の初めての仮想 Worldwide Developers Conference 開催の企画と実施を率いたが、このイベントの成功は広く称賛を得ている。
Schiller は 1987 年以来 Apple で働き、30 年にわたって Apple のマーケティング戦略を導く力となってきた。私自身が彼と実際に会って話をしたのはたった一度きりで、それは 2004 年の Macworld Expo でのプレス・ブリーフィングの場であった。私がよく覚えているのは、Apple は iPod に Bluetooth 対応を加えてワイヤレスのイヤーバッドを実現する予定はないのかと彼に尋ねたことだった。イヤーバッドにワイヤーが付いているのは不恰好だし面倒だと思っていたからだ。それから 9 か月後、記事“i-Phono で iPod からコードをなくす”(2004 年 9 月 13 日) の中で私は次のように書いた:
それなのに、2004 年 1 月の Macworld Expo San Francisco で、iPod を Bluetooth 対応にする可能性について Phil Schiller に質問したところ、彼は笑って相手にしなかった。今や、Bluetake が i-Phono を作ってくれたので、彼に笑い返すことができる。
当時、Apple は Silhouettes 広告を展開していた。人々の黒いシルエットが音楽に合わせて踊り、iPod から来た音楽が Apple の象徴的なイヤーバッドを通して踊る人々に届けられるという広告だ。Schiller は、この情景の中でワイヤーは重要な一部分だと指摘した。それでも、当時の私が主張したように、ワイヤレスのソリューションの方がエレガントであり、Apple のデザイン感性により調和したものに思えた。
Joz は 20 年以上にわたって Apple の製品マーケティング部門で指導的役割を果たしてきた。Macworld Expo が毎年開催されていた時代、私はプレス・ブリーフィングで幾度となく彼とやり取りしてきた。彼がハードウェア製品担当のバイスプレジデントであった当時、New York で最後に開催された Macworld Expo で彼が Steve Jobs の代理としてキーノートの講演をしたことさえある。(2003 年 7 月 21 日の記事“Macworld Expo New York 2003: 中身は濃厚参照。) それに加えて、Joz はここ 4 年間 Phil Schiller の下で Apple の Worldwide Marketing 部門バイスプレジデントとして働いてきた。だから、彼以上に適任な人は他にいないのではないかと私は思う。Apple にとってこの上なく重要な職責を担う彼に、心から幸運を祈りたい。
また、この Retina ディスプレイは新たに Apple の True Tone テクノロジーを採用しているので、部屋の環境光に合わせてディスプレイの色温度を自動的に調整する。比較的マイナーなことだが、歓迎すべき進歩だ。
今日の止むことのないビデオ会議の時代における歓迎すべきもう一つの変更点が、T2 チップの画像信号プロセッサの支援を受けた 1080p FaceTime HD カメラだ。Apple は従来のモデルに搭載された FaceTime HD カメラの解像度の具体的な値を公表していないが、私は 720p であったと思う。これまで、1080p のウェブカメラを搭載した Mac は iMac Pro のみであった。
ビデオ画質で問題になるのは解像度だけではない。私としては、この iMac の新しいカメラと画像信号プロセッサが低光量の状況をどのように処理できるかに興味を持っている。最近私たちは戸外で Zoom 通話をしたことが二度あって。その一度は 10.5 インチ iPad Pro の 1080p 前面カメラを使い、もう一度は 2012 年型 MacBook Air の 720p FaceTime HD カメラを使った。その結果、夕方を通じてずっと、MacBook Air に比べて iPad Pro の方が薄れゆく光をより良く処理することができた。
Apple によればこの iMac はより忠実度の高いスピーカーを搭載しているとのことだが、その改善のうちどの程度がスピーカーのより良いハードウェアによるものであって、どの程度がより多くの処理をオーディオ出力に施す T2 チップのお陰であるかを知るのは困難だろう。
ミッドレンジモデルの価格は $1999 から、ストレージオプションのうち上位2つが選べず、Radeon Pro グラフィックチップの選択肢も提供されない。
すべてのオプションにアクセスできるハイエンドモデルの価格は $2299 からだ。
これらの価格は iMac の前回の改訂時と同額なので、全体的に言えば新型モデルはお買い得だ。
Apple のオンラインストアは3つの基本構成については早い発送予定を表示するけれども、構成に少しでも変更を加えた途端に、発送予定日がいきなり三週間ほど先になる。
Apple Silicon に向けて
Apple が開発中のカスタムチップを導入することをせずに既存の Mac モデルを Intel チップでアップデートする決断をする際にどのような要因が働くのか、私たちが窺い知ることはできない。けれども、今回この iMac モデルを出してきたという事実は、Apple silicon を搭載して出される最初の Mac がラップトップ機か Mac mini のいずれかになるであろうことを示唆する。8 月に 27 インチ iMac を第 10 世代 Intel チップでアップデートしておいて、数か月以内に新しい Apple silicon で再度改訂するというのは意味を成さない。
私の場合は、自分の必要に合わせてどの CPU と GPU を組み合わせるのが最良の構成であるかを見極め次第、すぐにこの iMac を注文するつもりだ。私の仕事では最高のパフォーマンスが必要になることはないが、多数のアプリを同時に走らせるので RAM への負担が大きい。いつも私は、絶対的に必要なものよりも強力なモデルを選ぶ。なぜなら、一台の Mac を少なくとも 5 年程度は使い続けたいからだ。私の現在の iMac はもう 6 年近く使っているのだが、将来 Apple silicon に切り替えることを考えれば、たぶん早めに買い替えた方が賢明だろう。
私は 2012 年型の MacBook Air を新しい 2020 年モデルに買い替えるつもりでいたけれども、当面旅行に出る予定がないことが明らかとなった今、その買い替えは棚上げにすることにした。運が良ければ、Apple silicon を搭載した最初の Mac は MacBook Air に近いタイプのラップトップ機かもしれない。その場合、私は Apple の新しいチップを早速試してみられるとともに、新しくて格好良い旅行用マシンを手にできることになるだろう。
Apple は最近 Security Research Device Program (SRD) を発表した。このプログラムで、選ばれたセキュリティ研究者は iOS セキュリティ問題を根絶する手助けとなる特別な iPhone を受け取る ("Apple、専用のセキュリティ研究機器をリリース" 23 July 2020 参照)。Apple は、彼らが発見する如何なるセキュリティ脆弱性でも、望むらくはそれらが悪用される前に、修正出来る。
Apple の発表に基づき、そして多少の論理的推論の助けを借りて、我々は、このプログラム及びその特別な機器がどの様に働くのかについて推測することが出来る。
皆さんが iPhone を Apple から買う時、それは生産電話であり、生産コード署名鍵がそのシステムオンチップ (SoC) に焼き込まれている。生産鍵を持っていることは production fused (しばしば prod fused と省略される) と呼ばれる。それはリリースバージョンの iOS を走らせ、そしてそのリリースバージョンは Apple の 生産証明 (内部では prod cert と呼ばれる) を使って署名されている。iPhone が起動されると、SoC に焼き込まれたコードがそのオペレーティングシステムを検証する。もしそれが正しく生産証明で署名されていないと、iPhone は起動することを完全に拒絶する。牢破りは (部分的に) この制約を回避する技である。
同様に、iOS は生産 App Store 証明で署名されたアプリだけを走らせ、これで App Store を通さずにアプリを直接インストールする選択肢であるサイドローディングを阻止する。例外は幾つかあり、例えば、サードパーティ開発者が作成するアプリをサードパーティ開発者証明を使って署名すれば、彼らの iPhone はそのアプリが走ることを許可する。現実には、このやり方はしばしば問題をはらんでいる。(ここでの説明はコード署名の詳細をかなり簡略化しているが、基本手順はカバーしている。)
Apple 内部でソフトウェアを開発するのは、これらの制約が効いていてかなり困難であろうと思われる。内部では、Apple 技術者は開発鍵 (それらは dev fused と呼ばれる) を持つ iPhone を使い、そしてそれらは開発用ビルドの iOS を走らせる。開発用ビルドの iOS には、シェル、多くのアプリの内部のデバッグとプロファイル用のコード、試験用フック、そして内部のフレームワークが含まれる。Dev iOS ビルドは dev cert で署名されているので、dev-fused iPhone 上で起動する。
最近注目を浴びた iPhone ハックが、Apple にセキュリティ研究をどの様に行うかについて再考させるきっかけとなったのかも知れない。通常 Apple がどれ程秘密主義かを考えると、この Security Research Device Program は異例の措置である。そしてお分かり頂けるように、これが組織犯罪や政府情報機関により悪用されないようにすることを確実にするにはかなり多くの努力を必要としたであろうことは想像に難くない。望むらくは、結果として我々全てがより安全な iPhone を手に出来ることを期待したい。
今回は (ありがたいことに) Apollo 13 号ほどの不具合にはならなかったが、私たちが当たり前のように使っている Apple の核心機能がどれほど役立ち得るかを如実に物語っている。意外にも、Android モバイルオペレーティングシステムに Google が Nearby Share と呼ぶこれに似た機能を追加したのはごく最近になってからのことであった。